説明

蛋白質の製造方法

【課題】ヌクレオシドに作用して、対応するリン酸化ヌクレオシドを生ずる反応を触媒する蛋白質の製造方法、及び該蛋白質を用いたヌクレオシドの測定方法等を提供することを課題とした。
【解決手段】ヌクレオシドに作用して、リン酸化ヌクレオシドを生ずる反応を触媒する蛋白質をBurkholderia thailandensis等より取得することができることを確認し、該蛋白質の製造方法と、該蛋白質を用いたヌクレオシドのリン酸化方法、ヌクレオシドのリン酸化剤、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとするリン酸化ヌクレオシドの製造方法、及びヌクレオシドの測定方法が提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヌクレオシドに作用する蛋白質に関する。
【背景技術】
【0002】
ヌクレオシドはリン酸と結合しリン酸化ヌクレオシドとなるとDNAやRNAの構成成分となる他、補酵素や補酵素の構成成分としても重要な、多くの生体反応に関与する物質である。ヌクレオシドやリン酸化ヌクレオシドの細胞内での濃度や比率は増殖期や非増殖期によって異なるので、細胞内ヌクレオシド量の測定により細胞の状態を把握できる可能性がある。又、リン酸化ヌクレオシドは、各種医薬品原料、生化学研究試薬、又は栄養剤原料等として重要である。
従来、ヌクレオシドに作用してリン酸化ヌクレオシドを生ずる反応を触媒する蛋白質としては、古細菌(Archaea)であるAeropyrum pernix由来の6−ホスホフルクトキナーゼ(6−Phosphofructokinase)、及び古細菌であるMethanocaldococcus jannaschii由来のホスホフルクトキナーゼ−B(Phosphofructokinase−B)が知られている。(非特許文献1、2)。
一方、Burkholderia thailandensis DSM13276株の配列表配列番号2の塩基配列は、該株の全ゲノム解析にて配列解析がされていた(非特許文献3)。しかし、該塩基配列がコードする蛋白質の性質はこれまでに解明されておらず、単にリボキナーゼらしいと予想されているに過ぎなかった。
【非特許文献1】Thomas Hansenら、Arch.Microbiol.、177巻、62−69頁、2001年
【非特許文献2】Thomas Hansenら、Extremophiles、11巻、105−114頁、2007年
【非特許文献3】H.S.Stanleyら、BMC Genomics、6巻、174頁、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ヌクレオシドに作用して、対応するリン酸化ヌクレオシドを生ずる反応を触媒する利用しやすい蛋白質の製造方法、及び該蛋白質を用いたヌクレオシドの測定方法等を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決する為に本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、配列表配列番号1のアミノ酸配列を有する蛋白質が、少なくともアデノシン、チミジン、ウリジン、イノシン、又はグアノシン等のヌクレオシドに作用して、対応するリン酸化ヌクレオシドを生ずる反応を触媒する蛋白質であることを新たに見出した。配列表配列番号1のアミノ酸配列は、Burkholderia thailandensis DSM13276株の配列表配列番号2の塩基配列がコードする蛋白質であったが、上述のヌクレオシドに作用して対応するリン酸化ヌクレオシドを生ずる反応を触媒することは従来知られておらず、極めて有用な蛋白質の利用方法が考えられ、該蛋白質の製造方法を確立し、併せて該蛋白質を用いたヌクレオシドのリン酸化方法、該蛋白質を用いたヌクレオシドのリン酸化剤、該蛋白質を用いたヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとするリン酸化ヌクレオシドの製造方法、更に該蛋白質を用いたヌクレオシドの測定方法を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]下記(1)又は(2)のいずれかの蛋白質の製造方法であって、
該蛋白質をコードする塩基配列に基づき該蛋白質を形成する工程と、該蛋白質を取得する工程を含む該蛋白質の製造方法。
(1)配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質、
(2)配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質。
[1−1]該(1)または(2)におけるヌクレオシドが、シチジン及びキサントシンを除くヌクレオシドである[1]に記載の製造方法。
[1−2]該ヌクレオシドが、アデノシン、チミジン、ウリジン、イノシン、又はグアノシンの少なくともいずれかひとつである[1]に記載の製造方法。
[1−3]該蛋白質を形成する工程が、該蛋白質をコードする塩基配列を含む細胞を用いることを含む[1]〜[1−2]のいずれかに記載の製造方法。
[1−4]該蛋白質を形成する工程が、該蛋白質をコードする塩基配列を導入した形質転換体を用いることを含む[1]〜[1−3]のいずれかに記載の製造方法。
[1−5]該蛋白質を形成する工程が、該蛋白質をコードする塩基配列を有する微生物を用いることを含む[1]〜[1−4]のいずれかに記載の製造方法。
[2]該蛋白質をコードする塩基配列に基づき該蛋白質を形成する工程が、Burkholderia属に属し、且つ、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質を産生する微生物を用いる工程である[1]〜[1−5]のいずれかに記載の製造方法。
[2−1]該蛋白質を形成する工程が、Burkholderia thailandensisを用いることを含む[1]〜[2]のいずれかに記載の製造方法。
[2−2]該蛋白質を形成する工程が、Burkholderia thailandensis DSM13276株を用いることを含む[1]〜[2−1]のいずれかに記載の製造方法。
[3]該蛋白質が、配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質である[1]〜[2−2]のいずれかに記載の製造方法。
[3−1]該蛋白質が、配列表配列番号1のアミノ酸配列における1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質である[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[3−2]該蛋白質が、配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む(但し、配列番号5及び配列番号6中、Xaaは任意のアミノ酸を示す)、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質である[1]〜[3−1]のいずれかに記載の製造方法。
[4]該蛋白質をコードする塩基配列に基づき該蛋白質を形成する工程において形成された該蛋白質を取得するに際して、蛋白質を精製する工程をさらに含む[1]〜[3−2]のいずれかに記載の製造方法。
[4−1]該蛋白質を形成する工程が、該蛋白質をコードする塩基配列を含む細胞を用いることを含む[3]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[4−2]該蛋白質を形成する工程が、該蛋白質をコードする塩基配列を導入した形質転換体を用いることを含む[3]〜[4−1]のいずれかに記載の製造方法。
[5]該蛋白質をコードする塩基配列が、配列表配列番号2で表される塩基配列である[3]〜[4−2]のいずれかに記載の製造方法。
[6]該蛋白質が下記の<1>〜<5>の理化学的性質を有する蛋白質である、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
<1>作用
少なくともリン酸供与体存在下で、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす反応を触媒する;
<2>基質特異性
アデノシン、イノシン、及びグアノシンに作用し、シチジン及びキサントシンに実質的に作用しない。又、リボースに実質的に作用しない;
<3>至適pH
pH5.5〜7.5;
<4>pH安定性
37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持する;
<5>熱安定性
100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持する;
[6−1]該リン酸化ヌクレオシドがモノリン酸化ヌクレオシドである[6]に記載の製造方法。
[6−2]該リン酸供与体が、ATPである[6]〜[6−1]のいずれかに記載の製造方法。
[6−3]該蛋白質の、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分子量が、約34kDaである[6]〜[6−2]のいずれかに記載の製造方法。
[7]下記(1)から(3)のいずれかの蛋白質を用いる、ヌクレオシドのリン酸化方法。但し、該ヌクレオシドは、シチジン及びキサントシンを除くヌクレオシド。
(1)配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質。
(2)配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質。
(3)下記の<1>〜<5>の理化学的性質を有する蛋白質。
<1>作用
少なくともリン酸供与体存在下で、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす反応を触媒する;
<2>基質特異性
アデノシン、イノシン、及びグアノシンに作用し、シチジン及びキサントシンに実質的に作用しない。又、リボースに実質的に作用しない;
<3>至適pH
pH5.5〜7.5;
<4>pH安定性
37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持する;
<5>熱安定性
100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持する;
[7−1]該(1)または(2)におけるヌクレオシドが、シチジン及びキサントシンを除くヌクレオシドである[7]に記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[7−2]該ヌクレオシドが、アデノシン、チミジン、ウリジン、イノシン、又はグアノシンの少なくともいずれかひとつである[7]に記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[7−3]該リン酸化ヌクレオシドがモノリン酸化ヌクレオシドである[7]〜[7−2]のいずれかに記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[7−4]該リン酸供与体が、ATPである[7]〜[7−3]のいずれかに記載のリン酸化方法。
[7−5]該蛋白質の、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分子量が、約34kDaである[7]〜[7−4]のいずれかに記載のリン酸化方法。
[8]配列表配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質を用いる[7]〜[7−5]のいずれかに記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[8−1]該蛋白質が、配列表配列番号1のアミノ酸配列における1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質である[7]〜[8]のいずれかに記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[8−2]該蛋白質が、配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む(但し、配列番号5及び配列番号6中、Xaaは任意のアミノ酸を示す)、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質である[7]〜[8−1]のいずれかに記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[8−3]該蛋白質をコードする塩基配列が、配列表配列番号2で表される塩基配列である[8]〜[8−2]のいずれかに記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[9]下記の<1>〜<5>の理化学的性質を有する蛋白質を用いる[7]〜[8−3]のいずれかに記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
<1>作用
少なくともリン酸供与体存在下で、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす反応を触媒する;
<2>基質特異性
アデノシン、イノシン、及びグアノシンに作用し、シチジン及びキサントシンに実質的に作用しない。又、リボースに実質的に作用しない;
<3>至適pH
pH5.5〜7.5;
<4>pH安定性
37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持する;
<5>熱安定性
