蛍光ナノ粒子およびその製造方法
【課題】本発明は、バイオイメージングプローブに適用するのに十分な発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに、合成化学上有用な両親媒性を兼ね備える新規な蛍光ナノ粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】希土類金属イオン水溶液(Y,Ln)に対してアニオン性界面活性剤(好ましくは、オレイン酸)を滴下して、界面活性剤と希土類金属イオンの錯体を形成する。これに対してバナデート源を添加して水熱処理を施した後、析出物を回収し乾燥することによって、本発明の蛍光ナノ粒子を得る。本発明の蛍光ナノ粒子は、アニオン性界面活性剤で被膜されたランタノイド賦活バナジン酸イットリウム(YVO4:Ln)を含み、高い発光効率、粒径均一性、溶媒中での高分散性、ならびに両親媒性を兼ね備える。
【解決手段】希土類金属イオン水溶液(Y,Ln)に対してアニオン性界面活性剤(好ましくは、オレイン酸)を滴下して、界面活性剤と希土類金属イオンの錯体を形成する。これに対してバナデート源を添加して水熱処理を施した後、析出物を回収し乾燥することによって、本発明の蛍光ナノ粒子を得る。本発明の蛍光ナノ粒子は、アニオン性界面活性剤で被膜されたランタノイド賦活バナジン酸イットリウム(YVO4:Ln)を含み、高い発光効率、粒径均一性、溶媒中での高分散性、ならびに両親媒性を兼ね備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの蛍光粒子に関し、より詳細には、バイオイメージングプローブとして最適な蛍光ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生命現象を可視化するバイオイメージング技術について、種々検討がなされている。ここで、バイオイメージングとは、細胞やタンパク質などのターゲットに対して微小な蛍光プローブを特異的に吸着させた後、当該蛍光プローブからの発光を利用して、ターゲットの構造や生体内におけるそれらの移動の様子を観察することをいう。
【0003】
従来、蛍光バイオイメージングプローブとして、蛍光タンパク質あるいは量子ドットが主に用いられてきたが、蛍光タンパク質には、励起光の持つ高いエネルギーによってタンパク質自体が分解してしまうため数十秒以内に退色が起こり、十分な観察時間を確保できないという問題があった。一方、量子ドットは、CdやSeなどの有毒性元素を含むことから、生体への悪影響が懸念されていた。
【0004】
この点につき、近年、希土類金属とバナジウムの複合酸化物である希土類バナデート結晶粒子を蛍光バイオイメージングプローブとして用いることが検討されている。希土類バナデート結晶は、発光特性が半永久的に失われず毒性がない点で、バイオイメージングプローブとして最適な材料であるといえる。
【0005】
非特許文献1は、ランタノイド元素(Eu、Sm、Dy)をドープしたイットリウムバナデート(YVO4)ナノ粒子の合成方法を開示する。非特許文献1の方法においては、イットリウムおよびランタノイドの硝酸塩とバナジン酸ナトリウム(Na3VO4)とを水に溶解した後、これをオートクレーブ中で加熱することによってナノ結晶粒子を得る。しかしながら、この方法では、水熱処理過程において結晶粒子が凝集してしまい、サイズ分布がブロードになるため、粒子サイズを揃えるためには追加の透析工程が必要となる上、その収率が非常に低く、工業的応用が困難であった。
【0006】
さらに、蛍光プローブの表面に多くの種類の官能基を導入することを検討する場合、基体となる結晶粒子は、水などの極性溶媒および有機溶媒などの非極性溶媒の両方に分散可能であること(両親媒性を備えること)が望ましいが、非特許文献1の方法による希土類バナデート結晶粒子は、水などの極性溶媒にしか分散しえず、これを有機溶媒に分散させるためには、結晶表面を改質しなければならなかった。
【0007】
上述した従来技術における問題に鑑み、十分な発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに両親媒性を兼ね備えた蛍光バイオイメージングプローブを工業的に生産するための新規な手法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Riwotzki, K.; Haase,M., J. Phys. Chem.B, 1998, 102, 10129..
