説明

蛍光体及び発光ダイオード

【解決手段】アルカリ土類金属化合物の構成元素の一部がSmに置換された構造を有するSm賦活アルカリ土類金属化合物蛍光体であって、AeFX:Sm又はAeO・xB23・yP25:Sm(式中、AeはBa、Sr及びCaから選ばれるアルカリ土類金属の1種又は2種以上、XはCl、Br及びIから選ばれるハロゲンの1種又は2種以上、x及びyは、各々0.3<x<3、0<y<1を満たす正数)で示され、波長660〜710nmの範囲内に発光ピークを有する蛍光体。
【効果】紫外線から青色光の範囲の波長の光の吸収が良好で、紫外線から青色光の範囲の波長の光による励起により、波長660〜710nmの範囲の深赤色光を高い効率で発光する。また、蛍光体を用いた発光ダイオードとして、特に、白色発光ダイオードにおいて、生鮮食品等のディスプレイ用として、色味のよい赤色を表現できる白色光を発光させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線から青色光の範囲の波長の光の励起により、深赤色を発光する蛍光体、及びこの蛍光体を含む蛍光層を備える発光ダイオード、特に、白色発光ダイオードにおいて、生鮮食品等のディスプレイ用として、色味のよい赤色を表現できる白色光の発光を可能とする蛍光体及び発光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
白色発光ダイオードの発光色に赤みを加えて、暖かみを出すために、近紫外から青色の発光ダイオードに相当する光で励起されて、赤色に発光する蛍光体が必要とされ、研究が進められている。このような研究の中で、国際公開第2007/100824号パンフレット(特許文献1)には、A2MF6(AはNa,K,Rb等、MはSi,Ge,Ti等)などの式で示される複フッ化物にMnを添加したものが有用であることが記載されている。この蛍光体は、鋭いピークの発光スペクトルを示し、また、その最大発光ピークは630nm付近にあり、輝度と平均演色評価数とを両立させるには好都合で実用的である。しかし、食肉、鮮魚などの赤みを、よりきれいに見せる必要のある店舗用照明、人体の内部組織を観察する内視鏡用照明などの用途には赤色の表現力が十分ではない。
【0003】
一方、特開昭62−234862号公報(特許文献2)には、660nm付近に発光ピークを有する蛍光体を、蛍光ランプの蛍光体層に添加することで、赤色の見え方が改善することが示されている。また、特殊演色評価数のうちのR9を指標として、この赤色の見え方が評価できることも示されている。ここで用いられている蛍光体は、マンガン賦活ゲルマン酸マグネシウムである。また、この蛍光体は、白色発光ダイオードにも用いることができることが、特開2008−202044号公報(特許文献3)及び特開2011−6501号公報(特許文献4)に記載されている。しかし、このゲルマン酸マグネシウム系の蛍光体は、近紫外から紫色の励起光に対しては、効率良く深赤色を発光するものの、450nm付近の青色光の励起では、吸収、発光ともに弱いものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/100824号パンフレット
【特許文献2】特開昭62−234862号公報
【特許文献3】特開2008−202044号公報
【特許文献4】特開2011−6501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、紫外線から青色光の範囲の波長の光、特に、青色光の吸収が良好で、紫外線から青色光の範囲の波長の光、特に、青色光による励起により、波長660〜710nmの範囲の深赤色光を高い効率で発光する蛍光体、及びこの蛍光体を含む蛍光層を備える発光ダイオードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記式(1)
AeFX:Sm (1)
(式中、AeはBa、Sr及びCaから選ばれるアルカリ土類金属の1種又は2種以上、XはCl、Br及びIから選ばれるハロゲンの1種又は2種以上である)
又は下記式(2)
AeO・xB23・yP25:Sm (2)
(式中、Aeは上記と同じであり、x及びyは、各々0.3<x<3、0<y<1を満たす正数である)
で示されるアルカリ土類金属化合物であり、その構成元素の一部がSmに置換された構造を有するアルカリ土類金属化合物、いわゆるSm賦活アルカリ土類金属化合物が、紫外線から青色光の範囲の波長の光による励起に対して、波長660〜710nmの範囲内に発光ピークを有し、深赤色光を高い効率で発光する蛍光体であることを見出した。
【0007】
