説明

蛍光体、発光装置、および蛍光体の製造方法

【課題】温度特性が良好であるとともに、発光スペクトル半値幅の広い黄色光を発光できる量子効率の高い蛍光体を提供することである。
【解決手段】実施形態の蛍光体は、250〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、500〜600nmの波長範囲内に発光ピークを示す。下記一般式(1)で表わされることを特徴とする。
(M1-xCex2yAlzSi10-zu (1)
(ここで、MはSrであり、Srの一部はBa,Ca,およびMgから選ばれる少なくとも一種で置換されていてもよい。x,y,z,uおよびwは、それぞれ以下を満たす。
0<x≦1、 0.8≦y≦1.1、 2≦z≦3.5、 u≦1
1.8≦z−u、 13≦u+w≦15)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蛍光体、発光装置、および蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白色発光装置は、例えば青色光での励起により赤色発光する蛍光体、青色光での励起により緑色発光する蛍光体、および青色LEDを組み合わせて構成される。青色光での励起によって黄色光を発光する蛍光体を用いれば、より少ない種類の蛍光体を用いて白色発光装置を構成することができる。こうした黄色発光蛍光体としては、例えばEu付活オルソシリケート蛍光体が知られている。
【0003】
温度特性、量子効率、および発光スペクトル半値幅といった黄色発光蛍光体に対する要求は、高まりつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2006/093298号
【特許文献2】特開2006−307090号公報
【特許文献3】国際公開2007/037059号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】G.Blasse,W.L.Wanmaher,J.W.terVrugt,and A.Bril,Philips Res.Repts,23,189−200,(1968)
【非特許文献2】S.H.M.Poort,W.Janssen,G.Blasse,J.Alloys and Compounds,260,93−97,(1997)
【非特許文献3】International Tables for Crystallography,Volume A:Space−group symmetry,T.Hahn編,Springer(オランダ国)発行(発行日1983年初版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、温度特性が良好であるとともに、発光スペクトル半値幅の広い黄色光を発光できる量子効率の高い蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の蛍光体は、250〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、500〜600nmの波長範囲内に発光ピークを示す。かかる蛍光体は、下記一般式(1)で表わされることを特徴とする。
【0008】
(M1-xCex2yAlzSi10-zu (1)
(ここで、MはSrであり、Srの一部はBa,Ca,およびMgから選ばれる少なくとも一種で置換されていてもよい。x,y,z,uおよびwは、それぞれ以下を満たす。
【0009】
0<x≦1、 0.8≦y≦1.1、 2≦z≦3.5、 u≦1
1.8≦z−u、 13≦u+w≦15)
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】Sr2Al3Si7ON13の結晶構造を示す図。
【図2】一実施形態にかかる発光装置の構成を表わす概略図。
【図3】他の実施形態にかかる発光装置の構成を表わす概略図。
【図4】実施例1の蛍光体のXRDパターン。
【図5】実施例1の蛍光体の発光スペクトルを示す図。
【図6】実施例1の蛍光体の温度特性を示す図。
【図7】実施例2の蛍光体のXRDパターン。
【図8】実施例3の蛍光体のXRDパターン。
【図9】実施例4の蛍光体のXRDパターン。
【図10】実施例5の蛍光体のXRDパターン。
【図11】実施例6の蛍光体のXRDパターン。
【図12】実施例7の蛍光体のXRDパターン。
【図13】実施例8の蛍光体のXRDパターン。
【図14】実施例9の蛍光体のXRDパターン。
【図15】実施例10の蛍光体のXRDパターン。
【図16】実施例11の蛍光体のXRDパターン。
【図17】実施例12の蛍光体のXRDパターン。
