説明

蛍光ランプおよび植物栽培用照明器具

【課題】植物の光合成と成長を有効に促進し、光束維持率が良好であってかつ作業者の照明環境を改善することができる蛍光ランプを提供する。
【解決手段】透光性ガラスバルブ2と;ガラスバルブの内面に形成され、青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体および遠赤色発光蛍光体から構成された蛍光体層6と;このガラスバルブ内に封入された放電媒体と;このバルブの両端に封装された一対の電極5,5と;を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培用に好適な蛍光ランプに係り、特に蛍光体を改良した蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、植物の栽培用光源として、赤色発光蛍光体と青色発光蛍光体とを配合してなる蛍光体層を具備した蛍光ランプ(プラントルクス)が普及している。
【0003】
近年では、三波長形蛍光体に遠赤色発光蛍光体を混合した蛍光体層を具備した植物栽培用の蛍光ランプも提案されている。さらに、この遠赤色発光蛍光体として鉄付活リチウム・アルミネート(鉄付活アルミン酸リチウム、LiAlO:Fe)を使用する蛍光ランプが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
この蛍光ランプからは遠赤色光が放射されることになるが、この遠赤色光が所定の品種の植物に照射されると、植物のフィトクロム反応によって植物の成長を制御することが可能になることが知られている(特許文献2、非特許文献1参照)。
【0005】
上記蛍光ランプに使用されている鉄付活リチウム・アルミネート蛍光体はバルブ内の水銀蒸気と反応して劣化し易いので、光束維持率が悪く、長期間植物の栽培用照明として使用するには不向きであるという問題がある。
【0006】
そこで、鉄付活リチウム・アルミネート蛍光体に代えて水銀蒸気と反応しにくい遠赤色発光蛍光体としてクロムまたはユーロピウムで付活されたYAG構造を有する蛍光体を使用した蛍光ランプが知られている(特許文献3参照)。
【0007】
また、他の植物育成用蛍光ランプとしては、遠赤色発光蛍光体に加えて、赤色発光蛍光体、緑色発光蛍光体、青色発光蛍光体を具備したものも知られている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平7−220682号公報
【特許文献2】特開2000−41506号公報
【特許文献3】特開平9−199086号公報
【特許文献4】特開平2−60525号公報
【非特許文献1】光バイオインダストリー「光反応による生物反応の制御」(社団法人 照明学会著 第12−19頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の蛍光ランプにおいても植物栽培における成長の促進の効果は十分ではなく、また植物プラント内における作業者に対する照射環境も併せて改善する必要があった。
【0009】
また、赤色光は長日植物の開花促進に適さず、緑色光は開花促進に殆ど効果がない。さらに、長日植物の、例えばシロイヌナズナ等は、遠赤色光と青色光によって開花が促進されていることが知られているが、青色光は全ての長日植物に対して開花促進効果があるのではなく、逆に開花を抑制する長日植物もある。
【0010】
そして、遠赤色光単色の蛍光ランプでは、遠赤色光が人間の目には見えない不可視光であるので、夜間に栽培等の作業をする場合には、植物に殆ど影響を与えずに作業を照明する可視光を出力する蛍光ランプ等の光源を別途用意しなければならず、煩雑であるうえにコストアップを招く。但し、植物栽培等の作業を日中行なう場合には、可視光は不要の場合もある。
【0011】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、植物の成長をより一層促進し、光束維持率が良好な蛍光ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、透光性バルブと;このバルブの内面に形成された青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体および遠赤色発光蛍光体から構成されてなる蛍光体層と;バルブ内に封入された放電媒体と;バルブ内に封装された一対の電極と;を具備していることを特徴とする蛍光ランプである。
【0013】
請求項2に係る発明は、上記遠赤色蛍光体は、GdGa12;Cr(クロム付活ガリウム・ガドリウム蛍光体)からなることを特徴とする請求項2記載の蛍光ランプである。