また、この蛍光体が、発光ダイオードにおいて、発光半導体素子から発光した光を波長変換して発光する蛍光体として好適であり、特に、白色発光ダイオードにおいて、生鮮食品等のディスプレイ用として、色味のよい赤色を表現できる白色光の発光を可能とする蛍光体及び発光ダイオードとなることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記の蛍光体及び発光ダイオードを提供する。
請求項1:
アルカリ土類金属化合物の構成元素の一部がSmに置換された構造を有するSm賦活アルカリ土類金属化合物蛍光体であって、下記式(1)
AeFX:Sm (1)
(式中、AeはBa、Sr及びCaから選ばれるアルカリ土類金属の1種又は2種以上、XはCl、Br及びIから選ばれるハロゲンの1種又は2種以上である)
又は下記式(2)
AeO・xB23・yP25:Sm (2)
(式中、Aeは上記と同じであり、x及びyは、各々0.3<x<3、0<y<1を満たす正数である)
で示され、波長660〜710nmの範囲内に発光ピークを有することを特徴とする蛍光体。
請求項2:
発光半導体素子又は発光半導体素子が封止された発光ダイオードと、蛍光体を含む発光層とを備え、上記発光半導体素子から発光した光の一部又は全部が、上記発光層中の蛍光体によって波長変換される発光ダイオードであって、上記蛍光体が請求項1記載の蛍光体を含むことを特徴とする発光ダイオード。
請求項3:
上記発光半導体素子が、青色光を発光する素子であることを特徴とする請求項2記載の発光ダイオード。
請求項4:
白色発光ダイオードであることを特徴とする請求項2又は3記載の発光ダイオード。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蛍光体は、紫外線から青色光の範囲の波長の光の吸収が良好で、紫外線から青色光の範囲の波長の光による励起により、波長660〜710nmの範囲の深赤色光を高い効率で発光する。また、本発明の蛍光体は、これを用いた発光ダイオードとして、特に、白色発光ダイオードにおいて、生鮮食品等のディスプレイ用として、色味のよい赤色を表現できる白色光を発光させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で得た蛍光体の発光スペクトル及び発光励起スペクトルを示す図である。
【図2】実施例4で得た蛍光体の発光スペクトル及び発光励起スペクトルを示す図である。
【図3】実施例において発光試験に用いた発光ダイオードを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の蛍光体は、アルカリ土類金属化合物の構成元素の一部、特に、アルカリ土類金属の一部がSmに置換された構造を有するものである。このような蛍光体は一般にSm賦活蛍光体と呼ばれ、本発明では、Sm賦活アルカリ土類金属化合物蛍光体と称する。
【0012】
本発明のSm賦活アルカリ土類金属化合物蛍光体としては、具体的には、下記式(1)
AeFX:Sm (1)
(式中、AeはBa、Sr及びCaから選ばれるアルカリ土類金属の1種又は2種以上、XはCl、Br及びIから選ばれるハロゲンの1種又は2種以上である)
で示されるものが挙げられる。この場合は、AeFXで示されるアルカリ土類金属化合物の構成元素の一部がSmで置換された構造を有する。
【0013】
また、下記式(2)
AeO・xB23・yP25:Sm (2)
(式中、AeはBa、Sr及びCaから選ばれるアルカリ土類金属の1種又は2種以上、x及びyは、各々0.3<x<3、好ましくは0.5≦x≦2、0<y<1、好ましくは0.2≦y≦0.8を満たす正数である)
で示されものも挙げられる。この場合は、AeO・xB23・yP25で示されるアルカリ土類金属化合物の構成元素の一部がSmで置換された構造を有する。
【0014】
上記式(1)又は(2)で示されるSm賦活アルカリ土類金属化合物蛍光体において、賦活元素のSmは、2価(Sm2+)、即ち、AeFX:Sm2+、AeO・xB23・yP25:Sm2+であっても、3価(Sm3+)、即ち、AeFX:Sm3+、AeO・xB23・yP25:Sm3+であっても、2価(Sm2+)と3価(Sm3+)が共存するもの、即ち、AeFX:Sm2+,Sm3+、AeO・xB23・yP25:Sm2+,Sm3+であってもよい。これらの中では、アルカリ土類金属化合物を構成するアルカリ土類金属のサイトにSmが置換したものが好適であり、2価のSm(Sm2+)を含むものが好ましい。
【0015】