【図18】実施例13の蛍光体のXRDパターン。
【図19】実施例14の蛍光体のXRDパターン。
【図20】実施例15の蛍光体のXRDパターン。
【図21】実施例16の蛍光体のXRDパターン。
【図22】実施例17の蛍光体のXRDパターン。
【図23】実施例13の蛍光体の温度特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を具体的に説明する。
【0012】
一実施形態にかかる蛍光体は、250〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、500〜600nmの波長範囲内に発光ピークを示すので、黄緑色から橙色にわたる領域の光を発光できる蛍光体である。主として黄色の領域の光を発することから、以下においては本実施形態の蛍光体を黄色発光蛍光体と称する。かかる蛍光体は、Sr2Si7Al3ON13の結晶構造と実質的に同じ結晶構造を有する母体を含み、この母体はCeで付活されている。本実施形態にかかる黄色発光蛍光体の組成は、下記一般式(1)で表わされる。
【0013】
(M1-xCex2yAlzSi10-zu (1)
(ここで、MはSrであり、Srの一部はBa,Ca,およびMgから選ばれる少なくとも一種で置換されていてもよい。x,y,z,uおよびwは、それぞれ以下を満たす。
【0014】
0<x≦1、 0.8≦y≦1.1、 2≦z≦3.5、 u≦1
1.8≦z−u、 13≦u+w≦15)
上記一般式(1)に示されるように、発光中心元素CeはMの少なくとも一部を置換する。MはSrであり、Srの一部は、Ba、CaおよびMgから選ばれる少なくとも一種で置換されていてもよい。M全体の15at.%以下、より望ましくは10at.%以下であれば、Ba,CaおよびMgから選ばれる少なくとも一種が含有されていても、異相の生成が促進されることはない。
【0015】
Mの少なくとも0.1モル%がCeで置換されていれば、十分な発光効率を得ることができる。Ceは、Mの全量を置き換えてもよい(x=1)が、xが0.5未満の場合には、発光確率の低下(濃度消光)を極力抑制することができる。したがって、xは0.001以上0.5以下が好ましい。発光中心元素Ceが含有されることによって、本実施形態の蛍光体は、250〜500nmの波長範囲内にピークを有する光で励起した際、黄緑色から橙色にわたる領域の発光、すなわち500〜600nmの波長範囲内にピークを有する発光を示す。なお、Ceの15at.%以下、より望ましくは10at.%以下であれば、不可避不純物的な他の元素が含有されていても所望の特性が損なわれることはない。例えば、Tb、Eu、およびMnなどである。
【0016】
yが0.8未満の場合には、結晶欠陥が多くなって効率の低下を招く。一方、yが1.1を越えると、過剰なアルカリ土類金属が異相として析出するため、発光特性の低下を招く。yは、0.85以上1.06以下が好ましい。
【0017】
zが2未満の場合には、過剰なSiが異相として析出するため、発光特性の低下を招く。一方、zが3.5を越えると、過剰なAlが異相として析出するため、発光特性の低下を招く。zは2.5以上3.3以下が好ましい。
【0018】
uが1を越えると、結晶欠陥増加に伴い効率が低下する。uは0.001以上0.8以下が好ましい。
【0019】
(z−u)が1.8未満の場合には、本実施形態の結晶構造が維持できなくなる。場合によっては、異相が生成して、本実施形態の効果が発揮されない。(u+w)が13未満または15を超える場合にも同様に、本実施形態の結晶構造が維持できなくなる。場合によっては、異相が生成して、本実施形態の効果が発揮されない。(z−u)は2以上が好ましく、(u+w)は13.2以上14.2以下が好ましい。
【0020】
上述した条件を全て備えているので、本実施形態にかかる蛍光体は、250〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、発光スペクトル半値幅の広い黄色光を高い効率で発光することができ、演色性の優れた白色光が得られる。しかも、本実施形態にかかる黄色発光蛍光体は、温度特性も良好である。
【0021】
本実施形態の黄色発光蛍光体は、Sr2Al3Si7ON13属結晶をベースとして、その構成元素であるSr、Si、Al、O、またはNが他の元素で置き換わったり、Ceなどのほかの金属元素が固溶したものであるということもできる。このような置き換え等によって、結晶構造が若干変化することがあるものの、骨格原子間の化学結合が切れるほどに原子位置が大きく変わることは少ない。原子位置は、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる。
