蛍光体微粒子、該蛍光体微粒子の製造方法、蛍光体薄膜及びELデバイス
【課題】一次粒径が100nm以下で、凝集がなく、単結晶であり、高結晶性のペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子、該蛍光体微粒子を比較的低温かつ短時間で、更に環境負荷の極めて低い水媒体中で製造可能な蛍光体微粒子の製造方法、該蛍光体微粒子を用いた蛍光体薄膜及びELデバイスを提供すること。
【解決手段】本発明の蛍光体微粒子は、下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子であって、一次粒径が大きくとも100nm以下で、凝集がなく、単結晶であることを特徴とする。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
【解決手段】本発明の蛍光体微粒子は、下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子であって、一次粒径が大きくとも100nm以下で、凝集がなく、単結晶であることを特徴とする。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子、該蛍光体微粒子の製造方法、該蛍光体微粒子を用いた蛍光体薄膜及びELデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子の製造方法としては、固相反応法、ゾルゲル法が知られている。
例えば、固相反応法に関する非特許文献1には、原料にCaCO3、BaCO3、SrCO3、Pr2O3、TiO2を用いて、これらを混合した後、1,400℃で4時間焼成することにより、ペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子を製造する方法が記載されている。
しかしながら、固相反応法により製造される蛍光体微粒子は、高い結晶性を有するものの、その一次粒径がマイクロメートルオーダーであり、粉砕や分級操作により微粒子化しても100nm以下の粒径のものを得ることが難しいという問題を有する。
また、各蛍光体微粒子間の組成の均一性に欠け、目的とする蛍光体微粒子を得るための制御が難しいという問題がある。
【0003】
また、例えば、ゾルゲル法に関する非特許文献2には、塩化カルシウムとクエン酸のエタノール溶液と塩化プラセオジム水溶液との混合溶液にチタン(IV)n−ブトキシドを添加してゾルを得た後、このゾルを100℃で10時間加熱処理することによりゲルを得て、次いで300℃で2時間加熱処理した後、450℃〜950℃で2時間焼成し、ペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子を製造する方法が記載されている。得られる蛍光体微粒子の粒径は、焼成温度の上昇にともなって7nmから300nm程度に大きくなる。
このゾルゲル法は、前記固相反応法と比べて組成の均一性や微粒子化の点で優れているものの、熱処理過程で粒子成長する際に、凝集しやすく、多結晶体となる問題を有する。
したがって、一次粒径が100nm以下で、凝集がなく、単結晶性のペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子としては、何ら存在しないというのが現状である。
また、こうした蛍光体微粒子を比較的低温かつ短時間で、更に環境負荷の極めて低い水媒体中で製造できれば、広くELデバイス及び太陽電池の波長変換膜などの蛍光体微粒子を用いた製品に実用化でき、小型で高機能の製品を実現できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Wangら、Japanese Journal of Applied Physics,44,2005,L912
【非特許文献2】Zhangら、Journal of Physical Chemistry C,111,2007,18044
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、一次粒径が100nm以下で、凝集がなく、単結晶であり、高結晶性のペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子、該蛍光体微粒子を比較的低温かつ短時間で、更に環境負荷の極めて低い水媒体中で製造可能な蛍光体微粒子の製造方法、該蛍光体微粒子を用いた蛍光体薄膜及びELデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子であって、一次粒径が大きくとも100nm以下で、凝集がなく、単結晶であることを特徴とする蛍光体微粒子。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
<2> 下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子の製造方法であって、Ca、Ba、Sr、Ti、及びAlのイオン、酸化物又は水酸化物から選択される原料とPrのイオンからなる原料とを、亜臨界ないし超臨界状態の水中にて水熱反応させることを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
<3> Prのイオンからなる原料中の金属の物質量をXとし、Ti及びAlのイオン、酸化物又は水酸化物から選択される原料中の金属の総物質量をYとしたとき、X/Yの比が0.0001〜0.01である前記<2>に記載の蛍光体微粒子の製造方法。
<4> 水熱反応の温度条件が200℃〜550℃である前記<2>から<3>のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
<5> 水熱反応の圧力条件が5MPa〜100MPaである前記<2>から<4>のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
<6> 水熱反応の処理時間の条件が0.001秒〜60秒である前記<2>から<5>のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
<7> KOH/HNO3の比を物質量基準で1.0〜3.0とした水酸化カリウム及び硝酸の存在下で水熱反応させる前記<2>から<6>のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
<8> 前記<1>に記載の蛍光体微粒子を含むことを特徴とする蛍光体薄膜。
<9> 前記<8>に記載の蛍光体薄膜を有することを特徴とするELデバイス。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、一次粒径が100nm以下で、凝集がなく、単結晶であり、高結晶性のペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子、該蛍光体微粒子を比較的低温かつ短時間で、更に環境負荷の極めて低い水媒体中で製造可能な蛍光体微粒子の製造方法、該蛍光体微粒子を用いた蛍光体薄膜及びELデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の蛍光体微粒子の結晶構造を説明する説明図である。
【図2A】水熱反応に用いられる流通式水熱合成反応装置の一例を説明する説明図である。
【図2B】水熱反応に用いられる流通式水熱合成反応装置の他の例を説明する説明図である。
【図3】実施例1〜3及び比較例1に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す図である。
【図4A】実施例1に係る蛍光体微粒子のTEM像である。
【図4B】実施例1に係る蛍光体微粒子の高分解能TEM像である。
【図5】実施例1に係る蛍光体微粒子の粒径分布を示す図である。
【図6】実施例1に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図7】実施例4〜9に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す図である。
【図8】実施例4〜9に係る蛍光体微粒子のTEM像を示す図である。
【図9】実施例4〜9に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図10】実施例4〜9に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトル強度の温度依存性を示す図である。
【図11】実施例10に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す図である。
【図12】実施例1及び10に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図13】実施例11〜13に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図14】実施例14〜19に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す図である。
【図15】実施例14,16,18,19に係る蛍光体微粒子のTEM像である。
【図16】実施例14〜19に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図17】実施例14〜19に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトル強度の温度依存性を示す図である。
【図18】実施例20に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す図である。
【図19】実施例20に係る蛍光体微粒子のTEM像である。
【図20】実施例20に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図21】本発明の一実施例に係るELデバイスの概要を説明する説明図である。
【図22】ELデバイスの発光スペクトルを示す図である。
【図23】ELデバイスに通電した際の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(蛍光体微粒子及びその製造方法)
本発明の蛍光体微粒子は、下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子であって、一次粒径が大きくとも100nm以下で、凝集がなく、単結晶であることを特徴とする。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
【0010】
図1に前記蛍光体微粒子の結晶構造の説明図を示す。前記蛍光体微粒子は、この図1に示すようにペロブスカイト型構造の結晶構造を有し、各頂点に組成Aが配置され、体心に組成Bが配置され、この組成Bを中心として、各面心にOが配置される。Pr3+は、主として組成Aの一部と置換されて配置される。
【0011】
前記蛍光体微粒子の製造方法としては、前記蛍光体微粒子の特性を有する限り、特に制限はないが、本発明の蛍光体微粒子の製造方法により製造することができる。
