説明

蛇管移動式冷却管および該冷却管を備えた反応容器

【課題】化学反応時において加熱された気体を冷却、還流することができると共に、反応終了後は、直接液体を冷却することができる蛇管移動式冷却管を提供する。
【解決手段】螺旋状に形成された蛇管部と、該蛇管部の両端から上方に直線状に延在して並列状態で前記蛇管部より突出すると共に先端が冷却液出入用開口となる一対の直管部とからなる蛇管冷却管と、一対の貫通穴を備えた遮蔽部と、これら貫通穴の間から垂下するガイド軸とを備える保護部材とからなり、前記保護部材の貫通穴に前記蛇管冷却管の直管部を移動自在且つ所要位置で保持可能に貫通させると共に、前記蛇管部に囲まれた中央空間に前記保護部材のガイド軸を位置させ、該ガイド軸に沿って前記蛇管部が移動される構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛇管移動式冷却管および該冷却管を備えた反応容器に関し、詳しくは、フラスコ等の化学反応用容器の口部に冷却部を差し込んで、化学反応時において加熱された気体を冷却、還流させるだけでなく、化学反応容器内の反応液に冷却管を浸漬して直接反応液を冷却出来るようにするものである。
【背景技術】
【0002】
従来から化学実験等に使用する冷却管として、化学反応時の加熱で生じた蒸気を冷却し、凝縮させて捕集するための冷却管として、図7(A)に示すリービッヒ冷却管1や、図7(B)に示す蛇管冷却管2が提供されており、これらのリービッヒ冷却管1や蛇管冷却管2は外管1a、2aと内管1b、2bの二重のガラス管で構成されている。
これら冷却管の使用方法は、例えば、混合物質を分離したり精製したりするための蒸留装置では、図8に示すように、混合物質の入ったフラスコ3と蒸留液を集めるための三角フラスコ4との間に、リービッヒ冷却管1を傾斜させて配置し、リービッヒ冷却管1の外管1aに冷却水を流入させることにより、加熱によって気体となり、内管1b内に流入した気体を冷却し、蒸留液として三角フラスコ4に捕集される構成となっている。
蛇管冷却管2は、気体が流入する管を螺旋状とすることにより、冷却水との接触面積を広くして冷却能力を高めている。
【0003】
また、化合物を適当な溶媒に溶かして、加熱しながら反応を行うときには、蒸気となって反応容器から揮散する溶媒を、水などで冷却して液体に戻し、反応容器中の反応液に流れ還るようにする操作、いわゆる還流が必要となる。
その場合は、例えば、図9に示す燃料電池用の白金担持触媒の作製実験では、まず、図9(A)に示すように、粉末カーボンと白金を含有した触媒溶液5を四つ口フラスコ6に入れ、ついで、図9(B)に示すように、マントルヒーター7により加熱して、白金粒子をカーボン粒子に担持させる。この際、触媒溶液5の加熱によって気化した溶媒を冷却、還流する必要があるため、フラスコ6の2つの口には、還流冷却管である蛇管冷却管8、9をゴム栓を介して固定し、螺旋状の蛇管の一端8a、9aより水道水を流入させ、他端8b、9bから流出させることにより気体を冷却させている。
【0004】
所定の反応時間経過後には、フラスコ6内の反応液をできるだけ早く冷却し、反応の進行を止める必要があるが、前記のような還流冷却管8、9は液体を直接冷却することができないため、図6(C)に示すように、フラスコ6をマントルヒーター7から取り出し、フラスコ6の外側に設けたファン10により反応液を冷却している。
その後、図9(D)に示すように、真空ポンプ11で吸引しながら反応液をろ過し、乾燥することにより、微細な白金粒子12がカーボン粒子13に担持された白金担持触媒が得られている。
しかしながら、フラウコ6を外側からのファン10による冷却では、反応液の冷却に時間がかかるため、その間に、白金担持量が変化したり、担持した白金の粒子径が変化したりするという問題がある。
【0005】
