説明

蛍光体および発光装置

【課題】励起・発光特性を改善した蛍光体および発光装置を提供する。
【解決手段】蛍光体は、出発原料にケイ素およびマグネシウムを含有し、発光中心原子としてマンガンを含み、組成は、
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
とする。蛍光体の製造は、まず、CuS、Al、MnS、SiとMgSを、所定の比率で混合する。所定の比率とは、蛍光体に含まれるCu、Al、Mn、Si、Mgが、上述の組成に相当するモル比を満たす比率を指す。そして、CuS、Al、MnS、SiとMgSを混合したものに、更に硫黄を加えて混合し、アルゴン雰囲気中で焼成温度1100℃、焼成温度1時間で焼成し、蛍光体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カルコパイライト系化合物のI−III−VI型化合物やII−IV−V型化合物のうち、CuAlSやCuGaSなどはワイドバンドギャップを有し、また、CuAlSは色純度のよい赤色発光を示すことが知られている。これらは、太陽電池や、発光ダイオード、半導体レーザーなどのエレクトロルミネンスなどの発光材料として開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、カルコパイライト構造を有するI−III−VI族の元素それぞれ1つからなる化合物である蛍光体について、低毒性、高い量子収率の蛍光体、およびその製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、発光強度を著しく高くできる蛍光体としてカルコパイライト化合物中において、発光中心原子としてマンガンを含む組成式
Cu(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
が記載されている。
【0005】
特許文献3には、発光輝度を従来よりも向上させることが可能な発光素子について記載がある。方法として、発光層にキャリア注入を行うキャリア注入層は、
Cu(Ga(1−y)Al)(S(1−z2)Sez2、(0≦y≦1,0≦z2≦0.6)
であることを特徴とする発光素子を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−169605号公報
【特許文献2】特開2008−239699号公報
【特許文献3】特開2009−245973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
関連する技術において、カルコパイライト系化合物であって、発光中心原子にマンガンを用いた蛍光体が記載されており、所定量のケイ素を加えることで発光強度が著しく向上することが知られている。しかしながら、発光体を用いる用途や発光装置によっては、更に高い発光強度を求められるものがある。また、CuAlS:Mnなどで示される赤色発光体は近紫外波長域に強い励起帯を有するが、温度消光が少ないことから、より長波長側の励起であることが期待される。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、励起・発光特性を改善した蛍光体および発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点にかかる蛍光体は、
出発原料にケイ素およびマグネシウムを含有し、
発光中心原子としてマンガンを含み、組成は、
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の観点にかかる発光装置は、
本発明の第1の観点にかかる蛍光体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、励起・発光特性を改善した蛍光体および発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態2に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。発光装置は、発光ダイオードを例に挙げる。
【図2】本発明の実施の形態2に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。発光装置は、冷陰極蛍光ランプを例に挙げる。
【図3】本発明の実施の形態2に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。発光装置は、電界放出型表示(FED:Field Emission Display)装置を例に挙げる。
【図4】本発明の実施の形態2に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。発光装置は、真空蛍光表示(VFD:Vacuum Fluorescent Display)装置を例に挙げる。
