説明

蛋白質吸着防止眼用レンズ材料及びその製造方法

【課題】蛋白質吸着を防止する眼用レンズ材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、OH基を有する眼用材料に、特定のホスホリルコリン基含有化合物を、水中または有機溶媒中または水−有機溶媒混合液中にて反応させて、アセタール結合により共有結合させる。


(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ等の眼用レンズ材料、その製造方法及び蛋白質吸着防止方法に関する。さらに詳しくは、ホスホリルコリン基含有化合物の後処理により眼用レンズ材料表面(特にコンタクトレンズ)を処理して、蛋白質による汚れを防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホリルコリン基含有モノマーを重合してコンタクトレンズ材料に用いることは公知である(特許文献1〜3)。例えば、特許文献1には、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリル酸エステルを構成単位として含む含水性ソフトコンタクトレンズが開示され、含水率、酸素透過性、引張強度に優れ、蛋白質吸着量が少なく、汚れの付着を抑制できることが記載されている。
【0003】
また、コンタクトレンズの後処理方法として、特許文献4には、コンタクトレンズ表面にてホスホリルコリン基含有モノマーを重合させて、親水性表面を有し、蛋白質の吸着が少ないコンタクトレンズを製造することが記載されている。
【0004】
さらに特許文献5には、低分子のホスホリルコリン化合物をコンタクトレンズ表面に化学的に結合させ蛋白の吸着を低減させる方法が示されている。
すなわち、特許文献5の実施例5には、4−ヒドロキシエチルメタクリレート−コ−メタクリル酸共重合体コンタクトレンズを2−[{2−(1−イミダゾールカルボニルオキシエトキシ)ヒドロキシホスフィニル}オキシ]−N,N,N−トリメチルエタナミニウムニドロキシド内塩で処理することで、アルブミン及びリゾチームのコンタクトレンズへの付着抑制効果を付与できることが記載されている。
しかしながら、特許文献5に記載された方法では、ホスホリルコリン基含有化合物の合成は極めて多段階及び煩雑な手法をとっており、高収率及び高純度で目的物を得ることは極めて困難である。さらに、コンタクトレンズ表面へのホスホリルコリン基の導入反応も、これらの特許文献に記載された条件下では十分に反応が進行せず、その導入量が低いため優れた蛋白質吸着防止効果を示さない。
【0005】
一方、コンタクトレンズの汚れは、涙液に含まれる蛋白質や脂質が吸着して汚れとなり、この汚れによりアレルギーや感染症などの眼障害を引き起こす危険がある(非特許文献1)。特に2−ヒドロキシエチルメタクリレートの重合体を主成分とする含水ソフトコンタクレンズや、これにイオン性モノマーのメタクリル酸を少量共重合させた高含水ソフトコンタクトレンズ、あるいは、親水性モノマーとしてN−ビニルピロリドンやN,N−ジメチルアクリルアミドの重合体を主成分とするソフトコンタクトレンズにおいては、蛋白質による汚れが致命的な問題となる。
【0006】
【特許文献1】特開平10−177152号公報
【特許文献2】特開2000−111847号公報
【特許文献3】特開2000−169526号公報
【特許文献4】特開2001−337298号公報
【特許文献5】特表平5−505121号公報
【非特許文献1】「ソフトコンタクトレンズの汚れとその分析」、マテリアルステージ、Vol.4、No.1、2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コンタクトレンズを後処理により、ホスホリルコリン基をコンタクトレンズ表面に、末端アミノ基を有する化合物を介して共有結合させて、コンタクトレンズの蛋白質吸着を抑制し、蛋白質による汚れを防止したコンタクトレンズを提供するものである。
【0008】
すなわち、本発明は、上記特許文献1〜3記載の方法のように、ホスホリルコリン基を含有するモノマーを重合させて蛋白質吸着防止コンタクトレンズを製造するものではなく、コンタクトレンズに後処理によって、優れた蛋白質吸着防止機能を持たせることを目的とするものである。
【0009】
また、本発明は、特許文献4記載の方法のように、コンタクトレンズの表面でホスホリルコリン基含有モノマーを重合させ、コンタクトレンズと異なる別のポリマーで被覆することによりホスホリルコリン基を導入するものでなく、ポリマー被覆によらずに直接的にホスホリルコリン基を共有結合させるものであり、これによって、耐久性に優れ、また、コンタクトレンズ本来の性質をポリマー被覆により変えることなく、優れた蛋白質吸着防止効果を発揮させることを目的とするものである。
【0010】
さらに、本発明は、引用文献5記載の方法のように、実際に追試を行うと、コンタクトレンズ表面にホスホリルコリン基を十分に導入することが出来ないという方法ではなく、十分な量のホスホリルコリンを導入でき、優れた蛋白質吸着防止効果を発揮させることを目的とするものである。
特に、本願発明と特許文献5に示された方法との本質的な相違は、ホスホリルコリン基のコンタクトレンズ表面への導入効率の違いであり、これによって、蛋白吸着をより効果的に抑制するという優れた効果が生じる。
そして、本願発明においては、表面に水酸基を有するコンタクトレンズ素材に対して、水中、有機溶媒中にかかわらず、いかなる溶媒中でも安定にアセタール結合によってホスホリルコリン基を導入可能であることが利点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、OH基を有する眼用材料に、下記式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を、水中または有機溶媒中または水−有機溶媒混合液中にて反応させて、アセタール結合により共有結合させることを特徴とする眼用レンズ材料の製造方法を提供するものである。
【化10】

