説明

蛍光体及びそれを用いた蛍光ランプ

【課題】本発明の目的は、バックライト用蛍光ランプにおいて点灯時の光束維持率、色度の経時変化、及び管端色差を改善することであり、さらには、SCA蛍光体等を用いて色再現範囲を拡大したバックライト用蛍光ランプにおいてこれらの特性を改善することである。
【解決手段】蛍光体粒子表面にスカンジウムのオルトリン酸塩とLa、Y、Gd、Eu、Tb、Dy、及びLuからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の希土類元素の水酸化物とを含む表面処理物質が被覆されていることを特徴とする蛍光体を用いた蛍光ランプは、ランプ点灯時の管端色差が抑えられ、ランプ光束維持率が高く、ランプ色度の経時変化が少ないため、カラー液晶表示装置のバックライト等の光源用として好適に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光体及びそれを用いた蛍光ランプに関し、特に液晶表示装置のバックライトに使用される冷陰極蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光ランプはガラスバルブ等の透光性気密容器内で放電を起こし、その際に放電媒体から発せられる紫外線が気密容器内壁に形成された蛍光体層中の蛍光体を励起し、その蛍光体が発する光を利用する発光装置である。蛍光体層中の蛍光体の種類、混合比等を変えることにより蛍光ランプの発光スペクトルを制御することができ、これまで照明用など各種用途に使用されている。
【0003】
特に、近年ではカラー液晶表示装置のバックライト用に使用されており、主として細管化しやすい冷陰極蛍光ランプが用いられている。カラー液晶表示装置の構成として例えばバックライトからの発光を導光板等によって液晶パネル背面に面光源として導入し、液晶パネルの各表示画素が液晶層及びカラーフィルターによって特定の波長域の光を特定の強さだけ通過させることで任意の色を再現している。
【0004】
バックライト用蛍光ランプにおいては照明用蛍光ランプと異なり次のような問題がある。すなわちバックライトは表示装置の光源として用いられるため、蛍光ランプ全体の光束維持率のみならず各色成分の相対強度の維持率つまり蛍光ランプ全体としての色度の維持率が重要となる。また表示装置の表示面全体が輝度的にも色度的にも均一に照らされる必要があるため、蛍光ランプの輝度及び色度分布は均一であることが求められる。特に色度分布は表示装置の画像品質により強く影響を及ぼす。このため、バックライト用蛍光ランプは両端の色度差(管端色差と呼ぶ)に対する要求が強い。
【0005】
また、バックライト用蛍光ランプは一般照明用蛍光ランプに比べて管径が小さいが、このようなランプでは管壁にかかる負荷もより強くなるため、一般照明用蛍光ランプにおいて光束維持率がよいとされてきた蛍光体でもその維持率が低くなる傾向にあり、対策が求められている。
【0006】
特許文献1等には、一般照明用蛍光ランプのライフ特性を改善するため、特定の金属酸化物とリンの酸化物からなる複合酸化物による処理が開示されているが、バックライト用蛍光ランプには十分ではなかった。
【0007】
このように、バックライト用蛍光ランプにおいて、光束維持率、色度の経時変化、及び管端色差を市場の要求を満たす水準まで改善する手法は確立されていないのが現状であった。
【0008】
さらに、近年では、バックライト用蛍光ランプに対して色再現範囲の拡大要求があり、青色蛍光体として、従来の2価のユーロピウム付活バリウムマグネシウムアルミネート蛍光体(以下BAM蛍光体と呼ぶ)に対し、2価のユーロピウム付活ストロンチウムクロロアパタイト蛍光体やこの蛍光体のストロンチウムの一部または全部を他のアルカリ土類金属で置換したアルカリ土類クロロアパタイト蛍光体(両者をまとめて以下SCA蛍光体と呼ぶ)が研究されており、特に、SCA蛍光体等を用いて色再現範囲を拡大したバックライト用蛍光ランプにおいて、光束維持率、色度の経時変化、及び管端色差の改善が求められている。
【特許文献1】特公平7−779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたものである。本発明の目的は、バックライト用蛍光ランプにおいて点灯時の光束維持率、色度の経時変化、及び管端色差を改善することであり、さらには、SCA蛍光体等を用いて色再現範囲を拡大したバックライト用蛍光ランプにおいてこれらの特性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明者らは鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。本発明者らは、特定の希土類リン酸塩と希土類水酸化物を含む表面処理物質で蛍光体を被覆すると、バックライト用蛍光ランプにおいて点灯時の光束維持率、色度の経時変化、及び管端色差が改善されることを見出した。本発明の構成及びその特徴は以下のとおりである。
