蛍光ハイドロゲルファイバーおよびその製造方法、ならびにそれを用いた糖類測定用センサー
【課題】グルコースなどの糖類の検出能に優れ、かつ低侵襲性である蛍光ハイドロゲルファイバー、その製造方法、ならびにそれを用いた糖類測定用センサーを提供する。
【解決手段】9,10−ビス[[N−(6’−アミノヘキシル)−N−(2−ボロノベンジル)アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセンと、アクリロイル−(ポリエチレングリコール)−N−スクシンイミドエステルを反応させて得られる化合物を含む蛍光ハイドロゲルファイバーおよびその製造方法、ならびにそれを用いた糖類測定用センサーである。
【解決手段】9,10−ビス[[N−(6’−アミノヘキシル)−N−(2−ボロノベンジル)アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセンと、アクリロイル−(ポリエチレングリコール)−N−スクシンイミドエステルを反応させて得られる化合物を含む蛍光ハイドロゲルファイバーおよびその製造方法、ならびにそれを用いた糖類測定用センサーである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ハイドロゲルファイバーおよびその製造方法、ならびにそれを用いた糖類測定用センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
体内埋め込み型センサーは、様々な疾患においてその病状の経過観察や治療効果のモニタなどに有用であり、近年、盛んに研究されている分野の一つである。特に、糖尿病治療においては、連続血糖測定による血糖コントロールが、病状の進行遅延や合併症の罹病の低減に貢献すると言われている。
【0003】
現状の糖尿病患者の多くは、血糖の自己管理のために、指等の穿刺によって血液試料を採取し、血糖計に供給して測定値を読み取ることを行っている。しかし、このような方法は患者への苦痛や簡便性の点で問題があり、一日に数回の測定が限界で、血糖値変化の動向を頻繁に測定して把握することが難しいのが現状である。このような理由から、埋め込み型連続血糖計の有用性は高いと考えられる。
【0004】
一方、生体内のグルコース濃度を継続的に測定するための技術開発は古くからなされており、例えば、可逆的にグルコースと反応して蛍光を発する物質を用いて蛍光量の変化でグルコース濃度を測定するものがある。このような蛍光物質として、特許文献1には、発蛍光性原子団と、少なくとも1つのフェニルボロン酸部位と、少なくとも1つのアミン性窒素とを有し、アミン性窒素がフェニルボロン酸部位の近傍に配置されて該フェニルボロン酸と分子内結合する分子構造を有する発蛍光性化合物が開示されている。また、特許文献2には、水性環境中での検体の濃度検出のための指示高分子として、親水性モノマーとアントラセンホウ酸エステル誘導体などのエキシマー形成多環芳香族炭化水素を有する指示成分モノマーとの共重合体が開示されている。さらに、特許文献3には、蛍光センサーとして、プラスチックフィルムなどの固相に直接蛍光物質を固定化する方法が開示されている。
【0005】
しかし、上記特許文献1〜3に記載のセンサー物質は、フィルム形状やシート形状であり、体内に埋め込んで使用する場合、侵襲が少なくないという問題がある。かような問題に対し、特許文献4では、蛍光センサー物質を、シランカップリング剤等を用いて(メタ)アクリルアミド膜等の基材に固定させた糖類測定用センサーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−53467号公報
【特許文献2】特表2004−506069号公報
【特許文献3】米国特許第6,319,540号明細書
【特許文献4】特開2006−104140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献4に記載の糖類測定用センサーでは、体内へ埋め込む際および取りだす際に、皮膚の切開が必要となるため、侵襲をできるだけ抑制するという点で改良の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、グルコースなどの糖類の検出能に優れ、かつ低侵襲で体内への埋め込みおよび取り出しが容易な蛍光ハイドロゲルファイバーおよびその製造方法、ならびにそれを用いた糖類測定用センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を積み重ねた結果、蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを共重合させて得られるファイバー形状の蛍光ハイドロゲルがグルコースなどの糖類の検出能に優れており、かつ、より低侵襲で体内への埋め込みおよび体内からの取り出しができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明による蛍光ハイドロゲルファイバー、およびそれを用いた糖類測定用センサーは体液中の糖類検出能に優れ、かつ低侵襲的に体内への埋め込みおよび体内からの取り出しが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】チューブ11中に充填された水溶液柱12を示す模式図である。
【図2A】水溶液柱を作製する微小流路の一例を示す模式図である。
【図2B】図2AのA−A線における断面を示す模式図である。
【図3A】同軸マイクロ流体装置の全体の構造を示す模式図である。
【図3B】図3Aの主要部を拡大して示す模式図である。
【図4】実施例3で得られた蛍光ハイドロゲルファイバーを、蛍光顕微鏡によって観察した明視野像の写真である。
【図5】実施例3で得られた蛍光ハイドロゲルファイバーを、蛍光顕微鏡によって観察した蛍光像の写真である。
【図6】グルコース濃度と蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光強度との関係を示すグラフである。
【図7】マウスの耳に埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーを、蛍光顕微鏡によって観察した明視野像の写真である。
【図8】マウスの耳に埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーを、蛍光顕微鏡によって観察した蛍光像の写真である。
【図9】血糖値114mg/dL、血糖値383mg/dL、および血糖値600mg/dL以上の際の、マウスの耳を蛍光顕微鏡によって観察した蛍光像の写真である。
【図10】図9の蛍光像の写真を解析した蛍光強度を表す図である。
【図11】蛍光ハイドロゲルファイバーの埋め込み用デバイスの一例を示す模式図である。
【図12】蛍光ハイドロゲルファイバーの埋め込み用デバイスを用いて埋め込みを行う方法の一例を示す模式図である。
【図13】実施例5で、埋め込み用デバイスを用いて蛍光ハイドロゲルファイバーを埋め込んだマウスの耳を、蛍光顕微鏡によって観察した明視野像の写真である。
【図14】実施例5で、埋め込み用デバイスを用いて蛍光ハイドロゲルファイバーを埋め込んだマウスの耳を、蛍光顕微鏡によって観察した蛍光像の写真である。
【図15】実施例5で、マウスの耳に埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーを取り出した後の、マウスの耳の明視野像の写真である。
【図16】実施例5で、マウスの耳に埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーを取り出した後の、マウスの耳の蛍光像の写真である。
【図17】実施例5で、マウスの耳から取り出した蛍光ハイドロゲルファイバーの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一は、下記化学式1で表される構造を有する、蛍光ハイドロゲルファイバーである。
【0013】
【化1】
【0014】
前記化学式1中、X1およびX2は同一または異なっていてもよく、−COO−、−OCO−、−CH2NR−、−NR−、−NRCO−、−CONR−、−SO2NR−、−NRSO2−、−O−、−S−、−SS−、−NRCOO−、−OCONR−、および−CO−からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を含む炭素数1〜30の直鎖状または分枝状のアルキレン基であり、この際、Rは、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。
【0015】
炭素数1〜30の直鎖状または分枝状のアルキレン基の具体的な例としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、へキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、エイコシレン基、ヘンイコシレン基、ドコシレン基、トリコシレン基、テトラコシレン基、ペンタコシレン基、ヘキサコシレン基、ヘプタコシレン基、オクタコシレン基、ノナコシレン基、またはトリアコンチレン基などが挙げられる。好ましくは、炭素数3〜12のアルキレン基であり、より好ましくはプロピレン基、ヘキシレン基、またはオクチレン基である。
【0016】
前記アルキレン基に含まれる置換基は、アルキレン基の末端に位置してもよいし、アルキレン基の内部に位置してもよい。好ましい置換基は、−NRCO−または−CONR−である。Rは、水素原子または炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。
【0017】
Rで用いられうる炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基の具体的な例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1−(n−プロピル)ブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキサン−2−イル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、1,1−ジメチルペンタン−1−イル基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イル基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−メチルヘプタン−2−イル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−4−イル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,4−ジメチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1−エチル−1−メチルペンチル基、1−エチル−4−メチルペンチル基、1,1,4−トリメチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、n−ノニル基、1−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−(n−ブチル)ペンチル基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチル基、1,5,5−トリメチルヘキシル基、1,1,5−トリメチルヘキシル基、2−メチルオクタン−3−イル基、n−デシル基、1−メチルノニル基、1−エチルオクチル基、1−(n−ブチル)ヘキシル基、1,1−ジメチルオクチル基、または3,7−ジメチルオクチル基などが挙げられる。より好ましくは炭素数1〜5の直鎖状または分枝状のアルキル基である。
【0018】
前記化学式1中、Z1およびZ2は同一または異なっていてもよく、−O−または−NR’−であり、この際、R’は水素原子または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10のアルキル基である。Z1およびZ2としては、−O−がより好ましい。
【0019】
R’で用いられうる炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基の具体的な例は、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。より好ましくは炭素数1〜5の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。
【0020】
Q、Q’、Q’’、Q’’’は同一または異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜11のアシル基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルコキシ基、ハロゲン原子を含む基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、または炭素数1〜10のアルキルアミノ基である。
【0021】
炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基の具体的な例は、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0022】
炭素数2〜11のアシル基は、下記化学式2で表される基であることが好ましい。
【0023】
【化2】
【0024】
前記化学式2中、Lは置換されているかまたは非置換の炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基である。
【0025】
炭素数2〜11のアシル基の例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、またはイソバレリル基などが挙げられる。前記化学式2中のLのアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜4であり、より好ましくは1(すなわちアセチル基)である。アントラセン残基にアシル基を導入することにより、励起波長と極大蛍光波長との間隔が拡大するという効果が得られる。
【0026】
炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルコキシ基の例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロポキシ基、n−へキシルオキシ基、3−メチルペンタン−2−イルオキシ基、3−メチルペンタン−3−イルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンタン−2−イルオキシ基、1,3−ジメチルブチルオキシ基、3,3−ジメチルブチルオキシ基、3,3−ジメチルブタン−2−イルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、1−メチルヘキシルオキシ基、3−メチルヘキシルオキシ基、4−メチルヘキシルオキシ基、5−メチルヘキシルオキシ基、1−エチルペンチルオキシ基、1−(n−プロピル)ブチルオキシ基、1,1−ジメチルペンチルオキシ基、1,4−ジメチルペンチルオキシ基、1,1−ジエチルプロピルオキシ基、1,3,3−トリメチルブチルオキシ基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、2−メチルヘキサン−2−イルオキシ基、2,4−ジメチルペンタン−3−イルオキシ基、1,1−ジメチルペンタン−1−イルオキシ基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イルオキシ基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イルオキシオキシ基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、1−メチルヘプチルオキシ基、2−メチルヘプチルオキシ基、5−メチルヘプチルオキシ基、2−メチルヘプタン−2−イルオキシ基、3−メチルヘプタン−3−イルオキシ基、4−メチルヘプタン−3−イルオキシ基、4−メチルヘプタン−4−イルオキシ基、1−エチルヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−プロピルペンチルオキシ基、2−プロピルペンチルオキシ基、1,1−ジメチルヘキシルオキシ基、1,4−ジメチルヘキシルオキシ基、1,5−ジメチルヘキシルオキシ基、1−エチル−1−メチルペンチルオキシ基、1−エチル−4−メチルペンチルオキシ基、1,1,4−トリメチルペンチルオキシ基、2,4,4−トリメチルペンチルオキシ基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピルオキシ基、1,1,3,3−テトラメチルブチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、1−メチルオクチルオキシ基、6−メチルオクチルオキシ基、1−エチルヘプチルオキシ基、1−(n−ブチル)ペンチルオキシ基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチルオキシ基、1,5,5−トリメチルヘキシルオキシ基、1,1,5−トリメチルヘキシルオキシ基、2−メチルオクタン−3−イルオキシ基、n−デシルオキシ基、1−メチルノニルオキシ基、1−エチルオクチルオキシ基、1−(n−ブチル)ヘキシルオキシ基、1,1−ジメチルオクチルオキシ基、または3,7−ジメチルオクチルオキシ基などが挙げられる。
【0027】
ハロゲン原子を含む基の例としては、例えば、F−、Cl−、Br−、I−、OI−(ヨードオキシ基)、またはハロゲンで置換された炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基などが挙げられる。
【0028】
炭素数1〜10のアルキルアミノ基の例としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、n−オクチルアミノ基、n−デシルアミノ基、またはn−イソアミルアミノ基などが挙げられる。
【0029】
また、QおよびQ’ならびにQ’’およびQ’’’の少なくとも一方は、互いに結合して芳香環または複素環を形成してもよい。前記芳香環の例としては、例えば、ベンゼン環が挙げられる。また、前記複素環の例としては、例えば、ピラゾール環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環などが挙げられる。
