蛍光マーカータンパク質による細胞における分子事象の証明方法
本発明は、特に細胞における分子事象の発生を証明する方法であって、特異的分子事象の発生の直接的または間接的マーカーである固定タンパク質マーカーの「可溶化」(または可溶化タンパク質マーカーの固定)を検出することを特徴とする、方法に関する。上記タンパク質マーカーは上記検出前の細胞中に存在し、細胞を検出前に原形質膜の透過性にし、これが可溶化したタンパク質を細胞外媒質中に放出し、従ってマーカータンパク質の存在が任意の適当な手段によって細胞または細胞外媒質に検出され、これにより可溶化または固定が起こったかどうか、従って相当する分子事象を検出することができる。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、生存細胞におけるアポトーシスのような特異的分子事象を証明する方法に関する。
【0002】
背景技術
生存細胞におけるアポトーシスのような特異的分子事象を証明するには、通常はBaxタンパク質または活性化カスパーゼのようなアポトーシス現象に伴うマーカータンパク質のウェスタンブロット法または免疫蛍光法による検出のような若干数の手法が必要である。
【0003】
例えば、カスパーゼの場合には、細胞中のこれらのタンパク質の活性化の測定方法は、実施には本質的に時間がかかりすぎ且つ複雑すぎる。
【0004】
従って、カスパーゼの活性化を観察するための通常の方法であるウェスタンブロット法では、抗体はカスパーゼの基質タンパク質(PARPまたはカスパーゼ自身)に対して指定され、タンパク質分解の産物に相当する分子量バンドの出現が検出される。
【0005】
この手法は労力を要するものであり、多数の準備段階を必要とし、またカスパーゼ活性化は個々の細胞についてではなく細胞の個体群についてしか測定することができない。
【0006】
免疫蛍光法は、特異的方法で活性形態のカスパーゼを認識する抗体を用い、この手法を用いて固定細胞上で単細胞水準でそれを検出することができる。この手法では、個々の細胞を検出することができるが、労力を要するものであり、多数の準備段階を必要とする。
【0007】
蛍光性の化学プローブを含む手法も用いられる。数種類のものが市販されており、一般にそれらは、プロテアーゼの活性部位に強いアフィニティーを有し且つカスパーゼに固定されると蛍光シグナルを放出する化学生成物からなっている。これらのプローブは細胞中に浸透することができ、蛍光顕微鏡法および/またはサイトメトリーによってカスパーゼ活性を測定することができる。しかしながら、それらは装填プロトコールとそれらの価格によって限界が設けられており、中または高処理量試験には使用できない。
【0008】
最後に、遺伝子工学処理を行ったプローブであって、一過性または安定トランスフェクションによって細胞に導入することができるものを用いるFRET法に基づく組換えプローブがある。これらのプローブは(GFPスペクトル突然変異体である)蛍光タンパク質からなり、検出されるシグナルは蛍光エネルギー移動の現象から生じる。この原理は、プローブの開裂配列を含むリンカーによって互いに結合した2つのGFP突然変異体が蛍光移動シグナル(ドナー分子とアクセプター分子の相互作用によるドナー分子からの励起によるアクセプター分子からの放射)を生じることである。カスパーゼがリンカーを切断すると、2つのタンパク質が分離して、シグナルが消滅する。
【0009】
これらのプローブは幾つかの最近の公表文献の主題となっているが、問題点はFRETシグナルを検出することである(顕微鏡法およびサイトメトリーで適当なフィルターを用いる必要があるためにそれらの使用が限定される)。
【発明の概要】
【0010】
本発明による方法は、上記の手法を用いることなく、長たらしい準備や特に高価な試薬を用いる必要なしに顕微鏡法とサイトメトリーを用いる能力を維持しながら、細胞における特異的分子事象の検出に関する。
【0011】
実際に、後で明らかにするように、本発明による方法は、試料の複雑な準備を必要としない。
【0012】
プローブは細胞自身によって製造することができ且つ測定は単一の細胞上で蛍光顕微鏡法またはフローサイトメトリーによって行うことができるので、費用は極めて低い。
【0013】
トランスジェニック動物をこの種の手法で作製することができ、この試験をマイクロプレートに導入して高処理量系を作製することもできる。
【0014】
細胞における特異的分子事象の発生を証明するための本発明による方法は、
特異的分子事象の発生についての直接的または間接的マーカーである「結合した」(bound)マーカータンパク質の「可溶化」(solubilization)を(「可溶化した」(solubilized)マーカータンパク質の「結合」(bindig)とは別に)検出し、
上記マーカータンパク質が、上記検出の前に細胞中に存在し、
検出前に、細胞の「原形質膜」(plasma membrane)の透過性(permeabilization)を上昇させて、可溶化したタンパク質を細胞外媒質中に放出させ、
次に、可溶化(あるいは、結合(respectirely bindig))が起こったかどうか、従って相当する分子事象を決定することができる適当な手段によって、マーカータンパク質の存在を、細胞中または細胞外媒質中に検出する
ことを特徴とする。
【発明の具体的説明】
【0015】
通常は、マーカータンパク質は、可溶化(または結合)を行う感受性成分と検出を可能にする標識成分とからなっている。これは、蛍光タンパク質であることが多いことが分かるであろう。
【0016】
感受性成分は、観察しようとしている分子事象と直接関連しているタンパク質であることができ、すなわち測定しようとしている分子事象を構成しているのは特異的にその可溶化またはその結合であり、またはこの分子事象の誘導に続いて可溶化または結合を行うと思われるのは、測定を行う分子事象に間接的に関連しているタンパク質であることができ、これは例えばアポトーシスの際にカスパーゼによって誘導されるタンパク質分解における場合である。
【0017】
とにかく、感受性成分タンパク質は、分子事象が起こるときには、可溶化あるいは結合を行わなければならない。
【0018】
本明細書の説明において、タンパク質の「結合」とは、例えば膜、核または膜間のミトコンドリア空間など、好ましくは膜への細胞内アンカーリング(subcellular anchoring)、または上記タンパク質の細胞内区画化であって、これによってタンパク質が細胞の透過性化の際に細胞外媒質中へ拡散することができないことを意味する。同様に、タンパク質の細胞「可溶化」は、細胞の細胞質ゾルに遊離タンパク質の形態でマーカータンパク質が存在し、このタンパク質が細胞の透過性化の際に外部媒質中に拡散することができるようになることを示唆している。
【0019】
原形質膜の選択的透過性化を行うときには、マーカータンパク質が結合しているとき、すなわち、これが細胞内レベルで、特に区画化された膜にアンカーリングされているときには、細胞中に結合したままであり、細胞外媒質中に通過せず、反対にタンパク質が可溶性であるときには、すなわち細胞質ゾルに存在するときには、これは細胞外媒質中移行する。これらの条件下で観察すると、第一の場合の細胞は標識され、第二の場合の細胞は標識されない。
【0020】
細胞の標識は好ましくは蛍光による標識であり、従って容易に標識および未標識細胞を蛍光顕微鏡法によってまたはサイトメトリーによって検出される。これは、透過性化以外に試料の準備は必要としない。
【0021】
細胞中におけるマーカータンパク質の存在または、反対に、非存在を識別することができる他の種類のマーカーを用いることは理論的には可能であるが、蛍光手法における発展を考慮すれば、これが優れた手法であることは確かである。
【0022】
従って、マーカーを均質に発現する細胞個体群では、原形質膜の選択的透過性化は、分子事象が起こっている細胞を識別することができ、蛍光シグナルがこの細胞の部分母集団では特異的に保持され(あるいは失われ)るからである。
【0023】
フローサイトメトリーのよる分析により、測定した分子事象が起こり且つ上記分子事象と相互作用する薬剤の活性化および阻害効果を評価するための簡単な試験を提供する細胞個体群の割合を定量的に評価することができる。
【0024】
本明細書に記載の方法は、極めて限定された実験操作だけを必要とする(分画化なし、抗体固定またはインキュベーションなし、電気泳動なし、顕微鏡観察なし)。細胞回収、透過性化および分析に要する累積時間は、30分未満である(他の手法では、数時間を要し、数日間を要するものもある)。
【0025】
分画化(WB)または固定に関する人工産物を誘発することなく細胞内の目的のパラメーター、および多量の洗浄剤の使用を測定することができる(免疫蛍光)。
【0026】
最後に、この手法は、実験費用が安い(試薬なし、抗体なし)。
【0027】
マーカータンパク質は、上記タンパク質の発現ベクターによって細胞中に一過的に産生させることができるが、分子事象を検出する手段となることができる細胞系またはトランスジェニック動物におけるこのマーカータンパク質の構成的発現(constitutive expression)を予想することもできる。例えば、アポトーシスの場合には、これらの手段によりそれぞれの試験に適当なベクターによりトランスフェクションを行う必要なしにプロ−または抗−アポトーシス特性を有する産物を試験することができる。
【0028】
マーカータンパク質を発現させることができる手法は従来の技術で知られており、用いることができるプラスミドまたはベクターは、細胞、並びにプロモーターおよび発現の調節に関与する様々な要素によって変化することは当然である。
【0029】
同様に、マーカータンパク質の構成的発現を可能にする手法も知られており、それらは、組換え法などにより安定なまたは誘導可能なマーカータンパク質を細胞の染色体の一つへ導入することを含んでいる。
【0030】
本発明の好ましい態様では、マーカータンパク質は、
分子事象の発生の際に可溶化あるいは結合をそれ自身が行う感受性タンパク質、
蛍光性断片、特に蛍光タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、またはそれから誘導されるまたは同様の蛍光特性を有する任意のタンパク質
を含む融合タンパク質から構成される。
【0031】
実施例では、タンパク質EGFP、DsRed2、HcRedおよびcopGFPを用いたが、上記タンパク質の一連の突然変異体のような他のタンパク質を用いることもできる。
【0032】
一般に、タンパク質マーカーは、2種類のものを考えることができる。第一では、感受性成分が可溶化または結合を行うタンパク質要素によって構成されており、分子事象は直接測定しようとするものである。これは、例えばBaxの場合であり、以下において更に詳細に説明する。マーカータンパク質の第二の種類では、感受性成分が、測定しようとする分子事象を行うタンパク質と相互作用した後に可溶化または結合するタンパク質断片であることができる。これは、例えばカスパーゼ活性化に伴う場合であり、マーカータンパク質は、プロテアーゼ開裂部位と、この開裂部位のいずれかの側に、膜アンカーリング部位と蛍光タンパク質とを含む融合タンパク質となる。従って、プロテアーゼ活性化の際には、標識成分、すなわち蛍光タンパク質は開裂によって可溶化される。
【0033】
後者の場合には、アンカーリングタンパク質は、特に既知の膜貫通ドメインから選択することができ、特に、プロテアーゼ開裂部位を含むリンカーを介して蛍光タンパク質の末端に結合した外因性膜貫通ドメインとなる。
【0034】
以下の説明および実施例において、試験を行った膜貫通ドメインは、アンカー型(TA)タンパク質として知られているタンパク質のクラスに存在する短いC末端ドメインである。この膜貫通部分は突然変異によってミトコンドリア特異性付与されているが、膜におけるまたは蛍光部分が細胞質ゾルに露出したままである場合には他の膜(原形質膜、内皮網状組織の膜、ゴルジ体など)に向けられた他のタンパク質をアンカーリングするカセット、例えばミリストイル化またはパルミトイル化配列N末端膜貫通ドメインを用いることができる。
【0035】
この手法は、この特性を天然で有するタンパク質またはこの目的のために人工的に構築されたタンパク質に応用することができる。
【0036】
従って、本発明は、特異的分子事象の発生を証明する方法に関し、これはマーカータンパク質によって達成される。
【0037】
下記の実施例に示されるように、本発明による方法は、分子事象の発生の証明を細胞サイクルの測定、特に細胞サイクルの様々な時期における細胞個体群の分布の測定と連結することによって実行することができる。
【0038】
特に、このようなカップリングは、検出を行う分子事象がBax活性化(下記の実施例6a参照)、またはカスパーゼ3のようなカスパーゼの活性化(実施例6a参照)であるときに行うことができる。
【0039】
しかし、本発明は、
この方法の実行に有用なタンパク質マーカーであって、可溶化(結合)を行う感受性成分と、検出を行うことができるようにする標識成分を含むもの
にも関する。
【0040】
好ましくは、これは、上記のように、標識成分が蛍光タンパク質である融合タンパク質である。
【0041】
一態様によれば、本発明によるマーカータンパク質は、感受性成分であって、その配列が配列番号1、3、5、7、9、11および13の配列から選択される配列を含む核酸によってコードされるものを含んでいる。
【0042】
もう一つの態様によれば、本発明によるマーカータンパク質は、感受性成分であって、その配列が配列番号2、4、6、8、10、12および14の配列から選択される配列を含むものを含んでいる。
【0043】
本発明は、
適当な細胞環境でマーカータンパク質を発現するベクター、
安定的または一過的にマーカータンパク質を腫瘍細胞、好ましくはヒト腫瘍細胞であることができる上記細胞で発現することができる形質転換細胞
にも関する。
【0044】
本発明は、少なくとも1種類の細胞がマーカータンパク質を発現する、非ヒトトランスジェニック動物に関する。
【0045】
本発明は、
上記のような
形質転換細胞、および/または
ベクター、および/または
トランスジェニック動物
を含んでなる、上記態様の一つに記載の方法を実行するためのキットにも関する。
【0046】
更に、本発明の一態様は、抗癌化合物候補の活性を評価する方法である。
【0047】
このような方法は、好ましくはヒト起源の、マーカータンパク質を発現する形質転換腫瘍細胞における特異的分子事象の発生を証明する方法の実行を包含する。