【0022】
本実施形態の黄色発光蛍光体の基本的な結晶構造が変化しない範囲において、本実施形態の効果を奏することができる。本実施形態にかかる蛍光体は、格子定数およびM−NおよびM−Oの化学結合の長さ(近接原子間距離)が、Sr2Al3Si7ON13の場合とは異なることがある。その変化量が、Sr2Al3Si7ON13の格子定数、およびSr2Al3Si7ON13における化学結合の長さ(Sr−NおよびSr−O)の±15%以内であれば、結晶構造が変化していないと定義する。格子定数は、X線回折や中性子線回折により求めることができ、M−NおよびM−Oの化学結合の長さ(近接原子間距離)は、原子座標から計算することができる。
【0023】
Sr2Al3Si7ON13結晶は斜方晶系であり、格子定数は、a=11.8Å、b=21.6Å、c=5.01Åである。また、空間群Pna21に属する(非特許文献3に示された空間群のうちの33番目)。Sr2Al3Si7ON13における化学結合の長さ(Sr−NおよびSr−O)は、下記表1に示した原子座標から計算することができる。
【表1】

【0024】
本実施形態の黄色発光蛍光体は、このような結晶構造を有することを必須とする。この範囲を超えて化学結合の長さが変化すると、その化学結合が切れて別の結晶となり、本発明による効果を得ることができなくなる。
【0025】
本実施形態の黄色発光蛍光体は、Sr2Al3Si7ON13と実質的に同一の結晶構造を有する無機化合物を基本とし、その構成元素Mの一部が発光中心イオンCeに置換されたものであり、各元素の組成が所定の範囲内に規定されている。このときに高効率かつ発光スペクトルの半値幅が広く、温度特性に優れるという好ましい特性を示す。
【0026】
上記表1に示した原子座標に基づくと、Sr2Al3Si7ON13の結晶構造は、図1に示すとおりとなる。図1(a)はc軸方向への投影図であり、図1(b)はb軸方向への投影図であり、図1(c)はa軸方向への投影図である。図中、301はSr原子を表わし、その周囲は、Si原子またはAl原子302、およびO原子またはN原子303で囲まれている。Sr2Al3Si7ON13の結晶は、XRDや中性子回折により同定することができる。
【0027】
本実施形態の蛍光体は、上記一般式(1)で表わされる組成を有する。かかる蛍光体は、Cu−Kα線を用いたBragg−Brendano法によるX線回折パターンにおいて、特定の回折角度(2θ)にピークを有する。すなわち、15.05−15.15,23.03−23.13,24.87−24.97,25.7−25.8,25.97−26.07,29.33−29.43,30.92−31.02,31.65−31.75,31.88−31.98,33.02−33.12,33.59−33.69,34.35−34.45,35.2−35.3,36.02−36.12,36.55−36.65,37.3−37.4,および56.5−56.6の回折角度(2θ)に、少なくとも10本のピークを有する。
【0028】
本実施形態にかかる黄色発光蛍光体は、各元素を含む原料粉体を混合し、焼成することによって製造することができる。
【0029】
M原料は、Mの窒化物および炭化物から選択することができる。Al原料は、Alの窒化物、酸化物および炭化物から選択することができ、Si原料は、Siの窒化物、酸化物および炭化物から選択することができる。発光中心元素Ceの原料は、Ceの酸化物、窒化物および炭酸塩から選択することができる。
【0030】
なお、窒素は、窒化物原料もしくは窒素を含む雰囲気中における焼成から与えることができ、酸素は、酸化物原料および窒化物原料の表面酸化皮膜から与えることができる。
【0031】
例えば、Sr32、AlN、Si34、Al23およびAlN,ならびにCeO2を、目的の組成となるような仕込み組成で混合する。Sr32の代わりにSr2NあるいはSrN等、もしくはこれらの混合物を用いてもよい。均一な混合粉体を得るために、質量の少ない原料粉体から順に乾式混合することが望まれる。
【0032】
原料は、例えばグローブボックス中で乳鉢を用いて混合することができる。混合粉体をるつぼ内に収容し、所定の条件で焼成することによって、本実施形態にかかる蛍光体が得られる。るつぼの材質は特に限定されず、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、カーボン、窒化アルミニウム、サイアロン、酸化アルミニウム、モリブデン、およびタングステン等から選択することができる。
【0033】
