説明

蛍光イムノクロマトグラフィー法、これに用いるキット及びテストストリップ

【課題】メンブレンが湿った状態でも蛍光ラインの検出上のにじみやぼけを抑えた良好な判定が可能な蛍光イムノクロマトグラフィー法、これに用いるキット及びテストストリップを提供する。
【解決手段】メンブレン中の蛍光物質に励起光を照射し、該蛍光物質から発せられる蛍光を検出して行うイムノクロマトグラフィー法であって、前記蛍光物質への光照射を前記メンブレンの表面に密着させて配設された透明フィルムを介して行うに当たり、該透明フィルムとして、検体液に対して屈折率に係る特定の関係が成立するものを適用することにより、前記透明フィルムに入射した上記蛍光を上記透明フィルムの表面に密着させた上記メンブレンの面で全反射させることにより上記透明フィルム内で導波させることを特徴とする蛍光イムノクロマトグラフィー法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光イムノクロマトグラフィー法、これに用いるキット及びテストストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマトグラフィー法(以下、イムノクロマト法と称することがある。)は、ナノ粒子を用いた診断手法である。この手法は操作が簡便で、判定までに要する時間が10〜30分程度と比較的短時間であり、判定に高価な装置を要しないことから優れた簡易診断手法として臨床の現場で多用されている。例えば、インフルエンザウィルスの感染の判定では、患者から採取した咽頭ぬぐい液や鼻腔ぬぐい液を検体として、その場で短時間で判定が可能であり、感染の簡易判定手法として非常に有力なツールとして普及している。
イムノクロマト法では一般的に金コロイドや着色ラテックス粒子等の着色粒子が標識粒子として用いられている。しかし着色粒子を用いたイムノクロマト法は感度が不十分であり、検体に含まれる被検物質の量が十分でない検査項目には用いることができない。またインフルエンザウィルスの感染の判定では、検体中に十分な量のウィルスが存在しない感染初期では、着色粒子を用いたイムノクロマト法では陰性と判定されてしまう場合がある。これらの課題を解決するために、イムノクロマト法の高感度化に向けた試みが行われている。
イムノクロマト法の高感度化の手法として、標識粒子として蛍光粒子を用いた「蛍光イムノクロマト法」がある(特許文献1〜3参照)。蛍光イムノクロマト法は、標識粒子として蛍光特性を有するラテックス粒子やシリカ粒子、半導体ナノ粒子等を用い、ラインを蛍光検出するため、着色粒子を用いたイムノクロマト法における目視の判定に比べて高感度な判定が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/018566号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/097377号パンフレット
【特許文献3】特開2010−197248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、蛍光イムノクロマト法は高感度検出に優れた手法であるが、その後の研究を通じ、以下のような課題があることが分かってきた。
イムノクロマト法は迅速に診断できることを特徴とする。例えば10分で検出が可能である。この場合、検出部が形成されるメンブレンは湿った状態である。蛍光イムノクロマト法において、湿ったメンブレンに励起光源を照射すると、照射した励起光及び蛍光粒子から散乱される蛍光はメンブレンの全体を導波し、メンブレン全体が光ってしまう(図6参照)。その結果、蛍光発光したラインはメンブレン全体の発光に埋もれてしまい判定が困難になる。この現象は、標識粒子の着色即ち光の吸収によってラインの判定を行う従来型のイムノクロマト法には生じず、標識粒子の発光でラインの判定を行う蛍光イムノクロマト法に特有の課題である。
上記の問題点に鑑み、本発明は、メンブレンが湿った状態でも蛍光ラインの検出上のにじみやぼけを抑えた良好な判定が可能な蛍光イムノクロマトグラフィー法、これに用いるキット及びテストストリップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、メンブレンの表面に特定の光学フィルムの層を設けることで、湿ったメンブレン全体に励起光及び蛍光が導波する現象が抑制され、迅速に高感度判定できる蛍光イムノクロマト法が実現できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は下記の手段を有する。
(1)メンブレン中の蛍光物質に励起光を照射し、該蛍光物質から発せられる蛍光を検出して行うイムノクロマトグラフィー法であって、前記蛍光物質への光照射を前記メンブレンの表面に密着させて配設された透明フィルムを介して行うに当たり、該透明フィルムとして、検体液に対して屈折率に係る下記式(1)が成立するものを適用することにより、前記透明フィルムに入射した上記蛍光を上記透明フィルムの表面に密着させた上記メンブレンの面で全反射させることにより上記透明フィルム内で導波させることを特徴とする蛍光イムノクロマトグラフィー法。
[式(1) nFf>nWf
(nFf:前記蛍光の波長λにおける透明フィルムの屈折率)
(nWf:前記蛍光の波長λにおける検体液の屈折率)
(2)前記透明フィルムとして、検体液に対して屈折率に係る下記式(2)が成立するものを適用すること特徴とする(1)に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
[式(2) nFf>nWf+0.1]
(nFf、Wfは式(1)と同義である。)
(3)前記透明フィルムについて、前記励起光の波長λにおける光透過率(TFe)および前記蛍光の波長λにおける光透過率(TFf)がいずれも80%以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
(4)前記蛍光物質がシリカに導入された蛍光シリカ粒子を用いることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
(5)前記励起光の波長λが300nm〜700nm、前記蛍光の波長λが350nm〜800nmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
(6)前記励起光の波長λが500nm〜550nm、前記蛍光の波長λが530nm〜580nmであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
(7)前記透明フィルム内において、透明フィルムに入射して拡散した蛍光が、上記透明フィルムと空気との界面、及び、上記透明フィルムと上記メンブレンとの界面で全反射されることにより、透明フィルムが導波路となることで、当該蛍光のメンブレン内での拡散を抑制し、前記蛍光物質近傍の蛍光の検出性が高められた(1)〜(6)のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