【0030】
Q、Q’、Q’’、Q’’’の少なくとも1つに、ニトロ基、シアノ基またはアシル基を導入すると、蛍光の赤色変移または励起波長ピークと蛍光波長ピークとの間隔の拡大に寄与する場合があり、好ましい。
【0031】
本発明においては、Q、Q’、Q’’、およびQ’’’のうちの少なくとも1つが、ニトロ基、シアノ基、または前記化学式2で表される炭素数2〜11のアシル基であることが好ましく、ニトロ基、シアノ基、またはアセチル基であることがより好ましく、アセチル基がさらに好ましい。なお、Q、Q’、Q’’、およびQ’’’のうちの1〜3個が上記置換基で置換されていることが好ましく、より好ましくは1〜2個であり、さらに好ましくは1個である。
【0032】
Y1およびY2は、同一または異なっていてもよく、置換されていてもよい2価の有機残基である。Y1およびY2は、蛍光モノマー化合物を水溶性にできる程度の親水性を有することが好ましい。ここで、蛍光モノマー化合物を水溶性にできる程度の親水性とは、有機溶媒や可溶化剤の存在無しに、蛍光モノマー化合物を重合するために必要な濃度領域において、水に溶解することを意味する。Y1およびY2で用いられる基の具体的な例としては、例えば、アミノ基、カルボニルオキシ基、あるいは、スルホン酸基、ニトロ基、アミノ基、リン酸基、またはヒドロキシ基などの親水性基を有する二価の有機残基や、構造中にエーテル結合、アミド結合、またはエステル結合などの親水性結合を有する二価の有機残基が例示できる。
【0033】
Y1およびY2の少なくとも一方は、下記化学式3または下記化学式4で表される基を含むことが好ましい。また、Y1およびY2の少なくとも一方が、下記化学式3で表される基および下記化学式4で表される基の両方を含んでいてもよく、この際、下記化学式3で表される基および下記化学式4で表される基の配置は、ブロック状でも良いし、ランダム状であってもよい。さらに、他の前記置換基や2価の有機残基を有していてもよい。
【0034】
【化3】
【0035】
【化4】
【0036】
前記化学式3および前記化学式4中、nは2〜5であり、好ましくは2〜4、より好ましくは2または3である。また、jは1〜5であり、好ましくは1〜3、より好ましくは1である。さらに、mは1〜200であり、好ましくは20〜150、より好ましくは40〜120である。なお、前記化学式3および前記化学式4中の*は結合点を表す。
【0037】
Y1およびY2部分の分子量は、500〜10,000が好ましく、1,000〜5,000がより好ましい。前記化学式2または前記化学式3で表される2価の有機残基は、例えばエチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコール、またはビニルアルコールなどを重合することにより、形成することができる。
【0038】
A1およびA2は同一または異なっていてもよく、水素原子またはメチル基である。
【0039】
U1、U2、U3およびU4は同一または異なっていてもよく、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。
【0040】
なお、本明細書において、「置換されているかまたは(もしくは)非置換の」との記載は、フッ素原子;塩素原子;臭素原子;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシ基;炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基;炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基;炭素数6〜30のアリール基;炭素数2〜30のヘテロアリール基;炭素数5〜20のシクロアルキル基;などの置換基で置換されているか、または非置換であることを意味する。
【0041】
p1とq1とのモル比(p1:q1)およびp2とq2とのモル比(p2:q2)は、1:50〜1:6,000であり、好ましくは1:50〜1:4,000であり、より好ましくは1:100〜1:2,000である。モル比1:50よりも蛍光モノマー化合物の割合が大きくなると、蛍光モノマー化合物の嵩高さのため自由度が失われ、糖類との相互作用が低下する虞がある。一方、モル比1:6,000よりも蛍光モノマー化合物の割合が小さければ、蛍光強度の絶対量を確保できない場合がある。p1およびq1は概ね1〜100が好ましく、p2およびq2は概ね50〜600,000が好ましい。
【0042】
上述したように、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーの構造中、二価の有機残基Y1およびY2は親水性を有することが好ましい。これにより、具体的には、以下のような効果が得られる。(1)蛍光モノマー化合物が水溶性となるため、蛍光ハイドロゲルファイバーを形成する際の重合反応を効率良く行うことができる。(2)親水性鎖の導入は被検出物質と相互作用するフェニルボロン酸周辺の環境や運動性を変化させ、感度、精度、応答速度、被測定物質である糖類の選択性の向上に寄与する。(3)親水性鎖が蛍光ハイドロゲルファイバー全体の構造を安定化させる。(4)水中でのみ反応が行えるため、有機溶剤中に懸濁した状態で重合を行うことができる。
【0043】
上記化学式1で表される構造を有する蛍光ハイドロゲルファイバーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレンオキサイド換算で、50,000〜750,000であることが好ましく、150,000〜450,000であることがより好ましい。
【0044】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーの形状は、特に制限されず、円柱形状、角柱形状、立方体形状、もしくはこれらの中空形状、またはこれらのファイバーを用いて構築した3次元構造、例えば、織布構造、シリンダ構造、チューブ、スプリング構造など、いずれの形状であってもよい。蛍光ハイドロゲルファイバーの埋め込み方法や蛍光検出の際に適した形状を選択することが好ましい。
【0045】
本発明による蛍光ハイドロゲルファイバーの直径は、特に制限されないが、注射器、カニューレ、またはカテーテルを用いて埋め込みを行う場合は、10〜2000μmであることが好ましく、100〜1000μmであることがより好ましい。なお、本明細書において、該直径は、実体顕微鏡により測定した値を用いる。
【0046】
また、ある血糖値において、それぞれの蛍光ハイドロゲルファイバーが同程度の蛍光強度を有するように、1本1本の蛍光ハイドロゲルファイバーの直径は略均一であることが好ましい。なお、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーを複数本用いる場合、その直径は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0047】
加えて、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーの長さは、体内に埋め込む部位の大きさ(または長さ)、あるいは後述の循環経路における設置部位の大きさ(または長さ)によって適宜設定すればよく、何ら制限されるものではない。一例として耳を埋め込み部位として挙げれば、50〜200mmの範囲であることが好ましい。
【0048】
本発明の第二は、蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法である。
【0049】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法は、特に制限されないが、例えば、蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液を用いて水溶液柱を作製する工程を含む製造方法が挙げられる。該製造方法は、さらに、前記水溶液柱を重合する工程を含むことが好ましい。以下、かような製造方法について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
[(a)水溶液から水溶液柱を作製する工程]
前記蛍光モノマー化合物は、下記化学式5で表される構造を有することが好ましい。
【0051】
【化5】
【0052】
前記化学式5中、X1、X2、Z1、Z2、Y1、Y2、Q、Q’、Q’’、およびQ’’’は、前記化学式1と同様の定義である。
【0053】
このうち、前記蛍光モノマー化合物として好ましい化合物である、9,10−ビス[[N−(2−ボロノベンジル)−N−[6−[(アクリロイルポリオキシエチレン)カルボニルアミノ]ヘキシル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記化学式5のX1およびX2が−C6H12−NHCO−、Y1およびY2が上記化学式3のnが2であるポリエチレングリコール残基、Z1およびZ2が−O−、Qがアセチル基、Q’、Q’’、およびQ’’’が水素原子である化合物:以下、単に「F−PEG−AAm」とも称する)の製造方法を、下記反応式1を参照しながら説明する。しかし、本発明はこれに制限されるものではない。
【0054】
【化6】
【0055】
原料として2−アセチル−9,10−ジメチルアントラセン(上記反応式1中のI)を用い、四塩化炭素(CCl4)/クロロホルム混合溶媒を加熱して、N−ブロモスクシンイミド(NBS)および過酸化ベンゾイル(BPO)と反応させることにより、2−アセチル−9,10−ビス(ブロモメチレン)アントラセン(上記反応式1中のII)が得られる。次いで、これを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒中で、ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)等の塩基存在下、N−(t−ブトキシカルボニル)−ヘキシルジアミン(上記反応式1中のIII)を反応させると、ブロモメチレン基が[(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシルアミノ]メチレン基(上記反応式1中のIV)となる。これを、DMF等の溶媒中で、DIEA等の塩基存在下、2−(2−ブロモメチルフェニル)−1,3−ジオキサボナリン(上記反応式1中のV)を作用させると、9,10−ビス[[N−6’−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシル−N−[2−(5,5−ジメチルボリナン−2−イル)ベンジル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVI)が得られる。これに、塩酸等の酸を作用させて脱保護すると、9,10−ビス[[N−(6’−アミノヘキシル)−N−(2−ボロノベンジル)アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVII)が得られる。次に、アクリロイル−(ポリエチレングリコール)−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、塩基性緩衝液中で反応させると、目的物であるF−PEG−AAmを得ることができる。
【0056】
なお、原料化合物として、アントラセン骨格にアセチル基以外のアシル基を有する化合物を使用すると、溶媒、添加剤、反応温度、反応時間および分離方法等を適宜選択することで、アントラセン骨格にアセチル基以外のアシル基を有する化合物を製造することができる。
【0057】
前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとしては、得られた重合体がその構造中に(メタ)アクリロイル基とアミドとを有すればよく、(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体が好ましい。具体的な例としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−tris−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、またはN−(n−ブトキシメチル)アクリルアミドなどが挙げられる。また、N−アクリロイルリジン、N−アクリロイルヘキサメチレンジアミンなどの(メタ)アクリロイルクロライドとアミノ酸または活性アミノ基を有する化合物との縮合体も用いることができる。より好ましくは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドである。
【0058】
本工程において、前記蛍光モノマー化合物および前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーは、水溶液の形態にされる。
【0059】
前記水溶液の溶媒は、特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水などを使用することができる。また、リン酸緩衝液に対して、蛍光モノマー化合物および(メタ)アクリルアミド残基を有する重合性モノマーを加えた水溶液を使用することもできる。
【0060】
前記蛍光モノマー化合物の水溶液中の濃度は、1〜30質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましい。また、前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーの水溶液中の濃度は、5〜50質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましい。
【0061】
前記水溶液中には、他の成分を含んでもよい。このような成分としては、例えば、重合開始剤、重合促進剤、架橋剤、水中で陽イオンとなり得るカチオン性モノマー、水中で陰イオンとなり得るアニオン性モノマー、またはイオンを有さないノニオン系モノマーなどが挙げられる。重合開始剤、重合促進剤、および架橋剤の詳細については、後述する。
【0062】
水中で陽イオンとなり得るカチオン性モノマーの例としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、または4−ビニルピリジンなどを挙げることができる。これらは単独で使用してもよいしまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0063】
水中で陰イオンとなり得るアニオン性モノマーの例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、ビニルプロピオン酸または4−ビニルベンゼンスルホン酸などを挙げることができる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0064】
イオンを有さないノニオン系モノマーの例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチルアクリレートまたは1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどを挙げることができる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0065】
これら他の成分の配合量は、蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとの合計量に対して0.1〜10モル%が好ましく、より好ましくは2〜7モル%である。
【0066】
また、これら他の成分の水溶液中の濃度は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.02〜1.0質量%であることがより好ましい。重合開始剤、重合促進剤、および架橋剤の詳細については後述する。
【0067】
前記蛍光モノマー化合物と前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液から水溶液柱を作製する方法としては、例えば、(1)チューブを用いる方法;(2)微小流路を用いる方法;(3)同軸マイクロ流体装置を用いる方法;などが挙げられる。
【0068】
上記(1)のチューブを用いる方法は、特に制限されないが、例えば、蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液を、チューブ中に注入して、水溶液柱を作製する方法が挙げられる。
【0069】
図1は、チューブ11中に充填された水溶液柱12を示す模式図である。水溶液柱12は、重合されて蛍光ハイドロゲルファイバーとなり、これを、チューブ11から取り出すことで蛍光ハイドロゲルファイバーを得ることができる。
【0070】
前記チューブの素材としては、たとえば、ガラス、金属、例えば、アルミ、スチール、プラスティック、例えば、ポリオレフィン、シリコン、テフロン、などが挙げられる。
【0071】
前記チューブ中への水溶液の注入は、シリンジなどを用いて行い、水溶液柱を得ることができる。チューブへ水溶液を注入した後は、必要に応じてチューブの両末端に栓をする。このようにして作製される水溶液柱を各種重合法により重合することで、蛍光ハイドロゲルファイバーを得ることができる。チューブを用いる方法では、チューブの形状を変えることで、ファイバーの断面および長さ方向の形を変化させた様々な形状の蛍光ハイドロゲルファイバーを作製することができる。各種重合法についての詳細は後述する。
【0072】
該チューブの内径および長さは、目的とする蛍光ハイドロゲルファイバーのサイズによって適宜設定できることができる。例えば、チューブの内径は10〜2000μmであることが好ましく、また、チューブの長さは、10〜300mmであることが好ましい。
【0073】
チューブ中に重合した蛍光ハイドロゲルファイバーは、圧力等で押し出すか、蛍光ハイドロゲルファイバーを収縮させる、またはチューブを切る、チューブを溶かすなどの操作を行うことにより取り出すことができる。押し出して取り出す場合は、チューブの内壁を予め界面活性剤、例えば、プルロニック(登録商標)、ポリエチレングリコール、MPCポリマーなどでコーティングすることにより、容易に取り出すことができる。
【0074】
