説明

蛍光体および発光装置

【課題】視感度が最大となる波長に対してより近いピーク波長を有する発光スペクトルの光を発する蛍光体を提供する。
【解決手段】蛍光体は、一般式が(Mx,y,(2/n)(ここで、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくともSiを含む1種以上の元素、MはCa、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともCaを含む1種以上の元素、MはSr、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともSrを含む1種以上の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれる少なくともEu2+を含む1種以上の元素を示す。また、mは6/6≦m≦8/6、nは5≦n≦7の範囲である。また、x、y、zは、x+y+z=1、0<x<1、0<y<1、0.01≦z≦0.3を満たす範囲である。)で表されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線又は短波長可視光で効率よく励起され発光する蛍光体およびそれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子と、当該発光素子が発生する光により励起され当該発光素子とは異なる波長域の光を発生する蛍光体とを組み合わせることにより、所望の色の光を得るように構成された種々の発光装置が知られている。
【0003】
特に近年、長寿命且つ消費電力が少ない白色発光装置として、紫外線又は短波長可視光を発光する発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)等の半導体発光素子と、これらを励起光源とする蛍光体とを組み合わせることで白色光を得るように構成された発光装置が注目されている。
【0004】
このような白色発光装置の具体例として、紫外線又は短波長可視光を発光するLEDと、紫外線又は短波長可視光によって励起され青、黄等の色の光をそれぞれ発光する蛍光体を複数組み合わせる方式等が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−38348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の白色発光装置において用いられている黄色発光する蛍光体は、発光スペクトルが視感度曲線と一致しておらず、また、視感度が最大となる波長よりも発光スペクトルのピーク波長が長波長側にシフトしたものである。そのため、蛍光体単体としての変換効率は良好であるものの、白色発光装置としては光束、発光効率の観点から更なる改善が求められている。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、視感度が最大となる波長に対してより近いピーク波長を有する発光スペクトルの光を発する蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の蛍光体は、一般式が(Mx,y,(2/n)(ここで、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくともSiを含む1種以上の元素、MはCa、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともCaを含む1種以上の元素、MはSr、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともSrを含む1種以上の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれる少なくともEu2+を含む1種以上の元素を示す。また、mは6/6≦m≦8/6、nは5≦n≦7の範囲である。また、x、y、zは、x+y+z=1、0<x<1、0<y<1、0.01≦z≦0.3を満たす範囲である。)で表されている。
【0009】
前述の一般式において、M,M,Mの主たる元素のイオン半径がM<M≒Mの場合、x,y,zは、0.50<x/(y+z)<0.8を満たす値であってもよい。例えば、前述の一般式の各組成において、M=Si,X=Cl,M=Ca,M=Sr,M=Eu2+の場合、2価の金属イオンのイオン半径は、M<M≒Mであり、xと(y+z)で表される組成比率によって結晶場の強さが変わる。その結果、組成比率によって発光スペクトルのピーク波長がシフトする。具体的には、x>(y+z)であれば、イオン半径が小さい元素が占める割合が多くなり、発光スペクトルは長波側にシフトする。一方、x<(y+z)であればイオン半径が大きい元素が占める割合が多くなり、発光スペクトルは短波側にシフトする。従来の黄色系蛍光体の発光スペクトルは、視感度曲線のピーク波長よりも長波長側にピーク波長を有しているため、より短波長側にピーク波長を有する蛍光体が求められている。そこで、前述の一般式で表される蛍光体において、イオン半径が大きい元素が占める割合を大きくすることで、発光する光のピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。なお、x/(y+z)が0.50より大きければ、合成時に不純物が多く発生せずに、十分な発光強度が得られる。一方、x/(y+z)が0.80未満であれば、発光スペクトルのピーク波長が従来の蛍光体よりも短波長側にシフトした蛍光体が得られる。
【0010】
前述の一般式において、Xの主たるハロゲン元素がClの場合、ハロゲン元素Xに占めるBrの割合XBrが、0.1<XBr<0.3を満たす値であってもよい。例えば、前述の一般式の各組成において、M=Si,M=Ca,M=Sr,M=Eu2+で、XがCl及びBrの場合、ClとBrのイオン半径はCl<Brであり、その組成比率によって、結晶格子の歪みが変わる。その結果、組成比率によって発光スペクトルのピーク波長がシフトする。つまり、ハロゲン元素XであるClの一部をイオン半径の大きな他のハロゲン元素と置き換えることで、ハロゲン元素XがCl単独の構成と比較して、発光スペクトルのピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。なお、XBrが0.10より大きければ、発光スペクトルのピーク波長が従来の蛍光体よりも短波長側にシフトし、視感度的に有利な発光スペクトルの光を発する蛍光体が得られる。一方、XBrが0.30未満であれば、合成時に不純物が多く発生せずに、十分な発光強度の光を発する蛍光体が得られる。
