蛍光体
【課題】 電子の入射に応じて蛍光を発する蛍光体を提供する。
【解決手段】 電子線検出器では、ライトガイドにより、化合物半導体基板の蛍光出射表面を光検出器の光入射面に光学的に結合し、且つ、化合物半導体基板と光検出器とを物理的に接続し、もって、化合物半導体基板と光検出器とを一体化している。化合物半導体基板が入射した電子を蛍光に変換すると、ライトガイドが当該蛍光を光検出器に導き、光検出器が蛍光を検出することで、入射した電子線を検出する。
【解決手段】 電子線検出器では、ライトガイドにより、化合物半導体基板の蛍光出射表面を光検出器の光入射面に光学的に結合し、且つ、化合物半導体基板と光検出器とを物理的に接続し、もって、化合物半導体基板と光検出器とを一体化している。化合物半導体基板が入射した電子を蛍光に変換すると、ライトガイドが当該蛍光を光検出器に導き、光検出器が蛍光を検出することで、入射した電子線を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線検出器、走査型電子顕微鏡、質量分析装置、及び、イオン検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
強度の高い電子線を計測する場合、従来の電子線検出器では、電子線による電流値を計測する。
【0003】
一方、電子線の強度が比較的弱い場合、例えば、電子線検出器を走査型電子顕微鏡に用いる場合には、電荷量が少ない。このため、試料面に電子線を照射し、試料面で発生した二次電子を収集して蛍光体に照射する。蛍光体で発生した蛍光を光電子増倍管で計測する。
【0004】
このような蛍光体としては、CaF2、CaP5O14、P47、P46、YAG:Ce3+、YAP:Ce3+(多結晶)、YAP:Ce3+(単結晶)等が知られている。しかしながら、いずれの蛍光体でも十分な応答特性が得られない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、十分な応答特性が得られる電子線検出器、及び、これを用いた走査型電子顕微鏡、質量分析装置、及び、イオン検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の電子線検出器は、電子線入射表面と蛍光出射表面とを備え、該電子線入射表面に入射した電子を蛍光に変換し、当該蛍光を該蛍光出射表面から出射する化合物半導体基板と、光検出器と、該化合物半導体基板の該蛍光出射表面を該光検出器の光入射面に光学的に結合し、該化合物半導体基板と該光検出器とを物理的に接続し、もって、該化合物半導体基板と該光検出器とを一体化する接続手段とを備え、該接続手段が該化合物半導体基板が電子線の入射に応じて発生した蛍光を該光検出器に導き、該光検出器が該蛍光を検出することを特徴とする。
【0007】
化合物半導体、例えば、III−V族系やII−VI族系の化合物半導体は、電子線を照射されると蛍光を発する。ここで、本発明者らは、化合物半導体が電子線の入射に対して蛍光を発生する際の応答特性が極めて高い、すなわち、電子線入射に応じて発生する蛍光の寿命が極めて短いことを発見した。本発明の電子線検出器では、接続手段により、化合物半導体基板の蛍光出射表面を光検出器の光入射面に光学的に結合し、且つ、化合物半導体基板と光検出器とを物理的に接続し、もって、化合物半導体基板と光検出器とを一体化している。化合物半導体基板が電子線の入射に応じて蛍光を発生し該蛍光を蛍光出射表面から出射すると、接続手段が当該蛍光を光検出器に導く。光検出器が蛍光を検出することで、入射した電子線を検出する。このように、化合物半導体基板が光検出器の光入射面に光学的に結合され、かつ、両者が一体化されて構成されているため、本発明の電子線検出器は十分な応答特性を有している。したがって、本発明の電子線検出器は、走査型電子顕微鏡や質量分析装置等に用いることができる。
【0008】
ここで、化合物半導体基板において、蛍光出射表面は、電子線入射表面とは反対の側に形成されていることが好ましい。電子入射領域と蛍光出射領域の両方を有効に確保できるからである。
【0009】
化合物半導体基板は、化合物半導体基板層と、化合物半導体基板層上に形成され入射した電子を蛍光に変換する化合物半導体発光層とを備えていることが好ましい。かかる構造の化合物半導体基板は、接続手段により、光検出器に確実に接続される。
【0010】
化合物半導体発光層は、III−V族系もしくはII−VI族系の化合物半導体で形成されていることが好ましい。例えば、化合物半導体発光層は、GaAs、GaAsP、GaN、GaAlN、GaInN、ZnS、及び、ZnSeからなる群の少なくともいずれか1つの材料で形成されていることが好ましい。かかる材料からなる化合物半導体発光層は、電子線の入射に応じて速い蛍光を発生し、しかも、その応答特性が高い。特に、化合物半導体発光層がGaAsP層からなり、化合物半導体基板層がAlGaAsP層からなることが好ましい。かかる構造の化合物半導体基板によれば、極めて高い応答特性を得ることができる。化合物半導体発光層がGaAs層からなり、化合物半導体基板層がAlGaAs層からなるのでも良い。やはり、極めて高い応答特性を得ることができる。
【0011】
また、化合物半導体基板層が蛍光出射表面を有し、この蛍光出射表面が接続手段を介して光検出器に接続されていることが好ましい。化合物半導体発光層と接続手段との間に化合物半導体基板層が配置されるため、化合物半導体発光層が接続手段により汚染されるのが防止される。
【0012】
化合物半導体基板は、さらに、化合物半導体発光層上に形成された化合物半導体被覆層を備えていても良い。この場合には、化合物半導体被覆層が電子線入射表面を有する。ただし、化合物半導体被覆層はなくても良い。この場合には、化合物半導体発光層が電子線入射表面を有する。
【0013】
本発明の電子線検出器は、化合物半導体基板の電子線入射表面上に金属層を備えていることが好ましい。例えば、化合物半導体基板が化合物半導体被覆層を有している場合には、金属層を化合物半導体被覆層上に設ければ良い。一方、化合物半導体基板が化合物半導体被覆層を有していない場合には、金属層を化合物半導体発光層上に設ければ良い。金属層に正の電圧を印加することで、電子線を化合物半導体基板の電子線入射表面に入射させることができる。金属層は、また、化合物半導体基板内部のチャージアップを抑制したり、蛍光を光検出器方面に反射する機能を有する。
【0014】
もしくは、化合物半導体基板の電子線入射表面上に金属層を設けず、化合物半導体基板の電子線入射表面が露出されるようにしてもよい。この場合には、化合物半導体基板の電子線入射表面のキャリア濃度を1×1019cm-3以上とすれば、化合物半導体基板内部のチャージアップを抑制することができる。例えば、化合物半導体基板が化合物半導体被覆層を有していない場合には、化合物半導体発光層の全体もしくはその露出表面を含む表層のキャリア濃度を1×1019cm-3以上とすることにより、化合物半導体基板内部のチャージアップを抑制することができる。
【0015】
接続手段は、蛍光透過性の接着剤層からなることが好ましい。化合物半導体基板を光検出器に確実に接続できると共に、化合物半導体基板で発生した蛍光を光検出器に確実に導くことができる。
【0016】
もしくは、接続手段は、蛍光透過性の材料で形成された光学部材からなり、化合物半導体基板の蛍光出射表面が光学部材の1つの端面に取り付けられ、光学部材の他の端面が光検出器の光入射面に取り付けられているのでも良い。光学部材を介して、化合物半導体基板を光検出器に確実に接続し、かつ、化合物半導体基板で発生した蛍光を光検出器に確実に導くことができる。この場合には、光学部材はガラスであり、接続手段が、更に、化合物半導体基板の蛍光出射表面上に形成されたSiN層と、SiN層上に形成されたSiO2層とを備えていることが好ましい。SiO2層とガラスとが融着されることにより、光学部材を化合物半導体基板に確実に接続することができる。SiN層とSiO2層とは蛍光を確実に光学部材に導くことができ、しかも、SiN層は反射防止膜としても機能する。接続手段は、更に、ガラスからなる光学部材と光検出器の光入射面とを接着する蛍光透過性の接着剤層を備えていれば、光学部材と光検出器とを確実に接続し、かつ、光学部材が導いてきた蛍光を光検出器に確実に導くことができる。
【0017】
本発明の電子線検出器は、更に、化合物半導体基板の電子線入射表面に対向する位置に設けられた電子増倍部を備え、かかる電子増倍部にて増倍された電子線が電子線入射表面に入射するように構成しても良い。かかる構成によれば、微弱な電子線をも高精度で検出することができる。ここで、電子増倍部は、例えば、マイクロチャンネルプレートであることが好ましい。マイクロチャンネルプレートによれば、微弱な電子線を増倍することができ、また、電子線のみならずイオンの検出を行うこともできる。
【0018】
光検出器は光電子増倍管からなり、化合物半導体基板の蛍光出射表面が、接続手段を介して、光電子増倍管の光入射窓に接続されていることが好ましい。光電子増倍管を用いれば、微弱な電子線の検出をも精度良く行うことができる。ここで、光電子増倍管は、光入射窓と共に真空領域を形成するための、例えば、側管とステムとからなる壁部と、光入射窓の内面であって真空領域内部に形成された光電陰極と、真空領域内部に形成された電子増倍部及び陽極とを備えていることが好ましい。光電陰極が、化合物半導体基板からの蛍光の入射に応じて電子を生成し、電子増倍部が電子を増倍し、陽極が増倍した電子を収集する。光電陰極と電子増倍部と陽極とが真空領域内部に形成されているので、たとえ、電子線検出器を電子線を検出するための真空容器から取り出しても、これら光電陰極と電子増倍部と陽極とが大気に曝されることがない。従って、これらの部材の劣化を防止しつつ、電子線検出器を様々な用途に自由に使用することができる。なお、電子増倍部は、積層された複数段のダイノードを備えているタイプであることが好ましい。かかる積層型の電子増倍部は、応答特性が高いので、応答特性の高い化合物半導体基板と一体化させることにより、電子線検出を極めて高い応答特性にて行うことができる。
【0019】
もしくは、光検出器は、アバランシェホトダイオードを備えていても良い。この場合にも、化合物半導体基板の蛍光出射表面が、接続手段を介して、光検出器の光入射面に接続される。このようにアバランシェホトダイオードを用いれば、微弱な電子線でも精度よく検出することができる。ここで、光検出器の光入射面が化合物半導体基板の蛍光出射表面より小さい場合には、接続手段は、蛍光をその出力面を縮小しながら、光検出器の光入射面に導くことが好ましい。この場合、接続手段は、例えば、化合物半導体基板の蛍光出射表面に接続された蛍光入力面と光検出器の光入射面に接続された蛍光出力面とを備えた、ガラスや光ファイバープレート等の、ライトガイドからなり、その蛍光出力面が蛍光入力面より小さいものであることが好ましい。光入射面面積が小さく応答特性の良いアバランシェホトダイオードを用いることができるので、電子線検出を良好な応答特性にて行うことができる。しかも、蛍光出力面を縮小しながら導くため、大面積の化合物半導体基板を用いることができる。したがって、電子線を大面積で受け取り一度に検出することができるため、検出精度を向上させることができる。
【0020】
また、別の観点によれば、本発明の走査型電子顕微鏡は、真空チャンバを構成する壁部と、該真空チャンバ内に配置された試料の表面上を電子線で走査するための電子線走査部と、電子線入射表面と蛍光出射表面とを備え、該電子線入射表面に入射した電子を蛍光に変換し、当該蛍光を該蛍光出射表面から出射する化合物半導体基板と、光検出器と、該化合物半導体基板の該蛍光出射表面を該光検出器の光入射面に光学的に結合し、該化合物半導体基板と該光検出器とを物理的に接続し、もって、該化合物半導体基板と該光検出器とを一体化する接続手段とを備え、該接続手段が該化合物半導体基板が電子線の入射に応じて発生した蛍光を該光検出器に導き、該光検出器が該蛍光を検出する電子線検出器とを備え、該電子線検出器が、少なくとも該化合物半導体基板の該電子線入射表面が該真空チャンバ内に位置するように、該壁部に対し取り付けられ、該電子走査部が、該試料の表面上を電子線で走査することにより、該試料に二次電子を発生させ、該化合物半導体基板に所定の電圧が印加されることにより、該二次電子が該電子線検出器に導かれて該電子線検出器により検出されることを特徴とする。
【0021】
このように、本発明の走査型電子顕微鏡によれば、電子線検出器が、少なくとも化合物半導体基板の電子線入射表面が真空チャンバ内に位置するように、真空チャンバの壁部に対し、例えば、着脱自在に、取り付けられている。真空チャンバ内に試料が配置され、例えば、電子銃と偏向板とからなる電子線走査部が、試料の表面上を電子線で走査する。電子線検出器の化合物半導体基板には、試料に対する相対電位が与えられる。電子走査部が試料の表面上を電子線で走査すると、試料は二次電子を発生する。二次電子は電子線検出器に導かれ検出される。かかる走査型電子顕微鏡によれば、電子線検出器の応答特性がよいため、コントラストの良い像が撮影でき、また、走査速度を向上することができる。ここで、専用もしくは汎用の制御装置により、電子線検出器に電圧を印加し、かつ、電子線検出器の出力と電子線の走査位置とを対応づけることで試料の像を作成し、モニターやプリンタ等の出力装置にて出力するようにすることが好ましい。コントラストの良い像が、簡単かつ迅速に出力される。
【0022】
また、別の観点によれば、本発明の質量分析装置は、真空チャンバを構成する壁部と、該真空チャンバ内に設けられ、試料に基づいてイオンを発生するイオン発生部と、該真空チャンバ内に設けられ、該発生したイオンを、その質量に応じて分離する分離部と、該真空チャンバ内に設けられ、該分離部で分離されたイオンが照射されて電子を生成するイオン−電子変換部と、電子線入射表面と蛍光出射表面とを備え、該電子線入射表面に入射した電子を蛍光に変換し、当該蛍光を該蛍光出射表面から出射する化合物半導体基板と、光検出器と、該化合物半導体基板の該蛍光出射表面を該光検出器の光入射面に光学的に結合し、該化合物半導体基板と該光検出器とを物理的に接続し、もって、該化合物半導体基板と該光検出器とを一体化する接続手段とを備え、該接続手段が該化合物半導体基板が電子線の入射に応じて発生した蛍光を該光検出器に導き、該光検出器が該蛍光を検出する電子線検出器とを備え、該電子線検出器が、少なくとも該化合物半導体基板の該電子線入射表面が該真空チャンバ内に位置するように、該壁部に対し取り付けられ、該イオン−電子変換部へのイオンの照射に応じて該イオン−電子変換部が二次電子を発生し、該化合物半導体基板に所定の電圧が印加されることにより、該二次電子が該電子線検出器に導かれ該電子線検出器により検出されることを特徴とする。
【0023】
このように、本発明の質量分析装置では、電子線検出器が、少なくとも化合物半導体基板の電子線入射表面が真空チャンバ内に位置するように、真空チャンバ壁部に対し、例えば、着脱自在に、取り付けられている。真空チャンバ内では、イオン発生部が試料に基づいてイオンを発生する。分離部が、イオンをその質量に応じて空間的又は時間的に分離する。分離されたイオンは、例えばダイノード等からなるイオン−電子変換部に照射される。電子線検出器の化合物半導体基板には、イオン−電子変換部に対する相対電位が与えられる。イオン−電子変換部へのイオンの照射に応じてイオン−電子変換部で発生した二次電子は、電子線検出器に導かれ検出される。かかる質量分析装置によれば、電子線検出器の応答特性がよいため、高質量分解能を達成できる。ここで、専用もしくは汎用の制御装置により、電子線検出器に電圧を印加し、かつ、分離部による分離動作と電子線検出器の出力とを対応づけることにより試料の質量分析を行い、分析結果をモニターやプリンタ等の出力装置に出力することが好ましい。高質量分解能の質量分析結果が簡単に出力される。
【0024】
また、別の観点によれば、本発明のイオン検出器は、電子線入射表面と蛍光出射表面とを備え、該電子線入射表面に入射した電子を蛍光に変換し、当該蛍光を該蛍光出射表面から出射する化合物半導体基板と、光検出器と、該化合物半導体基板の該蛍光出射表面を該光検出器の光入射面に光学的に結合し、該化合物半導体基板と該光検出器とを物理的に接続し、もって、該化合物半導体基板と該光検出器とを一体化する接続手段とを備え、該接続手段が該化合物半導体基板が電子線の入射に応じて発生した蛍光を該光検出器に導き、該光検出器が該蛍光を検出する電子線検出器と、該電子線検出器の該化合物半導体基板の該電子線入射表面に対向する位置に設けられたマイクロチャンネルプレートとを備え、該マイクロチャンネルプレートが、入射したイオンに応じて二次電子を発生し、該発生した二次電子が該電子線検出器の該電子線入射表面に入射することを特徴とする。
【0025】