混合粉体の焼成は、大気圧以上の圧力で行なうことが望ましい。大気圧以上の圧力で焼成が行なわれると、窒化ケイ素が分解しにくい点で有利となる。窒化ケイ素の高温での分解を抑制するためには、圧力は5気圧以上であることがより好ましく、焼成温度は1500〜2000℃の範囲が好ましい。こうした条件であれば、材料または生成物の昇華といった不都合を引き起こさずに、目的の焼結体が得られる。焼成温度は、1800〜2000℃がより好ましい。
【0034】
AlNの酸化を避けるためには、窒素雰囲気中で焼成を行なうことが望まれる。雰囲気中には、90atm.%程度までの水素が含まれていてもよい。
【0035】
上述した温度で0.5〜4時間焼成した後、焼成物をるつぼから取り出して解砕し、再度、同様の条件で焼成することが好ましい。こうした取り出し・解砕・焼成の一連の工程を0〜10回程度繰り返すことによって、結晶粒子同士の融着が少なく、組成および結晶構造が均一な粉体が生成しやすいという利点が得られる。
【0036】
焼成後には、必要に応じて洗浄等の後処理を施して、一実施形態にかかる蛍光体が得られる。洗浄としては、例えば純水洗浄、酸洗浄などを採用することができる。酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ化水素酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸などの有機酸、またはこれらの混合酸等を用いることができる。
【0037】
酸洗浄後には、必要に応じてポストアニール処理を施してもよい。ポストアニール処理は、例えば窒素と水素とを含む還元雰囲気中で行なうことができ、こうしたポストアニール処理を施すことによって結晶性および発光効率が向上する。
【0038】
一実施形態にかかる発光装置は、前述の蛍光体を含む蛍光発光層と、前述の蛍光体を励起する発光素子とを具備する。図2は、一実施形態にかかる発光装置の構成を表わす概略図である。
【0039】
図2に示す発光装置においては、基材100の上に、リード101、102およびパッケージカップ103が配置されている。基材100およびパッケージカップ103は樹脂性である。パッケージカップ103は、上部が底部より広い凹部105を有しており、この凹部の側面は反射面104として作用する。
【0040】
凹部105の略円形底面中央部には、発光素子106がAgペースト等によりマウントされている。用い得る発光素子106は、400〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光を発するものである。例えば、発光ダイオード、およびレーザダイオード等が挙げられる。具体的には、GaN系等の半導体発光素子などが挙げられるが、特に限定されない。
【0041】
発光素子106のp電極およびn電極(図示せず)は、Auなどからなるボンディングワイヤー107および108によって、リード101およびリード102にそれぞれ接続されている。リード101および102の配置は、適宜変更することができる。
【0042】
発光素子106としては、n電極とp電極とを同一面上に有するフリップチップ型のものを用いることもできる。この場合には、ワイヤーの断線や剥離、ワイヤーによる光吸収等のワイヤーに起因した問題を解消して、信頼性の高い高輝度な半導体発光装置が得られる。また、n型基板を有する発光素子を用いて、次のような構成とすることもできる。発光素子のn型基板の裏面にn電極を形成し、基板上に積層されたp型半導体層の上面にはp電極を形成する。n電極はリード上にマウントし、p電極はワイヤーにより他方のリードに接続する。
【0043】
パッケージカップ103の凹部105内には、一実施形態にかかる蛍光体110を含有する蛍光発光層109が配置される。蛍光発光層109においては、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層111中に、5〜60質量%の量で蛍光体110が含有される。上述したように、本実施形態にかかる蛍光体はSr2Al3Si7ON13を母材としており、こうした酸窒化物は共有結合性が高い。このため、本実施形態にかかる蛍光体は疎水性であり、樹脂との相容性が極めて良好である。したがって、樹脂層と蛍光体との界面での散乱が著しく抑制されて、光取出し効率が向上する
本実施形態にかかる黄色発光蛍光体は、温度特性が良好であるとともに、発光スペクトル半値幅の広い黄色光を高い効率で発光できる。400〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光を発する発光素子と組み合わせることによって、発光特性の優れた白色発光装置が得られる。
【0044】
発光素子106のサイズや種類、凹部105の寸法および形状は、適宜変更することができる。
