説明

蛋白質吸着防止眼用材料の製造方法

【課題】蛋白質吸着を防止する眼用材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】眼用レンズ材料の表面に、下記式で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、末端アミノ基を有する化合物を眼用レンズ材料の表面に導入し、次に、特定のホスホリルコリン基含有化合物を前記末端アミノ基を有する化合物を介して導入することを特徴とする眼用レンズ材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ等の眼用レンズ材料の製造方法及び蛋白質吸着防止方法に関する。さらに詳しくは、ホスホリルコリン基含有化合物の後処理により眼用レンズ材料表面(特にコンタクトレンズ)を処理して、蛋白質による汚れを防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホリルコリン基含有モノマーを重合してコンタクトレンズ材料に用いることは公知である(特許文献1〜3)。例えば、特許文献1には、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリル酸エステルを構成単位として含む含水性ソフトコンタクトレンズが開示され、含水率、酸素透過性、引張強度に優れ、蛋白質吸着量が少なく、汚れの付着を抑制できることが記載されている。
【0003】
また、コンタクトレンズの後処理方法として、特許文献4には、コンタクトレンズ表面にてホスホリルコリン基含有モノマーを重合させて、親水性表面を有し、蛋白質の吸着が少ないコンタクトレンズを製造することが記載されている。
【0004】
さらに特許文献5には、低分子のホスホリルコリン化合物をコンタクトレンズ表面に化学的に結合させ蛋白の吸着を低減させる方法が示されている。
すなわち、特許文献5の実施例5には、グリセロホスホリルコリンを1,1’カルボニルジイミダゾール処理し、ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体から成るコンタクトレンズ表面にホスホリルコリン基を導入する方法が記載されている。しかしながら、上記反応を追試した結果、目的とするホスホリルコリン処理されたコンタクトレンズを得ることはできなかった。
また、特許文献5の反応式6にはホスホリルコリンカルボキシル体が活性エステルとなった化学構造式が記載されている。その合成方法、実施例については一切記載されていないため追試することはできないが、通常の有機化学の常識に基づいて記載の構造を有するホスホリルコリンカルボキシル体を合成した場合、その方法は極めて煩雑であり、収率も低いことから実用性に乏しいことが容易に類推される。
このように、特許文献5に記載された処理方法では、コンタクトレンズを処理するカルボシキル基含有ホスホリルコリン基含有化合物の合成方法が記載されていないので、直ちに記載されている方法を実施出来ない。さらに、コンタクトレンズ表面へのホスホリルコリン基の導入反応も、これらの特許文献に記載された条件下では十分に反応が進行せず、その導入量が低いため優れた蛋白質吸着防止効果を示さない。
【0005】
一方、コンタクトレンズの汚れは、涙液に含まれる蛋白質や脂質が吸着して汚れとなり、この汚れによりアレルギーや感染症などの目障害を引き起こす危険がある(非特許文献1)。特に2−ヒドロキシエチルメタクリレートの重合体を主成分とする含水ソフトコンタクレンズや、これにイオン性モノマーのメタクリル酸を少量共重合させた高含水ソフトコンタクトレンズ、あるいは、親水性モノマーとしてN−ビニルピロリドンやN,N−ジメチルアクリルアミドの重合体を主成分とするソフトコンタクトレンズにおいては、蛋白質による汚れが致命的な問題となる。
【0006】
【特許文献1】特開平10−177152号公報
【特許文献2】特開2000−111847号公報
【特許文献3】特開2000−169526号公報
【特許文献4】特開2001−337298号公報
【特許文献5】特表平5−505121号公報
【非特許文献1】「ソフトコンタクトレンズの汚れとその分析」、マテリアルステージ、Vol.4、No.1、2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コンタクトレンズを後処理により、ホスホリルコリン基をコンタクトレンズ表面に、末端アミノ基を有する化合物を介して共有結合させて、コンタクトレンズの蛋白質吸着を抑制し、蛋白質による汚れを防止したコンタクトレンズを提供するものである。
【0008】
すなわち、本発明は、上記特許文献1〜3記載の方法のように、ホスホリルコリン基を含有するモノマーを重合させて蛋白質吸着防止コンタクトレンズを製造するものではなく、コンタクトレンズに後処理によって、優れた蛋白質吸着防止機能を持たせることを目的とするものである。
【0009】
また、本発明は、特許文献4記載の方法のように、コンタクトレンズの表面でホスホリルコリン基含有モノマーを重合させ、コンタクトレンズと異なる別のポリマーで被覆することによりホスホリルコリン基を導入するものでなく、ポリマー被覆によらずに直接的にホスホリルコリン基を共有結合させるものであり、これによって、耐久性に優れ、また、コンタクトレンズ本来の性質をポリマー被覆により変えることなく、優れた蛋白質吸着防止効果を発揮させることを目的とするものである。
【0010】
さらに、本発明は、引用文献5記載の方法のように、実際に追試を行うと、コンタクトレンズ表面にホスホリルコリン基を十分に導入することが出来ないという方法ではなく、十分な量のホスホリルコリンを導入でき、優れた蛋白質吸着防止効果を発揮させることを目的とするものである。
特に、本願発明と特許文献5に示された方法との本質的な相違は、本願発明では末端アミノ基を有する化合物を眼用レンズ材料の表面に導入し、これを介して、低分子量の式(2)または(3)のホスホリルコリン基含有化合物をコンタクトレンズ表面に化学的に結合させることを特徴とするのであり、これにより、レンズの変形を抑えながら効率良く蛋白の吸着を抑制できる。すなわち、直接的にコンタクトレンズ表面に存在する官能基にホスホリルコリン基を導入した場合、その高い親水性から、レンズはやや膨張する傾向にあるが、レンズ表面とホスホリルコリン基のあいだに両末端にアミノ基を有するアルキル基或いはオキシアルキル基などを導入することにより、その膨張をコントロールすることが容易になる。アミノ基を有する化合物の親水性が低いほどレンズの膨張を抑制する効果を有する。アルキル鎖長が0〜6の場合最も好ましく膨張をコントロールできる。オキシエチレン基の場合は鎖長による影響は小さい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、末端アミノ基を有する化合物を眼用レンズ材料の表面に導入し、次に、下記式(2)の化合物を前記末端アミノ基を有する化合物を介して導入することを特徴とする眼用レンズ材料の製造方法を提供するものである。
【化5】