【図5】実施例に係る蛍光体の、PLE強度(励起スペクトル)を示す図である。
【図6】実施例に係る蛍光体の、PL強度(発光スペクトル)を示す図である。
【図7】実施例に係る蛍光体の、ケイ素の添加濃度に対する発光ピーク強度について、マグネシウム有無の効果を比較して示す図である。
【図8】実施例に係る蛍光体の、マンガンの添加濃度に対する発光ピーク強度について、マグネシウム有無の効果を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付す。
【0014】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る発光体について説明する。発光体は、出発原料にケイ素およびマグネシウムを含有し、発光中心原子としてマンガンを含み、組成は以下の式で表される。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
【0015】
上述の組成は、以下で表されることが、より好ましい。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4,0.01≦z≦0.2)
【0016】
上述の蛍光体は、カルコパイライト系化合物を賦活する発光中心原子としてマンガンを含有する。この蛍光体は、波長250ないし450nmの励起光により、Mn2+の3d−3d遷移に起因すると思われる波長550ないし750nmの範囲の赤色蛍光が得られる。
【0017】
この蛍光体のマンガンの含有量を増やすと、発光強度は高くなり、発光ピーク波長も長波長側へシフトする。マンガンの含有量は、0.1ないし20mol%が好ましく、特に概10mol%が好ましい。例えばCuAlS2の、発光中心原子としてマンガンを添加した蛍光体へ波長365nmの励起光を照射する場合、マンガンの含有量を、0.1から5mol%まで増やすと、発光強度は増加する。このとき、マンガンの含有量が0.1mol%の場合の発光ピーク波長は595nmであり、5mol%の場合は629nmである。
【0018】
また、蛍光体はケイ素およびセレンを含有するので、フラックス効果を有する。フラックス効果は、マンガンとカルコパイライト系化合物の融合を促進させ、かつ、結晶格子構造の欠陥を減少させるので、励起光によるフォノンの生成を抑制し、マンガンの発光を促進させる。その結果、発光強度および発光波長に影響を及ぼす。
【0019】
この蛍光体は、マンガンを含有することに加えて、ケイ素、セレンを含有することにより、波長250ないし450nmの励起光により、Mn2+の3d−3d遷移に起因すると思われる波長550ないし750nmの範囲の赤色蛍光が得られる。
【0020】
ケイ素の含有量は、2ないし50mol%が好ましく、さらに5ないし30mol%が好ましい。特に好ましくは概20mol%である。例えばCuAlS2の、ケイ素を添加した蛍光体へ波長365nmの励起光を照射する場合、ケイ素の添加量が1ないし10mol%の範囲ではケイ素の含有量の増加とともに発光強度は増加し、10mol%近傍で発光強度は最大となるとともに、発光ピーク波長は長波長側へシフトする。1mol%未満の添加では添加しない場合より発光強度は低くなる。10mol%を越えた添加では、徐々に発光強度の減少が見られ、また、20mol%近くの添加になると、短波長側へシフトする傾向が見られる。
【0021】
さらに、この蛍光体の出発原料にアルミニウムを加えると発光強度が高くなる。また、出発原料にマグネシウムを追加して加え、蛍光体がマグネシウムを含有することにより発光強度が著しく向上する。
【0022】
蛍光体の製造方法は、まず、CuS、Al、MnS、SiとMgSを、所定の比率で混合する。所定の比率とは、蛍光体に含まれるCu、Al、Mn、Si、Mgが、上述の組成に相当するモル比を満たす比率を指す。そして、CuS、Al、MnS、SiとMgSを混合したものに、更に硫黄を加えて混合し、アルゴン雰囲気中で焼成温度1100℃、焼成温度1時間で焼成し、蛍光体を得ることができる。
【0023】
以上、説明したように、本実施の形態1の蛍光体によれば、励起・発光特性を改善することができる。好ましくは、マグネシウムを添加することにより、より発光強度を向上した蛍光体を得ることができる。