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、バイオイメージングプローブに適用するのに十分な発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに、合成化学上有用な両親媒性を備える新規な蛍光ナノ粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、バイオイメージングプローブに適用するために十分な発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに、合成化学上有用な両親媒性を備える新規な蛍光ナノ粒子につき鋭意検討した結果、希土類バナデート結晶粒子を水熱合成法によって作製する方法において、希土類金属イオン水溶液に対してアニオン性界面活性剤を滴下し、これにバナデート源を添加した後に水熱処理を施すことによって、バナデート結晶がその成長と同時的にアニオン性界面活性剤で被膜されることを発見した。さらに、本発明者らは、この方法によって得られた蛍光ナノ粒子が高い発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに、両親媒性を兼ね備えていることを実証し、本発明に至ったのである。
【0011】
すなわち、本発明によれば、アニオン性界面活性剤で被覆されたランタノイド賦活バナジン酸イットリウム(YVO4:Ln)の単結晶を含み、両親媒性を有することを特徴とする、蛍光ナノ粒子が提供される。本発明の蛍光ナノ粒子は、量子収率が15%以上であることを特徴とする。また、本発明の蛍光ナノ粒子は、動的散乱法により測定される平均粒子径が15nm〜50nmであり、その粒子径分布の変動係数が30%以下であることを特徴とする。本発明においては、前記アニオン性界面活性剤を高級脂肪酸とすることができ、前記ランタノイド賦活バナジン酸イットリウムを、YVO4:Eu、あるいは、YVO4:Er,Ybとすることができる。さらに、本発明によれば、上記蛍光ナノ粒子を含むバイオイメージングプローブが提供される。
【0012】
さらに、本発明によれば、イットリウム塩とランタノイド金属塩を含む金属水溶液を調製する工程と、前記金属水溶液に対してアニオン性界面活性剤を添加する工程と、前記アニオン性界面活性剤を添加した後の前記金属水溶液に対して、バナジン酸塩の水溶液を添加して混合する工程と、調製された混合液に水熱処理を施す工程と、含む蛍光ナノ粒子の製造方法が提供される。本発明においては、前記アニオン性界面活性剤を添加する工程を高級脂肪酸塩の水溶液を添加する工程とすることができ、前記高級脂肪酸塩をオレイン酸ナトリウムとすることができ、また、前記バナジン酸塩をバナジン酸ナトリウムとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、本発明によれば、バイオイメージングプローブに適用するために十分な発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに、合成化学上有用な両親媒性を備える新規な蛍光ナノ粒子およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の蛍光ナノ粒子の製造工程を示すフローチャート。
【図2】本発明の蛍光ナノ粒子の表面に形成されるオレイン酸被膜を概念的に示す図。
【図3】実施例サンプル1のTEM像。
【図4】比較例サンプルのTEM像。
【図5】実施例サンプル1の結晶のXRD測定の結果を示す図。
【図6】実施例サンプル1のコロイドの粒径分布図。
【図7】実施例サンプル1を水に分散させた状態のTEM像。
【図8】実施例サンプル1のFT-IR測定結果を示す図。
【図9】実施例サンプル1の発光スペクトルを示す図
【図10】実施例サンプル1を水およびシクロヘキサンに分散させた試料の発光スペクトルを示す図。
【図11】Er3+をドープしたサンプルの発光スペクトルを示す図。
【図12】Er3+/Yb3+をドープしたサンプルの発光スペクトルを示す図。
【図13】実施例サンプル2の結晶のXRD測定の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の蛍光ナノ粒子は、蛍光母体であるバナジン酸イットリウム(YVO4)に対し、賦活剤としてのランタノイド金属(Ln)をドープした単結晶粒子として形成される。以下、本発明の蛍光ナノ粒子の製造工程について、図1に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0016】
本発明においては、まず、母体材料源であるイットリウム(Y)の塩と賦活剤であるランタノイド金属(Ln)の塩を含む金属水溶液を調製する。本発明において、イットリウム塩ならびにランタノイド金属塩は、いずれも、その酸性塩(塩化物、硝酸塩等)、または、塩基性塩(酢酸塩等)、あるいは、これらの水和物を用いることができる。
【0017】
本発明の蛍光ナノ粒子は、Eu3+を賦活剤とすることによって、紫外光を励起光とする赤色発光粒子として構成することができる。また、Er3+およびYb3+を賦活剤とすることによって、近赤色光を励起光とする緑色発光粒子として構成することもできる。なお、Er3+およびYb3+を賦活剤とした場合には、近赤色光(1500nm)も併せて発光するため、NIR発光バイオイメージングプローブに応用することができる。
【0018】
次に、上述した金属水溶液に対して予め調製しておいたアニオン性界面活性剤の水溶液を滴下して加える。本発明においては、アニオン性界面活性剤として、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸等の生体に無害な高級脂肪酸塩を用いることができ、好ましくは、オレイン酸ナトリウムを用いることができる。また、本発明においては、金属水溶液に溶解している希土類金属(Y、Ln)の全モル数と同モル数のアニオン性界面活性剤を添加することが好ましい。反応系に添加されたアニオン性界面活性剤は、希土類金属イオンと錯体を形成する。
【0019】
次に、上記錯体を含む溶液に対して、もうひとつの母体材料源であるバナジン酸塩の水溶液を添加して撹拌する。本発明においては、バナジン酸塩として、バナジン酸のアルカリ金属塩あるいはその水和物を用いることができ、好ましくは、バナジン酸ナトリウム(Na3(VO4))を用いることができる。当該工程において、ランタノイド賦活バナジン酸イットリウム(YVO4:Ln)の微細結晶が析出する。この段階では、微細結晶の結晶子径は数nmオーダであるため、表面配位子による多重フォノン緩和の影響を受け、さらに表面の格子欠陥による電子トラップの影響も相俟って、その量子収率は10%程度に留まる。
