説明

蛍光体シート形成用樹脂組成物

【課題】良好な耐光性を示し、可視光に対する光吸収性が低く、低コストの樹脂材料を用いつつ、水分による蛍光体の変質が抑制された蛍光体シートを低コストで与え得る蛍光体シート形成用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】良好な耐光性を示し、可視光に対する光吸収性が低く、低コストの樹脂材料を用いつつ、水分による蛍光体の変質が抑制された蛍光体シートを低コストで与え得る蛍光体シート形成用樹脂組成物は、成膜用樹脂組成物と、励起光の照射により蛍光を発する粉末状の蛍光体とを含有する。成膜用樹脂組成物として、水添スチレン系共重合体を含有するものを使用し、蛍光体として、硫化物系蛍光体を使用する。水添スチレン系共重合体としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添物が挙げられる。好ましい硫化物系蛍光体として、CaS:Euを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜用樹脂組成物と、励起光の照射により蛍光を発する粉末状の蛍光体とを含有する蛍光体シート形成用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、青色光の照射により赤色蛍光を発する粉状の赤色蛍光体と緑色蛍光を発する緑色蛍光体とを、可視光透過性に優れた樹脂材料に分散させてなる蛍光体シートに対し、青色発光ダイオード(青色LED)から光を照射して赤色光と緑色光とを発光させ、それらと青色光とを混色させることにより白色光を得ることが試みられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−41706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような蛍光体シートにおいて、樹脂材料として低コストのアクリレート系又はメタクリレート系(以下、(メタ)アクリレート系と略すことがある)樹脂等を使用した場合、青色光により樹脂材料が黄変し、青色LEDの光出力の損失や、発光した蛍光の吸収が生じるという問題があった。また、樹脂材料に侵入した水分のために蛍光体が変質し、蛍光体シートの発光色に色変化が生ずるという問題があった。このため、樹脂材料として耐光性・耐水蒸気透過性に優れているが高コストのシリコーン樹脂を使用したり、蛍光体シートの両面を高コストのガラス基板で挟持したりしなければならず、蛍光体シートの製造コストを圧縮することが困難になるという問題もあった。
【0005】
本発明は、以上の従来の課題を解決しようとするものであり、良好な耐光性を示し、可視光に対する光吸収性が低く、低コストの樹脂材料を用いつつ、水分による蛍光体の変質が抑制された蛍光体シートを低コストで与え得る蛍光体シート形成用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の蛍光体と、良好な耐光性を示し、可視光に対する光吸収性が低く、低コストで入手可能な特定の成膜用樹脂組成物とから蛍光体シート形成用樹脂組成物を構成することにより、上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、成膜用樹脂組成物と、励起光の照射により蛍光を発する粉末状の蛍光体とを含有する蛍光体シート形成用樹脂組成物であって、
成膜用樹脂組成物が、水添スチレン系共重合体を含有し、
蛍光体が、硫化物系蛍光体を含有する蛍光体シート形成用樹脂組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、励起光の照射により蛍光を発する蛍光体層が一対の透明基材に挟持されている蛍光体シートであって、蛍光体層が、上述の本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物を成膜したものである蛍光体シート、また、この蛍光体シートと、蛍光体シートに照射する励起光を発する励起光源とを有する発光装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物は、成膜用樹脂組成物として、多数の樹脂組成物の中から、(メタ)アクリル系樹脂などに比べ、耐光性に優れ、可視光に対する光吸収性が低く、比較的低コストで入手可能な水添スチレン系共重合体を含有する特定の樹脂組成物を使用し、他方、蛍光体として、多数の蛍光体の中から硫化物系蛍光体を使用する。よって、本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物から、耐光性に優れ、可視光に対する光吸収性が低く、水分による蛍光体の変質が抑制された蛍光体シートを低コストで提供することができる。この蛍光体シートは、長期使用しても、発光波長のズレ幅が小さく、発光スペクトル強度の低下も小さいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、単層型の蛍光体シートの断面図である。