【0048】
本発明の観点では、「化合物」は、生物学的、化学的、天然、組換えまたは合成など任意の種類の分子として定義される。例えば、化合物は、核酸(オリゴヌクレオチドなど)、タンパク質、脂肪酸、抗体、多糖類、ステロイド、プリン、ピリミジン、有機分子、化学ラジカルなどであることができる。「化合物」という用語は、断片、誘導体、構造類似体およびそれらの組合せも包含する。
【0049】
真核細胞では、特定の刺激に応答するシグナル形質導入経路を適当に活性化するための様々な方法が用いられる。転写制御(活性分子が新たに合成される)および転写後制御(既に存在するシグナル分子が、タンパク質分解、リン酸化またはタンパク質−タンパク質相互作用のような、それを活性化する変化を行う)の他に、ある場合には、細胞は区画化の適応を引き起こし、活性分子は既に細胞で発現されているが、これは亜細胞区画に閉じ込められ、その機能(例えば、ミトコンドリアマトリックスからのプロアポトーシス因子の放出、原形質膜での因子増加)を行うことができない。
【0050】
ある場合には、この種の適応は細胞内分布の変化のみならず、その不活性形態で可溶性細胞質ゾル形態になることができ且つその活性形態で膜と会合することができるタンパク質の溶解度の変化も伴う(例えば、Bcl−2ファミリーのプロアポトーシスタンパク質である小胞体によって活性化される転写因子)。従って、この種の事象は、蛍光タンパク質と組み合わせた融合タンパク質の構築による顕微鏡法およびフローサイトメトリーによって証明することができる(下記の実施例:Bax活性化を測定するためのプローブ、を参照されたい)。
【0051】
同様に、この種の方法を、測定を行うシグナルに関して相変化(changing phase)の特性が人工的に付与されたタンパク質マーカーの使用に応用することができる。特に、組換えタンパク質マーカーは、細胞内プロテアーゼの活性を測定する目的で構築することができる。これらのマーカータンパク質では、蛍光タンパク質は、活性を測定しようとするプロテアーゼの開裂部位を含むリンカー配列によって膜貫通ドメインと融合することによって細胞内膜に結合している。実施例に記載したカスパーゼ3プローブについて採用したのは、この種の方法である。
【0052】
透過性化段階は、理論上は本質的なものではない。実際に、例えば、蛍光の存在をそれが結合している細胞質ゾル中、膜上または区画内で蛍光顕微鏡法によって検出することは可能であるが、細胞の透過性化によって工程を自動化することができ、本発明の好ましい態様を構成する。
【0053】
細胞外媒質中で可溶性形態の蛍光マーカータンパク質を塩析することができるようにするには、当業者に知られている総ての適当な手法を用いることができる。特に、1〜100μM/mlの範囲、好ましくは5〜50μM/mlの濃度のジギトニンによる透過性化を用いることが好ましいが、サポニン−のような他の洗浄剤を極めて少量、例えば、0.5〜10μM/ml、好ましくは1μMのオーダーで、ストレプトリシンO(20〜500ng/ml)、または凍結−融解サイクルを用いることもできる。
【0054】
これにより、例えば、フローサイトメトリーによって検出を行うことができ、これは、マイクロプレートリーダー、蛍光顕微鏡、共焦顕微鏡などのような他の手法も用いることができる場合であっても、明らかにそれらよりずっと感度が高く且つ自動化可能である。
【0055】
本発明による方法は、多数の分子現象の証明、特に薬物として使用しようとする分子の抗−およびプロ−アポトーシス特性の研究に重要である。
【0056】
アポトーシスは、細胞を分解および死へと導く分子事象のカスケードからなる細胞死の高度に保存され且つ制御された過程である(1)。異常アポトーシスは、多数の癌の原因であり(アポトーシスの欠落)、これは神経変性過程の病因にも含まれる(過剰アポトーシス)(1)。
【0057】
アポトーシスの最終局面は、一方では特定のクラスのシステインプロテアーゼであるカスパーゼの活性化による、また他方では核クロマチンを分解するエンドヌクレアーゼの活性化による細胞構造の分解によって構成される(1)。
【0058】
プログラミングされた細胞死の過程を行う細胞は、数多くの多少特異的な形態学的および生化学的徴候を特徴とする。細胞凝縮、原形質膜泡状突起の形成、およびヨウ化プロピジウムに対する後者の透過性の出現のような一定の幾分特異的な形態学的変化は、光学顕微鏡法を用いる単純な観察によって容易に検出することができる。核の形態を明らかにするある種の核色素(Hoechst, DAPI)により、クロマチンの分解/凝縮を目に見えるようにすることができるようになっている。この後者のパラメーターも、典型的なDNAラダーパターンの出現による細胞個体群のゲノム材料の電気泳動によって、また単細胞水準ではアポトーシスエンドヌクレアーゼの作用によって産生したDNAの遊離末端の量を滴定する比色または蛍光標識であるTUNEL原理による顕微鏡法やフローサイトメトリーによって検出することも可能である。一般に測定される他の徴候には、カスパーゼ活性化(ウェスタンブロット法、フローサイトメトリー)、活性化したカスパーゼの基質のタンパク質分解(ウェスタンブロット法)、および原形質膜の外層上でのホスファチジルセリンの表示(フローサイトメトリー)が包含される。
【0059】
上記過程の上流には、自己破壊の過程を開始(アポトーシスを開始)する細胞を誘発する様々な細胞内シグナル経路があり、これらの誘導刺激は多様であり、相当する細胞内シグナルカスケードは誘導刺激および/または細胞モデルによって変化する可能性がある。
【0060】
これらの初期分子事象のあるものは重要なプロアポトーシス段階を表し、良好な感受性でそれらを特異的に検出する可能性、例えば、抗−またはプロ−アポトーシス活性化合物のスクリーニングの可能性が開く。
【0061】
Baxタンパク質の細胞質ゾルからミトコンドリア膜への再局在化は、アポトーシスのシグナリングの際の初期の一般的な事象である(2)。Baxの再局在化に続くホモオリゴマー化は、チトクロームcの放出を引き起こし、カスパーゼ9の活性化、次いでカスパーゼ3の活性化を引き起こすことによる細胞死を変更不能に生じる(2)。Baxは球状の細胞質ゾルタンパク質であり、その一次構造によりBcl−2ファミリーに分類することができる。Youleの研究(2)は、その再局在化およびその再分布における様々なBaxドメインによって行われる役割の理解に大きく貢献したが、その二次構造は、Tjandraの研究により核磁気共鳴(NMR)を用いてそれが解明されるまでは、知られていなかった(2)。22個の残基を含むへリックスα9によって構成されているBaxのC末端ドメインのコンホメーションは、極めて重要であることが明らかになった。細胞質可溶性形態のタンパク質では、このへリックスは疎水性キャビティーに静止しており、再局在化はへリックスを疎水性ポケットの外側に露出しているBaxのコンホメーション変化によって変化し、Baxの「露出した」(exposed)C末端ドメインは次にミトコンドリア膜への向性を得るのである。実施例に記載されるように、本発明の方法によって明らかにすることができるのは、このコンホメーションの変化である。
【0062】
本発明の他の特徴と利点は、添付の図面を参照しながら下記の実施例を読むことによって明らかになるであろう。
【実施例】
【0063】
例1: Baxタンパク質の活性化
下記の実施例は、アポトーシスの誘導の際のBaxタンパク質のコンホメーション変化を検出することができる簡単な試験を説明する。
【0064】
上記で示唆したように、正常な細胞では、Baxは疎水性の高いC末端が分子の静止によって保護されるように折りたたまれる(2)。アポトーシスの誘導の際には、タンパク質はその特性を変更するコンホメーション変化を行い、そのC末端の露出によりBaxのミトコンドリア再局在化を誘導する。この形態では、Baxは外部ミトコンドリア膜に安定に挿入された膜タンパク質のような挙動をとる。
【0065】
BaxのN末端におけるGFPの融合によって得られるキメラタンパク質を用いると、Baxの局在化を示す組換え蛍光プローブが得られる。
【0066】
キメラタンパク質は、天然タンパク質と同じ特性、特にコンホメーション変化を行うおよびアポトーシスの誘導中にミトコンドリアへ再局在化する能力を保持している。
【0067】
実行したモデルは、「クローン10」と呼ばれるクローンを用いている。
【0068】
これらは、ウイルスCMVプロモーターの制御下でキメラ融合タンパク質をコードするpEGFP−Baxプラスミドを用いるリン酸カルシウム法によってトランスフェクションし且つゲネテシン耐性を付与するHeLa(ヒト子宮頸部腫瘍)細胞である。
【0069】
用いられる基本的ベクターはClontech製の市販のPEGFP−C3(図5)であり、5’末端において停止コドンを欠いているGEP cDNAと同じ位相で融合したBax cDNAが挿入されている。
【0070】
トランスフェクションの4日後、細胞を1mg/ml濃度のゲネテシンG418に暴露すると、これは次週中に次第に0.1mg/mlまで減少する。2週間後、ゲネテシン耐性の若干数のクローンを蛍光顕微鏡下で選択することによって単離する。
【0071】
クローン10は、高比率の均一な蛍光細胞を細胞質ゾル水準で含み、この標識は経時的に安定である(約10回の実行)。細胞は、10%FCSおよび0.1mg/mlゲネテシンを補足したDMEM中で培養保持される。
【0072】
次に、試験は蛍光顕微鏡下でまたはフローサイトメトリーによる、Baxが活性化されておらず従って細胞質ゾルに均一に分布されている細胞、およびアポトーシスの誘導後にBaxが活性化されている細胞の観察に基づいている。後者の場合には、蛍光シグナルはミトコンドリアの周りに集まり、従ってBaxタンパク質は「結合」していると考えられる。
【0073】
Baxの結合または可溶化を証明するため、コントロール個体群とアポトーシス剤で処理した個体群をトリプシンで処理し、それらを培養皿から分離する。次に、細胞をジギトニン50μMの存在下で細胞内食塩溶液に再懸濁した後、フローサイトメトリーによって分析し、GFPの蛍光をチャンネルFL1で測定する。
【0074】
このようにして処理した細胞は図1に示されており、蛍光強度の非常に大きな降下がBaxが活性化されていない細胞で観察され、初期には、画像は均一に蛍光を示しているが、この蛍光は300秒後にはほとんど消失することを示している。
【0075】
反対に、Baxが活性化されているときには、相当する曲線から得られる定量的測定値から決定することができるように、蛍光はミトコンドリアに再分布し、透過性化を阻害することが注目される。
【0076】
図2は、FL1における様々なプロアポトーシス剤の存在下にて透過性化を有するおよびのないクローン10の個体群の蛍光の様々なプロフィールを示す。
【0077】
「A」は、透過性化を有するおよびのないクローン10の個体群コントロールの蛍光プロフィールを示す。分布ピークの左への移行が示すように、蛍光シグナルはジギトニンによる処理に感受性を有する。
【0078】
「B」は、FL1におけるBaxを活性化するプロ−アポトーシス剤(20μMセレナイト、6時間)で処理した個体群のサイトメトリープロフィールを示す。誘導物質を用いまたは用いることなく透過性化の後に得られるプロフィールを比較することによって、アポトーシス誘導物質の下では、蛍光シグナルは透過性化処理に耐性になっていることを観察することができる。
【0079】
「C」では、スタウロスポリン(1μM,6時間)またはTNF−α(10ng/ml,6時間+10μM CHX)によるアポトーシスの誘導下では、同じ差が見られる。
【0080】
例2: アポトーシス誘導下でのBaxのミトコンドリアへの再局在化の定量
この手法により、Baxのミトコンドリアへの再局在化が起こった細胞の比率を測定することによってBaxの誘導を評価することができる。
【0081】
この方法では、
遺伝子の発現がBax活性化を誘導するかどうかを分析し、
薬剤のプロ−アポトーシスまたは細胞保護能力を定量的に評価する
ことができる。
【0082】
外来遺伝子がBaxを活性化する能力を評価するため、クローン10を、GFPからスペクトル的に識別可能であり且つ細胞内膜または区画化(抗透過性化)した局在化、例えば、ミトコンドリアマトリックスに対して指定したDsRedを有する蛍光マーカーをコードする別のcDNAと会合した目的のタンパク質のcDNAでトランスフェクションする。後者の場合には、透過性化の後、チャンネルFL1で記録される蛍光強度(GFP)は常にBax活性化の水準を示すが、FL3におけるシグナルの強度(DsRed)は、細胞が目的のタンパク質を過剰発現するかどうかを示している。
【0083】
クローン10について二重パラメーター測定(bi-parametric measurement)を行うことによって、Bax活性化を目的のタンパク質の過剰発現に相関させることができる。
【0084】
図3Aおよび3Bに示された結果は、薬剤処理の後にBaxのミトコンドリアへの再局在化を行う細胞個体群の比率を示している。
【0085】
図3Aは、阻害剤の非存在下(曲線D)および阻害剤の存在下(曲線E)において20μMセレナイト、および同じ阻害剤Bの非存在下および存在下で40nMスタウロスポリンで処理した細胞個体群の経時的進展を表す。
【0086】
この手法によって、Bax活性化の動態はセレナイトでの処理中に阻害剤によって変更されないが、一方反対に、この阻害剤はスタウロスポリンには活性である。
【0087】
同様に、図4の棒グラフは、シクロヘキシミドの存在下にてUV放射線の影響下で40nMスタウロスポリン、50μMセラミドまたは0.1ng/ml TNFで24時間処理した後のBaxが活性化されている細胞の比率を表す。
【0088】
この手法は、このように様々な薬剤のプロ−アポトーシス特性を識別することができる。
【0089】
この手法は、Bax活性化およびそのミトコンドリアへの再局在化について現在利用可能な手法であって亜細胞分画化および様々な画分に含まれるBaxタンパク質の量のウェスタンブロット法による定量に基づく、または活性化のコンホメーション変化を行ったタンパク質を特異的に認識する抗体を用いる免疫蛍光による手法に関して、多くの利点を提示する。
【0090】
これらの手法と比較して、先に記載した方法は1つの大きく減少した実験操作しか必要とせず(累積時間は、他の手法については24時間であるのに対して30分未満である)、目的のパラメーターを、細胞内であっても、分画化または固定に関する人工生成物を誘発することなく且つ多量の洗浄剤(免疫蛍光)を用いることなく測定することができ、実験費用を低くする。
