蛋白を作製するための系および方法
【課題】増強された蛋白フォールディングまたはプロセッシング能力を有する、遺伝子改変された動物細胞または植物細胞を使用する、分泌蛋白または膜蛋白の産生収量が改善された発現系を提供する。
【解決手段】(1)目的とする蛋白、および(2)細胞の小胞体ストレス応答(UPR)経路において機能的であるポリペプチドをコードする1つまたは複数の組換え発現カセットを含む、遺伝子改変された細胞。該ポリペプチドの共発現により、遺伝子改変された細胞における目的とする蛋白の収量を増加する方法。遺伝子改変された細胞は動物細胞であり、かつ共発現されるポリペプチドは、XBP1またはATF6の媒介によるUPR経路の成分または調節物質である上記細胞及び方法。
【解決手段】(1)目的とする蛋白、および(2)細胞の小胞体ストレス応答(UPR)経路において機能的であるポリペプチドをコードする1つまたは複数の組換え発現カセットを含む、遺伝子改変された細胞。該ポリペプチドの共発現により、遺伝子改変された細胞における目的とする蛋白の収量を増加する方法。遺伝子改変された細胞は動物細胞であり、かつ共発現されるポリペプチドは、XBP1またはATF6の媒介によるUPR経路の成分または調節物質である上記細胞及び方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2004年9月2日に出願された米国特許仮出願第60/606,439号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、目的とする蛋白を作製するための発現系およびこれを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
分泌蛋白および膜蛋白は、小胞体(ER)−ゴルジ系においてフォールディングおよび他の翻訳後修飾を受ける。この系の恒常性が混乱すると、アポトーシスを招き得る細胞ストレスが引き起こされる。ER恒常性は、ER管腔中のCa2+濃度もしくは酸化還元状態の変化、グリコシル化の変更、またはアンフォールドもしくはミスフォールドされた蛋白の蓄積によって変更され得る。ストレスに打ち勝つために、分泌系は、小胞体ストレス応答(unfolded protein response)(UPR)として公知の適応的ストレス応答機序を発達させた。哺乳動物のUPRを活性化すると、少なくとも3種の応答をもたらす:(1)翻訳の減少によって、ER管腔に輸送される新しい蛋白の量が減少する;(2)ER管腔中に蓄積された蛋白がサイトゾルに逆輸送され、かつ分解される;および(3)ER−ゴルジ分泌系が改造されて、その結果、系における蛋白のフォールディングおよびプロセッシング能力が増強される。
【0004】
ストレスに応答したER−ゴルジ系の能力増強は、フォールディング酵素およびプロセッシング酵素の上方調節を伴う。これらの酵素としては、ERシャペロン、グリコシル化およびジスルフィド結合形成に関与している酵素、ならびに小胞輸送に関与している酵素が挙げられる。哺乳動物細胞において、IRE1蛋白およびATF6蛋白は、UPR経路のこの分岐経路(branch)の主要トランスデューサーである。IRE1蛋白は、C末端の細胞質ゾルドメインにおいてキナーゼ活性およびエンドヌクレアーゼ活性を有するER膜貫通型糖蛋白である。少なくとも2種のIRE1遺伝子、すなわちIRE1αおよびIRE1βがマウスにおいて同定されている。IRE1αは、生存能力のために不可欠であり、かつ広く発現されている。IRE1βは、胃腸管粘膜中でのみ検出されている。ERストレスは、IRE1蛋白のオリゴマー化およびそれらの細胞質ゾルドメインのトランス自己リン酸化を招く。IRE1のリン酸化により、転写因子Xボックス結合蛋白1(XBP1)のmRNAからイントロンを切除するエンドヌクレアーゼ活性が活性化される。このスプライシング事象により、転写不活性なXBP1アイソフォーム(すなわちXBP1u)が転写活性なXBP1アイソフォーム(すなわちXBP1sまたはXBP1p)に変換される。次いで、XBP1pが核中に移動し、そこで、ERストレス応答エレメント(ERSE)およびUPRエレメント(UPRE)を含む、ER−ゴルジシャペロン/酵素遺伝子の調節領域中の標的配列に結合して、それらの転写を誘導する。多くのUPR標的遺伝子は、プロモーター領域中にERSEまたはUPRE配列の1つまたは複数のコピーを有する。
【0005】
ATF6(転写活性化因子6)は、別のER膜貫通型蛋白である。ERストレスは、ATF6蛋白のゴルジ区画への移行をもたらし、そこでATF6蛋白の細胞質ゾルドメインは、サイト1プロテアーゼおよびサイト2プロテアーゼによって切断される。切断された細胞質ゾルドメインは、核に移動し、かつERSE配列に結合することによって転写因子として作用し、その結果として、分泌経路中の様々なシャペロンおよびプロセッシング酵素を上方調節する。
【0006】
哺乳動物細胞におけるUPR経路の活性化はまた、PERKシグナル伝達経路を介して蛋白翻訳の一過性阻害をもたらす。PERKは、ERストレスに応答して真核生物の翻訳開始因子eIF2αをリン酸化することができるER膜貫通型キナーゼである。eIF2αのリン酸化は、43Sリボソームの開始前複合体の集合を妨げ、したがって翻訳の低減をもたらす。逆説的に、eIF2αリン酸化はまた、転写因子ATF4の急速な合成をもたらし、その結果として、アポトーシス誘導性転写因子CHOPの発現を増大させる。CHOPは、ERストレスの有害な作用にもはや打ち勝つことができない場合に細胞死を助長する。
【0007】
哺乳動物細胞における組換え分泌蛋白の過剰発現は、低い産生収量をしばしば招く。蛋白産生を改善するために通常使用される方法は、より強力なプロモーターを使用することまたは遺伝子コピー数を増加させることなど、転写速度を上昇させることである。しかし、転写速度の上昇はERストレスを悪化させることがあり、したがって、収量を有意に改善することにしばしば失敗する。いくつかの場合では、産生収量をさらに減少させることさえある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、分泌蛋白または膜蛋白の産生収量が改善された発現系を提供する。これらの系は、修飾された、かつ多くの場合には増強された蛋白フォールディングまたはプロセッシング能力を有する、遺伝子改変された動物細胞または植物細胞を使用する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様では、本発明は、(1)目的とする蛋白、および(2)UPR経路の成分または調節物質をコードする1つまたは複数の組換え発現カセットを含む、遺伝子改変された動物細胞または植物細胞を特徴とする。適切なUPR成分または調節物質としては、それだけには限らないが、UPR経路において機能的であるIRE1以外の分子が挙げられる。これらは、宿主細胞の内在性UPR成分、またはそれらの変異体もしくは機能的等価物であり得る。これらは、内在性UPR成分の活性または発現を直接的にまたは間接的に調節する、天然または非天然の分子でもよい。多くの場合において、UPR成分/調節物質は、それらの発現または活性化により宿主細胞の蛋白フォールディングまたはプロセッシング能力が増大するように選択される。
【0010】
例示的なUPR成分/調節物質としては、それだけには限らないが、XBP1やATF6などの転写因子、またはそれらの生物活性を有する断片もしくは変異体が挙げられる。XBP1またはATF6の媒介によるUPR経路中の他の成分もまた、使用することができる。さらに、ERに内在するシャペロンまたはプロセッシング酵素も使用することができる。
【0011】
本発明に従って作製され得る蛋白としては、それだけには限らないが、エリスロポイエチン、成長ホルモン、インスリン、インターフェロン、増殖因子、膜蛋白、または他の治療用、予防用、もしくは診断用の蛋白が挙げられる。多くの実施形態において、目的とする蛋白は、分泌蛋白または膜蛋白として宿主細胞によって発現される。
【0012】
本発明の遺伝子改変された細胞は、細胞株、初代培養物、または他の単離細胞もしくは培養細胞に由来し得る。遺伝子改変された細胞はまた、ハイブリッド細胞でもよい。多くの場合において、ハイブリッド細胞は、動物細胞および(骨髄腫細胞のような)癌細胞を融合することによって作製される。目的とする蛋白またはUPR成分/調節物質をコードしている組換え発現カセットは、融合事象の前または後にハイブリッド細胞中に組み入れまたは導入することができる。さらに、本発明の遺伝子改変された細胞は、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物の細胞でもよい。一実施形態では、遺伝子改変された細胞は、哺乳動物細胞である。
【0013】
組換え発現カセットは、様々な手段によって宿主細胞中に組み入れることができる。例えば、発現カセットは、宿主細胞の染色体またはゲノム中に安定に組み込むことができる。組込みは、ランダムまたは(例えばバクテリオファージP1のCre−lox組換え系を用いることによる)標的化のいずれかでよい。発現カセットはまた、非組込み型発現ベクターを介して宿主細胞中に導入することもできる。
【0014】
組換え発現カセットは、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターによって制御することができる。また、組織特異的プロモーターまたは発生的に調節されているプロモーターによっても制御することができる。他のタイプのプロモーターも、本発明のために使用され得る。
【0015】
別の態様では、本発明は、(1)目的とする蛋白、および(2)宿主細胞のUPREまたはERSEに結合することができるポリペプチドをコードする1つまたは複数の組換え発現カセットを含む、遺伝的に修飾された動物細胞または植物細胞を特徴とする。一実施形態では、UPRE結合ポリペプチドまたはERSE結合ポリペプチドは、XBP1やATF6などの転写因子である。別の実施形態では、UPRE結合ポリペプチドまたはERSE結合ポリペプチドは、UPR遺伝子のプロモーター領域に別の蛋白を動員することができ、かつ後者の蛋白は、UPR遺伝子の転写を活性化することができるトランス活性化ドメインを含む(例えば、XBP1またはATF6の転写活性化ドメイン)。
【0016】
本発明の遺伝子改変された細胞は、同じまたは異なる組換え発現カセットから目的とする蛋白およびUPR成分/調節物質を発現することができる。目的とする蛋白およびUPR成分/調節物質は、同じまたは異なるプロモーターによって制御され得る。
【0017】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変された細胞は、(1)目的とする蛋白をコードしている第1の組換え発現カセット、および(2)UPR成分もしくは調節物質またはUPREもしくはERSE結合蛋白(例えばXBP1もしくはATF6)をコードしている第2の組換え発現カセットを含む。細胞中の第2の組換え発現カセットの総数に対する第1の組換え発現カセットの総数の比率は、それだけには限らないが、0.1:1以下から少なくとも10:1までの範囲であり得る。多くの場合において、第1の組換えカセットによって使用されるプロモーターは、第2の組換えカセットによって使用されるプロモーターと同じまたは同様の強度を有してよく、かつ第2の組換えカセットの総数に対する第1の組換えカセットの総数の比率は、0.5:1〜10:1(少なくとも1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、または9:1など)の範囲である。第1および第2の組換えカセット中のプロモーターは、異なる強度を有してもよい。例えば、第1の組換えカセット中のプロモーターは、例えば少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍以上、第2の組換えカセット中のプロモーターより強力でよい。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、本発明の遺伝子改変された細胞を含む動物または植物を特徴とする。遺伝的に修飾された細胞を動物または植物中に組み入れるための方法は、当技術分野において周知である。多くの実施形態において、これらの動物または植物は、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物である。
【0019】
さらに別の態様では、本発明は、(1)目的とする蛋白、および(2)UPR経路の成分またはIRE1以外の調節物質をコードしている1つまたは複数の発現ベクターでトランスフェクトまたはトランスダクションされている細胞培養物を特徴とする。多くの実施形態において、発現ベクターは、目的とする蛋白をコードしている第1の組換え発現カセットおよびUPR成分または調節物質(例えばXBP1もしくはATF6)をコードしている第2の組換え発現カセットを含む。第1および第2の発現カセットは、同じまたは異なる発現ベクターによって搭載され得る。細胞培養物中の第2の組換え発現カセットに対する第1の組換え発現カセットのモル比率は、例えば、少なくとも1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1以上など、0.1:1以下から少なくとも10:1の範囲でよい。細胞培養物は、哺乳動物細胞培養物、昆虫細胞培養物、植物細胞培養物、または目的とする蛋白の作製に適した別の培養物でよい。
【0020】
本発明はまた、目的とする蛋白の作製のために遺伝子改変された細胞、動物、植物、または細胞培養物を使用する方法も特徴とする。
【0021】
さらに、本発明は、(1)目的とする蛋白、および(2)UPR経路の成分またはIRE1以外の調節物質をコードする発現ベクターも特徴とする。
【0022】
本発明の他の特徴、機能、目的、および利点は、以下の詳細な説明において明らかである。しかし、この詳細な説明は、本発明の好ましい実施形態を示すが、単なる例証に過ぎず、これらに限定されないことが理解されるべきである。本発明の範囲内の様々な変化および修正は、詳細な説明から当業者に明らかになると考えられる。
【0023】
(図面の簡単な記載)
これらの図面は、例証のために提供され、これらに制約されるものではない。
【0024】
図1は、PA DUKX細胞におけるBMP6の過剰発現がERストレスを引き起こすことを実証する。
【0025】
図2は、ストレス無負荷条件またはストレス負荷条件下での、安定にトランスフェクトされた細胞株における外来性XBP1の発現を示す。
【0026】
図3は、親細胞CHO DUKXよりもいくつかのXBP1細胞株においてBMP6分泌が増加していることを示す。
【0027】
図4は、親細胞CHO DUKXよりもいくつかのXBP1細胞株においてIL11RFc分泌が増加していることを例示する。
【0028】
図5は、GFPのトランスフェクション効率が、選択されたXBP1細胞株およびCHO DUKX親細胞株において同様であることを実証する。
【0029】
図6は、GFPの転写効率および翻訳効率が、選択されたXBP1細胞株およびCHO CUKX親細胞株において同様であることを示す。
【0030】
図7は、COS−1細胞における誘導性ATF6蛋白の成功裡な発現を例示する。
【0031】
図8は、標的蛋白の作製に対する、異なる比率のXBP1またはATF6と標的蛋白cDNAとの効果を表す。
【0032】
図9は、異なる標的蛋白の発現に対するXBP1またはATF6の効果を実証する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明は、目的とする蛋白を作製するための系および方法を提供する。本発明の発現系は、修飾された、または改善された蛋白フォールディングまたはプロセッシング能力を有する遺伝子改変された動物細胞または植物細胞を使用する。多くの実施形態において、本発明の遺伝子改変された細胞は、目的とする蛋白およびUPR経路の成分または調節物質をコードする、1つまたは複数の組換え発現カセットを含む。UPR成分/調節物質の共発現により、目的とする蛋白の収量は有意に増加する。本発明に適したUPR成分/調節物質としては、それだけには限らないが、XBP1やATF6などの転写因子、またはそれらの生物活性を有する断片もしくは変異体が挙げられる。ERに関連したシャペロンまた酵素も使用され得る。
【0034】
本発明の様々な態様を以下の小節においてさらに詳細に説明する。小節の使用は、本発明を限定することを意図していない。各小節は、本発明の任意の態様に適用され得る。本明細書において使用される場合、「または」という用語は、別段の記載がない限り、「および/または」を意味する。
【0035】
A.目的とする蛋白
本発明に従って作製され得る蛋白としては、それだけには限らないが、エリスロポイエチン、成長ホルモン、インスリン、インターロイキン、増殖因子、インターフェロン、コロニー刺激因子、血液因子、ワクチン、コラーゲン、フィブリノーゲン、ヒト血清アルブミン、組織プラスミノーゲンアクチベータ、グルコシダーゼ、アルグルセラーゼ、ミエリン塩基性蛋白、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、ドーパデカルボキシラーゼ、または抗体などの治療用、予防用、または診断用の蛋白が挙げられる。本発明に適する例示的な抗体としては、それだけには限らないが、モノクローナル抗体、単一特異性抗体、多特異性抗体、非特異的抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、人工抗体、組換え抗体、ハイブリッド抗体、Fab、F(ab’)2、Fv、scFv、Fd、dAb、またはそれらの機能的断片が挙げられる。in vitroの提示技術または進化戦略を用いて選択される高親和性結合物も、本発明に従って作製することができる。これらの高親和性結合物としては、それだけには限らないが、ペプチド、抗体、および抗体模倣物が挙げられる。例えば、Binzら、NAT BIOTECHNOL.、22:575〜582頁(2004年);ならびにLipovsekおよびPluckthun、J IMMUNOL METHODS、290:51〜67頁(2004年)を参照されたい。キナーゼ、ホスファターゼ、G蛋白共役型受容体、増殖因子受容体、サイトカイン受容体、ケモカイン受容体、細胞表面抗体(膜結合型免疫グロブリン)、BMP/GDF受容体、ニューロン受容体、イオンチャネル、プロテアーゼ、転写因子、またはポリメラーゼなど他の目的とする蛋白もまた、本発明によって作製することができる。
【0036】
多くの実施形態において、本発明によって作製される蛋白は、組換え蛋白である。本明細書において使用される場合、組換え蛋白とは、組換えDNA技術を用いて構築または作製される蛋白を意味する。組換え蛋白は、天然に存在する配列または遺伝子改変された配列を有し得る。これは、例えば、組換えベクターから、または宿主細胞に内在するが、遺伝子改変された調節配列を有する遺伝子から発現され得る。例えば、組換え蛋白は、内在性であるが、遺伝子改変されたウイルスプロモーターを有する遺伝子から作製することができる。
【0037】
多くの場合において、組換え蛋白は、発現産物の単離、精製、検出、固定化、安定化、フォールディング、またはターゲティングを容易にするためのポリペプチドタグを含む融合蛋白である。
【0038】
他の多くの場合において、組換え蛋白は、シグナルペプチドを含む。シグナルペプチドは、作製される蛋白に対して内在性でも異種性でもよい。シグナルペプチドは、蛋白が粗面ER上で形成されるか遊離のリボソーム上で形成されるかをしばしば決定する。シグナルペプチドは、シグナル認識粒子と相互に作用し、かつ共翻訳的挿入が起こるERにリボソームを誘導することができる。多くのシグナルペプチドは、疎水性が極めて高く、正に帯電した残基を有する。シグナルペプチドは、シグナルペプチダーゼ、すなわちERの腔面上に位置している特殊なプロテアーゼによって伸長中のペプチド鎖から除去され得る。
【0039】
シグナル配列によってERに標的化された蛋白は、分泌蛋白として細胞外空間中に放出され得る。例えば、分泌蛋白を含む小胞は、細胞膜と融合し、次いでその内容物を細胞外空間中に放出することができる−エキソサイトーシスと呼ばれているプロセスである。エキソサイトーシスは、構成的に、または始動シグナルの受信後に生じ得る。後者の場合、これらの蛋白は、エキソサイトーシスが引き起こされるまで、分泌小胞(または分泌顆粒)中に貯蔵される 同様に、細胞膜上に存在する蛋白は、蛋白を膜に縛り付ける「リンカー」の蛋白分解切断によって細胞外空間中に分泌され得る。