【図2】図2は、2層型の蛍光体シートの断面図である。
【図3】図3は、好ましい単層型の蛍光体シートの断面図である。
【図4】図4は、好ましい2層型の蛍光体シートの断面図である。
【図5】図5は、封止フィルムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物は、成膜用樹脂組成物と、励起光の照射により蛍光を発する粉末状の蛍光体とを含有する。
【0012】
成膜用樹脂組成物は、水添スチレン系共重合体を含有する。ここで、水添スチレン系共重合体を使用する理由は、(メタ)アクリル系樹脂などに比べて優れた耐光性と低い吸水率を示し、低コストで入手可能だからである。その結果、水分による蛍光体の変質を防止することが可能になる。
【0013】
水添スチレン系共重合体としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水添物、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添物、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体の水添物、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の水添物等を好ましく挙げることができる。これらの中での、高透明性、ガスバリア性の点から、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添物を特に好ましく使用することができる。
【0014】
このような水添スチレン系共重合体におけるスチレン単位の含有割合は、低すぎると機械的強度の低下となる傾向があり、高すぎると脆くなる傾向があるので、好ましくは10〜70質量%、より好ましくは20〜30質量%である。
【0015】
また、水添スチレン系共重合体の水添率は、低すぎると耐候性が悪くなる傾向があるので、好ましくは50%以上、より好ましくは95%以上である。
【0016】
成膜用樹脂組成物中の水添スチレン系共重合体の含有割合は、少なすぎると接着性が不十分となり、多すぎると溶剤に不溶となるので、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは20〜30質量%である。
【0017】
本発明においては、蛍光体として、励起光の照射により蛍光(励起光よりも長波長の蛍光)を発する粉末状(通常、平均粒径が3〜20μm)の硫化物系蛍光体を使用する。水添スチレン系共重合体と組み合わせることにより、良好な耐光性を示し、可視光に対する光吸収性が低く、水分による蛍光体の変質が抑制された蛍光体シートを低コストで与え得る蛍光体シート形成用樹脂組成物を提供することが可能になるからである。ここで、励起光としては、使用する蛍光体を励起して蛍光を発することのできる波長の光を適宜選択すればよい。通常、波長440〜490nmの青色蛍光ピークを有する公知の青色LEDを使用することが好ましい。
【0018】
硫化物系蛍光体としては、青色励起光の照射により620〜660nmの赤色蛍光ピークを有する硫化物系蛍光体、好ましくはCaS:Eu、SrS:Eu等を挙げることができる。中でも耐久性の点からCaS:Euを使用することが好ましい。
【0019】
本発明において、成膜用樹脂組成物に対する蛍光体の混合割合は、少なくなると相対的に成膜成分としての樹脂成分量が増加して、その結果、塗布装置で塗布した際の塗布膜が所期の厚さより厚く形成される傾向があり、それを下げるために揮発溶剤を増やす必要がある。他方、蛍光体の混合割合が多くなると相対的に樹脂成分量が減少し、その結果、塗布膜が所期の厚さより薄く形成される傾向があり、また樹脂に対する蛍光体濃度が高いため、十分に混練していないと濃度ムラが大きくなる。したがって、成膜用樹脂組成物に対する蛍光体の混合割合は、成膜用樹脂組成物100質量部に対して好ましくは1〜10質量部、より好ましくは1〜6質量部である。
【0020】
本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物には、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、(メタ)アクリル系樹脂等の他の光透過性樹脂、着色顔料、溶媒等を配合することができる。
【0021】
本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物は、成膜用樹脂組成物と粉状の蛍光体とを、常法により混合することにより調製することができる。
【0022】
