蛍光一粒子検出方法および検出システム
【課題】検出対象物質を短時間に高感度で検出するとともに制御性に優れた蛍光一粒子検出方法および検出システムを提供する。
【解決手段】蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合した試料溶液を調製する調製工程と、試料溶液の少なくとも一部を測定ステージに載置する載置工程と、共焦点光学系を用いて試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、測定ステージおよび共焦点光学系を所定の形式で相対運動させることで測定ステージに載置された試料溶液および共焦点領域の相対位置を移動させながら、共焦点領域を通過する蛍光物質が発する蛍光信号の蛍光強度の変動を所定時間だけ計測する計測工程と、を備えた蛍光一粒子検出方法とする。
【解決手段】蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合した試料溶液を調製する調製工程と、試料溶液の少なくとも一部を測定ステージに載置する載置工程と、共焦点光学系を用いて試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、測定ステージおよび共焦点光学系を所定の形式で相対運動させることで測定ステージに載置された試料溶液および共焦点領域の相対位置を移動させながら、共焦点領域を通過する蛍光物質が発する蛍光信号の蛍光強度の変動を所定時間だけ計測する計測工程と、を備えた蛍光一粒子検出方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスなどの病原体を短時間に高感度で検出する、蛍光一粒子検出方法および検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型インフルエンザウイルスなどの感染症の世界的な流行(パンデミック)が大きな問題となっており、感染を早期に発見し流行を防止するために、感染症を引き起こす病原体を短時間に高感度で検出する技術の開発が急務となっている。
【0003】
これに対して、例えば特許文献1や特許文献2に開示されているように、試料中の病原体を短時間に高感度で検出するために、病原体と結合する性質を持つ蛍光物質を試料溶液に混合し、共焦点光学系を用いてレーザー光を試料溶液中の極微小な領域(共焦点領域)に照射し、蛍光物質が結合した病原体と遊離状態の蛍光物質の分子量および移動速度の違いを利用して、蛍光物質の共焦点領域における蛍光強度の時間変化を測定し、病原体の有無を把握する技術が開発されている。
【0004】
特に、特許文献2に開示されている技術においては、試料溶液中に流れを生じさせて蛍光強度の時間変化を測定することを特徴としており、試料溶液に流れを生じさせることによって共焦点領域を蛍光物質が通過する確率を上げて検出の感度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−20565号公報
【特許文献2】特開2008−116440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示されている技術は、試料溶液に流れを生じさせることにより検出の感度を向上させているものであるが、流れの制御は難しく、より簡便な手法で検出の感度を向上させることが望まれている。
【0007】
本発明は、斯かる要望に鑑みて創出されたものであって、検出対象物質を短時間に高感度で検出するとともに制御性に優れた蛍光一粒子検出方法および検出システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の蛍光一粒子検出方法は、蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合した試料溶液を調製する調製工程と、前記試料溶液の少なくとも一部を測定ステージに載置する載置工程と、共焦点光学系を用いて前記試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、前記測定ステージおよび共焦点光学系を所定の形式で相対運動させることで前記測定ステージに載置された前記試料溶液および前記共焦点領域の相対位置を移動させながら、前記共焦点領域を通過する前記蛍光物質が発する蛍光信号の蛍光強度の変動を所定時間だけ計測する計測工程と、を備えたことを特徴としている。
【0009】
なお、前記計測工程において、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系を円運動、螺旋運動または直線運動などの形式で運動させることが好ましい。また、前記試料は所定の病原体が含まれている可能性があるものであり、前記蛍光物質は前記所定の病原体に結合する性質を持つものであることが好ましい。
【0010】
また、発明の蛍光一粒子検出システムは、蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合して調製された試料溶液の少なくとも一部が載置される可動式の測定ステージと、共焦点光学系を用いて前記測定ステージに載置された前記試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、前記共焦点領域を通過する前記蛍光物質が発する蛍光信号を検出する共焦点光学系装置と、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系装置を所定の形式で運動させることで、前記測定ステージに載置された前記試料溶液および前記共焦点領域の相対位置を移動させる駆動機構と、前記共焦点光学系装置が検出した前記蛍光信号の蛍光強度の変動を解析する解析装置と、を備えたことを特徴としている。
【0011】
なお、前記駆動機構は、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系装置を円運動、螺旋運動または直線運動などの形式で運動させることが好ましい。また、前記試料は所定の病原体が含まれている可能性があるものであり、前記蛍光物質は前記所定の病原体に結合する性質を持つものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の蛍光一粒子検出方法または検出システムによれば、検出対象物質を短時間に高感度で検出することができ、また、制御性にも優れているという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の蛍光一粒子検出方法および検出システムの原理を説明する図であって、(a)は試料溶液中に検出試薬(蛍光物質)のみが存在する場合の共焦点領域の概念図、(b)はその場合の蛍光強度の時間変化を示すグラフ、(c)は試料溶液中にウイルスが存在する場合の共焦点領域の概念図、(d)はその場合の蛍光強度の時間変化を示すグラフである。
【図2】本実施形態の蛍光一粒子検出システムを示す模式図である。
【図3】本実施形態の蛍光一粒子検出システムの試料保持装置を示す模式図である。
【図4】(a),(b)ともに、本実施形態の蛍光一粒子検出システムの試料保持装置の具体的な形状を示す模式図である。
【図5】本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムにおける測定ステージの動作を示す図であって、(a)は円運動する場合を示し、(b)は螺旋運動する場合を示している。
【図6】本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムにおいて測定ステージが動作することによる効果を説明する実験データであり、(a)は測定ステージが静止している場合の蛍光強度の時間変化を示し、(b)は測定ステージが螺旋運動している場合の蛍光強度の時間変化を示している。
【図7】(a),(b)ともに、本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムによる実験データであって、測定ステージが円運動する場合に測定された移動速度毎の蛍光強度積算値を示している。
【図8】(a),(b)ともに、本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムによる実験データであって、測定ステージが螺旋運動する場合に測定された移動速度毎の蛍光強度積算値を示している。
【図9】本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムにおいて、測定ステージが円運動する場合と螺旋運動する場合の違いを説明する実験データであり、(a)は円運動する場合の移動速度毎の蛍光強度積算値を示し、(b)は螺旋運動する場合の移動速度毎の蛍光強度積算値を示し、(c)は円運動および螺旋運動それぞれの場合における蛍光強度積算値の閾値以上(ポジティブ)と閾値未満(ネガティブ)の数を示した表である。
【図10】本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムによる実験データであって、(a)の上段図はウイルスが含まれていない試料を対象として測定した蛍光強度の時間変化を示し、(a)の中段図は新型インフルエンザウイルス(A型H1N1)が含まれている試料を対象として測定した蛍光強度の時間変化を示し、(a)の下段図は季節性インフルエンザウイルス(季節性A型ニューカレドニアH1N1)が含まれている試料を対象として測定した蛍光強度の時間変化を示し、(b)は(a)に示した各試料で測定された閾値(300counts)以上の蛍光強度の積算値を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
<蛍光一粒子検出方法>
まず、本発明の蛍光一粒子検出方法(一粒子検出法)の原理について説明する。
【0015】
蛍光一粒子検出方法は、蛍光相関分光法の応用研究から開発されたものである。蛍光相関分光法は分子間相互作用解析法の一つであり、蛍光強度のゆらぎの周期を数値解析(相関関数による解析)することにより、拡散定数といった物理定数を測定する。一方、蛍光一粒子検出方法は、蛍光相関分光法に特有な相関解析を排し、粒子固有の大きな蛍光変動のみに着目して計数のみを行う手法である。また、蛍光相関分光法の時間分解能がマイクロ秒以下(例えば、約100ナノ秒)であるのに対して、蛍光一粒子検出方法の時間分解能は数マイクロ〜ミリ秒である点でも両者は相違する。
【0016】
蛍光相関分光法および蛍光一粒子検出方法では、励起光(レーザー光)をサブフェムトリットル領域に絞り込んで照射した空間(共焦点領域)において、蛍光物質が通過したときに発する蛍光信号を検出する。
【0017】
この蛍光信号は熱ゆらぎ(ブラウン運動)による蛍光強度のゆらぎを持っている。分子量の大きさは分子の溶液中での動きに大きな影響を与えるため、蛍光信号の蛍光強度のゆらぎの周期は蛍光物質の分子量変化を反映する。小さな分子は動きが速く共焦点領域を速く通過するため、蛍光強度の変動は速くなるが、大きな分子は動きが遅いため、蛍光強度の変動は遅くなる。
【0018】
一方、蛍光一粒子検出方法は、ウイルスのような直径10nm以上の粒子のみを測定対象とする。このような粒子は、溶液中の移動速度が一般の生体分子よりもさらに遅いため、粒子表面に吸着した蛍光物質由来の蛍光信号が大きく鈍い特有の変動を示す。すなわち、蛍光物質を吸着したウイルスが共焦点領域を通過したときに、蛍光強度の大きな変動が記録される。これを計数することで、蛍光物質を吸着したウイルスと遊離蛍光物質(検出試薬)との区別を容易に行うことができ、分離濃縮過程なしに1粒子単位でウイルスなどの病原体の高感度迅速検出を行うことができる。なお、直径10nm以下の粒子であっても、蛍光物質と結合することにより分子量変化があり、その運動変化を検出できるものであれば、本発明の蛍光一粒子検出方法の検出対象物質とすることができる。
