説明

蛍光体高充填波長変換シート、それを用いた発光半導体装置の製造方法、及び該発光半導体装置

【課題】LED素子表面近傍に容易に蛍光体を高充填且つ均一分散させることができる蛍光体高充填波長変換シートを提供する。
【解決手段】 樹脂成分100質量部と、球形度0.7〜1.0である粒子の割合が全粒子の60%以上である粒子状蛍光体100〜2000質量部とを含有し、未硬化状態において常温で可塑性固体状又は半固体の状態である熱硬化性樹脂組成物からなる層を含み、前記蛍光体の平均粒径が前記熱硬化性樹脂組成物からなる層の厚みの60%以下であり、かつ、前記蛍光体の最大粒径が前記熱硬化性樹脂組成物からなる層の厚みの90%以下である、蛍光体高充填波長変換シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体含有波長変換シートに関し、特にLED素子のチップ表面に配置し硬化させて被覆することによりLEDの青色光及び紫外光の波長を変換させることが可能な波長変換シート、該シートを利用する発光装置の製造方法、並びに発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)の分野では波長変換のために蛍光体を使用することは知られている(特許文献1)。シリコーン樹脂は耐光性に優れることからLED素子を封止、保護のために被覆する材料として注目されている(特許文献2)
また蛍光体を低濃度で含有したシリコーン樹脂シートが開示されている。(特許文献3)
【0003】
一般に、白色LEDでは、蛍光体を分散させたシリコーン樹脂やエポキシ樹脂でLEDチップを被覆するなどの方法により蛍光体をチップ近傍に分散させて青色光を擬似白色光に変換させている。しかし蛍光体の樹脂層中での分散が不均一であったり、偏りがあったりすると色ずれが起こりやすいため、均一な白色光を作り出すには蛍光体を被覆樹脂層中に均一に分散させることが必要である。そのために、スクリーン印刷や、蛍光体を沈降させることにより被覆樹脂層の下層近傍に均一分散させる方法等が検討されているが、製造工程が複雑化したり、得られる安定化の程度が不十分であったりする問題があった。したがって、蛍光体をチップ表面近傍に容易に均一分散させることができる技術求められている。その解決策として波長変換シートが実用化されているが従来の波長変換シートは蛍光体の含有量が少なかったため変換効率が不十分であった。
【0004】
また、LED等においては、LED素子を被覆する樹脂層には高い耐熱性、耐紫外線性等も求められる。さらに、従来の製造装置でかかる樹脂層を形成することができると好都合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−524737
【特許文献2】特開2010−202801号公報
【特許文献3】特開2009−235368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、LED素子表面近傍に容易に蛍光体を高充填且つ均一分散させることができる蛍光体高充填波長変換シートを提供することにある。
また、本発明の別の課題は、当該シートを用いて安定した均一な白色光や昼光色を与える発光装置の製造方法及び発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決する手段として、第一に、
樹脂成分100質量部と、球形度0.7〜1.0である粒子の割合が全粒子の60%以上である粒子状蛍光体100〜2000質量部とを含有し、未硬化状態において常温で可塑性固体もしくは半固体の状態である熱硬化性樹脂組成物からなる層を含み、
前記蛍光体の平均粒径が前記熱硬化性樹脂組成物からなる層の厚みの60%以下であり、かつ、前記蛍光体の最大粒径が前記熱硬化性樹脂組成物からなる層の厚みの90%以下である、
蛍光体高充填波長変換シートを提供する。
【0008】
本発明は第二に、
LED素子の表面に、上記の波長変換シートを配置し、該シートを加熱して硬化させることにより蛍光体含有硬化樹脂層で該LED素子を被覆することを含む、被覆LED素子を有する発光光半導体装置の製造方法を提供する。
【0009】
本発明は第三に、
上記の製造方法により得られる被覆LED素子を有する発光光半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂シートは未硬化状態で固体又は半固体であるので、取り扱い易く作業性が良好であるため、LEDチップ表面に容易に積層させ接着することができる。また、未硬化状態で固体又は半固体であるので、充填された蛍光体が保管中に分離沈降を起こさず、蛍光体が均一に分散した樹脂層を安定して形成することができる。従来、蛍光体含有する熱硬化性樹脂シートをLED素子上に貼り付け、硬化させた後、更に透明樹脂を注型し封止する。熱硬化性樹脂シートは通常のダイボンドマウンター等のマウント装置でも容易にLEDチップ表面に積層、接着させることができる。そして、こうして積層した組成物シートを硬化させることで、蛍光体が均一に分散した硬化樹脂層を均一な層厚で効率よく安定に形成することができる。また、得られる蛍光体樹脂層では蛍光体が均一に分散しているので色ずれは起こり難く、演色性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の波長変換シートについて詳しく説明する。以下の記載において、Meはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基、そしてViはビニル基を示す。
【0012】
1.蛍光体高充填波長変換シート
本発明の波長変換シートは、樹脂成分100質量部と、粒子状蛍光体100〜2000質量部とを含有し、未硬化状態において常温で可塑性の固体もしくは半固体の状態である熱硬化性樹脂組成物からなる層を含む。ここで、「常温」とは通常の状態における周囲温度を意味し、通常15〜30℃の範囲の温度であり、典型的には25℃である。「半固体」とは可塑性を有し、特定の形状に成形されたときに少なくとも1時間、好ましくは8時間以上その形状を保持し得る物質の状態を云う。したがって、例えば、常温で非常に高い粘度を有する流動性物質が本質的には流動性を有するものの、非常に高い粘度のために少なくとも1時間という短時間では付与された形状に変化(即ち、くずれ)を肉眼では認めることができないとき、その物質は半固体の状態にある。
【0013】
上記の熱硬化性樹脂組成物は常温においてそのような可塑性の固体又は半固体の状態であるが、加熱により約50℃以上の温度で硬化し始めるが、現象としては加熱を受けてまず軟化し、固体状態の場合は僅かに流動性を示す状態になり、半固体状態の場合は僅かに流動性が高まった状態になる。その後に粘度が再上昇し固体化(硬化)へ向かう。
【0014】
<熱硬化性樹脂組成物>
本発明の波長変換シートを構成する層は熱硬化性樹脂組成物からなる。該組成物は樹脂成分と蛍光体を含有する。
【0015】
a.樹脂成分:
