説明

蛍光体、発光装置、および蛍光体の製造方法

【課題】温度特性が良好であるとともに、色度に優れ、発光スペクトル半値幅の広い黄色光を高い効率で発光できる蛍光体を提供することである。
【解決手段】実施形態の蛍光体は、250〜520nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、550〜590nmの波長範囲内に発光ピークを示す。下記一般式(1)で表わされることを特徴とする。
(Sr1-xEuxaSibAlOcd (1)
(ここで、x,a,b,cおよびdは、それぞれ以下を満たす。
0<x≦0.16、 0.50≦a≦0.70、 2.0≦b≦2.5
0.45≦c≦1.2、 3.5≦d≦4.5、 3.6≦d/c≦8.0)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蛍光体、発光装置、および蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白色発光装置は、例えば青色光での励起により赤色発光する蛍光体、青色光での励起により緑色発光する蛍光体、および青色LEDを組み合わせて構成される。青色光での励起によって550〜590nmの波長範囲内に発光ピークを有する黄色光を発光する蛍光体を用いれば、より少ない種類の蛍光体を用いて白色発光装置を構成することができる。こうした黄色発光蛍光体としては、例えばαサイアロンが知られている。
【0003】
発光効率、色度、温度特性、および発光スペクトル半値幅といった黄色発光蛍光体に対する要求は、高まりつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−45271号公報
【特許文献2】特開2006−52337号公報
【特許文献3】特許第4052136号公報
【特許文献4】特許第4165318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、温度特性が良好であるとともに、色度に優れ、しかも発光スペクトル半値幅の広い黄色光を高い効率で発光できる蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の蛍光体は、250〜520nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、550〜590nmの波長範囲内に発光ピークを示す。かかる蛍光体は、下記一般式(1)で表わされることを特徴とする。
【0007】
(Sr1-xEuxaSibAlOcd (1)
(ここで、x,a,b,cおよびdは、それぞれ以下を満たす。
【0008】
0<x≦0.16、 0.50≦a≦0.70、 2.0≦b≦2.5
0.45≦c≦1.2、 3.5≦d≦4.5、 3.6≦d/c≦8.0)
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】Sr2Al3Si7ON13の結晶構造を示す図。
【図2】Sr2Al3Si7ON13のX線回折(XRD)パターン。
【図3】一実施形態にかかる発光装置の構成を表わす概略図。
【図4】他の実施形態にかかる発光装置の構成を表わす概略図。
【図5】実施例の蛍光体(Y1)のXRDパターン。
【図6】実施例の蛍光体(Y1)を波長450nmの光で励起した際の発光スペクトル。
【図7】実施例の蛍光体(Y1)の励起スペクトル。
【図8】実施例の発光装置の発光スペクトル。
【図9】実施例の蛍光体(Y2)のXRDパターン。
【図10】実施例の蛍光体(Y2)を波長450nmの光で励起した際の発光スペクトル。
【図11】実施例の蛍光体(Y2)の励起スペクトル。
【図12】実施例の蛍光体(Y3)のXRDパターン。
【図13】実施例の蛍光体(Y3)を波長450nmの光で励起した際の発光スペクトル。
【図14】実施例の蛍光体(Y3)の励起スペクトル。
【図15】実施例の蛍光体(Y4)のXRDパターン。
【図16】実施例の蛍光体(Y4)を波長450nmの光で励起した際の発光スペクトル。
【図17】実施例の蛍光体(Y4)の励起スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を具体的に説明する。
【0011】
一実施形態にかかる蛍光体は、250〜520nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、550〜590nmの波長範囲内に発光ピークを示すので、黄色発光蛍光体である。かかる蛍光体は、Sr2Si7Al3ON13の結晶構造と実質的に同じ結晶構造を有する母体を含み、この母体はEuで付活されている。本実施形態にかかる黄色発光蛍光体の組成は、下記一般式(1)で表わされる。
【0012】
(Sr1-xEuxaSibAlOcd (1)
(ここで、x,a,b,cおよびdは、それぞれ以下を満たす。
【0013】
0<x≦0.16、 0.50≦a≦0.70、 2.0≦b≦2.5
0.45≦c≦1.2、 3.5≦d≦4.5、 3.6≦d/c≦8.0)
上記一般式(1)に示されるように、発光中心元素EuはSrの一部を置換する。Srの少なくとも0.1モル%がEuで置換されていれば、十分な発光効率を得ることができる。Euによる置換量が多すぎる場合には、発光効率が低下する(濃度消光)。これを避けるため、xの上限は0.16に規定される。xは0.01以上0.10以下が好ましい。Srの一部は、Ba、CaおよびMgから選ばれる少なくとも一種で置換されていてもよい。SrとBa、CaおよびMgから選ばれる少なくとも一種との合計の15at.%以下、より望ましくは10at.%以下であれば、Ba,CaおよびMgから選ばれる少なくとも一種が含有されていても、異相の生成が促進されることはない。
【0014】
aが0.50未満の場合には、青色発光を示す異相が生成する。一方、aが0.70を越えると、緑色発光を示す異相が生成する。aは0.55以上0.65以下が好ましい。
【0015】
bが2.0未満の場合には、青緑色発光を示す異相が生成する。一方、bが2.5を越えると、緑色発光を示す異相が生成する。bは2.1以上2.3以下が好ましい。