【0040】
目的とする蛋白は、様々な手段によって発現系から単離され得る。蛋白単離のための最初の材料の例としては、それだけには限らないが、培養培地または細胞溶解物が挙げられる。適切な単離方法としては、それだけには限らないが、アフィニティークロマトグラフィー、(イムノアフィニティークロマトグラフィーを含む)、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、HPLC、蛋白沈降法(免疫沈降法を含む)、示差的可溶化、電気泳動、遠心分離、結晶化、またはそれらの組合せが挙げられる。ストレプトアビジンタグ、FLAGタグ、ポリヒスチジンタグ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、またはFc断片などのポリペプチドタグを目的とする蛋白に融合して、単離または精製を容易にすることができる。一実施例では、ポリペプチドタグは、プロテアーゼによって目的とする蛋白から切断可能である。
【0041】
多くの実施形態において、本発明に従って単離される目的とする蛋白は、他の蛋白または混入物を実質的に含まない。例えば、単離された蛋白は、他の蛋白から少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%純粋であり得る。一実施例では、単離された蛋白は、意図した用途を妨害すると思われるわずかな量以下の混入物しか含まない。
【0042】
本発明に従って単離される目的とする蛋白は、SDS−PAGEやイムノアッセイなど標準的技術を用いて確認することができる。SDS−PAGEは、クーマシーブルー、銀、または単離された蛋白を可視化するのに適する他の薬剤で染色することができる。適切なイムノアッセイとしては、それだけには限らないが、ウェスタンブロット、ELISA、RIA、サンドイッチもしくは免疫測定アッセイ、ラテックスもしくは他の粒子の凝集、またはプロテオミクスチップが挙げられる。蛋白配列決定および質量分析法もまた、単離された蛋白を確認または解析するのに使用することができる。
【0043】
B.UPR成分/調節物質
本発明に適するUPR成分/調節物質には、UPR経路において機能的である分子が含まれる。これらは、天然でも非天然でもよい。これらは、遺伝子改変されるか、化学的に合成されるか、または生物学的に単離され得る。UPR成分/調節物質は、宿主細胞と同じまたは異なる種に由来し得る。UPR成分/調節物質が発現されると、宿主細胞の分泌能力またはERプロセッシング能力が改善する。多くの場合において、宿主細胞において目的とする蛋白とUPR成分/調節物質が共発現されると、目的とする蛋白の収量が少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、または10倍以上、改善する。
【0044】
本発明に適しているUPR成分/調節物質の例としては、それだけには限らないが、XBP1やATF6などの転写因子が挙げられる。XBP1またはATF6の断片のような、これらの転写因子の機能的等価物もまた、使用され得る。これらの断片は、転写的に活性化されたXBP1蛋白またはATF6蛋白の転写活性の実質的な部分を少なくとも保持している。ERシャペロンや蛋白グリコシル化もしくは小胞トランスロケーションに関与している酵素など、XBP1またはATF6の下流のエフェクターもまた、使用され得る。
【0045】
さらに、XBP1またはATF6の媒介によるUPR経路の成分の発現または生物学的機能を活性化できるIRE1以外の調節物質も、使用され得る。このような調節物質は、自己過剰発現以外の機序によって、UPR経路を調節することができる。例えば、このような調節物質は、成分に直接結合することによってUPR成分の機能を活性化することができ、または成分をコードする遺伝子中の調節配列に結合することによって成分の発現を調節することができる。
【0046】
さらに、PERKシグナル伝達経路の成分の発現または生物学的機能を阻害し得る調節物質も使用され得る。これらの調節物質としては、それだけには限らないが、抗体、アンチセンスRNA、またはRNAi配列が挙げられる。さらに、PERK経路成分の優性ネガティブな変異体も使用され得る。このような優性ネガティブな変異体の例は、51位(マウスの配列)のセリンがアラニンに置換されたeIF2a S51A変異体である。この置換により、蛋白がリン酸化される能力が消失し、したがって、ERストレスの間の蛋白翻訳速度に対する阻害効果が消滅する。同様に、PERKのキナーゼドメイン中に変異を導入して、eIF2aをリン酸化するキナーゼ活性を消失または低下させ、それによってERストレスの間の翻訳の低減またはアポトーシスの誘導を防止することもできる。
【0047】
一実施形態では、XBP1蛋白または生物活性を有するその断片が、宿主細胞における目的とする蛋白の収量を増加させるために使用される。XBP1蛋白は、DNA結合能力および2量体化能力を与える、転写因子中に一般に存在する2つのドメインを含む。XBP1は、Xボックスと呼ばれるプロモーターエレメントに結合することによってMHCクラスII遺伝子を調節する転写因子として公知である。XBP1は、T細胞白血病ウイルス1型のプロモーター中のエンハンサーにも結合する。
【0048】
UPR経路の活性化は、シノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)モデル系および哺乳動物モデル系の双方において、XBP1 mRNAからの小さなイントロンのIRE1依存性のスプライシングをもたらす。結果として生じるエキソンは、tRNAリガーゼによって結合される。このスプライシング事象は、XBP1 mRNA中のフレームシフトをもたらし、それにより、元のN末端DNA結合ドメインを有するが、C末端の新しいトランス活性化ドメインを有する蛋白が生じる。マウス細胞では、スプライシング事象により、267アミノ酸のXBP1アイソフォームが371アミノ酸のXBP1アイソフォーム(XBP1sまたはXBP1p)に変換される。Calfonら、NATURE、415:92〜96頁(2002年)を参照されたい。
【0049】
XBP1p蛋白は、多くのERシャペロンまたはUPR遺伝子のプロモーター領域中のERSE配列またはUPRE配列に結合して、これらの遺伝子の転写を活性化する。哺乳動物では、少なくとも2種のERSE配列、すなわちERSE−IおよびERSE−IIが同定されている。ERSE−Iは、配列番号1(CCAATNNNNNNNNNCCACG)において示される保存配列を有する。ERSE−IIは、配列番号2(ATTGGNCCACG)において表される保存配列を有する。さらに、少なくとも2種の哺乳動物のUPRE配列が同定されており、一方は配列番号3(TGACGTGG)において表される保存配列を有し、もう一方は、配列番号4(TGACGTGA)において例示される保存配列を有する。
【0050】
XBP1蛋白のコード配列は、様々な情報源から得ることができる。例えば、ヒト、マウス、ラット、ニワトリ、ショウジョウバエ、およびゼブラフィッシュのXBP1蛋白のコード配列は、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)(ベセスダ、メリーランド州)のEntrezヌクレオチドデータベースから得ることができる。これらの配列のEntrezアクセッション番号は、それぞれ、NM_005080、NM_013842、NM_001004210、NM_001006192、NM_079983、またはNM_131874である。
【0051】
XBP1蛋白の生物活性を有する断片は、XBP1p蛋白の転写活性化活性の実質的な部分を少なくとも保持している。例えば、本発明において使用するXBP1断片は、XBP1pの転写活性化活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%以上を保持し得る。転写的に活性なXBP1断片は、多数の手段によって選択することができる。一実施例では、転写的に活性なXBP1断片は、ERSE配列またはUPRE配列から下流の遺伝子の転写を活性化する能力に基づいて選択される。
【0052】
別の実施形態では、ATF6蛋白または生物活性を有するその断片が、宿主細胞における目的とする蛋白の収量を改善するために使用される。ATF6は、ER管腔中に位置する「感知」ドメインおよび細胞質ゾルの転写トランス活性化ドメインを含む膜貫通型蛋白である。ERストレスが起こると、ATF6の細胞質ゾルドメインは切り離され、かつ核へと輸送され、そこでERSE配列に結合し、それによって下流のUPR遺伝子を活性化する。少なくとも2種のATF6蛋白、すなわち、ATF6αおよびATF6βが同定されている。ATF6αおよびATF6βは、構造的に関連しており、かつb−zipドメインに顕著な類似性を共有している。ヒトマウス、ヒツジ、およびニワトリのATF6蛋白の例示的なコード配列のEntrezアクセッション番号は、それぞれ、NM_007348、XM_129579、AY942654、およびXM_422208である。
【0053】
本発明で使用されるXBP1断片と同様に、ATF6蛋白の生物活性を有する断片は、活性化されたATF6蛋白またはその細胞質ゾルドメインの転写活性化活性の実質的な部分を少なくとも保持している。生物活性を有するATF6断片は、ERSE配列へのその結合、およびその断片がERSE配列の下流の遺伝子の転写を活性化する能力をモニターすることによって選択することができる。
【0054】
さらに別の実施形態では、ERに内在するプロセッシング酵素またはシャペロンが、宿主細胞における目的とする蛋白の収量を増加させるために使用される。ERに配置されている適切な酵素/シャペロンの例としては、それだけには限らないが、GRP78、GRP94、GRP58、蛋白ジスルフィドイソメラーゼ、カルネキシン、およびカルレチキュリン(calrecticulin)が挙げられる。一実施例では、本発明において使用されるER酵素(またはシャペロン)の内在性の対応物は、1つまたは複数のERSE−I配列またはERSE−II配列を含むプロモーター領域を有する。別の実施例では、本発明において使用されるER酵素(またはシャペロン)の内在性の対応物は、1つまたは複数のUPRE配列を含むプロモーター領域を有する。
【0055】
本発明はまた、内在性蛋白の変異体であるUPR成分の使用も特徴とする。内在性UPR成分の変異体は、対立遺伝子の変異や多形性によるものなど天然に存在するものでよく、または故意に設計されてもよい。変異体のUPR活性は、元の蛋白(例えば、XBP1p、転写的に活性化されたATF6蛋白、または生物活性を有するその断片)と比べて実質的に低下しない。多くの実施形態において、本発明において使用される変異体は、対応する元の蛋白のUPR活性の少なくとも50%を保持している。例えば、変異体は、元の蛋白のUPR活性の少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、99%、または100%を保持し得る。一実施形態では、本発明において使用される変異体は、元の蛋白と比べて増大したUPR活性を示す。UPR成分の望ましい変異体は、変異体の発現または活性化により、宿主細胞におけるコトランスフェクトされた蛋白の分泌が促進されるように選択され得る。
【0056】
変異体のアミノ酸配列は、元の蛋白のものと実質的に同一である。多くの場合において、変異体のアミノ酸配列は、元の蛋白に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、または99%の全体的配列の同一性または類似性を有する。配列の同一性または類似性は、様々な方法によって決定することができる。一実施形態では、配列の同一性または類似性は、配列アラインメントアルゴリズムを用いることによって決定される。この目的に適したアルゴリズムとしては、それだけには限らないが、Altschulら、J.MOL.BIOL.、215:403〜410頁(1990年)において記載されているBasic Local Alignment Tool(BLAST)、Needlemanら、J.MOL.BIOL.、48:444〜453頁(1970年)のアルゴリズム、MyersおよびMiller、COMPUTE.APPLE.BIOSCI.、4:11〜17頁(1988年)のアルゴリズム、ならびにドットマトリックス解析が挙げられる。この目的に適したコンピュータプログラムとしては、それだけには限らないが、NCBIによって提供されるBLASTプログラム、DNASTAR(マディソン、ウィスコンシン州)によって提供されるMegAlign、およびGenetics Computer Group(GCG)GAPプログラム(ニードルマン−ウェンチ(Needleman−Wench)アルゴリズム)が挙げられる。GAPプログラムの場合、デフォルト値を使用してよい(例えば、配列のうちの1つにおいてギャップを開始するためのペナルティは11であり、かつギャップを伸長するためのペナルティは8である)。類似アミノ酸は、BLOSSOM置換行列によって定義することができる。
【0057】
UPR成分の望ましい変異体を調製するために多数の方法が利用可能である。例えば、変異体は、少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、10個、または20個以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または他の修飾によって、元の蛋白から誘導することができる。置換は、保存的でも非保存的でもよい。多くの場合において、保存的アミノ酸置換は、蛋白の構造も生物活性も有意に変更せずに、蛋白配列中に導入することができる。保存的アミノ酸置換は、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、または両親媒性の性質の類似性に基づいて実施することができる。例えば、保存的アミノ酸置換は、リシン(LysもしくはK)、アルギニン(ArgもしくはR)、およびヒスチジン(HisもしくはH)など塩基性側鎖を有するアミノ酸;アスパラギン酸(AspもしくはD)およびグルタミン酸(GluもしくはE)など酸性側鎖を有するアミノ酸;アスパラギン(AsnもしくはN)、グルタミン(GlnもしくはQ)、セリン(SerもしくはS)、トレオニン(ThrもしくはT)、およびチロシン(TyrもしくはY)など非荷電極性側鎖を有するアミノ酸;あるいはアラニン(AlaもしくはA)、グリシン(GlyもしくはG)、バリン(ValもしくはV)、ロイシン(LeuもしくはL)、イソロイシン(IleもしくはI)、プロリン(ProもしくはP)、フェニルアラニン(PheもしくはF)、メチオニン(MetもしくはM)、トリプトファン(TrpもしくはW)、またはシステイン(CysもしくはC)など非極性側鎖を有するアミノ酸の間で実施することができる。通常使用されるアミノ酸置換の例を表1に例示する。
【表1】
【0058】
他の望ましいアミノ酸置換も、UPR成分中に導入することができる。例えば、アミノ酸置換をUPR成分中に導入して、その安定性を高めることができる。別の例では、アミノ酸置換を導入して、UPR成分のUPR活性を増大または低下させることができる。
【0059】
さらに、本発明は、宿主細胞のUPRE配列またはERSE配列に結合することができるポリペプチドの使用も特徴とする。これらのポリペプチドは、単独でまたは他の蛋白との組合せで、UPREまたはERSEのプロモーター領域を有する遺伝子の転写を活性化するための転写因子として機能することができる。
【0060】
C.組換え発現カセットおよび宿主細胞
本発明において使用される典型的な組換え発現カセットは、5’側の非翻訳調節領域および3’側の非翻訳調節領域に作動的に連結されている蛋白コード配列を含む。この蛋白コード配列は、ゲノム配列、cDNA配列、それらの混合物、または他の発現可能な配列でよい。
【0061】
一実施形態では、組換え発現カセットは、コードされている蛋白の発現を指示するのに必要な調節エレメントのすべてを含む。適切な5’側の非翻訳調節エレメントの例としては、プロモーター、エンハンサー、またはコザック配列が挙げられる。適切な3’側の非翻訳調節エレメントの例としては、ポリアデニル化配列または他の転写/翻訳終結配列が挙げられる。発現カセットのための適切なプロモーター、エンハンサー、または他の調節エレメントの選択は、当業者のレベルの範囲のごく普通の設計の事項である。多くのこのようなエレメントは文献に記載されており、かつ商業的な供給業者を通じて入手可能である。
【0062】
本発明に適したプロモーターとしては、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターが挙げられる。これらのプロモーターは、宿主細胞に対して内在性でも異種性でもよい。一実施形態では、組織特異的プロモーターが使用される。適切な組織特異的プロモーターとしては、それだけには限らないが、肝臓に特異的なプロモーター、リンパ系に特異的なプロモーター、T細胞に特異的なプロモーター、神経単位に特異的なプロモーター、膵臓に特異的なプロモーター、または乳腺に特異的なプロモーターが挙げられる。発生的に調節されているプロモーターも、使用することができる。組織特異的プロモーターまたは発生的に調節されたプロモーターを有する組換え発現カセットを使用して、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物を作製することができる。このような組換え発現カセットにコードされている蛋白は、特定の組織において、またはトランスジェニック動物もしくはトランスジェニック植物の特定の発生段階に産生され得る。
【0063】
別の実施形態では、誘導発現系を使用して、目的とする蛋白またはUPR成分/調節物質を作製する。この目的に適する系としては、それだけには限らないが、Tet−on/off系、エクジソン系、およびラパマイシン系が挙げられる。Tet−on/off系は、イー・コリ(E.coli)Tn10トランスポゾンのテトラサイクリン耐性オペロンに由来する2種の調節エレメントに基づいている。この系は、2種の構成要素、すなわち調節カセットおよびレポーターカセットを含む。Tet−off系の1つの形態では、調節カセットは、単純ヘルペスウイルス(HSV)のVP16活性化ドメインに融合されたTetリプレッサー(tetR)を含むハイブリッド蛋白をコードする。レポーターカセットは、レポート遺伝子に作動的に連結されているtet−応答エレメント(TRE)を含む。レポーター遺伝子は、例えば、目的とする蛋白またはUPR成分/調節物質をコードし得る。誘導物質(例えばテトラサイクリンまたはドキシサイクリン)がない場合、tetR−VP16融合蛋白はTREに結合し、それによってレポーター遺伝子の転写を活性化する。Tet−on系の1つの形態では、調節カセットは、HSVのVP16活性化ドメインに融合された、変異Tetリプレッサー(rtetR)を含むハイブリッド蛋白をコードする。rtetRは、誘導物質(例えばテトラサイクリンまたはドキシサイクリン)の存在下でTREに結合し、かつ活性化する、逆のTetリプレッサーである。
【0064】
エクジソン系は、ショウジョウバエにおける脱皮誘導系に基づいている。1つの形態では、この系は、機能性のエクジソン受容体をコードする調節カセット、およびレポーター遺伝子に作動的に連結されているエクジソン応答性プロモーターを含むレポーターカセットを含む。誘導物質(ポナステロンAまたはムリステロンAなど)の存在下で、エクジソン受容体はエクジソン応答性プロモーターに結合して、レポーター遺伝子の転写を活性化する。
【0065】
CID系(2量体化の化学誘導物質)としても公知のラパマイシン系は、2種のキメラ蛋白を使用する。第1のキメラ蛋白には、DNA応答エレメントに結合するDNA結合ドメインに融合されたFKBP12が含まれる。第2のキメラ蛋白には、転写活性化ドメインに融合されたFRAPが含まれる。ラパマイシンの添加は、2種のキメラ蛋白の2量体化を引き起こし、それによって、DNA応答エレメントに制御されている遺伝子の発現を活性化する。
【0066】