上記(2)のマイクロ流路(微小流路)を用いる方法にて使用するマイクロ流路(微小流路)の一例を、図2Aに示す。マイクロ流路(微小流路)のインレット21に蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液を注入すると、アウトレット22に流れて、マイクロ流路(微小流路)23中に水溶液柱24を作製することができる。図2Bは、図2AのA−A線における断面を示す模式図であり、マイクロ流路(微小流路)23を含む基板26と、基板26の上部にかぶせる基板27とに挟まれる空間の中に水溶液が注入され、水溶液柱24が形成されていることを示している。前記マイクロ流路(微小流路)の形成材料としては、例えば、ガラス、ポリジメチルシロキサン、アクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂などが挙げられる。
【0075】
かようにして作製される水溶液柱を各種重合法により重合することで、蛍光ハイドロゲルファイバーを得ることができる。各種重合法について詳細は後述する。マイクロ流路(微小流路)を用いる方法では、流路形状を変えることで、ファイバーの断面および長さ方向の形を変化させた様々な形状の蛍光ハイドロゲルファイバーを作製することができる。
【0076】
該マイクロ流路(微小流路)の内径および長さは、目的とする蛍光ハイドロゲルファイバーのサイズによって適宜設定できることができる。例えば、マイクロ流路(微小流路)の内径は10〜2000μmであることが好ましく、また、マイクロ流路(微小流路)の長さは、10〜3000mmであることが好ましい。
【0077】
マイクロ流路(微小流路)中で重合して得られる蛍光ハイドロゲルファイバーは、マイクロ流路(微小流路)23を含む基板26から上部にかぶせた基板27を外して取り出すことができる。取り出す場合は、マイクロ流路(微小流路)の内壁をプルロニック(登録商標)などの界面活性剤、ポリテトラフルオロエチレンなどのポリマー、またはオクタフルオロシクロブタン(Octafluorocyclobutane、C4F8)などで予めコーティングしておくことにより、容易に取り出すことができる。
【0078】
上記(3)の同軸マイクロ流体装置を用いる方法では、例えば、図3Aおよび図3Bに示すような同軸マイクロ流体装置(coaxial microfludic device)を用いることができる。2つの流体が同軸となるようにコア部およびシェル部に分けて射出することができるマイクロ流体装置は、例えば、Lab Chip, 4, pp.576−580, 2004のFig.1に具体的に説明されている。例えば、コア部の流体31として蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液を用い、シェル部の流体32として前記水溶液とは混ざらない有機溶媒を用いることにより、シェル部の有機溶媒の中にコア部の水溶液柱を作製することができる。前記有機溶媒の例としては、例えば、シクロヘキサン、流動パラフィン、ヘキサデカン、コーン油、ミネラル油、シリコーンオイルなどが挙げられ、これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。この水溶液柱を各種重合法により重合することにより、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーを得ることができる。また、前記有機溶媒の代わりに、シェル部の流体32として、コア部と接触することで瞬時にコア部の水溶液を重合させるような組成を有する溶液を用いてもよい。各種重合法の詳細は後述する。
【0079】
[(b)水溶液柱を重合させ蛍光ハイドロゲルファイバーを作製する工程]
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーは、前記の(1)、(2)、または(3)の方法で得られる水溶液柱を重合することで作製することができる。水溶液柱を重合させる方法は、特に制限されず、例えば、ラジカル重合開始剤を用いる化学重合法、光重合開始剤を用いる光重合法、または放射線を照射する放射線重合法などが挙げられる。
【0080】
化学重合法は、ラジカル重合開始剤、および必要に応じて重合促進剤を、水溶液中、有機溶媒中、またはその両方に添加することで行われる。重合温度は好ましくは15〜75℃、より好ましくは20〜60℃である。また、重合時間は好ましくは3分〜20時間、より好ましくは10分〜8時間である。ラジカル重合開始剤の例としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、または過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;過酸化水素;アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩またはアゾイソブチロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシドまたは酸化ベンゾイルなどのパーオキシド等を挙げることができ、これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。この際、重合促進剤として、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、モール塩、ピロ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、またはアスコルビン酸などの還元剤;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、グリシン、またはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどのアミン化合物;などの1種または2種以上を用いることができる。
【0081】
重合開始剤の量は、水溶液柱中の濃度として、0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0082】
光重合法は、例えば、光重合開始剤を予め水溶液に加えておき、有機溶媒中で得られた水溶液柱に対して、紫外光を照射することで行うことができる。
【0083】
用いられる光重合開始剤の例としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、p,p’−ジクロロベンゾフェノン、p,p’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,2−ジメチルプロピオイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−2−エチルヘキサノイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、2,3,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,3,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメトキシベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリクロロベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルナフチルフォスフォネート、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジエチルアミノ安息香酸、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ベンゾインパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどが挙げられる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0084】
紫外光の波長は200〜400nmが好ましく、また、紫外光の照射量は、100〜2000mJ/cm2であることが好ましく、500〜1500mJ/cm2であることがより好ましい。
【0085】
放射線重合法は、得られた水溶液柱に対し、放射線を照射することで放射線重合を行う。放射線としては、電子線が好ましく、その照射線量は、10〜200kGyであることが好ましく、20〜50kGyであることがより好ましい。
【0086】
電子線により重合を行う場合、重合開始剤や重合促進剤を用いることなく重合が可能であり、その場合、重合開始剤・促進剤を洗浄する工程を行わなくてもよい。また、上記化学重合法において例示した重合開始剤および重合促進剤を用いることもできる。
【0087】
電子線の照射は、電子加速装置により行うことができる。電子を加速する電圧の大きさにより装置は、低エネルギータイプ、中エネルギータイプ、高エネルギータイプと分類されている。本工程の重合においては、低エネルギータイプの電子線加速装置が好ましい。例えば、低エネルギータイプの電子線加速装置の例として、浜松ホトニクス株式会社製の低エネルギー電子線照射装置が挙げられる。これは、フィラメントから生じた熱電子を高電圧で加速してエネルギーを高め、ベリリウム窓箔からその電子線を大気中に取り出すものであり、40〜110kVという比較的低い加速電圧の電子線を照射することが可能である。
【0088】
上記工程により蛍光ハイドロゲルファイバーが得られた後、さらに洗浄液を用いて蛍光ハイドロゲルファイバーの洗浄を行うことが好ましい。洗浄液の例としては、リン酸緩衝液、純水などが挙げられる。
【0089】
また、上記(a)工程で有機溶媒を用いた場合、前記有機溶媒を溶解しうる洗浄液A、その洗浄液Aを溶解しうる洗浄液B、などのように順次に用いて、蛍光ハイドロゲルファイバーの分散相を交換・洗浄することで、最終的に、水溶液中に蛍光ハイドロゲルファイバーを得ることができる。洗浄液の例としては、例えば、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、炭化水素類、含ハロゲン炭化水素類、緩衝剤水溶液、純水などが挙げられるが、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、塩化メチレン、リン酸緩衝液、純水などが挙げられ、より好ましくは、ヘキサン、エタノール、リン酸緩衝液、純水などが挙げられる。これら洗浄液は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。これらの中でも、ヘキサン、エタノール、リン酸緩衝液、および純水からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0090】
以上のような本発明の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーは、上記化学式1で表される構造を有することが好ましい。詳細な構造は、上述した内容と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0091】
上記化学式1で表される構造を有する蛍光ハイドロゲルファイバーは、上記化学式5で表される蛍光モノマー化合物と、(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとの共重合によらずに製造することが可能である。例えば、予め(メタ)アクリルアミド残基を有する重合性モノマーを重合させて得られる重合物、上記化学式5で表される蛍光モノマー化合物、重合開始剤、および必要に応じて重合促進剤を含む水溶液を有機溶媒に添加し水溶液柱を作製し、得られた水溶液柱を上記の重合方法により重合させても、上記化学式1で表される構造を有する蛍光ハイドロゲルファイバーを製造することができる。
【0092】
本発明の製造方法により蛍光ハイドロゲルファイバーは、三次元架橋構造を有していてもよい。三次元架橋構造の導入方法は、特に制限されず、例えば、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーに架橋剤を作用させて、上記化学式1で表される蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとの間の少なくとも一部に、分子間架橋を形成させる方法が挙げられる。ポリ(メタ)アクリルアミド鎖に三次元架橋を形成させると、水溶液中でも蛍光モノマー化合物を溶出させることなく糖類の検出が容易にできる。なお、本発明で用いられる蛍光モノマー化合物は、糖類と結合して蛍光を発する疎水性部位を有するが、該疎水性部位は、上記化学式1中のY1およびY2で表される二価の有機残基を介してポリ(メタ)アクリルアミド鎖に結合されるため、水溶液中でも糖類と結合できる自由度が確保されている。したがって、三次元架橋構造を形成しても、糖類の検出感度をほとんど低下させない。
【0093】
前記架橋剤としては、重合性二重結合によって蛍光センサー化合物中に三次元架橋構造を導入し得るものを広く含む。具体的な例としては、例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)−ビス(メタ)アクリルアミド、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンアクリレートメタクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのジビニル化合物;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリアリルアミン、ポリ(メタ)アリロキシアルカン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエ−テル、グリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン、グリシジル(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリアリル、トリメチロールプロパンジ(メタ)アリルエーテル、テトラアリロキシエタン、またはグリセロールプロポキシトリアクリレートなどが挙げられる。これら架橋剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0094】
架橋剤の量は、水溶液柱中の濃度として、0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0095】
本発明により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーは、体内埋め込み用の糖類測定用センサーの構成要素として用いられうる。本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーは、低侵襲的に生体内に埋め込むことが出来る。埋込み方法としては、注射器、カニューレ、留置針、もしくはカテーテルを用いての埋設、または皮膚表層の一部を剥離した埋設などが挙げられる。埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーは、その端をつまんで引き抜くなどすることで、生体に埋め込んだ全ての蛍光ハイドロゲルファイバーを取り出すことができる。すなわち、本発明は、かような蛍光ハイドロゲルファイバーの使用方法をも提供する。
【0096】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーは、生体適合性の高いポリ(メタ)アクリルアミド構造を有するため、長期の生体内埋込みに際しての生体への影響が少ない。
【0097】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーは、生体内で加水分解や酵素分解などの化学的分解を受けないため、長期埋込みの安定性が高いと考えられる。埋込み組織としては、皮内や皮下が好ましく、高感度や小さなタイムラグを実現するためには、血液との体液交換が盛んでありかつ皮膚表面からの深度が浅い真皮層がより好ましい。埋込み場所は、皮膚表面からの光学測定ができる場所ならば特に制限されず、例えば、腕、脚、腹部、耳等が挙げられる。また、蛍光ハイドロゲルファイバーは、皮下や体内で組織に対して縫い込んだり、巻きつけたりすることで生体内に固定することが可能であり、部位や器官の大きさ、形状に限られずに埋め込むことができる。例えば、皮下組織や、腎被膜、膵臓被膜などに縫い込んだり、血管などに巻きつけたりして固定することができる。
【0098】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーは体内に埋込まれ、体外、もしくは同じ部位に埋め込まれたセンサーから励起光を照射して、上記蛍光ハイドロゲルファイバーから発生する蛍光を計測する手段を有する、体内埋め込み用の糖類測定用センサーの構成要素としても用いられうる。
【0099】
また、体液を、体内に刺し込んだ中空針と前記中空針に接続された体外の蛍光検出系との間で循環させ、その循環経路の一部に蛍光ハイドロゲルファイバーを貼り付け、前記蛍光ハイドロゲルファイバーから発生する蛍光を計測する手段を有する、糖類測定用センサーの構成要素としても用いられうる。
【0100】
上記循環経路は、測定対象である糖類は透過させるが、生体成分のうち細胞等やタンパク質等の高分子を透過させない性質を有するものが好ましい。体液は、蛍光ハイドロゲルファイバーが張り付けられた循環経路を通り、その体液中の糖類が蛍光ハイドロゲルファイバーと接触する。前記体液中の糖類と接触する蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光を、蛍光検出系を用いて連続的に測定することによって、生体内の糖濃度を反映する値を得ることが出来る。
【0101】
蛍光検出系は、少なくとも1種の光源と、少なくとも1種の光検出器とを含むものが好ましい。光源および光検出器は、光源から発する励起光がなるべく入らないように、かつ蛍光ハイドロゲルファイバーから発せられる蛍光が効率よく検出できるよう配置することが好ましい。
【0102】
蛍光信号の測定は、蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光特性に合ったランプ、LED、レーザー等の光源および光検出器、また、必要に応じて、光ファイバー、レンズ、鏡、プリズム、光学フィルターなどをセンサー構成物周辺の適当な位置に配置して行うことができる。