【0019】
図1(a)〜(d)を用いて、試料溶液中に蛍光物質(検出試薬)のみが存在する例と、ウイルスが存在する例とを比較して説明する。
【0020】
図1(a)に示すようにウイルスが存在しない場合には、図1(b)に示すように検出試薬に由来するごく細かい蛍光強度のゆらぎが示されるのみである。一方、図1(c)に示すようにウイルスが存在する場合には、ウイルスに蛍光物質が吸着され、ウイルスに吸着された蛍光物質はウイルスとともに溶液中でゆっくり動くこととなる。したがって、図1(d)に示すように、ごく細かい蛍光強度のゆらぎの中に著しく高い蛍光強度が現れる特徴的な蛍光強度のゆらぎが検出される。この特徴的なゆらぎを計数することにより、ウイルスの量を測定することができる。
【0021】
本発明の一実施形態の蛍光一粒子検出方法は、さらに、試料溶液を載置した測定ステージを所定の形式で運動させることで共焦点領域を通過する蛍光物質の確率を上げて検出の感度を向上させるものである。
【0022】
すなわち、本実施形態の蛍光一粒子検出方法は、蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合した試料溶液を調製する調製工程と、前記試料溶液の少なくとも一部を可動式の測定ステージに載置する載置工程と、前記測定ステージを所定の形式で運動させることで前記測定ステージに載置された前記試料溶液の位置を移動させながら、共焦点光学系を用いて前記試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、前記共焦点領域を通過する前記蛍光物質が発する蛍光信号の蛍光強度の変動を所定時間だけ計測する計測工程と、を備えている。
【0023】
試料は、検出対象物質(例えば、インフルエンザウイルスなどの病原体や栄養素)が含まれている可能性のあるものである。具体的には、生体試料の例としては、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、尿、便、糞、リンパ液、精液、涙液、および各種臓器等の哺乳類(ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、イノシシ、ヒツジ、ウサギ、特にヒト)、鳥類(ニワトリ、アヒル、ウズラ、七面鳥、カモ、キジなど)、無脊椎動物(昆虫;カイコ、ハチ、アリ、クワガタ、カブトムシなど、甲殻類;エビ、カニなど)、植物(稲、麦、桑、小豆、ソラマメ、トマト、ナス、キュウリ、メロン、タバコ、菊、ユリ、バラなど)の生体由来の試料が挙げられる。また、環境由来の試料としては、食品(卵、牛乳、大豆、小麦、米などの穀類、魚介類、或いは加工食品など)、河川、土壌、大気(溶媒を通すことで対象物質が液中に補足される)なども例示される。試料は、超音波処理、界面活性剤処理などにより破砕後に測定に供しても良い。このようにすることで、測定対象物質の測定感度を向上させることが可能な場合がある。
【0024】
調製工程では、検出対象物質に特異的に結合(吸着)する蛍光物質(検出試薬)を用意し、この蛍光物質と試料とを混合した試料溶液を調製する。検出対象物質は遊離状態の蛍光物質よりも分子量が大きく、試料溶液中の移動速度が遅い。したがって、検出対象物質と結合した蛍光物質は検出対象物質とともに試料溶液中をゆっくりと移動することとなる。
【0025】
蛍光物質はそもそも蛍光性を有するものでも良いし、蛍光標識されることで蛍光性を具備したものでも良い。ただし、蛍光標識としては、蛍光強度は強く安定したものが好ましい。例えば、Alexa、ローダミン各種(ローダミン6G、ローダミングリーン、TMR、TAMRA)、BODIPY、Cy5、R6G、FAM、JOE、ROX、EDANS、Fluorescein、HiLyte Fluor、DyLight、DY、ATTO、蛍光性タンパク質、蛍光量子ドット(蛍光性ナノ粒子)などが好ましく使用できるが、これらに限定されない。
【0026】
載置工程では、後述する測定ステージに設置されるスライドガラスの上に、試料溶液の少なくとも一滴を滴下することが好ましい。試料溶液が滴下されたスライドガラスは、上にカバーガラスを載せても良いし、載せなくても良い。カバーガラスを載せた場合には、試料溶液が蒸発しにくいという利点がある。また、カバーガラスを載せない場合には、装置の部品点数を削減できるという利点がある。なお、載置工程では、スライドガラスの上に試料溶液の少なくとも一滴を滴下する方式に替えて、スライドガラスあるいはカバーガラスに微小幅の流路(例えば、マイクロ単位の幅のマイクロ流路)を予め形成しておき、この流路内に試料溶液を導入、あるいは流れる方式にしても良い。
【0027】
計測工程は、共焦点光学系を使用して達成される工程であり、ここでは、対物レンズによって微小領域(例えば、フェムトリットルからピコリットル程度の領域)にまで励起光の焦点を絞り、運動している測定ステージ上の試料溶液に励起光を照射する。この際、励起光が照射された微小領域(共焦点領域)を通過する蛍光物質の発する蛍光信号を所定時間(例えば100秒間)だけ検出し、検出された蛍光信号の蛍光強度の時間変化(変動)を解析する。上記の所定時間は、測定するウイルスなどの対象やその濃度により可変なものとする。
【0028】
<蛍光一粒子検出システム>
上記の本実施形態の蛍光一粒子検出方法を実施するための検出システムは、図2に示すように、共焦点光学系装置10と、解析装置40と、試料保持装置50と、コントローラ60と、を備えて構成されることが好ましい。
【0029】
<共焦点光学系装置>
共焦点光学系装置10は、励起光照射部20と蛍光検出部30とを備えて構成される。励起光照射部20は、レーザー21と、対物レンズ22と、ダイクロイックミラー23と、NDフィルタ24と、平行レンズ25と、を必要に応じて組み合わせて構成される。また、蛍光検出部30は、光電子増倍管31と、ピンホール32と、EMフィルタ33と、反射ミラー34と、結像レンズ35と、を必要に応じて組み合わせて構成される。
【0030】
レーザー21は、試料溶液中の蛍光物質を励起すべく単一波長のレーザー光(励起光)を照射する励起光源であって、例えば、473nmの波長のレーザー光を照射するLD励起固体レーザーが用いられる。
【0031】
対物レンズ22は、レーザー21から照射されたレーザー光の焦点を絞り、試料溶液中に微小体積の共焦点領域を形成するものである。対物レンズ22としては水浸系あるいは油浸系の液浸対物レンズを用いることが好ましい。したがって、連続して検体の検査を行う検出システムとしては、さらにシリンジポンプ(図4(a)中に符号70で示す部材)を備えて、対物レンズ22と試料溶液との間に水あるいは油を補給可能な構成とすることが好ましい。ただし、測定条件によっては、非水浸・非油浸レンズを用いることができる。
【0032】
ダイクロイックミラー23は、特定の波長の光(ここでは、レーザー21の照射する473nmの波長のレーザー光)を反射し、その他の波長の光を透過するようになっている。
【0033】
NDフィルタ(減光フィルタ)24は、対物レンズ22に入射するレーザー光の量を減少させるものであり、ここでは光量を例えば10%に減少させている。
【0034】
平行レンズ25は、レーザー21から照射されたレーザー光を平行光に変換するものである。
【0035】
光電子増倍管(PMT)31は、高感度に光を検出する光検出器である。
【0036】
ピンホール32は、蛍光物質が発した蛍光を光電子増倍管31に導くためのものである。
【0037】
EMフィルタ33は、特定の波長の光(ここでは、レーザー21の照射する473nmの波長のレーザー光)をカットするフィルタである。
【0038】
反射ミラー34は、蛍光物質が発した蛍光を反射することで光路を変更し、光電子増倍管31に導くためのものである。反射ミラー34は、装置の構造上省略することも可能である。
【0039】
結像レンズ35は、蛍光物質が発した蛍光の中間像を結ぶものである。
【0040】
レーザー21から照射されたレーザー光は、平行レンズ25、NDフィルタ24、ダイクロイックミラー23および対物レンズ22を経由し、試料保持装置50の測定ステージ51(図3参照)に載置された試料溶液に到達する。レーザー光の照射により、試料溶液中に設定された共焦点領域を通過する蛍光物質は蛍光を発する。その蛍光は、対物レンズ22、ダイクロイックミラー23、反射ミラー34、EMフィルタ33、結像レンズ35およびピンホール32を経て、光電子増倍管31に到達する。光電子増倍管31は蛍光を検出し、蛍光信号として解析装置40へ出力する。
【0041】
なお、共焦点光学系装置10の構成は上述のものに限定されない。また、共焦点光学系装置10としては、既存の蛍光相関測定装置(例えば、浜松ホトニクス社製のFCS−101B装置)を利用することが可能である。また、共焦点光学系装置10は、共焦点光学系そのものの他、共焦点光学系と同様に微小な空間に蛍光物質を計測するに十分な励起光を照射し得る光学系を用いた装置であっても良い。
【0042】
<解析装置>
解析装置40は、光電子増倍管31から入力された蛍光信号の蛍光強度の時間変化を解析し、例えば、予め設定された閾値以上の蛍光強度を持つ蛍光信号を計数する。この解析装置40は、所定のプログラムが記憶されたソフトウェアと、ソフトウェアのプログラムを実行するコンピュータなどの演算装置と、演算装置が解析した解析結果を表示するモニタなどの表示手段とによって構成することができる。
【0043】
<試料保持装置>
試料保持装置50は、図3に示すように、測定ステージ51と、X軸方向駆動機構52と、Y軸方向駆動機構53と、を備えている。
【0044】
測定ステージ51は、試料溶液が載置される可動式の部分であり、具体的には、レーザー光を通過させることが可能な開口部51aが設けられた可動する台座である。測定ステージ51の開口部51aにはスライドガラス55がセットされ、このスライドガラス55の上に試料溶液が滴下される。そして、スライドガラス55の下方からスライドガラス55上の試料溶液に向かってレーザー光が照射されるように構成される。
【0045】
なお、測定ステージ51は、アダプターにより各種の試料に対応できるように構成されていることが好ましい。また、測定ステージ51は、対物レンズ22の焦点距離を調製するための調製機構(例えば上下方向に測定ステージ51を動かす機構)も有して構成されていることが好ましい。
【0046】
X軸方向駆動機構52は、測定ステージ51をスライドガラス55と一体に所定の一方向(X軸方向)に動かす駆動機構であり、X軸モータ52aとX軸ボールねじ52bとX軸リニアガイド52cとを備えて構成されている。X軸モータ52aがコントローラ60からの信号を受信して回転駆動されると、X軸ボールねじ52bによってX軸モータ52aの回転運動は直線運動に変換され、測定ステージ51はX軸リニアガイド52cに案内されてX軸方向に移動する。
【0047】
Y軸方向駆動機構53は、測定ステージ51をスライドガラス55と一体に前記一方向と直交する方向(Y軸方向)に動かす駆動機構であり、Y軸モータ53aとY軸ボールねじ53bとY軸リニアガイド53cとを備えて構成されている。Y軸モータ53aがコントローラ60からの信号を受信して回転駆動されると、Y軸ボールねじ53bによってY軸モータ53aの回転運動は直線運動に変換され、測定ステージ51はY軸リニアガイド53cに案内されてY軸方向に移動する。
【0048】
なお、試料保持装置50は、図4(a)に示すように、接地する二つの脚部を有するとともに、測定ステージ51が共焦点光学系装置10の対物レンズ22に対向する、門型の装置であることが好ましい。このような門型の装置であれば接地面積が増大するので、X軸モータ52aおよびY軸モータ53aの振動を効果的に抑制し、振動が測定結果に与える影響を低減することができる。また、X軸モータ52aおよびY軸モータ53aの振動を抑制するための制振装置をさらに備えても良い。ただし、図4(b)に示すように、試料保持装置50は脚部のない箱型状にシンプルに構成されて、対物レンズ22の上方に設置されても良い。この構成の場合には、X軸モータ52aおよびY軸モータ53a用の制振装置を備えていることが好ましい。