【0020】
ここで、本発明においては、析出した微細結晶粒子に対して水熱処理を施すことによって、さらなる結晶成長とその結晶性の向上を促す。ここで、水熱処理とは、水の沸点以上の高温高圧の飽和水蒸気で加熱処理することをいう。具体的には、上述した微細結晶粒子の水分散液をオートクレーブに移して加熱することによって行うことができる(200℃、6時間程度)。なお、本発明の方法は、水熱処理における結晶粒子の凝集を回避するものであり、この点については後述する。
【0021】
最後に、水熱処理後の水分散液を冷却した後、遠心分離によって成長した結晶粒子を回収し、これを乾燥することによって、本発明の蛍光ナノ粒子を得る。以上、本発明の蛍光ナノ粒子の製造方法について説明してきたが、次に、本発明の蛍光ナノ粒子が備える特徴について、以下説明する。
【0022】
本発明の蛍光ナノ粒子は、アニオン性界面活性剤で被覆されたランタノイド賦活バナジン酸イットリウム(YVO4:Ln)の単結晶粒子を含んで形成されるものであり、15%以上の量子収率を有し、好ましくは、20%以上の量子収率を有する。その結果、本発明の蛍光ナノ粒子は、バイオイメージングに応用するのに必要十分な発光効率を実現する。さらに、本発明の蛍光ナノ粒子は、15nm〜50nmの平均粒子径を有し、好ましくは、15nm〜25nmの平均粒子径を有する。さらに加えて、本発明の蛍光ナノ粒子は、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備えている。そのため、本発明の蛍光ナノ粒子は、μmオーダーのターゲット(細胞やその内部粒子など)をバイオイメージングする際の蛍光プローブとして用いることができる。本発明の蛍光ナノ粒子においては、水熱処理過程において、結晶粒子が成長するのと同時的にアニオン性界面活性剤からなる被膜が結晶粒子の表面に形成されることによって、結晶粒子同士の凝集が好適に回避され、もって、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性が実現される。
【0023】
さらに、本発明の蛍光ナノ粒子は、水などの極性溶媒および有機溶媒などの非極性溶媒の両方に分散させることができること(すなわち、両親媒性を備えること)を特徴とする。この両親媒性によって、蛍光ナノ粒子の表面に導入する官能基の選択性が向上する。本発明者らは、この両親媒性を結晶粒子の表面に形成されるアニオン性界面活性剤からなる被膜によるものと推察する。以下、この点について、アニオン性界面活性剤としてオレイン酸を使用した場合を例にとって詳説する。
【0024】
図2は、本発明の蛍光ナノ粒子の表面に形成されるオレイン酸被膜を概念的に示す。本発明者らは、オレイン酸被膜が、カルボキシルイオン(COO−)を介して結晶粒子の表面に存在するイットリウムイオン(Y3+)と結合したオレイン酸イオンの第1の群に対して、オレイン酸イオンの第2の群がカルボキシルイオン(COO−)を最外表面に露出する態様で挟持された構造を備えているものと考えており、最外表面に露出したカルボキシルイオン(COO−)が親水性を示し、オレイン酸の主鎖部分が疎水性を示すものと推察する。さらに、本発明の蛍光ナノ粒子は、最外表面に露出したカルボキシルイオン(COO−)を介してタンパク質やDNA等と直接結合することができるものと考えられ、イメージングの対象によっては、表面改質のための工程を省略することができるものと期待する。
【0025】
以上、説明したように、本発明によれば、バイオイメージングプローブに適用するのに十分な発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに、合成化学上有用な両親媒性を備える蛍光ナノ粒子を安価なプロセスによって大量に製造することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の蛍光ナノ粒子について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0027】
<実施例1/YVO4:Eu3+ の作製>
以下の手順で本発明の蛍光ナノ粒子(YVO4:Eu3+)を作製した。まず、YCl3および EuCl3
の混合水溶液(15ml, 総金属塩モル数 3.5 mmol)に対し、オレイン酸ナトリウム水溶液(15ml オレイン酸ナトリウムモル数 3.5mmol)を滴下したところ、オレート錯体が析出した。この混合溶液に対して、Na3(VO4)水溶液(5ml,
Na3(VO4),モル数3.5mmol)を添加したのち室温条件下で約30分磁気攪拌を行った結果、YVO4
のナノ結晶(結晶子径7.0 nm)が生成されていることを確認した。
【0028】
続いて、この溶液をオートクレーブで密閉し、オーブン中で加熱(200℃,6時間)した後、自然冷却することにより沈殿物を得た。この沈殿物を遠心分離(5000 rpm, 30分)により溶液から回収し、乾燥(80℃,
6時間)することによって最終生成物を得た(以下、実施例サンプル1として参照する)。併せて、オレイン酸ナトリウム水溶液を滴下しないこと以外、上述したのと同様の条件・手順をもって比較例サンプルを作製した。
【0029】
図3は、実施例サンプル1のTEM像を示す。図3に示されるように、実施例サンプル1は、約15 nmの粒子径を持つ単結晶粒子であった。一方、図4は、比較例サンプルのTEM像を示す。図4に示されるように、比較例サンプルにおいては、複数の結晶粒子が凝集してしまい、粒径が約数百 nmの二次粒子を形成していた。
【0030】
(分散性・両親媒性の評価)
実施例サンプル1についてXRD測定を行ない、その結果に基づいてシェラーの式より結晶子径を算出した。図5(a)は、水熱処理前に析出した結晶のXRD測定の結果を示し、図5(b)は、水熱処理後の最終生成物のXRD測定の結果を示す。各測定結果に基づいて結晶子径を算出した結果、水熱処理前の中間生成物の結晶子径が7.0 nmであったのに対し、水熱処理後の最終生成物の結晶子径は16.1 nmとなっており、水熱処理による結晶成長が認められた。
【0031】
一方、実施例サンプル1をシクロヘキサンに分散させたコロイドにつき、動的光散乱法により測定したところ、その平均粒子径は20 nmであり、粒子径分布の変動係数(CV値)は30%であった。上記測定結果から、実施例サンプル1が高い粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備えていることが示された。なお、図6は、実施例サンプル1のコロイドについての粒子径分布図を示す。