【0012】
即ち、本発明の前記蛍光体微粒子の製造方法は、前記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子の製造方法であって、Ca、Ba、Sr、Ti及びAlのイオン、酸化物、又は水酸化物から選択される原料とPrのイオン、酸化物又は水酸化物からなる原料とを、亜臨界ないし超臨界状態の水中にて水熱反応させることを特徴とする。
【0013】
<水熱反応の反応媒体>
前記水熱反応の反応媒体としては、前記原料の水熱反応が生ずる限り特に制限はないが、前記原料を含む原料溶液と、アルカリ溶液と、水とが好ましく、前記原料を含む原料溶液と前記アルカリ溶液と前記亜臨界ないし超臨界状態の水とを混合することで、瞬時に前記原料の反応条件に達し、余剰の粒子成長等を生じさせることなく、微細で非凝集性、単結晶性かつ高結晶性の前記蛍光体微粒子が得られる。
【0014】
前記式(1)における組成Aの原料としては、Ca、Ba及びSrの原料のうち、少なくともいずれかのイオン、酸化物、又は水酸化物を挙げることができ、目的とする生成物の組成に応じて適宜選択することができる。例えば、前記原料のうち、1種のイオン、酸化物、又は水酸化物を選択してもよいし、2種のイオン、酸化物、又は水酸化物を選択してもよい。
前記イオンとしては、前記原料を前記反応媒体に溶解させて得ることができ、例えば、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム等の前記原料金属を含む化合物の少なくともいずれかを前記反応媒体に溶解させて得ることができる。
また、前記原料の酸化物としては、例えば、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム等が挙げられる。
また、前記原料の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム等が挙げられる。
【0015】
前記式(1)における組成Bの原料としては、Ti及びTiとAlのいずれかの原料金属のイオン、酸化物又は水酸化物を挙げることができ、目的とする生成物の組成に応じて適宜選択することができる。例えば、Tiのイオン、酸化物又は水酸化物を選択してもよいし、TiとAlのイオン、酸化物又は水酸化物を選択してもよい。
前記イオンとしては、前記原料を前記反応媒体に溶解させて得ることができ、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸チタン、塩化チタン、チタンアルコキシド等の前記原料金属を含む化合物の少なくともいずれかを前記反応媒体に溶解させて得ることができる。
また、前記原料金属の酸化物としては、例えば、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al2O3)等が挙げられる。
また、前記原料金属の水酸化物としては、例えば、水酸化チタン、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0016】
前記式(1)における組成O(酸素元素)の供給源としては、前記式(1)で表される蛍光体微粒子が得られる限り、特に制限はなく、例えば、前記原料金属の酸化物又は水酸化物、前記アルカリ溶液及び前記水の少なくともいずれかに含まれる酸素、若しくはこれらの反応媒体と独立して供給される酸素ガス等が想定される。
【0017】
前記式(1)における組成Pr3+としては、例えば、硝酸プラセオジム、硫酸プラセオジム、酸化プラセオジム等のプラセオジム原料金属を含む化合物を前記反応媒体に溶解若しくは分散させて得ることができる。
また、Prのイオンからなる原料中の金属の物質量をXとし、Ti及びAlのイオン、酸化物又は水酸化物から選択される原料中の金属の総物質量をYとしたとき、X/Yの比としては、0.0001〜0.01が好ましい。
前記X/Yの比が、0.0001未満の場合や0.01を超える場合には、十分な蛍光強度が得られないことがある。
【0018】
前記アルカリ溶液としては、pH操作による加水分解反応、錯形成反応、溶解度の制御のために用いられる。
前記アルカリ溶液の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液、尿素水溶液等が挙げられる。
ここで、前記水熱反応を水酸化カリウム及び硝酸の存在下で行う場合には、そのKOH/HNO3の比を物質量基準で1.0〜3.0とすることが好ましい。
前記KOH/HNO3の比が1.0未満であると、生成物中に未反応の原料が含まれることがあり、3.0を超えると、粒子成長により粒径が増大したり、目的物が単一相で得られなかったりすることがある。
なお、前記硝酸の硝酸源としては、前記原料として用いられる硝酸化合物が挙げられる。
【0019】
<水熱反応>
本発明では、前述の通り、前記原料を亜臨界ないし超臨界状態の水中にて水熱反応させることを特徴とする。ここで、前記亜臨界ないし超臨界状態の水とは、高温高圧状態にある水を示し、前記水熱反応の温度条件及び圧力条件は、前記水の温度及び圧力にしたがう。
前記水熱反応の温度条件としては、200℃〜550℃が好ましく、350℃〜500℃がより好ましい。
前記温度条件が200℃未満であると、生成物中に未反応の原料が残存することがあり、550℃を超えると、装置の強度が急激に低下するため合成が困難となる。
また、前記水熱反応の圧力条件としては、5MPa〜100MPaが好ましく、20MPa〜40MPaがより好ましい。
前記圧力条件が5MPa未満であると、生成物中に未反応の原料が残存することがあり、100MPaを超えると、粒子成長により粒径が増大したり、目的物が単一相で得られなかったりすることがある。
【0020】
前記水熱反応の処理時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001秒〜60秒が好ましい。
前記処理時間が0.001秒未満であると、生成物中に未反応の原料が残存することがあり、60秒を超えると、凝集が進行したり、装置からの溶出成分が含有されてしまったりすることがある。
【0021】
前記水熱反応により、前記蛍光体微粒子が生成される。
この蛍光体微粒子の回収方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、反応終了液とともに冷却した後、適当なフィルターによりろ別し、紛体として回収する方法が挙げられる。
【0022】
前記蛍光体微粒子の組成としては、エネルギー分散型X線分析装置により測定することができる。また、その結晶構造としては、粉末X線回折装置(XRD)により測定することができる。更に、その凝集性や1次粒径としては、透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡により観察することができる。
なお、前記1次粒径とは、前記水熱反応により得られた蛍光体微粒子の粒子径を示し、粉砕処理及び分級処理等の二次的処理を行わない状態における粒子径を示す。また、前記1次粒径の平均としては、前記電子顕微鏡の観察野に存在する前記蛍光体微粒子の粒子径を平均化して求めることができる。
【0023】
(水熱反応装置)
前記水熱反応に用いられる流通式水熱合成反応装置の一例を図2Aに示す。
この流通式水熱合成反応装置は、3基の高圧ポンプ1,2,3と、加熱器4と、2基のマイクロミキサ5,6と、反応管用ヒータ7と、反応管8と、間接冷却器9と、背圧弁10、回収器11と、窒素ボンベ12と、アルカリ水溶液槽13と、純水槽14と、原料金属塩溶液槽15とから構成される。各部材間に配される継手及び配管としては、例えば、SUS316製のものが使用される。
純水は、純水槽14から高圧ポンプ1により加熱器4に送液され、高温高圧水として反応管8に送液される。
また、アルカリ水溶液及び原料金属塩溶液は、それぞれアルカリ水溶液槽13、原料金属塩溶液槽15から高圧ポンプ2,3により反応管8に送液される。この際、原料金属塩溶液は、マイクロミキサ5、マイクロミキサ6内で高温高圧水と混合され、急速に反応温度まで昇温される。
反応管8に送液された各液は、反応管8内に一定時間滞在させて水熱反応に供される。水熱反応により生成された蛍光体微粒子及び反応終了液は、反応管8の出口に配された間接冷却器9により冷却された後、背圧弁10にて降圧され、回収器11内に回収される。
この際、蛍光体微粒子は、反応終了液とともにスラリーとして回収器11内に回収される。これを固液分離することにより、蛍光体微粒子を得ることができる。
【0024】
なお、図2Aに示す態様は、流通式水熱合成反応装置の一例であり、例えば、図2Bに示すように、原料金属塩溶液とアルカリ水溶液とをマイクロミキサ5で混合させた後、その混合液をマイクロミキサ6内で高温高圧水と混合させるようにしてもよい。
【0025】
(蛍光体薄膜)
本発明の蛍光体薄膜は、本発明の前記蛍光体微粒子を含む。
前記蛍光体薄膜の形成方法としては、前記蛍光体微粒子を含む限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記蛍光体微粒子の紛体を直接基板上にメッシュ等を介して均一散布する方法や、媒体に含浸させた後、基板上に塗工する方法等が挙げられる。
【0026】
(ELデバイス)
本発明のELデバイスは、少なくとも前記蛍光体薄膜を有し、この他、ELデバイスの用途等から基板、電極等の部材を適宜選択して構成される。
前記基板としては、特に制限はなく、公知の基板から目的に応じて適宜選択された基板を用いることができる。また、前記電極としては、公知の電極から目的に応じて適宜選択された電極を用いることができる。
例えば、前記ELデバイスは、前記電極としての電極材料を塗工した2つの前記基板間に、その塗工面側で前記蛍光体薄膜を挟持させた構成とすることができる。
なお、前記蛍光体薄膜が基板上の一部に形成される場合、前記蛍光体薄膜の周囲に絶縁体を配することで、対向する前記電極同士が接触しない構成とすることができ、この他にも、必要に応じて適宜選択される部材を付加して構成することができる。
【実施例】
【0027】
[実験例1:CaTiO3:Pr3+単一相の合成]
(実施例1)
図2Aに示す流通式水熱合成反応装置を用いてペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子を製造した。
具体的には、チタニアゾルと硝酸カルシウム水溶液と硝酸プラセオジム水溶液の混合溶液であり、チタニアゾル、硝酸カルシウム及び硝酸プラセオジムの原料金属濃度がそれぞれ0.025mol/kg、0.025mol/kg、0.00005mol/kgである原料金属塩溶液を20cm3/minで、濃度0.32mol/kgの水酸化カリウム水溶液を5cm3/minで、純水を75cm3/minで、それぞれ反応管内に送液し、これを反応温度400℃、反応圧力30MPa、反応管内のKOH/HNO3の物質量比1.5及び滞在時間5秒とする水熱反応条件で反応させ、実施例1に係る蛍光体微粒子を製造した。
なお、KOH/HNO3の物質量比は、全溶液を混合後のKOH濃度/(全溶液を混合後の硝酸カルシウム濃度×2+全溶液を混合後の硝酸プラセオジム濃度×3+全溶液を混合後のチタニアゾル中の硝酸濃度)として算出される。また、実施例2以降においても、同様の算出方法により、KOH/HNO3の物質量比が算出される。
