説明

蛍光体粒子の製造方法、蛍光体粒子および分散型エレクトロルミネッセンス素子

【課題】粒子表面の着色を低減し、蛍光体に銅を偏析させることなく大量に導入する、蛍光体粒子の製造方法を提供し、さらに、該製造方法によって、蛍光体粒子、および該蛍光体粒子を用いた高輝度なエレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】銅で付活された硫化亜鉛を焼成する硫化亜鉛蛍光体の製造方法であって、被焼成物が0.05mol%以上1.0mol%未満の銅を含み、前記被焼成物と外気との間に銅導入促進剤を配置する硫化亜鉛蛍光体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粒子、特に、分散型エレクトロルミネッセンス素子に適した蛍光体粒子、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分散型エレクトロルミネッセンス素子は、蛍光体粒子を高誘電率のバインダー中に分散した蛍光体層を、少なくとも一方が透明な二枚の電極の間に挟み込んだ構造からなり、両電極間に交流電場を印加することにより発光する。エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子を用いて作成された発光素子は数mm以下の厚さとすることが可能で、面発光体であり、発熱が少ないなど数多くの利点を有する。分散型エレクトロルミネッセンス素子は、高温プロセスを用いない為、プラスチックを基板としたフレキシブルな素子が可能であること、真空装置を使用することなく比較的簡便な工程で、低コストで製造が可能であること、また発光色の異なる複数の蛍光体粒子を混合することで素子の発光色の調節が容易であるという特長を有し、各種バックライトに応用されている。しかしながら、分散型エレクトロルミネッセンス素子は、輝度の点でまだ十分といえないため、携帯電話のバックライトなど、用途が限定されていた。
【0003】
用途拡大のために、エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子では、高輝度化が求められている。エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子では、蛍光体粒子中に存在するCuxSの針状結晶において電界が集中し、電子が発生し、発光中心に電子が導入され発光すると考えられている(例えば、非特許文献1、2参照。)。蛍光体粒子中にCuxSの針状結晶を析出させるためには、粒子中に固溶限界以上の銅を取り込ませ、CuxSの針状結晶を析出させる必要がある。輝度向上のためには、電子発生源であるCuxSの針状結晶の量を増やすため、粒子への銅の取り込み量を増やす必要がある。
【0004】
硫化亜鉛蛍光体は、酸化を防ぐために、硫化水素中や窒素中で焼成を行ったり、カーボンなどを用いて焼成を行うなどの方法により、酸素を遮断して焼成を行う方法が知られている。しかしながら、酸素遮断雰囲気下では、大量の銅を取り込ませようとした場合、表面に銅が偏析して着色してしまう。着色成分による光吸収があるために、十分な輝度のエレクトロルミネッセンスを得ることはできない。
【0005】
硫化亜鉛蛍光体でも、特にエレクトロルミネッセンス用途の蛍光体は、空気中で焼成することが一般的である。(例えば特許文献1、2を参照)。空気中で焼成を行った場合、銅の取り込みは進み、着色は低下する。しかし、その反面、酸素によって酸化亜鉛が形成されるため、やはり輝度低下を招く。
【0006】
このように、従来は、銅の取り込み向上と、酸化抑制を同時に実現することが困難であったため、十分な輝度のエレクトロルミネッセンス蛍光体を得ることは難しかった。
【特許文献1】特開2000−136381号公報
【特許文献2】特開平6−33053号公報
【非特許文献1】フィッシャー等(Fischeret al.)著、「ジャーナル・オブ・ジ・エレクトロケミカル・ソサエティ(Journal of the Electrochemical Society)」、Vol.109,No.11, (1962) 1043
【非特許文献2】フィッシャー等(Fischeret al.)著、「ジャーナル・オブ・ジ・エレクトロケミカル・ソサエティ(Journal of the Electrochemical Society)」、Vol.110,No.7, (1962) 733