【0045】
一実施形態にかかる発光装置は、図2に示したようなパッケージカップ型に限定されず、適宜変更することができる。具体的には、砲弾型LEDや表面実装型LEDの場合も、実施形態の蛍光体を適用して同様の効果を得ることができる。
【0046】
図3は、他の実施形態にかかる発光装置の構成を表わす概略図を示す。図示する発光装置においては、放熱性の絶縁基板201の所定の領域にはp電極およびn電極(図示せず)が形成され、この上に発光素子202が配置されている。放熱性の絶縁基板の材質は、例えばAlNとすることができる。
【0047】
発光素子202における一方の電極は、その底面に設けられており、放熱性の絶縁基板201のn電極に電気的に接続される。発光素子202における他方の電極は、金ワイヤー203により放熱性の絶縁基板201上のp電極(図示せず)に接続される。発光素子202としては、400〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光を発する発光ダイオードを用いる。
【0048】
発光素子202上には、ドーム状の内側透明樹脂層204、蛍光発光層205、および外側透明樹脂層206が順次形成される。内側透明樹脂層204および外側透明樹脂層206は、例えばシリコーン等を用いて形成することができる。蛍光発光層205においては、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層208中に、本実施形態の黄色発光蛍光体207が含有される。
【0049】
図3に示した発光装置においては、本実施形態にかかる黄色発光蛍光体を含む蛍光発光層205は、真空印刷もしくはディスペンサによる滴下塗布といった手法を採用して、簡便に作製することができる。しかも、かかる蛍光発光層205は、内側透明樹脂層204と外側透明樹脂層206とによって挟まれているので、取り出し効率が向上するという効果が得られる。
【0050】
なお、本実施形態にかかる発光装置の蛍光発光層中には、本実施形態の黄色発光蛍光体とともに、青色光での励起により緑色発光する蛍光体、および青色光での励起により赤色発光する蛍光体が含有されていてもよい。この場合には、演色性がより優れた白色発光装置が得られる。
【0051】
本実施形態にかかる黄色発光蛍光体は、250〜400nmの波長範囲内にピークを有する紫外領域の光で励起した場合にも、黄色発光が得られる。したがって、本実施形態にかかる蛍光体と、例えば紫外光での励起により青色発光する蛍光体、および紫外発光ダイオード等の発光素子とを組み合わせて、白色発光装置を構成することもできる。こうした白色発光装置における蛍光発光層中には、本実施形態の黄色発光蛍光体とともに、紫外光での励起により他の波長範囲内にピークを有する光を発する蛍光体が含有されてもよい。例えば、紫外光での励起により赤色発光する蛍光体、および紫外光での励起により緑色発光する蛍光体などが挙げられる。
【0052】
上述したように、本実施形態の蛍光体は、温度特性が良好であるとともに、発光スペクトル半値幅の広い黄色光を高い効率で発光できる。こうした本実施形態の黄色発光蛍光体を、250〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光を発する発光素子と組み合わせることによって、少ない種類の蛍光体を用いて、発光特性の優れた白色発光装置を得ることができる。
【0053】
以下、蛍光体および発光装置の具体例を示す。
【0054】
まず、Sr原料、Ce原料、Si原料、およびAl原料として、Sr32、CeO2、Si34、およびAlNを用意し、バキュームグローブボックス中でそれぞれ秤量した。Sr32、CeO2、Si34およびAlNの配合質量は、それぞれ2.680g、0.147g、5.086g、および1.691gとした。配合された原料粉体は、めのう乳鉢内で乾式混合した。
【0055】
得られた混合物を窒化ホウ素(BN)るつぼに収容し、7.5気圧の窒素雰囲気中、1800℃で2時間焼成した。焼成物をるつぼから取り出し、めのう乳鉢で解砕した。解砕された焼成物を再びるつぼに収容して、1800℃で2時間焼成した。この取り出し・解砕・焼成といった一連の工程をさらに二回繰り返すことによって、実施例1の蛍光体が得られた。
【0056】
得られた蛍光体は、体色が黄色の粉体であり、ブラックライトで励起したところ黄色発光が確認された。
【0057】