【0091】
例3: アポトーシス中のカスパーゼ3の活性の測定
アポトーシスの主要なエフェクターはカスパーゼであり、これは開裂部位におけるP1位のアスパルテートに対する絶対的特異性を特徴とするシステインプロテアーゼである。これらの酵素はいずれも、その活性部位に同一のペンタペプチド配列を含んでおり、カルパインのような他のプロテアーゼと共にアポトーシスの際の細胞で起こる多くのタンパク質分解事象に関与しており、正常な細胞機能に重要な役割を果たしているタンパク質基質の開裂を生じる(細胞骨格タンパク質、核タンパク質、またはDNA修復酵素)。
【0092】
カスパーゼ活性化は、2つの主要な経路をとることができる。第一は「ミトコンドリア」経路であって、タンパク質Apaf−1がdATPおよびミトコンドリアの膜間空間から放出されるチトクロームcの存在下にてプロカスパーゼ−9と相互作用し、「アポトソーム(apoptosome)」を形成することによって、カスパーゼ−9を活性化(プロカスパーゼ−9の自己触媒的開裂)した後にカスパーゼ−3を活性化することができる。他の経路は、原形質膜上のTNF受容体の上科の受容体の経路である。TNFR1またはFas(CD95またはAPO−1)とそれらの天然リガンドまたはモノクローナル抗体作動薬との相互作用により、DISC(死誘導シグナリング複合体)と呼ばれる多タンパク質細胞質複合体を集合させて、プロカスパーゼ−8の活性化によるアポトーシスカスケードを開始することができる。
【0093】
現在のところ、既に以前に記載されている限られた数の方法があるが、いずれもカスパーゼの活性を測定するには完全に満足なものではない。
【0094】
本発明の構成中では、アポトーシス細胞でのカスパーゼ活性を測定する顕微鏡法およびサイトメトリーに適当な新たな組換えプローブを用いる。
【0095】
この新規なプローブは、DsRed2またはEGFPのような蛍光タンパク質がカスパーゼ3コンセンサス部位を含む短いリンカーによって膜貫通配列に連結して、プローブを外部ミトコンドリア膜への特異的アンカーリングを確実に行う融合タンパク質からなっている。
【0096】
相当する配列は、配列番号1に記載されている。
【0097】
下線部分はカスパーゼ3開裂配列と、次に、特異的ミトコンドリアアドレッシングが付与されている突然変異したチトクロームb5の膜貫通ドメインを含む合成リンカーに相当する。
【0098】
アポトーシスの誘導の際に、活性化したカスパーゼ3は、蛍光タンパク質と膜貫通配列との間に挿入されたリンカーに含まれるDEVD配列を開裂する。以前に結合したGFPは、細胞の細胞質ゾル中の可溶性タンパク質となる。
【0099】
カスパーゼ3が活性化されていない細胞に結合したシグナルは、カスパーゼが活性化されている細胞中で可溶性になる。
【0100】
細胞をガラススライド上で培養して、以前に記載したベクターでトランスフェクションを行った後、インキュベーションチャンバー中の食塩水媒質に固定して、蛍光顕微鏡下で観察する。観察前または中は、それらはプロ−アポトーシス剤で処理する。カスパーゼ3の活性化およびその動態は、カスパーゼが一旦活性化されるとミトコンドリアから細胞質ゾルへと直ちに変化する蛍光シグナルの細胞内分布の変更を単に観察することによって明らかにすることができる
【0101】
しかし、カスパーゼ活性化をフローサイトメトリーによって測定するのが一層好都合である。
【0102】
コントロール個体群とアポトーシス剤で処理した個体群を、トリプシン処理によってそれらの培養皿から取り出した後、細胞を50μMジギトニンの存在下にて細胞内食塩水溶液に再懸濁する。次いで、細胞をフローサイトメトリーによって分析し、GFPの蛍光をチャンネルFL1で測定する。
【0103】
提示した手法は、蛍光センサーの開裂が起こっている細胞の比率を測定することによってカスパーゼ3の活性化を評価することができる。
【0104】
この方法を用いると、
遺伝子の発現がカスパーゼ3の活性化を誘導するかどうかを分析し、
薬剤のプロ−アポトーシスまたは細胞保護能力を定量的に評価する
ことができる。
【0105】
従って、図6は、様々なアポトーシス誘導物質で処理したHeLa細胞の個体群におけるカスパーゼ3の作用の定量を表している:UV照射(200mJ/cm2)、TNFα 100μg/ml、スタウロスポリン1μM 6時間、およびカスパーゼ阻害剤(ZVAD 50μM)の存在下でのスタウロスポリン1μM。
【0106】
もう一つのアポトーシスパラメーターの定量は平行して表される(このアポトーシス誘導モデルでは、カスパーゼ活性化によって変化するミトコンドリアの脱分極)。
【0107】
この方法は、様々な系に導入することができる総てのカスパーゼおよび多のプロテアーゼに直接一般化することができ、また当業者であれば相当するベクターを作製することができるであろう。
【0108】
例4: 他の亜細胞プローブアンカーリング法
上記のカスパーゼ3プローブは、外部ミトコンドリア膜に埋設されている短い膜貫通ドメインからなる膜アンカーリングを基剤としている(突然変異チトクロームb5 C末端セグメント)。従って、このタンパク質ドメインは融合タンパク質にミトコンドリア分布と、原形質膜の選択的透過性化に関して抵抗する特性を付与する。この実施例では、試験の原理を、原形質膜の透過性化に対する蛍光シグナルの抵抗性を含む他の細胞内アンカーリング法に拡張することができることが示されている。アンカーリングの種類は、必ずしも膜貫通ドメイン自身によって表すことはできないが、その分子相互作用またはその翻訳後修飾によって、融合している蛍光タンパク質に目的のプロテアーゼによる開裂の後に細胞質ゾルまたは細胞外環境で「アンカーリング」しているが潜在的に拡散可能な状態を付与するタンパク質ドメインによって極めて単純に表すことができる。更に、特異的な細胞内局在化(原形質膜、核、膜間ミトコンドリア空間)は、プロテアーゼに対する基質の接近可能性についての追加の情報、および従ってタンパク質分解活性の分子内局在化についての情報を与えることができる。
【0109】
例4a: 原形質膜の内部表面にアンカーリングしたカスパーゼ3プローブ
この融合タンパク質では、細胞内アンカーリングドメインはネズミSNAP−25タンパク質の一部から構成されている。SNAP−25は分泌小胞融合過程に含まれるタンパク質であり、3個のシステイン残基のパルミトイル化によって原形質膜の細胞質ゾル表面に配置される。
【0110】
アミノ酸80−136(配列番号4)によって構成されている最小SNAP−25パルミトイル化ドメインを単離して、カスパーゼ3開裂部位を含むリンカーを介して蛍光タンパク質に融合した。
【0111】
この融合タンパク質は、従って原形質膜に配置されており、その蛍光シグナルはジギトニンによる透過性化に抵抗性である。カスパーゼ3のタンパク質分解活性はリンカーを開裂し、細胞質ゾルにおける蛍光の再分布を引き起こし、シグナルは透過性化の後には失われる(図7)。フローサイトメトリーでは、このプローブは以前に報告された外部ミトコンドリア膜にアンカーリングしたプローブと完全に比較できる結果を与える。
【0112】
例4b: 内部ミトコンドリア膜の外部表面にアンカーリングしたカスパーゼ3プローブ
この第二の実施例では、プローブのアンカーリングに用いたタンパク質ドメインは、ミトコンドリアアデニントランスロケーター(ANT2)(配列番号8)の全配列によって表される。これは、N末端が膜間空間に露出している内部ミトコンドリア膜の内在性タンパク質である。開裂性リンカーを有する蛍光タンパク質は、この末端で融合した。
【0113】
従って、
(i) この融合タンパク質はミトコンドリアに適性に配置されており、
(ii) 蛍光タンパク質はカスパーゼ3によって開裂可能であり、
(iii) 蛍光シグナルは、カスパーゼ3の開裂の後は透過性化に対して感受性になる
ことが示された(図8)。
【0114】
従って、この融合タンパク質は、本出願明細書に記載の測定原理によるカスパーゼ3の測定のプローブとして良好に働く。この実施例は、本発明の方法により、検討を行ったタンパク質分解活性の空間的分布についての追加情報を得ることができることも示しており、この場合には、膜間空間に閉じ込められているが、このプローブはカスパーゼ3によって開裂することができ、この細胞内空間はアポトーシス中にカスパーゼ3のような細胞質ゾルタンパク質に接近可能になることを示している。
【0115】
例4c: 核アンカーリングを有するカスパーゼ3プローブ
この第三の実施例は、細胞内アンカーリングは、高度に安定なタンパク質−タンパク質、およびタンパク質−核酸相互作用の効果によって得ることができることを示している。
【0116】
核局在化を有するカスパーゼ3プローブは、蛍光タンパク質をヒストンタンパク質2bとカスパーゼ3により開裂可能なリンカーを介して融合することによって得た。コントロール融合タンパク質H2B−GFP(カスパーゼ3についての特異的配列のない)は、核に極めて安定に配置され、ヌクレオソーム(多タンパク質複合体)中でのクロマチン(DNA)とのその相互作用によって、原形質膜の透過性化中に蛍光シグナルの抵抗性が示すように、これは拡散しない。アポトーシス中には、アポトーシスに特異的なエンドヌクレアーゼによるクロマチンのヌクレオソーム間開裂によって生じるDNAの分解を伴う後期段階においても、蛍光タンパク質はヌクレオソームに閉じ込められており、その分布は、アポトーシスに特徴的な濃縮核(pycnotic nuclei)の徴候によりクロマチンの分布の後に続く。
【0117】
カスパーゼ3開裂配列がヒストン(配列番号10)とGFPの間のリンカーに挿入されたタンパク質H2B−DEVD−GFPは、未処理細胞でのコントロールプローブと同様の作用を示す。他方では、アポトーシス誘導物質で処理した細胞では、GFPの蛍光はカスパーゼ3の活性化の際に核の外側に拡散し、細胞質に均一に分布する。この蛍光は、原形質膜の透過性化に感受性になる。透過性化実験は、このタンパク質が細胞核でのカスパーゼ3の活性を測定できるプローブとして良好に働くことを示している(図9)。
【0118】
例5: 本発明の方法の原理の他のタンパク質分解活性を測定するプローブへの応用
カスパーゼ3について開発した測定法を、プログラミングされた細胞死に含まれる2種類の他のプロテアーゼに拡張した。
【0119】
蛍光タンパク質とアンカーリングセグメントを連結するリンカー中に、主要な「開始」プロ−アポトーシスカスパーゼであるカスパーゼ8コンセンサス感知部位(IETD)を有する融合タンパク質GFP−cb5TMRRおよびGFP−SNAP(80−136)を構築した。同様の方法で、配列リンカー中に核局在化を有するプロテアーゼであるカスパーゼ2コンセンサス感知配列を含む融合タンパク質GFP−H2Bを構築した。このようにして用いられる感知成分は、配列として配列番号6および14(カスパーゼ8)および配列番号12(カスパーゼ2)を有する。これらのタンパク質は開裂可能であり、タンパク質分解活性の定量はカスパーゼ3について示したようにサイトメトリーによって行うことができる(図10)。
【0120】
例6: 実験的イン・ビボ腫瘍モデルにおけるフローサイトメトリーを用いる試験の応用例
この実施例では、本発明のプローブおよび方法の2つの他の応用を示し、第一のものは、連結した二重パラメーターフローサイトメトリー試験の開発に関し、第二のものは、動物モデルでの抗癌活性の評価におけるバイオセンサーの応用を記載している。
【0121】
例6a: 細胞サイクルに連結した測定
特定のプローブによって明らかにされる分子事象の測定を、細胞サイクルのような別の細胞パラメーターの測定と連結した二重試験における手法を応用することができる。細胞サイクルの測定は、透過性化細胞懸濁液に十分な濃度のヨウ化プロピジウム(0.4−0.8mg/ml)を加えることによって伝統的な方法で行うことができる。PIをゲノムDNAに挿入させるため細胞を30分間インキュベーションした後、同時に「緑色」蛍光(FL1=緑色範囲に放射するGFPまたは別の蛍光タンパク質に基づく組換えバイオセンサーシグナル)および「赤色」蛍光(FL3=細胞サイクルの読み取りをできるようにするそれぞれの細胞のクロマチン含量に相当するPIの強度)を測定することによるフローサイトメトリーを用いて分析した。
【0122】
このようにして、この手法は、同時的にサイクルの様々な相における細胞個体群の分布を追跡し且つプローブによって特異的に検出された分子事象を追跡することができる。特に、この手法は、
検討した分子過程の活性化と細胞サイクルの所定の相の間の可能な関係を検出することができ、
抗癌分子の候補のスクリーニングに用いると、細胞増殖抑制活性のみを有する化合物、プロ−アポトーシス活性のみを有する化合物、および細胞増殖抑制およびプロ−アポトーシス活性を両方とも有する化合物を同時に同定することができる
という2つの主要な利点を有する。
【0123】
図11は、連結試験「Bax/細胞サイクルの活性化」において抗癌剤として用いた幾つかのプロ−アポトーシス薬の効果を示す(凡例参照)。同様に、連結試験「カスパーゼ3/細胞サイクルの活性化」(図示せず)は、良好に行われた。
【0124】
例6b: 異種移植腫瘍を有するマウスにおけるイン・ビボでの抗癌活性の評価におけるバイオセンサーの応用
イン・ビボでの「ヌード」マウス(細胞性免疫を欠く)におけるヒト腫瘍細胞系の皮下異種移植は、抗癌性の潜在能力を有する新たな分子の有効性の評価のための古典的前臨床モデルである。しかしながら、この評価は、一般的に確立した腫瘍の大きさと成長の単なる測定に基づいており、従って正確な分子的目的で試験した分子の「巨視的」効果を関連付けることはできない。
【0125】
この実施例は、この異種移植法が、Baxとカスパーゼ3の活性化を測定する組換えバイオセンサーを安定に発現する細胞系に応用可能であることを示している。
【0126】
「ヌード」マウスに皮下投与したこれらの系(それぞれ、系10および系23)は、数日後に固形の蛍光性腫瘍を形成する。
【0127】
これらのイン・ビボ腫瘍は、腫瘍組織の水準で試験した生成物の特異的分子活性について情報が得られるので、潜在的抗癌能力を有する新規分子の有効性の評価のための新しい種類のモデルを表しており(図12)、総ては古典的な巨視的形態測定による測定ができ、従ってイン・ビボでの「分子効果/腫瘍増殖に対する効果」を相関させることができる。
【0128】
参考文献
