説明

蛍光半導体粒子

【課題】光を効率良く吸収して発光する蛍光半導体粒子を提供する。
【解決手段】蛍光半導体粒子は、光により励起され発光する無毒性の半導体量子ドットに、当該半導体量子ドットの発光波長に対応する吸収波長領域に吸収ピークを有する色素が吸着されて構成される。半導体量子ドットとしては、リン化インジウムや、リン化インジウムをコアとして硫化亜鉛のシェルを持つ粒子が好ましい。また、色素が半導体量子ドットの表面でJ凝集体を形成していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体量子ドットに色素が吸着された蛍光半導体粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、量子ドットは、細胞等の生体組織に対するバイオ用蛍光標識剤として注目されている。細胞イメージングにおいては、自家蛍光が少なく、細胞・生体へのダメージが少ない可視光を励起光として用いることが好ましい。しかし、量子ドットは、可視光領域における光の吸収が低く、可視光を励起光とした場合に発光強度が低いことが課題となっている。
【0003】
この課題の解決法として、II−VI族のCdSeをコアとしてZnSをシェルとする半導体ナノ粒子については、粒子表面に色素を吸着させることにより、可視光領域での励起光の吸収及び発光を可能とした報告がある(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jonathan E. Halpert, Jonathan R. Tischler, Gautham Nair, Brian J. Walker, Wenhao Liu, Vladimir Bulovic and Moungi G. Bawendi、“Electrostatic Formation of Quantum Dot/J-aggregate FRET Pairs in Solution”、The Journal of Physical Chemistry C、(米国)、2009年、第113巻、第23号、p.9986-9992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CdSeの量子ドットは毒性が強く、蛍光標識剤として環境面や細胞毒性の点で問題があった。
【0006】
本発明は、上記の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、光を効率良く吸収して発光する蛍光半導体粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、光により励起され発光する無毒性の半導体量子ドットに、当該半導体量子ドットの発光波長に対応する吸収波長領域に吸収ピークを有する色素が吸着されていることを特徴とする蛍光半導体粒子である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の蛍光半導体粒子において、前記色素が前記半導体量子ドットの表面でJ凝集体を形成していることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の蛍光半導体粒子において、前記半導体量子ドットがリン化インジウムであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の蛍光半導体粒子において、前記リン化インジウムが硫化亜鉛のシェルを持つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、半導体量子ドットに色素が吸着されているので、光を効率良く吸収して発光することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】粒子Bの吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る蛍光半導体粒子について説明する。
本発明の蛍光半導体粒子は、光により励起され発光する無毒性の半導体量子ドットに、当該半導体量子ドットの発光波長に対応する吸収波長領域に吸収ピークを有する色素が吸着されている。
【0014】
無毒性とは、Cd、Se、Te、Pb、Asの有毒元素を含まないことを指す。具体的には、無毒性の半導体量子ドットとして、InP(リン化インジウム)、CuInS、Si、Ge等が挙げられる。
【0015】
また、半導体量子ドットは、コア/シェル構造を有することが好ましい。例えば、InP、CuInS、Si、Ge等をコアとして、ZnS(硫化亜鉛)のシェルを持つものが挙げられる。
【0016】
色素としては、半導体量子ドット粒子の表面に吸着され、かつ、励起エネルギーを半導体量子ドット粒子に伝達できることが必要である。色素(特に、ハロゲン化銀写真用乳剤の分光増感色素)が粒子表面でJ凝集体を形成すると、モノマー状態の色素と比較して、耐光性が高く、長波長側に強い可視光吸収を持つことが知られている。このJ凝集体を半導体量子ドット粒子表面に形成することで、効率良く可視光を吸収することが可能となる。