【0011】
本発明の別の態様は、発光装置である。この発光装置は、紫外線又は短波長可視光を発する発光素子と、紫外線又は短波長可視光により励起され可視光を発光する第1の蛍光体と、紫外線又は短波長可視光により励起され、第1の蛍光体が発光する可視光と補色の関係にある可視光を発光する第2の蛍光体を備え、各蛍光体からの光を加色混合して白色光を得るように構成された発光装置である。第1の蛍光体は、一般式が(M,M,M(2/n)(ここで、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくともSiを含む1種以上の元素、MはCa、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともCaを含む1種以上の元素、MはSr、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともSrを含む1種以上の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれる少なくともEu2+を含む1種以上の元素を示す。また、mは6/6≦m≦8/6、nは5≦n≦7の範囲である。また、x、y、zは、x+y+z=1、0<x<1、0<y<1、0.01≦z≦0.3を満たす範囲である。)で表されている。
【0012】
また、前記一般式で表される前記第1の蛍光体は、紫外線又は短波長可視光、特に400nm付近の波長域で効率よく励起され高い発光強度の可視光を発光することが新たに見いだされており、この蛍光体を発光装置に用いてもよい。
【0013】
また、発光装置の演色性の観点から、第1の蛍光体の発光スペクトルは、ピーク波長が560〜590nmの波長域にあり、半値幅が100nm以上であることが好ましい。より好ましくは、ピーク波長が576nm以下であるとよい。更に好ましくは、ピーク波長が574nm以下であるとよい。
【0014】
第2の蛍光体は、第1の蛍光体が発する可視光と補色の関係にある可視光を発光するものであればその発光スペクトルは特に限定されるものではない。なお、白色光の発光装置を得る目的においては、第1の蛍光体が黄色系の光を発光する場合、その補色光である青色光を発光する蛍光体を用いることが好ましい。また、同様の目的においては、演色性の観点から、第2の蛍光体の発光スペクトルは、ピーク波長が440nm〜470nmの波長域にあり、半値幅が30〜60nmであることが好ましい。
【0015】
発光素子は、少なくとも紫外線又は短波長可視光を発するものであればその発光スペクトルは特に限定されるものではないが、発光装置の発光効率等の観点から、発光スペクトルのピーク波長が350nm〜430nmの範囲に含まれていることが好ましい。
【0016】
また、発光素子の具体例としては、例えば、LEDやLD等の半導体発光素子、真空放電や熱発光からの発光を得るための光源、電子線励起発光素子等の各種光源を用いることができる。より好ましくは、発光素子として半導体発光素子を用いることにより、小型で省電力、長寿命な発光装置を得ることができる。このような半導体発光素子の好適な例として、400nm付近の波長域の発光特性が良好であるInGaN系のLEDやLDを挙げることができる。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、視感度が最大となる波長に対してより近いピーク波長を有する発光スペクトルの光を発する蛍光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施の形態に係る発光装置の概略断面図である。
【図2】本実施例に係る蛍光体1〜4,8について、CuのKα特性X線を用いたX線回折の測定結果を示す図である。
【図3】本実施例に係る蛍光体5〜8について、CuのKα特性X線を用いたX線回折の測定結果を示す図である。
【図4】本実施例に係る蛍光体1のリートベルト解析の結果を示す図である。
【図5】蛍光体2,4,8が発する発光スペクトルと視感度曲線を示した図である。
【図6】蛍光体6,7,8が発する発光スペクトルと視感度曲線を示した図である。
【図7】発光装置に700mAの駆動電流を印加したときの実施例の発光スペクトル(太線)及び比較例の発光スペクトル(細線)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0021】
図1は、本実施の形態に係る発光装置の概略断面図である。図1に示す発光装置10は、基板12上に一対の電極14(陽極)及び電極16(陰極)が形成されている。電極14上には半導体発光素子18がマウント部材20により固定されている。半導体発光素子18と電極14はマウント部材20により導通されており、半導体発光素子18と電極16はワイヤー22により導通されている。半導体発光素子の上には蛍光層24が形成されている。
【0022】
基板12は、導電性を有しないが熱伝導性は高い材料によって形成されることが好ましく、例えば、セラミック基板(窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、ムライト基板、ガラスセラミック基板)やガラスエポキシ基板等を用いることができる。
【0023】
電極14及び電極16は、金や銅等の金属材料によって形成された導電層である。
【0024】
半導体発光素子18は、本発明の発光装置に用いられる発光素子の一例であり、例えば、紫外線又は短波長可視光を発光するLEDやLD等を用いることができる。具体例として、InGaN系の化合物半導体を挙げることができる。InGaN系の化合物半導体は、Inの含有量によって発光波長域が変化する。Inの含有量が多いと発光波長が長波長となり、少ない場合は短波長となる傾向を示すが、ピーク波長が400nm付近となる程度にInが含有されたInGaN系の化合物半導体が発光における量子効率が最も高いことが確認されている。
【0025】