この蛍光体のXRDパターンを図4に示す。ここでのXRDパターンは、Cu−Kα線を用いたBragg−Brendano法によるX線回折により求めた。図4に示されるように、15.05−15.15,23.03−23.13,24.87−24.97,25.7−25.8,25.97−26.07,29.33−29.43,30.92−31.02,31.65−31.75,31.88−31.98,33.02−33.12,33.59−33.69,34.35−34.45,35.2−35.3,36.02−36.12,36.55−36.65,37.3−37.4,および56.5−56.6の回折角度(2θ)にピークが現れている。
【0058】
図4に示されたピークの相対強度を、下記表2にまとめる。
【表2】

【0059】
この蛍光体を発光波長450nmに分光したキセノンランプで励起した場合の発光スペクトルを図5に示す。図5中、450nm近傍の半値幅の狭い発光は、励起光の反射であり、蛍光体の発光ではない。551nmをピーク波長として高い発光強度が確認された。また、瞬間マルチチャンネル分光計により求めた半値幅は117nmであった。半値幅は発光装置から発せられる白色光の演色性の指標のひとつとなり、一般的に半値幅が広いほど演色性の高い白色光が得られやすい。半値幅が117nmであるので、実施例1の蛍光体を用いることで演色性に優れた白色光が得られやすいことが示される。
【0060】
図6には、この蛍光体の温度特性を示す。温度特性は、次のようにして求めた。蛍光体をヒーターにより加熱して、所定の温度T℃における発光強度(IT)を得た。発光強度の測定には、瞬間マルチチャンネル分光計を用いた。25℃における発光強度(I25)を用いて、(IT/I25)×100から算出した。図6に示されるように、150℃においても0.88以上の強度維持率が得られており、温度が上昇しても発光強度の低下が小さいことがわかる。
【0061】
本実施例の蛍光体を用いて、図3に示した構成の発光装置を作製した。
【0062】
放熱性の絶縁基板201として、所定の領域にp電極およびn電極(図示せず)が形成された8mm角のAlN基板を用意した。この上に発光素子202として、発光ピーク波長が460nmの発光ダイオードを半田により接合した。発光素子202における一方の電極は、その底面に設けられており、AlN基板201のn電極に電気的に接続した。発光素子202における他方の電極は、金ワイヤー403によりAlN基板401上のp電極(図示せず)に接続した。
【0063】
発光素子202上には、内側透明樹脂層204、蛍光発光層205、および外側透明樹脂層206を順次ドーム状に形成して、本実施例の発光装置を作製した。内側透明樹脂層204の材質としてはシリコーン樹脂を用い、ディスペンサにより形成した。蛍光発光層205の形成には、本実施例の蛍光体を50質量%含有する透明樹脂を用いた。用いた透明樹脂は、シリコーン樹脂である。さらに、蛍光発光層205の上の外側透明樹脂層206の形成には、内側透明樹脂層204の場合と同様のシリコーン樹脂を用いた。
【0064】
この発光装置を積分球内に設置し、20mA、3.3Vで駆動させたところ、色温度6300K、光束効率180 lm/W、Ra=76であった。色温度、光束効率およびRaは、瞬間マルチチャンネル分光計瞬間マルチチャンネル分光計から得られた。
【0065】
本実施例の蛍光体を、発光ピーク波長が460nmの青色LEDと組み合わせることによって、本実施形態の白色発光装置が得られた。かかる白色発光装置は、発光効率がおよび演色性が高いハイパワー用白色LEDを得ることができる。
【0066】
さらに、下記表3および4に示すように原料およびその配合質量を変更する以外は実施例1と同様の手法により、実施例2〜17、比較例1,2の蛍光体を得た。
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
実施例2〜17の蛍光体は、いずれも体色が黄色の粉体であり、ブラックライトで励起したところ、黄色発光が確認された。また、これらの蛍光体のXRDパターンを図7〜22に順次示す。また、それぞれのXRDパターンについて、強度の大きなものから10本のピークを選択して最強ピークとし、その回折角度(2θ)を下記表5および表6に“○”で示した。
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
いずれの実施例の蛍光体においても、最強ピーク10本は、15.05〜15.15°,23.03〜23.13°,24.87〜24.97°,25.7〜25.8°,25.97〜26.07°,29.33〜29.43°,30.92〜31.02°,31.65〜31.75°,31.88〜31.98°,33.02〜33.12°,33.59〜33.69°,34.35〜34.45°,35.2〜35.3°,36.02〜36.12°,36.55〜36.65°,37.3〜37.4°,および56.5〜56.6°の回折角度(2θ)のいずれかに属することが判る。
