説明

蛍光体複合部材の製造方法

【課題】従来よりも発光強度の高い蛍光体複合部材を容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】無機基材上に、ガラス粉末および無機蛍光体粉末を含有する混合粉末を載置する工程、および、金型を用いて加熱しながら混合粉末をプレス成型し、無機基材表面に無機粉末焼結体層を形成する工程、を含むことを特徴とする蛍光体複合部材の製造方法。無機基材が、YAG系セラミックス、結晶化ガラス、ガラス、金属または金属とセラミックスの複合体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば励起光を照射することにより蛍光を発し、透過励起光と蛍光との合成により白色光を得るために好適な蛍光体複合部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白色LEDは、近年、高効率、高信頼性の白色光源として注目され、既に実用化されている。白色LEDは、従来の照明装置等の光源に比べ、長寿命、高効率、高安定性、低消費電力、高応答速度、環境負荷物質を含まない等の利点を有しているため、携帯電話やテレビの液晶バックライト用光源として急速に普及が広まってきている。今後は、これに加えて一般照明にも応用が進むと期待されている。
【0003】
ところで、特許文献1に開示されている白色LEDは、LEDチップの発光面を有機系バインダー樹脂に無機蛍光体粉末を分散したものをモールド被覆してなる構成を有している。そのため、青色〜紫外線領域の高出力の短波長の光や、無機蛍光体粉末の発熱、あるいはLEDチップの熱によって、上記有機系バインダー樹脂が劣化し、変色を引き起こす。その結果、発光強度の低下や色ずれが起こり、寿命が短くなるという問題がある。
【0004】
これらの問題に対し、無機蛍光体粉末とガラス粉末を混合、焼結して得られる蛍光体複合部材が提案されている(例えば、特許文献2参照)。当該蛍光体複合部材は、耐熱性の高い無機系ガラス粉末中に無機蛍光体粉末を分散してなるため、経時的な発光強度の低下を抑制することが可能である。しかしながら、特許文献2では、所望の大きさの蛍光体複合部材を得るために、切削研磨加工が必要となる。例えば、薄型の蛍光体複合部材を得るためには、一旦、無機蛍光体粉末とガラス粉末を焼結して比較的厚みの大きい部材を作製した後、当該部材を切削、研磨して薄型化する必要がある。したがって、この製造方法では、無機蛍光体粉末とガラス粉末の材料歩留まりが悪く、その結果、蛍光体複合部材の製造コストが高くなる傾向があった。
【0005】
そこで、無機基材表面に、無機蛍光体粉末を含有するガラス焼結体層を形成してなる蛍光体複合部材が提案されている(例えば、特許文献3または4参照)。当該蛍光体複合部材は、ペースト法やグリーンシート法により、無機蛍光体粉末を含有する焼結体層が無機基板上に形成されてなる。したがって、切削や研磨等の工程を経ることなく、薄型の蛍光体複合部材を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−208815号公報
【特許文献2】特開2003−258308号公報
【特許文献3】特開2007−48864号公報
【特許文献4】特開2008−169348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3または4に記載の方法では、所望の形状を有する発光色変換部材を歩留まりよく製造することができるが、部材の発光強度が低いという問題があった。また、ペーストやグリーンシートの作製工程が必要であるため、製造工程が煩雑であるという問題があった。
【0008】
このような状況を鑑みて、本発明は、従来よりも発光強度の高い蛍光体複合部材を容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無機基材上に、ガラス粉末および無機蛍光体粉末を含有する混合粉末を載置する工程、および、金型を用いて加熱しながら混合粉末をプレス成型し、無機基材表面に無機粉末焼結体層を形成する工程、を含むことを特徴とする蛍光体複合部材の製造方法に関する。
【0010】
無機基材上に、無機蛍光体粉末を含有するガラス焼結体層をペースト法やグリーンシート法により形成した場合、有機樹脂や有機溶剤等に起因する炭素成分が焼結体中に残留し、発光強度低下の原因となる。一方、本発明の製造方法によれば、ガラス粉末および無機蛍光体粉末を含有する混合粉末に対し、有機樹脂や有機溶剤等を添加することなく、直接無機基材表面にプレス融着させることができるため、有機樹脂や有機溶剤等に起因する炭素成分が原因となる発光強度低下の問題がない。よって、発光強度に優れた発光色変換部材を得ることが可能となる。
【0011】
また、原料粉末をペースト化したりグリーンシート化する必要がなく、混合粉末をそのままプレス成型に用いることができるため、製造工程を簡素化することが可能となる。また、無機基材表面に非常に薄い無機粉末焼結体層を形成することも容易である。
