説明

蛍光リン脂質エーテル化合物、組成物、及びその使用

本発明は、一般に、新規蛍光リン脂質化合物、これらの化合物を含有する組成物、及びこれらの化合物を利用する診断方法に関する。本発明の好ましい化合物は、以下の構造式(I):


で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、蛍光腫瘍選択的リン脂質エーテル(PLE)化合物、これらの化合物を含有する組成物、並びにこれらの化合物及び組成物の様々な診断における応用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍の早期発見は、長期生存率を改善することが知られている。故に、より選択的かつ非侵襲的な腫瘍診断技術の開発の優先度は高い。蛍光イメージングは、蛍光マーカーの生体分布の画像を提供することにより、前臨床的癌研究、抗腫瘍薬剤探索及び薬理学的開発において、有効な手段であることが判明している。この手法は、関心のある領域を腫瘍特異的蛍光分子プローブで標識することにより、悪性腫瘍の領域の位置及びジオメトリーの可視化を可能とする。
【0003】
組織内の光学イメージングにおける根本的な障壁は、高い光散乱(light scattering)、自家蛍光、及び可視帯の中間におけるヘモグロビンによる高い吸光である。赤色及び近赤外光の使用は、イメージングの改良に至る最も一般的な方策である。近赤外波長に行くにつれて(700-1100 nm):組織内の自家蛍光は主に紫外及び青色光で励起されるためバックグラウンドの蛍光の励起が少ない点;及び殆どの哺乳類組織の蛍光ピークは黄色帯に位置し、640nmよりも大幅に低いため、自家蛍光の干渉が少ない点で、哺乳類組織における他の利点を享受出来る(Ballou B, Ernst LA, Waggoner AS. Curr. Med. Chem., 2005, 12, 795-805; Fabian J, Nakazumi H, Matsuoka M. Chem. Rev., 1992, 92, 1197-1226)。近IR蛍光の使用は、多くの理由で、蛍光ベースの生物学的アッセイの性能を改善する。例えば、近IR蛍光は、1)バックグラウンド蛍光の顕著な減少;2)より深い光の浸透;3)生物組織に対する最小限の光ダメージ;4)媒体の光学的性質に対する撹乱性(sensitivity)の低下をもたらす。良好な蛍光ラベルは、減衰係数が大きく、蛍光量子収率が高く、そして光安定性が高くあるべきである。
【0004】
内視鏡、特に大腸内視鏡及び気管支内視鏡は、異常な増殖や内腔に隆起する腫瘍を発見するのに利用される。内視鏡という装置は、体腔の内部に挿入される。伝統的に、内視鏡は昼光チャンネル(daylight channel)を使用する。即ち、観察者は、天然に存在する光の波長を用いて全てを観察する。
【0005】
近年の新しい内視鏡は、複数のチャンネル、即ち昼光チャンネル及び他の光波長を有する1つ以上の他のチャンネルを利用する機能を有する。これらの更なるチャンネルは、天然に存在する蛍光、又は体内に注入された、若しくは体腔の表面に噴霧された色素の蛍光をモニタリングするのに利用される。あり得るチャンネルの一つは、NIR(近赤外)領域である。NIR領域の長所は、NIR領域(通常600〜800nm)における光の吸収が最小限である点、及び蛍光が体腔表面から数ミリ〜1センチメートル近くの深さで検出出来る点である。これは、大腸及び肺等の器官における腫瘍及びリンパ節転移の検出にとって有利である。
【0006】
従って、内視鏡プロセスの過程で悪性腫瘍を検出するための近赤外光の使用の更なる探究には、需要が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般に、リン脂質エーテル(PLE)化合物、これらの化合物を含有する組成物、並びにこれらの化合物及び/又は組成物の様々な悪性腫瘍の診断における使用に関する。
【0008】
一つの態様において、本発明は、以下の式(I)〜(VI)で表されるリン脂質蛍光化合物に関する。
【0009】
式I
【化1】

【0010】
式II
【化2】

【0011】
式中、nは7〜23の間の整数であり;
YはH、Me又はEtであり;
Zはフルオロフォアであり;そして
Xは
【化3】

からなる群から選択される。
【0012】
好ましい態様において、前記Zは:
【化4】

[式中、
RはH、Me、Et、Br及びIからなる群から選択され;
QはN、CH、C-Me、C-Et、C-CF3、C-Phからなる群から選択され;
R1
【化5】

からなる群から選択され;
LはO、S、NH及びNMeからなる群から選択され;
R2はH、Me、及びEtからなる群から選択され;
R3はH、OMe、OEt、及びNMe2からなる群から選択され;
R4はH、Me、Et、Ph又はp-メトキシ-フェニルからなる群から選択され;そして
mは1〜5の整数である]
からなる群から選択される。
【0013】
【化6】

(又は他の正に帯電したフルオロフォア)は、Cl-等の負に帯電した対イオンを含んでいてもよい。
【0014】
式III:
【化7】

[式中、
R5はH、Me、Et、Br及びIからなる群から選択され;
R6はH、Me、Et、p-メトキシ-フェニル、p-(N,N-ジメチルアミノ)-フェニル及び
【化8】

[式中、R7はH、Me、OMe及びMe2Nからなる群から選択される]
からなる群から選択される]
【0015】
式IV:
【化9】

[式中、
nは7〜23の間の整数であり;
mは0〜4の間の整数であり;
XはO、S、CMe2及びC=CH2からなる群から選択され;
YはMe、Et、Pr、i-Pr及び
【化10】

からなる群から選択される]
【0016】
式V:
【化11】

[式中、
mは0〜4の間の整数であり;
XはO、S、CMe2及びC=CH2からなる群から選択され;
YはMe、Et、Pr及びi-Prからなる群から選択され;
R8は、
【化12】

[式中、
nは7〜23の間の整数であり;そして
Zは
【化13】

からなる群から選択される]
からなる群から選択される]
【0017】
式VI:
【化14】

[式中、
nは7〜23の間の整数であり;
R9は、Me、Et及び
【化15】

からなる群から選択され;
Zは、
【化16】

からなる群から選択される]
【0018】
好ましい態様において、本発明は、下記の式:
【化17】

で表される化合物に関する。
【0019】
また、本発明は、一般に、本発明に係る化合物を含有する組成物にも関する。
【0020】
本発明は、一般に、本発明に係る化合物を使用する様々な方法にも関し、当該方法として、限定されないが、腸内の悪性腫瘍の内視鏡判定;視覚的及び/又は顕微鏡的に追加された、皮膚上の悪性病変の存在の判定;腸及び皮膚の悪性腫瘍の生検組織の選択における補助;悪性腫瘍の生検及び/又は外科的切除を完遂するための外科手術の過程における腸内及び/又は皮膚の悪性腫瘍の存在の判定が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1a】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、皮膚メラノーマ(A375)細胞を示す。
【図1b】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、正常皮膚(704sk)細胞を示す。
【図2a】CLR1501を加えて0.5時間インキュベーションした、皮膚メラノーマ(A375)細胞を示す。
【図2b】CLR1501を加えて1時間インキュベーションした、皮膚メラノーマ(A375)細胞を示す。
【図2c】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、直腸結腸腺癌(HCT-116)細胞を示す。
【図2d】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、子宮癌(MES SA/Dx5)細胞を示す。
【図2e】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、膵臓癌(Mia Paca-2)細胞を示す。
【図2f】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、膵臓癌(Panc-1)細胞を示す。
【図2g】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、卵巣腺癌(Ovcar-3)細胞を示す。
【図2h】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、卵巣腺癌(Ovcar-3)細胞を示す。
【図2i】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、グリア芽腫(U-87MG)細胞を示す。
【図2j】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、正常線維芽(NFA)細胞を示す。
【図2k】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、明細胞癌(Caki 2)細胞を示す。
【図2l】CLR1501を加えて24時間インキュベーションした、前立腺癌(PC3)細胞を示す。
【0022】
【図3】CLR1501を加えて48時間インキュベーションした、グリア芽腫(U-87MG)細胞を示す。
【図4】CLR1501と正常線維芽細胞(NFA)及び前立腺癌(PC3)細胞との共局在を示す。
【図5】CLR1501と正常線維芽細胞(NFA)及び明細胞癌(Caki2)細胞との共局在を示す。
【図6】膵臓癌細胞を植え付け、CLR1501を含有する組成物を注入した、無胸腺ヌードマウスの画像を示す。
【図7】CLR1501を注入したマウスから切除した腫瘍の画像を示す。
【図8】ヒト直腸結腸癌(HCT-116)腫瘍担持マウスにおけるCLR1502と腫瘍との共局在を示す。
【図9】皮膚を剥いだ(de skinned)膵臓癌(Panc-1)腫瘍担持マウスにおけるCLR1501と腫瘍との共局在を示す。
【図10】Kodak X-Sight 761を使用して観察された、皮膚を剥いだ(de skinned)膵臓癌(Panc-1)腫瘍担持マウスにおけるCLR1501と腫瘍との共局在を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本明細書中で使用されるとき、「アルキル」という用語は、所定の数の炭素原子を含む直鎖及び分岐鎖炭化水素基であって、典型的には、メチル、エチル、並びに直鎖及び分岐鎖プロピル及びブチル基を指す。また、「アルキル」という用語は、シクロアルキル、即ち環状C3-C8炭化水素基であって、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルを指す。「プロピル」等の個々の基又は部分は、直鎖の基又は部分のみを指す。分岐鎖のアイソマー、例えば「イソプロピル」等は、格別に言及される。
【0024】
「Me」はメチルを指す「Et」はエチルを指す。「Ph」はフェニルを指す。「Pr」はプロピルを指す。「i-Pr」はイソプロピルを指す。
【0025】
単数冠詞「一つの」及び「前記」は、特段言及が無い限り、又は単数形しかあり得ないことが文脈から明白でない限り、複数の参照を含む。
【0026】
「リン脂質エーテル化合物」及び「リン脂質化合物」は、本願中で目的に応じて互換的に使用される。
【0027】
一つの態様において、本発明は、一般に、蛍光PLE化合物、及び当該化合物の、悪性腫瘍判定における使用方法、及び他の使用に関する。
【0028】
一つの態様において、本発明は、式(I)〜(VI)で表されるリン脂質蛍光色素に関する。
【0029】
式I:
【化18】

