説明

蛍光センサ

【課題】高い検出感度を有する蛍光センサ30を提供する。
【解決手段】蛍光センサ30は、蛍光を電気信号に変換するPD素子12と、アナライトおよび励起光により蛍光を発生するハイドロゲルからなるインジケータ19が乾燥状態で収容されたインジケータ空間16の側面を構成するセンサ枠17と、蛍光を透過し励起光を遮るフィルタ13と、励起光を発生する発光素子14と、インジケータ空間16の下面を構成する透明中間層15と、インジケータ空間16の上面を構成するとともに、外光および前記励起光を遮り、かつ、アナライトを含む体液が通過可能で、さらに親水性部と疎水性部とからなる遮光層28と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中のアナライトの濃度を計測する蛍光センサおよび前記蛍光センサの製造方法に関し、特に、アナライトおよび励起光により蛍光を発生するハイドロゲルからなるインジケータを具備する蛍光センサおよび前記蛍光センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体中のアナライトすなわち被計測物質の濃度を測定する蛍光センサが開発されている。蛍光センサは、アナライトの量に応じた光量の蛍光を発生するインジケータと、インジケータからの蛍光を検出する光電変換素子を有している。
【0003】
例えば、米国特許第5039490号明細書に開示されている蛍光センサ110は、MEMS技術を利用して作製できるとともに小型化が可能である。図1および図2に示すように、蛍光センサ110は、励起光Eを透過可能な透明基板111と、蛍光Fを電気信号に変換する光電変換素子112と、励起光Eを集光する集光機能部115Aを有する透明中間層115と、アナライト2および励起光Eの作用によりアナライト量に応じた光量の蛍光Fを発光するインジケータ119と、遮光層118と、から構成されている。
【0004】
なお、蛍光センサ110では、透明基板111の下面から入射した励起光Eのうち、光電変換素子112と光電変換素子基板112Aとの隙間112Bを通過した励起光E2だけが、インジケータ119に入射する。
【0005】
一方、米国特許第7181096号明細書には、インジケータにハイドロゲルを用いた蛍光センサが開示されている。ハイドロゲルはアナライト2が進入しやすいため、インジケータにハイドロゲルを用いた蛍光センサは感度がよい。
【0006】
しかし、インジケータにハイドロゲルを用いた蛍光センサは、製造後、使用までの時間の経過により特性が変化することがあった。このため、インジケータにハイドロゲルを用いた公知の蛍光センサは、正確なアナライト濃度の測定が容易ではないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5039490号明細書
【特許文献2】米国特許第7181096号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、正確な測定が可能な蛍光センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の蛍光センサは、蛍光を電気信号に変換する光電変換素子と、アナライトおよび励起光により前記蛍光を発生するハイドロゲルからなるインジケータが乾燥状態で収容されたインジケータ空間の側面を構成するセンサ枠と、前記光電変換素子を覆うように配設された、前記蛍光を透過し前記励起光を遮るフィルタと、前記センサ枠内に配設された、前記励起光を発生する発光素子と、前記センサ枠内に配設された、前記インジケータ空間の下面を構成する、前記発光素子の上に配設された透明中間層と、前記インジケータ空間の上面を構成するとともに、外光および前記励起光を遮り、かつ、前記アナライトを含む体液が通過可能で、さらに親水性部と疎水性部とからなる遮光層と、を具備する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正確な測定が可能な蛍光センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来の蛍光センサの断面構造を示した説明図である。
【図2】従来の蛍光センサの構造を示した分解図である。
【図3】第1実施形態の蛍光センサの構造を示した分解図である。
【図4】第1実施形態の蛍光センサの断面構造を示した説明図である。
【図5】第1実施形態の蛍光センサの断面構造を示した説明図である。
【図6】第1実施形態の蛍光センサの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】第2実施形態の蛍光センサの遮光層の断面構造を示した説明図である。
【図8】第2実施形態の蛍光センサの遮光層の断面構造を示した説明図である。