【0071】
実施例2〜17の蛍光体および比較例1,2の蛍光体についても、前述と同様にして発光特性を調べた。その結果を、実施例1の蛍光体の発光特性とともに下記表7にまとめる。表7における発光強度は、実施例1の発光強度を1としたときの相対強度を示し、色度(Cx.Cy)は、積分球型全光束測定装置から得られた。
【表7】

【0072】
上記表7に示されるように、実施例1〜17の蛍光体は、いずれも544〜555nmの波長範囲内に発光ピークを有し、0.85以上の高い発光強度が得られている。さらに発光半値幅が116nm以上の広い発光が得られている。一方、比較例1〜2の蛍光体は発光強度が0.32〜0.52と十分な明るさが得られない。
【0073】
また、実施例2〜17の蛍光体についても、前述と同様の手法におり温度特性を調べた。実施例2〜17の蛍光体は、いずれも150℃における強度維持率が0.81以上であり、実施例1と同様に良好な温度特性を有することが確認された。その結果の一部を、下記表8および図23に示す。
【表8】

【0074】
下記表9には、実施例1〜17および比較例1〜2の蛍光体について、誘導結合プラズマ(ICP)による化学分析を行なった結果をまとめる。表9に示した数値は、Al濃度とSi濃度との和を10として、分析された各元素の濃度を規格化したモル比である。
【表9】

【0075】
上記表9中のx,y,z,u,およびwは、下記一般式(1)におけるx,y,z,u,およびwに対応している。
【0076】
(M1−xCe2yAlSi10−z (1)
上記表9に示されるように、実施例1〜17の蛍光体のいずれにおいても、x,y,z,u,およびwは、以下に示す範囲内である。
【0077】
0<x≦1、 0.8≦y≦1.1、 2≦z≦3.5、 u≦1
1 .8≦z−u、 13≦u+w≦15
所定の組成を有しているので、実施例の蛍光体は、発光スペクトル半値幅の広い黄色光を高い効率で発光することができ、しかも温度特性も良好である。一方、十分な明るさが得られない比較例1は、z−uが1.39〜1.41と小さい。さらに比較例2は、zが3.56と大きく、uは2.17と大きい。
【0078】
次に、比較例3の蛍光体として、市販のEu付活オルソシリケート蛍光体を用意した。
【0079】
また、下記表10に示すように一般式(1)における次の組成をそれぞれ変更する以外は実施例1の蛍光体と同様の組成で、比較例4〜11の蛍光体を合成した。
【表10】

【0080】
前述と同様にして、比較例3〜11の蛍光体のXRDパターンを求めた。その結果、これら比較例の蛍光体においては、15.05−15.15,23.03−23.13,24.87−24.97,25.7−25.8,25.97−26.07,29.33−29.43,30.92−31.02,31.65−31.75,31.88−31.98,33.02−33.12,33.59−33.69,34.35−34.45,35.2−35.3,36.02−36.12,36.55−36.65,37.3−37.4,および56.5−56.6の回折角度(2θ)には、必ずしもピークが現れなかった。
【0081】
また、前述と同様に波長450nmの光を放射して、比較例3〜11の蛍光体を励起して発光特性を調べるともに、各蛍光体の温度特性を求めた。比較例の蛍光体はいずれも、発光特性と温度特性とを兼ね備えることができないことが確認された。
【0082】
具体的には、Eu付活オルソシリケート蛍光体(比較例3)は、半値幅が70nm程度と狭く、青色発光ダイオードと組み合わせても演色性の良好な発光装置が得られない。しかも、高温での輝度低下が著しく、投入電力が300mW程度以上の高出力な発光装置においては効率が低くなってしまう。
【0083】
一般式(1)におけるyの値が0.8未満の場合(比較例4)には、Sr+Ceが少なすぎる組成となるため、結晶性が低下して低効率となる。一方、yの値が1.1を超えた場合(比較例5)には、Sr+Ceが多すぎる組成となって、過剰なSr+Ceが異相を生成し低効率となる。
【0084】
一般式(1)におけるzの値が2未満の場合(比較例6)には、Alが少なすぎる組成となるため、結晶構造を維持できず、別の結晶構造となり不十分な特性となる。一方、zの値が3.5を超えた場合(比較例7)には、Alが多すぎる組成となって、過剰なAlを含む別の結晶構造となり不十分な特性となる。
【0085】
一般式(1)におけるuの値が1以上の場合(比較例8)には、Oが多すぎる組成となるため、共有結合性が低下して、短波長および低効率となり、温度特性も不十分となる。一方、z−uの値が1.8未満の場合(比較例9)には、Alに比べてOが多すぎる組成となって、結晶構造を維持できず、別の結晶構造となって所望の特性が得られない。