【0016】
cが0.45未満の場合には、発光効率の低下が見られる。一方、cが1.2を越えると、青緑色発光異相が生成する。cは0.7以上1.1以下が好ましい。
【0017】
dが3.5未満の場合には、発光波長が長波長化し、cが4.5を越えると、緑色発光異相が生成する。dは3.9以上4.2以下が好ましい。
【0018】
また、NとOとの比を表わす(d/c)が3.6未満の場合には、青緑色発光を示す異相が生成する。一方、(d/c)が8.0以上となると、発光波長が590nmを超えてしまい、黄色発光が得られない。(d/c)は3.7以上6.0以下が好ましい。
【0019】
上述した条件を全て備えているので、本実施形態にかかる蛍光体は、250〜520nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、発光スペクトルの半値幅が広くおよび色度に優れた黄色光を高い効率で発光することができる。しかも、本実施形態にかかる黄色発光蛍光体は、温度特性も良好である。
【0020】
本実施形態の黄色発光蛍光体は、Sr2Si7Al3ON13結晶ベースとし、Srの一部がEuで置き換わった化合物である。構成元素であるSr、Eu、Si、Al、O、またはNの固溶量は、表記された数値(モル数)からずれることがある。固溶量の違いにより結晶構造は若干変化することがあるものの、骨格原子間の化学結合が切れるほどに原子位置が大きく変わることは少ない。原子位置は、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる。
【0021】
本実施形態の黄色発光蛍光体の基本的な結晶構造が変化しない範囲において、本実施形態の効果を奏することができる。本実施形態にかかる蛍光体は、格子定数およびSr−NおよびSr−Oの化学結合の長さ(近接原子間距離)が、Sr2Al3Si7ON13の場合とは異なることがある。その変化量が、Sr2Al3Si7ON13の格子定数、およびSr2Al3Si7ON13における化学結合の長さ(Sr−NおよびSr−O)の±15%以内であれば、結晶構造が変化していないと定義する。格子定数は、X線回折や中性子線回折により求めることができ、Sr−NおよびSr−Oの化学結合の長さ(近接原子間距離)は、原子座標から計算することができる。
【0022】
Sr2Al3Si7ON13の格子定数は、a=11.8033(13)Å、b=21.589(2)Å、c=5.0131(6)Åである。また、Sr2Al3Si7ON13における化学結合の長さ(Sr−NおよびSr−N)は、下記表1に示した原子座標から計算することができる。
【表1】

【0023】
本実施形態の黄色発光蛍光体は、上述したような結晶構造を有することを必須とする。この範囲を超えて化学結合の長さが変化すると、その化学結合が切れて別の結晶となって、所望される効果を得ることができなくなる。
【0024】
上記表1に示した原子座標に基づくと、Sr2Al3Si7ON13の結晶構造は、図1に示すとおりとなる。図1(a)はc軸方向への投影図であり、図1(b)はb軸方向への投影図であり、図1(c)はa軸方向への投影図である。図中、301はSr原子を表わし、その周囲は、Si原子またはAl原子302、およびO原子またはN原子303で囲まれている。Sr原子301は、その一部が発光中心であるEuによって置換されているが、Euの割合が少ないために図面には示されていない。
【0025】
Sr2Al3Si7ON13の結晶は、XRDや中性子回折により同定することができる。図2には、Sr2Al3Si7ON13の結晶のXRDパターンを示す。ここでのXRDパターンは、Cu−Kα線を用いたBragg−Brendano法によるX線回折により求めた。Sr2Al3Si7ON13の結晶は斜方晶系であり、この結晶は空間群Pna21に属する。結晶の空間群は、単結晶XRDにより決定することができる。
【0026】
図2に示されるように、Sr2Al3Si7ON13の結晶のXRDパターンにおいては、8.3〜8.8°,11.0〜11.4°,14.9〜15.4°,18.1〜18.6°,19.6〜20.1°,22.8〜23.3°,24.6〜25.1°,31.5〜32.0°の回折角度(2θ)にピークが確認される。
【0027】
上述したように本実施形態の黄色発光蛍光体は、Sr2Al3Si7ON13と実質的に同一の結晶構造を有する無機化合物を基本とする。結晶構造が同一の無機化合物としては、例えば、Sr2Al3Si7ON13におけるAlの一部が、Siで置き換えられたもの、Siの一部がAlで置き換えられたもの、Oの一部がNで置き換えられたもの、Nの一部がOで置き換えられたものが挙げられる。より具体的には、Sr2Al2Si814、およびSr2Al3.5Si6.51.512.5なども、Sr2Al3Si7ON13の結晶構造を有する。こうした結晶構造において、Euで付活され上記一般式(1)を満たす組成であれば、本実施形態の黄色発光蛍光体である。
【0028】
本実施形態にかかる黄色発光蛍光体は、各元素を含む原料粉体を混合し、焼成することによって製造することができる。
【0029】
Sr原料としては、例えば、SrOおよびSr(OH)2等のSrと酸素とを含有する化合物、あるいはSi窒化物を用いることができる。Al原料は、例えばAlの窒化物および酸化物から選択することができる。Si原料は、例えばSi粉末またはSiの窒化物を用いることができる。発光中心元素Euの原料としては、例えばEuの酸化物または窒化物を用いることができる。
【0030】
なお、窒素は、窒化物原料から与えることができ、酸素は、酸化物原料および窒化物原料の表面酸化皮膜から与えることができる。
【0031】
例えば、Sr原料、Al原料、Si原料、Al原料およびEu原料を、目的の組成になるような仕込み組成で混合する。均一な混合物を得るために、仕込み重量の少ない原料粉体から順に乾式混合することが望まれる。
【0032】
原料粉体は、例えばグローブボックス中で乳鉢を用いて混合することができる。混合物をるつぼ内に収容し、窒素雰囲気中で焼成することによって、本実施形態にかかる蛍光体が得られる。原料粉体の混合に当たっては、例えば遊星ボールミルなどを用いたボールミル法を採用することもできる。原料の酸化を防ぎ、安定に反応を進めために、焼成は窒素雰囲気中で行なわれる。