100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持する;
[9−1]該リン酸供与体が、ATPである[9]に記載のリン酸化方法。
[9−2]該蛋白質の、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分子量が、約34kDaである[9]〜[9−1]のいずれかに記載のリン酸化方法。
[10]該蛋白質が、Burkholderia thailandensis由来である[7]〜[9−2]のいずれかに記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[10−1]該蛋白質が、Burkholderia thailandensis DSM13276株由来である[7]〜[10]のいずれかに記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[11]該蛋白質が、少なくともマグネシウムイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン又はマンガンイオンを利用し、且つ、少なくとも37℃においてヌクレオシドをリン酸化する反応を触媒する[10]〜[10−1]のいずれかに記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[11−1]該蛋白質が、少なくともマグネシウムイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン又はマンガンイオンを利用する[10]〜[11]のいずれかに記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[11−2]該蛋白質が、少なくとも37℃においてヌクレオシドをリン酸化する反応を触媒する[10]〜[11−1]のいずれかに記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
[12]下記(1)から(3)のいずれかの蛋白質を用いる、ヌクレオシドのリン酸化剤。但し、該ヌクレオシドは、シチジン及びキサントシンを除くヌクレオシド。
(1)配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質。
(2)配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質。
(3)下記の<1>〜<5>の理化学的性質を有する蛋白質。
<1>作用
少なくともリン酸供与体存在下で、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす反応を触媒する;
<2>基質特異性
アデノシン、イノシン、及びグアノシンに作用し、シチジン及びキサントシンに実質的に作用しない。又、リボースに実質的に作用しない;
<3>至適pH
pH5.5〜7.5;
<4>pH安定性
37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持する;
<5>熱安定性
100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持する;
[12−1]上記[7−1]〜[11−2]に記載の少なくともいずれかひとつの特徴を有する上記[12]に記載のヌクレオシドのリン酸化剤。
[12−2]以下の(1)又は(2)のいずれかの蛋白質と、金属イオン、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルコース、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、酸化型NAD(P)類及びpH緩衝剤を含むヌクレオシドのリン酸化剤。
(1)配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質。
(2)配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、配列表配列番号5及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなる、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質。
[12−3]該(1)または(2)におけるヌクレオシドが、シチジン及びキサントシンを除くヌクレオシドである[12−2]に記載のヌクレオシドのリン酸化剤。
[13]下記(1)から(3)のいずれかの蛋白質を用いる、ヌクレオシドを対応するリン酸化ヌクレオシドとするリン酸化ヌクレオシドの製造方法。但し、該ヌクレオシドは、シチジン及びキサントシンを除くヌクレオシド。
(1)配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質。
(2)配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質。
(3)下記の<1>〜<5>の理化学的性質を有する蛋白質。
<1>作用
少なくともリン酸供与体存在下で、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす反応を触媒する;
<2>基質特異性
アデノシン、イノシン、及びグアノシンに作用し、シチジン及びキサントシンに実質的に作用しない。又、リボースに実質的に作用しない;
<3>至適pH
pH5.5〜7.5;
<4>pH安定性
37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持する;
<5>熱安定性
100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持する;
[13−1]上記[7−1]〜[11−2]に記載の少なくともいずれかひとつの特徴を有する上記[13]に記載のヌクレオシドを対応するリン酸化ヌクレオシドとするリン酸化ヌクレオシドの製造方法。
[14]下記(a)〜(c)の各工程を含むヌクレオシドの測定方法。但し、該ヌクレオシドは、シチジン及びキサントシンを除くヌクレオシド。
(a)下記(1)から(3)のいずれかの蛋白質と、ATPの存在下、試料中に含まれている可能性のあるヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとADPとなす第一の反応を含む工程、
(1)配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質。
(2)配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質。
(3)下記の<1>〜<5>の理化学的性質を有する蛋白質。
<1>作用
少なくともリン酸供与体存在下で、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす反応を触媒する;
<2>基質特異性
アデノシン、イノシン、及びグアノシンに作用し、シチジン及びキサントシンに実質的に作用しない。又、リボースに実質的に作用しない;
<3>至適pH
pH5.5〜7.5;
<4>pH安定性
37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持する;
<5>熱安定性
100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持する;
(b)上記第一の反応とは別異の第二の反応又は第二の複数の反応と、その反応を触媒する第二の酵素又は第二の複数の酵素の存在下、上記第一の反応により生ずるADPの量に応じて、第二の反応により測定対象の変化を生ぜしめる工程、
(c)該測定対象の変化量を検出し、試料中に含まれている可能性のあるヌクレオシドの量を測定する工程、
[14−1]該(1)または(2)におけるヌクレオシドが、シチジン及びキサントシンを除くヌクレオシドである[14]に記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−2]該ヌクレオシドが、アデノシン、チミジン、ウリジン、イノシン、又はグアノシンの少なくともいずれかひとつである[14]に記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−3]該リン酸化ヌクレオシドがモノリン酸化ヌクレオシドである[14]〜[14−2]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−4](a)工程における該蛋白質が、配列表配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質を用いる[14]〜[14−3]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−5](a)工程における該蛋白質が、配列表配列番号1のアミノ酸配列における1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質を用いる[14]〜[14−4]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−6](a)工程における該蛋白質が、配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む(但し、配列番号5及び配列番号6中、Xaaは任意のアミノ酸を示す)、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質である[14]〜[14−5]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−7](a)工程における該蛋白質が、下記の<1>〜<5>の理化学的性質を有する蛋白質を用いる[14]〜[14−6]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
<1>作用
少なくともリン酸供与体存在下で、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす反応を触媒する;
<2>基質特異性
アデノシン、イノシン、及びグアノシンに作用し、シチジン及びキサントシンに実質的に作用しない。又、リボースに実質的に作用しない;
<3>至適pH
pH5.5〜7.5;
<4>pH安定性
37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持する;
<5>熱安定性
100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持する;
[14−8](a)工程における該蛋白質が、Burkholderia thailandensis由来である[14]〜[14−7]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−9](a)工程における該蛋白質が、Burkholderia thailandensis DSM13276株由来である[14]〜[14−8]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−10](a)工程における該蛋白質が、少なくともマグネシウムイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン又はマンガンイオンを利用する[14]〜[14−9]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−11](a)工程における該蛋白質が、少なくとも37℃においてヌクレオシドをリン酸化する反応を触媒する[14]〜[14−10]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−12](b)工程において、(b−1)ADP依存性ヘキソキナーゼの存在下、該第二の反応がグルコースとADPをグルコース−6−リン酸とAMPとなす反応と、(b−2)グルコース−6−リン酸脱水素酵素の存在下、酸化型NAD(P)類及び前記反応により生ずるグルコース−6−リン酸を、還元型NAD(P)類とグルクノラクトン−6−リン酸とせしめる反応を含み、上記第一の反応により生ずるADPの量に応じて還元型NAD(P)類が増加せしめられており、(c)工程において、還元型NAD(P)類の増加量を検出する工程、である[14]〜[14−11]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−13](b)工程において、(b−1)ピルビン酸キナーゼの存在下、PEPとADPをピルビン酸とATPに変化せしめる反応と、(b−2)乳酸脱水素酵素の存在下、還元型NAD(P)類及び前記の反応により生ずるピルビン酸を、酸化型NAD(P)類と乳酸とせしめる反応を含み、上記第一の反応により生ずるADPの量に応じて還元型NAD(P)類が減少せしめられており、(c)工程において、還元型NAD(P)類の減少量を検出する工程、である[14]〜[14−12]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−14](b)工程において、(b−1)ピルビン酸キナーゼの存在下、PEPとADPをピルビン酸とATPに変化せしめる反応と、(b−2)ピルビン酸オキシダーゼの存在下、酸素、リン酸及び前記の反応により生ずるピルビン酸を、過酸化水素とアセチルリン酸とせしめる反応を含み、上記第一の反応により生ずるADPの量に応じて過酸化水素が増加せしめられており、(c)工程において、過酸化水素の量を過酸化水素指示薬等で検出する工程、である[14]〜[14−13]のいずれかに記載のヌクレオシドの測定方法。
