説明

蛍光体、該蛍光体と発光素子とを組み合わせた発光装置、及び、該蛍光体を含有する真贋識別標識

【課題】 簡便な製造法で製造可能であり、紫外線又は可視光で効率よく励起されて高い発光強度を示し、赤色の発光に好適な蛍光体、並びに、例えば、白色LED等の発光装置に用いることができること、特定の波長の電磁波でのみ発光する真贋識別標識等に用いることができること等の少なくともいずれかを可能にする、赤色発光蛍光体を提供すること。
【解決手段】 平均組成式(I):
(Ln1-x-yCaxEuy229 (I)
(式中、LnはLa,Gd及びYから選ばれた少なくとも1種であり、xは0<x≦0.05を満たす任意の正の数、yは0<y≦0.5を満たす任意の正の数である)を満たす組成を有したものである蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線又は可視光で効率よく励起され発光する蛍光体、該蛍光体と発光素子とを組み合わせた発光装置、及び、該蛍光体を含有する真贋識別標識に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線又は可視光を効率よく発光することができる窒化物系化合物半導体などの発光素子と、紫外線又は可視光で効率よく励起され発光する蛍光体とを組み合わせて、種々の発光波長の発光ダイオード(以下、LED)が開発されている。なかでも、白色発光LEDは、青色発光ダイオード素子と、青色光を吸収して黄色に発光する蛍光体とから構成されており、各種照明用途に実用化されている。しかし、従来の白色LEDは、発光スペクトル中に赤の成分が少ないため、発する光の演色性が低く、照明用途においては性能が不十分である。
【0003】
これを解決する手段として、例えば、アルカリ土類金属元素を含有し、窒化物や酸窒化物からなる蛍光体を従来の白色LEDに添加することが提案されている(特許文献1〜4)。
【0004】
しかしながら、これらの蛍光体は、製造するために用いられる原料が大気中において分解、酸化されるため、該原料が窒素、アルゴン等の雰囲気下で取り扱われる必要があり、製造においてグローブボックス等の大がかりな設備を要するという問題がある。
【0005】
上記問題を解決するために、簡便な製造法で製造可能であり、かつ波長460nm前後の青色光を吸収して赤色発光を示す蛍光体を提供することを目的とし、一般式Eu2-xLnx29(0≦x≦2,Ln=Y,La,Gdの少なくとも1種,M=W,Moの少なくとも1種)で表される蛍光体が提案されている。しかしながら、斯かる蛍光体は、発光強度が窒化物系に比べて低いという問題がある(特許文献5)。
【0006】
一方、不可視の特定の電磁波の照射に対して、可視光を発光する蛍光体を、製品の特定部品に組み込み、ブランド品や工業製品等、種々の対象物について、その真贋を判定する真贋識別標識が提案されている(特許文献6、7)。
【0007】
上記真贋識別標識に用いられる蛍光体は、不可視の特定の電磁波の照射に対して、特異的に可視光の蛍光を発光し、さらにその発光強度が高いという特性が要求される。
【0008】
しかしながら、上記特許文献に記載されている赤色蛍光体は、幅広い励起スペクトルを示すものであり、従って、特定の波長の電磁波に対して選択的に発光する蛍光体が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第05/52087A1号パンフレット
【特許文献2】特表2003−515655号公報
【特許文献3】特開2002−363554号公報
【特許文献4】特表2005−530917号公報
【特許文献5】特開2005−264160号公報
【特許文献6】国際公開第05/55154A1号パンフレット
【特許文献7】特開2008−96159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した問題を解決すべく、簡便な製造法で製造可能であり、紫外線又は可視光で効率よく励起されて高い発光強度を示し、赤色の発光に好適な蛍光体を提供することを1つの課題とする。また、本発明は、例えば、白色LED等の発光装置に用いることができること、特定の波長の電磁波で特異的に発光する真贋識別標識等に用いることができること等の少なくともいずれかを可能にする、赤色発光蛍光体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の蛍光体は、平均組成式(I):
【化1】

(式中、LnはLa,Gd及びYから選ばれた少なくとも1種であり、xは0<x≦0.05を満たす正の数、yは0<y≦0.5を満たす正の数である)を満たす組成を有することを特徴とする。
平均組成式(I)において、xの値は、好ましくは、0.01以上0.02以下であり、yの値は、好ましくは、0.4である。かかる蛍光体について、波長394nm及び波長464nm励起に対する波長612nmの発光強度を、既存のY22S:Eu蛍光体の発光強度の強度を100として相対的に求めた相対発光強度は、波長394nm励起では少なくとも145以上であり、波長464nm励起では少なくとも280以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の発光装置は、前記蛍光体と発光素子とを組み合わせたことを特徴とする。