【0033】
また、焼成の際に用いられるるつぼは、非酸化物製であることが好ましい。好ましいるつぼの材質としては、具体的には、窒化ホウ素、カーボン、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルニミウム、サイアロン、モリブデン、およびタングステン等が挙げられる。非酸化物製のるつぼを用いることによって、AlNのような酸化されやすい原料の酸化を防ぐことができる。
【0034】
あるいは、次のような三段階の焼成によって本実施形態の蛍光体を製造することができる。
【0035】
第一の焼成においては、Sr原料とEu原料とSi原料とを混合し、焼成して中間性生物を得る。Sr原料としては、SrOおよびSr(OH)2を用いることができ、Eu原料としては、Euの酸化物を用いることができる。Si原料としては、Si粉末または窒化ケイ素を用いることができる。黄色発光を得るには、結晶の共有結合性を低下させため、発光波長を短波長化することが必要とされる。Srの一部をEuで置換したSr2Al3Si7ON13の結晶構造中に、より多くのO原子を含有させることによって、これを達成することができる。そのために、Srと酸素とを含有する化合物が、Sr原料として用いられる。
【0036】
Sr原料、Eu原料およびSi原料を、目的の組成となるような仕込み組成で混合する。例えば、モル比(Sr:Eu:Si)が(0.97〜0.99:0.01〜0.03:3.2〜3.8)となるように原料粉体を配合する。原料粉体は、例えば大気中で乳鉢を用いて乾式で混合することができる。Sr原料とEu原料とSi原料とを含有する混合物においては、Euのモル数MEuとSrのモル数MSrとが以下に示す関係を満たすことが求められる。
【0037】
0.01≦MEu/(MSr+MEu)≦0.16
Euの割合が多すぎる場合には、一般式(1)で表わされる組成を達成することができない。一方、Euの割合が少なすぎる場合には、所望の発光特性を得ることができない。前述の比(MEu/(MSr+MEu))は、0.01以上0.03以下であることが好ましい。
【0038】
混合物をるつぼ内に収容し、所定の条件で焼成することによって中間生成物が得られる。中間生成物は、(Sr,Eu)2Si58で表わされる組成を有することが好ましい。こうした組成を有する中間生成物は、目的とする組成の酸窒化物蛍光体を得られる点で有利である。
【0039】
上述したような理由から、焼成の際に用いられるるつぼの材質は、窒化ホウ素(BN)のような非酸化物とし、焼成は、還元雰囲気中で行なわれる。例えば、焼成反応炉内に1.0〜10.0L/分の水素および1.0〜10.0L/分の窒素を供給しつつ、1400〜1600℃で焼成する。焼成の際の圧力は、1.0〜10.0気圧程度とすることができる。こうした条件で2.0〜6.0時間程度焼成することによって、中間生成物が得られる。
【0040】
得られた中間生成物にSi原料およびAl原料を加えて、乾式混合する。Al原料は、酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムから選択することができる。また、Si原料としては、上述したものを用いることができる。例えば、モル比(Sr:Eu:Al:Si)が(0.97〜0.99:0.01〜0.03:1.4〜1.6:3.2〜3.8)となるように顔料粉体を配合する。混合物をるつぼ内に収容し、前述と同様の雰囲気中で焼成する。前述と同様の理由から、非酸化物製のるつぼが用いられる。1.0〜10.0気圧程度の圧力のもと、1500〜1700℃で4.0〜12.0時間程度焼成することによって、本実施形態にかかる黄色発光蛍光体の前駆体が得られる。
【0041】
得られた前駆体を非酸化物製のるつぼに収容し、5.0〜10.0気圧の窒素雰囲気中、1700〜1900℃で4.0〜10.0時間程度焼成する。こうして、本実施形態にかかる黄色発光蛍光体が得られる。
【0042】
すなわち、一実施形態にかかる黄色発光蛍光体は、
Srおよび酸素を含む化合物からなるSr原料と、Eu酸化物からなるEu原料と、ケイ素およびケイ素窒化物からなる群から選択されるSi原料とを混合して、Euのモル数MEuとSrのモル数MSrとが0.01≦MEu/(MSr+MEu)≦0.03を満たす混合物を得る工程と、
前記混合物を非酸化物の材質からなる容器に充填し、水素と窒素とを含む還元雰囲気中で焼成して、中間生成物を得る第一の焼成工程と、
前記中間生成物と、前記Si原料と、酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムから選択されるAl原料とを混合し、水素と窒素とを含む還元雰囲気中で焼成して前駆体を得る第二の焼成工程と、
前記前駆体を加圧窒素雰囲気中で焼成する第三の焼成工程と
を具備する方法によって製造することができる。
【0043】
一実施形態にかかる発光装置は、前述の蛍光体を含む蛍光発光層と、前述の蛍光体を励起する発光素子とを具備する。図3は、一実施形態にかかる発光装置の構成を表わす概略図である。
【0044】
図3に示す発光装置においては、基材100の上に、リード101、102およびパッケージカップ103が配置されている。基材100およびパッケージカップ103は樹脂性である。パッケージカップ103は、上部が底部より広い凹部105を有しており、この凹部の側面は反射面104として作用する。
【0045】
凹部105の略円形底面中央部には、発光素子106がAgペースト等によりマウントされている。用い得る発光素子106は、250〜520nmの波長範囲内に発光ピークを有する光を発するものである。例えば、発光ダイオード、およびレーザダイオード等が挙げられる。具体的には、GaN系等の半導体発光素子などが挙げられるが、特に限定されない。
【0046】
発光素子106のp電極およびn電極(図示せず)は、Auなどからなるボンディングワイヤー107および108によって、リード101およびリード102にそれぞれ接続されている。リード101および102の配置は、適宜変更することができる。