【0028】
図3に実施例1に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す。このXRDパターンは、斜方晶CaTiO3(JSPDS−82−0228)のXRDパターンと一致した。
また、エネルギー分散型X線分析装置を用いた組成分析の結果、Ca/Ti物質量比は、0.99であった。
また、実施例1に係る蛍光体微粒子のTEM像を図4A,4Bに、また、その粒径分布を図5に示す。これらに示すように、蛍光体微粒子の粒径は、50nm以下であり、また、その粒子ひとつひとつが分離して、凝集していないことがわかる。
TEM像から算出した平均1次粒径は、20nmであり、XRDパターンにおけるピークの半値幅から算出した結晶子径(面間隔)の17nmとほぼ一致したことから、TEM像で観察される粒子ひとつひとつは、凝集体ではなく、単結晶であることがわかる。
また、図4Bに示した高分解能TEM像において鮮明な格子像が確認できることから、前記蛍光体微粒子は、高結晶性であり、また、凝集体ではなく単結晶体であることを確認できる。
図6に分光蛍光光度計を用い、励起波長328nmの光を前記蛍光体微粒子に照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この蛍光スペクトルでは、Prイオン由来の中心波長612nmの鋭いピークが見られ、CaTiO3:Pr3+の生成が確認できる。
【0029】
[実験例2:CaTiO3:Pr3+合成におけるKOH濃度(KOH/HNO3比)の影響]
(比較例1)
水酸化カリウム水溶液を混合せず、反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.5から0に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0030】
(実施例2)
水酸化カリウム水溶液における水酸化カリウム濃度を0.32mol/kgから0.21mol/kgに変え、反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.5から1.0に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0031】
(実施例3)
水酸化カリウム水溶液における水酸化カリウム濃度を0.32mol/kgから0.11mol/kgに変え、反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.5から0.5に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0032】
図3に水酸化カリウム濃度を変化させたときの生成物(実施例1〜3に係る蛍光体微粒子及び比較例1に係る蛍光体微粒子)のXRDパターンを示す。比較例1に係る蛍光体微粒子においては、TiO2の単一相の生成が確認された。また、KOH/HNO3物質量比が0.5の実施例3に係る蛍光体微粒子では、未反応のチタニアのピークが認められた。これに対して、KOH/HNO3物質量比が1.0以上の実施例1及び2に係る蛍光体微粒子では、CaTiO3の単一相の生成が確認された。
【0033】
[実験例3:CaTiO3:Pr3+合成における反応温度の影響]
(実施例4)
図2Bに示す流通式水熱合成反応装置を用いてペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子を製造した。
具体的には、チタニアゾルと硝酸カルシウム水溶液と硝酸プラセオジム水溶液の混合溶液であり、チタニアゾル、硝酸カルシウム及び硝酸プラセオジムの原料金属濃度がそれぞれ0.05mol/kg、0.05mol/kg、0.0001mol/kgである原料金属塩溶液を6cm3/minで、濃度0.12mol/kgの水酸化カリウム水溶液を6cm3/minで、純水を33cm3/minで、それぞれ反応管内に送液し、これを反応温度200℃、反応圧力30MPa、反応管内のKOH/HNO3物質量比1.2及び滞在時間16秒の水熱反応条件で反応させ、実施例4に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0034】
(実施例5)
水熱反応の反応温度を200℃から250℃に変え、滞在時間を16秒から15秒に変えたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例5に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0035】
(実施例6)
水熱反応の反応温度を200℃から300℃に変え、滞在時間を16秒から13秒に変えたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例6に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0036】
(実施例7)
水熱反応の反応温度を200℃から350℃に変え、滞在時間を16秒から12秒に変えたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例7に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0037】
(実施例8)
水熱反応の反応温度を200℃から380℃に変え、滞在時間を16秒から10秒に変えたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例8に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0038】
(実施例9)
水熱反応の反応温度を200℃から400℃に変え、滞在時間を16秒から7秒に変えたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例9に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0039】
図7に実施例4〜9に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す。このXRDパターンでは、反応温度の条件が異なる実施例4〜9に係る蛍光体微粒子において、その大半が斜方晶CaTiO3(JSPDS−82−0228)のXRDパターンと一致し、実施例4及び5に係る反応温度が200℃と250℃の場合の蛍光体微粒子についてのみ、未反応のチタニアのピークが認められた。
図8に実施例4〜9に係る蛍光体微粒子のTEM像を示す。低温条件(実施例4,実施例5)では、5nm程度の未反応のチタニアと50nm程度のCaTiO3が混在していることが確認される。高温条件(実施例7,実施例8,実施例9)では、輪郭の鮮明な10nm〜50nmの粒子が確認でき、粒子ひとつひとつが分離して、凝集していないことがわかる。
図9に分光蛍光光度計を用い、励起波長312nmの光を実施例4〜9に係る蛍光体微粒子に照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この図9では、Prイオン由来の中心波長612nmの鋭いピークが見られ、CaTiO3:Pr3+の生成を確認できる。
また、図10に分光蛍光光度計を用いて測定した蛍光スペクトル強度の温度依存性を示す。この図10では、反応温度の上昇とともに、粒径が減少しているにもかかわらず、スペクトル強度が増加していることが確認できる。これは、蛍光体微粒子が高結晶性になっているためと考えられる。
【0040】
[実験例4:Ca0.95Ba0.04TiO3:Pr3+単一相の合成]
(実施例10)
原料金属塩溶液における硝酸カルシウムの原料金属濃度を0.025mol/kgから0.024mol/kgに変え、更に原料金属塩溶液に対して、その原料金属濃度が0.001mol/kgとなるように硝酸バリウム水溶液を混合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例10に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0041】
エネルギー分散型X線分析装置を用いた組成分析の結果、実施例10に係る蛍光体微粒子の組成は、Ca:Ba:Tiの組成比が0.95:0.04:1.0であった。
図11に実施例10に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す。このXRDパターンは、斜方晶のCa0.95Ba0.04TiO3のXRDパターンと一致した。
図12に分光蛍光光度計を用い、励起波長328nmの光を実施例10に係る蛍光体微粒子に照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この蛍光スペクトルでは、Prイオン由来の中心波長612nmの鋭いピークが見られた。このことから、Ca0.95Ba0.04TiO3:Pr3+が単一相で得られたことが分かった。また、実施例1に係る蛍光体微粒子(CaTiO3:Pr3+)と比較して、実施例10に係る蛍光体微粒子Ca0.95Ba0.04TiO3:Pr3+は、高い蛍光強度を示している。
【0042】
[実験例5:CaTiO3:Pr3+合成におけるPr組成の影響]
(実施例11)
原料金属塩溶液における硝酸プラセオジムの原料金属濃度を0.0001mol/kgから0.00005mol/kgに変え、水酸化カリウム濃度を0.12mol/kgから0.15mol/kgに変えて反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.2から1.5に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、実施例11に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0043】
(実施例12)
原料金属塩溶液における硝酸プラセオジムの原料金属濃度を0.00005mol/kgから0.0001mol/kgに変えたこと以外は、実施例11と同様にして、実施例12に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0044】
(実施例13)
原料金属塩溶液における硝酸プラセオジムの原料金属濃度を0.00005mol/kgから0.0002mol/kgに変えたこと以外は、実施例11と同様にして、実施例13に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0045】
実施例11〜13に係る蛍光体微粒子の結晶構造をXRD解析した結果、硝酸プラセオジム濃度によらず、いずれも斜方晶のCaTiO3であった。
図13に分光蛍光光度計を用い、励起波長312nmの光を実施例11〜13に係る蛍光体微粒子のそれぞれに照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この蛍光スペクトルに示すように、いずれの蛍光体微粒子からも612nm付近にPrイオン由来の赤色蛍光が見られた。