本発明の蛍光体は、紫外線から青色光の範囲の波長の光、例えば、波長250〜500nmの範囲の光の吸収が良好であり、特に、波長320〜390nmの紫外線、好ましくは波長360〜390nmの近紫外線、波長390〜420nmの紫色光、又は波長420〜490nmの青色光により励起されて、波長660〜710nmの範囲内に発光ピーク、特に、最大発光ピークを有する深赤色の光を発光する。
【0016】
次に、本発明の蛍光体の製造方法について詳述する。
上記式(1)で示される蛍光体は、例えば、以下のような方法で製造することができる。まず、Aeで示されるアルカリ土類金属のフッ化物(BaF2、SrF2、CaF2など)、Aeで示されるアルカリ土類金属のXで示されるハロゲンのハロゲン化物(BaCl2、SrCl2、CaCl2、BaBr2、SrBr2、CaBr2、BaI2、SrI2、CaI2など)、フッ化サマリウム(SmF3)、Xで示されるハロゲンのハロゲン化サマリウム(SmCl3、SmBr3、SmI3など)などから原料を選択して、所定の比率で秤量し、原料を乳鉢、機械粉砕などによって粉砕、混合する。次に、得られた粒子状又は粉末状の混合物を、必要に応じて、一旦、例えば、常温(20℃)〜250℃の温度で乾燥する。更に、700〜1,000℃、好ましくは750〜950℃の温度で、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、又は水素ガス(H2)等の還元性ガスを、必要に応じてヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈した還元雰囲気下で焼成することにより得ることができる。焼成時間は、好ましくは1〜10時間、より好ましくは2〜5時間である。得られた焼成物は必要に応じて粉砕して、粒子状又は粉末状とする。
【0017】
原料中、全体として、Aeで示されるアルカリ土類金属とSmとは、Ae+Sm=100モル%として、70モル%≦Ae<100モル%、特に90モル%≦Ae≦99.9モル%、0モル%<Sm≦30モル%、特に0.01モル%≦Sm≦10モル%、とりわけ0.1モル%≦Sm≦5モル%であることが好ましい。この比率は、得られた蛍光体におけるAeで示されるアルカリ土類金属とSmとの比率に対応する。
【0018】
一方、原料中、全体として、F(フッ素)とXで示されるハロゲンとの比率は、F/X=0.8〜1.2、特に0.9〜1.1とすればよい。また、アルカリ土類金属化合物を構成するアルカリ土類金属のサイトにSmが置換したものとして、2価のSm(Sm2+)で賦活されている蛍光体を得るためには、通常、還元雰囲気下で焼成が実施され、この場合、Smが2価(Sm2+)である結晶構造のみ、又はSmが3価(Sm3+)である結晶構造及び2価(Sm2+)である結晶構造の双方が形成される。
【0019】
また、上記式(2)で示される蛍光体は、例えば、以下のような方法で製造することができる。まず、Aeで示されるアルカリ土類金属のリン酸塩(Ba3(PO42、Sr3(PO42、Ca3(PO42など)、リン酸水素塩(BaHPO4、SrHPO4、CaHPO4など)、Aeで示されるアルカリ土類金属のホウ酸塩(Ba3(BO32、Sr3(BO32、Ca3(BO32、Ba225、Sr225、Ca225、BaB24、SrB24、CaB24など)、ホウ酸(H3BO3)、酸化サマリウム(Sm23)、リン酸サマリウム(SmPO4)、ホウ酸サマリウム(SmBO3)などから原料を選択して、所定の比率で秤量し、原料を乳鉢、機械粉砕などによって粉砕、混合する。次に、得られた粒子状又は粉末状の混合物を、必要に応じて、一旦、例えば、常温(20℃)〜200℃の温度で乾燥する。更に、700〜1,000℃、好ましくは750〜950℃の温度で、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、又は水素ガス(H2)等の還元性ガスを、必要に応じてヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈した還元雰囲気下で焼成することにより得ることができる。焼成時間は、好ましくは1〜10時間、より好ましくは2〜5時間である。得られた焼成物は必要に応じて粉砕して、粒子状又は粉末状とする。
【0020】
原料中、全体として、Aeで示されるアルカリ土類金属とSmとは、Ae+Sm=100モル%として、60モル%≦Ae<100モル%、特に85モル%≦Ae≦99.9モル%、0モル%<Sm≦40モル%、特に0.01モル%≦Sm≦15モル%、とりわけ0.1モル%≦Sm≦5モル%であることが好ましい。この比率は、得られた蛍光体におけるAeで示されるアルカリ土類金属とSmとの比率に対応する。
【0021】