【0024】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る発光装置について説明する。発光装置は、上述の発光体を備える発光装置全般を指し、形式や種類などは問わず、全ての発光装置を包含する。例えば、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)素子などの発光素子、エレクトロルミネセンス(EL:Electro Luminescence)素子、冷陰極蛍光ランプや熱陰極蛍光ランプなどの蛍光ランプ、電界放出型表示(FED:Field Emission Display)および真空蛍光表示(VFD:Vacuum Fluorescent Display)を備える各種発光装置を指す。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態2に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。発光装置は、発光ダイオードを例に挙げる。
【0026】
発光ダイオード10は、紫外LEDチップ11、リード線12、パッケージ基板13、電極14、キャビティ15、透明樹脂16、蛍光体17および反射板18を備える。
【0027】
紫外LEDチップ11は、リード線12および電極14を介して、パッケージ基板13と電気的に接続する。
【0028】
紫外LEDチップ11は、電圧が印加されると、紫外線を放射する素子、例えば、GaN系の近紫外線発光ダイオードである。紫外線ダイオードには、配線が接続されており、この配線を介して電圧が印加され、250ないし450nmの波長の紫外線を放射する。
【0029】
キャビティ15は、セラミックや樹脂などで予め成型しておく。透明樹脂16は、例えばエポキシ樹脂やシリコン樹脂で、その樹脂中に蛍光体17を分散させる。透明樹脂16は、キャビティ15に封入して用いるもので、光を分散させるレンズの役割を有する。キャビティ15の透明樹脂16を封入する側の面に反射板18を備えることで、発光ダイオード10から多くの光を取り出すことができる。
【0030】
蛍光体17は、本発明に係る蛍光体で、出発原料にケイ素およびマグネシウムを含有し、発光中心原子としてマンガンを含む赤色蛍光体を用いる。その組成は、以下で表される。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
【0031】
上述の組成は、以下で表されることが、より好ましい。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4,0.01≦z≦0.2)
【0032】
また、蛍光体17は、上述の赤色蛍光体の他、250ないし450nmの波長の紫外線で励起される蛍光体の、青色蛍光体および緑色蛍光体を混合して用いてもよい。青色蛍光体の具体例としては(Ba、Sr、Ca、Mg)10(PO12:Eu2+、BaMgAl1017:Eu2+等を、また、緑色蛍光体の具体例としてZnS:Cu、Al、BaMgAl1017:Eu、Mn等を、それぞれ、挙げることができる。
【0033】
蛍光体17は紫外LEDチップ11が放射する紫外線を受けて励起し、550ないし750nmの赤色蛍光を放射する。その結果、発光ダイオード10を発光させることができる。
【0034】
発光ダイオード10は表面実装型を例に挙げたが、砲弾型でもよい。発光ダイオードの種類や形状は任意に設定できる。
【0035】
以上、説明したように、本実施の形態2の発光装置である発光ダイオードによれば、励起・発光特性を改善した蛍光体を用いるので、より輝度が高く、長波長の光の照射を得ることができる。
【0036】
図2は、本発明の実施の形態2に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。発光装置は、冷陰極蛍光ランプを例に挙げる。冷陰極蛍光ランプ20は、例えば、液晶パネルのバックライトに用いられる。
【0037】
冷陰極蛍光ランプ20は、バルブ21、口金22、電極23、蛍光体膜24、配線25および交流電源26を備える。
【0038】
蛍光体膜24は、バルブ21の内壁に蛍光体を塗布して形成される。蛍光体膜24に用いられる蛍光体は本発明に係る蛍光体であり、赤色蛍光体を指す。赤色蛍光体は、出発原料にケイ素およびマグネシウムを含有し、発光中心原子としてマンガンを含み、組成は以下で表される。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
【0039】
上述の組成は、以下で表されることが、より好ましい。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4,0.01≦z≦0.2)
【0040】
また、蛍光体膜24に用いる蛍光体は、上述の赤色蛍光体の他、青色蛍光体および緑色蛍光体を混合して用いてもよい。青色蛍光体の具体例としては(Ba、Sr、Ca、Mg)10(PO12:Eu2+、BaMgAl1017:Eu2+等を、また、緑色蛍光体の具体例としてZnS:Cu、Al、BaMgAl1017:Eu、Mn等を、それぞれ、挙げることができる。
【0041】