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、粒子表面の着色を低減し、蛍光体に銅を偏析させることなく大量に導入する、蛍光体粒子の製造方法を提供することを目的とし、さらに、該製造方法によって、蛍光体粒子、および該蛍光体粒子を用いた高輝度なエレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は以下の手段によって達成された。
(1)銅で付活された硫化亜鉛を焼成する硫化亜鉛蛍光体の製造方法であって、被焼成物が0.05mol%以上1.0mol%未満の銅を含み、前記被焼成物と外気との間に銅導入促進剤を配置することを特徴とする硫化亜鉛蛍光体の製造方法。
(2)前記銅導入促進剤が、硫化亜鉛粉末、硫黄粉末、塩化アンモニウム粉末、または塩化マグネシウム粉末のいずれか1種、または2種以上の混合物から構成されることを特徴とする(1)項に記載の硫化亜鉛蛍光体の製造方法。
(3)前記被焼成物が0.05mol%以上0.2mol%以下の銅を含むことを特徴とする(1)又は(2)項に記載の硫化亜鉛蛍光体粒子の製造方法。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製造方法で作製された硫化亜鉛蛍光体粒子。
(5)(4)項に記載の硫化亜鉛蛍光体粒子を含むことを特徴とする分散型エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、粒子表面の着色を低減し、蛍光体に銅を偏析させることなく大量に導入した蛍光体粒子を提供することができ、該製造方法によって得られた蛍光体粒子を用いて、高輝度なエレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明は、当業界で広く用いられる焼成法(固相法)を基本的に利用した硫化亜鉛蛍光体の製造方法である。
一般的には、まず、液相法で、好ましくは1nm〜1μm、より好ましくは5nm〜500nm、特に好ましくは10nm〜200nmの硫化亜鉛微粒子粉末(通常生粉と呼ぶ)を作成し、これを一次粒子として用い、これに付活剤と呼ばれる不純物を混入させて融剤とともに坩堝にて900〜1300℃の高温で30分〜10時間、第1の焼成を行い、粒子を得る。第1の焼成によって得られる蛍光体中間体粉末をイオン交換水で繰り返し洗浄してアルカリ金属ないしアルカリ土類金属及び過剰の付活剤、共付活剤を除去する。次いで、得られた蛍光体中間体粉末に第2の焼成を施す。第2の焼成は、第1の焼成より低温の500〜800℃で、また短時間の30分〜12時間の加熱(アニーリング)をする。
【0011】
本発明では、上記の第1の焼成・第2の焼成のいずれか一方、または両方の工程において、硫化亜鉛微粒子粉末または蛍光体中間体粉末と外気との間に銅導入促進剤を配置して焼成を行う。特に、第1及び第2の焼成の両方の工程で行うことが好ましい。本明細書において、第1の焼成工程における生粉と融剤の混合物、および第2の焼成工程における蛍光体中間体をいずれも「被焼成物」という。銅導入促進剤は、第1及び第2の焼成工程の被焼成物を焼成容器に充填し、焼成容器と外気とが接触する間の部分に配置される。
【0012】
本発明の好ましい一実施態様について、添付の図面に基づいて詳細に説明をする。なお、各図の説明において同一の要素には同一の符号を付す。図1〜6は、本発明の方法を実施するための焼成容器の一実施態様を示す断面図である。本発明は図示された態様には限定されない。
図1の態様は大中小の3種のルツボを用いたものであり、大ルツボ14内に銅導入促進剤17を配置し、さらに該銅促進剤17の上に、被焼成物16を内部に配置した小ルツボ11をフタ12でふたをして配置し、この小ルツボ11を逆さにした中ルツボ13で覆い、これらをフタ15でふたをして焼成する。
図2の態様は石英管を用いたものであり、石英管21内に被焼成物22を配置し、該被焼成物22を挟むようにして、石英ウール23を介して銅導入促進剤24を配置して焼成する。