【0011】
(1)本発明の蛍光体は、蛍光体粒子表面にスカンジウムのオルトリン酸塩とLa、Y、Gd、Eu、Tb、Dy、及びLuからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の希土類元素の水酸化物とを含む表面処理物質が被覆されていることを特徴とする。
【0012】
(2)本発明の蛍光体は、(1)に記載の蛍光体であって、前記オルトリン酸塩の被覆量は、蛍光体に対しスカンジウムの量に換算して0.03〜10mol%の範囲であり、前記水酸化物の被覆量は、蛍光体に対し希土類元素の量に換算して0.3〜5.7mol%の範囲であることを特徴とする。
【0013】
(3)本発明の蛍光ランプは、透光性気密容器と、透光性気密容器内に形成された蛍光体層と、透光性気密容器内に封入された放電媒体と、電極とを具備する蛍光ランプにおいて、前記蛍光体層は(1)又は(2)に記載の蛍光体を含むことを特徴とする。
【0014】
(4)本発明の蛍光ランプは、(3)に記載の蛍光ランプであって、前記蛍光ランプが冷陰極蛍光ランプであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記の特徴を備えているため、ランプ点灯時の管端色差が抑えられ、ランプ光束維持率が高く、ランプ色度の経時変化が少ない蛍光ランプが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る蛍光体、蛍光ランプについて実施の形態及び実施例を用いて説明する。但し本発明はこれら実施の形態及び実施例に限定されるものではない。
【0017】
ここで、本発明の一実施の形態に係る蛍光体の表面処理方法について詳細に説明する。先ず、通常の方法に従い蛍光体を作製する。次に、この蛍光体を純水、エタノール水溶液等の分散媒に分散し、水溶性のスカンジウム化合物と、オルトリン酸または水溶性のオルトリン酸塩とを添加し攪拌する。この蛍光体懸濁液に酸又は塩基を加えてpHを2.0〜6.0の範囲に調整し、スカンジウムのオルトリン酸塩を蛍光体表面に析出させる。その後さらにLa、Y、Gd、Eu、Tb、Dy、及びLuからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の希土類元素の水溶性化合物を添加し、塩基を加えてpHを7.5〜10.0の範囲に調整し、前記希土類元素の水酸化物を蛍光体表面に析出させる。その後、処理済の蛍光体と分散媒を分離し、乾燥して、本発明の蛍光体を得る。
【0018】
表面処理する蛍光体は紫外線励起で発光する蛍光体が使用できる。例えば、一般式M10(PO:Eu(但しMはSr,Ca,Ba,及びMgからなる群より選ばれた少なくとも一種以上の元素、XはF,Cl,Br,及びIからなる群より選ばれた少なくとも一種以上の元素)で表される2価のユーロピウム付活アルカリ土類ハロリン酸塩、一般式M:Eu(但しMはSr,Ca,Ba,及びMgからなる群より選ばれた少なくとも一種以上の元素)で表される2価のユーロピウム付活アルカリ土類ピロリン酸塩、一般式(Ba,M)Al1017:Eu(但しMはSr,Ca,及びMgからなる群より選ばれた少なくとも一種以上の元素)で表される2価のユーロピウム付活アルカリ土類アルミン酸塩、一般式(Ba,M)Al1017:Eu,Mn(但しMはSr,Ca,及びMgからなる群より選ばれた少なくとも一種以上の元素)で表される2価のユーロピウム及び2価のマンガン共付活アルカリ土類アルミン酸塩、一般式Ce(Mg,Zn)Al1119−a:Mn(但し0.4≦a≦1.0)で表される3価のセリウム及び2価のマンガン共付活亜鉛マグネシウムアルミン酸塩、一般式ZnSiO:Mnで表される2価のマンガン付活亜鉛ケイ酸塩、一般式Zn(Si,Ge)O:Mnで表される2価のマンガン付活亜鉛ケイ・ゲルマン酸塩、一般式LaPO:Ce,Tbで表される3価のセリウム及び3価のテルビウム共付活ランタンリン酸塩、一般式CeMgAl1119:Tbで表される3価のセリウム及び3価のテルビウム共付活マグネシウムアルミン酸塩、一般式YVO:Euで表される3価のユーロピウム付活イットリウムバナジン酸塩、一般式Y(P,V)O:Euで表される3価のユーロピウム付活イットリウムリン・バナジン酸塩、一般式aMgO・bMgF・GeO:Mn(但しa+b=4)で表される4価のマンガン付活マグネシウムフッ化ゲルマン酸塩、一般式RS:Eu(但しRはユーロピウムを除く1種または2種以上の希土類元素)で表される3価のユーロピウム付活希土類酸硫化物、及び一般式R:Eu(但しRはユーロピウムを除く1種または2種以上の希土類元素)で表される3価のユーロピウム付活希土類酸化物等が挙げられる。