一実施例では、本発明において使用される組換え発現カセットは、配列番号5を含む。配列番号5の転写により、スプライシングされていないヒトXBP1 mRNAが生成する。ERストレスによりIRE1が活性化され、これが、スプライシングされていないmRNAからイントロンを切断する。スプライシングされたmRNAの翻訳により、成熟した、かつ機能性のXBP1蛋白が生成する。このアミノ酸配列を配列番号6において示す。
【0067】
別の実施例では、本発明において使用される組換え発現カセットは、配列番号7を含む。配列番号7は、切断可能なイントロン配列を全く含まない。配列番号7の発現により、成熟した、かつ機能性のヒトXBP1蛋白(配列番号6)が生成する。配列番号6またはその機能的等価物をコードする他の核酸配列もまた、本発明の組換え発現カセットを調製するのに使用され得る。これらの核酸配列は、イントロンまたは他の除去可能な配列を含んでも含まなくてもよい。
【0068】
さらに別の実施例では、本発明において使用される組換え発現カセットは、配列番号8を含む。配列番号8の転写および翻訳により、ヒトATF6蛋白が生成する。このアミノ酸配列を配列番号9において示す。
【0069】
別の実施例において、本発明において使用される組換え発現カセットは、配列番号9のアミノ酸残基1〜366をコードする核酸配列を含む。このような核酸配列の例は、配列番号8のヌクレオチド1〜1098である。配列番号9のアミノ酸残基1〜366は、ヒトATF6蛋白のロイシンジッパー領域の塩基性領域全体および大部分を含む。このATF6断片は、内在性GRP78遺伝子を活性化できることが示された。Hazeら、MOL.BIOL.CELL、10:3787〜3799頁(1999年)を参照されたい。
【0070】
非ヒト種に由来するXBP1蛋白またはATF6蛋白をコードしている組換えカセットもまた、本発明において使用され得る。例えば、げっ歯動物または他の動物種のXBP1蛋白またはATF6蛋白が使用され得る。これらのXBP1蛋白またはATF6蛋白は、これらの蛋白と目的とする蛋白の共発現により、宿主細胞における後者の蛋白の収量が改善するように、選択することができる。
【0071】
組換え発現カセットは、様々な手段によって宿主細胞中に組み入れることができる。一実施形態では、組換え発現カセットは、トランスフェクションベクターまたはトランスダクションベクターを用いることによって、宿主真核細胞中に導入される。この目的に適したベクターとしては、それだけには限らないが、昆虫細胞発現ベクター(例えばバキュロウイルス発現ベクター)または哺乳動物の発現ベクターが挙げられる。これらのベクターは、エピソーム、コスミド、ウイルス、またはそれらの組合せなど様々な供給源に由来してよい。多くの場合において、これらのベクターは、宿主細胞中への組入れを容易にするための選択マーカーを含む。
【0072】
別の実施形態では、本発明において使用される組換え発現カセットは、宿主細胞中の内在性遺伝子を修飾することによって構築される。この内在性遺伝子は、目的とする蛋白またはUPR成分/調節物質をコードし得る。所望の発現または調節効果を実現するために、内在性遺伝子中の多くの部分を修飾することができる。例えば、内在性遺伝子の元のプロモーターを、遺伝子の発現レベルを増大させるために、ウイルスプロモーターによって置き換えることができる。
【0073】
組換え発現カセットは、様々な形態で宿主細胞中に組み入れることができる。例えば、組換え発現カセットは、宿主細胞の染色体またはゲノム中に組み込まれ得る。組換え発現カセットはまた、宿主細胞において非組込み型発現ベクターに搭載されてもよい。発現ベクターまたはカセットを宿主細胞中に安定にまたは一過性に導入するための方法は、当技術分野において公知である。一実施例では、発現ベクターまたはカセットは、標的化された組込みによって宿主細胞の染色体中に組み入れられる。この目的に適した方法としては、それだけには限らないが、Cre−lox組換え系ならびに米国特許第6656727号、第6537542号、および第6541231号において記載されているものが挙げられる。
【0074】
多くの実施形態において、本発明の遺伝子改変された細胞は、(1)目的とする蛋白をコードしている第1の組換え発現カセット、および(2)UPR成分/調節物質(例えばXBP1またはATF6)をコードしている第2の組換え発現カセットを含む。細胞中の第2の組換え発現カセットの総数に対する第1の組換え発現カセットの総数の比率は、例えば、0.1:1以下から少なくとも10:1までの範囲であり得る。適切な比率の非限定的な例としては、0.2:1〜5:1、0.5:1〜5:1、1:1〜2:1、1:1〜3:1、1:1〜4:1、1:1〜5:1、2:1〜3:1、2:1〜4:1、および2:1〜5:1が挙げられる。第1および第2の組換え発現カセットは、同じまたは異なるベクターに搭載されてよく、かつ同じまたは異なる強度を有する同じまたは異なるプロモーターによって駆動されてよい。一実施例では、第1の組換え発現カセット中のプロモーターは、第2の組換え発現カセット中のものと同じまたは同様の強度を有し、かつ第2の組換えカセットの総数に対する第1の組換えカセットの総数の比率は、少なくとも、1:1、2:1、3:1、4:1、または5:1以上である。
【0075】
本発明に適した宿主細胞としては、動物細胞または植物細胞が挙げられる。宿主細胞は、細胞株や一次培養物などの培養細胞でよい。これらは、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物中の細胞でもよい。適切な宿主細胞の選択、ならびに培養、トランスフェクション/トランスダクション、増幅、スクリーニング、生成物の作製、および精製のための方法は、当技術分野において公知である。
【0076】
一実施形態では、本発明において使用される宿主細胞は、哺乳動物細胞である。適切な哺乳動物細胞の例としては、それだけには限らないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、COS細胞、293細胞、CV−1細胞、ならびにアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(マナッサス、バージニア州)によって収集されている他の哺乳動物細胞株が挙げられる。いくつかの場合では、発現された蛋白に対して所望の翻訳後修飾をしばしば提供する、治療的または予防的蛋白をヒト細胞において作製することが望ましい。
【0077】
本発明において使用される宿主細胞はまた、2種以上の細胞の融合によって作り出されるハイブリッド細胞でもよい。多くの場合において、本発明において使用されるハイブリッド細胞は、動物細胞(例えば哺乳動物細胞)および癌/不死細胞(例えば骨髄腫細胞または芽細胞腫細胞)を融合させることによって作製される。動物細胞および癌/不死細胞は、同じ種に由来してよい。これらは、異なる種に由来してもよい。ハイブリッド細胞を作製するために、当技術分野において公知の任意の方法を使用してよい。これらの方法としては、それだけには限らないが、電気融合または化学的融合(例えばポリエチレングリコール融合)が挙げられる。
【0078】
組換え発現カセットは、融合事象の前または後にハイブリッド細胞中に導入または組み入れることができる。例えば、目的とする蛋白をコードしている組換え発現カセットは、外来性のUPR成分または調節物質を発現している癌細胞と細胞が融合される前に、哺乳動物細胞中に組み入れることができる。別の場合では、目的とする蛋白およびUPR成分または調節物質をコードしている組換え発現ベクターで哺乳動物細胞を先にトランスフェクトまたはトランスダクションし、次いで癌細胞と融合させることができる。本発明のハイブリッド細胞を調製するために、他の手順も使用され得る。
【0079】
多くの実施形態において、ハイブリッド細胞を調製するために使用される癌/不死細胞は、1種または複数種の選択剤に感受性である。例えば、癌/不死細胞は、「HAT培地」として公知である、ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培養培地に対して感受性でよい。これらのHAT感受性細胞は、HAT培地に非感受性の細胞と融合される。このようにして作製されたハイブリッド細胞は、未融合細胞を死滅させるHATによって選択される。次いで、融合された細胞を、所望の特徴に関してスクリーニングする。
【0080】
本発明はまた、本発明の宿主真核細胞を含む動物または植物も特徴とする。組換え細胞を動物または植物中に組み入れるための方法は、当技術分野において周知である。多くの実施形態において、これらの動物または植物は、目的とする蛋白およびUPR成分/調節物質をコードしている1つまたは複数の導入遺伝子を含むトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物である。トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物は、標準的技術を用いることによって作製することができる。一実施形態では、トランスジェニック動物は、非ヒト動物である。
【0081】
本発明はさらに、(1)目的とする蛋白、および(2)UPR成分/調節物質をコードしている1つまたは複数の発現ベクターでトランスフェクトまたはトランスダクションされている、動物細胞培養物または植物細胞培養物も特徴とする。細胞培養物は、哺乳動物細胞培養物、昆虫細胞培養物、植物細胞培養物、または目的とする蛋白の作製に適した他の培養物でよい。発現ベクターは、一過性にまたは安定にトランスフェクトまたはトランスダクションされ得る。一実施形態では、使用される発現ベクターは、目的とする蛋白をコードしている第1の組換え発現カセットおよびUPR成分/調節物質(例えばXBP1またはATF6)をコードしている第2の組換え発現カセットを含む。第1および第2の発現カセットは、同じまたは異なる発現ベクターによって搭載され得る。これらは、同じまたは異なるプロモーターによって駆動され得る。第2の組換え発現カセットに対する第1の組換え発現カセットのモル比率は、例えば、0.1:1以下から少なくとも10:1の範囲であり得る。
【0082】
一実施例では、第1の組換えカセットによって使用されるプロモーターは、第2の組換えカセットによって使用されるプロモーターと同じまたは同様の強度を有し、かつ細胞培養物中の第2の組換えカセットに対する第1の組換えカセットのモル比率は、少なくとも1:1、2:1、3:1、4:1、または5:1以上など、0.5:1から10:1までの範囲である。
【0083】
D.医薬組成物
本発明によって作製される治療用または予防用蛋白を用いて、治療を必要とする患者または動物の治療用の医薬組成物を調製することができる。本発明の医薬組成物は、典型的には、有効量の治療用または予防用蛋白および製薬上許容される担体を含む。適切な製薬上許容される担体としては、薬学的適用に適合性のある、溶剤、可溶化剤、増量剤、安定化剤、結合剤、吸着剤、基剤、緩衝剤、滑沢剤、制御放出ビヒクル、希釈剤、乳化剤、湿潤剤、流動促進剤、分散媒、被覆剤、抗菌剤または抗真菌剤、等張化剤、および吸収遅延剤などが挙げられる。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および作用物質の使用は、当技術分野において周知である。補助的な作用物質も組成物中に組み入れてよい。
【0084】
本発明の医薬組成物は、所期の投与経路に適合するように調剤することができる。投与経路の例としては、非経口投与、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与、吸入投与、経皮投与、直腸投与、経粘膜投与、局所投与、および全身投与が挙げられる。一実施例では、投与は、埋め込み剤によって実施される。
【0085】
非経口、皮内、または皮下適用のために使用される液剤または懸濁剤は、以下の成分を含み得る:注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶剤などの無菌希釈剤;ベンジンアルコールやメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸や重硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;アセタート、シトラート、またはホスファートなどの緩衝剤;および塩化ナトリウムやデキストロースなど張性を調整するための作用物質。pHは、塩酸や水酸化ナトリウムなどの酸または塩基を用いて調整することができる。非経口調製物は、ガラス製またはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ、または複数回投与用バイアル中に入れることができる。
【0086】
本発明の医薬組成物は、所望の投薬量で患者または動物に投与することができる。適切な投薬量は、例えば5mg〜100mg、15mg〜85mg、30mg〜70mg、または40mg〜60mgの範囲でよい。5mg未満または100mgを上回る投薬量も使用することができる。医薬組成物は、1回用量または複数用量で投与することができる。これらの用量は、毎日1回、毎週1回、または毎月1回などの間隔で投与することができる。
【0087】
治療用蛋白の毒性および治療有効性は、細胞培養または実験動物モデルにおける標準的な薬学的手順によって測定することができる。例えば、LD50(母集団の50%に対して致死的な用量)およびED50(母集団の50%において治療的に有効な用量)が測定され得る。毒性作用と治療的効果の用量比率が治療指数であり、LD50/ED50の比率として表すことができる。多くの場合、より大きな治療指数を示す治療用蛋白が選択される。
【0088】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られるデータを用いて、ヒトにおいて使用するための投薬量の範囲を決定することができる。一実施形態では、投薬量は、毒性をほとんどまたは全く伴わずに、母集団の少なくとも50%において治療的有効性を示す範囲内である。投薬量は、使用される剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動してよい。
【0089】
本発明によって作製される治療用蛋白を投与するための投与計画は、蛋白の作用、病変の部位、疾患の重症度、患者の年齢、性別、および食生活、炎症があればその重症度、投与時間、ならびに他の臨床的因子など様々な因子に基づいて、主治医によって決定され得る。一実施例では、最小限に有効な用量で全身投与または注射投与を開始し、かつ良い効果が観察されるまで、予め選択した期間を通して用量を増加させる。続いて、生じる可能性のある有害作用があればそれらを考慮しつつ、対応する効果の増大をもたらすレベルに制限しながら投薬量を漸増させる。
【0090】
治療の経過は、疾患の進行の定期的評価によって観察することができる。経過は、例えばX線、MRI、もしくは他の画像診断様式、滑液分析、または臨床的検査によって観察することができる。
【0091】
目的とする治療用または予防用蛋白はまた、遺伝子デリバリーベクターを用いることによって、ヒトまたは動物中に導入することもできる。この目的に適したベクターとしては、それだけには限らないが、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス性(AAV)、ヘルペスウイルス、アルファウイル、アストロウイルス、コロナウイルス、オルソミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、パルボウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、またはトガウイルスのベクターなどのウイルスベクターが挙げられる。リポソームに封入された発現ベクターもまた、遺伝子デリバリーに使用することができる。多くの実施形態において、遺伝子デリバリーベクターは、目的とする蛋白およびUPR調節物質の双方をコードしている。UPR調節物質の共発現により、標的細胞(例えば腫瘍細胞または他の機能障害細胞)における目的とする蛋白の産生が促進される。目的とする蛋白およびUPR調節物質はまた、異なるベクターを用いて標的細胞に送達することもできる。遺伝子デリバリーは、in vivoまたはex vivoで実施することができる。
【0092】
一実施形態では、目的とする治療用/予防用蛋白またはUPR調節物質を標的細胞中に導入するために、細胞特異的な遺伝子デリバリー方法が使用される。当技術分野において公知の多くの細胞特異的な遺伝子デリバリー方法を本発明のために使用することができる。例えば、細胞特異的なリガンド(例えば、標的細胞の表面抗原に特異的な抗体)を、治療用/予防用蛋白またはUPR調節物質をコードするウイルスベクターのエンベロープに組み入れ、または結合させることができる。このリガンドは、特定の細胞型中へのウイルスベクターの侵入を媒介することができる。抗体結合リポソームもまた、特定の標的細胞に遺伝子治療用ベクターを送達するために使用することができる。
【0093】
上述の実施形態および以下の実施例は、例証に過ぎず、これらに限定されないことが理解されるべきである。本発明の範囲内の様々な変更および修正は、本明細書から当業者に明らかになると考えられる。
【実施例】
【0094】
実施例1 COS−1細胞株およびDUKX細胞株
アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(マナッサス、バージニア州)からATCC番号CRL−1650のCOS−1細胞を入手した。CHO DUKX細胞およびPA DUKX細胞の両方とも、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の派生物である、CHO−K1(ATCC番号CCL−61)に由来した。
【0095】
DUXK B11細胞またはDXB11細胞とも呼ばれるCHO DUXK細胞は、DNA複製のプロセスにおいて重要な酵素であるジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)の産生に欠陥がある。両方のdhfrアレルが変異している細胞を選択するために、UrlaubおよびChasin(PROC.NATL.ACAD.SCI.U.S.A.、77:4216〜4220頁(1980年))は、2つの工程で変異誘発および選択を実施した。dhfr+細胞に対して使用される選択剤は、トリチウム標識したデオキシウリジンであった。トリチウム標識したデオキシウリジンは、DNA中への組入れおよびそれに続く放射性崩壊が原因となって、細胞に対して毒性である。デオキシウリジンがDNA中に組み入れられるには、チミジル酸にそれが変換される必要があり、このプロセスのためにDHFRが不可欠である。dhfr−変異細胞は、DNA中にデオキシウリジンを組み入れることができず、したがって、トリチウム標識したデオキシウリジンの存在下で生き残ることができる。一部のdhfr+細胞、ならびにDNA中へのデオキシウリジンの組入れに必要な他の何らかの酵素を欠いている変異体もまた、生き残ることができる。dhfr−変異体は、グリシン、ヒポキサンチン、およびチミジンの新規な生合成を実施することができず、したがって増殖のために外来性ヌクレオシドを必要とするため、区別することができる。
【0096】
前掲のUrlaubおよびChasinによって使用された選択の第1の工程では、野生型細胞がエチルメタンスルホナート(EMS)変異誘発に供され、かつdhfr−阻害メトトレキサート(MTX)の存在下で、トリチウム標識したデオキシウリジンを用いて選択されて、推定上のヘテロ接合体(d+/d−)が単離された。ヘテロ接合体(d+/d−)中のすべてのDHFRを不活性化するのに十分であるが、ホモ接合体(d+/d+)中のすべてを不活性化するのには十分ではない濃度のMTXを用いることによって、ホモ接合体は残存するDHFR活性を有し、かつトリチウム標識したデオキシウリジンを組み入れた。この組入れによって、(d+/d+)細胞が選択され、かつヘテロ接合体のみが生き残ることができた。生き残っている細胞の選択、貯蔵、および増殖を3回実施した後、推定上のヘテロ接合体細胞株であるUKB25を単離した。ガンマ線照射によってUKB25細胞をさらに変異誘発し、MTXの不在下で、トリチウム標識したデオキシウリジン中で選択した。生き残っているコロニーは、グリシン、ヒポキサンチン、およびチミジンに対する3重栄養要求性を提示し、dhfr−表現型が示唆された。この3重栄養要求性を提示しているコロニーをクローン化し、dhfr活性を欠いていることを示した。サザンブロットハイブリダイゼーションによってこのようなクローンの1つを解析したところ、dhfr遺伝子が大規模な再配列(gross rearrangement)を全く受けていないことが明らかになった。このクローンをDXB11と呼んだ。
