説明

蛇管から水滴を絞り出す方法およびそれに用いられる装置

【課題】 蛇管洗浄後に蛇管の管壁の溝に残留する水滴を絞り出すことで、乾燥に必要な熱を削減し、短時間に確実に蛇管を乾燥させることができる蛇管から水滴を絞り出す方法およびそれに用いられる装置を提供すること。
【解決手段】 医療用蛇管4を洗浄した後乾燥するにあたり、乾燥前に前記蛇管4を軸方向に縮めることにより、蛇管4の管壁の溝m,nに残留していた水滴7a,7bを絞り出すようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛇管から水滴を絞り出す方法およびそれに用いられる装置に関するものであり、さらに詳しくは、医療現場において麻酔などに使用される洗浄後の蛇管の管壁の溝に残留する水滴を絞り出す方法およびそれに用いられる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療の現場においては各種チューブを使用した後、再利用するために洗浄する作業がある。洗浄後に乾燥が不十分でチューブ内壁に水滴が残留すると雑菌、黴類の発生や思わぬ事故につながる。乾燥には、チューブ内に温風を強制通風する通風乾燥機を使用する。
【0003】
一方、麻酔器などの呼吸器回路には、確実に流量確保する必要性と、可撓性が要求されることから、樹脂製あるいはゴム製の蛇管を使用する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えば内壁がなめらかなチューブの場合に比べて蛇管は通風では乾燥しにくく、数時間以上の長時間を要している。例えば、実際の現場で乾燥時間を短縮する必要がある場合には、洗浄後、乾燥前に手作業で蛇管に振動を与えたり、圧縮空気を吹き込むなどしていることがある。ところが大幅な時間短縮になっていないのが実情である。さらに、これらの手作業は個人差が大きく確実性に欠ける。特に不透明の蛇管の場合、乾燥状態を確認しにくいため、不確実な手作業はリスク要因となっている。
ところで、乾燥機で通風する温度は、合成樹脂製あるいはゴム製のチューブの場合、劣化を防ぐため50〜60℃程度が上限である。この温度条件では、例えば内壁がなめらかなチューブの場合は数十分で乾燥できるが、蛇管の場合は1時間以上通風しても水滴が残ることが多い。すなわち、蛇管は曲げに対して折れ、潰れが生じないようにするために、蛇腹構造となっているチューブであるため、図1(B)に示すように、蛇管4には、管壁の内外壁共に円周方向の溝m,nがある。平滑面上の水滴と比較して蛇管4では管壁の内溝m、外溝nに残留した水滴7a,7b(黒く塗りつぶしてある箇所)は管壁との接触面積が大きいため、絞り出す(除去する)ために要する力が大きく、重力や振動の作用で絞り出しにくい(除去しにくい)。従って蛇管4の場合は洗浄後に管壁の両溝m,nに残留する水7a,7bの量が多い。
【0005】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的は、蛇管洗浄後に蛇管の管壁の溝に残留する水滴を絞り出す(押し出す)ことで、乾燥に必要な熱を削減し、短時間に確実に蛇管を乾燥させることができる蛇管から水滴を絞り出す方法およびそれに用いられる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の蛇管から水滴を絞り出す方法は、医療用蛇管を洗浄した後乾燥するにあたり、乾燥前に前記蛇管を軸方向に縮めることにより、蛇管の管壁の溝に残留していた水滴を絞り出すことを特徴としている(請求項1)。
【0007】
本発明では、蛇管内部を減圧することにより蛇管を軸方向に縮めるようにするのが好ましい(請求項2)。
【0008】
また、本発明では、下流側に配置されたローラーの回転により移動する蛇管の上流側に、蛇管の移動速度を減速するよう回転する別のローラーを配置することにより両ローラー間に位置する蛇管を軸方向に縮めるようにするのが好ましい(請求項3)。
【0009】
また、本発明は別の観点から、請求項1に記載の蛇管から水滴を絞り出す方法に用いられる装置であって、蛇管を軸方向に縮める手段を備えていることを特徴とする蛇管から水滴を絞り出す装置を提供する(請求項4)。
この場合、本発明における蛇管を軸方向に縮める手段が、蛇管内部を減圧する減圧装置であるのが好ましい(請求項5)。すなわち、蛇管を密閉状態でポンプで減圧すると、蛇管内外で生じる気圧差の作用で蛇管を軸方向に縮めることができる。
さらに、本発明における蛇管を軸方向に縮める手段が、回転により蛇管を移動させるよう下流側に配置されたローラーと、蛇管の上流側に配置され、前記ローラーによる蛇管の移動の速度を減速するよう回転するローラーとよりなるものであってもよく(請求項6)、蛇管を機械的に軸方向に縮めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、蛇管を軸方向に縮めるので、蛇管の管壁の溝に残留していた水滴を効率よく絞り出すことができる。すなわち、蛇管が軸方向に縮められると、図1からも明らかなように、管壁の溝部分の容積が減少するため、前記管壁の内溝および外溝に残留した水滴を効率よく絞り出すことができる。絞り出した水滴は重力などの力で容易に排出できる。