図3〜図6の態様は一つのルツボを用いたものであり、図3では、被焼成物33の上に銅導入促進剤34を入れてルツボ31に充填し、フタ32でふたをして焼成する。図4の態様は、図3の態様において被焼成物33と銅導入促進剤34との間に石英ウール35を配置したものである。図5の態様は、図3の態様において被焼成物33の下にも銅導入促進剤34を配置したものである。図6の態様は、図5の態様において被焼成物33と銅導入促進剤34との間にそれぞれ石英ウール35を配置したものである。
銅導入促進剤は、被焼成物と外気との間に配置していればよく、図1に示すように被焼成物から隔離して配置しても、図3に示すように被焼成物と密着して配置してもよい。
【0013】
焼成後、被焼成物と銅導入剤を分離する場合、図1、2、4、6のように、被焼成物と銅導入促進剤が非接触の場合は、容易に分離することができる。
図3、5のように、被焼成物と銅導入促進剤が接触している場合は、銅導入促進剤には、被焼成物とは平均粒径の異なる物質を用いる。焼成後、銅導入促進剤と被焼成物の混合物を、イオン交換水にて攪拌した後沈降させ、一定時間経過した後に浮いている粒子をデカンテーションして取り除くことを繰り返すことで、銅導入促進剤と被焼成物を分離することができる。この場合、銅導入促進剤としては、平均粒径が、被焼成物よりも小さい物質を用いることが好ましく、両者の分離を容易にするうえで、より好ましくは、被焼成物の平均粒径が5μm以上であり、銅導入促進剤の平均粒径が1μm以下となるようにする。
【0014】
銅導入促進剤を配置することで、銅導入促進剤雰囲気を形成して酸素を遮断して、被焼成物の酸化を防止することができ、さらに、蛍光体粒子(被焼成物)に銅を導入させる際における余剰銅を銅導入促進剤が取り込み、被焼成物の着色を防止することができる。銅導入促進剤としては、硫化亜鉛粉末、硫黄粉末、または塩化マグネシウム粉末のいずれか1種、または2種以上の混合物から構成されることが好ましい。銅導入促進剤の使用量は、被焼成物重量に対して、好ましくは1/100〜1000倍、より好ましくは1/50〜500倍、特に好ましくは1/10〜100倍である。銅導入促進剤は、被焼成物が直接外気と接触しないように配置されることが好ましい。銅導入促進剤の粒径は特に限定はないが、表面積が大きい粒子がより効果的であるため、粒径5μm以下が好ましく、粒径1μm以下がより好ましい。粒径を小さくするために、原料粉末を乳鉢などで粉砕して用いることが好ましい。銅導入促進剤として硫化亜鉛粉末を用いる場合は、付活剤として銅などの元素が含まれている硫化亜鉛粒子を用いることも、不純物を含まない硫化亜鉛を用いることもできる。
【0015】
焼成雰囲気は、銅導入促進剤の使用により銅導入促進剤の雰囲気が形成されるので、どのような雰囲気でも用いることができ、例えば、空気、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、水素もしくは硫化水素や、又はこれらの混合ガスなどを用いることができ、空気中で用いることが最も好ましい。
【0016】
本発明において被焼成物は、0.05mol%以上1.0mol%未満、好ましくは0.05mol%以上0.2mol%以下の銅を含む。銅としては硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅など水に可溶な銅化合物を好ましく用いることができる。銅は、第1の焼成工程前、第2の焼成工程前のいずれのときに添加しても良く、双方のときに添加しても良い。第1の焼成工程の方が温度が高く銅が均一に拡散するので、第1の焼成工程の前に加えることがより好ましい。
具体的には、例えば、第1の焼成工程前に添加する場合は硫化亜鉛生粉を、また、第2の焼成工程前に添加する場合は蛍光体中間体粉末を、水に懸濁させてスラリーとし、スラリーを攪拌させつつ前記銅化合物の水溶液を加え、攪拌を続けた後、乾燥させることで被焼成物を得ることができる。
また、水に不溶な硫化銅などを用いることもでき、この場合は、原料粉末と硫化銅粉末を混合させた後に焼成を行う。
【0017】
本発明において融剤は、ハロゲン化物が主体であることが好ましく、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、ハロゲン化アンモニウムのうち、1物質、もしくは2種類以上の混合物質が主体であることがより好ましい。