【0017】
半導体量子ドット粒子表面へのJ凝集体の形成については、例えば、半導体量子ドットの水系分散溶液に色素メタノール溶液を添加し、4℃〜95℃で30分〜5時間撹拌する等の方法をとることができる。
色素は、半導体量子ドットに添加された後10分以内に速やかにモノマー状態で半導体量子ドット粒子表面に吸着される。その後、1〜5時間かけて粒子表面でJ凝集体が形成され、可視光における吸収率が増加する。温度は、好ましくは20℃〜70℃、より好ましくは30℃〜60℃である。時間は、好ましくは1時間〜7時間、より好ましくは2時間〜6時間である。
【0018】
本発明に用いられる分光増感色素については、リサーチ・ディスクロージャ(Research Disclosure)、vol.176、RD−17643、p.22−31(1978)に記載されている。
例えば、シアニン色素、メロシアニン色素、ヘミシアニン色素、ローダンアニン色素、オキソノール色素、ヘミオキソノール色素等のメチン色素を挙げることができる。これらの色素でも、アニオン系色素、例えば置換基としてスルホ基又はスルホアルキル基を1個、好ましくは2個以上有した色素等が有効である。
【0019】
また、分光増感色素としては、さらに独国特許929080号、米国特許2493748号、同2503776号、同2519001号、同2912329号、同3656959号、同3672897号、同3694217号、同4025349号、同4046572号、同2688545号、同2977229号、同3397060号、同3522052号、同3527641号、同3617293号、同3628964号、同3666480号、同3672898号、同3679428号、同3703377号、同3814609号、同3837862号、同4026707号、英国特許1242588号、同1344281号、同1507803号、特公昭44−14030号、同52−24844号、同43−4936号、同53−12375号、特開昭52−110618号、同52−109925号、同50−80827号に記載のものが挙げられる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明に係る蛍光半導体粒子の実施例について説明する。
【0021】
[半導体量子ドットの合成]
(1)粒子A(InP 量子ドットの合成)
ミリスチン酸インジウム0.1mmol、ステアリン酸0.1mmol、トリメチルシリルフォスフィン0.1mmolを、オクタデセン8mlとともに三口フラスコに入れ、窒素雰囲気下で還流を行いながら300℃で40分加熱し、発光ピーク波長620nmのInP(粒子A)を得た。
【0022】
(2)粒子B(InP/ZnS コア/シェル量子ドットの合成)
ミリスチン酸インジウム0.1mmol、ステアリン酸0.1mmol、トリメチルシリルフォスフィン0.1mmol、ドデカンチオール0.1mmol、ウンデシレン酸亜鉛0.1mmolを、オクタデセン8mlとともに三口フラスコに入れ、窒素雰囲気下で還流を行いながら300℃で1時間加熱し、発光ピーク波長620nmのInP/ZnS(粒子B)を得た。
なお、本明細書中シェルを有する量子ドットの表記法として、コアがInP、シェルがZnSの場合、InP/ZnSと表記する。
【0023】
(3)粒子C(CdSe/ZnS コア/シェル量子ドットの合成)
Se粉末0.7896gを、トリオクチルフォスフィン(TOP)7.4gへ添加し、混合物を150℃まで加熱して(窒素気流下)、TOP−Seストック溶液を作製した。
別途、酸化カドミウム(CdO)0.450g及びステアリン酸8gをアルゴン雰囲気下、三口フラスコ中で150℃まで加熱した。CdOが溶解した後、このCdO溶液を室温まで冷却した。このCdO溶液に、トリオクチルフォスフィンオキサイド(TOPO)8g及び1−ヘプタデシル−オクタデシルアミン(HDA)12gを添加し、混合物を再び150℃まで加熱し、ここで、TOP−Seストック溶液を素早く添加した。その後、チャンバーの温度を220℃まで加熱し、さらに一定の速度で120分かけて250℃まで上昇させた(0.25℃/分)。その後、温度を100℃まで下げ、酢酸亜鉛二水和物を添加撹拌し溶解させた後、ヘキサメチルジシリルチアンのトリオクチルフォスフィン溶液を滴下し、数時間撹拌を続けて反応を終了させ、発光ピーク波長620nmのCdSe/ZnS(粒子C)を得た。
【0024】
図1に、粒子B(InP/ZnS)の吸収スペクトルを示す。粒子Bは、主に紫外領域の光を吸収する。粒子A,Cについても同様である。
【0025】
[PEG修飾による水系分散]
粒子A,B,Cそれぞれについて、粒子の表面にポリエチレングリコール(PEG:分子量400)修飾を行い、透析を行うことで、水系分散粒子を形成した。
【0026】
[増感色素吸着]
上記水系分散粒子(粒子A,B,C)の各水分散液5mlを40℃に調整し、撹拌した状態で0.5mlのMeOH溶液中に下記3種の増感色素(SD−6、SD−7、SD−8)を溶解した色素液を添加し、40℃で1時間撹拌した。
【0027】
増感色素(SD−6)は、式(1)で表される。
【0028】
【化1】