【0097】
このようにして作製したDX B11細胞を検査して、細胞株の予測される特質を確認した。DUKX B11細胞は、その由来元であるCHO−K1細胞株に遺伝子型が類似していることが判明した。これらは、低二倍体CHO細胞であり、細胞遺伝学的に広く研究されている20種の染色体を有する。分裂中期のDUKXB11染色体のギムザ(Geimsa)バンディングにより、DUKXB11細胞がCHO−K1派生物であることが実証された。DUKX B11細胞は、DHFRを欠損しており、したがってグリシン、プリンヌクレオシド、およびチミジンに対して栄養要求性である。DUKX B11細胞のDHFRを欠損したこの表現型が、細胞中に組換え型の異種蛋白発現プラスミドを移入するために使用される遺伝的選択の基礎である。
【0098】
いくつかの実験において、DUKX B11細胞を培養するために使用される培地は、ヒポキサンチンもチミジンも含まなかった。ジヒドロ葉酸レダクターゼ活性がない場合、細胞が生き残り、かつ複製する唯一の手段は、増殖培地中にヌクレオシドを補充することによって、細胞がそれらを作る能力を持たないことを補うものであった。したがって、アデノシン、デオキシアデノシン、およびチミジンをDUKX B11細胞用の増殖培地に添加した。これらはそれぞれ10μg/mlの濃度で添加した。この濃度は、慣例的な小スケールの増殖条件下で細胞が必要とする濃度より高かった。
【0099】
DUKX B11細胞は、所望の蛋白に対するcDNAを含む発現プラスミドを導入するのに有用である。これらは内在性のDHFR活性を欠いているため、異種蛋白を産生する細胞株を作製する場合に、選択可能かつ増幅可能なマーカーとして使用することができる。dhfrのcDNAを含む別の発現ベクターをコトランスフェクトすることによって、または同じ発現ベクター上で対象のcDNAの極めて近くにdhfrのcDNAを入れることによって、どの細胞が所望の遺伝子を含む発現プラスミドを取り込み、所望の蛋白を産生する可能性があるかを判定するためのマーカーとしてdhfr活性を利用することができる。トランスフェクション後に外来性ヌクレオシドを差し控えることによって、dhfr遺伝子を含むベクターを組み入れる細胞のみがdhfrを産生し、それによって生き残ることができると考えられる。生き残った細胞は、次に所望の蛋白を産生することができる。これは、所望のcDNAおよびdhfrが同じプラスミド上にある場合はバイシストロン性のメッセージによって、またはそれらの遺伝子が、トランスフェクション事象の進行中に染色体上に通常は共局在する異なるプラスミド上にある場合は、個別のメッセージによって、達成され得る。2つの別々のプラスミドを使用する場合、cDNAを含むプラスミドに対するdhfrを含むプラスミドの比率を変更することにより、双方を含む細胞を選択する能力を向上させることができる。
【0100】
DUKX B11細胞は、dhfr遺伝子中の点突然変異が原因でdhfrを欠損しており、したがって、dhfr+表現型への復帰変異が可能である。この復帰変異および外来性ヌクレオシドなしで増殖する能力は、無血清懸濁液への適応行動(adaptaion effort)の間に観察された。培養状態のDUKX細胞の集団は、懸濁培養の開始から、約154回の累積的集団倍加(CPD)の間、dhfr−のままであった。しかし、190CPDの時点での外来性ヌクレオシドに対する依存性について再び検査した場合、表現型の復帰変異が明らかであった。これらの細胞の平均増殖速度の有意な上昇は、dhfr+表現型と一致している。トランスフェクションおよび遺伝子増幅戦略のためにはdhfr−表現型が望ましいため、適応されたDUKX細胞の無血清懸濁液を153.8CPDの後に作製した。これらの細胞は、発現ベクターが導入される前に、無血清懸濁培養での増殖に適応されたため、「予め適応された(pre−adapted)」と呼ばれ、かつ「PA DUKX」と称される。
【0101】
適応されていない、FBS依存性のDUKX単層を、発現ベクターをトランスフェクトするために使用することができる。異種遺伝子およびdhfrの発現が達成された後、新しい各細胞株をFBSを含まない懸濁液での増殖に適応させることができる。単層細胞を用いたトランスフェクション後の適応期間は、しばしば非常に長い。「予め適応された」DUKX細胞は、トランスフェクションのための宿主細胞として使用することもできる。これらのPA DUKX細胞は、トランスフェクション後の無血清懸濁液中での増殖への再適応期間が通常はより短いため、時間および労力の面から見てしばしば利点を与える。Sinacoreら、BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING、52:518〜528頁(1996年)を参照されたい。
【0102】
実施例2 PA DUKX細胞におけるBMP6の過剰発現によるERストレスの誘導
pSMED2/XBP1およびpSMED2/BMP6(+)または空のpSMED2ベクター(−)をPA DUKX細胞中にコトランスフェクトした。pSMED2/XBP1発現ベクターおよびpSMED2/BMP6発現ベクターは、それぞれXBP1およびBMP6をコードする。どちらのベクターも、CMVプロモーターによって駆動される。Fugene6(Roche、インディアナポリス、インディアナ州)を用いて、6ウェルプレート中でトランスフェクションを実施した。細胞用の増殖培地は、ヌクレオシドおよび(加熱不活性化し、かつ透析した)10%FBS、ならびにペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン(Gibco)を添加したα培地(Gibco)であった。
【0103】
400mM NaClおよび1 Complete Mini(Roche、インディアナポリス、インディアナ州のプロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤)を添加したCell Lysis Buffer(Cell Signaling Technology、ビバリー、マサチューセッツ州)中に細胞を溶解した。トランスフェクション後7時間、24時間、31時間、および48時間目に溶解産物を採取し、10%トリシンゲル上で泳動させ、続いてウェスタンブロット解析を実施した(図1)。TBS中4%脱脂粉乳、1%BSA、および0.1%Tween20のブロッキング緩衝液、ならびにTBS中0.1%Tween20の洗浄用緩衝液を用いて、ウェスタンブロット解析を実施した。抗体は、ブロッキング緩衝液中に希釈した。ウェスタン法のためのタイトレーションは、1:1000抗XBP1(Santa Cruz Biotechnology)とそれに続く、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合された1:5000ヤギ抗ウサギ抗体(The Jackson Laboratory)であった。図1は、XBP1p蛋白(約54kD)の増加によって測定されるように、PA DUKX細胞におけるBMP6の過剰発現がERストレスを引き起こしたことを示す。
【0104】
実施例3 XBP1で安定にトランスフェクトされた細胞株
pSMED2/XBP1ベクターをCHO DUKX細胞中にトランスフェクトして、安定な細胞株を作製した。pSMED2ベクター上のDFHR遺伝子は、メトトレキサート(MTX)抵抗性を与える。トランスフェクトされた細胞を濃度5nM、10nM、または20nMのMTX中に播種した。3つの5nM MTXコロニー(5−2、5−4、5−5)、1つの10nMコロニー(10−3)、および1つの20nMコロニー(20−10)を単離した。各コロニーからの細胞を、ERストレスを引き起こすことが知られている化学物質ツナシミシン(Tunacymicin)(Tu)で処理し(+)、または処理しなかった(−)。溶解産物を10%トリシンゲル上で泳動させ、続いて、ウサギポリクローナル抗XBP1抗体(Santa Cruz Biotechnology)を用いてウェスタンブロット解析(図2)を実施した。図2は、Tu処理によって細胞にストレスを加えた場合、XBP1の安定な細胞株において、より成熟したXBP1が産生されたことを実証する。
【0105】
pSMED2/BMP6をXBP1安定細胞株(5−2、5−4、および20−10)および親(CHO DUKX)細胞株中に一過性にトランスフェクトした。トランスフェクション後48時間目に馴化培地を採取し、10%トリシンゲル上で泳動させ、続いてウェスタンブロット解析を実施した。BMP6と強力に交差反応するマウスのモノクローナル抗BMP5抗体(1:2000)で、ウェスタンブロットのメンブレン(図3)をプローブした。二次抗体は、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたヤギ抗マウス抗体(1:5000)(The Jackson Laboratory)であった。図3の各レーンは、それぞれの細胞株に対する個別の実験に相当する。図3において示されるように、親細胞においてよりも、5nM MTXおよび10nM MTXで選択されたXBP1安定細胞株において、より多くのBMP6が分泌された。
【0106】
IL11RFc蛋白をコードするpSMED2/IL11RFcも、XBP1安定細胞株および親細胞株中に一過性にトランスフェクトした。トランスフェクション後48時間目に馴化培地を採取し、10%トリシンゲル上で泳動させ、続いてウェスタンブロット解析を実施した。ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたヤギ抗ヒトFc抗体(The Jackson Laboratory)で、ウェスタンブロットのメンブレン(図4)をプローブした。CHO DUKX細胞においてよりも、5nM MTXで選択されたXBP1細胞株の大多数において、より多くのIL11RFcが分泌された。
【0107】
実施例4 XBP1安定細胞株およびそれらの親細胞CHOの間のトランスフェクション効率、転写効率、および翻訳効率の比較
5−2、20−10、およびCHO DUKX細胞を計数し、かつ緑色蛍光蛋白(GFP)をコードしている構築物で等量を一過性にトランスフェクトした。倍率10×10で細胞を可視化し、かつ、細胞株当たり3つの視野においてGFP蛍光性細胞を総細胞数と比較することによって、トランスフェクション効率(GFPを発現している細胞の百分率(%))を測定した。この比較の結果は、GFPのトランスフェクション効率が、試験したすべてのXBP1細胞株およびCHO DUKX細胞株において同様であることを示す(図5)。
【0108】
別の実験において、GFPをコードしている構築物(+)またはコードしていない構築物(−)をXBP1安定細胞株および親細胞株中に一過性にトランスフェクトした。トランスフェクション後48時間目に採取した細胞溶解物を10%トリシンゲル上で泳動させ、続いてウェスタンブロット解析を実施した(図6)。図6の各レーンは、個別の実験に相当する。ウサギポリクローナル抗GFP抗体およびローディングコントロール用のマウスモノクローナル抗アクチン抗体で、ウェスタンブロットのメンブレンをプローブした。図6によって示すように、GFPの転写および翻訳効率の合計は、調査したすべての細胞株において同様である。
【0109】
実施例5 ATF6で一過性にトランスフェクトされた細胞株
ATF6の活性な可溶性ドメインに由来するFlagタグ付きcDNAをTet/off誘導発現ベクターptTATOP6中にクローニングし、かつCOS−1細胞中に一過性にトランスフェクトした。ptTATOP6ベクターは、ATF6およびFlagタグを含む融合蛋白の発現を制御する誘導性プロモーターを含む。トランスフェクション後18時間、48時間、および60時間目に採取した細胞溶解物を10%トリシンゲル上で泳動させ、続いてウェスタンブロット解析を実施した。ウェスタンブロットのメンブレン(図7)を抗flag抗体でプローブした。「V」は、空のptTATOP6ベクターを示し、「P」は、flagの陽性対照を表す。図7によって示されるように、ATF6蛋白は、ドキシサイクリンの不在下で、COS−1細胞において成功裡に発現された。
【0110】
実施例6 標的遺伝子を適切な比率でXBP1またはATF6と共発現させると、HEK293細胞における標的遺伝子の分泌が増大する
37℃、5%CO2を含む加湿インキュベーターにおいて、5%ウシ胎児血清を添加したfree−style293培地(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)中でHEK293−FTおよびHEK293−EBNAを増殖させ、かつ維持した。
【0111】
50mlスピナーもしくは24ウェルプレート、または1Lスピナー中で一過性発現を実施した。培養容積50ml(または1L)の場合、プラスミドDNA25μg(または1Lの場合には0.5mg)を、無血清293培地2.5ml(1Lの場合には50ml)中のポリエチレンイミン(PEI、25kDa、直鎖状、HClによってpH7.0に中和、1mg/ml、Polysciences、ウォリントン、ペンシルバニア州)400μg(1Lの場合には8mg)と混合した。P2005撹拌機(Bellco)上で、回転速度170rpm、37℃で72〜144時間、スピナーをインキュベートした後、回収した。24ウェルプレートの形式の場合、DNA 1μgを無血清293培地0.5ml中のPEI 8μgと混合した。次いで、これらの混合物を、10%FBSを含む293培地中のHEK293細胞0.5mlと細胞濃度0.5×106細胞/mlで混合した。Orbital振とう機(Bellco)上で、回転速度300rpm、37℃で72時間、プレートをインキュベートした後、回収した。
【0112】
pSMED2およびpSMEDAをDNA構築のために使用した。C末端のHis6タグ付き分泌性Frizzled関連蛋白(sFRP−1)およびC末端のFlaタグ付きアグリカナーゼ−2(Agg−2)をpSMEDA中にサブクローニングした。C末端のHis6タグ付き神経栄養性チロシンキナーゼ2型受容体(TrkB)をpSMED2中にサブクローニングした。これらのサブクローニングされた遺伝子は、膜貫通ドメインも細胞質内ドメインも全く有さず、その結果、発現産物の分泌を可能にした。
【0113】
C末端のHis6タグ付きProp1およびProp34−LBDをpcDNA3.1(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)中にサブクローニングした。Prop1およびProp34−LBDは、膜貫通ドメインおよび細胞質内ドメインが欠失した低密度リポ蛋白受容体関連蛋白5(LRP5)に由来した。Prop1およびProp34−LBDのアミノ酸配列を、それぞれ配列番号10および11に示す。配列番号10は、アミノ酸342〜347にHis6タグを含み、かつアミノ酸348〜356にFlagタグを含む。配列番号11は、アミノ酸795〜800にHis6タグを含み、かつアミノ酸778〜794にV5タグを含む。
【0114】
pcDNA3.1中のProp1−his6−Flag 1μgをpSMED2ベクター中のXBP1p 0.3μg(1:3)または1μg(1:1)と共にHEK293T細胞中にコトランスフェクトした。pcDNA3.1およびpSMED2のいずれも、CMVプロモーターによって駆動される。DNAトランスフェクション後72時間目に馴化培地を採取した。SDS−PAGEによって試料を分離し、かつ抗His4抗体でイムノブロットした。2セットの実験(セット1およびセット2)を実施した。図8Aにおいて示すように、1:1または1:3の比率でXBP1をProp1とコトランスフェクションすると、Prop1の発現が大幅に改善した。
【0115】
別の実験では、pcDNA3.1中のProp34−LBD−V5−his6 1μgをptTATOP6ベクター中のATF6 0.3μg(1:3)または1μg(1:1)と共にHEK293T細胞中にコトランスフェクトした。pSMED2と同様に、ptTATOP6も、CMVプロモーターによって駆動される。DNAトランスフェクション後72時間目に採取した馴化培地をSDS−PAGEおよび抗His4抗体を用いたイムノブロッティングによって分析した。図8Bは、1:1または1:3の比率でATF6をProp34−LBD−V5−his6とコトランスフェクションすると、Prop34−LBDの発現が有意に増大したことを示す。
【0116】
図9は、異なる標的蛋白の発現に対するXBP1pまたはATF6の効果を例示する。pcDNA3.1中のProp1−his6−FlagまたはProp34−LBD−V5−His6を、pSMED2ベクター中のXBP1pまたはptTATOP6ベクター中のATF6と共にHEK293T細胞中にコトランスフェクトした。DNAトランスフェクション後72時間目に採取した馴化培地をSDS−PAGEおよび抗His4抗体を用いたイムノブロッティングによって分析した。図9に示すように、シグナルをデンシトメトリーによって定量した。これらの結果は、XBP1pおよびATF−6が、Prop1およびProp34−LBDの発現に対して異なる効果を有することを示唆する。TrkB、sFRP−1、およびAgg−2に対しても、これらの蛋白をXBP1pかATF−6と共発現させた場合、異なる増大効果が観察された。例えば、XBP1pとの共発現により、TrkBの収量は約5倍増加したのに対し、TrkBをATF6と共発現させた場合は約2倍の増加しか観察されなかった。
【0117】
本発明の前述の説明は、例証および説明を提供するが、網羅的であることも、開示されるまさにそのものに本発明を限定することも意図しない。上記の教示と一貫性がある修正および変形は可能であり、または本発明の実施により獲得され得る。したがって、本発明の範囲が、特許請求の範囲およびそれらの等価物によって定義されることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】PA DUKX細胞におけるBMP6の過剰発現がERストレスを引き起こすことを実証する図である。
【図2】ストレス無負荷条件またはストレス負荷条件下での、安定にトランスフェクトされた細胞株における外来性XBP1の発現を示す図である。
【図3】親細胞CHO DUKXよりもいくつかのXBP1細胞株においてBMP6分泌が増加していることを示す図である。
【図4】親細胞CHO DUKXよりもいくつかのXBP1細胞株においてIL11RFc分泌が増加していることを例示する図である。
【図5】GFPのトランスフェクション効率が、選択されたXBP1細胞株およびCHO DUKX親細胞株において同様であることを実証する図である。
【図6】GFPの転写効率および翻訳効率が、選択されたXBP1細胞株およびCHO CUKX親細胞株において同様であることを示す図である。
【図7】COS−1細胞における誘導性ATF6蛋白の成功裡な発現を例示する図である。
【図8】標的蛋白の作製に対する、異なる比率のXBP1またはATF6と標的蛋白cDNAとの効果を表す図である。
【図9】異なる標的蛋白の発現に対するXBP1またはATF6の効果を実証する図である。
【技術分野】
【0001】
本願は、2004年9月2日に出願された米国特許仮出願第60/606,439号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、目的とする蛋白を作製するための発現系およびこれを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