反応液の冷却用として、図10に示すチラー14を用いる場合がある。チラーは液体、気体を冷却することを目的とした装置であり、化学反応時は前記したような還流冷却管を用いて気体の冷却、還流を行い、所定の反応時間経過後、還流冷却管からチラーに接続された耐熱冷却ホースに付け替えて反応液を冷却することは可能である。
例えば、図10に示すように、反応終了後、フラスコ6をマントルヒーター7から取り出し、ファン10によって冷却すると共に、蛇管冷却管9をチラー14に接続された耐熱冷却ホース15に付け替えて反応液の冷却を行うことができる。
【0006】
しかし、還流冷却管からチラーへの付け替えの際にリードタイムがかかるため反応時間が一定化されず、触媒担持量が変化したり、担持した金属の粒子径が変化したりするという問題がある。また、付け替え時に気化した溶媒が散逸し、反応液の組成の変化や圧力の変化が生じてしまうという問題もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、化学反応時において加熱された気体を冷却、還流することができると共に、反応終了後は、冷却管からチラーに付け替えることなく、直接液体に浸漬して冷却させることができ、短時間で効果的に反応液を冷却することが可能な蛇管移動式冷却管を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、第一の発明として、螺旋状に形成された蛇管部と、該蛇管部の両端から上方に直線状に延在して並列状態で前記蛇管部より突出すると共に先端が冷却液出入用開口となる一対の直管部とからなる蛇管冷却管と、
遮蔽部と、該遮蔽部の上壁に形成された一対の貫通穴と、前記上壁から垂下するガイド軸とを備える保護部材とからなり、
前記保護部材の貫通穴に前記蛇管冷却管の直管部を移動自在且つ所要位置で保持可能に貫通させると共に、前記蛇管部に囲まれた中央空間に前記保護部材のガイド軸を位置させ、該ガイド軸に沿って前記蛇管部が移動される構成としていることを特徴とする蛇管移動式冷却管を提供している。
【0009】
前記のように、本発明の蛇管移動式冷却管は、冷却水が流通する蛇管冷却管と保護部材とを組み合わせ、保護部材に対して蛇管冷却管を移動自在で且つ所定位置で保持できる構成としている。
該構成の蛇管移動式冷却管は、例えば、フラスコ等の反応容器の気体流出管となる口部に前記保護部材の遮蔽部を被せて取り付け、該保護部材に対して移動自在に取り付けた蛇管冷却管の蛇管部をフラスコの口部内に位置させると、該口部に流出してくる気体を冷却、還流させることができる。また、保護部材の遮蔽部により気体の流れが遮断されて、遮蔽部より気体が上方へ散逸することが防止でき、実験員の保護が図れると共に、環境対策にも役立つ。
反応終了後に、反応容器内の反応液を冷却する時には、蛇管冷却管の直管部を保護部材より下降させて、蛇管部を反応容器内に突出させ、反応液中に浸漬させて直接冷却できる位置に保持している。
【0010】
本発明は、前記のように蛇管移動式冷却管を口部に備えた反応容器を第二の発明として提供している。
即ち、蛇管冷却管は反応容器の口部に挿入され、反応容器内での化学反応時には、前記保護部材に対して前記蛇管冷却管は上昇位置に保持され、蛇管部が反応時に加熱された気体を冷却、還流させる一方、前記反応容器内の反応液の冷却時には、前記保護部材に対して前記蛇管冷却管は下降位置に保持され、蛇管部を反応液に浸漬させて反応液を直接冷却させる構成としている。
【0011】
このように、蛇管冷却管を保護部材に対して移動自在としているため、蛇管冷却管を上方位置に移動保持して蛇管部を気体冷却用とできる一方、蛇管冷却管を下方位置に移動保持して蛇管部を液体冷却用とすることができる。