マウント部材20は、例えば銀ペースト等の導電性接着剤又は金錫共晶はんだ等であり、半導体発光素子18の下面を電極14に固定し、半導体発光素子18の下面側電極と基板12上の電極14を電気的に接続する。
【0026】
ワイヤー22は、金ワイヤー等の導電部材であり、例えば超音波熱圧着等により半導体発光素子18の上面側電極及び電極16に接合され、両者を電気的に接続する。
【0027】
蛍光層24には、後述する各蛍光体がバインダー部材によって半導体発光素子18の上面を覆う膜状(層状)に封止されている。蛍光層24は、例えば、液状又はゲル状のバインダー部材に蛍光体を混入した蛍光体ペーストを作製した後、その蛍光体ペーストを半導体発光素子18の上面に塗布し、その後に蛍光体ペーストのバインダー部材を硬化することにより形成される。バインダー部材としては、例えば、シリコーン樹脂やフッ素樹脂等を用いることができる。また、本実施の形態に係る発光装置は、励起光源として紫外線又は短波長可視光を用いることから、耐紫外線性能に優れたバインダー部材が好ましい。
【0028】
また、蛍光層24は、蛍光体以外の種々の物性を有する物質が混入されていてもよい。バインダー部材よりも屈折率の高い物質、例えば、金属酸化物、フッ素化合物、硫化物等が蛍光層24に混入されることにより、蛍光層24の屈折率を高めることができる。これにより、半導体発光素子18から発生する光が蛍光層24へ入射する際に生ずる全反射が低減され、蛍光層24への励起光の取り込み効率を向上させるという効果が得られる。更に、混入する物質の粒子径をナノサイズにすることで、蛍光層24の透明度を低下させることなく屈折率を高めることができる。また、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン等の平均粒径0.3〜3μm程度の白色粉末を光散乱剤として蛍光層24に混入することができる。これにより、発光面内の輝度,色度むらを防止することができる。
【0029】
次に、本実施の形態に係る発光装置に用いられる各蛍光体について詳述する。
【0030】
(第1の蛍光体)
第1の蛍光体は、例えば、次のようにして得ることができる。第1の蛍光体は、原料として下記組成式(1)〜(4)で表される化合物を用いることができる。
(1)M(MはSi、Ge、Ti、Zr、Sn等の4価の元素を示す。)
(2)MO(MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn等の2価の元素を示す。)
(3)M(MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn等の2価の元素、Xはハロゲン元素を示す。)
(4)M(MはEu2+等の希土類元素及び/又はMnを示す。)
【0031】
組成式(1)の原料として、例えば、SiO、GeO、TiO、ZrO、SnO等を用いることができる。組成式(2)の原料として、例えば、2価の金属イオンの炭酸塩、酸化物、水酸化物等を用いることができる。組成式(3)の原料として、例えば、SrCl、SrCl・6HO、MgCl、MgCl・6HO、CaCl、CaCl・2HO、BaCl、BaCl・2HO、ZnCl、MgF、CaF、SrF、BaF、ZnF、MgBr、CaBr、SrBr、BaBr、ZnBr、MgI、CaI、SrI、BaI、ZnI等を用いることができる。組成式(4)の原料として、例えば、Eu、Eu(CO、Eu(OH)、EuCl、MnO、Mn(OH)、MnCO、MnCl・4HO、Mn(NO・6HO等を用いることができる。
【0032】
組成式(1)の原料としては、Mが少なくともSiを必須とし、Si、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、Siの割合が80mol%以上である化合物が好ましい。組成式(2)の原料としては、Mが少なくともCa及び/又はSrを必須とし、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、Ca及び/又はSrの割合が60mol%以上である化合物が好ましい。組成式(3)の原料としては、Mが少なくともSrを必須とし、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、Srが30mol%以上である化合物が好ましい。また、組成式(3)の原料としては、Xが少なくともClを必須とする少なくとも1種のハロゲン元素であり、Clの割合が50mol%以上である化合物が好ましい。組成式(4)の原料としては、Mが2価のEuを必須とする希土類元素であることが好ましく、Mn又はEu以外の希土類元素等を含んでもよい。
【0033】
組成式(1)〜(4)の原料のモル比を、(1):(2)=1:0.1〜1.0、(2):(3)=1:0.2〜12.0、(2):(4)=1:0.05〜4.0、好ましくは、(1):(2)=1:0.25〜1.0、(2):(3)=1:0.3〜6.0、(2):(4)=1:0.05〜3.0、より好ましくは(1):(2)=1:0.25〜1.0、(2):(3)=1:0.3〜4.0、(2):(4)=1:0.05〜3.0の割合で秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得る。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で、所定の雰囲気(H:N=5:95)、温度700℃以上1100℃未満で3〜40時間焼成し、焼成物を得る。この焼成物を温純水で丹念に洗浄し、余剰の塩化物を洗い流すことにより第1の蛍光体を得ることができる。第1の蛍光体は、紫外線又は短波長可視光により励起され可視光を発光する。
【0034】
なお、組成式(3)の原料(2価の金属ハロゲン化物)については、化学量論比以上の過剰量を秤量することが好ましい。これは、焼成中にハロゲン元素の一部が気化蒸発してしまうことを考慮したものであり、ハロゲン元素の不足に起因する蛍光体の結晶欠陥の発生を防止するためである。また、過剰に加えられた組成式(3)の原料は、焼成温度では液化し、固相反応の融剤として働き、固相反応の促進及び結晶性を向上させる。
【0035】
