説明

蛋白質及びカルシウム補給用ゲル状組成物

本発明は、次の各成分:pH3〜4で凝集しない蛋白質又はその加水分解物3〜8重量%、カルシウム0.1〜0.5重量%、酸味料0.5〜3重量%、糖質4〜20重量%、脂質0〜5重量%、乳化剤0〜0.5重量%、寒天0.1〜1重量%及び水65〜90重量%を含有し、pHが3〜4の範囲にある、蛋白質及びカルシウム補給用ゲル状組成物を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、蛋白質及びカルシウムを高濃度で含有し、酸性pHに調整された、清涼感のあるゲル状栄養補給組成物に関する。
【背景技術】
近年、健康、シェイプアップ、ダイエット等に対する人々の意識力高まり、例えばジョギング、サイクリング、登山等のスポーツをする人の数が増えている。このような中、エネルギーを補強すると共に、筋肉等の体蛋白質を増加させ、併せて体内のカルシウム量を増加させるために、良質の蛋白質及びカルシウムを容易かつ簡便に摂取できる食品組成物が望まれている。
一方、高齢化社会になった場合には、加齢に伴う筋肉量及び骨密度の減少、更にはサルコペニア(筋肉萎縮)、又は女性によくみられがちな骨粗鬆症などの症状を示す患者の増加が懸念されており、これらを阻止・改善するために役立ち得る食品組成物が必要とされている。
更に病院においては、術後の回復期、骨折の際のリハビリテーション時、肝疾患回復期、腎疾患の回復期等における患者が、ベッド上で容易及び簡便に摂取できる、良質の高蛋白及びカルシウム補給用食品が望まれている。
最近、新しい飲食品形態として、数種のゼリー様飲料が、清涼飲料市場において販売されている。ゼリー様飲料とは固まっているゼリーを振盪などによって崩した後、飲食するものであり、その特有のゲルの柔らかさ、喉越しや食感のおもしろさが、現代人の嗜好に合致するものとしで注目されている。
しかしながら、これらのゼリー様飲料は、一般の清涼飲料を模してPHが酸性に調整されており、保存性はよいが、蛋白質又はカルシウムなどを殆ど含んでおらず、蛋白質及びカルシウムを十分に補給し得る組成にはなっていない。
一方、本発明者は、主要な栄養素をバランスよく配合した栄養組成物(日本特許公告平06−083653号公報)及び高蛋白質高粘性栄養補給食品組成物(日本特許公告平07−102112号公報)を既に開発していた。しかし、これらの組成物に蛋白質及びカルシウムを高濃度で含有させて、ゲル状組成物とするには種々の困難があった。
一方、嚥下障害者に適した栄養補給のためのゲル状食品およびその製造方法が開発されていた(国際公開第99/34690号パンフレット)。このゲル状食品は、蛋白質、脂質などの必要な栄養素をバランスよく含有している。また、清涼感のある酸性のPHに調整されている。しかも飲料適性及び嚥下可能性を有するゲル状食品である。しかし、該ゲル食品は、ゲル自体が蛋白質の等電点ゲル(蛋白質から形成されるゲル)と、ペクチン、キサンタンガムなどのゲル化剤(増粘剤)のゲルとの複合ゲルであることから、以下のような難点を有していた。即ち、該ゲルは、蛋白質を凝集(ゲル化)した後、ホモジナイズし、得られる乳化液をゲル化剤によりゲル化したものである。そのため、ホモジナイズの程度によっては蛋白質のゲルが舌触りに悪影響を与えるという難点がある。しかも、このゲル食品は、長期保存によって経時的に製品のpHが低下し、それに伴ってゲルが経時的に劣化(強度低下、一部崩壊、離水など)し、製造当初の飲食適性(咀嚼容易な適度の硬さと粘度)を有する均質なゲル状形態を維持し得ない。
【発明の開示】
本発明の主な目的は、蛋白質とカルシウムを高濃度で含有し、また清涼感のある酸性pHと飲食(喫飲)に適した柔らかいゲル状形態を有しており、しかも該ゲル状形態を長期間安定に保持し得る、蛋白質及びカルシウム補給用ゲル状組成物を提供することにある。
本発明者らは、蛋白質及びカルシウム高含有組成物をゼリー様飲料形態とすることができれば、飲食適性に優れ、総合的な栄養補給が可能な飲食品が得られるとの着想から研究を重ねた。しかし、蛋白質などを比較的高濃度で含有する組成物を、公知のゼリー様飲料の如く清涼感のある酸性pHに調整すると、蛋白質が凝集して均一なゲル状形態とはならず、ザラツキが生じて食感が損なわれることがあった。またカルシウムを高濃度で含有した飲料は、緩衝力が強く、酸性領域にするために多量の有機酸を要し、強烈な酸味となること、また、カルシウムの収斂味があることなどの難点があった。