【0032】
また、図7は、実施例サンプル1を水に分散させた状態のTEM像を示す。図7に見られるように、実施例サンプル1は、水系溶媒中でも高い分散性を示しており、本発明の蛍光ナノ粒子が好適な両親媒性を有することが示された。
【0033】
(オレイン酸膜形成の検証)
実施例サンプル1について、ゼータ電位測定を行なった。その結果、比較例サンプルのゼータ電位が -20 mVであったのに対し、実施例サンプル1のゼータ電位は -40 mV であり、その表面が負に帯電していることが示された。さらに、実施例サンプル1について、FT-IR測定を行なった。図8(a)(b)は、その測定結果を示す。なお、各図において、Xは実施例サンプル1についてのスペクトルを示し、Yは比較例サンプルについてのスペクトルを示す。図8(a)に示すスペクトルから、実施例サンプル1(X)がオレイン酸を含んでいることがわかった。また、図8(b)に示すスペクトルから、実施例サンプル1(Y)において、カルボキシル基が結晶表面のイットリウムイオン(Y3+)と化学結合していることがわかった。上述したゼータ電位測定ならびにFT-IR測定の結果から、本実施例の蛍光ナノ粒子の表面にオレイン酸被膜が形成されていることが立証された。また、上記結果は、オレイン酸被膜が図2に示したようなオレート二重層として形成されていることを示唆するものであった。
【0034】
(発光効率の評価)
実施例サンプル1の粉末に対して波長280nmのレーザ光(励起光)を照射した際の発光強度を測定した。なお、上述した中間生成物についても同様の手順で発光強度を測定した。図9は、実施例サンプル1および中間生成物についての発光スペクトルを示す。図9に示されるように、実施例サンプル1(X)は、中間生成物(Y)に比べておおよそ倍の発光強度を示し、可視領域(619nm付近)に強いピークを示した。また、発光スペクトルに基づいて、実施例サンプル1の量子収率を算出したところ、18%であった。
【0035】
さらに、実施例サンプル1を水に分散させた試料(W)とシクロヘキサンに分散させた試料(C)につき、それぞれ波長280nmの光励起を行なって発光強度を測定した。図10は、試料(W)についての発光スペクトルと試料(C)についての発光スペクトルを併せて示す。図10に示されるように、本実施例の蛍光ナノ粒子は、水および有機溶媒のいずれにおいても、ほぼ同様の発光効率ならびにスペクトル形状を示しており、溶媒の種類に左右されない安定した発光特性を有することがわかった。
【0036】
<実施例2/YVO4:Er3+,Yb3+ の作製>
実施例1について上述したのと同様の手順で、本発明の蛍光ナノ粒子(YVO4:Er3+,Yb3+ )を作製した。具体的には、実施例1における(YCl3、EuCl3)の混合水溶液に代えて、(YCl3、ErCl3、YbCl3)の混合水溶液を使用し、賦活剤(Er3+,Yb3+)のドープ量について変化させて複数種のサンプルを作製し、各サンプルについて測定した発光強度に基づいて、最適なドーパント濃度[mol%](=ドーパントイオンモル数/総希土類(Y+ドーパントイオン)モル数 )を求めた。
【0037】
図11は、Er3+のみをドープした3種類のサンプル(Er3+ドーパント濃度[mol%]= 1 , 2.5 , 5 )の粉末に対して波長980nmのレーザ光(励起光)を照射した際の発光スペクトルを示す。図11に示されるように、1mol% Er3+ドープのサンプルでは励起光が十分に吸収されず、5mol% Er3+ドープのサンプルでは濃度消光が起きることから、いずれも低い発光強度を示したが、2.5mol%
Er3+ドープのサンプルでは、高いピークが観察された。
【0038】
この結果を受け、Er3+のドーパント濃度を2.5mol% に固定した上で、それぞれ異なる濃度でYb3+ をドープした3種類のサンプル(Yb3+ドーパント濃度[mol%]= 0 , 10 , 20 ) の粉末に対して波長980nmのレーザ光(励起光)を照射して発光強度を測定した。図12は、各サンプルについて測定された発光スペクトルを示す。図12に示されるように、アップコンバージョンによる発光(可視光領域)およびダウンコンバージョンによる発光(近赤外領域)のいずれにおいても、2.5mol% Er3+, 10mol% Yb3+ドープのサンプルで最も高いピークが観察された。一方、2.5mol%
Er3+, 20mol% Yb3+ドープのサンプルでは、濃度消光の影響で発光強度が小さくなることが示された。
【0039】
この結果を受け、最適なドーパント濃度(2.5mol% Er3+,
10mol% Yb3+)のサンプル(以下、実施例サンプル2として参照する)についてXRD測定を行ない、その結果に基づいてシェラーの式より結晶子径を算出した。図13(a)は、水熱処理前に析出した結晶のXRD測定の結果を示し、図13(b)は、水熱処理後の最終生成物のXRD測定の結果を示す。各測定結果に基づいて結晶子径を算出した結果、水熱処理前の中間生成物の結晶子径が7.0 nmであったのに対し、水熱処理後の最終生成物の結晶子径は20.5 nmであり、水熱処理による結晶成長が顕著に認められた。さらに、実施例サンプル2について、実施例1において行ったのと同様の手順で、その分散性・両親媒性の評価、ならびに、オレイン酸膜形成の検証を行ったところ、実施例サンプル1と同様の結果を得た。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの蛍光粒子に関し、より詳細には、バイオイメージングプローブとして最適な蛍光ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生命現象を可視化するバイオイメージング技術について、種々検討がなされている。ここで、バイオイメージングとは、細胞やタンパク質などのターゲットに対して微小な蛍光プローブを特異的に吸着させた後、当該蛍光プローブからの発光を利用して、ターゲットの構造や生体内におけるそれらの移動の様子を観察することをいう。
【0003】
従来、蛍光バイオイメージングプローブとして、蛍光タンパク質あるいは量子ドットが主に用いられてきたが、蛍光タンパク質には、励起光の持つ高いエネルギーによってタンパク質自体が分解してしまうため数十秒以内に退色が起こり、十分な観察時間を確保できないという問題があった。一方、量子ドットは、CdやSeなどの有毒性元素を含むことから、生体への悪影響が懸念されていた。