ただし、これら蛍光体微粒子の蛍光強度は、硝酸プラセオジム濃度を0.00005mol/kg(実施例11)から0.0001mol/kg(実施例12)へ増加させると強くなり、更に0.0002mol/kg(実施例13)に増加すると減少した。それぞれの蛍光体微粒子の結晶性及び粒径がほぼ同じであることから、こうした発光強度の違いは、プラセオジム濃度に依存していることがわかる。
以上のように、原料となる硝酸プラセオジム濃度によって生成物である蛍光体微粒子中のプラセオジム組成を制御できることがわかる。また、生成された蛍光体微粒子も、バルク蛍光体と同様に濃度消光現象がみられ、Pr濃度には最適濃度があることがわかる。
【0046】
[実験例6:Ca0.6Sr0.4TiO3:Pr3+単一相の合成]
(実施例14)
水熱反応の反応温度条件が200℃である実施例4において、原料金属塩溶液における硝酸カルシウムの原料金属濃度を0.05mol/kgから0.03mol/kgに変え、更に原料金属塩溶液に対して、その原料金属濃度が0.02mol/kgとなるように硝酸ストロンチウム水溶液を混合したこと、及び水酸化カリウム濃度を0.12mol/kgから0.15mol/kgに変えて反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.2から1.5に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例14に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0047】
(実施例15)
水熱反応の反応温度条件を200℃から250℃に変え、滞在時間を16秒から15秒に変えたこと以外は、実施例14と同様にして、実施例15に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0048】
(実施例16)
水熱反応の反応温度条件を200℃から300℃に変え、滞在時間を16秒から13秒に変えたこと以外は、実施例14と同様にして、実施例16に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0049】
(実施例17)
水熱反応の反応温度条件を200℃から350℃に変え、滞在時間を16秒から12秒に変えたこと以外は、実施例14と同様にして、実施例17に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0050】
(実施例18)
水熱反応の反応温度条件を200℃から380℃に変え、滞在時間を16秒から10秒に変えたこと以外は、実施例14と同様にして、実施例18に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0051】
(実施例19)
水熱反応の反応温度条件を200℃から400℃に変え、滞在時間を16秒から7秒に変えたこと以外は、実施例14と同様にして、実施例19に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0052】
エネルギー分散型X線分析装置を用いた組成分析の結果、実施例14〜19に係る蛍光体微粒子の組成は、いずれもCa:Sr:Tiの組成比が0.6:0.4:1.0であった。
図14に実施例14〜19に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す。このXRDパターンは、その大半が斜方晶のCa0.6Sr0.4TiO3のXRDパターンと一致し、反応温度条件を200℃とした実施例14の生成物についてのみ未反応のチタニアのピークが認められた。
図15に実施例14,16,18,19に係る蛍光体微粒子のTEM像を示す。低温条件(実施例14)では、5nm程度の未反応のチタニアと50nm程度のCa0.6Sr0.4TiO3:Pr3+とが混在している。高温条件(実施例18,実施例19)では、輪郭の鮮明な10nm〜30nmの粒子が確認でき、粒子ひとつひとつが分離して凝集していないことがわかる。
図16に分光蛍光光度計を用い、励起波長312nmの光を実施例14〜19に係る蛍光体微粒子のそれぞれに照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この蛍光スペクトルでは、Prイオン由来の中心波長620nmの鋭いピークが見られ、Ca0.6Sr0.4TiO3:Pr3+の生成が確認できる。
また、図17に分光蛍光光度計を用いて測定した蛍光スペクトル強度の温度依存性を示す。この図17では、反応温度の上昇とともに、粒径が減少しているにもかかわらず、スペクトル強度が増加していることが確認できる。これは、蛍光体微粒子が高結晶性になっているためと考えられる。
【0053】
[実験例7:CaTi0.9Al0.1O3:Pr3+の合成]
(実施例20)
原料金属塩溶液におけるチタニアゾルの原料金属濃度を0.05mol/kgから0.045mol/kgに変え、更に原料金属塩溶液に対して、その原料金属濃度が0.005mol/kgとなるように硝酸アルミニウム水溶液を添加したこと、及び水酸化カリウム濃度を0.12mol/kgから0.17mol/kgに変えて反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.2から1.5に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、実施例20に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0054】
図18に実施例20に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す。このXRD測定によれば、主な回折ピークが斜方晶のCaTiO3に帰属され、このことから実施例20に係る蛍光体微粒子は、CaTi0.9Al0.1O3が主相であることがわかる。
図19に実施例20に係る蛍光体微粒子のTEM像を示す。このTEM像では、輪郭の鮮明な10nm〜30nmの粒子を確認でき、粒子ひとつひとつが分離して凝集していないことがわかる。
図20に分光蛍光光度計を用い、励起波長312nmの光を実施例20に係る蛍光体微粒子のそれぞれに照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この蛍光スペクトルでは、Prイオン由来の中心波長620nmの鋭いピークが見られ、CaTi0.9Al0.1O3:Pr3+の生成が確認できる。
【0055】
[実験例8:ELデバイスの作製と評価]
実施例19に係る蛍光体微粒子を用いてELデバイスを作製し、その特性評価を行った。
ELデバイスは、特性評価用の試作品として次のように作製した(図21参照)。
先ず、ITOを塗布したガラス基板51(以下、ITO塗布基板51)を用意し、その中心付近に1cm角の矩形状に切り抜いた両面テープ52(セロハン製、厚み50μm)を張り付けた。
次に、その切り抜いた部分に蛍光体微粒子の粉末53を充填し、その上から粉末53を挟み込むようにもうひとつのITO塗布基板51’を重ねた。なお、両面テープ52は、絶縁層の役割をする。
【0056】
こうして作製したELデバイス50のITO塗布基板51,51’に電極54,54’を接続し、高電圧電源装置55(周波数1kHz)を使い、ITO塗布基板51,51’間に所定の電圧をかけ、電界発光を観察した。
0V〜400V、1kHzで交流電圧を加えたときの発光を分光蛍光光度計で測定した発光スペクトルを図22に示す。この発光スペクトルでは、中心波長612nmの鋭い赤色発光のピークが確認でき、電圧の増加とともにピーク強度が増大していることが分かる。また、450nm以下の領域に青色発光のピークも確認できる。
実際に作製したデバイスに通電した際の様子の写真を図23に示す。この写真では、蛍光体微粒子を薄膜化してデバイスを作製したにもかかわらず、点発光ではなく、面発光が達成されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、一次粒径が100nm以下で、凝集がなく、単結晶性のペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子及び該蛍光体微粒子を比較的低温かつ短時間で、更に環境負荷の極めて低い水媒体中で製造可能な蛍光体微粒子の製造方法を提供することができることから、広くELデバイス及び太陽電池の波長変換膜などの蛍光体微粒子を用いた製品に実用化して、小型で高機能の製品の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1,2,3 高圧ポンプ
4 加熱器
5,6 マイクロミキサ
7 反応管用ヒータ
8 反応管
9 間接冷却器
10 背圧弁
11 回収器
12 窒素ボンベ
13 アルカリ水溶液槽
14 純水槽
15 原料金属塩溶液槽
50 ELデバイス
51,51’ ITO塗布基板
52 両面テープ(絶縁層)
53 粉末
54,54’ 電極
55 高電圧電源装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子、該蛍光体微粒子の製造方法、該蛍光体微粒子を用いた蛍光体薄膜及びELデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子の製造方法としては、固相反応法、ゾルゲル法が知られている。
例えば、固相反応法に関する非特許文献1には、原料にCaCO3、BaCO3、SrCO3、Pr2O3、TiO2を用いて、これらを混合した後、1,400℃で4時間焼成することにより、ペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子を製造する方法が記載されている。
しかしながら、固相反応法により製造される蛍光体微粒子は、高い結晶性を有するものの、その一次粒径がマイクロメートルオーダーであり、粉砕や分級操作により微粒子化しても100nm以下の粒径のものを得ることが難しいという問題を有する。
また、各蛍光体微粒子間の組成の均一性に欠け、目的とする蛍光体微粒子を得るための制御が難しいという問題がある。
【0003】
また、例えば、ゾルゲル法に関する非特許文献2には、塩化カルシウムとクエン酸のエタノール溶液と塩化プラセオジム水溶液との混合溶液にチタン(IV)n−ブトキシドを添加してゾルを得た後、このゾルを100℃で10時間加熱処理することによりゲルを得て、次いで300℃で2時間加熱処理した後、450℃〜950℃で2時間焼成し、ペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子を製造する方法が記載されている。得られる蛍光体微粒子の粒径は、焼成温度の上昇にともなって7nmから300nm程度に大きくなる。
このゾルゲル法は、前記固相反応法と比べて組成の均一性や微粒子化の点で優れているものの、熱処理過程で粒子成長する際に、凝集しやすく、多結晶体となる問題を有する。
したがって、一次粒径が100nm以下で、凝集がなく、単結晶性のペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子としては、何ら存在しないというのが現状である。