【図9】第3実施形態の蛍光センサの遮光層の断面構造を示した説明図である。
【図10】第3実施形態の蛍光センサの断面構造を示した説明図である。
【図11】第4実施形態の蛍光センサの断面構造を示した説明図である。
【図12】第5実施形態の蛍光センサの断面構造を示した説明図である。
【図13】第6実施形態の蛍光センサの断面構造を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態の蛍光センサ30は、被検体の体液中のグルコースを検出する。図3および図4に示すように、蛍光センサ30は、基板11と、フィルタ13と、発光素子14と、透明中間層15と、インジケータ19と、遮光層18と、が順に積層された構造である。インジケータ19が内部に収容されているインジケータ空間16は、下面が透明中間層15であり、上面が遮光層18であり、側面がセンサ枠17である。インジケータ空間16の形状は直方体(四角柱状)であるが、円柱状、または多角柱状等であってもよい。
【0013】
基板11は、蛍光Fを電気信号に変換する光電変換素子であるフォトダーオード素子(以下「PD素子」という)12を有する。PD素子12を覆うように配設されたフィルタ13は、蛍光Fを透過し励起光Eを遮る。フィルタ13の上に配設された発光素子14は、励起光Eを発生する。インジケータ19は、励起光Eと遮光層18を通過して進入したアナライト2とにより蛍光Fを発生する蛍光色素を有するハイドロゲルからなる。蛍光センサ30ではグルコースがアナライト2である。
【0014】
蛍光センサ30では、発光素子14が発生した励起光Eは効率良くインジケータ19に照射される。さらに、蛍光センサ30では、インジケータ19が発生した蛍光Fの一部は、PD素子12およびフィルタ13を通過してPD素子12に入射する。このため、蛍光センサ30は、既に説明した従来の蛍光センサ110よりも高感度である。
【0015】
そして、発明者は、ハイドロゲルを用いた蛍光センサの特性の使用前経時変化が、ハイドロゲル(インジケータ)が乾燥状態では発生しないことを見出した。すなわち、インジケータを使用前は乾燥状態とし、使用開始時に含水状態とすると、長期保管しても、使用時の蛍光センサの特性は安定している。
【0016】
このため、蛍光センサ30では、インジケータ19は使用前には乾燥状態である。すなわち、使用前には、インジケータ空間16は、乾燥状態のインジケータ19と空気等の気体とで占められている。そして、図5に示すように、使用開始時に体内に挿入されると、インジケータ19は、遮光層18を介して、血液等の体液、すなわち水を吸収し膨潤する。
【0017】
なお、体内に挿入前に、蛍光センサ30を生理食塩水等に浸積して、予めインジケータ19を膨潤しておいてもよい。しかし、アナライトを含む体液によりインジケータ19を膨潤した方が、より早く安定した測定状態となるために、好ましい。
【0018】
蛍光センサ30は体内に挿入後、所定期間、例えば、1週間、継続してアナライト濃度を測定可能である。しかし、蛍光センサ30を体内に挿入しないで、採取した体液、または体外の流路を介して体内と循環する体液を、体外において蛍光センサ30と接触させてもよい。
【0019】
次に、蛍光センサ30の構成要素について詳細に説明する。
【0020】
基板11は、PD素子12を有する。基板としては、半導体製造技術により基板にPD素子12を形成する場合にはシリコン等の半導体基板が適しているが、PD素子12の製造方法または配設位置によってはガラス基板等でもよい。また、光電変換素子として、フォトコンダクタまたはフォトトランジスタ等を用いてもよい。
【0021】
フィルタ13は、受光部であるPD素子12を覆うように配設されている。フィルタ13は、フィルタ13の上に配設された発光素子14が発生する例えば波長375nmの励起光Eを遮断するが、インジケータ19が発生する波長460nmの蛍光Fは透過する。
【0022】
フィルタ13は、多重干渉型フィルタでもよいが、好ましくは、光吸収型フィルタであり、例えばシリコン、炭化シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン、もしくは有機材料等からなる単層層、または、前記単層層を積層してなる多層層である。
【0023】
なお、フィルタ13は、例えば酸化シリコンまたは窒化シリコン等からなる透明保護層を介してPD素子12上に配設されていてもよい。しかし、保護層の側面からの光の進入を防止するために、フィルタ13はPD素子12にできるだけ近接して配設するのが好ましい。またPD素子12とフィルタ13との間に空間があると光学的なロスが生じ透過率が低下する。このため、フィルタ13はPD素子12に密着した状態で配設されていることが特に好ましい。