【0004】
この点につき、近年、希土類金属とバナジウムの複合酸化物である希土類バナデート結晶粒子を蛍光バイオイメージングプローブとして用いることが検討されている。希土類バナデート結晶は、発光特性が半永久的に失われず毒性がない点で、バイオイメージングプローブとして最適な材料であるといえる。
【0005】
非特許文献1は、ランタノイド元素(Eu、Sm、Dy)をドープしたイットリウムバナデート(YVO4)ナノ粒子の合成方法を開示する。非特許文献1の方法においては、イットリウムおよびランタノイドの硝酸塩とバナジン酸ナトリウム(Na3VO4)とを水に溶解した後、これをオートクレーブ中で加熱することによってナノ結晶粒子を得る。しかしながら、この方法では、水熱処理過程において結晶粒子が凝集してしまい、サイズ分布がブロードになるため、粒子サイズを揃えるためには追加の透析工程が必要となる上、その収率が非常に低く、工業的応用が困難であった。
【0006】
さらに、蛍光プローブの表面に多くの種類の官能基を導入することを検討する場合、基体となる結晶粒子は、水などの極性溶媒および有機溶媒などの非極性溶媒の両方に分散可能であること(両親媒性を備えること)が望ましいが、非特許文献1の方法による希土類バナデート結晶粒子は、水などの極性溶媒にしか分散しえず、これを有機溶媒に分散させるためには、結晶表面を改質しなければならなかった。
【0007】
上述した従来技術における問題に鑑み、十分な発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに両親媒性を兼ね備えた蛍光バイオイメージングプローブを工業的に生産するための新規な手法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Riwotzki, K.; Haase,M., J. Phys. Chem.B, 1998, 102, 10129..
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、バイオイメージングプローブに適用するのに十分な発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに、合成化学上有用な両親媒性を備える新規な蛍光ナノ粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、バイオイメージングプローブに適用するために十分な発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに、合成化学上有用な両親媒性を備える新規な蛍光ナノ粒子につき鋭意検討した結果、希土類バナデート結晶粒子を水熱合成法によって作製する方法において、希土類金属イオン水溶液に対してアニオン性界面活性剤を滴下し、これにバナデート源を添加した後に水熱処理を施すことによって、バナデート結晶がその成長と同時的にアニオン性界面活性剤で被膜されることを発見した。さらに、本発明者らは、この方法によって得られた蛍光ナノ粒子が高い発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに、両親媒性を兼ね備えていることを実証し、本発明に至ったのである。
【0011】
すなわち、本発明によれば、アニオン性界面活性剤で被覆されたランタノイド賦活バナジン酸イットリウム(YVO4:Ln)の単結晶を含み、両親媒性を有することを特徴とする、蛍光ナノ粒子が提供される。本発明の蛍光ナノ粒子は、量子収率が15%以上であることを特徴とする。また、本発明の蛍光ナノ粒子は、動的散乱法により測定される平均粒子径が15nm〜50nmであり、その粒子径分布の変動係数が30%以下であることを特徴とする。本発明においては、前記アニオン性界面活性剤を高級脂肪酸とすることができ、前記ランタノイド賦活バナジン酸イットリウムを、YVO4:Eu、あるいは、YVO4:Er,Ybとすることができる。さらに、本発明によれば、上記蛍光ナノ粒子を含むバイオイメージングプローブが提供される。
【0012】
さらに、本発明によれば、イットリウム塩とランタノイド金属塩を含む金属水溶液を調製する工程と、前記金属水溶液に対してアニオン性界面活性剤を添加する工程と、前記アニオン性界面活性剤を添加した後の前記金属水溶液に対して、バナジン酸塩の水溶液を添加して混合する工程と、調製された混合液に水熱処理を施す工程と、含む蛍光ナノ粒子の製造方法が提供される。本発明においては、前記アニオン性界面活性剤を添加する工程を高級脂肪酸塩の水溶液を添加する工程とすることができ、前記高級脂肪酸塩をオレイン酸ナトリウムとすることができ、また、前記バナジン酸塩をバナジン酸ナトリウムとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、本発明によれば、バイオイメージングプローブに適用するために十分な発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに、合成化学上有用な両親媒性を備える新規な蛍光ナノ粒子およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の蛍光ナノ粒子の製造工程を示すフローチャート。
【図2】本発明の蛍光ナノ粒子の表面に形成されるオレイン酸被膜を概念的に示す図。
【図3】実施例サンプル1のTEM像。
【図4】比較例サンプルのTEM像。
【図5】実施例サンプル1の結晶のXRD測定の結果を示す図。
【図6】実施例サンプル1のコロイドの粒径分布図。
【図7】実施例サンプル1を水に分散させた状態のTEM像。
【図8】実施例サンプル1のFT-IR測定結果を示す図。
【図9】実施例サンプル1の発光スペクトルを示す図
【図10】実施例サンプル1を水およびシクロヘキサンに分散させた試料の発光スペクトルを示す図。
【図11】Er3+をドープしたサンプルの発光スペクトルを示す図。
【図12】Er3+/Yb3+をドープしたサンプルの発光スペクトルを示す図。
【図13】実施例サンプル2の結晶のXRD測定の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の蛍光ナノ粒子は、蛍光母体であるバナジン酸イットリウム(YVO4)に対し、賦活剤としてのランタノイド金属(Ln)をドープした単結晶粒子として形成される。以下、本発明の蛍光ナノ粒子の製造工程について、図1に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0016】