次に、本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物を使用した蛍光体シートについて図面を参照しながら説明する。
【0023】
本発明の蛍光体シートは、図1に示すように、励起光の照射により蛍光を発する蛍光体層1が単層で一対の透明基材2に挟持されている蛍光体シート10であって、蛍光体層1が、先述した本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物を成膜したものである。
【0024】
図1では蛍光体層1が単層である例を示したが、図2に示すように、透明セパレータ3を介して2層の蛍光体層1a及び1bを積層した2層構造の積層蛍光体層20としてもよい。この場合も一対の透明基材2a、2bに挟持させる。このように2層構造とすることにより、互いに反応し易い蛍光体同士、蛍光体と成膜用樹脂組成物成分とを別々の層に配置でき、その結果、それらの意図しない反応を抑制することができ、蛍光体シートの寿命を長くすることができる。この場合、蛍光体層1aと1bの一方を、青色励起光の照射により620〜660nmの赤色蛍光ピークを有する硫化物系蛍光体(好ましくはCaS:Eu)を含有する赤色発光の本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物から形成し、他方を、青色励起光の照射により530〜550nmの緑色蛍光ピークを有する種々の蛍光体、好ましくは硫化物系蛍光体(特に、SrGa:Eu)を含有する緑色発光の蛍光体シート形成用樹脂組成物から形成することが好ましい。
【0025】
このような緑色発光の蛍光体シート形成用樹脂組成物を構成する成膜用樹脂組成物としては、種々の光透過性の熱可塑性樹脂又は熱もしくは光硬化性樹脂を使用することができ、例えば、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、カーボネート系樹脂などを使用することができる。中でも、以下に説明するように、成膜用樹脂組成物を、ポリオレフィン共重合体成分と無水マレイン酸成分とから、あるいは、光硬化型(メタ)アクリレートから構成することが好ましい。
【0026】
ポリオレフィン共重合体成分と無水マレイン酸成分とから構成する場合、ポリオレフィン共重合体成分を使用する理由は、(メタ)アクリル系樹脂などに比べて優れた耐光性と低い吸水率を示し、低コストで入手可能だからである。また、成膜用樹脂組成物に無水マレイン酸成分を含有させることにより、成膜用樹脂組成物中に侵入した水分を無水マレイン酸成分の遊離したカルボキシル基により捕捉させ、その結果、水分による蛍光体の変質を防止することが可能になる。
【0027】
成膜用樹脂組成物中のポリオレフィン共重合体成分の含有割合は、少なすぎると十分な接着性が得られない傾向があり、多すぎると溶剤に溶解しない傾向があるので、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは20〜30質量%である。
【0028】
無水マレイン酸成分は、ポリオレフィン共重合体成分に別個の独立した成分として添加(外添)してもよく、ポリオレフィン共重合体成分にグラフト重合させるように添加(内添)してもよい。内添した場合、成膜用樹脂組成物は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン共重合体を含有することになる。なお、内添に比べ、外添の方が、成膜用樹脂組成物の黄変をより抑制することができる点から、好ましい。
【0029】
無水マレイン酸成分を外添する場合、成膜用樹脂組成物において、ポリオレフィン共重合体成分に対する無水マレイン酸成分の含有割合が多すぎると蛍光体シートが着色する傾向があり、少なすぎると無水マレイン酸成分に基づく水分捕捉効果が得られない傾向がある。従って、成膜用樹脂組成物は、ポリオレフィン共重合体成分100質量部に対し、無水マレイン酸成分を好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜1質量部の割合で含有する。
【0030】
一方、無水マレイン酸成分を内添する場合、無水マレイン酸変性ポリオレフィン共重合体中において、無水マレイン酸成分の含有割合が多すぎると蛍光体シートが着色する傾向があり、少なすぎると無水マレイン酸成分に基づく水分捕捉効果が得られない傾向がある。従って、成膜用樹脂組成物は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン共重合体中に無水マレイン酸成分を好ましくは0.3〜30モル%、より好ましくは0.3〜3モル%の割合で含有している。
【0031】