式II
【化19】

[式中、
nは7〜23の整数であり;
Zはフルオロフォアであり;そして
Xは、
【化20】

からなる群から選択される]
【0030】
好ましい態様において、Zは、以下:
【化21】

[式中、
RはH、Me、Et、Br及びIからなる群から選択され;
QはN、CH、C-Me、C-Et、C-CF3、C-Phからなる群から選択され;
R1
【化22】

からなる群から選択され;
LはO、S、NH及びNMeからなる群から選択され;
R2はH、Me、及びEtからなる群から選択され;
R3はH、OMe、OEt、及びNMe2からなる群から選択され;
R4はH、Me、Et、Ph又はp-メトキシ-フェニルからなる群から選択され;そして
mは1〜5の整数である]
から選択される。
【0031】
【化23】

(又は他の正に帯電したフルオロフォア)が、Cl-等の負に帯電した対イオンを含んでもよい。
【0032】
式III:
【化24】

[式中、
R5はH、Me、Et、Br及びIからなる群から選択され;
R6はH、Me、Et、p-メトキシ-フェニル、p-(N,N-ジメチルアミノ)-フェニル及び
【化25】

[式中、R7はH、Me、OMe及びMe2Nからなる群から選択される]
からなる群から選択される]
【0033】
式IV:
【化26】

[式中、
nは7〜23の間の整数であり;
mは0〜4の間の整数であり;
XはO、S、CMe2及びC=CH2からなる群から選択され;
YはMe、Et、Pr、i-Pr及び
【化27】

からなる群から選択される]
【0034】
式V:
【化28】

[式中、
mは0〜4の間の整数であり;
XはO、S、CMe2及びC=CH2からなる群から選択され;
YはMe、Et、Pr及びi-Prからなる群から選択され;
R8は、
【化29】