しかるに、本発明者らは、更に研究を重ねた結果、特定成分を特定の量で配合する場合には、上記目的に合致する蛋白質及びカルシウム補給用ゲル状組成物が得られることを見出し、更に検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は次のゲル状組成物に係る。
1.下記各成分を含有し、pHの範囲が3〜4のゲル状物である蛋白質及びカルシウム補給用ゲル状組成物。
pH3〜4で凝集しない蛋白質又はその加水分解物 3〜8重量%
カルシウム 0.1〜0.5重量%
酸味料 0.5〜3重量%
糖質 4〜20重量%
脂質 0〜5重量%
乳化剤 0〜0.5重量%
寒天 0.1〜1重量%
水 65〜90重量%
2.果汁、醗酵乳、難消化性デキストリン、還元難消化性デキストリン、ニゲロオリゴ糖及びトレハロースからなる群から選ばれる少なくとも1種のマスキング剤0.1〜20重量%を更に含有する項1に記載のゲル状組成物。
3.ビタミンD0.1×10−6〜10×10−6重量%を更に含有する項1又は2のいずれかに記載のゲル状組成物。
4.PH3〜4で凝集しない蛋白質が、ホエイ蛋白濃縮物、ホエイ蛋白分離物、脱塩ホエイおよび数平均分子量が500〜10000である蛋白加水分解物からなる群から選ばれる少なくとも1種である項1〜3のいずれかに記載のゲル状組成物。
以下、本明細書においては、特に断らない限り、「%」は「重量%」を表すものとする。
本発明の蛋白質及びカルシウム補給用ゲル状組成物は、喫飲に特に適した柔らかいゲル状形態と爽やかな食感が長期間安定に保持されるという特徴を有している。
ゲル状形態である本発明の組成物は、例えば飲料として吸い口付き容器に充填した場合、該吸い口から容易に飲食できる流動性を有する。しかもその際、好適な舌触りとのど越し感を奏し得る適度の硬さおよび粘度を有する。
また本発明のゲル状組成物は、特定の成分を組合わせ、pHを3〜4、好ましくは3.5〜4の酸性域に調整したことに基づき、爽やかな食感を有する。
そして本発明組成物の該ゲル状形態と食感は、長期間安定に保持され、例えば37℃で1ヶ月放置後も、製造当初と実質的に同一のpHおよびゲル状形態が維持される。
しかも、本発明ゲル状組成物は、蛋白質及びカルシウムを高濃度で含有しているにも拘わらず、蛋白質の凝集乃至凝固によるムラ、ざらつきや、カルシウムの収斂味がなく、喫飲適性および食感に優れている。また、外観も滑らかで均質なものである。
また、本発明ゲル状組成物は、上記の通り、蛋白質、カルシウム、糖質、脂質などの人体に必要な栄養素を豊富に且つバランスよく配合したものであるため、その摂取によって、良好な栄養補給効果を奏し得る。
以下、本発明のゲル状組成物について、具体的に説明する。
蛋白質
本発明ゲル状組成物において必須成分となる蛋白質は、糖質および脂質と共に、三大栄養素の一つである。該蛋白質は、本発明ゲル状組成物が有するpH、即ちpH3〜4で凝集しないものから選択される。該蛋白質としては、例えばホエイ蛋白濃縮物(WPC,Whey Protein Concentrate)、ホエイ蛋白単離物(WPI,Whey Protein Isolate)及び脱塩ホエイなどの蛋白質、並びに数平均分子量が500〜10000である蛋白質加水分解物(ペプチド類、一部アミノ酸を含んでいてもよい)などを例示することができる。これらの内では、WPC、WPI及びゼラチンペプチドが好ましい。
WPCおよびWPIは、チーズおよびカゼインの製造過程で得られる乳製品副産物であるホエイリキッドを原料として、濾過、イオン交換、晶出、沈殿及び/又は逆浸透などの操作を行うことによって得られるホエイ製品であり、製造業者によって若干の差はあるが、それらの蛋白質組成をはじめとする各種物性は、ほぼ表1の通りである(New Food Industry,25(3),33(1983)等参照)。

脱塩ホエイは、低温殺菌したホエイから、沈殿、濾過、透析など分離技術に従い無機質を取り除いて得られるものである。通常、その糖質含量は79%であり、脂質含量は2%であり、蛋白質含量は13%であり、灰分含量は7%未満である。