(1)

【化6】

nは1〜18の自然数
(2)
【0012】
また、本発明は、眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、末端アミノ基を有する化合物を眼用レンズ材料の表面に導入し、次に、下記式(3)のホスホリルコリン基含有化合物を前記末端アミノ基を有する化合物を介して導入することを特徴とする眼用レンズ材料の製造方法を提供するものである。
【化7】

(1)

【化8】

(3)
【0013】
さらに、本発明は、前記末端アミノ基を有する化合物が、C0(ヒドラジン)〜C12のアルキル基、重合度1〜10のエチレンオキシド基、重合度1〜10のプロピレンオキシド基、重合度1〜20のエチレンイミン、重合度1〜20のプロピレンイミンを有する化合物、ピペラジン、またはアニリンを有する化合物であることを特徴とする上記の眼用レンズ材料の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、眼用レンズ材料の表面に、末端アミノ基を有する化合物を導入し、次に上記のホスホリルコリン基含有化合物を眼用レンズ材料に反応させる後処理によって、ホスホリルコリン基を眼用レンズ材料表面に共有結合させて、眼用レンズ材料に対する蛋白質の吸着を防止することを特徴とする眼用レンズ材料の蛋白質吸着防止方法を提供するものである。
【0015】
さらに、本発明は、前記式(2)または(3)のホスホリルコリン基含有化合物にアミノ基を導入し、次に眼用レンズ材料の表面に反応させる処理によって、ホスホリルコリン基を眼用レンズ材料表面に共有結合させて、眼用レンズ材料に対する蛋白質の吸着を防止することを特徴とする眼用レンズ材料の蛋白質吸着防止方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、眼用レンズ材料表面と、導入する前記式(2)または(3)のホスホリルコリン基を有する化合物の間にアミド結合或いはアルキルアミン結合によりスペーサーが導入された眼用レンズ材料を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、簡便な後処理方法によって、任意の量のホスホリルコリン基を眼用レンズ材料表面に末端アミノ基を有する化合物を介して共有結合させることが出来る。
【0018】
本発明の眼用レンズ材料であるコンタクトレンズは、ホスホリルコリン基をコンタクトレンズ表面に末端アミノ基を有する化合物を介して共有結合させてあるので、コンタクトレンズの蛋白質吸着を効率的に抑制し、優れた汚れ防止効果を発揮する。また、保水性を向上させ、装着感をも向上させることができる。
【0019】
また、後処理によって蛋白質吸着防止機能を持たせることが出来るので、既存のコンタクトレンズに容易に本発明を利用出来る。
【0020】
ポリマー被覆によりホスホリルコリン基を導入しないため、耐久性に優れ、コンタクトレンズ本来の性質を基本的に劣化させることがない。
【0021】
本発明により得られるコンタクトレンズは装着感に優れたコンタクトレンズである。したがって、材質の柔軟性に劣るなどの理由で、異物感を感じ易いコンタクトレンズに好ましく利用出来る。
【0022】
特に、末端アミノ基を有する化合物と、式(2)及び式(3)の化合物との反応は極めて収率が良く、導入量のコントロールが容易である。したがって、式(1)のホスホリルコリン基を、コンタクトレンズ表面に極めて効率良く導入することができるという優れた効果がある。