【0086】
一般式(1)におけるu+wの値が13未満の場合(比較例10)には、陰イオンが少なすぎる組成となるため、電荷バランスが崩れるため結晶構造を維持できず、別の結晶構造となって特性が不十分となる。一方、u+wの値が15を超えた場合(比較例11)には、陰イオンが多すぎる組成となって、電荷バランスが崩れるため、結晶構造を維持できず、別の結晶構造となり不十分な特性となる。
【0087】
本発明の実施形態によれば、温度特性が良好であるとともに、発光スペクトル半値幅の広い黄色光を高い効率で発光できる蛍光体が提供される。本実施形態の黄色発光蛍光体を青色LEDと組み合わせた際には、演色性が優れ発光特性の良好な白色発光装置を得ることができる。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
301…Sr原子; 302…Si原子またはAl原子
303…O原子またはN原子; 100…基材; 101…リード; 102…リード
103…パッケージカップ; 104…反射面; 105…凹部
106…発光チップ; 107…ボンディングワイヤー
108…ボンディングワイヤー; 109…蛍光発光層; 110…蛍光体
111…樹脂層; 201…絶縁基板; 202…発光素子
203…ボンディングワイヤー; 204…内側透明樹脂層
205…蛍光発光層; 206…外側透明樹脂層; 207…蛍光体
208…樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
250〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光で励起した際に、500〜600nmの波長範囲内に発光ピークを示し、下記一般式(1)で表わされることを特徴とする蛍光体。
(M1-xCex2yAlzSi10-zu (1)
(ここで、MはSrであり、Srの一部はBa,Ca,およびMgから選ばれる少なくとも一種で置換されていてもよい。x,y,z,uおよびwは、それぞれ以下を満たす。
0<x≦1、 0.8≦y≦1.1、 2≦z≦3.5、 u≦1
1.8≦z−u、 13≦u+w≦15)
【請求項2】
前記蛍光体は、Cu−Kα線を用いたBragg−Brendano法によるX線回折において、15.05−15.15,23.03−23.13,24.87−24.97,25.7−25.8,25.97−26.07,29.33−29.43,30.92−31.02,31.65−31.75,31.88−31.98,33.02−33.12,33.59−33.69,34.35−34.45,35.2−35.3,36.02−36.12,36.55−36.65,37.3−37.4,56.5−56.6の回折角度(2θ)に、少なくとも10本のピークを有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
250〜500nmの波長範囲内に発光ピークを有する光を発する発光素子と、
前記発光素子からの光を受けて黄色発光する蛍光体を含有する蛍光発光層とを具備し、前記黄色発光蛍光体は、請求項1または2に記載の蛍光体を含むことを特徴とする発光装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法であって、
Mの窒化物および炭化物から選択されるM原料と、Alの窒化物、酸化物および炭化物から選択されるAl原料と、Siの窒化物、酸化物および炭化物から選択されるSi原料と、Ceの酸化物、窒化物および炭酸塩から選択されるCe原料とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を焼成する工程と
を具備することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記混合物の焼成は、5気圧以上の圧力下、1500〜2000℃で行なわれることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合物の焼成は、窒素雰囲気中で行なわれることを特徴とする請求項4または5に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−104041(P2013−104041A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250599(P2011−250599)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】