説明

蛍光体変換LEDを使用する効率的な光源

【課題】蛍光体を発光ダイオード(LED)素子に層状化し、効率的な発光素子を生成して非線形効果を最小化する方法を提供する。
【解決手段】LEDと1つ又はそれよりも多くの蛍光体を含み、各蛍光体に対して(入射LED光束)×(蛍光体の励起断面積)×(蛍光体材料の減衰期間)の積として定義される性能指数(FOM)が0.3よりも小さいLEDランプ。そのような構成は、駆動電流のある一定の範囲にわたってルーメン出力及び色安定性の改善した発光素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の例示的実施形態は、蛍光体を発光ダイオード(LED)素子に層状化し、効率的な発光素子を生成して非線形効果を最小化する方法に関する。それは、LEDに関連する特定の用途を見出し、それに対する特定の参照文献を用いて以下に説明する。しかし、本発明の例示的実施形態は、他の類似の用途にも適することは認められるものとする。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)は、光スペクトルの特定の領域にピーク波長を有する光を発生することができる公知の半導体素子である。LEDは、典型的に、照明器、指示器、及びディスプレイとして使用される。しかし、一般的照明に対する可能性も非常に大きい。最初は、最も効率的なLEDは、光スペクトルの赤色領域にピーク波長を有する光、すなわち、赤色光を放出した。しかし、窒化ガリウム(GaN)ダイに基づく種類のLEDも開発されており、これは、スペクトルの青色及び/又はUV領域にピーク波長を有する光を効率的に放射することができる。この種類のLEDは、現在、かなり明るい出力光をもたらすことができる。
【0003】
青色及びUV光は、赤色光よりも短いピーク波長を有するために、GaNベースのLEDダイによって発生した青色/UV光は、より長いピーク波長を有する光に容易に変換することができる。第1のピーク波長を有する光(一次光)は、燐光として公知の処理を使用して、より長いピーク波長を有する光(二次光)に変換することができることは当業者に公知である。燐光処理は、フォトルミネッセンス蛍光材料による一次光の吸収を伴っており、これは、蛍光材料の原子を励起して二次光を放射するように作用する。二次光のピーク波長は、蛍光材料に依存することになる。蛍光材料の種類は、特定のピーク波長を有する二次光を生じるように選択することができる。
【0004】
米国特許第5、998、925号によると、例えば、(Y0.4Gd0.63Al512:Ceから成る蛍光体は、GaNダイから放射される青色光の一部分を黄色光に変換するのに使用される。青色GaN素子発生光及び黄色蛍光体放出光から成るLED素子の全放射は、ほぼ白色光である。米国特許第6、522、065号によると、同様な結果は、UV放射GaNダイを使用して得ることができる。この特許では、例えばCa1.94Na1.03Eu0.03Mg2312から成る蛍光体が、GaN放射UV光の少なくとも実質的な部分を白色光に変換するのに使用されている。
【0005】
上述の白色LEDランプには、特にUV−LED素子に存在する2つの主要な問題がある。第1に、放射されたUV波長での蛍光体の吸収が高くない場合には、ダイから放出されて蛍光体コーティングを通って浸出する有意な量の放射が存在する。眼は、UV放射を十分知覚しないために、ランプの全体的ルーメン出力は、低下する。同様に、過度の青色光浸透は、ランプの色合いを損ねる。この浸透に対処し、かつ蛍光体層の所要厚みを低減するために、量子効率(QE)を増加させてLED放射の吸収を高めた新しい蛍光体が開発されている。しかし、このQE及び吸収の増加は、LEDチップから高い入射光束を受ける遅い減衰期間を備えた蛍光体が飽和をもたらす可能性があるという第2の問題に寄与しただけであった。この損失機構は、白色光又は飽和色光源の効率を厳しく制限する可能性がある。更に、変動するLED駆動電流による実質的に一定のカラーポイントのような他の要件は、有意な蛍光体飽和が存在する場合には満足させることが事実上不可能である。
【0006】