【0012】
第二に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、無機基材が、YAG系セラミックス、結晶化ガラス、ガラス、金属または金属とセラミックスの複合体であることが好ましい。
【0013】
第三に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、無機粉末焼結体層の厚みが0.3mm以下であることが好ましい。
【0014】
無機粉末焼結体層を薄型化することにより、無機粉末焼結体層における光散乱損失を低減することができ、結果として蛍光体複合部材の発光強度を向上させることが可能となる。
【0015】
第四に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、無機粉末焼結体層の表面粗さ(Ra)が0.5μm以下であることが好ましい。
【0016】
当該構成によれば、無機粉末焼結層表面での光散乱損失を低減することができ、励起光および蛍光が透過しやすくなる。その結果、蛍光体複合部材の発光強度を向上させることが可能となる。
【0017】
第五に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、ガラス粉末の平均粒径(D50)が100μm以下であることが好ましい。
【0018】
当該構成によれば、蛍光体複合部材中における無機蛍光体粉末の分散状態が良好なものとなり、発光色のばらつきを抑制することが可能となる。
【0019】
第六に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、無機粉末焼結体層における無機蛍光体粉末の割合が0.01〜90質量%であることが好ましい。
【0020】
第七に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、無機粉末焼結体層が、無機フィラーを0〜30質量%含有することが好ましい。
【0021】
無機粉末焼結体層中に無機フィラーを添加することにより、無機基材との膨張係数差を低減して、剥離やクラックの発生を抑制することが可能となる。
【0022】
第八に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、ガラス粉末が、SiO−B−RO系ガラス粉末(RはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる1種以上)、SiO−TiO−Nb−R’O系ガラス粉末(R’はLi、Na、Kから選ばれる1種以上)、SnO−P系ガラス粉末またはZnO−B−SiO系ガラス粉末であることが好ましい。
【0023】
第九に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、SnO−P系ガラス粉末が、ガラス組成としてモル%で、SnO 35〜80%、P 5〜40%、B 0〜30%を含有することが好ましい。
【0024】
第十に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、無機蛍光体粉末が、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、酸フッ化物、ハロゲン化物、アルミン酸塩またはハロリン酸塩化物であることが好ましい。
【0025】
第十一に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、プレス成型時の温度が900℃以下であることが好ましい。
【0026】
当該構成によれば、熱による無機蛍光体粉末の失活やガラス粉末の変性を抑制することが可能となる。
【0027】
第十二に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、プレス成型時の雰囲気が空気、真空、窒素またはアルゴンであることが好ましい。
【0028】
第十三に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、蛍光体複合部材の形状が、板状、半球状、半球ドーム状であることが好ましい。
【0029】
第十四に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法は、前記いずれかの製造方法により作製されたことを特徴とする蛍光体複合部材に関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の蛍光体複合部材の製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に、本発明の蛍光体複合部材の製造方法の模式図を示す。
【0032】
まず、図1(a)において、下金型3bの上に無機基材2を静置し、無機基材2上に無機蛍光体粉末およびガラス粉末を含有する所定量の混合粉末1を載置する。
【0033】