よって、化学反応工程での気体の冷却、還流と、所定の反応時間経過後における冷却工程での反応液の直接冷却が可能であるため、前記した従来例のように、反応容器をマントルヒーターから取り出し、ファンによって冷却したり、チラーにホースを介して付け替えて反応液の冷却を行ったりする必要がなくなり、付け替えによってリードタイムがかかることで反応時間、ひいては反応の制御が一定化できないといった問題も解消することができる。
【0012】
また、前記保護部材の遮蔽部からガイド棒を垂設しているため、蛇管部が昇降する際に、ガイド棒に沿って位置ずれなく昇降させることでき、反応容器に取り付けるスターラーの軸に接触して破損することも防止できる。
前記ガイド棒は、遮蔽部の上壁に形成された一対の貫通穴の間から垂下させて、蛇管部に囲まれた中央空間に前記保護部材のガイド軸を位置させ、該ガイド軸に沿って前記蛇管部が移動される構成としている蛇管部の中央空間に挿通させることが好ましい。
【0013】
前記保護部材の遮蔽部は前記上壁と周壁を備えた断面逆凹形状とされ、かつ、該遮蔽部に設けた前記貫通穴と前記蛇管冷却管の直管部との間には弾性部材を介在させることが好ましい。
前記弾性部材としては、ネジシールを用い、該ネジシールの外径を押圧・解放することで、前記直管部を昇降自在および所要位置で保持できる構成としていることが好ましい。該ネジシールは実験者がネジシールに少し力をかければ小径化してスムーズに移動させることができる一方、押圧力を解放すると大径化して貫通穴の圧接して直管部を保持することができるものである。ネジシールは反応液に対して安定な材質が好ましく、例えば、フッ素樹脂製のものが好ましく用いられるが、これに限るものではない。
なお、蛇管冷却管を保護部材に対して昇降させた後に所要位置で保持する手段は前記ネジシールに限定されず、例えば、側方に配置するスタンドから突設するクリップ等で蛇管冷却管を位置決め固定してもよい。さらに、例えば、ゴム製のパッキン、O−リング等の介在部に対して押圧・圧力解放が可能な材料を適用することも可能である。
さらに、前記蛇管冷却管の直管部または保護部材の上壁を弾性部材で形成することにより、直管部を保護部材に対して移動自在で且つ所要位置で保持可能な構成とし、前記ネジシール等の介在物を無くす構成としてもよい。
【0014】
蛇管冷却管と保護部材との組みつけは、例えば、前記ネジシールを介在させる場合には、蛇管冷却管の蛇管部の上方に直線状に並列させた一対の直管部を前記ネジシールを巻き付けておき、この状態で、保護管の貫通穴に下方より貫通させて突出させ、所要位置で直管部を貫通穴の内周面にネジシールを圧接して組みつけている。
一対の直管部の先端開口にはホース等を接続して冷却水の供給口と排出口とし、蛇管部に冷却水を循環させる構成としている。
【0015】
前記蛇管移動式冷却管のサイズは、使用される反応容器の口部に蛇管部を挿入できる大きさとし、かつ、前記蛇管冷却管を下降させたときに、蛇管部が反応容器内の反応液に浸漬され得る長さを有していれば、サイズは特に限定されるものではなく、反応容器のサイズや必要とされる冷却能力に応じて適宜選択することができる。
また、前記保護部材の遮蔽部の形状、サイズは、内部の気体を外部に散逸させないように、反応容器の口部の先端開口の全体を覆うことができるものであれば、特に限定されないが、前記貫通穴とガイド軸を設けた上壁と該上壁の周縁より突出する周壁を有した前記逆凹形状の蓋状とすることが好ましい。前記保護部材より突出させるガイド軸の長さも、ガイドする蛇管冷却管の長さや反応容器のサイズに応じて適宜選択することができるが、通常、前記蛇管部の長さの2〜10倍程度の長さを有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、本発明の蛇管移動式冷却管によれば、蛇管部とその上方に並列して形成された直管部とからなる蛇管冷却管と、遮蔽部に貫通穴を設けると共にガイド軸を突設した保護部とを組み合わせ、該保護部材の貫通穴に前記直管部を移動自在かつ所要位置で保持できる構成としていることにより、蛇管部の上方に配置される保護部材の遮蔽部によって、蛇管部側に存在する気体の外部への散逸が防止でき、加熱された気体の冷却、還流を確実に行うことができる。