ポリオレフィン共重合体としては、スチレン系共重合体又はその水添物を好ましく挙げることができる。このようなスチレン系共重合体又はその水添物としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体又はその水添物、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体又はその水添物、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体又はその水添物、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体又はその水添物等を好ましく挙げることができる。これらの中でも高透明性、ガスバリア性の点から、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添物を特に好ましく使用することができる。
【0032】
このようなスチレン系共重合体におけるスチレン単位の含有割合は、低すぎると機械的強度が低下する傾向があり、高すぎると脆くなる傾向があるので、好ましくは20〜30モル%である。
【0033】
また、スチレン系共重合体の水添率は、低すぎると耐光性が悪くなる傾向があるので、好ましくは50%以上、より好ましくは90%以上である。
【0034】
成膜用樹脂組成物を光硬化型(メタ)アクリレートから構成する場合、光硬化型(メタ)アクリレートを使用する理由は、水分捕捉能を示すエステル基を有するからである。このような光硬化型(メタ)アクリレートを使用することにより、その硬化物が、蛍光体シートに侵入した水分を捕捉することが可能となり、水分による蛍光体の変質をより防止することが可能となる。
【0035】
このような光硬化型(メタ)アクリレートとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これらの中でも、耐光性の点からウレタン(メタ)アクリレートを好ましく使用することができる。
【0036】
好ましいウレタン(メタ)アクリレートとしては、ポリオール(好ましくはポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリエステルポリオールもしくはポリカーボネートポリオール)とジイソシアネート化合物(好ましくはイソホロンジイソシアネート)との反応物を、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(好ましくは、2−ヒドロキシプロピルアクリレート)でエステル化したものが挙げられる。
【0037】
光硬化型(メタ)アクリレート中にウレタン(メタ)アクリレートの含有量が少なすぎると接着性が低下する傾向があるので、光硬化型(メタ)アクリレート100質量部中に少なくとも10質量部含有されていることが好ましく、少なくとも30質量部含有されていることがより好ましい。
【0038】
また、光硬化型(メタ)アクリレートを使用した成膜用樹脂組成物は、通常、光重合開始剤を含有する。このような光重合開始剤としては、ラジカル光重合開始剤、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、チタノセン系光重合開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤、オキシフェニル酢酸エステル系光重合開始剤等;カチオン光重合開始剤、例えば、ジアゾニウム系光重合開始剤、ヨードニウム系光重合開始剤、スルホニウム系光重合開始剤等を挙げることができる。これらの光重合開始剤の使用量は、光硬化型(メタ)アクリレート100質量部に対し、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは1〜10質量部である。
【0039】
ところで、蛍光体層1、1a、1bの厚みは、薄すぎると相応して蛍光体の絶対量が少なくなるので十分な発光強度を得ることができず、他方、厚すぎるとターゲットとなる色度が得られないので、好ましくは20〜150μm、より好ましくは60〜120μmである。
【0040】
透明基材2、2a、2bや透明セパレータ3としては、厚さ10〜100μmの熱可塑性樹脂フィルム、熱又は光硬化性樹脂フィルムを使用することができる。例えば、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスルホンフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリオレフィンフィルム等を挙げることができる。これらのフィルムの表面には、蛍光体シート形成用樹脂組成物に対する密着性を改善するために、必要に応じて、コロナ放電処理、シランカップリング剤処理等を施してもよい。
【0041】
本発明においては、更に、図1及び図2の蛍光体シート10を、その両面から、更に、図3及び図4に示すように、2枚の封止フィルム30a、30bで封止することが好ましい。これにより蛍光体層1、1a、1bへの水分の侵入をより防止することができる。この場合、蛍光体シート10の側面も露出しないように封止することが好ましい。