また、こうした蛍光体微粒子を比較的低温かつ短時間で、更に環境負荷の極めて低い水媒体中で製造できれば、広くELデバイス及び太陽電池の波長変換膜などの蛍光体微粒子を用いた製品に実用化でき、小型で高機能の製品を実現できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Wangら、Japanese Journal of Applied Physics,44,2005,L912
【非特許文献2】Zhangら、Journal of Physical Chemistry C,111,2007,18044
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、一次粒径が100nm以下で、凝集がなく、単結晶であり、高結晶性のペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子、該蛍光体微粒子を比較的低温かつ短時間で、更に環境負荷の極めて低い水媒体中で製造可能な蛍光体微粒子の製造方法、該蛍光体微粒子を用いた蛍光体薄膜及びELデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子であって、一次粒径が大きくとも100nm以下で、凝集がなく、単結晶であることを特徴とする蛍光体微粒子。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
<2> 下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子の製造方法であって、Ca、Ba、Sr、Ti、及びAlのイオン、酸化物又は水酸化物から選択される原料とPrのイオンからなる原料とを、亜臨界ないし超臨界状態の水中にて水熱反応させることを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
<3> Prのイオンからなる原料中の金属の物質量をXとし、Ti及びAlのイオン、酸化物又は水酸化物から選択される原料中の金属の総物質量をYとしたとき、X/Yの比が0.0001〜0.01である前記<2>に記載の蛍光体微粒子の製造方法。
<4> 水熱反応の温度条件が200℃〜550℃である前記<2>から<3>のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
<5> 水熱反応の圧力条件が5MPa〜100MPaである前記<2>から<4>のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
<6> 水熱反応の処理時間の条件が0.001秒〜60秒である前記<2>から<5>のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
<7> KOH/HNO3の比を物質量基準で1.0〜3.0とした水酸化カリウム及び硝酸の存在下で水熱反応させる前記<2>から<6>のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
<8> 前記<1>に記載の蛍光体微粒子を含むことを特徴とする蛍光体薄膜。
<9> 前記<8>に記載の蛍光体薄膜を有することを特徴とするELデバイス。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、一次粒径が100nm以下で、凝集がなく、単結晶であり、高結晶性のペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子、該蛍光体微粒子を比較的低温かつ短時間で、更に環境負荷の極めて低い水媒体中で製造可能な蛍光体微粒子の製造方法、該蛍光体微粒子を用いた蛍光体薄膜及びELデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の蛍光体微粒子の結晶構造を説明する説明図である。
【図2A】水熱反応に用いられる流通式水熱合成反応装置の一例を説明する説明図である。
【図2B】水熱反応に用いられる流通式水熱合成反応装置の他の例を説明する説明図である。
【図3】実施例1〜3及び比較例1に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す図である。
【図4A】実施例1に係る蛍光体微粒子のTEM像である。
【図4B】実施例1に係る蛍光体微粒子の高分解能TEM像である。
【図5】実施例1に係る蛍光体微粒子の粒径分布を示す図である。
【図6】実施例1に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図7】実施例4〜9に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す図である。
【図8】実施例4〜9に係る蛍光体微粒子のTEM像を示す図である。
【図9】実施例4〜9に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図10】実施例4〜9に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトル強度の温度依存性を示す図である。
【図11】実施例10に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す図である。
【図12】実施例1及び10に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図13】実施例11〜13に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図14】実施例14〜19に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す図である。
【図15】実施例14,16,18,19に係る蛍光体微粒子のTEM像である。
【図16】実施例14〜19に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図17】実施例14〜19に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトル強度の温度依存性を示す図である。
【図18】実施例20に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す図である。
【図19】実施例20に係る蛍光体微粒子のTEM像である。
【図20】実施例20に係る蛍光体微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図21】本発明の一実施例に係るELデバイスの概要を説明する説明図である。
【図22】ELデバイスの発光スペクトルを示す図である。
【図23】ELデバイスに通電した際の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(蛍光体微粒子及びその製造方法)
本発明の蛍光体微粒子は、下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子であって、一次粒径が大きくとも100nm以下で、凝集がなく、単結晶であることを特徴とする。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
【0010】
図1に前記蛍光体微粒子の結晶構造の説明図を示す。前記蛍光体微粒子は、この図1に示すようにペロブスカイト型構造の結晶構造を有し、各頂点に組成Aが配置され、体心に組成Bが配置され、この組成Bを中心として、各面心にOが配置される。Pr3+は、主として組成Aの一部と置換されて配置される。
【0011】
前記蛍光体微粒子の製造方法としては、前記蛍光体微粒子の特性を有する限り、特に制限はないが、本発明の蛍光体微粒子の製造方法により製造することができる。
【0012】
即ち、本発明の前記蛍光体微粒子の製造方法は、前記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子の製造方法であって、Ca、Ba、Sr、Ti及びAlのイオン、酸化物、又は水酸化物から選択される原料とPrのイオン、酸化物又は水酸化物からなる原料とを、亜臨界ないし超臨界状態の水中にて水熱反応させることを特徴とする。
【0013】
<水熱反応の反応媒体>
前記水熱反応の反応媒体としては、前記原料の水熱反応が生ずる限り特に制限はないが、前記原料を含む原料溶液と、アルカリ溶液と、水とが好ましく、前記原料を含む原料溶液と前記アルカリ溶液と前記亜臨界ないし超臨界状態の水とを混合することで、瞬時に前記原料の反応条件に達し、余剰の粒子成長等を生じさせることなく、微細で非凝集性、単結晶性かつ高結晶性の前記蛍光体微粒子が得られる。
【0014】
前記式(1)における組成Aの原料としては、Ca、Ba及びSrの原料のうち、少なくともいずれかのイオン、酸化物、又は水酸化物を挙げることができ、目的とする生成物の組成に応じて適宜選択することができる。例えば、前記原料のうち、1種のイオン、酸化物、又は水酸化物を選択してもよいし、2種のイオン、酸化物、又は水酸化物を選択してもよい。
前記イオンとしては、前記原料を前記反応媒体に溶解させて得ることができ、例えば、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム等の前記原料金属を含む化合物の少なくともいずれかを前記反応媒体に溶解させて得ることができる。
また、前記原料の酸化物としては、例えば、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム等が挙げられる。
また、前記原料の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム等が挙げられる。
【0015】
前記式(1)における組成Bの原料としては、Ti及びTiとAlのいずれかの原料金属のイオン、酸化物又は水酸化物を挙げることができ、目的とする生成物の組成に応じて適宜選択することができる。例えば、Tiのイオン、酸化物又は水酸化物を選択してもよいし、TiとAlのイオン、酸化物又は水酸化物を選択してもよい。
前記イオンとしては、前記原料を前記反応媒体に溶解させて得ることができ、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸チタン、塩化チタン、チタンアルコキシド等の前記原料金属を含む化合物の少なくともいずれかを前記反応媒体に溶解させて得ることができる。
また、前記原料金属の酸化物としては、例えば、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al2O3)等が挙げられる。
また、前記原料金属の水酸化物としては、例えば、水酸化チタン、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0016】
前記式(1)における組成O(酸素元素)の供給源としては、前記式(1)で表される蛍光体微粒子が得られる限り、特に制限はなく、例えば、前記原料金属の酸化物又は水酸化物、前記アルカリ溶液及び前記水の少なくともいずれかに含まれる酸素、若しくはこれらの反応媒体と独立して供給される酸素ガス等が想定される。