なお、前述した原料混合物の焼成後においては、前述の過剰添加された組成式(3)の原料は、製造された蛍光体の中で不純物として存在する。そこで、純度及び発光強度が高い蛍光体を得るためには、これらの不純物を温純水で洗い流す必要がある。本実施の形態の第1の蛍光体の一般式に示された組成比は、不純物を洗い流した後の組成比であり、上記のように過剰添加され不純物となった組成式(3)の原料はこの組成比において加味されていない。
【0036】
本実施の形態において発光効率の高い蛍光体を得るには、不純物となる金属元素を極力少なくすることが好ましい。特にFe、Co、Ni等の遷移金属元素は発光の阻害剤として作用するため、これらの元素の合計が500ppm以下になるように、純度の高い原料の使用、及び合成工程での不純物の混入を防ぐことが好ましい。
【0037】
(第2の蛍光体)
第2の蛍光体は、例えば、次のようにして得ることができる。第2の蛍光体は、原料としてCaCO、MgCO、CaCl、CaHPO、及びEuを用い、これらの原料をモル比がCaCO:MgCO:CaCl:CaHPO:Eu=0.05〜0.35:0.01〜0.50:0.17〜0.50:1.00:0.005〜0.050となるよう所定の割合で秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得る。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、2〜5%のHを含むN雰囲気中で、温度800℃以上1200℃未満で3時間焼成し、焼成物を得る。この焼成物を温純水で丹念に洗浄し、余剰の塩化物を洗い流すことにより第2の蛍光体を得ることができる。第2の蛍光体は、第1の蛍光体が発光する可視光と補色の関係にある可視光を発光する。
【0038】
なお、前述の原料混合物を得る際のCaClの秤量(モル比)については、製造される第2の蛍光体の組成比に対して、その化学量論比よりも0.5mol以上の過剰量を秤量することが好ましい。これにより、Clの不足に起因する第2の蛍光体の結晶欠陥の発生を防止することができる。
【0039】
<蛍光体の結晶構造の特定>
次に、本実施の形態に係る蛍光体の結晶構造等の決定について説明する。以下では、ある物質を一例として説明するが、後述の各蛍光体も同様の方法によって結晶構造等を決定することができる。
【0040】
はじめに、以下に述べる母体結晶の単結晶を成長させた。この母体結晶は、一般式M・aMO・bM:Mにおいて、M=Si、M=Ca及びSr、M=Sr、X=Clとし、Mは含有しない物質である。
【0041】
<母体結晶の生成と分析>
母体結晶の単結晶の結晶成長は、以下の手順で実施した。まず、SiO、CaO、SrClの各原料を、これらのモル比がSiO:CaO:SrCl=1:0.71:1.07となるように秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をタブレット型に詰め100MPaで一軸圧縮成形をし、成形体を得た。この成形体をアルミナ坩堝に入れ蓋をした後に、大気中で1030℃で36時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水と超音波で洗浄し、母体結晶を得た。このようにして生成した母体結晶の中にΦ0.2mmの単結晶を得た。
【0042】
得られた母体結晶について、以下の方法で元素定量分析を行い、組成比(一般式におけるa、bの値)を決定した。
【0043】
(1)Siの定量分析
母体結晶を炭酸ナトリウムにより白金坩堝中で融解した後に、希硝酸で溶解処理して定容とした。この溶液についてICP発光分光分析装置(SIIナノテクノロジー株式会社製:SPS−4000)を用いSi量を測定した。
(2)金属元素の定量分析
母体結晶を不活性ガス下で過塩素酸、硝酸及びフッ化水素酸で加熱分解し、希硝酸で溶解処理して定容とした。この溶液について前述のICP発光分光分析装置を用い金属元素量を測定した。
(3)Clの定量分析
母体結晶を管状電気炉で燃焼し、発生ガスを吸着液に吸着させた。この溶液についてDionex社製DX−500を用いイオンクロマトグラフ法でCl量を決定した。
(4)Oの定量分析
母体結晶をLECO社製の窒素酸素分析装置TC−436を用い、試料をアルゴン中で熱分解し、発生酸素を赤外線吸収法で定量した。
【0044】
以上の元素定量分析の結果、得られた母体結晶のおおよその組成比は以下の式(1)の通りである。
SiO・1.05(Ca0.6,Sr0.4)O・0.15SrCl・・・式(1)
【0045】
また、ピクノメータによって測定した前述の母体結晶の比重は3.4であった。
【0046】
母体結晶の単結晶について、イメージングプレート単結晶自動X線構造解析装置(RIGAKU製:R−AXIS RAPID)により、MoのKα線(波長λ=0.71Å)を用いたX線回折パターンを測定した(以下、測定1と呼ぶ)。
【0047】
測定1により、2θ<60°(d>0.71Å)の範囲で得られた5709本の回折斑点を用いて以下の結晶構造解析を行った。
【0048】
母体結晶について、測定1によるX線回折パターンから、データ処理ソフト(RIGAKU 製:Rapid Auto)を用い、母体結晶の結晶系、ブラベ格子、空間群、及び格子定数を以下の通り決定した。
結晶系:単斜晶
ブラベ格子:底心単斜格子
空間群:C2/m
格子定数:
a=13.3036(12)Å
b=8.3067(8)Å
c=9.1567(12)Å
α=γ=90°
β=110.226(5)°
V=949.50(18)Å
【0049】
その後、結晶構造解析ソフト(RIGAKU製:Crystal Stracture)を用い、直接法により大まかな構造を決定した後、最小二乗法により構造パラメータ(席占有率、原子座標、温度因子等)を精密化した。精密化は、|F|>2σの独立な1160点の|F|に対して行い、その結果、信頼度因子R=2.7%の結晶構造モデルが得られた。この結晶構造モデルを、以後「初期構造モデル」と呼ぶ。
【0050】
単結晶から求めた初期構造モデルの原子座標と占有率を表1に示す。
【表1】

【0051】
単結晶より求めた初期構造モデルの組成比は、以下の式(2)のように算出された。
SiO・1.0(Ca0.6,Sr0.4)O・0.17SrCl・・・式(2)
【0052】
前述の蛍光体の一般式において、金属イオン(2価)、4価の酸化物イオン、ハロゲンイオンを並べ替え、新たな一般式(Mx,y,2/nとして表記すると以下の式(3)のようになる。