[14−15](c)工程における変化量の検出が、工程(a)及び(b)で処理した後の既知量のヌクレオシドと、測定対象の変化量を比較して、試料中に含まれている可能性のあるヌクレオシドの量を測定する工程である[14]〜[14−14]のいずれかのヌクレオシドの測定方法。
[14−16]該蛋白質の、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分子量が、約34kDaである[14]〜[14−15]のいずれかのヌクレオシドの測定方法。

【発明の効果】
【0005】
本発明により、少なくとも、アデノシン、チミジン、ウリジン、イノシン、又はグアノシン等のヌクレオシドに作用して、対応するリン酸化ヌクレオシドを生ずる反応を触媒する蛋白質を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のヌクレオシドは、公知のヌクレオシドを含み特に限定されないが、糖部分と塩基部分からなるグリコシドであり、その糖部分としては、D−リボース又は2−デオキシD−リボースが例示され、また塩基部分としては、プリン又はピリミジンが例示される。好ましくは、糖部分がD−リボースであり、塩基部分がプリン又はピリミジンであるグリコシドが例示される。本発明においてプリンとしては、塩基性の複素環式含窒素化合物が例示され、アデニン、グアニンが例示され、場合によっては、それらの誘導体であっても良い。本発明においてピリミジンとしては、塩基性の複素環式含窒素化合物が例示され、例えば、シトシン、ウラシル、チミンが例示され、場合によっては、それらの誘導体であっても良い。すなわち、本発明において具体的なヌクレオシドを例示すると、シチジン及びキサントシンを除くヌクレオシドであれば特に限定されないが、例えば、アデノシン、チミジン、ウリジン、イノシン、及びグアノシンが例示され、これらのヌクレオシドの誘導体又は類似体、及び本発明においては、これらのヌクレオシドの混合物であっても良い。本発明においては、アデノシン、イノシン、及びグアノシンの何れか、又は全部が特に好ましく、又、これらのヌクレオシドの混合物も好ましい。
【0007】
本発明の蛋白質としては、例えば配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質が例示される。またその他に配列表配列番号1のアミノ酸配列と実質的に均等なアミノ酸配列や、触媒作用に関与しない一部のアミノ酸を変異させ、または各種のアミノ酸残基が付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質も例示される。すなわち、本発明の蛋白質としては、配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む(但し、配列表配列番号5及び6中、Xaaは任意のアミノ酸を示す)、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質を用いることができる。例えば、本発明の蛋白質のN末端側及び/又はC末端側にチオレドキシン蛋白質等機能性蛋白質やその他のアミノ酸配列からなる部分を付加する例が挙げられ、融合蛋白質とすることも好ましく、その付加する部分により精製や確認等をせしめることのできるタグと呼ばれる部分を融合させ、場合によっては、そのタグ部分を削除しても、場合によってはその全部または一部が残る場合も例示される。例えば、本発明の蛋白質を菌体外やペリプラズムへ輸送する為の約20個のシグナルペプチドや、効率的な精製を行う為の5〜10個のHisの付加でも良いし、それらを直列して付加しても良い。又、それらのアミノ酸配列の間等に数個のプロテアーゼ認識アミノ酸配列を配置して付加することもできる。上述の付加の例と同様に、欠失、又は置換を行うことができ、例えば、本発明の蛋白質の本質的な機能とは無関係の数個のアミノ酸からなるドメインが存在する場合や、配列表配列番号1のアミノ酸配列中の複数個のアミノ酸からなるギャップが存在する場合、それらの欠失を組み合わせることもできる。また、欠失、置換もしくは付加を適宜組み合わせることも可能である。
このようなアミノ酸配列としては、RREFGGCA(G、A、又はT)NI(A、又はG)(Y、又はF)(A、S、T、又はN)L、及びDPTG(C、A、V、又はI)GDA(F、Y、W、又はH)R(G、A、又はS)Gの配列を含む、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質であれば更に好ましい。更に、本発明の配列表配列番号1のアミノ酸配列において、その配列表配列番号1のアミノ酸配列のN末端側、及びC末端側は、アミノ酸残基又はポリペプチド残基を含む、すなわち付加していても良く、その付加アミノ酸残基としてはシグナルペプチド、TEE配列、Sタグ、又はHisタグ等が挙げられる。配列表配列番号1のアミノ酸を欠失する場合は、例えば、N末端側のMet又はC末端側のLysから順に削除する例が挙げられる。配列表配列番号1のアミノ酸配列において、N末端のMetの欠失や、N末端がアシル基やアルキル基等による修飾を受ける等の翻訳後修飾された蛋白質も本発明の蛋白質である。又、本発明の蛋白質を公知の方法で無水コハク酸やPEG等により化学修飾して、本発明の蛋白質の至適pHや安定性等の性質を利用しやすいように変化させることも可能である。
【0008】
本発明の蛋白質の分子量は、配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加した場合、翻訳後修飾された場合、及び化学修飾した場合は変化する場合があり、例えば、後述のpTip QC1やpTip QC2を利用してN末端にHisタグを付加する場合には分子量が約1,000程度大きくなることがある。
【0009】
また本発明の蛋白質としては、以下に示す理化学的性質を始め本願明細書に記載されたその他の性質のいずれかを有する蛋白質であることも好ましい。すなわち、下記物性の<1>作用と<2>基質特異性を有することが好ましく、その他の性質の有無は特に限定されないが、以下の理化学的性質や本願明細書記載の性質のうち、任意の1つまたは2つ以上を備えていることも好ましい。特に好ましくは、下記の理化学的性質<1>〜<5>を備える蛋白質が例示される。
理化学的性質
<1>作用
少なくともリン酸供与体の存在下、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす反応を触媒する。好ましくは、下記〔式1〕の通りである。
【0010】
〔式1〕
ヌクレオシド + ATP −> リン酸化ヌクレオシド + ADP
【0011】
<2>基質特異性
本発明の蛋白質はアデノシン、イノシン、及びグアノシンに作用する。本発明の蛋白質はシチジン、キサントシン、及びリボースに実質的に作用しないが、通常、本発明の蛋白質の活性測定方法における測定法3の条件下で反応しない程度であることが好ましく、又、蛋白質溶液の希釈の程度を変更したり、反応試薬混合液中の各組成物の濃度を変更したりしても反応しない程度であることも好ましい。
<3>至適pH
本発明の蛋白質が最大の活性を示す至適pHは、pH5.5〜7.5の範囲に存在する。
<4>pH安定性
本発明の蛋白質は37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持する。
<5>熱安定性
本発明の蛋白質は100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持する。
【0012】
本発明の蛋白質は、上記の<1>作用に記載した通り、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る。該ヌクレオシドのリン酸化反応に際しては、少なくともリン酸供与体の存在下であることが好ましく、該リン酸供与体はCTP、GTP、TTP、又はポリリン酸等であっても良いが、ATPが特に望ましい。該リン酸化においては、該ヌクレオシドに対応したリン酸化ヌクレオシドが生成されるが、該リン酸化ヌクレオシドは、該ヌクレオシドにリン酸基が結合した物質となる。リン酸基の数は1、2、又は3であっても良いが、1、すなわち、リン酸化モノヌクレオシドが好ましい。リン酸化され得る部位は、特に限定されないが、1’位、2’位、又は5’位が挙げられるが、リングを形成せしめてもよいが、例えばリン酸化モノヌクレオシドの場合は、5’位が好ましい。すなわち、該リン酸化ヌクレオシドは、ヌクレオシド5’一リン酸が好ましい。なお、リン酸化ヌクレオシドは、ヌクレオチドと呼ばれる場合もある。
【0013】
本発明の蛋白質を調製するに際しては、該蛋白質をコードする塩基配列に基づき該蛋白質を形成する工程を用いることができる。該工程としては、該蛋白質をコードする塩基配列を含む無細胞蛋白質合成系、好ましくは該蛋白質をコードする塩基配列を含む細胞を用いる工程、または天然の該蛋白質を形成する微生物等該蛋白質をコードする塩基配列を有する微生物を用いる工程、又は、該蛋白質をコードする塩基配列を導入した形質転換体を用いる工程等がそれぞれ例示される。
【0014】
典型的な本発明の蛋白質の調製方法としては、該蛋白質を形成する天然の微生物を用いて該蛋白質を形成せしめる例が挙げられるが、本発明の蛋白質を調製できる天然の微生物としては、好ましくは、Burkholderia属やその近縁のXanthomonas属等を、更に好ましくは、Burkholderia thailandensisを、最も好ましくは、Burkholderia thailandensis DSM13276株が例示できる。なお、Burkholderia thailandensis DSM13276株は、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHから購入することもできる。また、他の菌株バンクで購入できる該株との同等株や、Epidemiol.Infect.、118巻137−148頁、1995年に記載の方法で分離した同等株を用いて、本発明の各性質を有する蛋白質を生産し得ることを確認して、上記の工程にて使用することもできる。
【0015】
該蛋白質を形成する天然の微生物は、さらにNTG等の薬剤、紫外線、及び/又は放射線で処理した変異株となすこともできる。該変異株によって、本発明の蛋白質の生産性を向上することや、本発明の蛋白質の変異体を形成させることが可能であり、安定性、生産性、反応性等が優れた性質を有する変異体を形成することも可能である。
【0016】
上述の該蛋白質を調製する製造方法において、該蛋白質をコードする塩基配列が必要となるのであれば、上述の(1)配列表配列番号1のアミノ酸配列、(2)配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質、又は、(3)上記理化学的性質<1>〜<5>の理化学的性質を有する蛋白質、のいずれかの蛋白質をコードする塩基配列を用いれば良い。
【0017】
配列表配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、特に限定されないが、例えば、配列表配列番号2の塩基配列や配列表配列番号2の塩基配列を大腸菌や放線菌等宿主のコドン使用頻度に合わせて変更した塩基配列が例示される。また、上記(2)においては、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質であれば、配列表配列番号1と実質的に均等なアミノ酸配列をコードする塩基配列であっても良く、例えば配列表配列番号1のアミノ酸配列のうちの上記触媒作用に関与しない一部のアミノ酸を変異させたもの、例えば1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列の均等物をコードする塩基配列であっても良い。好ましくは、配列表配列番号5及び配列表配列番号6のそれぞれのアミノ酸配列をコードする塩基配列が含まれるように行うことが特に好ましい。
【0018】
該蛋白質をコードする塩基配列の調製においては、通常用いられる公知の遺伝子操作手段を利用することができ、例えば、部位特異的変異法や、目的遺伝子の特定塩基の断片を人工変異塩基で置換する等の種々の方法が例示される。
【0019】
該蛋白質をコードする塩基配列を含む無細胞蛋白質合成系を、本発明の蛋白質を形成する工程として採用する場合には、上述の塩基配列をもつ塩基を、コムギ胚芽由来、大腸菌由来、ウサギ網状赤血球由来、又は昆虫細胞由来等の公知の系に使用すれば良い。
【0020】
また、該蛋白質をコードする塩基配列を含む細胞を用いる工程を採用する場合には、上述の塩基配列をベクターに挿入して宿主微生物に導入させて形質転換体を作成し、その形質転換体を用いて該蛋白質を形成せしめる工程が例示される。
本発明の蛋白質をコードする塩基配列を導入した形質転換体は、該塩基配列が挿入されたベクターである組換体ファージ又は組換体プラスミドを宿主に導入した細胞、又は微生物を含む。本発明の蛋白質をコードする塩基配列は、一部又は全てを合成して使用することができ、好ましくは本発明の蛋白質を、コードする塩基配列を遺伝子供与体から取得して使用する。遺伝子供与体としては、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質を形成する細胞であれば限定されないが、真正細菌、真核生物、又は古細菌を含む微生物が挙げられ、好ましくは上述の本発明の蛋白質を形成する微生物が挙げられる。
【0021】