WPC.WPI又は脱塩ホエイなどを用いる場合、本発明のゲル状組成物における蛋白質の配合割合は、WPC、WPI又は脱塩ホエイ中の蛋白質分に相当する分量で表される。
数平均分子量が500〜10000である蛋白質加水分解物としては、上記pH3〜4の範囲で凝集しない蛋白質、或いは、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白又は小麦蛋白などの蛋白質を、酵素又は酸などを用いて加水分解して上記所定の分子量としたペプチドを例示することができる。これらは通常100個迄のアミノ酸がペプチド結合したペプチドからなるが、一部アミノ酸を含んでいてもよい。
本発明の組成物における蛋白質としては、上記に例示されるようなpH3〜4において凝集しない蛋白質を1種単独で使用することもでき、または2種以上混合して使用することもできる。
本発明のゲル状組成物中への蛋白質の配合割合は3〜8%程度、好ましくは4〜7%程度の範囲とするのが適当である。
この範囲内での配合によって、栄養バランスが適切で、蛋白質を効率よく補給できる組成物とすることができる。
本発明においては、必要に応じて、上記pH3〜4において凝集しない蛋白質と共に、酸性領域において凝集する蛋白質を併用することができる。
酸性領域において凝集する蛋白質の具体例としては、例えばカゼイン、大豆蛋白又は小麦蛋白などを挙げることができる。また、カゼイン、大豆蛋白又は小麦蛋白などの蛋白質の塩類、発酵産物、抽出物又は濃縮物なども用いることができる。また、全脂粉乳、脱脂粉乳なども用いることができる。これらの内では、蛋白質の発酵産物であるヨーグルト、チーズなどが好ましい。これらは1種単独または2種以上混合して用いることができる。
pH3〜4において凝集しない蛋白質と酸性領域において凝集する蛋白質との併用によれば、蛋白質成分のバランス調整や呈味性を改善できる場合がある。
但し、酸性領域において凝集する蛋白質の本発明組成物中への配合量は、本発明組成物のゲル状形態、食感(舌触り)などの特徴を損なわない量とする必要がある。該量は、本発明ゲル状組成物中に1%未満となる量とするのが適当である。
カルシウム
本発明のゲル状組成物においては、カルシウムを必須成分とする。カルシウムは、骨や歯を作り、血液のカルシウムレベルを正常に維持し、骨や歯の健康を維持する。また血液や心臓、筋肉などの機能を円滑に作用させる重要な栄養成分であって、十分な摂取が必要とされている。特に、現代人は、食事によるカルシウムの摂取不足が指摘されており、カルシウム補給が強く望まれている。
しかし、カルシウムを高濃度に配合した飲料は、緩衝力が強く、酸性領域にするために多量の有機酸を要するため、強烈な酸味を呈するという問題があった。また、カルシウムの収斂味という問題もあった。
本発明においては、他の配合成分やカルシウム原料を選択し、配合割合を特定の範囲に設定することにより、酸味、収斂味を抑制することを可能とした。
カルシウム分を含有する物質としてゲル状組成物に配合されるカルシウム原料としては、天然物由来カルシウム原料、合成カルシウム原料等が用いられる。
天然物由来カルシウム原料としては、ミルクカルシウム、貝カルシウム、サンゴカルシウム、卵殻カルシウム、骨カルシウム、ドロマイト等が挙げられる。
合成カルシウム原料としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、グルコン酸カルシウム等が挙げられる。
このうち、特に、天然物由来カルシウム原料が、味覚及びテクスチャー(食感)が良好な点で好ましい。
カルシウムの配合割合は、ゲル状組成物中に0.1〜0.5%、好ましくは0.1〜0.4%の範囲とするのが適当である。この範囲とすることによって、栄養バランスが適切で、カルシウムを効率よく補給できる組成物とすることができる。
なお、本発明におけるカルシウムの配合割合は、カルシウム原料中のカルシウム分に相当する分量で表される。
酸味料
本発明ゲル状組成物においては、該組成物のpHを3〜4、好ましくは3.5〜4に調整するために、酸味料を配合する。酸味料は、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、グルコン酸、リン酸、フィチン酸および乳酸からなる群から選ばれる少なくとも2種の酸成分を併用することが好ましい。クエン酸はクエン酸・3Naとして用いてもよい。