(Ca0.51,Sr0.497/6SiOCl2/6・・・式(3)
【0053】
上記解析の結果、前述の母体結晶は、X線回折に広く用いられるX線回折データベースであるICDD(International Center for Diffraction Date)に登録されていない新規構造の結晶であることが判明した。このような解析手法を後述する各蛍光体についても適用した。
【実施例】
【0054】
上述した蛍光体や発光装置について、以下、実施例を用いて更に具体的に説明するが、下記の蛍光体や発光装置の原料、製造方法、蛍光体の化学組成等の記載は本発明の蛍光体や発光装置の実施の形態を何ら制限するものではない。
【0055】
はじめに、本実施例の発光装置において用いた蛍光体について詳述する。
【0056】
<蛍光体1>
蛍光体1は、(Ca0.43,Sr0.51,Eu0.067/6SiO3Cl2/6で表される蛍光体である。蛍光体1は、前述の一般式(Mx,y,2/nにおいて、M=Si、M=Ca、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.43,0.51,0.06となるように合成されている。なお、蛍光体1において、2価の金属イオンのイオン半径の大小比を示す値x/(y+z)は0.754である。また、蛍光体1は、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトが生成されている。蛍光体1の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrCO、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrCO:SrCl・6HO:Eu=1.1:0.42:0.03:1.0:0.13となるように秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で所定の雰囲気(H:N=5:95)、温度1000℃で5〜40時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、蛍光体1を得た。
【0057】
<蛍光体2>
蛍光体2は、(Ca0.40,Sr0.53,Eu0.077/6SiO3Cl2/6で表される蛍光体である。蛍光体2は、一般式(Mx,y,2/nにおいて、M=Si、M=Ca、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.40,0.53,0.07となるように合成されている。なお、蛍光体2において、2価の金属イオンのイオン半径の大小比を示す値x/(y+z)は0.667である。また、蛍光体2は、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトが生成されている。蛍光体2の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrCO、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrCO:SrCl・6HO:Eu=1.1:0.39:0.06:1.0:0.13となるように秤量し、その後は蛍光体1と同様の方法で蛍光体2を得た。
【0058】
<蛍光体3>
蛍光体3は、(Ca0.38,Sr0.56,Eu0.067/6SiO3Cl2/6で表される蛍光体である。蛍光体3は、一般式(Mx,y,2/nにおいて、M=Si、M=Ca、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.38,0.56,0.06となるように合成されている。なお、蛍光体3は、2価の金属イオンのイオン半径の大小比を示す値x/(y+z)は0.613である。また、蛍光体3は、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトが生成されている。蛍光体3の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrCO、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrCO:SrCl・6HO:Eu=1.1:0.32:0.13:1.0:0.13となるように秤量し、その後は蛍光体1と同様の方法で蛍光体3を得た。
【0059】
<蛍光体4>
蛍光体4は、(Ca0.35,Sr0.58,Eu0.077/6SiO3Cl2/6で表される蛍光体である。蛍光体4は、一般式(Mx,y,2/nにおいて、M=Si、M=Ca、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.35,0.58,0.07となるように合成されている。なお、蛍光体4は、2価の金属イオンのイオン半径の大小比を示す値x/(y+z)は0.538である。また、蛍光体4は、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトが生成されている。蛍光体4の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrCO、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrCO:SrCl・6HO:Eu=1.1:0.29:0.16:1.0:0.13となるように秤量し、その後は蛍光体1と同様の方法で蛍光体4を得た。
【0060】
<蛍光体5>
蛍光体5は、(Ca0.53,Sr0.37,Eu0.107/6SiO3(Cl0.86,Br0.142/6で表される蛍光体である。蛍光体5は、一般式(Mx,y,2/nにおいて、M=Si、M=Ca、M=Sr、X=Cl及びBr、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.53,0.37,0.10となるように合成されており、組成ハロゲン中のBrのモル比XBrは0.14である。また、蛍光体5は、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトが生成されている。蛍光体5の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrBr、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrBr:SrCl・6HO:Eu=1.1:0.45:0.26:0.78:0.13となるように秤量し、その後は蛍光体1と同様の方法で蛍光体5を得た。