本発明の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するベクターとしては、宿主微生物体内で自律的に増殖しうるファージ又はプラスミドのうち遺伝子組換用として構築されたものが適しており、ファージベクターとしては、例えば、大腸菌に属する微生物を宿主とする場合にはλgt・λC、λgt・λB等が使用できる。又、プラスミドベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、Novagen社のpETベクター、又はpBR322、pBR325、pACYC184、pUC12、pUC13、pUC18、pUC19、pUC118、pINI、BluescriptKS+、バチラス・サチリスを宿主とする場合にはpWH1520、pUB110、pKH300PLK、放線菌を宿主とする場合にはpIJ680、pIJ702、酵母、特にサッカロマイセス・セレビジアエを宿主とする場合にはYRp7、pYC1、YEp13等が使用できる。本発明においては大腸菌を宿主とするプラスミドベクターが好ましい。プロモーターは宿主中で発現できるものであれば特に限定されるものではない。
【0022】
このようなベクターを、本発明の蛋白質をコードする塩基配列の切断に使用した制限酵素により生成する塩基配列の末端と、同じ末端を生成する制限酵素により切断してベクター断片を作成し、本発明の蛋白質をコードする塩基配列の断片とベクター断片とを、DNAリガーゼにより常法に従って結合させて本発明の蛋白質をコードする塩基配列を目的のベクターに挿入して、組換体ファージ又は組換体プラスミドとなす。
組換体プラスミドを導入する宿主としては、組換体プラスミドが安定かつ自律的に増殖可能な細胞、又は微生物であれば良く、例えば宿主微生物が大腸菌に属する微生物の場合、大腸菌BL21、大腸菌 DH1、大腸菌 JM109、大腸菌JM101、大腸菌 W3110、大腸菌C600等を含む、大腸菌B株、K株、C株やそれらの溶原菌が利用できる。又、宿主微生物がバチラス属に属する微生物の場合、バチラス・サチリス、バチラス・メガテリウム等、放線菌に属する微生物の場合、ストレプトマイセス・リビダンスTK24等、サッカロマイセス・セルビシエに属する微生物の場合、サッカロマイセス・セルビシエ INVSC1等が使用できる。本発明においては大腸菌を宿主微生物とする事が好ましい。
【0023】
本発明の蛋白質をコードする塩基配列を導入した形質転換体を用いて該蛋白質を形成せしめる事ができる好適なその他の例としては、Rhodococcus属細菌における組換蛋白質を形成する方法が挙げられる(特許第3944577号公報、特許第3793812号公報)。具体的には、低温での組換蛋白質の形成に適したpTip QC1やpTip QC2等のプラスミドベクターに、本発明の蛋白質をコードする塩基配列を挿入し、その組換体プラスミドをリゾチーム感受性微生物に導入した形質転換体を用いる方法が示される。リゾチーム感受性微生物としてはRhodococcus属に属する微生物が好ましい(特許第3876310号公報)。
【0024】
本発明の蛋白質は、該蛋白質をコードする塩基配列を導入した形質転換体、又は、該蛋白質をコードする塩基配列を有する微生物を培養することで形成しても良い。
【0025】
ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質を形成する天然の微生物や、該蛋白質をコードする塩基配列を導入した形質転換体の微生物等の培養条件はその栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すれば良く、通常液体培養で行うが、工業的には深部通気撹拌培養を行うのが有利である。培地の栄養源としては、微生物の培養に通常用いられるものが広く使用され得る。培養温度は宿主となる微生物が発育し、本発明の蛋白質が形成される範囲で適宜変更し得るが、大腸菌の場合、下限が10℃以上、好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上、上限が45℃以下、好ましくは42℃以下、更に好ましくは37℃以下である。放線菌の場合、下限が4℃以上、好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上、上限が50℃以下、好ましくは42℃以下、更に好ましくは37℃以下である。培養条件は、条件によって多少異なるが、本発明の蛋白質が最高形成量に達する時期を見計らって適当な時期に培養を終了すれば良く、大腸菌の場合、通常は下限が10時間以上、好ましくは12時間以上、更に好ましくは17時間以上、上限が60時間以下、好ましくは48時間以下、更に好ましくは30時間以下である。放線菌の場合、通常は下限が17時間以上、好ましくは20時間以上、更に好ましくは24時間以上、上限が80時間以下、好ましくは72時間以下、更に好ましくは48時間以下である。培地pHは菌が発育し、本発明の蛋白質を形成する範囲で適宜変更し得るが、大腸菌や放線菌の場合、好ましくは下限としてpH5.8以上、好ましくはpH6.2以上で、上限としてpH8.5以下、好ましくはpH7.5以下である。
【0026】
本発明の蛋白質は、上記のように形成された本発明の蛋白質を取得する工程を含む方法によって製造できるが、簡便には殺菌、非殺菌を問わず菌体を含む細胞等のままであっても良く、培養不純物や細胞破砕物等を軽く除いた不純物が残存したままの蛋白質とすることも好ましい。さらに本発明の蛋白質の粗蛋白質は、目的や用途等場合によっては実質的に不純物を包含しないようにすることも好ましいが、通常は、例えば50%以上、70%以上、95%以上の各種の純度にすることが例示される。純度はSDS−PAGEやHPLC等の公知の方法で確認すれば良い。
【0027】
本発明の蛋白質の製造方法について説明する。
本発明の蛋白質は、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質を形成する天然の微生物や、該蛋白質をコードする塩基配列を導入した形質転換体の微生物等を培養し、培養物から蛋白質を取得することによって製造することができる。まず、該微生物等を栄養培地で培養して菌体内又は培養液中に該蛋白質を形成させ、菌体内に形成される場合には培養終了後、得られた培養物を濾過又は遠心分離等の手段により菌体を採集する。次いで、この菌体を機械的方法又はリゾチーム等の酵素的方法で破壊し、又、必要に応じてEDTA、及び/又は適当な界面活性剤等を添加して該蛋白質を濃縮するか濃縮する事なく、アセトン、メタノール、エタノール等の有機溶媒による分別沈殿法、硫酸アンモニウム、食塩等による塩析法等を適用して本発明の蛋白質を沈殿させ回収する。この沈殿物を必要に応じて透析、等電点沈殿を行った後、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーや疎水的クロマトグラフィーにより処理して、本発明の蛋白質を得ることができる。又、これらの方法を適宜組み合わせて行うことができる。また、本発明の蛋白質が培養液中に形成される場合には、培養物を濾過又は遠心分離等の手段により菌体を除去し、培養液について、前記菌体内に形成される場合と同様の処理を行えばよい。
【0028】
これらの方法によって得られる蛋白質は安定化剤として、各種の塩類、糖類、蛋白質、脂質、界面活性剤等を加え、あるいは加えることなく、限外濾過濃縮、凍結乾燥等の方法により、液状又は固形の本発明の蛋白質を得ることができ、又、適宜凍結乾燥を行っても良く、この場合安定化剤としてサッカロース、マンニトール、食塩、アルブミン等を0.5〜10%程度添加しても良い。
【0029】
かくして得られる本発明の蛋白質は、従来の下記酵素とは性質及び配列において区別できる。例えば、上述の非特許文献1に記載のAeropyrum pernix由来の6−ホスホフルクトキナーゼ(6−Phosphofructokinase)や、非特許文献2に記載のMethanocaldococcus jannaschii由来のホスホフルクトキナーゼ−B(Phosphofructokinase−B)のそれぞれのアミノ酸配列と、本発明の配列表配列番号1のアミノ酸配列とのアミノ酸の相同性はそれぞれ21%と29%と低く、全く相違する。
【0030】
また、Aeropyrum pernixは生育至適温度が90℃、Methanocaldococcus jannaschiiは生育至適温度が85℃なので、これらの細胞から6−ホスホフルクトキナーゼやホスホフルクトキナーゼ−Bを取得するためには、特別な培養装置が必要となり、一度に多くの培養物を得る事は不経済であり、高温なので安全対策が必要である点で、そのような配慮等が少なくて済む本発明の製造方法の方が製造方法としても好ましい。さらに、Aeropyrum pernix由来の6−ホスホフルクトキナーゼは、この酵素をコードする塩基配列を導入した形質転換体を用いる製造方法が困難であることが知られているので、その製造方法の改善もし難く、結局、本発明の蛋白質とは物質として異なることに加えて、製造方法としても、本発明の蛋白質の製造方法の方がより好ましい。
【0031】
また、該6−ホスホフルクトキナーゼ、及び該ホスホフルクトキナーゼ−Bは、40℃にて、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす反応の触媒作用をほとんど示さない点でも、本発明の蛋白質と区別できるとともに、該6−ホスホフルクトキナーゼ、及びホスホフルクトキナーゼ−Bを利用してヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとする方法やヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとするリン酸化ヌクレオシドの製造方法は、40℃より高い温度で実施しなければならなく、触媒反応に必要な補酵素である高価なATPが高温では不安定なので、製造方法としても不経済となる。
【0032】
また一方、非特許文献3により配列表配列番号2の塩基配列は、該株の全ゲノム解析で明らかにされていたが、該塩基配列がコードする蛋白質の性質はこれまでに解明されておらず、単にリボキナーゼとして予想されていた。すなわち、配列表配列番号2の塩基がコードする配列表配列番号1のアミノ酸配列からなる蛋白質が、ヌクレオシドからリン酸化ヌクレオシドへの反応を触媒することは従来全く知られていなかった。
【0033】
また、本発明のヌクレオシドのリン酸化方法は、例えば、本発明の蛋白質を用い、少なくともリン酸供与体存在下で、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす方法であれば好ましい。さらに好ましくは、少なくともマグネシウムイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン又はマンガンイオンのうちいずれか一つ以上の金属イオン、ヌクレオシド、リン酸供与体、及び本発明の蛋白質を接触させることが例示される。接触させる順番は特に限定されない。
【0034】
本発明のヌクレオシドのリン酸化方法は、液相、気相、又は固相等やそれぞれの臨界面で実施すればよいが、液相で実施する事が好ましい。液相には水相、有機溶媒相等が考えられ、水相には例えば水、適宜の水溶液が例示され、さらにメタノールやエタノール等の適宜の有機溶媒、またはこれらを含有した水性媒体が例示されるが、これらにおいては適宜のpH緩衝剤を用いることが好ましい。pH緩衝剤を使用する場合、その種類は目的のpHを保つことができ、ヌクレオシドがリン酸化ヌクレオシドとなされれば特に限定されないが、グッドの緩衝剤、Tris/HCl緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、酢酸/NaOH緩衝液、クエン酸/NaOH緩衝液が例示できる。本発明のヌクレオシドのリン酸化方法を実施する際のpHは、ヌクレオシドがリン酸化ヌクレオシドとなされれば特に限定されないが、下限としてpH4以上、好ましくはpH5以上、更に好ましくはpH6以上が例示され、上限としてはpH9以下、好ましくはpH8以下が、更に好ましくはpH7以下が例示される。pH緩衝剤の濃度は目的のpHを保つことができ、リン酸化反応が進行すれば特に限定されないが、下限として1mM以上、好ましくは5mM以上、更に好ましくは10mM以上が例示され、上限としては500mM以下、好ましくは300mM以下が、更に好ましくは200mM以下が例示される。
【0035】
本発明のヌクレオシドのリン酸化方法を実施するその他の好ましい液相として、例えばゾル・ゲルを挙げることができる。ゾル・ゲルとなすためには、例えば、寒天等の多糖類を利用することもできる。ゾル・ゲルと乳濁液を区別する場合は、乳濁液として実施しても良い。乳濁液となすためには、例えば、有機溶媒等を利用することもできるし、両親媒性物質を利用すればミセルとしても実施できる。いずれの場合も、緩衝液を用いる場合には上述と同様に行うことができる。
【0036】
本発明のヌクレオシドのリン酸化方法を実施する温度は、ヌクレオシドがリン酸化ヌクレオシドとなされる温度であれば特に限定されないが、本発明の蛋白質の作用温度範囲内が望ましく、下限は15℃以上、好ましくは20℃以上、更に好ましくは30℃以上が、上限は70℃以下、好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下である。
【0037】
本発明のヌクレオシドのリン酸化方法において使用する本発明の蛋白質の量、リン酸供与体の量、金属イオンの量、及び反応時間等は、ヌクレオシドがリン酸化ヌクレオシドとなされれば特に限定されず、原料や試料に含まれるヌクレオシドの存在量、目的とするヌクレオシドをリン酸化する程度、使用する装置、及び/又は経済的な事情等に応じて望ましい結果が得られるように決定し得る。
【0038】