この場合は、不活性ガス雰囲気下で焼成することにより、所定のx及びyの比率のAeO・xB23・yP25:Smの結晶構造が形成され、また、還元雰囲気下で焼成することにより、原料由来のSmの一部又は全部が還元(Sm3+からSm2+に還元)されると共に、所定のx及びyの比率のAeO・xB23・yP25:Smの結晶構造が形成される。アルカリ土類金属化合物を構成するアルカリ土類金属のサイトにSmが置換したものとして、2価のSm(Sm2+)で賦活されている蛍光体を得るためには、通常、還元雰囲気下で焼成が実施される。
【0022】
本発明の蛍光体は、光の波長を変換して発光する発光部材の蛍光体として用いることができる。発光部材は、蛍光体を含むものであり、具体的には、本発明の蛍光体のみで、又は他の蛍光体、例えば黄色を発光する蛍光体、緑色を発光する蛍光体などと共に、蛍光体を、基材となる樹脂、ゴム、ガラスなどに混合、分散させて、例えば、シート状等の所定の形状に形成することにより得ることができる。この発光部材の製造方法は、従来公知の方法を適用できる。
【0023】
また、本発明の蛍光体は、発光ダイオードにおいて、その発光半導体素子から発光した光を波長変換する蛍光体として用いることができる。具体的には、
(A)発光半導体素子と蛍光体を含む発光層とを備え、発光半導体素子から発光した光の一部又は全部が、発光層中の蛍光体によって波長変換される発光ダイオード、又は
(B)発光半導体素子が封止された発光ダイオードと、蛍光体を含む発光層とを備え、発光半導体素子から発光した光の一部又は全部が、発光層中の蛍光体によって波長変換される発光ダイオード
において、発光層に含まれる蛍光体が、本発明の蛍光体を含むようにすることが好ましい。
【0024】
(A)の場合は、発光半導体素子上に、本発明の蛍光体を含む蛍光体からなる発光層を形成すること、又は上記発光部材を発光層として形成することができる。また、発光半導体素子を封止する封止材(樹脂、ゴム、ガラスなど)に、本発明の蛍光体を含む蛍光体を分散させて発光層としてもよい。
【0025】
一方(B)の場合は、上記発光部材を、発光半導体素子を内部に有し、発光半導体素子が封止材で封止された発光ダイオードの上(封止材の上)に、本発明の蛍光体を含む蛍光体からなる発光層を形成すること、又は上記発光部材を発光層として形成することができる。
【0026】
これらいずれの場合も、発光ダイオードに含まれる蛍光体に本発明の蛍光体が含まれていればよく、上記発光部材の場合と同様、蛍光体は、本発明の蛍光体のみで用いても、他の蛍光体、例えば、本発明の蛍光体と同様の波長で励起されて発光する蛍光体、具体的には、Y3Al512:Ce、(Ba,Sr)2SiO4:Eu等の波長540〜580nmの黄色光を発光する蛍光体、(Si,Al)3(O,N)4:Eu、(Sr,Ba)Si222:Eu等の波長500〜540nmの緑色光を発光する蛍光体などと共に用いてもよい。また、上記発光層及び発光部材を2層以上で形成して、各層が含有する蛍光体の種類や組成が異なるようにしてもよい。発光層は、発光半導体素子から発光した光が到達する位置に配置される。
【0027】
蛍光体として、本発明の蛍光体と、他の蛍光体とを併用する場合、例えば、黄色光を発光する蛍光体と併用する場合、用いる蛍光体全体に対して、本発明の蛍光体を15〜45質量%、特に20〜40質量%、黄色光を発光する蛍光体を55〜85質量%、特に60〜80質量%で併用することが好ましく、また、緑色光を発光する蛍光体と併用する場合、用いる蛍光体全体に対して、本発明の蛍光体を20〜50質量%、特に25〜40質量%、緑色光を発光する蛍光体を50〜80質量%、特に60〜75質量%で併用することが好ましい。
【0028】
本発明の蛍光体が、紫外線から青色光の範囲の波長の光、特に、青色光により効率よく励起されることから、発光半導体素子は、紫外線から青色光の範囲の波長の光、特に、青色光を発光する素子であることが好ましく、発光半導体素子が封止された発光ダイオードとしては、青色発光半導体素子が封止された青色発光ダイオードを用いることが好ましい。また、本発明の蛍光体は、紫外線から青色光の範囲の波長の光、特に、青色光により励起されて発光する他の色の蛍光体と共に用いれば、生鮮食品等のディスプレイ用として、色味のよい赤色を表現できる白色光を発光させることができることから、特に、青色光を波長変換して白色を得る白色発光ダイオード用の蛍光体として好適である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例、参考例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において用いた原料のうち、特記したもの以外は、和光純薬工業(株)製の試薬特級品を使用した。
