説明

蛍光体および発光装置

【課題】 高演色性かつ高効率な白色の発光装置用紫外線励起蛍光体を提供する。
【解決手段】 Tb,DyおよびYbからなる群から選択されるいずれか一種の元素を付活元素の主成分として含有することを特徴とするLa−Si−N系蛍光体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に使用される蛍光体に係り、特に、蛍光表示管(VFD)、PDP、CRT、FED、SEDおよび投射管等のディスプレイに代表されるダイオード等を光源とする発光装置に使用される蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
白色の発光装置の発光色は、光の混色の原理によって得られる。発光素子から放出された青色光は、蛍光体層の中へ入射した後、層内で何回かの吸収と散乱とを繰り返し、外へ放出される。一方、蛍光体へ吸収された青色光は励起源として働き、黄色の蛍光を発する。この黄色光と青色光とが混合されて、人間の目には白色として認識される。こうした場合、可視光領域の長波長側の発光が得られにくいため、やや青白い発光色となる。より温かみの有る赤みを帯びた白色の発光を得るために、M−Si−N系やサイアロン等の窒化物を母材結晶として用い、Euなどの希土類を付活した蛍光体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
こうした蛍光体のほとんどにおいて、用いられるのはCe3+,Eu2+の黄色から赤色の発光である。可視光領域の発光波長およびCe3+,Eu2+の5f→4d遷移特有の広帯域な発光のために、演色性および効率は、いずれも低い値に留まらざるを得ない。
【0004】
最近では、VFD・FEDおよびSED用蛍光体として、酸化物系・硫化物系等が検討・開発されている。こうした蛍光体は、電子線での励起により分解飛散しやすく、この分解物が電子線を放出する熱フィラメントを著しく劣化させてしまう。そこで、化学的に安定なLaSi35にCe3+を付活した電子線励起用蛍光体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この蛍光体の発光色は、Ce3+の5f→4dに由来する青色発光のみである。人間の視感度は、これより長い波長領域であるため、画面全体の白色輝度の寿命に及ぼす効果は低い。視感度が最も高い波長領域であり、画面全体の白色輝度を最も左右する緑色蛍光体に関する長寿命化は、未だ達成されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2003−206481号公報
【特許文献2】特開2003−96446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高演色性かつ高効率な白色の発光装置用蛍光体、およびそれを用いた発光装置を提供することを目的とする。また本発明は、長寿命の電子線励起蛍光体、およびそれを用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかる蛍光体は、Tb,DyおよびYbからなる群から選択されるいずれか一種の元素を付活元素の主成分として含有することを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様にかかる発光装置は、250nm乃至500nmの波長の光を発光する発光素子と、
前記発光素子上に配置され、蛍光体を含有する蛍光体層とを具備し、
前記蛍光体は、TbおよびDyのいずれか一種の元素を付活元素の主成分として含有するLa−Si−N系蛍光体を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の他の態様にかかる発光装置は、電子エネルギーを照射するエネルギー源と、
前記発光素子上に配置され、蛍光体を含有する蛍光体層とを具備し、
前記蛍光体は、Tb、DyおよびYbから選択されるいずれか一種の元素を付活元素の主成分として含有するLa−Si−N系蛍光体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高演色性かつ高効率な白色の発光装置用蛍光体、およびそれを用いた発光装置が提供される。また本発明によれば、長寿命の電子線励起蛍光体、およびそれを用いた発光装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0011】
本発明者らは、La−Si−N系蛍光体からなる母材を、特定の元素で付活することによって、高演色性かつ高効率な白色の発光装置用光体、および長寿命の電子線励起蛍光体が得られることを見出した。本発明は、こうした知見に基づいてなされたものである。
【0012】
