説明

蛍光ランプ用ガラス、蛍光ランプ用ガラス管、及び蛍光ランプ

【課題】 製造時にガラスが黒色に変色せず、しかも従来のソーダライムガラスと同等以上の特性を有する蛍光ランプ用ガラスと、このガラスからなる蛍光ランプ用ガラス管と、このガラス管を用いて作製される蛍光ランプを提供する。
【解決手段】 Sb23、PbO、及びAs23の含有量が各々0.1重量%以下であり、かつ、TiO2含有量が0.05〜10重量%であるガラス管を外囲器に用いて蛍光ランプを作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ランプ用ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光ランプは、直管や、直管を熱加工した環形の形状を有しているものが一般的であるが、最近では、直管をU字やW字に曲げたり、数本の直管を平行に配置して繋ぎ合わせたツイン管や、コンパクト管と呼ばれる特殊形状のものも開発されている。
【0003】
当初、これら環形や特殊形状の蛍光ランプの外囲器に用いられるガラス管は、加工を容易にするために、PbOを20〜30%程度と比較的多量に含有する低粘度の鉛ガラスで作製されていたが、現在ではPbOの毒性問題を回避するためにソーダライムガラスに切り替えられている。この用途に使われているソーダライムガラスは、PbO含有ガラスに近い加工性を持たせるために、粘度を下げる成分としてBaOを導入したり、また蛍光ランプに要求される高い輝度とその維持のためにSb23を含有する等、蛍光ランプ用途に特別に改良されたものである。
【特許文献1】特開昭56−11848号公報
【特許文献2】特開平9−106784号公報
【特許文献3】特開平6−56467号公報
【特許文献4】特開昭51−86515号公報
【特許文献5】特開平10−152340号公報
【特許文献6】米国特許第5843856号明細書
【特許文献7】米国特許第5843855号明細書
【特許文献8】特開平10−28747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したソーダライム系のガラス管を外囲器に用いて蛍光ランプを製造すると、製造時にガラスが黒く変色し、高輝度のランプが得られないという問題をしばしば引き起すことが問題となっている。
【0005】
本発明の目的は、製造時にガラスが黒色に変色せず、しかも従来のソーダライムガラスと同等以上の特性を有する蛍光ランプ用ガラスと、このガラスからなる蛍光ランプ用ガラス管と、このガラス管を用いて作製される蛍光ランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ガラスが黒色に変色する原因は、ガラス中に含まれるSb23等が還元され易い成分であるために、加工工程中のバーナの燃焼状態に影響されて金属コロイド化されるためである。そこで本発明者等は種々の検討を行った結果、これを防止するためには、ガラス成分にSb23等をなるべく含まないことが必要であること、及びSb23に代わる成分としてTiO2を所定量含有させればよいことを見いだした。
【0007】
即ち、本発明の蛍光ランプ用ガラスは、Sb23、PbO、及びAs23の含有量が各々0.1重量%以下であり、かつ、TiO2含有量が0.05〜10重量%であることを特徴とする。
【0008】
また本発明の蛍光ランプ用ガラス管は、上記ガラスからなることを特徴とする。
【0009】
また本発明の蛍光ランプは、上記ガラス管を外囲器として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蛍光ランプ用ガラスは、Sb23等を実質的に含有しないため、バーナ加工時の黒化が全く発生しない。しかもTiO2を含有することにより、ガラスのアルカリ溶出量を低減し、紫外線着色を抑え、また加工温度を下げることができる。
【0011】
また本発明の蛍光ランプ用ガラス管は、上記特性を有するガラスからなるために、高輝度で輝度劣化が少ない蛍光ランプを作製することができる。しかも成形が容易であるために、直管は勿論、熱加工による環状や特殊形状の蛍光ランプ用外囲器として好適である。
【0012】