また、本方法により、レンズの変形を抑えながら効率良く蛋白の吸着を抑制できる。すなわち、直接的にコンタクトレンズ表面に存在する官能基に親水性の高い官能基を導入した場合、レンズはやや膨張する傾向にあるが、レンズ表面とホスホリルコリン基のあいだに両末端にアミノ基を有する官能基を選択し、その極性を制御することにより、その膨張をコントロールすることが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0024】
「末端アミノ基を有する化合物」
本発明に用いられるアミノ基を有する化合物としては、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、ピペラジン、エチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテルなどが挙げられ、何れも試薬として購入可能である。また、極性も膨張を防ぐ範囲として適切である。また、トリス(2−アミノエチル)アミンやアミノ基末端デンドリマーなど3個以上の末端アミノ基を有する化合物も、本発明に用いられるアミノ基を有する化合物として有効である。
【0025】
「式(2)のホスホリルコリン基含有化合物の製造方法」
ホスホリルコリン基は全合成でも合成可能である。しかし、合成条件が煩雑であり、厳密な無水条件が必要であり、製造コストがかかる。
一方、ホスホリルコリンは細胞膜の構成成分であるレシチンとしても抽出可能であり、その場合、脂肪酸部分を加水分解により除去すれば1−α−グリセロホスホリルコリンとしてより安価かつ容易に入手可能である。本発明者等は、この1−α−グリセロホスホリルコリンのジオール部分を、酸化的に開裂させることによりカルボキシル基を有するホスホリルコリン基含有化合物を容易に得られることを見出した。
最も代表的な合成方法としては、1−α−グリセロホスホリルコリンを水及びアセトニトリル等の溶媒中で過ヨウ素酸ナトリウム及び三塩化ルテニウムにより酸化し、目的とするカルボキシル体を得るものである。
式(2)の化合物は、1−α−グリセロホスホリルコリンの酸化開裂により得られるカルボキシメチルホスホリルコリン(n=1の場合)を用いることが好ましい。
【0026】
「1−α−グリセロホスホリルコリンの酸化開裂によりカルボキシメチルホスホリルコリンを製造する方法」
1−α−グリセロホスホリルコリンは、水、アセトニトリル混合溶媒中で過ヨウ素酸塩と三塩化ルテニウムにより酸化開裂して、カルボキシメチルホスホリルコリンとすることができる。
すなわち、実施例に示すように、1−α−グリセロホスホリルコリン5gを水70ml−アセトニトリル30mlに溶解する。氷冷下、過ヨウ素酸ナトリウム17gと三塩化ルテニウム80mgを添加し、一晩攪拌する。沈殿物をろ過し、減圧濃縮、メタノール抽出により目的とするカルボキシメチルホスホリルコリンが3.86g(収率82%)得られる。
【0027】
「式(3)のホスホリルコリン基含有化合物の製造方法」
公知のグリセロホスホリルコリンを公知の方法により酸化的開裂を行わせる。例えば、1,2−ジオールを過ヨウ素酸、過ヨウ素酸塩、或いは三酸化ビスマスなどの酸化剤を用いて酸化することにより結合を開裂させ、アルデヒド体が得られる。反応は通常水中または水を含む有機溶媒中で行われ、反応温度は0度から室温である。アルデヒド体は水中で平衡反応を経てハイドレートとなることもあるが、続くアミンとの反応には影響しない。下記にホスホリルコリン基を含有する一官能のアルデヒド体を調製するスキームの一例を示す。