すなわち、蛍光体の飽和を最小化し、それによってランプ効率を改善して駆動電流のある一定の範囲を通じて安定したランプの色合いを維持するようにLEDランプ内の蛍光体を選択し、及び/又は配置する方法に対する必要性が存在する。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5、998、925号
【特許文献2】米国特許第6、522、065号
【非特許文献1】S.Mikoshiba、S.Shirai、S.Shinada、及びM.Fukushima、「J.Appl.Phys.」50、1088(1979)
【発明の開示】
【0008】
本発明の例示的実施形態の1つの態様により、発光ダイオード又はレーザと1つ又はそれよりも多くの蛍光材料とを含み、各蛍光材料に対して(入射LED光束)×(蛍光体の励起断面積)×(蛍光材料の減衰期間)の積が0.3よりも小さい発光素子が提供される。
【0009】
本発明の例示的実施形態の第2の態様により、蛍光体変換LEDランプを生成する方法が提供され、本方法は、LEDチップを準備する段階、次にLEDチップの上に1つ又はそれよりも多くの蛍光材料を堆積させる段階を含み、蛍光材料は、各蛍光材料に対して(入射LED光束)×(蛍光体の励起断面積)×(蛍光材料の減衰期間)の積が0.3よりも小さくなるように選択されて堆積される。
【0010】
ランプに含めるために選択された蛍光体に応じて、蛍光体は、上述の式を満足させるために、LEDチップにより近いか又はそれから遠く離れて堆積させることができる。速い減衰期間を有する蛍光体に対しては、上述の式は、たとえそのような蛍光体がLEDチップの近くに置かれた場合でも一般的に満足させることができる。遅い減衰期間を有する蛍光体に対しては、ランプは、蛍光体上への平均入射光束を低減するために、これらの蛍光体がLEDチップから遠く離れて置かれるように設計されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1を参照すると、例示的な蛍光体−変換発光素子又はランプ10を示している。発光アセンブリ10は、発光ダイオード(LED)チップ12のような半導体UV又は青色放射線源と、LEDチップに電気的に取り付けられたリード14とを含む。リード14は、より厚いリードフレーム16によって支持された細いワイヤを含むことができ、又はリードは、自己支持電極を含むことができて、リードフレームを省略してもよい。リード14は、LEDチップ12に電流を供給し、従って、LEDチップ12に放射線を放出させる。
【0012】
LEDチップ12は、LEDチップ及び封入材料20を取り囲むシェル18内に封入することができる。シェル18は、例えば、ガラス又はプラスチックとすることができる。LED12は、封入材料20内で実質的に中心に位置することが好ましい。封入材料20は、エポキシ、プラスチック、低温ガラス、ポリマー、熱可塑性材料、熱硬化性材料、樹脂、又は当業技術で公知の他の種類のLED封入材料であることが好ましい。任意的に、封入材料20は、スピンオンガラス又は一部の他の高屈折率材料である。封入材料20は、エポキシ、又はシリコーンのようなポリマー材料が好ましい。シェルは、任意的に、省略することができ、又は封入材料と同一材料とすることができる。シェル18及び封入材料20の両方は、透明であるか又はLEDチップ12及び蛍光体含有層22によって生成された光の波長に関して実質的に光透過性であるのが好ましい。LEDチップ12は、例えば、リードフレーム16により、自己支持電極、シェル18の底面により、又はシェル又はリードフレームに取り付けられた台座(図示せず)により支持することができる。
【0013】
照明システムの構造は、LEDチップ12に放射的に結合した蛍光体層22を含む。放射的に結合したとは、要素が互いに関連付けられ、従って、一方の要素からの放射が他の要素に伝達されることを意味する。この蛍光体組成物22は、あらゆる適切な方法によってLEDチップ12上に堆積される。例えば、蛍光体の水ベースの懸濁液が形成され、LED表面に蛍光体層として付加することができる。1つのそのような方法では、蛍光体粒子がランダムに懸濁されたシリコーンスラリがLEDの周囲に置かれる。すなわち、蛍光体組成物22は、蛍光体懸濁液をLEDチップ12の上に被覆して乾燥させることにより、LEDチップ12の発光面の上又は発光面上に直接被覆することができる。シェル18及び封入材料20の両方は、好ましくは透明であり、又はそうでなければ、白色光24をこれらの要素を通して伝達させるように設計される。
