説明

蛍光体成形材料、蛍光体成形材料の製造方法、および発光装置

【課題】高出力化および高演色性を得ることができる蛍光体成形材料およびその製造方法、並びにそれを用いた発光装置を提供する。
【解決手段】蛍光体成形材料10は、ペルヒドロポリシラザンを酸化させた二酸化ケイ素よりなる結合体11と、粒子状の蛍光体材料12とを含んでいる。ペルヒドロポリシラザンは、例えば、ケイ素(Si)と窒素(N)と水素(H)とからなる無機高分子であり、例えば、常圧、常温で水を反応し二酸化ケイ素(SiO)に転化する特性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体材料を含む蛍光体成形材料およびその製造方法、並びにそれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体を用いた発光装置としては、例えば、LEDの周囲に、蛍光体をエポキシ樹脂またはシリコーン樹脂に分散させて配置したものが知られている(例えば、特許文献1または特許文献2参照)。しかし、この発光装置では、LEDの高出力化やLEDの発熱に伴い、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂が劣化したり、変形したりして、高出力化を図ることが難しいという問題があった。そこで、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂に代えて、例えば、ガラスにより蛍光体を封止した発光装置が開発されている(例えば、特許文献3から特許文献5参照)。この発光装置によれば、無機材料を用いているので、耐熱性を向上させることができ、高出力化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3364229号公報
【特許文献2】特許第3824917号公報
【特許文献3】特開2009−91546号公報
【特許文献4】特開2008−143978号公報
【特許文献5】特開2008−115223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の無機材料を用いた発光装置では、蛍光体粒子とガラス粉末とを混合して焼結するので、蛍光体粒子もガラスの融点温度まで昇温されてしまうという問題があった。一般に、高演色性を有する蛍光体は熱に対して弱く、ガラスの融点温度まで昇温されると、劣化してしまい、目的とする特性を得ることが難しい。なお、低融点ガラスを用いれば温度を低くすることはできるが、低融点ガラスには鉛が含まれることが多く、環境面から好ましくない。
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、高出力化および高演色性を得ることができる蛍光体成形材料およびその製造方法、並びにそれを用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蛍光体成形材料は、酸化により二酸化ケイ素となる二酸化ケイ素前駆体を酸化させた二酸化ケイ素よりなる結合体と、粒子状の蛍光体材料とを含むものである。
【0007】
本発明の蛍光体成形材料の製造方法は、酸化により二酸化ケイ素となる二酸化ケイ素前駆体と、粒子状の蛍光体材料と、溶媒とを含む混合物を調製したのち、溶媒を除去すると共に、ペルヒドロポリシラザンを酸化するものである。
【0008】
本発明の発光装置は、本発明の蛍光体成形材料を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蛍光体成形材料によれば、二酸化ケイ素前駆体を酸化させた二酸化ケイ素よりなる結合体と、粒子状の蛍光体材料とを含むようにしたので、無機材料により成形することができ、発光素子を高出力化しても、特性の劣化を抑制することができる。よって、本発明の蛍光体成形材料を用いた発光装置によれば、高出力を得ることができる。
【0010】
また、二酸化ケイ素前駆体としてペルヒドロポリシラザンを用いるようにすれば、低温で成形することができ、蛍光体材料の特性劣化を抑制し、高い演色性を得ることができると共に、鉛を含まないので、環境面からも優れている。よって、本発明の蛍光体成形材料を用いた発光装置によれば、高演色性を得ることができる。
【0011】
更に、可視光を透過可能な無機材料よりなり、蛍光体材料の含有量を調整する濃度調整材料を含むようにすれば、蛍光体材料の含有量を容易に調整することができる。
【0012】
本発明の蛍光体成形材料の製造方法によれば、酸化により二酸化ケイ素となる二酸化ケイ素前駆体と、粒子状の蛍光体材料と、溶媒とを含む混合物を調製したのち、溶媒を除去すると共に、ペルヒドロポリシラザンを酸化するので、容易に本発明の蛍光体成形材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係る蛍光体成形材料の構成を表す模式図である。