バルブ21は、ガラス管などで形成される。その両端に、バルブ21を気密に封止するための口金22が取り付けられる。その際、バルブ21内部に水銀蒸気および希ガスなどが封入され、また、バルブ21内部は減圧される。交流電源26は配線25および口金22を介してバルブ21へ電源を供給する。口金22に接続された電極23により、バルブ21へ電圧を印加し、希ガス電子の衝突により水銀が励起されて、波長253.7nmなどの紫外線が放出される。その紫外線を受け、バルブ21内に形成された蛍光体膜24は光を放出する。蛍光体膜24に含まれる蛍光体が本発明に係る赤色蛍光体のみの場合、冷陰極蛍光ランプ20は赤色蛍光を放射する。また、蛍光体膜24に含まれる蛍光体が、赤色蛍光体、青色蛍光体および緑色蛍光体からなる場合、冷陰極蛍光ランプ20は白色に発光する。
【0042】
冷陰極蛍光ランプ20を例に挙げたが、熱陰極蛍光ランプや外部電極型蛍光ランプでもよい。蛍光ランプは冷陰極蛍光ランプに限らず、蛍光ランプの種類や形状は任意に設定できる。
【0043】
以上、説明したように、本実施の形態2の発光装置である冷陰極蛍光ランプによれば、励起・発光特性を改善した蛍光体を用いるので、より輝度が高く、長波長の光の照射を得ることができる。
【0044】
図3は、本発明の実施の形態2に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。発光装置は、電界放出型表示(FED:Field Emission Display)装置を例に挙げる。
【0045】
電界放出型表示装置(FED装置)30は、アノード基板31、カソード基板32、カソード電極33、エミッタ(電子放出素子)34、アノード電極35および画素36を備える。画素36は、本実施の形態1に係る蛍光体(赤色蛍光体)を含有する。
【0046】
ガラス等からなるアノード基板31とカソード基板32は、支持枠(図示せず)に支持されて、数mm以下の間隔を開けて、平行に配置されている。また、アノード基板31とカソード基板32の間の空間は支持枠によって大気から隔離され真空に保たれる。
【0047】
アノード基板31の内面には、透明なアノード電極35が配置され、アノード電極35の上には、赤色蛍光体を含有する画素36、青色蛍光体を含有する画素36、および緑色蛍光体を含有する画素36が多数形成されている。赤色蛍光体は、出発原料にケイ素およびマグネシウムを含有し、発光中心原子としてマンガンを含み、以下に示す組成を満たす本発明に係る蛍光体を指す。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
【0048】
上述の組成は、以下で表されることが、より好ましい。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4,0.01≦z≦0.2)
【0049】
また、青色蛍光体は(Ba、Sr、Ca、Mg)10(PO12:Eu2+、BaMgAl1017:Eu2+等を、緑色蛍光体はZnS:Cu、Al、BaMgAl1017:Eu、Mn等を用いる。これらの画素36は互いに隙間を空けて配置されているが、この隙間に、黒色導電材からなる光吸収体を配置して、画素36を互いに隔離するようにしてもよい。
【0050】
カソード基板32の内面には多数のカソード電極33が、アノード基板31の画素36に対向するように配置され、カソード電極33の上には炭素膜等からなるエミッタ34が配置されている。エミッタ34は、カソード基板32に形成される配線によって、支持枠に設けられる信号入力端子に接続されて、配線を介して電圧が印加されるようになっている。
【0051】
カソード電極33とアノード電極35間に電圧が印加されると、エミッタ34から電子が放出され、放出された電子は矢印Aに示すようにアノード電極35に引き付けられ、画素36に衝突し、蛍光を発生させる。発生した蛍光は矢印Bに示すようにアノード基板31から外部へ放出される。
【0052】
以上、説明したように、本実施の形態2の発光装置であるFED装置によれば、画素中に本発明に係る蛍光体を含有するので、大きな輝度を得ることができる。また、本発明に係る蛍光体は導電性を有するので、エミッタから放出される電子が蛍光体に過剰に衝突にして生じる帯電が抑制される。そのため、蛍光体表面の電荷によって、蛍光体と電子との衝突が阻害される事態を回避することができ、逃げ場を失った電子とエミッタ間の異常放電を抑制することができる。
【0053】
図4は、本発明の実施の形態2に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。発光装置は、真空蛍光表示(VFD:Vacuum Fluorescent Display)装置を例に挙げる。
【0054】