本発明に使用する熱硬化性樹脂組成物としては、熱硬化性エポキシ樹脂組成物、熱硬化性シリコーン樹脂、及びシリコーン樹脂とエポキシ樹脂を樹脂成分として含む熱硬化性混成樹脂組成物が例示される。樹脂成分の種類はこれら組成物の種類ごとに異なるが、樹脂成分100質量部当たり粒子状蛍光体は100〜2000質量部の範囲で配合される。
【0016】
・熱硬化性エポキシ樹脂組成物:
熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、通常、エポキシ樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を含む。この種の組成物の場合には、エポキシ樹脂と硬化剤が樹脂成分を構成する。
・・エポキシ樹脂:
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、イソシアヌル酸骨格を持つエポキシ樹脂等が挙げられる。
・・硬化剤:
硬化剤としては酸無水物、各種フェノール樹脂、各種アミン化合物などを使用することが出来る。
・・硬化促進剤:
硬化促進剤としては、例えば4級ホスホニウム塩、有機ホスフィン、三級アミン化合物、イミダゾール類などが挙げられる。
【0017】
なかでも、エポキシ樹脂組成物としては、トリアジン誘導体エポキシ樹脂、酸無水物、及び硬化促進剤を含む熱硬化性樹脂エポキシ樹脂組成物が耐熱性や耐光性が優れていることから特に望ましい。
また耐光耐熱性に優れる脂環式エポキシやイソシアヌル酸骨格を持つエポキシ樹脂と酸無水物を含む組成物であって、50〜100℃程度の温度で反応させてBステージ化したものに蛍光体を高充填したものも好適である。
【0018】
・熱硬化性シリコーン樹脂組成物:
熱硬化性シリコーン樹脂組成物としては、特にアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン及びヒドロシリル化触媒を含有する付加硬化型シリコーン樹脂組成物、アルコキシシリル基及び/またはヒドロキシシリル基含有オルガノポリシロキサンと縮合触媒を含有する縮合硬化型シリコーン樹脂組成物等を使用することができる。付加硬化型シリコーン樹脂組成物の場合には、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンが樹脂成分を構成する。
【0019】
該付加硬化型シリコーン樹脂組成物の代表的で好ましいものとして次の組成物が挙げられる。
(A)実質的にR1SiO1.5単位、R22SiO単位、及びR3a4bSiO(4-a-b)/2単位からなり(ここで、R1、R2、及びR3は独立にメチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を示し、R4はビニル基又はアリル基を示し、aは0、1又は2で、bは1又は2で、かつa+bは2又は3である。)、
上記R22SiO単位の少なくとも一部が連続して繰り返してなり、その繰り返し数が5〜300個である構造を含む樹脂構造のオルガノポリシロキサン、
(B)実質的にR1SiO1.5単位、R22SiO単位、及びR3cdSiO(4-c-d)/2単位からなり(ここで、R1、R2及びR3は独立に上記の通りであり、cは0、1又は2で、dは1又は2で、かつc+dは2又は3である。)、
上記R22SiO単位の少なくとも一部が連続して繰り返してなり、その繰り返し数が5〜300個である構造を含む樹脂構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のビニル基又はアリル基に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子がモル比で0.1〜4.0となる量、
(C)白金族金属系触媒:硬化有効量
からなる組成物。
【0020】
上記の熱硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化して得られる硬化物層は硬質樹脂でありながら可撓性に優れ、表面のタックが少なく、しかも従来の成型装置でも容易に成型可能であるという利点がある。該シリコーン樹脂組成物は
上記したシリコーン樹脂やエポキシ樹脂に充填する蛍光体は、全体の60%以上の蛍光体の粒子形状が球形度0.7〜1.0であって、蛍光体の最大粒径がフィルム厚みの90%以下のものである。蛍光体高充填熱硬化性樹脂シートは一種類以上の蛍光体を含み、その含有量が硬化性樹脂100質量部に対し合計100〜2000質量部であるような、未硬化状態において常温で可塑性固体もしくは半固体の状態のものである。
本発明はLED素子の表面に、上記の蛍光体含有熱硬化樹脂層からなる熱硬化性樹脂シートを配置し、該樹脂シートを加熱硬化させて前記LED素子表面を被覆する工程を含む発光装置の製造方法を提供する。
更に、上記の製造方法により得られる少なくとも蛍光体含有樹脂層で被覆したLED素子を有する発光装置を提供する。
【0021】
上記の熱硬化性シリコーン樹脂組成物の成分を順を追って説明する。
−(A)樹脂構造のオルガノポリシロキサン−
本発明組成物の重要な(A)成分である樹脂構造(即ち、三次元網状構造)のオルガノポリシロキサンは、R1SiO1.5単位、R22SiO単位、及びR3a4bSiO(4-a-b)/2単位からなり(ここで、R1、R2、及びR3はメチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を示し、R4はビニル基又はアリル基を示し、aは0、1又は2で、bは1又は2で、かつa+bは2又は3である。)、
上記R22SiO単位の少なくとも一部が連続して繰り返してなり、その繰り返し数が5〜300個、好ましくは10〜300個、より好ましくは15〜200個、更に好ましくは20〜100個である構造を部分的に含有する樹脂構造のオルガノポリシロキサンである。
【0022】
なお、上記のR22SiO単位の少なくとも一部が連続して繰り返してなり、その繰り返し数が5〜300個である構造とは、一般式(1):
【0023】
【化1】

【0024】
(ここで、mは5〜300の整数)
で表される直鎖状ジオルガノポリシロキサン連鎖構造を意味する。
【0025】
(A)成分のオルガノポリシロキサン中に存在するR22SiO単位全体の少なくとも一部、好ましくは50モル%以上(50〜100モル%)、特には80モル%以上(80〜100モル%)が、分子中でかかる一般式(1)で表される連鎖構造を形成していることが好ましい。
【0026】
(A)成分の分子中においては、R22SiO単位はポリマー分子を直鎖状に延伸するように働き、R1SiO1.5単位はポリマー分子を分岐させ或いは三次元網状化させる。R3a4bSiO(4-a-b)/2単位の中のR4(ビニル基又はアリル基)は、後述する(B)成分が有するR3cdSiO(4-c-d)/2単位のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)とヒドロシリル化付加反応することにより本発明の組成物を硬化させる役割を果たす。
【0027】
(A)成分を構成する必須の三種のシロキサン単位のモル比、即ち、R1SiO1.5単位:R22SiO単位:R3a4bSiO(4-a-b)/2単位のモル比は、90〜24:75〜9:50〜1、特に70〜28:70〜20:10〜2(但し、合計で100)であることが得られる硬化物の特性上好ましい。