【化13】

【0028】
「眼用レンズ材料」
本発明において眼用レンズ材料とは、眼の中に装着する材料の成型物である。主にはコンタクトレンズである。いかなる材質のコンタクトレンズでも良い。例えば、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、N-ビニルピロリドン(NVP)、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)、ビニルアルコール(VA)、メチルメタクリレート(MMA)、トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、フルオロシリコーン、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、パーフルオロアルキルメタクリレート、シロキサニルメタクリレート(SiMA)、シロキサニルスチレン(SiSt)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、アリルメタクリレート(AMA)、シリコンマクロマー等の重合体若しくは二種以上のモノマーの共重合体から構成されるコンタクトレンズから、本発明のコンタクトレンズを製造することが可能である。
【0029】
コンタクトレンズを構成するモノマーとして、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とするソフトコンタクトレンズ、また、これにメタクリル酸を共重合させたイオン性ソフトコンタクトレンズは、代表的なソフトコンタクトレンズであり、蛋白質が吸着しやすい。したがって、本発明の方法によって好ましく処理される。
【0030】
本願発明に好ましいモノマーは、アクリル酸又はメタクリル酸である。コンタクトレンズを構成するモノマーに、アクリル酸又はメタクリル酸が含まれれば、コンタクトレンズ表面はカルボキシル基を有しているので、前記両末端アミノ基を有する化合物をアミド結合により容易に導入することが可能である。
また、カルボキシル基が存在しないコンタクトレンズでも、表面改質剤やプラズマ処理によりカルボキシル基を導入することが出来る。プラズマによる具体的な導入方法を下記に示す。
<プラズマ処理の表面反応によるカルボキシル基の導入>
二酸化炭素雰囲気下で低温プラズマによりコンタクトレンズ表面にカルボキシル基を導入する。具体的には、コンタクトレンズをプラズマ反応容器内に収容し、反応容器内を真空ポンプで真空にした後、二酸化炭素を導入する。続いてグロー放電を行うと、コンタクトレンズ表面にカルボキシル基を導入できる。
【0031】
「製造方法」
まず、コンタクトレンズ構成モノマーのカルボキシル基、若しくは、新たにコンタクトレンズ表面に後からカルボキシル基をプラズマ処理等により導入して、末端アミノ基を有する化合物を常法により共有結合(アミド結合)させる。
具体的には、poly-HEMA製コンタクトレンズをプラズマ反応容器(サムコインターナショナル研究所製 BP−1)に収容し、容器内の空気を全て二酸化炭素に置換し、室温でアノード処理(RF Power100)を10分間行い、カルボキシル基を導入する。次いで両末端アミノ基を有する化合物が過剰量含まれる水或いは有機溶媒中にカルボニルジイミダゾールや1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩などのカルボジイミド系カップリング剤、或いは塩化チオニル、五塩化リン、オキシ塩化リン、三臭化リン、オキザリルクロライドなどの存在下にて処理したコンタクトレンズを浸漬してアミド化を行い、末端にアミノ基を導入した後、洗浄する。
次に、未反応のアミノ基に対して、式(2)または(3)の化合物をアミド結合させる。
具体的には、式(2)の化合物の場合、(2)化合物を水またはN,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒に溶解或いは分散し、カルボニルジイミダゾールや1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩などのカルボジイミド系カップリング剤、或いは塩化チオニルなどを添加して活性エステル或いは酸塩化物とし、コンタクトレンズのアミノ基表面とアミド化反応させる。
式(3)の化合物の場合、(3)化合物を水またはメタノールなどのプロトン性溶媒或いはこれを含む溶媒中に溶解し、コンタクトレンズを浸漬して4時間反応させ、更にシアノホウ素酸ナトリウムを添加して一晩攪拌後、洗浄する。
その結果、コンタクトレンズ表面に、末端アミノ基を有する化合物を介して、式(1)のホスホリルコリン基を導入することが可能である。
両末端アミノ基を有する化合物の導入に関しては、記載の範囲であれば、何れも同一の条件により反応させることが可能である。