マイクロチャンネルプレートがイオンの入射に応じて二次電子を発生し、この電子が電子線検出器で検出される。かかるイオン検出器によれば、電子線検出器の応答特性がよいため、イオン検出を良好な応答特性にて行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態に係る電子線検出器について説明する。なお、同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0027】
(第1の実施の形態)
第1図は、第1の実施形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。
【0028】
この電子線検出器100は、略円柱形状をしており、その軸に沿って、化合物半導体基板1、ライトガイド2、及び、光検出器としての光電子増倍管10が配置され、これらが一体化されて構成されている。化合物半導体基板1は、入射した電子を蛍光に変換するためのものである。光電子増倍管10は、光入射面Iを有し、光入射面Iに入射した光を検出するための光検出器である。ライトガイド2は、蛍光透過性の材料からなる光学部材である。光電子増倍管10の光入射面Iにライトガイド2が貼り付けられており、このライトガイド2に化合物半導体基板1が取り付けられている。こうして、化合物半導体基板1は、ライトガイド2により、光電子増倍管10の光入射面Iに光学的に結合され、且つ、化合物半導体基板1と光電子増倍管10とが物理的に接続されており、化合物半導体基板1と光電子増倍管10とが一体化されて電子線検出器100が構成されている。
【0029】
化合物半導体基板1は、被覆層1aと、発光層1bと、基板層1cとを備えている。中間半導体層としての発光層1bは、被覆層1aと基板層1cとに挟まれている。本実施の形態では、発光層1bは化合物半導体GaAsで形成されている。GaAsは、電子の入射に応じて蛍光を発生する単結晶である。その発光波長は870nmである。被覆層1aと基板層1cとは、共に、化合物半導体AlGaAsで形成されている。こうして、化合物半導体基板1は、GaAsとAlGaAsとを含んで構成されている。ここで、AlGaAsはGaAsよりもエネルギーバンドギャップが広く、隣接する半導体1a,1b間,及び、1b、1c間にへテロ接合が形成されることで、蛍光の発光効率が高くなっている。本実施の形態の場合には、被覆層1aの表面(発光層1bに接していない側の面(第1図における上側面))が電子線入射側表面1inを規定し、基板層1cの表面(発光層1bに接していない側の面(第1図における下側面))が蛍光出射側表面1outを規定している。
【0030】
かかる構造の化合物半導体基板1は、図示しない例えばGaAs等で形成された基盤の上に、被覆層1a、発光層1b、及び、基板層1cを、この順に形成し、その後、被覆層1aを基盤から分離することで、作成する。
【0031】
化合物半導体基板1の電子線入射側表面1in上(すなわち、被覆層1a上)には、金属層3が形成されている。金属層3は、例えば、アルミニウムで形成されている。金属層3は、電子線を加速させながら引き寄せるための正電位が与えられる電極として機能する。金属層3は、電子線が透過できる程度に薄く、具体的には、厚さが30〜50nmとなるように、形成されている。なお、電子の透過率を向上させるため、金属層3をメッシュ状とすることもできる。
【0032】
金属層3は、また、化合物半導体基板1に入射した電子線の電荷による化合物半導体基板1内の電荷蓄積(チャージアップ)を抑制する機能をも有する。金属層3は、更に、化合物半導体基板1内で発生した蛍光を蛍光出射側表面1outの方向に反射し、蛍光を蛍光出射側表面1outから光電子増倍管10の光入射面I方向に出射させる機能をも有する。
【0033】
本実施の形態では、光電子増倍管10は、透過型光電面を有するヘッドオン型である。具体的には、光電子増倍管10は、金属製の側管10a、側管10aの頂部の開口を閉塞する光入射窓(光入力面板)10b、及び、側管10aの底部の開口を閉塞するステム板10cからなる真空容器を備えている。光入射窓10bの外側表面が光入射面Iを規定する。
【0034】
真空容器内には、光入射窓10bの内面に形成された光電陰極10dと、電子増倍部10eと、陽極部10fとが配置されている。また、光電陰極10dと電子増倍部10eとの間には、収束電極板10gが配置されている。複数のピン10pが、ステム板10cを貫通するように設けられている。
【0035】
光電陰極10dの材料としてはGaAsを用いることが好ましい。化合物半導体基板1がGaAsを含むからである。
【0036】
電子増倍部10eは、ブロック状で積層タイプのものであり、複数段のダイノード12が積層されて構成されている。
【0037】
陽極部10fには、複数の陽極14が配置されている。
【0038】
複数のピン10pは、電子増倍部10e用の複数のピン10pと陽極部10f用の複数のピンとから構成されている。各陽極用ピン10pは、図示しないリード線を介して、対応する陽極14に接続されている。また、残りの電子増倍部用ピン10pの各々が、電子増倍部10eの対応する段のダイノード12に接続されており、当該対応する段のダイノード12に所定の電位を与えるようになっている。なお、金属製の側管10aの電位は0ボルトであり、光電陰極10dは側管10aに電気的に接続されている。
【0039】
上記構成を有する光電子増倍管10は、約1nsという極めて高い時間応答特性を有している。化合物半導体基板1は、後述するように、約2ns以下という極めて高い応答特性を有しているため、光電子増倍管10と化合物半導体基板1とを組み合わせることにより、極めて応答特性の良い電子線検出器100を実現している。
【0040】
なお、光電子増倍管10としては、上記のような複数の陽極14を備えたマルチアノードタイプではなく、単一の陽極を備えるシングルアノードタイプでも良い。その場合には、当該単一の陽極14が1つの陽極用ピン10pに接続される。
【0041】
また、電子増倍部10eも、上記のようなブロック状で積層型のものに限られず、他の任意の型のダイノード、例えば、メッシュ型のダイノードで構成しても良いし、マイクロチャネルプレートで構成して良い。
【0042】
ライトガイド2は、円柱状もしくは円板状のガラス板からなり、光入力端面2inと光出力端面2outとを備えている。本実施の形態では、光入力端面2inと光出力端面2outとは、互いに略等しい面積を有している。化合物半導体基板1の蛍光出射側表面1out(基板層1cの表面)とライトガイド2の光入力端面2inとの間には、接着層AD1が介在しており、接着層AD1によってライトガイド2と化合物半導体基板1との間の相対位置が固定されている。ここで、接着層AD1は、蛍光透過性の材料からなる。本実施の形態の場合には、接着層AD1は、SiN層ADaとSiO2層ADbとから構成されている。より詳しくは、化合物半導体基板1の基板層1cの表面1out上にSiN層ADaが形成されており、さらに、SiO2層ADbがSiN層ADa上に形成されている。なお、接着層AD1全体としての屈折率は、1.5である。SiN層ADaは、反射防止膜としても機能する。すなわち、化合物半導体基板1内で発生した蛍光が接着層AD1を透過する際に、化合物半導体基板1方向へ反射して戻ってしまうのを抑制する。
【0043】
ここで、SiN層ADaは、スパッタリング法等によって、化合物半導体基板1の基板層1c上に形成される。このため、SiN層ADaは化合物半導体基板1に対して高い結合力にて結合される。SiO2層ADbも、同じくスパッタリング法等によって、SiN層ADa上に形成される。このため、SiO2層ADbもSiN層ADaに対して高い結合力にて結合される。SiO2層ADbが、ライトガイド2の光入力端面2inに融着されている。ここで、SiO2層ADbもライトガラス2(ガラス)も共に珪化酸化物であるため、これらは、加熱されることにより融着される。こうして、接着層AD1が、全体として、化合物半導体基板1をライトガイド2に対して確実に接着する。
【0044】
ライトガイド2の光出力端面2outと光電子増倍管10の光入射面I(光入射窓10bの外側表面)との間には、蛍光透過性の接着剤で形成された接着層AD2が介在している。当該接着層AD2によって、ライトガイド2と光電子増倍管10との間の相対位置が固定されている。ここで、この接着剤は、例えば、蛍光透過性の樹脂である。なお、接着層AD2の屈折率も、例えば、1.5である。
【0045】
かかる構成を有する本実施の形態の電子線検出器100は、以下のように動作する。
【0046】
電子線を検出しようとする場合、金属層3に所望の正電位を印加する。その結果、検出しようとする電子線が、金属層3に引き寄せられる。電子線は、金属層3を透過し、化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inに入射する。化合物半導体基板1は、かかる電子線の入射に応じて蛍光を発生する。この蛍光は、直接、或いは、金属層3で反射されて、蛍光出射側表面1outから出射し、接着層AD1を介して、ライトガイド2の光入力端面2inに入射する。蛍光は、ライトガイド2を透過し光出力端面2outから出射し、接着層AD2を透過して、光電子増倍管10の光入射面Iに到達する。
【0047】
光入射面Iに入射した蛍光は、光入射窓10bを透過して光電陰極10dに入射する。光電陰極10dは、蛍光の入射に応じて光電変換を行って、光電子を、光電子増倍管10の真空容器内部方向に放出する。この電子は、電子増倍部10eによって多段増倍され、陽極部10fで収集される。陽極部10fで収集された電子は、電子線検出器100に入射した電子線の量を示す信号として、陽極用ピン10pを介して光電子増倍管10の外部に取り出される。
【0048】
以上のように、本実施の形態の電子線検出器100では、ライトガイド2により、化合物半導体基板1における電子線入射表面1in(被覆層1aの表面)とは反対側の蛍光出射表面1out(基板層1cの表面)を光電子増倍管10の光入射面Iに光学的に結合し、且つ、化合物半導体基板1と光電子増倍管10とを物理的に接続し、もって、化合物半導体基板1と光電子増倍管10とを一体化している。化合物半導体基板1が金属層3を介して入射した電子を蛍光に変換すると、ライトガイド2が当該蛍光を光電子増倍管10に導き、光電子増倍管10が蛍光を検出することで、入射した電子線を検出する。化合物半導体基板1と光電子増倍管10の応答特性が極めて良いため、高い応答特性にて電子線検出を行うことができる。
【0049】
第2図は、上記化合物半導体基板1に、パルス的に電子を入射させた場合に電子線検出器100から出力される電流信号強度(任意定数)の時間(ns)に対する依存性(D1:実施例)を示すグラフである。なお、各層1a,1b,1cの厚みは、それぞれ、100nm、5000nm、100nmであった。
【0050】
また、電子線検出器100において上記化合物半導体基板1の代わりに蛍光体(P47)を設け、当該蛍光体にパルス的に電子を入射させた場合に電子線検出器100から出力される電流信号強度(任意定数)の時間(ns)に対する依存性(D2:比較例)をも示している。
【0051】
同グラフに示すように、実施例及び比較例の強度が入射時の強度の10%に減少するまでの時間は、それぞれ、0.6ns、90nsであり、実施例のものの方が応答速度が高いことが分かる。特に、実施例の場合には、上記時間が2ns以下であり、絶対的応答速度も非常に高い。
【0052】
本実施の形態の電子線検出器100は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や質量分析装置に用いることができる。
【0053】
第3図は、本実施の形態の電子線検出器100を備えた走査型電子顕微鏡200の主要部の概略説明図である。走査型電子顕微鏡200は、真空チャンバを構成する壁部210を備えている。真空チャンバ内には、電子線走査部220と試料SMとが、互いに対向するように、配置されている。電子線走査部220は、電子銃220aと、一対の偏向電極(偏向板)220bとを備え、試料SMの表面上を電子線e1で走査することにより、試料SMに二次電子e2を発生させる。
【0054】
本実施の形態の電子線検出器100は、少なくとも金属層3と化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inとが真空チャンバ内に位置するように、壁部200に対し着脱自在に取り付けられており、二次電子e2を検出するようになっている。
【0055】
電子線検出器100と電子線走査部220とは、コンピュータからなる制御装置230に接続されている。制御装置230は、電圧印加部230aを備えている。電圧印加部230aは、電子線検出器100の金属層3に接続されている。電圧印加部230aは、金属層3に所定の正の電圧を印加し、金属層3に試料SMに対する所定の相対電位を与えることで、試料SMで発生した二次電子e2を電子線検出器100に導く。制御装置230は、さらに、制御部230bを備えている。制御部230bは、電子銃220aと偏向電極220bと、光電子増倍管10の複数のピン10pと、モニター240とに接続されている。制御部230bは、走査型電子線顕微鏡200の各部を制御する。制御部230bは、偏向電極220bへ印加する電圧の掃引状態が示す電子線e1の走査位置と電子線検出器100の出力とを対応づけながらモニター240を制御することにより、モニター240に試料SMの像を表示させる。
【0056】
かかる構成を有する走査型電子線顕微鏡200は、制御装置230による制御の下、以下のように動作する。
【0057】
電子銃220aが電子線e1を試料SM上に照射すると、偏向電極220bが電子線e1を偏向して、試料SMの表面を走査する。その結果、試料SMの表面から二次電子が放出される。これが電子線e2として電子線検出器100へ導かれる。電子線e2の入射に応じて陽極用ピン10pから電気信号が出力される。ここで、全陽極用ピン10pからの出力の総和が、電子線検出器100に入射した電子線e2の量の総和を示している。そこで、制御部230bは、偏向電極220bの電圧掃引値(電子線e1の走査位置)と電子線検出器100の出力結果である全陽極用ピン10pからの出力総和値とを同期させて対応づけることにより、試料SMの像を表示する。
【0058】
以上のように、走査型電子線顕微鏡200では、電子線検出器100の少なくとも金属層3と化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inとが真空チャンバ内に配置されている。このため、真空チャンバ内に配置された試料SMの表面上を電子線e1で走査することにより、試料SMから発生した二次電子を電子線検出器100に導き、試料SMの像を撮影することができる。
【0059】
第4図は、上記走査型電子顕微鏡200の電子線検出器100から出力される電流信号の強度(任意定数)の時間(ns)に対する依存性を示すグラフである。D1は、電子線検出器100が本実施の形態である場合のデータを示し、D2は、化合物半導体1の代わりに蛍光体(P47)を使用した上記比較例のもののデータを示す。なお、試料SMの表面領域をマトリックス状に配列された微小領域の集合体として規定し、各微小領域を画素とし、各画素毎に電子線e1をパルス的に照射する場合において、隣接する画素間の走査に必要な時間間隔を10nsとする。
【0060】
比較例の場合、強度減衰に90nsを要するので、10nsの時間間隔で走査を行うと残光が発生するが、本実施の形態の場合、強度減衰は2ns以下で行われるので、残光が発生しないこととなる。ここで、実施の形態におけるコントラストを符号C2で、比較例の場合におけるコントラストを符号C1で示すと、本実施の形態の電子線検出器100を用いることにより、比較例に比べ、コントラストが極めて良い画像を得ることができるのがわかる。また、本実施の形態のものにおいては、減衰時間が短いため、走査速度を向上させる、すなわち、走査間隔を10nsより短くすることもできる。
【0061】
第5図は、本実施の形態の電子線検出器100を備えた質量分析装置300の主要部の概略説明図である。
【0062】
この質量分析装置300は、真空チャンバを構成する壁部310を備えている。真空チャンバ内には、イオン発生部320と、分離部330と、ダイノード部(イオン−電子変換部)340とが設けられている。
【0063】
イオン発生部320は、試料に基づいてイオンを発生するためのものである。イオン発生部320には、質量分析を行いたいガス分子試料、もしくは、加熱気化された試料分子が導入される。イオン発生部320は、例えば、図示しないフィラメントを備えており、フィラメントで発生した熱電子で導入試料をたたくことにより、導入試料をイオン化して、分離部330内に導く。
【0064】
分離部330は、イオン発生部320内で発生したイオンを、その質量に応じて、空間的又は時間的に、分離するためのものである。本実施の形態の場合には、分離部330は、4個の円筒電極からなる四重極電極330aと、アパーチャ壁部330bとを備え、イオンを質量に応じて空間的に分離する。
【0065】