【0028】
また、この(A)成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量は3,000〜1,000,000、特に10,000〜100,000の範囲にあると、該ポリマーは可塑性固体もしくは半固体の状態であり作業性、硬化性などから好適である。
【0029】
このような樹脂構造のオルガノポリシロキサンは、各単位の原料となる化合物を、生成ポリマー中で上記三種のシロキサン単位が所要のモル比となるように組み合わせ、例えば酸の存在下で共加水分解縮合を行うことによって合成することができる。
【0030】
ここで、R1SiO1.5単位の原料としては、MeSiCl3、EtSiCl3、PhSiCl3、プロピルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン等のクロロシラン類、これらそれぞれのクロロシラン類に対応するメトキシシラン類などのアルコキシシラン類などを例示できる。
【0031】
22SiO単位の原料としては、
ClMe2SiO(Me2SiO)SiMe2Cl、
ClMe2SiO(Me2SiO)(PhMeSiO)nSiMe2Cl、
ClMe2SiO(Me2SiO)(Ph2SiO)nSiMe2Cl、
HOMe2SiO(Me2SiO)SiMe2OH、
HOMe2SiO(Me2SiO)(PhMeSiO)nSiMe2OH、
HOMe2SiO(Me2SiO)(Ph2SiO)nSiMe2OH、
MeOMe2SiO(Me2SiO)SiMe2OMe、
MeOMe2SiO(Me2SiO)(PhMeSiO)nSiMe2OMe、
MeOMe2SiO(Me2SiO)(Ph2SiO)nSiMe2OMe
(ここで、m=5〜150の整数(平均値)、n=5〜300の整数(平均値))
等を例示することができる。
【0032】
また、R3a4bSiO(4-a-b)/2単位は、R34SiO単位、R324SiO0.5単位、R42SiO単位、及びR342SiO0.5単位から選ばれる1種のシロキサン単位又は2種以上のシロキサン単位の組み合わせであることを示す。その原料としては、Me2ViSiCl、MeViSiCl2、Ph2ViSiCl、PhViSiCl2等のクロロシラン類、これらのクロロシランのそれぞれに対応するメトキシシラン類等のアルコキシシラン類などを例示することができる。
【0033】
なお、本発明において、(A)成分のオルガノポリシロキサンが「実質的にR1SiO1.5単位、R22SiO単位、及びR3a4bSiO(4-a-b)/2単位からなり」とは(A)成分を構成するシロキサン単位の90モル%以上(90〜100モル%)、特には95モル%以上(95〜100モル%)がこれら3種のシロキサン単位であって、0〜10モル%、特には0〜5モル%がその他のシロキサン単位であってもよいことを意味する。具体的には、(A)成分のオルガノポリシロキサンを上記の原料化合物の共加水分解及び縮合により製造する際には、R1SiO1.5単位、R22SiO単位及び/又はR3a4bSiO(4-a-b)/2単位の他に、シラノール基を有するシロキサン単位が副生することがある。(A)成分のオルガノポリシロキサンは、かかるシラノール基含有シロキサン単位を、通常、全シロキサン単位に対して10モル%以下(0〜10モル%)、好ましくは5モル%以下(0〜5モル%)程度含有するものであってもよい。上記シラノール基含有シロキサン単位としては、例えば、R1(HO)SiO単位、R1(HO)2SiO0.5単位、R22(HO)SiO0.5単位、R3a4b(HO)SiO(3-a-b)/2単位、R3a4b(HO)2SiO(2-a-b)/2単位(ここで、R1〜R4、a及びbは前記の通りである)が挙げられる。
【0034】
−(B)樹脂構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン−
本発明組成物の重要な(B)成分である樹脂構造(即ち、三次元網状構造)のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、実質的にR1SiO1.5単位、R22SiO単位、及びR3cdSiO(4-c-d)/2単位からなり(ここで、R1、R2、R3は上記の通りであり、cは0,1又は2で、dは1又は2で、かつc+dは2又は3である)、
上記R22SiO単位の少なくとも一部が連続して繰り返してなり、その繰り返し数が5〜300個、好ましくは10〜300個、より好ましくは15〜200個、更に好ましくは20〜100個である直鎖状のシロキサン構造を部分的に含有する樹脂構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【0035】
なお、R22SiO単位の少なくとも一部が連続して繰り返してなり、その繰り返し数が5〜300個である構造とは、(A)成分に関して上述した通り、(B)成分中に存在するR22SiO単位の少なくとも一部、好ましくは50モル%以上(50〜100モル%)、特には80モル%以上(80〜100モル%)が、(B)成分の分子中で、前記一般式(1)で表される直鎖状ジオルガノポリシロキサン連鎖構造を形成していることを意味する。
【0036】
(B)成分の分子中においても、R22SiO単位はポリマー分子を直鎖状に延伸するように働き、R1SiO1.5単位はポリマー分子を分岐させ或いは三次元網状化させる。R3cdSiO(4-c-d)/2単位の中のケイ素に結合した水素原子は、上述した(A)成分が有するアルケニル基とヒドロシリル化付加反応することにより本発明の組成物を硬化させる役割を果たす。
【0037】
(B)成分を構成する必須の三種のシロキサン単位のモル比、即ち、R1SiO1.5単位:R22SiO単位:R3cdSiO(4-c-d)/2単位のモル比は、90〜24:75〜9:50〜1、特に70〜28:70〜20:10〜2(但し、合計で100)であることが得られる硬化物の特性上好ましい。
【0038】
また、この(B)成分のGPCによるポリスチレン換算重量平均分子量は3,000〜1,000,000、特に10,000〜100,000の範囲にあるものが作業性、硬化物の特性などの点から好適である。
【0039】
このような樹脂構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、各単位の原料となる化合物を、生成ポリマー中で上記三種のシロキサン単位が所要のモル比となるように組み合わせ、共加水分解を行うことによって合成することができる。
【0040】
ここで、R1SiO1.5単位の原料としては、MeSiCl3、EtSiCl3、PhSiCl3、プロピルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシランや、それぞれのクロロシランに対応するメトキシシランなどのアルコキシシラン等が例示できる。
【0041】
22SiO単位の原料としては、
ClMe2SiO(Me2SiO)nSiMe2Cl、