[式中、
nは7〜23の間の整数であり;そして
Zは
【化30】

からなる群から選択される]
からなる群から選択される]
【0035】
式VI:
【化31】

[式中、
nは7〜23の間の整数であり;
R9は、Me、Et及び
【化32】

からなる群から選択され;
Zは、
【化33】

からなる群から選択される]
【0036】
目下好ましい化合物として:
【化34】

が挙げられる。
【0037】
特に好ましい化合物として、
【化35】

が挙げられる。
【0038】
対イオン(例えばCl-等)の存在は任意であって、本発明は、対イオンを有する化合物及び有しない化合物のいずれも包含するものと理解されたい。
【0039】
本発明に係る蛍光化合物は、約300nm〜約1000nmの波長の蛍光を発する。一つの態様において、第一の波長は、約400 nm〜約900 nmである。また、第二の波長は、約400 nm〜約1100 nmである。
【0040】
本発明は、任意のラセミ体、光学活性体、多形体若しくは立体異性体、又はそれらの混合物である前記化合物を包含するものと理解されたい。一つの態様において、前記蛍光リン脂質化合物は、純粋(S)-異性体を含んでもよい。他の態様において、前記蛍光リン脂質化合物は、(R)及び(S)異性体の混合物を含んでもよい。他の態様において、前記蛍光リン脂質化合物は、(R)及び(S)異性体のいずれも含む、ラセミ混合物を含んでもよい。光学活性体を調製する手段は周知である(例えば、再結晶化技術によるラセミ体の再溶解、光学活性出発化合物からの合成、キラル合成、又はキラル固定相を使用したクロマトグラフィー分離が挙げられる)。
【0041】
本発明の化合物は、非溶媒和物や、ヘミハイドレート等の溶媒和物として存在出来る。一般に、水やエタノール等の医薬として許容される溶媒の溶媒和物は、本発明の目的において、非溶媒和物と同等である。
【0042】
好ましくは、本発明の化合物は、両親媒性である。
【0043】
本発明の化合物のあるものは、酸付加塩等の、医薬として許容される塩の形態をとってもよい。例えば、窒素原子は、酸と塩を形成してもよい。塩の形成に適した酸として、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、サリチル酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、アスコルビン酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、及び他の当業者に周知の鉱物カルボン酸等が挙げられる。前記塩は、公知の手段で塩を生産するために、遊離塩基形態の化合物を、充分な量の所望の酸と接触させることにより調製される。遊離塩基形態は、水希釈水酸化炭酸カリウム(hydroxide potassium carbonate)、アンモニア、及び重炭酸ナトリウム等の適切な希釈塩基水溶液で、前記塩を処理することにより再生されてもよい。前記遊離塩基形態は、極性溶媒への溶解性等の何らかの物理的性質において塩形態と相異するが、前記酸性塩は、本発明の目的において、遊離塩基形態と同等である(例えば、S. M. Berge, et al., “Pharmaceutical Salts,” J. Pharm. Sci., 66: 1-19 (1977)を参照されたい)。
【0044】
本発明の化合物の医薬として許容される塩の適切なものとして例えば酸付加塩が挙げられ、これは、本発明に係る化合物の溶液を、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸又はリン酸等の医薬として許容される塩の溶液と混合することにより形成されてもよい。更に、本発明の化合物が酸性部分を有している場合、その医薬として許容される塩の適切なものとして、アルカリ金属塩、例えばナトリウム又はカリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えばカルシウム又はマグネシウム塩;及び適切な有機リガンドと形成される塩、例えば第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0045】
本発明の化合物は、無機又は有機酸由来の医薬として許容される塩の形態で使用されることが出来る。「医薬として許容される塩」という言葉は、医学的判断の範囲内では、有害な毒性、刺激性、アレルギー反応等を生じずに、人及び下等動物の組織と接触させて使用するのに適しており、利益/リスクの比率が合理的な範囲内である塩を意味する。医薬として許容される塩は、当該技術分野で周知である。例えば、S. M. Bergeらは、J. Pharmaceutical Sciences,1977, 66: 1 et seq. において、医薬として許容される塩を詳細に記載している。前記塩は、本発明に係る化合物の最終的な単離及び精製の過程でそのまま(in situ)調製されても、又は別に遊離塩基性基を適切な有機酸と反応させることによって調製されてもよい。代表的な酸付加塩として、限定されないが、酢酸塩、脂肪酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、樟脳、カンファースルホン酸塩、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イソチオネート)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、重炭酸塩、p-トルエンスルホン酸塩及びウンデカン酸塩等が挙げられる。また、塩基性窒素含有基は、塩化、臭化及びヨウ化メチル、エチル、プロピル、及びブチル等の低級ハロゲン化アルキル;硫酸ジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミル等の、硫酸ジアルキル;塩化、臭化及びヨウ化デシル、ラウリル、ミリスチル等の長鎖ハロゲン化物;臭化ベンジル及びフェネチル等のハロゲン化アリールアルキル等の薬剤で四級化され得る。そして、水又は油に可溶性、又は不溶性の生産物が取得される。医薬として許容される酸付加塩の生成に採用出来る酸の例として、塩酸、臭化水素、硫酸及びリン酸等の無機酸、並びにシュウ酸、マレイン酸、コハク酸及びクエン酸等の有機酸が挙げられる。
【0046】
塩基付加塩は、カルボン酸含有部分を、医薬として許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩若しくは重炭酸塩と、アンモニア若しくは有機一級、二級、若しくは三級アミンと反応させることにより、本発明の化合物の最終的な単離及び精製の過程でそのまま(in situ)調製することが出来る。医薬として許容される塩として、限定されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びアルミニウム等のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属に基づくカチオンの塩、並びに、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、及びエチルアンモニウム等の非毒性四級アンモニア及びアミンカチオンの塩が挙げられる。塩基付加塩の生成に有用な他の代表的な有機アミンとして、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジン等が挙げられる。
【0047】
本発明に係る化合物が1つ以上の非対称中心を有する場合、それらは光学異性体として存在し得る。本発明に係る化合物が2つ以上の非対称中心を有する場合、それらは更に、ジアステレオ異性体を有し得る。それらの異性体及びそれらの任意の比率での混合物は、本発明の範囲内に包含されるものと理解されたい。
【0048】
また、本発明は、本明細書中に記載される化合物のアミノ置換基のN-オキシドを含む。また、医薬として許容される塩は、水酸化ナトリウム等の無機塩基でフェノール性化合物を処理することによっても調製出来る。また、前記フェノール性化合物のエステルは、例えば酢酸及び安息香酸エステル等の脂肪族及び芳香族カルボン酸を用いて生成することも出来る。
【0049】
「診断的に有効な量」は、腫瘍のスクリーニング用に患者に投与されたとき、良性構造と悪性腫瘍との間に判別可能な差異を提供するのに充分な化合物の量を意味する。「診断的に有効な量」は、その化合物、検出すべき症状、症状の重症度、対象の年齢及び相対的健康、投与の経路及び形式、医師又は獣医の判断、並びに他の様々な要因に依存して変化し得る。
【0050】
本発明に係る化合物は、診断的に有効な量で、患者に投与される。本発明の化合物は、単独で医薬として許容される量が投与されてもよく、又は医薬として許容される量の一部として投与されてもよい。加えて、化合物又は組成物は、ボーラス投与等、1回で全て投与されてもよく、一揃いの錠剤により複数回投与されてもよく、または、経皮送達等を用いて、一定期間にわたって実質的に均一量が送達されてもよい。前記化合物の用量は、時間により変動してもよいことも留意されたい。本発明の化合物は、即時放出製剤、調整放出製剤又はそれらの組合せを使用して投与されてもよい。「調整放出」という用語は、徐放、遅延放出、及びそれらの組合せを含む。好ましい態様において、本発明の蛍光リン脂質化合物は、医薬として許容される担体と組み合わせられることにより、非経口投与用の医薬品として調製される。
【0051】
「医薬として許容される」という用語は、一般的に安全で、非毒性で、そして生物学的に、又はそれ以外の望ましくない作用をもたらさないこと、及びヒトの医薬的使用と同様に、獣医学的にも許容されることを意味する。「医薬として許容される塩」又は「プロドラッグ」という用語は、医学的判断の範囲内では、それらの化合物が、有害な毒性、刺激性、アレルギー反応等を生じずに対象に使用するのに適しており、利益/リスクの比率が合理的な範囲内であって、そしてそれらの意図される使用にとって効果的であることを指し、可能であればそれらの化合物の双性形態(zwitterionic form)も同様である。
【0052】
本明細書中で定義されるとき、「接触」とは、本発明において使用される蛍光リン脂質化合物が、試験管、フラスコ、組織培養ディッシュ、チップ、アレイ、プレート、マイクロプレート、キャピラリー等の中の細胞に添加し、そして一定温度で、前記蛍光リン脂質化合物が、受容体に結合し、又は膜内に挿入されるのに充分な時間、インキュベーションすることを意味する。前記試料を前記蛍光リン脂質化合物又は他の特異的に結合する成分と接触させる方法は当該技術分野で周知であって、実行されるアッセイプロトコールの種類に応じて選択されてもよい。インキュベーションの方法も、標準的で、当業者に公知のものである。
【0053】
他の態様において、「接触」という用語は、本発明において使用される蛍光リン脂質化合物が、処置を受ける患者に導入され、当該化合物がインビボで標的と結合することを意味する。更なる態様において、「接触」は、本発明において使用される蛍光リン脂質化合物が腫瘍のスクリーニングを要する患者に導入され、当該化合物がインビボで標的と結合することを意味する。
【0054】
本発明は、一般に、本発明に係る化合物を含有する組成物に関する。
【0055】
本明細書中で使用されるとき、「組成物」という用語は、特定の量の特定の成分を含有する製品、及び直接的に又は間接的に、特定の量の特定の成分の組合せから形成される任意の産物を包含することが意図される。
【0056】
本発明に係る組成物は、単一の単位用量として、又は複数の単一単位用量として調製されてもよい。本明細書中で使用されるとき、「単位用量」は、所定の量の有効成分を含有する個別の組成物の量を意味する。有効成分の量は、一般に、患者又はその一部に投与される有効成分の用量と等しい。
【0057】
本明細書中で使用されるとき、「医薬組成物」という用語は、適切な希釈剤、保存料、可溶化剤、乳化剤、及び助剤(まとめて「医薬として許容される担体」と呼ばれる)と一緒にした、治療に有効な量の腫瘍特異的リン脂質エーテルアナログを意味する。本明細書中で使用されるとき「有効な量」及び「治療に有効な量」は、毒性、刺激性又はアレルギー反応等の不都合な副作用を起こさずに所望の効果を得るのに充分な有効成分の量を指す。具体的な「有効な量」は、診断される具体的な症状、対象の物理的状態、対象の種、併用療法(もし行われている場合は)の性質、並びに採用される具体的な製剤、及び前記化合物又はその誘導体の構造等の要素に応じて変動し得る。当業者は、最適な有効な量を、ありふれた実験を用いて、容易に決定出来る。
【0058】
本発明に係る組成物は、液体又は凍結乾燥若しくはその他の乾燥製剤であってもよく、様々な成分(Tris-HCl、酢酸、リン酸等)、pH及びイオン強度の希釈剤、表面への吸着を防止する添加物、例えばアルブミン又はゼラチン、洗剤(例えばTween20(商標)、Tween80(商標)、PluronicF68(商標)、バイル酸塩)、可溶化剤(例えばグリセロール、ポリエチレングリセロール)、抗酸化剤(アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム等)、保存料(Thimerosal(商標)、ベンジルアルコール、パラベン等)、バルク材料若しくは毒性調整剤(乳酸、マンニトール等)、ポリエチレングリコール等のポリマーとタンパク質との共有結合、金属イオンの錯体、又はポリマー化合物、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ハイドロゲル等の粒子調製物の材料表面又は内部、若しくはリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単層若しくは複層小嚢、赤血球ゴースト、若しくはスフェ路プラスト上への組み込みを含む。そのような組成物は、物理的性状、溶解性、安定性、インビボ放出の速度、及びインビボクリアランスの速度に影響し得る。調整放出又は徐放組成物として、親油性デポー(例えば脂肪酸、蝋、油脂)中の製剤が挙げられる。
【0059】