【0061】
<蛍光体6>
蛍光体6は、(Ca0.46,Sr0.49,Eu0.057/6SiO3(Cl0.77,Br0.232/6で表される蛍光体である。蛍光体6は、一般式(Mx,y,2/nにおいて、M=Si、M=Ca、M=Sr、X=Cl及びBr、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.46,0.49,0.05となるように合成されており、組成ハロゲン中のBrのモル比XBrは0.23である。また、蛍光体6は、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトが生成されている。蛍光体6の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrBr、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrBr:SrCl・6HO:Eu=1.1:0.45:0.39:0.65:0.13となるように秤量し、その後は蛍光体1と同様の方法で蛍光体6を得た。
【0062】
<蛍光体7>
蛍光体7は、(Ca0.51,Sr0.44,Eu0.057/6SiO3(Cl0.72,Br0.282/6で表される蛍光体である。蛍光体7は、一般式(Mx,y,2/nにおいて、M=Si、M=Ca、M=Sr、X=Cl及びBr、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.51,0.44,0.05となるように合成されており、組成ハロゲン中のBrのモル比XBrは0.28である。また、蛍光体7は、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトが生成されている。蛍光体7の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrBr、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrBr:SrCl・6HO:Eu=1.1:0.45:0.65:0.65:0.13となるように秤量し、その後は蛍光体1と同様の方法で蛍光体7を得た。
【0063】
<蛍光体8>
蛍光体8は、(Ca0.47,Sr0.48,Eu0.057/6SiOCl2/6で表される蛍光体である。蛍光体8は、一般式(Mx,y,2/nにおいて、M=Si、M=、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.47,0.48,0.05となるように合成されている。なお、蛍光体8において、2価の金属イオンのイオン半径の大小比を示す値x/(y+z)は0.887である。また、蛍光体8は、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトが生成されている。蛍光体8の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrCl・6HO:Eu=1.1:0.45:1.0:0.13となるように秤量し、その後は蛍光体1と同様の方法で蛍光体8を得た。
【0064】
(比較例)
<蛍光体9>
蛍光体9は、(Ca0.32,Sr0.59,Eu0.097/6SiOCl2/6で表される蛍光体である。蛍光体9は、一般式(Mx,y,2/nにおいて、M=Si、M=、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.32,0.59,0.09となるように合成されている。なお、蛍光体9において、2価の金属イオンのイオン半径の大小比を示す値x/(y+z)は0.470である。また、蛍光体9は、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトが生成されている。蛍光体9の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrCO、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrCO:SrCl・6HO:Eu=1.1:0.23:0.23:1.0:0.13となるように秤量し、その後は蛍光体1と同様の方法で蛍光体9を得た。
【0065】
<蛍光体10>
蛍光体10は、(Ca0.50,Sr0.45,Eu0.057/6・SiO.(Cl0.67,Br0.332/6で表される蛍光体である。蛍光体10は、一般式(Mx,y,))2/nにおいて、M=Si、M=、M=Sr、X=Cl及びBr、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.50,0.45,0.05となるように合成されており、組成ハロゲン中のBrのモル比XBrは0.33である。また、蛍光体10は、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトが生成されている。蛍光体10の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrBr、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrBr:SrCl・6HO:Eu=1.1:0.45:0.71:0.65:0.13となるように秤量し、その後は蛍光体1と同様の方法で蛍光体10を得た。
【0066】
次に、上述の各蛍光体についての結晶X回折測定を行った。まず、粉末X線回折装置(RIGAKU製:RINT UltimaIII)により、CuのKα特性X線を用い、粉末X線回折測定を行った(以下、測定2と呼ぶ)。測定2で観測された回折パターンを図2、図3に示す。図2は、本実施例に係る蛍光体1〜4,8について、CuのKα特性X線を用いたX線回折の測定結果を示す図である。図3は、本実施例に係る蛍光体5〜8について、CuのKα特性X線を用いたX線回折の測定結果を示す図である。図2、図3に示すように、蛍光体1〜8は、X線回折パターンが非常によく一致しており、同じ結晶構造をした蛍光体であることが分かる。