【0049】
本実施形態のX軸方向駆動機構52及びY軸方向駆動機構53は、測定ステージ51を所定の形式で動かすことが可能であれば、様々な構成を採用することができる。つまり、例えば、X軸方向駆動機構52及びY軸方向駆動機構53は、その動力源として、ステッピングモータ、サーボモータ、DC/ACモータ、超音波モータ、リニアモータ、振動モータ、油圧モータなどの様々なモータを利用して構成することが可能であるが、モータに限定されず、ピエゾ素子、超音波振動子、エア(例えばエアシリンダ)、油圧(例えば油圧シリンダ)などを動力源として利用することができる。また、これらの動力源を利用した案内機構も、ボールねじ、リニアガイド、磁気浮上式ガイドなどを利用して構成することができる。
【0050】
<コントローラ>
コントローラ60は、X軸モータ52aおよびY軸モータ53aを制御する手段であり、プログラムにしたがってX軸モータ52aおよびY軸モータ53aを制御し、測定ステージ51のスライドガラス55上の試料溶液をスライドガラス55と一体に所定の形式(例えば、円運動、螺旋運動、直線運動など)で移動させるようになっている。
【0051】
プログラムには、試料溶液の位置を移動させるためのパラメータとして「半径」、「移動速度」、「周回数」および「漸減量」が設定されている。これらのパラメータの値を適宜に指定することで、試料溶液の任意の一点を円運動(図5(a)参照)または螺旋運動(図5(b)参照)の形式で移動させることができるようになっている。つまり、共焦点光学系装置10によって照射されるレーザー光の共焦点領域の位置は固定されているのに対して試料溶液の位置を移動させることで、共焦点領域を発光物質が通過する確率を高めるようになっている。
【0052】
半径(mm)は、任意の正負の数値(小数含む)を指定可能であり、正の値であればX軸+方向に移動し、負でX軸−方向に移動するようになっている。
【0053】
移動速度(mm/s)は、任意の正の数値(小数含む)を指定可能であり、0で静止状態となる。
【0054】
周回数は、任意の正負の数値(小数含む)を指定可能であり、例えば「0.5」を入力すれば半周し、「1.5」を入力すれば1周半するようになっている。また、周回数が正の値であるとき、半径も正の値であれば時計回りに回転し、半径が負の値であれば半時計回りに回転するようになっている。逆に、周回数が負の値であるとき、半径も負の値であれば時計回りに回転し、半径が正の値であれば半時計回りに回転するようになっている。
【0055】
漸減量は、任意の正の数値(小数含む)を指定可能であり、単純な円運動の場合は「0」に設定され、螺旋運動の場合は正の値に設定されるようになっている。
【0056】
なお、コントローラ60は、例えば液晶タッチパネルなどの操作手段と、所定のプログラムが記憶されたソフトウェアと、ソフトウェアのプログラムを実行するコンピュータなどの演算装置とで構成され、検査員が操作手段を操作して上記のパラメータの値を適宜に入力可能となっていれば好ましい。
【0057】
<測定ステージの運動の効果>
測定ステージを動かした場合の効果を、次の実験により説明する。
【0058】
この実験では、直径0.1μmの蛍光標識ポリスチレンビーズ(Fluoresbrite Carboxylate Microspheres (2.5% Solids-Latex), YG、Polysciences株式会社)を含む水溶液を、螺旋運動を設定した測定ステージ上に滴下し、共焦点光学系装置には浜松ホトニクス社製蛍光相関分光装置FCS-101B装置(波長473nmの励起用レーザ搭載)を使用し、蛍光信号を測定した。
【0059】
蛍光標識ポリスチレンビーズは、MilliQ水で0.02%に調製したTween20(ナカライテスク株式会社)により107個/mLに希釈し、これを30μL用いた。なお、この蛍光標識ポリスチレンビーズは表面に蛍光官能基を有するビーズであり、ウイルスと同様の形状を持ち、水に分散する。
【0060】
測定ステージの動作は、半径1.5mm且つ漸減量0.01mmの螺旋運動とし、移動速度は0mm/s 、0.3mm/s 、0.6mm/s 、0.9mm/s 、1.2mm/s 、1.5mm/s 、1.8mm/s 、2.1mm/s 、2.4mm/s 、2.7mm/s 、3.0mm/s 、3.3mm/s 、3.6mm/s 、3.9mm/s 、4.2mm/s に設定した。測定時間は100秒とし、測定時のレーザー強度は6.4μwに設定した。螺旋運動は円の外側から開始し、中心に到達した場合は、また円の外側に戻り同じ運動を繰り返すように設定した。また、各移動速度において6回ずつ実験を行った。
【0061】
データ解析には浜松ホトニクス社製ソフトウェアPhoton Burstを用いて集計し、単位時間当たりの蛍光強度をCSV形式ファイルとして出力させた。このデータ群のうちノイズ値10(K/S)を超える数値をマイクロソフト社エクセルを用いて抽出し、蛍光標識ポリスチレンビーズの通過による蛍光信号の強度積算値を求めた。
【0062】
また、比較のために、同様の条件で測定ステージが静止している場合(移動速度が0mm/sである場合)についても蛍光信号の強度積算値を求めた。
【0063】
この結果、図6(a)に示すように、測定ステージが静止している場合では、蛍光強度の特徴的な変動は計測されなかった。一方、図6(b)に示すように、上述の螺旋運動をしている場合では、矢印で指し示すように蛍光強度が時折著しく高い値に跳ね上がり、蛍光強度の特徴的な変動が計測された。
【0064】
したがって、同じ試料を測定対象としていても、測定ステージを移動させて試料溶液を移動させることにより特徴的な蛍光信号の検出が可能となることが確認された。
【0065】
<円運動での実験>
次に、図7(a)および(b)を用いて、測定ステージを円運動させた場合の実験結果について説明する。
【0066】
この実験では、直径0.1μmの蛍光標識ポリスチレンビーズ(Fluoresbrite Carboxylate Microspheres (2.5% Solids-Latex), YG、Polysciences株式会社)を含む水溶液を、円運動を設定した測定ステージ上に滴下し、共焦点光学系装置には浜松ホトニクス社製蛍光相関分光装置FCS-101B装置(波長473nmの励起用レーザ搭載)を使用し、蛍光信号を測定した。
【0067】
蛍光標識ポリスチレンビーズは、MilliQ水で0.02%に調製したTween20(ナカライテスク株式会社)により、108個/mL、107個/mL、106個/mL、105個/mLに希釈し、これらをそれぞれ30μL用いた。
【0068】
測定ステージの動作は、半径1.5mmの円運動とし、移動速度は0mm/s 、0.3mm/s 、0.6mm/s 、0.9mm/s 、1.2mm/s 、1.5mm/s 、1.8mm/s 、2.1mm/s 、2.4mm/s 、2.7mm/s 、3.0mm/s 、3.3mm/s 、3.6mm/s 、3.9mm/s 、4.2mm/s に設定した。測定時間は100秒とし、測定時のレーザー強度は6.4μwに設定した。円運動は測定時間中何周も同じ運動を繰り返すように設定した。また、各移動速度において6回ずつ実験を行った。
【0069】
データ解析には浜松ホトニクス社製ソフトウェアPhoton Burstを用いて集計し、単位時間当たりの蛍光強度をCSV形式ファイルとして出力させた。このデータ群のうちノイズ値10K/Sを超える数値をマイクロソフト社エクセルを用いて抽出し、蛍光標識ポリスチレンビーズの通過による蛍光信号の強度積算値を求めた。
【0070】
図7(a)は、各移動速度で6回ずつ実験を行って算出された6つの蛍光強度積算値の平均値を、各濃度で移動速度毎にプロットしたものである。また、図7(b)は、106個/mLおよび105個/mLの比較的低濃度の実験データを拡大して示したものである。
【0071】
図7(a)および(b)に示すように、108個/mLや107個/mLといった比較的高濃度の試料溶液では、いずれの移動速度であっても大きな蛍光強度積算値が算出された。また、106個/mLの比較的低濃度の試料溶液においても、いずれの移動速度であっても蛍光強度積算値が算出された。さらに、105個/mLの極低濃度の試料溶液であっても、移動速度を適切に指定すれば、蛍光強度積算値が算出されることが確認された。
【0072】
<螺旋運動での実験>
次に、図8(a)および(b)を用いて、測定ステージを螺旋運動させた場合の実験結果について説明する。
【0073】
この実験でも、前述の実験と同様に、直径0.1μmの蛍光標識ポリスチレンビーズ(Fluoresbrite Carboxylate Microspheres (2.5% Solids-Latex), YG、Polysciences株式会社)を含む水溶液を、螺旋運動を設定した測定ステージ上に滴下し、共焦点光学系装置には浜松ホトニクス社製蛍光相関分光装置FCS-101B装置(波長473nmの励起用レーザ搭載)を使用し、蛍光信号を測定した。
【0074】
蛍光標識ポリスチレンビーズは、MilliQ水で0.02%に調製したTween20(ナカライテスク株式会社)により、108個/mL、107個/mL、106個/mL、105個/mLに希釈し、これらをそれぞれ30μL用いた。
【0075】
測定ステージの動作は、半径1.5mm且つ漸減量0.01mmの螺旋運動とし、移動速度は0mm/s 、0.3mm/s 、0.6mm/s 、0.9mm/s 、1.2mm/s 、1.5mm/s 、1.8mm/s 、2.1mm/s 、2.4mm/s 、2.7mm/s 、3.0mm/s 、3.3mm/s 、3.6mm/s 、3.9mm/s 、4.2mm/s に設定した。測定時間は100秒とし、測定時のレーザー強度は6.4μwに設定した。螺旋運動は円の外側から開始し、中心に到達した場合は、また円の外側に戻り同じ運動を繰り返すように設定した。また、各移動速度において6回ずつ実験を行った。
【0076】
データ解析には浜松ホトニクス社製ソフトウェアPhoton Burstを用いて集計し、単位時間当たりの蛍光強度をCSV形式ファイルとして出力させた。このデータ群のうちノイズ値10K/Sを超える数値をマイクロソフト社エクセルを用いて抽出し、蛍光標識ポリスチレンビーズの通過による蛍光信号の強度積算値を求めた。
【0077】
図8(a)は、各移動速度で6回ずつ実験を行って算出された6つの蛍光強度積算値の平均値を、各濃度で移動速度毎にプロットしたものである。また、図8(b)は、106個/mLおよび105個/mLの比較的低濃度の実験データを拡大して示したものである。
【0078】
図8(a)および(b)に示すように、108個/mLや107個/mLといった比較的高濃度の試料溶液では、いずれの移動速度であっても大きな蛍光強度積算値が算出された。また、106個/mLの比較的低濃度の試料溶液においても、いずれの移動速度であっても蛍光強度積算値が算出された。さらに、105個/mLの極低濃度の試料溶液であっても、移動速度を適切に指定すれば、蛍光強度積算値が算出されることが確認された。特に、105個/mLの試料溶液では、円運動の場合と比較すると、蛍光強度積算値が算出される移動速度の範囲が広くなっていることが確認された。
【0079】
<円運動と螺旋運動の比較>
さらに、図9(a)〜(c)を用いて、円運動の場合と螺旋運動の場合とで比較した結果について説明する。図9(a)および(b)は、図7および図8に示す前述の実験の結果(105個/mLの濃度の試料溶液を対象にして、各移動速度で6回ずつ行った実験の結果)を、1回分ずつ個別にプロットしたものであり、図9(a)は円運動の場合の移動速度毎の蛍光強度積算値を示し、図9(b)は螺旋運動の場合の移動速度毎の蛍光強度積算値を示している。