【0042】
このような封止フィルム30a、30bとしては、図5に示すように、ベースフィルム31に接着層32が形成されたものを使用することができる。また、封止フィルム30a、30bの水蒸気バリアー性を向上させるために、接着層32側のベースフィルム31の表面またはその反対側の表面に、厚さ5〜20nmの酸化ケイ素層33を蒸着法等により形成してもよい。後者の場合、酸化ケイ素層33上に、接着層(図示せず)を介して表面保護フィルム34を積層してもよい。
【0043】
ベースフィルム31や表面保護フィルム34としては、既に説明した透明基材2、2a、2bや透明セパレータ3で例示したフィルムの中から適宜選択して使用することができる。
【0044】
接着層32並びに表面保護フィルム34の積層の際の接着層としては、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤等、公知の接着剤の中から適宜選択して使用することができる。接着層32の厚みは、通常10〜50μmである。
【0045】
図1に示す、本発明の単層型の蛍光体シート10は、透明基材2に蛍光体シート形成用樹脂組成物を常法により成膜して蛍光体層1を形成し、その上に別の透明基材2を積層することにより製造することができる。更に、蛍光体シート10の両面を接着層32が内側となるように封止フィルム30a、30bで挟み、全体を熱圧着することにより、図3に示す構造の蛍光体シート10を製造することができる。
【0046】
図2に示す、本発明の2層型の蛍光体シート10は、透明基材2aに本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物を常法により成膜して蛍光体層1aを形成し、その上に透明セパレータ3を積層し、更に、先の蛍光体シート形成用樹脂組成物と異なる蛍光体を含む別の蛍光体シート形成用樹脂組成物を常法により成膜して蛍光体層1bを形成し、その上に透明基材2bを積層することにより製造することができる。更に、蛍光体シート10の両面を接着層32が内側となるように封止フィルム30a、30bで挟み、全体を熱圧着することにより、図4に示す構造の蛍光体シート10を製造することができる。
【0047】
以上説明した本発明の蛍光体シートは、蛍光体シートとそれに対して照射する励起光を発する励起光源とを有する発光装置の当該蛍光体シートとして好ましく適用することができる。このような光学装置を構成する他の構成要素(例えば、光拡散部材)は、公知の光学装置(特開2010−225373号公報の図6参照)の構成と同様とすることができる。この発光装置は、それ自体照明装置として使用することができる。また、液晶表示素子のバックライトとしても使用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0049】
実施例1(単層型蛍光体シートの製造)
(赤色蛍光体シート形成用樹脂組成物の調製)
トルエン100質量部と、水添スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック(水添SEBS)共重合体(セプトンV9827、(株)クラレ)40質量部とを均一に混合し、得られた混合物に、平均粒径9μmのCaS:Eu(硫化物系赤色蛍光体)4質量部を均一に分散させることにより、赤色発光の蛍光体シート形成用樹脂組成物を調製した。
【0050】
(図1の構造の蛍光体シートの作成)
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(T11、東レ(株))に、蛍光体シート形成用樹脂組成物を乾燥厚で25μmとなるように塗布し、乾燥処理(100℃、5分)して蛍光体層を形成した。その蛍光体層上に厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(A4300、東洋紡(株))を積層し、熱圧着処理(100℃、0.2MPa)を行うことにより図1の構造の蛍光体シートを得た。
【0051】
(封止フィルムの作成)
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(T−11、東レ(株))の片面に厚さ20〜25μmのポリオレフィン系接着層(セプトンV9827、(株)クラレ)を形成した。このポリエチレンテレフタレートフィルムの他面に、ウレタン系接着層が形成された表面保護フィルムを、ウレタン系接着層を介して積層することにより封止フィルムを作成した。表面保護フィルムは、厚さ約20nmの酸化ケイ素蒸着層が形成された厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(テックバリア、三菱樹脂(株))の当該酸化ケイ素蒸着層上に、厚さ1〜2μmのウレタン系接着層を形成することにより作成したものである。得られた封止フィルムの透湿度は0.3g/m・24hr・atmであった。