【0024】
発光素子14としては、LED素子、有機EL素子、無機EL素子、またはレーザーダイオード素子等の所望の励起光Eを発光する発光素子の中から、蛍光Fを透過する素子が選択される。
【0025】
そして、発光素子14としては、蛍光透過率、光発生効率、励起光Eの波長選択性の広さ、および励起作用のある波長以外の光を僅かしか発生しないこと等の観点から、LED素子が好ましい。さらにLED素子の中でも、蛍光Fの透過率が高いサファイア基板上に形成された窒化ガリウム系化合物半導体よりなる紫外LED素子が、特に好ましい。
【0026】
発光素子14の上に配設された透明中間層15には、電気的絶縁性と、水分遮断性と、励起光Eおよび蛍光Fに対する光透過率等と、が良好なことが要求される。さらに、透明中間層15の特性としては、励起光Eが照射されても蛍光Fの発生が小さいこと、つまり自己蛍光を発しにくいことが重要である。
【0027】
透明中間層15には、石英、ガラス、シリコーン樹脂、または透明非晶性フッ素樹脂が好ましく用いられ、中でもシリコーン樹脂または透明非晶性フッ素樹脂が特に好ましい。
【0028】
インジケータ19は、アナライト2および励起光Eにより、励起光Eよりも長波長の蛍光Fを発生する蛍光色素を有するハイドロゲルからなる。すなわちインジケータ19は、試料中のアナライト濃度に応じた光量の蛍光Fを発生する蛍光色素が含まれる、励起光Eおよび蛍光Fが良好に透過するハイドロゲルから構成されている。なお、インジケータ19が蛍光色素を含まず、蛍光Fを発生する蛍光色素が溶液中に存在するアナライト2そのものでもよい。
【0029】
ハイドロゲルは、メチルセルロースもしくはデキストラン等の多糖類、アクリルアミド、メチロールアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート等のモノマーを重合して作製するアクリル系ハイドロゲル、またはポリエチレングリコールとジイソシアネートから作製するウレタン系ハイドロゲル等の水を含みやすい材料に蛍光色素を内包することにより形成されている。
【0030】
ハイドロゲルは、遮光層18を介してセンサ外に離脱することがない大きさであることが好ましい。このため、ハイドロゲルは、構成する分子が分子量100万以上であるか、または遮光層18が有孔構造の場合には、その孔径以上の例えば径50nm以上の粒子状であるか、または架橋され流動しない形態であることが好ましい。
【0031】
一方、蛍光色素としては、グルコース等の糖類を測定する場合には、蛍光残基を有するフェニルボロン酸誘導体等が適している。蛍光色素は、高分子量材料としたり、または、ハイドロゲルに化学的に固定したりすることにより、センサ外に離脱することが防止されている。
【0032】
蛍光色素と、ゲル骨格形成材と、重合開始剤と、を含むリン酸緩衝液を、窒素雰囲気下で1時間放置し、重合することにより、インジケータは作製される。例えば、蛍光色素としては、9、10−ビス[N−[2−(5,5−ジメチルボリナン−2−イル)ベンジル]−N−[6‘−[(アクリロイルポリエチレングリコール−3400)カルボニルアミノ]−n−ヘキシルアミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(F−PEG−AAm)を、ゲル骨格形成材としては、アクリルアミドを、重合開始剤としては、ペルオキソ二硫酸ナトリウムおよびN、N、N’、N‘−テトラメチルエチレンジアミンを用いる。
【0033】
なお、重合が完了したインジケータ19は含水状態であるために、所定の乾燥状態となるまで乾燥された後、蛍光センサ30は、完成品となる。
【0034】
乾燥状態のインジケータ19は経時変化が少ないために、蛍光センサ30は、長期間、保管しても、使用時の感度等の特性が変化しない。
【0035】
遮光層18は、インジケータ19が収容されるインジケータ空間16の上面を形成し、励起光Eおよび蛍光Fが蛍光センサの外部へ漏光するのを防止すると同時に、外光が蛍光センサの内部に進入することを防止する。また、遮光層18は、生体適合性を有するとともに、アナライト2を含む体液の通過を妨げないように基本構造部は親水性である。
【0036】
遮光層18には、例えばインジケータ19に用いるハイドロゲルにカーボンブラックもしくはカーボンナノチューブなど光を通さない微粒子を混合した複合材料を用いる。
【0037】
さらに、遮光層18は、親水性部18Aと疎水性部18Bとからなる。図3に示すように、蛍光センサ30では、基本構造部の親水性部18Aは、PD素子12の直上を含む遮光層18の中央部であり、疎水性部18BはPD素子12の周辺部上の遮光層18のエッジ部である。なお、遮光層28の親水性部28Aおよび疎水性部28Bの配設位置は、インジケータ空間16に残留した気体が計測に大きな影響を及ぼさないようであれば、上記配置に限定されるものではない。