酸味料は、本発明ゲル状組成物中に0.5〜3%程度、好ましくは0.5〜2%程度の範囲で配合される。これにより、所望の食感への改善およびpH調節作用又は緩衝作用が奏され得る。
尚、本明細書におけるpHの値は、ガラス電極法により求められるpHの値である。
糖質
本発明ゲル状組成物においては、糖質を必須成分とする。糖質は三大栄養素の一つであり、肝臓や筋肉にグリコーゲンとして貯蔵され、運動時などにエネルギー源として消費される。
糖質は、この種の栄養補給用組成物に慣用される一般的な糖質から適宜選択して用いることができる。具体的には、グルコース、フラクトースなどの単糖類;マルトース、蔗糖などの二糖類;キシリトール、ソルビトール、グリセリン、エリスリトールなどの糖アルコール類;デキストリン、シクロデキストリンなどの多糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類などが例示される。
これらの糖質は1種を単独で用いることもでき、また2種以上を併用することもできる。
2種以上を併用する場合には、例えば異性化糖、精製白糖などの糖質混合物として市販されているものを使用することも勿論可能である。
これらの糖質には、例えば蔗糖のように、単に栄養源としてのみならず、甘味料としても機能するものが包含される。甘味料として機能する糖質は、得られるゲル状組成物に甘味を与えるため、その利用が好ましい。
糖質の配合量は、本発明ゲル状組成物中に、4〜20%程度、好ましくは4〜18%程度、更に好ましくは5〜16%程度とされるのが適当である。
上記範囲内での利用によって、糖質を適量補給できる栄養バランスのよい組成物とすることができる。
脂質
本発明ゲル状組成物には、栄養補給を目的として、脂質を配合することができる。該脂質は、例えば長期に亘る運動時などにおいて、前記糖質成分に代わってエネルギー源として消費される。
脂質としては、具体的には、必須脂肪酸源としての長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などが挙げられる。
LCTは、通常炭素数11以上の脂肪酸を持つトリグリセライドであって、例えば大豆油、綿実油、サフラワー油、コーン油、米油、ヤシ油、シソ油、ゴマ油、アマニ油などの植物油、イワシ油、タラ肝油などの魚油、ガマ油などが挙げられる。
またMCTは、通常炭素数が8〜10の脂肪酸を持つトリグリセライドであって、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸などが挙げられる。MCTは、易吸収性、易燃焼性、難蓄積陸を特徴としている。
LCTおよびMCTは、1種単独で用いてもよく、LCTからなる群から選ばれる2種以上の混合物又はMCTからなる群から選ばれる2種以上の混合物として用いてもよく、LCTとMCTとの混合物として用いてもよい。
脂質の配合割合は、本発明ゲル状組成物中に、0〜5%程度、好ましくは0〜3%程度、更に好ましくは0.1〜3%程度である。
この範囲内での配合によって、栄養分をバランスよく補給できる組成物とすることができる。
乳化剤
脂質は、油性であり、水中に容易に溶解しないので、通常水中油型エマルジョンの形態で本発明に利用する。従って、本発明組成物において脂質を配合する場合は、その調製に当たって、該脂質を乳化させるための乳化剤の利用が必要である。該乳化剤は、従来より飲食品分野で利用されている各種のものから適宜選択して使用することができる。本発明ゲル状組成物が所定の酸性pHに調整されることを考慮すると、該乳化剤は耐酸性を有するものから選ばれるのが好ましい。
その代表例として、グリセリン脂肪酸エステル類を例示することができる。グリセリン脂肪酸エステル類としては、この種の食品分野で乳化剤としての利用が知られている各種のものを用いることができる。例えば高純度モノグリセライド、反応モノグリセライド、高純度ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリンエステルなどに分類される各種のものをいずれも利用することができる。
市販品としては、「サンソフト」(トレードマーク、太陽化学社製)、「エマルジー」(トレードマーク、理研ビタミン社製)、「リョートー」(トレードマーク、三菱化学社製)などを挙げることができる。