【0052】
(図3の構造の蛍光体シートの作成)
図1の構造の蛍光体シートの両面に封止フィルムを配し、熱圧着処理(100℃、0.2Pa)することにより、封止フィルムで封止された蛍光体シートを得た。
【0053】
実施例2(2層型蛍光体シートの製造)
(赤色発光の蛍光体シート形成用樹脂組成物の調製)
トルエン100質量部と、水添スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック(水添SEBS)共重合体(セプトンV9827、(株)クラレ)40質量部とを均一に混合し、得られた混合物に、平均粒径9μmのCaS:Eu(硫化物系赤色蛍光体)4質量部を均一に分散させることにより、赤色発光の蛍光体シート形成用樹脂組成物を調製した。
【0054】
(緑色発光の蛍光体シート形成用樹脂組成物の調製)
光硬化型のウレタンメタクリレート(アロニックス M1600、東亜合成(株))100質量部に、光重合開始剤(BASF社製、ダロキュア1173)0.5質量部、平均粒径6μmのSrGa:Eu(硫化物系蛍光体)を1.5質量部、均一に分散させることにより、緑色発光の蛍光体シート形成用組成物を調整した。
【0055】
(図2の構造の蛍光体シートの作成)
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(T11、東レ(株))に、緑色蛍光体シート形成用樹脂組成物を乾燥厚が115μmとなるように塗布した後に、紫外線を照射して(7000mJ/cm)、ウレタンメタクリレートを重合させることにより、蛍光体層を形成した。その上に厚さ38μmの透明セパレータ(ポリエチエレンテレフタレートフィルム(A4300、東洋紡(株)))を積層し、熱圧着処理(100℃、20Pa)した。処理後の透明セパレータ上に、赤色蛍光体シート形成用樹脂組成物を乾燥厚で30μmとなるように塗布し、乾燥処理(100℃、5分)して蛍光体層を形成し、その上に更に、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを積層し、熱圧着処理(100℃、0.2MPa)することにより図2の構造の蛍光体シートを得た。
【0056】
(図4の構造の蛍光体シートの作成)
図2の構造の蛍光体シートの両面に、実施例1で使用したものと同じ封止フィルムを配し、熱圧着処理(100℃、0.2MPa)することにより、封止フィルムで封止された蛍光体シートを得た。
【0057】
比較例1
水添SEBS共重合体に代えて、実施例2で使用した光硬化型のウレタンメタクリレートを使用すること以外、実施例1と同様にして蛍光体シート形成用樹脂組成物を調製し、図1、更に図3の構造の蛍光体シートを製造した。
【0058】
比較例2
水添SEBS共重合体に代えて、実施例2で使用した光硬化型のウレタンメタクリレートを使用すること以外、実施例2と同様にして蛍光体シート形成用樹脂組成物を調製し、図2、更に図4の構造の蛍光体シートを製造した。
【0059】
比較例3
赤色発光の蛍光体シート形成用樹脂組成物における水添SEBS共重合体に代えて、BMA-GMA共重合体(DF−242、藤倉化成(株))を使用すること以外、実施例1と同様にして蛍光体シート形成用樹脂組成物を調製し、図1、更に図3の構造の蛍光体シートを製造した。
【0060】
(評価)
各実施例及び各比較例の封止された蛍光体シートについて、以下のように色度差と発光スペクトル強度比とを測定し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0061】
<色度差(色度ズレ)>
得られた封止された蛍光体シートを、60℃、90%Rhの環境中に500時間放置した。放置前後の色度差(JIS Z8518)Δu′v′を求め、以下の基準で評価した。
【0062】
ランク 基準
A: Δu′v′<0.005
B: 0.005≦Δu′v′<0.010
C: 0.010≦Δu′v′
【0063】
<発光スペクトル強度比>
得られた封止された蛍光体シートを、85℃、85%Rhの環境中に48時間放置し、放置前と放置後の発光スペクトル強度(SR)を分光放射計(トプコンSR−3、(株)トプコン)を用いて測定し、放置前の発光スペクトル強度(SR)に対する放置後の発光スペクトル強度(SR)の比を求め、以下の基準で評価した。実用上、SR比は0.7以上が望まれ(A評価)、実用上0.5以上(B評価)が必要である。
【0064】
ランク 基準
A: 0.7≦SR比
B: 0.5≦SR比<0.7
C: SR比<0.5
【0065】
【表1】

【0066】
