説明

蛍光センサ

【課題】高い検出精度を有する蛍光センサ10を提供する。
【解決手段】蛍光センサ10は、主面21と平行な底面22を有する凹部23があり、凹部23の壁面24にPD素子13および温度センサ70が配設された主基板部20と、凹部23の内部に配設された励起光を発生するLED基板12と、励起光Eを受光するとアナライト9の量に応じた強度の蛍光Fを発生するインジケータ層16と、インジケータ層16への外光の進入を防止する、アナライト9が通過可能な遮光層19と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナライトの濃度を計測する蛍光センサに関し、特にMEMS技術を用いて作製される蛍光センサに関する。
【背景技術】
【0002】
液体中のアナライトすなわち被計測物質の濃度を測定するための分析装置が開発されている。例えば、一定容量の透明容器に、アナライトの存在によって性質が変化し、励起光を受光すると蛍光を発生する蛍光色素と、アナライトを含む被計測溶液とを注入し、励起光を照射し蛍光色素からの蛍光強度を計測することによりアナライト濃度を計測する蛍光センサが知られている。
【0003】
そして、小型の蛍光センサでは、励起光を発生する光源と光検出器と蛍光色素を含有したインジケータ層とを有している。そして被計測溶液中のアナライトが進入可能なインジケータ層に光源からの励起光を照射することで、インジケータ層内の蛍光色素が被計測溶液中のアナライト濃度に応じた光量の蛍光を発生し、その蛍光を光検出器が受光する。光検出器は光電変換素子であり、受光した蛍光の光量に応じた検出信号を出力する。この検出信号から被計測溶液中のアナライト濃度が算出される。
【0004】
そして近年、微量試料中のアナライトを計測するために、MEMS技術を用いて作製される蛍光センサが提案されている。
【0005】
例えば、図1および図2に示す蛍光センサ110が、米国特許第5039490号明細書に開示されている。図1は蛍光センサ110の概略断面構造を示したものであり、図2は蛍光センサ110の概略構造を説明するための分解図である。なお、以下の図においてアナライト9は模式的に表示し、信号線等の配線の図示は省略している。
【0006】
図1および図2に示すように、蛍光センサ110は、励起光Eが透過可能な透明支持基板101と、蛍光Fを電気信号に変換する光電変換素子部103と、励起光Eを集光する集光機能部105Aを有する光学板状部105と、アナライト9と相互作用することによって励起光Eの入射により蛍光Fを発するインジケータ層106と、カバー層109とから構成されている。
【0007】
光電変換素子部103は、例えばシリコンからなる基板103Aに光電変換素子が形成されている。基板103Aは励起光Eを透過しない。このため、蛍光センサ110では、光電変換素子部103の周囲に励起光Eが透過可能な空隙領域120を有している。
【0008】
すなわち、空隙領域120を通過し光学板状部105に入射した励起光Eだけが、光学板状部105の作用により、インジケータ層106中の、光電変換素子部103の上部付近に集光される。集光された励起光E2と、インジケータ層106の内部に進入したアナライト9の相互作用により、蛍光Fが発生する。発生した蛍光Fの一部は光電変換素子部103に入射し、光電変換素子部103において蛍光強度、つまりアナライト9の濃度に比例した電流または電圧などの信号が発生する。
【0009】
インジケータ層106が発生する蛍光Fの光量は、同じアナライト濃度であってもインジケータ層106の温度により変化する。このため、例えば被検体の体内に留置されてアナライト濃度を継続して測定する蛍光センサでは、被検体の体温変化等に起因して検出精度が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5039490号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、検出精度の高い蛍光センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様の蛍光センサは、主面と平行な底面を有する凹部があり前記凹部の内壁に光電変換素子と温度センサとが配設された主基板部と、前記凹部の内部に配設された励起光を発生する発光素子基板と、前記凹部の内部の前記発光素子基板の上側に配設された前記励起光を受光するとアナライトの量に応じた光量の前記蛍光を発生するインジケータ層と、前記インジケータ層への外光の進入を防止する前記アナライトが通過可能な遮光層と、を具備する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、検出精度の高い蛍光センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来の蛍光センサの断面構造を示した説明図である。