【0030】
[実施例1] BaFCl:Sm
原料として、6.88g(0.0392モル)のフッ化バリウム(BaF2)、9.76g(0.04モル)の塩化バリウム二水和物(BaCl2・2H2O)、及び0.166g(0.0008モル)のフッ化サマリウム(SmF3、信越化学工業(株)製、純度99.9%)を秤量し、自動乳鉢で約10分間、すりつぶしながら混合した。次に、混合物を集め、200℃に設定した乾燥機の中で1時間乾燥した後、アルミナ製容器に入れて、水素雰囲気下、900℃で焼成した。冷却後取り出し、乳鉢ですりつぶして蛍光体を得た。
【0031】
粉末X線回折により、得られた蛍光体がBaFClに対応する結晶構造を有することが確認された。また、得られた蛍光体は、紫外線又は青色光の励起で、深赤色の蛍光を示した。
【0032】
発光スペクトル及び発光励起スペクトルを量子効率測定装置QE1100(大塚電子(株)製)で測定した結果を図1に示す。また、同装置で測定した各励起波長での吸収率と量子効率を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
[実施例2] BaFBr:Sm
塩化バリウム二水和物に代えて、同モル(13.32g)の臭化バリウム二水和物(BaBr2・2H2O)を用いたこと以外は、実施例1と同様に、秤量、混合、乾燥し、水素雰囲気下、800℃で焼成して、実施例1と同様にすりつぶして蛍光体を得た。得られた蛍光体は、紫外線又は青色光の励起で、深赤色の蛍光を示した。
【0035】
[実施例3] SrFCl:Sm
原料として、4.92g(0.0392モル)のフッ化ストロンチウム(SrF2)、10.68g(0.04モル)の塩化ストロンチウム六水和物(SrCl2・6H2O)、及び0.166g(0.0008モル)のフッ化サマリウム(SmF3、信越化学工業(株)製、純度99.9%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして蛍光体を得た。得られた蛍光体は、紫外線又は青色光の励起で、深赤色の蛍光を示した。
【0036】
[実施例4] SrBPO5:Sm
まず、蛍光体製造の原料であるリン酸水素ストロンチウム(SrHPO4)を製造した。一の容器で212.6gの水酸化ストロンチウム八水和物(Sr(OH)2・8H2O)に、2Lの水及び150cm3の塩酸(35質量%)を加え、溶解させて溶液Aを得た。また、別の容器で116.2gのリン酸水素アンモニウム((NH42HPO4)に、1.5Lの水を加え、溶解させて溶液Bを得た。溶液Aに攪拌下で溶液Bを加えたところ、沈殿が生成した。反応が完結した時点で、沈殿をろ別し、水洗し、大気雰囲気下、70℃で乾燥させて、リン酸水素ストロンチウム(SrHPO4)を得た。
【0037】
原料として、9.16g(0.0488モル)の上記で得られたリン酸水素ストロンチウム(SrHPO4)、3.24g(0.0525モル)のほう酸(H3BO3)、及び0.34g(0.63ミリモル)の酸化サマリウム(Sm23、信越化学工業(株)製、純度99.9%)を秤量し、自動乳鉢で約10分間、すりつぶしながら混合した。次に、混合物を集め、アルミナ製容器に入れて、水素雰囲気下、800℃で焼成した。冷却後取り出し、乳鉢ですりつぶして蛍光体を得た。
【0038】
粉末X線回折により、得られた蛍光体がSrBPO5に対応する結晶構造を有することが確認された。また、得られた蛍光体は、紫外線又は青色光の励起で、深赤色の蛍光を示した。
【0039】
発光スペクトル及び発光励起スペクトルを実施例1と同様の方法で測定した結果を図2に示す。また、実施例1と同様の方法で測定した各励起波長での吸収率と量子効率を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
[参考例1] Y3Al512:Ce(YAGCe)
13.28g(0.059モル)の酸化イットリウム微粉(Y23、信越化学工業(株)製、純度99.9%、UUタイプ)、10.70g(0.1モル)の酸化アルミニウム(Al23、住友化学(株)製、AKP−015)、0.41g(2.4ミリモル)の二酸化セリウム(CeO2)を秤量し、エタノール70cm3と共にアルミナ製のポットとボールを用いて、2時間ボールミルで粉砕、混合した。ボールを取り除いた後、スラリーを室温のドラフト中、次いで70℃の乾燥機中で乾燥させて、混合物を得た。
【0042】