好ましい態様において、本発明に係る組成物は、本発明に係る化合物、ポリソルベート、エタノール及び生理食塩水を含む。
【0060】
ポリマー(例えばポロキサマー又はポロキサミン等)で被覆された粒子組成物を投与する方法も、本発明に包含される。前記化合物の他の態様は、粒子形態、保護コーティング、プロテアーゼ阻害剤、又は、局所、非経口、灰、鼻及び口等の様々なルートの投与用の浸透促進剤等を包含する。幾つかの態様において、前記医薬組成物は、非経口、傍癌(paracancerally)、経粘膜、経皮、筋肉内、静脈内、皮膚内、皮下、腹腔内、心室内、頭蓋内、及び腫瘍内に投与される。
【0061】
更に、本明細書中で使用されるとき、「医薬として許容される担体」は、当業者に公知であって、限定されないが、0.01〜0.1M、好ましくは0.05Mリン酸緩衝剤、又は0.9%生理食塩水を含有する。加えて、そのような医薬として許容される担体は、水性又は非水性溶液、懸濁液、及び乳液である。非水性溶媒の例として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブオイル、及び注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチル等が挙げられる。水性担体として、アルコール性/水性溶液、乳液又は懸濁液が挙げられ、例えば生理食塩水及び緩衝媒体が挙げられる。
【0062】
非経口ビヒクルとして、塩化ナトリウム溶液、Ringerデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸Ringer及び固定油が挙げられる。静脈内ビヒクルとして、液体及び栄養補充剤、電解質補充剤、例えばRingerデキストロース当を元にしたもの等が挙げられる。保存料及び他の添加物が存在する場合もあり、例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、コレーティング剤(collating agent)、不活性ガス等が挙げられる。
【0063】
本発明に係る調整放出又は徐放組成物は、親油性デポー(例えば脂肪酸、蝋、油脂)中の製剤を含む。また、本発明は、ポリマー(例えばポロキサマー又はポロキサミン)で被覆した粒子組成物であって、前記化合物が、組織特異的受容体、リガンド又は抗原に指向する抗体と結合し、又は組織特異的受容体のリガンドと結合しているものである。本発明に係る組成物の他の態様は、粒子形態、保護コーティング、プロテアーゼ阻害剤、又は、局所、非経口、灰、鼻及び口等の様々なルートの投与用の浸透促進剤等を包含する。
【0064】
ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン又はポリプロリン等の水溶性のポリマーの共有結合により修飾された化合物は、対応する未修飾の化合物と比較して、静脈内投与後の血中半減期の実質的な延長を示すことが知られている(Abuchowski et al., 1981; Newmark et al., 1982; and Katre et al., 1987)。そのような修飾は、水溶液中の化合物の溶解度を増大させ、凝集を防止し、化合物の物理的及び化学的安定性を向上させ、そして、化合物の免疫原性及び反応性を大幅に低下させる場合もある。その結果、所望のインビボ生物活性は、そのようなポリマー-化合物アブダクト(abduct)を、未修飾の化合物を用いた場合よりも低頻度又は低用量で投与することにより達成され得る。
【0065】
前記医薬組成物は、前記蛍光リン脂質化合物のみ、又は更なる医薬として許容される担体を含み、錠剤、粉末、カプセル、ペレット、溶液、懸濁液、エリキシール、乳液、ゲル、クリーム又は直腸及び尿道用の坐薬等の固体又は液体の形態であってもよい。医薬として許容される担体として、ゴム、澱粉、糖、セルロース材料、及びそれらの混合物が挙げられる。前記蛍光リン脂質化合物を含有する医薬組成物は、例えばペレットの皮下移植当により、患者に投与されてもよい。更なる態様において、ペレットは、一定期間にわたり腫瘍特異的リン脂質エーテルアナログを調整放出するように提供される。当該調製物は、液体長生物の静脈内、動脈内、又は筋肉内注射により、液体もしくは固体調製物の経口投与により、又は局所適用により、投与される場合もある。投与は、直腸坐薬又は尿道坐薬の使用により達成されてもよい。
【0066】
本発明により投与出来る医薬調製物は、公知の溶解、混合、顆粒化、又は錠剤生成プロセスにより調製されることが出来る。経口投与のために、前記腫瘍特異的リン脂質エーテルアナログ、又はそれらの生理的に耐性の誘導体、例えば塩、エステル、N−オキシド等は、目的に応じて、ビヒクル、安定化剤、又は不活性の希釈剤等の添加物と混合され、そして使用方法に応じて、投与に適した形態、例えば錠剤、被覆錠剤、硬若しくは軟ゼラチンカプセル、水性、アルコール性、若しくは油性溶液等に変換される。適切な不活性ビヒクルの例として、公知の錠剤基質、例えばラクトース、スクロース、又はコーンスターチ等を、結合剤、例えばアカシア、コーンスターチ、ゼラチン等と、崩壊剤、例えばコーンスターチ、ポテトスターチ、アルギン酸等と、又は潤滑剤例えばステアリン酸又はステアリン酸マグネシウム等と組み合わせたものが挙げられる。
【0067】
適切な油性ビヒクル又は溶媒の例として、植物性又は動物性油脂、例えばヒマワリ油又は魚類肝油等が挙げられる。調製物は、乾燥顆粒及び湿性顆粒のいずれにも調製される。非経口投与用(皮下、静脈内、動脈内、又は筋肉内投与)として、腫瘍特異的リン脂質エーテルアナログ、又はそれらの生理的に耐性の誘導体、例えば塩、エステル、N−オキシド等が、溶液、懸濁液、又は排出(expulsion)に変換され、必要に応じて慣用される物質と、そして目的に応じて、例えば可溶化剤又は他の助剤と組み合わされる。例えば、界面活性剤及び他の医薬として許容される助剤を添加した、又は添加しない、水及び油等の滅菌した液体が挙げられる。代表的な油として、石油、動物性、植物性、又は合成油脂、例えばラッカセイ油、大豆油、又はミネラルオイル等が挙げられる。一般に、水、生理食塩水、水性デキストロース、及び関連する糖類の溶液、及びグリコール、例えばプロピレングリコール、又はポリエチレングリコール等は、特に注射用溶液に好ましい液性担体である。
【0068】
有効成分を含有する医薬組成物の調製物は、当該技術分野でよく理解されている。そのような組成物は、鼻咽頭に送達されるエアロゾルとして、又は注射製剤として、液体の溶液若しくは懸濁物として調製されてもよいが;注射に先立って液体中に溶解され、又は懸濁されるのに適した固体の形態で調製されることも出来る。前記調製物は、乳濁物であってもよい。通常、活性治療用成分は、医薬として許容され、及び当該活性成分に適合する、賦形剤と混合される。適切な賦形剤として、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0069】
加えて、前記組成物は、有効成分の有効性を促進させる、水和剤、又は乳化剤、pH緩衝剤等の、微量の助剤物質を含有してもよい。
【0070】
使用方法
本発明に係る化合物は、様々な診断及び治療方法に使用されてもよい。
【0071】
一つの態様において、前記化合物は、体内の悪性腫瘍の存在を内視鏡下で判定するために、腸内又は非経口ルート(即ち経口、又はIV)のいずれかにより、患者に投与され得る。例えば、限定されないが、結腸、直腸、小腸、食道、胃、十二指腸、子宮、膵臓及び総胆管、気管支、食道、口腔、洞(sinus)、肺、膀胱、腎臓、腹腔、並びに胸腔が挙げられる。
【0072】
好ましい態様において、本発明は、患者の体内で、2つ以上の波長を有する内視鏡を使用して、選択された領域内の、良性組織と悪性腫瘍組織とを内視鏡下で峻別する方法を提供し、当該方法は、以下の工程:(a)蛍光標識した化合物を患者に投与する工程;(b)内視鏡の第一の波長を使用して、選択された領域の組織構造の画像を取得する第一の手段を使用する工程;(c)前記蛍光標識した化合物により生じた蛍光の分布の画像を取得する第二の手段を使用する工程;及び(d)前記第一の波長による、選択された領域の組織構造の画像を、前記蛍光標識した化合物により生じた第二の波長による蛍光の分布の画像と比較することにより、良性組織と悪性腫瘍組織とを峻別する工程;を含む。この態様において、好ましくは、前記選択された領域は、消化管及び呼吸器である。好ましくは、蛍光リン脂質化合物が、内視鏡検査の数時間前;より好ましくは約1時間〜4時間前に、静脈内に注射される。
【0073】
他の態様において、前記化合物は、上記で列挙した体内の悪性腫瘍中の生検組織の選択における補助に使用されてもよい。
【0074】
尚も他の態様において、前記化合物は、腸内若しくは非経口経路を経て、又は局所適用を経て、肉眼的及び/又は顕微鏡的に補助される、皮膚上の悪性腫瘍病巣の存在の判定のために、患者に投与されてもよい。例えば、限定されないが、皮膚上の良性及び悪性病巣の峻別が挙げられる。
【0075】
他の態様において、前記化合物は、上記で列挙した皮膚の悪性腫瘍中の生検組織の選択の補助に使用されてもよい。
【0076】
一つの態様において、本発明は、一般に、悪性腫瘍を有するおそれがある領域中の生検組織を選択する方法に関し、以下の工程;
(a)蛍光リン脂質エーテル化合物を患者に投与する工程;
(b)内視鏡の第一の波長を使用して、前記悪性腫瘍を有する恐れがある領域の組織構造の画像を取得する第一の手段を使用する工程;
(c)前記蛍光リン脂質エーテル化合物により生じた蛍光の分布の画像を取得する第二の手段を使用する工程;及び
(d)前記第一の波長による、前記悪性腫瘍を有する恐れがある領域の組織構造の画像を、前記蛍光リン脂質エーテル化合物により生じた第二の波長による蛍光の分布の画像と比較することにより、良性組織と悪性腫瘍組織とを峻別して、前記生検組織を選択する工程;
を含む。
【0077】
尚も他の態様において、前記化合物は、そのような病巣の手術による切除又はMohs手術の間の悪性腫瘍組織の縁(margin)の判定の補助に使用されてもよい。
【0078】
他の態様において、前記化合物は、外科手術の最中、既知の悪性腫瘍の境界での悪性腫瘍組織の存在を、肉眼で、又は顕微鏡下で判定するために、腸内又は非経口ルート(即ち経口、又はIV)のいずれかにより、患者に投与されてもよい。例として、限定されないが、生検及び/又は悪性腫瘍の手術による切除の完遂を補助するための、悪性腫瘍の境界の手術中の判定が挙げられる。これらの方法は、ヒトの身体の任意の組織中の任意の悪性腫瘍に使用出来る。
【0079】
尚も他の態様において、前記化合物は、患者の身体から採取した病理標本中の残留悪性腫瘍幹細胞の存在を判定するために、及び/又は患者の体内の残留癌幹細胞の存在を判定するために使用されてもよい。
【0080】
例えば、一つの態様において、本発明は、癌治療を行っている患者中の残留悪性腫瘍幹細胞の存在を判定する方法を提供し、当該方法は、以下の工程、(a)請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光リン脂質エーテル化合物を前記癌治療が行われる患者に投与する工程;(b)前記癌治療の前に悪性と判定された組織の画像を取得する工程;及び(c)前記組織中の前記蛍光リン脂質化合物の蓄積を評価する工程、ここで前記組織中の前記蛍光リン脂質化合物の蓄積は、残留悪性腫瘍幹細胞が存在する可能性を示す;を含む。
【0081】
尚も他の態様において、本発明は、癌治療を行っている患者中の残留悪性腫瘍幹細胞の存在を判定する方法を提供し、当該方法は、以下の工程、(a)前記癌治療が行われる患者から病理標本を切除する工程;(b)当該病理標本を、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光リン脂質化合物とインキュベーションする工程;(c)当該病理標本中の蛍光リン脂質化合物の分布を画像化する工程;ここで前記病理標本中の蛍光リン脂質化合物の分布は、残留悪性腫瘍幹細胞が存在する可能性を示す;を含む。
【0082】
尚も他の態様において、前記提供された化合物は、腫瘍治療に対する応答をモニタリングするのに使用されてもよい。一つの好ましい態様において、本発明は、腫瘍治療に対する応答をモニタリングする方法を提供し、当該方法は、以下の工程、(a)請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光リン脂質化合物を前記腫瘍治療の前に患者に投与する工程;(b)前記腫瘍治療を実施する工程;(c)前記腫瘍治療の後に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光リン脂質化合物を提供する工程;並びに(d)工程(a)及び工程(c)で用いた蛍光リン脂質化合物の蓄積の差異を評価する工程、ここで工程(a)におけるリン脂質化合物の蓄積が多く、一方工程(c)におけるリン脂質化合物の蓄積が少ないことは、当該処置に対する応答が良好であること及び/又は当該処置方法が有効であることを示す;を含む。
【0083】
本発明は、下記実施例を用いて更に記述される。これらの実施例は例示のみを目的として記載され、本発明の範囲を狭くし、又は限定することを意図しない。
【実施例】
【0084】
実施例1
18-[p-(4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン8-イル)-フェニル]-オクタデシルホスホコリン(CLR1501)の合成
CLR1501の合成は、18-[p-(ジヒドロキシボリル)-フェニル]-オクタデシルホスホコリン2と、8-チオメチル-BODIPY 1を、公表されている手順(Pena-Cabrera E. et al. Org. Lett., 2007, 9, 3985-3988, J. Org. Chem., 2009, 74, 2053-2058)に従い、Liebeskind-Sroglクロスカップリング反応(Liebeskind LS, Srogl J. Org. Lett., 2002, 4, 979-981)を用いて、実施された。
【化36】