【0080】
図9(c)に示すように、算出された蛍光強度積算値に対して閾値(例えば10)を設定し、蛍光強度積算値が閾値以上である場合をポジティブ、閾値未満である場合をネガティブとして、移動速度が1.2mm/s 以上の66検体のポジティブの数とネガティブの数をカウントしたところ、円運動よりも螺旋運動のほうがポジティブの数が多いことが確認された。したがって、円運動よりも螺旋運動のほうが蛍光物質の検出に比較的優位であるといえる。
【0081】
<インフルエンザウイルスを対象とした実験>
最後に、インフルエンザウイルスを対象とした実験について説明する。
【0082】
ProteinG, Alexa Fluor(登録商標) 488 Conjugate (インビトロジェン社)を緩衝溶液で0.01mg/mlに希釈し、インフルエンザワクチンをウサギに接種して作成したポリクローナル抗体(0.1mg/mL, pAb20091209, )と等量混合し、1時間反応させた後、Microcon Ultracel YM-100 (Millipore社)フィルターを用いて未反応のProteinG, Alexa Fluor(登録商標) 488 Conjugate を除去した。その後、結合反応生成物を回収、溶液量60μL程度に調製したものを蛍光標識抗体試料とした。光学測定系には浜松ホトニクス社製蛍光相関分光装置FCS-101B装置(波長473nmの励起用レーザ搭載)を使用し、測定の直前に調製した蛍光標識抗体試料9μLと、培養インフルエンザウイルス(季節性A型ニューカレドニアH1N1、107 CIU/mL)を51μLの割合で混合し、試料内のスキャン観察を設定した測定ステージ上に滴下後、蛍光信号を測定した。測定ステージの動作は、試料内を直線で結ぶ運動とし、その際の移動速度は0.6mm/秒に設定した。一回の測定時間は60秒とした。データ解析には浜松ホトニクス社製ソフトウェアPhoton Burstを用いて集計し、単位時間当たりの蛍光強度をCSV形式ファイルとして出力させた。このデータ群のうちノイズ値300counts/msecを超える数値をマイクロソフト社エクセルを用いて抽出し、蛍光標識抗体の通過による蛍光信号の強度積算値を求めた。
【0083】
新型インフルエンザウイルスH1N1の検出も同様の方法にて実験を行った。また、比較のために、ウイルスが含まれていない検体を対象として、同様の方法にて実験を行った。
【0084】
この実験の結果、図10(a)および(b)に示すように、インフルエンザウイルスが含まれている場合には、ウイルスが含まれていない場合に比べて大きな蛍光強度積算値が算出されることが確認された。つまり、本発明の方法およびシステムによって、短時間に高感度でウイルスの有無を確認することができた。
【0085】
<効果>
本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムは上述のように構成されているので、測定ステージを動かして共焦点領域を蛍光物質が通過する確率を積極的に増大させる能動的測定により感度が向上し、低濃度の試料溶液であっても蛍光物質を検出することができて、ウイルスなどの病原体を高感度に検出することが可能となる。
【0086】
また、測定ステージを動かすことで測定ステージ上の試料溶液の位置を移動させるので、再現性も良く、制御性に優れているという利点がある。また、従来の他の検査方法(例えば、培養法やPCR法(Polymerase Chain Reaction)や免疫クロマト法)に比べて、100秒間という単時間で検査することができるのでスピード性にも優れている。
【0087】
また、試料溶液に励起光を照射するだけで対象物質を検出することが可能であり、分離・濃縮などの特別な操作が不要で簡便であるという利点がある。
【0088】
また、病原体に特異的に結合する蛍光試薬を加えるだけで測定可能で、前処理が不要であるという利点がある。また、病原体を一粒子レベルで定量的に検出可能であり、培養法やPCR法などで行われる増幅反応が不要であるという利点がある。
【0089】
また、測定ステージを円運動あるいは螺旋運動の形式で動かすので、常に等速あるいは速度が変化(加速および/または減速)する運動をさせて、動いている状態を維持し続けることができ、効率が良いという利点がある。つまり、例えば直線往復運動で測定ステージを動かす場合には折り返し地点で一度静止するが、円運動や螺旋運動であればそのような静止状態を回避することができる。ただし、測定ステージを直線運動で動かしても良い。直線運動としては、同じ経路を往復する直線往復運動や、往復せずに直線経路を片道だけ動く片道直線運動や、ジグザグに折れ曲がった経路を進むジグザグ運動などといった、直線的な動きからなる運動が挙げられる。なお、直線運動と曲線運動とを組み合わせた運動の形式で測定ステージを動かしても良い。実用化段階では、円運動や螺旋運動や他の曲線運動よりも直線運動のほうが装置負担は少ないと見込まれる。
【0090】
尚、本発明の蛍光一粒子検出方法および検出システムは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0091】
例えば、上記実施形態では、励起光を試料溶液に対して下方から照射する検出システムについて説明したが、上方から照射するようにしても良い。上方から照射した場合、共焦点光学系装置が試料溶液よりも上方に位置することになるので、試料溶液や水浸系対物レンズ用に供給する水が共焦点光学系装置に与える問題(水濡れなどの問題)が軽減し、その結果、検出システムの構成を簡素にすること可能となる。特に、複数の試料溶液(検体)を連続して検査する場合、試料溶液の保持に用いるスライドガラスやカバーガラスを洗浄水で洗浄する洗浄装置を検出システムに組み込むことが好ましいが、スライドガラスやカバーガラスを検出システムの最底部に配置することができるので、洗浄水が共焦点光学系装置に浸水するおそれが低く、検出システムを高液密化して設計する必要性がないという利点がある。
【0092】
また、上記実施形態では、測定ステージを動かして共焦点領域を蛍光物質が通過する確率を積極的に増大させたが、測定ステージは固定した状態として共焦点光学系装置を所定の形式で動かしても良い。つまり、測定ステージおよび共焦点光学系装置が(換言すれば、試料溶液および共焦点領域が)所定の形式で相対運動していれば良い。この場合、前述の検出システムの駆動機構は、測定ステージまたは共焦点光学系装置を所定の形式で運動させることで、前記測定ステージに載置された前記試料溶液および前記共焦点領域の相対位置を移動させるように構成されていることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の蛍光一粒子検出方法および検出システムは、防疫・公衆衛生、研究支援および臨床検査などに有用に利用することができる。
【0094】
<防疫・公衆衛生>
例えば、空港検疫所などで海外からの感染を水際で防止するために、旅行者の咽頭拭い液や唾液などからその場で感染の有無を迅速高感度且つ簡便に判定することができる。また、例えば国内の家禽への高病原性トリインフルエンザウイルスの侵入を迅速に検知確定するためのツールとして普及すれば、多大な経済的損失を未然に防ぐことも可能となる。
【0095】
<研究支援>
また、感染症治療薬の開発のためのスクリーニング系に利用可能である。本発明の蛍光一粒子検出方法および検出システムは、高感度・迅速性・定量性・コストについて優位性を持っている。従来技術としてはELISA法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)などが利用されてきたが、高感度・迅速性・定量性・コストについてすべてを満たしているわけではない。創薬研究では開発の迅速性と感度の高い測定法の確保が求められることから、感度・定量性を高めた高性能型機器を提供することが可能となる。
【0096】
<臨床検査>
また、本発明の蛍光一粒子検出方法および検出システムは高感度であることから検体は微量で済み、採取が容易になり、臨床検査において患者の負担を低減させることができる。また、迅速測定であることから短時間での多検体処理が可能である。また、病原体粒子を直接的に検出できることから、培養が困難で直接検出と定量が必要とされている病原体(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルスなど)に対する適用が可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 共焦点光学系装置
20 励起光照射部
30 蛍光検出部
40 解析装置
50 試料保持装置
51 測定ステージ
52 X軸方向駆動機構
53 Y軸方向駆動機構
60 コントローラ
70 シリンジポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスなどの病原体を短時間に高感度で検出する、蛍光一粒子検出方法および検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型インフルエンザウイルスなどの感染症の世界的な流行(パンデミック)が大きな問題となっており、感染を早期に発見し流行を防止するために、感染症を引き起こす病原体を短時間に高感度で検出する技術の開発が急務となっている。
【0003】
これに対して、例えば特許文献1や特許文献2に開示されているように、試料中の病原体を短時間に高感度で検出するために、病原体と結合する性質を持つ蛍光物質を試料溶液に混合し、共焦点光学系を用いてレーザー光を試料溶液中の極微小な領域(共焦点領域)に照射し、蛍光物質が結合した病原体と遊離状態の蛍光物質の分子量および移動速度の違いを利用して、蛍光物質の共焦点領域における蛍光強度の時間変化を測定し、病原体の有無を把握する技術が開発されている。
【0004】
特に、特許文献2に開示されている技術においては、試料溶液中に流れを生じさせて蛍光強度の時間変化を測定することを特徴としており、試料溶液に流れを生じさせることによって共焦点領域を蛍光物質が通過する確率を上げて検出の感度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−20565号公報
【特許文献2】特開2008−116440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示されている技術は、試料溶液に流れを生じさせることにより検出の感度を向上させているものであるが、流れの制御は難しく、より簡便な手法で検出の感度を向上させることが望まれている。
【0007】
本発明は、斯かる要望に鑑みて創出されたものであって、検出対象物質を短時間に高感度で検出するとともに制御性に優れた蛍光一粒子検出方法および検出システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の蛍光一粒子検出方法は、蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合した試料溶液を調製する調製工程と、前記試料溶液の少なくとも一部を測定ステージに載置する載置工程と、共焦点光学系を用いて前記試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、前記測定ステージおよび共焦点光学系を所定の形式で相対運動させることで前記測定ステージに載置された前記試料溶液および前記共焦点領域の相対位置を移動させながら、前記共焦点領域を通過する前記蛍光物質が発する蛍光信号の蛍光強度の変動を所定時間だけ計測する計測工程と、を備えたことを特徴としている。
【0009】