【図2】従来の蛍光センサの構造を説明するための分解図である。
【図3】第1実施形態の蛍光センサを有するセンサシステムを説明するための説明図である。
【図4】第1実施形態の蛍光センサの構造を説明するための分解図である。
【図5】第1実施形態の蛍光センサの断面構造を示す模式図である。
【図6】第1実施形態の蛍光センサの製造方法を説明するための断面構造を示す模式図である。
【図7】第2実施形態の蛍光センサの断面構造を示す模式図である。
【図8】第2実施形態の蛍光センサの温度センサとPD素子との配設位置を説明するための上面図である。
【図9】第2実施形態の蛍光センサの製造方法を説明するための断面構造を示す模式図である。
【図10】第3実施形態の蛍光センサの断面構造を示す模式図である。
【図11】第4実施形態の蛍光センサの断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態の蛍光センサ10について説明する。
図3に示すように、針先端部5に蛍光センサ10を有する針型蛍光センサ4は、本体部2およびレシーバー3と、ともにセンサシステム1を構成する。
【0016】
すなわち、センサシステム1は、針型蛍光センサ4と、本体部2と、本体部2からの信号を受信し記憶するレシーバー3と、を有する。本体部2とレシーバー3との間の信号の送受信は無線または有線で行われる。
【0017】
針型蛍光センサ4は、主要機能部である蛍光センサ10を有する針先端部5と細長い針本体部6とを有する針部7と、針本体部6の後端部と一体化したコネクタ部8と、を具備する。針先端部5、針本体部6、およびコネクタ部8の主要構造部は同一材料、例えばシリコンにより一体形成されていてもよい。針部7は、四角柱状、円柱状、または、楕円柱状など、体内への挿入および留置が容易な形状である。
【0018】
コネクタ部8は、本体部2の嵌合部2Aと着脱自在に嵌合する。針型蛍光センサ4の蛍光センサ10から延設された複数の配線は、コネクタ部8が本体部2の嵌合部2Aと機械的に嵌合することにより、本体部2と電気的に接続される。
【0019】
本体部2は、蛍光センサ10の制御を行う制御部2Bと、信号を処理する演算部2Cと、図示しないが、レシーバー3との間で無線信号を送受信するための無線アンテナおよび電池等と、を有する。なお、レシーバー3との間を有線送受信する場合には、本体部2は無線アンテナに代えて信号線を有する。また、制御部2Bおよび演算部2C等は、針型蛍光センサ4、蛍光センサ10またはレシーバー3が有していてもよい。
【0020】
蛍光センサ10は感染防止等のために使用後は処分される使い捨て(ディスポ)部であるが、本体部2およびレシーバー3は繰り返し再使用されるリユース部である。なお、本体部2が必要な容量のメモリ部を有する場合にはレシーバー3は不要である。
【0021】
針型蛍光センサ4は本体部2と嵌合した状態で、被検者自身が体表面から穿刺して針先端部5が体内に留置される。そして、例えば体液中のグルコース濃度を連続して測定し、レシーバー3のメモリに記憶する。すなわち、本実施の形態の蛍光センサ10は連続使用期間が一週間程度の短期皮下留置型のセンサである。
【0022】
そして、図4および図5に示すように、蛍光センサ10は、凹部23がある主基板部20と、発光素子基板である発光ダイオード(以下「LED」ともいう)基板12と、透明樹脂層15と、インジケータ層16と、遮光層19と、を有する。蛍光センサ10は、針先端部5に配設され体内に留置されるため、外寸は例えば1辺が0.1mm〜10mmである。
【0023】
主基板部20は、配線基板部(第1基板部)30と、貫通孔が形成された枠状基板部(第2基板部)40と、を接合することにより作製されている。このため、主基板部20には、第1の主面21に、第1の主面21と平行な底面22のある凹部23がある。すなわち、配線基板部30の表面が、凹部23の底面22であり、枠状基板部40の貫通孔の壁面が、凹部23の壁面24である。