アパーチャ壁部330bは、四重極電極330aとダイノード部340との間の所定の位置に配置されており、イオン通過用アパーチャAPが形成されている。四重極電極330aに定常電圧と所定の周波数の交流電圧とを重畳した電圧が印加されると、イオン発生部320から導入されたイオンのうち、当該所定周波数に対応する質量のイオンが、他の質量のイオンと空間的に分離され、アパーチャAPを通過しダイノード部340に入射することができる。
【0066】
ダイノード部340は、アパーチャ壁部330bに対して分離部330とは逆側に位置している。ダイノード部340は、イオンの入射に応じて二次電子e3を放出するためのものである。本実施の形態では、ダイノード部340は、正イオンが照射されるための第1ダイノードDY1と、負イオンが照射されるための第2ダイノードDY2とを備えている。
【0067】
本実施の形態の電子線検出器100は、少なくとも金属層3と化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inとが真空チャンバ内に位置するように、壁部310に対し着脱自在に取り付けられており、二次電子e3を検出する。
【0068】
ここで、イオン生成部320にて生成されたイオンのうち、正イオンを引き出してその分析を行いたい場合には、第1ダイノードDY1に負電位が与えられる。分離部330内に位置するイオンのうち、四重極電極330aに印加されている交流電圧の周波数に対応した質量を有する正イオンが、アパーチャAPを通過して第1ダイノードDY1に衝突する。この衝突に伴って第1ダイノードDY1の表面から二次電子が放出され、これが電子線e3として電子線検出器100へ導かれる。電子線e3の入射に応じて陽極用ピン10pから電気信号が出力される。
【0069】
一方、負イオンの分析を行う場合には、第2ダイノードDY2に正電位が与えられる。分離部330内に位置するイオンのうち、四重極電極330aに印加されている交流電圧の周波数に対応した質量を有する負イオンが、アパーチャAPを通過して第2ダイノードDY2に衝突する。この衝突に伴って第2ダイノードDY2の表面から二次電子が放出され、これが電子線e3として電子線検出器100へ導かれる。電子線e3の入射に応じて陽極用ピン10pから電気信号が出力される。
【0070】
電子線検出器100、イオン発生部320、分離部330、及び、ダイノード部340は、コンピュータからなる制御装置350に接続されている。制御装置350は、電圧印加部350aを備えている。電圧印加部350aは、電子線検出器100の金属層3に接続されており、金属層3に所定の正の電圧を印加することで、金属層3にダイノード部340に対する所定の相対電位を与え、ダイノード部340で発生した二次電子e3を電子線検出器100に導く。
【0071】
制御装置350は、さらに、制御部350bを備えている。制御部350bは、イオン発生部320内の図示しないフィラメントと、分離部330の四重極電極330aとアパーチャ壁部330bと、ダイノード部340の第1,第2ダイノードDY1,DY2と、光電子増倍管10のピン10pと、モニター360とに接続されている。制御部350bは、質量分析装置300の各部を制御する。制御部350bは、電子線検出器100の出力を、四重極電極330aに印加する交流電圧の周波数が示す分離イオンの質量と対応づけながらモニター360を制御することにより、試料の質量分析結果をモニター360に表示する。
【0072】
かかる構成を有する質量分析装置300は、以下のように動作する。
【0073】
制御部350bは、分離部330の四重極電極330aに印加する交流電圧の周波数を掃引する。その結果、対応する質量のイオンが、順次、対応するダイノード(ダイノードDY1またはダイノードDY2)に照射され、当該ダイノードの表面から二次電子が放出される。これが電子線e3として電子線検出器100へと導かれる。電子線e3の入射に応じて陽極用ピン10pから電気信号が出力される。ここで、全陽極用ピン10pからの出力の総和が、電子線検出器100に入射した電子線e3の量の総和を示している。そこで、制御部350bは、交流電圧周波数の掃引値(分離イオンの質量)と電子線検出器100の出力結果である全陽極用ピン10pからの出力総和値とを同期させて対応づけることにより、試料の質量分析結果をモニター360に表示する。
【0074】
なお、分離部330としては、上述の四重極電極型の他、様々なタイプのものを採用することができるが、いずれもイオンを質量に応じて時間的又は空間的に分離するものである。
【0075】
例えば、分離部330が飛行管である場合には、イオンの飛行管内部での通過時間が質量に応じて異なる。そのため、結果的には、イオンのダイノードDY1又はDY2への到達時間が質量に応じて異なることになる。このように、飛行管は、イオンを質量に応じて時間的に分離する。全陽極用ピン10pから出力される電流値の総和が時間毎に各質量のイオンの量を示すため、その時間変化をモニタすれば各質量のイオンの量が判明する。
【0076】
また、分離部330が磁界を形成する磁界分散型である場合には、イオンの飛行軌道が質量に応じて異なる。すなわち、イオンを質量に応じて空間的に分離することができる。このため、分離部330の磁束密度を可変とすることにより、アパーチャAPを通過できるイオンの質量を変えることができる。したがって、磁束密度を掃引しながら、もしくは、アパーチャAPの位置を走査しながら、陽極用ピン10pから出力される電流値の総和の時間変化をモニタすれば、この電流値総和が時間毎に対応する質量のイオンの量を示すことになる。このため、各イオンの質量が判明する。
【0077】
以上、説明したように、質量分析装置300では、電子線検出器100の少なくとも金属層3と化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inとが真空チャンバ内に配置されている。真空チャンバ内では、分離部330が、図示しない試料から発生したイオンを、その質量に応じて空間的又は時間的に分離する。分離部330で分離されたイオンがダイノードDY1またはDY2に照射されると、当該ダイノードから二次電子e3が発生する。二次電子e3は、電子線検出器100に導かれ、電子線検出器100の出力に基づいて試料の質量分析が行われる。ここで、上述のように、電子線検出器100は応答速度が速いので、質量分解能を著しく向上させることができる。
【0078】
(第1の変更例)
上記説明では、電子線検出器100の化合物半導体基板1は、被覆層1aを有していたが、被覆層1aはなくてもよい。すなわち、化合物半導体基板1は、基板層1cと発光層1bとのみから構成されていても良い。この場合には、化合物半導体基板1を作成する際には、図示しない基盤の上に、発光層1bと基板層1cとをこの順に形成した後、発光層1bを基盤から分離すれば良い。ただし、本変更例の場合にも、基板層1c側をガラス2に貼り付けることが好ましい。発光層1bを直接ガラス2に張り付けると、発光層1bがガラス2により汚染されてしまう、すなわち、ガラス2内部に存在しているアルカリ金属が発光層1bに侵入して発光層1bを汚染してしまうため、好ましくないからである。したがって、この場合には、発光層1bの表面(基板層1cと接していない側の面)が電子線入射側表面1inを規定し、基板層1cの表面(発光層1bと接していない側の面)が蛍光出射側表面1outを規定することになる。金属層3が発光層1bの電子線入射側表面1in上に形成され、蛍光出射側表面1outが接着層AD1を介してライトガイド2に接続される。
【0079】
(第2の変更例)
さらに、このように化合物半導体基板1が被覆層1aを有していない場合には、発光層1b上に金属層3を形成しても良いが、形成しなくとも良い。
【0080】
発光層1b上に金属層3を形成しない場合には、発光層1bの電子線入射側表面1inが露出するため、電子線は発光層1bに直接入射することになる。また、この場合には、化合物半導体基板1の外表層(すなわち、発光層1bの表面1inを含む表層、もしくは、発光層1b全体)のキャリア濃度を高くすれば、化合物半導体基板1における電荷蓄積を抑制することができる。
【0081】
ここで、GaAsのキャリア濃度(cm-3)と抵抗率(Ωcm)との関係を、第6図に示す。なお、抵抗率yとキャリア濃度xとの関係式を同グラフ中に示す。ここで、例えば、活性化率が約1である、すなわち、約100%がイオン化しているとすると、キャリア濃度は不純物濃度に一致する。第6図より明らかなように、GaAsでは、活性化率が約1である場合、1×1019cm-3以上のキャリア濃度(不純物濃度)で、抵抗率は、所望の導通状態を達成できる程度にまで、低下する。したがって、キャリア濃度を1×1019cm-3以上とすることが、チャージアップを抑制する点で望ましい。
【0082】
なお、このように金属層3がない場合には、化合物半導体基板1の導電性を有する部分(具体的には、発光層1bの表面1inを含む表層、もしくは、発光層1b全体)に所望の正の電圧を印加することにより、化合物半導体基板1を正電位として、電子線を引き寄せることができる。
【0083】
本実施の形態の電子線検出器100は、上記のように、被覆層1aが設けられていない場合や金属層3が設けられていない場合にも、上述した走査型電子線顕微鏡200や質量分析装置300に適用できる。ただし、本変更例では、金属層3が設けられていないため、電子線検出器100は、少なくとも化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inが真空チャンバ内に位置するように、壁部210または310に取り付けられる。また、化合物半導体基板1の導電性を有する部分(例えば、電子線入射側表面1in)が電圧印加部230a,350aに接続される。
【0084】
さらに、以下の実施形態における電子線検出器100も、上述した走査型電子線顕微鏡200や質量分析装置300に適用できる。
【0085】
(第2の実施の形態)
第7図は、第2の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第1実施形態のものとの相違点は、本実施形態のものにおいては、化合物半導体基板1は、化合物半導体AlGaAsPからなる基板1cと、基板1c上に形成された化合物半導体GaAsPからなる発光層1bとから構成されている点のみである。
【0086】
ここで、化合物半導体GaAsPも、電子線の入射に応じて蛍光を発生する単結晶であり、その発光波長は720nmである。また、この実施の形態でも、上記第1の実施の形態の第1の変更例と同様、被覆層1aは設けられておらず、発光層1b上に金属層3が直接設けられている。すなわち、発光層1bの表面(基板層1cに接していない側の面(第7図における上側の面))が電子線入射側表面1inを規定し、基板層1cの表面(発光層1bに接していない側の面(第7図における下側の面))が蛍光出射側表面1outを規定している。金属層3が発光層1bの電子線入射側表面1in上に形成され、蛍光出射側表面1outが接着層AD1を介してライトガイド2に接続されている。
【0087】
なお、このように化合物半導体基板1がGaAsPの場合には、光電子増倍管10の光電陰極10dの材料はマルチアルカリであることが好ましい。
【0088】
本実施の形態の構成においても、電子線検出器100は十分な応答特性を得ることができる。
【0089】
(第1の変更例)
また、第1の実施の形態における第2の変更例同様、化合物半導体基板1上に金属層3を形成しなくても良い。この場合には、発光層1bの電子線入射側表面1inが露出される。このように金属層3を形成しない場合には、化合物半導体基板1の表層(発光層1bの表面1inを含む表層、もしくは、発光層1b全体)のキャリア濃度を高くすれば、化合物半導体基板1における電荷蓄積を抑制することができる。ここで、GaAsPのキャリア濃度(cm-3)と抵抗率(Ωcm)との関係を、第8図に示す。この図より明らかなように、GaAsPでも、1×1019cm-3以上のキャリア濃度で、抵抗率が、所望の導通状態を達成できる程度にまで、低下する。したがって、キャリア濃度を1×1019cm-3以上とすることが望ましい。
【0090】
(第2の変更例)
上記説明では、発光層1b上に被覆層1aを設けていなかった。しかしながら、第1の実施の形態と同様、GaAsP発光層1b上に、基板1cと同一の材料である化合物半導体AlGaAsPからなる被覆層1aを、設けても良い。
(第3の変更例)
【0091】
なお、化合物半導体基板1の発光層1bは、上記(1)GaAs及び(2)GaAsP以外にも、様々な化合物半導体により形成することができる。ここで、発光層1bは、III−V族系の化合物半導体、例えば、(1)GaAsと(2)GaAsPの他、(3)GaN、(4)GaAlN、(5)GaInNや、II−VI族系の化合物半導体、例えば、(6)ZnSや(7)ZnSeから形成することが好ましい。なお、これらの化合物半導体は、いずれも、電子線の入射に応じて蛍光を発生する単結晶であり、その発光波長は、それぞれ、(3)360nm、(4)360nm以下、(5)360nm〜620nm、(6)350nm、(7)480nmである。
【0092】
従って、発光層1bは、(1)GaAs、(2)GaAsP、(3)GaN、(4)GaAlN、(5)GaInN、(6)ZnS、及び、(7)ZnSeからなる群の少なくともいずれか1つの材料から形成することが好ましい。
【0093】
ここで、発光層1bが上記のどの材料で形成されている場合にも、化合物半導体基板1は、少なくとも、発光層1bと基板層1cとを備え、基板層1cがライトガイド2に接続されていれば良い。なお、発光層1bの上に被覆層1aと金属層3とを設けても良いし、設けなくても良い。また、発光層1bの上に直接金属層3を設けてもよい。一方、発光層1bの上に被覆層1aや金属層3を設けない場合には、発光層1bの少なくとも電子線入射側表面1inを含む表層もしくは全体のキャリア濃度を、所定のキャリア濃度(例えば、1×1019cm-3)以上のキャリア濃度に調整し、その抵抗率を、所望の導通状態を達成できる程度にまで、低下させれば、化合物半導体1のチャージアップを抑制できるため、好ましい。
【0094】
なお、化合物半導体基板1の発光層1bが上記(3)〜(7)の材料のいずれかである場合には、光電陰極10dの材料はバイアルカリであることが好ましい。
【0095】
(第3の実施の形態)
第9図は、第3の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第1の実施の形態のものとの相違点は、本実施の形態においては、接着層AD1が、2層構造ではなく、蛍光透過性の接着剤(樹脂)からなる1層構造である点のみである。かかる1層構造の接着層AD1が、化合物半導体基板1とライトガイド2とを接着している。この構造においても、化合物半導体基板1とライトガイド2とを十分な強度で接続することができ、また、十分な応答特性を得ることができる。
【0096】
(第4の実施の形態)
第10図は、第4の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第3の実施の形態のものとの相違点は、本実施の形態のものにおいては、ライトガイド2を介在することなく、接着層AD1が化合物半導体基板1と光電子増倍管10とを接着している点のみである。この構造においても、化合物半導体基板1と光電子増倍管10とを十分な強度で接続することができ、また、十分な応答特性を得ることができる。
【0097】
(第5の実施の形態)
第11図は、第5の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第1の実施形態のものとの相違点は、本実施の形態のものにおいては、ライトガイド2の光進行方向(電子線検出器100の軸方向)の長さが光電子増倍管10の管長よりも長くなっている点のみである。この構造においても、十分な応答特性を得ることができる。
【0098】
(第6の実施の形態)
第12図は、第6の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第1の実施形態のものとの相違点は、本実施の形態のものにおいては、マイクロチャンネルプレート5が、金属層3に対向する位置に、付加された点のみである。
【0099】
ここで、マイクロチャンネルプレート5は、内壁に二次電子放出材料が形成された図示しない複数のガラスパイプを束ねた円板状構造を有しており、電子入射側表面5inと電子出射側表面5outとを備えている。かかる構造を有するマイクロチャンネルプレート5は、その電子出射側表面5outが、金属層3から所定の距離だけ離隔しつつ、かつ、金属層3に対向するように配置されている。
【0100】
より詳しくは、マイクロチャンネルプレート5の電子入射側表面5inの周囲には入射側電極52が形成されている。また、マイクロチャンネルプレート5の電子出射側表面5outの周囲には出射側電極54が形成されている。これら一対の電極52,54を介して、各ガラスパイプの両端に所定の電圧が印加される。
【0101】