(8)前記励起光をレーザダイオードまたは発光ダイオードから照射し、一方、光学フィルタで前記励起光を除去し蛍光のみを検出する機構を用いる(1)〜(7)のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
(9)前記検出判定を5分以内に行うことを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
(10)蛍光物質に励起光を照射し該蛍光物質からの蛍光を検出して行うイムノクロマトグラフィー法に用いられるキットであって、
該キットは、透明フィルムがメンブレン本体に配設されたテストストリップと前記メンブレン本体に付与される蛍光物質とを組み合わせてなり、
前記透明フィルムの屈折率が検体液に対して下記式(1)成立するものを適用することにより、前記透明フィルムに入射した上記蛍光を上記透明フィルムの表面に密着させた上記メンブレンの面で全反射させることにより上記透明フィルム内で導波させることを特徴とする蛍光イムノクロマトグラフィー用キット。
[式(1) nFf>nWf
(nFf:前記蛍光の波長λにおける透明フィルムの屈折率)
(nWf:前記蛍光の波長λにおける検体液の屈折率)
(11)前記蛍光物質がシリカ粒子に導入された標識シリカ粒子をなし、該標識シリカ粒子を含有する標識試薬として具備する(10)に記載のキット。
(12)前記透明フィルムの厚みが、20μm以上1mm以下であることを特徴とする(10)又は(11)に記載のキット。
(13)前記透明フィルムの材質が、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、及びポリエチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする(10)〜(12)のいずれか1項に記載のキット。
(14)蛍光物質に励起光を照射し該蛍光物質からの蛍光を検出して行うイムノクロマトグラフィー法に用いられるテストストリップであって、
該テストストリップは、透明フィルムとこれが配設されたメンブレン本体とを有してなり、
前記透明フィルムの屈折率が検体液に対して下記式(1)が成立するものを適用することにより、前記透明フィルムに入射した上記蛍光を上記透明フィルムの表面に密着させた上記メンブレンの面で全反射させることにより上記透明フィルム内で導波させることを特徴とする蛍光イムノクロマトグラフィー用テストストリップ。
[式(1) nFf>nWf
(nFf:前記蛍光の波長λにおける透明フィルムの屈折率)
(nWf:前記蛍光の波長λにおける検体液の屈折率)
(15)前記蛍光物質がシリカ粒子に導入されている(14)に記載のテストストリップ。
(16)前記透明フィルムの厚みが、20μm以上1mm以下であることを特徴とする(14)又は(15)に記載のテストストリップ。
(17)前記透明フィルムの材質が、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、及びポリエチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする(14)〜(16)のいずれか1項に記載のテストストリップ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、蛍光イムノクロマトグラフィー法において、メンブレンが湿った状態であってもメンブレン全体が光る現象により蛍光ラインが相対的に、にじんだりぼけたりすることを抑制・防止することができる。そのため、蛍光イムノクロマトグラフィー法において、より迅速かつ正確な蛍光ラインの検出による判定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に好適に用いられる長尺試験体を模式的に示す分解斜視図である。
【図2】本発明に好適に用いられるイムノクロマトメンブレンの説明図であり、(a)が平面図であり、(b)が展開断面図である。
【図3】本発明の蛍光イムノクロマトグラフィー法における励起光及び蛍光の反射機構を模式的にメンブレンの断面で示した模式図である。
【図4】従来の蛍光イムノクロマトグラフィー法における励起光及び蛍光の反射機構を模式的にメンブレンの断面で示した模式図である。
【図5】本発明の蛍光イムノクロマトグラフィー法における蛍光ラインの一例を示す拡大鏡像を示す図面代用写真である。
【図6】従来の蛍光イムノクロマトグラフィー法における蛍光ラインの一例を示す拡大鏡像を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の標的物質の検出方法(イムノクロマトグラフィー法)の一例として、イムノクロマトグラフィー用テストストリップを用いた標的物質の検出方法の好ましい実施形態について説明する。
【0010】
[テストストリップ]
本実施形態のイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、下記の部材が相互に毛細管現象が生じるように直列連結していることが好ましい。
・試料添加用部材(サンプルパッド)8a
・本発明の標識試薬シリカナノ粒子(蛍光標識体)2、3を含浸し、乾燥して得られる部材(コンジュゲートパッド)8b
・抗体固定化部を有するメンブレン(抗体固定化メンブレン)8c
・吸収パッド8d
【0011】
本実施形態においては、図1及び図2に示したように、上述した平面試験片本体(メンブレン本体)80を具備するテストストリップ10が筐体上部6aと筐体下部6bとで挟持内包され、長尺試験体100をなしている。筐体上部6aには、検出開口部61と検体導入開口部62とが設けられている。この検出開口部61を介して、照射光を内部のメンブレン本体80に送り、そこで発せられる蛍光を集光し検出・観測することができる。一方、検体導入開口部62を介して検体液sをメンブレン本体80に供給し測定試験を行うことができる。
【0012】
図2(a)及び(b)を参照して、本実施形態のイムノクロマトグラフィー用テストストリップの好ましい1つの実施形態について説明するが、本発明はこれに制限するものではない。なお、図2では、図1に示したものと各部材の寸法の比率が若干異なるものとして示しており、また透明フィルム7及びバッキングシート8eを省略せずに示している。図2(a)は、本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップの好ましい一実施形態の平面図を示し、図2(b)は、図1(a)で示したイムノクロマトグラフィー用テストストリップの展開縦断面図を示す図である。本実施形態のイムノクロマトグラフィー用テストストリップ10は、上述のように、サンプルパッド8a、コンジュゲートパッド8b、抗体固定化メンブレン8c、吸収パッド8dを具備してなる。さらに、上記各構成部材は、本実施形態のように、粘着剤付きバッキングシート8eにより裏打ちされていることが好ましい。
【0013】