本発明の真贋識別標識は、前記蛍光体を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蛍光体は、大気中で製造することができる。即ち、原料を大気中で混合し、焼成することにより製造することができるため、従来の窒化物や酸窒化物からなる蛍光体よりも極めて取り扱いが容易であるという優れた効果を有する。
また、本発明の蛍光体は220〜550nmの波長域の紫外線又は可視光により効率よく励起されて発光し、特に、波長394nm及び波長464nmで励起したときに高い発光強度を示すという優れた効果を有する。
さらに、本発明の蛍光体は、発光ダイオード等の発光装置に有効に利用できること、及び、特定の波長の電磁波で特異的に発光する真贋識別標識の原料として用いることができること等の少なくともいずれかを達成できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】蛍光体の394nm励起に対する発光スペクトルを示す図。図中、(A)及び(B)は、それぞれ、試験例1〜4及び試験例7〜11の結果を示す。
【図2】蛍光体の464nm励起に対する発光スペクトルを示す図。図中、(A)及び(B)は、それぞれ、試験例1〜4及び試験例7〜11の結果を示す。
【図3】蛍光体のX線回折パターンを示す図。図中、(A)及び(B)は、それぞれ、試験例1〜6及び試験例7〜11の結果を示す。
【図4】蛍光体の612nm発光に対する励起スペクトルを示す図。図中、(A)及び(B)は、それぞれ、試験例1〜4及び試験例7〜11の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の蛍光体の実施形態について説明する。
本実施形態の蛍光体は、前記したように、平均組成式(I):
【化2】

【0016】
(式中、LnはLa,Gd及びYから選ばれた少なくとも1種であり、xは0<x≦0.05を満たす任意の正の数、yは0<y≦0.5を満たす任意の正の数である)を満たす組成を有するものである。
【0017】
なお、本明細書において、「蛍光体」は、平均組成式(I)を満たす組成を有する単相からなる固溶体であってもよく、全体として平均組成式(I)を満たす組成に相当する複数の酸化物及び/又は複数の固溶体からなる混合物であってもよい。
【0018】
また、本明細書において、発光強度は、様々な励起波長に対する発光を蛍光分光光度計により測定し、同条件で測定した既存のY22S:Eu蛍光体の波長612nmの発光強度を100としたときの相対強度(以下、相対発光強度)に基づき評価されうる。
【0019】
前記蛍光体の平均組成式(I)において、LnはLa、Gd、及びYのうちの少なくとも1種類から選ばれるものであれば特に限定されず、所望の発光強度に応じて、設定されうる。
例えば、前記発光測定において、波長394nm励起に対する波長612nmの発光の相対発光強度が145以上であり、且つ波長464nm励起に対する波長612nmの発光の相対発光強度が280以上であるような、高い発光を示す蛍光体を製造する場合には、前記蛍光体の組成は、平均組成式(I)において、LnとしてGdが含まれることが好ましい。
また、例えば、前記発光測定において、波長394nm励起に対する波長612nmの発光の相対発光強度が145未満であり、且つ波長464nm励起に対する波長612nmの発光の相対発光強度が280未満の発光を示す蛍光体を製造する場合には、前記蛍光体の組成は、平均組成式(I)において、前記LnがGd以外であってもよい。
【0020】
また、前記蛍光体の組成は、平均組成式(I)を満たすものであれば特に限定されず、所望の発光強度に応じて、設定されうる。
例えば、前記発光測定において、例えば、波長394nm励起に対する波長612nmの発光の相対発光強度が145以上であり、且つ波長464nm励起に対する波長612nmの発光の相対発光強度が280以上である高い発光を示す蛍光体を製造する場合には、前記蛍光体の組成は、平均組成式(I)において、xの値が0.01〜0.02、yの値が0.4であることが好ましい。
また、例えば、前記発光測定において、波長394nm励起に対する波長612nmの発光相対発光強度が145未満、又は、波長464nm励起に対する波長612nmの発光の相対発光強度が280未満である蛍光体を製造する場合には、前記蛍光体の組成は、平均組成式(I)において、前記xの値が0.01〜0.02の範囲外、yの値が0.4以外であってもよい。
【0021】
前記蛍光体は、X線回折パターンにおいて、高い結晶性を有する単斜晶構造の相を主成分とすることが示される複合酸化物である。なお、前記蛍光体では、組成によって、タングステン酸カルシウム(CaWO4)等が不純物として観測されるものであってもよい。ただし、高い発光強度を示す蛍光体を得る場合、前記蛍光体は、X線回折パターンにおいて、高い結晶性を有する単斜晶構造の単一相からなる複合酸化物であることが望ましい。
【0022】