また、本実施の形態では、金属層印加用電極30が、ライトガイド2の上端部の周囲に形成されている。この金属層印加用電極30が金属層3に接続されている。また、絶縁性の円筒状支持部材56が、電子線検出器100の軸方向上部位置に、金属層3と化合物半導体基板1とライトガイド2の上端部とを囲むように配置されている。支持部材56は、その下端部が金属層印加用電極30の端部に取り付けられ、その上端部が電極52及び電極54の端部に取り付けられている。かかる構造により、マイクロチャンネルプレート5は、支持部材56を介して、ライトガイド2に対して保持されている。なお、支持部材56を金属層印加用電極30に対し着脱自在に取り付けるようにすれば、マイクロチャンネルプレート5を、ライトガイド2に対して着脱自在に取り付けることができる。
【0102】
上記構成を有する本実施の形態の電子線検出器100は、以下のように動作する。
【0103】
入射側電極52、出射側電極54、及び、金属層印加用電極30には、この順に、低い電位から順次高い電位となり、かつ、これらの間に適当な電位差が生じるように、電圧が印加される。例えば、マイクロチャンネルプレート5の電子入射側表面5inと電子出射側表面5outとの間に500〜900ボルトの電位差があり、かつ、電子出射側表面5outと金属層3との間に5〜10キロボルトの電位差があるように、電圧が印加される。電子線が、マイクロチャンネルプレート5の電子入射側表面5inからガラスパイプ内部に入射すると、増倍された多数の電子が出射側5outより放出される。この電子は、マイクロチャンネルプレート5の出力端5outと金属層3との間の電位差により、金属層3に引き寄せられ、金属層3を介して化合物半導体基板1に入射する。
【0104】
この構造においても、十分な応答特性を得ることができる。しかも、本実施の形態によれば、検出しようとする電子線が微弱でも、マイクロチャンネルプレート5で増倍することができるため、検出を行うことができる。
【0105】
また、電子線ではなくイオンがマイクロチャンネルプレート5に入射しても、マイクロチャンネルプレート5が当該イオンの量に応じた量の二次電子を生成し増倍することができる。かかる二次電子を、後段の化合物半導体基板1にて蛍光に変換し、さらに、光電子増倍管10にて検出することにより、イオンの検出をも行うことができる。したがって、本実施の形態の電子線検出器100は、イオン検出器としても使用することができる。
【0106】
なお、上記説明では、電子を増倍するために、マイクロチャンネルプレート5を設けたが、マイクロチャンネルプレート5の代わりに、他の電子増倍装置を設けても良い。
【0107】
(第7の実施の形態)
第13図は、第7の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第4の実施形態のものとの相違点は、本実施の形態のものにおいては、光検出器として、光電子増倍管10の代わりに、アバランシェホトダイオードデバイス6を用いた点のみである。
【0108】
アバランシェホトダイオードデバイスデバイス6は、デバイスパッケージ61と、デバイスパッケージ61の頂部の開口を閉塞する光入射窓(光入力面板)62と、デバイスパッケージ61の底部の開口を閉塞するステム板63とからなる容器を備えている。光入射窓62の外側用面が光入射面Iを規定している。容器内のステム板63上には、アバランシェホトダイオード64が、その光入射面64aが光入射窓62に対向するように、設けられている。アバランシェホトダイオード64は、例えば、p+層640、p層642、及び、n+層644を備え、n+層644の外側表面が光入射面64aを規定している。複数のピン65がステム板63を貫通するように設けられており、アバランシェホトダイオード64内のpn接合に逆バイアスが印加されるようになっている。光入射窓62が、接着層AD1を介して化合物半導体基板1に接着されている。
【0109】
かかる構造の本実施の形態の電子線検出器100では、電子線が金属層3を介して化合物半導体基板1に入射すると、蛍光が発生する。蛍光は、アバランシェホトダイオードデバイス6の光入射窓62を介して、アバランシェホトダイオード64に入射する。その結果、アバランシェホトダイオード64内で、電子−正孔対が生成され、これらがアバランシェ増倍される。アバランシェ増倍された出力電流が、電子線入射量を示す信号として、ピン65を介して外部に取り出される。アバランシェホトダイオード64も十分高い応答特性を有しているため、本実施の形態の電子線検出器100も、十分高い応答特性を有している。
【0110】
なお、アバランシェホトダイオード64としては、上述の構造のものに限らず、任意の構造のアバランシェホトダイオードを採用することができる。
【0111】
また、第1〜3,5,6の実施の形態においても、本実施の形態と同様、光電子増倍管10の代わりにアバランシェホトダイオードデバイス6を採用しても良い。
【0112】
(変更例)
アバランシェホトダイオード64は、光入射面64aが小さい方が応答特性が良く、大面積の光入射面64aを有するアバランシェホトダイオード64では応答特性が低下してしまう。
【0113】
そこで、第14図に示すように、アバランシェホトダイオードデバイス6として、光入射面64の面積が小さく、したがって、光入射窓62が小さいものを使用することが好ましい。この場合には、光入射窓62より面積がかなり大きい化合物半導体基板1を使用し、化合物半導体基板1とアバランシェホトダイオードデバイス6とを、蛍光の出力面を縮小しながら導くライトガイド2を介して接続するようにすれば良い。なお、ライトガイド2は、第1の実施の形態のように、接着層AD1、AD2により、化合物半導体基板1とアバランシェホトダイオードデバイス6とに接着する。例えば、アバランシェホトダイオードデバイス6として、光入射窓62の面積が約1mm径のものを使用し、化合物半導体基板1として、約50mm(2インチ)径のものを使用する。そして、ライトガイド2として、その光入力端面2inの面積よりその光出力端面2outの面積の方が小さいような円錐形状のガラス板を使用して、化合物半導体基板1とアバランシェホトダイオードデバイス6とを接続する。本変更例によれば、小面積のアバランシェホトダイオードデバイス6を採用し高い応答特性を達成しつつ、大面積の化合物半導体基板1に入射する多量の電子を一度に検出することができる。したがって、精度よく検出を行うことができる。
【0114】
なお、本実施の形態及びその変更例では、アバランシェホトダイオード64を備えたアバランシェホトダイオードデバイス6の入力窓62を化合物半導体基板1と接続した。しかしながら、アバランシェホトダイオード64をデバイスパッケージ61内に設けず、アバランシェホトダイオード64の光入射面64aを、直接、もしくは、ライトガイド2を介して、化合物半導体基板1に接続するようにしても良い。
【0115】
以上、説明したように、上述のいずれの実施の形態の電子線検出器も、電子線入射に応じて発生する蛍光の寿命が短い化合物半導体基板を光検出器の光入射面に光学的に結合させ、これらを一体化しているので、十分な応答特性を得ることができる。したがって、走査型電子線顕微鏡や質量分析装置、イオン検出器に特に有効である。
【0116】
本発明に係る電子線検出器、走査型電子顕微鏡、質量分析装置、及び、イオン検出器は、前述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0117】
例えば、上記第3〜第7の実施の形態のいずれにおいても、第1の実施の形態の第1の変更例同様、化合物半導体基板1として、被覆層1aが形成されていないものを採用しても良い。もしくは、第1の実施の形態の第2の変更例同様、被覆層1aと金属層3とを設けず、代わりに、発光層1bの少なくとも表層のキャリア濃度を高くしても良い。なお、上記第6の実施の形態において被覆層1aも金属層3も設けない場合には、マイクロチャンネルプレート5は発光層1bに対向することになる。また、発光層1bの少なくとも表層のキャリア濃度を高くした場合には、金属層印加用電極30を、発光層1bの少なくとも表層に接続すれば良い。
【0118】
また、上記第3〜第7の実施の形態のいずれにおいても、化合物半導体基板1として、第2の実施の形態のように、AlGaAsPからなる基板層1cの上にGaAsPからなる発光層1bが形成されており被覆層1aが形成されていないものを採用しても良い。また、その場合には、第2の実施の形態の第1の変更例同様、金属層3を設けず、代わりに、発光層1bの少なくとも表層のキャリア濃度を高くしても良い。逆に、第2の実施の形態の第2の変更例同様、被覆層1aと金属層3とを設けてもよい。さらに、第2の実施の形態の第3の変更例同様、発光層1bを、GaAsやGaAsP以外の化合物半導体、例えば、上記化合物半導体(3)〜(7)で形成しても良い。
【0119】
化合物半導体基板1は、上述以外の様々な化合物半導体にて形成してもよく、また、その構造も、上述の構造に限られない。電子線の入射に応じて蛍光を発生するものであれば、任意の化合物半導体基板を採用することができる。また、被覆層1aを、キャリア濃度を変化させることができる材料で作成した場合には、被覆層1aの上には金属層3を設けなくても良い。この場合には、被覆層1aの露出面が電子線入射側表面1inを規定することになる。被覆層1aのキャリア濃度を調整し、チャージアップを抑制するようにすれば良い。さらに、被覆層1a、発光層1b、及び、基板層1cの全てを、キャリア濃度を変化させることができる材料で作成した場合にも、被覆層1aの上に金属層3を設けなくても良い。この場合には、被覆層1aのキャリア濃度、層1a及び1bのキャリア濃度、もしくは、全層1a〜1c、すなわち、化合物半導体基板1全体のキャリア濃度を調整し、チャージアップを抑制するようにすれば良い。
【0120】
光検出器としては、光電子増倍管10やアバランシェホトダイオードデバイス6に限らず、様々なタイプの光検出器を採用することができる。
【0121】
ライトガイド2としては、ガラス板の他、様々なタイプの蛍光を導くことができるライトガイドを採用することができる。例えば、光ファイバプレート(FOP)を採用しても良い。第7の実施の形態の変更例の場合には、ライトガイド2として、円錐形状の光ファイバープレートを採用すれば良い。
【0122】
また、ライトガイド2の代わりに、様々なタイプの蛍光を導くことができる光学部材を使用して、化合物半導体基板と光検出器とを光学的に結合し物理的に接続して一体化させても良い。例えば、化合物半導体基板と光検出器とをレンズにて接続し、化合物半導体基板1の蛍光出射側表面1outから出射した蛍光を光検出器の光入射面I上に集光するようにしてもよい。
【0123】
さらに、接着層の構造も、上述の構造に限られない。蛍光透過性があり、化合物半導体基板と光検出器とを、光学的に結合し、かつ、物理的に接続して一体化することができるものであれば良い。
【0124】
さらに、接着層、もしくは、接着層とライトガイドとにより化合物半導体基板と光検出器とを接続する以外にも、様々な構成により、化合物半導体基板と光検出器とを光学的に結合し物理的に接続して一体化させることができる。
【0125】
走査型電子顕微鏡200においては、電子線走査部220は、電子線を走査するための構成であれば、電子銃と偏向板との組み合わせに限らず、任意の構成とすることができる。また、電子線検出器は、真空チャンバ内において、試料からの二次電子を受け取ることができる任意の位置に配置することができる。制御装置230には、モニター240の代わりに、プリンタ等、任意の出力装置を接続することができる。走査型電子顕微鏡は、少なくとも電子線走査部と電子線検出器とを備えた真空チャンバを備えていれば良い。かかる走査型電子顕微鏡を汎用の制御装置や出力装置に接続して使用すれば、自由度がより高まり、簡便となる。
【0126】
質量分析装置300においては、ダイノード部340は、分析したい試料に対応して、第1ダイノードDY1のみ、もしくは、第2ダイノードDY2のみを備える構成であっても良い。また、ダイノード部340の構成も任意の構成とすることができる。例えば、ダイノード部340は、イオンの入射に応じて電子を放出する任意のタイプのイオン−電子変換装置を備えていれば良く、ダイノードを備えていなくても良い。また、電子線検出器は、真空チャンバー内において、ダイノードからの二次電子を受け取ることができる任意の位置に配置することができる。制御装置350には、モニター360の代わりに、プリンタ等、任意の出力装置を接続することができる。質量分析装置は、少なくとも、イオン発生部と分離部とダイノード部と電子線検出器とを備えた真空チャンバを備えていれば良い。質量分析装置を汎用の制御装置や出力装置に接続して使用すれば、自由度がより高まり、簡便となる。
【0127】
イオン検出器においては、マイクロチャンネルプレートの代わりに、イオンの入射に応じて電子を放出するための任意のイオン−電子変換装置を、化合物半導体基板の前段に配置することができる。
【0128】
以上、説明したように、本発明にかかる電子線検出器によれば、十分な応答特性を得ることができ、これを適用した本発明の走査型電子線顕微鏡、質量分析装置、及び、イオン検出器は、所望の動作を高精度に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明に係る電子線検出器、走査型電子顕微鏡、質量分析装置、及び、イオン検出器は、半導体検査分野や物質分析分野等、固体、気体、イオン等の各種物質を検査する用途に幅広く用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】第1図は、本発明の第1の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図2】第2図は、電流信号強度(任意定数)の時間(nm)に対する依存性を示すグラフである。
【図3】第3図は、第1図の電子線検出器を備えた走査型電子顕微鏡の主要部の概略説明図である。
【図4】第4図は、第3図の走査型電子顕微鏡に設けられた電子線検出器から出力される電流信号の強度(任意定数)の時間(ns)に対する依存性を示すグラフである。
【図5】第5図は、第1図の電子線検出器を備えた質量分析装置の主要部の概略説明図である。
【図6】第6図は、GaAsのキャリア濃度(cm-3)と抵抗率(Ωcm)との関係を示すグラフである。
【図7】第7図は、第2の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図8】第8図は、GaAsPのキャリア濃度(cm-3)と抵抗率(Ωcm)との関係を示すグラフである。
【図9】第9図は、第3の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図10】第10図は、第4の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図11】第11図は、第5の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図12】第12図は、第6の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図13】第13図は、第7の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図14】第14図は、第7の実施の形態に係る電子線検出器の変更例の縦断面図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線検出器、走査型電子顕微鏡、質量分析装置、及び、イオン検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
強度の高い電子線を計測する場合、従来の電子線検出器では、電子線による電流値を計測する。
【0003】
一方、電子線の強度が比較的弱い場合、例えば、電子線検出器を走査型電子顕微鏡に用いる場合には、電荷量が少ない。このため、試料面に電子線を照射し、試料面で発生した二次電子を収集して蛍光体に照射する。蛍光体で発生した蛍光を光電子増倍管で計測する。
【0004】
このような蛍光体としては、CaF2、CaP5O14、P47、P46、YAG:Ce3+、YAP:Ce3+(多結晶)、YAP:Ce3+(単結晶)等が知られている。しかしながら、いずれの蛍光体でも十分な応答特性が得られない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、十分な応答特性が得られる電子線検出器、及び、これを用いた走査型電子顕微鏡、質量分析装置、及び、イオン検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の電子線検出器は、電子線入射表面と蛍光出射表面とを備え、該電子線入射表面に入射した電子を蛍光に変換し、当該蛍光を該蛍光出射表面から出射する化合物半導体基板と、光検出器と、該化合物半導体基板の該蛍光出射表面を該光検出器の光入射面に光学的に結合し、該化合物半導体基板と該光検出器とを物理的に接続し、もって、該化合物半導体基板と該光検出器とを一体化する接続手段とを備え、該接続手段が該化合物半導体基板が電子線の入射に応じて発生した蛍光を該光検出器に導き、該光検出器が該蛍光を検出することを特徴とする。