アルカリ金属ハライドとは、例えば塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化ルビジウム、臭化ルビジウム、ヨウ化ルビジウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウムなどを含む。
アルカリ土類金属ハライドとは、例えば、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウムなどを含む。
ハロゲン化アンモニウムとは、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム・ヨウ化アンモニウムなどを含む。
【0018】
上記の第1及び第2の焼成により蛍光体粒子内には多くの積層欠陥が発生するが、微粒子でかつより多くの積層欠陥が蛍光体粒子内に含まれるように、第1の焼成と第2の焼成の条件を適宜選択することが好ましい。また、第1の焼成物に、ある範囲の大きさの衝撃力を加えることにより、粒子を破壊することなく、積層欠陥の密度を大幅に増加させることができる。衝撃力を加える方法としては、蛍光体中間体粒子同士を接触混合させる方法、アルミナ等の球体を混ぜて混合させる(ボールミル)方法、粒子を加速させ衝突させる方法、超音波を照射する方法などを好ましく用いることができる。その後、HCl等の酸でエッチングして表面に付着している金属酸化物を除去し、さらに表面に付着した硫化銅を、KCNで洗浄して除去、乾燥して蛍光体粒子を得る。
【0019】
高輝度なエレクトロルミネッセンスを得るためには、蛍光体粒子の50%(個)以上が、5nm以下の間隔の積層欠陥構造を10層以上含有していることが好ましい。75%(個)の蛍光体粒子が積層欠陥構造を有していることがより好ましく、100%(個)の蛍光体粒子が積層欠陥構造を有していることが更に好ましい。
【0020】
蛍光体粒子内部の積層欠陥の定量は、透過電子顕微鏡で観察することで行うことができる。積層欠陥の定量を行いたい蛍光体粒子100mg程度を、メタノール、エタノール、アセトンなどの溶媒に懸濁させ、乳鉢で10分程度粉砕する。このようにして得られた蛍光体粒子破片を、透過型電子顕微鏡で観察すると、積層欠陥構造を有する蛍光体粒子破片は、破片に筋状の線を有している。一方、積層欠陥構造を持たない粒子は、構造がまったくない、平滑な表面として観察される。この筋状の線を数えた際、線が5nm以下の間隔で10本以上有している破片が50%(個)以上であった場合、蛍光体粒子の50%(個)以上が、5nm以下の間隔の積層欠陥構造を、10層以上含有しているとみなすことができる。
【0021】
観察の際は、加速電圧が高い、例えば400kV程度の透過電子顕微鏡が、コントラスト良く粒子を観察できるので好ましい。透過電子顕微鏡の観察には、試料を電子が透過することが必須であるから、蛍光体粒子破片は、厚み0.1nm以上100nm以下に粉砕されている必要がある。厚みが100nm以上の破片は、積層欠陥を有していない破片か、それとも単に電子が透過していないだけなのか、判断することができないので、観察には適さない。
【0022】
本発明により得られる蛍光体素子は、蛍光体粒子の表面に非発光シェル層を有することがより好ましい。このシェル層形成は、蛍光体素子のコアとなる半導体微粒子の調製に引き続いて化学的な方法を用いて0.1μm以上の厚みで設置するのが好ましい。好ましくは0.1μm以上1.0μm以下ある。
非発光シェル層は、酸化物、窒化物、酸窒化物や、蛍光体母体物質上に形成した同一組成で発光中心を含有しない物質から作成することができる。また、蛍光体母体物質上に異なる組成の物質をエピタキシャルに成長させて形成することもできる。
非発光シェル層の形成方法として、レーザー、アブレーション法、CVD法、プラズマ法、スパッタリングや抵抗加熱、電子ビーム法などと、流動油面蒸着を組み合わせた方法、等の気相法と、複分解法、ゾルゲル法、超音波化学法、プレカーサーの熱分解反応による方法、逆ミセル法やこれらの方法と高温焼成を組み合わせた方法、尿素溶融法、凍結乾燥法、等の液相法や噴霧熱分解法なども用いることができる。
【0023】
特に、蛍光体の粒子形成で好適に用いられる、尿素溶融法や噴霧熱分解法は、非発光シェル層の合成にも適している。