また、前記蛍光体は、蛍光スペクトルにおいて、近紫外光に相当する波長394nmの光、及び青色光に相当する波長464nmの光で励起したときに、波長612nmの発光強度が特異的に大きくなる、すなわち、特定の波長の電磁波により発光する蛍光体である。なお、前記発光スペクトルの特徴は、例えば、前記蛍光体の平均組成式(I)におけるLnの種類、xの値、さらにyの値によらず認識されうる。かかる蛍光スペクトルは、蛍光分光光度計により測定されうる。
【0023】
次に、前記蛍光体の製造方法について説明する。
前記蛍光体の製造方法は、特に限定されないが、該製造方法としては、例えば、固相反応による方法等を採用できる。本発明には、かかる蛍光体の製造方法も包含される。
【0024】
前記固相反応による方法としては、所定の化合物(ランタン化合物、ガドリニウム化合物、イットリウム化合物、ユウロピウム化合物、カルシウム化合物、及びタングステン化合物)の混合物を焼成する固相反応法等が挙げられる。前記化合物の混合物は、焼成により、平均組成式(I)により表される組成からなる蛍光体になりうる混合物である。
【0025】
前記固相反応による方法において用いられるランタン化合物、ガドリニウム化合物、イットリウム化合物、ユウロピウム化合物、カルシウム化合物、及びタングステン化合物としては、酸化物(特に限定されないが、例えば、酸化ランタン、酸化ガドリニウム、酸化イットリウム、酸化ユウロピウム、酸化カルシウム、酸化タングステン等)が挙げられる。また、高温で分解し酸化物になりうる化合物(例えば、酸化物になりうるランタン、ガドリニウム、イットリウム、ユウロピウム、カルシウム、タングステンの各化合物)等が挙げられる。
前記高温で分解し酸化物になりうるランタン、ガドリニウム、イットリウム、ユウロピウム化合物としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、これらの水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硝酸アンモニウム塩、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、及びこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、入手が容易であり、安価であるという観点から、炭酸塩が好ましい。
前記高温で分解し酸化物になりうるカルシウム化合物としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。なかでも、入手が容易であり、安価であるという観点から、炭酸カルシウムが好ましい。
前記高温で分解し酸化物になりうるタングステン化合物としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、パラタングステン酸アンモニウム、硫化タングステン等が挙げられるが、これらのものは入手のし易さや価格の観点からあまり用いられず、好ましくは、前記酸化タングステンが用いられる。
前記ランタン化合物、ガドリニウム化合物、イットリウム化合物、ユウロピウム化合物、カルシウム化合物、及びタングステン化合物は、高純度(例えば、99.9%以上)であることが望ましい。
【0026】
前記固相反応法による方法において、ランタン化合物、ガドリニウム化合物、イットリウム化合物、ユウロピウム化合物、カルシウム化合物、タングステン化合物の混合は、メノウ乳鉢等による手動混合、通常、工業的に用いられているボールミル、V型混合機、攪拌装置等による機械的な混合等により行なわれうる。
【0027】
前記固相反応法による方法においては、ランタン化合物、ガドリニウム化合物、イットリウム化合物、ユウロピウム化合物、カルシウム化合物、タングステン化合物の混合比(モル比)は、平均組成式(I)を満たす範囲で適宜設定されうる。とりわけ、発光強度をより向上させる観点から、平均組成式(I)において、xの値が0.01以上0.02以下、yの値が0.4となるように混合することが望ましい。
【0028】
前記固相反応法による方法においては、混合後、得られた混合物を焼成することにより、前記蛍光体を得ることができる。
【0029】
前記固相反応法による方法において、焼成温度は、特に限定されないが、用いられるランタン化合物、ガドリニウム化合物、イットリウム化合物、ユウロピウム化合物、カルシウム化合物、及びタングステン化合物それぞれの種類に応じて適宜設定することができる。例えば、焼成温度は、反応を容易に進行させる観点から、1000℃以上であることが好ましく、1100℃以上であることがより好ましい。また、エネルギーコストを抑制する観点から、1500℃以下であることが好ましく、1300℃以下であることがより好ましい。
ランタン化合物、ガドリニウム化合物、イットリウム化合物、ユウロピウム化合物、カルシウム化合物、及び/又はタングステン化合物として、前記高温で分解し酸化物になりうる化合物を用いる場合、該化合物を予め酸化物にするため及び/又は該化合物の水分を予め除去するため、焼成の前に、例えば、500℃以上1000℃未満の温度範囲にて仮焼することができる。
【0030】