【0103】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーを用いて検出できる糖類は、特に制限されず、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトースなどの単糖類、マルトース、スクロース、ラクトースなどの多糖類が挙げられる。これらの中でも、グルコースがより好ましい。
【0104】
上述の糖類測定用センサーを用いることにより、糖尿病患者が血糖値を自己制御する際の煩雑性または血糖値のタイムラグを減少させることができる。さらに、上述の糖類測定用センサーを用いることにより、糖尿病患者以外の人々が健康管理のための血糖値測定を簡便に行うことも可能となる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これら実施例は、本発明を何ら制限するものではない。
【0106】
(実施例1:9,10−ビス[[N−(2−ボロノベンジル)−N−[6−[(アクリロイルポリオキシエチレン)カルボニルアミノ]ヘキシル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセンの合成)
(A)9,10−ビス(ブロモメチル)−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のII)の合成
9,10−ジメチル−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のI)600mg、N−ブロモスクシンイミド800mg、および過酸化ベンゾイル5mgを、クロロホルム6mLと四塩化炭素20mLの混合物に加え、80℃で2時間、加熱還流を行った。溶媒を除去した後、残渣をメタノールで抽出し、780mgの目的物を得た。
【0107】
(B)9,10−ビス[6’−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシルアミノメチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のIV)の合成
上記(A)で得た生成物500mg、N−BOC−ヘキシルジアミン(上記反応式1中のIII) 1.125g、およびジイソプロピルエチルアミン 1.25mLを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)10mLに溶解し、45℃で1時間攪拌して反応を行った。反応混合物はクロロホルム60mLで希釈し、水100mLで3回、飽和食塩水100mLで1回洗浄し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾過後、濃縮し、クロロホルム/メタノール(体積比 95/5)混合溶媒を溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、367mgの目的物を得た。
【0108】
(C)9,10−ビス[[N−6’−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシル−N−[2−(5,5−ジメチルボリナン−2−イル)ベンジル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVI)の合成
上記(B)で得た生成物200mg、2−(2−ブロモメチルフェニル)−1,3−ジオキサボリナン(上記反応式1中のV)700mgおよびN,N−ジイソプロピルエチルアミン0.35mLを、3mLのジメチルホルムアミドに溶解し、室温(25℃)で16時間攪拌した。溶媒除去後、メタノール/クロロホルムを溶離液とするシリカゲルカラムで精製し目的物194mgを得た。
【0109】
(D)9,10−ビス[[N−(6’−アミノヘキシル)−N−(2−ボロノベンジル)アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVII)の合成
上記(C)で得られた生成物100mgを、2mLのメタノールに溶解し、4N 塩酸2mLを加えて、室温(25℃)で10時間攪拌した。蒸発乾固後、ゲル濾過によって無機塩を除去し、目的物95mgを得た。
【0110】
(E)F−PEG−AAmの合成
上記(D)で得られた生成物160mgを、0.5mLのDMFに溶解し、アクリロイル−(ポリエチレングリコール)−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(ポリエチレングリコール残基部分の分子量は3,400)1.22gの10mL 100mMリン酸緩衝液(pH=8.0)溶液に加え、室温(25℃)で20時間攪拌した。反応混合物をゲル濾過に供し、蛍光高分子画分を採取し、凍結乾燥後、目的物であるF−PEG−AAm 1.2gを得た。重クロロホルムを用いて測定した1H−NMRデータは下記表1の通りであり、ポリエチレングリコール(PEG)残基由来のピークと重なる水素のシグナルは確認されなかった。
【0111】
【表1】
【0112】
(実施例2:蛍光ハイドロゲルファイバーの作製)
最終濃度としてアクリルアミドが15質量%の濃度に、N,N’−メチレンビスアクリルアミドが0.3質量%の濃度になるように、アクリルアミドおよびN,N’−メチレンビスアクリルアミドを60mMリン酸緩衝液(pH7.4)にそれぞれ加えて、溶解・混合し水溶液を調製した。次に、水溶液を室温(25℃)で窒素バブリングを行った。
【0113】
前記の水溶液に、実施例1で合成したF−PEG−AAmが5質量%の濃度、過硫酸ナトリウムが0.9質量%の濃度、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンが0.2質量%の濃度になるようにそれぞれ添加した。
【0114】
次いで、作製される蛍光ハイドロゲルファイバーの取り出しを容易にするためにプルロニック(登録商標)をコーティングしたポリオレフィンチューブ中に、上記水溶液を吸い取って、窒素雰囲気下、室温(25℃)で重合を開始した。ポリオレフィンチューブは、内径400μmで長さが150mmのもの、内径700μmで長さが150mmのもの、
および内径1000μmで長さが150mmのものをそれぞれ1本ずつ合計3本使用した。
【0115】
10分後、空気圧を加え、重合により得られた蛍光ハイドロゲルファイバーをポリオレフィンチューブから取り出した。内径の異なるポリオレフィンチューブを用いることで、直径がそれぞれ400μm、700μm、および1000μmであり、長さが150mm程度である蛍光ハイドロゲルファイバーを1本ずつ、合計3本得ることができた。得られた直径700μmの蛍光ハイドロゲルファイバーの状態を蛍光顕微鏡によって観察した写真を、図4および図5に示す。図4は明視野像の写真であり、図5は蛍光像の写真である。
【0116】
本実施例で得られた直径700μmの蛍光ハイドロゲルファイバーを、グルコース濃度が0〜1000mg/dLの範囲となるように調製した60mMリン酸緩衝液中に浸漬し、蛍光実体顕微鏡により、各グルコース濃度における蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光強度について観察した。結果を図6に示す。
【0117】
図6に示すように、蛍光ハイドロゲルファイバーはグルコース応答性を有しており、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーを用いることで、グルコース濃度を測定できることが確認できた。
【0118】
(実施例3:生体内でのグルコース応答性の確認)
マウスの腹腔からグルコース溶液を投与しマウスの血糖値を114mg/dLから600mg/dL以上まで上昇させたときの、蛍光ハイドロゲルファイバーの体内中の蛍光強度の変化を観察した。実施例2で得られた直径700μmの蛍光ハイドロゲルファイバーを、長さ50mm程度にカットして用いた。蛍光ハイドロゲルファイバーを埋め込んだマウスの耳の写真を図7および8に示す。図7は明視野像の写真であり、図8は蛍光像の写真である。
【0119】
図9は血糖値114mg/dL、血糖値383mg/dL、および血糖値600mg/dL以上の際の、マウスの耳を蛍光顕微鏡によって観察した蛍光像の写真である。図10は、図9の蛍光像の写真を解析した蛍光強度を表すカラーイメージである。図9および図10に示すように、血糖値の上昇により蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光強度が強くなることが確認でき、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーを体内埋め込み用の糖類測定用センサーとして使用できることが確認できた。
【0120】
(実施例4:蛍光ハイドロゲルファイバーの埋め込み用デバイスの作製)
蛍光ハイドロゲルファイバーを体内に低侵襲で簡便に埋め込む為のデバイスは、図11に示すように、留置針を改良して作製した。留置針の内針111の先端を削って鈍にし(符号112)、内針111の内部にPDMS(ポリジメチルシロキサン、符号113)を詰めた。さらに、外針114の中に、実施例2で得られた蛍光ハイドロゲルファイバー115を詰めて、埋め込み用デバイスを完成させた。
【0121】
(実施例5:蛍光ハイドロゲルファイバーの埋め込み・取り出しと、生体内での応答性の確認)
本実施例では、生体に埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光を外部から観察するため、皮膚の薄いマウスの耳を埋め込み対象とした。
【0122】
図12の模式図に示すように、実施例4にて作製した埋め込み用デバイスのうち、マウスの耳が破れないように先を鈍にした内針111をマウスの耳116に刺し込んだ後(図12のA)、内針111を引き抜き、マウスの耳116にファイバーを埋め込むための空間117を作った(図12のB)。次に、蛍光ハイドロゲルファイバー115を入れた留置針の外針114を上記で作製した空間に挿し込んだ後、上記留置針の内針を外針に挿入した(図12のC)。内針111を押し込み、最後に、内針とともに外針を引き抜くことによって、蛍光ハイドロゲルファイバー115をマウスの耳116に埋め込むことができた(図12のD)。
【0123】
この方法によって蛍光ハイドロゲルファイバーを埋め込んだマウスの耳を、蛍光顕微鏡によって観察した写真を図13および図14に示す。図13は明視野像の写真であり、図14は蛍光像の写真である。
【0124】
また、蛍光ハイドロゲルファイバーは低侵襲で簡便に埋め込むだけでなく、蛍光ハイドロゲルファイバーの末端をつかんで引き抜くことで、埋め込みから1日経過後、容易に体内から取り除くことができた。図15および図16に、埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーを取り出した後のマウスの耳の観察像を示す。図15は明視野像の写真であり、16は蛍光像の写真である。図17に、マウスの耳から取り出した蛍光ハイドロゲルファイバーの写真を示す。
【符号の説明】
【0125】
11 チューブ、
12、24 水溶液柱、
21 マイクロ流路(微小流路)のインレット、
22 マイクロ流路(微小流路)のアウトレット、
23 マイクロ流路(微小流路)、
26、27 基板、
31 コア部の流体、
32 シェル部の流体、
33 インジェクション用ガラス管、
34 ポリジメチルシロキサン製ホルダー、
35 集束用ガラス管、
36、115 蛍光ハイドロゲルファイバー、
37 DI水、
111 内針、
112 内針の先端、
113 ポリジメチルシロキサン、
114 外針、
116 マウスの耳、
117 空間。
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ハイドロゲルファイバーおよびその製造方法、ならびにそれを用いた糖類測定用センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
体内埋め込み型センサーは、様々な疾患においてその病状の経過観察や治療効果のモニタなどに有用であり、近年、盛んに研究されている分野の一つである。特に、糖尿病治療においては、連続血糖測定による血糖コントロールが、病状の進行遅延や合併症の罹病の低減に貢献すると言われている。
【0003】
現状の糖尿病患者の多くは、血糖の自己管理のために、指等の穿刺によって血液試料を採取し、血糖計に供給して測定値を読み取ることを行っている。しかし、このような方法は患者への苦痛や簡便性の点で問題があり、一日に数回の測定が限界で、血糖値変化の動向を頻繁に測定して把握することが難しいのが現状である。このような理由から、埋め込み型連続血糖計の有用性は高いと考えられる。
【0004】
一方、生体内のグルコース濃度を継続的に測定するための技術開発は古くからなされており、例えば、可逆的にグルコースと反応して蛍光を発する物質を用いて蛍光量の変化でグルコース濃度を測定するものがある。このような蛍光物質として、特許文献1には、発蛍光性原子団と、少なくとも1つのフェニルボロン酸部位と、少なくとも1つのアミン性窒素とを有し、アミン性窒素がフェニルボロン酸部位の近傍に配置されて該フェニルボロン酸と分子内結合する分子構造を有する発蛍光性化合物が開示されている。また、特許文献2には、水性環境中での検体の濃度検出のための指示高分子として、親水性モノマーとアントラセンホウ酸エステル誘導体などのエキシマー形成多環芳香族炭化水素を有する指示成分モノマーとの共重合体が開示されている。さらに、特許文献3には、蛍光センサーとして、プラスチックフィルムなどの固相に直接蛍光物質を固定化する方法が開示されている。
【0005】
しかし、上記特許文献1〜3に記載のセンサー物質は、フィルム形状やシート形状であり、体内に埋め込んで使用する場合、侵襲が少なくないという問題がある。かような問題に対し、特許文献4では、蛍光センサー物質を、シランカップリング剤等を用いて(メタ)アクリルアミド膜等の基材に固定させた糖類測定用センサーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−53467号公報
【特許文献2】特表2004−506069号公報
【特許文献3】米国特許第6,319,540号明細書
【特許文献4】特開2006−104140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献4に記載の糖類測定用センサーでは、体内へ埋め込む際および取りだす際に、皮膚の切開が必要となるため、侵襲をできるだけ抑制するという点で改良の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、グルコースなどの糖類の検出能に優れ、かつ低侵襲で体内への埋め込みおよび取り出しが容易な蛍光ハイドロゲルファイバーおよびその製造方法、ならびにそれを用いた糖類測定用センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を積み重ねた結果、蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを共重合させて得られるファイバー形状の蛍光ハイドロゲルがグルコースなどの糖類の検出能に優れており、かつ、より低侵襲で体内への埋め込みおよび体内からの取り出しができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明による蛍光ハイドロゲルファイバー、およびそれを用いた糖類測定用センサーは体液中の糖類検出能に優れ、かつ低侵襲的に体内への埋め込みおよび体内からの取り出しが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】チューブ11中に充填された水溶液柱12を示す模式図である。
【図2A】水溶液柱を作製する微小流路の一例を示す模式図である。
【図2B】図2AのA−A線における断面を示す模式図である。
【図3A】同軸マイクロ流体装置の全体の構造を示す模式図である。
【図3B】図3Aの主要部を拡大して示す模式図である。
【図4】実施例3で得られた蛍光ハイドロゲルファイバーを、蛍光顕微鏡によって観察した明視野像の写真である。
【図5】実施例3で得られた蛍光ハイドロゲルファイバーを、蛍光顕微鏡によって観察した蛍光像の写真である。
【図6】グルコース濃度と蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光強度との関係を示すグラフである。
【図7】マウスの耳に埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーを、蛍光顕微鏡によって観察した明視野像の写真である。
【図8】マウスの耳に埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーを、蛍光顕微鏡によって観察した蛍光像の写真である。
【図9】血糖値114mg/dL、血糖値383mg/dL、および血糖値600mg/dL以上の際の、マウスの耳を蛍光顕微鏡によって観察した蛍光像の写真である。
【図10】図9の蛍光像の写真を解析した蛍光強度を表す図である。
【図11】蛍光ハイドロゲルファイバーの埋め込み用デバイスの一例を示す模式図である。
【図12】蛍光ハイドロゲルファイバーの埋め込み用デバイスを用いて埋め込みを行う方法の一例を示す模式図である。
【図13】実施例5で、埋め込み用デバイスを用いて蛍光ハイドロゲルファイバーを埋め込んだマウスの耳を、蛍光顕微鏡によって観察した明視野像の写真である。
【図14】実施例5で、埋め込み用デバイスを用いて蛍光ハイドロゲルファイバーを埋め込んだマウスの耳を、蛍光顕微鏡によって観察した蛍光像の写真である。
【図15】実施例5で、マウスの耳に埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーを取り出した後の、マウスの耳の明視野像の写真である。
【図16】実施例5で、マウスの耳に埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーを取り出した後の、マウスの耳の蛍光像の写真である。
【図17】実施例5で、マウスの耳から取り出した蛍光ハイドロゲルファイバーの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一は、下記化学式1で表される構造を有する、蛍光ハイドロゲルファイバーである。
【0013】
【化1】
【0014】
前記化学式1中、X1およびX2は同一または異なっていてもよく、−COO−、−OCO−、−CH2NR−、−NR−、−NRCO−、−CONR−、−SO2NR−、−NRSO2−、−O−、−S−、−SS−、−NRCOO−、−OCONR−、および−CO−からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を含む炭素数1〜30の直鎖状または分枝状のアルキレン基であり、この際、Rは、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。