(1)

【化11】

nは1〜18の自然数
(2)
【0012】
また、本発明は、前記眼用レンズ材料を構成するモノマーに、水酸基を有するモノマーを含有することを特徴とする上記の眼用レンズ材料の製造方法を提供するものである。
【0013】
さらに、本発明は、前記眼用レンズ材料を構成するモノマーに、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを含有することを特徴とする上記の眼用レンズ材料の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、前記眼用レンズ材料がポリビニルアルコールを構成成分として含有することを特徴とする上記の眼用レンズ材料の製造方法を提供するものである。
【0015】
さらに、本発明は、眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、プラズマ処理により眼用レンズ材料の表面にOH基を導入し、次に、下記式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を、水中または有機溶媒中または水−有機溶媒混合液中にて反応させて、アセタール結合により共有結合させることを特徴とする眼用レンズ材料の製造方法を提供するものである。
【化12】

(1)

【化13】

nは1〜18の自然数
(2)
【0016】
また、本発明は、眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、OH基を有する眼用材料に、下記式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を、水中または有機溶媒中または水−有機溶媒混合液中にて反応させ、アセタール結合により共有結合させることにより得られることを特徴とする眼用レンズ材料を提供するものである。
【化14】

(1)

【化15】

nは1〜18の自然数
(2)
【0017】
さらに、本発明は、眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、プラズマ処理により眼用レンズ材料の表面にOH基を導入し、次に、下記式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を、水中または有機溶媒中または水−有機溶媒混合液中にて、アセタール結合により共有結合させることにより得られることを特徴とする眼用レンズ材料を提供するものである。
【化16】

(1)

【化17】

nは1〜18の自然数
(2)
【0018】
また、本発明は、OH基を有する眼用レンズ材料に、下記式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を、水中または有機溶媒中または水−有機溶媒混合液中にて反応させ、アセタール結合により共有結合させる後処理によって、眼用レンズ材料に対する蛋白質の吸着を防止することを特徴とする蛋白質吸着防止方法を提供するものである。
【化18】