さらに、保護部材のガイド軸に沿って、蛇管冷却管を上下に移動させることができるため、蛇管冷却管の位置ずれを確実に防止することができる。
【0017】
また、前記蛇管移動式冷却管を口部に備えた反応容器では、前記直管部を保護部材の貫通穴に移動自在に貫通させる構造としたことにより、化学反応時には、前記保護部材に対して、蛇管冷却管を上方に移動させて保持し、反応時に加熱された気体を冷却、還流することができると共に、反応液の冷却時には、保護部材に対して蛇管冷却管を下方に移動させて固定し、蛇管部を反応液に浸漬することにより、冷却管をチラーに付け替えることなく、反応液を直接冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1(A)(B)は、蛇管冷却管21と保護部材22とを組み合わせた本発明の蛇管移動式冷却管20を示し、(A)は保護部材22に対して蛇管冷却管21を上昇させた状態を示し、(B)は下降させた状態を示す。
前記蛇管冷却管21は図2に示す形状で、保護部材22は図3に示す形状である。
【0019】
蛇管冷却管21は、図中、縦方向の螺旋状に形成された蛇管部21aと、該蛇管部21aの上端と下端とに連続して上方に並列状態で突出させた一対の直管部21b、21cとからなる。蛇管部21の下端に連続させた直管部21cは、蛇管部21aに囲まれた中央空間Sの一側部を通って上方へ突出するように蛇管部21aの下端から折り返し状に連続させている。該蛇管冷却管21は耐熱性透明ガラスより形成している。
【0020】
保護部材22は、円形の上壁および周壁を有する断面逆凹形状の遮蔽部22aを備え、該遮蔽部22aの上壁に前記2本の直管部21b、21cを貫通させるための2つの貫通穴22a−1、22a−2を設けている。該遮蔽部22aの上壁中央部で前記貫通穴22a−1と22a−2の間からガイド軸22bを下方へ突出させている。
該保護部材22は蛇管冷却管21と同様な耐熱性透明ガラスで形成しているが、フッ素樹脂やPVDF(ポリフッ化ビニリデン樹脂)、PET(ポリエチレンテレフタレート)など比較的耐熱性の高い樹脂から成形してもよい。
【0021】
前記蛇管冷却管21と保護部材22とは、図1に示すように、保護部材22aの2つの貫通孔22a−1と、22a−2とに、蛇管冷却管21の2本の直管部21b、21cを下方から貫通させると共に、保護部材22のガイド軸22bを蛇管部21aにより形成される中央内部Sの略中心部に上方から挿通している。
前記直管部21b、22cにはフッ素樹脂製のテープからなるネジシール23を巻き付けている。このネジシール23は実験者が少し力をかけると小径化して貫通穴22a−1、22a−2内を直管部21b、21cをスムーズに昇降移動させることができる一方、力を解放すると大径化して貫通穴に圧接し、直管部21b、21cを所要位置で保持できるものである。
具体的には、例えば、直管部21b、21cの外径が5mmとすると、貫通穴22a−1、22a−2の内径を8mmとし、その間の空隙3mmに前記ネジシール23を介在させている。
【0022】
前記蛇管冷却管21と保護部材22とを組み合わせた本発明の蛇管移動式冷却管20は、図4(A)(B)に示すように使用され、蛇管冷却管21の直管部21bと21cの先端開口には、冷却水供給用のチューブ24Aと冷却水排出用のチューブ24Bとをそれぞれ連結し、これらチューブ24A、24Bの他端を冷却水供給源25まで配管して、冷却水を循環させるようにしている。
【0023】