(標的物質)
本発明において、検出、定量の対象としての標的物質1は、抗原、抗体、DNA、RNA、糖、糖鎖、リガンド、受容体、ペプチド、化学物質等が挙げられる。本発明において、標的物質1を含有する試料としては特に制限はないが、尿、血液などの液体試料が挙げられる。
【0014】
(サンプルパッド)
サンプルパッド8aは標的物質を含むサンプルを滴下する構成部材である。その材料や寸法等は特に限定されず、この種の製品に適用される一般的なものを利用することができる。
【0015】
(コンジュゲートパッド)
コンジュゲートパッド8bは標識試薬シリカナノ粒子(蛍光標識体)2,3が含浸された構成部材である。そして、サンプルパッド8aから毛細管現象により移動してきた試料に含まれる標的物質が抗原抗体反応等の特異的分子認識反応で、前記標識試薬シリカナノ粒子(標識体)によって捕捉され、標識される部分である。
コンジュゲートパッド8bにおける単位面積(cm2)当たりの前記標識試薬シリカナノ粒子(標識体)の含有量は特に制限はないが1μg〜100μgが好ましい。含浸方法としては、前記標識試薬シリカナノ粒子の分散液を塗布、滴下ないしは噴霧後、乾燥する方法等が挙げられる。
【0016】
(抗体固定化メンブレン)
前記抗体固定化メンブレン8cにおける抗体固定化部に、標的物質の有無を判定、すなわち陽性陰性を判定するための標的物質捕捉用抗体が固定化されたテストラインnを設ける。抗体固定化メンブレン8cには、標識試薬シリカナノ粒子を捕捉するための抗体が固定化されたコントロールラインnを含むことが好ましい。
メンブレン8cは前記標識試薬シリカナノ粒子(標識体)2,3により標識された標的物質1が毛細管現象によって移動する構成部材であり、固定化抗体−標的物質−標識試薬シリカナノ粒子からなるサンドイッチ型免疫複合体形成反応が行われる抗体固定化部(判定部)を有する。前記メンブレンにおける前記抗体固定化部(判定部)の形状としては局所的に捕捉用抗体が固定化されている限り特に制限はなく、ライン状、円状、帯状等が挙げられるが、ライン状であることが好ましく、幅0.5〜1.5mmのライン状であることがより好ましい。
【0017】
固定化抗体−標的物質−標識試薬シリカナノ粒子(蛍光標識体)からなるサンドイッチ型免疫複合体形成反応により抗体固定化部(判定部)に、標識された標的物質が捕捉される。標識の程度により標的物質の有無を判定、すなわち陽性陰性を判定することができる。すなわち、前記抗体固定化部(判定部)に標識試薬シリカナノ粒子(標識体)が濃縮され、その蛍光物質の近傍が蛍光発光し、目視的に、又は検出機器を用いて検出、判定できる。
【0018】
前記サンドイッチ型免疫複合体形成反応を充分に完了させるため、あるいは液体試料中の着色又は蛍光物質等の標識による測定への影響や標的物質と結合していない標識体による測定への影響を回避するため、抗体固定化メンブレンにおける判定部は、前記コンジュゲートパッドとの連結端及び前記吸収パッドとの連結端からある程度離れた位置(例えば、前記メンブレンの中程など)に設けておくことが好ましい。
【0019】
前記抗体固定化部(試験領域)ntにおける抗体固定化量は特に制限ないが、形状がライン状の場合、単位長さ(cm)当たりの0.5μg〜5μgが好ましい。固定化方法としては、抗体溶液を塗布、滴下ないしは噴霧後、乾燥して物理吸着により固定化する方法等が挙げられる。前述の抗体固定化後に、非特異的吸着による測定への影響を防止するために前記抗体固定化メンブレン全体をいわゆるブロッキング処理を施しておくことが好ましい。例えば、アルブミン、カゼイン、ポリビニルアルコール等のブロッキング剤を含有する緩衝液中に適当な時間浸漬した後乾燥する方法等が挙げられる。市販の前記ブロッキング剤としては、例えば、スキムミルク(DIFCO社製)、4%ブロックエース(明治乳業社製)などが挙げられる。
メンブレン8cには、さらに参照領域nrがあり、そこには標的物質で捕捉されていない蛍光粒子(標識体)3が捕捉される。これにより、テスト領域ntでの蛍光と対比して、標的物質への有無や量を固定することができる。この機能を果たすために、試験用蛍光標識体2は蛍光シリカが粒子2aと試験用結合性物質2bとからなる。試験用結合性物質2bは標的物質との結合性を有する。一方、参照用標識体3は蛍光シリカ粒子3aと参照用結合性物3bとからなる。参照用捕結合性物質は、標的物質へとの結合性はなく、参照用捕捉性物質との結合性を有する。
【0020】
(吸収パッド)
吸収パッド8aは、毛細管現象でメンブレンを移動してきた検体S(標的物質)及び標識試薬シリカナノ粒子(標識体)2,3を吸収し、常に一定の流れを生じさせるための構成部材である。
【0021】
これら各構成部材の材料としては特に制限は無く、イムノクロマトグラフィー用テストストリップに用いられる部材が使用できるが、サンプルパッドおよびコンジュゲートパッドとしてはGlass Fiber Conjugate Pad(商品名、MILLIPORE社製)等のガラスファイバーのパッドが好ましく、メンブレンとしてはHi−Flow Plus120メンブレン(商品名、MILLIPORE社製)等のニトロセルロースメンブレンが好ましく、吸収パッドとしてはCellulose Fiber Sample Pad(商品名、MILLIPORE社製)等のセルロースメンブレンが好ましい。
前記粘着剤付きバッキングシートとしては、AR9020(商品名、Adhesives Research社製)等が挙げられる。
【0022】
[透明フィルム]
本発明の蛍光イムノクロマト法においては、メンブレン本体に透明フィルムを適用するに際し、下記の関係式が成り立つものを採用する。
[式(1) nFf>nWf
(nFf:前記蛍光の波長λにおける透明フィルムの屈折率)
(nWf:前記蛍光の波長λにおける検体液の屈折率)
なお、励起光ないし蛍光の波長については、複数ある場合にはその最大照度を示す波長を言う。照度に分布がある場合には、その最大ピークを与える波長をもって評価することとする。
なお、励起光についても、透明フィルムと検体液に関して以下の屈折率の関係が成立していることが好ましい。
[式(1)´ nFe>nWe
(nFe:励起光の波長λeにおける透明フィルムの屈折率)
(nWe:励起光の波長λeにおける検体液の屈折率)
【0023】
たとえば蛍光の波長が589.3nm(λであれば、その波長での水の屈折率は1.333であるから、本発明において適用される透明フィルム7の屈折率は1.333より大きくすればよい。なお、水(検体液)を媒体とする場合可視光領域では光は正常分散であるから、屈折率の波長依存性は小さく、可視光の範囲での屈折率の差は0.01程度であることが知られている。
上記水の屈折率のみならず、フィルムの屈折率についても波長依存性がさほど大きくないことがある。このような場合でも、上記のように波長ごとの屈折率を規定することは有意義であり、蛍光の波長において、フィルムと検体液との屈折率の関係を特定のものとすることで、本発明における検出上のにじみやぼけを抑えるという効果を的確に発揮させることができる。