また、前記固相反応法による方法において、焼成時間は、前記焼成温度、用いられるランタン化合物、ガドリニウム化合物、イットリウム化合物、ユウロピウム化合物、カルシウム化合物、及びタングステン化合物それぞれの種類に応じて適宜設定することができる。具体的には、例えば、焼成温度が1000℃〜1100℃である場合、固相反応を完結させる観点から、焼成時間は、15時間以上であることが好ましく、30時間以上であることがより好ましい。また、粒成長や焼結の抑制、及び製造時間の短縮の観点から、100時間以下であることが好ましく、80時間以下であることがより好ましい。
【0031】
前記固相反応法による方法において、焼成雰囲気としては、ユウロピウム及び/又はタングステンの還元を抑制し、発光強度をより向上させる観点から、空気、酸素ガス、酸素とアルゴンとの混合ガス、酸素と窒素との混合ガス等の酸化性雰囲気が望ましい。また、反応を促進させる観点から、焼成雰囲気中に水蒸気を共存させてもよい。
【0032】
上述のごとく得られた蛍光体は、例えば、さらに洗浄及び/又は分級してもよい。また、得られた蛍光体の結晶性を高める観点から、さらに再焼成してもよい。
【0033】
製造された前記蛍光体は、通常、粉末状であり、分散性を向上させ、発光効率をより向上させる観点から、平均粒子径が10nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、蛍光体粉末として樹脂等に分散させる際の分散性をより向上させる観点から、50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0034】
なお、本明細書において、前記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡により直接観察測定され、二軸算術平均径(複合酸化物の粒子の最大径と最小径との和の平均値)により算出された値をいう。
【0035】
前記蛍光体は、350〜500nmの波長域の紫外線又は可視光により効率よく励起されて発光し、特に、波長394nm及び波長464nmで励起したときに高い発光強度を示すという優れた効果を発揮する。
また、前記蛍光体は、安価な原料から製造でき、低コストで製造できるという優れた効果を発揮する。
さらに、前記蛍光体は、少量でも強い発光強度を有するため、発光ダイオード等の発光装置や特定の波長の電磁波で特異的に発光する真贋識別標識を低コストで製造できるという優れた効果を発揮する。
【0036】
前記蛍光体は、本発明の目的を阻害しないものであれば、本質的に、平均組成式(I)で表される組成を有した複合酸化物からなるものであって、さらに他の物質(「微量物質」ともいう)が含まれるものであってもよい。前記微量物質としては、本発明の目的を阻害しないものであればよく、特に限定されないが、例えば、マグネシウム、ストロンチウム、モリブデン等が挙げられる。
【0037】
前記蛍光体は、好ましくは1000℃以上の極めて高温で製造されるため、例えば、50℃以上200℃以下の温度範囲等にて使用された場合でも、発光強度がほとんど変化せず、化学的に安定であり、耐熱性に優れる。そのため、発光ダイオード等の温度特性が求められる蛍光体として用いられうる。また、前記蛍光体は、耐熱性に優れるため、樹脂等の高温成形材料等の幅広い分野における蛍光体としても用いられうる。
【0038】
本発明の発光装置は、前記蛍光体と発光素子とを組み合わせてなる。
前記発光素子は、少なくとも220〜550nmの波長の可視光を放射するものである。
【0039】
本明細書において、前記発光装置としての「発光ダイオード(LED)」は、特に限定されず、該「発光ダイオード(LED)」は、例えば、本発明の蛍光体と発光スペクトルが220nmから550nmの波長域にある発光ダイオードと組み合わせることによって、種々の発光色のLEDに応用できる。例えば、本発明の蛍光体と、発光スペクトルが220〜400nm内の紫外線又は近紫外線を放射する発光ダイオードとを組み合わせることにより、発光色が赤色のLEDが得られる。また、例えば、本発明の蛍光体としての赤色発光蛍光体と、発光スペクトルが400〜550nm内である可視光を放射する発光ダイオードとを組み合わせたもの、即ち、この可視光により前記赤色発光蛍光体が励起されて放射する発光と発光ダイオードの可視光とが混合された種々の発光色を有するLEDが挙げられる。さらに、本発明の蛍光体と他の複数種の蛍光体と上記発光ダイオード(発光スペクトルが220〜550nm)とを組み合わせることによって種々の発光色のLEDを作製することができる。特に、白色LEDにおいて、本発明の蛍光体を用いることにより、演色性や輝度を向上させることができる。
【0040】
本発明の真贋識別標識は、前記蛍光体を含有するものである。
【0041】
本明細書において、上記「真贋識別標識」としては、特に限定されないが、例えば、本発明の蛍光体を合成樹脂からなる部品の成形材料中に含有させ、ある特定の波長の電磁波を照射したときのみ赤色に発光するように構成された特定部品を組み込んだものなどが挙げられる。
この特定部品をブランド品や工業製品等、種々の対象物に組み込むことにより、真贋判定標識とすることができる。また、練り込みにより製造されるこの特定部品から蛍光体を抽出して分析することは難しいため、高い偽造防止効果が得られる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