【0007】
化合物半導体、例えば、III−V族系やII−VI族系の化合物半導体は、電子線を照射されると蛍光を発する。ここで、本発明者らは、化合物半導体が電子線の入射に対して蛍光を発生する際の応答特性が極めて高い、すなわち、電子線入射に応じて発生する蛍光の寿命が極めて短いことを発見した。本発明の電子線検出器では、接続手段により、化合物半導体基板の蛍光出射表面を光検出器の光入射面に光学的に結合し、且つ、化合物半導体基板と光検出器とを物理的に接続し、もって、化合物半導体基板と光検出器とを一体化している。化合物半導体基板が電子線の入射に応じて蛍光を発生し該蛍光を蛍光出射表面から出射すると、接続手段が当該蛍光を光検出器に導く。光検出器が蛍光を検出することで、入射した電子線を検出する。このように、化合物半導体基板が光検出器の光入射面に光学的に結合され、かつ、両者が一体化されて構成されているため、本発明の電子線検出器は十分な応答特性を有している。したがって、本発明の電子線検出器は、走査型電子顕微鏡や質量分析装置等に用いることができる。
【0008】
ここで、化合物半導体基板において、蛍光出射表面は、電子線入射表面とは反対の側に形成されていることが好ましい。電子入射領域と蛍光出射領域の両方を有効に確保できるからである。
【0009】
化合物半導体基板は、化合物半導体基板層と、化合物半導体基板層上に形成され入射した電子を蛍光に変換する化合物半導体発光層とを備えていることが好ましい。かかる構造の化合物半導体基板は、接続手段により、光検出器に確実に接続される。
【0010】
化合物半導体発光層は、III−V族系もしくはII−VI族系の化合物半導体で形成されていることが好ましい。例えば、化合物半導体発光層は、GaAs、GaAsP、GaN、GaAlN、GaInN、ZnS、及び、ZnSeからなる群の少なくともいずれか1つの材料で形成されていることが好ましい。かかる材料からなる化合物半導体発光層は、電子線の入射に応じて速い蛍光を発生し、しかも、その応答特性が高い。特に、化合物半導体発光層がGaAsP層からなり、化合物半導体基板層がAlGaAsP層からなることが好ましい。かかる構造の化合物半導体基板によれば、極めて高い応答特性を得ることができる。化合物半導体発光層がGaAs層からなり、化合物半導体基板層がAlGaAs層からなるのでも良い。やはり、極めて高い応答特性を得ることができる。
【0011】
また、化合物半導体基板層が蛍光出射表面を有し、この蛍光出射表面が接続手段を介して光検出器に接続されていることが好ましい。化合物半導体発光層と接続手段との間に化合物半導体基板層が配置されるため、化合物半導体発光層が接続手段により汚染されるのが防止される。
【0012】
化合物半導体基板は、さらに、化合物半導体発光層上に形成された化合物半導体被覆層を備えていても良い。この場合には、化合物半導体被覆層が電子線入射表面を有する。ただし、化合物半導体被覆層はなくても良い。この場合には、化合物半導体発光層が電子線入射表面を有する。
【0013】
本発明の電子線検出器は、化合物半導体基板の電子線入射表面上に金属層を備えていることが好ましい。例えば、化合物半導体基板が化合物半導体被覆層を有している場合には、金属層を化合物半導体被覆層上に設ければ良い。一方、化合物半導体基板が化合物半導体被覆層を有していない場合には、金属層を化合物半導体発光層上に設ければ良い。金属層に正の電圧を印加することで、電子線を化合物半導体基板の電子線入射表面に入射させることができる。金属層は、また、化合物半導体基板内部のチャージアップを抑制したり、蛍光を光検出器方面に反射する機能を有する。
【0014】
もしくは、化合物半導体基板の電子線入射表面上に金属層を設けず、化合物半導体基板の電子線入射表面が露出されるようにしてもよい。この場合には、化合物半導体基板の電子線入射表面のキャリア濃度を1×1019cm-3以上とすれば、化合物半導体基板内部のチャージアップを抑制することができる。例えば、化合物半導体基板が化合物半導体被覆層を有していない場合には、化合物半導体発光層の全体もしくはその露出表面を含む表層のキャリア濃度を1×1019cm-3以上とすることにより、化合物半導体基板内部のチャージアップを抑制することができる。
【0015】
接続手段は、蛍光透過性の接着剤層からなることが好ましい。化合物半導体基板を光検出器に確実に接続できると共に、化合物半導体基板で発生した蛍光を光検出器に確実に導くことができる。
【0016】
もしくは、接続手段は、蛍光透過性の材料で形成された光学部材からなり、化合物半導体基板の蛍光出射表面が光学部材の1つの端面に取り付けられ、光学部材の他の端面が光検出器の光入射面に取り付けられているのでも良い。光学部材を介して、化合物半導体基板を光検出器に確実に接続し、かつ、化合物半導体基板で発生した蛍光を光検出器に確実に導くことができる。この場合には、光学部材はガラスであり、接続手段が、更に、化合物半導体基板の蛍光出射表面上に形成されたSiN層と、SiN層上に形成されたSiO2層とを備えていることが好ましい。SiO2層とガラスとが融着されることにより、光学部材を化合物半導体基板に確実に接続することができる。SiN層とSiO2層とは蛍光を確実に光学部材に導くことができ、しかも、SiN層は反射防止膜としても機能する。接続手段は、更に、ガラスからなる光学部材と光検出器の光入射面とを接着する蛍光透過性の接着剤層を備えていれば、光学部材と光検出器とを確実に接続し、かつ、光学部材が導いてきた蛍光を光検出器に確実に導くことができる。
【0017】
本発明の電子線検出器は、更に、化合物半導体基板の電子線入射表面に対向する位置に設けられた電子増倍部を備え、かかる電子増倍部にて増倍された電子線が電子線入射表面に入射するように構成しても良い。かかる構成によれば、微弱な電子線をも高精度で検出することができる。ここで、電子増倍部は、例えば、マイクロチャンネルプレートであることが好ましい。マイクロチャンネルプレートによれば、微弱な電子線を増倍することができ、また、電子線のみならずイオンの検出を行うこともできる。
【0018】
光検出器は光電子増倍管からなり、化合物半導体基板の蛍光出射表面が、接続手段を介して、光電子増倍管の光入射窓に接続されていることが好ましい。光電子増倍管を用いれば、微弱な電子線の検出をも精度良く行うことができる。ここで、光電子増倍管は、光入射窓と共に真空領域を形成するための、例えば、側管とステムとからなる壁部と、光入射窓の内面であって真空領域内部に形成された光電陰極と、真空領域内部に形成された電子増倍部及び陽極とを備えていることが好ましい。光電陰極が、化合物半導体基板からの蛍光の入射に応じて電子を生成し、電子増倍部が電子を増倍し、陽極が増倍した電子を収集する。光電陰極と電子増倍部と陽極とが真空領域内部に形成されているので、たとえ、電子線検出器を電子線を検出するための真空容器から取り出しても、これら光電陰極と電子増倍部と陽極とが大気に曝されることがない。従って、これらの部材の劣化を防止しつつ、電子線検出器を様々な用途に自由に使用することができる。なお、電子増倍部は、積層された複数段のダイノードを備えているタイプであることが好ましい。かかる積層型の電子増倍部は、応答特性が高いので、応答特性の高い化合物半導体基板と一体化させることにより、電子線検出を極めて高い応答特性にて行うことができる。
【0019】
もしくは、光検出器は、アバランシェホトダイオードを備えていても良い。この場合にも、化合物半導体基板の蛍光出射表面が、接続手段を介して、光検出器の光入射面に接続される。このようにアバランシェホトダイオードを用いれば、微弱な電子線でも精度よく検出することができる。ここで、光検出器の光入射面が化合物半導体基板の蛍光出射表面より小さい場合には、接続手段は、蛍光をその出力面を縮小しながら、光検出器の光入射面に導くことが好ましい。この場合、接続手段は、例えば、化合物半導体基板の蛍光出射表面に接続された蛍光入力面と光検出器の光入射面に接続された蛍光出力面とを備えた、ガラスや光ファイバープレート等の、ライトガイドからなり、その蛍光出力面が蛍光入力面より小さいものであることが好ましい。光入射面面積が小さく応答特性の良いアバランシェホトダイオードを用いることができるので、電子線検出を良好な応答特性にて行うことができる。しかも、蛍光出力面を縮小しながら導くため、大面積の化合物半導体基板を用いることができる。したがって、電子線を大面積で受け取り一度に検出することができるため、検出精度を向上させることができる。
【0020】
また、別の観点によれば、本発明の走査型電子顕微鏡は、真空チャンバを構成する壁部と、該真空チャンバ内に配置された試料の表面上を電子線で走査するための電子線走査部と、電子線入射表面と蛍光出射表面とを備え、該電子線入射表面に入射した電子を蛍光に変換し、当該蛍光を該蛍光出射表面から出射する化合物半導体基板と、光検出器と、該化合物半導体基板の該蛍光出射表面を該光検出器の光入射面に光学的に結合し、該化合物半導体基板と該光検出器とを物理的に接続し、もって、該化合物半導体基板と該光検出器とを一体化する接続手段とを備え、該接続手段が該化合物半導体基板が電子線の入射に応じて発生した蛍光を該光検出器に導き、該光検出器が該蛍光を検出する電子線検出器とを備え、該電子線検出器が、少なくとも該化合物半導体基板の該電子線入射表面が該真空チャンバ内に位置するように、該壁部に対し取り付けられ、該電子走査部が、該試料の表面上を電子線で走査することにより、該試料に二次電子を発生させ、該化合物半導体基板に所定の電圧が印加されることにより、該二次電子が該電子線検出器に導かれて該電子線検出器により検出されることを特徴とする。
【0021】
このように、本発明の走査型電子顕微鏡によれば、電子線検出器が、少なくとも化合物半導体基板の電子線入射表面が真空チャンバ内に位置するように、真空チャンバの壁部に対し、例えば、着脱自在に、取り付けられている。真空チャンバ内に試料が配置され、例えば、電子銃と偏向板とからなる電子線走査部が、試料の表面上を電子線で走査する。電子線検出器の化合物半導体基板には、試料に対する相対電位が与えられる。電子走査部が試料の表面上を電子線で走査すると、試料は二次電子を発生する。二次電子は電子線検出器に導かれ検出される。かかる走査型電子顕微鏡によれば、電子線検出器の応答特性がよいため、コントラストの良い像が撮影でき、また、走査速度を向上することができる。ここで、専用もしくは汎用の制御装置により、電子線検出器に電圧を印加し、かつ、電子線検出器の出力と電子線の走査位置とを対応づけることで試料の像を作成し、モニターやプリンタ等の出力装置にて出力するようにすることが好ましい。コントラストの良い像が、簡単かつ迅速に出力される。
【0022】
また、別の観点によれば、本発明の質量分析装置は、真空チャンバを構成する壁部と、該真空チャンバ内に設けられ、試料に基づいてイオンを発生するイオン発生部と、該真空チャンバ内に設けられ、該発生したイオンを、その質量に応じて分離する分離部と、該真空チャンバ内に設けられ、該分離部で分離されたイオンが照射されて電子を生成するイオン−電子変換部と、電子線入射表面と蛍光出射表面とを備え、該電子線入射表面に入射した電子を蛍光に変換し、当該蛍光を該蛍光出射表面から出射する化合物半導体基板と、光検出器と、該化合物半導体基板の該蛍光出射表面を該光検出器の光入射面に光学的に結合し、該化合物半導体基板と該光検出器とを物理的に接続し、もって、該化合物半導体基板と該光検出器とを一体化する接続手段とを備え、該接続手段が該化合物半導体基板が電子線の入射に応じて発生した蛍光を該光検出器に導き、該光検出器が該蛍光を検出する電子線検出器とを備え、該電子線検出器が、少なくとも該化合物半導体基板の該電子線入射表面が該真空チャンバ内に位置するように、該壁部に対し取り付けられ、該イオン−電子変換部へのイオンの照射に応じて該イオン−電子変換部が二次電子を発生し、該化合物半導体基板に所定の電圧が印加されることにより、該二次電子が該電子線検出器に導かれ該電子線検出器により検出されることを特徴とする。
【0023】
このように、本発明の質量分析装置では、電子線検出器が、少なくとも化合物半導体基板の電子線入射表面が真空チャンバ内に位置するように、真空チャンバ壁部に対し、例えば、着脱自在に、取り付けられている。真空チャンバ内では、イオン発生部が試料に基づいてイオンを発生する。分離部が、イオンをその質量に応じて空間的又は時間的に分離する。分離されたイオンは、例えばダイノード等からなるイオン−電子変換部に照射される。電子線検出器の化合物半導体基板には、イオン−電子変換部に対する相対電位が与えられる。イオン−電子変換部へのイオンの照射に応じてイオン−電子変換部で発生した二次電子は、電子線検出器に導かれ検出される。かかる質量分析装置によれば、電子線検出器の応答特性がよいため、高質量分解能を達成できる。ここで、専用もしくは汎用の制御装置により、電子線検出器に電圧を印加し、かつ、分離部による分離動作と電子線検出器の出力とを対応づけることにより試料の質量分析を行い、分析結果をモニターやプリンタ等の出力装置に出力することが好ましい。高質量分解能の質量分析結果が簡単に出力される。
【0024】
また、別の観点によれば、本発明のイオン検出器は、電子線入射表面と蛍光出射表面とを備え、該電子線入射表面に入射した電子を蛍光に変換し、当該蛍光を該蛍光出射表面から出射する化合物半導体基板と、光検出器と、該化合物半導体基板の該蛍光出射表面を該光検出器の光入射面に光学的に結合し、該化合物半導体基板と該光検出器とを物理的に接続し、もって、該化合物半導体基板と該光検出器とを一体化する接続手段とを備え、該接続手段が該化合物半導体基板が電子線の入射に応じて発生した蛍光を該光検出器に導き、該光検出器が該蛍光を検出する電子線検出器と、該電子線検出器の該化合物半導体基板の該電子線入射表面に対向する位置に設けられたマイクロチャンネルプレートとを備え、該マイクロチャンネルプレートが、入射したイオンに応じて二次電子を発生し、該発生した二次電子が該電子線検出器の該電子線入射表面に入射することを特徴とする。
【0025】
マイクロチャンネルプレートがイオンの入射に応じて二次電子を発生し、この電子が電子線検出器で検出される。かかるイオン検出器によれば、電子線検出器の応答特性がよいため、イオン検出を良好な応答特性にて行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態に係る電子線検出器について説明する。なお、同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0027】
(第1の実施の形態)
第1図は、第1の実施形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。
【0028】
この電子線検出器100は、略円柱形状をしており、その軸に沿って、化合物半導体基板1、ライトガイド2、及び、光検出器としての光電子増倍管10が配置され、これらが一体化されて構成されている。化合物半導体基板1は、入射した電子を蛍光に変換するためのものである。光電子増倍管10は、光入射面Iを有し、光入射面Iに入射した光を検出するための光検出器である。ライトガイド2は、蛍光透過性の材料からなる光学部材である。光電子増倍管10の光入射面Iにライトガイド2が貼り付けられており、このライトガイド2に化合物半導体基板1が取り付けられている。こうして、化合物半導体基板1は、ライトガイド2により、光電子増倍管10の光入射面Iに光学的に結合され、且つ、化合物半導体基板1と光電子増倍管10とが物理的に接続されており、化合物半導体基板1と光電子増倍管10とが一体化されて電子線検出器100が構成されている。
【0029】
化合物半導体基板1は、被覆層1aと、発光層1bと、基板層1cとを備えている。中間半導体層としての発光層1bは、被覆層1aと基板層1cとに挟まれている。本実施の形態では、発光層1bは化合物半導体GaAsで形成されている。GaAsは、電子の入射に応じて蛍光を発生する単結晶である。その発光波長は870nmである。被覆層1aと基板層1cとは、共に、化合物半導体AlGaAsで形成されている。こうして、化合物半導体基板1は、GaAsとAlGaAsとを含んで構成されている。ここで、AlGaAsはGaAsよりもエネルギーバンドギャップが広く、隣接する半導体1a,1b間,及び、1b、1c間にへテロ接合が形成されることで、蛍光の発光効率が高くなっている。本実施の形態の場合には、被覆層1aの表面(発光層1bに接していない側の面(第1図における上側面))が電子線入射側表面1inを規定し、基板層1cの表面(発光層1bに接していない側の面(第1図における下側面))が蛍光出射側表面1outを規定している。
【0030】