【0024】
本発明の蛍光イムノクロマト法においては、さらに上記条件での屈折率は検体液の屈折率に比べて0.1以上大きいことが好ましく、0.2以上大きいことが更に好ましい。これを関係式として示すと下記のようになり、式(2)を満たすことが好ましく、式(3)を満たすことがより好ましいこととなる。なお、nFf、nWfは上記式(1)と同義である。
【0025】
[式(2) nFf>nWf+0.1]
【0026】
[式(3) nFf>nWf+0.2]
【0027】
図4は従来のテストストリップにおける検出の状態をメンブレンの断面により模式的に示している。これは試験領域(蛍光物質近傍)nにおける検出の様子を示しているが、参照領域(蛍光物質近傍)nにおいても現象的には同様のことが言える。なお、メンブレンは、テストストリップ使用時には、メンブレン全体がほぼ、検体液で塗れた状態で使用されることから、メンブレンは湿った状態であると仮定する。まず、励起光源Lから励起光71が照射され、透明フィルム7を透過して、メンブレンの蛍光標識体2に励起光71が到達する。標識体2はメンブレンの表面近傍もしくは内部に存在しており、上記励起光の照射を受け、蛍光72を発する。メンブレンは多孔体であるから、蛍光は多孔体を構成する固相によって散乱される。その後、散乱された蛍光の一部は外界(空気)Aとの界面に到達するが、メンブレンが水で湿った状態の場合、水(検体液)の屈折率が外界(空気)Aの屈折率より大きいため、入射角が臨界角より大きい角度で入射した蛍光は全反射してメンブレン内部に戻る方向に進行し、さらにメンブレンの固相で散乱されながらメンブレン内を伝播する(全反射光73)。外界(空気)の屈折率はおよそ1.0で評価することができる。一方入射角が臨界角より小さい角度で入射した蛍光は外界Aに放出される(出射光74[図4参照])。このようにメンブレンと外界の界面では、臨界角より大きい角度で入射した蛍光は全反射して、さらにメンブレンの固相で散乱されながらメンブレン内を伝播し、臨界角より小さい角度で入射した蛍光は外界Aに放出されるため、メンブレン全体が発光して見えることとなる。上記の説明はモデルを簡素化して説明しており、メンブレン内外での光の挙動は必ずしもこれに一致しなくてもよいが、典型的には上記の機構を通じてメンブレン全体が発光して見えることとなる。また、蛍光イムノクロマト法において用いられる検体液は通常水に塩、タンパク質、界面活性剤等が溶解された液であり水より屈折率が大きいから、検体液を用いた場合であっても液相の屈折率は空気の屈折率より必ず大きくなるため、同様の現象が生じる。そうすると、試験領域(蛍光標識体)nでライン状の蛍光発光があっても、周辺にも発光が広がり、上記のライン発光が相対的ににじむ、あるいはぼけるように見えることとなる(図6参照)。
【0028】
これに対し、本発明においては、メンブレン本体に特定の透明フィルム7が適用されている(図3参照)。このフィルムは上記のとおり、特定の波長条件において検体液より屈折率が高いものが適用されている(上記式(1)参照)。図3の実施形態においても、励起光源Lから励起光71が照射され、これを受け標識体2から蛍光72が発せられメンブレンの多孔体を構成する固相によって散乱されるのは、図4のときと同様である。その後、散乱された蛍光72の一部は透明フィルムの界面に到達するが、このときメンブレン8cの外表面には透明フィルム7があり、この屈折率が検体液の屈折率よりも高いため、その蛍光72はフィルム7側に入射していく。その後、蛍光72の一部はさらに外界Aとの界面に到達するが、透明フィルムの屈折率の方が空気の屈折よりも高く設定されているため、入射角が臨界角より大きい場合は外界Aには放出されず、フィルム内部にとどまるように全反射する(反射光73)。その下方では、やはり透明フィルムの方が検体液より屈折率が高いため、反射光73はフィルム内部にとどまるように全反射し、フィルムを導波路として伝播していく。このとき透明フィルムでは、メンブレンとは異なり、光の吸収や散乱を起こさずに反射光73が伝播していくので、一度全反射した蛍光はそれ以後フィルム表面から外界Aに放出されることなく、メンブレン8cの蛍光物質近傍の蛍光発光の視認性が保たれる。結果として、試験領域nの発光ラインがその周辺の発光ないし発色に阻害されず、鮮明に維持され、良好な検出が可能となる(図5参照)。
【0029】
なお、励起光源Lから照射された励起光71は、透明フィルム7内に入射したり、透明フィルム7の表面で反射されたりする。透明フィルム7に入射した励起光71は、透明フィルム7を透過して、メンブレン8cに入射するものの他、一部は、透明フィルム71のメンブレン8cの界面で全反射されるものもある。そして、メンブレン8cに入射した励起光71が、蛍光72の発生に寄与するものもあれば、メンブレン8c内で散乱され、蛍光の発生には寄与しないものもある。
【0030】
また、メンブレン8c内で散乱された励起光は、透明フィルム7に入射した後、さらに、透明フィルム7を透過して、透明フィルム7の表面から放出されるか、透明フィルム内で全反射して透明フィルム7の端面から放出されるかのいずれかとなるが、以下で説明するように、蛍光のみを透過させるフィルタを検出器の手前に設置することにより、透明フィルムから放出された励起光を除去して蛍光のみを検出することが可能である。
ここで、メンブレン8c内の参照領域や試験領域において、蛍光物質が励起されて発生した蛍光は、メンブレン8c内で一部は散乱されるが、残りは透明フィルム7に入射する。透明フィルム7に入射した蛍光は、フィルムを透過して検出器で検出することができるが、一部は透明フィルム7内で全反射を繰り返し、透明フィルム端面からフィルム外に放出される。以上のように、メンブレン8cに透明フィルム7を貼り付けることで、透明フィルム7の蛍光の強度を低減できることから、相対的に参照領域や試験領域の蛍光の強度を、透明フィルムのその他の部分より相対的に高めることが可能となる。
【0031】
本発明の蛍光イムノクロマト法において、透明フィルム7の光の透過率は、特に制限はないが、励起光の最大波長の透過率(TFe)及び蛍光の最大波長の透過率(TFf)において80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。光の透過率がこの値を下回ると励起光および蛍光がフィルムに吸収されることによるロスが生じ、検出感度が低くなることがある。
【0032】
透明フィルムの厚みは特に制限はないが、1μmから1mmであることが好ましい。
【0033】
透明フィルムの材質としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
以下に上記材料による透明フィルムがもつ屈折率の例を示すが本発明がこれに限定して解釈されるものではない。
[表A]
――――――――――――――――――――――――――――
材料 屈折率(波長542nm)
――――――――――――――――――――――――――――
ポリフッ化ビニリデン 1.42