【0019】
これらの蛍光体のうち、2価のユーロピウム付活アルカリ土類ハロリン酸塩、2価のユーロピウム付活アルカリ土類ピロリン酸塩等のリン酸塩蛍光体の場合、予め蛍光体スラリーをpH2.0〜5.0の範囲に酸処理して、蛍光体表面からリン酸分を溶出させてから、水溶性のスカンジウム化合物を添加してもよく、その分オルトリン酸またはオルトリン酸塩の添加量を調整する。
【0020】
水溶性のスカンジウム化合物として、スカンジウムのハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩等が使用できる。例えば、塩化スカンジウム、硫酸スカンジウム、硝酸スカンジウム等が好ましく使用できる。水溶性のオルトリン酸塩として、オルトリン酸ナトリウム、オルトリン酸カリウム、オルトリン酸アンモニウム等が使用できる。La、Y、Gd、Eu、Tb、Dy、及びLuからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の希土類元素の水溶性化合物として、これらの希土類元素のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩等が使用できる。例えば、塩化ランタン、硫酸ランタン、硝酸ランタン等が好ましく使用できる。pH調整に使用する酸として、塩酸、硝酸、硝酸等の水溶液が使用でき、塩基として、アンモニア、アルカリ金属水酸化物等の水溶液が使用できる。
【0021】
蛍光体粒子表面に被覆するスカンジウムのオルトリン酸塩の被覆量は、蛍光体に対しスカンジウムの量に換算して0.03〜10mol%の範囲が好ましく、0.03〜8mol%の範囲がより好ましく0.1〜7mol%の範囲がさらに好ましい。
【0022】
蛍光体粒子表面に被覆する希土類元素の水酸化物として、La、Y、Gd、Eu、Tb、Dy、及びLuからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の希土類元素の水酸化物が好ましく、La、Y、及びGdからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の希土類元素の水酸化物がより好ましく、Laの水酸化物が特に好ましい。スカンジウムのオルトリン酸塩とこれらの希土類元素の水酸化物とを被覆した蛍光体をバックライト用蛍光ランプに用いた場合、点灯時の光束維持率、色度の経時変化、及び管端色差が非常に改善される。
【0023】
蛍光体粒子表面に被覆する希土類元素の水酸化物の被覆量は、蛍光体に対し希土類元素の量に換算して0.3〜5.7mol%の範囲が好ましく、0.4〜4.8mol%の範囲がより好ましく、0.5〜4.4mol%の範囲がさらに好ましい。
【0024】
スカンジウムのオルトリン酸塩を蛍光体表面に析出させる場合、pH調整はpH2.0〜6.0の範囲に調整するのが好ましく、pH2.5〜4.0の範囲がより好ましい。pHが2.0より低いとオルトリン酸塩の被覆量が減少し、pHが6.0より高いとスカンジウムの水酸化物の析出により表面処理効果が減少する。
【0025】
La、Y、Gd、Eu、Tb、Dy、及びLuからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の希土類元素の水酸化物を蛍光体表面に析出させる場合、pH調整はpH7.5〜10.0の範囲に調整するのが好ましく、pH8.0〜10.0の範囲がより好ましい。pHが7.5より低いと水酸化物の析出が少なくなるので表面処理効果が減少する。
【0026】
このようにして蛍光体粒子表面にスカンジウムのオルトリン酸塩とLa、Y、Gd、Eu、Tb、Dy、及びLuからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の希土類元素の水酸化物とを含む表面処理物質が被覆された蛍光体を用いることにより、ランプ点灯時の管端色差が抑えられ、ランプ光束維持率が高く、ランプ色度の経時変化が少ない蛍光ランプが得られる。
【0027】