グリセリン脂肪酸エステル類以外の乳化剤でも、この種の食品分野で利用されるものであれば、本発明に利用することができる。
例えば卵黄レシチン、水素添加卵黄レシチン、大豆レシチン、水素添加大豆レシチンなどのリン脂質;ポリオキシエチレンモノオレート(例えば「ツイーン80」(市販品としてはAMR社製品が挙げられる))などの合成界面活性剤、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどを用いることができる。
乳化剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。通常、2種以上の併用が好ましい。
乳化剤は、本発明ゲル状組成物中に0〜0.5%程度、好ましくは0〜0.3%程度となる割合で配合される。
尚、本発明ゲル状組成物の製造に際して、蛋白質、クエン酸およびその他の酸成分を予め混合して乳化液又は分散液を調製する場合、該乳化液中における乳化剤の配合割合は、1〜5%程度、好ましくは3〜5%程度の濃度となる割合とするのがよい。
寒天
本発明ゲル状組成物は、寒天を必須のゲル化剤として含有する。タンパク質やカルシウムを高濃度で含有している飲料は、一般的に使用しているジェランガムやカラギーナンといったカチオン反応性を持ったゲル化剤でゲル化させることは困難である。しかし、寒天のような反応性のないゲル化剤を配合することで、良好な清涼感のあるゲル状食品を得ることができる。
寒天としては、天草、オゴノリ、オバクサ、イタニクサなどの紅藻類を原料として熱水抽出して凝固させたものを乾燥させた各種のものをいずれも使用することができる。この寒天には、糸寒天、棒寒天、フレーク寒天、粉末寒天などが含まれる。
寒天の配合割合は、組成物中に0.1〜1%程度、好ましくは0.2〜0.8%程度とするのが適当である。
この範囲での寒天の利用によって、本発明の所期する、均質で、飲食適性に優れたゲル状組成物とすることができる。
他のゲル化剤または増粘剤
本発明組成物においては、更に必要に応じて、従来より食品分野でゲル化剤及び/又は増粘剤として汎用されている各種の物質を上記寒天と併用して用いることができる。
ゲル化剤としては、例えばジェランガム、カラギーナン、ペクチン、ゼラチンなどが挙げられる。
また、増粘剤としては、例えばファーセレラン、ローカストビーンガム、グアーガム、アラビアガム、キサンタンガムなどが挙げられる。
これらの内、ゲル化剤としては、ジェランガム、カラギーナン、ペクチンおよびゼラチンが好ましく、特にジェランガムが好ましい。また増粘剤としては、ローカストビーンガム、グアーガムおよびキサンタンガムが好ましく、特にグアーガムが好ましい。
これらのゲル化剤および増粘剤はそれぞれ、1種単独で用いることもでき、2種以上併用して用いることもできる。
これらのゲル化剤及び/又は増粘剤は、適度なゲル化能とゲル安定化能を発揮し、得られるゲル状物のゲル強度の調整に役立つ。またその寒天との併用によって離水性の改善、食感の改善などを行うことができる。特に、寒天とグアーガム、又は寒天とジェランガムの併用が優れた食感が得られる点で好ましい。
上記ゲル化剤および増粘剤は、通常、本発明ゲル状組成物中に、それぞれ0.05〜0.3%程度の範囲で配合するのがよい。具体的に、寒天とグアーガム又はジェランガムとを併用する場合、本発明ゲル状組成物にグアーガム又はジェランガムを0.05〜0.3%程度の範囲で配合するのがよい。
マスキング剤
本発明においては、高濃度で蛋白質とカルシウムを配合することによる風味や香りの悪影響を抑制するために、更にマスキング剤を添加することが好ましい。
マスキング剤としては、例えば、果汁、発酵乳、難消化性デキストリン、還元難消化性デキストリン、ニゲロオリゴ糖、トレハロース等が挙げられる。
このうち、特に、果汁、難消化性デキストリンおよび還元難消化性デキストリンが、マスキング効果に優れる点で好ましい。
マスキング剤の配合割合は、組成物中に0.1〜20%、好ましくは0.5〜15%の範囲から選ばれるのが望ましい。この範囲でのマスキング剤の利用によって、カルシウムの収斂味を軽減させるという効果を特に優れたものとすることができる。
ビタミンD