【0032】
また、プラズマ処理によりコンタクトレンズに直接アミノ基を導入しても良い。公知の方法としては、下記が挙げられる。
<プラズマ処理の表面反応によるアミノ基の導入>
窒素ガス雰囲気下で低温プラズマによりコンタクトレンズ表面にアミノ基を導入する。具体的にはコンタクトレンズをプラズマ反応容器内に収容し、反応容器内を真空ポンプで真空にした後、窒素ガスを導入する。続いてグロー放電により、レンズ表面にアミノ基を導入できる。プラズマ処理に関する文献を下記に示す。
1. M. Muller, C. oehr
Plasma aminofunctionalisation of PVDF microfiltration membranes: comparison of the in plasma modifications with a grafting method using ESCA and an amino-selective fluorescent probe
Surface and Coatings Technology 116-119 (1999) 802-807
2. Lidija Tusek, Mirko Nitschke, Carsten Werner, Karin Stana-Kleinschek, Volker Ribitsch
Surface characterization of NH3 plasma treated polyamide 6 foils
Colloids and Surfaces A: Physicochem. Eng. Aspects 195 (2001) 81-95
3. Fabienne Poncin-Epaillard, Jean-Claude Brosse, Thierry Falher
Reactivity of surface groups formed onto a plasma treated poly (propylene) film
Macromol. Chem. Phys. 200. 989-996 (1999)
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「式(2)の化合物の合成」
1−α−グリセロホスホリルコリン5gを水70ml−アセトニトリル30mlに溶解した。氷冷下、過ヨウ素酸ナトリウム17gと三塩化ルテニウム80mgを添加し、一晩攪拌した。沈殿物をろ過し、減圧濃縮、メタノール抽出により目的とするカルボキシメチルホスホリルコリン3.86g(収率82%)を得た。
カルボキシメチルホスホリルコリンは、n=1の場合の式(2)の化合物である。
【0034】
「式(3)の化合物の合成」
1−α−グリセロホスホリルコリン(450mg)を蒸留水15mlに溶解し、氷水浴中で冷却した。過ヨウ素酸ナトリウム(750mg)を添加し、5時間攪拌した。反応液を減圧濃縮、減圧乾燥し、メタノールにより目的物を抽出した。
【0035】
「実施例1」<式(2)の化合物を有するコンタクトレンズ(スペーサー:エチレンジアミン)>
市販のソフトコンタクトレンズとして、EtafilconA(商品名:ワンデーアキュビュー、J&J社、構成モノマー:HEMA-MAA)1枚を水3mlに浸漬し、エチレンジアミン30mg、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩10mg、N−ヒドロキシスクシンイミド6mgを添加して3時間室温で攪拌した。コンタクトレンズを純水で十分洗浄し、水3mlに浸漬した後、化学式(2)の化合物10mg、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩10mg、N−ヒドロキシスクシンイミド6mgを添加して室温で3時間攪拌後、水で十分洗浄して目的とするホスホリルコリン基が表面に化学的に結合したコンタクトレンズを得た。
【0036】
「実施例2」<式(3)の化合物を有するコンタクトレンズ(スペーサー:エチレンジアミン)>
市販のソフトコンタクトレンズとして、EtafilconA(商品名:ワンデーアキュビュー、J&J社)、構成モノマー:HEMA-MAA)1枚を水3mlに浸漬し、エチレンジアミン30mg、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩10mg、N−ヒドロキシスクシンイミド6mgを添加して3時間室温で攪拌した。コンタクトレンズを純水で十分洗浄し、水3mlに浸漬した後、化学式(3)の化合物10mgを添加して室温で4時間攪拌後、シアノホウ素酸ナトリウム3mgを添加して一晩攪拌、水で十分洗浄して目的とするホスホリルコリン基が表面に化学的に結合したコンタクトレンズを得た。
【0037】
「実施例3」<式(2)の化合物を有するコンタクトレンズ(スペーサー:1,6−ジアミノヘキサン)>