【0024】
なお、蛍光センサ10では、枠状基板部40の外形形状および凹部23の内面形状は、ともに四角柱であるが、多角柱、または円柱であってもよい。
【0025】
そして、枠状基板部40の貫通孔の壁面、すなわち主基板部20の凹部23の壁面24Aには、フォトダイオード(以下「PD」という)素子13が形成され、壁面24Bには温度センサ70が形成されている。PD素子13は、蛍光Fを受光し検出信号(PD信号)を出力する光電変換素子である。温度信号を出力する温度センサ70は、PD素子13と同じ構成の半導体ダイオード素子であるが、温度を測定する素子として使用される。
【0026】
蛍光センサ10では、インジケータ層16を囲む4つの内壁面のうちの3壁面24Aに、受光面がインジケータ層16に向くように、PD素子13は形成されている。PD素子13が形成されていない1壁面24Bに、温度センサ70が形成されている。なお、温度センサ70を1壁面の一部領域に形成し、残りの領域にPD素子13を形成してもよいし、温度センサ70を2壁面以上に形成してもよい。
【0027】
また、PD素子13および温度センサ70は、それぞれ壁面全体に形成されていてもよいが、蛍光Fのみを効率的に受光するため、または、インジケータ層16の温度をより正確に測定するために、インジケータ層16との対向領域にのみに、それぞれ形成されていてもよい。
すなわち、PD素子13および温度センサ70は、それぞれ凹部23の壁面24の少なくとも一部に、形成されていればよい。
【0028】
温度センサ70としては、インジケータ層16の近傍の凹部23の内部に配置可能であれば、半導体からなる凹部23の内壁に形成した半導体ダイオード素子に限られるものではない。熱電対またはサーミスタ等からなる温度センサを、凹部23の内面に、樹脂またはハンダ等により接着してもよい。
【0029】
すなわち、枠状基板部40の材料は、PD素子13等を枠状基板部40に直接形成するためには半導体、特にシリコンが好ましいが、PD素子13等の配設方法によっては、ガラスまたはセラミック等でもよい。
【0030】
壁面24に形成されたPD素子13および温度センサ70を覆うように保護層である酸化シリコン層42と、フィルタ41と、が配設されている。フィルタ41はPD素子13の受光面側に、PD素子13を覆うように形成されている。
【0031】
フィルタ41は、例えば、励起光Eを吸収し、それよりも長波長の蛍光Fは吸収しない吸収型フィルタである。フィルタ41は、蛍光Fの透過率が励起光Eの透過率の10倍以上が好ましく、特に好ましくは100倍である。フィルタ41の材料としては、シリコン層または炭化シリコン層が好適である。なお、フィルタ41として蛍光Fのみを通すバンドパスフィルタまたは干渉型多層膜フィルタ等であってもよい。
【0032】
なお、フィルタ41は温度センサ70を覆う必要はなく、PD素子13のみを覆っていればよい。ここで、酸化シリコン層42とフィルタ41との厚さは合計で、例えば0.1μm〜5μmである。
【0033】
LED基板12は、凹部23の底面22に配設されており、インジケータ層16は、凹部23の内部のLED基板12の上側に、透明樹脂層15を介して配設されている。
【0034】
励起光発光素子としては、LED基板12に形成されたLED12Eに限られるものではなく、有機EL素子、無機EL素子、またはレーザダイオード素子などの発光素子の中から選択される。そして、蛍光透過率、光発生効率、励起光Eの波長選択性の広さ、および励起光Eとなる紫外線以外の波長の光を僅かしか発生しないことなどの観点からは、サファイアからなるLED基板12に形成された窒化ガリウム系半導体からなる紫外線を発光するLED12Eが特に好ましい。
【0035】
透明樹脂層15としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、または透明な非晶性フッ素樹脂などが使用可能である。透明樹脂層15は、電気的絶縁性を有すること、水分遮断性を有すること、励起光Eおよび蛍光Fに対して良好な透過率を有すること、などの特性を有する材料から選択される。
【0036】
なお、LED基板12の大きさが凹部23の内寸よりも小さい場合には、透明樹脂層15はLED基板12の側面および凹部の底面22も覆っていてもよい。