本発明においては、まず、母体材料源であるイットリウム(Y)の塩と賦活剤であるランタノイド金属(Ln)の塩を含む金属水溶液を調製する。本発明において、イットリウム塩ならびにランタノイド金属塩は、いずれも、その酸性塩(塩化物、硝酸塩等)、または、塩基性塩(酢酸塩等)、あるいは、これらの水和物を用いることができる。
【0017】
本発明の蛍光ナノ粒子は、Eu3+を賦活剤とすることによって、紫外光を励起光とする赤色発光粒子として構成することができる。また、Er3+およびYb3+を賦活剤とすることによって、近赤色光を励起光とする緑色発光粒子として構成することもできる。なお、Er3+およびYb3+を賦活剤とした場合には、近赤色光(1500nm)も併せて発光するため、NIR発光バイオイメージングプローブに応用することができる。
【0018】
次に、上述した金属水溶液に対して予め調製しておいたアニオン性界面活性剤の水溶液を滴下して加える。本発明においては、アニオン性界面活性剤として、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸等の生体に無害な高級脂肪酸塩を用いることができ、好ましくは、オレイン酸ナトリウムを用いることができる。また、本発明においては、金属水溶液に溶解している希土類金属(Y、Ln)の全モル数と同モル数のアニオン性界面活性剤を添加することが好ましい。反応系に添加されたアニオン性界面活性剤は、希土類金属イオンと錯体を形成する。
【0019】
次に、上記錯体を含む溶液に対して、もうひとつの母体材料源であるバナジン酸塩の水溶液を添加して撹拌する。本発明においては、バナジン酸塩として、バナジン酸のアルカリ金属塩あるいはその水和物を用いることができ、好ましくは、バナジン酸ナトリウム(Na3(VO4))を用いることができる。当該工程において、ランタノイド賦活バナジン酸イットリウム(YVO4:Ln)の微細結晶が析出する。この段階では、微細結晶の結晶子径は数nmオーダであるため、表面配位子による多重フォノン緩和の影響を受け、さらに表面の格子欠陥による電子トラップの影響も相俟って、その量子収率は10%程度に留まる。
【0020】
ここで、本発明においては、析出した微細結晶粒子に対して水熱処理を施すことによって、さらなる結晶成長とその結晶性の向上を促す。ここで、水熱処理とは、水の沸点以上の高温高圧の飽和水蒸気で加熱処理することをいう。具体的には、上述した微細結晶粒子の水分散液をオートクレーブに移して加熱することによって行うことができる(200℃、6時間程度)。なお、本発明の方法は、水熱処理における結晶粒子の凝集を回避するものであり、この点については後述する。
【0021】
最後に、水熱処理後の水分散液を冷却した後、遠心分離によって成長した結晶粒子を回収し、これを乾燥することによって、本発明の蛍光ナノ粒子を得る。以上、本発明の蛍光ナノ粒子の製造方法について説明してきたが、次に、本発明の蛍光ナノ粒子が備える特徴について、以下説明する。
【0022】
本発明の蛍光ナノ粒子は、アニオン性界面活性剤で被覆されたランタノイド賦活バナジン酸イットリウム(YVO4:Ln)の単結晶粒子を含んで形成されるものであり、15%以上の量子収率を有し、好ましくは、20%以上の量子収率を有する。その結果、本発明の蛍光ナノ粒子は、バイオイメージングに応用するのに必要十分な発光効率を実現する。さらに、本発明の蛍光ナノ粒子は、15nm〜50nmの平均粒子径を有し、好ましくは、15nm〜25nmの平均粒子径を有する。さらに加えて、本発明の蛍光ナノ粒子は、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備えている。そのため、本発明の蛍光ナノ粒子は、μmオーダーのターゲット(細胞やその内部粒子など)をバイオイメージングする際の蛍光プローブとして用いることができる。本発明の蛍光ナノ粒子においては、水熱処理過程において、結晶粒子が成長するのと同時的にアニオン性界面活性剤からなる被膜が結晶粒子の表面に形成されることによって、結晶粒子同士の凝集が好適に回避され、もって、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性が実現される。
【0023】
さらに、本発明の蛍光ナノ粒子は、水などの極性溶媒および有機溶媒などの非極性溶媒の両方に分散させることができること(すなわち、両親媒性を備えること)を特徴とする。この両親媒性によって、蛍光ナノ粒子の表面に導入する官能基の選択性が向上する。本発明者らは、この両親媒性を結晶粒子の表面に形成されるアニオン性界面活性剤からなる被膜によるものと推察する。以下、この点について、アニオン性界面活性剤としてオレイン酸を使用した場合を例にとって詳説する。
【0024】
図2は、本発明の蛍光ナノ粒子の表面に形成されるオレイン酸被膜を概念的に示す。本発明者らは、オレイン酸被膜が、カルボキシルイオン(COO−)を介して結晶粒子の表面に存在するイットリウムイオン(Y3+)と結合したオレイン酸イオンの第1の群に対して、オレイン酸イオンの第2の群がカルボキシルイオン(COO−)を最外表面に露出する態様で挟持された構造を備えているものと考えており、最外表面に露出したカルボキシルイオン(COO−)が親水性を示し、オレイン酸の主鎖部分が疎水性を示すものと推察する。さらに、本発明の蛍光ナノ粒子は、最外表面に露出したカルボキシルイオン(COO−)を介してタンパク質やDNA等と直接結合することができるものと考えられ、イメージングの対象によっては、表面改質のための工程を省略することができるものと期待する。
【0025】
以上、説明したように、本発明によれば、バイオイメージングプローブに適用するのに十分な発光効率に加え、粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備え、さらに、合成化学上有用な両親媒性を備える蛍光ナノ粒子を安価なプロセスによって大量に製造することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の蛍光ナノ粒子について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0027】
<実施例1/YVO4:Eu3+ の作製>
以下の手順で本発明の蛍光ナノ粒子(YVO4:Eu3+)を作製した。まず、YCl3および EuCl3