Pd2(dba)3=トリス-(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)
TFP=トリ-(2-フリル)ホスフィン=
【化37】

CuTC=銅(I)チオフェン-2-カルボキシレート=
【化38】

【0085】
8-(チオメチル-4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン 1は、前記文献記載の手順に従い合成された(Goud T.V., Tutar A., Biellman J.F. Tetrahedron, 2006, 62, 5084-5091)。
【0086】
スターラーバーを入れた20mlの丸底フラスコに、18-[p-(ジヒドロキシボリル)-フェニル]-オクタデシルホスホコリン2 (194 mg, 0.35 mmol)、8-(チオメチル-4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン 1 (166 mg, 0.7 mmol)、CuTC (133 mg, 0.7 mmol)、Pd2(dba)3 (13 mg, 0.014 mmol)及びTFP (16 mg, 0.07 mmol)を充填した。当該フラスコを高真空下で15分間脱気し、乾燥窒素を再充填し、そして当該フラスコに脱気メタノールを加えた。当該反応混合物を50℃で1.5時間攪拌し、室温まで冷やし、3〜4mlのクロロホルムで希釈し、そして、シリカゲルカラムにロードした。当該カラムを、クロロホルム-メタノール混合物(9:1, 8:2, 5:5)で、最後にクロロホルム-メタノール-水(65:25:4)で溶出した。産物を含有するフラクションを一まとめにし、蒸発させ、暗赤色の残留物を高真空下で乾燥させた。CLR1501の収量:169mg(69%)。
【0087】
実施例2
化合物CLR1502の合成
【化39】

【0088】
空気中で、18-[p-(ジヒドロキシボリル)-フェニル]-オクタデシルホスホコリン(126 mg, 0.23 mmol), IR-775塩化物(177 mg, 0.34 mmol)、粉末炭酸カルシウム(94 mg, 0.68 mmol)及びPd-PEPPSI-IPr (5 mg, 0.007 mmol)を10mL丸底フラスコに入れ、当該フラスコを、高真空下で30分間維持した。当該フラスコを窒素で再充填し、脱気メタノール(7ml)を添加した。当該反応混合物を12時間質温で攪拌し、反応終了をTLCで確認した。反応開始時のボロン酸は尚も存在していた。Pd-PEPPSI-IPr (1 mg)を更に加え、反応終了まで更に10時間攪拌を続行した。当該反応混合物をシリカゲルカラムにロードし、各100mLのCHCl3-MeOH混合物(9:1, 8:2, 5:5)で、そして最後に188mlのCHCl3-MeOH-H2O (65:25:4)及び540mlのCHCl3-MeOH-H2O (100:65:15)で溶出した。収量:140mg(44%)。
【0089】
CLR1502は、IR-775-CLR1501コンジュゲートの別名も有する。IR-775は、Sigma-Aldrich(登録商標)製の市販の色素である。
【0090】
他の化合物は未だ合成されていないが、それらが、公知の方法及び本発明の下記教示を適切に使用した上での合理的な予想から、容易に合成出来ることが想定される。
【0091】
実施例3(予測的合成)
BODIPY修飾アルキルリン脂質の合成
【化40】