本発明においては、カルシウムの吸収を高めるために、更に、ビタミンDを配合することが好ましい。カルシウムとビタミンDを併用して配合することで、腸管におけるカルシウム吸収促進作用や血中カルシウム濃度上昇作用などの有意な効果が得られる。
ビタミンDには、側鎖構造の異なるD及びDがあるが、本発明におけるビタミンDとしては、どちらも用いることができる。
その配合割合は、組成物中に0.1×10−6〜10×10−6重量%、好ましくは0.3×10−6〜5×10−6重量%の範囲から選択するのが望ましい。この範囲でのビタミンDの利用によって、腸管におけるカルシウム吸収促進と骨の強化という効果を特に優れたものとすることができる。
その他の添加剤
本発明ゲル状組成物には、上記各成分に加えて、更に所望により適当な添加剤成分を配合することができる。
該成分としては、天然甘味料(糖質を除く)、合成甘味料などの甘味料、ビタミン類、ミネラル類(電解質および微量元素)、天然香料、合成香料などの着香料、着色料、風味物質(チョコレートなど)、保存料、天然果汁、天然果肉などを例示することができる。
天然甘味料(糖質には属さない甘味料)としては、例えばソーマチン、ステビア抽出物(レバウディオサイドAなど)、グリチルリチンなどを挙げることができる。合成甘味料としては、サッカリン、アスパルテームなどを挙げることができる。糖質の添加量で不足する甘味を甘味料で補足する場合、甘味料の配合量は、組成物全体に対し、好ましくは0.01〜0.2%程度、より好ましくは0.02〜0.1%程度である。
ビタミン類としては、水溶性および脂溶性の各種ビタミン類、例えばビタミンA(レチノール類)、ビタミンB(チアミン)、ビタミンB(リボフラビン)、ビタミンB(ピリドキシン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ビタミンE(トコフェロール)、ナイアシン、ビスベンチアミン、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、葉酸、ビオチン、重酒石酸コリンなどを例示することができる。
特に好ましいビタミン類としては、例えば下記組成の総合ビタミン類(以下、総合ビタミン1という。)を挙げることができる。
ビタミンA 10〜2000IU
ビタミンB 0.01〜3.0mg
ビタミンB 0.01〜3.1mg
ビタミンB 0.01〜3.2mg
ビタミンB12 0.1〜30μg
ビタミンE 1〜100IU
ニコチン酸アミド 0.1〜30mg
パントテン酸カルシウム 0.1〜31mg
葉酸 0.01〜3.0mg
総合ビタミン類には、更にビタミンCを1〜500mg程度含有してもよい。
ミネラル類(電解質および微量元素)としては、通常知られているもの、例えば塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、リン酸二カリウム、リン酸一ナトリウム、クエン酸鉄、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸銅、硫酸亜鉛、ヨウ化ナトリウム、ソルビン酸カリウム、亜鉛、マンガン、銅、ヨウ素、コバルトなどを例示することができる。
着香料としては、例えばリンゴフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフルーツフレーバー、レモンフレーバーなどを例示することができる。これらは、天然香料、合成香料のいずれでもよい。
着色料としては、例えば赤色2号、赤色3号、緑色3号、青色1号、青色2号、黄色4号、黄色5号、赤キャベツ色素、オレンジ色素、クチナシ色素、クロロフィル、シソ色素、トマト色素、ベニバナ色素などを例示することができる。
風味物質としては、例えばチョコレートなどを例示することができる。
保存料としては、例えばブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、tert−ブチルヒドロキノン(TBHQ)、安息香酸、エゴノギ抽出物、カワラヨモギ抽出物、ヒノキチオール抽出物、ペクチン分解物、ホオノキ抽出物、レンギョウ抽出物などを例示することができる。
天然果汁、天然果肉としては、リンゴ、青リンゴ、オレンジ、ミカン、グレープフルーツ、モモ、イチゴ、マスカット、ブドウ、パインアップル、レモン、洋ナシ、ライチ、ブルーベリー、マンゴー,バナナなどの果汁又は果肉を例示することができる。