【0014】
素子は、放出放射線が蛍光体上に向けられた時に白色光を生成することができるあらゆる半導体青色又はUV光源を含むことができる。好ましい実施形態では、半導体光源は、様々な不純物でドープされた青色放射LEDを含むことができる。すなわち、LEDは、あらゆる適切なIII−V、II−VI、又はIV−IV族半導体層に基づく半導体ダイオードを含むことができ、約250から500nmまでの放射波長を有することが好ましい。LEDは、GaN、ZnSe、又はSiCを含む少なくとも1つの半導体層を含有することができることが好ましい。例えば、LEDは、式IniGajAlkN(ここで、0≦i、0≦j、0≦k、かつi+j+k=1)で表わされ、約250nmより大きくて約500nmよりも小さな放射波長を有する窒化化合物半導体を含むことができる。そのようなLED半導体は、当業技術で公知である。放射線源は、便宜的に本明細書ではLEDとして説明する。しかし、本明細書で使用される場合、この用語は、例えば半導体レーザダイオードを含む全ての半導体放射線源を包含するという意味である。
【0015】
1つの例示的なLEDチップは、Si又はサファイアのような基板上に配置されたGaNのような第1のクラッド層を用いて形成され、n−AlwGa(1-w)Nの構造を有する。任意的なn−GaNクラッド層を追加することもできる。InGaN多重量子井戸層を含む活性層が、次に形成される。p−AlvGa(1-v)N構造、p−AlvGa(1-v)Nクラッド層、及びp−GaNクラッド層のような一連の任意的なp型クラッド層が、活性層上に配置される。構造を完成させるために、上面(p型)及び底面(n型)上に金属接点が形成される。レーザダイオードを形成するために、反射面を対向する各縁部に沿って形成し、レーザ空洞を形成することができる。p型接点に適切な組成物は、合金か、又はp−GaN層に接触したニッケル豊富組成物とニッケル豊富層に接触した金豊富組成物とによる、ニッケル−金である。n型接点に適切な組成物は、合金か、又は基板と接触したチタン豊富組成物とチタン富有層に接触したアルミニウム豊富組成物とによる、チタン−アルミニウムである。接点は、当業技術で公知のあらゆる手段によって堆積させることができる。
【0016】
本明細書で説明する本発明の例示的構造体の一般的説明は、無機LEDベースの光源に関するものであるが、LEDチップは、特に断りのない限り、有機光放射性構造又は他の放射線源で置き換えることができること、及びLEDチップ又は半導体へのどの参照もあらゆる適切な放射線源の例示に過ぎないことを理解すべきである。
【0017】
有機光放射性構造は、当業技術で公知である。一般的な高効率の有機放射性構造は、二重へテロ構造LEDと呼ばれる。この構造は、従来の無機LEDに非常に類似している。この種の素子では、ガラスの支持層は、インジウム/スズ酸化物(ITO)の薄層によって被覆され、構造体のための基板を形成する。次に、薄い(100〜500Å)主としてホール輸送の有機層(HTL)が、ITO層上に堆積される。HTL層の表面上に薄い(典型的に、50〜100Å)放出層(EL)が堆積される。これらの層が薄すぎる場合には、薄膜の厚みの増加時に薄膜の連続性に中断が存在する場合があり、内部抵抗が増加して、作動のためにより高い電力消費を必要とする。放出層(EL)は、EL上に堆積した100〜500Å厚の電子輸送層(ETL)から注入される電子とHTL層からの正孔とのための再結合サイトを提供する。ETL材料は、電荷欠損中心(正孔)に対するよりも大幅に高い電子に対する移動度によって特徴付けられる。
【0018】
作動においては、電力がダイ12に供給されてそれを活性化する。ダイ12は、活性化されると、その上面から離れる方向に一次光を放射する。放射された一次光は、蛍光体含有層22によって吸収される。蛍光体層22は、次に、一次光の吸収に反応して二次光、すなわち、より長いピーク波長を有する変換光を放射する。二次光は、層22内の蛍光体によって様々な方向にランダムに放射される。二次光の一部は、ダイ12から離れるように放射され、封入材料20(レンズとして作用する場合がある)を通って伝播し、出力光として素子10を出る。封入材料及び/又はシェル18は、必要に応じて出力光を様々な方向に向けることができる。