【0015】
炭素数1〜30の直鎖状または分枝状のアルキレン基の具体的な例としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、へキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、エイコシレン基、ヘンイコシレン基、ドコシレン基、トリコシレン基、テトラコシレン基、ペンタコシレン基、ヘキサコシレン基、ヘプタコシレン基、オクタコシレン基、ノナコシレン基、またはトリアコンチレン基などが挙げられる。好ましくは、炭素数3〜12のアルキレン基であり、より好ましくはプロピレン基、ヘキシレン基、またはオクチレン基である。
【0016】
前記アルキレン基に含まれる置換基は、アルキレン基の末端に位置してもよいし、アルキレン基の内部に位置してもよい。好ましい置換基は、−NRCO−または−CONR−である。Rは、水素原子または炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。
【0017】
Rで用いられうる炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基の具体的な例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1−(n−プロピル)ブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキサン−2−イル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、1,1−ジメチルペンタン−1−イル基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イル基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−メチルヘプタン−2−イル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−4−イル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,4−ジメチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1−エチル−1−メチルペンチル基、1−エチル−4−メチルペンチル基、1,1,4−トリメチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、n−ノニル基、1−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−(n−ブチル)ペンチル基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチル基、1,5,5−トリメチルヘキシル基、1,1,5−トリメチルヘキシル基、2−メチルオクタン−3−イル基、n−デシル基、1−メチルノニル基、1−エチルオクチル基、1−(n−ブチル)ヘキシル基、1,1−ジメチルオクチル基、または3,7−ジメチルオクチル基などが挙げられる。より好ましくは炭素数1〜5の直鎖状または分枝状のアルキル基である。
【0018】
前記化学式1中、Z1およびZ2は同一または異なっていてもよく、−O−または−NR’−であり、この際、R’は水素原子または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10のアルキル基である。Z1およびZ2としては、−O−がより好ましい。
【0019】
R’で用いられうる炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基の具体的な例は、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。より好ましくは炭素数1〜5の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。
【0020】
Q、Q’、Q’’、Q’’’は同一または異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜11のアシル基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルコキシ基、ハロゲン原子を含む基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、または炭素数1〜10のアルキルアミノ基である。
【0021】
炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基の具体的な例は、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0022】
炭素数2〜11のアシル基は、下記化学式2で表される基であることが好ましい。
【0023】
【化2】
【0024】
前記化学式2中、Lは置換されているかまたは非置換の炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基である。
【0025】
炭素数2〜11のアシル基の例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、またはイソバレリル基などが挙げられる。前記化学式2中のLのアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜4であり、より好ましくは1(すなわちアセチル基)である。アントラセン残基にアシル基を導入することにより、励起波長と極大蛍光波長との間隔が拡大するという効果が得られる。
【0026】
炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルコキシ基の例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロポキシ基、n−へキシルオキシ基、3−メチルペンタン−2−イルオキシ基、3−メチルペンタン−3−イルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンタン−2−イルオキシ基、1,3−ジメチルブチルオキシ基、3,3−ジメチルブチルオキシ基、3,3−ジメチルブタン−2−イルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、1−メチルヘキシルオキシ基、3−メチルヘキシルオキシ基、4−メチルヘキシルオキシ基、5−メチルヘキシルオキシ基、1−エチルペンチルオキシ基、1−(n−プロピル)ブチルオキシ基、1,1−ジメチルペンチルオキシ基、1,4−ジメチルペンチルオキシ基、1,1−ジエチルプロピルオキシ基、1,3,3−トリメチルブチルオキシ基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、2−メチルヘキサン−2−イルオキシ基、2,4−ジメチルペンタン−3−イルオキシ基、1,1−ジメチルペンタン−1−イルオキシ基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イルオキシ基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イルオキシオキシ基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、1−メチルヘプチルオキシ基、2−メチルヘプチルオキシ基、5−メチルヘプチルオキシ基、2−メチルヘプタン−2−イルオキシ基、3−メチルヘプタン−3−イルオキシ基、4−メチルヘプタン−3−イルオキシ基、4−メチルヘプタン−4−イルオキシ基、1−エチルヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−プロピルペンチルオキシ基、2−プロピルペンチルオキシ基、1,1−ジメチルヘキシルオキシ基、1,4−ジメチルヘキシルオキシ基、1,5−ジメチルヘキシルオキシ基、1−エチル−1−メチルペンチルオキシ基、1−エチル−4−メチルペンチルオキシ基、1,1,4−トリメチルペンチルオキシ基、2,4,4−トリメチルペンチルオキシ基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピルオキシ基、1,1,3,3−テトラメチルブチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、1−メチルオクチルオキシ基、6−メチルオクチルオキシ基、1−エチルヘプチルオキシ基、1−(n−ブチル)ペンチルオキシ基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチルオキシ基、1,5,5−トリメチルヘキシルオキシ基、1,1,5−トリメチルヘキシルオキシ基、2−メチルオクタン−3−イルオキシ基、n−デシルオキシ基、1−メチルノニルオキシ基、1−エチルオクチルオキシ基、1−(n−ブチル)ヘキシルオキシ基、1,1−ジメチルオクチルオキシ基、または3,7−ジメチルオクチルオキシ基などが挙げられる。
【0027】
ハロゲン原子を含む基の例としては、例えば、F−、Cl−、Br−、I−、OI−(ヨードオキシ基)、またはハロゲンで置換された炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基などが挙げられる。
【0028】
炭素数1〜10のアルキルアミノ基の例としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、n−オクチルアミノ基、n−デシルアミノ基、またはn−イソアミルアミノ基などが挙げられる。
【0029】
また、QおよびQ’ならびにQ’’およびQ’’’の少なくとも一方は、互いに結合して芳香環または複素環を形成してもよい。前記芳香環の例としては、例えば、ベンゼン環が挙げられる。また、前記複素環の例としては、例えば、ピラゾール環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環などが挙げられる。
【0030】
Q、Q’、Q’’、Q’’’の少なくとも1つに、ニトロ基、シアノ基またはアシル基を導入すると、蛍光の赤色変移または励起波長ピークと蛍光波長ピークとの間隔の拡大に寄与する場合があり、好ましい。
【0031】
本発明においては、Q、Q’、Q’’、およびQ’’’のうちの少なくとも1つが、ニトロ基、シアノ基、または前記化学式2で表される炭素数2〜11のアシル基であることが好ましく、ニトロ基、シアノ基、またはアセチル基であることがより好ましく、アセチル基がさらに好ましい。なお、Q、Q’、Q’’、およびQ’’’のうちの1〜3個が上記置換基で置換されていることが好ましく、より好ましくは1〜2個であり、さらに好ましくは1個である。
【0032】
Y1およびY2は、同一または異なっていてもよく、置換されていてもよい2価の有機残基である。Y1およびY2は、蛍光モノマー化合物を水溶性にできる程度の親水性を有することが好ましい。ここで、蛍光モノマー化合物を水溶性にできる程度の親水性とは、有機溶媒や可溶化剤の存在無しに、蛍光モノマー化合物を重合するために必要な濃度領域において、水に溶解することを意味する。Y1およびY2で用いられる基の具体的な例としては、例えば、アミノ基、カルボニルオキシ基、あるいは、スルホン酸基、ニトロ基、アミノ基、リン酸基、またはヒドロキシ基などの親水性基を有する二価の有機残基や、構造中にエーテル結合、アミド結合、またはエステル結合などの親水性結合を有する二価の有機残基が例示できる。
【0033】
Y1およびY2の少なくとも一方は、下記化学式3または下記化学式4で表される基を含むことが好ましい。また、Y1およびY2の少なくとも一方が、下記化学式3で表される基および下記化学式4で表される基の両方を含んでいてもよく、この際、下記化学式3で表される基および下記化学式4で表される基の配置は、ブロック状でも良いし、ランダム状であってもよい。さらに、他の前記置換基や2価の有機残基を有していてもよい。
【0034】
【化3】
【0035】
【化4】
【0036】
前記化学式3および前記化学式4中、nは2〜5であり、好ましくは2〜4、より好ましくは2または3である。また、jは1〜5であり、好ましくは1〜3、より好ましくは1である。さらに、mは1〜200であり、好ましくは20〜150、より好ましくは40〜120である。なお、前記化学式3および前記化学式4中の*は結合点を表す。
【0037】
Y1およびY2部分の分子量は、500〜10,000が好ましく、1,000〜5,000がより好ましい。前記化学式2または前記化学式3で表される2価の有機残基は、例えばエチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコール、またはビニルアルコールなどを重合することにより、形成することができる。
【0038】
A1およびA2は同一または異なっていてもよく、水素原子またはメチル基である。
【0039】
U1、U2、U3およびU4は同一または異なっていてもよく、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。
【0040】
なお、本明細書において、「置換されているかまたは(もしくは)非置換の」との記載は、フッ素原子;塩素原子;臭素原子;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシ基;炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基;炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基;炭素数6〜30のアリール基;炭素数2〜30のヘテロアリール基;炭素数5〜20のシクロアルキル基;などの置換基で置換されているか、または非置換であることを意味する。
【0041】
p1とq1とのモル比(p1:q1)およびp2とq2とのモル比(p2:q2)は、1:50〜1:6,000であり、好ましくは1:50〜1:4,000であり、より好ましくは1:100〜1:2,000である。モル比1:50よりも蛍光モノマー化合物の割合が大きくなると、蛍光モノマー化合物の嵩高さのため自由度が失われ、糖類との相互作用が低下する虞がある。一方、モル比1:6,000よりも蛍光モノマー化合物の割合が小さければ、蛍光強度の絶対量を確保できない場合がある。p1およびq1は概ね1〜100が好ましく、p2およびq2は概ね50〜600,000が好ましい。
【0042】
上述したように、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーの構造中、二価の有機残基Y1およびY2は親水性を有することが好ましい。これにより、具体的には、以下のような効果が得られる。(1)蛍光モノマー化合物が水溶性となるため、蛍光ハイドロゲルファイバーを形成する際の重合反応を効率良く行うことができる。(2)親水性鎖の導入は被検出物質と相互作用するフェニルボロン酸周辺の環境や運動性を変化させ、感度、精度、応答速度、被測定物質である糖類の選択性の向上に寄与する。(3)親水性鎖が蛍光ハイドロゲルファイバー全体の構造を安定化させる。(4)水中でのみ反応が行えるため、有機溶剤中に懸濁した状態で重合を行うことができる。
【0043】
上記化学式1で表される構造を有する蛍光ハイドロゲルファイバーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレンオキサイド換算で、50,000〜750,000であることが好ましく、150,000〜450,000であることがより好ましい。
【0044】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーの形状は、特に制限されず、円柱形状、角柱形状、立方体形状、もしくはこれらの中空形状、またはこれらのファイバーを用いて構築した3次元構造、例えば、織布構造、シリンダ構造、チューブ、スプリング構造など、いずれの形状であってもよい。蛍光ハイドロゲルファイバーの埋め込み方法や蛍光検出の際に適した形状を選択することが好ましい。
【0045】
本発明による蛍光ハイドロゲルファイバーの直径は、特に制限されないが、注射器、カニューレ、またはカテーテルを用いて埋め込みを行う場合は、10〜2000μmであることが好ましく、100〜1000μmであることがより好ましい。なお、本明細書において、該直径は、実体顕微鏡により測定した値を用いる。
【0046】
また、ある血糖値において、それぞれの蛍光ハイドロゲルファイバーが同程度の蛍光強度を有するように、1本1本の蛍光ハイドロゲルファイバーの直径は略均一であることが好ましい。なお、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーを複数本用いる場合、その直径は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0047】
加えて、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーの長さは、体内に埋め込む部位の大きさ(または長さ)、あるいは後述の循環経路における設置部位の大きさ(または長さ)によって適宜設定すればよく、何ら制限されるものではない。一例として耳を埋め込み部位として挙げれば、50〜200mmの範囲であることが好ましい。
【0048】
本発明の第二は、蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法である。
【0049】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法は、特に制限されないが、例えば、蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液を用いて水溶液柱を作製する工程を含む製造方法が挙げられる。該製造方法は、さらに、前記水溶液柱を重合する工程を含むことが好ましい。以下、かような製造方法について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