【0047】
発光素子106としては、n電極とp電極とを同一面上に有するフリップチップ型のものを用いることもできる。この場合には、ワイヤーの断線や剥離、ワイヤーによる光吸収等のワイヤーに起因した問題を解消して、信頼性の高い高輝度な半導体発光装置が得られる。また、n型基板を有する発光素子を用いて、次のような構成とすることもできる。発光素子のn型基板の裏面にn電極を形成し、基板上に積層されたp型半導体層の上面にはp電極を形成する。n電極はリード上にマウントし、p電極はワイヤーにより他方のリードに接続する。
【0048】
パッケージカップ103の凹部105内には、一実施形態にかかる蛍光体110を含有する蛍光発光層109が配置される。蛍光発光層109においては、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層111中に、5〜50質量%の量で蛍光体110が含有される。上述したように、本実施形態にかかる蛍光体はSr2Al3Si7ON13を母材としており、こうした酸窒化物は共有結合性が高い。このため、本実施形態にかかる蛍光体は疎水性であり、樹脂との相容性が極めて良好である。したがって、樹脂層と蛍光体との界面での散乱が著しく抑制されて、光取出し効率が向上する
本実施形態にかかる黄色発光蛍光体は、温度特性が良好であるとともに、色度に優れ、発光スペクトル半値幅の広い黄色光を高い効率で発光できる。250〜520nmの波長範囲内に発光ピークを有する発光素子と組み合わせることによって、発光特性の優れた白色発光装置が得られる。
【0049】
発光素子106のサイズや種類、凹部105の寸法および形状は、適宜変更することができる。
【0050】
一実施形態にかかる発光装置は、図3に示したようなパッケージカップ型に限定されず、適宜変更することができる。具体的には、砲弾型LEDや表面実装型LEDの場合も、実施形態の蛍光体を適用して同様の効果を得ることができる。
【0051】
図4には、他の実施形態にかかる発光装置の構成を表わす概略図を示す。図示する発光装置においては、放熱性の絶縁基板401の所定の領域にはn電極(図示せず)が形成され、この上に発光素子402が配置されている。放熱性の絶縁基板の材質は、例えばAlNとすることができる。
【0052】
発光素子402における一方の電極は、その底面に設けられており、放熱性の絶縁基板401の電極に電気的に接続される。発光素子402における他方の電極は、金ワイヤー403により放熱性の絶縁基板401上のp電極(図示せず)に接続される。発光素子402としては、例えば波長250〜500nmの光を発する発光ダイオードを用いる。
【0053】
発光素子402上には、ドーム状の内側透明樹脂層404、黄色蛍光発光層405、および外側透明樹脂層406が順次形成される。内側透明樹脂層404および外側透明樹脂層406は、例えばシリコーン等を用いて形成することができる。黄色蛍光発光層405においては、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層408中に、本実施形態の黄色発光蛍光体407が含有される。
【0054】
図4に示した発光装置においては、本実施形態にかかる黄色発光蛍光体を含む蛍光発光層405は、ディスペンサ塗布あるいは真空印刷といった手法を採用して、簡便に作製することができる。しかも、かかる黄色蛍光発光層405は、内側透明樹脂層404と外側透明樹脂層406とによって挟まれているので、蛍光体発光がLEDチップに再吸収されるのを抑制することができる。また、蛍光体の発光およびLEDの青色光の光取り出し効率が向上して、発光効率が向上するという効果が得られる。
【0055】
上述したように、本実施形態の蛍光体は、温度特性が良好であるとともに、色度に優れ、発光スペクトル半値幅の広い黄色光を高い効率で発光できる。こうした本実施形態の黄色発光蛍光体を、250〜520nmの波長範囲内に発光ピークを有する発光素子と組み合わせることによって、少ない種類の蛍光体を用いて、発光特性の優れた白色発光装置を得ることができる。
【0056】
以下、蛍光体および発光装置の具体例を示す。
【0057】
<実施例1>
まず、Sr原料、Eu原料およびSi原料として、Sr(OH)2、Eu23およびSi粉末を用意し、それぞれ秤量した。Sr(OH)2、Eu23およびSi粉末の配合質量は、それぞれ14.31g、0.422g、および6.74gとした。秤量された原料粉体は、大気中で乾式混合した。混合物における元素の配合比(モル比)Sr:Eu:Siは、0.98:0.02:2.0である。
【0058】
得られた混合物を窒化ホウ素(BN)るつぼに充填し、水素流量5L/分、窒素流量5L/分、常圧の還元雰囲気中、1400℃で8時間焼成した(第一焼成)。この第一焼成によって中間生成物が得られた。X線回折測定の結果、中間生成物の組成は、(Sr,Eu)2Si58であることが確認された。この中間生成物を、波長365nmの紫外線により励起したところ、波長約560nmにピークを有する橙色の発光が示された。
【0059】
得られた中間生成物、Si34、およびAlNをそれぞれ秤量した。中間生成物、Si34、およびAlNの配合質量は、それぞれ11.8g、4.49g、および3.69gとした。秤量された粉体は、大気中で乾式混合した。この混合物における元素の配合比(モル比)Sr:Eu:Al:Siは0.98:0.02:1.5:3.6となるように調製した。
【0060】
得られた混合物を窒化ホウ素(BN)るつぼに充填し、水素流量5L/分、窒素流量5L/分、常圧の還元雰囲気中、1800℃で8時間焼成した(第二焼成)。この第二焼成によって、蛍光体の前駆体が得られた。
【0061】
前駆体を窒化ホウ素(BN)るつぼに充填し、7.5気圧の加圧窒素雰囲気中、1850℃で8時間焼成した(第三焼成)。この第三焼成によって、本実施例の蛍光体(Y1)が得られた。
【0062】