また本発明の蛍光ランプは、Sb23等を実質的に含有しないにも関わらず、高輝度で輝度劣化が少ないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の蛍光ランプ用ガラスは、Sb23の代わりにTiO2を必須成分として含有することにより、高い輝度を有し、かつ輝度劣化が少ない蛍光ランプを作製することができる。
【0014】
Sb23の含有量が0.1%を超えると、加工工程中にSbコロイドが生じて黒色に変色し、高輝度の蛍光ランプを得ることができなくなる。なおSb23は含有しないことが望ましい。
【0015】
TiO2の含有量は0.05〜10%、好ましくは0.2〜5%である。TiO2は、高輝度で輝度劣化の少ない蛍光ランプを得るための必須成分であるとともに、ガラスの粘度を適度に下げて、蛍光ランプ工程における加工性、生産性を高める効果を有する。
【0016】
蛍光ランプの輝度とその劣化の程度は、Sb23起因のガラスの黒化による透過率の低下の他に、アルカリ金属などのガラスからの溶出成分によって引き起こされる蛍光体の汚染や水銀の消耗、紫外線着色(ソラリゼーション)によるガラスの透過率低下、等の要因に左右される。加えて蛍光体を塗布した後に熱加工する環状や特殊形状の蛍光ランプの場合、この加工温度が高いと蛍光体が劣化して輝度の低下の一因となる。
【0017】
TiO2は、これらガラスのアルカリ溶出量を低減し、紫外線着色を抑え、また加工温度を下げる作用が大きいため、高輝度で輝度劣化の少ない蛍光ランプが得られると考えられる。
【0018】
この効果を得るためにはTiO2を0.05%以上添加する必要があり、多い程その効果が高くなる。しかし、逆に多くなりすぎると、ガラス溶融時に失透が発生して安定生産ができなかったり、ガラスが黄色着色して蛍光ランプの色調を損なうので10%が限度になる。
【0019】
また本発明の蛍光ランプ用ガラスは、PbO、As23等の有毒な成分を含有しないことが望ましく、仮に含有する場合でも0.1%以下に制限することが好ましい。これは、近年の環境汚染問題意識の高まりや法的な規制の強化に伴うものである。なおPbOやAs23は、Sb23と同様に、容易に還元されて金属コロイド化する成分であり、この点からも含有しないことが好ましい。
【0020】
本発明の蛍光ランプ用ガラスの好適な組成範囲は、重量百分率で、SiO2 60〜75%、Al23 0.5〜10%、B23 0〜5%、RO 3〜17%(RはCa、Mg、Sr、Ba、Znを表す)、R’2O 10〜22%(R’はLi、Na、Kを表す)、ZrO2 0〜5%、CeO2 0〜2%、Fe23 0.01〜0.4%、P25 0〜1%、TiO2 0.05〜10%からなる。
【0021】
以下に、ガラス組成の限定理由を述べる。
【0022】
SiO2は、ガラスのマトリックスを作る必須の成分であるが、75%を超えると粘度が非常に高くなり、蛍光ランプ製造時の加工性を大きく損ない、また、ガラス管製造時においても溶融が難しくなり、ぶつ、脈理、気泡の多いガラスとなる。逆に65%未満では、熱膨張係数が大きくなり過ぎ、ステムガラスとの膨張係数の整合性がとれなくなる。さらに、化学的耐久性が大きく後退し、輝度の低下の原因となる。なおSiO2の好ましい範囲は62〜73%である。
【0023】
Al23は、ガラスの耐候性を向上させる作用が高く、またガラスの失透を抑えるのに有効であるが、0.5%未満ではその効果は小さく、10%を超えると、ガラスの粘度が急激に高くなりガラスの溶融や、蛍光ランプの曲げ加工が困難になる。なおAl23の好ましい範囲は0.5〜5%である。
【0024】
23は、ガラスの粘度を小さくし、さらに耐候性を向上する成分であり添加することが好ましい。しかし、5%を超えると逆に耐候性が後退すると共に溶融時の蒸発が多くなり、均質性の高いガラスが得られなくなる。したがって、5%が限度である。なおB23の好ましい範囲は0〜2%である。
【0025】