なお、前記計測工程において、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系を円運動、螺旋運動または直線運動などの形式で運動させることが好ましい。また、前記試料は所定の病原体が含まれている可能性があるものであり、前記蛍光物質は前記所定の病原体に結合する性質を持つものであることが好ましい。
【0010】
また、発明の蛍光一粒子検出システムは、蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合して調製された試料溶液の少なくとも一部が載置される可動式の測定ステージと、共焦点光学系を用いて前記測定ステージに載置された前記試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、前記共焦点領域を通過する前記蛍光物質が発する蛍光信号を検出する共焦点光学系装置と、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系装置を所定の形式で運動させることで、前記測定ステージに載置された前記試料溶液および前記共焦点領域の相対位置を移動させる駆動機構と、前記共焦点光学系装置が検出した前記蛍光信号の蛍光強度の変動を解析する解析装置と、を備えたことを特徴としている。
【0011】
なお、前記駆動機構は、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系装置を円運動、螺旋運動または直線運動などの形式で運動させることが好ましい。また、前記試料は所定の病原体が含まれている可能性があるものであり、前記蛍光物質は前記所定の病原体に結合する性質を持つものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の蛍光一粒子検出方法または検出システムによれば、検出対象物質を短時間に高感度で検出することができ、また、制御性にも優れているという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の蛍光一粒子検出方法および検出システムの原理を説明する図であって、(a)は試料溶液中に検出試薬(蛍光物質)のみが存在する場合の共焦点領域の概念図、(b)はその場合の蛍光強度の時間変化を示すグラフ、(c)は試料溶液中にウイルスが存在する場合の共焦点領域の概念図、(d)はその場合の蛍光強度の時間変化を示すグラフである。
【図2】本実施形態の蛍光一粒子検出システムを示す模式図である。
【図3】本実施形態の蛍光一粒子検出システムの試料保持装置を示す模式図である。
【図4】(a),(b)ともに、本実施形態の蛍光一粒子検出システムの試料保持装置の具体的な形状を示す模式図である。
【図5】本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムにおける測定ステージの動作を示す図であって、(a)は円運動する場合を示し、(b)は螺旋運動する場合を示している。
【図6】本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムにおいて測定ステージが動作することによる効果を説明する実験データであり、(a)は測定ステージが静止している場合の蛍光強度の時間変化を示し、(b)は測定ステージが螺旋運動している場合の蛍光強度の時間変化を示している。
【図7】(a),(b)ともに、本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムによる実験データであって、測定ステージが円運動する場合に測定された移動速度毎の蛍光強度積算値を示している。
【図8】(a),(b)ともに、本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムによる実験データであって、測定ステージが螺旋運動する場合に測定された移動速度毎の蛍光強度積算値を示している。
【図9】本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムにおいて、測定ステージが円運動する場合と螺旋運動する場合の違いを説明する実験データであり、(a)は円運動する場合の移動速度毎の蛍光強度積算値を示し、(b)は螺旋運動する場合の移動速度毎の蛍光強度積算値を示し、(c)は円運動および螺旋運動それぞれの場合における蛍光強度積算値の閾値以上(ポジティブ)と閾値未満(ネガティブ)の数を示した表である。
【図10】本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムによる実験データであって、(a)の上段図はウイルスが含まれていない試料を対象として測定した蛍光強度の時間変化を示し、(a)の中段図は新型インフルエンザウイルス(A型H1N1)が含まれている試料を対象として測定した蛍光強度の時間変化を示し、(a)の下段図は季節性インフルエンザウイルス(季節性A型ニューカレドニアH1N1)が含まれている試料を対象として測定した蛍光強度の時間変化を示し、(b)は(a)に示した各試料で測定された閾値(300counts)以上の蛍光強度の積算値を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
<蛍光一粒子検出方法>
まず、本発明の蛍光一粒子検出方法(一粒子検出法)の原理について説明する。
【0015】
蛍光一粒子検出方法は、蛍光相関分光法の応用研究から開発されたものである。蛍光相関分光法は分子間相互作用解析法の一つであり、蛍光強度のゆらぎの周期を数値解析(相関関数による解析)することにより、拡散定数といった物理定数を測定する。一方、蛍光一粒子検出方法は、蛍光相関分光法に特有な相関解析を排し、粒子固有の大きな蛍光変動のみに着目して計数のみを行う手法である。また、蛍光相関分光法の時間分解能がマイクロ秒以下(例えば、約100ナノ秒)であるのに対して、蛍光一粒子検出方法の時間分解能は数マイクロ〜ミリ秒である点でも両者は相違する。
【0016】
蛍光相関分光法および蛍光一粒子検出方法では、励起光(レーザー光)をサブフェムトリットル領域に絞り込んで照射した空間(共焦点領域)において、蛍光物質が通過したときに発する蛍光信号を検出する。
【0017】
この蛍光信号は熱ゆらぎ(ブラウン運動)による蛍光強度のゆらぎを持っている。分子量の大きさは分子の溶液中での動きに大きな影響を与えるため、蛍光信号の蛍光強度のゆらぎの周期は蛍光物質の分子量変化を反映する。小さな分子は動きが速く共焦点領域を速く通過するため、蛍光強度の変動は速くなるが、大きな分子は動きが遅いため、蛍光強度の変動は遅くなる。
【0018】
一方、蛍光一粒子検出方法は、ウイルスのような直径10nm以上の粒子のみを測定対象とする。このような粒子は、溶液中の移動速度が一般の生体分子よりもさらに遅いため、粒子表面に吸着した蛍光物質由来の蛍光信号が大きく鈍い特有の変動を示す。すなわち、蛍光物質を吸着したウイルスが共焦点領域を通過したときに、蛍光強度の大きな変動が記録される。これを計数することで、蛍光物質を吸着したウイルスと遊離蛍光物質(検出試薬)との区別を容易に行うことができ、分離濃縮過程なしに1粒子単位でウイルスなどの病原体の高感度迅速検出を行うことができる。なお、直径10nm以下の粒子であっても、蛍光物質と結合することにより分子量変化があり、その運動変化を検出できるものであれば、本発明の蛍光一粒子検出方法の検出対象物質とすることができる。
【0019】
図1(a)〜(d)を用いて、試料溶液中に蛍光物質(検出試薬)のみが存在する例と、ウイルスが存在する例とを比較して説明する。
【0020】
図1(a)に示すようにウイルスが存在しない場合には、図1(b)に示すように検出試薬に由来するごく細かい蛍光強度のゆらぎが示されるのみである。一方、図1(c)に示すようにウイルスが存在する場合には、ウイルスに蛍光物質が吸着され、ウイルスに吸着された蛍光物質はウイルスとともに溶液中でゆっくり動くこととなる。したがって、図1(d)に示すように、ごく細かい蛍光強度のゆらぎの中に著しく高い蛍光強度が現れる特徴的な蛍光強度のゆらぎが検出される。この特徴的なゆらぎを計数することにより、ウイルスの量を測定することができる。
【0021】
本発明の一実施形態の蛍光一粒子検出方法は、さらに、試料溶液を載置した測定ステージを所定の形式で運動させることで共焦点領域を通過する蛍光物質の確率を上げて検出の感度を向上させるものである。
【0022】
すなわち、本実施形態の蛍光一粒子検出方法は、蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合した試料溶液を調製する調製工程と、前記試料溶液の少なくとも一部を可動式の測定ステージに載置する載置工程と、前記測定ステージを所定の形式で運動させることで前記測定ステージに載置された前記試料溶液の位置を移動させながら、共焦点光学系を用いて前記試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、前記共焦点領域を通過する前記蛍光物質が発する蛍光信号の蛍光強度の変動を所定時間だけ計測する計測工程と、を備えている。
【0023】
試料は、検出対象物質(例えば、インフルエンザウイルスなどの病原体や栄養素)が含まれている可能性のあるものである。具体的には、生体試料の例としては、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、尿、便、糞、リンパ液、精液、涙液、および各種臓器等の哺乳類(ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、イノシシ、ヒツジ、ウサギ、特にヒト)、鳥類(ニワトリ、アヒル、ウズラ、七面鳥、カモ、キジなど)、無脊椎動物(昆虫;カイコ、ハチ、アリ、クワガタ、カブトムシなど、甲殻類;エビ、カニなど)、植物(稲、麦、桑、小豆、ソラマメ、トマト、ナス、キュウリ、メロン、タバコ、菊、ユリ、バラなど)の生体由来の試料が挙げられる。また、環境由来の試料としては、食品(卵、牛乳、大豆、小麦、米などの穀類、魚介類、或いは加工食品など)、河川、土壌、大気(溶媒を通すことで対象物質が液中に補足される)なども例示される。試料は、超音波処理、界面活性剤処理などにより破砕後に測定に供しても良い。このようにすることで、測定対象物質の測定感度を向上させることが可能な場合がある。
【0024】
調製工程では、検出対象物質に特異的に結合(吸着)する蛍光物質(検出試薬)を用意し、この蛍光物質と試料とを混合した試料溶液を調製する。検出対象物質は遊離状態の蛍光物質よりも分子量が大きく、試料溶液中の移動速度が遅い。したがって、検出対象物質と結合した蛍光物質は検出対象物質とともに試料溶液中をゆっくりと移動することとなる。
【0025】
蛍光物質はそもそも蛍光性を有するものでも良いし、蛍光標識されることで蛍光性を具備したものでも良い。ただし、蛍光標識としては、蛍光強度は強く安定したものが好ましい。例えば、Alexa、ローダミン各種(ローダミン6G、ローダミングリーン、TMR、TAMRA)、BODIPY、Cy5、R6G、FAM、JOE、ROX、EDANS、Fluorescein、HiLyte Fluor、DyLight、DY、ATTO、蛍光性タンパク質、蛍光量子ドット(蛍光性ナノ粒子)などが好ましく使用できるが、これらに限定されない。
【0026】
載置工程では、後述する測定ステージに設置されるスライドガラスの上に、試料溶液の少なくとも一滴を滴下することが好ましい。試料溶液が滴下されたスライドガラスは、上にカバーガラスを載せても良いし、載せなくても良い。カバーガラスを載せた場合には、試料溶液が蒸発しにくいという利点がある。また、カバーガラスを載せない場合には、装置の部品点数を削減できるという利点がある。なお、載置工程では、スライドガラスの上に試料溶液の少なくとも一滴を滴下する方式に替えて、スライドガラスあるいはカバーガラスに微小幅の流路(例えば、マイクロ単位の幅のマイクロ流路)を予め形成しておき、この流路内に試料溶液を導入、あるいは流れる方式にしても良い。