まず、本発明の蛍光体における原理について説明する。
【0013】
自然界に存在する光は、いずれも連続した分光分布を有している。これまで、人工光源の演色性を高めるには、分光分布を自然光の分布に近づけるという、広帯域発光形の高演色形ランプの考え方が代表的であった。この考え方による限り、演色性を改善しようとすれば、光のエネルギーを視感度の低い可視域の両端の波長域にも分配することになり、ランプ効率も低下せざるを得ない。
【0014】
しかしながら、1970年以降色覚に関する研究が進んで、次のような事実が確認された。すなわち、人間の目の明るさに対する感度が光の波長によって大きく変わるように、色彩を見分ける色覚も特定の波長に大きく左右されること、450nm、540nmおよび610nm付近の三つの波長をピークとする比較的狭い波長域に強い色覚反応があること、さらに、この波長域のエネルギーだけを組み合わせた光で照明すると、あらゆる色彩が全て見えることである。この波長域だけに発光エネルギーを有するランプを想定して演色評価数を計算した結果、Raが85にも達することがわかってきた。
【0015】
これによって、演色性を改善するためには、上述したような可視域のできるだけ広い範囲に発光エネルギーを分布させるという考えと別に、高効率と高演色性とを両立させた3狭帯域蛍光ランプの考え方が現われたのである。この3狭帯域発光型の蛍光ランプは、緑成分としてTb3+の発光を有する蛍光体(CeMgAl1119:Tb3+等)の出現によって実用化された。Tb3+の550nm近傍の緑色発光が極めてシャープであり、これが高効率に大きく寄与している。
【0016】
近紫外もしくは青色を励起源とする白色の発光装置に関しても、上述したような蛍光体ランプと同様の考え方が適用される。Tb3+またはDy3+のシャープな緑発光を有する蛍光体を適用することによって、高効率と高演色性とを両立する白色の発光装置が得られる。
【0017】
一方、窒化物蛍光体、特にLa−Si−N蛍光体は熱的安定性に優れ、蛍光体の発光過程における熱的緩和現象が抑えられるという特性を有する。したがって、励起エネルギーが失われにくく、温度上昇に伴なう発光強度の減少率が小さくなる。しかも、こうした窒化物蛍光体は、温度特性が良好であるため、白色LEDや電子線励起ディスプレイパネルの使用時の温度上昇においても、発光効率の低下が小さい点でも有利である。このため、本発明の実施形態にかかる蛍光体においては、La−Si−N系蛍光体を母材として用いる。
【0018】
こうした母材が用いられるので、本発明の実施形態にかかる蛍光体を用いた発光装置は、従来よりも幅広い温度領域で使用することができる。具体的には、本発明の実施形態にかかる発光装置は、0〜150℃程度の温度範囲で使用可能である。また、母材として用いられるLa−Si−N系蛍光体は、化学安定性が良好である。したがって、La−Si−N系蛍光体にTb3+あるいはDy3+,Yb3+を付活した本発明の実施形態にかかる蛍光体は、VFD,FED等の電子線照射下でも安定な、すなわち長期にわたって効率低下の極めて少ない緑色蛍光を発する。上述したように緑色は人間の視感度が最も高い波長領域であるため、本発明にかかる蛍光体を緑色蛍光体として用いた発光装置は、長期にわたって高い輝度を維持することが可能となる。
【0019】
本発明の実施形態にかかる蛍光体は、例えば、下記一般式(1)で表わされる。
【0020】
La(1-x)Si35:xZ (1)
(上記一般式(1)中、Zは、Tb、Dy、およびYbからなる群から選択されるいずれか1種の元素である。xは0.02以上0.10以下の範囲内である。)
Tb、Dy、およびYbからなる群から選択される元素は、いずれか1種が単独で付活元素として用いられる。すなわち、Tb,DyおよびYbからなる群から選択されるいずれか一種の元素は、付活元素の主成分として含有される。Tb,DyおよびYbからなる群から選択されるいずれか一種の元素を付活元素の主成分として含有するとは、典型的には、これらの元素を付活元素総量の80mol%以上、望ましくは90mol%以上、より望ましくは95mol%以上含有することを意味する。これらの元素の2種以上を混合して用いた場合には、双方が相互にキラーとして働き発光効率が低下する。したがって、本発明の実施形態にかかる蛍光体においては、Tb、DyおよびYbは、混合せずに単独でZとして用いられる。
【0021】
上述のいずれかの元素からなるZの含有量が多すぎる場合には、濃度消光が生じ、一方、少なすぎる場合には、その効果が得られずに、輝度が低すぎる。したがって、Zの値は、0.02以上0.1以下の範囲内に規定される。より好ましくは、Zは0.04以上0.07以下の範囲内である。
【0022】
本発明の実施形態にかかる蛍光体は、例えば、以下のような手法により合成することができる。