【0019】
図1の設計の1つの欠点は、遅い減衰期間(すなわち、長い発光寿命)を備えた蛍光体では、ある一定のLEDに存在する高い光束が、励起した定常状態の大きな母集団をもたらす点である。これは、利用可能な蛍光体の飽和をもたらし、蛍光体の発光効率を悪化させ、ルーメン出力の低下をもたらすものである。更に、高いLED駆動電流では、より大きなUV光束は、これらの蛍光体の発光効率を一層悪化させる傾向を有し、異なる駆動電流に対して色温度の重大な変化をもたらす。これは、UV−LED蛍光体に対して特に問題である。例えば、UV放射LEDチップと共に使用することができるEu2+−Mn2+エネルギ転移蛍光体では、チップからの入射UV光は、Eu2+イオンによって吸収され、そのエネルギは、次にMn2+に転移され、Mn2+からの緑色、黄色、オレンジ色、又は赤色放射を生じる。主な問題は、飽和の影響を受け易くさせるMn2+の遅い減衰期間(>10ms)にある。この問題は、高い吸収を備えた蛍光体、すなわち、入射UV浸透の減少に好ましく使用される種類において悪化する。その結果、UV浸透と、Eu2+−Mn2+エネルギ転移対に基づき、それによってこれらのランプの効率を低下させるUV−LED蛍光体の組における飽和との間にトレードオフが存在する。
【0020】
一般的に、本発明は、蛍光体の適切な選択によりLED放射を望ましい色に変換することによって機能するLEDベースのランプのルーメン出力及び色安定性を改善する蛍光体選択/層状化手法を提供する。この手法は、350〜490nmの間のLED放射で特に有効と考えられるが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明の実施形態の1つによると、性能指数(FOM)は、(入射LED光束)×(励起断面積)×(蛍光体の減衰期間)の積として定められる。LEDランプは、ランプ内の各蛍光体成分に対して、このFOMが0.3よりも小さくなるように設計される。FOMは、0.1よりも小さいことが好ましい。本出願人は、このFOMを満足させることが飽和効果を低減し、高いランプ効率を維持することになることを見出している。
【0022】
FOM方程式及び望ましい値は、例えば、LEDパッケージに配置された時のEu2+−Mn2+蛍光体内の物理現象であるMn2+の基底状態枯渇効果を考慮に入れて導出される。基底状態枯渇は、蛍光体内でMn2+イオンの有意な部分が励起状態にある時に発生する。これが発生すると、Eu2+は、もはや基底状態のMn2+イオンにエネルギを転移できなくなり、消光過程をもたらす。
【0023】
FOMの成分の測定には、直接時間分解発光測定が必要になる。蛍光体の減衰期間は、分光計においてLEDの外側で最初に測定することができ、本明細書に詳述するFOMの1つの成分を与える。次の段階は、(入射光束)(励起断面積)の積をs-1の単位で判断することである。蛍光体層が入射LED放射を散乱させるミクロンサイズの粒子から構成される点で、この積の個々の成分の測定は簡単ではない。しかし、この積は、LEDの発光出力をその負荷サイクル(オンの時間の%)の関数として測定することによって容易に測定することができる。測定を単純にするために、固定した測定値の組に対してLEDパルス周期を一定に保ち、オン時間を変化させる。発光強度がLEDのオン時間に正比例しない場合には、蛍光体コーティングは、LED励起の強力な光束の下で飽和し、蛍光体効率の対応する低下がある。
【0024】
次に、相対蛍光体効率をオン時間の関数としてプロットし、次に、S.Mikoshiba、S.Shirai、S.Shinada、及びM.Fukushima、「J.Appl.Phys.」50、1088(1979)によって説明された公開文献に公知の方程式を使用して、FOMの(入射光束)(励起断面積)値をバックアウトすることができる。
【0025】
(入射光束)(励起断面積)を判断する別の直接的方法は、立ち上がり時間測定又はビルドアップ測定として公知であるが、LEDのオン直後からの時間に対する蛍光体発光を測定することである。典型的な測定では、時間(t)にわたる蛍光体発光ビルドアップは、以下の式で当て嵌めることができる。