【図2】図1の蛍光体成形材料を用いた発光装置の構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態に係る蛍光体成形材料10を模式的に表したものである。この蛍光体成形材料10は、酸化により二酸化ケイ素となる二酸化ケイ素前駆体を酸化させた二酸化ケイ素よりなる結合体11と、粒子状の蛍光体材料12とを含んでいる。二酸化ケイ素前駆体は、有機成分を含まないものが好ましい。未反応部分が残存すると有機成分が含まれてしまうからである。二酸化ケイ素前駆体としては、例えば、無機高分子よりなるものが好ましく挙げられ、具体的には、ペルヒドロポリシラザンが好ましい。ペルヒドロポリシラザンは、例えば、化1に示したように、ケイ素(Si)と窒素(N)と水素(H)とからなる無機高分子であり、例えば、常圧、常温で水と反応し二酸化ケイ素(SiO)に転化する特性を有している。この転化反応は、例えば、化2に示した反応式により表わされる。これにより、結合体11は、例えば、蛍光体材料12を接着してシート状などに成形することができる。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
蛍光体材料12は、例えば、蛍光体粒子を含んでいる。蛍光体粒子としては、例えば、BaMgAl1017:Eu,ZnS:Ag,Cl,BaAl:EuあるいはCaMgSi:Euなどの青色系蛍光体、ZnSiO:Mn,(Y,Gd)BO:Tb,ZnS:Cu,Al,YAl12:Ce,(M)SiO:Eu(Mは、Ba,Ca,SrおよびMgからなる群のうちの少なくとも1つが含まれる)あるいは(Ba,Sr,Mg)O・aAl:Mnなどの黄色または緑色系蛍光体、(Y,Gd)BO:Eu,YS:EuあるいはYPVO:Euなどの赤色系蛍光体が挙げられる。蛍光体材料12には、これらの1種または2種以上が混合して用いられる。蛍光体粒子の粒子径は、基本的には問わないが、平均粒子径が5μmから20μm程度で、粒子径はできるだけ揃っていた方が好ましい。特性を安定させることができるからである。
【0019】
また、蛍光体材料12は、例えば、蛍光体粒子に代えて、または、蛍光体粒子と共に、蛍光体粒子の表面を被覆層で被覆したものを含んでいてもよい。被覆層は、例えば、希土類酸化物,酸化ジルコニウム,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,イットリウム・アルミニウム・ガーネットなどのイットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウム,およびMgAlなどのアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を主成分として含んでいることが好ましい。耐水性および耐紫外光などの特性を向上させることができるからである。中でも、希土類酸化物が好ましく、イットリウム,ガドリニウム,セリウムおよびランタンからなる群のうちの少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物がより好ましく、特にYが望ましい。より高い効果を得ることができ、また、コストを抑制することができるからである。
【0020】
蛍光体成形材料10は、更に、可視光を透過可能な無機材料よりなり、蛍光体材料の含有量を調整する濃度調整材料13を含んでいてもよい。濃度調整材料13としては、例えば、二酸化ケイ素粒子が好ましく挙げられる。二酸化ケイ素粒子は、結晶でもガラスでもよい。なお、図1では、蛍光体材料12と濃度調整材料13とを等配して表しているが、実際には、ランダムに配置されている。また、図1では、蛍光体材料12と濃度調整材料13との間に、完全に、結合体11が充填されているように表しているが、蛍光体材料12および濃度調整材料13が接着されて入ればよく、空隙(隙間)が存在していてもよい。
【0021】
この蛍光体成形材料10は、例えば、次のようにして製造するこができる。まず、酸化により二酸化ケイ素となる二酸化ケイ素前駆体と、粒子状の蛍光体材料12と、溶媒とを含む混合物を調製する。その際、二酸化ケイ素前駆体と、蛍光体材料12と、溶媒とを混合するようにしてもよく、また、二酸化ケイ素前駆体と溶媒とを混合したものに、蛍光体材料12を混合するようにしてもよい。溶媒には、例えば、有機溶媒を用いる。この混合物には、更に、二酸化ケイ素粒子などよりなる濃度調整材料13を添加して蛍光体材料12の含有量を調整するようにしてもよい。次いで、この混合物から溶媒を除去すると共に、二酸化ケイ素前駆体を酸化し、二酸化ケイ素に転化する。この酸化は、例えば、二酸化ケイ素前駆体としてペルヒドロポリシラザンを用いる場合には、大気中において、常圧、常温で行うことが可能である。これにより蛍光体成形材料10が得られる。
【0022】
図2は、この蛍光体成形材料10を用いた発光装置20の一構成例を表わすものである。この発光装置20は、基板21の上にLEDなどの発光素子22が搭載されており、発光素子22の上にシート状の蛍光体成形材料10が積層されている。発光素子22には、例えば、励起光として紫外光、青色光、または緑色光を発するものが用いられ、それに応じて、蛍光体成形材料10の蛍光体材料12の種類が選択される。また、発光素子22は基板21の上に形成された配線23とワイヤ24により電気的に接続され、発光素子22の周りには例えばリフレクタ枠25が形成されている。発光素子22および蛍光体成形材料10の上には、これらを覆うように封止層26が形成されている。封止層26は、例えば、樹脂により構成されている。