【0014】
請求項3に係る発明は、上記蛍光体層の蛍光体全体に対する上記緑色蛍光体の比率が50質量%以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一記載の蛍光ランプである。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれか一記載の蛍光ランプと;この蛍光ランプの一対の電極に高周波電力を供給する高周波点灯回路と;を具備していることを特徴とする植物栽培用照明器具照明器具である。
【0016】
本発明者らが長日植物に対する光照明反応について試験を行なったところ、赤色光の放射エネルギー比率を落としても成長促進効果には殆ど影響しないことが分った。すなわち、同じ電力で蛍光ランプを点灯させる場合には、赤色以外の光の放射エネルギー比率を高くした方が有利であることから、本発明の蛍光ランプには赤色蛍光体を用いていない。
【0017】
請求項5に係る発明は、透光性バルブと;このバルブの内面に形成された青色発光蛍光体および遠赤色発光蛍光体から構成されてなる蛍光体層と;バルブ内に封入された放電媒体と;バルブ内に封装された一対の電極と;を具備していることを特徴とする蛍光ランプである。
【0018】
請求項6に係る発明は、上記蛍光体層の蛍光体全体に対する青色発光蛍光体の質量比率が1%以上10%未満であることを特徴とする請求項5記載の蛍光ランプである。
【0019】
なお、ここで遠赤色発光蛍光体に対する青色発光蛍光体の質量比率の1%以上10%未満は、この青色発光蛍光体で発光する青色発光(B)と、遠赤色発光蛍光体で発光する遠赤色発光(FR)との放射強度比(B/FR)では、ほぼ0.2〜0.7に相当する。
【0020】
請求項7に係る発明は、上記蛍光体層の蛍光体全体に対する青色発光蛍光体の質量比率が10%以上20%以下であることを特徴とする請求項5記載の蛍光ランプである。
【0021】
なお、ここで、遠赤色発光蛍光体に対する青色発光蛍光体の質量比率の10%以上20%以下は、この青色発光蛍光体で発光する青色発光(B)と、遠赤色発光蛍光体で発光する遠赤色発光蛍光体(FR)との放射強度比(B/FR)では、ほぼ0.7〜1.2に相当する。
【0022】
請求項8に係る発明は、上記青色発光蛍光体は、2価ユーロピウム付活アルミン酸バリウムマグネシウム(BAM)からなることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか一記載の蛍光ランプである。
【0023】
請求項9に係る発明は、透光性バルブと;このバルブの内面に形成された緑色発光蛍光体および遠赤色発光蛍光体から構成されてなる蛍光体層と;バルブ内に封入された放電媒体と;バルブ内に封装された一対の電極と;を具備していることを特徴とする蛍光ランプである。
【0024】
請求項10に係る発明は、請求項5ないし9のいずれか一記載の蛍光ランプと;この蛍光ランプの一対の電極に高周波電力を供給する高周波点灯回路と;を具備していることを特徴とする植物栽培用照明器具である。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に係る発明の蛍光ランプは、蛍光体層として、青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体および遠赤色発光蛍光体からなる蛍光体層が形成されているので、青色発光および遠赤色発光に基づく植物の成長を促進することができ、比視感度の高い緑色発光により植物を高効率かつ高照度で照明することができるので、植物の栽培時等の作業性を向上させることができる。
【0026】
請求項5に係る発明の蛍光ランプは、蛍光体層として、青色発光蛍光体と遠赤色発光蛍光体からなる蛍光体層が形成されているので、青色発光および遠赤色発光により長日植物の例えばシロイヌナズナ等では開花促進効果を奏することができる。
【0027】
請求項9に係る蛍光ランプは、遠赤外線に基づく植物の成長を促進することができ、また、可視光の緑色発光を含んでいるので、夜間に栽培等の作業をする際にも、所要の照度を与えることができ、作業者の照明環境を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0029】
図1は本発明の第1実施形態に係る直管形蛍光ランプ1の一部切欠斜視図、図2は図1のII部拡大断面図、図3は同蛍光ランプ1の諸特性の一覧表を示す図、図4は同蛍光ランプ1の発光の各波長域の光量子束および放射束を示す一覧表を表す図である。
【0030】