【0029】
増感色素(SD−7)は、式(2)で表される。
【0030】
【化2】

【0031】
増感色素(SD−8)は、式(3)で表される。
【0032】
【化3】

【0033】
粒子1mol(すなわち、InP又はCdSe1mol)に対して、増感色素(SD−6)が1.9×10-1mol、増感色素(SD−7)が1.2×10-1mol、増感色素(SD−8)が1.5×10-2molの濃度になるように、各増感色素を添加した。
以上の工程により、各半導体量子ドット(粒子A,B,C)に色素を吸着させ、蛍光半導体粒子を作製した。
【0034】
[測定結果]
表1に、粒子A(InP)に色素を添加する前、色素を添加して5分経過後、色素を添加して120分経過後の550nmにおける吸光度、吸収極大ピーク波長、550nmの光で励起された場合の発光強度(620nmのピーク波長における発光強度)を示す。なお、吸収極大ピーク波長は、吸収スペクトルの測定により求められた吸収が最も高い波長(スペクトルのピーク値)である。また、発光強度は、色素添加前の発光強度を1とした場合の相対的な値である。
【0035】
【表1】

【0036】
色素の添加前後で550nmにおける吸光度を比較すると、色素を添加することにより、吸光度が高くなっていることがわかる。すなわち、粒子A(InP)単体では光の吸収量が低い波長域(550nm)において、粒子Aに吸着された色素により光の吸収が増加することがわかった。
550nm励起時の発光強度は、色素添加後120分で77になっており、無毒でかつ、可視光における励起発光が強い蛍光半導体粒子を得ることができた。
色素添加後5分の吸収極大ピーク波長528nmは、色素モノマーのピーク値である。色素添加後120分では、吸収極大ピーク波長が528nmから552nmへと長波長側にシフトし、発光強度が増大した。これは、粒子表面でモノマーがJ凝集体を形成したことを示している。
【0037】
粒子Aに、粒子Aの発光波長(620nm)に対応する吸収波長領域(550nm付近)に吸収ピークを有する増感色素(SD−6、SD−7、SD−8)が吸着されることにより、光を効率良く吸収することが可能となる。
【0038】
表2に、粒子B(InP/ZnS)に色素を添加する前、色素を添加して5分経過後、色素を添加して120分経過後の550nmにおける吸光度、吸収極大ピーク波長、550nmの光で励起された場合の発光強度(620nmのピーク波長における発光強度)を示す。発光強度は、色素添加前の発光強度を1とした場合の相対的な値である。
【0039】
【表2】

【0040】
色素の添加前後で550nmにおける吸光度を比較すると、色素を添加することにより、吸光度が高くなっていることがわかる。すなわち、粒子B(InP/ZnS)単体では光の吸収量が低い波長域(550nm)において、粒子Bに吸着された色素により光の吸収が増加することがわかった。
550nm励起時の発光強度は、色素添加後120分で65になっており、無毒でかつ、可視光における励起発光が強い蛍光半導体粒子を得ることができた。
色素添加後5分の吸収極大ピーク波長530nmは、色素モノマーのピーク値である。色素添加後120分では、吸収極大ピーク波長が530nmから550nmへと長波長側にシフトし、発光強度が増大した。これは、粒子表面でモノマーがJ凝集体を形成したことを示している。
【0041】
粒子Bに、粒子Bの発光波長(620nm)に対応する吸収波長領域(550nm付近)に吸収ピークを有する増感色素(SD−6、SD−7、SD−8)が吸着されることにより、光を効率良く吸収することが可能となる。
【0042】
上記方法を用いて、粒子A,B,Cの表面にJ凝集体を形成させ、550nmの光で励起された場合の発光強度の増幅率を測定した。発光強度の増幅率は、以下の式により求められる。
発光強度の増幅率=(J凝集体形成後の発光強度)/(J凝集体形成前の発光強度)
なお、J凝集体形成前の各粒子の発光波長は550nm励起で620nmである。
表3に、各粒子についての発光強度の増幅率を示す。
【0043】
【表3】

【0044】
粒子表面にJ凝集体が形成された粒子A,Bは、可視光域の励起光を効率良く吸収し、強く発光することが示された。
【0045】
粒子A(InP)は、粒子C(CdSe/ZnS)と比較して、発光強度の増幅率が3倍以上になることが明らかとなった。InP粒子は、CdSe粒子と比較して、粒子単体の吸光度が低く、低輝度であるが、J凝集体色素により吸光度が改善されると考えられる。
また、粒子B(InP/ZnS)のように、InPをコアとしてZnSのシェルを形成することで、さらに発光強度の増幅率が上昇することが分かった。シェルの形成により、J凝集体の形成が効率良く行われることによると推察される。
【0046】
以上説明したように、半導体量子ドットに色素が吸着されているので、光を効率良く吸収して発光することができる。また、無毒性であるため、環境や生体に対する安全性も確保される。
また、色素が半導体量子ドットの表面でJ凝集体を形成することにより、さらに光を効率良く吸収して発光することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光により励起され発光する無毒性の半導体量子ドットに、当該半導体量子ドットの発光波長に対応する吸収波長領域に吸収ピークを有する色素が吸着されていることを特徴とする蛍光半導体粒子。
【請求項2】
前記色素が前記半導体量子ドットの表面でJ凝集体を形成していることを特徴とする請求項1に記載の蛍光半導体粒子。
【請求項3】
前記半導体量子ドットがリン化インジウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光半導体粒子。
【請求項4】
前記リン化インジウムが硫化亜鉛のシェルを持つことを特徴とする請求項3に記載の蛍光半導体粒子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−194012(P2012−194012A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57344(P2011−57344)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/超早期高精度診断システムの研究開発:病理画像等認識技術の研究開発/病理画像等認識自動化システムの研究開発(1粒子蛍光ナノイメージングによる超高精度がん組織診断システム)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】