これらの内でも、ビタミン類およびミネラル類は、総合的な栄養補給を目的として好適に添加することができる。
これらの添加剤成分は、本発明におけるゲル状組成物において、1種単独で配合してもよく、また2種以上組み合わせて配合してもよい。
これら添加剤成分の配合割合は、特に限定されるものではないが、通常本発明ゲル状組成物100重量部に対して合計量が2重量部未満程度である。
組成物の製法
本発明の蛋白質及びカルシウム補給用ゲル状組成物は、まず上記各成分の所定量を、加温下に所定量の水と混合して乳化し、次いで冷却することにより調製される。上記乳化は、すべての成分を同時に水中に投入した後、例えば撹拌などの若干の機械的操作を加えることによって行うことができる。また予め水溶性成分を水溶液形態に調製し、これに油溶性成分と乳化剤またはこれらの混合物を加えて同様の撹拌などの機械的操作を行う方法によっても行うことができる。通常、より均質な乳化混合液を得るためには後者の方法によるのが好ましい。
上記各成分の混合操作(乳化操作)は、常温下に実施してもよいが、30〜60℃に加温して実施するのが好適である。
また上記乳化操作は、通常の方法に従い、適当な乳化機、例えばホモミキサー、高圧ホモジナイザーなどを用いて行うことができる。また、完全通過方式でもまた循環方式でも実施することができる。
本発明組成物の特に好ましい製造方法の具体例の一つとしては、例えば次の方法を挙げることができる。蛋白質、クエン酸および水の混合液(分散液)に、脂質、乳化剤、糖質、カルシウム素材およびその他の添加剤成分を添加して混合し、得られる乳化物を60℃前後に加温しておく。次いで、この乳化物と、予め80℃前後に加温した水中に寒天及び他のゲル化剤又は増粘剤を加熱溶解させた液とを混合する。
所望のゲル状飲料製品は、上記で得られる乳化液を、冷却することにより得ることができる。より好ましくは適当な容器に充填し、滅菌後、冷却することにより得ることができる。
容器としては、この種の飲料の収容容器として使用されている各種プラスチック製容器のいずれも用いることができる。容器の材質としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、延伸ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、エバール(エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、株式会社クラレ社製)およびこれらの樹脂とアルミ、紙などをラミネートした複合材料などを挙げることができる。市販されている具体的な容器としては、例えばソフトパウチ(フジシール株式会社製)、ボトルドパウチ(凸版印刷株式会社製)、スパウチ(大日本印刷株式会社製)、チアーパック(細川洋行社製)などを挙げることができる。
滅菌は、常法に従い加熱滅菌などにより実施できる。この場合、これが加温操作を兼ねるので、該滅菌操作に先立つ加温操作は不要である。
かくして調製される本発明ゲル状組成物は、良好な飲食適性を有し、安全に喫飲され得る。また該ゲル状組成物の喫飲によって蛋白質及びカルシウムを充分に補給でき、バランスのとれた栄養補給ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を更に詳しく説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれら実施例に限定されない。
尚、各例中、部および%は特記しない限り、重量部および重量%を示す。
【実施例1−10】
下記表2及び表3に示す各成分の所定量、およびその他の成分としてパイン果汁、総合ビタミン1及びパインフレーバーの適量を水に投入し、混合撹拌して全量を180gとした。次いで乳化させた後、80℃に昇温し、スパウチ(大日本印刷株式会社製)に充填して80℃で10分間加熱殺菌した後、冷却して、パウチ入りの本発明ゲル状飲料製品を得た。
表2及び表3において用いた蛋白質成分は次の通りである。
WPI;表1に示すWPI
WPC;表1に示すWPC−80
ゼラチンペプチド;ゼラチンを加水分解して、数平均分子量約3,000〜4000としたもの、水溶液におけるpH5.0〜6.5