市販のソフトコンタクトレンズとして、EtafilconA(商品名:ワンデーアキュビュー、J&J社)、構成モノマー:HEMA-MAA)1枚をN,N−ジメチルホルムアミド3mlに浸漬し、1,6−ジアミノヘキサン50mg、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩10mg、N−ヒドロキシスクシンイミド6mgを添加して3時間室温で攪拌した。コンタクトレンズをN,N−ジメチルホルムアミドで十分洗浄し、N,N−ジメチルホルムアミド3mlに浸漬した後、化学式(2)の化合物10mgと塩化チオニル6mgをN,N−ジメチルホルムアミド中で30分間攪拌した溶液1mlと混合し、4時間反応、水で十分洗浄して目的とするホスホリルコリン基が表面に化学的に結合したコンタクトレンズを得た。
【0038】
「実施例4」<式(2)の化合物を有するコンタクトレンズ(スペーサー:エチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル)>
市販のソフトコンタクトレンズとして、EtafilconA(商品名:ワンデーアキュビュー、J&J社)、構成モノマー:HEMA-MAA)1枚をN,N−ジメチルホルムアミド3mlに浸漬し、エチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル62mg、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩10mg、N−ヒドロキシスクシンイミド6mgを添加して3時間室温で攪拌した。コンタクトレンズをN,N−ジメチルホルムアミドで十分洗浄し、N,N−ジメチルホルムアミド3mlに浸漬した後、化学式(2)の化合物10mgと塩化チオニル6mgをN,N−ジメチルホルムアミド中で30分間攪拌した溶液1mlと混合し、4時間反応、水で十分洗浄して目的とするホスホリルコリン基が表面に化学的に結合したコンタクトレンズを得た。
【0039】
「比較例1〜5」
比較として、下記市販品のコンタクトレンズを使用した。
比較例1.EtafilconA(商品名:ワンデーアキュビュー、J&J社)
比較例2.EtafilconA(商品名:ワンデーアクエアー、オキュラーサイエンス社)
比較例3.NelfilconA(商品名:フォーカスデイリィーズ、チバビジョン社)
比較例4.Polymacon(商品名:メダリスト、ボシュロム社)
比較例5.VifilconA(商品名:フォーカス、チバビジョン社)
比較例6.比較実施例1
比較例7.比較実施例2
【0040】
「比較例6」
特許文献5の手法に基づき、1−α−グリセロホスホリルコリン10mg、1,1−カルボニルジイミダゾール20mg、トリエチルアミン20mgをジメチルスルホキシド3mlに添加し、50℃で2時間攪拌した。この溶液に、実施例1で使用したPolymaconを浸漬し、室温で12時間反応させた。コンタクトレンズをジメチルスルホキシド次いで水で充分に洗浄し、リン定量を行ったところ、導入されたホスホリルコリン基は検出限界の0.0001μmol/mg以下であり、反応が進行していなかった。
【0041】
「比較例7」
特許文献5の手法に基づき1−α−グリセロホスホリルコリン10mg、1,1−カルボニルジイミダゾール20mg、トリエチルアミン20mgをジメチルスルホキシド3mlに添加し、50℃で2時間攪拌した。この溶液に、実施例2で使用したNelfilconAを浸漬し、室温で12時間反応させた。コンタクトレンズをジメチルスルホキシド次いで水で充分に洗浄し、リン定量を行ったところ、導入されたホスホリルコリン基は検出限界の0.0001μmol/mg以下であり、反応が進行していなかった。
【0042】
実施例1〜4、比較例1〜7の蛋白質吸着の結果を図1に示す。この結果から、本発明のコンタクトレンズは蛋白質の吸着を顕著に抑制していることが分る。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、コンタクトレンズの蛋白質吸着を高度に抑制し、蛋白質による汚れを顕著に防止できる。
本発明の方法は、蛋白質の汚れが致命的な問題となるソフトコンタクトレンズに好ましく利用できる。蛋白質吸着が促進されるイオン性ソフトコンタクトレンズには特に好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例と比較例のコンタクトレンズに対する蛋白質吸着量のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、末端アミノ基を有する化合物を眼用レンズ材料の表面に導入し、次に、下記式(2)のホスホリルコリン基含有化合物を前記末端アミノ基を有する化合物を介して導入することを特徴とする眼用レンズ材料の製造方法。
【化1】