【0017】
前記式(1)における組成Pr3+としては、例えば、硝酸プラセオジム、硫酸プラセオジム、酸化プラセオジム等のプラセオジム原料金属を含む化合物を前記反応媒体に溶解若しくは分散させて得ることができる。
また、Prのイオンからなる原料中の金属の物質量をXとし、Ti及びAlのイオン、酸化物又は水酸化物から選択される原料中の金属の総物質量をYとしたとき、X/Yの比としては、0.0001〜0.01が好ましい。
前記X/Yの比が、0.0001未満の場合や0.01を超える場合には、十分な蛍光強度が得られないことがある。
【0018】
前記アルカリ溶液としては、pH操作による加水分解反応、錯形成反応、溶解度の制御のために用いられる。
前記アルカリ溶液の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液、尿素水溶液等が挙げられる。
ここで、前記水熱反応を水酸化カリウム及び硝酸の存在下で行う場合には、そのKOH/HNO3の比を物質量基準で1.0〜3.0とすることが好ましい。
前記KOH/HNO3の比が1.0未満であると、生成物中に未反応の原料が含まれることがあり、3.0を超えると、粒子成長により粒径が増大したり、目的物が単一相で得られなかったりすることがある。
なお、前記硝酸の硝酸源としては、前記原料として用いられる硝酸化合物が挙げられる。
【0019】
<水熱反応>
本発明では、前述の通り、前記原料を亜臨界ないし超臨界状態の水中にて水熱反応させることを特徴とする。ここで、前記亜臨界ないし超臨界状態の水とは、高温高圧状態にある水を示し、前記水熱反応の温度条件及び圧力条件は、前記水の温度及び圧力にしたがう。
前記水熱反応の温度条件としては、200℃〜550℃が好ましく、350℃〜500℃がより好ましい。
前記温度条件が200℃未満であると、生成物中に未反応の原料が残存することがあり、550℃を超えると、装置の強度が急激に低下するため合成が困難となる。
また、前記水熱反応の圧力条件としては、5MPa〜100MPaが好ましく、20MPa〜40MPaがより好ましい。
前記圧力条件が5MPa未満であると、生成物中に未反応の原料が残存することがあり、100MPaを超えると、粒子成長により粒径が増大したり、目的物が単一相で得られなかったりすることがある。
【0020】
前記水熱反応の処理時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001秒〜60秒が好ましい。
前記処理時間が0.001秒未満であると、生成物中に未反応の原料が残存することがあり、60秒を超えると、凝集が進行したり、装置からの溶出成分が含有されてしまったりすることがある。
【0021】
前記水熱反応により、前記蛍光体微粒子が生成される。
この蛍光体微粒子の回収方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、反応終了液とともに冷却した後、適当なフィルターによりろ別し、紛体として回収する方法が挙げられる。
【0022】
前記蛍光体微粒子の組成としては、エネルギー分散型X線分析装置により測定することができる。また、その結晶構造としては、粉末X線回折装置(XRD)により測定することができる。更に、その凝集性や1次粒径としては、透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡により観察することができる。
なお、前記1次粒径とは、前記水熱反応により得られた蛍光体微粒子の粒子径を示し、粉砕処理及び分級処理等の二次的処理を行わない状態における粒子径を示す。また、前記1次粒径の平均としては、前記電子顕微鏡の観察野に存在する前記蛍光体微粒子の粒子径を平均化して求めることができる。
【0023】
(水熱反応装置)
前記水熱反応に用いられる流通式水熱合成反応装置の一例を図2Aに示す。
この流通式水熱合成反応装置は、3基の高圧ポンプ1,2,3と、加熱器4と、2基のマイクロミキサ5,6と、反応管用ヒータ7と、反応管8と、間接冷却器9と、背圧弁10、回収器11と、窒素ボンベ12と、アルカリ水溶液槽13と、純水槽14と、原料金属塩溶液槽15とから構成される。各部材間に配される継手及び配管としては、例えば、SUS316製のものが使用される。
純水は、純水槽14から高圧ポンプ1により加熱器4に送液され、高温高圧水として反応管8に送液される。
また、アルカリ水溶液及び原料金属塩溶液は、それぞれアルカリ水溶液槽13、原料金属塩溶液槽15から高圧ポンプ2,3により反応管8に送液される。この際、原料金属塩溶液は、マイクロミキサ5、マイクロミキサ6内で高温高圧水と混合され、急速に反応温度まで昇温される。
反応管8に送液された各液は、反応管8内に一定時間滞在させて水熱反応に供される。水熱反応により生成された蛍光体微粒子及び反応終了液は、反応管8の出口に配された間接冷却器9により冷却された後、背圧弁10にて降圧され、回収器11内に回収される。
この際、蛍光体微粒子は、反応終了液とともにスラリーとして回収器11内に回収される。これを固液分離することにより、蛍光体微粒子を得ることができる。
【0024】
なお、図2Aに示す態様は、流通式水熱合成反応装置の一例であり、例えば、図2Bに示すように、原料金属塩溶液とアルカリ水溶液とをマイクロミキサ5で混合させた後、その混合液をマイクロミキサ6内で高温高圧水と混合させるようにしてもよい。
【0025】
(蛍光体薄膜)
本発明の蛍光体薄膜は、本発明の前記蛍光体微粒子を含む。
前記蛍光体薄膜の形成方法としては、前記蛍光体微粒子を含む限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記蛍光体微粒子の紛体を直接基板上にメッシュ等を介して均一散布する方法や、媒体に含浸させた後、基板上に塗工する方法等が挙げられる。
【0026】
(ELデバイス)
本発明のELデバイスは、少なくとも前記蛍光体薄膜を有し、この他、ELデバイスの用途等から基板、電極等の部材を適宜選択して構成される。
前記基板としては、特に制限はなく、公知の基板から目的に応じて適宜選択された基板を用いることができる。また、前記電極としては、公知の電極から目的に応じて適宜選択された電極を用いることができる。
例えば、前記ELデバイスは、前記電極としての電極材料を塗工した2つの前記基板間に、その塗工面側で前記蛍光体薄膜を挟持させた構成とすることができる。
なお、前記蛍光体薄膜が基板上の一部に形成される場合、前記蛍光体薄膜の周囲に絶縁体を配することで、対向する前記電極同士が接触しない構成とすることができ、この他にも、必要に応じて適宜選択される部材を付加して構成することができる。
【実施例】
【0027】
[実験例1:CaTiO3:Pr3+単一相の合成]
(実施例1)
図2Aに示す流通式水熱合成反応装置を用いてペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子を製造した。
具体的には、チタニアゾルと硝酸カルシウム水溶液と硝酸プラセオジム水溶液の混合溶液であり、チタニアゾル、硝酸カルシウム及び硝酸プラセオジムの原料金属濃度がそれぞれ0.025mol/kg、0.025mol/kg、0.00005mol/kgである原料金属塩溶液を20cm3/minで、濃度0.32mol/kgの水酸化カリウム水溶液を5cm3/minで、純水を75cm3/minで、それぞれ反応管内に送液し、これを反応温度400℃、反応圧力30MPa、反応管内のKOH/HNO3の物質量比1.5及び滞在時間5秒とする水熱反応条件で反応させ、実施例1に係る蛍光体微粒子を製造した。
なお、KOH/HNO3の物質量比は、全溶液を混合後のKOH濃度/(全溶液を混合後の硝酸カルシウム濃度×2+全溶液を混合後の硝酸プラセオジム濃度×3+全溶液を混合後のチタニアゾル中の硝酸濃度)として算出される。また、実施例2以降においても、同様の算出方法により、KOH/HNO3の物質量比が算出される。
【0028】
図3に実施例1に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す。このXRDパターンは、斜方晶CaTiO3(JSPDS−82−0228)のXRDパターンと一致した。
また、エネルギー分散型X線分析装置を用いた組成分析の結果、Ca/Ti物質量比は、0.99であった。
また、実施例1に係る蛍光体微粒子のTEM像を図4A,4Bに、また、その粒径分布を図5に示す。これらに示すように、蛍光体微粒子の粒径は、50nm以下であり、また、その粒子ひとつひとつが分離して、凝集していないことがわかる。
TEM像から算出した平均1次粒径は、20nmであり、XRDパターンにおけるピークの半値幅から算出した結晶子径(面間隔)の17nmとほぼ一致したことから、TEM像で観察される粒子ひとつひとつは、凝集体ではなく、単結晶であることがわかる。
また、図4Bに示した高分解能TEM像において鮮明な格子像が確認できることから、前記蛍光体微粒子は、高結晶性であり、また、凝集体ではなく単結晶体であることを確認できる。
図6に分光蛍光光度計を用い、励起波長328nmの光を前記蛍光体微粒子に照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この蛍光スペクトルでは、Prイオン由来の中心波長612nmの鋭いピークが見られ、CaTiO3:Pr3+の生成が確認できる。
【0029】
[実験例2:CaTiO3:Pr3+合成におけるKOH濃度(KOH/HNO3比)の影響]
(比較例1)
水酸化カリウム水溶液を混合せず、反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.5から0に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0030】
(実施例2)
水酸化カリウム水溶液における水酸化カリウム濃度を0.32mol/kgから0.21mol/kgに変え、反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.5から1.0に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0031】
(実施例3)
水酸化カリウム水溶液における水酸化カリウム濃度を0.32mol/kgから0.11mol/kgに変え、反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.5から0.5に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0032】
図3に水酸化カリウム濃度を変化させたときの生成物(実施例1〜3に係る蛍光体微粒子及び比較例1に係る蛍光体微粒子)のXRDパターンを示す。比較例1に係る蛍光体微粒子においては、TiO2の単一相の生成が確認された。また、KOH/HNO3物質量比が0.5の実施例3に係る蛍光体微粒子では、未反応のチタニアのピークが認められた。これに対して、KOH/HNO3物質量比が1.0以上の実施例1及び2に係る蛍光体微粒子では、CaTiO3の単一相の生成が確認された。
【0033】
[実験例3:CaTiO3:Pr3+合成における反応温度の影響]