【0092】
BODIPY断片及びアルキル鎖の間にフェニル環を有しないBODIPY-修飾-オクタデシルホスホコリンの合成は、スキーム1に示される。合成は、参考文献の記載に従い実施出来る(C. Peters et al. J. Org. Chem., 2007, 72, 1842-1845)。当該合成は、2,5-ジメチルピロールとの反応によりジピロメタンに変換される、長鎖酸塩化物3から出発する。この化合物が、BF2橋の導入に使用され、ホスホコリン5に変換される、BODIPY中間体4が得られる。
【0093】
【化41】

ペリホシン(perifosine)様アナログ10の合成は、スキーム2に示される。触媒的な量の酸の存在下での4-ヨードベンザルデヒド6とピロールとの重合、その後の化合物7の酸化及びBF3によるキレート化により、8-(p-ヨードフェニル)-BODIPY中間体8が得られる(Loudet A., Burgess K. Chem. Rev., 2007, 107, 4891-4932)。Sonogashira反応において、この中間体は、ペリホシン頭部基を有するアセチレンリン脂質9とクロスカップリングされる。続いて、三重結合の水素化により、蛍光リン脂質10が提供される。
【0094】
【化42】

非対称的に置換されたBODIPYを有する蛍光アルキルホスホコリン13の合成を、スキーム3に示す。BODIPY核11は、公表された手順(Li Z., Bittman R. J. Org. Chem., 2007, 72, 8376-8382)に従い合成出来る。その他の合成経路は、スキーム2に示すものと類似する。
【0095】
【化43】

スキーム4は、ヘテロアリール融合BODIPYアルキルリン脂質16の合成の例を提供する。ヘテロアリール融合BODIPY色素は文献中に記載されており(Umezawa K, Matsui A, Nakamura Y, Citterio D, Suzuki K. Chem. Eur. J., 2009, 15, 1096-1106; Umezawa K, Nakamura H, Makino H, Citterio D, Suzuki K. J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 1550-1551)、それらは、高い吸光係数、並びに遠赤色及び近赤外領域の波長での高い量子収率を呈する。BODIPY中間体15の合成は、公知文献に記載された手順(Umezawa K, Matsui A, Nakamura Y, Citterio D, Suzuki K. Chem. Eur. J., 2009, 15, 1096-1106; Goud T.V., Tutar A., Biellman J.F. Tetrahedron, 2006, 62, 5084-5091)に基づく。蛍光アルキルホスホコリン16の合成は、公表された手順(Pena-Cabrera E. et al. Org. Lett., 2007, 9, 3985-3988, J. Org. Chem., 2009, 74, 2053-2058)に従い、18-[p-(ジヒドロキシボリル)-フェニル]-オクタデシルホスホコリン2と8-チオメチル-BODIPY 15のLiebeskind-Sroglクロスカップリング反応(Liebeskind LS, Srogl J. Org. Lett., 2002, 4, 979-981)を使用して実施される。
【0096】
【化44】

束縛(constrained)BODIPY発色団を有する蛍光アルキルリン脂質の合成は、スキーム5に示される。化合物18中に包含される束縛BODIPY色素は、元のBF2色素より、鮮明な、赤色にシフトした、及びより強力な蛍光放射を有することが示された(Kim H, Burghart A, Welch MB, Reibenspies J, Burgess K. Chem. Commun, 1999, 1889-1890; Loudet A., Burgess K. Chem. Rev., 2007, 107, 4891-4932)。束縛BODIPY17の合成は、公知文献中に記載されている((Kim H, Burghart A, Welch MB, Reibenspies J, Burgess K. Chem. Commun, 1999, 1889-1890)。当該BODIPY化合物17を、Sonogashira反応の条件下で、アセチレンアルキルホスホコリン12とクロスカップリングさせ、三重結合を水素化して、蛍光リン脂質18を取得した。
【0097】
シアニン色素修飾アルキルリン脂質の合成
この項は、シアニン色素をコンジュゲートさせたリン脂質エーテルアナログの予測的合成を記載する。シアニンは、600〜900nmの範囲の励起帯を有する長波長の発色団のありふれた供給源である(Goncalves MS. Chem. Rev., 2009, 109, 190-212; Ballou B, Ernst LA, Waggoner AS. Curr. Med. Chem., 2005, 12, 795-805; Frangioni JV. Curr. Opin. Chem. Biol., 2003, 7, 626-634; Mishra A. et al. Chem. Rev., 2000, 100, 1973-2011)。シアニン色素をコンジュゲートさせたリン脂質エーテルアナログの例として、剛体(rigid)(3)及び非剛体(XX)ポリメチレン構造が挙げられる。
【0098】
【化45】

スキーム6は、剛体シアニンベース蛍光アルキルリン脂質20の合成を示す。化合物19の合成において、公知文献を参照する(Goncalves MS. Chem. Rev., 2009, 109, 190-212)。化合物19と18-[p-(ジヒドロキシボリル)-フェニル]-オクタデシルホスホコリン2のパラジウム触媒クロスカップリングにより、蛍光リン脂質20が得られる。
【0099】
【化46】

非剛体シアニン色素とコンジュゲートさせた蛍光リン脂質の合成を、スキーム7に示す。2つの長鎖アルコールを有する化合物21を、bis-ホスホコリンアナログ22に変換する。化合物22は、Indocyanine Green(ICG、別名IR-125)のbis-アルキルホスホコリン誘導体であって、FDAに認可された唯一のシアニン蛍光色素である。
【0100】
【化47】

スキーム8に示す他の例は、Indocyanine Greenのモノアルキルホスホコリン誘導体24を含む。
【0101】
実施例4
CLR1501のインビトロ試験
実験条件
癌化皮膚細胞と正常皮膚細胞におけるCLR1501の分布を試験するために、CLR1501を、ATCCから購入した、皮膚メラノーマ(A375)及び正常皮膚(704sk)細胞に導入した。いずれの細胞も、37℃の、10%FBS及び5%CO2を添加したDMEM培地中で維持された。撮像の前に、細胞を0.25%トリプシンでフラスコから回収し、スライドガラス(Ibidi, microslides VI flat, Catalog No: 80626)上で一昼夜培養した。翌日、培地を静かにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に入れ替え、細胞を7.5μMのCLR1501を加えたDMEM培地中で24時間インキュベーションした。CRL1501は、0.4%のポリソルベート20、2%のエタノール及び生理食塩水で製剤化された。PBSで激しく洗浄した後、細胞を、露光時間1秒で、Bio-Rad Radiance 2100 MP Rainbowを使用して、撮像した。
【0102】
結果
図1a及び1bが示すように、704sk細胞において、CLR1501は、リソソームに移行して、分解されているように見える(図1b)。A375細胞は、CLR1501が、細胞質全体に散在する巨大な蛍光小胞に内在していることを示した(図1a)。
【0103】
図2a及び2bは、インキュベーション後30分(図2a)及び1時間(図2b)での、A375 細胞中のCLR1501の初期の取り込みプロフィールを示す。図2aが示すように、30分後の時点では、シグナルは薄く、細胞質部分に限定されている。細胞質付近に、幾つか細胞内小胞の形成が認められる。図2bが示すように、1時間以内では、シグナルは細胞膜中のみに集中せず:細胞内構造も認められる。細胞膜と結び付いたより強いシグナルも認められる。
【0104】
類似の実験が、幾つかの他の癌細胞株:直腸結腸腺癌、子宮癌、膵臓癌、卵巣腺癌、グリア芽腫、明細胞癌、及び前立腺癌において実施した。比較のために、正常線維芽細胞を、CLR1501とインキュベーションした。
【0105】
要約すると、細胞をマイクロスライドVI(Ibidi, Verona, WI)に播種し、一昼夜置いた。翌日、細胞を、5μMのCLR1501と、37℃で24時間インキュベーションした。撮像の前に、細胞をPBSで洗浄した。Nikon A1R共焦点顕微鏡を使用して、画像を取得した。露光時間及びレーザーの強度は、試料間で類似していた。CLR1501はAlexa Fluor 488フィルター(励起488nm-放射520nm)を使用して、CLR1501の画像を取得した。
【0106】
表1は、癌細胞株と正常細胞中のCLR1501が放射するシグナルの強度を示す。
【表1】