かかる構造の化合物半導体基板1は、図示しない例えばGaAs等で形成された基盤の上に、被覆層1a、発光層1b、及び、基板層1cを、この順に形成し、その後、被覆層1aを基盤から分離することで、作成する。
【0031】
化合物半導体基板1の電子線入射側表面1in上(すなわち、被覆層1a上)には、金属層3が形成されている。金属層3は、例えば、アルミニウムで形成されている。金属層3は、電子線を加速させながら引き寄せるための正電位が与えられる電極として機能する。金属層3は、電子線が透過できる程度に薄く、具体的には、厚さが30〜50nmとなるように、形成されている。なお、電子の透過率を向上させるため、金属層3をメッシュ状とすることもできる。
【0032】
金属層3は、また、化合物半導体基板1に入射した電子線の電荷による化合物半導体基板1内の電荷蓄積(チャージアップ)を抑制する機能をも有する。金属層3は、更に、化合物半導体基板1内で発生した蛍光を蛍光出射側表面1outの方向に反射し、蛍光を蛍光出射側表面1outから光電子増倍管10の光入射面I方向に出射させる機能をも有する。
【0033】
本実施の形態では、光電子増倍管10は、透過型光電面を有するヘッドオン型である。具体的には、光電子増倍管10は、金属製の側管10a、側管10aの頂部の開口を閉塞する光入射窓(光入力面板)10b、及び、側管10aの底部の開口を閉塞するステム板10cからなる真空容器を備えている。光入射窓10bの外側表面が光入射面Iを規定する。
【0034】
真空容器内には、光入射窓10bの内面に形成された光電陰極10dと、電子増倍部10eと、陽極部10fとが配置されている。また、光電陰極10dと電子増倍部10eとの間には、収束電極板10gが配置されている。複数のピン10pが、ステム板10cを貫通するように設けられている。
【0035】
光電陰極10dの材料としてはGaAsを用いることが好ましい。化合物半導体基板1がGaAsを含むからである。
【0036】
電子増倍部10eは、ブロック状で積層タイプのものであり、複数段のダイノード12が積層されて構成されている。
【0037】
陽極部10fには、複数の陽極14が配置されている。
【0038】
複数のピン10pは、電子増倍部10e用の複数のピン10pと陽極部10f用の複数のピンとから構成されている。各陽極用ピン10pは、図示しないリード線を介して、対応する陽極14に接続されている。また、残りの電子増倍部用ピン10pの各々が、電子増倍部10eの対応する段のダイノード12に接続されており、当該対応する段のダイノード12に所定の電位を与えるようになっている。なお、金属製の側管10aの電位は0ボルトであり、光電陰極10dは側管10aに電気的に接続されている。
【0039】
上記構成を有する光電子増倍管10は、約1nsという極めて高い時間応答特性を有している。化合物半導体基板1は、後述するように、約2ns以下という極めて高い応答特性を有しているため、光電子増倍管10と化合物半導体基板1とを組み合わせることにより、極めて応答特性の良い電子線検出器100を実現している。
【0040】
なお、光電子増倍管10としては、上記のような複数の陽極14を備えたマルチアノードタイプではなく、単一の陽極を備えるシングルアノードタイプでも良い。その場合には、当該単一の陽極14が1つの陽極用ピン10pに接続される。
【0041】
また、電子増倍部10eも、上記のようなブロック状で積層型のものに限られず、他の任意の型のダイノード、例えば、メッシュ型のダイノードで構成しても良いし、マイクロチャネルプレートで構成して良い。
【0042】
ライトガイド2は、円柱状もしくは円板状のガラス板からなり、光入力端面2inと光出力端面2outとを備えている。本実施の形態では、光入力端面2inと光出力端面2outとは、互いに略等しい面積を有している。化合物半導体基板1の蛍光出射側表面1out(基板層1cの表面)とライトガイド2の光入力端面2inとの間には、接着層AD1が介在しており、接着層AD1によってライトガイド2と化合物半導体基板1との間の相対位置が固定されている。ここで、接着層AD1は、蛍光透過性の材料からなる。本実施の形態の場合には、接着層AD1は、SiN層ADaとSiO2層ADbとから構成されている。より詳しくは、化合物半導体基板1の基板層1cの表面1out上にSiN層ADaが形成されており、さらに、SiO2層ADbがSiN層ADa上に形成されている。なお、接着層AD1全体としての屈折率は、1.5である。SiN層ADaは、反射防止膜としても機能する。すなわち、化合物半導体基板1内で発生した蛍光が接着層AD1を透過する際に、化合物半導体基板1方向へ反射して戻ってしまうのを抑制する。
【0043】
ここで、SiN層ADaは、スパッタリング法等によって、化合物半導体基板1の基板層1c上に形成される。このため、SiN層ADaは化合物半導体基板1に対して高い結合力にて結合される。SiO2層ADbも、同じくスパッタリング法等によって、SiN層ADa上に形成される。このため、SiO2層ADbもSiN層ADaに対して高い結合力にて結合される。SiO2層ADbが、ライトガイド2の光入力端面2inに融着されている。ここで、SiO2層ADbもライトガラス2(ガラス)も共に珪化酸化物であるため、これらは、加熱されることにより融着される。こうして、接着層AD1が、全体として、化合物半導体基板1をライトガイド2に対して確実に接着する。
【0044】
ライトガイド2の光出力端面2outと光電子増倍管10の光入射面I(光入射窓10bの外側表面)との間には、蛍光透過性の接着剤で形成された接着層AD2が介在している。当該接着層AD2によって、ライトガイド2と光電子増倍管10との間の相対位置が固定されている。ここで、この接着剤は、例えば、蛍光透過性の樹脂である。なお、接着層AD2の屈折率も、例えば、1.5である。
【0045】
かかる構成を有する本実施の形態の電子線検出器100は、以下のように動作する。
【0046】
電子線を検出しようとする場合、金属層3に所望の正電位を印加する。その結果、検出しようとする電子線が、金属層3に引き寄せられる。電子線は、金属層3を透過し、化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inに入射する。化合物半導体基板1は、かかる電子線の入射に応じて蛍光を発生する。この蛍光は、直接、或いは、金属層3で反射されて、蛍光出射側表面1outから出射し、接着層AD1を介して、ライトガイド2の光入力端面2inに入射する。蛍光は、ライトガイド2を透過し光出力端面2outから出射し、接着層AD2を透過して、光電子増倍管10の光入射面Iに到達する。
【0047】
光入射面Iに入射した蛍光は、光入射窓10bを透過して光電陰極10dに入射する。光電陰極10dは、蛍光の入射に応じて光電変換を行って、光電子を、光電子増倍管10の真空容器内部方向に放出する。この電子は、電子増倍部10eによって多段増倍され、陽極部10fで収集される。陽極部10fで収集された電子は、電子線検出器100に入射した電子線の量を示す信号として、陽極用ピン10pを介して光電子増倍管10の外部に取り出される。
【0048】
以上のように、本実施の形態の電子線検出器100では、ライトガイド2により、化合物半導体基板1における電子線入射表面1in(被覆層1aの表面)とは反対側の蛍光出射表面1out(基板層1cの表面)を光電子増倍管10の光入射面Iに光学的に結合し、且つ、化合物半導体基板1と光電子増倍管10とを物理的に接続し、もって、化合物半導体基板1と光電子増倍管10とを一体化している。化合物半導体基板1が金属層3を介して入射した電子を蛍光に変換すると、ライトガイド2が当該蛍光を光電子増倍管10に導き、光電子増倍管10が蛍光を検出することで、入射した電子線を検出する。化合物半導体基板1と光電子増倍管10の応答特性が極めて良いため、高い応答特性にて電子線検出を行うことができる。
【0049】
第2図は、上記化合物半導体基板1に、パルス的に電子を入射させた場合に電子線検出器100から出力される電流信号強度(任意定数)の時間(ns)に対する依存性(D1:実施例)を示すグラフである。なお、各層1a,1b,1cの厚みは、それぞれ、100nm、5000nm、100nmであった。
【0050】
また、電子線検出器100において上記化合物半導体基板1の代わりに蛍光体(P47)を設け、当該蛍光体にパルス的に電子を入射させた場合に電子線検出器100から出力される電流信号強度(任意定数)の時間(ns)に対する依存性(D2:比較例)をも示している。
【0051】
同グラフに示すように、実施例及び比較例の強度が入射時の強度の10%に減少するまでの時間は、それぞれ、0.6ns、90nsであり、実施例のものの方が応答速度が高いことが分かる。特に、実施例の場合には、上記時間が2ns以下であり、絶対的応答速度も非常に高い。
【0052】
本実施の形態の電子線検出器100は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や質量分析装置に用いることができる。
【0053】
第3図は、本実施の形態の電子線検出器100を備えた走査型電子顕微鏡200の主要部の概略説明図である。走査型電子顕微鏡200は、真空チャンバを構成する壁部210を備えている。真空チャンバ内には、電子線走査部220と試料SMとが、互いに対向するように、配置されている。電子線走査部220は、電子銃220aと、一対の偏向電極(偏向板)220bとを備え、試料SMの表面上を電子線e1で走査することにより、試料SMに二次電子e2を発生させる。
【0054】
本実施の形態の電子線検出器100は、少なくとも金属層3と化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inとが真空チャンバ内に位置するように、壁部200に対し着脱自在に取り付けられており、二次電子e2を検出するようになっている。
【0055】
電子線検出器100と電子線走査部220とは、コンピュータからなる制御装置230に接続されている。制御装置230は、電圧印加部230aを備えている。電圧印加部230aは、電子線検出器100の金属層3に接続されている。電圧印加部230aは、金属層3に所定の正の電圧を印加し、金属層3に試料SMに対する所定の相対電位を与えることで、試料SMで発生した二次電子e2を電子線検出器100に導く。制御装置230は、さらに、制御部230bを備えている。制御部230bは、電子銃220aと偏向電極220bと、光電子増倍管10の複数のピン10pと、モニター240とに接続されている。制御部230bは、走査型電子線顕微鏡200の各部を制御する。制御部230bは、偏向電極220bへ印加する電圧の掃引状態が示す電子線e1の走査位置と電子線検出器100の出力とを対応づけながらモニター240を制御することにより、モニター240に試料SMの像を表示させる。
【0056】
かかる構成を有する走査型電子線顕微鏡200は、制御装置230による制御の下、以下のように動作する。
【0057】
電子銃220aが電子線e1を試料SM上に照射すると、偏向電極220bが電子線e1を偏向して、試料SMの表面を走査する。その結果、試料SMの表面から二次電子が放出される。これが電子線e2として電子線検出器100へ導かれる。電子線e2の入射に応じて陽極用ピン10pから電気信号が出力される。ここで、全陽極用ピン10pからの出力の総和が、電子線検出器100に入射した電子線e2の量の総和を示している。そこで、制御部230bは、偏向電極220bの電圧掃引値(電子線e1の走査位置)と電子線検出器100の出力結果である全陽極用ピン10pからの出力総和値とを同期させて対応づけることにより、試料SMの像を表示する。
【0058】
以上のように、走査型電子線顕微鏡200では、電子線検出器100の少なくとも金属層3と化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inとが真空チャンバ内に配置されている。このため、真空チャンバ内に配置された試料SMの表面上を電子線e1で走査することにより、試料SMから発生した二次電子を電子線検出器100に導き、試料SMの像を撮影することができる。
【0059】
第4図は、上記走査型電子顕微鏡200の電子線検出器100から出力される電流信号の強度(任意定数)の時間(ns)に対する依存性を示すグラフである。D1は、電子線検出器100が本実施の形態である場合のデータを示し、D2は、化合物半導体1の代わりに蛍光体(P47)を使用した上記比較例のもののデータを示す。なお、試料SMの表面領域をマトリックス状に配列された微小領域の集合体として規定し、各微小領域を画素とし、各画素毎に電子線e1をパルス的に照射する場合において、隣接する画素間の走査に必要な時間間隔を10nsとする。
【0060】
比較例の場合、強度減衰に90nsを要するので、10nsの時間間隔で走査を行うと残光が発生するが、本実施の形態の場合、強度減衰は2ns以下で行われるので、残光が発生しないこととなる。ここで、実施の形態におけるコントラストを符号C2で、比較例の場合におけるコントラストを符号C1で示すと、本実施の形態の電子線検出器100を用いることにより、比較例に比べ、コントラストが極めて良い画像を得ることができるのがわかる。また、本実施の形態のものにおいては、減衰時間が短いため、走査速度を向上させる、すなわち、走査間隔を10nsより短くすることもできる。
【0061】
第5図は、本実施の形態の電子線検出器100を備えた質量分析装置300の主要部の概略説明図である。
【0062】
この質量分析装置300は、真空チャンバを構成する壁部310を備えている。真空チャンバ内には、イオン発生部320と、分離部330と、ダイノード部(イオン−電子変換部)340とが設けられている。
【0063】
イオン発生部320は、試料に基づいてイオンを発生するためのものである。イオン発生部320には、質量分析を行いたいガス分子試料、もしくは、加熱気化された試料分子が導入される。イオン発生部320は、例えば、図示しないフィラメントを備えており、フィラメントで発生した熱電子で導入試料をたたくことにより、導入試料をイオン化して、分離部330内に導く。
【0064】
分離部330は、イオン発生部320内で発生したイオンを、その質量に応じて、空間的又は時間的に、分離するためのものである。本実施の形態の場合には、分離部330は、4個の円筒電極からなる四重極電極330aと、アパーチャ壁部330bとを備え、イオンを質量に応じて空間的に分離する。
【0065】
アパーチャ壁部330bは、四重極電極330aとダイノード部340との間の所定の位置に配置されており、イオン通過用アパーチャAPが形成されている。四重極電極330aに定常電圧と所定の周波数の交流電圧とを重畳した電圧が印加されると、イオン発生部320から導入されたイオンのうち、当該所定周波数に対応する質量のイオンが、他の質量のイオンと空間的に分離され、アパーチャAPを通過しダイノード部340に入射することができる。
【0066】
ダイノード部340は、アパーチャ壁部330bに対して分離部330とは逆側に位置している。ダイノード部340は、イオンの入射に応じて二次電子e3を放出するためのものである。本実施の形態では、ダイノード部340は、正イオンが照射されるための第1ダイノードDY1と、負イオンが照射されるための第2ダイノードDY2とを備えている。
【0067】
本実施の形態の電子線検出器100は、少なくとも金属層3と化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inとが真空チャンバ内に位置するように、壁部310に対し着脱自在に取り付けられており、二次電子e3を検出する。
【0068】
ここで、イオン生成部320にて生成されたイオンのうち、正イオンを引き出してその分析を行いたい場合には、第1ダイノードDY1に負電位が与えられる。分離部330内に位置するイオンのうち、四重極電極330aに印加されている交流電圧の周波数に対応した質量を有する正イオンが、アパーチャAPを通過して第1ダイノードDY1に衝突する。この衝突に伴って第1ダイノードDY1の表面から二次電子が放出され、これが電子線e3として電子線検出器100へ導かれる。電子線e3の入射に応じて陽極用ピン10pから電気信号が出力される。
【0069】
一方、負イオンの分析を行う場合には、第2ダイノードDY2に正電位が与えられる。分離部330内に位置するイオンのうち、四重極電極330aに印加されている交流電圧の周波数に対応した質量を有する負イオンが、アパーチャAPを通過して第2ダイノードDY2に衝突する。この衝突に伴って第2ダイノードDY2の表面から二次電子が放出され、これが電子線e3として電子線検出器100へ導かれる。電子線e3の入射に応じて陽極用ピン10pから電気信号が出力される。
【0070】
電子線検出器100、イオン発生部320、分離部330、及び、ダイノード部340は、コンピュータからなる制御装置350に接続されている。制御装置350は、電圧印加部350aを備えている。電圧印加部350aは、電子線検出器100の金属層3に接続されており、金属層3に所定の正の電圧を印加することで、金属層3にダイノード部340に対する所定の相対電位を与え、ダイノード部340で発生した二次電子e3を電子線検出器100に導く。