本発明のヌクレオシドのリン酸化方法において使用する本発明の蛋白質の量は、例えば、原料や試料に含まれるヌクレオシドの存在量が1mM以下で、全てをリン酸化する場合、下限が1mU/ml以上、好ましくは5mU/ml以上、更に好ましくは50mU/ml以上、上限が10U/ml以下、好ましくは3U/ml以下、更に好ましくは1U/ml以下である。同条件下で使用するリン酸供与体の量は、例えば、リン酸供与体がATPの場合、下限が1mM以上、好ましくは5mM以上、更に好ましくは10mM以上、上限は特に設けないが好ましくは500mM以下、更に好ましくは200mM以下、特に好ましくは50mM以下である。同条件下で使用する金属イオンの量は、リン酸供与体の濃度に応じて変化し、リン酸供与体の濃度に対して下限が0.1当量以上、好ましくは0.5当量以上、更に好ましくは1当量以上であり、上限が10当量以下、好ましくは5当量以下、更に好ましくは3当量以下である。最も好ましい濃度はリン酸供与体の2当量である。同条件下における反応時間は、下限が15秒以上、好ましくは1分以上、更に好ましくは3分以上である。上限は特に設けないが、好ましくは30分以下、更に好ましくは15分以下、特に好ましくは10分以下である。
【0039】
本発明のヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとするリン酸化ヌクレオシドの製造方法においては、上記本発明のヌクレオシドのリン酸化方法により、ヌクレオシドからリン酸化ヌクレオシドが製造される。製造されたリン酸化ヌクレオシドは、原料や他の製造物等が混在したままであっても良いが、目的や用途等場合によっては実質的に不純物を包含しないようにすることも好ましく、通常は、例えば50%以上、70%以上、95%以上の各種の純度にすることが例示される。リン酸化ヌクレオシドは、公知の精製方法を行うことができるが、例えば、溶剤等を用いた抽出、シリカゲル、アルミナ、及び/又はセライト等を用いたクロマトグラフィー、及び/又は再結晶等による精製方法が例示できる。
【0040】
また本発明の蛋白質は、ヌクレオシドのリン酸化剤となり得る。
本発明のヌクレオシドのリン酸化剤は、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす方法やヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとするリン酸化ヌクレオシドの製造する方法に用いることができ、通常は組成物にてリン酸化剤となすことが好ましい例として示される。又、後述する本発明のヌクレオシドの測定方法に用いる組成物中にも本発明のヌクレオシドのリン酸化剤が含まれると考えられる。
本発明のリン酸化剤には、本発明の蛋白質のほか、リン酸供与体、金属イオン、pH緩衝剤、その他酵素や試薬等、が含まれるが、本発明の蛋白質、リン酸供与体、及び金属イオンの添加量や種類は上述と同様である。
【0041】
本発明のヌクレオシドのリン酸化剤は、液状品、液状品の凍結物、液状品の凍結乾燥品、又は液状品の乾燥品(加熱乾燥及び/又は風乾及び/又は減圧乾燥等による)として提供できる。液状品、液状品の凍結物、液状品の凍結乾燥品が好ましく、液状品、液状品の凍結乾燥品が更に好ましく、液状品が最も好ましい。別の態様として、液状品の凍結物が好ましい場合もある。更に別の態様としては、液状品の凍結乾燥が好ましい場合もある。本発明のヌクレオシドのリン酸化剤は、一試薬のリン酸化剤としても良いが、試薬の安定性向上や測定精度向上等を目的とする等の必要に応じて、二試薬以上に分離しても良い。又、試薬の品質向上等を目的として界面活性剤や防腐剤等を混合しても良い。又、例えば、POCのキャピラリーへの使用、又は酵素センサーとしての使用の場合、各成分の濃度は通常よりも濃い濃度が好ましく、例えば、固定化したり、紙や膜に染み込ませたり、ゲル・ゾル状組成物としたりして使用することが好ましい。
本発明のヌクレオシドのリン酸化剤を二試薬以上に分離する場合、例えば試薬の安定化を目的とする場合は、本発明の蛋白質、リン酸供与体及びpH緩衝剤等を凍結乾燥して第一の試薬となし、金属イオン、pH緩衝剤等を液状品として第二の試薬となす分離の例が挙げられる。又、例えば試薬の測定精度向上を目的とする場合は、試料中に測定値へ影響を与える干渉物質が存在する場合を想定し、干渉物質の影響回避の為の試薬を含んで第一の試薬となし、本発明の蛋白質、リン酸供与体、金属イオン、pH緩衝剤等を含んで第二の試薬となす分離の例が挙げられる。
【0042】
本発明のヌクレオシドの測定方法は、下記(a)〜(c)の各工程を含む。(a)上述の本発明の蛋白質と、ATPの存在下、試料中に含まれている可能性のあるヌクレオシドからリン酸化ヌクレオシドとADPを生成する第一の反応を含む工程、(b)上記第一の反応とは別異の第二の反応又は第二の複数の反応と、その反応を触媒する第二の酵素又は第二の複数の酵素の存在下、上記第一の反応により生ずるADPの量に応じて第二の反応により生じた測定対象の変化を生じさせる工程、(c)該測定対象の変化量を検出し、試料中に含まれている可能性のあるヌクレオシドの量を測定する工程。尚、該(a)〜(c)の各工程はそれぞれ別異の反応槽(相)で実施しても良いが、同一反応槽(相)で実施しても良い。又、該(a)〜(c)の各工程は、工程(a)、(b)、(c)の順に行っても良く、工程(a)と(b)を同時に行って、次いで工程(c)を行う、又は、まず工程(a)を行い、次いで工程(b)と(c)を同時に行う、或いは工程(a)、(b)、(c)を同時に行うなど、目的や使用する装置に応じて望ましい結果が得られるように決定し得る。又、該(a)〜(c)の各工程の温度や時間は均一であっても不均一あっても良い。
【0043】
本発明のヌクレオシドの測定に用いる、測定用組成物は本発明のヌクレオシドのリン酸化剤が含まれ、前述の本発明のリン酸化剤に、ヌクレオシドの量に応じて変化し、その変化量を測定できるような別の反応系を構成する物質を含むものであればよい。そのような測定用組成物として、例えば、本発明の蛋白質、リン酸供与体、金属イオン、ピルビン酸キナーゼ、PEP、ピルビン酸オキシダーゼ、リン酸及び過酸化水素指示薬の組み合わせが挙げられる。また、本発明の蛋白質、リン酸供与体、金属イオン、ピルビン酸キナーゼ、PEP、乳酸脱水素酵素、及び還元型NAD(P)の組み合わせ、あるいは、本発明の蛋白質、リン酸供与体、金属イオン、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルコース、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、及び酸化型NAD(P)の組み合わせなどが挙げられる。
本発明の測定用組成物を二試薬以上に分離する場合、第一の試薬には少なくとも本発明の蛋白質、リン酸供与体、金属イオンとpH緩衝剤、第二の試薬には、少なくともADP依存性ヘキソキナーゼ、グルコース、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、酸化型NAD(P)類とpH緩衝剤を含むように分離する例、又、第一の試薬には少なくとも本発明の蛋白質、リン酸供与体、金属イオン、還元型NAD(P)類とpH緩衝剤、第二の試薬には、少なくともピルビン酸キナーゼ、PEP、乳酸脱水素酵素とpH緩衝剤を含むように分離する例、あるいは、第一の試薬には少なくとも本発明の蛋白質、リン酸供与体、金属イオンとpH緩衝剤、第二の試薬には、少なくともピルビン酸キナーゼ、PEP、ピルビン酸オキシダーゼ、リン酸、過酸化水素指示薬とpH緩衝剤を含むように分離する例、が挙げられる。
本発明のヌクレオシドの測定に用いる測定用組成物に用いる本発明の蛋白質、リン酸供与体、金属イオン、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルコース、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、酸化型NAD(P)類、還元型NAD(P)類、ピルビン酸キナーゼ、PEP、乳酸脱水素酵素、ルビン酸オキシダーゼ、リン酸、過酸化水素指示薬及びpH緩衝剤の添加量や種類は、下記の本発明のヌクレオシドの測定方法と同様である。
【0044】
本発明の工程(a)、(b)、及び(c)の反応時間は上述と同様である。
本発明のヌクレオシドの由来は特に限定されないが、血漿、血清、尿、研究用試料等を挙げることができ、ヌクレオシドを含有すると予想される血漿、血清、尿、研究用試料等であれば好ましい。その他の試料としては、例えば、海水、天然水、果汁、飲料、廃液等が挙げられる。
【0045】
本発明のヌクレオシドの測定方法における工程(a)には、マグネシウムイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン又はマンガンイオンのうちいずれか一つ以上の金属イオンが存在しても良い。
本発明の工程(a)の温度は、上述と同様である。
本発明の工程(a)は水又は適宜のpH緩衝剤を用いることが好ましく、その条件は上述と同様である。
本発明の工程(a)における本発明の蛋白質の量、リン酸供与体(ATP)の量、及び金属イオンの量等は上述と同様である。
【0046】
本発明のヌクレオシドの測定方法における工程(b)は、上記工程(a)とは別異の第二の反応又は第二の複数の反応と、その反応を触媒する第二の酵素又は複数の酵素の存在下、上記第一の反応により生ずるADPの量に応じて第二の反応により生じた測定対象の変化量を生ぜしめる工程である。
【0047】
本発明の工程(b)の例として、(b−1)ADP依存性ヘキソキナーゼの存在下、該第二の反応がグルコースとADPからグルコース−6−リン酸とAMPを生成する反応と、(b−2)グルコース−6−リン酸脱水素酵素の存在下、酸化型NAD(P)類及び前記反応により生ずるグルコース−6−リン酸が、還元型NAD(P)類とグルクノラクトン−6−リン酸を生成する反応を含み、上記第一の反応により生ずるADPの量に応じて還元型NAD(P)類が増加しており(本明細書では工程(b(ア))と言う場合がある)、(c)工程において、還元型NAD(P)類の増加量を検出する工程が挙げられる。
【0048】
本発明の工程(b(ア))におけるADP依存性ヘキソキナーゼ及びグルコース−6−リン酸脱水素酵素の由来や起源は、本発明のヌクレオシドの測定方法が実施できれば特に限定されない。工程(b(ア))におけるADP依存性ヘキソキナーゼ及びグルコース−6−リン酸脱水素酵素の濃度は、本発明のヌクレオシドの測定方法が実施できれば特に限定されないが、下限として0.1U/ml以上、好ましくは1U/ml以上、更に好ましくは2U/ml以上であり、上限は特に設けないが、好ましくは20U/ml以下、更に好ましくは10U/ml以下が例示される。工程(b(ア))にはADP依存性ヘキソキナーゼが反応に要求する基質、金属イオンが存在しても良い。基質や金属イオンの種類や濃度は、本発明のヌクレオシドの測定方法が実施できれば特に限定されないが、使用するADP依存性ヘキソキナーゼの由来や起源により異なる。一例として、基質としてグルコースを0.01mM以上、好ましくは0.1mM以上、更に好ましくは1mM以上、上限は特に設けないが、好ましくは500mM以下、更に好ましくは100mM以下が例示される。金属イオンとして塩化マグネシウムを0.1mM以上、好ましくは1mM以上、更に好ましくは5mM以上、上限は特に設けないが、好ましくは100mM以下、更に好ましくは10mM以下が例示される。工程(b(ア))にはグルコース−6−リン酸脱水素酵素の補酵素である酸化型NAD(P)類が存在しても良い。酸化型NAD(P)類の種類(酸化型チオNAD(P)や酸化型デアミドNAD(P)等)や濃度は、本発明のヌクレオシドの測定方法が実施できれば特に限定されないが、使用するグルコース−6−リン酸脱水素酵素の由来や起源により異なる。一例として、補酵素として酸化型NAD(P)を0.1mM以上、好ましくは1mM以上、更に好ましくは3mM以上、上限は特に設けないが、好ましくは50mM以下、更に好ましくは10mM以下が例示される。更に、工程(b(ア))には試薬の感度向上等を目的としてDI(還元型NAD(P)オキシダーゼ)やホルマザン色素を存在させても良い。又、更に感度向上等を目的としてNAD(P)サイクリング反応を用いることもできる。
【0049】
本発明の工程(b)の例として、(b−1)ピルビン酸キナーゼの存在下、PEPをピルビン酸に変化させる反応と、(b−2)乳酸脱水素酵素の存在下、還元型NAD(P)類及び前記の反応により生ずるピルビン酸が、酸化型NAD(P)類と乳酸を生成する反応を含み、上記第一の反応により生ずるADPの量に応じて還元型NAD(P)類が減少しており(本明細書では工程(b(イ))と言う場合がある)、(c)工程において、還元型NAD(P)類の減少量を検出する工程が挙げられる。
【0050】
本発明の工程(b(イ))におけるピルビン酸キナーゼ及び乳酸脱水素酵素の由来や起源は、本発明のヌクレオシドの測定方法が実施できれば特に限定されない。工程(b(イ))におけるピルビン酸キナーゼ及び乳酸脱水素酵素の濃度は、本発明のヌクレオシドの測定方法が実施できれば特に限定されないが、下限として1U/ml以上、好ましくは5U/ml以上、更に好ましくは10U/ml以上であり、上限は特に設けないが、好ましくは100U/ml以下、更に好ましくは50U/ml以下が例示される工程(b(イ))にはピルビン酸キナーゼが反応に要求する基質、金属イオンが存在しても良い。基質や金属イオンの種類や濃度は、本発明のヌクレオシドの測定方法が実施できれば特に限定されないが、使用するピルビン酸キナーゼの由来や起源により異なる。一例として、基質として、PEPを0.1mM以上、好ましくは0.5mM以上、更に好ましくは1mM以上、上限は特に設けないが、好ましくは50mM以下、更に好ましくは10mM以下が例示される。 金属イオンとしては、塩化マグネシウムを0.1mM以上、好ましくは0.5mM以上、更に好ましくは1mM以上、上限は特に設けないが、好ましくは50mM以下、更に好ましくは10mM以下が例示される。工程(b(イ))には乳酸脱水素酵素の補酵素である還元型NAD(P)類が存在しても良い。還元型NAD(P)類の種類(チオNAD(P)HやデアミドNAD(P)H等)や濃度は、本発明のヌクレオシドの測定方法が実施できれば特に限定されないが、使用する乳酸脱水素酵素の由来や起源により異なり、使用するキュベットの光路長や比色計の性能によっても異なる。一例として、光路長1cmのキュベットの場合、0.01mM以上、好ましくは0.03mM以上、更に好ましくは0.07mM以上、上限は0.2mM以下、好ましくは0.17mM以下、更に好ましくは0.15mM以下が例示される。