(1)

【化2】

nは1〜18の自然数
(2)
【請求項2】
眼用レンズ材料の表面に、下記式(1)で示すホスホリルコリン基を有する化合物を反応させて共有結合させる工程を有する眼用レンズ材料の製造方法において、末端アミノ基を有する化合物を眼用レンズ材料の表面に導入し、次に、下記式(3)のホスホリルコリン基含有化合物を前記末端アミノ基を有する化合物を介して導入することを特徴とする眼用レンズ材料の製造方法。
【化3】

(1)

【化4】

(3)
【請求項3】
前記末端アミノ基を有する化合物が、C0(ヒドラジン)〜C12のアルキル基、重合度1〜10のエチレンオキシド基、重合度1〜10のプロピレンオキシド基、重合度1〜20のエチレンイミン、重合度1〜20のプロピレンイミンを有する化合物、ピペラジン、またはアニリンを有する化合物であることを特徴とする請求項1または2記載の眼用レンズ材料の製造方法。
【請求項4】
眼用レンズ材料の表面に、末端アミノ基を有する化合物を導入し、次に前記式(2)または式(3)のホスホリルコリン基含有化合物を眼用レンズ材料に反応させる後処理によって、ホスホリルコリン基を眼用レンズ材料表面に共有結合させて、眼用レンズ材料に対する蛋白質の吸着を防止することを特徴とする眼用レンズ材料の蛋白質吸着防止方法。
【請求項5】
前記式(2)または(3)のホスホリルコリン基含有化合物にアミノ基を導入し、次に眼用レンズ材料の表面に反応させる処理によって、ホスホリルコリン基を眼用レンズ材料表面に共有結合させて、眼用レンズ材料に対する蛋白質の吸着を防止することを特徴とする眼用レンズ材料の蛋白質吸着防止方法。
【請求項6】
眼用レンズ材料表面と、導入する前記式(2)または(3)のホスホリルコリン基を有する化合物の間にアミド結合或いはアルキルアミン結合によりスペーサーが導入された眼用レンズ材料。

【図1】
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【公開番号】特開2006−11382(P2006−11382A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136846(P2005−136846)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(592057341)
【Fターム(参考)】