この蛍光体(Y1)のXRDパターンを、図5に示す。ここでのXRDパターンは、Cu−Kα線を用いたBragg−Brendano法によるX線回折により求めた。図5に示されるように、8.3〜8.8°,11.0〜11.4°,14.9〜15.4°,18.1〜18.6°,19.6〜20.1°,22.8〜23.3°,24.6〜25.1°,31.5〜32.0°の回折角度(2θ)にピークが現れている。この結果から、本実施例の蛍光体(Y1)は、Sr2Al3Si7ON13と同一の結晶構造を有することが確認された。
【0063】
この蛍光体(Y1)を450nmの単色光で励起した際の発光スペクトルを、図6に示す。励起には、キセノンランプの発光を分光器で450nmに単色化した発光を用いた。図示するように、580nmをピーク波長として高い発光効率が確認された。ここで得られた実施例1の蛍光体(Y1)の相対発光効率を100とする。
【0064】
図7には、この蛍光体(Y1)の励起スペクトルを示す。ここでの励起スペクトルは、蛍光体(Y1)を励起した際に、波長580nmの発光が得られる励起光の波長を示している。図7に示されるように、本実施例の蛍光体(Y1)は、300〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、波長580nmの黄色発光を得ることができる。本実施形態の蛍光体(Y1)は、390〜410nmという近紫外領域の光でも励起されて、黄色発光が得られている。こうした点は、近紫外光励起の高演色型白色LEDを作製できる点で有利である。
【0065】
本実施例の蛍光体(Y1)を用いて、図4に示した構成の発光装置を作製した。
【0066】
放熱性の絶縁基板401として、所定の領域にp電極およびn電極(図示せず)が形成された8mm角のAlN基板を用意した。この上に発光素子402として、発光ピーク波長が455nmの発光ダイオードを半田により接合した。発光素子402における一方の電極は、その底面に設けられており、AlN基板401のn電極に電気的に接続した。発光素子402における他方の電極は、金ワイヤー403によりAlN基板401上のp電極(図示せず)に接続した。
【0067】
発光素子402上には、内側透明樹脂層404、黄色蛍光発光層405、および外側透明樹脂層406を順次ドーム状に形成して、本実施例の発光装置を作製した。内側透明樹脂層404の材質は透明シリコーン樹脂とし、ディスペンサ塗布後、乾燥硬化により形成した。黄色蛍光発光層405の形成には、本実施例の蛍光体(Y1)を30質量%含有する透明樹脂を用いた。用いた透明樹脂は、シリコーンである。さらに、黄色蛍光発光層405の上の外側透明樹脂層406の形成には、内側透明樹脂層404の場合と同様のディスペンサ塗布後、乾燥硬化を用いた。
【0068】
この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.1Vで駆動させたところ、色度(0.35,0.31)、色温度5000K、光束効率80lm/W、Ra=82であった。色度、色温度、光束効率、また、Raは積分球型全光束測定装置から得られた。
【0069】
図8には、得られた発光装置の発光スペクトルを示す。本実施例の蛍光体(Y1)を、波長455nmの青色LEDと組み合わせることによって、本実施形態の白色発光装置が得られた。かかる白色発光装置は、青色LEDと黄色蛍光体のみでRaが80以上の発光装置を実現できる点で有利である。
【0070】
<実施例2>
まず、Sr原料、Eu原料およびSi原料として、Sr(OH)2、Eu23、およびSi粉末を用意し、それぞれ秤量した。Sr(OH)2、Eu23、およびSi粉末の配合質量は、それぞれ36.13g、0.528g、および16.85gとした。秤量された原料は、前述と同様に乾式で混合した。この原料に含まれる元素の配合比(モル比)Sr:Eu:Siは0.99:0.01:2.0である。
【0071】
得られた混合物を窒化ホウ素(BN)るつぼに充填し、水素流量5L/分、窒素流量5L/分、常圧の還元雰囲気中、1400℃で8時間焼成した(第一工程)。この第一焼成によって中間生成物が得られた。中間生成物を、波長365nmの紫外線により励起したところ、波長約560nmにピークを有する橙色の発光が確認された。
【0072】
得られた中間生成物、Si34、およびAlNをそれぞれ秤量した。中間生成物、Si34、およびAlNの配合質量は、それぞれ11.8g、4.49g、および3.69gとした。秤量された粉体は、前述と同様に乾式混合した。この混合物中における元素の比(モル比)Sr:Eu:Al:Siは、0.99:0.01:1.5:3.6となるように調製した。
【0073】
得られた混合物を窒化ホウ素(BN)るつぼに充填し、水素流量5L/分、窒素流量5L/分、常圧の還元雰囲気中、1600℃で8時間焼成した(第二焼成)。この第二焼成によって、蛍光体の前駆体が得られた。
【0074】
前駆体を窒化ホウ素(BN)るつぼに充填し、7.5気圧の加圧窒素雰囲気中、1850℃で8時間焼成した(第三焼成)。この第三焼成によって、本実施例の蛍光体(Y2)が得られた。
【0075】
図9には、この蛍光体(Y2)のXRDパターンを示す。XRDパターンは、前述と同様の手法により得た。図9に示されるように、8.3〜8.8°,11.0〜11.4°,14.9〜15.4°,18.1〜18.6°,19.6〜20.1°,22.8〜23.3°,24.6〜25.1°,31.5〜32.0°の回折角度(2θ)にピークが現れている。この結果から、本実施例の蛍光体(Y2)は、Sr2Al3Si7ON13と同一の結晶構造を有することが確認された。
【0076】
この蛍光体(Y2)を450nmの単色光で励起した際の発光スペクトルを、図10に示す。励起に用いた発光素子は、前述と同様である。図示するように、571nmをピーク波長として高い発光効率が確認された。本実施例の蛍光体(Y2)の相対発光効率は72である。
【0077】
図11には、この蛍光体(Y2)の励起スペクトルを示す。ここでの励起スペクトルは、蛍光体(Y2)を励起した際に、波長571nmの発光が得られる励起光の波長を示している。図11に示されるように、本実施例の蛍光体(Y2)は、300〜480nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、波長571nmの黄色発光を得ることができる。前述の蛍光体と同様に本実施例の蛍光体(Y2)は、390〜410nmという近紫外領域の光でも励起されて黄色発光が得られることから、近紫外光励起の高演色型白色LEDを作製できる点で有利である。