【0037】
インジケータ層16は、進入してきたアナライト9との相互作用および励起光Eによりアナライト9の濃度に応じた光量の蛍光Fを発生する。インジケータ層16の層厚は数十μm〜200μm程度に設定されている。インジケータ層16は、アナライト9の量、すなわち試料中のアナライト濃度に応じた強度の蛍光Fを発生する蛍光色素が含まれたベース材料から構成されている。
【0038】
蛍光色素は、アナライト9の種類に応じて選択され、アナライト9の量に応じて発生する蛍光Fの光量が可逆的に変化する蛍光色素ならば、どのようなものにも使用できる。例えば生体内の水素イオン濃度または二酸化炭素を測定する場合には、ヒドロキシピレントリスルホン酸誘導体、糖類を測定する場合には蛍光残基を有するフェニルボロン酸誘導体、カリウムイオンを測定する場合には蛍光残基を有するクラウンエーテル誘導体などを用いることができる。そして、グルコースのような糖類を測定する場合には、蛍光色素として、ルテニウム有機錯体、蛍光フェニルボロン酸誘導体、または蛋白と結合したフルオレセイン等のグルコースと可逆結合する物質を用いることができる。
【0039】
以上の説明のように、蛍光センサ10は、蛍光色素の選択によっては、酸素センサ、グルコースセンサ、pHセンサ、免疫センサ、または微生物センサなど、多様な用途に対応している。
【0040】
インジケータ層16は、例えば、含水し易いハイドロゲルをベース材料として、ハイドロゲル内に上記蛍光色素を含有するまたは上記蛍光色素がハイドロゲルに結合されている。ハイドロゲルの成分としてはメチルセルロースもしくはデキストランなどの多糖類、(メタ)アクリルアミド、メチロールアクリルアミド、もしくはヒドルキシエチルアクリレート等のモノマーを重合して作製するウレタン系ハイドロゲル、またはポリエチレングリコールとジイソシアネートから作製するウレタン系ハイドロゲルなどを用いる。
【0041】
なお、透明樹脂層15を形成しないで、インジケータ層16がLED基板12の表面に、直接、配設された構造であってもよい。
【0042】
遮光層19は、インジケータ層16の上側に形成された、厚さが数十μm以下の層である。遮光層19は、励起光Eおよび蛍光Fが蛍光センサ10の外部へ漏光するのを防止すると同時に、外光が凹部23に進入するのを防止する。
【0043】
LED12Eが発生した励起光Eは、インジケータ層16中の蛍光色素に照射される。そして、蛍光色素がアナライト9との相互作用により発生した蛍光Fの一部は、フィルタ41を通過してPD素子13に到達し、検出信号に変換される。
【0044】
蛍光センサ10は、インジケータ層16を取り囲む壁面24に形成されたPD素子13により蛍光Fを検出するために、検出感度が高い。
【0045】
また、蛍光センサ10は、インジケータ層16から、酸化シリコン層42とフィルタ41とを介して配設されている温度センサ70を有する。酸化シリコン層42とフィルタ41と厚さは合計で、100μm以下であるため、温度センサ70はインジケータ層16の温度を正確に測定できる。
【0046】
次に、蛍光センサ10の動作の一例を説明する。
LED12Eは、30秒に1回の間隔で中心波長が375nm前後の励起光Eをパルス発光する。LED12Eへのパルス電流は1mA〜100mAであり、発光のパルス幅は10ms〜100msである。
【0047】
LED12Eが発生した励起光Eは透明樹脂層15を通過して、インジケータ層16に入射する。インジケータ層16は、アナライト9の量に対応した強度の蛍光Fを発する。なお、アナライト9は遮光層19を通過して、インジケータ層16に進入する。インジケータ層16の蛍光色素は波長375nmの励起光Eに対して、より長波長の例えば波長460nmの蛍光Fを発生する。
【0048】
インジケータ層16が発生した蛍光Fは、フィルタ41と酸化シリコン層42とを通過して、PD素子13に入射する。そして蛍光Fは、PD素子13において光電変換され光発生電荷を生じることで、検出信号(PD信号)として出力される。なお、LED12Eが発生する励起光Eの一部は、凹部23の壁面24に入射するが、フィルタ41の作用によりPD素子13へは入射しない。
【0049】
温度センサ70は、LED12Eが発光し、PD素子13が受光する動作中に、あるいは、LED12Eの発光後であってPD素子13の受光後、数マイクロ秒から数分の時間内に温度を測定し、温度信号を本体部2に出力する。