【0038】
インジケータ空間16において、親水性部18Aの近傍には、水を吸収し膨張するインジケータ19が、広がりやすいのに対して、疎水性部18Bの近傍には、気体が滞留しやすいためインジケータ19が広がりにくい。
【0039】
センサ枠17は、センサ本体を保護する機能と、遮光機能、すなわち、外光の進入を防止し、センサ内からセンサ外への光の漏れを防止する機能と、を有する。センサ枠17はセンサ本体を保護するために、高剛性材料を用いて作製される。
【0040】
センサ枠17には、ヤング率が数十GPaから数百GPaのシリコン、ガラスもしくは金属等、または、ヤング率が1GPa〜5GPaの程度のポリプロピレンもしくはポリスチレン等の樹脂材料を用いる。なお、遮光機能向上のため、ガラスまたは樹脂材料を用いる場合には、黒色とする。なお、後述するように、基板11の加工により基板の一部からセンサ枠17を作製してもよい。
【0041】
以上の説明のように、蛍光センサ30では、乾燥状態のインジケータ19は、インジケータ空間16に収容されている。なお、インジケータ空間16の容量は、膨潤したインジケータ19の容量とほぼ同一、例えば、膨潤したインジケータ19の容量の100%〜110%である。つまり、図8に示すように、膨潤したインジケータ19によりインジケータ空間16は満たされる。すなわち、インジケータ19はインジケータ空間16の形状に膨潤する。
【0042】
インジケータ空間16のサイズは、例えば、発光素子14として市販の小型LED(サイズ:0.12×0.06mm)を用いる場合、0.20×1.00mm、深さ0.05mm程度である。このようなインジケータ空間16は、後述するように、半導体製造技術を用いて容易に製作できる。
【0043】
次に、蛍光センサ30の使用開始時の変化について説明する。既に説明したように、蛍光センサ30では、使用前には、インジケータ19は乾燥状態でインジケータ空間16に収容されている。このため、蛍光センサ30は長期保存が可能である。
【0044】
そして、ハイドロゲルつまりインジケータ19が乾燥状態の蛍光センサ30が、使用のために、検体内に挿入されると、体液等と接触し、インジケータ19は体液を吸水し膨張する。
【0045】
すなわち、図5に示すように、蛍光センサ30では、生体内に挿入され、遮光層18が体液と接触すると、アナライト2とともに体液は、遮光層18の親水性部18Aを介してインジケータ空間16のインジケータ19(ハイドロゲル)に吸収される。
【0046】
インジケータ19が膨張するにしたがい、インジケータ空間16の気体は、徐々に体液に吸収される。そして、図5に示すように、体液が吸収しきれなかった気体は疎水性部18B側に移動し、インジケータ空間16のエッジ部に滞留する。なお、滞留気体も徐々に体液に吸収されていく。
【0047】
以上の説明のように、蛍光センサ30は、残留気体がインジケータ空間16のエッジ部に収容されるため、インジケータ空間16の中央部の下にある、PD素子12は、蛍光強度すなわちアナライト濃度を精度良くかつ高感度に検出可能である。
【0048】
また、蛍光センサ30では、インジケータ19は使用開始直前まで乾燥状態であるために、経時劣化することがない。
【0049】
このため、蛍光センサ30は、正確なアナライト濃度の測定が可能である。
【0050】
次に、図6のフローチャートに沿って、蛍光センサ30の製造方法を簡単に説明する。
<ステップS10>基板作製工程
基板11に、蛍光を電気信号に変換するPD素子12が半導体製造技術により作製される。
【0051】
<ステップS11>フィルタ配設工程
PD素子12を覆うように、蛍光を透過し励起光を遮る、光吸収型のフィルタ13が配設される。必要に応じて酸化シリコン等からなる透明保護層がフィルタ13上に配設される。
【0052】
<ステップS12>センサ枠配設工程
PD素子12が内部に配置されるように、センサ枠17が基板11上に配設される。
【0053】
<ステップS13>発光素子配設工程
励起光を発生する発光素子14が、センサ枠17内に配設される。なお、発光素子14を配設後にセンサ枠17を配設してもよい。
【0054】
<ステップS14>透明中間層配設工程
センサ枠17の内部、すなわち、前記発光素子14の上に、透明非晶性フッ素樹脂からなる透明中間層15が配設される。
【0055】
<ステップS15>インジケータ配設工程
センサ枠17内に、蛍光分子とアクリルアミドと重合開始剤とを含むリン酸緩衝液が満たされる。
【0056】
<ステップS16>遮光層配設工程