1) FerriK. F., Kroemer G. (2001).「細胞死経路の細胞小器官特異的開始」.Nat. Cell. Biol. 3(11) : E255-63
2) Suzuki M., Youle R. J., Tjandra N. (2000).「Baxの構造: 二量体形成と細胞内局在化の同時調節」.Cell10 ; 103 (4) : 645-54
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】透過性化なしでおよびジギトニンによる透過性化有りでT=0およびT=300秒におけるキメラタンパク質GFP−Baxを安定に発現するヒト細胞クローンの蛍光顕微鏡法。曲線は点a、bおよびcに相当する。
【図2A】様々な条件下でのクローン10個体群の蛍光プロフィール。
【図2B】様々な条件下でのクローン10個体群の蛍光プロフィール。
【図2C】様々な条件下でのクローン10個体群の蛍光プロフィール。
【図3】様々な条件下でのBax活性化の変動(実施例参照)。
【図4】様々な条件下でのBax活性化の棒グラフ(実施例参照)。
【図5】プラスミドpEGFP−Bax。
【図6】カスパーゼ3の定量。
【図7】原形質膜の内部表面にアンカーリングしたカスパーゼ3プローブの発生。a)融合タンパク質GFP−DEVD−SNAP(80−136)、b)および非開裂性コントロール(プロテアーゼに対するコンセンサス部位のない同じ融合タンパク質)の模式的表現。c)一過的にトランスフェクションし、スタウロスポリンで処理したヒトSH−SY5Y神経芽細胞腫の2個の細胞における共焦顕微鏡法によって観察した開裂に続く細胞質ゾルにおける蛍光タンパク質の放出。d)タンパク質GFP−DEVD−SNAP(80−136)で一過的にトランスフェクションしたヒトHeLa細胞の個体群における活性化カスパーゼ3を提示する細胞の比率のフローサイトメトリーによる測定。
【図8】内部ミトコンドリア膜の外部表面にアンカーリングしたカスパーゼ3プローブの発生。a)融合タンパク質GFP−DEVD−ANT2、b)および非開裂性コントロール(プロテアーゼに対するコンセンサス部位のない同じ融合タンパク質)の模式的表現。c)特異的ミトコンドリアマーカー(mt−dsRed2)で同時トランスフェクションしたサルCOS−7細胞における融合タンパク質(GFP−DEVD−ANT)のミトコンドリア局在化。d)様々な刺激(1μMスタウロスポリンまたは200mJ/cm2 UV)によってアポトーシスが誘導された一過的にトランスフェクションしたHeLa細胞における非開裂性コントロールおよびGFP−DEVD−cb5TMRRタンパク質と比較した融合タンパク質GFP−DEVD−ANT2の開裂のフローサイトメトリーによる検出。e)GFP−DEVD−ANTおよびHcRed−DEVD−Cb5RRで一過的に同時トランスフェクションしてスタウロスポリンで処理した2つのヒトHeLa細胞における共焦顕微鏡法によって観察したその開裂の後の細胞質ゾルにおける蛍光タンパク質の放出。細胞質ゾルにおける蛍光シグナルの開裂および拡散の定量は、核の領域におけるそれぞれ緑色および赤色蛍光シグナルの増加を測定することによって行う。
【図9】核アンカーリングを有するカスパーゼ3プローブの発生。a)融合タンパク質H2B−DEVD−GFP、およびb)非開裂性コントロール(プロテアーゼに対するコンセンサス部位のない同じ融合タンパク質)の模式的表現。c)一過的にトランスフェクションしたヒトHeLa細胞における蛍光タンパク質の分布:左側、未処理細胞(核分布);右側、スタウロスポリンで処理した細胞(細胞質ゾル分布)。d)H2B−DEVD−GFPおよびHcRed−DEVD−Cb5RR(外部ミトコンドリア膜にアンカーリングしたカスパーゼ3プローブ)で一過的に同時トランスフェクションしてスタウロスポリンで処理した2つのヒトHeLa細胞における共焦顕微鏡法によって観察したその開裂の後の細胞質ゾルにおける蛍光タンパク質の放出。それぞれ、タンパク質H2B−DEVD−GFPについての核から細胞質ゾルまでのおよびタンパク質HcRed−DEVD−Cb5RRについての細胞質ゾルから核までの蛍光シグナルの開裂および拡散の定量は、蛍光シグナル、それぞれ、細胞の細胞質ゾル領域における緑色および核の領域における赤色の増加を測定することによって行う。e)タンパク質H2B−DEVD−GFPおよびその非開裂性コントロールを用いて一過的にトランスフェクションしたHeLa細胞の個体群における透過性化の後、蛍光の保持比率を定量することによるプローブの機能性のフローサイトメトリーによる評価。
【図10】カスパーゼ8および2の活性を測定するためのプローブの発生。a)融合タンパク質GFP−IETD−cb5−TMD−RR、およびb)GFP−IETD−SNAP(80−136)の模式的表示。c)GFP−IETD−cb5−TMD−RRタンパク質およびGFP−IETD−SNAP(80−136)で一過的にトランスフェクションしてTNF−αで処理したHeLa細胞の個体群における蛍光の保持率の定量によるプローブの機能性のフローサイトメトリーによる評価。d)融合タンパク質GFP−IETD−H2Bの模式的表示。e)一過的にトランスフェクションしたHeLa細胞における蛍光タンパク質の分布:左側、未処理細胞(核分布);右側、スタウロスポリンで3時間処理した同じ細胞(細胞質ゾル分布)。
【図11】Bax活性化および細胞サイクルの連結測定。GFP−Bax融合タンパク質を安定に発現するクローン10細胞を、プロ−アポトーシス剤および/または細胞増殖抑制剤として作用する様々な薬剤で処理する。Bax活性化の測定は、ジギトニンによる透過性化の後に蛍光保持の評価によって以前に記載されたように行う。透過性化緩衝液では、ヨウ化プロピジウム(0.4−0.8mg/ml)を加え、細胞を4℃で30分間インキュベーションした。細胞サイクルの様々な相における細胞の分布は、赤色の蛍光の強度に基づいて読み取る。数値は、チャンネルFL1(GFP)およびFL3(DNA)における同時読み取りがBax活性化のプロ−アポトーシス効果と細胞サイクルに対する効果(期G1、SおよびG2/Mにおける分布の変更)をどのようにして同時評価することができるかを示している。更に、Bax活性化が細胞サイクルの優先的な期に起こるかどうかを評価することができる。最上部には、未処理コントロール細胞(C)とスタウロスポリン(ST 0.1)で処理した細胞を示す(サイクルまたはサイクルの任意の期におけるBax活性化の誘導に対する効果はない)。最下部には、カンプトテシン(CAM)による処理(ブロックは期S、Bax活性化は優先的に期G1)、コルセミド(COLC)による処理(蓄積は期G2、Bax活性化はサイクルの総ての期)、ダウノルビシン(DNR)による処理(蓄積は期G2、Bax活性化は期S)が示されている。
【図12】蛍光バイオセンサーを発現する系の異種移植。a)ヌードマウスにおけるクローン10細胞(GFP−Baxを安定的に発現)の皮下異種移植片によって生成した固形腫瘍の断片の共焦顕微鏡法による画像(10x)。核(Hoechst)および活性化したBaxを有する細胞(GFP−Bax)の標識。右側には、ミトコンドリア(GFP−Bax)に再局在化したGFP−Baxを有する細胞と、相当する核標識(Hoechst)の詳細。b)ヌードマウスにおけるクローン23細胞(タンパク質copGFP−DEVD−cb5TMD−RRを安定的に発現)の皮下異種移植片によって生成した固形腫瘍の断片の共焦顕微鏡法による画像(10x)。核(Hoechst)およびバイオセンサー(カスパーゼ3プローブ)の分布の標識。右側には、組換えプローブの最も幅広のミトコンドリア分布の詳細。c)エトポシド(40mg/kg/日、4日間)で処理したマウス由来の異種移植クローン23腫瘍では、活性化カスパーゼ3を有する細胞の出現(矢印)(蛍光の細胞質ゾル分布)。
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、生存細胞におけるアポトーシスのような特異的分子事象を証明する方法に関する。
【0002】
背景技術
生存細胞におけるアポトーシスのような特異的分子事象を証明するには、通常はBaxタンパク質または活性化カスパーゼのようなアポトーシス現象に伴うマーカータンパク質のウェスタンブロット法または免疫蛍光法による検出のような若干数の手法が必要である。
【0003】
例えば、カスパーゼの場合には、細胞中のこれらのタンパク質の活性化の測定方法は、実施には本質的に時間がかかりすぎ且つ複雑すぎる。
【0004】
従って、カスパーゼの活性化を観察するための通常の方法であるウェスタンブロット法では、抗体はカスパーゼの基質タンパク質(PARPまたはカスパーゼ自身)に対して指定され、タンパク質分解の産物に相当する分子量バンドの出現が検出される。
【0005】
この手法は労力を要するものであり、多数の準備段階を必要とし、またカスパーゼ活性化は個々の細胞についてではなく細胞の個体群についてしか測定することができない。
【0006】
免疫蛍光法は、特異的方法で活性形態のカスパーゼを認識する抗体を用い、この手法を用いて固定細胞上で単細胞水準でそれを検出することができる。この手法では、個々の細胞を検出することができるが、労力を要するものであり、多数の準備段階を必要とする。
【0007】
蛍光性の化学プローブを含む手法も用いられる。数種類のものが市販されており、一般にそれらは、プロテアーゼの活性部位に強いアフィニティーを有し且つカスパーゼに固定されると蛍光シグナルを放出する化学生成物からなっている。これらのプローブは細胞中に浸透することができ、蛍光顕微鏡法および/またはサイトメトリーによってカスパーゼ活性を測定することができる。しかしながら、それらは装填プロトコールとそれらの価格によって限界が設けられており、中または高処理量試験には使用できない。
【0008】
最後に、遺伝子工学処理を行ったプローブであって、一過性または安定トランスフェクションによって細胞に導入することができるものを用いるFRET法に基づく組換えプローブがある。これらのプローブは(GFPスペクトル突然変異体である)蛍光タンパク質からなり、検出されるシグナルは蛍光エネルギー移動の現象から生じる。この原理は、プローブの開裂配列を含むリンカーによって互いに結合した2つのGFP突然変異体が蛍光移動シグナル(ドナー分子とアクセプター分子の相互作用によるドナー分子からの励起によるアクセプター分子からの放射)を生じることである。カスパーゼがリンカーを切断すると、2つのタンパク質が分離して、シグナルが消滅する。
【0009】
これらのプローブは幾つかの最近の公表文献の主題となっているが、問題点はFRETシグナルを検出することである(顕微鏡法およびサイトメトリーで適当なフィルターを用いる必要があるためにそれらの使用が限定される)。
【発明の概要】
【0010】
本発明による方法は、上記の手法を用いることなく、長たらしい準備や特に高価な試薬を用いる必要なしに顕微鏡法とサイトメトリーを用いる能力を維持しながら、細胞における特異的分子事象の検出に関する。
【0011】
実際に、後で明らかにするように、本発明による方法は、試料の複雑な準備を必要としない。
【0012】
プローブは細胞自身によって製造することができ且つ測定は単一の細胞上で蛍光顕微鏡法またはフローサイトメトリーによって行うことができるので、費用は極めて低い。
【0013】
トランスジェニック動物をこの種の手法で作製することができ、この試験をマイクロプレートに導入して高処理量系を作製することもできる。
【0014】
細胞における特異的分子事象の発生を証明するための本発明による方法は、
特異的分子事象の発生についての直接的または間接的マーカーである「結合した」(bound)マーカータンパク質の「可溶化」(solubilization)を(「可溶化した」(solubilized)マーカータンパク質の「結合」(bindig)とは別に)検出し、
上記マーカータンパク質が、上記検出の前に細胞中に存在し、
検出前に、細胞の「原形質膜」(plasma membrane)の透過性(permeabilization)を上昇させて、可溶化したタンパク質を細胞外媒質中に放出させ、
次に、可溶化(あるいは、結合(respectirely bindig))が起こったかどうか、従って相当する分子事象を決定することができる適当な手段によって、マーカータンパク質の存在を、細胞中または細胞外媒質中に検出する
ことを特徴とする。
【発明の具体的説明】
【0015】
通常は、マーカータンパク質は、可溶化(または結合)を行う感受性成分と検出を可能にする標識成分とからなっている。これは、蛍光タンパク質であることが多いことが分かるであろう。
【0016】
感受性成分は、観察しようとしている分子事象と直接関連しているタンパク質であることができ、すなわち測定しようとしている分子事象を構成しているのは特異的にその可溶化またはその結合であり、またはこの分子事象の誘導に続いて可溶化または結合を行うと思われるのは、測定を行う分子事象に間接的に関連しているタンパク質であることができ、これは例えばアポトーシスの際にカスパーゼによって誘導されるタンパク質分解における場合である。
【0017】
とにかく、感受性成分タンパク質は、分子事象が起こるときには、可溶化あるいは結合を行わなければならない。
【0018】
本明細書の説明において、タンパク質の「結合」とは、例えば膜、核または膜間のミトコンドリア空間など、好ましくは膜への細胞内アンカーリング(subcellular anchoring)、または上記タンパク質の細胞内区画化であって、これによってタンパク質が細胞の透過性化の際に細胞外媒質中へ拡散することができないことを意味する。同様に、タンパク質の細胞「可溶化」は、細胞の細胞質ゾルに遊離タンパク質の形態でマーカータンパク質が存在し、このタンパク質が細胞の透過性化の際に外部媒質中に拡散することができるようになることを示唆している。
【0019】
原形質膜の選択的透過性化を行うときには、マーカータンパク質が結合しているとき、すなわち、これが細胞内レベルで、特に区画化された膜にアンカーリングされているときには、細胞中に結合したままであり、細胞外媒質中に通過せず、反対にタンパク質が可溶性であるときには、すなわち細胞質ゾルに存在するときには、これは細胞外媒質中移行する。これらの条件下で観察すると、第一の場合の細胞は標識され、第二の場合の細胞は標識されない。
【0020】
細胞の標識は好ましくは蛍光による標識であり、従って容易に標識および未標識細胞を蛍光顕微鏡法によってまたはサイトメトリーによって検出される。これは、透過性化以外に試料の準備は必要としない。