例えば、硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に非発光シェル層を付設する場合は、非発光シェル層材料となる金属塩が溶解し、溶融した尿素溶液中に、硫化亜鉛蛍光体を添加する。硫化亜鉛は尿素に溶解しないため、粒子形成の場合と同様に溶液を昇温し、尿素由来の樹脂中に硫化亜鉛蛍光体と非発光シェル層材料が均一に分散した固体を得る。この固体を微粉砕した後、電気炉中で樹脂を熱分解させながら焼成する。焼成雰囲気として、不活性雰囲気、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、アンモニア雰囲気、真空雰囲気を選択することで、酸化物、硫化物、窒化物からなる非発光シェル層を表面に有する硫化亜鉛蛍光体粒子が合成できる。
【0024】
また、例えば、硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に噴霧熱分解法で非発光シェル層を付設する場合は、非発光シェル層材料となる金属塩が溶解した溶液中に、硫化亜鉛蛍光体を添加する。この溶液を霧化し、熱分解することで、硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に非発光シェル層が生成する。熱分解の雰囲気や追加焼成の雰囲気を選択することで、酸化物、硫化物、窒化物からなる非発光シェル層を表面に有する硫化亜鉛蛍光体粒子が合成できる。
【0025】
本発明の製造方法は、どのような粒径の蛍光体に対しても効果があるが、輝度の観点からは、得られる蛍光体粒子の粒径サイズ分布が狭く、かつ蛍光体粒子の焼成後の粒径が小さい方が好ましい。本発明により得られる蛍光体粒子の焼成後の平均粒子径は特に制限されないが、0.1〜25μmが好ましく、0.1〜15μmがより好ましい。また、本発明により得られる蛍光体粒子の粒子サイズ分布は、変動係数(粒子サイズ分布の標準偏差÷平均粒子サイズ×100%)で計算することができ、好ましくは35%未満である。個々の粒子サイズは、体積を球換算してその直径で表す。粒子サイズは、その個々の粒子の写真をとって測定してもよいし、光学的にその分布を測定してもよいし、沈降速度から分布を割り出してもよい。
【0026】
エレクトロルミネッセンス素子は基本的には発光層を、少なくとも一方が透明な、対向する一対の電極で挟持した構成で且つ発光層と電極の間に誘電体層を隣接することが好ましい。
発光層には、本発明の蛍光体を分散剤に分散したものを用いることができる。分散剤としては、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。これらの樹脂に、BaTiO3やSrTiO3などの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。発光層の膜厚は0.5〜50μmであることが好ましく、0.5〜30μmであることがより好ましい。
誘電体層は、誘電率と絶縁性が高く、且つ高い誘電破壊電圧を有する材料であれば任意のものが用いられる。これらは金属酸化物、窒化物から選択され、例えばTiO2、BaTiO3、SrTiO3、PbTiO3、KNbO3、PbNbO3、Ta23、BaTa26、LiTaO3、Y23、Al23、ZrO2、AlON、ZnSなどが用いられる。これらは均一な膜として設置されても良いし、また粒子構造を有する膜として用いても良い。
【0027】
発光層と誘電体層は、スピンコート法、ディップ法、バーコート法、スクリーンプリント法、あるいはスプレー塗布法などを用いて塗布することができる。
誘電膜の調製法はスパッター、真空蒸着等の気相法であっても良く、この場合膜の厚みは通常100〜1000nmの範囲で用いられる。
上記エレクトロルミネッセンス素子において、透明電極は一般的に用いられる任意の透明電極材料が用いられる。例えばインジウムドープ酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、亜鉛ドープ酸化錫などの酸化物、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造、ポリアニリン、ポリピロールなどのπ共役系高分子などが挙げられる。
【0028】
これら透明電極にはこれに櫛型あるいはグリッド型等の金属細線を配置して通電性を改善することも好ましい。
光を取り出さない側の背面電極は、導電性の有る任意の材料が使用出来る。金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイトなどの中から、作成する素子の形態、作成工程の温度等により適時選択されるが、導電性さえあればITO等の透明電極を用いても良い。