最初に、遮光層18に疎水化処理または親水化処理が行われる。すなわち、遮光層の基本構造部(基材)が疎水性の場合には、親水性部が作製され、親水性の場合には疎水性部が作製される。
遮光層18の基材が疎水性の場合には、マスクを介した電子線照射またはUV照射により、マスクされていない領域を酸化して親水性部18Aを作製する。
【0057】
親水化処理を促進するために、表面に前処理を行ってもよい。前処理は、アクリルアミド、ビニールピロリドン、もしくは、NNジメチルアクリルアミド等の親水性モノマー、またはそれらのポリマー溶液からなる前処理溶液を、スプレー塗布したり含浸処理したりする。前処理材料が固体の場合には、適切な溶媒、例えば界面活性剤を含む水溶液に溶解したり、アルコールに溶解したりして液体化する。また、前処理溶液中にインクジェットプリンター等で使用されている顔料を添加することにより、遮光層18の遮光性を向上させてもよい。遮光層18の基材が親水性の場合には、例えばシランカップリング剤等により表面を疎水化する。
【0058】
なお、蛍光センサ30では、インジケータ空間16の上面にのみ親水性部18Aおよび疎水性部18Bを形成してもよい。また、センサ枠17または透明中間層15の少なくともいずれかのインジケータ空間16を構成する面にも、親水性部または疎水性部を作製してもよい。
【0059】
遮光層18がセンサ枠17に接合されることにより、インジケータ空間16が密閉される。そして、窒素雰囲気下で1時間放置することにより、インジケータ空間16内のハイドロゲルが重合し、インジケータ19が作製される。
【0060】
<ステップS17>乾燥工程
作製されたインジケータ19は含水状態であるために、蛍光センサ30は洗浄後、インジケータ19が所望の含水量以下となるまで乾燥される。乾燥によりインジケータ19は収縮し、体積がインジケータ空間16の例えば50%以下になる。
【0061】
なお、シリコンウエハに複数のPD素子12を形成し、それぞれのPD素子12に、フィルタ13、センサ枠17、発光素子14、透明中間層15、インジケータ19、および遮光層18を配設し、乾燥処理後に、切断し個片化することにより、複数の蛍光センサ30を一括して製造してもよい。
【0062】
本実施形態の蛍光センサの製造方法によれば、正確なアナライト濃度の測定が可能な蛍光センサ30を製造できる。
【0063】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態の蛍光センサ30Aについて説明する。本実施形態の蛍光センサ30は、蛍光センサ30と類似しているので、同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0064】
蛍光センサ30Aの遮光層28は蛍光センサ30の遮光層18と同様に外光および励起光を遮り、かつ、アナライトを含む体液が通過可能であり、さらに、インジケータ空間16の気体を外部に排出可能である。
【0065】
例えば、遮光層28は、貫通孔のある層または多孔質等からなる。さらに遮光層28は、アナライトを含む体液が通過する親水性部28Aと、気体が通過する疎水性部28Bと、からなる。
【0066】
疎水性部28Bの作製では、例えば、シリコン基板にアナライトが通過可能な貫通孔を形成した後、全面にシランカップリング剤を塗布して疎水性とする。続いて、親水性部28Aにする領域に、真空紫外光照射を行うと、シランカップリング剤が分解するため親水性となる。
【0067】
図8に示すように、遮光層28の親水性部28Aからインジケータ空間16に体液が進入し、インジケータ19が膨張すると、疎水性部28Bからインジケータ空間16の気体が排出される。
【0068】
すなわち、蛍光センサ30Aでは、生体内に挿入され、遮光層28が体液と接触すると、アナライト2を含む体液は、親水性部28Aを通ってインジケータ空間16のインジケータ19(ハイドロゲル)に吸収される。一方、疎水性部28Bは体液と接触しても体液が進入することはなく、気体の排出経路として確保されている。
【0069】
図8に示すように、蛍光センサ30Aでは、インジケータ空間16から空気等の気体が完全に排出され、体液により膨潤したインジケータ19によりインジケータ空間16が満たされる。インジケータ空間16は均一の状態となり、表面反射率、光散乱または透過率の局部的な変化はなく、さらに残留気体が、インジケータ19が発生する蛍光Fの検出領域(PD素子12)への入射を乱すこともない。また、残留気体が、インジケータ19が発生する蛍光Fの強度に悪影響を与えることもない。このため、インジケータ空間16の下にある、PD素子12は、蛍光強度すなわちアナライト濃度を精度良くかつ高感度に検出可能である。
【0070】
蛍光センサ30Aは、蛍光センサ30の効果を有し、さらに、より正確なアナライト濃度の測定が可能である。なお、測定に支障が出ない、体積および位置、であれば、インジケータ空間16に気体が残留していてもよい。