【0071】
制御装置350は、さらに、制御部350bを備えている。制御部350bは、イオン発生部320内の図示しないフィラメントと、分離部330の四重極電極330aとアパーチャ壁部330bと、ダイノード部340の第1,第2ダイノードDY1,DY2と、光電子増倍管10のピン10pと、モニター360とに接続されている。制御部350bは、質量分析装置300の各部を制御する。制御部350bは、電子線検出器100の出力を、四重極電極330aに印加する交流電圧の周波数が示す分離イオンの質量と対応づけながらモニター360を制御することにより、試料の質量分析結果をモニター360に表示する。
【0072】
かかる構成を有する質量分析装置300は、以下のように動作する。
【0073】
制御部350bは、分離部330の四重極電極330aに印加する交流電圧の周波数を掃引する。その結果、対応する質量のイオンが、順次、対応するダイノード(ダイノードDY1またはダイノードDY2)に照射され、当該ダイノードの表面から二次電子が放出される。これが電子線e3として電子線検出器100へと導かれる。電子線e3の入射に応じて陽極用ピン10pから電気信号が出力される。ここで、全陽極用ピン10pからの出力の総和が、電子線検出器100に入射した電子線e3の量の総和を示している。そこで、制御部350bは、交流電圧周波数の掃引値(分離イオンの質量)と電子線検出器100の出力結果である全陽極用ピン10pからの出力総和値とを同期させて対応づけることにより、試料の質量分析結果をモニター360に表示する。
【0074】
なお、分離部330としては、上述の四重極電極型の他、様々なタイプのものを採用することができるが、いずれもイオンを質量に応じて時間的又は空間的に分離するものである。
【0075】
例えば、分離部330が飛行管である場合には、イオンの飛行管内部での通過時間が質量に応じて異なる。そのため、結果的には、イオンのダイノードDY1又はDY2への到達時間が質量に応じて異なることになる。このように、飛行管は、イオンを質量に応じて時間的に分離する。全陽極用ピン10pから出力される電流値の総和が時間毎に各質量のイオンの量を示すため、その時間変化をモニタすれば各質量のイオンの量が判明する。
【0076】
また、分離部330が磁界を形成する磁界分散型である場合には、イオンの飛行軌道が質量に応じて異なる。すなわち、イオンを質量に応じて空間的に分離することができる。このため、分離部330の磁束密度を可変とすることにより、アパーチャAPを通過できるイオンの質量を変えることができる。したがって、磁束密度を掃引しながら、もしくは、アパーチャAPの位置を走査しながら、陽極用ピン10pから出力される電流値の総和の時間変化をモニタすれば、この電流値総和が時間毎に対応する質量のイオンの量を示すことになる。このため、各イオンの質量が判明する。
【0077】
以上、説明したように、質量分析装置300では、電子線検出器100の少なくとも金属層3と化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inとが真空チャンバ内に配置されている。真空チャンバ内では、分離部330が、図示しない試料から発生したイオンを、その質量に応じて空間的又は時間的に分離する。分離部330で分離されたイオンがダイノードDY1またはDY2に照射されると、当該ダイノードから二次電子e3が発生する。二次電子e3は、電子線検出器100に導かれ、電子線検出器100の出力に基づいて試料の質量分析が行われる。ここで、上述のように、電子線検出器100は応答速度が速いので、質量分解能を著しく向上させることができる。
【0078】
(第1の変更例)
上記説明では、電子線検出器100の化合物半導体基板1は、被覆層1aを有していたが、被覆層1aはなくてもよい。すなわち、化合物半導体基板1は、基板層1cと発光層1bとのみから構成されていても良い。この場合には、化合物半導体基板1を作成する際には、図示しない基盤の上に、発光層1bと基板層1cとをこの順に形成した後、発光層1bを基盤から分離すれば良い。ただし、本変更例の場合にも、基板層1c側をガラス2に貼り付けることが好ましい。発光層1bを直接ガラス2に張り付けると、発光層1bがガラス2により汚染されてしまう、すなわち、ガラス2内部に存在しているアルカリ金属が発光層1bに侵入して発光層1bを汚染してしまうため、好ましくないからである。したがって、この場合には、発光層1bの表面(基板層1cと接していない側の面)が電子線入射側表面1inを規定し、基板層1cの表面(発光層1bと接していない側の面)が蛍光出射側表面1outを規定することになる。金属層3が発光層1bの電子線入射側表面1in上に形成され、蛍光出射側表面1outが接着層AD1を介してライトガイド2に接続される。
【0079】
(第2の変更例)
さらに、このように化合物半導体基板1が被覆層1aを有していない場合には、発光層1b上に金属層3を形成しても良いが、形成しなくとも良い。
【0080】
発光層1b上に金属層3を形成しない場合には、発光層1bの電子線入射側表面1inが露出するため、電子線は発光層1bに直接入射することになる。また、この場合には、化合物半導体基板1の外表層(すなわち、発光層1bの表面1inを含む表層、もしくは、発光層1b全体)のキャリア濃度を高くすれば、化合物半導体基板1における電荷蓄積を抑制することができる。
【0081】
ここで、GaAsのキャリア濃度(cm-3)と抵抗率(Ωcm)との関係を、第6図に示す。なお、抵抗率yとキャリア濃度xとの関係式を同グラフ中に示す。ここで、例えば、活性化率が約1である、すなわち、約100%がイオン化しているとすると、キャリア濃度は不純物濃度に一致する。第6図より明らかなように、GaAsでは、活性化率が約1である場合、1×1019cm-3以上のキャリア濃度(不純物濃度)で、抵抗率は、所望の導通状態を達成できる程度にまで、低下する。したがって、キャリア濃度を1×1019cm-3以上とすることが、チャージアップを抑制する点で望ましい。
【0082】
なお、このように金属層3がない場合には、化合物半導体基板1の導電性を有する部分(具体的には、発光層1bの表面1inを含む表層、もしくは、発光層1b全体)に所望の正の電圧を印加することにより、化合物半導体基板1を正電位として、電子線を引き寄せることができる。
【0083】
本実施の形態の電子線検出器100は、上記のように、被覆層1aが設けられていない場合や金属層3が設けられていない場合にも、上述した走査型電子線顕微鏡200や質量分析装置300に適用できる。ただし、本変更例では、金属層3が設けられていないため、電子線検出器100は、少なくとも化合物半導体基板1の電子線入射側表面1inが真空チャンバ内に位置するように、壁部210または310に取り付けられる。また、化合物半導体基板1の導電性を有する部分(例えば、電子線入射側表面1in)が電圧印加部230a,350aに接続される。
【0084】
さらに、以下の実施形態における電子線検出器100も、上述した走査型電子線顕微鏡200や質量分析装置300に適用できる。
【0085】
(第2の実施の形態)
第7図は、第2の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第1実施形態のものとの相違点は、本実施形態のものにおいては、化合物半導体基板1は、化合物半導体AlGaAsPからなる基板1cと、基板1c上に形成された化合物半導体GaAsPからなる発光層1bとから構成されている点のみである。
【0086】
ここで、化合物半導体GaAsPも、電子線の入射に応じて蛍光を発生する単結晶であり、その発光波長は720nmである。また、この実施の形態でも、上記第1の実施の形態の第1の変更例と同様、被覆層1aは設けられておらず、発光層1b上に金属層3が直接設けられている。すなわち、発光層1bの表面(基板層1cに接していない側の面(第7図における上側の面))が電子線入射側表面1inを規定し、基板層1cの表面(発光層1bに接していない側の面(第7図における下側の面))が蛍光出射側表面1outを規定している。金属層3が発光層1bの電子線入射側表面1in上に形成され、蛍光出射側表面1outが接着層AD1を介してライトガイド2に接続されている。
【0087】
なお、このように化合物半導体基板1がGaAsPの場合には、光電子増倍管10の光電陰極10dの材料はマルチアルカリであることが好ましい。
【0088】
本実施の形態の構成においても、電子線検出器100は十分な応答特性を得ることができる。
【0089】
(第1の変更例)
また、第1の実施の形態における第2の変更例同様、化合物半導体基板1上に金属層3を形成しなくても良い。この場合には、発光層1bの電子線入射側表面1inが露出される。このように金属層3を形成しない場合には、化合物半導体基板1の表層(発光層1bの表面1inを含む表層、もしくは、発光層1b全体)のキャリア濃度を高くすれば、化合物半導体基板1における電荷蓄積を抑制することができる。ここで、GaAsPのキャリア濃度(cm-3)と抵抗率(Ωcm)との関係を、第8図に示す。この図より明らかなように、GaAsPでも、1×1019cm-3以上のキャリア濃度で、抵抗率が、所望の導通状態を達成できる程度にまで、低下する。したがって、キャリア濃度を1×1019cm-3以上とすることが望ましい。
【0090】
(第2の変更例)
上記説明では、発光層1b上に被覆層1aを設けていなかった。しかしながら、第1の実施の形態と同様、GaAsP発光層1b上に、基板1cと同一の材料である化合物半導体AlGaAsPからなる被覆層1aを、設けても良い。
(第3の変更例)
【0091】
なお、化合物半導体基板1の発光層1bは、上記(1)GaAs及び(2)GaAsP以外にも、様々な化合物半導体により形成することができる。ここで、発光層1bは、III−V族系の化合物半導体、例えば、(1)GaAsと(2)GaAsPの他、(3)GaN、(4)GaAlN、(5)GaInNや、II−VI族系の化合物半導体、例えば、(6)ZnSや(7)ZnSeから形成することが好ましい。なお、これらの化合物半導体は、いずれも、電子線の入射に応じて蛍光を発生する単結晶であり、その発光波長は、それぞれ、(3)360nm、(4)360nm以下、(5)360nm〜620nm、(6)350nm、(7)480nmである。
【0092】
従って、発光層1bは、(1)GaAs、(2)GaAsP、(3)GaN、(4)GaAlN、(5)GaInN、(6)ZnS、及び、(7)ZnSeからなる群の少なくともいずれか1つの材料から形成することが好ましい。
【0093】
ここで、発光層1bが上記のどの材料で形成されている場合にも、化合物半導体基板1は、少なくとも、発光層1bと基板層1cとを備え、基板層1cがライトガイド2に接続されていれば良い。なお、発光層1bの上に被覆層1aと金属層3とを設けても良いし、設けなくても良い。また、発光層1bの上に直接金属層3を設けてもよい。一方、発光層1bの上に被覆層1aや金属層3を設けない場合には、発光層1bの少なくとも電子線入射側表面1inを含む表層もしくは全体のキャリア濃度を、所定のキャリア濃度(例えば、1×1019cm-3)以上のキャリア濃度に調整し、その抵抗率を、所望の導通状態を達成できる程度にまで、低下させれば、化合物半導体1のチャージアップを抑制できるため、好ましい。
【0094】
なお、化合物半導体基板1の発光層1bが上記(3)〜(7)の材料のいずれかである場合には、光電陰極10dの材料はバイアルカリであることが好ましい。
【0095】
(第3の実施の形態)
第9図は、第3の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第1の実施の形態のものとの相違点は、本実施の形態においては、接着層AD1が、2層構造ではなく、蛍光透過性の接着剤(樹脂)からなる1層構造である点のみである。かかる1層構造の接着層AD1が、化合物半導体基板1とライトガイド2とを接着している。この構造においても、化合物半導体基板1とライトガイド2とを十分な強度で接続することができ、また、十分な応答特性を得ることができる。
【0096】
(第4の実施の形態)
第10図は、第4の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第3の実施の形態のものとの相違点は、本実施の形態のものにおいては、ライトガイド2を介在することなく、接着層AD1が化合物半導体基板1と光電子増倍管10とを接着している点のみである。この構造においても、化合物半導体基板1と光電子増倍管10とを十分な強度で接続することができ、また、十分な応答特性を得ることができる。
【0097】
(第5の実施の形態)
第11図は、第5の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第1の実施形態のものとの相違点は、本実施の形態のものにおいては、ライトガイド2の光進行方向(電子線検出器100の軸方向)の長さが光電子増倍管10の管長よりも長くなっている点のみである。この構造においても、十分な応答特性を得ることができる。
【0098】
(第6の実施の形態)
第12図は、第6の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第1の実施形態のものとの相違点は、本実施の形態のものにおいては、マイクロチャンネルプレート5が、金属層3に対向する位置に、付加された点のみである。
【0099】
ここで、マイクロチャンネルプレート5は、内壁に二次電子放出材料が形成された図示しない複数のガラスパイプを束ねた円板状構造を有しており、電子入射側表面5inと電子出射側表面5outとを備えている。かかる構造を有するマイクロチャンネルプレート5は、その電子出射側表面5outが、金属層3から所定の距離だけ離隔しつつ、かつ、金属層3に対向するように配置されている。
【0100】
より詳しくは、マイクロチャンネルプレート5の電子入射側表面5inの周囲には入射側電極52が形成されている。また、マイクロチャンネルプレート5の電子出射側表面5outの周囲には出射側電極54が形成されている。これら一対の電極52,54を介して、各ガラスパイプの両端に所定の電圧が印加される。
【0101】
また、本実施の形態では、金属層印加用電極30が、ライトガイド2の上端部の周囲に形成されている。この金属層印加用電極30が金属層3に接続されている。また、絶縁性の円筒状支持部材56が、電子線検出器100の軸方向上部位置に、金属層3と化合物半導体基板1とライトガイド2の上端部とを囲むように配置されている。支持部材56は、その下端部が金属層印加用電極30の端部に取り付けられ、その上端部が電極52及び電極54の端部に取り付けられている。かかる構造により、マイクロチャンネルプレート5は、支持部材56を介して、ライトガイド2に対して保持されている。なお、支持部材56を金属層印加用電極30に対し着脱自在に取り付けるようにすれば、マイクロチャンネルプレート5を、ライトガイド2に対して着脱自在に取り付けることができる。
【0102】
上記構成を有する本実施の形態の電子線検出器100は、以下のように動作する。
【0103】
入射側電極52、出射側電極54、及び、金属層印加用電極30には、この順に、低い電位から順次高い電位となり、かつ、これらの間に適当な電位差が生じるように、電圧が印加される。例えば、マイクロチャンネルプレート5の電子入射側表面5inと電子出射側表面5outとの間に500〜900ボルトの電位差があり、かつ、電子出射側表面5outと金属層3との間に5〜10キロボルトの電位差があるように、電圧が印加される。電子線が、マイクロチャンネルプレート5の電子入射側表面5inからガラスパイプ内部に入射すると、増倍された多数の電子が出射側5outより放出される。この電子は、マイクロチャンネルプレート5の出力端5outと金属層3との間の電位差により、金属層3に引き寄せられ、金属層3を介して化合物半導体基板1に入射する。
【0104】
この構造においても、十分な応答特性を得ることができる。しかも、本実施の形態によれば、検出しようとする電子線が微弱でも、マイクロチャンネルプレート5で増倍することができるため、検出を行うことができる。
【0105】
また、電子線ではなくイオンがマイクロチャンネルプレート5に入射しても、マイクロチャンネルプレート5が当該イオンの量に応じた量の二次電子を生成し増倍することができる。かかる二次電子を、後段の化合物半導体基板1にて蛍光に変換し、さらに、光電子増倍管10にて検出することにより、イオンの検出をも行うことができる。したがって、本実施の形態の電子線検出器100は、イオン検出器としても使用することができる。
【0106】
なお、上記説明では、電子を増倍するために、マイクロチャンネルプレート5を設けたが、マイクロチャンネルプレート5の代わりに、他の電子増倍装置を設けても良い。