【0050】
蛍光センサ10では、本体部2の演算部2Cが、PD信号、すなわち、PD素子13からの光発生電荷に起因する電流または蓄積した光発生電荷に起因する電圧からなる信号と、温度センサ70からの温度信号と、を用いて演算処理を行い、アナライト量を算出する。
【0051】
例えば、演算部2Cは、一定アナライト濃度における蛍光光量の温度依存性データを用いて、PD信号を基準温度におけるセンサ出力値に換算する。この後、別に用意した基準温度におけるセンサ出力値とアナライト濃度との相関データを用いて、補正アナライト濃度が算出される。
【0052】
インジケータ層16のインジケータは、アナライト9との結合乖離定数が温度によって変化する。しかし、蛍光センサ10は、インジケータ層16の温度を測定する温度センサ70を有するため、インジケータ温度を用いて、測定したアナライト濃度を補する。濃度補正のための温度補正式等は、本体部2の演算部2C等に記憶されている。このため、蛍光センサ10は、インジケータ層16の温度変化による測定精度低下のおそれがないため、正確である。
【0053】
次に、蛍光センサ10の製造方法について簡単に説明する。なお、図6(A)〜図6(E)では1個の蛍光センサ10の領域の部分断面図であるが、ウエハプロセスにおいて第1基板と第2基板との接合基板を作製してから個片化することで、一括して多数の蛍光センサ10が製造される。
【0054】
<枠状基板作製工程>
図6(A)に示すように、枠状基板部(第1基板部)40の作製では、導電性(N型)の第1のシリコン基板(第1基板)40Wに対して、マスク層47を介してエッチングが行われ、枠状パターン、すなわち凹部23となる貫通孔が形成される。なお、凹部23の開口の大きさは仕様に応じて設計されるが、配設箇所が針先端部5であるために、例えば、縦150μm、横500μmのように細長い形状であることが好ましい。
【0055】
また、蛍光センサ10では、凹部23の壁面24は第1の主面21に対して垂直であるが、後述するように、壁面は第1の主面21に対して所定の角度、すなわちテーパーのある形状であってもよい。テーパー形状の凹部はウエットエッチング等により作製することができる。
【0056】
<PD素子および温度センサの形成工程>
次に、図6(B)に示すように、凹部23の壁面24Aにマスク層47Aを介してPD素子13が形成され、同時に、壁面24Bに温度センサ70が形成される。すなわち、マスク層47Aが形成された第1のシリコン基板40Wを5度〜30度に傾けた状態で、4方向からイオン注入処理が行われる。例えば、ほう素(B)を注入する場合の条件は、加速電圧:10〜100keV、注入量:1×1015cm−2程度である。
【0057】
すなわち、濃度が1×1013〜1×1017cm−3のN型の第1のシリコン基板40Wに、表面濃度1×1018〜1×1020cm、深さ0.1μm〜2μmのP型拡散層が形成される。そして、P型拡散層とN型シリコン基板とにより、2つの半導体ダイオード素子(PD素子13および温度センサ70)が同時に形成される。
【0058】
<フィルタ配設工程>
次に、凹部23の壁面のPD素子13および温度センサ70を覆うように、酸化シリコン層42と、フィルタ41と、が順にCVD法により、形成される。また、PD素子13の電極と温度センサ70の電極とが形成される。
【0059】
<配線基板作製工程>
別途、配線基板部(第2基板部)30に加工される導電性(N型)の第2のシリコン基板(第2基板)30Wが準備される。第2のシリコン基板30Wには、図示しないが、PD素子13からの検出信号および温度センサ70からの温度信号を送信するための配線およびLED12Eに駆動信号を供給するための配線がスパッタ法または蒸着法等により形成される。
【0060】
<枠状基板と配線基板との接合工程>
図6(C)に示すように、第1のシリコン基板40Wが上下反転されて、第2のシリコン基板30Wと接合される。
【0061】
すると図6(D)に示すように、2枚のウエハが接合された接合基板20Wでは、第1のシリコン基板(枠状基板)40Wの貫通孔は、底面22のある凹部23となる。
【0062】
<LED基板配設工程、インジケータ配設工程>