【0023】
まず、構成元素の酸化物粉末または窒化物粉末を所定量秤量し、結晶成長剤として適当量のY23等の希土類酸化物粉末を加えてボールミル等で混合する。あるいは、酸化物粉末の代わりに、構成元素の供給源となり得る各種化合物を用いることもできる。例えば、La原料としてはLaN等、SiおよびNの原料としてはSi34等を用いることができる。また、Tb原料としてはTb47等、Dy原料としてはDy23等、Yb原料としてはYb23等を用いることができる。こうした原料粉末が結晶成長剤としても作用する場合には、必ずしもY23等の希土類酸化物粉末等の結晶成長剤を別途加えなくてもよい。
【0024】
結晶成長剤としては、フッ化物、硫化物などを用いてもよい。吸湿性の増加を防止するために、結晶成長剤の添加量は、原料粉末全体に対して0.1重量%以上5重量%以下程度とすることが好ましい。
【0025】
原料のLaN等窒化物が嫌気性であることから、原料粉末の混合は、アルゴンもしくは窒素雰囲気としたグローブボックス内で行なうことが望まれる。例えば、酸素、水分を含む大気中等の雰囲気の場合には、原料窒化物が酸化あるいは加水分解されるため、生成物の顕著な組成ずれといった不都合が生じるおそれがある。
【0026】
得られた混合粉末は、坩堝に収容して、1800〜2000℃程度、例えば1900℃で1〜4時間、例えば2時間、焼成する。坩堝としては、窒化硼素製のものを用いることが好ましい。窒化硼素製坩堝は、高温・高圧下で安定かつ離型性が良好といった点で有利である。場合によっては、モリブデン製、窒化珪素製、またはカーボン製の坩堝を用いることもできる。また、焼成の雰囲気は、窒素雰囲気、水素/窒素混合雰囲気、アンモニア雰囲気等が好ましい。これ以外の雰囲気で焼成が行なわれると、酸化物が生成するおそれがある。
【0027】
所定の条件下で所定時間焼成して得られた焼成物を、乳鉢等を用いて粉砕後、適当なメッシュ幅の篩を通過させることによって、前記一般式(1)で表わされるLa−Si−N系蛍光体粒子を得ることができる。
【0028】
図1に、本発明の一実施形態にかかる発光装置の断面を示す。
【0029】
図示する発光装置においては、樹脂ステム200はリードフレームを成形してなるリード201およびリード202と、これに一体成形されてなる樹脂部203とを有する。樹脂部203は、上部開口部が底面部より広い凹部205を有しており、この凹部の側面には反射面204が設けられる。
【0030】
凹部205の略円形底面中央部には、発光チップ206(発光ダイオード、レーザダイオード等)がAgペースト等によりマウントされている。発光チップ206としては、紫外発光を行なうものを用いることができる。紫外光以外にも、青色や青紫、近紫外光などの波長を発光可能なチップも使用可能である。例えば、GaN系等の半導体発光素子等を用いることが可能である。発光チップ206の電極(図示せず)は、Auなどからなるボンデイングワイヤー207および208によって、リード201およびリード202にそれぞれ接続されている。なお、リード201および202の配置は、適宜変更することができる。
【0031】
樹脂部203の凹部205内には、蛍光層209が配置される。この蛍光層209は、本発明の実施形態にかかる蛍光体210を、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層211中に5重量%から50重量%の割合で分散することによって形成することができる。
【0032】
発光チップ206としては、n型電極とp型電極とを同一面上に有するフリップチップ型のものを用いることも可能である。この場合には、ワイヤーの断線や剥離、ワイヤーによる光吸収等のワイヤーに起因した問題を解消して、信頼性の高い高輝度な半導体発光装置が得られる。また、発光チップ206にn型基板を用いて、次のような構成とすることもできる。具体的には、n型基板の裏面にn型電極を形成し、基板上の半導体層上面にはp型電極を形成して、n型電極またはp型電極をリードにマウントする。p型電極またはn型電極は、ワイヤーにより他方のリードに接続することができる。
【0033】
発光チップ206のサイズ、凹部205の寸法および形状は、適宜変更することができる。本発明の実施形態にかかる蛍光体は、含有されている付活元素に応じて、異なる波長に発光ピークを有する。例えば、付活元素としてTbが含有されている場合には、250nm乃至500nmの波長の光で励起することによって、485nm±10nm,545±10nm、590±10nm、および620±10nmに発光ピークを示す。これらの発光ピークの半値幅は、一般に極めて小さく、20nm未満である。また、付活元素としてDyが含有されている場合には、250nm乃至500nmの波長の光で励起することによって、550nm乃至600nmの間に発光ピークを有する。