【0021】
細胞中におけるマーカータンパク質の存在または、反対に、非存在を識別することができる他の種類のマーカーを用いることは理論的には可能であるが、蛍光手法における発展を考慮すれば、これが優れた手法であることは確かである。
【0022】
従って、マーカーを均質に発現する細胞個体群では、原形質膜の選択的透過性化は、分子事象が起こっている細胞を識別することができ、蛍光シグナルがこの細胞の部分母集団では特異的に保持され(あるいは失われ)るからである。
【0023】
フローサイトメトリーのよる分析により、測定した分子事象が起こり且つ上記分子事象と相互作用する薬剤の活性化および阻害効果を評価するための簡単な試験を提供する細胞個体群の割合を定量的に評価することができる。
【0024】
本明細書に記載の方法は、極めて限定された実験操作だけを必要とする(分画化なし、抗体固定またはインキュベーションなし、電気泳動なし、顕微鏡観察なし)。細胞回収、透過性化および分析に要する累積時間は、30分未満である(他の手法では、数時間を要し、数日間を要するものもある)。
【0025】
分画化(WB)または固定に関する人工産物を誘発することなく細胞内の目的のパラメーター、および多量の洗浄剤の使用を測定することができる(免疫蛍光)。
【0026】
最後に、この手法は、実験費用が安い(試薬なし、抗体なし)。
【0027】
マーカータンパク質は、上記タンパク質の発現ベクターによって細胞中に一過的に産生させることができるが、分子事象を検出する手段となることができる細胞系またはトランスジェニック動物におけるこのマーカータンパク質の構成的発現(constitutive expression)を予想することもできる。例えば、アポトーシスの場合には、これらの手段によりそれぞれの試験に適当なベクターによりトランスフェクションを行う必要なしにプロ−または抗−アポトーシス特性を有する産物を試験することができる。
【0028】
マーカータンパク質を発現させることができる手法は従来の技術で知られており、用いることができるプラスミドまたはベクターは、細胞、並びにプロモーターおよび発現の調節に関与する様々な要素によって変化することは当然である。
【0029】
同様に、マーカータンパク質の構成的発現を可能にする手法も知られており、それらは、組換え法などにより安定なまたは誘導可能なマーカータンパク質を細胞の染色体の一つへ導入することを含んでいる。
【0030】
本発明の好ましい態様では、マーカータンパク質は、
分子事象の発生の際に可溶化あるいは結合をそれ自身が行う感受性タンパク質、
蛍光性断片、特に蛍光タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、またはそれから誘導されるまたは同様の蛍光特性を有する任意のタンパク質
を含む融合タンパク質から構成される。
【0031】
実施例では、タンパク質EGFP、DsRed2、HcRedおよびcopGFPを用いたが、上記タンパク質の一連の突然変異体のような他のタンパク質を用いることもできる。
【0032】
一般に、タンパク質マーカーは、2種類のものを考えることができる。第一では、感受性成分が可溶化または結合を行うタンパク質要素によって構成されており、分子事象は直接測定しようとするものである。これは、例えばBaxの場合であり、以下において更に詳細に説明する。マーカータンパク質の第二の種類では、感受性成分が、測定しようとする分子事象を行うタンパク質と相互作用した後に可溶化または結合するタンパク質断片であることができる。これは、例えばカスパーゼ活性化に伴う場合であり、マーカータンパク質は、プロテアーゼ開裂部位と、この開裂部位のいずれかの側に、膜アンカーリング部位と蛍光タンパク質とを含む融合タンパク質となる。従って、プロテアーゼ活性化の際には、標識成分、すなわち蛍光タンパク質は開裂によって可溶化される。
【0033】
後者の場合には、アンカーリングタンパク質は、特に既知の膜貫通ドメインから選択することができ、特に、プロテアーゼ開裂部位を含むリンカーを介して蛍光タンパク質の末端に結合した外因性膜貫通ドメインとなる。
【0034】
以下の説明および実施例において、試験を行った膜貫通ドメインは、アンカー型(TA)タンパク質として知られているタンパク質のクラスに存在する短いC末端ドメインである。この膜貫通部分は突然変異によってミトコンドリア特異性付与されているが、膜におけるまたは蛍光部分が細胞質ゾルに露出したままである場合には他の膜(原形質膜、内皮網状組織の膜、ゴルジ体など)に向けられた他のタンパク質をアンカーリングするカセット、例えばミリストイル化またはパルミトイル化配列N末端膜貫通ドメインを用いることができる。
【0035】
この手法は、この特性を天然で有するタンパク質またはこの目的のために人工的に構築されたタンパク質に応用することができる。
【0036】
従って、本発明は、特異的分子事象の発生を証明する方法に関し、これはマーカータンパク質によって達成される。
【0037】
下記の実施例に示されるように、本発明による方法は、分子事象の発生の証明を細胞サイクルの測定、特に細胞サイクルの様々な時期における細胞個体群の分布の測定と連結することによって実行することができる。
【0038】
特に、このようなカップリングは、検出を行う分子事象がBax活性化(下記の実施例6a参照)、またはカスパーゼ3のようなカスパーゼの活性化(実施例6a参照)であるときに行うことができる。
【0039】
しかし、本発明は、
この方法の実行に有用なタンパク質マーカーであって、可溶化(結合)を行う感受性成分と、検出を行うことができるようにする標識成分を含むもの
にも関する。
【0040】
好ましくは、これは、上記のように、標識成分が蛍光タンパク質である融合タンパク質である。
【0041】
一態様によれば、本発明によるマーカータンパク質は、感受性成分であって、その配列が配列番号1、3、5、7、9、11および13の配列から選択される配列を含む核酸によってコードされるものを含んでいる。
【0042】
もう一つの態様によれば、本発明によるマーカータンパク質は、感受性成分であって、その配列が配列番号2、4、6、8、10、12および14の配列から選択される配列を含むものを含んでいる。
【0043】
本発明は、
適当な細胞環境でマーカータンパク質を発現するベクター、
安定的または一過的にマーカータンパク質を腫瘍細胞、好ましくはヒト腫瘍細胞であることができる上記細胞で発現することができる形質転換細胞
にも関する。
【0044】
本発明は、少なくとも1種類の細胞がマーカータンパク質を発現する、非ヒトトランスジェニック動物に関する。
【0045】
本発明は、
上記のような
形質転換細胞、および/または
ベクター、および/または
トランスジェニック動物
を含んでなる、上記態様の一つに記載の方法を実行するためのキットにも関する。
【0046】
更に、本発明の一態様は、抗癌化合物候補の活性を評価する方法である。
【0047】
このような方法は、好ましくはヒト起源の、マーカータンパク質を発現する形質転換腫瘍細胞における特異的分子事象の発生を証明する方法の実行を包含する。
【0048】
本発明の観点では、「化合物」は、生物学的、化学的、天然、組換えまたは合成など任意の種類の分子として定義される。例えば、化合物は、核酸(オリゴヌクレオチドなど)、タンパク質、脂肪酸、抗体、多糖類、ステロイド、プリン、ピリミジン、有機分子、化学ラジカルなどであることができる。「化合物」という用語は、断片、誘導体、構造類似体およびそれらの組合せも包含する。
【0049】
真核細胞では、特定の刺激に応答するシグナル形質導入経路を適当に活性化するための様々な方法が用いられる。転写制御(活性分子が新たに合成される)および転写後制御(既に存在するシグナル分子が、タンパク質分解、リン酸化またはタンパク質−タンパク質相互作用のような、それを活性化する変化を行う)の他に、ある場合には、細胞は区画化の適応を引き起こし、活性分子は既に細胞で発現されているが、これは亜細胞区画に閉じ込められ、その機能(例えば、ミトコンドリアマトリックスからのプロアポトーシス因子の放出、原形質膜での因子増加)を行うことができない。
【0050】
ある場合には、この種の適応は細胞内分布の変化のみならず、その不活性形態で可溶性細胞質ゾル形態になることができ且つその活性形態で膜と会合することができるタンパク質の溶解度の変化も伴う(例えば、Bcl−2ファミリーのプロアポトーシスタンパク質である小胞体によって活性化される転写因子)。従って、この種の事象は、蛍光タンパク質と組み合わせた融合タンパク質の構築による顕微鏡法およびフローサイトメトリーによって証明することができる(下記の実施例:Bax活性化を測定するためのプローブ、を参照されたい)。
【0051】
同様に、この種の方法を、測定を行うシグナルに関して相変化(changing phase)の特性が人工的に付与されたタンパク質マーカーの使用に応用することができる。特に、組換えタンパク質マーカーは、細胞内プロテアーゼの活性を測定する目的で構築することができる。これらのマーカータンパク質では、蛍光タンパク質は、活性を測定しようとするプロテアーゼの開裂部位を含むリンカー配列によって膜貫通ドメインと融合することによって細胞内膜に結合している。実施例に記載したカスパーゼ3プローブについて採用したのは、この種の方法である。
【0052】
透過性化段階は、理論上は本質的なものではない。実際に、例えば、蛍光の存在をそれが結合している細胞質ゾル中、膜上または区画内で蛍光顕微鏡法によって検出することは可能であるが、細胞の透過性化によって工程を自動化することができ、本発明の好ましい態様を構成する。
【0053】
細胞外媒質中で可溶性形態の蛍光マーカータンパク質を塩析することができるようにするには、当業者に知られている総ての適当な手法を用いることができる。特に、1〜100μM/mlの範囲、好ましくは5〜50μM/mlの濃度のジギトニンによる透過性化を用いることが好ましいが、サポニン−のような他の洗浄剤を極めて少量、例えば、0.5〜10μM/ml、好ましくは1μMのオーダーで、ストレプトリシンO(20〜500ng/ml)、または凍結−融解サイクルを用いることもできる。
【0054】
これにより、例えば、フローサイトメトリーによって検出を行うことができ、これは、マイクロプレートリーダー、蛍光顕微鏡、共焦顕微鏡などのような他の手法も用いることができる場合であっても、明らかにそれらよりずっと感度が高く且つ自動化可能である。
【0055】
本発明による方法は、多数の分子現象の証明、特に薬物として使用しようとする分子の抗−およびプロ−アポトーシス特性の研究に重要である。
【0056】
アポトーシスは、細胞を分解および死へと導く分子事象のカスケードからなる細胞死の高度に保存され且つ制御された過程である(1)。異常アポトーシスは、多数の癌の原因であり(アポトーシスの欠落)、これは神経変性過程の病因にも含まれる(過剰アポトーシス)(1)。
【0057】
アポトーシスの最終局面は、一方では特定のクラスのシステインプロテアーゼであるカスパーゼの活性化による、また他方では核クロマチンを分解するエンドヌクレアーゼの活性化による細胞構造の分解によって構成される(1)。
【0058】
プログラミングされた細胞死の過程を行う細胞は、数多くの多少特異的な形態学的および生化学的徴候を特徴とする。細胞凝縮、原形質膜泡状突起の形成、およびヨウ化プロピジウムに対する後者の透過性の出現のような一定の幾分特異的な形態学的変化は、光学顕微鏡法を用いる単純な観察によって容易に検出することができる。核の形態を明らかにするある種の核色素(Hoechst, DAPI)により、クロマチンの分解/凝縮を目に見えるようにすることができるようになっている。この後者のパラメーターも、典型的なDNAラダーパターンの出現による細胞個体群のゲノム材料の電気泳動によって、また単細胞水準ではアポトーシスエンドヌクレアーゼの作用によって産生したDNAの遊離末端の量を滴定する比色または蛍光標識であるTUNEL原理による顕微鏡法やフローサイトメトリーによって検出することも可能である。一般に測定される他の徴候には、カスパーゼ活性化(ウェスタンブロット法、フローサイトメトリー)、活性化したカスパーゼの基質のタンパク質分解(ウェスタンブロット法)、および原形質膜の外層上でのホスファチジルセリンの表示(フローサイトメトリー)が包含される。
【0059】
上記過程の上流には、自己破壊の過程を開始(アポトーシスを開始)する細胞を誘発する様々な細胞内シグナル経路があり、これらの誘導刺激は多様であり、相当する細胞内シグナルカスケードは誘導刺激および/または細胞モデルによって変化する可能性がある。
【0060】
これらの初期分子事象のあるものは重要なプロアポトーシス段階を表し、良好な感受性でそれらを特異的に検出する可能性、例えば、抗−またはプロ−アポトーシス活性化合物のスクリーニングの可能性が開く。
【0061】
Baxタンパク質の細胞質ゾルからミトコンドリア膜への再局在化は、アポトーシスのシグナリングの際の初期の一般的な事象である(2)。Baxの再局在化に続くホモオリゴマー化は、チトクロームcの放出を引き起こし、カスパーゼ9の活性化、次いでカスパーゼ3の活性化を引き起こすことによる細胞死を変更不能に生じる(2)。Baxは球状の細胞質ゾルタンパク質であり、その一次構造によりBcl−2ファミリーに分類することができる。Youleの研究(2)は、その再局在化およびその再分布における様々なBaxドメインによって行われる役割の理解に大きく貢献したが、その二次構造は、Tjandraの研究により核磁気共鳴(NMR)を用いてそれが解明されるまでは、知られていなかった(2)。22個の残基を含むへリックスα9によって構成されているBaxのC末端ドメインのコンホメーションは、極めて重要であることが明らかになった。細胞質可溶性形態のタンパク質では、このへリックスは疎水性キャビティーに静止しており、再局在化はへリックスを疎水性ポケットの外側に露出しているBaxのコンホメーション変化によって変化し、Baxの「露出した」(exposed)C末端ドメインは次にミトコンドリア膜への向性を得るのである。実施例に記載されるように、本発明の方法によって明らかにすることができるのは、このコンホメーションの変化である。
【0062】
本発明の他の特徴と利点は、添付の図面を参照しながら下記の実施例を読むことによって明らかになるであろう。
【実施例】
【0063】