の混合水溶液(15ml, 総金属塩モル数 3.5 mmol)に対し、オレイン酸ナトリウム水溶液(15ml オレイン酸ナトリウムモル数 3.5mmol)を滴下したところ、オレート錯体が析出した。この混合溶液に対して、Na3(VO4)水溶液(5ml,
Na3(VO4),モル数3.5mmol)を添加したのち室温条件下で約30分磁気攪拌を行った結果、YVO4
のナノ結晶(結晶子径7.0 nm)が生成されていることを確認した。
【0028】
続いて、この溶液をオートクレーブで密閉し、オーブン中で加熱(200℃,6時間)した後、自然冷却することにより沈殿物を得た。この沈殿物を遠心分離(5000 rpm, 30分)により溶液から回収し、乾燥(80℃,
6時間)することによって最終生成物を得た(以下、実施例サンプル1として参照する)。併せて、オレイン酸ナトリウム水溶液を滴下しないこと以外、上述したのと同様の条件・手順をもって比較例サンプルを作製した。
【0029】
図3は、実施例サンプル1のTEM像を示す。図3に示されるように、実施例サンプル1は、約15 nmの粒子径を持つ単結晶粒子であった。一方、図4は、比較例サンプルのTEM像を示す。図4に示されるように、比較例サンプルにおいては、複数の結晶粒子が凝集してしまい、粒径が約数百 nmの二次粒子を形成していた。
【0030】
(分散性・両親媒性の評価)
実施例サンプル1についてXRD測定を行ない、その結果に基づいてシェラーの式より結晶子径を算出した。図5(a)は、水熱処理前に析出した結晶のXRD測定の結果を示し、図5(b)は、水熱処理後の最終生成物のXRD測定の結果を示す。各測定結果に基づいて結晶子径を算出した結果、水熱処理前の中間生成物の結晶子径が7.0 nmであったのに対し、水熱処理後の最終生成物の結晶子径は16.1 nmとなっており、水熱処理による結晶成長が認められた。
【0031】
一方、実施例サンプル1をシクロヘキサンに分散させたコロイドにつき、動的光散乱法により測定したところ、その平均粒子径は20 nmであり、粒子径分布の変動係数(CV値)は30%であった。上記測定結果から、実施例サンプル1が高い粒径均一性ならびに溶媒中での高分散性を備えていることが示された。なお、図6は、実施例サンプル1のコロイドについての粒子径分布図を示す。
【0032】
また、図7は、実施例サンプル1を水に分散させた状態のTEM像を示す。図7に見られるように、実施例サンプル1は、水系溶媒中でも高い分散性を示しており、本発明の蛍光ナノ粒子が好適な両親媒性を有することが示された。
【0033】
(オレイン酸膜形成の検証)
実施例サンプル1について、ゼータ電位測定を行なった。その結果、比較例サンプルのゼータ電位が -20 mVであったのに対し、実施例サンプル1のゼータ電位は -40 mV であり、その表面が負に帯電していることが示された。さらに、実施例サンプル1について、FT-IR測定を行なった。図8(a)(b)は、その測定結果を示す。なお、各図において、Xは実施例サンプル1についてのスペクトルを示し、Yは比較例サンプルについてのスペクトルを示す。図8(a)に示すスペクトルから、実施例サンプル1(X)がオレイン酸を含んでいることがわかった。また、図8(b)に示すスペクトルから、実施例サンプル1(Y)において、カルボキシル基が結晶表面のイットリウムイオン(Y3+)と化学結合していることがわかった。上述したゼータ電位測定ならびにFT-IR測定の結果から、本実施例の蛍光ナノ粒子の表面にオレイン酸被膜が形成されていることが立証された。また、上記結果は、オレイン酸被膜が図2に示したようなオレート二重層として形成されていることを示唆するものであった。
【0034】
(発光効率の評価)
実施例サンプル1の粉末に対して波長280nmのレーザ光(励起光)を照射した際の発光強度を測定した。なお、上述した中間生成物についても同様の手順で発光強度を測定した。図9は、実施例サンプル1および中間生成物についての発光スペクトルを示す。図9に示されるように、実施例サンプル1(X)は、中間生成物(Y)に比べておおよそ倍の発光強度を示し、可視領域(619nm付近)に強いピークを示した。また、発光スペクトルに基づいて、実施例サンプル1の量子収率を算出したところ、18%であった。
【0035】
さらに、実施例サンプル1を水に分散させた試料(W)とシクロヘキサンに分散させた試料(C)につき、それぞれ波長280nmの光励起を行なって発光強度を測定した。図10は、試料(W)についての発光スペクトルと試料(C)についての発光スペクトルを併せて示す。図10に示されるように、本実施例の蛍光ナノ粒子は、水および有機溶媒のいずれにおいても、ほぼ同様の発光効率ならびにスペクトル形状を示しており、溶媒の種類に左右されない安定した発光特性を有することがわかった。
【0036】
<実施例2/YVO4:Er3+,Yb3+ の作製>
実施例1について上述したのと同様の手順で、本発明の蛍光ナノ粒子(YVO4:Er3+,Yb3+ )を作製した。具体的には、実施例1における(YCl3、EuCl3)の混合水溶液に代えて、(YCl3、ErCl3、YbCl3)の混合水溶液を使用し、賦活剤(Er3+,Yb3+)のドープ量について変化させて複数種のサンプルを作製し、各サンプルについて測定した発光強度に基づいて、最適なドーパント濃度[mol%](=ドーパントイオンモル数/総希土類(Y+ドーパントイオン)モル数 )を求めた。
【0037】
図11は、Er3+のみをドープした3種類のサンプル(Er3+ドーパント濃度[mol%]= 1 , 2.5 , 5 )の粉末に対して波長980nmのレーザ光(励起光)を照射した際の発光スペクトルを示す。図11に示されるように、1mol% Er3+ドープのサンプルでは励起光が十分に吸収されず、5mol% Er3+ドープのサンプルでは濃度消光が起きることから、いずれも低い発光強度を示したが、2.5mol%
Er3+ドープのサンプルでは、高いピークが観察された。
【0038】
この結果を受け、Er3+のドーパント濃度を2.5mol% に固定した上で、それぞれ異なる濃度でYb3+ をドープした3種類のサンプル(Yb3+ドーパント濃度[mol%]= 0 , 10 , 20 ) の粉末に対して波長980nmのレーザ光(励起光)を照射して発光強度を測定した。図12は、各サンプルについて測定された発光スペクトルを示す。図12に示されるように、アップコンバージョンによる発光(可視光領域)およびダウンコンバージョンによる発光(近赤外領域)のいずれにおいても、2.5mol% Er3+, 10mol% Yb3+ドープのサンプルで最も高いピークが観察された。一方、2.5mol%