Gd23、Eu23、CaO、及びWO3を表1に示す割合で秤量し、ボールミルで混合した後、空気中800℃で15時間仮焼した。さらに空気中1000℃で15時間2回焼成した後、1100℃で15時間焼成を行い、蛍光体を製造した。
【0044】
【表1】

【0045】
得られた各蛍光体の発光強度を、蛍光分光光度計(商品名:RF−5300PC、島津製作所製)を用い、波長394nm及び波長464nmの励起下で発光させたところ、それぞれ、図1、図2の代表例に示すように波長612nmの赤色発光が認められた。波長612nmにおける発光強度を、同条件下で測定した既存のY22S:Eu蛍光体の発光強度の強度を100として相対発光強度を求めた。
【0046】
その結果、表2に示されるように、蛍光体の組成によって、相対発光強度が異なることがわかる。具体的には、平均組成式(I)において、xが0<x≦0.05を満たす任意の正の数、yが0<y≦0.5を満たす任意の正の数である組成であれば、発光強度が既存のY22S:Eu蛍光体(相対発光強度100)より大きくなることが分かる。加えて、平均組成式(I)において、xの値が0.01〜0.02、yの値が0.4である組成である蛍光体は、波長394nm励起に対する相対発光強度が145以上、波長464nm励起に対する相対発光強度が280以上となり、さらに高い発光強度を示すことがわかる。
【0047】
【表2】

【0048】
<粉末X線回折>
試験例1〜11の蛍光体について、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、商品名:Multiflex)を用いて、X線回折パターンを分析した。その結果を、図3に示す。
【0049】
その結果、図3に示されるように、試験例1〜4および7の蛍光体においては、単斜晶構造の単一相の回折ピークが観測され、また、試験例5、6および8〜11の蛍光体においては、単斜晶構造の回折ピークに加え、不純物相であるタングステン酸カルシウムのピークが観測された。
【0050】
<励起スペクトル>
試験例1〜11の蛍光体について、蛍光分光光度計(商品名:RF−5300PC、島津製作所製)を用いて、波長612nmの発光に対する励起スペクトルを測定した。その結果の代表例を図4に示す。
【0051】
その結果、図4の代表例において示されるように、波長394nm及び波長464nmに強い励起ピークが存在することが分かる。すなわち、平均組成式(I)を満たす組成を有した蛍光体は、特定の波長の電磁波に対して強い発光を示すことがわかる。
【0052】
<耐熱性評価>
平均組成式(II):
【化3】

の組成を満たす蛍光体に対して、室温、200℃、400℃で1時間、5時間又は24時間加熱処理を施した。対照として、同じ組成を有する未処理の蛍光体を用いた。その後、得られた蛍光体の発光スペクトルを、蛍光分光光度計(商品名:RF−5300PC、島津製作所製)により測定し、既存のY22S:Eu蛍光体の発光強度の強度を100として相対発光強度を求めることによって定量化を行なうことにより、前記蛍光体を評価した。
【0053】
その結果、1時間加熱処理を行なった場合、室温から200℃までは発光強度に変化がみられなかったため、少なくとも室温から200℃の範囲では蛍光体が安定に存在することがわかった。また、加熱処理の時間を変えても同様の結果が得られたため、蛍光体の耐熱性は加熱時間よりもむしろ加熱温度に大きく依存することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の蛍光体は、発光ダイオード等の発光装置や特定の波長の電磁波に対して特異的に発光する真贋識別標識等の幅広い分野で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均組成式(I):
(Ln1-x-yCaxEuy229 (I)
(式中、LnはLa,Gd及びYから選ばれた少なくとも1種であり、xは0<x≦0.1を満たす正の数、yは0<y≦0.5を満たす正の数である)を満たす組成を有していることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記式(I)のx及びyが、0.01≦x≦0.02であり且つy=0.4である請求項1記載の蛍光体。
【請求項3】
前記式(I)のLnがGdである請求項1又は2記載の蛍光体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光体と発光素子とを組み合わせたことを特徴とする発光装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光体を含有することを特徴とする真贋識別標識。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188630(P2012−188630A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55640(P2011−55640)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】