【0027】
計測工程は、共焦点光学系を使用して達成される工程であり、ここでは、対物レンズによって微小領域(例えば、フェムトリットルからピコリットル程度の領域)にまで励起光の焦点を絞り、運動している測定ステージ上の試料溶液に励起光を照射する。この際、励起光が照射された微小領域(共焦点領域)を通過する蛍光物質の発する蛍光信号を所定時間(例えば100秒間)だけ検出し、検出された蛍光信号の蛍光強度の時間変化(変動)を解析する。上記の所定時間は、測定するウイルスなどの対象やその濃度により可変なものとする。
【0028】
<蛍光一粒子検出システム>
上記の本実施形態の蛍光一粒子検出方法を実施するための検出システムは、図2に示すように、共焦点光学系装置10と、解析装置40と、試料保持装置50と、コントローラ60と、を備えて構成されることが好ましい。
【0029】
<共焦点光学系装置>
共焦点光学系装置10は、励起光照射部20と蛍光検出部30とを備えて構成される。励起光照射部20は、レーザー21と、対物レンズ22と、ダイクロイックミラー23と、NDフィルタ24と、平行レンズ25と、を必要に応じて組み合わせて構成される。また、蛍光検出部30は、光電子増倍管31と、ピンホール32と、EMフィルタ33と、反射ミラー34と、結像レンズ35と、を必要に応じて組み合わせて構成される。
【0030】
レーザー21は、試料溶液中の蛍光物質を励起すべく単一波長のレーザー光(励起光)を照射する励起光源であって、例えば、473nmの波長のレーザー光を照射するLD励起固体レーザーが用いられる。
【0031】
対物レンズ22は、レーザー21から照射されたレーザー光の焦点を絞り、試料溶液中に微小体積の共焦点領域を形成するものである。対物レンズ22としては水浸系あるいは油浸系の液浸対物レンズを用いることが好ましい。したがって、連続して検体の検査を行う検出システムとしては、さらにシリンジポンプ(図4(a)中に符号70で示す部材)を備えて、対物レンズ22と試料溶液との間に水あるいは油を補給可能な構成とすることが好ましい。ただし、測定条件によっては、非水浸・非油浸レンズを用いることができる。
【0032】
ダイクロイックミラー23は、特定の波長の光(ここでは、レーザー21の照射する473nmの波長のレーザー光)を反射し、その他の波長の光を透過するようになっている。
【0033】
NDフィルタ(減光フィルタ)24は、対物レンズ22に入射するレーザー光の量を減少させるものであり、ここでは光量を例えば10%に減少させている。
【0034】
平行レンズ25は、レーザー21から照射されたレーザー光を平行光に変換するものである。
【0035】
光電子増倍管(PMT)31は、高感度に光を検出する光検出器である。
【0036】
ピンホール32は、蛍光物質が発した蛍光を光電子増倍管31に導くためのものである。
【0037】
EMフィルタ33は、特定の波長の光(ここでは、レーザー21の照射する473nmの波長のレーザー光)をカットするフィルタである。
【0038】
反射ミラー34は、蛍光物質が発した蛍光を反射することで光路を変更し、光電子増倍管31に導くためのものである。反射ミラー34は、装置の構造上省略することも可能である。
【0039】
結像レンズ35は、蛍光物質が発した蛍光の中間像を結ぶものである。
【0040】
レーザー21から照射されたレーザー光は、平行レンズ25、NDフィルタ24、ダイクロイックミラー23および対物レンズ22を経由し、試料保持装置50の測定ステージ51(図3参照)に載置された試料溶液に到達する。レーザー光の照射により、試料溶液中に設定された共焦点領域を通過する蛍光物質は蛍光を発する。その蛍光は、対物レンズ22、ダイクロイックミラー23、反射ミラー34、EMフィルタ33、結像レンズ35およびピンホール32を経て、光電子増倍管31に到達する。光電子増倍管31は蛍光を検出し、蛍光信号として解析装置40へ出力する。
【0041】
なお、共焦点光学系装置10の構成は上述のものに限定されない。また、共焦点光学系装置10としては、既存の蛍光相関測定装置(例えば、浜松ホトニクス社製のFCS−101B装置)を利用することが可能である。また、共焦点光学系装置10は、共焦点光学系そのものの他、共焦点光学系と同様に微小な空間に蛍光物質を計測するに十分な励起光を照射し得る光学系を用いた装置であっても良い。
【0042】
<解析装置>
解析装置40は、光電子増倍管31から入力された蛍光信号の蛍光強度の時間変化を解析し、例えば、予め設定された閾値以上の蛍光強度を持つ蛍光信号を計数する。この解析装置40は、所定のプログラムが記憶されたソフトウェアと、ソフトウェアのプログラムを実行するコンピュータなどの演算装置と、演算装置が解析した解析結果を表示するモニタなどの表示手段とによって構成することができる。
【0043】
<試料保持装置>
試料保持装置50は、図3に示すように、測定ステージ51と、X軸方向駆動機構52と、Y軸方向駆動機構53と、を備えている。
【0044】
測定ステージ51は、試料溶液が載置される可動式の部分であり、具体的には、レーザー光を通過させることが可能な開口部51aが設けられた可動する台座である。測定ステージ51の開口部51aにはスライドガラス55がセットされ、このスライドガラス55の上に試料溶液が滴下される。そして、スライドガラス55の下方からスライドガラス55上の試料溶液に向かってレーザー光が照射されるように構成される。
【0045】
なお、測定ステージ51は、アダプターにより各種の試料に対応できるように構成されていることが好ましい。また、測定ステージ51は、対物レンズ22の焦点距離を調製するための調製機構(例えば上下方向に測定ステージ51を動かす機構)も有して構成されていることが好ましい。
【0046】
X軸方向駆動機構52は、測定ステージ51をスライドガラス55と一体に所定の一方向(X軸方向)に動かす駆動機構であり、X軸モータ52aとX軸ボールねじ52bとX軸リニアガイド52cとを備えて構成されている。X軸モータ52aがコントローラ60からの信号を受信して回転駆動されると、X軸ボールねじ52bによってX軸モータ52aの回転運動は直線運動に変換され、測定ステージ51はX軸リニアガイド52cに案内されてX軸方向に移動する。
【0047】
Y軸方向駆動機構53は、測定ステージ51をスライドガラス55と一体に前記一方向と直交する方向(Y軸方向)に動かす駆動機構であり、Y軸モータ53aとY軸ボールねじ53bとY軸リニアガイド53cとを備えて構成されている。Y軸モータ53aがコントローラ60からの信号を受信して回転駆動されると、Y軸ボールねじ53bによってY軸モータ53aの回転運動は直線運動に変換され、測定ステージ51はY軸リニアガイド53cに案内されてY軸方向に移動する。
【0048】
なお、試料保持装置50は、図4(a)に示すように、接地する二つの脚部を有するとともに、測定ステージ51が共焦点光学系装置10の対物レンズ22に対向する、門型の装置であることが好ましい。このような門型の装置であれば接地面積が増大するので、X軸モータ52aおよびY軸モータ53aの振動を効果的に抑制し、振動が測定結果に与える影響を低減することができる。また、X軸モータ52aおよびY軸モータ53aの振動を抑制するための制振装置をさらに備えても良い。ただし、図4(b)に示すように、試料保持装置50は脚部のない箱型状にシンプルに構成されて、対物レンズ22の上方に設置されても良い。この構成の場合には、X軸モータ52aおよびY軸モータ53a用の制振装置を備えていることが好ましい。
【0049】
本実施形態のX軸方向駆動機構52及びY軸方向駆動機構53は、測定ステージ51を所定の形式で動かすことが可能であれば、様々な構成を採用することができる。つまり、例えば、X軸方向駆動機構52及びY軸方向駆動機構53は、その動力源として、ステッピングモータ、サーボモータ、DC/ACモータ、超音波モータ、リニアモータ、振動モータ、油圧モータなどの様々なモータを利用して構成することが可能であるが、モータに限定されず、ピエゾ素子、超音波振動子、エア(例えばエアシリンダ)、油圧(例えば油圧シリンダ)などを動力源として利用することができる。また、これらの動力源を利用した案内機構も、ボールねじ、リニアガイド、磁気浮上式ガイドなどを利用して構成することができる。
【0050】
<コントローラ>
コントローラ60は、X軸モータ52aおよびY軸モータ53aを制御する手段であり、プログラムにしたがってX軸モータ52aおよびY軸モータ53aを制御し、測定ステージ51のスライドガラス55上の試料溶液をスライドガラス55と一体に所定の形式(例えば、円運動、螺旋運動、直線運動など)で移動させるようになっている。
【0051】
プログラムには、試料溶液の位置を移動させるためのパラメータとして「半径」、「移動速度」、「周回数」および「漸減量」が設定されている。これらのパラメータの値を適宜に指定することで、試料溶液の任意の一点を円運動(図5(a)参照)または螺旋運動(図5(b)参照)の形式で移動させることができるようになっている。つまり、共焦点光学系装置10によって照射されるレーザー光の共焦点領域の位置は固定されているのに対して試料溶液の位置を移動させることで、共焦点領域を発光物質が通過する確率を高めるようになっている。
【0052】
半径(mm)は、任意の正負の数値(小数含む)を指定可能であり、正の値であればX軸+方向に移動し、負でX軸−方向に移動するようになっている。
【0053】
移動速度(mm/s)は、任意の正の数値(小数含む)を指定可能であり、0で静止状態となる。
【0054】
周回数は、任意の正負の数値(小数含む)を指定可能であり、例えば「0.5」を入力すれば半周し、「1.5」を入力すれば1周半するようになっている。また、周回数が正の値であるとき、半径も正の値であれば時計回りに回転し、半径が負の値であれば半時計回りに回転するようになっている。逆に、周回数が負の値であるとき、半径も負の値であれば時計回りに回転し、半径が正の値であれば半時計回りに回転するようになっている。
【0055】
漸減量は、任意の正の数値(小数含む)を指定可能であり、単純な円運動の場合は「0」に設定され、螺旋運動の場合は正の値に設定されるようになっている。
【0056】
なお、コントローラ60は、例えば液晶タッチパネルなどの操作手段と、所定のプログラムが記憶されたソフトウェアと、ソフトウェアのプログラムを実行するコンピュータなどの演算装置とで構成され、検査員が操作手段を操作して上記のパラメータの値を適宜に入力可能となっていれば好ましい。
【0057】
<測定ステージの運動の効果>
測定ステージを動かした場合の効果を、次の実験により説明する。
【0058】
この実験では、直径0.1μmの蛍光標識ポリスチレンビーズ(Fluoresbrite Carboxylate Microspheres (2.5% Solids-Latex), YG、Polysciences株式会社)を含む水溶液を、螺旋運動を設定した測定ステージ上に滴下し、共焦点光学系装置には浜松ホトニクス社製蛍光相関分光装置FCS-101B装置(波長473nmの励起用レーザ搭載)を使用し、蛍光信号を測定した。
【0059】
蛍光標識ポリスチレンビーズは、MilliQ水で0.02%に調製したTween20(ナカライテスク株式会社)により107個/mLに希釈し、これを30μL用いた。なお、この蛍光標識ポリスチレンビーズは表面に蛍光官能基を有するビーズであり、ウイルスと同様の形状を持ち、水に分散する。
【0060】
測定ステージの動作は、半径1.5mm且つ漸減量0.01mmの螺旋運動とし、移動速度は0mm/s 、0.3mm/s 、0.6mm/s 、0.9mm/s 、1.2mm/s 、1.5mm/s 、1.8mm/s 、2.1mm/s 、2.4mm/s 、2.7mm/s 、3.0mm/s 、3.3mm/s 、3.6mm/s 、3.9mm/s 、4.2mm/s に設定した。測定時間は100秒とし、測定時のレーザー強度は6.4μwに設定した。螺旋運動は円の外側から開始し、中心に到達した場合は、また円の外側に戻り同じ運動を繰り返すように設定した。また、各移動速度において6回ずつ実験を行った。