そして、図6(E)に示すように、接合基板20Wの凹部23の内部に、LED基板12および透明樹脂層15が配設され、さらに透明樹脂層15の上に、必要に応じてシランカップリング剤などの接着層を介して、インジケータ層16が配設される。
【0063】
<遮光層配設工程、個片化工程>
最後に遮光層19が凹部23の開口を覆うように形成された後、接合基板20Wが切断により個片化されて、蛍光センサ10が完成する。
【0064】
蛍光センサの製造方法としては、これに限られるものではなく、個片化された第2のシリコン基板30Wと、個片化された第1のシリコン基板40Wとを接合した後に、凹部23にLED基板12等を配設する等の方法を用いてもよい。
【0065】
また、配線基板部30の延設部が針部7の針本体部6を構成するように第1のシリコン基板40Wを加工してもよいし、別途作製した針本体部6と、蛍光センサ10を有する針先端部5とを接合して針部7を構成してもよい。
【0066】
以上の説明のように、本実施形態の蛍光センサの製造方法は、測定精度の高い蛍光センサ10をウエハプロセスにより一括大量生産が可能である。このため、蛍光センサを安価に安定した品質で提供できる。
【0067】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態の変形例の蛍光センサ10Aを有する針型蛍光センサ4Aについて説明する。蛍光センサ10Aは第1実施形態の蛍光センサ10等と類似しているため同じ構成要素には同じ数字の符号を付し説明は省略する。
【0068】
図7に示すように、蛍光センサ10Aの主基板部20Aは、1枚の半導体基板、例えば、1枚のシリコン基板20AWの加工により作製される。すなわち、主基板部20Aの凹部23Aは、例えばエッチング法によりシリコン基板20AWの第1の主面21に形成された凹部である。
【0069】
また、図8に示すように、PD素子13Aは、凹部23Aの壁面24Tだけでなく底面22Aにも形成されている。さらに温度センサ70Aは、壁面24Tの一面の一部にのみ形成されている。このため、蛍光センサ10Aでは、多くの蛍光を検出できるため検出感度が高い。もちろん、PD素子13Aは、底面22Aにまで形成されていなくともよい。
【0070】
次に、図9(A)〜図9(E)を用いて、蛍光センサ10Aの製造方法について説明する。なお、図9(A)〜図9(E)では1個の蛍光センサ10Aの領域の部分断面図であるが、実際の工程では、ウエハプロセスとして一括して多数の蛍光センサ10Aが製造される。
【0071】
<凹部形成工程>
図9(A)に示すように、シリコン基板20AWの第1の主面21にマスク層27が作製される。そして、図9(B)に示すように、例えば、エッチング法により、第1の主面21と平行な底面22Aのある凹部23Aが形成される。
【0072】
エッチング法としては、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などを用いるウエットエッチング法が望ましいが、反応性イオンエッチング、ケミカルドライエッチングなどのドライエッチング法も用いることができる
【0073】
例えば、シリコン基板20AWとして主面がシリコン(100)面の基板を用いた場合には、(111)面のエッチング速度が(100)面に比べて遅い異方性エッチングとなるため、凹部23Aの壁面24Tは(111)面となり、(100)面との角度θ1は54.74度となる。すなわち、凹部23Aは開口部の面積が底面22Aの面積よりも広く、壁面24Tは主面21に対して傾斜しているテーパー形状である。
【0074】
<PD素子および温度センサ形成工程>
次に、図8に示すように、凹部23Aの壁面24Tおよび底面22AにPD素子13Aが形成され、壁面24Tの一部に温度センサ70Aが形成される。
【0075】
壁面24Tがテーパーのある凹部23Aは、壁面24が主面21に対して垂直な凹部23に比べてPD素子が製造される面積が広いだけでなく、壁面24TへのPD素子13Aおよび温度センサ70Aの形成が容易である。
【0076】
さらに、図示しないが、LED12E、PD素子13Aおよび温度センサ70Aの配線等が形成される。なお、貫通配線60はPD素子13A形成前に作製しておいてもよい。
【0077】
<フィルタ配設工程>