【0107】
表1で示すように、腫瘍細胞は、正常線維芽細胞よりも、CLR1501の取り込みが6〜12倍多かった。
【0108】
図2cは、直腸結腸腺癌細胞株(HCT-116)における結果を示す。
図2dは、子宮肉腫細胞株(MES SA/DX-5)における結果を示す。
図2eは、膵臓癌細胞株(Mia Paca-2)における結果を示す。
図2fは、膵臓癌細胞株(Panc-1)における結果を示す。
図2gは、卵巣腺癌細胞株(Ovcar-3)における結果を示す。
図2hは、卵巣腺癌細胞株(Ovcar-3)における結果を示す。
図2iは、グリア芽腫細胞株(U-87MG)における結果を示す。
図2jは、正常線維芽細胞株(NFA)における結果を示す。
図2kは、明細胞癌細胞株(Caki-2)における結果を示す。
図2lは、前立腺癌細胞株(PC3)における結果を示す。
【0109】
図2c〜2i及び2k〜2lは、これら全ての細胞株における、CLR1501の顕著な取り込みを示す。構造的に関連する放射性ヨウ化アルキルホスホコリンアナログNM404(18-p-(ヨードフェニル)-オクタデシル ホスホコリン)は、広範な(37/37)、異種移植した、及び自然に生じた、原発性の、及び転移性の、ヒト及びげっ歯類の腫瘍モデルにおいて、長期間(マウスモデルにおいて80日超)かつ選択的な保持を可能とする。これらの実験は、インビトロで、MN404の蛍光アナログであるCLR1501が、様々な腫瘍細胞株で同等の選択的取り込み及び保持を示すことを実証する。
【0110】
図3は、48時間、37℃、10%FBS及び5%CO2を加えたEagle MEM培地中で、CLR1501とグリア芽腫(U87MG)をインキュベーションした結果を示す。下記の共染色色素が使用された:Hoechst33342(1μg/mL) (核;青色), Mitotracker (25nM) (ミトコンドリア;赤色)及びBlue-White DPX (100nM) (小胞体(ER);青色)をPBSで希釈し、細胞に加え15分間置いた。細胞をPBSで洗浄し、Bio-Rad Radiance 2100 MP Rainbowで撮像した。
【0111】
上記実験は、CLR1501が、細胞の細胞質中に専ら蓄積することを実証した。核は青白色に映り、赤色のシグナルは、ミトコンドリアの分布を示す(PCT出願で提出した写真には色は再現されていない)。CLR1501は、ミトコンドリア及びERに共局在していた。シアンのシグナル(図3の暗い楕円形の斑)は、専ら、核膜付近の核の外側に分布していた。
【0112】
図4は、NFA細胞及びPC3細胞を共培養し、CLR1501とインキュベーションし、更にそれらを核染料及びミトコンドリアマーカーで共染色した結果を示す。要約すると、NFA及びPC3細胞を、マイクロスライドVI(Ibidi, Verona, WI)上で一昼夜共培養した。翌日、細胞を、完全培地中、37℃で24時間、5μMのCLR1501とインキュベーションした。翌日、PBSで洗浄した後、細胞を核染料(Hoechst 33342)及びミトコンドリアマーカー(Mitotracker)(Invitrogen, Carlsbad, CA)で共染色した。細胞を、Nikon A1R共焦点顕微鏡を使用して観察した。CLR1501は、Alexa-Fluor 488フィルターを使用して励起及び検出され、一方、核染料およびミトコンドリア染料は、それぞれDAPIフィルター及びTexas-Redフィルターを使用して、励起及び検出された。CLR1501は、正常細胞株及び腫瘍細胞株のいずれにおいても、核と共局在していなかった。しかしながら、CLR1501は、PC3細胞株においてミトコンドリアと共局在していたが、NFAではしていなかった。
【0113】
図5は、NFA細胞及びCaki-2細胞を共培養し、CLR1501とインキュベーションし、更にそれらを核染料及びリソソームマーカーで共染色した結果を示す。要約すると、NFA及びCaki-2細胞株を、マイクロスライドVI(Ibidi, Verona, WI)上で一昼夜共培養した。翌日、細胞を、完全培地中、37℃で24時間、5μMのCLR1501とインキュベーションした。翌日、PBSで洗浄した後、細胞を核染料(Hoechst 33342)及びリソソームマーカー(Lyso-tracker)(Invitrogen, Carlsbad, CA)で共染色した。細胞を、Nikon A1R共焦点顕微鏡を使用して観察した。CLR1501は、Alexa-Fluor 488フィルターを使用して、励起及び検出され、一方、核染料およびリソソーム染料は、それぞれDAPIフィルター及びTexas-Redフィルターを使用して、励起及び検出された。CLR1501は、正常細胞株及び腫瘍細胞株のいずれにおいても、核と共局在していなかった。しかしながら、CLR1501は、Caki-2細胞株においてリソソームと共局在していたが、NFAでは僅かであった。
【0114】
上記インビトロ実験は、CLR1501が、核の内部に浸透しないことも実証した。
【0115】
実施例5
CLR1501及びCLR1502のインビボ試験
発明者らは、無胸腺ヌードマウスにおける、CLR1501及びCLR1502のインビボ試験を実施した。
【0116】
Panc-1(膵臓癌)を播種した無胸腺マウス(Hsd: Athymic Nude-Fox1nu)に、0.4%ポリソルベート20、2%のエタノール及び生理食塩水で製剤化した6mg/mL CLR1501を150μl注射して、撮像前に24時間、及び96時間置いた。蛍光画像は、Kodak In-Vivo Multispectral System FXを使用して取得した。当該システムは、色素からのシグナルと身体の自家蛍光のシグナルを分離することが出来る励起光のマルチスペクトル調整を提供する。マウスには、イソフルオランを嗅がせて麻酔をかけた。色素は、570nmで励起させた。
【0117】
図6は、この実験の結果を描写する。緑色のシグナルは、腫瘍中のCLR1501の分布を示す(白色の矢印)。左の画像は、注射の24時間後に撮像したマウス、右の画像は、注射の96時間後に撮像したマウスを示す。黒色の矢印は、黒色の矢印は、皮膚を剥いだ領域で、CLR1501の蓄積がコントラストで認められる箇所を示す。
【0118】
前記シグナルは、専ら腫瘍中で見出された。しかしながら、シグナルは、幾つかの非癌組織、特に皮膚でも認められた。しかしながら、撮像96時間前に注射したマウスにおいて、CLR1501の腫瘍中の蓄積が顕著となる一方、他の組織における色素の保持は大幅に減少した。
【0119】
一部のマウスには、撮像の24時間及び96時間前に、水中油相エマルジョン(キャノーラ油/生理食塩水)100μLと混合した6mg/mLのCLR1501を150μL経口投与した。図7は、切除した腫瘍の画像を示す。
A:撮像24時間前にCLR1501をIV注射したマウスから採取した腫瘍。
B:撮像96時間前にCLR1501をIV注射したマウスから採取した腫瘍。
C:撮像24時間前にCLR1501を経口投与したマウスから採取した腫瘍。
D:撮像96時間前にCLR1501を経口投与したマウスから採取した腫瘍。
【0120】
図8は、HCT-116腫瘍担持マウスにおける、CLR1502の腫瘍との共局在を描写する。無胸腺マウス(Crl, NU-Foxn1nu)を、Charles River (Charles River, Portage, MI)から購入した。このマウスに、2x106個のHCT-116細胞(ヒト直腸結腸癌)を播種した。8週間後、このマウスに、0.15mlの溶液中の1mgのCLR1502を注射した。CLR1502は780nmで励起し、800nmで放射した。Pearlインビボイメージングシステム(Li-Cor Bioscience, Lincoln, NE)を使用して、蛍光強度を48時間モニタリングした。48時間の終了時に、マウスから臓器を回収し、撮像した。
【0121】
モニタリング時間中、腫瘍部位にはCLR1502が蓄積していたが、他の正常な臓器には認められず、これは、CLR1502が、腫瘍特異的な造影剤であることを示す。下記の臓器が回収された:心臓、腫瘍、脾臓、肺、GI管(未洗浄);皮膚、腎臓及び肝臓。
【0122】
図9は、皮膚を剥いだPanc-1腫瘍担持マウスにおけるCLR1501の腫瘍との共局在を描写する。無胸腺マウス(Crl, NU-Foxn1nu)を、Charles River (Charles River, Portage, MI)から購入した。このマウスに、1x106個のPanc-1細胞(ヒト膵臓癌)を播種した。8週間後、このマウスに、0.15mlの溶液中の1mgのCLR1501を注射した。CLR1501は480nmで励起し、520nmで放射した。Kodakインビボイメージングシステム(Carestream Health, Woodbridge, CT)を使用して、蛍光強度を24時間及び96時間モニタリングした。
【0123】
モニタリング時間中、腫瘍部位にはCLR1501が蓄積していたが、他の正常な臓器には認められない。CLR1501からのコントラストシグナルを取得するために、腫瘍周囲の皮膚を剥いだ。この動物モデルにおいて、皮膚は、CLR1501の励起及び放射波長と重複する自家蛍光シグナルを生じる。
【0124】
図10は、無胸腺ヌードマウスにおけるCLR1501の腫瘍との共局在を描写する。無胸腺マウス(Crl, NU-Foxn1nu)を、Charles River (Charles River, Portage, MI)から購入した。このマウスに、CLR1501又はKodak X-Sight 761のいずれかと、又はCLR1501及びKodak X-Sight 761の両方と4時間インキュベーションした、1x106個のPanc-1細胞(ヒト膵臓癌)を播種した。これらの細胞は回収され、異なるスポットに播種された。各色素からのシグナルは、Kodakインビボイメージングシステム(Carestream Health, Woodbridge, CT)を使用して取得された。CLR1501は480nmで励起し、520nmで放射した。一方、Kodak X-Sightは、750nmで励起し、830nmで放射した。
【0125】
この実験は、CLR1501が、インビトロで癌細胞に取り込まれ、保持され、インビボ皮下注射された後も、これらの細胞中に維持されることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