酢酸セルロース 1.46−1.50
ポリメタクリル酸メチル 1.49
ポリプロピレン 1.49
ナイロン 1.53
ポリエチレン 1.53
ポリ塩化ビニル 1.53
ポリスチレン 1.6
ポリ塩化ビニリデン 1.61
ポリエチレンテレフタレート 1.66
――――――――――――――――――――――――――――
なお、特に断らない限り、屈折率は、温度20℃における値を言う。透過率等、他の光学特性も特に断らない限り、同様である。
【0034】
[技術用語の意味]
本明細書で用いる技術用語の意味を確認すると、標的物質1(図1中の符号を併せて示すが、これにより限定して解釈されるものではない。)はラテラルフロー法による検出対象となる物質であり、検体中の被検物質と同義である。結合性物質2b,3bはそれぞれ前記標的物質及び捕捉性物質に対する結合能を有する物質であり、好ましくは生体分子である。標識物質(図示せず)が導入された標識粒子2a,3aを標識体2,3と呼ぶ。ただし、広義には、標識粒子という用語を標識体を含む意味で用いることがある。一方、試験領域でメンブレンに固定され、標的物質1を介して標識体2を捕捉するものが試験用捕捉性物質4である。他方、参照領域でメンブレンに固定されたものが参照用捕捉性物質5であり、これに標識体3が標的物質1を介さずに捕捉される。
【0035】
[蛍光シリカ粒子]
本発明で用いる蛍光イムノクロマト法用標識粒子(標識体)2,3としては、蛍光シリカ粒子や蛍光ラテックス粒子、半導体ナノ粒子などの標識粒子2a,3aと、結合性生体分子2b,3bとを組み合わせて用いることができる。本発明においては、特に蛍光シリカ粒子を用いることが好ましい。
【0036】
蛍光シリカ粒子の調製方法に特に制限はなく、任意のいかなる調製方法によって得られたシリカ粒子であってもよい。例えば、Journal of Colloid and Interface Science,159,150−157(1993)に記載のゾル−ゲル法が挙げられる。
本発明において、国際公開2007/074722A1公報に記載された蛍光色素化合物含有コロイドシリカ粒子の調製方法に準じて得られた、機能性化合物を含有するシリカ粒子を用いることが特に好ましい。前記機能性化合物の具体例としては、蛍光色素化合物、吸光化合物、磁性化合物、放射線標識化合物、pH感受性色素化合物等が挙げられる。
【0037】
具体的には、前記機能性化合物を含有するシリカ粒子は、前記機能性化合物とシランカップリング剤とを反応させ、共有結合、イオン結合その他の化学的に結合若しくは吸着させて得られた生成物に1種又は2種以上のシラン化合物を縮重合させシロキサン結合を形成させることにより調製することができる。これによりオルガノシロキサン成分とシロキサン成分とがシロキサン結合してなるシリカ粒子が得られる。
前記機能性化合物を含有するシリカ粒子の好ましい調製方法の態様としては、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基、マレイミド基、イソシアナート基、イソチオシアナート基、アルデヒド基、パラニトロフェニル基、ジエトキシメチル基、エポキシ基、シアノ基等の活性基を有する又は付加した前記機能性化合物と、それら活性基と対応して反応する置換基(例えば、アミノ基、水酸基、チオール基)を有するシランカップリング剤とを反応させ、共有結合させて得られた生成物に1又は2種以上のシラン化合物を縮重合させシロキサン結合を形成させることにより調製することができる。
【0038】
前記シランカップリング剤としてAPS、シラン化合物としてテトラエトキシシラン(TEOS)を用いた場合を下記に例示する。
【0039】
【化1】

【0040】
前記活性基を有する又は付加した前記機能性化合物の具体例として、5−(及び−6)−カルボキシテトラメチルローダミン−NHSエステル(商品名、emp Biotech GmbH社製)、下記式でそれぞれ表されるDY550−NHSエステル又はDY630−NHSエステル(いずれも商品名、Dyomics GmbH社製)等のNHSエステル基を有する蛍光色素化合物を挙げることができる。
【0041】
【化2】

【0042】
前記置換基を有するシランカップリング剤の具体例として、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル-トリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。中でも、APSが好ましい。
【0043】
前記縮重合させる前記シラン化合物としては特に制限はないが、TEOS、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−チオシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、及び3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル−トリエトキシシランを挙げることができる。中でも、前記シリカ粒子内部のシロキサン成分を形成する観点からはTEOSが好ましく、前記シリカ粒子内部のオルガノシロキサン成分を形成する観点からはMPS又はAPSが好ましい。
【0044】
上述のように調製すると、球状、もしくは、球状に近いシリカ粒子が製造できる。球状に近いシリカ粒子とは、具体的には長軸と短軸の比が2以下の形状である。
所望の平均粒径のシリカ粒子を得るためには、YM−10、YM−100(いずれも商品名、ミリポア社製)等の限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行い、粒径が大きすぎたり小さすぎる粒子を除去するか、または適切な重力加速度で遠心分離を行い、上清または沈殿のみを回収することで可能である。
【0045】
前記シリカ粒子の表面に吸着又は結合させる生体分子としては、抗原、抗体、DNA、RNA、糖、糖鎖、リガンド、受容体、タンパク質又はペプチドが挙げられる。ここで、リガンドとはタンパク質と特異的に結合する物質をいい、例えば、酵素に結合する基質、補酵素、調節因子、あるいはホルモン、神経伝達物質などをいい、低分子量の分子やイオンばかりでなく、高分子量の物質も含む。
【0046】
蛍光シリカ粒子の平均粒径が1nm〜1μmであることが好ましく、20nm〜500nmであることがより好ましい。
本発明において、前記平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から無作為に選択した100個の標識試薬シリカ粒子の合計の投影面積から標識試薬シリカ粒子の占有面積を画像処理装置によって求め、この合計の占有面積を、選択した標識試薬シリカ粒子の個数(100個)で割った値に相当する円の直径の平均値(平均円相当直径)を求めたものである。
なお、前記平均粒径は、一次粒子が凝集してなる二次粒子を含む概念の後述する「動的光散乱法による粒度」とは異なり、一次粒子のみからなる粒子の平均粒径である。
【0047】