次に、本発明の蛍光体を用いて冷陰極蛍光ランプを作製する。先ず、蛍光体とピロリン酸カルシウム、カルシウムバリウムボレート等の結着剤をニトロセルロース/酢酸ブチル溶液に添加し、これらを混合し懸濁させて蛍光体塗布懸濁液を調製する。得られた蛍光体塗布懸濁液をガラス管の内面に流し込み、その後これに温風を通じることで乾燥させ、ベーキング、排気、フィラメントの装着、口金の取り付けを行い、冷陰極蛍光ランプを得る。
【0028】
図1に、本発明の冷陰極蛍光ランプの一例を示す。ガラス等から成る透光性気密容器11の内壁には一種以上の蛍光体と結着剤から成る蛍光体層12が形成される。透光性気密容器11の内部にはネオン等の希ガス及び水銀蒸気から成る放電媒体13が封入され、透光性気密容器11の両端は一対の電極14a、14bによって封止される。両電極間に電圧をかけて放電媒体13に放電を起こさせ、その際励起された水銀から紫外線が放出され、該紫外線により蛍光体層12の蛍光体が励起されて発光する。
【0029】
本発明の蛍光ランプは白色ランプでも、フィールドシーケンシャル方式液晶表示装置に用いられるような単色ランプであっても、点灯時の光束維持率、色度の経時変化、及び管端色差が改善される。
【0030】
白色ランプの場合、青色蛍光体(B:発光ピークが420nm〜480nm付近)、緑色蛍光体(G:発光ピークが500nm〜560nm付近)、赤色蛍光体(R:発光ピークが620nm〜680nm付近)の混合比が重量比でB:25%〜55%、G:15%〜35%、R:25%〜55%(但しB+G+R=100%)の範囲内で使用される。
【0031】
青色蛍光体として2価のユーロピウム付活アルカリ土類ハロリン酸塩、2価のユーロピウム付活アルカリ土類ピロリン酸塩、2価のユーロピウム付活アルカリ土類アルミン酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の蛍光体を、緑色蛍光体として2価のユーロピウムおよび2価のマンガン付活アルカリ土類アルミン酸塩、3価のセリウムおよび2価のマンガン付活亜鉛マグネシウムアルミン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の蛍光体を、赤色蛍光体として3価のユーロピウム付活イットリウムバナジン酸塩、3価のユーロピウム付活イットリウムリン・バナジン酸塩、4価のマンガン付活マグネシウムフッ化ゲルマン酸塩、3価のユーロピウム付活希土類酸化物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の蛍光体が使用される。
【0032】
特に、青色蛍光体として2価のユーロピウム付活アルカリ土類ハロリン酸塩、なかでもSCA蛍光体(2価のユーロピウム付活ストロンチウムクロロアパタイト蛍光体やこの蛍光体のストロンチウムの一部または全部を他のアルカリ土類金属で置換したアルカリ土類クロロアパタイト蛍光体)を用いて色再現範囲を拡大したバックライト用蛍光ランプにおいて、発光輝度維持率、色度の経時変化、及び管端色差が改善され効果がある。
【0033】
次に、本発明の蛍光体及び蛍光ランプの特性について図を用いて説明する。実施例1において硝酸スカンジウムの添加量を変化させて得られる蛍光体について、実施例1と同様に白色冷陰極蛍光ランプを作製し、蛍光体に被覆した表面処理物質のSc量(mol%)と白色冷陰極蛍光ランプの各特性との関係を図2〜図5に示した。すなわち、白色冷陰極蛍光ランプの初期光束(%)との関係を図2に、光束維持率(%)との関係を図3に、色度xの変化量Δxとの関係を図4に、色度yの変化量Δyとの関係を図5に、それぞれ示した。
【0034】
図2から、白色冷陰極蛍光ランプの初期光束(%)は、蛍光体に被覆した表面処理物質のSc量(mol%)が0.03〜8mol%の範囲で109%以上、0.1〜7mol%の範囲で109.5%以上、0.6〜6mol%の範囲で110%以上であって、初期光束(%)が高いことがわかる。しかしながら、初期光束(%)が108%以上であれば白色冷陰極蛍光ランプとして発光特性は十分であるため、10mol%未満でも良い。
【0035】
図3から、白色冷陰極蛍光ランプの光束維持率(%)は、蛍光体に被覆した表面処理物質のSc量(mol%)が0.03〜10mol%の範囲で96%以上、0.1〜10mol%の範囲で97%以上であって、光束維持率(%)が高いことがわかる。
【0036】
図4から、白色冷陰極蛍光ランプの色度xの変化量Δxは、蛍光体に被覆した表面処理物質のSc量(mol%)が0.03〜10mol%の範囲で0.0019以下、0.1〜10mol%の範囲で0.0017以下であって、色度xの変化量Δxが小さいことがわかる。