【0078】
本実施例の蛍光体(Y2)を用いる以外は前述と同様にして、白色発光装置を作製した。得られた白色発光装置は、前述と同様に高発光効率でRaも良好であることが確認された。
【0079】
<実施例3>
まず、Sr原料、Eu原料およびSi原料として、Sr(OH)2、Eu23、およびSi粉末を用意し、それぞれ秤量した。Sr(OH)2、Eu23、およびSi粉末の配合質量は、それぞれ36.13g、0.528g、および16.85gとした。秤量された原料は、前述と同様に乾式で混合した。この原料に含まれる元素の配合比(モル比)Sr:Eu:Siは0.99:0.01:2.0である。
【0080】
得られた混合物を窒化ホウ素(BN)るつぼに充填し、水素流量5L/分、窒素流量5L/分、常圧の還元雰囲気中、1400℃で8時間焼成した(第一焼成)。この第一焼成によって中間生成物が得られた。中間生成物を、波長365nmの紫外線により励起したところ、波長約560nmにピークを有する橙色の発光が確認された。
【0081】
得られた中間生成物、Si34、およびAlNをそれぞれ秤量した。中間生成物、Si34、およびAlNの配合質量は、それぞれ11.8g、4.49g、および3.69gとした。秤量された粉体は、前述と同様に乾式混合した。この混合物中における元素の比(モル比)Sr:Eu:Al:Siは0.99:0.01:1.5:3.6となるように調製した。
【0082】
得られた混合物を窒化ホウ素(BN)るつぼに充填し、水素流量5L/分、窒素流量5L/分、常圧の還元雰囲気中、1600℃で8時間焼成した(第二焼成)。この第二焼成によって、蛍光体の前駆体が得られた。
【0083】
前駆体を窒化ホウ素(BN)るつぼに充填し、7.5気圧の加圧窒素雰囲気中、1800℃で8時間焼成した(第三焼成)。この第三焼成によって、本実施例の蛍光体(Y3)が得られた。
【0084】
図12には、この蛍光体(Y3)のXRDパターンを示す。XRDパターンは、前述と同様の手法により得た。図12に示されるように、8.3〜8.8°,11.0〜11.4°,14.9〜15.4°,18.1〜18.6°,19.6〜20.1°,22.8〜23.3°,24.6〜25.1°,31.5〜32.0°の回折角度(2θ)にピークが現れている。この結果から、本実施例の蛍光体(Y3)は、Sr2Al3Si7ON13と同一の結晶構造を有することが確認された。
【0085】
この蛍光体(Y3)を450nmの単色光で励起した際の発光スペクトルを、図13に示す。励起に用いた発光素子は、前述と同様である。図示するように、574nmをピーク波長として高い発光効率が確認された。本実施例の蛍光体(Y3)の相対発光効率は83である。
【0086】
図14には、この蛍光体(Y3)の励起スペクトルを示す。ここでの励起スペクトルは、蛍光体(Y3)を励起した際に、波長574nmの発光が得られる励起光の波長を示している。図14に示されるように、本実施例の蛍光体(Y3)は、350〜480nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、波長574nmの黄色発光を得ることができる。前述の蛍光体と同様に本実施例の蛍光体(Y3)は、390〜410nmという近紫外領域の光でも励起されて黄色発光が得られることから、近紫外光励起の高演色型白色LEDを作製できるという点で有利である。
【0087】
本実施例の蛍光体(Y3)を用いる以外は前述と同様にして、白色発光装置を作製した。得られた白色発光装置は、前述と同様に高発光効率でRaも良好であることが確認された。
【0088】
<実施例4>
まず、Sr原料、Eu原料、Si原料、Al原料として、Sr32、EuN、Si34、Al23およびAlNを用意し、バキュームグローブボックス中それぞれ秤量した。Sr32、EuN、Si34、Al23およびAlNの配合質量は、それぞれ2.851g、0.100g、4.911g、1.025g、および1.025gとした。秤量された原料は、めのう乳鉢内で乾式混合した。
【0089】
得られた混合物を窒化ホウ素(BN)るつぼに充填し、7.5気圧のN2雰囲気中、1850℃で4時間焼成して、本実施例の蛍光体(Y4)を得た。得られた蛍光体の設計組成は、(Sr0.98Eu0.022A113Si7211である。
【0090】
図15には、この蛍光体(Y4)のXRDパターンを示す。XRDパターンは、前述と同様の手法により得た。図15に示されるように、8.3〜8.8°,11.0〜11.4°,14.9〜15.4°,18.1〜18.6°,19.6〜20.1°,22.8〜23.3°,24.6〜25.1°,31.5〜32.0°の回折角度(2θ)にピークが現れている。この結果から、本実施例の蛍光体(Y4)は、Sr2Al3Si7ON13と同一の結晶構造を有することが確認された。
【0091】
本実施例の蛍光体(Y4)をブラックライトで励起したところ、橙色発光が観察された。この蛍光体(Y4)を450nmの単色光で励起した際の発光スペクトルを、図16に示す。励起に用いた発光素子は前述と同様である。図示するように、588nmをピーク波長として高い発光効率が確認された。本実施例の蛍光体(Y4)の相対発光効率は98である。
【0092】
図17には、この蛍光体(Y4)の励起スペクトルを示す。ここでの励起スペクトルは、蛍光体(Y4)を励起した際に、波長588nmの発光が得られる励起光の波長を示している。図17に示されるように、本実施例の蛍光体(Y4)は、300〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、波長588nmの黄色発光を得ることができる。前述の蛍光体と同様に本実施例の蛍光体(Y4)は、390〜410nmという近紫外領域の光でも励起されて黄色発光が得られることから、近紫外光励起の高演色型白色LEDを作製できるという点で有利である。
【0093】