【0071】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態の蛍光センサ30Bについて説明する。蛍光センサ30Bは、蛍光センサ30と類似しているので、同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0072】
図9に示すように、蛍光センサ30Bのインジケータ19は、インジケータ空間16の上面を構成する遮光層18の親水性部18Aの結合領域18Cおよびインジケータ空間16の側面を構成するセンサ枠17の一部である結合領域17Cと固定されている。このため、インジケータ空間16における乾燥したインジケータ19の位置は常に同じである。
【0073】
遮光層18およびセンサ枠17と、インジケータ19との接合には、孔等へのインジケータ19の進入によるアンカー効果を用いたり、接着剤を用いたりしてもよいが、信頼性および製造工程の簡略化の観点から、共有結合を介した接合が好ましい。共有結合は、電子対が2つの原子に共有されて形成する化学結合であり、接合強度が大きい。また共有結合は、インジケータ19の重合反応時に容易に形成できる。
【0074】
そして、インジケータ19が固定される遮光層18の結合領域18Cは、親水性部18Aであるため、体液がインジケータ19と接触しやすい。一方、インジケータ19が固定されるセンサ枠17の結合領域17Cは、徐々に膨潤していくインジケータ19が、疎水性部18Bへの気体の移動を妨げない位置に設定されている。
【0075】
すなわち、遮光層18の結合領域18Cは、親水性部18Aであり、センサ枠17の結合領域17Cは、疎水性部18Bから最も離れた位置にある。なお、遮光層18の親水性部18Aおよび疎水性部18Bの配設位置は、インジケータ空間16の気体がエッジ部に速やかに移動できるようであれば、上記配置に限定されるものではない。
【0076】
アナライトを含む体液が遮光層18を介してインジケータ空間16に進入すると、吸水したインジケータ19は、常に図10に示すように膨張していく。すなわち、乾燥状態で遮光層18の結合領域18Cおよびセンサ枠17の結合領域17Cと固定されているインジケータ19は、常に同じように膨潤する。このため、インジケータ空間16にあった気体は、PD素子12の周辺部上であるインジケータ空間16のエッジ部に移動し、PD素子12の上であるインジケータ空間16の中央部に残ることがない。このため、PD素子12は、蛍光強度すなわちアナライト濃度を精度良くかつ高感度に検出可能である。
【0077】
蛍光センサ30Bは、インジケータ空間16におけるインジケータ19の位置が固定されているたね、局所的な吸水による不均一な膨潤等によって、蛍光検出領域であるPD素子12の上のインジケータ空間16にも気体が残るおそれがない。
【0078】
このため、蛍光センサ30Bは、蛍光センサ30が有する効果を有し、より正確な測定が可能である。
【0079】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態の蛍光センサ30Cについて説明する。蛍光センサ30Cは、蛍光センサ30と類似しているので、同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0080】
図10に示すように、蛍光センサ30Cは、インジケータ空間16の疎水性部18Bに、気体収容部22を有する。気体収容部22は、光の散乱等の影響を生じにくいインジケータ空間16のエッジ部に配設されており、インジケータ19の膨張により押し出された気体を収容する。
【0081】
気体収容部22は、例えば、シリカもしくはシリコンからなる多孔質、または活性炭等をシランカップリング剤により疎水性にしたブロックである。
【0082】
蛍光センサ30Cでは気体が気体収容部22に収容されるために、PD素子12の上のインジケータ空間16の中央部に気体が残留することがない。またインジケータ19が発生した蛍光は気体収容部22の壁面に反射されてPD素子12に入射する。すなわち、気体収容部22の表面が、蛍光を反射するように、例えば貫通孔のある金属膜等で覆われていると、より多くの蛍光がPD素子12に入射するため、蛍光センサ30Cの検出感度が高い。
【0083】
気体収容部22の配設位置、配設個数は適宜、選択可能である。
【0084】
蛍光センサ30Cは、蛍光センサ30が有する効果を有し、より正確なアナライト濃度の測定が可能である。
【0085】
<第5実施形態>
次に、第5実施形態の蛍光センサ30Dについて説明する。蛍光センサ30Dは、蛍光センサ30A、30Bと類似しているので、同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0086】