分泌蛋白および膜蛋白は、小胞体(ER)−ゴルジ系においてフォールディングおよび他の翻訳後修飾を受ける。この系の恒常性が混乱すると、アポトーシスを招き得る細胞ストレスが引き起こされる。ER恒常性は、ER管腔中のCa2+濃度もしくは酸化還元状態の変化、グリコシル化の変更、またはアンフォールドもしくはミスフォールドされた蛋白の蓄積によって変更され得る。ストレスに打ち勝つために、分泌系は、小胞体ストレス応答(unfolded protein response)(UPR)として公知の適応的ストレス応答機序を発達させた。哺乳動物のUPRを活性化すると、少なくとも3種の応答をもたらす:(1)翻訳の減少によって、ER管腔に輸送される新しい蛋白の量が減少する;(2)ER管腔中に蓄積された蛋白がサイトゾルに逆輸送され、かつ分解される;および(3)ER−ゴルジ分泌系が改造されて、その結果、系における蛋白のフォールディングおよびプロセッシング能力が増強される。
【0004】
ストレスに応答したER−ゴルジ系の能力増強は、フォールディング酵素およびプロセッシング酵素の上方調節を伴う。これらの酵素としては、ERシャペロン、グリコシル化およびジスルフィド結合形成に関与している酵素、ならびに小胞輸送に関与している酵素が挙げられる。哺乳動物細胞において、IRE1蛋白およびATF6蛋白は、UPR経路のこの分岐経路(branch)の主要トランスデューサーである。IRE1蛋白は、C末端の細胞質ゾルドメインにおいてキナーゼ活性およびエンドヌクレアーゼ活性を有するER膜貫通型糖蛋白である。少なくとも2種のIRE1遺伝子、すなわちIRE1αおよびIRE1βがマウスにおいて同定されている。IRE1αは、生存能力のために不可欠であり、かつ広く発現されている。IRE1βは、胃腸管粘膜中でのみ検出されている。ERストレスは、IRE1蛋白のオリゴマー化およびそれらの細胞質ゾルドメインのトランス自己リン酸化を招く。IRE1のリン酸化により、転写因子Xボックス結合蛋白1(XBP1)のmRNAからイントロンを切除するエンドヌクレアーゼ活性が活性化される。このスプライシング事象により、転写不活性なXBP1アイソフォーム(すなわちXBP1u)が転写活性なXBP1アイソフォーム(すなわちXBP1sまたはXBP1p)に変換される。次いで、XBP1pが核中に移動し、そこで、ERストレス応答エレメント(ERSE)およびUPRエレメント(UPRE)を含む、ER−ゴルジシャペロン/酵素遺伝子の調節領域中の標的配列に結合して、それらの転写を誘導する。多くのUPR標的遺伝子は、プロモーター領域中にERSEまたはUPRE配列の1つまたは複数のコピーを有する。
【0005】
ATF6(転写活性化因子6)は、別のER膜貫通型蛋白である。ERストレスは、ATF6蛋白のゴルジ区画への移行をもたらし、そこでATF6蛋白の細胞質ゾルドメインは、サイト1プロテアーゼおよびサイト2プロテアーゼによって切断される。切断された細胞質ゾルドメインは、核に移動し、かつERSE配列に結合することによって転写因子として作用し、その結果として、分泌経路中の様々なシャペロンおよびプロセッシング酵素を上方調節する。
【0006】
哺乳動物細胞におけるUPR経路の活性化はまた、PERKシグナル伝達経路を介して蛋白翻訳の一過性阻害をもたらす。PERKは、ERストレスに応答して真核生物の翻訳開始因子eIF2αをリン酸化することができるER膜貫通型キナーゼである。eIF2αのリン酸化は、43Sリボソームの開始前複合体の集合を妨げ、したがって翻訳の低減をもたらす。逆説的に、eIF2αリン酸化はまた、転写因子ATF4の急速な合成をもたらし、その結果として、アポトーシス誘導性転写因子CHOPの発現を増大させる。CHOPは、ERストレスの有害な作用にもはや打ち勝つことができない場合に細胞死を助長する。
【0007】
哺乳動物細胞における組換え分泌蛋白の過剰発現は、低い産生収量をしばしば招く。蛋白産生を改善するために通常使用される方法は、より強力なプロモーターを使用することまたは遺伝子コピー数を増加させることなど、転写速度を上昇させることである。しかし、転写速度の上昇はERストレスを悪化させることがあり、したがって、収量を有意に改善することにしばしば失敗する。いくつかの場合では、産生収量をさらに減少させることさえある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、分泌蛋白または膜蛋白の産生収量が改善された発現系を提供する。これらの系は、修飾された、かつ多くの場合には増強された蛋白フォールディングまたはプロセッシング能力を有する、遺伝子改変された動物細胞または植物細胞を使用する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様では、本発明は、(1)目的とする蛋白、および(2)UPR経路の成分または調節物質をコードする1つまたは複数の組換え発現カセットを含む、遺伝子改変された動物細胞または植物細胞を特徴とする。適切なUPR成分または調節物質としては、それだけには限らないが、UPR経路において機能的であるIRE1以外の分子が挙げられる。これらは、宿主細胞の内在性UPR成分、またはそれらの変異体もしくは機能的等価物であり得る。これらは、内在性UPR成分の活性または発現を直接的にまたは間接的に調節する、天然または非天然の分子でもよい。多くの場合において、UPR成分/調節物質は、それらの発現または活性化により宿主細胞の蛋白フォールディングまたはプロセッシング能力が増大するように選択される。
【0010】
例示的なUPR成分/調節物質としては、それだけには限らないが、XBP1やATF6などの転写因子、またはそれらの生物活性を有する断片もしくは変異体が挙げられる。XBP1またはATF6の媒介によるUPR経路中の他の成分もまた、使用することができる。さらに、ERに内在するシャペロンまたはプロセッシング酵素も使用することができる。
【0011】
本発明に従って作製され得る蛋白としては、それだけには限らないが、エリスロポイエチン、成長ホルモン、インスリン、インターフェロン、増殖因子、膜蛋白、または他の治療用、予防用、もしくは診断用の蛋白が挙げられる。多くの実施形態において、目的とする蛋白は、分泌蛋白または膜蛋白として宿主細胞によって発現される。
【0012】
本発明の遺伝子改変された細胞は、細胞株、初代培養物、または他の単離細胞もしくは培養細胞に由来し得る。遺伝子改変された細胞はまた、ハイブリッド細胞でもよい。多くの場合において、ハイブリッド細胞は、動物細胞および(骨髄腫細胞のような)癌細胞を融合することによって作製される。目的とする蛋白またはUPR成分/調節物質をコードしている組換え発現カセットは、融合事象の前または後にハイブリッド細胞中に組み入れまたは導入することができる。さらに、本発明の遺伝子改変された細胞は、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物の細胞でもよい。一実施形態では、遺伝子改変された細胞は、哺乳動物細胞である。
【0013】
組換え発現カセットは、様々な手段によって宿主細胞中に組み入れることができる。例えば、発現カセットは、宿主細胞の染色体またはゲノム中に安定に組み込むことができる。組込みは、ランダムまたは(例えばバクテリオファージP1のCre−lox組換え系を用いることによる)標的化のいずれかでよい。発現カセットはまた、非組込み型発現ベクターを介して宿主細胞中に導入することもできる。
【0014】
組換え発現カセットは、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターによって制御することができる。また、組織特異的プロモーターまたは発生的に調節されているプロモーターによっても制御することができる。他のタイプのプロモーターも、本発明のために使用され得る。
【0015】
別の態様では、本発明は、(1)目的とする蛋白、および(2)宿主細胞のUPREまたはERSEに結合することができるポリペプチドをコードする1つまたは複数の組換え発現カセットを含む、遺伝的に修飾された動物細胞または植物細胞を特徴とする。一実施形態では、UPRE結合ポリペプチドまたはERSE結合ポリペプチドは、XBP1やATF6などの転写因子である。別の実施形態では、UPRE結合ポリペプチドまたはERSE結合ポリペプチドは、UPR遺伝子のプロモーター領域に別の蛋白を動員することができ、かつ後者の蛋白は、UPR遺伝子の転写を活性化することができるトランス活性化ドメインを含む(例えば、XBP1またはATF6の転写活性化ドメイン)。
【0016】
本発明の遺伝子改変された細胞は、同じまたは異なる組換え発現カセットから目的とする蛋白およびUPR成分/調節物質を発現することができる。目的とする蛋白およびUPR成分/調節物質は、同じまたは異なるプロモーターによって制御され得る。
【0017】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変された細胞は、(1)目的とする蛋白をコードしている第1の組換え発現カセット、および(2)UPR成分もしくは調節物質またはUPREもしくはERSE結合蛋白(例えばXBP1もしくはATF6)をコードしている第2の組換え発現カセットを含む。細胞中の第2の組換え発現カセットの総数に対する第1の組換え発現カセットの総数の比率は、それだけには限らないが、0.1:1以下から少なくとも10:1までの範囲であり得る。多くの場合において、第1の組換えカセットによって使用されるプロモーターは、第2の組換えカセットによって使用されるプロモーターと同じまたは同様の強度を有してよく、かつ第2の組換えカセットの総数に対する第1の組換えカセットの総数の比率は、0.5:1〜10:1(少なくとも1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、または9:1など)の範囲である。第1および第2の組換えカセット中のプロモーターは、異なる強度を有してもよい。例えば、第1の組換えカセット中のプロモーターは、例えば少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍以上、第2の組換えカセット中のプロモーターより強力でよい。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、本発明の遺伝子改変された細胞を含む動物または植物を特徴とする。遺伝的に修飾された細胞を動物または植物中に組み入れるための方法は、当技術分野において周知である。多くの実施形態において、これらの動物または植物は、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物である。
【0019】
さらに別の態様では、本発明は、(1)目的とする蛋白、および(2)UPR経路の成分またはIRE1以外の調節物質をコードしている1つまたは複数の発現ベクターでトランスフェクトまたはトランスダクションされている細胞培養物を特徴とする。多くの実施形態において、発現ベクターは、目的とする蛋白をコードしている第1の組換え発現カセットおよびUPR成分または調節物質(例えばXBP1もしくはATF6)をコードしている第2の組換え発現カセットを含む。第1および第2の発現カセットは、同じまたは異なる発現ベクターによって搭載され得る。細胞培養物中の第2の組換え発現カセットに対する第1の組換え発現カセットのモル比率は、例えば、少なくとも1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1以上など、0.1:1以下から少なくとも10:1の範囲でよい。細胞培養物は、哺乳動物細胞培養物、昆虫細胞培養物、植物細胞培養物、または目的とする蛋白の作製に適した別の培養物でよい。
【0020】
本発明はまた、目的とする蛋白の作製のために遺伝子改変された細胞、動物、植物、または細胞培養物を使用する方法も特徴とする。
【0021】
さらに、本発明は、(1)目的とする蛋白、および(2)UPR経路の成分またはIRE1以外の調節物質をコードする発現ベクターも特徴とする。
【0022】
本発明の他の特徴、機能、目的、および利点は、以下の詳細な説明において明らかである。しかし、この詳細な説明は、本発明の好ましい実施形態を示すが、単なる例証に過ぎず、これらに限定されないことが理解されるべきである。本発明の範囲内の様々な変化および修正は、詳細な説明から当業者に明らかになると考えられる。
【0023】
(図面の簡単な記載)
これらの図面は、例証のために提供され、これらに制約されるものではない。
【0024】
図1は、PA DUKX細胞におけるBMP6の過剰発現がERストレスを引き起こすことを実証する。
【0025】
図2は、ストレス無負荷条件またはストレス負荷条件下での、安定にトランスフェクトされた細胞株における外来性XBP1の発現を示す。
【0026】
図3は、親細胞CHO DUKXよりもいくつかのXBP1細胞株においてBMP6分泌が増加していることを示す。
【0027】
図4は、親細胞CHO DUKXよりもいくつかのXBP1細胞株においてIL11RFc分泌が増加していることを例示する。
【0028】
図5は、GFPのトランスフェクション効率が、選択されたXBP1細胞株およびCHO DUKX親細胞株において同様であることを実証する。
【0029】
図6は、GFPの転写効率および翻訳効率が、選択されたXBP1細胞株およびCHO CUKX親細胞株において同様であることを示す。
【0030】
図7は、COS−1細胞における誘導性ATF6蛋白の成功裡な発現を例示する。
【0031】
図8は、標的蛋白の作製に対する、異なる比率のXBP1またはATF6と標的蛋白cDNAとの効果を表す。
【0032】
図9は、異なる標的蛋白の発現に対するXBP1またはATF6の効果を実証する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明は、目的とする蛋白を作製するための系および方法を提供する。本発明の発現系は、修飾された、または改善された蛋白フォールディングまたはプロセッシング能力を有する遺伝子改変された動物細胞または植物細胞を使用する。多くの実施形態において、本発明の遺伝子改変された細胞は、目的とする蛋白およびUPR経路の成分または調節物質をコードする、1つまたは複数の組換え発現カセットを含む。UPR成分/調節物質の共発現により、目的とする蛋白の収量は有意に増加する。本発明に適したUPR成分/調節物質としては、それだけには限らないが、XBP1やATF6などの転写因子、またはそれらの生物活性を有する断片もしくは変異体が挙げられる。ERに関連したシャペロンまた酵素も使用され得る。
【0034】
本発明の様々な態様を以下の小節においてさらに詳細に説明する。小節の使用は、本発明を限定することを意図していない。各小節は、本発明の任意の態様に適用され得る。本明細書において使用される場合、「または」という用語は、別段の記載がない限り、「および/または」を意味する。
【0035】
A.目的とする蛋白
本発明に従って作製され得る蛋白としては、それだけには限らないが、エリスロポイエチン、成長ホルモン、インスリン、インターロイキン、増殖因子、インターフェロン、コロニー刺激因子、血液因子、ワクチン、コラーゲン、フィブリノーゲン、ヒト血清アルブミン、組織プラスミノーゲンアクチベータ、グルコシダーゼ、アルグルセラーゼ、ミエリン塩基性蛋白、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、ドーパデカルボキシラーゼ、または抗体などの治療用、予防用、または診断用の蛋白が挙げられる。本発明に適する例示的な抗体としては、それだけには限らないが、モノクローナル抗体、単一特異性抗体、多特異性抗体、非特異的抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、人工抗体、組換え抗体、ハイブリッド抗体、Fab、F(ab’)2、Fv、scFv、Fd、dAb、またはそれらの機能的断片が挙げられる。in vitroの提示技術または進化戦略を用いて選択される高親和性結合物も、本発明に従って作製することができる。これらの高親和性結合物としては、それだけには限らないが、ペプチド、抗体、および抗体模倣物が挙げられる。例えば、Binzら、NAT BIOTECHNOL.、22:575〜582頁(2004年);ならびにLipovsekおよびPluckthun、J IMMUNOL METHODS、290:51〜67頁(2004年)を参照されたい。キナーゼ、ホスファターゼ、G蛋白共役型受容体、増殖因子受容体、サイトカイン受容体、ケモカイン受容体、細胞表面抗体(膜結合型免疫グロブリン)、BMP/GDF受容体、ニューロン受容体、イオンチャネル、プロテアーゼ、転写因子、またはポリメラーゼなど他の目的とする蛋白もまた、本発明によって作製することができる。
【0036】
多くの実施形態において、本発明によって作製される蛋白は、組換え蛋白である。本明細書において使用される場合、組換え蛋白とは、組換えDNA技術を用いて構築または作製される蛋白を意味する。組換え蛋白は、天然に存在する配列または遺伝子改変された配列を有し得る。これは、例えば、組換えベクターから、または宿主細胞に内在するが、遺伝子改変された調節配列を有する遺伝子から発現され得る。例えば、組換え蛋白は、内在性であるが、遺伝子改変されたウイルスプロモーターを有する遺伝子から作製することができる。
【0037】
多くの場合において、組換え蛋白は、発現産物の単離、精製、検出、固定化、安定化、フォールディング、またはターゲティングを容易にするためのポリペプチドタグを含む融合蛋白である。
【0038】
他の多くの場合において、組換え蛋白は、シグナルペプチドを含む。シグナルペプチドは、作製される蛋白に対して内在性でも異種性でもよい。シグナルペプチドは、蛋白が粗面ER上で形成されるか遊離のリボソーム上で形成されるかをしばしば決定する。シグナルペプチドは、シグナル認識粒子と相互に作用し、かつ共翻訳的挿入が起こるERにリボソームを誘導することができる。多くのシグナルペプチドは、疎水性が極めて高く、正に帯電した残基を有する。シグナルペプチドは、シグナルペプチダーゼ、すなわちERの腔面上に位置している特殊なプロテアーゼによって伸長中のペプチド鎖から除去され得る。
【0039】
シグナル配列によってERに標的化された蛋白は、分泌蛋白として細胞外空間中に放出され得る。例えば、分泌蛋白を含む小胞は、細胞膜と融合し、次いでその内容物を細胞外空間中に放出することができる−エキソサイトーシスと呼ばれているプロセスである。エキソサイトーシスは、構成的に、または始動シグナルの受信後に生じ得る。後者の場合、これらの蛋白は、エキソサイトーシスが引き起こされるまで、分泌小胞(または分泌顆粒)中に貯蔵される 同様に、細胞膜上に存在する蛋白は、蛋白を膜に縛り付ける「リンカー」の蛋白分解切断によって細胞外空間中に分泌され得る。
【0040】
目的とする蛋白は、様々な手段によって発現系から単離され得る。蛋白単離のための最初の材料の例としては、それだけには限らないが、培養培地または細胞溶解物が挙げられる。適切な単離方法としては、それだけには限らないが、アフィニティークロマトグラフィー、(イムノアフィニティークロマトグラフィーを含む)、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、HPLC、蛋白沈降法(免疫沈降法を含む)、示差的可溶化、電気泳動、遠心分離、結晶化、またはそれらの組合せが挙げられる。ストレプトアビジンタグ、FLAGタグ、ポリヒスチジンタグ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、またはFc断片などのポリペプチドタグを目的とする蛋白に融合して、単離または精製を容易にすることができる。一実施例では、ポリペプチドタグは、プロテアーゼによって目的とする蛋白から切断可能である。
【0041】
多くの実施形態において、本発明に従って単離される目的とする蛋白は、他の蛋白または混入物を実質的に含まない。例えば、単離された蛋白は、他の蛋白から少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%純粋であり得る。一実施例では、単離された蛋白は、意図した用途を妨害すると思われるわずかな量以下の混入物しか含まない。
【0042】
本発明に従って単離される目的とする蛋白は、SDS−PAGEやイムノアッセイなど標準的技術を用いて確認することができる。SDS−PAGEは、クーマシーブルー、銀、または単離された蛋白を可視化するのに適する他の薬剤で染色することができる。適切なイムノアッセイとしては、それだけには限らないが、ウェスタンブロット、ELISA、RIA、サンドイッチもしくは免疫測定アッセイ、ラテックスもしくは他の粒子の凝集、またはプロテオミクスチップが挙げられる。蛋白配列決定および質量分析法もまた、単離された蛋白を確認または解析するのに使用することができる。