ClMe2SiO(Me2SiO)m(PhMeSiO)nSiMe2Cl、
ClMe2SiO(Me2SiO)m(Ph2SiO)nSiMe2Cl、
HOMe2SiO(Me2SiO)nSiMe2OH、
HOMe2SiO(Me2SiO)m(PhMeSiO)nSiMe2OH、
HOMe2SiO(Me2SiO)m(Ph2SiO)nSiMe2OH、
MeOMe2SiO(Me2SiO)nSiMe2OMe、
MeOMe2SiO(Me2SiO)m(PhMeSiO)nSiMe2OMe、
MeOMe2SiO(Me2SiO)m(Ph2SiO)nSiMe2OMe
(ここで、m=5〜150の整数(平均値)、n=5〜300の整数(平均値))
等を例示することができる。
【0042】
また、R3cdSiO(4-c-d)/2単位は、R3HSiO単位、R32HSiO0.5単位、H2SiO単位、R32SiO0.5単位から選ばれる1種又は2種以上のシロキサン単位の任意の組み合わせであることを示し、その原料としては、Me2HSiCl、MeHSiCl2、Ph2HSiCl、PhHSiCl2等のクロロシラン類、これらのクロロシラン類に対応するメトキシシラン類などのアルコキシシラン類などを例示することができる。
【0043】
なお、本発明において、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが「実質的にR1SiO1.5単位、R22SiO単位、及びR3cdSiO(4-c-d)/2単位からなり」とは(B)成分を構成するシロキサン単位の90モル%以上(90〜100モル%)、特には95モル%以上(95〜100モル%)がこれら3種のシロキサン単位であって、0〜10モル%、特には0〜5モル%がその他のシロキサン単位であってもよいことを意味する。具体的には、(B)成分のオルガノポリシロキサンを上記の原料化合物の共加水分解及び縮合により製造する際には、R1SiO1.5単位、R22SiO単位、及びR3cdSiO(4-c-d)/2単位の他に、シラノール基を有するシロキサン単位が副生することがある。(B)成分のオルガノポリシロキサンは、かかるシラノール基含有シロキサン単位を、通常、全シロキサン単位に対して10モル%以下(0〜10モル%)、好ましくは5モル%以下(0〜5モル%)程度含有するものであってもよい。上記シラノール基含有シロキサン単位としては、例えば、R1(HO)SiO単位、R1(HO)2SiO0.5単位、R22(HO)SiO0.5単位、R3cd(HO)SiO(3-c-d)/2単位、R3cd(HO)2SiO(2-c-d)/2単位(ここで、R〜R、c及びdは前記の通りである)が挙げられる。
【0044】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分中のビニル基及びアリル基の合計量に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)のモル比で0.1〜4.0となる量、特に好ましくは0.5〜3.0、更に好ましくは0.8〜2.0となる量であることが好ましい。0.1未満では硬化反応が進行せず、シリコーン硬化物を得ることが困難であり、4.0を超えると未反応のSiH基が硬化物中に多量に残存するため、硬化物の物性が経時的に変化する原因となるため好ましくない。
【0045】
−(C)白金族金属系触媒−
この触媒成分は、本発明の組成物の付加硬化反応を促進させるために配合されるものであり、白金系、パラジウム系、ロジウム系のものがある。コスト等の見地から白金、白金黒、塩化白金酸などの白金系のもの、例えば、H2PtCl6・mH2O,K2PtCl6,KHPtCl6・mH2O,K2PtCl4,K2PtCl4・mH2O,PtO2・mH2O,(mは、正の整数)等や、これらと、オレフィン等の炭化水素、アルコール又はビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体等を例示することができる。これらの触媒は一種単独でも、2種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0046】
(C)成分の配合量は、硬化のための有効量でよく、通常、前記(A)及び(B)成分の合計量に対して白金族金属として質量換算で0.1〜500ppm、特に好ましくは0.5〜100ppmの範囲で使用される。
【0047】
−その他の配合剤−
本発明に用いられる熱硬化性樹脂組成物には、上述した成分以外にも、必要に応じて、それ自体公知の各種の添加剤を配合することができる。
【0048】
・・接着助剤:
また、本発明の組成物には、接着性を付与するため、接着助剤を必要に応じて添加できる。接着助剤としては、シリコーン系なら例えば、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)、ケイ素原子に結合したアルケニル基(例えばSi−CH=CH2基)、アルコキシシリル基(例えばトリメトキシシリル基)、エポキシ基(例えばグリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基)から選ばれる官能性基を少なくとも2種、好ましくは2種又は3種含有する直鎖状又は環状のケイ素原子数4〜50個、好ましくは4〜20個程度のオルガノシロキサンオリゴマー、下記一般式(2)で示されるオルガノオキシシリル変性イソシアヌレート化合物及び/又はその加水分解縮合物(オルガノシロキサン変性イソシアヌレート化合物)などが挙げられる。
【0049】
【化2】

【0050】
〔式中、R19は、下記式(3)
【0051】
【化3】

【0052】
(ここで、R20は水素原子又は炭素原子数1〜6の一価炭化水素基であり、sは1〜6、特に1〜4の整数である。)
で表される有機基、又は脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基であるが、R19の少なくとも1個は式(3)の有機基である。〕
【0053】
一般式(2)におけるR19の脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の炭素原子数2〜8、特に2〜6のアルケニル基、シクロヘキセニル基等の炭素原子数6〜8のシクロアルケニル基などが挙げられる。また、式(3)におけるR20の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、上記R19について例示したアルケニル基及びシクロアルケニル基、さらにフェニル基等のアリール基などの炭素原子数1〜8、特に1〜6の一価炭化水素基が挙げられ、好ましくはアルキル基である。
【0054】
さらに、接着助剤としては、1,5−グリシドキシプロピル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1−グリシドキシプロピル−5−トリメトキシシリルエチル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン等、並びに、下記式に示される化合物が例示される。
【0055】
【化4】

【0056】