Er3+, 20mol% Yb3+ドープのサンプルでは、濃度消光の影響で発光強度が小さくなることが示された。
【0039】
この結果を受け、最適なドーパント濃度(2.5mol% Er3+,
10mol% Yb3+)のサンプル(以下、実施例サンプル2として参照する)についてXRD測定を行ない、その結果に基づいてシェラーの式より結晶子径を算出した。図13(a)は、水熱処理前に析出した結晶のXRD測定の結果を示し、図13(b)は、水熱処理後の最終生成物のXRD測定の結果を示す。各測定結果に基づいて結晶子径を算出した結果、水熱処理前の中間生成物の結晶子径が7.0 nmであったのに対し、水熱処理後の最終生成物の結晶子径は20.5 nmであり、水熱処理による結晶成長が顕著に認められた。さらに、実施例サンプル2について、実施例1において行ったのと同様の手順で、その分散性・両親媒性の評価、ならびに、オレイン酸膜形成の検証を行ったところ、実施例サンプル1と同様の結果を得た。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性界面活性剤で被覆されたランタノイド賦活バナジン酸イットリウム(YVO4:Ln)の単結晶を含み、両親媒性を有することを特徴とする、蛍光ナノ粒子。
【請求項2】
量子収率が15%以上である、請求項1に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項3】
動的散乱法により測定される平均粒子径が15nm〜50nmである、請求項1または2に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項4】
動的散乱法により測定される粒子径分布の変動係数が30%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項5】
前記アニオン性界面活性剤が高級脂肪酸である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項6】
前記ランタノイド賦活バナジン酸イットリウムは、YVO4:Euである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項7】
前記ランタノイド賦活バナジン酸イットリウムは、YVO4:Er,Ybである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の蛍光ナノ粒子を含むバイオイメージングプローブ。
【請求項9】
イットリウム塩とランタノイド金属塩を含む金属水溶液を調製する工程と、
前記金属水溶液に対してアニオン性界面活性剤を添加する工程と、
前記アニオン性界面活性剤を添加した後の前記金属水溶液に対して、バナジン酸塩の水溶液を添加して混合する工程と、
調製された混合液に水熱処理を施す工程と、
を含む蛍光ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記アニオン性界面活性剤を添加する工程が高級脂肪酸塩の水溶液を添加する工程である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記高級脂肪酸塩は、オレイン酸ナトリウムである、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記バナジン酸塩は、バナジン酸ナトリウムである、請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項1】
アニオン性界面活性剤で被覆されたランタノイド賦活バナジン酸イットリウム(YVO4:Ln)の単結晶を含み、両親媒性を有することを特徴とする、蛍光ナノ粒子。
【請求項2】
量子収率が15%以上である、請求項1に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項3】
動的散乱法により測定される平均粒子径が15nm〜50nmである、請求項1または2に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項4】
動的散乱法により測定される粒子径分布の変動係数が30%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項5】
前記アニオン性界面活性剤が高級脂肪酸である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項6】
前記ランタノイド賦活バナジン酸イットリウムは、YVO4:Euである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項7】
前記ランタノイド賦活バナジン酸イットリウムは、YVO4:Er,Ybである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光ナノ粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の蛍光ナノ粒子を含むバイオイメージングプローブ。
【請求項9】
イットリウム塩とランタノイド金属塩を含む金属水溶液を調製する工程と、
前記金属水溶液に対してアニオン性界面活性剤を添加する工程と、
前記アニオン性界面活性剤を添加した後の前記金属水溶液に対して、バナジン酸塩の水溶液を添加して混合する工程と、
調製された混合液に水熱処理を施す工程と、
を含む蛍光ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記アニオン性界面活性剤を添加する工程が高級脂肪酸塩の水溶液を添加する工程である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記高級脂肪酸塩は、オレイン酸ナトリウムである、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記バナジン酸塩は、バナジン酸ナトリウムである、請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−162628(P2011−162628A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25486(P2010−25486)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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