nは1〜18の自然数
(2)
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、簡便な後処理方法によって、任意の量のホスホリルコリン基を眼用レンズ材料表面にアセタール結合により共有結合させることが出来る。
水、有機溶媒のいずれを用いても、アセタール結合により、式(2)の化合物を導入できることが重要な利点である。すなわち、エステル化によるエステル結合とは異なり、水酸基を有する眼用レンズ材料に、水中において後処理により反応させることできるが利点の一つである。
エステル化は水中で反応が進行する条件は無いので、水中若しくは含水系の有機溶媒中にてホスホリルコリン基を導入することが出来る手法として、アセタール化は優れている。
すなわち、本発明の製造方法によれば、厳密な無水条件化で後処理を行う必要はない。また、水中にて行う場合には、後処理によって眼用レンズ材料が有機溶媒により変質しないという利点も有する。
【0020】
本発明の眼用レンズ材料であるコンタクトレンズは、ホスホリルコリン基をコンタクトレンズ表面にアセタール結合により共有結合させてあるので、コンタクトレンズの蛋白質吸着を効率的に抑制し、優れた汚れ防止効果を発揮する。また、保水性を向上させ、装着感をも向上させることができる。
【0021】
また、後処理によって蛋白質吸着防止機能を持たせることが出来るので、既存のコンタクトレンズに容易に本発明を利用出来る。
【0022】
ポリマー被覆によりホスホリルコリン基を導入しないため、耐久性に優れ、コンタクトレンズ本来の性質を基本的に劣化させることがない。
【0023】
本発明により得られるコンタクトレンズは装着感に優れたコンタクトレンズである。したがって、材質の柔軟性に劣るなどの理由で、異物感を感じ易いコンタクトレンズに好ましく利用出来る。
【0024】
特に、コンタクトレンズ表面のOH基と、式(2)の化合物との反応は極めて収率が良く、導入量のコントロールが容易である。したがって、式(1)のホスホリルコリン基を、コンタクトレンズ表面に極めて効率良く導入することができるという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0026】
「式(2)のホスホリルコリン基含有化合物の製造方法」
この化合物は全合成でも合成可能である。しかし、合成条件が煩雑であり、厳密な無水条件が必要であり、製造コストがかかる。一方、ホスホリルコリンは細胞膜の構成成分であるレシチンとしても抽出可能であり、その場合、脂肪酸部分を加水分解により除去すれば1−α−グリセロホスホリルコリンとしてより安価かつ容易に入手可能である。この1−α−グリセロホスホリルコリンのジオール部分を、酸化的に開裂させることによりアルデヒド基を有するホスホリルコリン基含有化合物を得ることができることを見出した。最も代表的な合成方法としては、1−α−グリセロホスホリルコリンを水中で過ヨウ素酸ナトリウムにより酸化し、目的とするアルデヒド体を得るものであるが、酸化剤及び溶媒は必ずしも上記化合物に限定されるものではない。
【0027】
「1−α−グリセロホスホリルコリンの酸化開裂による式(2)の化合物の製造方法」
1−α−グリセロホスホリルコリンは水中で過ヨウ素酸塩により酸化開裂し、式(2)の化合物とすることができる。
【0028】
「眼用レンズ材料」
本発明において眼用レンズ材料とは、眼の中に装着する材料の成型物である。主にはコンタクトレンズである。いかなる材質のコンタクトレンズでも良い。例えば、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、N-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、メチルメタクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート、セルロースアセテートブチレート、フルオロシリコーン、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、パーフルオロアルキルメタクリレート、シロキサニルメタクリレート、シロキサニルスチレン、エチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート(AMA)、シリコンマクロマー等の重合体若しくは二種以上のモノマーの共重合体から構成されるコンタクトレンズ、さらにはポリビニルアルコール、ポリシロキサンを構成成分として含有するコンタクトレンズから本発明のコンタクトレンズを製造することが可能である。
本発明は、モノマーの種類に関係なく、また、ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズのどちらにも利用出来る。
【0029】
コンタクトレンズを構成するモノマーとして、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とするソフトコンタクトレンズ、また、これにメタクリル酸を共重合させたイオン性ソフトコンタクトレンズは、代表的なソフトコンタクトレンズであり、蛋白質が吸着しやすい。したがって、本発明の方法によって好ましく処理される。
また、コンタクトレンズの構成成分として、ポリビニルアルコールまたはポリN−ビニルピロリドンを含有するコンタクトレンズも、本発明の方法によって好ましく処理される。
さらに、コンタクトレンズを構成するモノマーとして、(メタ)アクリル酸メチルを主成分とするハードコンタクトレンズ、特に蛋白質が吸着しやすい酸素透過性や連続装用のハードコンタクトレンズも、本発明の方法によって好ましく処理される。
【0030】
上記(2)式のホスホリルコリン基含有化合物が共有結合可能な官能基として、2−ヒドロキシエチルメタクリレートやポリビニルアルコール重合体を含むコンタクトレンズは水酸基を有しているので好ましい。