例1: Baxタンパク質の活性化
下記の実施例は、アポトーシスの誘導の際のBaxタンパク質のコンホメーション変化を検出することができる簡単な試験を説明する。
【0064】
上記で示唆したように、正常な細胞では、Baxは疎水性の高いC末端が分子の静止によって保護されるように折りたたまれる(2)。アポトーシスの誘導の際には、タンパク質はその特性を変更するコンホメーション変化を行い、そのC末端の露出によりBaxのミトコンドリア再局在化を誘導する。この形態では、Baxは外部ミトコンドリア膜に安定に挿入された膜タンパク質のような挙動をとる。
【0065】
BaxのN末端におけるGFPの融合によって得られるキメラタンパク質を用いると、Baxの局在化を示す組換え蛍光プローブが得られる。
【0066】
キメラタンパク質は、天然タンパク質と同じ特性、特にコンホメーション変化を行うおよびアポトーシスの誘導中にミトコンドリアへ再局在化する能力を保持している。
【0067】
実行したモデルは、「クローン10」と呼ばれるクローンを用いている。
【0068】
これらは、ウイルスCMVプロモーターの制御下でキメラ融合タンパク質をコードするpEGFP−Baxプラスミドを用いるリン酸カルシウム法によってトランスフェクションし且つゲネテシン耐性を付与するHeLa(ヒト子宮頸部腫瘍)細胞である。
【0069】
用いられる基本的ベクターはClontech製の市販のPEGFP−C3(図5)であり、5’末端において停止コドンを欠いているGEP cDNAと同じ位相で融合したBax cDNAが挿入されている。
【0070】
トランスフェクションの4日後、細胞を1mg/ml濃度のゲネテシンG418に暴露すると、これは次週中に次第に0.1mg/mlまで減少する。2週間後、ゲネテシン耐性の若干数のクローンを蛍光顕微鏡下で選択することによって単離する。
【0071】
クローン10は、高比率の均一な蛍光細胞を細胞質ゾル水準で含み、この標識は経時的に安定である(約10回の実行)。細胞は、10%FCSおよび0.1mg/mlゲネテシンを補足したDMEM中で培養保持される。
【0072】
次に、試験は蛍光顕微鏡下でまたはフローサイトメトリーによる、Baxが活性化されておらず従って細胞質ゾルに均一に分布されている細胞、およびアポトーシスの誘導後にBaxが活性化されている細胞の観察に基づいている。後者の場合には、蛍光シグナルはミトコンドリアの周りに集まり、従ってBaxタンパク質は「結合」していると考えられる。
【0073】
Baxの結合または可溶化を証明するため、コントロール個体群とアポトーシス剤で処理した個体群をトリプシンで処理し、それらを培養皿から分離する。次に、細胞をジギトニン50μMの存在下で細胞内食塩溶液に再懸濁した後、フローサイトメトリーによって分析し、GFPの蛍光をチャンネルFL1で測定する。
【0074】
このようにして処理した細胞は図1に示されており、蛍光強度の非常に大きな降下がBaxが活性化されていない細胞で観察され、初期には、画像は均一に蛍光を示しているが、この蛍光は300秒後にはほとんど消失することを示している。
【0075】
反対に、Baxが活性化されているときには、相当する曲線から得られる定量的測定値から決定することができるように、蛍光はミトコンドリアに再分布し、透過性化を阻害することが注目される。
【0076】
図2は、FL1における様々なプロアポトーシス剤の存在下にて透過性化を有するおよびのないクローン10の個体群の蛍光の様々なプロフィールを示す。
【0077】
「A」は、透過性化を有するおよびのないクローン10の個体群コントロールの蛍光プロフィールを示す。分布ピークの左への移行が示すように、蛍光シグナルはジギトニンによる処理に感受性を有する。
【0078】
「B」は、FL1におけるBaxを活性化するプロ−アポトーシス剤(20μMセレナイト、6時間)で処理した個体群のサイトメトリープロフィールを示す。誘導物質を用いまたは用いることなく透過性化の後に得られるプロフィールを比較することによって、アポトーシス誘導物質の下では、蛍光シグナルは透過性化処理に耐性になっていることを観察することができる。
【0079】
「C」では、スタウロスポリン(1μM,6時間)またはTNF−α(10ng/ml,6時間+10μM CHX)によるアポトーシスの誘導下では、同じ差が見られる。
【0080】
例2: アポトーシス誘導下でのBaxのミトコンドリアへの再局在化の定量
この手法により、Baxのミトコンドリアへの再局在化が起こった細胞の比率を測定することによってBaxの誘導を評価することができる。
【0081】
この方法では、
遺伝子の発現がBax活性化を誘導するかどうかを分析し、
薬剤のプロ−アポトーシスまたは細胞保護能力を定量的に評価する
ことができる。
【0082】
外来遺伝子がBaxを活性化する能力を評価するため、クローン10を、GFPからスペクトル的に識別可能であり且つ細胞内膜または区画化(抗透過性化)した局在化、例えば、ミトコンドリアマトリックスに対して指定したDsRedを有する蛍光マーカーをコードする別のcDNAと会合した目的のタンパク質のcDNAでトランスフェクションする。後者の場合には、透過性化の後、チャンネルFL1で記録される蛍光強度(GFP)は常にBax活性化の水準を示すが、FL3におけるシグナルの強度(DsRed)は、細胞が目的のタンパク質を過剰発現するかどうかを示している。
【0083】
クローン10について二重パラメーター測定(bi-parametric measurement)を行うことによって、Bax活性化を目的のタンパク質の過剰発現に相関させることができる。
【0084】
図3Aおよび3Bに示された結果は、薬剤処理の後にBaxのミトコンドリアへの再局在化を行う細胞個体群の比率を示している。
【0085】
図3Aは、阻害剤の非存在下(曲線D)および阻害剤の存在下(曲線E)において20μMセレナイト、および同じ阻害剤Bの非存在下および存在下で40nMスタウロスポリンで処理した細胞個体群の経時的進展を表す。
【0086】
この手法によって、Bax活性化の動態はセレナイトでの処理中に阻害剤によって変更されないが、一方反対に、この阻害剤はスタウロスポリンには活性である。
【0087】
同様に、図4の棒グラフは、シクロヘキシミドの存在下にてUV放射線の影響下で40nMスタウロスポリン、50μMセラミドまたは0.1ng/ml TNFで24時間処理した後のBaxが活性化されている細胞の比率を表す。
【0088】
この手法は、このように様々な薬剤のプロ−アポトーシス特性を識別することができる。
【0089】
この手法は、Bax活性化およびそのミトコンドリアへの再局在化について現在利用可能な手法であって亜細胞分画化および様々な画分に含まれるBaxタンパク質の量のウェスタンブロット法による定量に基づく、または活性化のコンホメーション変化を行ったタンパク質を特異的に認識する抗体を用いる免疫蛍光による手法に関して、多くの利点を提示する。
【0090】
これらの手法と比較して、先に記載した方法は1つの大きく減少した実験操作しか必要とせず(累積時間は、他の手法については24時間であるのに対して30分未満である)、目的のパラメーターを、細胞内であっても、分画化または固定に関する人工生成物を誘発することなく且つ多量の洗浄剤(免疫蛍光)を用いることなく測定することができ、実験費用を低くする。
【0091】
例3: アポトーシス中のカスパーゼ3の活性の測定
アポトーシスの主要なエフェクターはカスパーゼであり、これは開裂部位におけるP1位のアスパルテートに対する絶対的特異性を特徴とするシステインプロテアーゼである。これらの酵素はいずれも、その活性部位に同一のペンタペプチド配列を含んでおり、カルパインのような他のプロテアーゼと共にアポトーシスの際の細胞で起こる多くのタンパク質分解事象に関与しており、正常な細胞機能に重要な役割を果たしているタンパク質基質の開裂を生じる(細胞骨格タンパク質、核タンパク質、またはDNA修復酵素)。
【0092】
カスパーゼ活性化は、2つの主要な経路をとることができる。第一は「ミトコンドリア」経路であって、タンパク質Apaf−1がdATPおよびミトコンドリアの膜間空間から放出されるチトクロームcの存在下にてプロカスパーゼ−9と相互作用し、「アポトソーム(apoptosome)」を形成することによって、カスパーゼ−9を活性化(プロカスパーゼ−9の自己触媒的開裂)した後にカスパーゼ−3を活性化することができる。他の経路は、原形質膜上のTNF受容体の上科の受容体の経路である。TNFR1またはFas(CD95またはAPO−1)とそれらの天然リガンドまたはモノクローナル抗体作動薬との相互作用により、DISC(死誘導シグナリング複合体)と呼ばれる多タンパク質細胞質複合体を集合させて、プロカスパーゼ−8の活性化によるアポトーシスカスケードを開始することができる。
【0093】
現在のところ、既に以前に記載されている限られた数の方法があるが、いずれもカスパーゼの活性を測定するには完全に満足なものではない。
【0094】
本発明の構成中では、アポトーシス細胞でのカスパーゼ活性を測定する顕微鏡法およびサイトメトリーに適当な新たな組換えプローブを用いる。
【0095】
この新規なプローブは、DsRed2またはEGFPのような蛍光タンパク質がカスパーゼ3コンセンサス部位を含む短いリンカーによって膜貫通配列に連結して、プローブを外部ミトコンドリア膜への特異的アンカーリングを確実に行う融合タンパク質からなっている。
【0096】
相当する配列は、配列番号1に記載されている。
【0097】
下線部分はカスパーゼ3開裂配列と、次に、特異的ミトコンドリアアドレッシングが付与されている突然変異したチトクロームb5の膜貫通ドメインを含む合成リンカーに相当する。
【0098】
アポトーシスの誘導の際に、活性化したカスパーゼ3は、蛍光タンパク質と膜貫通配列との間に挿入されたリンカーに含まれるDEVD配列を開裂する。以前に結合したGFPは、細胞の細胞質ゾル中の可溶性タンパク質となる。
【0099】
カスパーゼ3が活性化されていない細胞に結合したシグナルは、カスパーゼが活性化されている細胞中で可溶性になる。
【0100】
細胞をガラススライド上で培養して、以前に記載したベクターでトランスフェクションを行った後、インキュベーションチャンバー中の食塩水媒質に固定して、蛍光顕微鏡下で観察する。観察前または中は、それらはプロ−アポトーシス剤で処理する。カスパーゼ3の活性化およびその動態は、カスパーゼが一旦活性化されるとミトコンドリアから細胞質ゾルへと直ちに変化する蛍光シグナルの細胞内分布の変更を単に観察することによって明らかにすることができる
【0101】
しかし、カスパーゼ活性化をフローサイトメトリーによって測定するのが一層好都合である。
【0102】
コントロール個体群とアポトーシス剤で処理した個体群を、トリプシン処理によってそれらの培養皿から取り出した後、細胞を50μMジギトニンの存在下にて細胞内食塩水溶液に再懸濁する。次いで、細胞をフローサイトメトリーによって分析し、GFPの蛍光をチャンネルFL1で測定する。
【0103】
提示した手法は、蛍光センサーの開裂が起こっている細胞の比率を測定することによってカスパーゼ3の活性化を評価することができる。
【0104】
この方法を用いると、
遺伝子の発現がカスパーゼ3の活性化を誘導するかどうかを分析し、
薬剤のプロ−アポトーシスまたは細胞保護能力を定量的に評価する
ことができる。
【0105】
従って、図6は、様々なアポトーシス誘導物質で処理したHeLa細胞の個体群におけるカスパーゼ3の作用の定量を表している:UV照射(200mJ/cm2)、TNFα 100μg/ml、スタウロスポリン1μM 6時間、およびカスパーゼ阻害剤(ZVAD 50μM)の存在下でのスタウロスポリン1μM。
【0106】
もう一つのアポトーシスパラメーターの定量は平行して表される(このアポトーシス誘導モデルでは、カスパーゼ活性化によって変化するミトコンドリアの脱分極)。
【0107】
この方法は、様々な系に導入することができる総てのカスパーゼおよび多のプロテアーゼに直接一般化することができ、また当業者であれば相当するベクターを作製することができるであろう。
【0108】
例4: 他の亜細胞プローブアンカーリング法
上記のカスパーゼ3プローブは、外部ミトコンドリア膜に埋設されている短い膜貫通ドメインからなる膜アンカーリングを基剤としている(突然変異チトクロームb5 C末端セグメント)。従って、このタンパク質ドメインは融合タンパク質にミトコンドリア分布と、原形質膜の選択的透過性化に関して抵抗する特性を付与する。この実施例では、試験の原理を、原形質膜の透過性化に対する蛍光シグナルの抵抗性を含む他の細胞内アンカーリング法に拡張することができることが示されている。アンカーリングの種類は、必ずしも膜貫通ドメイン自身によって表すことはできないが、その分子相互作用またはその翻訳後修飾によって、融合している蛍光タンパク質に目的のプロテアーゼによる開裂の後に細胞質ゾルまたは細胞外環境で「アンカーリング」しているが潜在的に拡散可能な状態を付与するタンパク質ドメインによって極めて単純に表すことができる。更に、特異的な細胞内局在化(原形質膜、核、膜間ミトコンドリア空間)は、プロテアーゼに対する基質の接近可能性についての追加の情報、および従ってタンパク質分解活性の分子内局在化についての情報を与えることができる。
【0109】
例4a: 原形質膜の内部表面にアンカーリングしたカスパーゼ3プローブ
この融合タンパク質では、細胞内アンカーリングドメインはネズミSNAP−25タンパク質の一部から構成されている。SNAP−25は分泌小胞融合過程に含まれるタンパク質であり、3個のシステイン残基のパルミトイル化によって原形質膜の細胞質ゾル表面に配置される。
【0110】
アミノ酸80−136(配列番号4)によって構成されている最小SNAP−25パルミトイル化ドメインを単離して、カスパーゼ3開裂部位を含むリンカーを介して蛍光タンパク質に融合した。
【0111】
この融合タンパク質は、従って原形質膜に配置されており、その蛍光シグナルはジギトニンによる透過性化に抵抗性である。カスパーゼ3のタンパク質分解活性はリンカーを開裂し、細胞質ゾルにおける蛍光の再分布を引き起こし、シグナルは透過性化の後には失われる(図7)。フローサイトメトリーでは、このプローブは以前に報告された外部ミトコンドリア膜にアンカーリングしたプローブと完全に比較できる結果を与える。
【0112】
例4b: 内部ミトコンドリア膜の外部表面にアンカーリングしたカスパーゼ3プローブ