(実施例4)
図2Bに示す流通式水熱合成反応装置を用いてペロブスカイト型酸化物の蛍光体微粒子を製造した。
具体的には、チタニアゾルと硝酸カルシウム水溶液と硝酸プラセオジム水溶液の混合溶液であり、チタニアゾル、硝酸カルシウム及び硝酸プラセオジムの原料金属濃度がそれぞれ0.05mol/kg、0.05mol/kg、0.0001mol/kgである原料金属塩溶液を6cm3/minで、濃度0.12mol/kgの水酸化カリウム水溶液を6cm3/minで、純水を33cm3/minで、それぞれ反応管内に送液し、これを反応温度200℃、反応圧力30MPa、反応管内のKOH/HNO3物質量比1.2及び滞在時間16秒の水熱反応条件で反応させ、実施例4に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0034】
(実施例5)
水熱反応の反応温度を200℃から250℃に変え、滞在時間を16秒から15秒に変えたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例5に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0035】
(実施例6)
水熱反応の反応温度を200℃から300℃に変え、滞在時間を16秒から13秒に変えたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例6に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0036】
(実施例7)
水熱反応の反応温度を200℃から350℃に変え、滞在時間を16秒から12秒に変えたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例7に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0037】
(実施例8)
水熱反応の反応温度を200℃から380℃に変え、滞在時間を16秒から10秒に変えたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例8に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0038】
(実施例9)
水熱反応の反応温度を200℃から400℃に変え、滞在時間を16秒から7秒に変えたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例9に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0039】
図7に実施例4〜9に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す。このXRDパターンでは、反応温度の条件が異なる実施例4〜9に係る蛍光体微粒子において、その大半が斜方晶CaTiO3(JSPDS−82−0228)のXRDパターンと一致し、実施例4及び5に係る反応温度が200℃と250℃の場合の蛍光体微粒子についてのみ、未反応のチタニアのピークが認められた。
図8に実施例4〜9に係る蛍光体微粒子のTEM像を示す。低温条件(実施例4,実施例5)では、5nm程度の未反応のチタニアと50nm程度のCaTiO3が混在していることが確認される。高温条件(実施例7,実施例8,実施例9)では、輪郭の鮮明な10nm〜50nmの粒子が確認でき、粒子ひとつひとつが分離して、凝集していないことがわかる。
図9に分光蛍光光度計を用い、励起波長312nmの光を実施例4〜9に係る蛍光体微粒子に照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この図9では、Prイオン由来の中心波長612nmの鋭いピークが見られ、CaTiO3:Pr3+の生成を確認できる。
また、図10に分光蛍光光度計を用いて測定した蛍光スペクトル強度の温度依存性を示す。この図10では、反応温度の上昇とともに、粒径が減少しているにもかかわらず、スペクトル強度が増加していることが確認できる。これは、蛍光体微粒子が高結晶性になっているためと考えられる。
【0040】
[実験例4:Ca0.95Ba0.04TiO3:Pr3+単一相の合成]
(実施例10)
原料金属塩溶液における硝酸カルシウムの原料金属濃度を0.025mol/kgから0.024mol/kgに変え、更に原料金属塩溶液に対して、その原料金属濃度が0.001mol/kgとなるように硝酸バリウム水溶液を混合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例10に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0041】
エネルギー分散型X線分析装置を用いた組成分析の結果、実施例10に係る蛍光体微粒子の組成は、Ca:Ba:Tiの組成比が0.95:0.04:1.0であった。
図11に実施例10に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す。このXRDパターンは、斜方晶のCa0.95Ba0.04TiO3のXRDパターンと一致した。
図12に分光蛍光光度計を用い、励起波長328nmの光を実施例10に係る蛍光体微粒子に照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この蛍光スペクトルでは、Prイオン由来の中心波長612nmの鋭いピークが見られた。このことから、Ca0.95Ba0.04TiO3:Pr3+が単一相で得られたことが分かった。また、実施例1に係る蛍光体微粒子(CaTiO3:Pr3+)と比較して、実施例10に係る蛍光体微粒子Ca0.95Ba0.04TiO3:Pr3+は、高い蛍光強度を示している。
【0042】
[実験例5:CaTiO3:Pr3+合成におけるPr組成の影響]
(実施例11)
原料金属塩溶液における硝酸プラセオジムの原料金属濃度を0.0001mol/kgから0.00005mol/kgに変え、水酸化カリウム濃度を0.12mol/kgから0.15mol/kgに変えて反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.2から1.5に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、実施例11に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0043】
(実施例12)
原料金属塩溶液における硝酸プラセオジムの原料金属濃度を0.00005mol/kgから0.0001mol/kgに変えたこと以外は、実施例11と同様にして、実施例12に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0044】
(実施例13)
原料金属塩溶液における硝酸プラセオジムの原料金属濃度を0.00005mol/kgから0.0002mol/kgに変えたこと以外は、実施例11と同様にして、実施例13に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0045】
実施例11〜13に係る蛍光体微粒子の結晶構造をXRD解析した結果、硝酸プラセオジム濃度によらず、いずれも斜方晶のCaTiO3であった。
図13に分光蛍光光度計を用い、励起波長312nmの光を実施例11〜13に係る蛍光体微粒子のそれぞれに照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この蛍光スペクトルに示すように、いずれの蛍光体微粒子からも612nm付近にPrイオン由来の赤色蛍光が見られた。
ただし、これら蛍光体微粒子の蛍光強度は、硝酸プラセオジム濃度を0.00005mol/kg(実施例11)から0.0001mol/kg(実施例12)へ増加させると強くなり、更に0.0002mol/kg(実施例13)に増加すると減少した。それぞれの蛍光体微粒子の結晶性及び粒径がほぼ同じであることから、こうした発光強度の違いは、プラセオジム濃度に依存していることがわかる。
以上のように、原料となる硝酸プラセオジム濃度によって生成物である蛍光体微粒子中のプラセオジム組成を制御できることがわかる。また、生成された蛍光体微粒子も、バルク蛍光体と同様に濃度消光現象がみられ、Pr濃度には最適濃度があることがわかる。
【0046】
[実験例6:Ca0.6Sr0.4TiO3:Pr3+単一相の合成]
(実施例14)
水熱反応の反応温度条件が200℃である実施例4において、原料金属塩溶液における硝酸カルシウムの原料金属濃度を0.05mol/kgから0.03mol/kgに変え、更に原料金属塩溶液に対して、その原料金属濃度が0.02mol/kgとなるように硝酸ストロンチウム水溶液を混合したこと、及び水酸化カリウム濃度を0.12mol/kgから0.15mol/kgに変えて反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.2から1.5に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例14に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0047】
(実施例15)
水熱反応の反応温度条件を200℃から250℃に変え、滞在時間を16秒から15秒に変えたこと以外は、実施例14と同様にして、実施例15に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0048】
(実施例16)
水熱反応の反応温度条件を200℃から300℃に変え、滞在時間を16秒から13秒に変えたこと以外は、実施例14と同様にして、実施例16に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0049】
(実施例17)
水熱反応の反応温度条件を200℃から350℃に変え、滞在時間を16秒から12秒に変えたこと以外は、実施例14と同様にして、実施例17に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0050】
(実施例18)
水熱反応の反応温度条件を200℃から380℃に変え、滞在時間を16秒から10秒に変えたこと以外は、実施例14と同様にして、実施例18に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0051】
(実施例19)
水熱反応の反応温度条件を200℃から400℃に変え、滞在時間を16秒から7秒に変えたこと以外は、実施例14と同様にして、実施例19に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0052】
エネルギー分散型X線分析装置を用いた組成分析の結果、実施例14〜19に係る蛍光体微粒子の組成は、いずれもCa:Sr:Tiの組成比が0.6:0.4:1.0であった。