RO(RはCa、Mg、Sr、Ba、Znを表す。)は、ガラスの溶解を促進するとともに、ガラスの耐候性を上げる作用がある。また粘度を下げる効果も大きい。しかしROが3%未満では十分な効果を得ることができない。一方、17%を超えるとガラスの失透性が増大し、均質性の高いガラスが得られなくなる。また温度に対する粘度の変化が急激になるため、熱間でのガラス管の精密な成形・加工が困難になる。なおROの好ましい範囲は5〜15%である。また各成分の含有量は、CaO 2〜9%、MgO 1〜9%、SrO 0〜7%、BaO 0〜4%、ZnO 0〜5%が適当である。ただしBaOについては、環境面からできる限り使用量を低減することが望まれており、この観点から0.1%以下に制限することが望ましい。
【0026】
R’O(R’はLi、Na、Kを表す)は、ガラスの線熱膨張係数をステムガラスと整合のとれる90〜105×10-7/℃に設定するとともに、粘度を下げるのに必須の成分である。また融剤としての作用も大きい。その含有量が10%より少ないとこの作用が不十分となる。また22%を超えると線熱膨張係数が大きくなりすぎるとともに、ガラスから溶出しやすくなるため、蛍光体や水銀と反応して蛍光ランプの輝度を下げたり、長期の使用に十分な耐候性が得られなくなる。なおR’Oの好ましい範囲は15〜20%である。また各成分の含有量は、Li2O 0〜3%、Na2O 7〜19%、K2O 0〜6%であることが好ましい。
【0027】
ZrO2はガラスの耐候性を高める効果があるので添加することが好ましいが、量が増えるに従ってガラスの失透性が増大し、安定したガラスの溶融ができなくなる。このためZrO2の上限は5%に限定される。なおZrO2の好ましい範囲は0〜2%である。
【0028】
CeO2は紫外線を吸収する作用が大きい成分である。このためランプ外への紫外線の漏洩防止効果を高めたい場合、少量添加することが好ましい。また清澄剤としての作用もあるので、ガラスの泡品位を改善することができる。しかし、2%を超えるとガラスの着色が著しくなるという問題がある。なおCeO2の好ましい範囲は0〜1.5%である。
【0029】
Fe23は必須成分ではないが、原料の不純物として約0.01%以上含まれていることが多い。Fe23はCeO2と同じ作用があるため、0.4%まで積極的に加えてもよいが、これを超えるとCeO2同様にガラスが著しく着色してしまう。なおFe23の好ましい範囲は、0.01〜0.2%である。
【0030】
25はガラスの液相温度を下げ、失透を抑えるので少量添加できるが、1%を超えるとガラスが乳白化して好ましくない。なおP25の好ましい範囲は、0.1〜0.8%である。
【0031】
次に本発明の蛍光ランプ用ガラスを用いて蛍光ランプを作製する方法を説明する。
【0032】
まず所望の組成を有するように、ガラス原料を調合してバッチを作製する。
【0033】
次にガラス溶融炉にバッチを投入し、1500〜1600℃でタンク式連続溶融炉にてガラス化した後、ダンナー法、ダウンドロー法、アップドロー法等によってガラスを管状に成形し、所定の長さに切断してガラス管を得る。
【0034】
続いて、ガラス管の両端に絞り加工を施す等、所望の形状に加工して蛍光ランプ用外囲器を作製する。
【0035】
その後、蛍光体の塗布、ステムの取り付け、排気、水銀やArガスの封入等を行う。環状蛍光灯や特殊形状の蛍光灯の場合は、さらに曲げ加工等を行って蛍光ランプを得る。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0037】
表1〜3は、本発明の実施例(試料No.1〜14)及び比較例(試料No.15、16)を示している。なお試料No.15は、ソーダライムガラスからなる従来の蛍光ランプ用ガラスを示している。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
各試料は次のようにして作製した。
【0042】
まず、目的のガラス組成になるように定められた量の原料粉末を秤量して混合し、白金製の坩堝に入れ、電気炉中で1550℃で溶解した。原料が十分に溶解した後、撹拌羽をガラス融液に挿入し約2時間撹拌した。次に、撹拌羽を取り出し30分間静置した後、測定に必要な形状に成型、加工することで作製した。
【0043】
得られた試料について、線熱膨張係数、作業温度、アルカリ溶出量、及び耐紫外線ソラリゼーション性について評価した。
【0044】