次に、図1(b)において、上金型3aを用いて混合粉末1をプレスしながら加熱し、混合粉末1を焼結する。これにより、図1(c)に示すように、無機基材2上に無機粉末焼結体層4が形成された蛍光体複合部材5が得られる。ここで、加熱方法は特に限定されず、所定温度に加熱した金型を用いてプレスしてもよいし、所定温度に設定した雰囲気中(例えば電気炉内)でプレスしても構わない。
【0034】
本発明において使用されるガラス粉末としては、SiO−B−RO系ガラス粉末(RはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる1種以上)、SiO−TiO−Nb−R’O系ガラス粉末(R’はLi、Na、Kから選ばれる1種以上)、SnO−P系ガラス粉末またはZnO−B−SiO系ガラス粉末が挙げられる。なかでも、軟化点が比較的低いSnO−P系ガラス粉末を用いれば、プレス成型温度が低くなり、無機蛍光体粉末の失活を抑制することができるため好ましい。
【0035】
SnO−P系ガラス粉末としては、ガラス組成としてモル%で、SnO 35〜80%、P 5〜40%、B 0〜30%を含有するものが好ましい。ガラス組成をこのように限定した理由を以下に説明する。
【0036】
SnOはガラス骨格を形成するとともに、軟化点を低下させる成分である。SnOの含有量は35〜80%、40〜70%、50〜70%、特に55〜65%であることが好ましい。SnOの含有量が少なすぎると、ガラスの軟化点が上昇する傾向にあり、耐候性が悪化する傾向がある。一方、SnOの含有量が多すぎると、ガラス中にSnに起因する失透ブツが析出して透過率が低下する傾向にあり、結果として、蛍光体複合部材5の発光強度が低下しやすくなる。また、ガラス化しにくくなる。
【0037】
はガラス骨格を形成する成分である。Pの含有量は5〜40%、10〜30%、特に15〜24%であることが好ましい。Pの含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなる。一方、Pの含有量が多すぎると、軟化点が上昇したり、耐候性が著しく低下する傾向にある。
【0038】
は耐候性を向上させるとともに、ガラス粉末と無機蛍光体粉末の反応を抑制する成分である。また、ガラスを安定化させる成分でもある。Bの含有量は0〜30%、1〜25%、2〜20%、特に4〜18%であることが好ましい。Bの含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなる。また、軟化点が上昇する傾向がある。
【0039】
SiO−B−RO系ガラス粉末としては、ガラス組成として質量%で、SiO 30〜70%、B 1〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜25%、SrO 0〜10%、BaO 8〜40%、MgO+CaO+SrO+BaO 10〜45%、Al 0〜20%、ZnO 0〜10%を含有するものが好ましい。
【0040】
SiO−TiO−Nb−R’O系ガラス粉末としては、質量百分率で、SiO 20〜50%、LiO 0〜10%、NaO 0〜15%、KO 0〜20%、LiO+NaO+KO 1〜30%、B 1〜20%、MgO 0〜10%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜15%、Al 0〜20%、ZnO 0〜15%、TiO 0.01〜20%、Nb 0.01〜20%、La 0〜15%、TiO+Nb+La 1〜30%を含有するものが好ましい。
【0041】
ZnO−B−SiO系ガラス粉末としては、ガラス組成として質量%で、ZnO 5〜60%、B 5〜50%、SiO 2〜30%を含有するものが好ましい。
【0042】
ガラス粉末の平均粒径(D50)は100μm以下、特に50μm以下であることが好ましい。ガラス粉末の平均粒径が大きすぎると、蛍光体複合部材5中における無機蛍光体粉末の分散状態に劣り、発光色にばらつきが生じやすくなる。なお、下限については特に限定されないが、ガラス粉末の平均粒径が小さくなりすぎると、製造コストが高騰しやすくなるため、0.1μm以上、特に1μm以上であることが好ましい。
【0043】
なお、本明細書において、「平均粒径(D50)」はレーザー回折法により測定した値を指す。
【0044】
無機基材2と無機粉末焼結体層4との界面における光散乱損失を抑制するため、両者の屈折率差は小さいほうが好ましい。例えば、無機基材2としてYAGセラミックスを用いた場合、ガラス粉末の屈折率(nd)は1.5以上、1.7以上、特に1.8以上であることが好ましい。
【0045】
ガラス粉末の軟化点は500℃以下、450℃以下、特に400℃以下であることが好ましい。軟化点が高すぎると、焼結温度が高くなって無機蛍光体粉末が劣化しやすくなる。
【0046】
無機蛍光体粉末としては、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、酸フッ化物、ハロゲン化物、アルミン酸塩またはハロリン酸塩化物が挙げられる。なかでも、波長300〜500nmに励起帯を有し、波長500〜780nmに発光ピークを有するもの、特に、赤色、黄色または緑色に発光するものを用いることが好ましい。