【0107】
(第7の実施の形態)
第13図は、第7の実施の形態に係る電子線検出器100の縦断面図である。本実施の形態に係る電子線検出器100と第4の実施形態のものとの相違点は、本実施の形態のものにおいては、光検出器として、光電子増倍管10の代わりに、アバランシェホトダイオードデバイス6を用いた点のみである。
【0108】
アバランシェホトダイオードデバイスデバイス6は、デバイスパッケージ61と、デバイスパッケージ61の頂部の開口を閉塞する光入射窓(光入力面板)62と、デバイスパッケージ61の底部の開口を閉塞するステム板63とからなる容器を備えている。光入射窓62の外側用面が光入射面Iを規定している。容器内のステム板63上には、アバランシェホトダイオード64が、その光入射面64aが光入射窓62に対向するように、設けられている。アバランシェホトダイオード64は、例えば、p+層640、p層642、及び、n+層644を備え、n+層644の外側表面が光入射面64aを規定している。複数のピン65がステム板63を貫通するように設けられており、アバランシェホトダイオード64内のpn接合に逆バイアスが印加されるようになっている。光入射窓62が、接着層AD1を介して化合物半導体基板1に接着されている。
【0109】
かかる構造の本実施の形態の電子線検出器100では、電子線が金属層3を介して化合物半導体基板1に入射すると、蛍光が発生する。蛍光は、アバランシェホトダイオードデバイス6の光入射窓62を介して、アバランシェホトダイオード64に入射する。その結果、アバランシェホトダイオード64内で、電子−正孔対が生成され、これらがアバランシェ増倍される。アバランシェ増倍された出力電流が、電子線入射量を示す信号として、ピン65を介して外部に取り出される。アバランシェホトダイオード64も十分高い応答特性を有しているため、本実施の形態の電子線検出器100も、十分高い応答特性を有している。
【0110】
なお、アバランシェホトダイオード64としては、上述の構造のものに限らず、任意の構造のアバランシェホトダイオードを採用することができる。
【0111】
また、第1〜3,5,6の実施の形態においても、本実施の形態と同様、光電子増倍管10の代わりにアバランシェホトダイオードデバイス6を採用しても良い。
【0112】
(変更例)
アバランシェホトダイオード64は、光入射面64aが小さい方が応答特性が良く、大面積の光入射面64aを有するアバランシェホトダイオード64では応答特性が低下してしまう。
【0113】
そこで、第14図に示すように、アバランシェホトダイオードデバイス6として、光入射面64の面積が小さく、したがって、光入射窓62が小さいものを使用することが好ましい。この場合には、光入射窓62より面積がかなり大きい化合物半導体基板1を使用し、化合物半導体基板1とアバランシェホトダイオードデバイス6とを、蛍光の出力面を縮小しながら導くライトガイド2を介して接続するようにすれば良い。なお、ライトガイド2は、第1の実施の形態のように、接着層AD1、AD2により、化合物半導体基板1とアバランシェホトダイオードデバイス6とに接着する。例えば、アバランシェホトダイオードデバイス6として、光入射窓62の面積が約1mm径のものを使用し、化合物半導体基板1として、約50mm(2インチ)径のものを使用する。そして、ライトガイド2として、その光入力端面2inの面積よりその光出力端面2outの面積の方が小さいような円錐形状のガラス板を使用して、化合物半導体基板1とアバランシェホトダイオードデバイス6とを接続する。本変更例によれば、小面積のアバランシェホトダイオードデバイス6を採用し高い応答特性を達成しつつ、大面積の化合物半導体基板1に入射する多量の電子を一度に検出することができる。したがって、精度よく検出を行うことができる。
【0114】
なお、本実施の形態及びその変更例では、アバランシェホトダイオード64を備えたアバランシェホトダイオードデバイス6の入力窓62を化合物半導体基板1と接続した。しかしながら、アバランシェホトダイオード64をデバイスパッケージ61内に設けず、アバランシェホトダイオード64の光入射面64aを、直接、もしくは、ライトガイド2を介して、化合物半導体基板1に接続するようにしても良い。
【0115】
以上、説明したように、上述のいずれの実施の形態の電子線検出器も、電子線入射に応じて発生する蛍光の寿命が短い化合物半導体基板を光検出器の光入射面に光学的に結合させ、これらを一体化しているので、十分な応答特性を得ることができる。したがって、走査型電子線顕微鏡や質量分析装置、イオン検出器に特に有効である。
【0116】
本発明に係る電子線検出器、走査型電子顕微鏡、質量分析装置、及び、イオン検出器は、前述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0117】
例えば、上記第3〜第7の実施の形態のいずれにおいても、第1の実施の形態の第1の変更例同様、化合物半導体基板1として、被覆層1aが形成されていないものを採用しても良い。もしくは、第1の実施の形態の第2の変更例同様、被覆層1aと金属層3とを設けず、代わりに、発光層1bの少なくとも表層のキャリア濃度を高くしても良い。なお、上記第6の実施の形態において被覆層1aも金属層3も設けない場合には、マイクロチャンネルプレート5は発光層1bに対向することになる。また、発光層1bの少なくとも表層のキャリア濃度を高くした場合には、金属層印加用電極30を、発光層1bの少なくとも表層に接続すれば良い。
【0118】
また、上記第3〜第7の実施の形態のいずれにおいても、化合物半導体基板1として、第2の実施の形態のように、AlGaAsPからなる基板層1cの上にGaAsPからなる発光層1bが形成されており被覆層1aが形成されていないものを採用しても良い。また、その場合には、第2の実施の形態の第1の変更例同様、金属層3を設けず、代わりに、発光層1bの少なくとも表層のキャリア濃度を高くしても良い。逆に、第2の実施の形態の第2の変更例同様、被覆層1aと金属層3とを設けてもよい。さらに、第2の実施の形態の第3の変更例同様、発光層1bを、GaAsやGaAsP以外の化合物半導体、例えば、上記化合物半導体(3)〜(7)で形成しても良い。
【0119】
化合物半導体基板1は、上述以外の様々な化合物半導体にて形成してもよく、また、その構造も、上述の構造に限られない。電子線の入射に応じて蛍光を発生するものであれば、任意の化合物半導体基板を採用することができる。また、被覆層1aを、キャリア濃度を変化させることができる材料で作成した場合には、被覆層1aの上には金属層3を設けなくても良い。この場合には、被覆層1aの露出面が電子線入射側表面1inを規定することになる。被覆層1aのキャリア濃度を調整し、チャージアップを抑制するようにすれば良い。さらに、被覆層1a、発光層1b、及び、基板層1cの全てを、キャリア濃度を変化させることができる材料で作成した場合にも、被覆層1aの上に金属層3を設けなくても良い。この場合には、被覆層1aのキャリア濃度、層1a及び1bのキャリア濃度、もしくは、全層1a〜1c、すなわち、化合物半導体基板1全体のキャリア濃度を調整し、チャージアップを抑制するようにすれば良い。
【0120】
光検出器としては、光電子増倍管10やアバランシェホトダイオードデバイス6に限らず、様々なタイプの光検出器を採用することができる。
【0121】
ライトガイド2としては、ガラス板の他、様々なタイプの蛍光を導くことができるライトガイドを採用することができる。例えば、光ファイバプレート(FOP)を採用しても良い。第7の実施の形態の変更例の場合には、ライトガイド2として、円錐形状の光ファイバープレートを採用すれば良い。
【0122】
また、ライトガイド2の代わりに、様々なタイプの蛍光を導くことができる光学部材を使用して、化合物半導体基板と光検出器とを光学的に結合し物理的に接続して一体化させても良い。例えば、化合物半導体基板と光検出器とをレンズにて接続し、化合物半導体基板1の蛍光出射側表面1outから出射した蛍光を光検出器の光入射面I上に集光するようにしてもよい。
【0123】
さらに、接着層の構造も、上述の構造に限られない。蛍光透過性があり、化合物半導体基板と光検出器とを、光学的に結合し、かつ、物理的に接続して一体化することができるものであれば良い。
【0124】
さらに、接着層、もしくは、接着層とライトガイドとにより化合物半導体基板と光検出器とを接続する以外にも、様々な構成により、化合物半導体基板と光検出器とを光学的に結合し物理的に接続して一体化させることができる。
【0125】
走査型電子顕微鏡200においては、電子線走査部220は、電子線を走査するための構成であれば、電子銃と偏向板との組み合わせに限らず、任意の構成とすることができる。また、電子線検出器は、真空チャンバ内において、試料からの二次電子を受け取ることができる任意の位置に配置することができる。制御装置230には、モニター240の代わりに、プリンタ等、任意の出力装置を接続することができる。走査型電子顕微鏡は、少なくとも電子線走査部と電子線検出器とを備えた真空チャンバを備えていれば良い。かかる走査型電子顕微鏡を汎用の制御装置や出力装置に接続して使用すれば、自由度がより高まり、簡便となる。
【0126】
質量分析装置300においては、ダイノード部340は、分析したい試料に対応して、第1ダイノードDY1のみ、もしくは、第2ダイノードDY2のみを備える構成であっても良い。また、ダイノード部340の構成も任意の構成とすることができる。例えば、ダイノード部340は、イオンの入射に応じて電子を放出する任意のタイプのイオン−電子変換装置を備えていれば良く、ダイノードを備えていなくても良い。また、電子線検出器は、真空チャンバー内において、ダイノードからの二次電子を受け取ることができる任意の位置に配置することができる。制御装置350には、モニター360の代わりに、プリンタ等、任意の出力装置を接続することができる。質量分析装置は、少なくとも、イオン発生部と分離部とダイノード部と電子線検出器とを備えた真空チャンバを備えていれば良い。質量分析装置を汎用の制御装置や出力装置に接続して使用すれば、自由度がより高まり、簡便となる。
【0127】
イオン検出器においては、マイクロチャンネルプレートの代わりに、イオンの入射に応じて電子を放出するための任意のイオン−電子変換装置を、化合物半導体基板の前段に配置することができる。
【0128】
以上、説明したように、本発明にかかる電子線検出器によれば、十分な応答特性を得ることができ、これを適用した本発明の走査型電子線顕微鏡、質量分析装置、及び、イオン検出器は、所望の動作を高精度に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明に係る電子線検出器、走査型電子顕微鏡、質量分析装置、及び、イオン検出器は、半導体検査分野や物質分析分野等、固体、気体、イオン等の各種物質を検査する用途に幅広く用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】第1図は、本発明の第1の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図2】第2図は、電流信号強度(任意定数)の時間(nm)に対する依存性を示すグラフである。
【図3】第3図は、第1図の電子線検出器を備えた走査型電子顕微鏡の主要部の概略説明図である。
【図4】第4図は、第3図の走査型電子顕微鏡に設けられた電子線検出器から出力される電流信号の強度(任意定数)の時間(ns)に対する依存性を示すグラフである。
【図5】第5図は、第1図の電子線検出器を備えた質量分析装置の主要部の概略説明図である。
【図6】第6図は、GaAsのキャリア濃度(cm-3)と抵抗率(Ωcm)との関係を示すグラフである。
【図7】第7図は、第2の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図8】第8図は、GaAsPのキャリア濃度(cm-3)と抵抗率(Ωcm)との関係を示すグラフである。
【図9】第9図は、第3の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図10】第10図は、第4の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図11】第11図は、第5の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図12】第12図は、第6の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図13】第13図は、第7の実施の形態に係る電子線検出器の縦断面図である。
【図14】第14図は、第7の実施の形態に係る電子線検出器の変更例の縦断面図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子の入射に応じて蛍光を発する蛍光体であって、
化合物半導体層と、
前記化合物半導体層上にヘテロ接合を介して形成されて化合物半導体発光層と、
を備え、
電子が前記化合物半導体発光層に入射することで蛍光が発せられ、前記蛍光は前記化合物半導体層の前記化合物半導体発光層とは接していない側の面から出射することを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
電子の入射に応じて蛍光を発する蛍光体であって、
化合物半導体層と、
前記化合物半導体層上にヘテロ接合を介して形成された化合物半導体発光層と、
前記化合物半導体発光層上にヘテロ接合を介して形成された化合物半導体被覆層と、
を備え、
電子が前記化合物半導体被覆層側から前記化合物半導体発光層に入射することで前記化合物半導体発光層は蛍光を発し、前記蛍光は前記化合物半導体層の前記化合物半導体発光層と接していない側の面から出射することを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
前記化合物半導体発光層は、GaAs、GaAsP、GaN、GaAlN、GaInN、ZnS、及び、ZnSeからなる群の少なくともいずれか1つの材料で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
更に、前記化合物半導体基板の前記電子線入射表面上に金属層を備えていることを特徴とする請求項1、2または3に記載の蛍光体。
【請求項1】
電子の入射に応じて蛍光を発する蛍光体であって、
化合物半導体層と、
前記化合物半導体層上にヘテロ接合を介して形成されて化合物半導体発光層と、
を備え、
電子が前記化合物半導体発光層に入射することで蛍光が発せられ、前記蛍光は前記化合物半導体層の前記化合物半導体発光層とは接していない側の面から出射することを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
電子の入射に応じて蛍光を発する蛍光体であって、
化合物半導体層と、
前記化合物半導体層上にヘテロ接合を介して形成された化合物半導体発光層と、
前記化合物半導体発光層上にヘテロ接合を介して形成された化合物半導体被覆層と、
を備え、
電子が前記化合物半導体被覆層側から前記化合物半導体発光層に入射することで前記化合物半導体発光層は蛍光を発し、前記蛍光は前記化合物半導体層の前記化合物半導体発光層と接していない側の面から出射することを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
前記化合物半導体発光層は、GaAs、GaAsP、GaN、GaAlN、GaInN、ZnS、及び、ZnSeからなる群の少なくともいずれか1つの材料で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
更に、前記化合物半導体基板の前記電子線入射表面上に金属層を備えていることを特徴とする請求項1、2または3に記載の蛍光体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−80124(P2009−80124A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283431(P2008−283431)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【分割の表示】特願2002−561972(P2002−561972)の分割
【原出願日】平成14年1月30日(2002.1.30)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【分割の表示】特願2002−561972(P2002−561972)の分割
【原出願日】平成14年1月30日(2002.1.30)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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