本発明の蛇管移動式冷却管20は、図4(A)(B)に示すように、フラスコ30の口部31、32にそれぞれ取り付けて使用される。
具体的には、保護部材22の遮蔽部22aを口部31、32の先端開口に被せて取り付け、該遮蔽部23の下方に位置する蛇腹冷却管21の蛇腹部21aを、図4(A)では口部31、32の内部に位置させ、図4(B)では保護部材22に対して蛇管冷却管21を下降させて、フラスコ30の本体部33の内部空間へ蛇管部21aを位置させている。
【0024】
図4(A)は、フラスコ30の内部で化学反応させている時の使用状態を示し、前記したように、フラスコ30の口部31、32内に内部に蛇管部21aが収容され、遮蔽部22aで口部31、32の先端開口が閉鎖されている。
この状態で、フラスコ30内の加熱された反応液Qが蒸発されると、蒸気が口部31、32に流入し、該蒸気は蛇管部21aの表面と接触することで冷却される。かつ、遮蔽部22aで口部31、32の先端開口を閉鎖しているため、蒸気が外部に散逸するのを防止できる。
【0025】
加熱反応を終了した後、フラスコ30の本体33内に収容された反応液Qを冷却する際には、遮蔽部22aの貫通穴22a−1、22a−2から上方へ突出している直管部21b、21cを下降させる。この動作で蛇管部21aも下降させ、図4(B)に示すように、フレスコ30の本体33内の反応液Q中に蛇管部21aが浸漬した位置で下降を停止し、直管部21b、21cをネジシール23を介して位置決め保持する。前記下降時には、蛇管部21aは保護部材22のガイド軸22bに沿って下降し、位置ずれが発生しない。
反応液Qに蛇管部21aを浸漬させることで、反応液Qは蛇管部21aの表面と接触して、冷却される。このように、反応液Q中に蛇管部21aを浸漬させて反応液Qを直接的に冷却することで、冷却速度を速めることができる。
反応液Qを冷却した後、再度、直管部21b、21cを上昇移動させる。
【0026】
このように、本発明の蛇管移動式冷却管20は、蛇管冷却管21の直管部21b、21cを保護部材22の遮蔽部22aに穿設した貫通穴22a−1、22a−1内を移動自在としているため、冷却する対象の状態(気体または液体)によって、蛇管冷却管21をガイド軸22bに沿って上下に移動して冷却することができる。
【0027】
即ち、反応工程で気体を冷却、還流する際には、蛇管冷却管21の蛇管部21aが反応液の上方にくるように保持して冷却する一方、反応液の冷却工程では蛇管冷却管21を下方に移動させて反応液に蛇管部21aが浸漬するように保持することで、反応液を直接冷却することができる。したがって、従来のように、反応液を冷却する際に還流冷却管からチラーに付け替える必要もなく、蛇管冷却管21を下方に移動させるという簡単な操作だけで、短時間で効果的な冷却が可能となる。また、還流冷却管からチラーへの付け替えが必要ないことからリードタイムがかからず、反応時間をほぼ一定化することができるため、安定した反応を得ることができる。
さらに、保護部材22の遮蔽部22aでフラスコ30の口部31、32を常時閉鎖しているため、気体が外部に散逸して反応液の組成の変化や圧力の変化が起こることもなく、反応の制御を一定化することができる。
【0028】
(実施例)
本発明の蛇管移動式冷却管20を用いて、燃料電池用の白金担持触媒の作製実験した実施例について、図5を参照して説明する。
【0029】
使用した蛇管移動式冷却管20はガラス製である。そのサイズは、蛇管冷却管21の蛇管部21aの長さは70mm、直径は24mmで、直管部21b、21cの長さは130mm、内径は3mm、外径は5mmとした。
保護部材22における遮蔽部22aの上壁の直径は38mm、周壁の高さが27mm、貫通穴22a−1、22a−1の内径は8mm、ガイド軸22bの長さは150mmとした。
【0030】