【0047】
青色励起光を照射すると赤色の蛍光を発する無機蛍光体粉末として、CaS:Eu2+、SrS:Eu2+、CaAlSiN:Eu2+、CaSiN:Eu2+、(Ca、Sr)Si:Eu2+等が挙げられる。
【0048】
青色励起光を照射すると黄色の蛍光を発する無機蛍光体粉末として、(Sr,Ba,Ca)SiO:Eu2+、(Y,Gd)(Al,Ga)12:Ce3+、CaGa:Eu2+、LaSi11:Ce3+等が挙げられる。
【0049】
青色励起光を照射すると緑色の蛍光を発する無機蛍光体粉末として、SrAl:Eu2+、SrGa:Eu2+、SrBaSiO:Eu2+、BaSi12:Eu2+、SiAl:Eu2+、SrSi13Al21:Eu2+、CaScSi12:Ce3+、CaSc:Ce3+等が挙げられる。
【0050】
無機粉末焼結体層4における無機蛍光体粉末の含有量は0.01〜90質量%、0.05〜30質量%、特に0.08〜15%であることが好ましい。無機蛍光体粉末の含有量が多すぎると、相対的にガラス粉末の含有量が少なくなって気孔率が大きくなる傾向がある。その結果、無機粉末焼結体層4の強度が低下したり、光散乱損失が大きくなる。一方、無機蛍光体粉末の含有量が少なすぎると、十分な発光強度が得られにくくなる。
【0051】
無機粉末焼結体層4の膨張係数を調整するために、混合粉末1(無機粉末焼結体層4)中に無機フィラー粉末を添加してもよい。特に、SnO−P系ガラス粉末等の熱膨張係数が大きいガラス粉末を用いた場合は、無機基材2と無機粉末焼結体層4との熱膨張係数差が大きくなって、無機粉末焼結体層4の表面にクラックが生じたり、剥離したりしやすいため、低膨張特性を有する無機フィラー粉末を添加するのが有効である。
【0052】
無機フィラー粉末としては、低膨張特性を有するリン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、NZP型結晶およびこれらの固溶体等が挙げられ、これらを単独で、または混合して使用することができる。ここで、「NZP型結晶」とは、例えば、NbZr(POや[AB(MO]の基本構造をもつ結晶が含まれる。
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
M:P、Si、W、Mo等
【0053】
なお、無機フィラー粉末はZr成分を含有するものを使用することが好ましい。Zr成分を含有する無機フィラー粉末は、SnO−P系ガラスとの適合性が良好、つまりSnO−P系ガラスとの反応性が低く、プレス成型時にガラス粉末を失透させにくい性質を有しているためである。
【0054】
無機フィラー粉末の含有量は、無機粉末焼結体層4において0〜30質量%、1.5〜25質量%、特に2〜20質量%であることが好ましい。無機フィラー粉末の含有量が多すぎると、ガラス粉末の含有量が相対的に少なくなって機械的強度が低下しやすくなる。また、ガラスマトリクスと無機フィラー粉末の界面における光散乱損失が大きくなり、発光強度が低下する傾向がある。
【0055】
無機フィラー粉末の熱膨張係数は、30〜380℃の温度範囲で50×10−7/℃以下、特に30×10−7/℃以下であることが好ましい。無機フィラー粉末の熱膨張係数が大きすぎると、無機粉末焼結体層4の熱膨張係数を低下させる効果が得られにくい。なお、無機フィラー粉末の熱膨張係数の下限については特に限定されないが、現実的には−100×10−7/℃以上である。
【0056】
無機フィラー粉末の平均粒径(D50)は0.1〜50μm、特に3〜20μmであることが好ましい。無機フィラー粉末の平均粒径が小さすぎると、無機粉末焼結体層4の熱膨張係数を低下させる効果に劣る傾向がある。あるいは、プレス成型時にガラス粉末に溶け込み、フィラーとしての役割を果たさなくなるおそれがある。無機フィラー粉末の平均粒径が大きすぎると、ガラス粉末と無機フィラー粉末の境界にクラックが発生しやすくなる。
【0057】
なお、無機基材2からの無機粉末焼結体層4の剥離を防止するためには、無機基材2の熱膨張係数をα1、無機粉末焼結体層4の熱膨張係数をα2としたとき、−5ppm/℃≦α1−α2≦5ppm/℃、特に−1ppm/℃≦α1−α2≦1ppm/℃であることが好ましい。α1−α2が上記範囲外になると、無機粉末焼結体層4が無機基材2から剥離しやすくなる。
【0058】
無機基材2としては、YAG系セラミックス、結晶化ガラス、ガラス、金属または金属とセラミックスの複合体等が挙げられる。なお、YAG系セラミックスとしては、透明または半透明のいずれのものであっても使用することが可能である。
【0059】
ここで、無機基材2として、励起光や蛍光を透過させる材料を用いることで、例えば、励起光の透過光と、無機蛍光体粉末から発せられた蛍光の組み合わせにより、白色光を得ることが可能である。
【0060】