真空蛍光表示装置(VFD装置)40は、基板41、配線42、絶縁体層43、スルーホール44、アノード45、蛍光体層46、グリッド47、カソード48および容器49を備える。蛍光体層46は、本実施の形態1に係る蛍光体(赤色蛍光体)を含有する。
【0055】
VFD装置40は、ガラス等からなる基板41上に配線42を配置し、配線42の上を絶縁体層43で覆い、その上にアノード45を設けている。アノード45は絶縁体層43に穿孔されたスルーホール44を介して、配線42と電気的に接続されている。アノード45の上には蛍光体層46が形成される。蛍光体層46は、赤色蛍光体層、青色蛍光体層、緑色蛍光体層があり、それぞれの蛍光体層46は各色に対応する蛍光体をそれぞれ含有している。赤色蛍光体は、出発原料にケイ素およびマグネシウムを含有し、発光中心原子としてマンガンを含み、以下に示す組成を満たす本発明に係る蛍光体を指す。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
【0056】
上述の組成は、以下で表されることが、より好ましい。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4,0.01≦z≦0.2)
【0057】
また、青色蛍光体は(Ba、Sr、Ca、Mg)10(PO12:Eu2+、BaMgAl1017:Eu2+等を、緑色蛍光体はZnS:Cu、Al、BaMgAl1017:Eu、Mn等を用いる。
【0058】
アノード45の上方にはグリッド47が配置され、蛍光体層46を覆っている。グリッド47は基板41上に設けられた端子と電気的に接続されている。グリッド47の上方には、フィラメント状のカソード48が配置されている。カソード48は基板の両端に設けられた支持体(図示せず)に張架される。基板41ないしカソード48は容器49によって大気から隔離され、容器49の内部の空間は真空に保たれる。
【0059】
以上、説明したように、本実施の形態2の発光装置であるVFD装置によれば、カソードから放出される電子を蛍光体層中の蛍光体に当てて、蛍光体からの発光により表示を行う。また、VFD装置は環境温度、特に低温による発光強度の変動が少なく、また本発明に係る蛍光体を蛍光体層に含有するので、大きな輝度が得られる。また、FED装置の場合と同様に、本発明に係る蛍光体は導電性を有して、異常放電を抑制するので、VFD装置は、一定の蛍光を継続して発生させることができる。
【0060】
(実施例)
以下、本発明の実施の形態に係る蛍光体の実施例を挙げて説明する。蛍光体は、まず、CuS、Al、MnS、SiとMgSを、所定の比率で混合し、更に硫黄を加えて混合し、アルゴン雰囲気中で焼成温度1100℃、焼成温度1時間で焼成して製造したものを用いた。所定の比率とは、蛍光体に含まれるCu、Al、Mn、Si、Mgが、以下の組成に相当するモル比を満たす比率を指す。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
【0061】
より好ましくは、組成は以下で表される。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4,0.01≦z≦0.2)
【0062】
スペクトル測定時において、蛍光体を励起するため、波長365nmの紫外線からなる励起光を蛍光体へ照射するものとする。
【0063】
図5は、実施例に係る蛍光体の、PLE強度(励起スペクトル)を示す図である。縦軸に任意の単位である励起強度を取り、横軸に波長(単位はnm)を取る。蛍光体のサンプルは、ケイ素の添加濃度を0mol%、10mol%、20mol%としたものを用意した。どのサンプルにおいても、Mgの添加濃度は一律として、10mol%に固定している。
【0064】
ケイ素の添加濃度が0mol%、10mol%、20mol%のサンプルを比較すると、最も励起強度が大きかったのは、10mol%の時であることが分かった。ケイ素の添加濃度を0mol%から10mol%にするにつれて励起強度は大きくなり、ケイ素の添加濃度を10mol%から20mol%にするにつれて励起強度は小さくなったことから、10mol%前後で、励起強度が最大となる値があることが言える。また、励起スペクトルのピーク位置、すなわち波長を見ると、10mol%の時と比較して20mol%の時の方がピークは左にシフトし、より長波長でピークに達していることが分かった。
【0065】
図6は、実施例に係る蛍光体の、PL強度(発光スペクトル)を示す図である。縦軸に任意の単位である発光強度を取り、横軸に波長(単位はnm)を取る。蛍光体のサンプルは、ケイ素の添加濃度を0mol%、10mol%、20mol%としたものを用意した。どのサンプルにおいても、Mgの添加濃度は一律として、10mol%に固定している。このサンプルは、図5で用いたサンプルと同じものを使用している。