(式中、g及びhは各々0〜50の範囲の正の整数であって、しかもg+hが2〜50、好ましくは4〜20を満足するものである。)
【0057】
【化5】

【0058】
【化6】

【0059】
上記の有機ケイ素化合物のうち、得られる硬化物に特に良好な接着性をもたらす化合物としては、一分子中にケイ素原子結合アルコキシ基と、アルケニル基もしくはケイ素原子結合水素原子(SiH基)とを有する有機ケイ素化合物である。
【0060】
上述した接着助剤の中でも、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性アルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ官能性アルコキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性アルコキシシランなどを用いることが好ましい。
【0061】
接着助剤の配合量は、(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対して、通常10質量部以下(即ち、0〜10質量部)、好ましくは0.1〜8質量部、より好ましくは0.2〜5質量部程度配合することができる。多すぎると硬化物の硬度に悪影響を及ぼしたり表面タック性を高めたりする恐れがある。
【0062】
・・硬化抑制剤:
本発明に用いられる熱硬化性シリコーン樹脂組成物が付加硬化型シリコーン樹脂組成物である場合には、必要に応じて適宜硬化抑制剤を配合することができる。硬化抑制剤としては、例えば、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンのようなビニル基高含有オルガノポリシロキサン、トリアリルイソシアヌレート、アルキルマレエート、アセチレンアルコール類及びそのシラン変性物及びシロキサン変性物、ハイドロパーオキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール及びこれらの混合物からなる群から選ばれる化合物等が挙げられる。硬化抑制剤は樹脂成分100質量部当り通常0.001〜1.0質量部、好ましくは0.005〜0.5質量部添加される。
等が挙げられる。
【0063】
・熱硬化性エポキシ・シリコーン混成樹脂組成物
熱硬化性エポキシ・シリコーン混成樹脂組成物とは、樹脂成分として、エポキシ樹脂とシリコーン樹脂とが化学的に結合したハイブリッド樹脂を含む組成物である(例えば、特開2011−74359号公報)。これらの樹脂組成物は、硬化により相互貫入ポリマーネットワーク(IPN)を形成する。このIPNは化学結合によって相互に連結したこれら2つの樹脂材料に由来しており、それゆえにIPN構造の形成なしに作られた単なる2つの配合物と比較して優れた性質(耐磨耗性、靭性など)を提供するものである。
エポキシ・シリコーン混成樹脂は、特に耐光耐熱に優れる脂環式エポキシ、イソシアヌル酸骨格を持つエポキシ樹脂を酸無水物などの硬化剤を用い、50〜100℃程度の温度で反応させBステージ化した後、蛍光体を混合してシート化したものが好適である。
【0064】
b.蛍光体
蛍光体は、公知の蛍光体であればいずれのものであってもよい。例えば、窒化物系半導体を発光層とする半導体発光ダイオードからの光を吸収し異なる波長の光に波長変換するものであればよい。例えば、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される窒化物系蛍光体・酸窒化物系蛍光体、Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に賦活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類ケイ酸塩蛍光体、アルカリ土類硫化物蛍光体、アルカリ土類チオガレート蛍光体、アルカリ土類窒化ケイ素蛍光体、ゲルマン酸塩蛍光体、又は、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される希土類アルミン酸塩蛍光体、希土類ケイ酸塩蛍光体又はEu等のランタノイド系元素で主に賦活される有機及び有機錯体蛍光体、Ca−Al−Si−O−N系オキシ窒化物ガラス蛍光体等から選ばれる少なくともいずれか1以上であることが好ましい。具体例として、下記の蛍光体を使用することができるが、これに限定されない。
【0065】
Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される窒化物系蛍光体は、MSi:Eu(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種である。)などがある。また、MSi:EuのほかMSi10:Eu、M1.8Si0.2:Eu、M0.9Si0.110:Eu(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種である。)などもある。
【0066】
Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される酸窒化物系蛍光体は、MSi:Eu(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種である。)などがある。
【0067】
Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に賦活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体には、M(POX:R(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種である。Xは、F、Cl、Br、Iから選ばれる少なくとも1種である。Rは、Eu、Mn、EuとMn、のいずれか1種以上である。)などがある。
【0068】
アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体には、MX:R(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種である。Xは、F、Cl、Br、Iから選ばれる少なくとも1種である。Rは、Eu、Mn、EuとMn、のいずれか1以上である。)などがある。
【0069】
アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体には、SrAl:R、SrAl1425:R、CaAl:R、BaMgAl1627:R、BaMgAl1612:R、BaMgAl1017:R(Rは、Eu、Mn、EuとMn、のいずれか1種以上である。)などがある。
【0070】
アルカリ土類硫化物蛍光体には、LaS:Eu、YS:Eu、GdS:Euなどがある。
【0071】
Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される希土類アルミン酸塩蛍光体には、YAl12:Ce、(Y0.8Gd0.2Al12:Ce、Y(Al0.8Ga0.212:Ce、(Y,Gd)(Al,Ga)12の組成式で表されるYAG系蛍光体などがある。また、Yの一部若しくは全部をTb、Lu等で置換したTbAl12:Ce、LuAl12:Ceなどもある。