図1に示すように蛍光ランプ1は直管形の透光性ガラスバルブ2を具備している。このガラスバルブ2は、その軸方向両端部を一対のステム3,3により気密に封止し、これらステム3,3の内端部には熱陰極からなる一対の電極4,4を取り付けている。
【0031】
電極4はタングステンコイルフィラメントにより形成されており、ステム3を貫通して導入された一対のリード線5,5に支持されている。電極4には、図示しないBaO,SrO,CaOなどからなる電子放射性物質(エミッタ)が塗布されている。
【0032】
ガラスバルブ2は、ソーダライムガラスや鉛ガラスなどの軟質ガラスにより直管形に形成されるが、ほうケイ酸ガラスや石英ガラスなどの硬質ガラス製であってもよい。また、ガラスバルブ2は、その内面のほぼ全長に蛍光体層6を形成し、ガラスバルブ2の内部に、希ガスと水銀とが放電媒体として封入されている。放電媒体の希ガスには、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)またはクリプトン(Kr)などが含まれ、本実施形態にはアルゴン(Ar)が使用されている。
【0033】
ガラスバルブ2内にはアマルガムが封入されていてもよい。アマルガムは、ガラスバルブ2の端部に封着されたステムに配設された細管(排気管)内などに収容される。アマルガムは溶融、機械的保持などの手段によってこれらいずれかの位置に固定または収納される。また、アマルガムはバルブ内を移動可能に収容されていてもよい。ガラスバルブ2内にアマルガムを配設すると、周囲温度が比較的高くなっても最適な状態で蛍光ランプ1が点灯される。
【0034】
アマルガムは、水銀と合金を作る物質と水銀との合金である。例えば、水銀の定量封入のために亜鉛−水銀などのアマルガムを封入してもよい。アマルガムはペレット状、柱状、板状等どのような形状であってもよい。なお、図1中、符号7は一対の口金であり、符号8は口金7に植設された口金ピンである。
【0035】
そして、蛍光体層6は、青色発光蛍光体PB、緑色発光蛍光体PGおよび遠赤色発光蛍光体PFRを混合してなる。
【0036】
すなわち、蛍光体層4は、440〜460nmの波長域に発光する青色発光蛍光体PBとしての(SrCaBaMg)(POCl;Eu、と、540〜560nmの波長域に発光する緑色発光蛍光体PGとしてのLaPO;Ce,Tbと、700〜800nmの波長域に発光する遠赤色発光蛍光体PFRとしてのクロム付活のGdGa12;Crとを混合し、ガラスバルブ2の内面にコーティングすることにより形成される。
【0037】
また、緑色発光蛍光体PGは、これら蛍光体PG,PB,FR全体に対して50質量%以上の比率で混合される。
【0038】
図3は管径約17.5mm、管長約1100mmのガラスバルブ2を2本並設し、一方側のそれぞれの端部に電極4,4を封装し、他方側のそれぞれの端部を閉塞するとともに、端部近傍で連結管により接続された略U字状のガラスバルブ2の内面に蛍光体層6を形成した定格ランプ電力105Wの高周波点灯専用の蛍光ランプ1を例えば3本(No.1,2,3)試作したときの諸特性を示す一覧表であり、この表中、VLはランプ電圧(V)、ILはランプ電流(A)、WLはランプ電力(W)、φは光束(lm)、lm/Wはランプ効率、X,Yは色度、Raは平均演色評価数である。
【0039】
図4はこの蛍光ランプ1の発光中の各波長域の光量子束と放射束を示す一覧表である。図5は図3で示す試作ランプ1〜3の平均値の分光分布(分光光量子束(μmol/S/5nm))を示すグラフ、図6は同平均値の分光放射束を示すグラフである。
【0040】
放射束は放射エネルギをW自体で示している。一方、光量子束は、放射束の各波長における放射量(W)を1光子のエネルギEで除することにより、その波長における光子数を求め、さらに、この光子数を波長域で積分したものが、光量子束である。光量子束は、長波長になるに連れて光子数が多く、短波長になるに連れて光子数が少なくなる。これは、偶然かもしれないが、植物の光合成の感度曲線に近いため、多用されていると考えられる。
【0041】
図5に示すようにこの蛍光ランプ1の発光中には、波長域440〜460nmの青色発光B、波長域540〜560nmの緑色発光G、波長域600〜700nmの赤色発光R、波長域700〜800nmの遠赤色発光FRがそれぞれ含まれていることは明らかである。また、図6に示すように蛍光ランプ1の発光中、緑色発光Gの放射束が最大であることが示されている。
【0042】
したがって、この蛍光ランプ1の発光中には、植物の光合成と形態形成に有効な青色発光を含んでいるので、光合成と形態形成を促進することができる。
【0043】