強度=k*1−exp(−t/τrise
ここで、τriseは、LED内の蛍光体に対して当て嵌めた立ち上がり時間である。この測定によってτriseが判断された状態で、次に、(入射光束)(励起断面積)の積は、以下のようになる。
(入射光束)(断面積):1/τrise−1/(蛍光体減衰期間)
FOMの判断のための分析後に、LEDパッケージ内の蛍光体QE(熱損失がないと仮定する)は、次に、以下のようになる。
QE(LED)=QE(分光計)/(1+FOM)
【0026】
望ましいFOM値は、いくつかの方法で各蛍光体に対して満足させることができる。これらは、1)速い減衰期間(例えば、<3ms)を備えた蛍光体の選択、2)蛍光体上の平均入射光束を最小化する方法による蛍光体の配置、又は3)この2つの組合せを含む。
【0027】
例えば、上述のFOM値を満足させ、それによってEu3+(減衰期間が約1ms)、Tb3+(減衰期間が約3ms)、Mn4+(減衰期間が約3ms)、Pr3+(減衰期間が約1〜500ms)、Eu2+(減衰期間が約1ms)、又はCe3+(減衰期間が<100ns)に基づく蛍光体のようなより速く減衰する蛍光体をLED内で使用することにより、飽和効果を回避することができる。これらの種類の蛍光体に対して、FOMの減衰期間成分は、目標値の0.3を満足するのに十分なほど低く、それによって飽和効果を低減するか又は防止する。
【0028】
代替的に、Mn2+(減衰期間が約10ms)に基づく蛍光体のようなより遅い減衰期間の蛍光体が使用される場合には、代替的なLEDランプ設計を使用して蛍光体層上の平均光束を低減することができる。これを達成する1つの方法は、これらの減衰の遅い蛍光体を含有する蛍光体コーティングをLEDチップから遠く離して配置し、蛍光体上の平均光束を低減することである。
【0029】
これらの方法は、互いに組み合わせて使用してもよい。例えば、より速い減衰期間を備えた蛍光体は、LEDチップにより近く設けられてもよく、より遅い減衰期間の蛍光体は、これらのより速い蛍光体の上に設けることができる。最初のより速く減衰する蛍光体層は、入射LED放射を散乱かつ吸収することになり、それが、より遅く減衰する蛍光体上の入射光束を低減することになり、その層内での飽和を防止する。このようなコーティング手法は、素子全体の効率を最大にすることになる。
【0030】
図1に示す設計は、非常に速い減衰期間を備えた蛍光体が使用される時に上述のFOMを満足させるのに適切と考えられるが、より遅い減衰期間の蛍光体に対しては、他の設計が必要になる場合がある。すなわち、図2を参照すると、本発明の一実施形態による発光素子を示している。図2の実施形態の構造は、蛍光体層122がLEDチップから遠く離れて配置される以外は、図1の構造と類似している。この配置は、LED放射がLEDチップから離れて伝播する時にそれが分散されるので、より低い入射LED光束をもたらす。すなわち、上記に定めたFOMは、より遅く減衰する蛍光体によってより容易に満足させることができる。
【0031】
代替的に、単一の蛍光体層122に代えて、蛍光体組成物を封入材料120内に散乱させることもできる。蛍光体(粉末の形態)は、封入材料120の単一領域内又は封入材料の全容積にわたって散乱させることができる。蛍光体を封入材料120内に散乱させる場合には、蛍光体粉末をポリマー前駆体に付加し、LEDチップ112の周囲に装填し、次に、ポリマー前駆体を養生してポリマー材料を凝固することができる。転移装填のような他の公知の蛍光体散乱方法を使用することもできる。
【0032】
図3は、本発明の好ましい態様によるシステムの第3の好ましい構造を示している。図3に示す実施形態の構造は、蛍光体組成物222が、LEDチップ212の上に形成される代わりに、封入材料220の外面又はもしあればシェル218の表面上に被覆される以外は図1に類似している。シェル218が存在する場合には、蛍光体組成物は、シェル218の内面上に被覆されることが好ましいが、必要に応じて、蛍光体は、シェルの外面上に被覆することもできる。蛍光体組成物222は、シェルの全表面上又はシェル表面の上部部分だけに被覆することができる。勿論、図1〜図3の構造を組み合わせてもよく、1つ又はそれよりも多くの蛍光体は、どの2つ又は全ての3つの位置にも位置することができる。