【0037】
図5から、白色冷陰極蛍光ランプの色度yの変化量Δyは、蛍光体に被覆した表面処理物質のSc量(mol%)が0.03〜10mol%の範囲で0.0055以下、0.1〜10mol%の範囲で0.00525以下であって、色度yの変化量Δyが小さいことがわかる。
【0038】
従って、図2〜図5から、白色冷陰極蛍光ランプの光束と光束維持率が高く、色度変化が少ないSc量の範囲は、蛍光体に対し0.03〜10mol%の範囲が好ましく、0.03〜8mol%の範囲がより好ましく、0.1〜7mol%の範囲がさらに好ましいことがわかる。
【0039】
実施例1において硝酸ランタンの添加量を変化させて得られるSCA蛍光体について、実施例1と同様にして白色冷陰極蛍光ランプを作製し、蛍光体に被覆した表面処理物質のLa量(mol%)と冷陰極蛍光ランプの各特性との関係を図6〜図9に示した。すなわち、白色冷陰極蛍光ランプの初期光束(%)との関係を図6に、光束維持率(%)との関係を図7に、色度xの変化量Δxとの関係を図8に、色度yの変化量Δyとの関係を図9に、それぞれ示した。
【0040】
図6から、白色冷陰極蛍光ランプの初期光束(%)は、蛍光体に被覆した表面処理物質のLa量(mol%)が0.4〜4.8mol%の範囲で109%以上、0.5〜4.4mol%の範囲で109.5%以上、0.65〜3.85mol%の範囲で110%以上であって、初期光束(%)が高いことがわかる。しかしながら、初期光束(%)が108%以上であれば白色冷陰極蛍光ランプとして発光特性は十分であるため、0.3〜5.7mol%の範囲でも良い。
【0041】
図7から、白色冷陰極蛍光ランプの光束維持率(%)は、蛍光体に被覆した表面処理物質のLa量(mol%)が0.1〜9.5mol%の範囲で96%以上、0.3〜7.3mol%の範囲で97%以上であって、光束維持率(%)が高いことがわかる。
【0042】
図8から、白色冷陰極蛍光ランプの色度xの変化量Δxは、蛍光体に被覆した表面処理物質のLa量(mol%)が0.3〜9.1mol%の範囲で0.0019以下、0.4〜8.5mol%の範囲で0.0017以下であって、色度xの変化量Δxが小さいことがわかる。
【0043】
図9から、白色冷陰極蛍光ランプの色度yの変化量Δyは、蛍光体に被覆した表面処理物質のLa量(mol%)が0.3〜10mol%の範囲で0.0055以下、0.35〜10mol%の範囲で0.00525以下であって、色度yの変化量Δyが小さいことがわかる。
【0044】
従って、図6〜図9から、白色冷陰極蛍光ランプの光束と光束維持率が高く、色度変化が少ないLa量の範囲は、蛍光体に対し0.3〜5.7mol%の範囲が好ましく、0.4〜4.8mol%の範囲がより好ましく、0.5〜4.4mol%の範囲がさらに好ましいことがわかる。
【0045】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は具体的実施例のみに限定されるものではないことは言うまでもない。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
一般式が(Sr0.99Eu0.0110(POClで表される2価のユーロピウム付活ストロンチウムクロロアパタイト蛍光体(SCA蛍光体)100gを純水300mlに入れ懸濁する。硝酸スカンジウム・n水和物を使用し0.3mol/lに調整した硝酸スカンジウム溶液3.75mlを添加する。さらに、2.0wt%オルトリン酸溶液10.6mlを添加し、攪拌する。この蛍光体懸濁液に0.2wt%硝酸溶液を加えてpHを3.0に調整し、スカンジウムのオルトリン酸塩を蛍光体表面に析出させる。その後、硝酸ランタン・六水和物を使用し0.3mol/lに調整した硝酸ランタン溶液7.2mlを添加し、2.0wt%水酸化アンモニウム溶液を加えてpH9.5に調整し、ランタンの水酸化物を蛍光体表面に析出させる。pH調整後、十分に洗浄、脱液、乾燥、篩を行い、スカンジウムのオルトリン酸塩とランタンの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0047】
こうして得られる青色発光の上記SCA蛍光体と、(Ba0.9Eu0.1)(Mg0.9Mn0.1)Al1017緑色発光蛍光体と、(Y0.9Eu0.1赤色発光蛍光体を重量比で青色:緑色:赤色=50:20:30の割合で混合する。この混合蛍光体と結着剤をニトロセルロース/酢酸ブチル溶液に添加し、混合して蛍光体塗布スラリーを調製する。これを管径3mm、長さ400mmのガラス管に流し込み、その内面に塗布し、温風を通じて乾燥し、560℃で3分間塗布バルブをベーキングして、蛍光膜を形成する。その後、通常の方法に従い、排気、電極のマウント、口金の取り付けを行い、白色冷陰極蛍光ランプを得る。