なお、無機基材2として、金属や金属とセラミックスとの複合体を用いることで、反射型の蛍光体複合部材とすることが可能である。金属としてはAl、Cu、Ag等が挙げられる。金属とセラミックスの複合体としては、例えばAlとSiCまたはAlNの複合体(焼結体)等が挙げられる。無機基材2と無機粉末焼結体4の界面にAg、Al等の反射層(図示せず)を必要に応じて設けても構わない。金属や金属とセラミックスとの複合体は熱伝導性に優れるため、青色LD等の高強度な励起光に曝されるときに蛍光体から発生する熱を効率よく放熱させることが可能であり、無機蛍光体粉末の温度消光を軽減させることができる。
【0061】
無機基材2の厚みは特に限定されないが、例えば0.1〜10.0mmであることが好ましい。無機基材2の厚みが小さすぎると、機械的強度が不十分になる傾向にある。一方、無機基材2の厚みが大きすぎると、励起光が透過しにくくなって、発光効率が低下しやすくなったり、蛍光体複合部材5の重量が不当に大きくなる傾向がある。
【0062】
プレス温度は、無機蛍光体粉末の失活や、ガラスの変性を防止する観点から、900℃以下、700℃以下、特に500℃以下であることが好ましい。一方、ガラス粉末が十分に軟化して無機基材2表面に固着する必要があるため、下限は200℃以上、特に250℃以上であることが好ましい。
【0063】
プレス圧は、目的とする無機粉末焼結体層4の厚みに応じて、1N/mm以上、特に3N/mm以上で適宜調整される。一方、上限は特に限定されないが、無機基材2の破損を防止するため、100N/mm以下、特に50N/mm以下とすることが好ましい。
【0064】
プレス時間は特に限定されないが、無機粉末焼結体層4が無機基材2表面に十分に固着するよう、0.1〜30分間、0.5〜10分間、特に1〜5分間で適宜調整すればよい。
【0065】
プレス成型時の雰囲気としては、空気、真空、窒素またはアルゴンが挙げられる。なかでも、無機蛍光体粉末の失活やガラス粉末の変性、さらにはプレス金型の酸化による劣化を抑制するため、窒素やアルゴン等の不活性ガス、特にランニングコストを考慮して窒素であることが好ましい。
【0066】
無機粉末焼結体層4の厚みは0.3mm以下、0.25mm以下、特に0.2mm以下であることが好ましい。無機粉末焼結体層4の厚みが大きすぎると、励起光が透過しにくくなり、所望の色を有する光が得られにくくなる。一方、無機粉末焼結体層4の厚みが小さすぎると、機械的耐久性が不十分となる傾向があるため、下限は0.01mm以上、0.03mm以上、特に0.05mm以上であることが好ましい。
【0067】
無機粉末焼結体層4の表面粗さ(Ra)は0.5μm以下、0.2μm以下、特に0.1μm以下であることが好ましい。無機粉末焼結体層4の表面粗さが大きすぎると、光散乱損失が大きくなり、励起光および蛍光の透過率が低下して発光強度が低下する傾向がある。
【0068】
蛍光体複合部材5の形状は特に限定されず、板状、半球状、半球ドーム状等が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例に基づき、本発明の蛍光体複合部材を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
(1)セラミックス基材の作製
まず、高純度かつ2μm以下の粒経を有する原料を用いて、YAG(YAl12)の量論組成となるように、モル%で、Y 37.4625%、Al 62.5%、Ce 0.0375%を秤量し、これに対し焼結助剤としてテトラエトキシシランを0.6質量%添加した。次に、ボールミルを用いて、調合した原料をエタノール中で17時間攪拌混合した後、減圧乾燥して粉体を得た。続いて、得られた粉体を200MPaの圧力でプレス成型して直径10mm、厚さ3mmのプレス成型体を作製し、これを真空雰囲気中1750℃で10時間焼成を行うことで焼結体を得た。その後、その焼結体を0.12mmの厚さとなるように両面研磨することでセラミックス基材を得た。
【0071】
このようにして得られたセラミックス基材について、X線粉末回折装置を用いて析出結晶の同定を行ったところYAG結晶が単相で析出していることが確認された。
【0072】
また、得られたYAGセラミックス基材について、発光スペクトルを測定したところ、波長550nm付近に中心を有する黄色の蛍光と、波長465nm付近に中心を有する青色励起光(セラミックス基材を透過した励起光)によるピークが観測された。
【0073】
(2)蛍光体複合部材の作製
表1に記載のガラス粉末、無機蛍光体粉末および無機フィラー粉末を所定の割合で混合して混合粉末とした。
【0074】
なお、ガラス粉末は次のようにして作製した。まず、表1に記載の組成になるように調合したガラス原料をアルミナ坩堝に投入し、電気炉内950℃で窒素雰囲気にて1時間溶融した。その後、ガラス融液をフィルム成形し、らいかい機で粉砕することによりガラス粉末を得た。得られた粉末の平均粒径(D50)は32μmであった。
【0075】