しかし、これらの官能基を有していなくても、プラズマ処理により水酸基を導入することが可能である。例えば、N−ビニルピロリドン重合体からなるコンタクトレンズはプラズマ処理により水酸基を導入し、本発明のコンタクトレンズを製造することが可能である。すなわち、酸素ガス雰囲気下または酸素ガス、水素ガス雰囲気下で低温プラズマによりコンタクトレンズ表面に水酸基を導入する。具体的には、コンタクトレンズをプラズマ反応容器内に収容し、反応容器内を真空ポンプで真空にした後、酸素ガスまたは酸素ガス、水素ガスを導入する。続いてグロー放電により、コンタクトレンズ表面に水酸基を導入できる。
【0031】
式(2)のホスホリルコリン基含有化合物は、コンタクトレンズ表面の水酸基に対してアセタール結合することにより強固に共有結合する。
なお、本発明は、後処理によりホスホリルコリン基がコンタクトレンズ表面に直接的にアセタール結合により共有結合にて導入されていることを意味する。したがって、OH基を有するポリマーでコンタクトレンズ表面を被覆したコンタクトレンズに、式(2)の化合物を結合したものは本発明には含まない。
【0032】
「蛋白質吸着防止コンタクトレンズの製造方法」
式(2)で示されるホスホリルコリン基含有化合物がコンタクトレンズ表面に直接的アセタール結合を介して共有結合していることが本発明の本質であるので、その製造方法は限定されず、いかなる方法によりアセタール結合させてもよい。但し、上述したように、コンタクトレンズ表面を、OH基を有する重合体で被覆して、式(2)の化合物をアセタール結合する態様は含まない。なぜなら、被覆された重合体が剥れてしまったり、被覆重合体による影響が生じたりするからである。
【0033】
具体的には、コンタクトレンズ構成モノマーの水酸基、若しくは、新たに後から水酸基をプラズマ処理等により導入して、これらの官能基に、式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を有機溶媒中、常法により共有結合させる。
【0034】
「コンタクトレンズの水酸基にホスホリルコリン基を導入する方法」
2−ヒドロキシエチルメタクリレート重合体やポリビニルアルコールを含むコンタクトレンズは水酸基が存在する。この水酸基に対して、式(2)の化合物を反応させると、アセタール結合にてコンタクトレンズ表面にホスホリルコリン基を導入可能である。この反応は、水中、或いはメタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶媒中、或いは水と上記有機溶媒の混合液中、酸性条件下で容易に進行する。
「処理方法1」
HEMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレート重合体)素材のコンタクトレンズは、水、或いはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を媒体とし、式(2)の化合物を塩酸、酢酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸などの酸触媒存在下、室温から100℃の範囲で加熱することにより行うことができる。導入率の制御は、添加する式(2)の化合物の量、酸触媒の量、反応温度により可能である。
「処理方法2」
PVA(ポリビニルアルコール)素材のコンタクトレンズは、水、或いはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を媒体とし、式(2)の化合物を塩酸、酢酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸などの酸触媒存在下、室温から100℃の範囲で加熱することにより行うことができる。導入率の制御は、添加する式(2)の化合物の量、酸触媒の量、反応温度により可能である。
【0035】
上記の方法等により、コンタクトレンズ表面に導入された式(1)のホスホリルコリン基は、過塩素酸を用いた前処理を行った後、モリブデンブルー法によるリンの定量分析により定量される(参考文献:実験化学講座(14)第4版分析, 3.8.2リン 丸善)。
なお、コンタクトレンズへの式(1)のホスホリルコリン基の導入量は、0.005μmol/mg以上が好ましい。0.005μmol/mgより少ないと、十分な蛋白質吸着抑制効果が得られない場合もあるが、コンタクトレンズの表面のみにホスホリルコリン基が導入されている場合はこの限りではない。一方、導入量が多い分には、蛋白質吸着抑制効果は増大するので特にその導入量は制限されない。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
「蛋白質吸着実験」
市販のコンタクトレンズを用いて本発明のコンタクトレンズを製造した。下記の評価方法により蛋白質の吸着抑制効果について比較した。
【0038】
「評価方法」
コンタクトレンズを、人工涙液3ml中に浸し、37℃にて24時間静置した。溶液部のタンパク量をBCA法にて定量し(検量線 Albumin Bovine)、溶液部の蛋白質の減少量を、蛋白質吸着量として算出した。
人工涙液は、以下の成分を純水に溶解させて得た。
リゾチーム 1.20mg/ml、アルブミン 3.88mg/ml、γ-グロブリン 1.61mg/ml、塩化ナトリウム 9.00mg/ml、リン酸二水素カリウム 0.14mg/ml、リン酸水素二ナトリウム七水和物 0.80mg/ml
(参考文献)FDA Guideline Draft: Testing guidelines for classIII soft(hydrophilic) contact lens solution, lens group compatibility test. July 15, 1985.
【0039】
【化19】