本実施例の蛍光体(Y4)を用いる以外は前述と同様にして、白色発光装置を作製した。得られた白色発光装置は、前述と同様に高発光効率でRaも良好であることが確認された。
【0094】
<実施例5〜13>
原料の配合質量を適宜変更した以外は実施例1と同様の方法により、実施例5〜13の蛍光体(Y5〜Y13)を合成した。
【0095】
前述と同様にして、蛍光体(Y5〜Y13)のXRDパターンを求めたところ、いずれも8.3〜8.8°,11.0〜11.4°,14.9〜15.4°,18.1〜18.6°,19.6〜20.1°,22.8〜23.3°,24.6〜25.1°,31.5〜32.0°の回折角度(2θ)にピークが現れた。この結果から、実施例5〜13の蛍光体(Y5〜Y13)は、Sr2Al3Si7ON13と同一の結晶構造を有することが確認された。
【0096】
また、前述と同様の発光素子を用いて波長450nmの光を放射して、実施例5〜13の蛍光体(Y5〜Y13)を励起したところ、いずれの蛍光体からも、570〜590nmの波長範囲内にピークを有する発光が確認された。蛍光体(Y5〜Y13)の相対発光効率は、67〜97であった。
【0097】
蛍光体(Y5〜Y13)の励起スペクトルを求めたところ、いずれも300〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、波長570〜590nmの黄色発光を得ることができた。前述の蛍光体と同様に蛍光体(Y5〜Y13)は、390〜410nmという近紫外領域の光でも励起されて黄色発光が得られることから、近紫外光励起の高演色型白色LEDを作製できるという点で有利である。
【0098】
蛍光体(Y5〜Y13)を用いる以外は前述と同様にして、白色発光装置を作製した。得られた白色発光装置は、いずれも前述と同様に高発光効率でRaも良好であることが確認された。
【0099】
実施例1〜13の蛍光体(Y1〜Y13)について、誘導結合プラズマ(ICP)による化学分析を行なった結果を下記表2にまとめる。表2に示した数値は、分析された各元素の濃度をAl濃度で規格化したモル比である。
【表2】

【0100】
上記表2中のx,a,b,c,およびdは、一般式(1)中のx,a,b,c,およびdに対応している。上記表2に示されるように、実施例1〜13の蛍光体(Y1〜Y13)のいずれにおいても、x,a,b,c,およびdは、以下に示す範囲内である。
【0101】
0<x≦0.16、 0.50≦a≦0.70、 2.0≦b≦2.5
0.45≦c≦1.2、 3.5≦d≦4.5、 3.6≦d/c≦8.0
<比較例1>
αサイアロンを、比較例1として用意した。原料として、Si34、AlN、CaCO3、Eu23を用い、それぞれ、23.8g、14.3g、8.9g、3.2gを大気中で乳鉢を用いて混合し、窒化ホウ素製のるつぼに充填し、窒素雰囲気中で、7.5気圧に加圧して1700℃にて24時間焼成し、得られた焼結体を、乳鉢を用いて粉砕して作製した。ここでのαサイアロンは、Mx(Si12-(m+n)Alm+n)(On16-n))(ただし、MはCaであり、mは3.25であり、nは1.625である)で表わされる。
【0102】
<比較例2〜8>
原料の配合質量を適宜変更した以外は実施例1と同様の方法により、比較例2〜8の蛍光体(C2〜C8)を合成した。
【0103】
前述と同様にして、比較例の蛍光体(C1〜C8)のXRDパターンを求めた。その結果、8.3〜8.8°,11.0〜11.4°,14.9〜15.4°,18.1〜18.6°,19.6〜20.1°,22.8〜23.3°,24.6〜25.1°,31.5〜32.0°の回折角度(2θ)には、必ずしもピークが現れなかった。
【0104】
また、前述と同様の発光素子を用いて波長450nmの光を放射して、蛍光体(C1〜C8)を励起したところ、いずれの蛍光体からも、550〜590nmの波長範囲内にピークを有する発光は確認されなかった。
【0105】
比較例1〜8の蛍光体(C1〜C8)について、誘導結合プラズマ(ICP)による化学分析を行なった結果を下記表3にまとめる。表3に示した数値は、分析された各元素の濃度をAl濃度で規格化したモル比である。
【表3】

【0106】
上記表3中のx,a,b,c,およびdは、一般式(1)中のx,a,b,c,およびdに対応している。上記表3に示されるように、比較例1〜8の蛍光体(C1〜C8)においては、x,a,b,c,およびdは、以下に示す範囲から外れている。なお、上記表3における比較例1の蛍光体(C1)についてのSrの分析値の欄には、Caの分析値を記載している。
【0107】
0<x≦0.16、 0.50≦a≦0.70、 2.0≦b≦2.5
0.45≦c≦1.2、 3.5≦d≦4.5、 3.6≦d/c≦8.0
実施例1〜13の蛍光体(Y1〜Y13)、および比較例1〜8の蛍光体(C1〜C8)についてのピーク波長、発光特性および温度特性を、下記表4および5にまとめる。
【表4】

【0108】
【表5】

【0109】
ピーク波長は、波長450nmの光で励起した際の発光スペクトルから読み取り、半値幅は、この発光スペクトルから読み取った。発光効率は、量子効率測定装置により求めた。実施例1の蛍光体の発光効率を基準として算出した相対値も、併せて記載してある。
【0110】
色度は上述と同様にして求め、温度特性は、次のようにして求めた。ヒータ内蔵型ステージに蛍光体を載置して加熱し、150℃におけるピーク強度(I150)を得た。室温のピーク強度(IRT)を用いて(I150/IRT)×100から算出した。
【0111】
上記表4に示されるように、実施例1〜13の蛍光体(Y1〜Y13)は、いずれも570〜590nmの波長範囲内にピークを有する光を発し、半値幅は110nm以上である。半値幅は演色性の指標となり、110nm以上であることが求められる。実施例の蛍光体は、いずれも110nm以上の半値幅を有していることから、白色LED化した際の演色性に優れていることが示される。実施例1〜13の蛍光体は、発光効率および色度も良好であり、温度特性も0.80以上と優れている。温度特性が0.80以上であれば、高温においても所望の特性を維持することができる。
【0112】