次に、図9(D)に示すように、PD素子13Aおよび温度センサ70Aを覆うように酸化シリコン層42Aおよびフィルタ41Aが配設される。酸化シリコン層42Aは酸化シリコン層42と同様の構成および機能を有し、フィルタ41Aはフィルタ41と同様の構成および機能を有する。
【0078】
<LED基板配設工程>
次に、図9(E)に示すように、LED12Eを底面22Aに向けてLED基板12Aが凹部23Aの内部に配設される。なお、LED基板12Aは、大部分がLED12E形成面の反対面から除去され、厚さは10μm程度である。薄層化されたLED基板12Aを具備する蛍光センサ10Aは、凹部23Aの内部に、より多くの体積のインジケータを充填できるため、より高感度である。
【0079】
<インジケータ配設工程、遮光層配設工程、個片化工程>
さらに、LED基板12Aの上側の凹部23Aの内部に透明樹脂層15Aを介して、インジケータ層16Aが配設される。さらに、凹部23Aの開口部を覆うように遮光層19Aが形成される。そして、最後に、シリコン基板20AWを切断し個片化することにより蛍光センサ10Aが完成する。
【0080】
なお、蛍光センサの仕様によっては、蛍光センサ10のように、凹部の側面は第1の主面21に垂直であってもよい。
【0081】
蛍光センサ10Aは蛍光センサ10等が有する効果を有し、さらに、小型化が容易で、より高感度である。また本実施形態の蛍光センサの製造方法は製造が容易である。
【0082】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態の蛍光センサ10Bを有する針型蛍光センサ4Bについて説明する。蛍光センサ10Bは第1実施形態の蛍光センサ10等と類似しているため同じ構成要素には同じ数字の符号を付し説明は省略する。
【0083】
図10に示すように、蛍光センサ10Bでは、LED基板12に、LED基板12の温度を測定する第2の温度センサ70Bが形成されている。
第2の温度センサ70Bは、例えばLED基板12であるサファイア基板に成膜したシリコン膜に、温度センサ70等と同様のPN接合を形成した半導体ダイオードである。なお、第2の温度センサ70BとしてLED基板12と近接している凹部23の底面22に半導体ダイオードを形成してもよい。また、第2の温度センサ70Bとして、別途作製した熱電対またはサーミスタ等を配設してもよい。
【0084】
LED12Eの発光強度には温度依存性がある。蛍光センサ10Bでは例えば第2の温度センサ70Bの出力をもとに、演算部2CがLED12Eの温度を算出し、制御部2BがLED12Eの発光強度を調整する。
【0085】
また、第2の温度センサ70Bとして、励起光Eの強度に応じた信号を出力するPD素子を用いてもよい。例えば、励起光Eを透過し蛍光Fを遮断するフィルタを配設する等により、凹部23の壁面24に形成したPD素子を第2の温度センサとして用いることができる。そして、演算部2CがLED12Eの発光強度の温度依存性を利用して、LED12Eの温度を算出する。
【0086】
蛍光センサ10Bは、蛍光センサ10等が有する効果を有し、さらにLED12Eの温度制御も可能である。
【0087】
なお、インジケータ層16の温度とLED12Eの温度との間に強い相関性がある場合には、蛍光センサ10等においても、温度センサ70が検出したインジケータ層16の温度をもとに、制御部2BがLED12Eの発光強度を調整してもよい。
【0088】
また、蛍光センサ10Bにおいても、第2実施形態の蛍光センサ10Aと同様に、主基板部を1枚の半導体基板の加工により作製してもよい。
【0089】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態の蛍光センサ10Cを有する針型蛍光センサ4Cについて説明する。蛍光センサ10Cは第1実施形態の蛍光センサ10等と類似しているため同じ構成要素には同じ数字の符号を付し説明は省略する。
【0090】
図11に示すように、蛍光センサ10Cでは、主基板部20Cの凹部23の外部の配線基板部30Cに、半導体ダイオードからなる第3の温度センサ70Cが形成されている。第3の温度センサ70CはLED12A等から離れた凹部23の外部に配設されているために、LED12Aによる発熱の影響を受けない、周辺の環境温度を測定できる。例えば、第3の温度センサ70Cは、蛍光センサ10Cが被検体の体内に留置された場合には、被検体の体温を測定できる。
【0091】