【0048】
[実施例2]
0.3mol/lに調整した硝酸スカンジウム溶液を0.75ml添加する以外は実施例1と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とランタンの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0049】
[実施例3]
0.3mol/lに調整した硝酸スカンジウム溶液を7.5ml添加する以外は実施例1と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とランタンの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0050】
[実施例4]
0.3mol/lに調整した硝酸ランタン溶液を3.6ml添加する以外は実施例1と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とランタンの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0051】
[実施例5]
0.3mol/lに調整した硝酸ランタン溶液を11.28ml添加する以外は実施例1と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とランタンの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0052】
[実施例6]
0.3mol/lに調整した硝酸イットリウム溶液を7.5ml添加する以外は実施例3と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とイットリウムの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0053】
[実施例7]
0.3mol/lに調整した硝酸ガドリニウム溶液を7.5ml添加する以外は実施例3と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とガドリニウムの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0054】
[実施例8]
0.3mol/lに調整した硝酸ユーロピウム溶液を7.5ml添加する以外は実施例3と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とユーロピウムの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0055】
[実施例9]
0.3mol/lに調整した硝酸テルビウム溶液を7.5ml添加する以外は実施例1と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とテルビウムの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0056】
[実施例10]
0.3mol/lに調整した硝酸ディスプロシウム溶液を7.5ml添加する以外は実施例1と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とディスプロシウムの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0057】
[実施例11]
0.3mol/lに調整した硝酸ルテチウム溶液を7.5ml添加する以外は実施例3と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とルテチウムの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0058】
[比較例1]
表面処理物質が被覆されていないSCA蛍光体を用意する。
【0059】
[比較例2]
SCA蛍光体100gを純水300mlに入れ懸濁する。硝酸スカンジウム・n水和物を使用し0.3mol/lに調整した硝酸スカンジウム溶液3.75mlを添加する。さらに、2.0wt%オルトリン酸溶液10.6mlを添加し、攪拌する。この蛍光体懸濁液に0.2wt%硝酸溶液を加えてpHを3.0に調整し、スカンジウムのオルトリン酸塩を蛍光体表面に析出させる。pH調整後、十分に洗浄、脱液、乾燥、篩を行い、スカンジウムのオルトリン酸塩で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0060】