【0043】
B.UPR成分/調節物質
本発明に適するUPR成分/調節物質には、UPR経路において機能的である分子が含まれる。これらは、天然でも非天然でもよい。これらは、遺伝子改変されるか、化学的に合成されるか、または生物学的に単離され得る。UPR成分/調節物質は、宿主細胞と同じまたは異なる種に由来し得る。UPR成分/調節物質が発現されると、宿主細胞の分泌能力またはERプロセッシング能力が改善する。多くの場合において、宿主細胞において目的とする蛋白とUPR成分/調節物質が共発現されると、目的とする蛋白の収量が少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、または10倍以上、改善する。
【0044】
本発明に適しているUPR成分/調節物質の例としては、それだけには限らないが、XBP1やATF6などの転写因子が挙げられる。XBP1またはATF6の断片のような、これらの転写因子の機能的等価物もまた、使用され得る。これらの断片は、転写的に活性化されたXBP1蛋白またはATF6蛋白の転写活性の実質的な部分を少なくとも保持している。ERシャペロンや蛋白グリコシル化もしくは小胞トランスロケーションに関与している酵素など、XBP1またはATF6の下流のエフェクターもまた、使用され得る。
【0045】
さらに、XBP1またはATF6の媒介によるUPR経路の成分の発現または生物学的機能を活性化できるIRE1以外の調節物質も、使用され得る。このような調節物質は、自己過剰発現以外の機序によって、UPR経路を調節することができる。例えば、このような調節物質は、成分に直接結合することによってUPR成分の機能を活性化することができ、または成分をコードする遺伝子中の調節配列に結合することによって成分の発現を調節することができる。
【0046】
さらに、PERKシグナル伝達経路の成分の発現または生物学的機能を阻害し得る調節物質も使用され得る。これらの調節物質としては、それだけには限らないが、抗体、アンチセンスRNA、またはRNAi配列が挙げられる。さらに、PERK経路成分の優性ネガティブな変異体も使用され得る。このような優性ネガティブな変異体の例は、51位(マウスの配列)のセリンがアラニンに置換されたeIF2a S51A変異体である。この置換により、蛋白がリン酸化される能力が消失し、したがって、ERストレスの間の蛋白翻訳速度に対する阻害効果が消滅する。同様に、PERKのキナーゼドメイン中に変異を導入して、eIF2aをリン酸化するキナーゼ活性を消失または低下させ、それによってERストレスの間の翻訳の低減またはアポトーシスの誘導を防止することもできる。
【0047】
一実施形態では、XBP1蛋白または生物活性を有するその断片が、宿主細胞における目的とする蛋白の収量を増加させるために使用される。XBP1蛋白は、DNA結合能力および2量体化能力を与える、転写因子中に一般に存在する2つのドメインを含む。XBP1は、Xボックスと呼ばれるプロモーターエレメントに結合することによってMHCクラスII遺伝子を調節する転写因子として公知である。XBP1は、T細胞白血病ウイルス1型のプロモーター中のエンハンサーにも結合する。
【0048】
UPR経路の活性化は、シノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)モデル系および哺乳動物モデル系の双方において、XBP1 mRNAからの小さなイントロンのIRE1依存性のスプライシングをもたらす。結果として生じるエキソンは、tRNAリガーゼによって結合される。このスプライシング事象は、XBP1 mRNA中のフレームシフトをもたらし、それにより、元のN末端DNA結合ドメインを有するが、C末端の新しいトランス活性化ドメインを有する蛋白が生じる。マウス細胞では、スプライシング事象により、267アミノ酸のXBP1アイソフォームが371アミノ酸のXBP1アイソフォーム(XBP1sまたはXBP1p)に変換される。Calfonら、NATURE、415:92〜96頁(2002年)を参照されたい。
【0049】
XBP1p蛋白は、多くのERシャペロンまたはUPR遺伝子のプロモーター領域中のERSE配列またはUPRE配列に結合して、これらの遺伝子の転写を活性化する。哺乳動物では、少なくとも2種のERSE配列、すなわちERSE−IおよびERSE−IIが同定されている。ERSE−Iは、配列番号1(CCAATNNNNNNNNNCCACG)において示される保存配列を有する。ERSE−IIは、配列番号2(ATTGGNCCACG)において表される保存配列を有する。さらに、少なくとも2種の哺乳動物のUPRE配列が同定されており、一方は配列番号3(TGACGTGG)において表される保存配列を有し、もう一方は、配列番号4(TGACGTGA)において例示される保存配列を有する。
【0050】
XBP1蛋白のコード配列は、様々な情報源から得ることができる。例えば、ヒト、マウス、ラット、ニワトリ、ショウジョウバエ、およびゼブラフィッシュのXBP1蛋白のコード配列は、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)(ベセスダ、メリーランド州)のEntrezヌクレオチドデータベースから得ることができる。これらの配列のEntrezアクセッション番号は、それぞれ、NM_005080、NM_013842、NM_001004210、NM_001006192、NM_079983、またはNM_131874である。
【0051】
XBP1蛋白の生物活性を有する断片は、XBP1p蛋白の転写活性化活性の実質的な部分を少なくとも保持している。例えば、本発明において使用するXBP1断片は、XBP1pの転写活性化活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%以上を保持し得る。転写的に活性なXBP1断片は、多数の手段によって選択することができる。一実施例では、転写的に活性なXBP1断片は、ERSE配列またはUPRE配列から下流の遺伝子の転写を活性化する能力に基づいて選択される。
【0052】
別の実施形態では、ATF6蛋白または生物活性を有するその断片が、宿主細胞における目的とする蛋白の収量を改善するために使用される。ATF6は、ER管腔中に位置する「感知」ドメインおよび細胞質ゾルの転写トランス活性化ドメインを含む膜貫通型蛋白である。ERストレスが起こると、ATF6の細胞質ゾルドメインは切り離され、かつ核へと輸送され、そこでERSE配列に結合し、それによって下流のUPR遺伝子を活性化する。少なくとも2種のATF6蛋白、すなわち、ATF6αおよびATF6βが同定されている。ATF6αおよびATF6βは、構造的に関連しており、かつb−zipドメインに顕著な類似性を共有している。ヒトマウス、ヒツジ、およびニワトリのATF6蛋白の例示的なコード配列のEntrezアクセッション番号は、それぞれ、NM_007348、XM_129579、AY942654、およびXM_422208である。
【0053】
本発明で使用されるXBP1断片と同様に、ATF6蛋白の生物活性を有する断片は、活性化されたATF6蛋白またはその細胞質ゾルドメインの転写活性化活性の実質的な部分を少なくとも保持している。生物活性を有するATF6断片は、ERSE配列へのその結合、およびその断片がERSE配列の下流の遺伝子の転写を活性化する能力をモニターすることによって選択することができる。
【0054】
さらに別の実施形態では、ERに内在するプロセッシング酵素またはシャペロンが、宿主細胞における目的とする蛋白の収量を増加させるために使用される。ERに配置されている適切な酵素/シャペロンの例としては、それだけには限らないが、GRP78、GRP94、GRP58、蛋白ジスルフィドイソメラーゼ、カルネキシン、およびカルレチキュリン(calrecticulin)が挙げられる。一実施例では、本発明において使用されるER酵素(またはシャペロン)の内在性の対応物は、1つまたは複数のERSE−I配列またはERSE−II配列を含むプロモーター領域を有する。別の実施例では、本発明において使用されるER酵素(またはシャペロン)の内在性の対応物は、1つまたは複数のUPRE配列を含むプロモーター領域を有する。
【0055】
本発明はまた、内在性蛋白の変異体であるUPR成分の使用も特徴とする。内在性UPR成分の変異体は、対立遺伝子の変異や多形性によるものなど天然に存在するものでよく、または故意に設計されてもよい。変異体のUPR活性は、元の蛋白(例えば、XBP1p、転写的に活性化されたATF6蛋白、または生物活性を有するその断片)と比べて実質的に低下しない。多くの実施形態において、本発明において使用される変異体は、対応する元の蛋白のUPR活性の少なくとも50%を保持している。例えば、変異体は、元の蛋白のUPR活性の少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、99%、または100%を保持し得る。一実施形態では、本発明において使用される変異体は、元の蛋白と比べて増大したUPR活性を示す。UPR成分の望ましい変異体は、変異体の発現または活性化により、宿主細胞におけるコトランスフェクトされた蛋白の分泌が促進されるように選択され得る。
【0056】
変異体のアミノ酸配列は、元の蛋白のものと実質的に同一である。多くの場合において、変異体のアミノ酸配列は、元の蛋白に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、または99%の全体的配列の同一性または類似性を有する。配列の同一性または類似性は、様々な方法によって決定することができる。一実施形態では、配列の同一性または類似性は、配列アラインメントアルゴリズムを用いることによって決定される。この目的に適したアルゴリズムとしては、それだけには限らないが、Altschulら、J.MOL.BIOL.、215:403〜410頁(1990年)において記載されているBasic Local Alignment Tool(BLAST)、Needlemanら、J.MOL.BIOL.、48:444〜453頁(1970年)のアルゴリズム、MyersおよびMiller、COMPUTE.APPLE.BIOSCI.、4:11〜17頁(1988年)のアルゴリズム、ならびにドットマトリックス解析が挙げられる。この目的に適したコンピュータプログラムとしては、それだけには限らないが、NCBIによって提供されるBLASTプログラム、DNASTAR(マディソン、ウィスコンシン州)によって提供されるMegAlign、およびGenetics Computer Group(GCG)GAPプログラム(ニードルマン−ウェンチ(Needleman−Wench)アルゴリズム)が挙げられる。GAPプログラムの場合、デフォルト値を使用してよい(例えば、配列のうちの1つにおいてギャップを開始するためのペナルティは11であり、かつギャップを伸長するためのペナルティは8である)。類似アミノ酸は、BLOSSOM置換行列によって定義することができる。
【0057】
UPR成分の望ましい変異体を調製するために多数の方法が利用可能である。例えば、変異体は、少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、10個、または20個以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または他の修飾によって、元の蛋白から誘導することができる。置換は、保存的でも非保存的でもよい。多くの場合において、保存的アミノ酸置換は、蛋白の構造も生物活性も有意に変更せずに、蛋白配列中に導入することができる。保存的アミノ酸置換は、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、または両親媒性の性質の類似性に基づいて実施することができる。例えば、保存的アミノ酸置換は、リシン(LysもしくはK)、アルギニン(ArgもしくはR)、およびヒスチジン(HisもしくはH)など塩基性側鎖を有するアミノ酸;アスパラギン酸(AspもしくはD)およびグルタミン酸(GluもしくはE)など酸性側鎖を有するアミノ酸;アスパラギン(AsnもしくはN)、グルタミン(GlnもしくはQ)、セリン(SerもしくはS)、トレオニン(ThrもしくはT)、およびチロシン(TyrもしくはY)など非荷電極性側鎖を有するアミノ酸;あるいはアラニン(AlaもしくはA)、グリシン(GlyもしくはG)、バリン(ValもしくはV)、ロイシン(LeuもしくはL)、イソロイシン(IleもしくはI)、プロリン(ProもしくはP)、フェニルアラニン(PheもしくはF)、メチオニン(MetもしくはM)、トリプトファン(TrpもしくはW)、またはシステイン(CysもしくはC)など非極性側鎖を有するアミノ酸の間で実施することができる。通常使用されるアミノ酸置換の例を表1に例示する。
【表1】
【0058】
他の望ましいアミノ酸置換も、UPR成分中に導入することができる。例えば、アミノ酸置換をUPR成分中に導入して、その安定性を高めることができる。別の例では、アミノ酸置換を導入して、UPR成分のUPR活性を増大または低下させることができる。
【0059】
さらに、本発明は、宿主細胞のUPRE配列またはERSE配列に結合することができるポリペプチドの使用も特徴とする。これらのポリペプチドは、単独でまたは他の蛋白との組合せで、UPREまたはERSEのプロモーター領域を有する遺伝子の転写を活性化するための転写因子として機能することができる。
【0060】
C.組換え発現カセットおよび宿主細胞
本発明において使用される典型的な組換え発現カセットは、5’側の非翻訳調節領域および3’側の非翻訳調節領域に作動的に連結されている蛋白コード配列を含む。この蛋白コード配列は、ゲノム配列、cDNA配列、それらの混合物、または他の発現可能な配列でよい。
【0061】
一実施形態では、組換え発現カセットは、コードされている蛋白の発現を指示するのに必要な調節エレメントのすべてを含む。適切な5’側の非翻訳調節エレメントの例としては、プロモーター、エンハンサー、またはコザック配列が挙げられる。適切な3’側の非翻訳調節エレメントの例としては、ポリアデニル化配列または他の転写/翻訳終結配列が挙げられる。発現カセットのための適切なプロモーター、エンハンサー、または他の調節エレメントの選択は、当業者のレベルの範囲のごく普通の設計の事項である。多くのこのようなエレメントは文献に記載されており、かつ商業的な供給業者を通じて入手可能である。
【0062】
本発明に適したプロモーターとしては、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターが挙げられる。これらのプロモーターは、宿主細胞に対して内在性でも異種性でもよい。一実施形態では、組織特異的プロモーターが使用される。適切な組織特異的プロモーターとしては、それだけには限らないが、肝臓に特異的なプロモーター、リンパ系に特異的なプロモーター、T細胞に特異的なプロモーター、神経単位に特異的なプロモーター、膵臓に特異的なプロモーター、または乳腺に特異的なプロモーターが挙げられる。発生的に調節されているプロモーターも、使用することができる。組織特異的プロモーターまたは発生的に調節されたプロモーターを有する組換え発現カセットを使用して、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物を作製することができる。このような組換え発現カセットにコードされている蛋白は、特定の組織において、またはトランスジェニック動物もしくはトランスジェニック植物の特定の発生段階に産生され得る。
【0063】
別の実施形態では、誘導発現系を使用して、目的とする蛋白またはUPR成分/調節物質を作製する。この目的に適する系としては、それだけには限らないが、Tet−on/off系、エクジソン系、およびラパマイシン系が挙げられる。Tet−on/off系は、イー・コリ(E.coli)Tn10トランスポゾンのテトラサイクリン耐性オペロンに由来する2種の調節エレメントに基づいている。この系は、2種の構成要素、すなわち調節カセットおよびレポーターカセットを含む。Tet−off系の1つの形態では、調節カセットは、単純ヘルペスウイルス(HSV)のVP16活性化ドメインに融合されたTetリプレッサー(tetR)を含むハイブリッド蛋白をコードする。レポーターカセットは、レポート遺伝子に作動的に連結されているtet−応答エレメント(TRE)を含む。レポーター遺伝子は、例えば、目的とする蛋白またはUPR成分/調節物質をコードし得る。誘導物質(例えばテトラサイクリンまたはドキシサイクリン)がない場合、tetR−VP16融合蛋白はTREに結合し、それによってレポーター遺伝子の転写を活性化する。Tet−on系の1つの形態では、調節カセットは、HSVのVP16活性化ドメインに融合された、変異Tetリプレッサー(rtetR)を含むハイブリッド蛋白をコードする。rtetRは、誘導物質(例えばテトラサイクリンまたはドキシサイクリン)の存在下でTREに結合し、かつ活性化する、逆のTetリプレッサーである。
【0064】
エクジソン系は、ショウジョウバエにおける脱皮誘導系に基づいている。1つの形態では、この系は、機能性のエクジソン受容体をコードする調節カセット、およびレポーター遺伝子に作動的に連結されているエクジソン応答性プロモーターを含むレポーターカセットを含む。誘導物質(ポナステロンAまたはムリステロンAなど)の存在下で、エクジソン受容体はエクジソン応答性プロモーターに結合して、レポーター遺伝子の転写を活性化する。
【0065】
CID系(2量体化の化学誘導物質)としても公知のラパマイシン系は、2種のキメラ蛋白を使用する。第1のキメラ蛋白には、DNA応答エレメントに結合するDNA結合ドメインに融合されたFKBP12が含まれる。第2のキメラ蛋白には、転写活性化ドメインに融合されたFRAPが含まれる。ラパマイシンの添加は、2種のキメラ蛋白の2量体化を引き起こし、それによって、DNA応答エレメントに制御されている遺伝子の発現を活性化する。
【0066】
一実施例では、本発明において使用される組換え発現カセットは、配列番号5を含む。配列番号5の転写により、スプライシングされていないヒトXBP1 mRNAが生成する。ERストレスによりIRE1が活性化され、これが、スプライシングされていないmRNAからイントロンを切断する。スプライシングされたmRNAの翻訳により、成熟した、かつ機能性のXBP1蛋白が生成する。このアミノ酸配列を配列番号6において示す。
【0067】
別の実施例では、本発明において使用される組換え発現カセットは、配列番号7を含む。配列番号7は、切断可能なイントロン配列を全く含まない。配列番号7の発現により、成熟した、かつ機能性のヒトXBP1蛋白(配列番号6)が生成する。配列番号6またはその機能的等価物をコードする他の核酸配列もまた、本発明の組換え発現カセットを調製するのに使用され得る。これらの核酸配列は、イントロンまたは他の除去可能な配列を含んでも含まなくてもよい。
【0068】
さらに別の実施例では、本発明において使用される組換え発現カセットは、配列番号8を含む。配列番号8の転写および翻訳により、ヒトATF6蛋白が生成する。このアミノ酸配列を配列番号9において示す。
【0069】
別の実施例において、本発明において使用される組換え発現カセットは、配列番号9のアミノ酸残基1〜366をコードする核酸配列を含む。このような核酸配列の例は、配列番号8のヌクレオチド1〜1098である。配列番号9のアミノ酸残基1〜366は、ヒトATF6蛋白のロイシンジッパー領域の塩基性領域全体および大部分を含む。このATF6断片は、内在性GRP78遺伝子を活性化できることが示された。Hazeら、MOL.BIOL.CELL、10:3787〜3799頁(1999年)を参照されたい。
【0070】
非ヒト種に由来するXBP1蛋白またはATF6蛋白をコードしている組換えカセットもまた、本発明において使用され得る。例えば、げっ歯動物または他の動物種のXBP1蛋白またはATF6蛋白が使用され得る。これらのXBP1蛋白またはATF6蛋白は、これらの蛋白と目的とする蛋白の共発現により、宿主細胞における後者の蛋白の収量が改善するように、選択することができる。