[(a)水溶液から水溶液柱を作製する工程]
前記蛍光モノマー化合物は、下記化学式5で表される構造を有することが好ましい。
【0051】
【化5】
【0052】
前記化学式5中、X1、X2、Z1、Z2、Y1、Y2、Q、Q’、Q’’、およびQ’’’は、前記化学式1と同様の定義である。
【0053】
このうち、前記蛍光モノマー化合物として好ましい化合物である、9,10−ビス[[N−(2−ボロノベンジル)−N−[6−[(アクリロイルポリオキシエチレン)カルボニルアミノ]ヘキシル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記化学式5のX1およびX2が−C6H12−NHCO−、Y1およびY2が上記化学式3のnが2であるポリエチレングリコール残基、Z1およびZ2が−O−、Qがアセチル基、Q’、Q’’、およびQ’’’が水素原子である化合物:以下、単に「F−PEG−AAm」とも称する)の製造方法を、下記反応式1を参照しながら説明する。しかし、本発明はこれに制限されるものではない。
【0054】
【化6】
【0055】
原料として2−アセチル−9,10−ジメチルアントラセン(上記反応式1中のI)を用い、四塩化炭素(CCl4)/クロロホルム混合溶媒を加熱して、N−ブロモスクシンイミド(NBS)および過酸化ベンゾイル(BPO)と反応させることにより、2−アセチル−9,10−ビス(ブロモメチレン)アントラセン(上記反応式1中のII)が得られる。次いで、これを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒中で、ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)等の塩基存在下、N−(t−ブトキシカルボニル)−ヘキシルジアミン(上記反応式1中のIII)を反応させると、ブロモメチレン基が[(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシルアミノ]メチレン基(上記反応式1中のIV)となる。これを、DMF等の溶媒中で、DIEA等の塩基存在下、2−(2−ブロモメチルフェニル)−1,3−ジオキサボナリン(上記反応式1中のV)を作用させると、9,10−ビス[[N−6’−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシル−N−[2−(5,5−ジメチルボリナン−2−イル)ベンジル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVI)が得られる。これに、塩酸等の酸を作用させて脱保護すると、9,10−ビス[[N−(6’−アミノヘキシル)−N−(2−ボロノベンジル)アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVII)が得られる。次に、アクリロイル−(ポリエチレングリコール)−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、塩基性緩衝液中で反応させると、目的物であるF−PEG−AAmを得ることができる。
【0056】
なお、原料化合物として、アントラセン骨格にアセチル基以外のアシル基を有する化合物を使用すると、溶媒、添加剤、反応温度、反応時間および分離方法等を適宜選択することで、アントラセン骨格にアセチル基以外のアシル基を有する化合物を製造することができる。
【0057】
前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとしては、得られた重合体がその構造中に(メタ)アクリロイル基とアミドとを有すればよく、(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体が好ましい。具体的な例としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−tris−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、またはN−(n−ブトキシメチル)アクリルアミドなどが挙げられる。また、N−アクリロイルリジン、N−アクリロイルヘキサメチレンジアミンなどの(メタ)アクリロイルクロライドとアミノ酸または活性アミノ基を有する化合物との縮合体も用いることができる。より好ましくは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドである。
【0058】
本工程において、前記蛍光モノマー化合物および前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーは、水溶液の形態にされる。
【0059】
前記水溶液の溶媒は、特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水などを使用することができる。また、リン酸緩衝液に対して、蛍光モノマー化合物および(メタ)アクリルアミド残基を有する重合性モノマーを加えた水溶液を使用することもできる。
【0060】
前記蛍光モノマー化合物の水溶液中の濃度は、1〜30質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましい。また、前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーの水溶液中の濃度は、5〜50質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましい。
【0061】
前記水溶液中には、他の成分を含んでもよい。このような成分としては、例えば、重合開始剤、重合促進剤、架橋剤、水中で陽イオンとなり得るカチオン性モノマー、水中で陰イオンとなり得るアニオン性モノマー、またはイオンを有さないノニオン系モノマーなどが挙げられる。重合開始剤、重合促進剤、および架橋剤の詳細については、後述する。
【0062】
水中で陽イオンとなり得るカチオン性モノマーの例としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、または4−ビニルピリジンなどを挙げることができる。これらは単独で使用してもよいしまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0063】
水中で陰イオンとなり得るアニオン性モノマーの例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、ビニルプロピオン酸または4−ビニルベンゼンスルホン酸などを挙げることができる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0064】
イオンを有さないノニオン系モノマーの例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチルアクリレートまたは1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどを挙げることができる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0065】
これら他の成分の配合量は、蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとの合計量に対して0.1〜10モル%が好ましく、より好ましくは2〜7モル%である。
【0066】
また、これら他の成分の水溶液中の濃度は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.02〜1.0質量%であることがより好ましい。重合開始剤、重合促進剤、および架橋剤の詳細については後述する。
【0067】
前記蛍光モノマー化合物と前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液から水溶液柱を作製する方法としては、例えば、(1)チューブを用いる方法;(2)微小流路を用いる方法;(3)同軸マイクロ流体装置を用いる方法;などが挙げられる。
【0068】
上記(1)のチューブを用いる方法は、特に制限されないが、例えば、蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液を、チューブ中に注入して、水溶液柱を作製する方法が挙げられる。
【0069】
図1は、チューブ11中に充填された水溶液柱12を示す模式図である。水溶液柱12は、重合されて蛍光ハイドロゲルファイバーとなり、これを、チューブ11から取り出すことで蛍光ハイドロゲルファイバーを得ることができる。
【0070】
前記チューブの素材としては、たとえば、ガラス、金属、例えば、アルミ、スチール、プラスティック、例えば、ポリオレフィン、シリコン、テフロン、などが挙げられる。
【0071】
前記チューブ中への水溶液の注入は、シリンジなどを用いて行い、水溶液柱を得ることができる。チューブへ水溶液を注入した後は、必要に応じてチューブの両末端に栓をする。このようにして作製される水溶液柱を各種重合法により重合することで、蛍光ハイドロゲルファイバーを得ることができる。チューブを用いる方法では、チューブの形状を変えることで、ファイバーの断面および長さ方向の形を変化させた様々な形状の蛍光ハイドロゲルファイバーを作製することができる。各種重合法についての詳細は後述する。
【0072】
該チューブの内径および長さは、目的とする蛍光ハイドロゲルファイバーのサイズによって適宜設定できることができる。例えば、チューブの内径は10〜2000μmであることが好ましく、また、チューブの長さは、10〜300mmであることが好ましい。
【0073】
チューブ中に重合した蛍光ハイドロゲルファイバーは、圧力等で押し出すか、蛍光ハイドロゲルファイバーを収縮させる、またはチューブを切る、チューブを溶かすなどの操作を行うことにより取り出すことができる。押し出して取り出す場合は、チューブの内壁を予め界面活性剤、例えば、プルロニック(登録商標)、ポリエチレングリコール、MPCポリマーなどでコーティングすることにより、容易に取り出すことができる。
【0074】
上記(2)のマイクロ流路(微小流路)を用いる方法にて使用するマイクロ流路(微小流路)の一例を、図2Aに示す。マイクロ流路(微小流路)のインレット21に蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液を注入すると、アウトレット22に流れて、マイクロ流路(微小流路)23中に水溶液柱24を作製することができる。図2Bは、図2AのA−A線における断面を示す模式図であり、マイクロ流路(微小流路)23を含む基板26と、基板26の上部にかぶせる基板27とに挟まれる空間の中に水溶液が注入され、水溶液柱24が形成されていることを示している。前記マイクロ流路(微小流路)の形成材料としては、例えば、ガラス、ポリジメチルシロキサン、アクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂などが挙げられる。
【0075】
かようにして作製される水溶液柱を各種重合法により重合することで、蛍光ハイドロゲルファイバーを得ることができる。各種重合法について詳細は後述する。マイクロ流路(微小流路)を用いる方法では、流路形状を変えることで、ファイバーの断面および長さ方向の形を変化させた様々な形状の蛍光ハイドロゲルファイバーを作製することができる。
【0076】
該マイクロ流路(微小流路)の内径および長さは、目的とする蛍光ハイドロゲルファイバーのサイズによって適宜設定できることができる。例えば、マイクロ流路(微小流路)の内径は10〜2000μmであることが好ましく、また、マイクロ流路(微小流路)の長さは、10〜3000mmであることが好ましい。
【0077】
マイクロ流路(微小流路)中で重合して得られる蛍光ハイドロゲルファイバーは、マイクロ流路(微小流路)23を含む基板26から上部にかぶせた基板27を外して取り出すことができる。取り出す場合は、マイクロ流路(微小流路)の内壁をプルロニック(登録商標)などの界面活性剤、ポリテトラフルオロエチレンなどのポリマー、またはオクタフルオロシクロブタン(Octafluorocyclobutane、C4F8)などで予めコーティングしておくことにより、容易に取り出すことができる。
【0078】
上記(3)の同軸マイクロ流体装置を用いる方法では、例えば、図3Aおよび図3Bに示すような同軸マイクロ流体装置(coaxial microfludic device)を用いることができる。2つの流体が同軸となるようにコア部およびシェル部に分けて射出することができるマイクロ流体装置は、例えば、Lab Chip, 4, pp.576−580, 2004のFig.1に具体的に説明されている。例えば、コア部の流体31として蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液を用い、シェル部の流体32として前記水溶液とは混ざらない有機溶媒を用いることにより、シェル部の有機溶媒の中にコア部の水溶液柱を作製することができる。前記有機溶媒の例としては、例えば、シクロヘキサン、流動パラフィン、ヘキサデカン、コーン油、ミネラル油、シリコーンオイルなどが挙げられ、これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。この水溶液柱を各種重合法により重合することにより、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーを得ることができる。また、前記有機溶媒の代わりに、シェル部の流体32として、コア部と接触することで瞬時にコア部の水溶液を重合させるような組成を有する溶液を用いてもよい。各種重合法の詳細は後述する。
【0079】
[(b)水溶液柱を重合させ蛍光ハイドロゲルファイバーを作製する工程]
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーは、前記の(1)、(2)、または(3)の方法で得られる水溶液柱を重合することで作製することができる。水溶液柱を重合させる方法は、特に制限されず、例えば、ラジカル重合開始剤を用いる化学重合法、光重合開始剤を用いる光重合法、または放射線を照射する放射線重合法などが挙げられる。
【0080】
化学重合法は、ラジカル重合開始剤、および必要に応じて重合促進剤を、水溶液中、有機溶媒中、またはその両方に添加することで行われる。重合温度は好ましくは15〜75℃、より好ましくは20〜60℃である。また、重合時間は好ましくは3分〜20時間、より好ましくは10分〜8時間である。ラジカル重合開始剤の例としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、または過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;過酸化水素;アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩またはアゾイソブチロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシドまたは酸化ベンゾイルなどのパーオキシド等を挙げることができ、これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。この際、重合促進剤として、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、モール塩、ピロ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、またはアスコルビン酸などの還元剤;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、グリシン、またはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどのアミン化合物;などの1種または2種以上を用いることができる。
【0081】
重合開始剤の量は、水溶液柱中の濃度として、0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0082】
光重合法は、例えば、光重合開始剤を予め水溶液に加えておき、有機溶媒中で得られた水溶液柱に対して、紫外光を照射することで行うことができる。
【0083】
用いられる光重合開始剤の例としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、p,p’−ジクロロベンゾフェノン、p,p’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,2−ジメチルプロピオイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−2−エチルヘキサノイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、2,3,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,3,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメトキシベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリクロロベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルナフチルフォスフォネート、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジエチルアミノ安息香酸、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ベンゾインパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどが挙げられる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0084】
紫外光の波長は200〜400nmが好ましく、また、紫外光の照射量は、100〜2000mJ/cm2であることが好ましく、500〜1500mJ/cm2であることがより好ましい。
【0085】
放射線重合法は、得られた水溶液柱に対し、放射線を照射することで放射線重合を行う。放射線としては、電子線が好ましく、その照射線量は、10〜200kGyであることが好ましく、20〜50kGyであることがより好ましい。
【0086】