【0072】
その他の蛍光体には、ZnS:Eu、ZnGeO:Mn、MGa:Eu(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種である。Xは、F、Cl、Br、Iから選ばれる少なくとも1種である。)などがある。
【0073】
上述の蛍光体は、所望に応じてEuに代えて、又は、Euに加えてTb、Cu、Ag、Au、Cr、Nd、Dy、Co、Ni、Tiから選択される1種以上を含有させることもできる。
【0074】
Ca−Al−Si−O−N系オキシ窒化物ガラス蛍光体とは、モル%表示で、CaCO をCaOに換算して20〜50モル%、Alを0〜30モル%、SiOを25〜60モル%、AlNを5〜50モル%、希土類酸化物または遷移金属酸化物を0.1〜20モル%とし、5成分の合計が100モル%となるオキシ窒化物ガラスを母体材料とした蛍光体である。尚、オキシ窒化物ガラスを母体材料とした蛍光体では、窒素含有量が15wt%以下であることが好ましく、希土類酸化物イオンの他に増感剤となる他の希土類元素イオンを希土類酸化物として蛍光ガラス中に0.1〜10モル%の範囲の含有量で共賦活剤として含むことが好ましい。
【0075】
また、上記蛍光体以外の蛍光体であって、同様の性能、効果を有する蛍光体も使用することができる。
【0076】
蛍光体を樹脂組成物中に高充填しても未硬化の波長変換シートが適度な引張強さと弾性を有していることが、LED素子表面への貼りつけ工程で必要である。そのため、その粒子の球形度が0.7〜1.0の範囲にあるものが全粒子の60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。かつ、また、同じ理由で、蛍光体の平均粒径はシート厚みの60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、20〜50%であることがさらに好ましい。ここで、「球形度」とは、SEM観察における粉体粒子の最長径に対する最短径の比率により測定した値である。
また、「平均粒径」とは、レーザー光回折法による粒度分布測定装置における累積重量平均値D50(又はメジアン値)として求めた値である。
【0077】
蛍光体の形状は、蛍光体を破砕した破砕状のもの、結晶成長の条件を制御して製造した角が取れた球状に近いもの、更には造粒や溶射などにより製造した球状のものなど種々のものがある。なかでも本発明に効果的な蛍光体は上述のように粒子の球形度が0.7〜1.0のものである。破砕状のものでも球形度の高い蛍光体を混合することで高充填化が可能となる。
【0078】
粒径は、例えば、シーラスレーザー測定装置などのレーザー光回折法による粒度分布測定することができる。使用可能な蛍光体の粒径の範囲としてはサブμmの粒子〜シート厚みの90%レベルの粒子を含んだものである。なかでも、粒度分布に少なくとも2個以上のピークを持ったものが望ましい。2個以上のピークを有する粒度分布とするためには、2種類以上の粒度の蛍光体を混合しても、直接蛍光体製造時に2個以上のピークを持ったものを製造してもよい。
【0079】
また、蛍光体粒子の最大粒径は、本発明の波長変換シート中の熱硬化性樹脂組成物層の厚みの90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70〜30%の範囲がさらに好ましい。蛍光体粒子の最大粒径が大きすぎると、該シート中の蛍光体の分布が不均一になるやすくなるため望ましくない。
【0080】
本発明に用いられる熱硬化性樹脂組成物において、蛍光体の含有量は樹脂成分100質量部に対し100〜2000質量部であり、好ましくは100質量部を超え、2000質量部以下であり、より好ましくは200〜1800質量部であり、さらに好ましくは200〜1600質量部である。
【0081】
c.その他の成分
・・無機充填剤:
例えば、ヒュームドシリカ、ヒュームド二酸化チタン、ヒュームドアルミナ等の補強性無機充填剤、溶融シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、酸化亜鉛等の非補強性無機充填剤等を挙げることができる。これらの無機充填剤は、合計で、(A)及び(B)成分の合計量100質量部当り600質量部以下(0〜600質量部)の範囲で適宜配合することができる。
【0082】
d.性状
本発明に用いられる熱硬化性樹脂組成物、ひいては該組成物からなり、波長変換シートを構成する組成物層は未硬化状態において常温で可塑性固体もしくは半固体の状態である。よって本発明の波長変換シートは加熱することで容易に軟化する。そのために金線などに損傷を与えることなく狭い空間にも入り込むことができ、その後の硬化により十分な被覆、封止を達成する。
【0083】
e.調製
本発明の蛍光体高充填波長変換シートは、まず、前述した樹脂成分、蛍光体、及びその他の所要の成分を均一に混合することによって熱硬化性樹脂組成物を調製する。その場合に、組成物がエポキシ樹脂組成物であるか、シリコーン樹脂組成物であるか、混成樹脂であるかにより公知の必要かつ適切な措置がとられる。例えば、付加硬化型シリコーン樹脂組成物の場合には、蛍光体以外の成分を含む組成物を調製又は用意し、この組成物と蛍光体を溶剤に溶解しボールミル等の混合機を用い均一に混合してもよい。なお、公知のように、硬化が進行しないように諸成分を2液に分けて保存し、使用時に2液を混合して次工程に供されてもよいし、前述したアセチレンアルコール等の硬化抑制剤を少量添加して1液として用いることもできる。
【0084】
本発明のシリコーン波長変換シートを製造するには、例えば、上記のように用意した熱硬化性シリコーン樹脂組成物を剥離フィルム上にフィルムコータや熱プレス機でシート状に加工する。該シートの厚みは、通常10〜100μm、好ましくは20〜100μmである。薄すぎると蛍光体が均一に分散した、厚みが一定のシートが作りづらく、また厚すぎると蛍光体の濃度低下によって波長変換効率が低下する恐れがある。こうして製造した波長変換シートは通常冷凍して保存する。
【0085】
2.発光半導体装置の製造方法
本発明の波長変換シートを用いてLED素子を封止し、発光半導体装置を製造する方法を、熱硬化性樹脂組成物がシリコーン樹脂組成物である場合を例に説明するが、他の熱硬化性樹脂組成物の場合も同様である。
【0086】
例えば、外部接続端子を有するセラミックス製基板上に青色LEDを樹脂ダイボンド材で接合した後、外部接続端子とLED素子とを金線を使用し接続する。この形式のLED装置を封止するには本発明の蛍光体含有シリコーン樹脂波長変換シートをLED搭載基板全体が被覆できるように貼付し、加熱してLED素子全体を硬化する。
【0087】