又は式II
【化2】

[式中、
nは7〜23の間の整数であり;
YはH、Me又はEtであり;
Zはフルオロフォアであり;そして
Xは
【化3】

からなる群から選択される]
で表される、蛍光リン脂質エーテル化合物。
【請求項2】
前記Zが:
【化4】

[式中、
RはH、Me、Et、Br及びIからなる群から選択され;
QはN、CH、C-Me、C-Et、C-CF3、C-Phからなる群から選択され;
R1
【化5】

からなる群から選択され;
LはO、S、NH及びNMeからなる群から選択され;
R2はH、Me、及びEtからなる群から選択され;
R3はH、OMe、OEt、及びNMe2からなる群から選択され;
R4はH、Me、Et、Ph又はp-メトキシ-フェニルからなる群から選択され;そして
mは1〜5の整数である]
からなる群から選択される、請求項1に記載の蛍光リン脂質エーテル化合物。
【請求項3】
【化6】

からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の蛍光リン脂質エーテル化合物。
【請求項4】
式:
【化7】

で表される、蛍光リン脂質エーテル化合物。
【請求項5】
式:
【化8】

で表される、蛍光リン脂質エーテル化合物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の蛍光リン脂質エーテル化合物を含有する組成物。
【請求項7】
請求項4に記載の蛍光リン脂質エーテル化合物を含有する組成物。
【請求項8】
内視鏡により悪性腫瘍を診断する方法であり;
(a)請求項1又は2に記載の蛍光リン脂質エーテル化合物を患者に投与する工程;
(b)内視鏡の第一の波長を使用して、選択された領域の組織構造の画像を取得する第一の手段を使用する工程;
(c)前記蛍光リン脂質エーテル化合物により生じた蛍光の分布の画像を取得する第二の手段を使用する工程;及び
(d)前記第一の波長による、選択された領域の組織構造の画像を、前記蛍光リン脂質エーテル化合物により生じた第二の波長による蛍光の分布の画像と比較することにより、良性組織と悪性腫瘍組織とを峻別する工程;
を含む、前記方法。
【請求項9】
前記悪性腫瘍が、結腸、直腸、小腸、食道、胃、十二指腸、子宮、膵臓及び総胆管、気管支、食道、口腔、洞(sinus)、肺、膀胱、腎臓、腹腔、並びに胸腔からなる群から選択される身体器官中で判定される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
悪性腫瘍を有するおそれがある領域中の生検組織を選択する方法であり;
(a)請求項1又は2に記載の蛍光リン脂質エーテル化合物を患者に投与する工程;
(b)内視鏡の第一の波長を使用して、前記悪性腫瘍を有する恐れがある領域の組織構造の画像を取得する第一の手段を使用する工程;
(c)前記蛍光リン脂質エーテル化合物により生じた蛍光の分布の画像を取得する第二の手段を使用する工程;及び
(d)前記第一の波長による、前記悪性腫瘍を有する恐れがある領域の組織構造の画像を、前記蛍光リン脂質エーテル化合物により生じた第二の波長による蛍光の分布の画像と比較することにより、良性組織と悪性腫瘍組織とを峻別して、前記生検組織を選択する工程;
を含む、前記方法。
【請求項11】
前記悪性腫瘍が結腸、直腸、小腸、食道、胃、十二指腸、子宮、膵臓及び総胆管、気管支、食道、口腔、洞(sinus)、肺、膀胱、腎臓、腹腔、並びに胸腔からなる群から選択される身体器官中で判定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
皮膚の悪性腫瘍を診断する方法であって、(a)請求項1又は2に記載の蛍光リン脂質化合物を患者に投与する工程;(b)皮膚の組織構造の画像を取得する工程;及び(c)良性組織と悪性腫瘍組織とを峻別する工程、ここで当該悪性腫瘍組織は、前記蛍光リン脂質化合物により引き起こされる顕著に強い蛍光を呈する;を含む、前記方法。
【請求項13】
悪性腫瘍組織の外科的切除の過程で悪性腫瘍組織の縁(margin)を判定する方法であって、(a)請求項1又は2に記載の蛍光リン脂質エーテル化合物を前記外科的切除が行われる患者に投与する工程;(b)当該悪性腫瘍組織の画像を取得する工程;及び(c)当該悪性腫瘍組織の縁を決定する工程、ここで当該悪性腫瘍組織は、前記蛍光リン脂質化合物により引き起こされる顕著に強い蛍光を呈し、そして当該強い蛍光領域の縁は、当該悪性腫瘍組織の縁に対応する;を含む、前記方法。
【請求項14】
癌治療を行っている患者中の残留悪性腫瘍幹細胞の存在を判定する方法であって、(a)請求項1又は2に記載の蛍光リン脂質エーテル化合物を前記癌治療が行われる患者に投与する工程;(b)前記癌治療の前に悪性と判定された組織の画像を取得する工程;及び(c)前記組織中の前記蛍光リン脂質エーテル化合物の蓄積を評価する工程、ここで前記組織中の前記蛍光リン脂質エーテル化合物の蓄積は、残留悪性腫瘍幹細胞が存在する可能性を示す;を含む、前記方法。
【請求項15】
癌治療を行っている患者中の残留悪性腫瘍幹細胞の存在を判定する方法であって、(a)前記癌治療が行われる患者から病理標本を切除する工程;(b)当該病理標本を、請求項1又は2に記載の蛍光リン脂質化合物とインキュベーションする工程;(c)当該病理標本中の蛍光リン脂質化合物の分布を画像化する工程、ここで前記病理標本中の蛍光リン脂質化合物の分布は、残留悪性腫瘍幹細胞が存在する可能性を示す;を含む、前記方法。
【請求項16】
腫瘍治療に対する応答をモニタリングする方法であって、(a)請求項1又は2に記載の蛍光リン脂質エーテル化合物を前記腫瘍治療の前に患者に投与する工程;(b)前記腫瘍治療を実施する工程;(c)前記腫瘍治療の後に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光リン脂質化合物を提供する工程;並びに(d)工程(a)及び工程(c)で用いた蛍光リン脂質化合物の蓄積の差異を評価する工程、ここで工程(a)におけるリン脂質化合物の蓄積が多く、一方工程(c)におけるリン脂質化合物の蓄積が少ないことは、当該処置に対する応答が良好であること及び/又は当該処置方法が有効であることを示す;を含む、前記方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【図2f】
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【図2g】
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【図2h】
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【図2i】
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【図2j】
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【図2k】
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【図2l】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−526822(P2012−526822A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510929(P2012−510929)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/034361
【国際公開番号】WO2010/132428
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(506297728)セレクター,インコーポレイティド (7)
【Fターム(参考)】