図14に実施例14〜19に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す。このXRDパターンは、その大半が斜方晶のCa0.6Sr0.4TiO3のXRDパターンと一致し、反応温度条件を200℃とした実施例14の生成物についてのみ未反応のチタニアのピークが認められた。
図15に実施例14,16,18,19に係る蛍光体微粒子のTEM像を示す。低温条件(実施例14)では、5nm程度の未反応のチタニアと50nm程度のCa0.6Sr0.4TiO3:Pr3+とが混在している。高温条件(実施例18,実施例19)では、輪郭の鮮明な10nm〜30nmの粒子が確認でき、粒子ひとつひとつが分離して凝集していないことがわかる。
図16に分光蛍光光度計を用い、励起波長312nmの光を実施例14〜19に係る蛍光体微粒子のそれぞれに照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この蛍光スペクトルでは、Prイオン由来の中心波長620nmの鋭いピークが見られ、Ca0.6Sr0.4TiO3:Pr3+の生成が確認できる。
また、図17に分光蛍光光度計を用いて測定した蛍光スペクトル強度の温度依存性を示す。この図17では、反応温度の上昇とともに、粒径が減少しているにもかかわらず、スペクトル強度が増加していることが確認できる。これは、蛍光体微粒子が高結晶性になっているためと考えられる。
【0053】
[実験例7:CaTi0.9Al0.1O3:Pr3+の合成]
(実施例20)
原料金属塩溶液におけるチタニアゾルの原料金属濃度を0.05mol/kgから0.045mol/kgに変え、更に原料金属塩溶液に対して、その原料金属濃度が0.005mol/kgとなるように硝酸アルミニウム水溶液を添加したこと、及び水酸化カリウム濃度を0.12mol/kgから0.17mol/kgに変えて反応管内のKOH/HNO3の物質量比を1.2から1.5に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、実施例20に係る蛍光体微粒子を製造した。
【0054】
図18に実施例20に係る蛍光体微粒子のXRDパターンを示す。このXRD測定によれば、主な回折ピークが斜方晶のCaTiO3に帰属され、このことから実施例20に係る蛍光体微粒子は、CaTi0.9Al0.1O3が主相であることがわかる。
図19に実施例20に係る蛍光体微粒子のTEM像を示す。このTEM像では、輪郭の鮮明な10nm〜30nmの粒子を確認でき、粒子ひとつひとつが分離して凝集していないことがわかる。
図20に分光蛍光光度計を用い、励起波長312nmの光を実施例20に係る蛍光体微粒子のそれぞれに照射して測定した蛍光スペクトルを示す。この蛍光スペクトルでは、Prイオン由来の中心波長620nmの鋭いピークが見られ、CaTi0.9Al0.1O3:Pr3+の生成が確認できる。
【0055】
[実験例8:ELデバイスの作製と評価]
実施例19に係る蛍光体微粒子を用いてELデバイスを作製し、その特性評価を行った。
ELデバイスは、特性評価用の試作品として次のように作製した(図21参照)。
先ず、ITOを塗布したガラス基板51(以下、ITO塗布基板51)を用意し、その中心付近に1cm角の矩形状に切り抜いた両面テープ52(セロハン製、厚み50μm)を張り付けた。
次に、その切り抜いた部分に蛍光体微粒子の粉末53を充填し、その上から粉末53を挟み込むようにもうひとつのITO塗布基板51’を重ねた。なお、両面テープ52は、絶縁層の役割をする。
【0056】
こうして作製したELデバイス50のITO塗布基板51,51’に電極54,54’を接続し、高電圧電源装置55(周波数1kHz)を使い、ITO塗布基板51,51’間に所定の電圧をかけ、電界発光を観察した。
0V〜400V、1kHzで交流電圧を加えたときの発光を分光蛍光光度計で測定した発光スペクトルを図22に示す。この発光スペクトルでは、中心波長612nmの鋭い赤色発光のピークが確認でき、電圧の増加とともにピーク強度が増大していることが分かる。また、450nm以下の領域に青色発光のピークも確認できる。
実際に作製したデバイスに通電した際の様子の写真を図23に示す。この写真では、蛍光体微粒子を薄膜化してデバイスを作製したにもかかわらず、点発光ではなく、面発光が達成されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、一次粒径が100nm以下で、凝集がなく、単結晶性のペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子及び該蛍光体微粒子を比較的低温かつ短時間で、更に環境負荷の極めて低い水媒体中で製造可能な蛍光体微粒子の製造方法を提供することができることから、広くELデバイス及び太陽電池の波長変換膜などの蛍光体微粒子を用いた製品に実用化して、小型で高機能の製品の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1,2,3 高圧ポンプ
4 加熱器
5,6 マイクロミキサ
7 反応管用ヒータ
8 反応管
9 間接冷却器
10 背圧弁
11 回収器
12 窒素ボンベ
13 アルカリ水溶液槽
14 純水槽
15 原料金属塩溶液槽
50 ELデバイス
51,51’ ITO塗布基板
52 両面テープ(絶縁層)
53 粉末
54,54’ 電極
55 高電圧電源装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子であって、
一次粒径が大きくとも100nm以下で、凝集がなく、単結晶であることを特徴とする蛍光体微粒子。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
【請求項2】
下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子の製造方法であって、
Ca、Ba、Sr、Ti、及びAlのイオン、酸化物又は水酸化物から選択される原料とPrのイオンからなる原料とを、亜臨界ないし超臨界状態の水中にて水熱反応させることを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
【請求項3】
Prのイオンからなる原料中の金属の物質量をXとし、Ti及びAlのイオン、酸化物又は水酸化物から選択される原料中の金属の総物質量をYとしたとき、X/Yの比が0.0001〜0.01である請求項2に記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項4】
水熱反応の温度条件が200℃〜550℃である請求項2から3のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項5】
水熱反応の圧力条件が5MPa〜100MPaである請求項2から4のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項6】
水熱反応の処理時間の条件が0.001秒〜60秒である請求項2から5のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項7】
KOH/HNO3の比を物質量基準で1.0〜3.0とした水酸化カリウム及び硝酸の存在下で水熱反応させる請求項2から6のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の蛍光体微粒子を含むことを特徴とする蛍光体薄膜。
【請求項9】
請求項8に記載の蛍光体薄膜を有することを特徴とするELデバイス。
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子であって、
一次粒径が大きくとも100nm以下で、凝集がなく、単結晶であることを特徴とする蛍光体微粒子。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
【請求項2】
下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する蛍光体微粒子の製造方法であって、
Ca、Ba、Sr、Ti、及びAlのイオン、酸化物又は水酸化物から選択される原料とPrのイオンからなる原料とを、亜臨界ないし超臨界状態の水中にて水熱反応させることを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法。
ABO3:Pr3+ (1)
ただし、前記式(1)において、Aは、Ca、Ba及びSrのいずれかの金属元素若しくはこれらの金属元素うちの少なくとも2つの金属元素の組み合わせを示し、Bは、Ti及びTiとAlの組み合わせのいずれかを示す。
【請求項3】
Prのイオンからなる原料中の金属の物質量をXとし、Ti及びAlのイオン、酸化物又は水酸化物から選択される原料中の金属の総物質量をYとしたとき、X/Yの比が0.0001〜0.01である請求項2に記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項4】
水熱反応の温度条件が200℃〜550℃である請求項2から3のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項5】
水熱反応の圧力条件が5MPa〜100MPaである請求項2から4のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項6】
水熱反応の処理時間の条件が0.001秒〜60秒である請求項2から5のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項7】
KOH/HNO3の比を物質量基準で1.0〜3.0とした水酸化カリウム及び硝酸の存在下で水熱反応させる請求項2から6のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の蛍光体微粒子を含むことを特徴とする蛍光体薄膜。
【請求項9】
請求項8に記載の蛍光体薄膜を有することを特徴とするELデバイス。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−251082(P2012−251082A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125318(P2011−125318)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年2月22日公益社団法人 化学工学会発行、化学工学会第76年会研究発表講演要旨集、第164ページ 平成23年3月16日公益社団法人 日本セラミックス協会発行、日本セラミックス協会2011年年会講演予稿集、第215ページ
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年2月22日公益社団法人 化学工学会発行、化学工学会第76年会研究発表講演要旨集、第164ページ 平成23年3月16日公益社団法人 日本セラミックス協会発行、日本セラミックス協会2011年年会講演予稿集、第215ページ
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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