【0051】
本発明の工程(b)の例として、(b−1)ピルビン酸キナーゼの存在下、PEPをピルビン酸に変化させる反応と、(b−2)ピルビン酸オキシダーゼの存在下、酸素、リン酸及び前記(b−1)の反応により生ずるピルビン酸が、過酸化水素とアセチルリン酸を生成する反応を含み、上記第一の反応により生ずるADPの量に応じて過酸化水素が増加しており(本明細書では工程(b(ウ))と言う場合がある)、(c)工程において、過酸化水素の量を過酸化水素指示薬等で検出する工程が挙げられる。
【0052】
工程(b(ウ))におけるピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシダーゼの由来や起源は、本発明のヌクレオシドの測定方法が実施できれば特に限定されない。工程(b(ウ))におけるピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシダーゼの濃度は、上述のピルビン酸キナーゼ及び乳酸脱水素酵素の場合と同様である。工程(b(ウ))におけるピルビン酸キナーゼが反応に要求する基質、金属イオンの種類や濃度は、上述と同様である。工程(b(ウ))における過酸化水素指示薬は、ペルオキシダーゼとともに、4−アミノアンチピリンや3−メチル−2−ベンゾチアゾリンヒドラシゾン等のカップラーとクロロフェノール等のフェノール類又はTOOSやN,N−ジメチルアニリン等のアニリン類およびそれらの誘導体等の色原体との縮合反応やロイコ型の色原体を使用するなど当業者なら容易に想達し得る。又、消費する酸素を測定する場合は酸素電極を利用する。
本発明の工程(b)(上記工程(b(ア))〜(b(ウ))を含む)における温度は、工程(b)で使用する酵素の作用温度範囲内が望ましく、工程(a)と同様の温度であっても良い。
【0053】
本発明の工程(b)は、工程(b)で使用する酵素が使用できれば特に限定されないが、水又は適宜のpH緩衝剤を用いることが好ましく、工程(a)と同様のpHであっても良い。
本発明のヌクレオシドの測定方法における工程(c)における該測定対象の変化量を検出する方法は、該測定対象の変化量を公知の方法で検出する。一般的には該測定対象の変化に伴うそれら該測定対象の吸収スペクトルや吸光強度の変化を目視で検出したり、装置を用いて光学的方法で検出したりする方法が例示され、NAD(P)類の酸化還元に伴う吸収スペクトルや特定波長における吸光強度の変化を検出する方法や過酸化水素指示薬の変化に伴う吸収スペクトルや特定波長における吸光強度の変化を検出しても良い。又、装置を用いて還元型NAD(P)の蛍光を検出することも可能である。
【0054】
本発明の工程(c)において試料中のヌクレオシドの量を測定する方法は、試料中に含まれている可能性のあるヌクレオシドを、定性分析により測定する、又は定量する測定方法が挙げられ、定量する測定方法が好ましい。
定量する測定方法とは次の通りである。ヌクレオシドが含まれている可能性のある試料と、ヌクレオシドを既知の濃度で含む試料を、それぞれ単独に工程(a)〜(b)で処理し、工程(c)でそれぞれの変化量を検出する。ヌクレオシドが含まれている可能性のある試料中のヌクレオシドの濃度は、ヌクレオシドが含まれている可能性のある試料について工程(c)で検出した変化量と、ヌクレオシドを既知の濃度で含む試料について工程(c)で検出した変化量とを比較することにより定量する。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例等に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例等に限定して解釈されない。尚、常法に従い、と記述した技術は、例えばマニアティスらの方法(Maniatis,T.,et al.Molecular Cloning.Cold Spring Harbor Laboratory 1982年、1989年)や蛋白質・酵素の基礎実験法(改訂第2版、堀尾武一、1994年南光堂参照)、又は、市販の各種酵素、キット類に添付された手順書等に従えば実施できるものである。又、以下に示した測定値等は測定の条件や使用機器の精度等によりその値は変化し得る。
尚、本発明で使用する試薬類は、特に断らない限り、和光純薬工業株式会社製、シグマアルドリッチ社製、タカラバイオ株式会社製等であり、市販で容易に入手できるものを使用することができる。試薬のメーカーや純度等は特に限定されなくとも良いことは言うまでもない。
本発明の蛋白質の活性量を測定するに際しては、下記の測定法1、測定法2、又は測定法3を目的に応じて使い分けて求める。
測定法1は、反応工程が少ないので簡便に正確な活性値が測定できるが、340nmにおける吸光度を測定する方法なので測定装置の制約を受け易い。測定法2は550nmにおける吸光度を測定する方法なので測定装置の制約を受け難いが、色素が難水溶性なので正確な活性値を測定する場合は注意が必要である。測定法1及び測定法2がイノシンを基質にする測定であるのに対して、測定法3は任意の物質を基質として測定が可能であるが、340nmにおける吸光度を測定する方法なので測定装置の制約を受け易いし、使用する試薬の数が多いので正確な活性値を測定する場合は注意か必要である。
測定法1と測定法2でIMPDHとはイノシン5’一リン酸デヒドロゲナーゼを指す。IMPDHが市販されていない場合は、S.I.Kimら、Biosci.Biotechnol.Biochem.、64巻、1210−1216頁、2000年等に記載された方法で取得すれば良い。
尚、本明細書において、蛋白質の活性量を特定する必要がある際には、測定法を特に断らない限り、全て測定法3における活性量として換算して表記する。換算に際しては、同じ検体を各測定方法で測定し、その値の変化量の比率から換算できる。変化量の比率は、測定の条件や使用機器の精度等によりその値は変化し得るが、測定法1:測定法2:測定法3=3.0:5.5:0.7が例示される。
【0056】
[測定法1]
石英製の1.0cmキュベットに反応試薬混合液1を1.0ml量りとり、37℃で2分間予備加温する。30mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で適当な濃度に希釈した本発明の蛋白質溶液を0.05ml加えて混和し、37℃で反応を開始する。5分後に反応試薬混合液2を1.0ml混和して、340nmにおける吸光度を測定し、吸光変化を求める。求められた吸光変化をAs/min、本発明の蛋白質溶液の代わりに精製水を用いた盲検をAb/minとして、酵素活性(U/ml)を下記〔式2〕で算出する。
【0057】
〔式2〕
酵素活性(U/ml)={(As/min−Ab/min)/6.22}×2.05/0.05×希釈倍数
【0058】
[反応試薬混合液1]
30mM リン酸カリウム緩衝液 pH7.0
10mM ATP(pH7)
20mM 塩化マグネシウム
5mM イノシン
50mM 塩化カリウム
[反応試薬混合液2]
100mM Tris/HCl緩衝液 pH9.0
13U/ml IMPDH
20mM NAD
50mM 塩化カリウム
1mM DTT
200mM EDTA(pH9)
【0059】
[測定法2]
石英製の1.0cmキュベットに反応試薬混合液を1.0ml量りとり、37℃で2分間予備加温する。30mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で適当な濃度に希釈した本発明の蛋白質溶液を0.01ml加えて混和し、37℃で反応を開始する。反応開始5分後に0.1Nの塩酸を2ml混和して反応を止め、550nmにおける吸光度を測定し、吸光変化を求める。求められた吸光変化をAs/min、本発明の蛋白質溶液の代わりに精製水を用いた盲検をAb/minとして、酵素活性(U/ml)を下記〔式3〕で算出する。
【0060】
〔式3〕
酵素活性(U/ml)={(As/min−Ab/min)/19}×3.01/0.01×希釈倍数
【0061】
[反応試薬混合液]
30mM Tris/HCl緩衝液 pH9.0
5mM ATP(pH7)
10mM 塩化マグネシウム
2.5mM イノシン
5U/ml IMPDH
10mM NAD
50mM 塩化カリウム
5U/ml DI(旭化成ファーマ株式会社製)
0.025% NTB
0.5% TX―100
【0062】
[測定法3]
石英製の1.0cmキュベットに反応試薬混合液を1.3ml量りとり、37℃で2分間予備加温する。20mM Tris/HCl緩衝液(pH7.5)で適当な濃度に希釈した本発明の蛋白質溶液を0.03ml加えて混和し、37℃で反応を開始する。反応開始後、340nmにおける吸光度を測定して直線的に反応している1分間当たりの吸光変化を求める。求められた吸光変化を、As/min、本発明の蛋白質溶液の代わりに精製水を用いた盲検をAb/minとして、酵素活性(U/ml)を下記〔式4〕で算出する。
【0063】
〔式4〕
酵素活性(U/ml)={(As/min−Ab/min)/6.22}×1.33/0.03×希釈倍数
【0064】
[反応試薬混合液]
20mM Tris/HCl緩衝液 pH7.5
20mM グルコース
1mM ATP(pH7)
1mM 塩化マグネシウム
1mM NADP
50mM 塩化カリウム
5U/ml グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(旭化成ファーマ株式会社製)
5U/ml ADP依存性HK(旭化成ファーマ株式会社製)
1mM イノシン
【0065】
[実施例1]
<本発明の蛋白質の基質特異性>
後述の実施例17により調製した本発明の蛋白質を用いた。上述の活性測定法3でイノシンの代わりに表1中の各基質を使用して、本発明の蛋白質の相対活性を測定した。表1に、相対活性を比較した基質特異性を示す。
【0066】
【表1】

【0067】
[実施例2]
<本発明の蛋白質の至適pH>
後述の実施例17により調製した本発明の蛋白質の、測定法1の反応試薬混合液1における緩衝液を、pH4.5〜pH6.0の範囲はクエン酸/NaOH緩衝液(図1中○印)、pH6.0〜pH7.5の範囲はリン酸カリウム緩衝液(図1中●印)、pH7.0〜pH9.0の範囲はTris/HCl緩衝液(図1中△印)、pH9.5はグリシン/NaOH緩衝液(図1中□印)に変更して活性測定を行い、至適pHを測定した。図1に、最大活性を100%とした相対活性(%)を示した。本発明の蛋白質が最大の活性を示す至適pHは、pH5.5〜7.5の範囲に存在する。
【0068】
[実施例3]
<本発明の蛋白質のpH安定性>
後述の実施例17により調製した本発明の蛋白質を0.475mg/mlになるように100mMの、pH4.5〜pH6.0の範囲はクエン酸/NaOH緩衝液(図1中○印)、pH6.0〜pH7.5の範囲はリン酸カリウム緩衝液(図2中●印)、pH7.0〜pH9.0の範囲はTris/HCl緩衝液(図2中△印)、pH9.5〜11.0はグリシン/NaOH緩衝液(図2中□印)に希釈して37℃で3時間加温処理した後、本発明の蛋白質の残存活性を測定法1で測定した。図2に示す通り、本発明の蛋白質は37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持した。
【0069】
[実施例4]
<本発明の蛋白質の熱安定性>
後述の実施例17により調製した本発明の蛋白質を0.475mg/mlになるように100mM リン酸カリウム緩衝液pH7.0中に希釈し、各温度で20分間熱処理した後、本発明の蛋白質の残存活性を測定法1で測定した。図3に示す通り、本発明の蛋白質は100mM リン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持した。
【0070】
[実施例5]
<本発明の蛋白質の分子量>
後述の実施例17により調製した本発明の蛋白質におけるSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分子量は、図4に示すように約34kDaであった。配列表配列番号1のアミノ酸配列からの計算値は、33,994であった。
【0071】
[実施例6]
<本発明の蛋白質の作用温度範囲>
後述の実施例17により調製した本発明の蛋白質を測定法1の活性測定法で、反応温度を15〜70℃まで変化して、本発明の蛋白質のイノシンをリン酸化する反応速度を測定した(図5)。その結果をアレニウスプロットして図6に示した。図5で示した通り、作用温度の範囲は少なくとも15〜70℃であった。又、図6より、20〜45℃の間における活性化エネルギーは約64kJ/molであった。尚、図6中Tは絶対温度を示す。又、図5で50℃以上では相対活性が上がっていないように見えるが、反応液中における本発明の蛋白質の安定性やATPの分解の結果と考えられる。
【0072】
[実施例7]
<本発明の蛋白質の金属の利用性>
後述の実施例17により調製した本発明の蛋白質を使用した下記の[混合物]において、表2に示した金属を使用した場合の、本発明の蛋白質によるAMPが生成する速度を測定し、結果を相対比として表2に示す。