【0066】
ケイ素の添加濃度が0mol%、10mol%、20mol%のサンプルを比較すると、最も発光強度が大きかったのは、10mol%の時であることが分かった。ケイ素の添加濃度を0mol%から10mol%にするにつれて発光強度は大きくなり、ケイ素の添加濃度を10mol%から20mol%にするにつれて発光強度は小さくなったことから、10mol%前後で、発光強度が最大となる値があることが言える。このとき発光スペクトルのピーク波長は、629nmであった。
【0067】
図7は、実施例に係る蛍光体の、ケイ素の添加濃度に対する発光ピーク強度について、マグネシウム有無の効果を比較して示す図である。グラフは、それぞれの蛍光体のサンプルについて発光スペクトルを測定し、その発光ピークの値をプロットしたものである。縦軸に任意の単位である発光ピーク強度を取り、横軸にケイ素を添加した濃度(単位はmol%)を取る。蛍光体のサンプルは、マグネシウムの添加ありと添加なしのそれぞれの場合について、ケイ素の添加濃度を0mol%、10mol%、20mol%としたものを用意した。
【0068】
ケイ素の添加濃度を変化させたときの、マグネシウムの添加ありと添加なしのグラフを比較すると、マグネシウム添加ありの場合において、発光強度が大きくなることが分かった。特に、ケイ素を添加した濃度が10mol%のとき、発光強度が著しく大きくなった。
【0069】
図8は、実施例に係る蛍光体の、マンガンの添加濃度に対する発光ピーク強度について、マグネシウム有無の効果を比較して示す図である。グラフは、それぞれの蛍光体のサンプルについて発光スペクトルを測定し、その発光ピークの値をプロットしたものである。縦軸に任意の単位である発光ピーク強度を取り、横軸にマンガンを添加した濃度(単位はmol%)を取る。蛍光体のサンプルは、マグネシウムの添加ありと添加なしのそれぞれの場合について、マンガンの添加濃度を1mol%、2.5mol%、5mol%、10mol%、20mol%としたものを用意した。
【0070】
マンガンの添加濃度を変化させたときの、マグネシウムの添加ありと添加なしのグラフを比較すると、マグネシウム添加ありの場合であって、かつ、マンガンの添加濃度が10mol%程度までの場合において、発光強度が大きくなることが分かった。特に、マンガンの添加濃度を5ないし10mol%としたときに、発光強度が著しく大きくなった。ただし、マンガンの添加濃度が20mol%付近になると、マグネシウム添加ありとマグネシウム添加無しのグラフは逆転し、マグネシウムを添加する効果が少なくなることが言える。
【0071】
図5ないし図8の実施例の結果より、マンガンとマグネシウムを合わせて蛍光体に添加することで、発光強度が大きくなることが言える。特に、マンガンの含有量を0.1ないし20mol%にし、好ましくは、概10mol%にすることで、発光強度が大きくなる。また、ケイ素とマグネシウムを合わせて蛍光体に添加することで、発光強度が大きく成ることが言える。特に、ケイ素の含有量を2ないし50mol%にし、好ましくは5ないし30mol%にし、最も好ましくは概20mol%にすることで、発光強度が大きくなる。発光ピーク時における波長ができるだけ長波長とするためにも、ケイ素の添加濃度は20mol%程度であることが好ましい。これらの結果より、カルコパイライト系化合物を賦活する発光中心原子としてマンガンを含有し、ケイ素およびマグネシウムを含み、以下の組成を満たす蛍光体は、励起・発光特性を改善することが言えた。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
【0072】
より好ましくは、組成は以下で表される。
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4,0.01≦z≦0.2)
【0073】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0074】
(付記1)出発原料にケイ素およびマグネシウムを含有し、発光中心原子としてマンガンを含み、組成は、
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
であることを特徴とする蛍光体。
【0075】
(付記2)前記組成は、
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4,0.01≦z≦0.2)
であることを特徴とする付記1に記載の蛍光体。
【0076】
(付記3)前記マンガンの含有量は0.1ないし20mol%であることを特徴とする付記1または2に記載の蛍光体。
【0077】
(付記4)前記マンガンの含有量は概10mol%であることを特徴とする付記1ないし3のいずれかに記載の蛍光体。