これに対し、比較例1〜6の蛍光体(C1〜C8)は、所望の特性を全て満たすことができない。αサイアロンの場合(比較例1)には、半値幅が90nmにとどまっており、演色性が劣っている。
【0113】
一般式(1)におけるxの値が0.16を超えてEuが過剰に含有された場合(比較例2,3)には、発せられる光のピーク波長は610nmを越えている。このように、一般式(1)におけるxの値が大きすぎる場合には、550〜590nmの波長範囲内にピークを有する光を発することができない。
【0114】
一般式(1)におけるaの値が0.5未満の場合(比較例4)には、Sr+Euが少なすぎる組成となる。この場合には、別の結晶相が生じたことが、蛍光顕微鏡観察により確認された。しかも、比較例4の蛍光体は、発光強度が弱く、発光特性を測定することができなかった。一方、aの値が0.7を越えた場合(比較例5)には、Sr+Euが多すぎる組成となり、550〜590nmの波長範囲内にピークを有する光を発することができない。
【0115】
一般式(1)におけるb,cの値が小さすぎてSiやOが少ない場合(比較例6)には、別の結晶相が生じたことが、蛍光顕微鏡観察により確認された。しかも、比較例6の蛍光体は、発光強度が弱く、発光特性を測定することができなかった。一般式(1)におけるaの値が小さすぎ、b,c,dの値が大きすぎる比較例8の場合も同様であった。別の結晶相が生じたことが、蛍光顕微鏡観察により確認され、しかも、発光強度が弱く、発光特性を測定することができなかった。
【0116】
また、N/O比が8.0より大きい場合(比較例7)には、550〜590nmの波長範囲内にピークを有する光を発することができない。N/O比が大きくなると、酸素より窒素の方が、共有結合性が高くため、母体の窒素比が高くなるほど、Nephelauxetic効果と結晶場分裂による4f軌道のエネルギー準位の低下が大きくなり、4f−5dのエネルギー準位差が小さくなり、その結果、発光波長が長くなることがその原因の一つである。
【0117】
本発明の実施形態によれば、温度特性が良好であるとともに、色度に優れ、発光スペクトル半値幅の広い黄色光を高い効率で発光できる蛍光体が提供される。本実施形態の黄色発光蛍光体を青色LEDと組み合わせた際には、発光特性の良好な白色発光装置を得ることができる。
【0118】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0119】
100…基材; 101…リード; 102…リード; 103…パッケージカップ
104…反射面; 105…凹部; 106…発光チップ
107…ボンディングワイヤー; 108…ボンディングワイヤー
109…蛍光発光層; 110…蛍光体; 111…樹脂層; 301…Sr原子
302…Si原子またはAl原子: 303…O原子またはN原子
401…絶縁基板; 402…発光素子; 403…ボンディングワイヤー
404…内側透明樹脂層; 405…黄色蛍光発光層; 406…外側透明樹脂層
407…蛍光体; 408…樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
250〜520nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、550〜590nmの波長範囲内に発光ピークを示し、下記一般式(1)で表わされることを特徴とする蛍光体。
(Sr1-xEuxaSibAlOcd (1)
(ここで、x,a,b,cおよびdは、それぞれ以下を満たす。
0<x≦0.16、 0.50≦a≦0.70、 2.0≦b≦2.5
0.45≦c≦1.2、 3.5≦d≦4.5、 3.6≦d/c≦8.0)
【請求項2】
前記蛍光体の結晶構造が斜方晶系であり、Cu−Kα線を用いたBragg−Brendano法によるX線回折において、8.3〜8.8°,11.0〜11.4°,14.9〜15.4°,18.1〜18.6°,19.6〜20.1°,22.8〜23.3°,24.6〜25.1°,31.5〜32.0°の回折角度(2θ)にピークを有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
250〜520nmの波長範囲内に発光ピークを有する光を発する発光素子と、
前記発光素子からの光を受けて黄色発光する蛍光体を含有する蛍光発光層とを具備し、前記黄色発光蛍光体は、請求項1または2に記載の蛍光体を含むことを特徴とする発光装置。
【請求項4】
請求項1に記載の蛍光体の製造方法であって、
Srおよび酸素を含む化合物からなるSr原料と、Eu酸化物からなるEu原料と、ケイ素およびケイ素窒化物からなる群から選択されるSi原料とを混合して、Euのモル数MEuとSrのモル数MSrとが0.01≦MEu/(MSr+MEu)≦0.03を満たす混合物を得る工程と、
前記混合物を非酸化物の材質からなる容器に充填し、水素と窒素とを含む還元雰囲気中で焼成して、中間生成物を得る第一の焼成工程と、
前記中間生成物と、前記Si原料と、酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムから選択されるAl原料とを混合し、水素と窒素とを含む還元雰囲気中で焼成して前駆体を得る第二の焼成工程と、
前記前駆体を加圧窒素雰囲気中で焼成する第三の焼成工程と
を具備することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記Sr原料は、酸化ストロンチウムおよび水酸化ストロンチウムからなる群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記中間生成物は、(Sr,Eu)2Si58で表わされる組成を有することを特徴とする請求項4または5に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−104040(P2013−104040A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250597(P2011−250597)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】