【0061】
データ解析には浜松ホトニクス社製ソフトウェアPhoton Burstを用いて集計し、単位時間当たりの蛍光強度をCSV形式ファイルとして出力させた。このデータ群のうちノイズ値10(K/S)を超える数値をマイクロソフト社エクセルを用いて抽出し、蛍光標識ポリスチレンビーズの通過による蛍光信号の強度積算値を求めた。
【0062】
また、比較のために、同様の条件で測定ステージが静止している場合(移動速度が0mm/sである場合)についても蛍光信号の強度積算値を求めた。
【0063】
この結果、図6(a)に示すように、測定ステージが静止している場合では、蛍光強度の特徴的な変動は計測されなかった。一方、図6(b)に示すように、上述の螺旋運動をしている場合では、矢印で指し示すように蛍光強度が時折著しく高い値に跳ね上がり、蛍光強度の特徴的な変動が計測された。
【0064】
したがって、同じ試料を測定対象としていても、測定ステージを移動させて試料溶液を移動させることにより特徴的な蛍光信号の検出が可能となることが確認された。
【0065】
<円運動での実験>
次に、図7(a)および(b)を用いて、測定ステージを円運動させた場合の実験結果について説明する。
【0066】
この実験では、直径0.1μmの蛍光標識ポリスチレンビーズ(Fluoresbrite Carboxylate Microspheres (2.5% Solids-Latex), YG、Polysciences株式会社)を含む水溶液を、円運動を設定した測定ステージ上に滴下し、共焦点光学系装置には浜松ホトニクス社製蛍光相関分光装置FCS-101B装置(波長473nmの励起用レーザ搭載)を使用し、蛍光信号を測定した。
【0067】
蛍光標識ポリスチレンビーズは、MilliQ水で0.02%に調製したTween20(ナカライテスク株式会社)により、108個/mL、107個/mL、106個/mL、105個/mLに希釈し、これらをそれぞれ30μL用いた。
【0068】
測定ステージの動作は、半径1.5mmの円運動とし、移動速度は0mm/s 、0.3mm/s 、0.6mm/s 、0.9mm/s 、1.2mm/s 、1.5mm/s 、1.8mm/s 、2.1mm/s 、2.4mm/s 、2.7mm/s 、3.0mm/s 、3.3mm/s 、3.6mm/s 、3.9mm/s 、4.2mm/s に設定した。測定時間は100秒とし、測定時のレーザー強度は6.4μwに設定した。円運動は測定時間中何周も同じ運動を繰り返すように設定した。また、各移動速度において6回ずつ実験を行った。
【0069】
データ解析には浜松ホトニクス社製ソフトウェアPhoton Burstを用いて集計し、単位時間当たりの蛍光強度をCSV形式ファイルとして出力させた。このデータ群のうちノイズ値10K/Sを超える数値をマイクロソフト社エクセルを用いて抽出し、蛍光標識ポリスチレンビーズの通過による蛍光信号の強度積算値を求めた。
【0070】
図7(a)は、各移動速度で6回ずつ実験を行って算出された6つの蛍光強度積算値の平均値を、各濃度で移動速度毎にプロットしたものである。また、図7(b)は、106個/mLおよび105個/mLの比較的低濃度の実験データを拡大して示したものである。
【0071】
図7(a)および(b)に示すように、108個/mLや107個/mLといった比較的高濃度の試料溶液では、いずれの移動速度であっても大きな蛍光強度積算値が算出された。また、106個/mLの比較的低濃度の試料溶液においても、いずれの移動速度であっても蛍光強度積算値が算出された。さらに、105個/mLの極低濃度の試料溶液であっても、移動速度を適切に指定すれば、蛍光強度積算値が算出されることが確認された。
【0072】
<螺旋運動での実験>
次に、図8(a)および(b)を用いて、測定ステージを螺旋運動させた場合の実験結果について説明する。
【0073】
この実験でも、前述の実験と同様に、直径0.1μmの蛍光標識ポリスチレンビーズ(Fluoresbrite Carboxylate Microspheres (2.5% Solids-Latex), YG、Polysciences株式会社)を含む水溶液を、螺旋運動を設定した測定ステージ上に滴下し、共焦点光学系装置には浜松ホトニクス社製蛍光相関分光装置FCS-101B装置(波長473nmの励起用レーザ搭載)を使用し、蛍光信号を測定した。
【0074】
蛍光標識ポリスチレンビーズは、MilliQ水で0.02%に調製したTween20(ナカライテスク株式会社)により、108個/mL、107個/mL、106個/mL、105個/mLに希釈し、これらをそれぞれ30μL用いた。
【0075】
測定ステージの動作は、半径1.5mm且つ漸減量0.01mmの螺旋運動とし、移動速度は0mm/s 、0.3mm/s 、0.6mm/s 、0.9mm/s 、1.2mm/s 、1.5mm/s 、1.8mm/s 、2.1mm/s 、2.4mm/s 、2.7mm/s 、3.0mm/s 、3.3mm/s 、3.6mm/s 、3.9mm/s 、4.2mm/s に設定した。測定時間は100秒とし、測定時のレーザー強度は6.4μwに設定した。螺旋運動は円の外側から開始し、中心に到達した場合は、また円の外側に戻り同じ運動を繰り返すように設定した。また、各移動速度において6回ずつ実験を行った。
【0076】
データ解析には浜松ホトニクス社製ソフトウェアPhoton Burstを用いて集計し、単位時間当たりの蛍光強度をCSV形式ファイルとして出力させた。このデータ群のうちノイズ値10K/Sを超える数値をマイクロソフト社エクセルを用いて抽出し、蛍光標識ポリスチレンビーズの通過による蛍光信号の強度積算値を求めた。
【0077】
図8(a)は、各移動速度で6回ずつ実験を行って算出された6つの蛍光強度積算値の平均値を、各濃度で移動速度毎にプロットしたものである。また、図8(b)は、106個/mLおよび105個/mLの比較的低濃度の実験データを拡大して示したものである。
【0078】
図8(a)および(b)に示すように、108個/mLや107個/mLといった比較的高濃度の試料溶液では、いずれの移動速度であっても大きな蛍光強度積算値が算出された。また、106個/mLの比較的低濃度の試料溶液においても、いずれの移動速度であっても蛍光強度積算値が算出された。さらに、105個/mLの極低濃度の試料溶液であっても、移動速度を適切に指定すれば、蛍光強度積算値が算出されることが確認された。特に、105個/mLの試料溶液では、円運動の場合と比較すると、蛍光強度積算値が算出される移動速度の範囲が広くなっていることが確認された。
【0079】
<円運動と螺旋運動の比較>
さらに、図9(a)〜(c)を用いて、円運動の場合と螺旋運動の場合とで比較した結果について説明する。図9(a)および(b)は、図7および図8に示す前述の実験の結果(105個/mLの濃度の試料溶液を対象にして、各移動速度で6回ずつ行った実験の結果)を、1回分ずつ個別にプロットしたものであり、図9(a)は円運動の場合の移動速度毎の蛍光強度積算値を示し、図9(b)は螺旋運動の場合の移動速度毎の蛍光強度積算値を示している。
【0080】
図9(c)に示すように、算出された蛍光強度積算値に対して閾値(例えば10)を設定し、蛍光強度積算値が閾値以上である場合をポジティブ、閾値未満である場合をネガティブとして、移動速度が1.2mm/s 以上の66検体のポジティブの数とネガティブの数をカウントしたところ、円運動よりも螺旋運動のほうがポジティブの数が多いことが確認された。したがって、円運動よりも螺旋運動のほうが蛍光物質の検出に比較的優位であるといえる。
【0081】
<インフルエンザウイルスを対象とした実験>
最後に、インフルエンザウイルスを対象とした実験について説明する。
【0082】
ProteinG, Alexa Fluor(登録商標) 488 Conjugate (インビトロジェン社)を緩衝溶液で0.01mg/mlに希釈し、インフルエンザワクチンをウサギに接種して作成したポリクローナル抗体(0.1mg/mL, pAb20091209, )と等量混合し、1時間反応させた後、Microcon Ultracel YM-100 (Millipore社)フィルターを用いて未反応のProteinG, Alexa Fluor(登録商標) 488 Conjugate を除去した。その後、結合反応生成物を回収、溶液量60μL程度に調製したものを蛍光標識抗体試料とした。光学測定系には浜松ホトニクス社製蛍光相関分光装置FCS-101B装置(波長473nmの励起用レーザ搭載)を使用し、測定の直前に調製した蛍光標識抗体試料9μLと、培養インフルエンザウイルス(季節性A型ニューカレドニアH1N1、107 CIU/mL)を51μLの割合で混合し、試料内のスキャン観察を設定した測定ステージ上に滴下後、蛍光信号を測定した。測定ステージの動作は、試料内を直線で結ぶ運動とし、その際の移動速度は0.6mm/秒に設定した。一回の測定時間は60秒とした。データ解析には浜松ホトニクス社製ソフトウェアPhoton Burstを用いて集計し、単位時間当たりの蛍光強度をCSV形式ファイルとして出力させた。このデータ群のうちノイズ値300counts/msecを超える数値をマイクロソフト社エクセルを用いて抽出し、蛍光標識抗体の通過による蛍光信号の強度積算値を求めた。
【0083】
新型インフルエンザウイルスH1N1の検出も同様の方法にて実験を行った。また、比較のために、ウイルスが含まれていない検体を対象として、同様の方法にて実験を行った。
【0084】
この実験の結果、図10(a)および(b)に示すように、インフルエンザウイルスが含まれている場合には、ウイルスが含まれていない場合に比べて大きな蛍光強度積算値が算出されることが確認された。つまり、本発明の方法およびシステムによって、短時間に高感度でウイルスの有無を確認することができた。
【0085】
<効果>
本実施形態の蛍光一粒子検出方法および検出システムは上述のように構成されているので、測定ステージを動かして共焦点領域を蛍光物質が通過する確率を積極的に増大させる能動的測定により感度が向上し、低濃度の試料溶液であっても蛍光物質を検出することができて、ウイルスなどの病原体を高感度に検出することが可能となる。
【0086】
また、測定ステージを動かすことで測定ステージ上の試料溶液の位置を移動させるので、再現性も良く、制御性に優れているという利点がある。また、従来の他の検査方法(例えば、培養法やPCR法(Polymerase Chain Reaction)や免疫クロマト法)に比べて、100秒間という単時間で検査することができるのでスピード性にも優れている。
【0087】
また、試料溶液に励起光を照射するだけで対象物質を検出することが可能であり、分離・濃縮などの特別な操作が不要で簡便であるという利点がある。
【0088】
また、病原体に特異的に結合する蛍光試薬を加えるだけで測定可能で、前処理が不要であるという利点がある。また、病原体を一粒子レベルで定量的に検出可能であり、培養法やPCR法などで行われる増幅反応が不要であるという利点がある。
【0089】
また、測定ステージを円運動あるいは螺旋運動の形式で動かすので、常に等速あるいは速度が変化(加速および/または減速)する運動をさせて、動いている状態を維持し続けることができ、効率が良いという利点がある。つまり、例えば直線往復運動で測定ステージを動かす場合には折り返し地点で一度静止するが、円運動や螺旋運動であればそのような静止状態を回避することができる。ただし、測定ステージを直線運動で動かしても良い。直線運動としては、同じ経路を往復する直線往復運動や、往復せずに直線経路を片道だけ動く片道直線運動や、ジグザグに折れ曲がった経路を進むジグザグ運動などといった、直線的な動きからなる運動が挙げられる。なお、直線運動と曲線運動とを組み合わせた運動の形式で測定ステージを動かしても良い。実用化段階では、円運動や螺旋運動や他の曲線運動よりも直線運動のほうが装置負担は少ないと見込まれる。