【0078】
(付記5)前記ケイ素の含有量は2ないし50mol%であることを特徴とする付記1ないし4のいずれかに記載の蛍光体。
【0079】
(付記6)前記ケイ素の含有量は5ないし30mol%であることを特徴とする付記1ないし5のいずれかに記載の蛍光体。
【0080】
(付記7)前記ケイ素の含有量は概20mol%であることを特徴とする付記1ないし6のいずれかに記載の蛍光体。
【0081】
(付記8)付記1ないし7のいずれかに記載の蛍光体を備えることを特徴とする発光装置。
【0082】
(付記9)前記発光装置は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)素子、エレクトロルミネセンス(EL:Electro Luminescence)素子、冷陰極蛍光ランプ、熱陰極蛍光ランプ、電界放出型表示(FED:Field Emission Display)または真空蛍光表示(VFD:Vacuum Fluorescent Display)のいずれかであることを特徴とする付記8に記載の発光装置。
【符号の説明】
【0083】
10 発光ダイオード
11 紫外LEDチップ
12 リード線
13 パッケージ基板
14 電極
15 キャビティ
16 透明樹脂
17 蛍光体
18 反射板
20 冷陰極蛍光ランプ
21 バルブ
22 口金
23 電極
24 蛍光体膜
25 配線
26 交流電源
30 電界放出型表示装置(FED装置)
31 アノード基板
32 カソード基板
33 カソード電極
34 エミッタ(電子放出素子)
35 アノード電極
36 画素
40 真空蛍光表示装置(VFD装置)
41 基板
42 配線
43 絶縁体層
44 スルーホール
45 アノード
46 蛍光体層
47 グリッド
48 カソード
49 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発原料にケイ素およびマグネシウムを含有し、
発光中心原子としてマンガンを含み、組成は、
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)
であることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記組成は、
(Cu1−zMg)(Al1−xGa)(S1−ySe:Mn,Si、
(0≦x≦0.4,0≦y≦0.4,0.01≦z≦0.2)
であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記マンガンの含有量は0.1ないし20mol%であることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記マンガンの含有量は概10mol%であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記ケイ素の含有量は2ないし50mol%であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記ケイ素の含有量は5ないし30mol%であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記ケイ素の含有量は概20mol%であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の蛍光体を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項9】
前記発光装置は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)素子、エレクトロルミネセンス(EL:Electro Luminescence)素子、冷陰極蛍光ランプ、熱陰極蛍光ランプ、電界放出型表示(FED:Field Emission Display)または真空蛍光表示(VFD:Vacuum Fluorescent Display)のいずれかであることを特徴とする請求項8に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−219570(P2011−219570A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88440(P2010−88440)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 木暮 賢司(発行人)社団法人 電子情報通信学会(発行所)、電子情報通信学会技術研究報告 Vol.109 No.404 2010年 1月21日発行
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】