ホットプレート上に(1)で得られたYAGセラミックス基材を静置し、さらにその上に、混合粉末を所定量載置した。次に、混合粉末に対し金型を押し当て、表1に記載のプレス圧およびプレス温度にて、窒素雰囲気中で3分間プレス成型することにより、YAGセラミックス基材表面に無機粉末焼結体層を形成し、蛍光体複合部材を得た。
【0076】
(3)全光束および色度の測定
得られた蛍光体複合部材について、発光スペクトルを次のようにして測定した。校正された積分球内で、200mAの電流で点灯した青色LEDによって蛍光体複合部材を励起し、光ファイバーを通じてその発光を小型分光器(オーシャンオプティクス製 USB−4000)に取り込み、制御PC上に発光スペクトル(エネルギー分布曲線)を得た。得られた発光スペクトルから全光束および色度を算出した。結果を表1に示す。
【0077】
(比較例1)
(1)無機粉末焼結体層用ペーストの作製
表1に記載のガラス粉末、無機蛍光体粉末および無機フィラー粉末を所定の割合で混合して混合粉末を作製した。次に、得られた混合粉末100質量部に対して、溶媒として50質量部の2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール(日本香料薬品株式会社製 MARS)を添加して混合することでペーストを得た。
【0078】
(2)蛍光体複合部材の作製
実施例1で得られたYAGセラミックス基材の表面に、上記(1)で得られた無機粉末焼結体層用ペーストをディスペンス法で厚さ約300μmとなるように塗布した。次に、約250℃のホットプレート上で熱処理することによって脱溶媒を行った。その後、窒素雰囲気中にて430℃で10分間焼成し、さらに1N/mmの圧力でホットプレスして表面形状を整え、蛍光体複合部材を得た。
【0079】
このようにして得られた蛍光体複合部材の全光束および色度を、実施例1と同様の方法で測定した。結果を表1に示す。表1から明らかなように、比較例1で得られた蛍光体複合部材は実施例1より全光束値が劣っていた。
【0080】
(比較例2)
(1)無機粉末焼結体層用グリーンシートの作製
表1に記載のガラス粉末、無機蛍光体粉末を所定の割合で混合して混合粉末を作製した。次に、混合粉末100質量部に対して、結合剤としてポリビニルブチラール樹脂を12質量部、可塑剤としてフタル酸ジブチルを3質量部、溶剤としてトルエンを40質量部添加し、混合してスラリーを作製した。続けて、上記スラリーをドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート成形し、乾燥して、厚さ250μmのグリーンシートを得た。
【0081】
(2)蛍光体複合部材の作製
上記(1)で作製したグリーンシートを、実施例1で得られたYAGセラミックス基材の表面に積層し、熱圧着によって一体化して積層体を作製し、350℃で1時間脱脂した。次に、400℃で20分焼成した後、冷却して蛍光体複合部材を得た。
【0082】
このようにして得られた蛍光体複合部材の全光束および色度を、実施例1と同様の方法で測定した。結果を表1に示す。表1から明らかなように、比較例1と同様に、比較例2で得られた蛍光体複合部材は、実施例1より全光束値が劣っていた。
【0083】
(実施例2)
表1に記載のガラス粉末、無機蛍光体粉末および無機フィラー粉末を所定の割合で混合して混合粉末とした。
【0084】
なお、ガラス粉末は次のようにして作製した。まず、モル%で、SnO 72%、P 28%を含有する組成になるように調合したガラス原料をアルミナ坩堝に投入し、電気炉内950℃で窒素雰囲気にて1時間溶融した。その後、ガラス融液をフィルム成形し、らいかい機で粉砕することによりガラス粉末を得た。得られた粉末の平均粒径(D50)は、36μmであった。
【0085】
ホットプレート上に実施例1で得られたYAGセラミックス基材を静置し、さらにその上に、混合粉末を所定量載置した。次に、混合粉末に対し金型を押し当て、表1に記載のプレス圧およびプレス温度にて、窒素雰囲気中で3分間プレス成型することにより、YAGセラミックス基材表面に無機粉末焼結体層を形成し、蛍光体複合部材を得た。
【0086】
このようにして得られた蛍光体複合部材の全光束および色度を実施例1と同様の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
(実施例3〜6)
表2に記載のガラス粉末、無機蛍光体粉末、無機フィラー粉末を所定の割合で混合し、混合粉末を得た。
【0089】
ホットプレート上に厚み0.15mmのカバーガラス基板(松浪硝子社製)を静置し、さらにその上に、混合粉末を所定量載置した。次に、混合粉末に対し金型を押し当て、表2に記載のプレス圧およびプレス温度にて、窒素雰囲気中で3分間プレス成型することにより、カバーガラス基材表面に無機粉末焼結体層を形成し、蛍光体複合部材を得た。
【0090】
このようにして得られた蛍光体複合部材の全光束および色度を実施例1と同様の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
(比較例3)
表3に記載のガラス粉末および無機蛍光体粉末を所定の割合で混合し、混合粉末を得た。