【0034】
本発明の実施形態にかかる蛍光体は、電子のエネルギーにより励起して発光を得ることも可能である。例えば、付活元素としてTbまたはDyが含有された場合には、上述したような光励起の場合と同様の波長に発光ピークが得られる。また、付活元素としてYbが含有された場合には、電子のエネルギーにより励起することによって、500nm乃至550nmの範囲内に単一の発光ピークが得られる。なお、単一の発光ピークを有するとは、ピークが一波長で肩状の起伏を示さないバンド形を有することを指し、例えば正規分布状のピークが含まれるものである。
【0035】
本発明の実施形態にかかる蛍光体は、特定の付活元素が単独で含有されているので、こうした蛍光体を含有する蛍光層を設けることによって、高演色性かつ高効率な白色の発光装置が得られる。
【0036】
本発明の実施形態にかかる蛍光体は、CRT方式の投写型ディスプレイに適用することもできる。これは、赤、緑、青のモノクロームCRT(投写管)3個を用いて、レンズ系を介して投写管の画像をスクリーン上に拡大投影する方式のディスプレイである。
【0037】
かかる発光装置の概略構成を表わす断面図の一例を、図2に示す。図示するように、フェースプレート1の内面には、蛍光膜2および反射膜となるアルミニウム膜3が順次形成されている。また、蛍光膜2に電子線を照射するために、アノード5を介して電子銃4が設けられている。こうした投写管は、例えば以下のような手法により製造することができる。まず、対角7インチのガラスバルブ内に、本発明の実施形態にかかる蛍光体を塗布する。次に、蒸着法により、膜厚約0.2μmのアルミニウム膜を成膜した。さらに、アノードおよび電子銃を取りつけて、投写管が完成する。
【0038】
こうした発光装置は、一般家庭用に大画面のテレビジョンとしても用いられるように、大画面である。さらに高輝度の映像を実現するために、このディスプレイに用いられる投写管の蛍光面には高電圧、高電流を印加して使用される。そのために、蛍光面を構成する蛍光体には以下のような特性が要求される。
【0039】
まず、投写管の内面に塗布される蛍光体は、高電流を流しても輝度が飽和しない輝度電流飽和特性を有することが要求される。次に、高温でも安定に高輝度な発光を有することが必要である。すなわち、投写管の蛍光面には大電力電子ビームが入射するために、発光に使用されなかったエネルギーは熱に変換され、蛍光面を形成する蛍光体は100℃以上にも加熱される。そのため、高温でも輝度低下の起こりにくい蛍光体であることが要求される。さらに、このような大電流印加条件で使用されても結晶破壊が起こりにくく、安定な結晶構造の蛍光体であることが要求される。
【0040】
投写管に用いられる代表的な蛍光体は、輝度および高電流密度励起下での輝度飽和特性から、赤色がユーロピウム付活酸化イットリウム(Y23:Eu)、緑色が本発明の実施形態にかかる蛍光体、青色が銀付活硫化亜鉛(ZnS:Ag)である。特に、緑色蛍光体は、これらの中でカラー画面輝度に対する寄与が最も大きいことから、上述した特性が重要視されている。
【0041】
本発明の実施形態にかかる蛍光体は、La−Si−N系蛍光体を母材とし、Tb,DyおよびYbからなる群から選択されるいずれか一種の元素を付活元素の主成分として含有するので、投写管の用途にも好適に用いることができる。
【0042】
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
まず、La0.95Si35:0.05Tbで表わされる組成の蛍光体を調製した。原料粉末としては、LaN粉末、Tb47粉末、およびSi34粉末を用意し、モル比でLaN:Tb47:Si34=0.95:0.0125:1.00となるように秤量した。各原料粉末を、乳鉢を用いてアルゴンガス雰囲気としたグローブボックス内で均一に混合した。
【0044】
得られた混合粉末を窒化硼素製の坩堝内に充填して、7.5気圧の窒素雰囲気下において1900℃、2時間焼成した。焼成物を乳鉢で粉砕し、目開き30μmの篩を通過させることによって、実施例1の蛍光体を得た。
【0045】
図3には、本実施例の蛍光体の室温における400nm励起時の発光スペクトルを示す。ここで用いた発光スペクトルは、分光光度計IMUC7000(大塚電子製)で測定したものである。図3のスペクトルに示されるように、487nm,542nm,588nm,および625nmにシャープなピークが存在する。これらの4つのピークは、人間の色覚反応が強い波長(450nm,540nm,および610nm)に極めて近く、ピークの半値幅が極めて小さい。具体的には、半値幅は20nm未満である。
【0046】
ここで、下記一般式(2)で表わされる従来の蛍光体を用いた以外は、上述と同様にして比較例の白色LEDを作製した。
