説明

蛍光媒介式分子断層撮影法

【課題】癌などの疾患組織をインビボで早期に検出および分子標的評価する。
【解決手段】深部組織における近赤外蛍光賦活の検出を目的として設計した、蛍光媒介式の分子断層撮影撮像システムを使用する。システムでは、標的蛍光分子プローブまたは活性化可能な高感度の蛍光分子プローブを使用できる。このようなプローブにより分子の特異度が向上し且つ高い蛍光コントラストがもたらされる。本発明の新規の断層撮影撮像システムにより、分子プローブの定量および深部組織における三次元の位置特定が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光色素および新規な光学断層撮影撮像法を用いて、生きている哺乳動物および患者から定量的且つ三次元の分子情報を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子撮像は、広範には、哺乳動物およびヒトの患者において細胞レベルおよび分子レベルでの生物学的プロセスを特徴決定および測定することであると定義できる。例えば磁気共鳴映像法(MR)、コンピュータ断層撮影法(CT)、および超音波撮像法(US)などの「古典的な」診断用撮像法と対照的に、分子撮像では、分子の変化による最終的な影響を撮像するのではなく、むしろ疾患の基礎となっているこれら分子の異常を分析する。分子標的を特異的に撮像することにより、疾患をより早期に検出および特徴決定でき、ならびに、治療有効性の分子的評価を直接的且つより早期に行うことができる。分子撮像は、理論的には種々の撮像技術により実施可能であり、現在のところ好ましい撮像技術はプローブ検出の感度が高い核撮像技術(例えばPET撮像法およびSPECT撮像法など)である。典型的には静脈から投与されたプローブによって目的の標的が認識される。MRIにより検出可能なプローブもいくつか開発されている(Moatsら, Angewandte Chemie Int. Ed., 36:726-731, 1997(非特許文献1);Weisslederら, Nat. Med., 6:351-5, 2000(非特許文献2))。ただし、アイソトーププローブの検出閾値がピコ/フェムトモルのレンジであるのに対して、これらMRI用プローブの検出閾値は通常マイクロモルのレンジにある。
【0003】
別の方法として、蛍光プローブを用いた標的認識がある。例えば、酵素による活性化が可能な蛍光色素プローブがワイスレーダー(Weissleder)ら, 米国特許第6,083,486号(特許文献1)に記載されており、DNAハイブリダイゼーションによって蛍光性となる蛍光分子標識がティアギ(Tyagi)ら, Nat. Biotechnol., 16:49-53, 1998(非特許文献3)に報告されている。組織培養および組織学用切片では蛍光による活性化が可能なプローブが使用され、蛍光顕微鏡による検出が行われている。インビボ投与においては、表面加重反射撮像法(surface-weighted reflectance imaging)を用いて蛍光賦活可能プローブの検出が行われている(Weisslederら, Nat. Biotechnol., 17:375-8, 1999(非特許文献4);Mahmoodら, Radiology, 213:866-70, 1999(非特許文献5))。しかし、吸収性且つ散乱性の媒体(哺乳動物の組織など)における深い組織(表面から> 5mm)の撮像、および、蛍光(特に蛍光の活性化)の定量化については、これまで報告がない。
【0004】
深部組織における光の相互作用を撮像するには、可視スペクトルではなく近赤外域(近IRまたはNIR)の光が好ましい。近赤外(近IRまたはNIR)光による撮像は、組織機能の解明および定量に関する研究の最先端で利用されている。光を用いることにより独特のコントラスト機序が得られる。このコントラスト機序は吸収に基づくもの(例えば、ヘモグロビン濃度または血中飽和度のプロービング)であってもよく、且つ/または、蛍光に基づくもの(例えば、微弱な自家蛍光または体外から投与した蛍光プローブのプロービング)であってもよい(Neriら, Nat. Biotech., 15:1271-1275, 1997(非特許文献6);Ballouら, Cancer Immunol. Immunother., 41:257-63,1995(非特許文献7);および、Weissleder, 1999(非特許文献4))。いずれの用途においても、NIR光子は組織中を通過する際に顕著な弾性散乱を生じる。この結果、組織中で光の「拡散(diffusion)」が生じる。この拡散によって分解能が低下し、且つ、診断的読影が可能な画像をX線撮像のような単純な「投影(projection)」手法(透視)によって生成することが困難となる。
【0005】
過去10年間に、組織中の光の伝搬の数理モデルと、光子供給源および検出技術の技術的進歩とにより、断層撮影原理を応用した拡散光の撮像が可能となった(KakおよびSlaney, 「コンピュータ断層撮影法の原理(Principles of Computerized Tomographic Imaging)」, IEEE Press, New York, 1988, pp. 208-218(非特許文献8);Arridge, Inverse Problems, 15:R41-R93, 1999(非特許文献9))。拡散光学断層撮影法(Diffuse Optical Tomography; DOT)は、複数の投影を使用し、且つ、組織の散乱効果の逆畳み込み(デコンボリューション)を行う方法である。DOT撮像法は固有の吸収および散乱の定量的三次元撮像に用いられている(例えばNtziachristosら, Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 97:2767-72, 2000(非特許文献10)、および、Benaronら, J. Cerebral Blood Flow Metabol., 20(3):469-77, 2000(非特許文献11)を参照)。これらの基礎的な数量は、組織のオキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンの濃度の決定、血中酸素飽和度の決定(Liら, Appl. Opt., 35:3746-3758, 1996(非特許文献12))、または拡散媒体中の血腫検出に利用できる。
【0006】