ところで、一般に植物細胞内に存在する光形態形成ホルモン(フィトクロム)には、赤色光吸収型(Pr型)と、遠赤色光吸収型(Pfr型)の2種類が存在し、これらの光平衡のバランスにより植物の形態形成が制御されることが知られている。
【0044】
したがって、本実施形態に係る蛍光ランプ1では、その発光中に遠赤色光FRを含んでいるので、その遠赤色光FRにより植物のフィトクロムが反応し、形態形成を促進することができる。
【0045】
また、遠赤色発光蛍光体PFRとしてクロム付活ガリウム・ガドリニウム蛍光体(GdGa12;Cr)を採用したので、図7中破線で示すように遠赤色発光蛍光体PFRとして鉄付活リチウム・アルミネート蛍光体(LiAlO:Fe)を使用した従来品Aに比して高負荷ランプでも光束維持率を改善することができる。
【0046】
さらに、蛍光体層6は遠赤色発光蛍光体PFRとしてGdGa12;Crを採用したので、この遠赤色発光蛍光体PFRと、青色発光蛍光体PBおよび緑色発光蛍光体PGとを混合してなる混合蛍光体の水溶液を作成し、この水溶液をガラスバルブ2の内面にコーティングして蛍光体層6を形成した場合でも、図8に示すように鉄付活リチウム・アルミネート蛍光体(LiAlO:Fe)を遠赤色発光蛍光体PFRとして使用した従来品Aよりも本実施形態品Bの方が光束立上り特性を向上させることができる。
【0047】
すなわち、蛍光体層6では、遠赤色発光蛍光体PFRとして使用するGdGa12;Crには、水分中のOH等と結合するLiを含有していないので、このGdGa12;Cr蛍光体を水溶性バインダーに分散させた懸濁液をガラスバルブ2の内面にコーティングする工程においても、OHやCO,COが不純ガスとしてガラスバルブ2内に残留するのを抑制することができる。このために、蛍光ランプ1の光束立上り特性を低下させる不純ガスを低減することができるので、光束立上り特性を向上させることができる。
【0048】
また、GdGa12を水溶液としてガラスバルブ2の内面に塗布することができるので、有機溶剤の使用を回避することができる。このために、有機溶剤の使用による環境負荷を軽減することができる。
【0049】
さらに、蛍光体層6は緑色発光蛍光体PGを含有しているので、緑色発光Gにより遠赤色発光が出力されているか否かを確認することができる。
【0050】
また、蛍光体層6の各蛍光体の中で最も視感度が高い緑色光Gを発光させる緑色発光蛍光体PGの蛍光体層6の蛍光体全体に対する比率を、50質量%以上にしたので、同一のランプ電力においても照度を向上させることができる。このために、植物栽培等の作業性とランプ効率とを共に向上させることができる。
【0051】
そして、蛍光体層6には赤色発光蛍光体PRを含有していないので、その分、青色発光蛍光体PBや緑色発光蛍光体PG、遠赤色発光蛍光体PFR等の含有量を増加させることができる。このために、その増量した蛍光体が有する作用効果を増進させることができる。
【0052】
第2実施形態に係る蛍光ランプ1Aは、その蛍光体層6Aを、上記第1実施形態に係る蛍光ランプ1の蛍光体層6から上記緑色発光蛍光体PGを抜いて青色発光蛍光体PBと遠赤色発光蛍光体PFRとを所定比率で混合し、所定量塗布形成したことにより構成した点に特徴があり、これ以外は上記蛍光ランプ1と同一構成であるので、その重複した説明は省略する。
【0053】
すなわち、この蛍光体層6Aは、440〜460nmの波長域に発光する青色発光蛍光体PBとしての(SrCaBaMg)(POCl;Eu、と、700〜800nmの波長域に発光する遠赤色発光蛍光体PFRとしてのクロム付活のGdGa12;Crとを混合し、ガラスバルブ2の内面にコーティングすることにより形成される。
【0054】
図9はこの遠赤色発光蛍光体PFRを質量比率で85%、青色発光蛍光体PBを同15%混合してなる蛍光体層6Aの発光スペクトルの放射強度分布を示すグラフである。
【0055】
したがって、この蛍光ランプ1Aによれば、その発光中に、青色発光と遠赤色発光を含むので、長日植物の例えばシロイヌナズナ等の植物に対して開花促進効果を奏することができる。また、この蛍光ランプ1Aの発光中には可視光の青色発光を含んでいるので、夜間栽培時の作業の際にも適度の照度を得ることができる。
【0056】
さらに、緑色発光蛍光体PGを削除した分、青色発光蛍光体PBと遠赤色発光蛍光体PFRとを増量させることができるので、その分、青色発光と遠赤色発光の光量を増加させることができる。このために、青色発光と遠赤色発光とにより開花促進効果のある長日植物に対して開花促進効果をさらに高めることができる。
【0057】
しかし、蛍光体全体に対する青色発光蛍光体PBの質量比率を1%以上10%未満に減少させてもよい。この青色発光蛍光体PBと遠赤色発光蛍光体PFRとの質量比率は青色発光(B)と遠赤色発光(FR)との放射強度比(B/FR)では、ほぼ0.2〜0.7に相当する。