フラスコ30に投入する反応液(触媒溶液)Qとして、ジニトロジアミン白金硝酸溶液20gと、カーボンブラックとしてライオン製ケッチェンブラックEC−600JD20gを加えて混合・分散した後、エチレングリコールを加えて、1500mlの触媒溶液を調製した。
前記触媒溶液Qを、球径170mm、高さ325mmの四つ口フラスコ30内に投入した。
また、蛇管冷却管21の直管部21b、21cの先端に、冷却水供給管と冷却水排出管となるシリコンチューブ24A、24B(内径5mm、外径9mm)をそれぞれ連結した。
【0031】
フラスコ30の2つの口部31、32にそれぞれ蛇管部21aを挿入し、保護部材22の遮蔽部22aを口部31、32の先端開口に被せてセットした。このとき、蛇管部21aが口部31、32の内部で位置決め保持されるように、直管部21b、21cの下端部を保護部材22の貫通穴22a−1、22a−2に位置させて保持した。
【0032】
フラスコ30を図5(A)に示すように、直径280mm、高さ250mmのマントルヒーター25中にセットし、スターラ36で攪拌しながら190℃で6時間加熱をすると共に、シリコンチューブ24Aに接続した直管部21bより水道水を流入させ、蛇管部21aを流通させた後に直管部21c、シリコンチューブ24Bより排出させて、水道水からなる冷却水を蛇管冷却管21に循環させた。
【0033】
前記熱処理によって白金微粒子をカーボン粒子に担持させた。該熱処理で蒸発した気体は口部31、32へと流入し、該気体を蛇管部21aと接触させて冷却した。かつ、口部31、32を遮蔽部22aで閉鎖していることで、蒸気が外部に漏れて散逸するのを防止した。
【0034】
加熱後、図5(B)に示すように、フラスコ30内の反応液を冷却するために、マントルヒーター25の電源をOFFにすると共に、蛇管移動式冷却管20の直管部21b、21cを把持し、ネジシールに少し力をかけて縮径化させ、貫通穴22a−1、22a−2内を直管部21b、21cがスムーズに移動させるようにして、直管部21b、21cを下降させた。其の際、蛇管部22aはガイド軸22bに沿って下降し、フラスコ本体33内の触媒溶液に浸漬するような位置で停止した。停止状態で、ネジシールに対する負荷を解除して、直管部21b、21cをネジシールで位置決め保持した。
【0035】
この状態で、氷25kg、水5リットル、塩1gの入ったチラー26で冷却された水道水をシリコンチューブ24A、24Bを通して蛇管部21aに循環させて反応液を30分間直接的に冷却した。かつ、同時に、フラスコ23の外側からファン27による冷却も行った。
【0036】
冷却後、反応液をろ過し、乾燥することにより、粒子径20nmのカーボン粒子に粒子径1〜3nmの白金微粒子が良好な分散度で担持された白金担持触媒が得られた。
【0037】
(実験例)
本発明の蛇管移動式冷却管を用い、175℃に加熱されたエチレングリコール2リットルの冷却実験を行った。
前記実験として、下記の実験例1、2、比較実験例1、2を行った。
【0038】
(実験例1)
マントルヒーターの電源をOFFにし、加熱されたエチレングリコールが入った反応容器をマントルヒーターに入れたままの状態で、本発明の蛇管移動式冷却管をセットし、蛇管部が液中に浸漬する位置で蛇管冷却管を保護部材に固定し、チラーで冷却された水道水を蛇管冷却管に通水することにより冷却を行なった。
(実験例2)
反応容器をマントルヒーターから取り出して冷却した以外は実験例1と同様にして冷却した。
(比較実験例1)
反応容器をマントルヒーターから取り出し、外部からファンのみで冷却した。
(比較実験例2)
蛇管移動式冷却管の代わりに冷却ホースを液中に入れた以外は、実験例1と同様にして冷却した。冷却ホースには、実験例1と同様にチラーで冷却された水道水をシリコンゴム製の冷却ホースに通水した。
【0039】