【0047】
3Al512:Ce (2)
この蛍光体の発光スペクトルは、図8に示されるようにブロードであり、そのピークの半値幅は120nmにも及んでいる。また、得られた白色光は、青みの強いものであった。この結果から、特定の付活元素を含有する本発明の実施形態にかかる蛍光体を用いた本発明の実施形態にかかる白色LEDは、効率を低下させることなく演色性が向上することが確認された。
【0048】
(実施例2)
まず、La0.95Si35:0.05Tbで表わされる組成の蛍光体を調製した。原料粉末としては、LaN粉末、Tb47粉末、およびSi34粉末を用意し、モル比でLaN:Tb47:Si34=0.95:0.0125:3.00となるように秤量した。各原料粉末を、乳鉢を用いてアルゴンガス雰囲気としたグローブボックス内で均一に混合した。
【0049】
得られた混合粉末を窒化硼素製の坩堝内に充填して、7.5気圧の窒素雰囲気下において1900℃、2時間焼成した。焼成物を乳鉢で粉砕し、目開き30μmの篩を通過させることによって、実施例2の蛍光体を得た。
【0050】
図4には、本実施例の蛍光体の室温における加速電圧10kVでの電子線照射下において得られる発光スペクトルを示す。図4のスペクトルに示されるように、487nm,542nm,588nm,および625nmにTb3+特有のシャープなピークが存在する。これら4つのピークは、人間の色覚反応が強い波長(450nm,540nm,および610nm)に極めて近く、半値幅が極めて小さい。具体的には、半値幅は20nm未満である。
【0051】
ここで、下記一般式(3)で表わされる従来の単一バンドの緑色蛍光体の発光スペクトルを図9に示す。
ZnS:Cu,Al (3)
この蛍光体の発光スペクトルは、図9に示されるように半値幅が100nmと大きい。したがって、本実施例の蛍光体を緑色蛍光体として用いた電子線励起ディスプレイは、従来の緑色蛍光体を用いた場合に比して、色再現域を拡大することが可能である。また、発光波長は最も視感度が高い波長領域であり、かつ母材が安定なため、この蛍光体を緑色蛍光体として用いた電子線励起ディスプレイは、従来の単一バンドの緑色蛍光体を用いた場合に比して、長期にわたり高輝度を維持することが可能となる。
【0052】
(実施例3)
Tb47をDy23に変更し、モル比でLaN:Dy23:Si34=0.95:0.025:1.00となるように各原料粉末を秤量した。こうした原料粉末を用いた以外は、実施例1と同様に混合、焼成して、La0.95Si35:0.05Dyで表わされる本実施例の蛍光体を調製した。
【0053】
図5には、本実施例の蛍光体の室温における400nmの紫外線照射下において得られた発光スペクトルを示す。図5のスペクトルに示されるように、570nmにDy3+特有の比較的シャープなピークが存在している。いずれのピークも、半値幅は40nm未満である。しかも、このピークは、人間の色覚反応が強い波長(450nm,540nm,および610nm)に比較的近い。したがって、本実施例の蛍光体を用いて作製した白色LEDは、従来のブロードな単一バンドの蛍光体を用いた白色LEDと比べて、効率を落とすことなく演色性を向上することが可能となる。
【0054】
(実施例4)
Tb47をDy23に変更し、モル比でLaN:Dy23:Si34=0.95:0.025:3.00となるように各原料粉末を秤量した。こうした原料粉末を用いた以外は、実施例2と同様に混合、焼成して、La0.95Si35:0.05Dyで表わされる本実施例の蛍光体を調製した。
【0055】
図6には、本実施例の蛍光体の室温における加速電圧10kVでの電子線照射下において得られる発光スペクトルを示す。図6のスペクトルに示されるように、481nm,570nm,664nm,および753nmに比較的シャープなピークを有するスペクトルが存在する。これら4つのピークは、人間の色覚反応が強い波長(450nm,540nm,および610nm)に比較的近く、また半値幅が比較的小さい。
【0056】
したがって、本実施例の蛍光体を緑色蛍光体として用いた電子線励起ディスプレイは、従来の単一バンドの緑色蛍光体を用いた場合に比して、色再現域を拡大することが可能である。また、発光波長は最も視感度が高い波長領域であり、かつ母材が安定なため、この蛍光体を緑色蛍光体として用いた電子線励起ディスプレイは、従来の単一バンドの緑色蛍光体を用いた場合に比して、長期にわたり高輝度を維持することが可能となる。
【0057】
(実施例5)
Tb47をYb23に変更し、モル比でLaN:Dy23:Si34=0.95:0.025:1.00となるように各原料粉末を秤量した。こうした原料粉末を用いた以外は実施例1と同様に混合、焼成してLa0.95Si35:0.05Ybで表わされる本実施例の蛍光体を調製した。