【0058】
この場合は、青色発光が植物一般の草丈の伸長を抑制する効果があるので、青色発光の割合を減少させることにより、植物の開花を促進すると共に、草丈を十分に伸長させることができる。このために、草丈が大きいことが必要な切花の開花促進に適している。
【0059】
また、蛍光体全体に対する青色発光蛍光体PBの質量比率を10%以上20%以下に調整してもよい。この場合、青色発光蛍光体PBと遠赤色発光蛍光体PFRとの質量比率は、青色発光(B)と遠赤色発光(PFR)との放射強度比(B/PFR)では、ほぼ0.7〜1.2に相当する。
【0060】
この場合は、本来、遠赤色発光が植物一般の草丈の伸長を促進する効果があるので、これら遠赤色発光と青色発光とをこのような比で配合することにより、草丈がヒョロヒョロと伸びる徒長を防止して草丈と開花とのバランスがよい理想的な草姿を保ちつつ開花を促進することができる。
【0061】
このために、草丈が大きく伸長する必要のない鉢植の植物の開花促進や苗の育成に適している。
【0062】
なお、青色発光蛍光体PBとしては、上記(SrCaBaMg)(POCl;Euに代えて、2価ユーロピウム付活アルミン酸バリウムマグネシウム蛍光体(BAM)を使用してもよい。
【0063】
このBAMによれば、ピーク波長が450nmのスペクトルの青色発光を出力するが、この青色発光は植物の青色発光受容体であるクリプトクロムの吸収スペクトルのピークとほぼ一致する。このために、このクリプトクロムを有する植物について形態形成効果と開花促進効果とを共に奏することができる。
【0064】
本願発明の第3実施形態に係る蛍光ランプ1Bは、その蛍光体層6Bを、上記第2実施形態に係る蛍光体層6Aの青色発光蛍光体PBを、緑色発光蛍光体PGに置換して、緑色発光蛍光体PGと遠赤色発光蛍光体PFRとを混合することにより構成してもよい。また、この緑色発光蛍光体PGとしては、セリウムおよびテルビウム付活リン酸ランタン(LAP)を使用してもよい。
【0065】
図10はこの緑色発光蛍光体PGを質量比率で15%、遠赤色発光蛍光体PFRを同85%混合してなる蛍光体層6Bの発光スペクトルの放射強度分布を示すグラフである。
【0066】
この蛍光体層6Bを具備した蛍光ランプ1Bによれば、青色発光を含まないので、青色発光で開花促進効果を示さない長日植物の開花促進に適している。
【0067】
また、遠赤色発光は長日植物の開花を促進することきができ、緑色発光は夜間に作業する際に、植物の生育に影響を与えずに作業者に所要の照度を与えて作業性を向上させることができる。
【0068】
さらに、昼間に蛍光ランプ1Bの交換のために点灯の有無を確認する場合にも、可視光の緑色発光の有無を確認することにより、例えば広い栽培ハウス内においても、蛍光ランプの点灯の有無を簡単かつ迅速に識別することができる。
【0069】
本発明の第4の実施形態に係る植物栽培用照明器具は、上記蛍光ランプ1,1A,1Bのいずれかと、この蛍光ランプ1,1A,1Bのいずれかを保持する図示しない照明器具本体と、この照明器具本体に配設されて、この蛍光ランプ1,1A,1Bの一対の電極4,4に例えば800W以上の高周波電力を供給する高周波点灯回路(図示せず)と、を具備して構成される。この植物栽培用照明器具によれば、蛍光ランプ1,1A,1Bのいずれかを備えているので、植物栽培用照明器具としても蛍光ランプ1,1A,1Bのいずれかと同様の作用効果を奏することができる。
【0070】
なお、上記第1〜第3の実施形態に係る蛍光ランプ1,1A,1Bでは、遠赤色蛍光体PFRとしてGdGa12;Crを使用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、遠赤色発光蛍光体PFRとして、YAl12;Cr、YGa12;Cr、GdAl12;Cr、GdGa12;Crのいずれかを使用してもよく、これら蛍光体の発光スペクトルを図11、図12、図13、図14にそれぞれ示す。
【0071】
また、ガラスバルブ2の内面と蛍光体層6,6A,6Bとの間には、保護膜を介在させてもよい。保護膜としては金属酸化物微粒子から構成したものが好適である。金属酸化物微粒子としてはアルミナ(Al)やシリカ(SiO)等周知のものを使用することが可能である。
【0072】
さらに、上記第1〜第3の実施形態に係る蛍光ランプ1,1A,1Bでは直管形のガラスバルブ2を具備した直管形蛍光ランプについて説明したが、本発明は、直管形ガラスバルブ2以外の所要形状のガラスバルブでもよく、例えば所要形状に屈曲ないし折曲された屈曲管でもよく、これら屈曲管を有する電球形蛍光ランプやコンパクト形蛍光ランプにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る蛍光ランプの一部切欠斜視図。