n=1
(2)
【0040】
なお、上記ホスホリルコリン基含有化合物は下記合成例1によって得られる公知化合物である。
「合成例1 ホスホリルコリン基を含有するアルデヒド化合物」
1−α−グリセロホスホリルコリン(450mg)を蒸留水15mlに溶解し、氷水浴中で冷却した。過ヨウ素酸ナトリウム(750mg)を添加し、5時間攪拌した。反応液を減圧濃縮、減圧乾燥し、メタノールにより目的物を抽出した。
【0041】
「コンタクトレンズの後処理」
Polymacon(Baush Lomb社製ソフトコンタクトレンズ Medalist)、NelfilconA(チバビジョン社製 フォーカスデイリィーズ)を用いて、式(2)の化合物をアセタール結合によりコンタクトレンズに共有結合させた。
【0042】
「実施例1」
Polymacon1枚を水2mlに浸し、式(2)のホスホリルコリン含有化合物10mgを溶解した。続いて2N塩酸2mlを添加し、混合液が1Mの塩酸濃度になるよう調整した後、70℃で5時間反応させた。反応液を室温まで冷却し、純水で十分洗浄して目的とするコンタクトレンズを得た。式(1)のホスホリルコリン基の導入量は、0.0734mol/mgであった。
【0043】
「実施例2」
NelfilconA1枚を水2mlに浸し、式(2)のホスホリルコリン含有化合物10mgを溶解した。続いて2N塩酸2mlを添加し、混合液が1Mの塩酸濃度になるよう調整した後、40℃で5時間反応させた。反応液を室温まで冷却し、純水で十分洗浄して目的とするコンタクトレンズを得た。式(1)のホスホリルコリン基の導入量は、0.1688μmol/mgであった。
【0044】
「式(1)のホスホリルコリン基の定量方法」
得られたコンタクトレンズを、過塩素酸に浸し、180℃に加熱して分解した。得られた溶液を水で希釈し、そこに七モリブデン酸六アンモニウム四水和物とLアスコルビン酸を入れ、95℃にて5分間発色させた後、710nmの吸光度測定して、導入量を求めた。検量線にはリン酸二水素ナトリウム水溶液を用いた。
【0045】
「比較例1〜5」
比較として、下記市販品のコンタクトレンズを使用した。
比較例1.EtafilconA(商品名:ワンデーアキュビュー、J&J社)
比較例2.EtafilconA(商品名:ワンデーアクエアー、オキュラーサイエンス社)
比較例3.NelfilconA(商品名:フォーカスデイリィーズ、チバビジョン社)
比較例4.Polymacon(商品名:メダリスト、ボシュロム社)
比較例5.VifilconA(商品名:フォーカス、チバビジョン社)
【0046】
「比較例6」
特許文献5の手法に基づき、1−α−グリセロホスホリルコリン10mg、1,1−カルボニルジイミダゾール20mg、トリエチルアミン20mgをジメチルスルホキシド3mlに添加し、50℃で2時間攪拌した。この溶液に、実施例1で使用したPolymaconを浸漬し、室温で12時間反応させた。コンタクトレンズをジメチルスルホキシド次いで水で充分に洗浄し、リン定量を行ったところ、導入されたホスホリルコリン基は検出限界の0.0001μmol/mg以下であり、反応が進行していなかった。
【0047】
「比較例7」
特許文献5の手法に基づき、1−α−グリセロホスホリルコリン10mg、1,1−カルボニルジイミダゾール20mg、トリエチルアミン20mgをジメチルスルホキシド3mlに添加し、50℃で2時間攪拌した。この溶液に、実施例2で使用したNelfilconAを浸漬し、室温で12時間反応させた。コンタクトレンズをジメチルスルホキシド次いで水で充分に洗浄し、リン定量を行ったところ、導入されたホスホリルコリン基は検出限界の0.0001μmol/mg以下であり、反応が進行していなかった。
【0048】
実施例1〜2、比較例1〜7の蛋白質吸着の結果を図1に示す。この結果から、本発明の製造方法により得られるコンタクトレンズは、蛋白質の吸着を顕著に抑制していることが分る。
【0049】
次に、実施例2において、NelfilconAを処理した場合の反応処理条件を変えて、ホスホリルコリン基の導入量の関係を調べた。
反応温度、酸触媒量、式(2)の化合物の添加量に対するホスホリルコリン基の導入量を、表1〜3に示す。
<反応温度による効果>
式(2)の化合物:1当量(コンタクトレンズの水酸基に対して)
酸触媒:塩酸1M
【表1】