実験例1、2および比較実験例1、2の冷却実験の結果を図6に示す。図6のグラフにおいて、縦軸は温度(℃)、横軸は冷却時間(分)を示す。
【0040】
図6より明らかなように、実験例1はマントルヒーターから反応容器を取り出さずに冷却したため、マントルヒーターから取り出した実験例2より冷却速度が若干落ちたものの、本発明の蛇管移動式冷却管を用いた実験例1、2では、約30分間で75℃近辺まで冷却することができた。
一方、ファンのみで冷却した比較実験例では、110分冷却しても温度は未だ100℃を上回っており、実験例1、2に比べ冷却速度が極めて低いものであった。
また、冷却ホースで冷却した比較実験例2でも、冷却開始から約95分経過後において、ようやく80℃近辺まで冷却することができ、実施例1、2に比べ冷却速度が低かった。
【0041】
以上の結果より、本発明の蛇管移動式冷却管は、蛇管冷却管を保護部材に対して下方に移動させて固定するだけで、液体に浸漬して直接液体を冷却することができるため、短時間で効果的に液体を冷却できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の蛇管移動式冷却管を示し、(A)は蛇腹冷却管を保護部材に対して上昇位置とした場合の断面図、(B)は蛇管冷却管を保護部材に対して下降位置とした場合の断面図である。
【図2】蛇管冷却管の断面図である。
【図3】保護部材を示し、(A)は断面図、(B)は平面図である。
【図4】(A)(B)は本発明の蛇管移動式冷却管の使用例を示す図面である。
【図5】本発明の蛇管移動式冷却管を用いた白金担持触媒の作製工程を示し、(A)は化学反応工程を示す概略図、(B)は反応液冷却工程を示す概略図である。
【図6】冷却実験の結果を示すグラフである。
【図7】(A)は従来のリービッヒ冷却管の概略斜視図であり、(B)は従来の蛇管冷却管の概略斜視図である。
【図8】従来のリービッヒ冷却管を用いた実験装置の一例を示す概略図である。
【図9】従来の還流冷却管を用いた白金担持触媒の作製工程を示す概略図である。
【図10】従来の反応液の冷却工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0043】
20 蛇管移動式冷却管
21 蛇管冷却管
21a 蛇管部
21b、21c 直管部
22 保護部材
22a 遮蔽部
22a−1、22a−2 貫通穴
22b ガイド軸
23 ネジシール
24A,冷却液供給用のシリコンチューブ
24B 冷却液排出用のシリコンチューブ
30 フラスコ
31、32 口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状に形成された蛇管部と、該蛇管部の両端から上方に直線状に延在して並列状態で前記蛇管部より突出すると共に先端が冷却液出入用開口となる一対の直管部とからなる蛇管冷却管と、
遮蔽部と、該遮蔽部の上壁に形成された一対の貫通穴と、前記上壁から垂下するガイド軸とを備える保護部材とからなり、
前記保護部材の貫通穴に前記蛇管冷却管の直管部を移動自在且つ所要位置で保持可能に貫通させると共に、前記蛇管部に囲まれた中央空間に前記保護部材のガイド軸を位置させ、該ガイド軸に沿って前記蛇管部が移動される構成としていることを特徴とする蛇管移動式冷却管。
【請求項2】
前記保護部材の遮蔽部は前記上壁と周壁を備えた断面逆凹形状とされ、かつ、該遮蔽部に設けた前記貫通穴と前記蛇管冷却管の直管部との間には弾性部材を介在させることを特徴とする請求項1に記載の蛇管移動式冷却管。
【請求項3】
請求書1または請求書2に記載の蛇管移動式冷却管を口部に備えることを特徴とする反応容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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