【0071】
組換え発現カセットは、様々な手段によって宿主細胞中に組み入れることができる。一実施形態では、組換え発現カセットは、トランスフェクションベクターまたはトランスダクションベクターを用いることによって、宿主真核細胞中に導入される。この目的に適したベクターとしては、それだけには限らないが、昆虫細胞発現ベクター(例えばバキュロウイルス発現ベクター)または哺乳動物の発現ベクターが挙げられる。これらのベクターは、エピソーム、コスミド、ウイルス、またはそれらの組合せなど様々な供給源に由来してよい。多くの場合において、これらのベクターは、宿主細胞中への組入れを容易にするための選択マーカーを含む。
【0072】
別の実施形態では、本発明において使用される組換え発現カセットは、宿主細胞中の内在性遺伝子を修飾することによって構築される。この内在性遺伝子は、目的とする蛋白またはUPR成分/調節物質をコードし得る。所望の発現または調節効果を実現するために、内在性遺伝子中の多くの部分を修飾することができる。例えば、内在性遺伝子の元のプロモーターを、遺伝子の発現レベルを増大させるために、ウイルスプロモーターによって置き換えることができる。
【0073】
組換え発現カセットは、様々な形態で宿主細胞中に組み入れることができる。例えば、組換え発現カセットは、宿主細胞の染色体またはゲノム中に組み込まれ得る。組換え発現カセットはまた、宿主細胞において非組込み型発現ベクターに搭載されてもよい。発現ベクターまたはカセットを宿主細胞中に安定にまたは一過性に導入するための方法は、当技術分野において公知である。一実施例では、発現ベクターまたはカセットは、標的化された組込みによって宿主細胞の染色体中に組み入れられる。この目的に適した方法としては、それだけには限らないが、Cre−lox組換え系ならびに米国特許第6656727号、第6537542号、および第6541231号において記載されているものが挙げられる。
【0074】
多くの実施形態において、本発明の遺伝子改変された細胞は、(1)目的とする蛋白をコードしている第1の組換え発現カセット、および(2)UPR成分/調節物質(例えばXBP1またはATF6)をコードしている第2の組換え発現カセットを含む。細胞中の第2の組換え発現カセットの総数に対する第1の組換え発現カセットの総数の比率は、例えば、0.1:1以下から少なくとも10:1までの範囲であり得る。適切な比率の非限定的な例としては、0.2:1〜5:1、0.5:1〜5:1、1:1〜2:1、1:1〜3:1、1:1〜4:1、1:1〜5:1、2:1〜3:1、2:1〜4:1、および2:1〜5:1が挙げられる。第1および第2の組換え発現カセットは、同じまたは異なるベクターに搭載されてよく、かつ同じまたは異なる強度を有する同じまたは異なるプロモーターによって駆動されてよい。一実施例では、第1の組換え発現カセット中のプロモーターは、第2の組換え発現カセット中のものと同じまたは同様の強度を有し、かつ第2の組換えカセットの総数に対する第1の組換えカセットの総数の比率は、少なくとも、1:1、2:1、3:1、4:1、または5:1以上である。
【0075】
本発明に適した宿主細胞としては、動物細胞または植物細胞が挙げられる。宿主細胞は、細胞株や一次培養物などの培養細胞でよい。これらは、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物中の細胞でもよい。適切な宿主細胞の選択、ならびに培養、トランスフェクション/トランスダクション、増幅、スクリーニング、生成物の作製、および精製のための方法は、当技術分野において公知である。
【0076】
一実施形態では、本発明において使用される宿主細胞は、哺乳動物細胞である。適切な哺乳動物細胞の例としては、それだけには限らないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、COS細胞、293細胞、CV−1細胞、ならびにアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(マナッサス、バージニア州)によって収集されている他の哺乳動物細胞株が挙げられる。いくつかの場合では、発現された蛋白に対して所望の翻訳後修飾をしばしば提供する、治療的または予防的蛋白をヒト細胞において作製することが望ましい。
【0077】
本発明において使用される宿主細胞はまた、2種以上の細胞の融合によって作り出されるハイブリッド細胞でもよい。多くの場合において、本発明において使用されるハイブリッド細胞は、動物細胞(例えば哺乳動物細胞)および癌/不死細胞(例えば骨髄腫細胞または芽細胞腫細胞)を融合させることによって作製される。動物細胞および癌/不死細胞は、同じ種に由来してよい。これらは、異なる種に由来してもよい。ハイブリッド細胞を作製するために、当技術分野において公知の任意の方法を使用してよい。これらの方法としては、それだけには限らないが、電気融合または化学的融合(例えばポリエチレングリコール融合)が挙げられる。
【0078】
組換え発現カセットは、融合事象の前または後にハイブリッド細胞中に導入または組み入れることができる。例えば、目的とする蛋白をコードしている組換え発現カセットは、外来性のUPR成分または調節物質を発現している癌細胞と細胞が融合される前に、哺乳動物細胞中に組み入れることができる。別の場合では、目的とする蛋白およびUPR成分または調節物質をコードしている組換え発現ベクターで哺乳動物細胞を先にトランスフェクトまたはトランスダクションし、次いで癌細胞と融合させることができる。本発明のハイブリッド細胞を調製するために、他の手順も使用され得る。
【0079】
多くの実施形態において、ハイブリッド細胞を調製するために使用される癌/不死細胞は、1種または複数種の選択剤に感受性である。例えば、癌/不死細胞は、「HAT培地」として公知である、ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培養培地に対して感受性でよい。これらのHAT感受性細胞は、HAT培地に非感受性の細胞と融合される。このようにして作製されたハイブリッド細胞は、未融合細胞を死滅させるHATによって選択される。次いで、融合された細胞を、所望の特徴に関してスクリーニングする。
【0080】
本発明はまた、本発明の宿主真核細胞を含む動物または植物も特徴とする。組換え細胞を動物または植物中に組み入れるための方法は、当技術分野において周知である。多くの実施形態において、これらの動物または植物は、目的とする蛋白およびUPR成分/調節物質をコードしている1つまたは複数の導入遺伝子を含むトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物である。トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物は、標準的技術を用いることによって作製することができる。一実施形態では、トランスジェニック動物は、非ヒト動物である。
【0081】
本発明はさらに、(1)目的とする蛋白、および(2)UPR成分/調節物質をコードしている1つまたは複数の発現ベクターでトランスフェクトまたはトランスダクションされている、動物細胞培養物または植物細胞培養物も特徴とする。細胞培養物は、哺乳動物細胞培養物、昆虫細胞培養物、植物細胞培養物、または目的とする蛋白の作製に適した他の培養物でよい。発現ベクターは、一過性にまたは安定にトランスフェクトまたはトランスダクションされ得る。一実施形態では、使用される発現ベクターは、目的とする蛋白をコードしている第1の組換え発現カセットおよびUPR成分/調節物質(例えばXBP1またはATF6)をコードしている第2の組換え発現カセットを含む。第1および第2の発現カセットは、同じまたは異なる発現ベクターによって搭載され得る。これらは、同じまたは異なるプロモーターによって駆動され得る。第2の組換え発現カセットに対する第1の組換え発現カセットのモル比率は、例えば、0.1:1以下から少なくとも10:1の範囲であり得る。
【0082】
一実施例では、第1の組換えカセットによって使用されるプロモーターは、第2の組換えカセットによって使用されるプロモーターと同じまたは同様の強度を有し、かつ細胞培養物中の第2の組換えカセットに対する第1の組換えカセットのモル比率は、少なくとも1:1、2:1、3:1、4:1、または5:1以上など、0.5:1から10:1までの範囲である。
【0083】
D.医薬組成物
本発明によって作製される治療用または予防用蛋白を用いて、治療を必要とする患者または動物の治療用の医薬組成物を調製することができる。本発明の医薬組成物は、典型的には、有効量の治療用または予防用蛋白および製薬上許容される担体を含む。適切な製薬上許容される担体としては、薬学的適用に適合性のある、溶剤、可溶化剤、増量剤、安定化剤、結合剤、吸着剤、基剤、緩衝剤、滑沢剤、制御放出ビヒクル、希釈剤、乳化剤、湿潤剤、流動促進剤、分散媒、被覆剤、抗菌剤または抗真菌剤、等張化剤、および吸収遅延剤などが挙げられる。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および作用物質の使用は、当技術分野において周知である。補助的な作用物質も組成物中に組み入れてよい。
【0084】
本発明の医薬組成物は、所期の投与経路に適合するように調剤することができる。投与経路の例としては、非経口投与、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与、吸入投与、経皮投与、直腸投与、経粘膜投与、局所投与、および全身投与が挙げられる。一実施例では、投与は、埋め込み剤によって実施される。
【0085】
非経口、皮内、または皮下適用のために使用される液剤または懸濁剤は、以下の成分を含み得る:注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶剤などの無菌希釈剤;ベンジンアルコールやメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸や重硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;アセタート、シトラート、またはホスファートなどの緩衝剤;および塩化ナトリウムやデキストロースなど張性を調整するための作用物質。pHは、塩酸や水酸化ナトリウムなどの酸または塩基を用いて調整することができる。非経口調製物は、ガラス製またはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ、または複数回投与用バイアル中に入れることができる。
【0086】
本発明の医薬組成物は、所望の投薬量で患者または動物に投与することができる。適切な投薬量は、例えば5mg〜100mg、15mg〜85mg、30mg〜70mg、または40mg〜60mgの範囲でよい。5mg未満または100mgを上回る投薬量も使用することができる。医薬組成物は、1回用量または複数用量で投与することができる。これらの用量は、毎日1回、毎週1回、または毎月1回などの間隔で投与することができる。
【0087】
治療用蛋白の毒性および治療有効性は、細胞培養または実験動物モデルにおける標準的な薬学的手順によって測定することができる。例えば、LD50(母集団の50%に対して致死的な用量)およびED50(母集団の50%において治療的に有効な用量)が測定され得る。毒性作用と治療的効果の用量比率が治療指数であり、LD50/ED50の比率として表すことができる。多くの場合、より大きな治療指数を示す治療用蛋白が選択される。
【0088】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られるデータを用いて、ヒトにおいて使用するための投薬量の範囲を決定することができる。一実施形態では、投薬量は、毒性をほとんどまたは全く伴わずに、母集団の少なくとも50%において治療的有効性を示す範囲内である。投薬量は、使用される剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動してよい。
【0089】
本発明によって作製される治療用蛋白を投与するための投与計画は、蛋白の作用、病変の部位、疾患の重症度、患者の年齢、性別、および食生活、炎症があればその重症度、投与時間、ならびに他の臨床的因子など様々な因子に基づいて、主治医によって決定され得る。一実施例では、最小限に有効な用量で全身投与または注射投与を開始し、かつ良い効果が観察されるまで、予め選択した期間を通して用量を増加させる。続いて、生じる可能性のある有害作用があればそれらを考慮しつつ、対応する効果の増大をもたらすレベルに制限しながら投薬量を漸増させる。
【0090】
治療の経過は、疾患の進行の定期的評価によって観察することができる。経過は、例えばX線、MRI、もしくは他の画像診断様式、滑液分析、または臨床的検査によって観察することができる。
【0091】
目的とする治療用または予防用蛋白はまた、遺伝子デリバリーベクターを用いることによって、ヒトまたは動物中に導入することもできる。この目的に適したベクターとしては、それだけには限らないが、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス性(AAV)、ヘルペスウイルス、アルファウイル、アストロウイルス、コロナウイルス、オルソミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、パルボウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、またはトガウイルスのベクターなどのウイルスベクターが挙げられる。リポソームに封入された発現ベクターもまた、遺伝子デリバリーに使用することができる。多くの実施形態において、遺伝子デリバリーベクターは、目的とする蛋白およびUPR調節物質の双方をコードしている。UPR調節物質の共発現により、標的細胞(例えば腫瘍細胞または他の機能障害細胞)における目的とする蛋白の産生が促進される。目的とする蛋白およびUPR調節物質はまた、異なるベクターを用いて標的細胞に送達することもできる。遺伝子デリバリーは、in vivoまたはex vivoで実施することができる。
【0092】
一実施形態では、目的とする治療用/予防用蛋白またはUPR調節物質を標的細胞中に導入するために、細胞特異的な遺伝子デリバリー方法が使用される。当技術分野において公知の多くの細胞特異的な遺伝子デリバリー方法を本発明のために使用することができる。例えば、細胞特異的なリガンド(例えば、標的細胞の表面抗原に特異的な抗体)を、治療用/予防用蛋白またはUPR調節物質をコードするウイルスベクターのエンベロープに組み入れ、または結合させることができる。このリガンドは、特定の細胞型中へのウイルスベクターの侵入を媒介することができる。抗体結合リポソームもまた、特定の標的細胞に遺伝子治療用ベクターを送達するために使用することができる。
【0093】
上述の実施形態および以下の実施例は、例証に過ぎず、これらに限定されないことが理解されるべきである。本発明の範囲内の様々な変更および修正は、本明細書から当業者に明らかになると考えられる。
【実施例】
【0094】
実施例1 COS−1細胞株およびDUKX細胞株
アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(マナッサス、バージニア州)からATCC番号CRL−1650のCOS−1細胞を入手した。CHO DUKX細胞およびPA DUKX細胞の両方とも、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の派生物である、CHO−K1(ATCC番号CCL−61)に由来した。
【0095】
DUXK B11細胞またはDXB11細胞とも呼ばれるCHO DUXK細胞は、DNA複製のプロセスにおいて重要な酵素であるジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)の産生に欠陥がある。両方のdhfrアレルが変異している細胞を選択するために、UrlaubおよびChasin(PROC.NATL.ACAD.SCI.U.S.A.、77:4216〜4220頁(1980年))は、2つの工程で変異誘発および選択を実施した。dhfr+細胞に対して使用される選択剤は、トリチウム標識したデオキシウリジンであった。トリチウム標識したデオキシウリジンは、DNA中への組入れおよびそれに続く放射性崩壊が原因となって、細胞に対して毒性である。デオキシウリジンがDNA中に組み入れられるには、チミジル酸にそれが変換される必要があり、このプロセスのためにDHFRが不可欠である。dhfr−変異細胞は、DNA中にデオキシウリジンを組み入れることができず、したがって、トリチウム標識したデオキシウリジンの存在下で生き残ることができる。一部のdhfr+細胞、ならびにDNA中へのデオキシウリジンの組入れに必要な他の何らかの酵素を欠いている変異体もまた、生き残ることができる。dhfr−変異体は、グリシン、ヒポキサンチン、およびチミジンの新規な生合成を実施することができず、したがって増殖のために外来性ヌクレオシドを必要とするため、区別することができる。
【0096】
前掲のUrlaubおよびChasinによって使用された選択の第1の工程では、野生型細胞がエチルメタンスルホナート(EMS)変異誘発に供され、かつdhfr−阻害メトトレキサート(MTX)の存在下で、トリチウム標識したデオキシウリジンを用いて選択されて、推定上のヘテロ接合体(d+/d−)が単離された。ヘテロ接合体(d+/d−)中のすべてのDHFRを不活性化するのに十分であるが、ホモ接合体(d+/d+)中のすべてを不活性化するのには十分ではない濃度のMTXを用いることによって、ホモ接合体は残存するDHFR活性を有し、かつトリチウム標識したデオキシウリジンを組み入れた。この組入れによって、(d+/d+)細胞が選択され、かつヘテロ接合体のみが生き残ることができた。生き残っている細胞の選択、貯蔵、および増殖を3回実施した後、推定上のヘテロ接合体細胞株であるUKB25を単離した。ガンマ線照射によってUKB25細胞をさらに変異誘発し、MTXの不在下で、トリチウム標識したデオキシウリジン中で選択した。生き残っているコロニーは、グリシン、ヒポキサンチン、およびチミジンに対する3重栄養要求性を提示し、dhfr−表現型が示唆された。この3重栄養要求性を提示しているコロニーをクローン化し、dhfr活性を欠いていることを示した。サザンブロットハイブリダイゼーションによってこのようなクローンの1つを解析したところ、dhfr遺伝子が大規模な再配列(gross rearrangement)を全く受けていないことが明らかになった。このクローンをDXB11と呼んだ。
【0097】
このようにして作製したDX B11細胞を検査して、細胞株の予測される特質を確認した。DUKX B11細胞は、その由来元であるCHO−K1細胞株に遺伝子型が類似していることが判明した。これらは、低二倍体CHO細胞であり、細胞遺伝学的に広く研究されている20種の染色体を有する。分裂中期のDUKXB11染色体のギムザ(Geimsa)バンディングにより、DUKXB11細胞がCHO−K1派生物であることが実証された。DUKX B11細胞は、DHFRを欠損しており、したがってグリシン、プリンヌクレオシド、およびチミジンに対して栄養要求性である。DUKX B11細胞のDHFRを欠損したこの表現型が、細胞中に組換え型の異種蛋白発現プラスミドを移入するために使用される遺伝的選択の基礎である。
【0098】
いくつかの実験において、DUKX B11細胞を培養するために使用される培地は、ヒポキサンチンもチミジンも含まなかった。ジヒドロ葉酸レダクターゼ活性がない場合、細胞が生き残り、かつ複製する唯一の手段は、増殖培地中にヌクレオシドを補充することによって、細胞がそれらを作る能力を持たないことを補うものであった。したがって、アデノシン、デオキシアデノシン、およびチミジンをDUKX B11細胞用の増殖培地に添加した。これらはそれぞれ10μg/mlの濃度で添加した。この濃度は、慣例的な小スケールの増殖条件下で細胞が必要とする濃度より高かった。
【0099】