【0050】
<酸触媒量による効果>
式(2)の化合物:1当量(コンタクトレンズの水酸基に対して)
反応温度40℃
【表2】

【0051】
<式(2)の化合物の添加量による効果>
酸触媒:塩酸1M
反応温度:40℃
【表3】

【0052】
表1〜3の結果の通り、反応処理条件を変えることで、ホスホリルコリン基の導入量の制御を容易に行うことが可能である。好ましい反応処理条件は下記の通りである。
反応温度:室温〜80℃、より好ましくは40℃〜70℃
塩酸濃度:0.01M〜5M、より好ましくは0.1〜1M
ホスホリルコリン化合物(2)添加量:0.1〜10当量、より好ましくは1〜5当量
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、コンタクトレンズの蛋白質吸着を高度に抑制し、蛋白質による汚れを顕著に防止できる。
本発明の方法は、蛋白質の汚れが致命的な問題となるソフトコンタクトレンズに好ましく利用できる。蛋白質吸着が促進されるイオン性ソフトコンタクトレンズには特に好ましく利用できる。
また、蛋白質が吸着しやすい酸素透過性や連続装用のハードコンタクトレンズに対しても好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例と比較例のコンタクトレンズに対する蛋白質吸着量のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、OH基を有する眼用材料に、下記式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を、水中または有機溶媒中または水−有機溶媒混合液中にて反応させて、アセタール結合により共有結合させることを特徴とする眼用レンズ材料の製造方法。
【化1】

(1)

【化2】

nは1〜18の自然数
(2)
【請求項2】
前記眼用レンズ材料を構成するモノマーに、水酸基を有するモノマーを含有することを特徴とする請求項1記載の眼用レンズ材料の製造方法。
【請求項3】
前記眼用レンズ材料を構成するモノマーに、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを含有することを特徴とする請求項1記載の眼用レンズ材料の製造方法。
【請求項4】
前記眼用レンズ材料がポリビニルアルコールを構成成分として含有することを特徴とする請求項1記載の眼用レンズ材料の製造方法。
【請求項5】
眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、プラズマ処理により眼用レンズ材料の表面にOH基を導入し、次に、下記式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を、水中または有機溶媒中または水−有機溶媒混合液中にて反応させて、アセタール結合により共有結合させることを特徴とする眼用レンズ材料の製造方法。
【化3】

(1)



【化4】

nは1〜18の自然数
(2)
【請求項6】
眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、OH基を有する眼用材料に、下記式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を、水中または有機溶媒中または水−有機溶媒混合液中にて反応させ、アセタール結合により共有結合させることにより得られることを特徴とする眼用レンズ材料。
【化5】

(1)

【化6】

nは1〜18の自然数
(2)
【請求項7】
眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、プラズマ処理により眼用レンズ材料の表面にOH基を導入し、次に、下記式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を、水中または有機溶媒中または水−有機溶媒混合液中にて、アセタール結合により共有結合させることにより得られることを特徴とする眼用レンズ材料。
【化7】

(1)





【化8】

nは1〜18の自然数
(2)
【請求項8】
OH基を有する眼用レンズ材料に、下記式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を、水中または有機溶媒中または水−有機溶媒混合液中にて反応させ、アセタール結合により共有結合させる後処理によって、眼用レンズ材料に対する蛋白質の吸着を防止することを特徴とする蛋白質吸着防止方法。
【化9】

nは1〜18の自然数
(2)

【図1】
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【公開番号】特開2006−11383(P2006−11383A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136847(P2005−136847)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【特許番号】特許第3715310号(P3715310)
【特許公報発行日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(592057341)
【Fターム(参考)】