【0011】
そして、本発明では、洗浄した蛇管を軸方向に縮める時期を乾燥させる前としているので、管壁の溝に溜まっていたほとんどの水滴が絞り出されている蛇管を乾燥に付すことになる。すなわち、本発明では、洗浄した蛇管を軸方向に縮めた後は管壁の溝に水滴がほとんど残留していない状態で蛇管が乾燥に付されるので、乾燥前に手作業で水滴絞り出し作業を行っても水滴を絞り出しにくかった従来の水滴絞り出し手法に比べて、乾燥に必要な熱を削減できるとともに、乾燥に要する時間を大幅に短縮でき短時間に確実に蛇管の内表面および外表面を乾燥させることができる。
【0012】
さらに、本発明では、蛇管内部を減圧する減圧装置を用いたり、回転により蛇管を移動させるよう下流側に配置されたローラーと、蛇管の上流側に配置され、前記ローラーによる蛇管の移動の速度を減速するよう回転するローラーとを用いて、蛇管を軸方向に縮めるようにしているので、従来の手作業による乾燥前の水滴絞り出し作業に比べて、本発明の方が、作業者の違いによる乾燥時間の偏差を小さくでき、確実で安定した再現性を得ることができるというメリットがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照しながら説明する。なお、それによって本発明は限定されるものではない。
【0014】
図1は、蛇管内部を密閉状態でポンプで減圧することにより、蛇管内外で生じる気圧差の作用により蛇管を軸方向に縮めるように構成した本発明の第1の実施の形態を示す。図1(A)は、蛇管の内部を減圧することにより軸方向に縮められた蛇管を示し、図1(B)は、減圧前で軸方向に縮められる前の、洗浄直後の蛇管を示している。
図1において、1は排気管2に接続された真空ポンプ、3は一方の蛇管接続口で、蛇管接続口3の一端が蛇管4の一端部4aに接続され、蛇管接続口3の他端が排気管2を介して真空ポンプ1に接続されている。また、蛇管4の他端部4bは他方の蛇管接続口5に接続されている。この蛇管接続口5は受水容器6に接続されている。そして、真空ポンプ1、排気管2、蛇管接続口3,5および受水容器6とから蛇管から水滴を絞り出す装置(以下、単に絞り装置という)が構成されている。前記蛇管4は、合成樹脂製あるいはゴム製で、可撓性を有する。また、蛇管4は、管壁の内表面4cに円周方向の溝(内溝という)mを有するとともに、管壁の外表面4dに円周方向の溝(外溝という)nを有している。Xは、蛇管4の中心軸である。
【0015】
上記構成を有するから、蛇管接続口3が上側に、蛇管接続口5が下側に位置するように洗浄後の蛇管4を立設させた状態で真空ポンプ1を運転し、蛇管内部Aを密閉状態で減圧する。ここで、蛇管4の端部4aおよび4bにそれぞれ取り付けられる一方の蛇管接続口3および他方の蛇管接続口5を、両者3,5を固定設置するのではなく、上下移動自在に設けることにより、蛇管4は大気圧と蛇管内部Aの圧力差の作用で軸方向(矢印aおよびa’で示す方向)に縮むことになる。そして、蛇管4が軸方向に縮むことにより管壁の内溝mおよび外溝nに残留していた水滴7a,7b〔図1(B)において黒く塗りつぶしてある箇所〕は前記溝mおよびnから絞り出され、他端部4bから蛇管接続口5を介して蛇管下方に位置する受水容器6に落下する。
この絞りの後、減圧を解除し、蛇管両端部4a,4bから蛇管接続口3,5を取り外すことで乾燥前の水滴絞り出し作業は終了する。
上述したように、前記溝mおよびnから絞り出された水滴7a,7bは落下して蛇管4の下方に位置する受水容器6に貯留される。7は、受水容器6に貯留された水である。そして、受水容器6の容量により、蛇管1本ごとまたは複数本の処理後に排出する。
なお、受水容器6の底部6aに自動または手動で受水容器6内に溜まる水7を排出する弁(図示せず)を設けてもよい。また、減圧時の圧力はゲージ圧表示で−30〜−40kPaが適当である。これより負圧が少ないと、蛇管4を軸方向に十分に縮めることができない。また、これより負圧が大きくしても、蛇管4の軸方向の縮み量はほとんど変化せず、蛇管4の材質によっては径方向のつぶれが生じる問題がある。圧力の調節は真空ポンプ選定時に、締め切り圧力で決定してもよいし、圧力調整器を使ってもよい。
【0016】
この実施の形態では、排気管2と受水容器6が独立の構成であるが、これらは一体の構成でもよい。一体の構成とする場合には、前記2つの蛇管接続口3,5を所定距離だけ近づけた状態で両者3,5を固定配置する。この状態で、蛇管接続口3および5にそれぞれ蛇管両端部4aおよび4bを接続する。この接続状態での蛇管4は図1の場合のようにストレートに配置されるのとは異なり、正面向かって左右いずれかに突出した略U字状の状態で蛇管接続口3,5間に位置することになる。すなわち、蛇管4は、略水平方向に延びる上下一対の脚部分と、両脚部分を繋ぐよう略垂直方向に延びる垂直部分より主として構成される。そのため、絞られた水が脚部分に滞留することなく下方に確実に排出できるよう、上側の脚部分は上流側より下流側が下向きになるよう傾けて配置するとともに、下側の脚部分も上流側より下流側が下向きになるよう傾けて配置するのが好ましい。