本明細書において、前記「動的光散乱法による粒度」とは、動的光散乱法により測定され、前記の平均粒径とは異なり、一次粒子だけでなく、一次粒子が凝集してなる二次粒子をも含めた概念であり、前記複合粒子の分散安定性を評価する指標となる。
動的光散乱法による粒度の測定装置としては、ゼータサイザーナノ(商品名;マルバーン社製)が挙げられる。この手法は、微粒子などの光散乱体による光散乱強度の時間変動を測定し、その自己相関関数から光散乱体のブラウン運動速度を計算し、その結果から光散乱体の粒度分布を導出するというものである。
【0048】
本発明の粒子は粒状物質として単分散であることが好ましく、粒度分布の変動係数いわゆるCV値は特に制限はないが、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。
【0049】
[検出方法]
本発明のイムノクロマト法による標的物質の検出方法においては、毛細管現象等を利用して移動する標識試薬シリカナノ粒子(標識体)2,3を利用して、判定部で前記粒子を集積させ、判定を行う検出方法であり、例えばイムノクロマト法やマイクロ流路チップ等を利用して行うことが好ましい。このとき、標識試薬シリカナノ粒子はラテラルフロー用標識体として好適に用いることができる。さらに、本発明の標的物質の検出方法において、ラテラルフロータイプのイムノクロマト法を利用して標的物質を検出することが好ましい。
【0050】
前記テストストリップの作製法としては、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの並び順に、各部材間で毛管現象を生じさせ易くするために、それら各部材の両端を隣接する部材と1〜5mm程度重ね合わせて(好ましくはバッキングシート上に)貼付することで作製することができる。
【0051】
前記イムノクロマト法用蛍光検出システムとしては、少なくとも(1)サンプルパッド、蛍光物質を含有してなる標識試薬シリカナノ粒子又はラテラルフロー用標識試薬シリカナノ粒子を含浸した部材(コンジュゲートパッド)、抗体固定化メンブレン及び吸収パッドからなるテストストリップ、並びに(2)励起光源からなることが好ましい。
前記蛍光検出システムにおいて、前記標識試薬シリカナノ粒子(標識体)が発する蛍光を目視等によって検出する観点から、前記励起光源が、波長200nm〜400nmの励起光を発することが好ましい。前記励起光源としては、水銀ランプ、ハロゲンランプ及びキセノンランプが挙げられる。本発明においては、特にレーザダイオードまたは発光ダイオードから照射した励起光を用いることが好ましい。
また、前記蛍光検出システムは、前記励起光源から特定の波長の光のみを透過するためのフィルタを備えていることがより好ましく、さらに、蛍光のみを目視等で検出する観点から、前記励起光を除去し蛍光のみを透過するフィルタを備えていることがさらに好ましい。
前記蛍光検出システムは、前記蛍光を受光する光電子倍増管又はCCD検出器を備えることが特に好ましく、これにより目視では確認できない強度ないしは波長の蛍光も検出でき、さらにはその蛍光強度を測定できることから標的物質の定量もでき、高感度検出及び定量が可能となる。
【0052】
前記励起光の波長は、300nm〜700nmであることが好ましい。前記蛍光の波長は目視で認識できる波長が好ましく、350nm〜800nmであることが好ましい。また、目視で観察した時に高い視感度が得られることから、530nm〜580nmであることがより好ましい。このとき、励起光の波長は、上記の波長帯域の蛍光を効率的に生成させるために、500nm〜550nmであることが好ましい。
【0053】
本発明の好ましい実施形態に係るテストストリップは、手技の習熟していない一般需要者でも操作し易くし、かつPOCT(Point Of Care Testing)の観点から、テストストリップの検出ラインを目視にて観察する観察窓のプラスチック材料等でハウジング(ケーシング)されていることが好ましい。例えば、特開2000−356638等に記載されているハウジング等が挙げられる。
ここで、POCTとは、患者にできる限り近い場所で診断するための検査をいう。従来は採取した血液、尿、患部組織などの検体は、病院の中央検査室や専門の検査センターに送られデータを出すので、診断の確定までに時間がかかっていた(例えば、1日以上)。POCTによれば、瞬時に提供される検査情報をもとに迅速かつ的確な治療が可能となることから、病院での緊急検査や手術中の検査が可能になるので、最近、医療現場でニーズが高い。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
調製例1(シリカナノ粒子の調製)
5−(及び−6)−カルボキシテトラメチルローダミン・スクシンイミジルエステル(商品名、emp Biotech GmbH社製)2.9mgを1mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。ここに1.3μLのAPSを加え、室温(24℃)で1時間反応を行った。
得られた反応液600μLと、エタノール140mL、TEOS6.5mL、蒸留水35mL及び28質量%アンモニア水15mLを混合し、室温で24時間反応を行った。
反応液を15000×gの重力加速度で30分間遠心分離を行い、上清を除去した。沈殿したシリカ粒子に蒸留水を4mL加え、粒子を分散させ、再度15000×gの重力加速度で20分間遠心分離を行った。本洗浄操作をさらに2回繰り返し、シリカナノ粒子分散液に含まれる未反応のTEOSやアンモニア等を除去し、平均粒径173nmのシリカナノ粒子1.71gを得た。収率約97%。
【0056】
調製例2(シリカ粒子と抗体の複合粒子の調製)
調製例1で用いた、濃度5mg/mlのローダミン6G含有シリカ粒子(平均粒径173nm)の分散液100μL(分散媒:蒸留水)に、蒸留水775μL、濃度10mg/mLのアルギン酸ナトリウム水溶液(重量平均分子量70000)100μL及び28重量%のアンモニア水溶液を25μL加え、室温(24℃)で1時間緩やかに混合した。得られたコロイドを12,000×gの重力加速度で30分遠心分離し、上清を除去した。ここに蒸留水を875μL加え、粒子を再分散させた。続いて、10mg/mLのアルギン酸ナトリウム水溶液を100μL加え撹拌子でよく撹拌したあと、28重量%のアンモニア水溶液を25μL加え、1時間緩やかに混合した。このコロイドを12,000×gの重力加速度で30分遠心分離し、上清を除去後、蒸留水を1mL加え粒子を分散させた。同様にして更に2回遠心分離と蒸留水への分散を繰り返して粒子を洗浄し、蒸留水200μLに分散させ、ローダミン6G含有シリカ粒子/アルギン酸の複合粒子のコロイドを得た(収量2.5mg/mL×200μL)。
【0057】