図11に示すように、蛍光センサ30Dの遮光層28は、親水性部28Aと疎水性部28Bと、からなり、かつ、気体が通過可能である。そして、インジケータ19は、親水性部28Aの結合領域28Cと、センサ枠17の結合領域17Cと、に固定されている。
【0087】
蛍光センサ30Dでは、生体内に挿入され、遮光層28が体液と接触すると、アナライト2を含む体液は、親水性部28Aを通ってインジケータ空間16のインジケータ19(ハイドロゲル)に吸収される。吸水すると、インジケータ19は結合領域28Cと結合領域17Cと、に固定されているために、常に同じように膨張する。
【0088】
一方、疎水性部28Bは体液と接触しても体液が進入することはなく、気体の排出経路として確保されている。
【0089】
蛍光センサ30Dは、蛍光センサ30Aおよび30Bが、それぞれ有する効果を合わせて有する。
【0090】
<第6実施形態>
次に、第6実施形態の蛍光センサ30Eについて説明する。蛍光センサ30Eは、蛍光センサ30等と類似しているので、同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0091】
図12に示すように、蛍光センサ30Eでは、シリコン等の半導体からなる基板11Eに形成された凹部の4側面にPD素子12Eが形成され、凹部の底面に発光素子14が配設されている。なお、凹部の開口面は底面よりも広く、側面は、底面に対して垂直ではなく所定の角度θで傾斜している。なお、凹部となる額縁形状のセンサ枠基板と平面基板とを接合することにより、凹部を有する基板11Eが作製されていてもよい。
【0092】
また、PD素子12Eおよびフィルタ13Eを覆う透明中間層15Eからなる凹部の中央部に乾燥したインジケータ19が配設されている。そして、中央部に疎水性部28Bを、周辺部に親水性部28Aを有する遮光層28が、インジケータ空間16Eの上面を形成している。さらに、インジケータ空間16Eの中央部の上面には、疎水性部28Bに接して気体収容部22Eが配設されている。
【0093】
図13に示すように、乾燥したインジケータ19は、透明中間層15Eからなる凹部の底面および4側面からなる結合領域15Cにおいて共有結合により固定されている。乾燥したインジケータ19は、さらに遮光層28の中央部以外の結合領域28Cとも共有結合により固定されている。すなわち、乾燥したインジケータは中央部が凹部となっており、その凹部の内部に気体収容部22Eが配設されている。なお、気体収容部22Eの外面は貫通孔のある金属からなる反射層により覆われている。
【0094】
蛍光センサ30Eは体内に挿入されると、アナライトを含む体液が親水性部28Aを介してインジケータ19に吸収される。膨張したインジケータ19によりインジケータ空間16Eの気体は中央部上部の気体収容部22Eに収容されるとともに、気体収容部22Eを介して疎水性部28Bから外部に排出される。
【0095】
また、気体収容部22E側に放射された蛍光は、表面の反射層により反射され、PD素子12Eに入射する。
【0096】
次に、蛍光センサ30Eの製造方法について簡単に説明する。なお、1個の蛍光センサ30E毎に製造してもよいが、ウエハプロセスとして一括して多数のセンサを製造することが好ましい。
【0097】
すなわち、最初に、複数の素子が作製可能な面積を有するシリコンウエハの第1の主面に複数のマスク部を有するマスク層が作製される。そして、エッチング法により、第1の主面と平行な底面のある複数の凹部が形成される。
【0098】
エッチング法としては、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液、水酸化カリウム(KOH)水溶液などを用いるウエットエッチング法が望ましいが、反応性イオンエッチング(RIE)、ケミカルドライエッチング(CDE)などのドライエッチング法も用いることができる
【0099】
例えば、シリコンウエハとしてシリコン(100)面を用いた場合には、(111)面のエッチング速度が(100)面に比べて遅い異方性エッチングとなるため、凹部の側面は(111)面となり、(100)面(底面)との角度は、54.7度となる。
【0100】
次に、それぞれの凹部の4側面にPD素子12Eが公知の半導体プロセスにより形成される。側面が傾斜している凹部は、側面が垂直な凹部に比べてPD素子12を形成できる面積が広いだけでなく、側面へのPD素子12Eの形成が容易であり、さらにインジケータ空間16Eに気体が残留しにくい。なお側面の傾斜角度が30〜70度であれば、上記効果が顕著である。
【0101】