DUKX B11細胞は、所望の蛋白に対するcDNAを含む発現プラスミドを導入するのに有用である。これらは内在性のDHFR活性を欠いているため、異種蛋白を産生する細胞株を作製する場合に、選択可能かつ増幅可能なマーカーとして使用することができる。dhfrのcDNAを含む別の発現ベクターをコトランスフェクトすることによって、または同じ発現ベクター上で対象のcDNAの極めて近くにdhfrのcDNAを入れることによって、どの細胞が所望の遺伝子を含む発現プラスミドを取り込み、所望の蛋白を産生する可能性があるかを判定するためのマーカーとしてdhfr活性を利用することができる。トランスフェクション後に外来性ヌクレオシドを差し控えることによって、dhfr遺伝子を含むベクターを組み入れる細胞のみがdhfrを産生し、それによって生き残ることができると考えられる。生き残った細胞は、次に所望の蛋白を産生することができる。これは、所望のcDNAおよびdhfrが同じプラスミド上にある場合はバイシストロン性のメッセージによって、またはそれらの遺伝子が、トランスフェクション事象の進行中に染色体上に通常は共局在する異なるプラスミド上にある場合は、個別のメッセージによって、達成され得る。2つの別々のプラスミドを使用する場合、cDNAを含むプラスミドに対するdhfrを含むプラスミドの比率を変更することにより、双方を含む細胞を選択する能力を向上させることができる。
【0100】
DUKX B11細胞は、dhfr遺伝子中の点突然変異が原因でdhfrを欠損しており、したがって、dhfr+表現型への復帰変異が可能である。この復帰変異および外来性ヌクレオシドなしで増殖する能力は、無血清懸濁液への適応行動(adaptaion effort)の間に観察された。培養状態のDUKX細胞の集団は、懸濁培養の開始から、約154回の累積的集団倍加(CPD)の間、dhfr−のままであった。しかし、190CPDの時点での外来性ヌクレオシドに対する依存性について再び検査した場合、表現型の復帰変異が明らかであった。これらの細胞の平均増殖速度の有意な上昇は、dhfr+表現型と一致している。トランスフェクションおよび遺伝子増幅戦略のためにはdhfr−表現型が望ましいため、適応されたDUKX細胞の無血清懸濁液を153.8CPDの後に作製した。これらの細胞は、発現ベクターが導入される前に、無血清懸濁培養での増殖に適応されたため、「予め適応された(pre−adapted)」と呼ばれ、かつ「PA DUKX」と称される。
【0101】
適応されていない、FBS依存性のDUKX単層を、発現ベクターをトランスフェクトするために使用することができる。異種遺伝子およびdhfrの発現が達成された後、新しい各細胞株をFBSを含まない懸濁液での増殖に適応させることができる。単層細胞を用いたトランスフェクション後の適応期間は、しばしば非常に長い。「予め適応された」DUKX細胞は、トランスフェクションのための宿主細胞として使用することもできる。これらのPA DUKX細胞は、トランスフェクション後の無血清懸濁液中での増殖への再適応期間が通常はより短いため、時間および労力の面から見てしばしば利点を与える。Sinacoreら、BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING、52:518〜528頁(1996年)を参照されたい。
【0102】
実施例2 PA DUKX細胞におけるBMP6の過剰発現によるERストレスの誘導
pSMED2/XBP1およびpSMED2/BMP6(+)または空のpSMED2ベクター(−)をPA DUKX細胞中にコトランスフェクトした。pSMED2/XBP1発現ベクターおよびpSMED2/BMP6発現ベクターは、それぞれXBP1およびBMP6をコードする。どちらのベクターも、CMVプロモーターによって駆動される。Fugene6(Roche、インディアナポリス、インディアナ州)を用いて、6ウェルプレート中でトランスフェクションを実施した。細胞用の増殖培地は、ヌクレオシドおよび(加熱不活性化し、かつ透析した)10%FBS、ならびにペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン(Gibco)を添加したα培地(Gibco)であった。
【0103】
400mM NaClおよび1 Complete Mini(Roche、インディアナポリス、インディアナ州のプロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤)を添加したCell Lysis Buffer(Cell Signaling Technology、ビバリー、マサチューセッツ州)中に細胞を溶解した。トランスフェクション後7時間、24時間、31時間、および48時間目に溶解産物を採取し、10%トリシンゲル上で泳動させ、続いてウェスタンブロット解析を実施した(図1)。TBS中4%脱脂粉乳、1%BSA、および0.1%Tween20のブロッキング緩衝液、ならびにTBS中0.1%Tween20の洗浄用緩衝液を用いて、ウェスタンブロット解析を実施した。抗体は、ブロッキング緩衝液中に希釈した。ウェスタン法のためのタイトレーションは、1:1000抗XBP1(Santa Cruz Biotechnology)とそれに続く、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合された1:5000ヤギ抗ウサギ抗体(The Jackson Laboratory)であった。図1は、XBP1p蛋白(約54kD)の増加によって測定されるように、PA DUKX細胞におけるBMP6の過剰発現がERストレスを引き起こしたことを示す。
【0104】
実施例3 XBP1で安定にトランスフェクトされた細胞株
pSMED2/XBP1ベクターをCHO DUKX細胞中にトランスフェクトして、安定な細胞株を作製した。pSMED2ベクター上のDFHR遺伝子は、メトトレキサート(MTX)抵抗性を与える。トランスフェクトされた細胞を濃度5nM、10nM、または20nMのMTX中に播種した。3つの5nM MTXコロニー(5−2、5−4、5−5)、1つの10nMコロニー(10−3)、および1つの20nMコロニー(20−10)を単離した。各コロニーからの細胞を、ERストレスを引き起こすことが知られている化学物質ツナシミシン(Tunacymicin)(Tu)で処理し(+)、または処理しなかった(−)。溶解産物を10%トリシンゲル上で泳動させ、続いて、ウサギポリクローナル抗XBP1抗体(Santa Cruz Biotechnology)を用いてウェスタンブロット解析(図2)を実施した。図2は、Tu処理によって細胞にストレスを加えた場合、XBP1の安定な細胞株において、より成熟したXBP1が産生されたことを実証する。
【0105】
pSMED2/BMP6をXBP1安定細胞株(5−2、5−4、および20−10)および親(CHO DUKX)細胞株中に一過性にトランスフェクトした。トランスフェクション後48時間目に馴化培地を採取し、10%トリシンゲル上で泳動させ、続いてウェスタンブロット解析を実施した。BMP6と強力に交差反応するマウスのモノクローナル抗BMP5抗体(1:2000)で、ウェスタンブロットのメンブレン(図3)をプローブした。二次抗体は、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたヤギ抗マウス抗体(1:5000)(The Jackson Laboratory)であった。図3の各レーンは、それぞれの細胞株に対する個別の実験に相当する。図3において示されるように、親細胞においてよりも、5nM MTXおよび10nM MTXで選択されたXBP1安定細胞株において、より多くのBMP6が分泌された。
【0106】
IL11RFc蛋白をコードするpSMED2/IL11RFcも、XBP1安定細胞株および親細胞株中に一過性にトランスフェクトした。トランスフェクション後48時間目に馴化培地を採取し、10%トリシンゲル上で泳動させ、続いてウェスタンブロット解析を実施した。ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたヤギ抗ヒトFc抗体(The Jackson Laboratory)で、ウェスタンブロットのメンブレン(図4)をプローブした。CHO DUKX細胞においてよりも、5nM MTXで選択されたXBP1細胞株の大多数において、より多くのIL11RFcが分泌された。
【0107】
実施例4 XBP1安定細胞株およびそれらの親細胞CHOの間のトランスフェクション効率、転写効率、および翻訳効率の比較
5−2、20−10、およびCHO DUKX細胞を計数し、かつ緑色蛍光蛋白(GFP)をコードしている構築物で等量を一過性にトランスフェクトした。倍率10×10で細胞を可視化し、かつ、細胞株当たり3つの視野においてGFP蛍光性細胞を総細胞数と比較することによって、トランスフェクション効率(GFPを発現している細胞の百分率(%))を測定した。この比較の結果は、GFPのトランスフェクション効率が、試験したすべてのXBP1細胞株およびCHO DUKX細胞株において同様であることを示す(図5)。
【0108】
別の実験において、GFPをコードしている構築物(+)またはコードしていない構築物(−)をXBP1安定細胞株および親細胞株中に一過性にトランスフェクトした。トランスフェクション後48時間目に採取した細胞溶解物を10%トリシンゲル上で泳動させ、続いてウェスタンブロット解析を実施した(図6)。図6の各レーンは、個別の実験に相当する。ウサギポリクローナル抗GFP抗体およびローディングコントロール用のマウスモノクローナル抗アクチン抗体で、ウェスタンブロットのメンブレンをプローブした。図6によって示すように、GFPの転写および翻訳効率の合計は、調査したすべての細胞株において同様である。
【0109】
実施例5 ATF6で一過性にトランスフェクトされた細胞株
ATF6の活性な可溶性ドメインに由来するFlagタグ付きcDNAをTet/off誘導発現ベクターptTATOP6中にクローニングし、かつCOS−1細胞中に一過性にトランスフェクトした。ptTATOP6ベクターは、ATF6およびFlagタグを含む融合蛋白の発現を制御する誘導性プロモーターを含む。トランスフェクション後18時間、48時間、および60時間目に採取した細胞溶解物を10%トリシンゲル上で泳動させ、続いてウェスタンブロット解析を実施した。ウェスタンブロットのメンブレン(図7)を抗flag抗体でプローブした。「V」は、空のptTATOP6ベクターを示し、「P」は、flagの陽性対照を表す。図7によって示されるように、ATF6蛋白は、ドキシサイクリンの不在下で、COS−1細胞において成功裡に発現された。
【0110】
実施例6 標的遺伝子を適切な比率でXBP1またはATF6と共発現させると、HEK293細胞における標的遺伝子の分泌が増大する
37℃、5%CO2を含む加湿インキュベーターにおいて、5%ウシ胎児血清を添加したfree−style293培地(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)中でHEK293−FTおよびHEK293−EBNAを増殖させ、かつ維持した。
【0111】
50mlスピナーもしくは24ウェルプレート、または1Lスピナー中で一過性発現を実施した。培養容積50ml(または1L)の場合、プラスミドDNA25μg(または1Lの場合には0.5mg)を、無血清293培地2.5ml(1Lの場合には50ml)中のポリエチレンイミン(PEI、25kDa、直鎖状、HClによってpH7.0に中和、1mg/ml、Polysciences、ウォリントン、ペンシルバニア州)400μg(1Lの場合には8mg)と混合した。P2005撹拌機(Bellco)上で、回転速度170rpm、37℃で72〜144時間、スピナーをインキュベートした後、回収した。24ウェルプレートの形式の場合、DNA 1μgを無血清293培地0.5ml中のPEI 8μgと混合した。次いで、これらの混合物を、10%FBSを含む293培地中のHEK293細胞0.5mlと細胞濃度0.5×106細胞/mlで混合した。Orbital振とう機(Bellco)上で、回転速度300rpm、37℃で72時間、プレートをインキュベートした後、回収した。
【0112】
pSMED2およびpSMEDAをDNA構築のために使用した。C末端のHis6タグ付き分泌性Frizzled関連蛋白(sFRP−1)およびC末端のFlaタグ付きアグリカナーゼ−2(Agg−2)をpSMEDA中にサブクローニングした。C末端のHis6タグ付き神経栄養性チロシンキナーゼ2型受容体(TrkB)をpSMED2中にサブクローニングした。これらのサブクローニングされた遺伝子は、膜貫通ドメインも細胞質内ドメインも全く有さず、その結果、発現産物の分泌を可能にした。
【0113】
C末端のHis6タグ付きProp1およびProp34−LBDをpcDNA3.1(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)中にサブクローニングした。Prop1およびProp34−LBDは、膜貫通ドメインおよび細胞質内ドメインが欠失した低密度リポ蛋白受容体関連蛋白5(LRP5)に由来した。Prop1およびProp34−LBDのアミノ酸配列を、それぞれ配列番号10および11に示す。配列番号10は、アミノ酸342〜347にHis6タグを含み、かつアミノ酸348〜356にFlagタグを含む。配列番号11は、アミノ酸795〜800にHis6タグを含み、かつアミノ酸778〜794にV5タグを含む。
【0114】
pcDNA3.1中のProp1−his6−Flag 1μgをpSMED2ベクター中のXBP1p 0.3μg(1:3)または1μg(1:1)と共にHEK293T細胞中にコトランスフェクトした。pcDNA3.1およびpSMED2のいずれも、CMVプロモーターによって駆動される。DNAトランスフェクション後72時間目に馴化培地を採取した。SDS−PAGEによって試料を分離し、かつ抗His4抗体でイムノブロットした。2セットの実験(セット1およびセット2)を実施した。図8Aにおいて示すように、1:1または1:3の比率でXBP1をProp1とコトランスフェクションすると、Prop1の発現が大幅に改善した。
【0115】
別の実験では、pcDNA3.1中のProp34−LBD−V5−his6 1μgをptTATOP6ベクター中のATF6 0.3μg(1:3)または1μg(1:1)と共にHEK293T細胞中にコトランスフェクトした。pSMED2と同様に、ptTATOP6も、CMVプロモーターによって駆動される。DNAトランスフェクション後72時間目に採取した馴化培地をSDS−PAGEおよび抗His4抗体を用いたイムノブロッティングによって分析した。図8Bは、1:1または1:3の比率でATF6をProp34−LBD−V5−his6とコトランスフェクションすると、Prop34−LBDの発現が有意に増大したことを示す。
【0116】
図9は、異なる標的蛋白の発現に対するXBP1pまたはATF6の効果を例示する。pcDNA3.1中のProp1−his6−FlagまたはProp34−LBD−V5−His6を、pSMED2ベクター中のXBP1pまたはptTATOP6ベクター中のATF6と共にHEK293T細胞中にコトランスフェクトした。DNAトランスフェクション後72時間目に採取した馴化培地をSDS−PAGEおよび抗His4抗体を用いたイムノブロッティングによって分析した。図9に示すように、シグナルをデンシトメトリーによって定量した。これらの結果は、XBP1pおよびATF−6が、Prop1およびProp34−LBDの発現に対して異なる効果を有することを示唆する。TrkB、sFRP−1、およびAgg−2に対しても、これらの蛋白をXBP1pかATF−6と共発現させた場合、異なる増大効果が観察された。例えば、XBP1pとの共発現により、TrkBの収量は約5倍増加したのに対し、TrkBをATF6と共発現させた場合は約2倍の増加しか観察されなかった。
【0117】
本発明の前述の説明は、例証および説明を提供するが、網羅的であることも、開示されるまさにそのものに本発明を限定することも意図しない。上記の教示と一貫性がある修正および変形は可能であり、または本発明の実施により獲得され得る。したがって、本発明の範囲が、特許請求の範囲およびそれらの等価物によって定義されることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】PA DUKX細胞におけるBMP6の過剰発現がERストレスを引き起こすことを実証する図である。
【図2】ストレス無負荷条件またはストレス負荷条件下での、安定にトランスフェクトされた細胞株における外来性XBP1の発現を示す図である。
【図3】親細胞CHO DUKXよりもいくつかのXBP1細胞株においてBMP6分泌が増加していることを示す図である。
【図4】親細胞CHO DUKXよりもいくつかのXBP1細胞株においてIL11RFc分泌が増加していることを例示する図である。
【図5】GFPのトランスフェクション効率が、選択されたXBP1細胞株およびCHO DUKX親細胞株において同様であることを実証する図である。
【図6】GFPの転写効率および翻訳効率が、選択されたXBP1細胞株およびCHO CUKX親細胞株において同様であることを示す図である。
【図7】COS−1細胞における誘導性ATF6蛋白の成功裡な発現を例示する図である。
【図8】標的蛋白の作製に対する、異なる比率のXBP1またはATF6と標的蛋白cDNAとの効果を表す図である。
【図9】異なる標的蛋白の発現に対するXBP1またはATF6の効果を実証する図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的とする蛋白の改善された発現のための哺乳動物細胞であって、 目的とする蛋白をコードする少なくとも1種の組換え発現カセット、および 配列番号6のアミノ酸配列を含むXボックス結合蛋白1(XBP1)蛋白または配列番号6と少なくとも90%配列同一性を有するその機能的変異体あるいは配列番号9のアミノ酸配列を含む活性化転写因子6(ATF6)蛋白または配列番号9と少なくとも90%配列同一性を有するその機能的変異体をコードする少なくとももう1種の組換え発現カセット含み、 ここに、該XBP1蛋白またはATF6蛋白またはその機能的変異体が、該哺乳動物細胞の内在性ERストレス応答エレメント(ERSE)または内在性アンフォールド蛋白応答エレメント(UPRE)に結合して、該哺乳動物細胞の蛋白フォールディングまたはプロセッシング能力を増強する、哺乳動物細胞。
【請求項1】
目的とする蛋白の改善された発現のための哺乳動物細胞であって、 目的とする蛋白をコードする少なくとも1種の組換え発現カセット、および 配列番号6のアミノ酸配列を含むXボックス結合蛋白1(XBP1)蛋白または配列番号6と少なくとも90%配列同一性を有するその機能的変異体あるいは配列番号9のアミノ酸配列を含む活性化転写因子6(ATF6)蛋白または配列番号9と少なくとも90%配列同一性を有するその機能的変異体をコードする少なくとももう1種の組換え発現カセット含み、 ここに、該XBP1蛋白またはATF6蛋白またはその機能的変異体が、該哺乳動物細胞の内在性ERストレス応答エレメント(ERSE)または内在性アンフォールド蛋白応答エレメント(UPRE)に結合して、該哺乳動物細胞の蛋白フォールディングまたはプロセッシング能力を増強する、哺乳動物細胞。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−161318(P2012−161318A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−72852(P2012−72852)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【分割の表示】特願2007−530343(P2007−530343)の分割
【原出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【分割の表示】特願2007−530343(P2007−530343)の分割
【原出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】
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