次に、混合物を集め、アルミナ製容器に入れて、大気雰囲気下、1,400℃で12時間焼成した。冷却後取り出し、乳鉢ですりつぶし、更によく混合した。次に、再度アルミナ製容器に入れて、5vol%の水素(H2)ガスを含む窒素雰囲気下、1,300℃で5時間焼成した。冷却後取り出し、乳鉢ですりつぶして蛍光体を得た。
【0043】
粉末X線回折により、得られた蛍光体がガーネット相の結晶構造を有することが確認された。また、得られた蛍光体は、青色光の励起で、黄色の蛍光を示した。
【0044】
[実施例5] Sm賦活蛍光体(BaFCl:Sm)を含む発光部材
未硬化の2液型液状シリコーン樹脂組成物のA液とB液(信越化学工業(株)製、LPS3419CS A及びB)を、それぞれ15gと、蛍光体として、3.0gの実施例1で得られたBaFCl:Sm蛍光体、及び7.0gの参考例1で得られたYAGCe蛍光体とを秤量し、自転公転型混合機((株)シンキー製、あわとり練太郎(商品名))を用いて2,000回転で5分間混合した。更に、真空室内で1時間脱泡後、フッ素樹脂製のトレイに約1mmの厚さになるように流し込んだ。これを乾燥機に入れ、大気雰囲気下、150℃で2時間加熱して、弾力のあるシート状の硬化物(シート1)を得た。
【0045】
[比較例1] Sm賦活蛍光体(BaFCl:Sm)を含まない発光部材
蛍光体として、BaFCl:Sm蛍光体を使用せず、代わりにYAGCe蛍光体の量を10.0gに増やしたこと以外は、実施例5と同様にして、シート状の硬化物(シート2)を得た。
【0046】
〔発光試験〕
図3に示されるように、青色光を発光する発光半導体素子10を内部に有するチップ型発光ダイオード1(日亜化学工業(株)製、青色発光ダイオード、NFSB036BT、3.5mm×3.5mm、発光ピーク波長:460nm)を、発光半導体素子10に接続された電極11,12に給電して発光できるように、配線基板2の配線21,22と接続した。また、このチップの発光面の形状に合わせて、実施例5で得たシート1又は比較例1で得たシート2を切断して発光部材3とし、シリコーン粘着剤(信越化学工業(株)製、KR−105)を用いて接着した。シート1、シート2を用いた発光ダイオードを、それぞれLED1、LED2とする。
【0047】
この状態で発光ダイオード1に通電して、発光半導体素子10を発光させ、JIS Z 8726に示される方法にて、演色性を評価した。この場合、色彩色差計(コニカミノルタ(株)製、CR−300)を用い、基準光源と、LED1及びLED2の照射下で、基準色票(試験色)No.1〜15の色を測定し、比較した。各色票の演色評価数を表3に示す。Sm賦活蛍光体の使用によって、他の色票の演色評価数を低下させることなく、赤色のR9の評価数を大幅に向上させることができることがわかる。
【0048】
【表3】

【符号の説明】
【0049】
1 発光ダイオード
10 発光半導体素子
11,12 電極
2 配線基板
21,22 配線
3 発光部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属化合物の構成元素の一部がSmに置換された構造を有するSm賦活アルカリ土類金属化合物蛍光体であって、下記式(1)
AeFX:Sm (1)
(式中、AeはBa、Sr及びCaから選ばれるアルカリ土類金属の1種又は2種以上、XはCl、Br及びIから選ばれるハロゲンの1種又は2種以上である)
又は下記式(2)
AeO・xB23・yP25:Sm (2)
(式中、Aeは上記と同じであり、x及びyは、各々0.3<x<3、0<y<1を満たす正数である)
で示され、波長660〜710nmの範囲内に発光ピークを有することを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
発光半導体素子又は発光半導体素子が封止された発光ダイオードと、蛍光体を含む発光層とを備え、上記発光半導体素子から発光した光の一部又は全部が、上記発光層中の蛍光体によって波長変換される発光ダイオードであって、上記蛍光体が請求項1記載の蛍光体を含むことを特徴とする発光ダイオード。
【請求項3】
上記発光半導体素子が、青色光を発光する素子であることを特徴とする請求項2記載の発光ダイオード。
【請求項4】
白色発光ダイオードであることを特徴とする請求項2又は3記載の発光ダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−193276(P2012−193276A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58143(P2011−58143)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】