なお各測定は、以下のように行った。線熱膨張係数は外径3.5mm×長さ50mmの円柱状の試料を作製し、ディラトメータで30〜380℃間の平均線熱膨張係数を測定した。ガラスの作業温度はストークスの法則に基づく白金球引き上げ法によって、ガラスの粘度が104 ポイズの温度を求めた。環状や特殊形状の蛍光ランプを作る際の熱加工はこの作業温度が目安になり、効率の良い加工や蛍光体を劣化させないためにはこの温度が低いほど好ましい。ガラスのアルカリ溶出量は、JIS−R3502に基づく粉末法で、純水中に溶出するアルカリ成分量を測定した。このアルカリ溶出量が大きいと、蛍光体を変質させたり水銀と反応したりするため、輝度劣化につながる。耐紫外線ソラリゼーション性は次のようにして評価した。まず両面を鏡面研磨した厚さ1mmの試料を作製し、波長400nmの透過率を測定した。続いて40Wの低圧水銀ランプによって主波長253.7nmの紫外線を60分間照射した後、再度400nmの透過率を測定し、紫外線照射による透過率の低下量を求め、ΔT%として示した。耐紫外線ソラリゼーション性の劣るガラスほどこの透過率の低下量が大きくなり、蛍光ランプの輝度劣化が著しくなる。
【0045】
表から明らかなように、TiO2を必須成分として含有する本発明の各試料は、Sb23を実質的に含まないガラスで有りながら、作業温度が969℃以下、アルカリ溶出量が0.79mg以下、耐紫外線ソラリゼーション性についても透過率低下量が1.0%以下であり、従来品である試料No.15と同等以上の特性を有することが分かった。
【0046】
これに対して比較例であるNo.16の試料は、線熱膨張係数がステムガラスと安全にシール可能な97.4×10-7/℃であるが、作業温度が987℃と高く、またアルカリ溶出量が0.86mgと多かった。さらに耐紫外線ソラリゼーション性については、紫外線照射による透過率低下量が9.3%と著しく悪かった。
【0047】
次に試料No.5、8、11、15、及び16のガラスを用いて30Wの環状蛍光ランプを作製した。続いて、初期輝度及び1000時間点灯後の輝度を、従来品である試料No.14の初期輝度を100%としたときの相対値で示した。
【0048】
【表4】

【0049】
この結果、本発明の実施例であるNo.5、8、11の蛍光ランプは、従来の
ガラスで作製した蛍光ランプと同等以上の性能を示していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sb23、PbO、及びAs23の含有量が各々0.1重量%以下であり、かつ、TiO2含有量が0.05〜10重量%であることを特徴とする蛍光ランプ用ガラス。
【請求項2】
2Oの含有量が0〜6.9重量%であることを特徴とする請求項1の蛍光ランプ用ガラス。
【請求項3】
ソーダライムガラスからなることを特徴とする請求項1又は2の蛍光ランプ用ガラス。
【請求項4】
重量百分率で、SiO2 60〜75%、Al23 0.5〜10%、B23 0〜5%、RO 3〜17%(RはCa、Mg、Sr、Ba、Znを表す)、R’2O 10〜22%(R’はLi、Na、Kを表す)、ZrO2 0〜5%、CeO2 0〜2%、Fe23 0〜0.4%、P25 0〜1%、TiO20.05〜10%からなることを特徴とする請求項1〜3の何れかの蛍光ランプ用ガラス。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかのガラスからなることを特徴とする蛍光ランプ用ガラス管。
【請求項6】
請求項5のガラス管を外囲器として用いることを特徴とする蛍光ランプ。

【公開番号】特開2007−161583(P2007−161583A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59505(P2007−59505)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【分割の表示】特願平11−339138の分割
【原出願日】平成11年11月30日(1999.11.30)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】