【0023】
このように本実施の形態によれば、酸化により二酸化ケイ素となる二酸化ケイ素前駆体を酸化させた二酸化ケイ素よりなる結合体11と、粒子状の蛍光体材料12とを含むようにしたので、蛍光体成形材料10を無機材料により成形することができ、発光素子22を高出力化しても、特性の劣化を抑制することができる。よって、高出力を得ることができる。
【0024】
また、二酸化ケイ素前駆体としてペルヒドロポリシラザンを用いるようにすれば、低温で成形することができ、蛍光体材料12の特性劣化を抑制し、高い演色性を得ることができると共に、鉛を含まないので、環境面からも優れている。よって、高演色性を得ることができる。
【0025】
更に、蛍光体成形材料10に濃度調整材料13を含むようにすれば、蛍光体材料12の含有量を容易に調整することができる。
【0026】
加えて、酸化により二酸化ケイ素となる二酸化ケイ素前駆体と、粒子状の蛍光体材料12と、溶媒とを含む混合物を調製したのち、溶媒を除去すると共に、ペルヒドロポリシラザンを酸化するようにしたので、容易に蛍光体成形材料10を得ることができる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
ペルヒドロポリシラザンと溶媒とを混合したものに、蛍光体材料12を混合し、混合物を調整した。蛍光体材料12には、平均粒子径が10μm程度の緑色系の蛍光体粒子を用い、溶媒にはジブチルエーテルを用いた。この混合物を乾燥させ、溶媒を除去すると共に、ペルヒドロポリシラザンを酸化させた。これにより、シート状の蛍光体成形材料10を得た。得られた蛍光体成形材料10を用い、図2に示したような発光装置20を作製した。発光素子22には紫外光を発するものを用いた。この発光装置20について通電を行ったところ、蛍光体成形材料10からの発光が確認された。
【0028】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、発光装置20の構造について具体的に説明したが、他の構造を有するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
LEDなどの発光装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
10…蛍光体成形材料、11…結合体、12…蛍光体材料、13…濃度調整材料、20…発光装置、21…基板、22…発光素子、23…配線、24…ワイヤ、25…リフレクタ枠、26…封止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化により二酸化ケイ素となる二酸化ケイ素前駆体を酸化させた二酸化ケイ素よりなる結合体と、粒子状の蛍光体材料とを含むことを特徴とする蛍光体成形材料。
【請求項2】
前記二酸化ケイ素前駆体はペルヒドロポリシラザンであることを特徴とする請求項1記載の蛍光体成形材料。
【請求項3】
前記結合体により前記蛍光体材料を接着して成形したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光体成形材料。
【請求項4】
可視光を透過可能な無機材料よりなり、前記蛍光体材料の含有量を調整する濃度調整材料を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1に記載の蛍光体成形材料。
【請求項5】
前記濃度調整材料として、二酸化ケイ素粒子を含むことを特徴とする請求項4記載の蛍光体成形材料。
【請求項6】
酸化により二酸化ケイ素となる二酸化ケイ素前駆体と、粒子状の蛍光体材料と、溶媒とを含む混合物を調製したのち、溶媒を除去すると共に、ペルヒドロポリシラザンを酸化することを特徴とする蛍光体成形材料の製造方法。
【請求項7】
前記二酸化ケイ素前駆体として、ペルヒドロポリシラザンを用いることを特徴とする請求項6記載の蛍光体成形材料の製造方法。
【請求項8】
前記混合物は、可視光を透過可能な無機材料よりなる濃度調整材料を添加して調製することにより、前記蛍光体材料の含有量を調整することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の蛍光体成形材料の製造方法。
【請求項9】
前記濃度調整材料として、二酸化ケイ素粒子を添加することを特徴とする請求項8記載の蛍光体成形材料の製造方法。

【請求項10】
請求項1から請求項5のいずれか1に記載の蛍光体成形材料を有することを特徴とする発光装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−35953(P2013−35953A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173812(P2011−173812)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】