上記エレクトロルミネッセンス素子は、最後に適当な封止材料を用いて、外部環境からの湿度の影響を排除するよう加工することが好ましい。素子の基板自体が十分な遮蔽性を有する場合には、作成した素子の上方に遮蔽性のシートを重ね、周囲をエポキシ等の硬化材料を用いて封止する。
【0029】
本発明により得られたエレクトロルミネッセンス蛍光体を好ましく用いたエレクトロルミネッセンス素子の用途は、特に限定されるものではないが、光源としての用途を考えると、発光色は白色が好ましい。発光色を白色とする方法としては、エレクトロルミネッセンス素子の発光層に複数の発光色の蛍光体を混合することが好ましい(青−緑−赤の組み合わせや、青緑−オレンジの組み合わせ等)。
【0030】
また、青色のように短い波長で発光させて、発光の一部を緑や赤色に波長変換して白色化することも好ましい。
その他、本発明の製造方法で製造したエレクトロルミネッセンス蛍光体を用いたエレクトロルミネッセンス素子の構成において、基板、透明電極、背面電極、各種保護層、フィルター、光散乱反射層などを必要に応じて付与することができる。特に基板に関しては、ガラス基板やセラミック基板に加え、フレキシブルは透明樹脂シートを用いることができる。
【0031】
本発明で得られる蛍光体粒子は、上記のようなエレクトロルミネッセンス素子構成と適宜組み合わせることが好ましく、それにより高輝度、高効率のエレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【0032】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
実施例1
ZnS(フルウチ化学製、純度99.999%)150gに水を加えてスラリーとし、CuSO4・5H2Oを0.416g含む水溶液を添加し、一部に銅を置換したZnS生粉(平均粒径100nm)を得た。得られた生粉25gに、NaCl
1.0g、BaCl2・2H2
2.1g、MgCl2・6H2
4.2gを混合して、図1に示した3重ルツボ(アルミナ製)に充填し、1200℃で4時間焼成を行い、蛍光体中間体を得た(第1の焼成工程)。上記の粒子をイオン交換水で10回水洗し、乾燥した。得られた中間体5gに対し、0.5mmφのアルミナビース50gを混合し、40分間ボールミルをかけた。これを図1に示した3重ルツボに充填し、空気中で700℃で6時間、アニールした(第2の焼成工程)。得られた蛍光体粒子を、10%のKCN水溶液で洗浄して表面にある余分な銅(硫化銅)を取り除いた後5回水洗を行い、エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子を得た(平均粒径25μm、粒径の変動係数48%)。
ただし、第1及び第2の焼成工程において、銅導入促進剤の種類および量を表1に示すように変えて蛍光体粒子を作製した。銅導入促進剤としては、硫化亜鉛(フルウチ化学製、平均粒径100nm)、硫黄粉末(和光純薬製、乳鉢により平均粒径1μm以下に粉砕)、塩化マグネシウム六水和物(和光純薬製、乳鉢により平均粒径1μm以下に粉砕)、塩化アンモニウム(和光純薬製、乳鉢により平均粒径1μm以下に粉砕)を用いた。
【0034】
比較例1
第1の焼成工程および第2の焼成工程のいずれにも銅導入促進剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様に焼成を行った。
【0035】
実施例2
実施例1と同様の方法で蛍光体中間体を得た(第1の焼成工程)。上記の粒子をイオン交換水で10回水洗し、乾燥した。得られた中間体を、図2に示した石英管に充填し、銅導入促進剤を用い、窒素フロー中で700℃で6時間、アニールした(第2の焼成工程)。得られた蛍光体粒子を、10%のKCN水溶液で洗浄して表面にある余分な銅(硫化銅)を取り除いた後5回水洗を行い、エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子を得た。ただし、第1及び第2の焼成工程において、銅導入促進剤の量を表1に示すように変えて蛍光体粒子を作製した。
【0036】
比較例2