【0033】
すなわち、ここで図4を参照すると、本発明の一実施形態による2つの別々の蛍光材料を備えた発光素子を示している。図4に示す実施形態の構造は、第2の蛍光体組成物324がシェル318の表面上に被覆される以外は図1に類似している。第1の蛍光材料322は、LEDチップ312の上に配置される。
【0034】
第1の層322内の蛍光体は、それがLEDチップの近くに配置され、従ってLEDチップから高い入射光束を受けることになるために、好ましくは速い減衰期間を有することになる。第2の層324内の蛍光体は、それが第1の層によるLED放射の吸収及び散乱に起因してより低い入射光束を受けることになるために、より長い減衰期間を備えた蛍光体であると考えられる。上述のように、ランプ内の各蛍光体は、0.3又はそれよりも小さいFOMを有することになる。本発明の説明では、各層における単一蛍光体組成物を参照することができるが、第1及び第2の蛍光材料の両方は、2つ又はそれよりも多くの異なる蛍光体組成物を含有することができることを認めるべきである。
【0035】
本発明の実施形態は、1つ又は2つの蛍光体層を示すが、本発明は、そのようなものに限定されず、実施形態は、3つ又はそれよりも多くの蛍光体層を収容するように企図されている。有利な態様では、本発明による半導体構成要素は、従来の生産ラインを使用して製造可能である。
【0036】
生じた光の色温度又は色配置は、蛍光材料、粒径、及びその濃度の適切な選択によって変更可能である。更に、発光材料混合物を利用することもでき、1つの有利な結果として、放射光の色の望ましい色調を精密に調節することができる。
【0037】
FOMに対する上述の方程式から判断することができるように、速い減衰期間を備えた蛍光体は、より遅い減衰期間を備えた蛍光体よりも所定のLEDにより近く位置決めすることができ(そのために、より高い入射光束を受ける)、同時に依然として0.3の目標を満足することができる。すなわち、例えば、図1の実施形態で使用される蛍光体は、ある一定の平均光度を備えた従来のLEDチップを使用するランプに対するFOMを満足させるために、約1ms又はそれよりも小さい程度の減衰期間を有することができる。同様に、より遅い減衰期間を備えた蛍光体は、図2〜図3の実施形態に、及び図4の第2の蛍光体層として使用することができる。これらの蛍光体の選択は、入射光束が最も高いLEDに最も近い蛍光体層内のイオンの励起状態母集団が大きいことに起因する飽和効果を最小化することになる。LEDから遠く離れた蛍光体層は、次に、より遅い減衰期間(>3ms)を有する及び/又は入射LED放射の吸収がより大きい蛍光体を使用することができる。
【0038】
LEDから遠く離れた層内での高い吸収性のEu2+−Mn2+蛍光体の使用は、それが、最初の蛍光体層を通って浸透する入射光の有意な部分が有用な可視光に変換されてLED素子効率を増大させることを保証するのを助けるので、図4に関して説明した実施形態における第2の蛍光体として特に有用である。仮にこれらの蛍光体がLEDの近くに置かれた場合、高い入射光束からの蛍光体の飽和効果が蛍光体の量子効率(QE)を大きく低減し、より低いルーメン出力を備えたランプをもたらすであろう。しかし、本発明の層状化手法によると、LEDに最も近い蛍光体層は、入射放射を吸収しかつ散乱させ、それによってLEDから遠く離れた蛍光体層上の光束を低減する。その結果、蛍光体飽和効果が大きく低減され、LEDから離れている蛍光体層は、より高いQEを有する。これが、LEDランプのルーメン出力を改善することになる。
【0039】
本発明において適切に使用することができる蛍光体は、限定はしないが以下のものを含む。
青色:
【0040】
【化1】

【0041】
青色−緑色:
【0042】
【化2】

【0043】
緑色:
【0044】
【化3】

【0045】
黄色−オレンジ色
【0046】
【化4】

【0047】
赤色:
【0048】
【化5】

【0049】