[混合物]1mlに、最終濃度1mMとなるようにアデノシンを添加して37℃で30分間アデノシンのリン酸化方法を実施した。アデノシンのリン酸化方法を実施後の[混合物]を精製水で10倍に希釈して、25μlをHPLCで分離した。HPLCは昭和電工社製のAsahipak GS−320を使用し、移動相は200mMリン酸ナトリウム緩衝液pH3.0、流速は0.5ml/minで、室温で実施し、AMPの生成量を260nmの吸光で測定した。
[混合物]
50mM Tris/HCl緩衝液 pH 7.5
2.5mM ATP
5mM 表2に示す金属化合物
5mU/ml 実施例17により調製した本発明の蛋白質
【0073】
【表2】

【0074】
本発明の蛋白質の、ATPとヌクレオシドに作用して、ADPとリン酸化ヌクレオシドを生ずる反応を触媒する作用は、少なくともマグネシウムイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン又はマンガンイオンのうち、いずれか一つ以上利用することがわかった。
【0075】
[実施例8]
<蛋白質濃度測定>
本発明の蛋白質の蛋白質濃度を、バイオラッド社のプロテインアッセイキットを用いて使用説明書記載の方法に従って測定し、BSAをスタンダードとして算出した。本発明の蛋白質の比活性は、該蛋白質の純度、測定の条件、使用機器の精度等によりその値は変化し得るが、後述の実施例17により調製した本発明の蛋白質の場合、約0.5U/mgであった。
【0076】
[実施例9]
<VmaxとKm、その1>
後述の実施例17により調製した本発明の蛋白質を測定法3の活性測定法で、Km値の1/10倍〜10倍の間で5つ以上の異なる濃度になるように基質濃度を調製して、ラインウェーバー・バーク逆数プロットにより各見かけのKm値を算出した。その結果を表3に示した。表3のVmaxとKmは、測定法3の条件下における見かけのVmaxとKmである。
【0077】
【表3】

【0078】
[実施例10]
<VmaxとKm、その2>
後述の実施例17により調製した本発明の蛋白質を測定法1の活性測定法で、Km値の1/10倍〜10倍の間で5つ以上の異なる濃度になるようにイノシン濃度及びNAD濃度を調製して、ラインウェーバー・バーク逆数プロットによりイノシンに対するKm値を算出した。その結果、Vmax=1.59μmol/min/mg、Km=0.18μmol/min/mgであった。
【0079】
[実施例11]
<DNAの抽出>
LB培地を使用して30℃2日間培養して集菌したBurkholderia thailandensis DSM13276株の菌体を50mM Tris/HCl緩衝液(pH8.0)、50mM EDTA、15%シュークロースを含む1mg/mlリゾチーム溶液で37℃、10分処理した後、SDSを最終濃度0.25%になるよう添加して菌体を溶解した。更に等量のフェノール/クロロホルムの1:1混合液を加え、30分攪拌した後、遠心分離(12,000rpm、15分間)して水層を回収した。回収した水層に10分の1量の3Mの酢酸ナトリウム(pH5.5)を混合後、2倍量のエタノールを静かに重層し、ゲノムDNAをガラス棒に巻き付かせて分離した。分離したゲノムDNAを、10mM Tris/HCl緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA水溶液(以下TEと記載する場合もある)に溶解し、適量のRNaseAを加え、37℃で1時間保温し、混在しているRNAを分解した。次いで、等量のフェノール/クロロホルムの1:1混合液を加え、前記と同様に処理して、水層を分取した。分取した水層に10分の1量の3Mの酢酸ナトリウム(pH5.5)と2倍量のエタノールを加えて前記の方法でもう一度ゲノムDNAを分離した。この染色体をTEに溶解し、TE飽和のフェノールとクロロホルムの1:1混合液を加え、全体を懸濁した後、同様の遠心分離を繰り返し、上層を再び別の容器に移した。この分離した上層に3Mの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)とエタノールを加え、撹拌後、−70℃で5分間冷却した後、遠心分離(2,000G、4℃、15分)し、沈澱した染色体を75% エタノールで洗い、減圧乾燥した。以上の操作によりBurkholderia thailandensis DSM13276株のDNA標品を得た。
【0080】
[実施例12]
<PCR法による配列表配列番号2に示す遺伝子の増幅>
pTip QC1又はpTip QC2(特許第3944577号公報、及び特許第3793812号公報)のマルチクローニングサイトNdeI及びBamHI部位に配列表配列番号2の遺伝子を挿入するように、配列表配列番号3と配列表配列番号4のプライマーを設計した。PCRは、KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)を用いた。PCR条件は、使用説明書記載の方法に従った。得られた約1.0kbpのPCR産物は、例えばQIAGEN QIAquick PCR Purification Kitを用いる等、常法に従って精製した。
【0081】
[実施例13]
<発現ベクターとのライゲーション>
実施例12で精製したPCR産物をNdeI及びBamHIにより常法に従って制限酵素処理した。このインサートは常法に従って精製した。インサートはNdeI及びBamHIにより制限酵素処理し精製したpTip QC1又はpTip QC2と常法に従ってライゲーションし、pTip QC1/BthNK及びpTip QC2/BthNKを作成した。pTip QC1/BthNK及びpTip QC2/BthNKを大腸菌 DH5αに常法に従って形質転換し、コロニーダイレクトPCR法によるポジティブクローンから精製した組換体プラスミドは、DNAシーケンスによりインサート配列が正しい事を確認した。
【0082】
[実施例14]
<pTip QC1/BthNK、及びpTip QC2/BthNKのRhodococcus erythropolisへの形質転換>
pTip QC1/BthNK、及びpTip QC2/BthNKのRhodococcus erythropolisへの形質転換は特開2004−073116号公報等に記載の方法に従いエレクトロポレーション法(電気穿孔法)で実施した。エレクトロポレーション条件は次のようにした。コンピテントセルを融解し、pTip QC1/BthNK、又はpTip QC2/BthNKと混合して、2mmの専用チャンバーに入れ、7.5mS、2500V、25μF、400Ωでパルスをかけた。これにより、pTip QC1/BthNK、及びpTip QC2/BthNKの形質転換体をそれぞれ3株得た。
【0083】
[実施例15]
<発現チェック>
実施例14で得た形質転換体それぞれ3株を、34μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB培地に植菌した。30℃で2日間培養してシードとした。34μg/mlのクロラムフェニコールと1μg/mlのチオストレプトンを含むLB培地に上記のシードを1/10量植菌し、30℃で1日間培養した。培養液を遠心分離して集菌し、培養液の1/5倍量の20mM Tris/HCl緩衝液(pH7.5)に懸濁、超音波破砕して、遠心分離し、得られた上清を粗蛋白質液とした。粗蛋白質液のSDS−PAGEを図7に示す。これより本発明の蛋白質の大量発現が確認された。尚、図7(A)中矢印がpTip QC1/BthNK、図7(B)中矢印がpTip QC2/BthNKの形質転換体で発現した本発明の蛋白質である。尚、実施例14で得た形質転換体いずれの3株についても、同様の結果が得られた。
【0084】
[実施例16]
<pTip QC1/BthNK形質転換体から本発明の蛋白質の精製>
実施例15でpTip QC1/BthNK形質転換体を培養して得られた粗蛋白質液を0.1Mの塩化ニッケル、及び0.3Mの塩化ナトリウムを含む50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したCherating Sepharose FF(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に吸着させた。0.3Mの塩化ナトリウムを含む50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)で充分に洗浄した後、10%グリセロールおよび0.3Mの塩化ナトリウムを含む50mMのリン酸緩衝液(pH6.0)で充分に洗浄した。0.4M イミダゾール、10%グリセロールおよび0.3Mの塩化ナトリウムを含む50mMのリン酸緩衝液(pH6.0)にて溶出した。活性画分は0.03Mの塩化ナトリウム、0.05Mの塩化カリウムおよび1mMのDTTを含む30mMのリン酸緩衝液(pH7.0)で透析して本発明の精製蛋白質を得た。1Lの培養で約80mgの精製蛋白質を得た。
【0085】
[実施例17]
<pTip QC2/BthNK形質転換体から本発明の蛋白質の精製>
実施例15でpTip QC2/BthNK形質転換体を培養して得られた粗蛋白質液を10mMのTris/HCl緩衝液(pH8.0)で平衡化したQ sep.BB(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に吸着させた。10mMのTris/HCl緩衝液(pH8.0)で充分に洗浄した後、0及び0.5Mの塩化カリウムを含む10mMのTris/HCl緩衝液(pH8.0)を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分に最終濃度15%になるように硫酸アンモニウムを添加し、15%の硫酸アンモニウムを含む10mM リン酸カリウム緩衝液pH7.5で平衡化したPhenyl sep.FF(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に吸着して15及び0%の硫酸アンモニウムを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分は10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で平衡化したG−25(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)で脱塩した後、10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で平衡化したDEAE sep.FF(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に吸着させた。10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で充分に洗浄した後、0及び0.5Mの塩化カリウムを含む10m Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分は10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したG−25で脱塩して本発明の精製蛋白質を得た。1Lの培養で約50mgの精製蛋白質を得た。
【0086】
[実施例18]
<pETシステム(Novagen社製)を使用した本発明の蛋白質の発現>
実施例13で得られたインサートは、NdeI及びBamHIにより制限酵素処理し精製したpET21a(+)と常法に従ってライゲーションし、pET21a(+)/BthNKを作成した。pET21a(+)/BthNKを大腸菌BL21(DE3)に常法に従って形質転換し、コロニーダイレクトPCR法によるポジティブクローンから精製した組換体プラスミドは、DNAシーケンスしてインサート配列が正しい事を確認した。
得られた形質転換体3株を50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地に植菌した。30℃で1日間培養してシードとした。50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地に上記のシードを1/100量植菌し、30℃で一日培養した。培養液中の濃度が1mMになるようにIPTGを加え、更に30℃で3時間培養した。培養液を遠心分離して集菌し、培養液の1/5倍量の20mM Tris/HCl緩衝液(pH8.5)に懸濁、超音波破砕して、遠心分離し、得られた上清を粗蛋白質液とした。粗蛋白質液のSDS−PAGEを図8に示す。これより、本発明の蛋白質の大量発現が確認された。尚、図中矢印が本発明の蛋白質である。
【0087】
[実施例19]
<ヌクレオシドのリン酸化方法とリン酸化ヌクレオシド製造>
実施例17により調製した本発明の蛋白質を使用し、ヌクレオシドのリン酸化剤として下記の[混合物]を調製し、アデノシンのリン酸化方法を実施して、アデノシンからリン酸化アデノシン(AMP)を製造した。[混合物]1mlに、最終濃度1mMとなるようにアデノシンを添加して37℃で30分間アデノシンのリン酸化方法を実施した。アデノシンのリン酸化方法を実施後の[混合物]を精製水で10倍に希釈して、25μlをHPLCで分離した。HPLCは昭和電工社製のAsahipak GS−320を使用し、移動相は200mM リン酸ナトリウム緩衝液pH3.0、流速は0.5ml/minで室温において実施し、260nmの吸光をモニターした。アデノシンのリン酸化方法を実施後のクロマト図を図9の(C)、実施前のクロマト図を図9の(B)に示す。図9の(A)は同じHPLC条件で、標品のATP、ADP、AMP、及びアデノシン混合物をHPLCで分離したクロマト図である。本発明の蛋白質を使用したヌクレオシドのリン酸化剤で、アデノシンのリン酸化方法を実施して、アデノシンからリン酸化アデノシン(AMP)を製造することができた。盲検は実施例17で取得した本発明の蛋白質の代わりに精製水を使用して実施し、実施前後のクロマト図が図9の(B)と変化無いことを確認した。