前記ローダミン6G含有シリカ粒子/アルギン酸の複合粒子のコロイドに、0.5Mの2−Morpholinoethanesulfonic acid、monohydrateバッファー(pH6.0)を100μL、蒸留水395μL、50mg/mLのNHS(N−Hydroxysuccinimide)水溶液230μL、及び19.2mg/mLのEDC(1−ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide)水溶液75μLを順に加えて10分間混合した。
【0058】
コロイドを12,000×Gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。ここに50mMKHPO(pH7.0)を480μL加え、粒子を分散させ、さらに抗hCG抗体(Anti−hCG clone codes/5008, Medix Biochemica社製)20μL(5.8mg/mL)を加え、室温で30分間緩やかに混合し、抗hCG抗体を前記シリカナノ粒子に共有結合させた。
【0059】
続いて、コロイドを12,000×Gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。ここに50mMKHPO(pH7.0)を1mL加え、粒子を分散させ、12,000×Gの重力加速度で10分遠心分離後、上清を除去した。ここに50mMKHPO(pH7.0)を1mL加え、粒子を分散させ、12,000×Gの重力加速度で10分遠心分離後、上清を除去した。ここに50mMKHPO(pH7.0)を1mL加え、粒子を分散させ、シリカ粒子と抗hCG抗体の複合粒子コロイド0.5mg/mlを1mL得た。
【0060】
実施例1・比較例1(イムノクロマトグラフィー用テストストリップの作製及び評価)
調製例1で得られた複合粒子のコロイド240μLと50mMKHPO(pH7.0)560μLを混合した。得られた混合液800μLをGlass Fiber Conjugate Pad(GFCP、MILLIPORE社製)(8×150mm)に均等に塗布した。デシケーター内で室温下、一夜減圧乾燥し、調製例2で得られた複合粒子を含有してなるコンジュゲートパッドを作製した。
【0061】
次に、抗体固定化メンブレンを以下の方法で作製した。
メンブレン(丈25mm、商品名:Hi−Flow Plus120 メンブレン、MILLIPORE社製)の中央付近(端から約12mm)に、幅約1mmのテストラインとして、抗hCG抗体(alpha subunit of FSH(LH),clone code/6601、Medix Biochemica社製)を1mg/mL含有する溶液((50mMKH2PO4,pH7.0)+5%スクロース)を0.75μL/cmの塗布量で塗布した。
続いて、幅約1mmのコントロールラインとして、抗マウスIgG抗体(Anti Mouse IgG、Dako社製)を1mg/mL含有する溶液((50mMKH2PO4,pH7.0)シュガー・フリー)を0.75μL/cmの塗布量で塗布し、50℃で30分乾燥させた。なお、テストラインとコントロールラインとの間隔は3mmとした。
サンプルパッド(Glass Fiber Conjugate Pad(GFCP)、MILLIPORE社製)、前記コンジュゲートパッド、前記抗体固定化メンブレン、及び吸収パッド(Cellulose Fiber Sample Pad(CFSP)、MILLIPORE社製)をバッキングシート(商品名AR9020,Adhesives Research社製)上でこの順に組み立てた。
続いて、PETフィルム(テイジン テトロン(登録商標)フィルムG2P2(帝人デュポンフィルム株式会社製))をサンプルパッドの端から1.4mm部分から、吸収パッドの端から1.2mmまでの部分を覆うように貼り付けた。
続いて、5mm幅、長さ60mmのストリップ状に切断し、図1(a)及び(b)に示した構成のテストストリップ101を得た。
なお、各構成部材は、図2(a)及び図2(b)に示すように、各々その両端を隣接する部材と2mm程度重ね合わせて貼付した(以下、同様である)。
【0062】
フィルムとして、ポリプロピレンフィルム(GL−422−CLEAR(G&L社製))を用いる以外は実施例1と同じ方法でテストストリップ102を作製した。
【0063】
比較例として、フィルムを貼り付けず、それ以外は実施例1と同じ方法でテストストリップc11を作製した。
【0064】
リコンビナントhCGの迅速判定
2IU/Lに調製したリコンビナントhCG(Scripps Laboratories社製)を調製し、屈折率を測定した。その結果屈折率は1.36であった。続いて同リコンビナントhCG液を実施例1、実施例2及び比較例で作成したテストストリップのサンプルパッド部分に100μL滴下し、0、5、10、15、20、25、30分経過時に蛍光リーダーでテストラインの判定を行った。ここで蛍光リーダーとは、波長532nmのレーザダイオードと光学フィルターからなる装置であり、メンブレンのライン領域に前記レーザダイオードを照射し、光学フィルムを介してラインを観察することによって、蛍光粒子の発する蛍光のみを観察する装置である。
判定の結果を表1に示す。図中「+」はテストラインが見えたことを意味し、「−」はテストラインが見えなかったことを意味する。比較例ではテストラインの蛍光が確認できるまでに30分かかったのに対し、実施例1では10分、実施例2では15分でテストラインが見えた。この結果から、フィルムを張ることで、短時間でテストラインの判定が可能になることが分かる。また、実施例2に比べて実施例1の方が短時間でテストラインが見えたことから、ポリプロピレンフィルムよりも水との屈折率の差が大きいPETフィルムを用いた方が判定時間が短くなることが分かる。なお、図5は実施例1の30分の拡大鏡像であり、図6は比較例の30分の拡大鏡像である。
【0065】
【表1】

PET:ポリエチレンテレフタレート
PP:ポリプロピレン
*1:空気の屈折率は約1.0として評価した
*2:表Aを参照した
【0066】
実施例2・比較例2(リコンビナントhCGの検出感度評価)
適宜の濃度に希釈したリコンビナントhCG(Scripps Laboratories社製)を調製し、屈折率を測定した。その結果屈折率は1.36であった。続いて同リコンビナントhCG液を実施例1・比較例1で作成したテストストリップのサンプルパッド部分に適宜の濃度に希釈したリコンビナントhCG(Scripps Laboratories社製)の溶液を滴下し、10分経過後に蛍光リーダーを用いてテストラインの判定試験を実施した(試験体No.101、102が実施例、試験体No.c11が比較例である。)。
【0067】
判定結果を表2に示す。試験c21では、5IU/Lまでしかテストラインが判定できなかったのに対し、試験201では1IU/L、試験202では2IU/Lまでテストラインの判定ができた。この結果から、フィルムを張ることで、判定時間が10分で、より
低濃度の抗原が検出できることが分かる。また、202に比べて201の方がより低濃度の抗原の判定ができたことから、ポリプロピレンフィルムよりも水との屈折率の差が大きいPETフィルムを用いた方が検出感度が良くなることが分かる。
【0068】