【0093】
ホットプレート上に直接、混合粉末を所定量載置し、混合粉末に対し金型を押し当て、表3に記載のプレス圧およびプレス温度にて、窒素雰囲気中で3分間プレス成型することにより、無機粉末焼結体層を形成した。
【0094】
無機粉末焼結体層は非常にもろく、ホットプレートから取り外す際に破損したため、全光束および色度を測定することはできなかった。
【0095】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の蛍光体複合部材は、照明、ディスプレイ等の発光装置、自動車等の前照灯に使用されるLEDデバイス用部材として好適である。また、本発明の蛍光体複合部材はLED用途に限られるものではなく、レーザーダイオード等のように、ハイパワーの励起光を発するLEDデバイスにおける波長変換部材として用いることも可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 混合粉末
2 無機基材
3a 上金型
3b 下金型
4 無機粉末焼結体層
5 蛍光体複合部材
P 加圧方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機基材上に、ガラス粉末および無機蛍光体粉末を含有する混合粉末を載置する工程、および、金型を用いて加熱しながら混合粉末をプレス成型し、無機基材表面に無機粉末焼結体層を形成する工程、を含むことを特徴とする蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項2】
無機基材が、YAG系セラミックス、結晶化ガラス、ガラス、金属または金属とセラミックスの複合体であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項3】
無機粉末焼結体層の厚みが0.3mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項4】
無機粉末焼結体層の表面粗さ(Ra)が0.5μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項5】
ガラス粉末の平均粒径(D50)が100μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項6】
無機粉末焼結体層における無機蛍光体粉末の割合が0.01〜90質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項7】
無機粉末焼結体層が、無機フィラーを0〜30質量%含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項8】
ガラス粉末が、SiO−B−RO系ガラス粉末(RはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる1種以上)、SiO−TiO−Nb−R’O系ガラス粉末(R’はLi、Na、Kから選ばれる1種以上)、SnO−P系ガラス粉末またはZnO−B−SiO系ガラス粉末であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項9】
SnO−P系ガラス粉末が、ガラス組成としてモル%で、SnO 35〜80%、P 5〜40%、B 0〜30%を含有することを特徴とする請求項8に記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項10】
無機蛍光体粉末が、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、酸フッ化物、ハロゲン化物、アルミン酸塩またはハロリン酸塩化物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項11】
プレス成型時の温度が900℃以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項12】
プレス成型時の雰囲気が空気、真空、窒素またはアルゴンであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項13】
蛍光体複合部材の形状が、板状、半球状、半球ドーム状であることを特徴とする請求項1〜12に記載の蛍光体複合部材の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13に記載の製造方法により作製されたことを特徴とする蛍光体複合部材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−1879(P2013−1879A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136917(P2011−136917)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】