【0090】
尚、本発明の蛍光一粒子検出方法および検出システムは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0091】
例えば、上記実施形態では、励起光を試料溶液に対して下方から照射する検出システムについて説明したが、上方から照射するようにしても良い。上方から照射した場合、共焦点光学系装置が試料溶液よりも上方に位置することになるので、試料溶液や水浸系対物レンズ用に供給する水が共焦点光学系装置に与える問題(水濡れなどの問題)が軽減し、その結果、検出システムの構成を簡素にすること可能となる。特に、複数の試料溶液(検体)を連続して検査する場合、試料溶液の保持に用いるスライドガラスやカバーガラスを洗浄水で洗浄する洗浄装置を検出システムに組み込むことが好ましいが、スライドガラスやカバーガラスを検出システムの最底部に配置することができるので、洗浄水が共焦点光学系装置に浸水するおそれが低く、検出システムを高液密化して設計する必要性がないという利点がある。
【0092】
また、上記実施形態では、測定ステージを動かして共焦点領域を蛍光物質が通過する確率を積極的に増大させたが、測定ステージは固定した状態として共焦点光学系装置を所定の形式で動かしても良い。つまり、測定ステージおよび共焦点光学系装置が(換言すれば、試料溶液および共焦点領域が)所定の形式で相対運動していれば良い。この場合、前述の検出システムの駆動機構は、測定ステージまたは共焦点光学系装置を所定の形式で運動させることで、前記測定ステージに載置された前記試料溶液および前記共焦点領域の相対位置を移動させるように構成されていることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の蛍光一粒子検出方法および検出システムは、防疫・公衆衛生、研究支援および臨床検査などに有用に利用することができる。
【0094】
<防疫・公衆衛生>
例えば、空港検疫所などで海外からの感染を水際で防止するために、旅行者の咽頭拭い液や唾液などからその場で感染の有無を迅速高感度且つ簡便に判定することができる。また、例えば国内の家禽への高病原性トリインフルエンザウイルスの侵入を迅速に検知確定するためのツールとして普及すれば、多大な経済的損失を未然に防ぐことも可能となる。
【0095】
<研究支援>
また、感染症治療薬の開発のためのスクリーニング系に利用可能である。本発明の蛍光一粒子検出方法および検出システムは、高感度・迅速性・定量性・コストについて優位性を持っている。従来技術としてはELISA法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)などが利用されてきたが、高感度・迅速性・定量性・コストについてすべてを満たしているわけではない。創薬研究では開発の迅速性と感度の高い測定法の確保が求められることから、感度・定量性を高めた高性能型機器を提供することが可能となる。
【0096】
<臨床検査>
また、本発明の蛍光一粒子検出方法および検出システムは高感度であることから検体は微量で済み、採取が容易になり、臨床検査において患者の負担を低減させることができる。また、迅速測定であることから短時間での多検体処理が可能である。また、病原体粒子を直接的に検出できることから、培養が困難で直接検出と定量が必要とされている病原体(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルスなど)に対する適用が可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 共焦点光学系装置
20 励起光照射部
30 蛍光検出部
40 解析装置
50 試料保持装置
51 測定ステージ
52 X軸方向駆動機構
53 Y軸方向駆動機構
60 コントローラ
70 シリンジポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合した試料溶液を調製する調製工程と、
前記試料溶液の少なくとも一部を測定ステージに載置する載置工程と、
共焦点光学系を用いて前記試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、前記測定ステージおよび共焦点光学系を所定の形式で相対運動させることで前記測定ステージに載置された前記試料溶液および前記共焦点領域の相対位置を移動させながら、前記共焦点領域を通過する前記蛍光物質が発する蛍光信号の蛍光強度の変動を所定時間だけ計測する計測工程と、を備えた
ことを特徴とする、蛍光一粒子検出方法。
【請求項2】
前記計測工程において、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系を円運動または螺旋運動させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の蛍光一粒子検出方法。
【請求項3】
前記計測工程において、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系を直線運動させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の蛍光一粒子検出方法。
【請求項4】
前記試料は所定の病原体が含まれている可能性があるものであり、前記蛍光物質は前記所定の病原体に結合する性質を持つものである
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光一粒子検出方法。
【請求項5】
蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合して調製された試料溶液の少なくとも一部が載置される可動式の測定ステージと、
共焦点光学系を用いて前記測定ステージに載置された前記試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、前記共焦点領域を通過する前記蛍光物質が発する蛍光信号を検出する共焦点光学系装置と、
前記測定ステージまたは前記共焦点光学系装置を所定の形式で運動させることで、前記測定ステージに載置された前記試料溶液および前記共焦点領域の相対位置を移動させる駆動機構と、
前記共焦点光学系装置が検出した前記蛍光信号の蛍光強度の変動を解析する解析装置と、を備えた
ことを特徴とする、蛍光一粒子検出システム。
【請求項6】
前記駆動機構は、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系装置を円運動または螺旋運動させる
ことを特徴とする、請求項5に記載の蛍光一粒子検出システム。
【請求項7】
前記駆動機構は、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系装置を直線運動させる
ことを特徴とする、請求項5に記載の蛍光一粒子検出システム。
【請求項8】
前記試料は所定の病原体が含まれている可能性があるものであり、前記蛍光物質は前記所定の病原体に結合する性質を持つものである
ことを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の蛍光一粒子検出システム。
【請求項1】
蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合した試料溶液を調製する調製工程と、
前記試料溶液の少なくとも一部を測定ステージに載置する載置工程と、
共焦点光学系を用いて前記試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、前記測定ステージおよび共焦点光学系を所定の形式で相対運動させることで前記測定ステージに載置された前記試料溶液および前記共焦点領域の相対位置を移動させながら、前記共焦点領域を通過する前記蛍光物質が発する蛍光信号の蛍光強度の変動を所定時間だけ計測する計測工程と、を備えた
ことを特徴とする、蛍光一粒子検出方法。
【請求項2】
前記計測工程において、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系を円運動または螺旋運動させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の蛍光一粒子検出方法。
【請求項3】
前記計測工程において、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系を直線運動させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の蛍光一粒子検出方法。
【請求項4】
前記試料は所定の病原体が含まれている可能性があるものであり、前記蛍光物質は前記所定の病原体に結合する性質を持つものである
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光一粒子検出方法。
【請求項5】
蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つ蛍光物質と試料とを混合して調製された試料溶液の少なくとも一部が載置される可動式の測定ステージと、
共焦点光学系を用いて前記測定ステージに載置された前記試料溶液中に設定された共焦点領域に励起光を照射し、前記共焦点領域を通過する前記蛍光物質が発する蛍光信号を検出する共焦点光学系装置と、
前記測定ステージまたは前記共焦点光学系装置を所定の形式で運動させることで、前記測定ステージに載置された前記試料溶液および前記共焦点領域の相対位置を移動させる駆動機構と、
前記共焦点光学系装置が検出した前記蛍光信号の蛍光強度の変動を解析する解析装置と、を備えた
ことを特徴とする、蛍光一粒子検出システム。
【請求項6】
前記駆動機構は、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系装置を円運動または螺旋運動させる
ことを特徴とする、請求項5に記載の蛍光一粒子検出システム。
【請求項7】
前記駆動機構は、前記測定ステージまたは前記共焦点光学系装置を直線運動させる
ことを特徴とする、請求項5に記載の蛍光一粒子検出システム。
【請求項8】
前記試料は所定の病原体が含まれている可能性があるものであり、前記蛍光物質は前記所定の病原体に結合する性質を持つものである
ことを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の蛍光一粒子検出システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−73032(P2012−73032A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215882(P2010−215882)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(300090846)株式会社ライフテック (13)
【出願人】(503303466)学校法人関西文理総合学園 (26)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(300090846)株式会社ライフテック (13)
【出願人】(503303466)学校法人関西文理総合学園 (26)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【Fターム(参考)】
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