電子線により重合を行う場合、重合開始剤や重合促進剤を用いることなく重合が可能であり、その場合、重合開始剤・促進剤を洗浄する工程を行わなくてもよい。また、上記化学重合法において例示した重合開始剤および重合促進剤を用いることもできる。
【0087】
電子線の照射は、電子加速装置により行うことができる。電子を加速する電圧の大きさにより装置は、低エネルギータイプ、中エネルギータイプ、高エネルギータイプと分類されている。本工程の重合においては、低エネルギータイプの電子線加速装置が好ましい。例えば、低エネルギータイプの電子線加速装置の例として、浜松ホトニクス株式会社製の低エネルギー電子線照射装置が挙げられる。これは、フィラメントから生じた熱電子を高電圧で加速してエネルギーを高め、ベリリウム窓箔からその電子線を大気中に取り出すものであり、40〜110kVという比較的低い加速電圧の電子線を照射することが可能である。
【0088】
上記工程により蛍光ハイドロゲルファイバーが得られた後、さらに洗浄液を用いて蛍光ハイドロゲルファイバーの洗浄を行うことが好ましい。洗浄液の例としては、リン酸緩衝液、純水などが挙げられる。
【0089】
また、上記(a)工程で有機溶媒を用いた場合、前記有機溶媒を溶解しうる洗浄液A、その洗浄液Aを溶解しうる洗浄液B、などのように順次に用いて、蛍光ハイドロゲルファイバーの分散相を交換・洗浄することで、最終的に、水溶液中に蛍光ハイドロゲルファイバーを得ることができる。洗浄液の例としては、例えば、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、炭化水素類、含ハロゲン炭化水素類、緩衝剤水溶液、純水などが挙げられるが、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、塩化メチレン、リン酸緩衝液、純水などが挙げられ、より好ましくは、ヘキサン、エタノール、リン酸緩衝液、純水などが挙げられる。これら洗浄液は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。これらの中でも、ヘキサン、エタノール、リン酸緩衝液、および純水からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0090】
以上のような本発明の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーは、上記化学式1で表される構造を有することが好ましい。詳細な構造は、上述した内容と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0091】
上記化学式1で表される構造を有する蛍光ハイドロゲルファイバーは、上記化学式5で表される蛍光モノマー化合物と、(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとの共重合によらずに製造することが可能である。例えば、予め(メタ)アクリルアミド残基を有する重合性モノマーを重合させて得られる重合物、上記化学式5で表される蛍光モノマー化合物、重合開始剤、および必要に応じて重合促進剤を含む水溶液を有機溶媒に添加し水溶液柱を作製し、得られた水溶液柱を上記の重合方法により重合させても、上記化学式1で表される構造を有する蛍光ハイドロゲルファイバーを製造することができる。
【0092】
本発明の製造方法により蛍光ハイドロゲルファイバーは、三次元架橋構造を有していてもよい。三次元架橋構造の導入方法は、特に制限されず、例えば、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーに架橋剤を作用させて、上記化学式1で表される蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとの間の少なくとも一部に、分子間架橋を形成させる方法が挙げられる。ポリ(メタ)アクリルアミド鎖に三次元架橋を形成させると、水溶液中でも蛍光モノマー化合物を溶出させることなく糖類の検出が容易にできる。なお、本発明で用いられる蛍光モノマー化合物は、糖類と結合して蛍光を発する疎水性部位を有するが、該疎水性部位は、上記化学式1中のY1およびY2で表される二価の有機残基を介してポリ(メタ)アクリルアミド鎖に結合されるため、水溶液中でも糖類と結合できる自由度が確保されている。したがって、三次元架橋構造を形成しても、糖類の検出感度をほとんど低下させない。
【0093】
前記架橋剤としては、重合性二重結合によって蛍光センサー化合物中に三次元架橋構造を導入し得るものを広く含む。具体的な例としては、例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)−ビス(メタ)アクリルアミド、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンアクリレートメタクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのジビニル化合物;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリアリルアミン、ポリ(メタ)アリロキシアルカン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエ−テル、グリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン、グリシジル(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリアリル、トリメチロールプロパンジ(メタ)アリルエーテル、テトラアリロキシエタン、またはグリセロールプロポキシトリアクリレートなどが挙げられる。これら架橋剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0094】
架橋剤の量は、水溶液柱中の濃度として、0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0095】
本発明により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーは、体内埋め込み用の糖類測定用センサーの構成要素として用いられうる。本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーは、低侵襲的に生体内に埋め込むことが出来る。埋込み方法としては、注射器、カニューレ、留置針、もしくはカテーテルを用いての埋設、または皮膚表層の一部を剥離した埋設などが挙げられる。埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーは、その端をつまんで引き抜くなどすることで、生体に埋め込んだ全ての蛍光ハイドロゲルファイバーを取り出すことができる。すなわち、本発明は、かような蛍光ハイドロゲルファイバーの使用方法をも提供する。
【0096】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーは、生体適合性の高いポリ(メタ)アクリルアミド構造を有するため、長期の生体内埋込みに際しての生体への影響が少ない。
【0097】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーは、生体内で加水分解や酵素分解などの化学的分解を受けないため、長期埋込みの安定性が高いと考えられる。埋込み組織としては、皮内や皮下が好ましく、高感度や小さなタイムラグを実現するためには、血液との体液交換が盛んでありかつ皮膚表面からの深度が浅い真皮層がより好ましい。埋込み場所は、皮膚表面からの光学測定ができる場所ならば特に制限されず、例えば、腕、脚、腹部、耳等が挙げられる。また、蛍光ハイドロゲルファイバーは、皮下や体内で組織に対して縫い込んだり、巻きつけたりすることで生体内に固定することが可能であり、部位や器官の大きさ、形状に限られずに埋め込むことができる。例えば、皮下組織や、腎被膜、膵臓被膜などに縫い込んだり、血管などに巻きつけたりして固定することができる。
【0098】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーは体内に埋込まれ、体外、もしくは同じ部位に埋め込まれたセンサーから励起光を照射して、上記蛍光ハイドロゲルファイバーから発生する蛍光を計測する手段を有する、体内埋め込み用の糖類測定用センサーの構成要素としても用いられうる。
【0099】
また、体液を、体内に刺し込んだ中空針と前記中空針に接続された体外の蛍光検出系との間で循環させ、その循環経路の一部に蛍光ハイドロゲルファイバーを貼り付け、前記蛍光ハイドロゲルファイバーから発生する蛍光を計測する手段を有する、糖類測定用センサーの構成要素としても用いられうる。
【0100】
上記循環経路は、測定対象である糖類は透過させるが、生体成分のうち細胞等やタンパク質等の高分子を透過させない性質を有するものが好ましい。体液は、蛍光ハイドロゲルファイバーが張り付けられた循環経路を通り、その体液中の糖類が蛍光ハイドロゲルファイバーと接触する。前記体液中の糖類と接触する蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光を、蛍光検出系を用いて連続的に測定することによって、生体内の糖濃度を反映する値を得ることが出来る。
【0101】
蛍光検出系は、少なくとも1種の光源と、少なくとも1種の光検出器とを含むものが好ましい。光源および光検出器は、光源から発する励起光がなるべく入らないように、かつ蛍光ハイドロゲルファイバーから発せられる蛍光が効率よく検出できるよう配置することが好ましい。
【0102】
蛍光信号の測定は、蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光特性に合ったランプ、LED、レーザー等の光源および光検出器、また、必要に応じて、光ファイバー、レンズ、鏡、プリズム、光学フィルターなどをセンサー構成物周辺の適当な位置に配置して行うことができる。
【0103】
本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーを用いて検出できる糖類は、特に制限されず、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトースなどの単糖類、マルトース、スクロース、ラクトースなどの多糖類が挙げられる。これらの中でも、グルコースがより好ましい。
【0104】
上述の糖類測定用センサーを用いることにより、糖尿病患者が血糖値を自己制御する際の煩雑性または血糖値のタイムラグを減少させることができる。さらに、上述の糖類測定用センサーを用いることにより、糖尿病患者以外の人々が健康管理のための血糖値測定を簡便に行うことも可能となる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これら実施例は、本発明を何ら制限するものではない。
【0106】
(実施例1:9,10−ビス[[N−(2−ボロノベンジル)−N−[6−[(アクリロイルポリオキシエチレン)カルボニルアミノ]ヘキシル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセンの合成)
(A)9,10−ビス(ブロモメチル)−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のII)の合成
9,10−ジメチル−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のI)600mg、N−ブロモスクシンイミド800mg、および過酸化ベンゾイル5mgを、クロロホルム6mLと四塩化炭素20mLの混合物に加え、80℃で2時間、加熱還流を行った。溶媒を除去した後、残渣をメタノールで抽出し、780mgの目的物を得た。
【0107】
(B)9,10−ビス[6’−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシルアミノメチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のIV)の合成
上記(A)で得た生成物500mg、N−BOC−ヘキシルジアミン(上記反応式1中のIII) 1.125g、およびジイソプロピルエチルアミン 1.25mLを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)10mLに溶解し、45℃で1時間攪拌して反応を行った。反応混合物はクロロホルム60mLで希釈し、水100mLで3回、飽和食塩水100mLで1回洗浄し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾過後、濃縮し、クロロホルム/メタノール(体積比 95/5)混合溶媒を溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、367mgの目的物を得た。
【0108】
(C)9,10−ビス[[N−6’−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシル−N−[2−(5,5−ジメチルボリナン−2−イル)ベンジル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVI)の合成
上記(B)で得た生成物200mg、2−(2−ブロモメチルフェニル)−1,3−ジオキサボリナン(上記反応式1中のV)700mgおよびN,N−ジイソプロピルエチルアミン0.35mLを、3mLのジメチルホルムアミドに溶解し、室温(25℃)で16時間攪拌した。溶媒除去後、メタノール/クロロホルムを溶離液とするシリカゲルカラムで精製し目的物194mgを得た。
【0109】
(D)9,10−ビス[[N−(6’−アミノヘキシル)−N−(2−ボロノベンジル)アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVII)の合成
上記(C)で得られた生成物100mgを、2mLのメタノールに溶解し、4N 塩酸2mLを加えて、室温(25℃)で10時間攪拌した。蒸発乾固後、ゲル濾過によって無機塩を除去し、目的物95mgを得た。
【0110】
(E)F−PEG−AAmの合成
上記(D)で得られた生成物160mgを、0.5mLのDMFに溶解し、アクリロイル−(ポリエチレングリコール)−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(ポリエチレングリコール残基部分の分子量は3,400)1.22gの10mL 100mMリン酸緩衝液(pH=8.0)溶液に加え、室温(25℃)で20時間攪拌した。反応混合物をゲル濾過に供し、蛍光高分子画分を採取し、凍結乾燥後、目的物であるF−PEG−AAm 1.2gを得た。重クロロホルムを用いて測定した1H−NMRデータは下記表1の通りであり、ポリエチレングリコール(PEG)残基由来のピークと重なる水素のシグナルは確認されなかった。
【0111】
【表1】
【0112】
(実施例2:蛍光ハイドロゲルファイバーの作製)
最終濃度としてアクリルアミドが15質量%の濃度に、N,N’−メチレンビスアクリルアミドが0.3質量%の濃度になるように、アクリルアミドおよびN,N’−メチレンビスアクリルアミドを60mMリン酸緩衝液(pH7.4)にそれぞれ加えて、溶解・混合し水溶液を調製した。次に、水溶液を室温(25℃)で窒素バブリングを行った。
【0113】
前記の水溶液に、実施例1で合成したF−PEG−AAmが5質量%の濃度、過硫酸ナトリウムが0.9質量%の濃度、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンが0.2質量%の濃度になるようにそれぞれ添加した。
【0114】
次いで、作製される蛍光ハイドロゲルファイバーの取り出しを容易にするためにプルロニック(登録商標)をコーティングしたポリオレフィンチューブ中に、上記水溶液を吸い取って、窒素雰囲気下、室温(25℃)で重合を開始した。ポリオレフィンチューブは、内径400μmで長さが150mmのもの、内径700μmで長さが150mmのもの、
および内径1000μmで長さが150mmのものをそれぞれ1本ずつ合計3本使用した。
【0115】
10分後、空気圧を加え、重合により得られた蛍光ハイドロゲルファイバーをポリオレフィンチューブから取り出した。内径の異なるポリオレフィンチューブを用いることで、直径がそれぞれ400μm、700μm、および1000μmであり、長さが150mm程度である蛍光ハイドロゲルファイバーを1本ずつ、合計3本得ることができた。得られた直径700μmの蛍光ハイドロゲルファイバーの状態を蛍光顕微鏡によって観察した写真を、図4および図5に示す。図4は明視野像の写真であり、図5は蛍光像の写真である。
【0116】
本実施例で得られた直径700μmの蛍光ハイドロゲルファイバーを、グルコース濃度が0〜1000mg/dLの範囲となるように調製した60mMリン酸緩衝液中に浸漬し、蛍光実体顕微鏡により、各グルコース濃度における蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光強度について観察した。結果を図6に示す。
【0117】
図6に示すように、蛍光ハイドロゲルファイバーはグルコース応答性を有しており、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーを用いることで、グルコース濃度を測定できることが確認できた。
【0118】
(実施例3:生体内でのグルコース応答性の確認)
マウスの腹腔からグルコース溶液を投与しマウスの血糖値を114mg/dLから600mg/dL以上まで上昇させたときの、蛍光ハイドロゲルファイバーの体内中の蛍光強度の変化を観察した。実施例2で得られた直径700μmの蛍光ハイドロゲルファイバーを、長さ50mm程度にカットして用いた。蛍光ハイドロゲルファイバーを埋め込んだマウスの耳の写真を図7および8に示す。図7は明視野像の写真であり、図8は蛍光像の写真である。
【0119】
図9は血糖値114mg/dL、血糖値383mg/dL、および血糖値600mg/dL以上の際の、マウスの耳を蛍光顕微鏡によって観察した蛍光像の写真である。図10は、図9の蛍光像の写真を解析した蛍光強度を表すカラーイメージである。図9および図10に示すように、血糖値の上昇により蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光強度が強くなることが確認でき、本発明の蛍光ハイドロゲルファイバーを体内埋め込み用の糖類測定用センサーとして使用できることが確認できた。