【0067】
更に詳細な結晶構造を求めるために、粉末状の蛍光体サンプルを粉末母体結晶として、財団法人高輝度科学センター「Super Photon ring−8 GeV(SPring−8)」のBL02B2大型デバイ・シェラーカメラにより、波長0.8022ÅのX線を用い精密なX線回折測定を行った(以下、測定3と呼ぶ)。測定3で観測された回折パターンに対しリートベルト解析を実施し、蛍光体組成及び格子定数を特定した。リートベルト解析を実施するに当たり、モデルとして前述の初期構造モデルの格子定数、原子座標及び、空間群を用い精密化を行った。図4は、本実施例に係る蛍光体1のリートベルト解析の結果を示す図である。その結果、測定3で観測された回折パターンとリートベルト解析によりフィッティングした計算回折パターンはよく一致しており、一致尺度を判定するR因子は、RWP=5.76%と非常に小さな値を示した。
【0068】
リートベルト解析より算出した、蛍光体1〜10の組成比を表2に示す。なお、蛍光体9は、不純物が多く、リートベルト解析では収束しなかったので、電子プローブX線マイクロアナライザ(EPMA)での分析値を示す。
【表2】

【0069】
次に、リートベルト解析より算出した、蛍光体1〜10の格子定数を表3に示す。
【表3】

【0070】
次に、蛍光体1〜10について、発光ドミナント波長及びその光束比について表4に示す。なお、光束比は蛍光体8に400nmの励起光を照射したときに測定された光束を100としたときの比率で示している。また、蛍光体9は、EPMA分析によって算出した値を示している。
【表4】

【0071】
前述のように、蛍光体1〜4及び8〜9は、一般式(M,M,M2/nにおいて、M=Si、M=Ca、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+で構成されたサンプルである。これらのサンプルにおいては、含有するイオン半径の異なる2価の金属元素CaとSr(及びEu2+)の比率が異なる。この場合、表4に示すように、イオン半径が小さなCaの比率を表すモル比x/(y+z)の値が小さくなるほど、発光スペクトルのピーク波長は短波長側にシフトすることが分かる。図5は、蛍光体2,4,8が発する発光スペクトルと視感度曲線を示した図である。
【0072】
しかしながら、含有する2価の金属元素の中でCaの占める割合を表すx/(y+z)の値が0.5を下回り、0.47になると発光強度が低く、蛍光特性が低下することが分かる(蛍光体9)。そのため、x/(y+z)は0.5より大きいことが好ましい。
【0073】
また、蛍光体5〜7及び10は、一般式(M,M,M2/nにおいて、M=Si、M=Ca、M=Sr、M=Eu2+で構成され、含有するハロゲン元素XとしてClのほかにBrを含有した例である。その結果、含有するハロゲン元素中のBrのモル比(XBr)が多くなるほど発光スペクトルのピーク波長が短波長側にシフトしていることが分かる(表4参照)。図6は、蛍光体6,7,8が発する発光スペクトルと視感度曲線を示した図である。
【0074】
しかしながら、含有するXBrが0.30を上回り、0.33になると発光強度が低く、蛍光特性が低下することが分かる(蛍光体10)。つまり、XBrは0.3以下であることが好ましい。
【0075】
以上より、蛍光体8(比較例)に対し、イオン半径の大きな元素(Sr,Br)の含有量が多い蛍光体では、蛍光体の発光スペクトルのピーク波長が短波長側へシフトし、視感度の良好な波長で発光することから、蛍光体の光束比が向上した。
【0076】
次に、実施例に係る発光装置の構成について詳述する。
【0077】
<発光装置の構成>
実施例に係る発光装置は、図1に示した発光装置において下記の具体的な構成を用いたものである。下記の発光装置の構成は、用いた蛍光体の種類を除き、実施例及び比較例において共通の構成である。
【0078】
はじめに、基板12として窒化アルミニウム基板を用い、その表面に金を用いて電極14(陽極)及び電極16(陰極)を形成した。半導体発光素子18としては、405nmに発光ピークを持つ1mm四方のLED(SemiLEDs社製:MvpLEDTMSL−V−U40AC)を用いる。そして、電極14(陽極)上にディスペンサーを用いて滴下した銀ペースト(エイブルスティック社製:84−1LMISR4)の上に前述のLEDの下面を接着させ、銀ペーストを175℃環境下で1時間硬化させた。また、ワイヤー22としてΦ45μmの金ワイヤーを用い、この金ワイヤーを超音波熱圧着にてLEDの上面側電極及び電極16(陰極)に接合した。また、バインダー部材としてのシリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコーン社製:JCR6140)に各種の蛍光体の混合物を20vol%となるように混入し、蛍光体ペーストを作製した。そして、この蛍光体ペーストを半導体発光素子18の上面に100μm厚で塗布した後、80℃環境下で40分、その後に150℃環境下で60分のステップ硬化にて固定化することで蛍光層24を形成した。
【0079】
以上の蛍光体及び発光装置の構成に基づいて実施例及び比較例に係る発光装置を作製した。なお、第1の蛍光体と補色の関係にある第2の蛍光体としては、以下のように調整した蛍光体11を用いた。
【0080】
<蛍光体11>
蛍光体11は、(Ca4.67Mg0.5)(POCl:Eu0.08で表される蛍光体である。蛍光体11は、前述の第2の蛍光体の一例である。蛍光体11の製造は、まず、CaCO、MgCO、CaCl、CaHPO、及びEuの各原料を、これらのモル比がCaCO:MgCO:CaCl:CaHPO:Eu=0.42:0.5:3.0:1.25:0.04となるよう秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、2〜5%のHを含むN雰囲気中で、温度800℃以上1200℃未満で3時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、本蛍光体11を得た。
【0081】
<実施例>
本実施例は、第1の蛍光体として蛍光体2を用い、第2の蛍光体として蛍光体11を用いたものであり、これらが混合された蛍光体ペーストを用いて発光装置を作製した。本実施例では、蛍光体1及び2を重量比2:1で混ぜ合わせた混合蛍光体が用いられている。