上述の蛍光体の減衰期間は公知であり、又は公知の方法を使用して判断することができる。これらの減衰期間及び公知のLEDを使用して行われる計算に基づいて、エンドユーザが所望する蛍光体の適正な配置は、各蛍光体に対するFOMが0.3又はそれ未満になるように判断することができる。すなわち、ユーザは、依然として蛍光体及びLEDチップのあらゆる組合せを望むように選択し、同時にランプ効率を維持して飽和効果の危険性を低減することにより、望ましい光品質を備えたランプ設計における柔軟性を維持することができる。
【実施例1】
【0050】
蛍光体/配置の改善が飽和の低減及び素子効率の改善をもたらすことができる方法の実施例と実証をここで説明する。400〜410nmのUVのLEDチップ及び2つの異なる蛍光体組成物で作られたLEDの初期比較が行われた。第1のサンプル(サンプル1)は、Sr227:Eu、Mn(SPP)とSr4Al1425:Eu(SAE)との配合物から成る。第2のサンプル(サンプル2)は、Ca5(PO43Cl:Eu、Mn(HALO)とSAEとの配合物から成る。サンプル2の蛍光体配合物は、サンプル1に対して20%高い量子効率を有し(分光計において)、かつ405nmの光の吸収も25〜30%高いので(同様の粒径の蛍光体に対して)、サンプル2配合物は、パッケージ内のサンプル1配合物に対して遥かに高いルーメン出力を有することになると予想された。その代わりに、サンプル2LEDは、サンプル1LEDと比較して15〜20%低いルーメンを有した。この相違の主な原因は、SPPに対する0.196のFOMと比較してHALO蛍光体の高い吸収性(0.594の上記に定めたFOM)による飽和効果に起因するものであると判断された。
【0051】
別の実施例は、蛍光体配置が図5に示す層状化構成に修正された実験によってもたらされる。これらの実験では、より低い吸収性のサンプル1配合物50がLEDチップ52により近く配置され、一方、より高い吸収性(及びより高い飽和性)のHALO蛍光体54は、LEDチップから遠く離して置かれた。上述のUVチップを使用するこの発光素子の放射特性は56に示している。この配置は、満足できる5200のCCT値及び85の高いCRIを備えたサンプル1(8.3ルーメン/W)又はサンプル2(9ルーメン/W)配合物だけを使用するLEDと比較して、ルーメン出力の大きな改善(駆動電流350mAでの13ルーメン/W)をもたらした。この配置が機能する理由は、より低い飽和性蛍光体がLEDにより近く存在し、一方、高吸収能蛍光体が多くのUV−LED放射を可視光に変換する恩典を依然として有するからである。
【0052】
以上の説明、実施例、及び図面は、本発明の特定的な実施形態を参照するものであるが、本発明は、これに限定されないものとする。例えば、発光素子のFOM及び他の望ましい特性を満足させるように、付加的な蛍光体配置手法を考案することができると考えられる。明らかに、以上の詳細説明を読んで理解すれば、他の者には修正及び変更が想起されるであろう。例示的な実施形態は、全てのそのような修正及び変更が特許請求の範囲又はその均等物の範囲に属する限り、それらを含むように解釈されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の1つの実施形態による照明システムの概略断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態による照明システムの概略断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態による照明システムの概略断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態による照明システムの概略断面図である。
【図5】本発明の一実施形態の実施例における特定の蛍光体配置手法を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10 蛍光体−変換発光素子又はランプ
12 発光ダイオード(LED)チップ
18 シェル
20 封入材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LEDと1つ又はそれよりも多くの蛍光材料とを含む発光素子であって、