この第二の実施例では、プローブのアンカーリングに用いたタンパク質ドメインは、ミトコンドリアアデニントランスロケーター(ANT2)(配列番号8)の全配列によって表される。これは、N末端が膜間空間に露出している内部ミトコンドリア膜の内在性タンパク質である。開裂性リンカーを有する蛍光タンパク質は、この末端で融合した。
【0113】
従って、
(i) この融合タンパク質はミトコンドリアに適性に配置されており、
(ii) 蛍光タンパク質はカスパーゼ3によって開裂可能であり、
(iii) 蛍光シグナルは、カスパーゼ3の開裂の後は透過性化に対して感受性になる
ことが示された(図8)。
【0114】
従って、この融合タンパク質は、本出願明細書に記載の測定原理によるカスパーゼ3の測定のプローブとして良好に働く。この実施例は、本発明の方法により、検討を行ったタンパク質分解活性の空間的分布についての追加情報を得ることができることも示しており、この場合には、膜間空間に閉じ込められているが、このプローブはカスパーゼ3によって開裂することができ、この細胞内空間はアポトーシス中にカスパーゼ3のような細胞質ゾルタンパク質に接近可能になることを示している。
【0115】
例4c: 核アンカーリングを有するカスパーゼ3プローブ
この第三の実施例は、細胞内アンカーリングは、高度に安定なタンパク質−タンパク質、およびタンパク質−核酸相互作用の効果によって得ることができることを示している。
【0116】
核局在化を有するカスパーゼ3プローブは、蛍光タンパク質をヒストンタンパク質2bとカスパーゼ3により開裂可能なリンカーを介して融合することによって得た。コントロール融合タンパク質H2B−GFP(カスパーゼ3についての特異的配列のない)は、核に極めて安定に配置され、ヌクレオソーム(多タンパク質複合体)中でのクロマチン(DNA)とのその相互作用によって、原形質膜の透過性化中に蛍光シグナルの抵抗性が示すように、これは拡散しない。アポトーシス中には、アポトーシスに特異的なエンドヌクレアーゼによるクロマチンのヌクレオソーム間開裂によって生じるDNAの分解を伴う後期段階においても、蛍光タンパク質はヌクレオソームに閉じ込められており、その分布は、アポトーシスに特徴的な濃縮核(pycnotic nuclei)の徴候によりクロマチンの分布の後に続く。
【0117】
カスパーゼ3開裂配列がヒストン(配列番号10)とGFPの間のリンカーに挿入されたタンパク質H2B−DEVD−GFPは、未処理細胞でのコントロールプローブと同様の作用を示す。他方では、アポトーシス誘導物質で処理した細胞では、GFPの蛍光はカスパーゼ3の活性化の際に核の外側に拡散し、細胞質に均一に分布する。この蛍光は、原形質膜の透過性化に感受性になる。透過性化実験は、このタンパク質が細胞核でのカスパーゼ3の活性を測定できるプローブとして良好に働くことを示している(図9)。
【0118】
例5: 本発明の方法の原理の他のタンパク質分解活性を測定するプローブへの応用
カスパーゼ3について開発した測定法を、プログラミングされた細胞死に含まれる2種類の他のプロテアーゼに拡張した。
【0119】
蛍光タンパク質とアンカーリングセグメントを連結するリンカー中に、主要な「開始」プロ−アポトーシスカスパーゼであるカスパーゼ8コンセンサス感知部位(IETD)を有する融合タンパク質GFP−cb5TMRRおよびGFP−SNAP(80−136)を構築した。同様の方法で、配列リンカー中に核局在化を有するプロテアーゼであるカスパーゼ2コンセンサス感知配列を含む融合タンパク質GFP−H2Bを構築した。このようにして用いられる感知成分は、配列として配列番号6および14(カスパーゼ8)および配列番号12(カスパーゼ2)を有する。これらのタンパク質は開裂可能であり、タンパク質分解活性の定量はカスパーゼ3について示したようにサイトメトリーによって行うことができる(図10)。
【0120】
例6: 実験的イン・ビボ腫瘍モデルにおけるフローサイトメトリーを用いる試験の応用例
この実施例では、本発明のプローブおよび方法の2つの他の応用を示し、第一のものは、連結した二重パラメーターフローサイトメトリー試験の開発に関し、第二のものは、動物モデルでの抗癌活性の評価におけるバイオセンサーの応用を記載している。
【0121】
例6a: 細胞サイクルに連結した測定
特定のプローブによって明らかにされる分子事象の測定を、細胞サイクルのような別の細胞パラメーターの測定と連結した二重試験における手法を応用することができる。細胞サイクルの測定は、透過性化細胞懸濁液に十分な濃度のヨウ化プロピジウム(0.4−0.8mg/ml)を加えることによって伝統的な方法で行うことができる。PIをゲノムDNAに挿入させるため細胞を30分間インキュベーションした後、同時に「緑色」蛍光(FL1=緑色範囲に放射するGFPまたは別の蛍光タンパク質に基づく組換えバイオセンサーシグナル)および「赤色」蛍光(FL3=細胞サイクルの読み取りをできるようにするそれぞれの細胞のクロマチン含量に相当するPIの強度)を測定することによるフローサイトメトリーを用いて分析した。
【0122】
このようにして、この手法は、同時的にサイクルの様々な相における細胞個体群の分布を追跡し且つプローブによって特異的に検出された分子事象を追跡することができる。特に、この手法は、
検討した分子過程の活性化と細胞サイクルの所定の相の間の可能な関係を検出することができ、
抗癌分子の候補のスクリーニングに用いると、細胞増殖抑制活性のみを有する化合物、プロ−アポトーシス活性のみを有する化合物、および細胞増殖抑制およびプロ−アポトーシス活性を両方とも有する化合物を同時に同定することができる
という2つの主要な利点を有する。
【0123】
図11は、連結試験「Bax/細胞サイクルの活性化」において抗癌剤として用いた幾つかのプロ−アポトーシス薬の効果を示す(凡例参照)。同様に、連結試験「カスパーゼ3/細胞サイクルの活性化」(図示せず)は、良好に行われた。
【0124】
例6b: 異種移植腫瘍を有するマウスにおけるイン・ビボでの抗癌活性の評価におけるバイオセンサーの応用
イン・ビボでの「ヌード」マウス(細胞性免疫を欠く)におけるヒト腫瘍細胞系の皮下異種移植は、抗癌性の潜在能力を有する新たな分子の有効性の評価のための古典的前臨床モデルである。しかしながら、この評価は、一般的に確立した腫瘍の大きさと成長の単なる測定に基づいており、従って正確な分子的目的で試験した分子の「巨視的」効果を関連付けることはできない。
【0125】
この実施例は、この異種移植法が、Baxとカスパーゼ3の活性化を測定する組換えバイオセンサーを安定に発現する細胞系に応用可能であることを示している。
【0126】
「ヌード」マウスに皮下投与したこれらの系(それぞれ、系10および系23)は、数日後に固形の蛍光性腫瘍を形成する。
【0127】
これらのイン・ビボ腫瘍は、腫瘍組織の水準で試験した生成物の特異的分子活性について情報が得られるので、潜在的抗癌能力を有する新規分子の有効性の評価のための新しい種類のモデルを表しており(図12)、総ては古典的な巨視的形態測定による測定ができ、従ってイン・ビボでの「分子効果/腫瘍増殖に対する効果」を相関させることができる。
【0128】
参考文献
1) FerriK. F., Kroemer G. (2001).「細胞死経路の細胞小器官特異的開始」.Nat. Cell. Biol. 3(11) : E255-63
2) Suzuki M., Youle R. J., Tjandra N. (2000).「Baxの構造: 二量体形成と細胞内局在化の同時調節」.Cell10 ; 103 (4) : 645-54
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】透過性化なしでおよびジギトニンによる透過性化有りでT=0およびT=300秒におけるキメラタンパク質GFP−Baxを安定に発現するヒト細胞クローンの蛍光顕微鏡法。曲線は点a、bおよびcに相当する。
【図2A】様々な条件下でのクローン10個体群の蛍光プロフィール。
【図2B】様々な条件下でのクローン10個体群の蛍光プロフィール。
【図2C】様々な条件下でのクローン10個体群の蛍光プロフィール。
【図3】様々な条件下でのBax活性化の変動(実施例参照)。
【図4】様々な条件下でのBax活性化の棒グラフ(実施例参照)。
【図5】プラスミドpEGFP−Bax。
【図6】カスパーゼ3の定量。
【図7】原形質膜の内部表面にアンカーリングしたカスパーゼ3プローブの発生。a)融合タンパク質GFP−DEVD−SNAP(80−136)、b)および非開裂性コントロール(プロテアーゼに対するコンセンサス部位のない同じ融合タンパク質)の模式的表現。c)一過的にトランスフェクションし、スタウロスポリンで処理したヒトSH−SY5Y神経芽細胞腫の2個の細胞における共焦顕微鏡法によって観察した開裂に続く細胞質ゾルにおける蛍光タンパク質の放出。d)タンパク質GFP−DEVD−SNAP(80−136)で一過的にトランスフェクションしたヒトHeLa細胞の個体群における活性化カスパーゼ3を提示する細胞の比率のフローサイトメトリーによる測定。
【図8】内部ミトコンドリア膜の外部表面にアンカーリングしたカスパーゼ3プローブの発生。a)融合タンパク質GFP−DEVD−ANT2、b)および非開裂性コントロール(プロテアーゼに対するコンセンサス部位のない同じ融合タンパク質)の模式的表現。c)特異的ミトコンドリアマーカー(mt−dsRed2)で同時トランスフェクションしたサルCOS−7細胞における融合タンパク質(GFP−DEVD−ANT)のミトコンドリア局在化。d)様々な刺激(1μMスタウロスポリンまたは200mJ/cm2 UV)によってアポトーシスが誘導された一過的にトランスフェクションしたHeLa細胞における非開裂性コントロールおよびGFP−DEVD−cb5TMRRタンパク質と比較した融合タンパク質GFP−DEVD−ANT2の開裂のフローサイトメトリーによる検出。e)GFP−DEVD−ANTおよびHcRed−DEVD−Cb5RRで一過的に同時トランスフェクションしてスタウロスポリンで処理した2つのヒトHeLa細胞における共焦顕微鏡法によって観察したその開裂の後の細胞質ゾルにおける蛍光タンパク質の放出。細胞質ゾルにおける蛍光シグナルの開裂および拡散の定量は、核の領域におけるそれぞれ緑色および赤色蛍光シグナルの増加を測定することによって行う。
【図9】核アンカーリングを有するカスパーゼ3プローブの発生。a)融合タンパク質H2B−DEVD−GFP、およびb)非開裂性コントロール(プロテアーゼに対するコンセンサス部位のない同じ融合タンパク質)の模式的表現。c)一過的にトランスフェクションしたヒトHeLa細胞における蛍光タンパク質の分布:左側、未処理細胞(核分布);右側、スタウロスポリンで処理した細胞(細胞質ゾル分布)。d)H2B−DEVD−GFPおよびHcRed−DEVD−Cb5RR(外部ミトコンドリア膜にアンカーリングしたカスパーゼ3プローブ)で一過的に同時トランスフェクションしてスタウロスポリンで処理した2つのヒトHeLa細胞における共焦顕微鏡法によって観察したその開裂の後の細胞質ゾルにおける蛍光タンパク質の放出。それぞれ、タンパク質H2B−DEVD−GFPについての核から細胞質ゾルまでのおよびタンパク質HcRed−DEVD−Cb5RRについての細胞質ゾルから核までの蛍光シグナルの開裂および拡散の定量は、蛍光シグナル、それぞれ、細胞の細胞質ゾル領域における緑色および核の領域における赤色の増加を測定することによって行う。e)タンパク質H2B−DEVD−GFPおよびその非開裂性コントロールを用いて一過的にトランスフェクションしたHeLa細胞の個体群における透過性化の後、蛍光の保持比率を定量することによるプローブの機能性のフローサイトメトリーによる評価。
【図10】カスパーゼ8および2の活性を測定するためのプローブの発生。a)融合タンパク質GFP−IETD−cb5−TMD−RR、およびb)GFP−IETD−SNAP(80−136)の模式的表示。c)GFP−IETD−cb5−TMD−RRタンパク質およびGFP−IETD−SNAP(80−136)で一過的にトランスフェクションしてTNF−αで処理したHeLa細胞の個体群における蛍光の保持率の定量によるプローブの機能性のフローサイトメトリーによる評価。d)融合タンパク質GFP−IETD−H2Bの模式的表示。e)一過的にトランスフェクションしたHeLa細胞における蛍光タンパク質の分布:左側、未処理細胞(核分布);右側、スタウロスポリンで3時間処理した同じ細胞(細胞質ゾル分布)。
【図11】Bax活性化および細胞サイクルの連結測定。GFP−Bax融合タンパク質を安定に発現するクローン10細胞を、プロ−アポトーシス剤および/または細胞増殖抑制剤として作用する様々な薬剤で処理する。Bax活性化の測定は、ジギトニンによる透過性化の後に蛍光保持の評価によって以前に記載されたように行う。透過性化緩衝液では、ヨウ化プロピジウム(0.4−0.8mg/ml)を加え、細胞を4℃で30分間インキュベーションした。細胞サイクルの様々な相における細胞の分布は、赤色の蛍光の強度に基づいて読み取る。数値は、チャンネルFL1(GFP)およびFL3(DNA)における同時読み取りがBax活性化のプロ−アポトーシス効果と細胞サイクルに対する効果(期G1、SおよびG2/Mにおける分布の変更)をどのようにして同時評価することができるかを示している。更に、Bax活性化が細胞サイクルの優先的な期に起こるかどうかを評価することができる。最上部には、未処理コントロール細胞(C)とスタウロスポリン(ST 0.1)で処理した細胞を示す(サイクルまたはサイクルの任意の期におけるBax活性化の誘導に対する効果はない)。最下部には、カンプトテシン(CAM)による処理(ブロックは期S、Bax活性化は優先的に期G1)、コルセミド(COLC)による処理(蓄積は期G2、Bax活性化はサイクルの総ての期)、ダウノルビシン(DNR)による処理(蓄積は期G2、Bax活性化は期S)が示されている。