第1の焼成工程および第2の焼成工程のいずれにも銅導入促進剤を用いなかったこと以外は、実施例2と同様に焼成を行った。
【0037】
【表1】

【0038】
(エレクトロルミネッセンス素子の作製)
得られた蛍光体粒子を用いて、以下のように素子を作製した。
上記で得られた蛍光体粒子を、30wt%の信越化学製シアノレジンCR−S(商品名)のDMF溶液に分散させ、これをITOが蒸着されたPETベースに、膜厚が30μmとなるように塗布し、80℃で4時間乾燥させた。その後、堺化学製のチタン酸バリウム粉末、BT−02(商品名)を、同様の30wt%のシアノレジンに分散して、蛍光体層上から塗布し、80℃で4時間乾燥させた。その上からアルミニウムを蒸着し、エレクトロルミネッセンス素子を作製した。作製した素子を100V、1kHzの交流電源で駆動し、TOPCOM社製輝度計 BM−9(商品名)により、輝度を評価した。いずれも蛍光体6(比較例1)の結果を100としたときの相対評価で評価した。表2に結果を示す。
【0039】
また、本発明の銅導入促進効果を、蛍光体粒子の光吸収率を用いて粒子が着色しているかどうかで評価した。蛍光体粒子の光吸収率は、蛍光体粒子を、上記シアノレジンCR−S(商品名)のDMF溶液に分散させ、これを5mm角の無アルカリガラスに、膜厚が50μmとなるように塗布することで評価した。分光器から600nmの光を分光してサンプルに照射し、積分球を用いて、ガラス塗布物の反射率および透過率を求め、1から差し引くことで、吸収率を用いた。600nmは、ZnS:Cu,Clの発光過程に関わらない光吸収であるから、光吸収量の多少で蛍光体粒子の着色を見ることができる。
【0040】
【表2】

【0041】
表2から明らかなように、第1及び第2の焼成工程の両方に銅導入促進剤を用いた蛍光体1〜6、10を素子に用いると、素子の着色が低減し、著しい高輝度化を発揮することがわかった。特に銅導入促進剤の合計量が多い蛍光体2及び3においてその効果は顕著であった。また、第1又は第2の焼成工程のいずれかにのみ銅導入促進剤を用いた蛍光体7、8、11、12においても、比較例1及び2に比べて輝度が向上することがわかった。
【0042】
実施例3、比較例3
ZnS(フルウチ化学製、純度99.999%)150gに水を加えてスラリーとし、CuSO4・5H2Oを0.416g含む水溶液を添加し、一部に銅を置換したZnS生粉(平均粒径100nm)を得た。得られた生粉25gに、NaCl
6.0g、BaCl2・2H2
12.6g、MgCl2・6H2
25.5gを混合して、図1に示した3重ルツボ(アルミナ製)に充填し、1200℃で4時間焼成を行い、蛍光体中間体を得た(第1の焼成工程)。上記の粒子をイオン交換水で10回水洗し、乾燥した。得られた中間体5gに対し、0.5mmφのアルミナビース50gを混合し、40分間ボールミルをかけた。これを図1に示した3重ルツボに充填し、空気中で700℃で6時間、アニールした(第2の焼成工程)。得られた蛍光体粒子を、10%のKCN水溶液で洗浄して表面にある余分な銅(硫化銅)を取り除いた後5回水洗を行い、エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子(粒径16μm、変動係数42%)を得た。
ただし、第1及び第2の焼成工程において、銅導入促進剤の種類および量を表3に示すように変えて蛍光体粒子を作製した。銅導入促進剤としては、硫化亜鉛(フルウチ化学製、平均粒径100nm)を用いた。
得られた蛍光体粒子を用いて、実施例1と同様に、エレクトロルミネッセンス素子を作製し、その相対輝度を評価した。表3に結果を示す。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例4、比較例4
ZnS(フルウチ化学製、純度99.999%)150gに水を加えてスラリーとし、CuSO4・5H2Oを0.416g含む水溶液を添加し、一部に銅を置換したZnS生粉(平均粒径100nm)を得た。得られた生粉25gに、BaCl2・2H2O 4.2g、MgCl2・6H2O 11.1g、SrCl2・6H2O 27.3gを混合して、図1に示した3重ルツボ(アルミナ製)に充填し、1200℃で4時間焼成を行い、蛍光体中間体を得た(第1の焼成工程)。上記の粒子をイオン交換水で10回水洗し、乾燥した。得られた中間体5gに対し、0.5mmφのアルミナビース50gを混合し、40分間ボールミルをかけた。これを図1に示した3重ルツボに充填し、空気中で700℃で6時間、アニールした(第2の焼成工程)。得られた蛍光体粒子を、10%のKCN水溶液で洗浄して表面にある余分な銅(硫化銅)を取り除いた後5回水洗を行い、エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子(粒径14μm、変動係数34%)を得た。