蛍光センサ10Cでは、制御部2Bが、温度センサ70が検出したインジケータ層16の温度と、第3の温度センサ70Cが検出した被検体の体温と、をもとに、より正確なアナライト濃度補正が可能である。
【0092】
蛍光センサ10Cは、蛍光センサ10等が有する効果を有し、さらに測定精度が高い。
【0093】
なお、蛍光センサ10Cにおいても、第2実施形態の蛍光センサ10Aと同様に、主基板部を1枚の半導体基板の加工により作製してもよいし、第3実施形態の蛍光センサ10Bと同様にLED基板12の温度を測定する第2の温度センサ70Bを配設してもよい。
【0094】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等ができる。例えば、各実施の形態および変形例の構成要素を組み合わせることもできる。
【符号の説明】
【0095】
1…センサシステム、2…本体部、2A…嵌合部、2B…制御部、2C…演算部、3…レシーバー、4、4A〜4C…針型蛍光センサ、5…針先端部、6…針本体部、7…針部、8…コネクタ部、9…アナライト、10、10A〜10C…蛍光センサ、12、12A…発光ダイオード基板(LED基板)、12E…発光ダイオード(LED)、13…フォトダイオード素子(PD素子)、15…透明樹脂層、16…インジケータ層、19…遮光層、20…主基板部、20AW…シリコン基板、20C…主基板部、20W…接合基板、21…主面、22…底面、23…凹部、24…壁面、30…配線基板部、30W…第2のシリコン基板、40…枠状基板部、40W…第1のシリコン基板、41…フィルタ、42…酸化シリコン層、60…貫通配線、70、70A〜70C…温度センサ、101…透明支持基板、103…光電変換素子部、103A…基板、105…光学板状部、105A…集光機能部、106…インジケータ層、109…カバー層、110…蛍光センサ、120…空隙領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面と平行な底面を有する凹部があり、前記凹部の内壁に光電変換素子と温度センサとが配設された主基板部と、
前記凹部の内部に配設された、励起光を発生する発光素子基板と、
前記凹部の内部の前記発光素子基板の上側に配設された、前記励起光を受光するとアナライトの量に応じた光量の前記蛍光を発生するインジケータ層と、
前記インジケータ層への外光の進入を防止する、前記アナライトが通過可能な遮光層と、を具備することを特徴とする蛍光センサ。
【請求項2】
前記凹部の内壁に、前記励起光を遮断し前記蛍光を透過する、前記光電変換素子を覆うフィルタを有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光センサ。
【請求項3】
前記温度センサが、前記インジケータ層から100μm以下の距離に配設されていることを特徴とする請求項2に記載の蛍光センサ。
【請求項4】
前記光電変換素子および前記温度センサが、シリコンからなる前記主基板部の前記凹部の前記内壁に形成された半導体素子であることを特徴とする請求項3に記載の蛍光センサ。
【請求項5】
前記主基板部が、第1基板部と、前記第1基板部と接合された貫通孔のある枠状の第2基板部と、からなり、
前記第1基板部の表面が前記凹部の底面であり、前記第2基板部の前記貫通孔の内壁が前記凹部の前記内壁であることを特徴とする請求項4に記載の蛍光センサ。
【請求項6】
前記凹部が、シリコンからなる前記主基板部の主面に形成された凹部であることを特徴とする請求項4に記載の蛍光センサ。
【請求項7】
前記発光素子として発光ダイオードが形成された前記発光素子基板に、第2の温度センサが形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の蛍光センサ。
【請求項8】
前記主基板部の前記凹部の外部に、第3の温度センサが形成されていることを特徴とする請求項1から請求7のいずれか1項に記載の蛍光センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−247260(P2012−247260A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118199(P2011−118199)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】