【0082】
<比較例>
本比較例は、第1の蛍光体として蛍光体8を用い、第2の蛍光体として蛍光体11を用いたものであり、これらが混合された蛍光体ペーストを用いて発光装置を作製した。本比較例では、蛍光体1及び2を重量比1.5:1で混ぜ合わせた混合蛍光体が用いられている。
【0083】
<実施例の評価>
実施例及び比較例に係る発光装置を積分球内で700mAの電流を投入し発光させ、分光器(Instrument System社製:CAS140B−152)で発光光束比及び分光スペクトルを測定した。その測定結果を以下詳述する。
【0084】
表5に、各発光装置に700mAの駆動電流を印加したときの発光光束比及び色度座標(cx,cy)を示す。なお、発光光束比は、比較例の発光装置に700mAの駆動電流を印加したときの光束を100とする相対値として示す。
【表5】

【0085】
第1の蛍光体が発光する黄色の可視光と第2の蛍光体が発光する青色の可視光とは、互いに補色の関係にあるため、比較例の発光装置であっても白色光を得ることはできる。しかしながら、比較例の発光装置の発光スペクトルは、蛍光体8のピーク波長が576.0nmであることもあり、視感度曲線のピーク波長(555nm)からずれたものとなる。
【0086】
それに対して、実施例の発光装置は、蛍光体2のピーク波長が575.3nmであることもあり、比較例の発光装置と比較して視感度曲線のピーク波長(555nm)により近いピーク波長を有する可視光を発光することができる。その結果、実施例の発光装置が発光する可視光を合成した発光スペクトルは、比較例の発光装置の場合と比較して、視感度曲線のピーク波長により近いピーク波長を有することとなり、結果的に高い光束の白色光が得られる。具体的には、表5に示すように、実施例の発光装置は、比較例の発光装置に対して光束比が約5%向上していることが分かる。
【0087】
図7は、発光装置に700mAの駆動電流を印加したときの実施例の発光スペクトル(太線)及び比較例の発光スペクトル(細線)を示した図である。なお、図7におけるグラフの縦軸は実施例と比較例との相対的な発光強度を示すものである。図7に示すように、実施例に係る発光装置のピーク波長は、比較例に係る発光装置のピーク波長よりも視感度曲線のピーク波長(555nm)に近いものとなっている。
【0088】
以上、本発明を実施の形態や実施例をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の発光装置は種々の灯具、例えば照明用灯具、ディスプレイ、車両用灯具、信号機等に利用することができる。特に、本発明に係る白色発光装置は、車両用前照灯等の高出力の白色光が必要とされる灯具への適用が期待できる。
【符号の説明】
【0090】
10 発光装置、 12 基板、 14,16 電極、 18 半導体発光素子、 20 マウント部材、 22 ワイヤー、 24 蛍光層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式が(M,M,M(2/n)
(ここで、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくともSiを含む1種以上の元素、MはCa、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともCaを含む1種以上の元素、MはSr、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともSrを含む1種以上の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれる少なくともEu2+を含む1種以上の元素を示す。また、mは6/6≦m≦8/6、nは5≦n≦7の範囲である。また、x、y、zは、x+y+z=1、0<x<1、0<y<1、0.01≦z≦0.3を満たす範囲である。)で表される蛍光体。
【請求項2】
前記一般式において、M,M,Mの主たる元素のイオン半径がM<M≒Mの場合、x,y,zは、0.50<x/(y+z)<0.8を満たす値であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記一般式において、Xの主たるハロゲン元素がClの場合、ハロゲン元素Xに占めるBrの割合XBrが、0.1<XBr<0.3を満たす値であることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
紫外線又は短波長可視光を発する発光素子と、
前記紫外線又は短波長可視光により励起され可視光を発光する第1の蛍光体と、
前記紫外線又は短波長可視光により励起され、前記第1の蛍光体が発光する可視光と補色の関係にある可視光を発光する第2の蛍光体と、
を備え、各蛍光体からの光を加色混合して白色光を得るように構成された発光装置であって、
前記第1の蛍光体は、一般式が(M,M,M(2/n)
(ここで、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくともSiを含む1種以上の元素、MはCa、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともCaを含む1種以上の元素、MはSr、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともSrを含む1種以上の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれる少なくともEu2+を含む1種以上の元素を示す。また、mは6/6≦m≦8/6、nは5≦n≦7の範囲である。また、x、y、zは、x+y+z=1、0<x<1、0<y<1、0.01≦z≦0.3を満たす範囲である。)で表されることを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−32340(P2011−32340A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178726(P2009−178726)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】