【0058】
図7には、本実施例の蛍光体の室温における加速電圧10kVでの電子線照射下において得られる発光スペクトルを示す。図7のスベクトルに示されるように、520nmに単一なバンドを有するスペクトルが存在する。この発光波長は、最も視感度が高い波長領域に比較的近く、かつ母材が安定である。したがって、本実施例の蛍光体を緑色蛍光体として用いた電子線励起ディスプレイは、従来の緑色蛍光体を用いた場合に比して、長期にわたり高輝度を維持することが可能となる。
【0059】
もちろん、本発明は上述した実施例に限定されるものではない。細部については様様な態様が可能であることは言うまでもない。
【0060】
La−Si−N系蛍光体を母材として、Tb、DyおよびYbのいずれかの元素が含有されていれば、高演色性かつ高効率な白色の発光装置用紫外線励起蛍光体、および長寿命の電子線励起蛍光体が得られる。
【0061】
本発明の実施形態にかかる蛍光体は、上述の実施例に示した発光装置のみならず、蛍光表示管(VFD)、PDP、CRT、FED、SED等のディスプレイに代表されるダイオード等を光源とする発光装置にも適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態にかかる発光装置の構成を表わす概略図。
【図2】本発明の他の実施形態にかかる発光装置の概略断面図。
【図3】実施例1の蛍光体の400nm励起におけるPL発光スペクトル。
【図4】実施例2の蛍光体の加速電圧10kVの電子線励起におけるCL発光スペクトル。
【図5】実施例3の蛍光体の400nm励起におけるPL発光スペクトル。
【図6】実施例4の蛍光体の加速電圧10kVの電子線励起におけるCL発光スペクトル。
【図7】実施例5の蛍光体の加速電圧10kVの電子線励起におけるCL発光スペクトル。
【図8】従来の蛍光体の400nm励起における発光スペクトル。
【図9】従来の緑色蛍光体の加速電圧10kVの電子線励起における発光スペクトル。
【符号の説明】
【0063】
1…フェースプレート; 2…蛍光膜; 3…アルミニウム膜; 4…電子銃
5…アノード; 200…樹脂ステム; 201…リード; 202…リード
203…樹脂部; 204…反射面; 205…凹部; 206…発光チップ
207…ボンディングワイヤ; 208…ボンディングワイヤ; 209…蛍光層
210…蛍光体; 211…樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tb,DyおよびYbからなる群から選択されるいずれか一種の元素を付活元素の主成分として含有することを特徴とするLa−Si−N系蛍光体。
【請求項2】
前記付活元素はTbであり、波長250nm乃至500nmの範囲の光または電子エネルギーで励起した際に、485±10nm、545±10nm,590±10nm,および620±10nmに発光ピークを有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記付活元素はDyであり、波長250nm乃至500nmの範囲の光または電子エネルギーで励起した際に、550nm乃至600nmの間に発光ピークを有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記付活元素はYbであり、電子のエネルギーによって励起した際に、500nm乃至550nmの間に発光ピークを有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記付活元素の割合は、Laとの合計量の2モル%以上10モル%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項6】
250nm乃至500nmの波長の光を発光する発光素子と、
前記発光素子上に配置され、蛍光体を含有する蛍光体層とを具備し、
前記蛍光体は、TbおよびDyのいずれか一種の元素を付活元素の主成分として含有するLa−Si−N系蛍光体を含むことを特徴とする発光装置。
【請求項7】
電子エネルギーを照射するエネルギー源と、
前記発光素子上に配置され、蛍光体を含有する蛍光体層とを具備し、
前記蛍光体は、Tb、DyおよびYbから選択されるいずれか一種の元素を付活元素の主成分として含有するLa−Si−N系蛍光体を含むことを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−199755(P2006−199755A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10701(P2005−10701)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】