[比較例3]
SCA蛍光体100gを純水300mlに入れ懸濁する。硝酸ランタン・六水和物を使用し0.3mol/lに調整した硝酸ランタン溶液7.2mlを添加し、2.0wt%水酸化アンモニウム溶液を加えてpH9.5に調整し、ランタンの水酸化物を蛍光体表面に析出させる。pH調整後、十分に洗浄、脱液、乾燥、篩を行い、ランタンの水酸化物で被覆されたSCA蛍光体を得る。
【0061】
実施例1〜11及び比較例1〜3で得られるSCA蛍光体について、表面処理物質の被覆量をICP発光分光分析法により測定した結果を表1に示す。この表から、本発明の実施例の蛍光体は、スカンジウムのオルトリン酸塩の被覆量が蛍光体に対しスカンジウムの量に換算して0.03〜10mol%の範囲であり、希土類元素の水酸化物の被覆量が蛍光体に対し希土類元素の量に換算して0.4〜5.7mol%の範囲であることがわかる。また、これらの蛍光体を用いて、実施例1と同様にして白色冷陰極蛍光ランプを作製する。
【0062】
こうして得られる白色冷陰極蛍光ランプについて、初期光束(%)(相対値)と、100時間点灯したときの光束維持率(%)、色度xの変化量Δx、及び色度yの変化量Δyを求め、表1に示す。この表から、本発明の実施例の蛍光ランプはいずれも100時間点灯したときの光束維持率が96%以上であり、比較例の蛍光ランプに比べて光束維持率が高いことがわかる。また、本発明の実施例の蛍光ランプは、Δx及びΔyがそれぞれΔx≦+0.0019、Δy≦+0.055の範囲にあり、比較例の蛍光ランプに比べて小さく、色度の経時変化が少ないことがわかる。
【0063】
【表1】

【0064】
次に、実施例1と比較例1〜3の白色冷陰極蛍光ランプについて、点灯直後の管端色差を次のように測定する。すなわち、蛍光ランプの一端から30mm、200mm、370mmの位置で発光色を測定し、管端部(30mm、370mm)と中央部(200mm)における発光色の差を求め、表2に示した。この表から、本発明の実施例1の蛍光ランプは、比較例1〜3の蛍光ランプに比べ、管端色差が少ないことがわかる。
【0065】
【表2】

【0066】
[実施例12]
一般式が(Zn0.94Mn0.06SiOで表される2価のマンガン付活亜鉛ケイ酸塩蛍光体(ZSM蛍光体)100gを純水300mlに入れ懸濁する。硝酸スカンジウム・n水和物を使用し0.3mol/lに調整した硝酸スカンジウム溶液7.4mlを添加する。さらに、2.0wt%オルトリン酸溶液10.6mlを添加し、攪拌する。この蛍光体懸濁液に0.2wt%硝酸溶液を加えてpHを3.0に調整し、スカンジウムのオルトリン酸塩を蛍光体表面に析出させる。その後、硝酸ランタン・六水和物を使用し0.3mol/lに調整した硝酸ランタン溶液7.2mlを添加し、2.0wt%水酸化アンモニウム溶液を加えてpH9.5に調整し、ランタンの水酸化物を蛍光体表面に析出させる。pH調整後、十分に洗浄、脱液、乾燥、篩を行い、スカンジウムのオルトリン酸塩とランタンの水酸化物で被覆されたZSM蛍光体を得る。
【0067】
こうして得られる緑色発光の上記ZSM蛍光体と結着剤をニトロセルロース/酢酸ブチル溶液に添加し、混合して蛍光体塗布スラリーを調製する。これを管径3mm、長さ400mmのガラス管に流し込み、その内面に塗布し、温風を通じて乾燥し、560℃で3分間塗布バルブをベーキングして、蛍光膜を形成する。その後、通常の方法に従い、排気、電極のマウント、口金の取り付けを行い、単色冷陰極蛍光ランプを得る。
【0068】
[比較例4]
表面処理物質が被覆されていないZSM蛍光体を用意する。
【0069】
[実施例13]
ZSM蛍光体の代わりに一般式が(Y0.94Eu0.06Sで表される3価のユーロピウム付活希土類酸硫化物蛍光体(YOS蛍光体)を使用する以外は実施例12と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とランタンの水酸化物で被覆されたYOS蛍光体を得る。
【0070】
[比較例5]
表面処理物質が被覆されていないYOS蛍光体を用意する。
【0071】
[実施例14]
ZSM蛍光体の代わりに一般式が(Ba0.9Eu0.1)MgAl1017で表される3価のユーロピウム付活希土類酸硫化物蛍光体(BAM蛍光体)を使用する以外は実施例12と同様の方法で作製し、スカンジウムのオルトリン酸塩とランタンの水酸化物で被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0072】