【表2】

【符号の説明】
【0069】
1 標的物質(被検物質)
2 蛍光標識体
2a 蛍光微粒子
2b 試験用結合性物質
3 蛍光標識体
3a 蛍光微粒子
3b 参照用結合性物質
4 試験用捕捉性物質
5 参照用捕捉性物質
6 筐体
61 検出開口部
62 検体導入開口部
6a 筐体上部
6b 筐体下部
7 透明フィルム
80 メンブレン本体
8a サンプルパッド
8b コンジュゲートパッド
8c メンブレン
8d 吸収パッド
10 テストストリップ
100 長尺試験体
参照領域(蛍光物質近傍)
試験領域(蛍光物質近傍)
L ラテラルフロー方向
S 検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メンブレン中の蛍光物質に励起光を照射し、該蛍光物質から発せられる蛍光を検出して行うイムノクロマトグラフィー法であって、前記蛍光物質への光照射を前記メンブレンの表面に密着させて配設された透明フィルムを介して行うに当たり、該透明フィルムとして、検体液に対して屈折率に係る下記式(1)が成立するものを適用することにより、前記透明フィルムに入射した上記蛍光を上記透明フィルムの表面に密着させた上記メンブレンの面で全反射させることにより上記透明フィルム内で導波させることを特徴とする蛍光イムノクロマトグラフィー法。
[式(1) nFf>nWf
(nFf:前記蛍光の波長λにおける透明フィルムの屈折率)
(nWf:前記蛍光の波長λにおける検体液の屈折率)
【請求項2】
前記透明フィルムとして、検体液に対して屈折率に係る下記式(2)が成立するものを適用すること特徴とする請求項1に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
[式(2) nFf>nWf+0.1]
(nFf、Wfは式(1)と同義である。)
【請求項3】
前記透明フィルムについて、前記励起光の波長λにおける光透過率(TFe)および前記蛍光の波長λにおける光透過率(TFf)がいずれも80%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
【請求項4】
前記蛍光物質がシリカに導入された蛍光シリカ粒子を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
【請求項5】
前記励起光の波長λが300nm〜700nm、前記蛍光の波長λが350nm〜800nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
【請求項6】
前記励起光の波長λが500nm〜550nm、前記蛍光の波長λが530nm〜580nmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
【請求項7】
前記透明フィルム内において、透明フィルムに入射して拡散した蛍光が、上記透明フィルムと空気との界面、及び、上記透明フィルムと上記メンブレンとの界面で全反射されることにより、透明フィルムが導波路となることで、当該蛍光のメンブレン内での拡散を抑制し、前記蛍光物質近傍の蛍光の検出性が高められた請求項1〜6のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
【請求項8】
前記励起光をレーザダイオードまたは発光ダイオードから照射し、一方、光学フィルタで前記励起光を除去し蛍光のみを検出する機構を用いる請求項1〜7のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
【請求項9】
前記検出判定を5分以内に行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の蛍光イムノクロマトグラフィー法。
【請求項10】
蛍光物質に励起光を照射し該蛍光物質からの蛍光を検出して行うイムノクロマトグラフィー法に用いられるキットであって、
該キットは、透明フィルムがメンブレン本体に配設されたテストストリップと前記メンブレン本体に付与される蛍光物質とを組み合わせてなり、
前記透明フィルムの屈折率が検体液に対して下記式(1)成立するものを適用することにより、前記透明フィルムに入射した上記蛍光を上記透明フィルムの表面に密着させた上記メンブレンの面で全反射させることにより上記透明フィルム内で導波させることを特徴とする蛍光イムノクロマトグラフィー用キット。
[式(1) nFf>nWf
(nFf:前記蛍光の波長λにおける透明フィルムの屈折率)
(nWf:前記蛍光の波長λにおける検体液の屈折率)
【請求項11】
前記蛍光物質がシリカ粒子に導入された標識シリカ粒子をなし、該標識シリカ粒子を含有する標識試薬として具備する請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記透明フィルムの厚みが、20μm以上1mm以下であることを特徴とする請求項10又は11に記載のキット。
【請求項13】
前記透明フィルムの材質が、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、及びポリエチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
蛍光物質に励起光を照射し該蛍光物質からの蛍光を検出して行うイムノクロマトグラフィー法に用いられるテストストリップであって、
該テストストリップは、透明フィルムとこれが配設されたメンブレン本体とを有してなり、
前記透明フィルムの屈折率が検体液に対して下記式(1)が成立するものを適用することにより、前記透明フィルムに入射した上記蛍光を上記透明フィルムの表面に密着させた上記メンブレンの面で全反射させることにより上記透明フィルム内で導波させることを特徴とする蛍光イムノクロマトグラフィー用テストストリップ。
[式(1) nFf>nWf
(nFf:前記蛍光の波長λにおける透明フィルムの屈折率)
(nWf:前記蛍光の波長λにおける検体液の屈折率)
【請求項15】
前記蛍光物質がシリカ粒子に導入されている請求項14に記載のテストストリップ。
【請求項16】
前記透明フィルムの厚みが、20μm以上1mm以下であることを特徴とする請求項14又は15に記載のテストストリップ。
【請求項17】
前記透明フィルムの材質が、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、及びポリエチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載のテストストリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−79913(P2013−79913A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221169(P2011−221169)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】