本発明のシリコーン樹脂波長変換シートは加熱することで容易に軟化し一旦粘度が僅かに低下することから、金線上に貼付しても金線にダメージを与えることなく被覆を遂行でき、その後硬化することができる。通常、この方式で封止した多数のLED素子を搭載した基板上の波長変換樹脂層を、次に透明な熱硬化性シリコーン樹脂で注型や成形によって封止被覆し、硬化する。その後にダイシングし個片化する。外部端子との接続が金線の変わりに金バンプなどで接合するタイプのLED装置においても金線接続の場合同様に封止することができる。
【0088】
また、リフレクター内に搭載されたLED素子の場合は蛍光体含有シリコーン樹脂波長変換シートをLED素子と外部接続端子と接続した金線が被覆されるように貼付し、加熱し硬化させる。その後、透明なシリコーン樹脂をリフレクターに注入し、硬化させることで発光半導体装置を製造することが出来る。
本発明による発光半導体装置は、従来の蛍光体を含有する注型用シリコーン樹脂を流し込んで、蛍光体を沈降させ硬化させる方式に比べ色ずれもなく、均一な白色光を効率よく生産できる。
【0089】
フリップチップ形式で基板とLED素子を接合する場合は、あらかじめLED素子と基板を金バンプなどで接合した後、シリカなどを含有するシリコーン樹脂やエポキシ樹脂からなるアンダーフィル材を注入し、硬化させバンプと素子の保護を行う。その後、蛍光体含有シリコーン樹脂波長変換シートをLED素子表面に貼付し、加熱することで波長変換シートを硬化させ、蛍光体分散波長変換層を形成する。波長変換シートの蛍光体含有量や厚みで波長変換後の光の色合いや封止形状を制御することができる。
【0090】
なお、波長変換シートのLED素子上への圧着は、通常、常温〜300℃で、10MPa以下(通常0.01〜10のMPa)加圧下で行うことができ、好ましくは5MPa以下(例えば0.1〜5MPa)、特には0.5〜5MPaである。
【0091】
本発明の波長変換シートは、前述したように、未硬化状態で可塑性固体又は半固体の状態であるが、該未硬化状態はAステージ(未反応)状態でもBステージ状態でもよい。該波長変換シートは50℃以上の温度で硬化し始めるが、現象的には固化する前に一旦僅かに軟化する。そのため、金線で接続されているようなLEDも金線を変形させることなく封止することができる。
Aステージ(未反応状態)では加熱時の粘度が低くなりすぎる場合、あらかじめ50℃〜100℃の温度雰囲気下で希望する粘度になるまで放置し、反応を進めることができる。これは本発明の範囲内で自由に選択できる内容である。
【0092】
波長変換シートの硬化は、通常50〜200℃、特に70〜180℃で1〜30分、特に2〜10分である。また、50〜200℃、特に70〜180℃で0.1〜10時間、特に1〜4時間のポストキュアを行うことができる。
【0093】
以下、合成例及び実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例で粘度は25℃の値である。また、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値である。Phはフェニル基、Meはメチル基、Viはビニル基を示す。
【0094】
[合成例1]
−ビニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂(A1)−
PhSiCl3で示されるオルガノシラン:27mol、ClMe2SiO(Me2SiO)33SiMe2Cl:1mol、MeViSiCl2:3molをトルエン溶媒に溶解後、水中に滴下し、共加水分解し、更に水洗、アルカリ洗浄にて中和、脱水後、溶剤をストリップし、ビニル基含有樹脂(A1)を合成した。この樹脂は、構成するシロキサン単位及び[-SiMe2O-(Me2SiO)13-SiMe22/2]で表される構造の構成比が式:[PhSiO3/2]0.27[-SiMe2O-(Me2SiO)33-SiMe22/2] 0.01[MeViSiO2/2] 0.03で示される。この樹脂の重量平均分子量は62,000、融点は60℃であった。
【0095】
[合成例2]
−ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサン樹脂(B1)−
PhSiCl3で示されるオルガノシラン:27mol、ClMe2SiO(Me2SiO)33SiMe2Cl:1mol、MeHSiCl2:3molをトルエン溶媒に溶解後、水中に滴下し、共加水分解し、更に水洗、アルカリ洗浄にて中和、脱水後、溶剤をストリップし、ヒドロシリル基含有樹脂(B1)を合成した。この樹脂は、構成するシロキサン単位及び[-SiMe2O-(Me2SiO)33-SiMe22/2]で表される構造の構成比が式:[PhSiO3/2]0.27[-SiMe2O-(Me2SiO)33-SiMe22/2] 0.01[MeViSiO2/2] 0.03で示される。この樹脂の重量平均分子量は58,000、融点は58℃であった。
【0096】
[実施例1〜5、比較例1〜3]
各実施例、各比較例において、合成例1のビニル基含有樹脂(A1)、合成例2のヒドロシリル基含有樹脂(B1)、反応抑制剤としてアセチレンアルコール系のエチニルシクロヘキサノール、塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液、蛍光体、および溶剤としてシクロヘキサノンを表1に示した量で配合した。こうして得られた混合物を60℃に加温したプラネタリーミキサーでよく攪拌し、シリコーン樹脂組成物を調製し、常温まで冷却した。いずれの実施例及び比較例の組成物も可塑性の固体状態であった。
【0097】
こうして得た組成物をフィルムコーター(井上金属製)にてフッ素樹脂製ETFEフィルム(ベースフィルム)上に塗布し80℃で5分間乾燥して、厚さ50μmのシートに成形した。その後、ベースフィルムと反対側の樹脂層露出面にフッ素樹脂製ETFEフィルム(カバーフィルム)を貼付して両面がETFEフィルムで保護された波長変換シートを作成した。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
〔実施例7〜8〕
各実施例において、エポキシ樹脂(TEPIC−S)、酸無水物(リカシッドMH)、エポキシ基含有シリコーン樹脂、酸化防止剤(亜燐酸トリフェニル)、及び触媒(2E4MZ)を表3に示される量を計量し、プラネタリーミキサーに入れ、80℃で10時間混合反応させた。得られた反応生成物をメチルエチルケトンに溶解し、表3に示される所量の蛍光体を添加し、混合することで蛍光体含有エポキシ樹脂組成物を得た。いずれの実施例の組成物も可塑性の固体状態であった。使用した材料の詳細は次の通りである。
【0101】
・エポキシ樹脂:トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアネート(商品名:TEPIC−S、日産化学(株)製)
・酸無水物:メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(商品名:リカシッドMH、新日本理化(株)製)
・酸化防止剤:亜燐酸トリフェニル(和光純薬(株)製)
・触媒:2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ:四国化成(株)製)
【0102】