表1からわかるように、実施例1の蛍光体シートの場合、発光スペクトル強度比の評価がBであり、実用上使用可能である。それに対し、比較例1の蛍光体シートの場合、赤色発光の蛍光体シート形成用樹脂組成物の成膜用樹脂組成物を構成する水添SEBS共重合体に代えて、光硬化型ウレタンメタクリレートを使用したので、発光スペクトル強度比の評価がCであった。
【0067】
また、表1からわかるように、実施例2の蛍光体シートの場合、色度差がAとして評価でき、色濃度のズレが小さかった。一方、比較例2の蛍光体シートの場合、水添SEBS共重合体に代えて光硬化型ウレタンメタクリレートを使用したので、色度差がCとして評価され、色ズレが大きいことがわかった。
【0068】
また、表1からわかるように、比較例3の蛍光体シートの場合、水添SEBS共重合体に代えてBMA−GMA共重合体を使用したので、蛍光体層の接着性が低いため、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥がれてしまい、測定には至らなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物は、成膜用樹脂組成物として、多数の樹脂組成物の中から、耐光性に優れ、可視光に対する光吸収性が低く、比較的低コストで入手可能な水添スチレン系共重合体を含有する特定の樹脂組成物を使用し、一方、蛍光体として、多数の蛍光体の中から硫化物系蛍光体を使用する。よって、本発明の蛍光体シート形成用樹脂組成物は、耐光性に優れ、可視光に対する光吸収性が低く、水分による蛍光体の変質が抑制され、低コストの蛍光体シートの製造原料として有用である。
【符号の説明】
【0070】
1、1a、1b 蛍光体層
2、2a、2b 透明基材
3 透明セパレータ
10 蛍光体シート
20 積層蛍光体層
30a、30b 封止フィルム
31 ベースフィルム
32 接着層
33 酸化ケイ素層
34 表面保護フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜用樹脂組成物と、励起光の照射により蛍光を発する粉末状の蛍光体とを含有する蛍光体シート形成用樹脂組成物であって、
成膜用樹脂組成物が、水添スチレン系共重合体を含有し、
蛍光体が、硫化物系蛍光体を含有する蛍光体シート形成用樹脂組成物。
【請求項2】
水添スチレン系共重合体が、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添物である請求項1記載の蛍光体シート形成用樹脂組成物。
【請求項3】
スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体におけるスチレン単位の割合比率が20〜30モル%である請求項2記載の蛍光体シート形成用樹脂組成物。
【請求項4】
成膜用樹脂組成物中の水添スチレン系共重合体の含有割合が、20〜30質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体シート形成用樹脂組成物。
【請求項5】
蛍光体が、青色励起光の照射により620〜660nmの赤色蛍光ピークを有する硫化物系蛍光体である請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体シート形成用樹脂組成物。
【請求項6】
硫化物系蛍光体が、CaS:Euである請求項5記載の蛍光体シート形成用樹脂組成物。
【請求項7】
励起光の照射により蛍光を発する蛍光体層が一対の透明基材に挟持されている蛍光体シートであって、蛍光体層が、請求項1〜6のいずれかに記載の蛍光体シート形成用樹脂組成物を成膜したものである蛍光体シート。
【請求項8】
蛍光体層が、透明セパレータの片面に請求項1〜6のいずれかに記載の蛍光体シート形成用樹脂組成物を単層で成膜した赤色蛍光体層と、透明セパレータの他面に青色励起光の照射により530〜550nmの緑色蛍光ピークを有する緑色蛍光体層が積層された構造となっている請求項7記載の蛍光体シート。
【請求項9】
緑色蛍光体層が、蛍光体としてSrGa:Euを含有するものである請求項8記載の蛍光体シート。
【請求項10】
片面に接着層を有する封止フィルム2枚で、更に、両側から封止した請求項7〜9のいずれかに記載の蛍光体シート。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載の蛍光体シートと、蛍光体シートに照射する励起光を発する励起光源とを有する発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−32515(P2013−32515A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151246(P2012−151246)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【出願人】(000108410)デクセリアルズ株式会社 (595)
【Fターム(参考)】