【図2】図1のII部拡大断面図。
【図3】図1で示す蛍光ランプの諸特性の一覧表を示す図。
【図4】図1で示す蛍光ランプの発光中の各波長域の光量子束および放射束の一覧表を示す図。
【図5】図1で示す蛍光ランプの分光分布を示すスペクトル図。
【図6】図1で示す蛍光ランプの放射束分布を示すスペクトル図。
【図7】図1で示す蛍光ランプの放射束維持率(%)を示すスペクトル図。
【図8】図1で示す蛍光ランプの光束立上り特性を示すスペクトル図。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る蛍光ランプの発光スペクトラムの放射強度分布を示すグラフ。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る蛍光ランプの発光スペクトラムの放射強度分布を示すグラフ。
【図11】YAl12;Cr蛍光体の発光スペクトルを示すグラフ。
【図12】YAl12;Cr蛍光体の発光スペクトルを示すグラフ。
【図13】GdAl12;Cr蛍光体の発光スペクトルを示すグラフ。
【図14】GdGa12;Cr蛍光体の発光スペクトルを示すグラフ。
【符号の説明】
【0074】
1,1A,1B…蛍光ランプ、2…ガラスバルブ、4…電極、6,6A,6B…蛍光体層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性バルブと;
このバルブの内面に形成された青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体および遠赤色発光蛍光体から構成されてなる蛍光体層と;
バルブ内に封入された放電媒体と;
バルブ内に封装された一対の電極と;
を具備していることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項2】
上記遠赤色蛍光体は、GdGa12;Crからなることを特徴とする請求項2記載の蛍光ランプ。
【請求項3】
上記蛍光体層の蛍光体全体に対する上記緑色蛍光体の比率が50質量%以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一記載の蛍光ランプ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一記載の蛍光ランプと;
この蛍光ランプの一対の電極に高周波電力を供給する高周波点灯回路と;
を具備していることを特徴とする植物栽培用照明器具。
【請求項5】
透光性バルブと;
このバルブの内面に形成された青色発光蛍光体および遠赤色発光蛍光体から構成されてなる蛍光体層と;
バルブ内に封入された放電媒体と;
バルブ内に封装された一対の電極と;
を具備していることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項6】
上記蛍光体層の蛍光体全体に対する青色発光蛍光体の質量比率が1%以上10%未満であることを特徴とする請求項5記載の蛍光ランプ。
【請求項7】
上記蛍光体層の蛍光体全体に対する青色発光蛍光体の質量比率が10%以上20%以下であることを特徴とする請求項5記載の蛍光ランプ。
【請求項8】
上記青色発光蛍光体は、2価ユーロピウム付活アルミン酸バリウムマグネシウム(BAM)からなることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか一記載の蛍光ランプ。
【請求項9】
透光性バルブと;
このバルブの内面に形成された緑色発光蛍光体および遠赤色発光蛍光体から構成されてなる蛍光体層と;
バルブ内に封入された放電媒体と;
バルブ内に封装された一対の電極と;
を具備していることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項10】
請求項5ないし9のいずれか一記載の蛍光ランプと;
この蛍光ランプの一対の電極に高周波電力を供給する高周波点灯回路と;
を具備していることを特徴とする植物栽培用照明器具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2006−12766(P2006−12766A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373765(P2004−373765)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】