また、エネルギーは(4Kcal×糖質含量)+(9Kcal×脂質含量)+(4Kcal×蛋白質含量)として計算した。表2及び表3において、エネルギーは、試料100g当たりのKcalとして示した。


上記で得られた本発明ゲル状組成物は、いずれも、外観において均一で滑らかな表面状態を有しており、柔らかいゲル状形態を呈していた。
また実施例1〜10で得られたゲル状組成物を良く訓練されたパネラーに試飲させ、食感を評価した。評価した結果を表4に示す。

表4の結果に示されるように、本発明のゲル状組成物は優れた食感を有することが明らかとなった。
試験例
マスキング成分を表5に示す成分とする以外は、実施例1と同様にして、ゲル状組成物1〜11を調製した。
得られた各組成物を10名のパネラーに試飲させ、下記の基準によりカルシウムの収斂味のマスキング効果を官能評価した。
5点:カルシウムの味をほとんど感じない。
4点:カルシウムの味が若干残っている。
3点:カルシウムの味を感じるが気にならない。
2点:カルシウムの味を感じ、飲むのが気になる。
1点:カルシウムの味を非常に感じ、飲用不適。
評価した結果を表5に示す。官能評価には、各パネラーの評価点の合計を記した。

表5の結果に示されるように、本発明のゲル状組成物におけるカルシウムの収斂味は、マスキング剤(成分)により有意に抑制されることが明らかとなった。
【産業上の利用の可能性】
本発明ゲル状組成物は、良好な飲食適性を有し、安全に飲食することができ、該ゲル状組成物の摂取によって蛋白質及びカルシウムを十分に補給し得るという効果を有する。
また、本発明の蛋白質及びカルシウム補給用ゲル状組成物は、喫飲に適した柔らかいゲル状形態と爽やかな食感を有し、該ゲル状形態と食感が長期間安定に保持されるという特徴を有している。
しかも、本発明組成物は、蛋白質及びカルシウムを高濃度で含有しているにも拘わらず、蛋白質の凝集乃至凝固によるムラ、ざらつきや、カルシウムの収斂味がなく、喫飲適性および食感に優れている。また外観においても滑らかで均質なものである。
また、本発明のゲル状組成物は、蛋白質、カルシウム、糖質、脂質などの人体に必要な栄養素を豊富に且つバランスよく配合したものであるため、良好な栄養補給効果が奏される。
更に、本発明のゲル状組成物は、容易及び簡便に摂取することができ、例えばスポーツ選手などが運動中に短時間で栄養補給を行いたい場合や患者がベッド上で栄養補給を行いたい場合などにも好適に用いられる。また本発明の摂取と運動とを組み合わせることで、筋肉及び骨を増強する効果も奏される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記各成分を含有し、pHの範囲が3〜4のゲル状物である蛋白質及びカルシウム補給用ゲル状組成物:
pH3〜4で凝集しない蛋白質又はその加水分解物 3〜8重量%
カルシウム 0.1〜0.5重量%
酸味料 0.5〜3重量%
糖質 4〜20重量%
脂質 0〜5重量%
乳化剤 0〜0.5重量%
寒天 0.1〜1重量%
水 65〜90重量%。
【請求項2】
果汁、醗酵乳、難消化性デキストリン、還元難消化性デキストリン、ニゲロオリゴ糖及びトレハロースからなる群から選ばれる少なくとも1種のマスキング剤0.1〜20重量%を更に含有する請求項1に記載のゲル状組成物。
【請求項3】
ビタミンD0.1×10−6〜10×10−6重量%を更に含有する請求項1又は2のいずれかに記載のゲル状組成物。
【請求項4】
pH3〜4で凝集しない蛋白質が、ホエイ蛋白濃縮物、ホエイ蛋白分離物、脱塩ホエイおよび数平均分子量が500〜10000である蛋白加水分解物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のゲル状組成物。

【国際公開番号】WO2004/028279
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【発行日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539475(P2004−539475)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012061
【国際出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】