【0120】
(実施例4:蛍光ハイドロゲルファイバーの埋め込み用デバイスの作製)
蛍光ハイドロゲルファイバーを体内に低侵襲で簡便に埋め込む為のデバイスは、図11に示すように、留置針を改良して作製した。留置針の内針111の先端を削って鈍にし(符号112)、内針111の内部にPDMS(ポリジメチルシロキサン、符号113)を詰めた。さらに、外針114の中に、実施例2で得られた蛍光ハイドロゲルファイバー115を詰めて、埋め込み用デバイスを完成させた。
【0121】
(実施例5:蛍光ハイドロゲルファイバーの埋め込み・取り出しと、生体内での応答性の確認)
本実施例では、生体に埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーの蛍光を外部から観察するため、皮膚の薄いマウスの耳を埋め込み対象とした。
【0122】
図12の模式図に示すように、実施例4にて作製した埋め込み用デバイスのうち、マウスの耳が破れないように先を鈍にした内針111をマウスの耳116に刺し込んだ後(図12のA)、内針111を引き抜き、マウスの耳116にファイバーを埋め込むための空間117を作った(図12のB)。次に、蛍光ハイドロゲルファイバー115を入れた留置針の外針114を上記で作製した空間に挿し込んだ後、上記留置針の内針を外針に挿入した(図12のC)。内針111を押し込み、最後に、内針とともに外針を引き抜くことによって、蛍光ハイドロゲルファイバー115をマウスの耳116に埋め込むことができた(図12のD)。
【0123】
この方法によって蛍光ハイドロゲルファイバーを埋め込んだマウスの耳を、蛍光顕微鏡によって観察した写真を図13および図14に示す。図13は明視野像の写真であり、図14は蛍光像の写真である。
【0124】
また、蛍光ハイドロゲルファイバーは低侵襲で簡便に埋め込むだけでなく、蛍光ハイドロゲルファイバーの末端をつかんで引き抜くことで、埋め込みから1日経過後、容易に体内から取り除くことができた。図15および図16に、埋め込んだ蛍光ハイドロゲルファイバーを取り出した後のマウスの耳の観察像を示す。図15は明視野像の写真であり、16は蛍光像の写真である。図17に、マウスの耳から取り出した蛍光ハイドロゲルファイバーの写真を示す。
【符号の説明】
【0125】
11 チューブ、
12、24 水溶液柱、
21 マイクロ流路(微小流路)のインレット、
22 マイクロ流路(微小流路)のアウトレット、
23 マイクロ流路(微小流路)、
26、27 基板、
31 コア部の流体、
32 シェル部の流体、
33 インジェクション用ガラス管、
34 ポリジメチルシロキサン製ホルダー、
35 集束用ガラス管、
36、115 蛍光ハイドロゲルファイバー、
37 DI水、
111 内針、
112 内針の先端、
113 ポリジメチルシロキサン、
114 外針、
116 マウスの耳、
117 空間。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される構造を有する、蛍光ハイドロゲルファイバー:
【化1】
前記化学式1中、
X1およびX2は同一または異なっていてもよく、−COO−、−OCO−、−CH2NR−、−NR−、−NRCO−、−CONR−、−SO2NR−、−NRSO2−、−O−、−S−、−SS−、−NRCOO−、−OCONR−、および−CO−からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を含む炭素数1〜30のアルキレン基であり、この際、Rは、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
Z1およびZ2は同一または異なっていてもよく、−O−または−NR’−であり、この際、R’は水素原子または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
Q、Q’、Q’’、Q’’’は同一または異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜11のアシル基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルコキシ基、ハロゲン原子を含む基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、または炭素数1〜10のアルキルアミノ基であり、QおよびQ’ならびにQ’’およびQ’’’の少なくとも一方は、互いに結合して芳香環または複素環を形成してもよく、
Y1およびY2は、同一または異なっていてもよく、置換されていてもよい2価の有機残基であり、この際、Y1およびY2の少なくとも一方が、下記化学式3または下記化学式4で表される構造を含んでいてもよく、
【化2】
【化3】
前記化学式3および前記化学式4中、nは2〜5であり、jは1〜5であり、mは1〜200であり、*は結合点を表し、
A1およびA2は同一または異なっていてもよく、水素原子またはメチル基であり、
U1、U2、U3およびU4は同一または異なっていてもよく、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
p1とq1とのモル比(p1:q1)およびp2とq2とのモル比(p2:q2)は、1:50〜1:6,000である。
【請求項2】
三次元架橋構造を有する、請求項1に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー。
【請求項3】
直径が10〜2000μmである、請求項1または2に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー。
【請求項4】
(a)下記化学式5で表される蛍光モノマーと、(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーと、を含む水溶液から水溶液柱を作製する工程を含む、蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法:
【化4】
前記化学式5中、
X1およびX2は、同一または異なっていてもよく、−COO−、−OCO−、−CH2NR−、−NR−、−NRCO−、−CONR−、−SO2NR−、−NRSO2−、−O−、−S−、−SS−、−NRCOO−、−OCONR−、および−CO−からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を含む炭素数1〜30の直鎖状または分枝状のアルキレン基であり、この際、Rは、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
Z1およびZ2は同一または異なっていてもよく、−O−または−NR’−であり、この際、R’は水素原子または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
Q、Q’、Q’’、Q’’’は同一または異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜11のアシル基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルコキシ基、ハロゲン原子を含む基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、または炭素数1〜10のアルキルアミノ基であり、QおよびQ’ならびにQ’’およびQ’’’の少なくとも一方は、互いに結合して芳香環または複素環を形成してもよく、
Y1およびY2は、同一または異なっていてもよく、置換されていてもよい2価の有機残基であり、この際、Y1およびY2の少なくとも一方が、下記化学式3または下記化学式4で表される構造を含んでいてもよく、
【化5】
【化6】
前記化学式3および前記化学式4中、nは2〜5であり、jは1〜5であり、mは1〜200であり、*は結合点を表す。
【請求項5】
さらに、(b)前記水溶液柱を重合させ蛍光ハイドロゲルファイバーを作製する工程を含む、請求項4に記載の蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法。
【請求項6】
前記(a)工程は、チューブ、マイクロ流路、または、同軸マイクロ流体装置を用いる請求項4または5に記載の蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法。
【請求項7】
前記(b)工程は、ラジカル重合開始剤を用いて前記水溶液柱を化学重合させるか、光重合開始剤を用いて前記水溶液柱を光重合させるか、または、放射線を照射して前記水溶液柱を放射線重合させる請求項5または6に記載の蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー、または請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーを含む、体内埋め込み用の糖類測定用センサー。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー、または請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーを体内に埋込み、体内または体外より励起光を照射して、前記蛍光ハイドロゲルファイバーから発生する蛍光を計測する手段を有する、体内埋め込み用の糖類測定用センサー。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー、または請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーを、体液が循環する経路の少なくとも一部に貼り付け、前記蛍光ハイドロゲルファイバーから発生する蛍光を計測する手段を有する、糖類測定用センサー。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー、または請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーの使用方法。
【請求項1】
下記化学式1で表される構造を有する、蛍光ハイドロゲルファイバー:
【化1】
前記化学式1中、
X1およびX2は同一または異なっていてもよく、−COO−、−OCO−、−CH2NR−、−NR−、−NRCO−、−CONR−、−SO2NR−、−NRSO2−、−O−、−S−、−SS−、−NRCOO−、−OCONR−、および−CO−からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を含む炭素数1〜30のアルキレン基であり、この際、Rは、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
Z1およびZ2は同一または異なっていてもよく、−O−または−NR’−であり、この際、R’は水素原子または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
Q、Q’、Q’’、Q’’’は同一または異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜11のアシル基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルコキシ基、ハロゲン原子を含む基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、または炭素数1〜10のアルキルアミノ基であり、QおよびQ’ならびにQ’’およびQ’’’の少なくとも一方は、互いに結合して芳香環または複素環を形成してもよく、
Y1およびY2は、同一または異なっていてもよく、置換されていてもよい2価の有機残基であり、この際、Y1およびY2の少なくとも一方が、下記化学式3または下記化学式4で表される構造を含んでいてもよく、
【化2】
【化3】
前記化学式3および前記化学式4中、nは2〜5であり、jは1〜5であり、mは1〜200であり、*は結合点を表し、
A1およびA2は同一または異なっていてもよく、水素原子またはメチル基であり、
U1、U2、U3およびU4は同一または異なっていてもよく、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
p1とq1とのモル比(p1:q1)およびp2とq2とのモル比(p2:q2)は、1:50〜1:6,000である。
【請求項2】
三次元架橋構造を有する、請求項1に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー。
【請求項3】
直径が10〜2000μmである、請求項1または2に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー。
【請求項4】
(a)下記化学式5で表される蛍光モノマーと、(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーと、を含む水溶液から水溶液柱を作製する工程を含む、蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法:
【化4】
前記化学式5中、
X1およびX2は、同一または異なっていてもよく、−COO−、−OCO−、−CH2NR−、−NR−、−NRCO−、−CONR−、−SO2NR−、−NRSO2−、−O−、−S−、−SS−、−NRCOO−、−OCONR−、および−CO−からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を含む炭素数1〜30の直鎖状または分枝状のアルキレン基であり、この際、Rは、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
Z1およびZ2は同一または異なっていてもよく、−O−または−NR’−であり、この際、R’は水素原子または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
Q、Q’、Q’’、Q’’’は同一または異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜11のアシル基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルコキシ基、ハロゲン原子を含む基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、または炭素数1〜10のアルキルアミノ基であり、QおよびQ’ならびにQ’’およびQ’’’の少なくとも一方は、互いに結合して芳香環または複素環を形成してもよく、
Y1およびY2は、同一または異なっていてもよく、置換されていてもよい2価の有機残基であり、この際、Y1およびY2の少なくとも一方が、下記化学式3または下記化学式4で表される構造を含んでいてもよく、
【化5】
【化6】
前記化学式3および前記化学式4中、nは2〜5であり、jは1〜5であり、mは1〜200であり、*は結合点を表す。
【請求項5】
さらに、(b)前記水溶液柱を重合させ蛍光ハイドロゲルファイバーを作製する工程を含む、請求項4に記載の蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法。
【請求項6】
前記(a)工程は、チューブ、マイクロ流路、または、同軸マイクロ流体装置を用いる請求項4または5に記載の蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法。
【請求項7】
前記(b)工程は、ラジカル重合開始剤を用いて前記水溶液柱を化学重合させるか、光重合開始剤を用いて前記水溶液柱を光重合させるか、または、放射線を照射して前記水溶液柱を放射線重合させる請求項5または6に記載の蛍光ハイドロゲルファイバーの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー、または請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーを含む、体内埋め込み用の糖類測定用センサー。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー、または請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーを体内に埋込み、体内または体外より励起光を照射して、前記蛍光ハイドロゲルファイバーから発生する蛍光を計測する手段を有する、体内埋め込み用の糖類測定用センサー。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー、または請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーを、体液が循環する経路の少なくとも一部に貼り付け、前記蛍光ハイドロゲルファイバーから発生する蛍光を計測する手段を有する、糖類測定用センサー。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルファイバー、または請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルファイバーの使用方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−190403(P2011−190403A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59730(P2010−59730)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(ロボット・新技術イノベーションプログラム)「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(509130000)技術研究組合BEANS研究所 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(ロボット・新技術イノベーションプログラム)「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(509130000)技術研究組合BEANS研究所 (13)
【Fターム(参考)】
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