ただし、第1及び第2の焼成工程において、銅導入促進剤の種類および量を表4に示すように変えて蛍光体粒子を作製した。銅導入促進剤としては、硫化亜鉛(フルウチ化学製、平均粒径100nm)を用いた。
得られた蛍光体粒子を用いて、実施例1と同様に、エレクトロルミネッセンス素子を作製し、その相対輝度を評価した。表4に結果を示す。
【0045】
【表4】

【0046】
比較例5
0.2molのZnSに水を加えてスラリーとし、0.00003molのCuSO4・5H2Oを含む水溶液を添加して、一部に銅を置換したZnS生粉を作製したこと以外は実施例1と同様にしてエレクトロルミネッセンス蛍光体を作製し、これを用いてエレクトロルミネッセンス素子を作製した。素子について実施例1と同様にして輝度を測定したところ、EL輝度を測定することができなかった。
この結果から、銅の添加量が0.05mol%未満ではEL輝度が得られないことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の方法を実施するための焼成容器の一実施態様を示す断面図であり、大中小の3種のルツボを用いたものである。
【図2】本発明の方法を実施するための焼成容器の一実施態様を示す断面図であり、石英管を用いたものである。
【図3】本発明の方法を実施するための焼成容器の一実施態様を示す断面図であり、一つのルツボを用いたものである。
【図4】本発明の方法を実施するための焼成容器の一実施態様を示す断面図であり、一つのルツボを用い、被焼成物33と銅導入促進剤34との間に石英ウール35を配置したものである。
【図5】本発明の方法を実施するための焼成容器の一実施態様を示す断面図であり、一つのルツボを用いたものである。
【図6】本発明の方法を実施するための焼成容器の一実施態様を示す断面図であり、一つのルツボを用い、被焼成物33と銅導入促進剤34との間に石英ウール35を配置したものである。
【符号の説明】
【0048】
11 小ルツボ
12 小ルツボフタ
13 中ルツボ
14 大ルツボ
15 大ルツボフタ
16、22、33 被焼成物
17、24、34 銅導入促進剤
21 石英管
23、35 石英ウール
31 ルツボ
32 ルツボフタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅で付活された硫化亜鉛を焼成する硫化亜鉛蛍光体の製造方法であって、被焼成物が0.05mol%以上1.0mol%未満の銅を含み、前記被焼成物と外気との間に銅導入促進剤を配置することを特徴とする硫化亜鉛蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記銅導入促進剤が、硫化亜鉛粉末、硫黄粉末、塩化アンモニウム粉末、または塩化マグネシウム粉末のいずれか1種、または2種以上の混合物から構成されることを特徴とする請求項1に記載の硫化亜鉛蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記被焼成物が0.05mol%以上0.2mol%以下の銅を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の硫化亜鉛蛍光体粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法で作製された硫化亜鉛蛍光体粒子。
【請求項5】
請求項4に記載の硫化亜鉛蛍光体粒子を含むことを特徴とする分散型エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−45319(P2006−45319A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227087(P2004−227087)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】