各蛍光材料に対して、(入射LED光束)×(蛍光体の励起断面積)×(蛍光材料減衰期間)の積が0.3よりも小さい、
ことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記LEDは、半導体材料から成ることを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記LEDは、350と490nmの間の光を放射することを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項4】
前記積は、0.1よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項5】
前記蛍光材料は、Eu2+−Mn2+エネルギ転移をもたらすことを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項6】
前記蛍光材料は、Eu3+、Tb3+、Mn4+、Pr3+、Eu2+、又はCe3+のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項7】
請求項6に掲載の蛍光体よりも遠くに前記LEDチップから分散された第1の蛍光材料を含み、
前記第1の蛍光材料は、請求項6に掲載の蛍光体よりも遅い減衰期間を有する、
ことを特徴とする請求項6に記載の素子。
【請求項8】
前記LEDチップにより近く置かれたより速い減衰期間を備えた少なくとも1つの蛍光体と、該LEDチップからより遠くのより遅い減衰期間を有する少なくとも1つの蛍光体とを含むことを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項9】
前記蛍光材料は、前記LEDから遠隔に位置決めされていることを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項10】
前記LEDに隣接する第1の層に位置決めされた速い減衰期間を有する第1の蛍光材料と、より長い減衰期間を有して該LEDから遠隔に位置決めされた第2の層内の蛍光材料とを含むことを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項11】
3つ又はそれよりも多くの蛍光体層を有することを特徴とする請求項10に記載の素子。
【請求項12】
前記LEDから外向きの方向にある各蛍光体層は、より長い減衰期間を有することを特徴とする請求項11に記載の素子。
【請求項13】
前記蛍光体層は、1つ又はそれよりも多くの蛍光体から成ることを特徴とする請求項10に記載の素子。
【請求項14】
約1msよりも短い減衰期間を備えて、比較的前記LEDにより近く位置決めされた蛍光体と、該LEDから遠く離れて位置決めされて、約3msよりも大きな減衰期間を有する蛍光体とを含むことを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項15】
Eu2+−Mn2+蛍光体は、前記LEDから遠い層において使用されることを特徴とする請求項8に記載の素子。
【請求項16】
蛍光体変換LEDランプを生成する方法であって、
LEDチップを準備する段階と、
次に、1つ又はそれよりも多くの蛍光材料を前記LEDチップの上に堆積させる段階と、
を含み、
前記蛍光材料は、各蛍光材料に対して(入射LED光束)×(蛍光体の励起断面積)×(蛍光材料減衰期間)の積が0.3よりも小さくなるように選択されて堆積される、
ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−527118(P2007−527118A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−554331(P2006−554331)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/006098
【国際公開番号】WO2005/083036
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(503399964)ゲルコアー リミテッド ライアビリティ カンパニー (32)
【Fターム(参考)】