[混合物]:
50mM Tris/HCl緩衝液 pH 7.5
2.5mM ATP
5mM 塩化マグネシウム
5mU/ml 実施例17により調製した本発明の蛋白質
【0088】
[実施例20]
<ヌクレオシドの測定方法1>
実施例17により調製した本発明の蛋白質を使用し、ヌクレオシドのリン酸化剤として下記[混合物1]及び[混合物2]を作成し、アデノシン、イノシン、及びグアノシンの混合物の測定方法を実施した。測定には日立7080形自動分析機を使用した。パラメーターはサンプル5μl、R1として[混合物1]を100μl、R2として[混合物2]を100μl、測定主波長は340nm、測定副波長は405nm、1ポイントエンド、10分反応、0−31とし、精製水によるブランクを差し引いた。試料としてアデノシン、イノシン、及びグアノシンの1:1:1混合物を合計濃度で図10の横軸の範囲で調整して、測定した結果を図10に示した。本発明の蛋白質を使用したヌクレオシドのリン酸化剤で、アデノシン、イノシン、及びグアノシン混合物の測定が実施できた。
[混合物1]:
20mM リン酸カリウム緩衝液 pH7.0
10mM ATP(pH7)
20mM 塩化マグネシウム
0.25U/ml 実施例17により調製した本発明の蛋白質
50mM 塩化カリウム
[混合物2]:
20mM リン酸カリウム緩衝液 pH7.0
20mM グルコース
20mM 塩化マグネシウム
50mM 塩化カリウム
5mM NADP
5U/ml グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ
5U/ml ADP依存性HK
【0089】
[実施例21]
<ヌクレオシドの測定方法2>
実施例17により調製した本発明の蛋白質を使用し、ヌクレオシドのリン酸化剤として下記[混合物]を作成し、アデノシン、イノシン、及びグアノシンの測定方法を実施した。測定には日立7080形自動分析機を使用した。パラメーターはサンプル3μl、R1として[混合物]を130μl、測定主波長は340nm、測定副波長は405nm、レートA、5分反応、7−9とし、精製水によるブランクを差し引いた。試料としてアデノシン、イノシン、及びグアノシンをそれぞれ図11〜図13の横軸の範囲で調整して測定した結果を図11〜図13に示した。本発明の蛋白質を使用したヌクレオシドのリン酸化剤を作成し、アデノシン、イノシン、及びグアノシンの測定が実施できた。
[混合物]:
50mM リン酸カリウム緩衝液 pH7.0
50mM 塩化カリウム
1mM ATP(pH7)
0.5mM 塩化マグネシウム
0.5mM PEP
0.1mM NADH
50U/ml ピルビン酸キナーゼ
15U/ml 乳酸脱水素酵素
2mM DTT
25mU/ml 実施例17により調製した本発明の蛋白質
【0090】
[実施例22]
<ヌクレオシドの測定方法3>
実施例17により調製した本発明の蛋白質を使用し、ヌクレオシドのリン酸化剤として下記[混合物]を作成し、アデノシン、イノシン、及びグアノシンの測定方法を実施した。測定には日立7080形自動分析機を使用した。パラメーターはサンプル3μl、R1として[混合物]を130μl、測定主波長は340nm、測定副波長は405nm、レートA、5分反応、7−9とし、精製水によるブランクを差し引いた。試料としてアデノシン、イノシン、及びグアノシンをそれぞれ図14〜図16の横軸の範囲で調整して測定した結果を図14〜図16に示した。本発明の蛋白質を使用したヌクレオシドのリン酸化剤を作成し、アデノシン、イノシン、及びグアノシンの測定が実施できた。
[混合物]:
20mM リン酸カリウム緩衝液 pH7.0
20mM グルコース
1mM ATP(pH7)
1mM 塩化マグネシウム
1mM NADP
50mM 塩化カリウム
5U/ml グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ
5U/ml ADP依存性HK
6mU/ml 実施例17により調製した本発明の蛋白質
【0091】
[実施例23]
実施例17により調製した本発明の精製蛋白質、及び実施例18により調製した本発明の粗蛋白質液を実施例17と同様の方法で精製蛋白質とした実施例18の本発明の精製蛋白質を、同時に上述の理化学的性質<1>〜<5>の比較を行った。その結果、該2種類の本発明の精製蛋白質は、上述の理化学的性質<1>〜<5>を備える蛋白質であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明により、ヌクレオシドに作用して、リン酸化ヌクレオシドを生ずる反応を触媒する蛋白質の製造方法が提供される。本発明の蛋白質は各種医薬品原料、生化学研究試薬、又は栄養剤原料等として重要であるリン酸化ヌクレオシドの製造に利用できる他、生体試料中のヌクレオシドの測定に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の蛋白質の至適pHを示す図である。
【図2】本発明の蛋白質のpH安定性を示す図である。
【図3】本発明の蛋白質の熱安定性を示す図である。
【図4】本発明の蛋白質のSDS−PAGEの結果を示す図である。
【図5】本発明の蛋白質の各温度におけるイノシンをリン酸化する相対活性を示す図である。
【図6】本発明の蛋白質の各温度におけるイノシンをリン酸化する反応速度を示す図である。
【図7】(A)pTip QC1/BthNK形質転換Rhodococcus erythropolisを培養して得られた、粗蛋白質液のSDS−PAGEの結果を示す図である。(B)pTip QC2/BthNK形質転換Rhodococcus erythropolisを培養して得られた、粗蛋白質液のSDS−PAGEを示す。
【図8】pET21a(+)/BthNK形質転換大腸菌BL21(DE3)を培養した、粗蛋白質液のSDS−PAGEの結果を示す図である。
【図9】(A)標品のATP、ADP、AMP、及びアデノシン混合物を実施例19に記載の条件によるHPLCで分離したクロマト図である。(B)実施例19に記載のアデノシンのリン酸化方法を実施前のクロマト図である。(C)実施例19に記載のアデノシンのリン酸化方法を実施後のクロマト図である。
【図10】実施例20のヌクレオシドのリン酸化剤を用いて、アデノシン、イノシン、及びグアノシン混合物を測定した結果を示す図である。(実施例20)
【図11】実施例21のヌクレオシドのリン酸化剤を用いて、アデノシンを測定した結果を示す図である。(実施例21)
【図12】実施例21のヌクレオシドのリン酸化剤で、イノシンを測定した結果を示す図である。(実施例21)
【図13】実施例21のヌクレオシドのリン酸化剤で、グアノシンを測定した結果を示す図である。(実施例21)
【図14】実施例22のヌクレオシドのリン酸化剤で、アデノシンを測定した結果を示す図である。(実施例22)
【図15】実施例22のヌクレオシドのリン酸化剤で、イノシンを測定した結果を示す図である。(実施例22)
【図16】実施例22のヌクレオシドのリン酸化剤で、グアノシンを測定した結果を示す図である。(実施例22)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)から(3)のいずれかの蛋白質の製造方法であって、
該蛋白質をコードする塩基配列に基づき該蛋白質を形成する工程と、該蛋白質を取得する工程を含む該蛋白質の製造方法。
(1)配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質、
(2)配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質、
(3)下記の<1>〜<5>の理化学的性質を有する蛋白質、
<1>作用
少なくともリン酸供与体存在下で、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす反応を触媒する;
<2>基質特異性
アデノシン、イノシン、及びグアノシンに作用し、シチジン及びキサントシンに実質的に作用しない。又、リボースに実質的に作用しない;
<3>至適pH
pH5.5〜7.5;
<4>pH安定性
37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持する;
<5>熱安定性
100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持する;
【請求項2】
該蛋白質をコードする塩基配列に基づき該蛋白質を形成する工程が、Burkholderia属に属し、且つ、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質を産生する微生物を用いる工程である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
該蛋白質をコードする塩基配列に基づき該蛋白質を形成する工程において形成された該蛋白質を取得するに際して、蛋白質を精製する工程をさらに含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
該蛋白質をコードする塩基配列が、配列表配列番号2で表される塩基配列である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
下記(1)から(3)のいずれかの蛋白質を用いる、ヌクレオシドのリン酸化方法。但し、該ヌクレオシドは、シチジン及びキサントシンを除くヌクレオシド。
(1)配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質
(2)配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質、
(3)下記の<1>〜<5>の理化学的性質を有する蛋白質、
<1>作用
少なくともリン酸供与体存在下で、ヌクレオシドをリン酸化ヌクレオシドとなす反応を触媒する;
<2>基質特異性
アデノシン、イノシン、及びグアノシンに作用し、シチジン及びキサントシンに実質的に作用しない。又、リボースに実質的に作用しない;
<3>至適pH
pH5.5〜7.5;
<4>pH安定性
37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持する;
<5>熱安定性
100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持する;
【請求項6】
該蛋白質が、Burkholderia thailandensis由来である請求項5に記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
【請求項7】
該蛋白質が、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分子量が約34kDaである蛋白質であるか、又は少なくともマグネシウムイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン又はマンガンイオンを利用する蛋白質であるか、又は少なくとも37℃においてヌクレオシドをリン酸化する反応を触媒する蛋白質であるか、のいずれかである請求項6に記載のヌクレオシドのリン酸化方法。
【請求項8】
下記(a)〜(c)の各工程を含むヌクレオシドの測定方法。但し、該ヌクレオシドは、シチジン及びキサントシンを除くヌクレオシド。
(a)下記(1)から(3)のいずれかの蛋白質と、ATPの存在下、試料中に含まれている可能性のあるヌクレオシドがリン酸化ヌクレオシドとADPを生成する第一の反応を含む工程、
(1)配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質、
(2)配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号5のアミノ酸配列及び配列表配列番号6のアミノ酸配列を含む、ヌクレオシドのリン酸化反応を触媒し得る蛋白質、
(3)下記の<1>〜<5>の理化学的性質を有する蛋白質、
<1>作用
ATPとヌクレオシドに作用して、ADPとリン酸化ヌクレオシドを生ずる反応を触媒する;
<2>基質特異性
アデノシン、イノシン、及びグアノシンに作用し、シチジン及びキサントシンに実質的に作用しない。又、リボースに実質的に作用しない;
<3>至適pH
pH5.5〜7.5;
<4>pH安定性
37℃、3時間でpH6〜10の範囲で70%以上の活性を保持する;
<5>熱安定性
100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0の水溶液中、50℃、20分間の熱処理で80%以上の活性を保持する;
(b)上記第一の反応とは別異の第二の反応又は第二の複数の反応と、その反応を触媒する第二の酵素又は第二の複数の酵素の存在下、上記第一の反応により生ずるADPの量に応じて、第二の反応により測定対象の変化を生ぜしめる工程、
(c)該測定対象の変化量を検出し、試料中に含まれている可能性のあるヌクレオシドの量を測定する工程、


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−100718(P2009−100718A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278072(P2007−278072)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】