[比較例6]
表面処理物質が被覆されていないBAM蛍光体を用意する。
【0073】
実施例12〜14及び比較例4〜6で得られる蛍光体について、表面処理物質の被覆量を表3に示す。この表から、本発明の実施例の蛍光体は、スカンジウムのオルトリン酸塩の被覆量が蛍光体に対しスカンジウムの量に換算して0.03〜10mol%の範囲であり、希土類元素の水酸化物の被覆量が蛍光体に対し希土類元素の量に換算して0.4〜5.7mol%の範囲であることがわかる。また、これらの蛍光体を用いて、実施例12と同様にして単色冷陰極蛍光ランプを作製する。
【0074】
こうして得られる単色冷陰極蛍光ランプについて、300時間点灯したときの光束維持率(%)を求め、表3に示す。この表から、本発明の実施例の蛍光ランプは、表面処理物質が被覆されていない比較例の蛍光ランプに比べて、光束維持率が高いことがわかる。
【0075】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0076】
以上に述べたように、本発明によって、ランプ点灯時の管端色差が抑えられ、ランプ光束維持率が高く、ランプ色度の経時変化が少ない蛍光ランプが得られることから、カラー液晶表示装置のバックライト等の光源用として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の冷陰極蛍光ランプの一例を示す図である。
【図2】本発明の蛍光体の表面処理物質のSc量(mol%)と冷陰極蛍光ランプの初期光束(%)との関係を示す図である。
【図3】本発明の蛍光体の表面処理物質のSc量(mol%)と冷陰極蛍光ランプの光束維持率(%)との関係を示す図である。
【図4】本発明の蛍光体の表面処理物質のSc量(mol%)と冷陰極蛍光ランプの色度xの変化量Δxとの関係を示す図である。
【図5】本発明の蛍光体の表面処理物質のSc量(mol%)と冷陰極蛍光ランプの色度yの変化量Δyとの関係を示す図である。
【図6】本発明の蛍光体の表面処理物質のLa量(mol%)と冷陰極蛍光ランプの初期光束(%)との関係を示す図である。
【図7】本発明の蛍光体の表面処理物質のLa量(mol%)と冷陰極蛍光ランプの光束維持率(%)との関係を示す図である。
【図8】本発明の蛍光体の表面処理物質のLa量(mol%)と冷陰極蛍光ランプの色度xの変化量Δxとの関係を示す図である。
【図9】本発明の蛍光体の表面処理物質のLa量(mol%)と冷陰極蛍光ランプの色度yの変化量Δyとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
11 透光性気密容器
12 蛍光体層
13 放電媒体
14a、14b 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体粒子表面にスカンジウムのオルトリン酸塩とLa、Y、Gd、Eu、Tb、Dy、及びLuからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の希土類元素の水酸化物とを含む表面処理物質が被覆されていることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記オルトリン酸塩の被覆量は、蛍光体に対しスカンジウムの量に換算して0.03〜10mol%の範囲であり、前記水酸化物の被覆量は、蛍光体に対し希土類元素の量に換算して0.3〜5.7mol%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
透光性気密容器と、透光性気密容器内に形成された蛍光体層と、透光性気密容器内に封入された放電媒体と、電極とを具備する蛍光ランプにおいて、前記蛍光体層は請求項1又は2に記載の蛍光体を含むことを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項4】
前記蛍光ランプが冷陰極蛍光ランプであることを特徴とする請求項3に記載の蛍光ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−37404(P2010−37404A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200392(P2008−200392)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】