【0017】
図2は、二組のローラーを用いて蛇管を軸方向に機械的に縮めるように構成した本発明の第2の実施の形態を示す。図2において、図1で示した符号と同一のものは同一または相当物である。
絞り装置は、蛇管4に装着される一対の第1のローラー9および一対の第2のローラー10を備えている。この実施の形態では、上側に第1のローラー9を、下側に第2のローラー10を設けている。そして、第2のローラー10には減速機構が設けられている。この実施の形態の動作は以下の通りである。すなわち、蛇管4の一方端部4a側(ローラー回転による蛇管移動方向における下流側)に一対の第1のローラー9が装着され、この第1のローラー9から適宜の間隔Dをおいて、一方端部4a側よりも他方端部4b寄り(ローラー回転による蛇管移動方向における上流側)に一対の第2のローラー10が装着されている。そして、第1のローラー9を回転させた状態で、蛇管4は移動する。ここで、第2のローラー10の減速機構を駆動させることにより、蛇管4は第1のローラー9と第2のローラー10の間で軸方向に縮められる。蛇管4が縮むことにより管壁の内溝mおよび外溝nに残留していた水滴は溝mおよびnから絞り出される。そして、第2のローラー10の上流側の蛇管部分Tを軸方向に縮める場合も同様に行う。すなわち、第1のローラー9を回転させた状態で蛇管部分Tを所定距離移動させ、ここで第2のローラー10の減速機構を駆動させることにより、蛇管部分Tは第1のローラー9と第2のローラー10の間で軸方向に縮められ、蛇管部分Tが縮むことにより管壁の内溝mおよび外溝nに残留していた水滴は溝mおよびnから絞り出され、重力により落下して排出されることになる。
なお、上側に第2のローラー10を、下側に第1のローラー9を設けてもよい。
【0018】
例えば蛇管内部を減圧することにより実際に絞ったときの水分量の測定結果を以下に示す。
乾燥した状態の蛇管4の重量は320g、水を付着させた状態の蛇管4の重量は442gであった。このことから
442−320=122[g]
となるので、付着した水分量は122mlであることがわかる。そして、水を付着させた状態のものを絞り装置で絞ったときに受け口にたまった水の量は94mlであった。よって、絞り装置を使用することで蛇管4に付着した水分を77%程度取り除くことができた。
【0019】
なお、一例として絞り工程の有無による、実際の乾燥時間を下記表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
絞りを実施しなかった場合と比較し、絞りを実施した場合の方が乾燥時間が短縮できる結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(A)は、この発明の第1の実施の形態における減圧により蛇管を軸方向に縮める絞り装置を示す模式図である。(B)は、上記実施の形態で用いた絞り前の蛇管を示す模式図である。
【図2】この発明の第2の実施の形態におけるローラーおよび減速機構付きのローラーにより蛇管を軸方向に縮める絞り装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0023】
1 真空ポンプ
4 蛇管
7 絞り出された水
7a,7b 水滴
m,n 管壁の溝
A 蛇管内

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用蛇管を洗浄した後乾燥するにあたり、乾燥前に前記蛇管を軸方向に縮めることにより、蛇管の管壁の溝に残留していた水滴を絞り出すことを特徴とする蛇管から水滴を絞り出す方法。
【請求項2】
蛇管内部を減圧することにより蛇管を軸方向に縮めるようにした請求項1に記載の蛇管から水滴を絞り出す方法。
【請求項3】
下流側に配置されたローラーの回転により移動する蛇管の上流側に、蛇管の移動速度を減速するよう回転する別のローラーを配置することにより両ローラー間に位置する蛇管を軸方向に縮めるようにした請求項1に記載の蛇管から水滴を絞り出す方法。
【請求項4】
請求項1に記載の蛇管から水滴を絞り出す方法に用いられる装置であって、蛇管を軸方向に縮める手段を備えていることを特徴とする蛇管から水滴を絞り出す装置。
【請求項5】
前記蛇管を軸方向に縮める手段が、蛇管内部を減圧する減圧装置である請求項4に記載の蛇管から水滴を絞り出す装置。
【請求項6】
前記蛇管を軸方向に縮める手段が、回転により蛇管を移動させるよう下流側に配置されたローラーと、蛇管の上流側に配置され、前記ローラーによる蛇管の移動の速度を減速するよう回転するローラーとよりなる請求項4に記載の蛇管から水滴を絞り出す装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−36253(P2008−36253A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216581(P2006−216581)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(593031540)株式会社ソダ工業 (5)