次に、側面のPD素子12E上にフィルタ13Eが配設される。次に、複数の凹部の底面に、それぞれ発光素子14が配設される。さらに透明中間層15Eおよび共有結合形成用モノマー層を形成後に、凹部内にインジケータ19となる緩衝溶液が充填される。さらに、凹部の開口を塞ぐように、気体収容部22Eが接合された中央部が疎水性かつ共有結合形成用モノマー層を有しない遮光層28が接合される。そして複数のセンサが形成されたシリコンウエハが個片化され蛍光センサ30Eが完成する。なお乾燥処理はウエハ状態で行ってもよいし個片化してから行ってもよい。
【0102】
蛍光センサ30Eは蛍光センサ30等と同様の効果を有し、さらに基板11Eが枠部を兼ねており、かつPD素子形成面である凹部の側面が傾斜しているため製造が容易である。
【0103】
なお、複数の上記実施形態において説明した蛍光センサ全体の形状は直角柱形状であったが、台形形状、側面が湾曲した形状、またはセンサ側面の一方向を延設した針型の蛍光センサ等であってもよい。
【0104】
また、グルコース等の糖類を検出するセンサを例に説明したが、蛍光センサは、蛍光色素の選択によって、酵素センサ、pHセンサ、免疫センサ、または微生物センサ等の多様な用途に対応することができる。
【0105】
すなわち、本発明は、上述した実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等ができる。
【符号の説明】
【0106】
2…アナライト、11…基板、12…PD素子、13…フィルタ、14…発光素子、15…透明中間層、16…インジケータ空間、17…センサ枠、18…遮光層、18A…親水性部、18B…疎水性部、19…インジケータ、22…気体収容部、28…遮光層、28A…親水性部、28B…疎水性部、30、30A〜30E…蛍光センサ、110…蛍光センサ、111…透明基板、112…光電変換素子、115…透明中間層、118…遮光層、119…インジケータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光を電気信号に変換する光電変換素子と、
アナライトおよび励起光により前記蛍光を発生するハイドロゲルからなるインジケータが乾燥状態で収容されたインジケータ空間の側面を構成するセンサ枠と、
前記光電変換素子を覆うように配設された、前記蛍光を透過し前記励起光を遮るフィルタと、
前記センサ枠内に配設された、前記励起光を発生する発光素子と、
前記センサ枠内に配設された、前記インジケータ空間の下面を構成する、前記発光素子の上に配設された透明中間層と、
前記インジケータ空間の上面を構成するとともに、外光および前記励起光を遮り、かつ、前記アナライトを含む体液が通過可能で、さらに親水性部と疎水性部とからなる遮光層と、を具備することを特徴とする蛍光センサ。
【請求項2】
前記光電変換素子の上の前記遮光層が、前記親水性部からなることを特徴とする請求項1に記載の蛍光センサ。
【請求項3】
前記遮光層が、気体を通過可能であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光センサ。
【請求項4】
前記遮光層に貫通孔があることを特徴とする請求項3に記載の蛍光センサ。
【請求項5】
前記遮光層が、多孔質からなることを特徴とする請求項3に記載の蛍光センサ。
【請求項6】
前記インジケータが、前記インジケータ空間を構成する面の少なくともいずれかの一部と固定されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の蛍光センサ
【請求項7】
前記インジケータ空間の前記疎水性部からなる領域に、気体を収容する気体収容部を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の蛍光センサ。
【請求項8】
前記インジケータが前記体液を吸収し膨潤すると、前記インジケータ空間の気体が、前記疎水性部に移動することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の蛍光センサ。
【請求項9】
生体内に留置され、含水した前記インジケータが発生する前記蛍光の強度をもとに、前記体液のアナライト濃度を継続して測定することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の蛍光センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−255707(P2012−255707A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128628(P2011−128628)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】