【図12】蛍光バイオセンサーを発現する系の異種移植。a)ヌードマウスにおけるクローン10細胞(GFP−Baxを安定的に発現)の皮下異種移植片によって生成した固形腫瘍の断片の共焦顕微鏡法による画像(10x)。核(Hoechst)および活性化したBaxを有する細胞(GFP−Bax)の標識。右側には、ミトコンドリア(GFP−Bax)に再局在化したGFP−Baxを有する細胞と、相当する核標識(Hoechst)の詳細。b)ヌードマウスにおけるクローン23細胞(タンパク質copGFP−DEVD−cb5TMD−RRを安定的に発現)の皮下異種移植片によって生成した固形腫瘍の断片の共焦顕微鏡法による画像(10x)。核(Hoechst)およびバイオセンサー(カスパーゼ3プローブ)の分布の標識。右側には、組換えプローブの最も幅広のミトコンドリア分布の詳細。c)エトポシド(40mg/kg/日、4日間)で処理したマウス由来の異種移植クローン23腫瘍では、活性化カスパーゼ3を有する細胞の出現(矢印)(蛍光の細胞質ゾル分布)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞における特異的分子事象の発生を証明する方法であって、
特異的分子事象の発生についての直接的または間接的マーカーである「結合した」マーカータンパク質の「可溶化」(あるいは「可溶化」マーカータンパク質の「結合」)を検出し、
上記マーカータンパク質が、上記検出の前に細胞中に存在し、
検出前に、細胞の原形質膜の透過性を上昇させて、可溶化したタンパク質を細胞外媒質中に放出させ、
次に、可溶化(あるいは、結合)が起こったかどうか、従って相当する分子事象を決定することができる適当な手段によって、マーカータンパク質の存在を、細胞中または細胞外媒質中に検出する
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
タンパク質の細胞内アンカーリング、好ましくは膜アンカーリングによって、または、細胞内レベルでのタンパク質の区画化によって、タンパク質の細胞「結合」を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質の細胞可溶化を、細胞質ゾル中のマーカータンパク質の放出によって行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
マーカータンパク質が蛍光断片を含む融合タンパク質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
マーカータンパク質が発現ベクターによって細胞中に産生される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
マーカータンパク質が細胞によって構成的に産生する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
膜の透過性を上昇させた後、フローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡法によって、細胞における蛍光タンパク質の可溶化あるいは結合を検出する、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分子事象の発生によりマーカータンパク質が開裂または修飾され且つそれが可溶化される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
分子事象の発生により、マーカータンパク質の細胞内アンカーリング断片、好ましくは膜アンカーリング断片が出現し、マーカータンパク質が結合し、またはマーカータンパク質が区画化される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
検出する分子事象がBax活性化であり、マーカータンパク質がBax−蛍光タンパク質融合タンパク質であり、蛍光タンパク質がBaxのN−末端に融合しており且つBax活性化の事象においてBaxが結合している、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
検出する分子事象がプロテアーゼの活性化であり、マーカータンパク質がプロテアーゼ開裂部位と、いずれかの側に細胞内アンカーリング部位、好ましくは膜アンカーリング部位と蛍光タンパク質を含む融合タンパク質であり、プロテアーゼが発現するときにマーカー分子が開裂によって可溶化し、蛍光タンパク質が放出される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
プロテアーゼがカスパーゼである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
分子事象の発生の証明を、細胞サイクルの測定、特に細胞サイクルの様々な段階における細胞個体群の分布の測定と結びつけて考える、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
分子事象がBaxの活性化またはカスパーゼの活性化である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
可溶化(結合)を行う感受性成分と検出できるようにする標識成分を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法で用いるマーカータンパク質。
【請求項16】
融合タンパク質であって、その標識成分が蛍光タンパク質である、請求項15に記載のタンパク質。
【請求項17】
感受性成分の配列が、配列番号1、3、5、7、9、11および13の配列から選択される配列を含んでなる核酸によってコードされる、請求項15または16に記載のマーカータンパク質。
【請求項18】
感受性成分の配列が、配列番号2、4、6、8、10、12および14の配列から選択される配列を含んでなる、請求項15〜17のいずれか一項に記載のマーカータンパク質。
【請求項19】
細胞環境において、請求項15〜18のいずれか一項に記載のマーカータンパク質を発現する、ベクター。
【請求項20】
請求項15〜18のいずれか一項に記載のマーカータンパク質を発現する、形質転換細胞。
【請求項21】
マーカータンパク質の発現が安定である、請求項20に記載の細胞。
【請求項22】
腫瘍細胞、好ましくはヒト腫瘍細胞である、請求項20または21に記載の細胞。
【請求項23】
少なくとも1種類の細胞が請求項15〜18のいずれか一項に記載のマーカータンパク質を発現する、非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項24】
少なくとも
請求項20〜22のいずれか一項に記載の形質転換細胞、および/または
請求項19に記載のベクター、および/または
請求項23に記載のトランスジェニック動物
を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキット。
【請求項25】
請求項22に記載の細胞中で、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法を実施すること包含する、抗癌化合物候補の活性を評価する方法。
【請求項1】
細胞における特異的分子事象の発生を証明する方法であって、
特異的分子事象の発生についての直接的または間接的マーカーである「結合した」マーカータンパク質の「可溶化」(あるいは「可溶化」マーカータンパク質の「結合」)を検出し、
上記マーカータンパク質が、上記検出の前に細胞中に存在し、
検出前に、細胞の原形質膜の透過性を上昇させて、可溶化したタンパク質を細胞外媒質中に放出させ、
次に、可溶化(あるいは、結合)が起こったかどうか、従って相当する分子事象を決定することができる適当な手段によって、マーカータンパク質の存在を、細胞中または細胞外媒質中に検出する
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
タンパク質の細胞内アンカーリング、好ましくは膜アンカーリングによって、または、細胞内レベルでのタンパク質の区画化によって、タンパク質の細胞「結合」を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質の細胞可溶化を、細胞質ゾル中のマーカータンパク質の放出によって行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
マーカータンパク質が蛍光断片を含む融合タンパク質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
マーカータンパク質が発現ベクターによって細胞中に産生される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
マーカータンパク質が細胞によって構成的に産生する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
膜の透過性を上昇させた後、フローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡法によって、細胞における蛍光タンパク質の可溶化あるいは結合を検出する、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分子事象の発生によりマーカータンパク質が開裂または修飾され且つそれが可溶化される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
分子事象の発生により、マーカータンパク質の細胞内アンカーリング断片、好ましくは膜アンカーリング断片が出現し、マーカータンパク質が結合し、またはマーカータンパク質が区画化される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
検出する分子事象がBax活性化であり、マーカータンパク質がBax−蛍光タンパク質融合タンパク質であり、蛍光タンパク質がBaxのN−末端に融合しており且つBax活性化の事象においてBaxが結合している、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
検出する分子事象がプロテアーゼの活性化であり、マーカータンパク質がプロテアーゼ開裂部位と、いずれかの側に細胞内アンカーリング部位、好ましくは膜アンカーリング部位と蛍光タンパク質を含む融合タンパク質であり、プロテアーゼが発現するときにマーカー分子が開裂によって可溶化し、蛍光タンパク質が放出される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
プロテアーゼがカスパーゼである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
分子事象の発生の証明を、細胞サイクルの測定、特に細胞サイクルの様々な段階における細胞個体群の分布の測定と結びつけて考える、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
分子事象がBaxの活性化またはカスパーゼの活性化である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
可溶化(結合)を行う感受性成分と検出できるようにする標識成分を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法で用いるマーカータンパク質。
【請求項16】
融合タンパク質であって、その標識成分が蛍光タンパク質である、請求項15に記載のタンパク質。
【請求項17】
感受性成分の配列が、配列番号1、3、5、7、9、11および13の配列から選択される配列を含んでなる核酸によってコードされる、請求項15または16に記載のマーカータンパク質。
【請求項18】
感受性成分の配列が、配列番号2、4、6、8、10、12および14の配列から選択される配列を含んでなる、請求項15〜17のいずれか一項に記載のマーカータンパク質。
【請求項19】
細胞環境において、請求項15〜18のいずれか一項に記載のマーカータンパク質を発現する、ベクター。
【請求項20】
請求項15〜18のいずれか一項に記載のマーカータンパク質を発現する、形質転換細胞。
【請求項21】
マーカータンパク質の発現が安定である、請求項20に記載の細胞。
【請求項22】
腫瘍細胞、好ましくはヒト腫瘍細胞である、請求項20または21に記載の細胞。
【請求項23】
少なくとも1種類の細胞が請求項15〜18のいずれか一項に記載のマーカータンパク質を発現する、非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項24】
少なくとも
請求項20〜22のいずれか一項に記載の形質転換細胞、および/または
請求項19に記載のベクター、および/または
請求項23に記載のトランスジェニック動物
を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキット。
【請求項25】
請求項22に記載の細胞中で、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法を実施すること包含する、抗癌化合物候補の活性を評価する方法。
【図1】
【図2】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2007−515929(P2007−515929A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518270(P2006−518270)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001678
【国際公開番号】WO2005/012913
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(500025477)アンスティテュ、ナショナル、ド、ラ、サント、エ、ド、ラ、ルシェルシュ、メディカル(アンセルム) (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICAL (INSERM)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001678
【国際公開番号】WO2005/012913
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(500025477)アンスティテュ、ナショナル、ド、ラ、サント、エ、ド、ラ、ルシェルシュ、メディカル(アンセルム) (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICAL (INSERM)
【Fターム(参考)】
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