得られた組成物を、それぞれフィルムコーター(井上金属製)にてフッ素樹脂製ETFEフィルム(ベースフィルム)上に塗布し、80℃で5分間乾燥して、厚さ50μmのシートに成形した。その後、ベースフィルムと反対側の樹脂層露出面にフッ素樹脂製ETFEフィルム(カバーフィルム)を貼付して両面がETFEフィルムで保護された波長変換シートを作成した。
【0103】
【表3】

【0104】
実施例1〜8と比較例1〜3で製造した波長変換シートの未硬化状態でのシート特性と150℃で30分硬化させた後のシート特性を調べ、次の基準で評価した。結果を表4に記載した。
【0105】
・未硬化状態の性状:
シートの厚さの均一性、シート内部組織の均一性、表面の滑らかさ等の外観を調べ、いずれについても良好なものを「良好」と評価し、いずれかにおいて欠陥が認められたものはその欠陥を示した。欠陥の有無については、顕微鏡の透過光によって目視観察することで確認した。
・加熱硬化後のシート特性
JIS K 6251に従って、引張強さ、曲げ強さ、及び弾性率を測定した。
【0106】
【表4】

【0107】
〔実施例9〕
(セラミックス基板上のLED素子の封止)
セラミックス基板上にGaN系LED素子をフリップチップ方式で搭載し、シリカを60質量%含有するシリコーンアンダーフィル材で該素子をセラミックス基板に結合した。その後、実施例1、3、5及び比較例1の各々で得られた波長変換シートを剥離フィルム(即ち、ベースフィルム及びカバーフィルム)ごとチップサイズに切断して小片化した。得られたシート片の片面の剥離フィルムを剥がして露出させたシリコーン樹脂面をLEDチップに貼り付けた後、他方の剥離フィルムを除去した。次に、150℃で5分間加熱した。LED素子上でシリコーン樹脂シートが僅かに軟化後硬化し、素子全体を覆う蛍光体含有樹脂層を形成した。更にこれを150℃で60分間加熱して2次硬化させた。こうして蛍光体含有シリコーン樹脂層で被覆されたフリップチップ構造の発光半導体(LED)装置を作製した。LED各3個を発光させて大塚電子製LED光学特性モニタ(商品名:LE−3400)により色度を測定した。
【0108】
〔実施例10〕
(リフレクター内に搭載したLED素子の封止)
実施例1で得られた波長変換シートを用いて、リフレクターに搭載したGaN系LED素子の封止を行うため、剥離フィルムごとチップサイズに切断して小片化した。LED素子はリフレクター内にシリコーン樹脂ダイボンド材で接着、搭載し、LED素子と外部電極とは金線で接合した。
【0109】
得られたフィルム片を蛍光体含有シリコーン樹脂側がLEDチップに接触するようにGaN系LED素子3上に載せた後、剥離フィルムを除去した。次に、150℃で5分間加熱したところ、LED素子上でシリコーン樹脂シートが僅かに軟化した後に素子全体を被覆た状態で硬化し、蛍光体含有樹脂層が形成された。更にこれを150℃で60分間加熱して2次硬化させた。その後、リフレクターに透明封止材(LPS5547:信越化学(株)製)を注型し120℃で30分、更に150℃で1時間硬化させることでフレクター搭載の発光半導体(LED)装置を作製した。LED各3個を発光させてLP−3400により色度を測定した。
【0110】
〔比較例4〕
(リフレクター内に搭載したLED素子の封止)
GaN系LED素子をリフレクター内にシリコーン樹脂ダイボンド材で接着、搭載し、該LED素子と外部電極とは金線で接合した。
【0111】
次に透明封止材(LPS5547:信越化学(株)製)100質量部に、実施例1で使用した蛍光体(YAG−1)を200質量部均一に混合して得た混合物をリフレクター内全体が被覆できる量注入し、60℃で30分、次いで120℃で1時間、更に150℃で1時間加熱して硬化させることで発光半導体装置を作製した。LED各3個を発光させて大塚電子製(LE−3400)により色度を測定した。
【0112】
<評価>
・発光半導体装置内の蛍光体の分散性
蛍光体の発光半導体装置内での分散性を確認するため、実施例10と比較例4で作製したリフレクター内に搭載したLED素子を被覆樹脂層とともにそれぞれ10個切断し、断面から、素子上に形成された樹脂層における蛍光体分散層の厚みを顕微鏡で測定した。
【0113】
その結果、本発明の波長変換シートを使用した実施例10の場合は素子上に蛍光体が均一に分散した層が48〜51μmの厚みで形成されていたのに対し、比較例4の場合は蛍光体の沈降が不十分で素子から上方100μm程度のところから蛍光体が存在し、素子に近づくにつれて蛍光体の密度が徐々に高くなっていた。蛍光体の分散状態としては不均一な状態であった。
【0114】
・色度、輝度の測定
実施例1、3、5、6、10と比較例1、4で作製した発光半導体装置各3個を発光させてLE−3400により色度のバラつき及び輝度を測定した。結果を表5に示した。
【0115】
【表5】

【0116】
本発明の蛍光体高充填シートを用いることで均一な、色ずれのない発光半導体装置を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の波長変換シートはLED素子から発光される光の波長の効率的変換を可能にし、発光半導体装置の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分100質量部と、球形度0.7〜1.0である粒子の割合が全粒子の60%以上である粒子状蛍光体100〜2000質量部とを含有し、未硬化状態において常温で可塑性固体もしくは半固体の状態である熱硬化性樹脂組成物からなる層を含み、
前記蛍光体の平均粒径が前記熱硬化性樹脂組成物からなる層の厚みの60%以下であり、かつ、前記蛍光体の最大粒径が前記熱硬化性樹脂組成物からなる層の厚みの90%以下である、
蛍光体高充填波長変換シート。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂組成物が熱硬化性シリコーン樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂組成物又は熱硬化性シリコーン・エポキシ混成樹脂組成物である請求項1に係る蛍光体高充填波長変換シート。
【請求項3】
熱硬化性樹脂組成物からなる層の厚みが10〜100μmである請求項1又は2に係る蛍光体高充填波長変換シート。
【請求項4】
LED素子の表面に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の波長変換シートを配置し、該シートを加熱して硬化させることにより蛍光体含有硬化樹脂層で該LED素子を被覆することを含む、被覆LED素子を有する発光光半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法により得られる被覆LED素子を有する発光光半導体装置。

【公開番号】特開2013−95914(P2013−95914A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243267(P2011−243267)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】