DOT撮像の固有コントラストは、機能的な脳活性化研究または血腫検出など特定の状況では有用となりうるが、これらの用途では、生きた組織から特異度の高い分子情報を抽出することができない。蛍光色素濃度は、吸収測定(Ntziachristosら, 2000(非特許文献10))またはファントム中の蛍光測定(Changら, IEEE Trans. Med. Imag., 16:68-77, 1997(非特許文献13);Sevick-Muracaら, Photochem. Photobiol., 66:55-64, 1997(非特許文献14))による測定が行われている。しかし、生きた哺乳動物の深部組織における蛍光の三次元的定量化には、前述のDOTシステムおよび/または撮像アルゴリズムはこれまで有用ではなかった。
【特許文献1】ワイスレーダー(Weissleder)ら, 米国特許第6,083,486号
【非特許文献1】Moatsら, Angewandte Chemie Int. Ed., 36:726-731, 1997
【非特許文献2】Weisslederら, Nat. Med., 6:351-5, 2000
【非特許文献3】ティアギ(Tyagi)ら, Nat. Biotechnol., 16:49-53, 1998
【非特許文献4】Weisslederら, Nat. Biotechnol., 17:375-8, 1999
【非特許文献5】Mahmoodら, Radiology, 213:866-70, 1999
【非特許文献6】Neriら, Nat. Biotech., 15:1271-1275, 1997
【非特許文献7】Ballouら, Cancer Immunol. Immunother., 41:257-63,1995
【非特許文献8】KakおよびSlaney, 「コンピュータ断層撮影法の原理(Principles of Computerized Tomographic Imaging)」, IEEE Press, New York, 1988, pp. 208-218
【非特許文献9】Arridge, Inverse Problems, 15:R41-R93, 1999
【非特許文献10】Ntziachristosら, Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 97:2767-72, 2000
【非特許文献11】Benaronら, J. Cerebral Blood Flow Metabol., 20(3):469-77, 2000
【非特許文献12】Liら, Appl. Opt., 35:3746-3758, 1996
【非特許文献13】Changら, IEEE Trans. Med. Imag., 16:68-77, 1997
【非特許文献14】Sevick-Muracaら, Photochem. Photobiol., 66:55-64, 1997
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、専用に設計された撮像システムを使用し、且つ、自己較正型の画像再構成と分子マップを抽出するための新規なアルゴリズムとを利用することによって、特定の標的分子プローブ(例えば、特定の酵素活性またはDNA配列に標的するプローブ)など種々の分子プローブが発するインビボ蛍光色素信号を、深部組織内で三次元的に位置特定し且つ高感度で定量化できるという発見を基礎としている。
【0008】
全般的には、本発明は、蛍光を媒介とした分子断層撮影法(FMT)撮像システムであって、入射光を提供する光源(例えば、NIR光源または可視光源)と、2つ以上の別々の励起点から対象物(例えば、動物またはヒト患者)内へと光を誘導するための多点入射光照射アレイと、光源から多点入射光照射アレイの各点へと光を伝送するための複数の光ファイバーと、対象物から放出された光(例えば、蛍光)を2つ以上の別々の収集点から収集するための多点検出アレイと、対象物から放出された光を検出器へと伝送するための二次元発光アレイと、各収集点から二次元発光アレイ上の対応する点へと光を伝送するための複数の光ファイバーと、二次元発光アレイの各点から放出された光を検出し且つ対象物から放出された光に対応するデジタル信号に変換するための検出器とを含むシステムを特徴とする。
【0009】
このシステムにおいて、放出される光は、連続波(CW)光、時間分解(TR)光、輝度変調(IM)光、またはこれらの任意の組合せであってもよい。
【0010】
このシステムは、検出器が生成したデジタル信号を処理して出力装置に画像を提供するプロセッサをさらに含んでいてもよい。出力装置は複数の画像を同時に提供することができる。プロセッサは、以下の段階のうち任意のいずれかまたは任意の組合せによりデジタル信号を処理するようプログラムされていてもよい:i)収集された蛍光測定結果からバックグラウンド信号およびフィルターにじみ(bleed-through)信号を減算することによって、補正蛍光測定結果を生成する段階;ii)収集された固有信号測定結果からバックグラウンド周辺光信号を減算することによって、補正固有信号測定結果を生成する段階;iii)補正蛍光測定結果を補正固有測定結果で除することによって、自己較正蛍光測定結果を生成する段階;iv)収集された拡散信号から、収集されたバックグラウンド周辺光信号を減算することによって、補正バックグラウンド-媒体拡散信号を生成する段階;および、v)補正固有信号測定結果を補正バックグラウンド-媒体拡散信号で除することによって、自己較正固有測定結果を生成する段階。
【0011】
他の態様において、プロセッサは、以下の段階のうち任意のいずれかまたは任意の組合せによりデジタル信号を処理するようプログラムされていてもよい:i)自己較正測定結果M = M1 - M3 / M2 - M4またはその他Mの関数を生成する段階。ただし、M1は発光波長の蛍光信号、M2は固有信号、M3は蛍光バックグラウンド信号および/またはにじみ信号、M4は固有波長のバックグラウンド周辺光信号である;ii)自己較正固有測定結果M' = log (M2 - M4)/(M5 - M4)またはその他M'の関数を生成する段階。ただし、M5はバックグラウンド-媒体拡散信号である;iii)関数F(U) = (M - P x U)2またはその他(M-P x U)の関数(絶対値または三乗値など)を最小にし、これによってUの分布および大きさを得る段階。ただし、Uは撮像した領域内における未知の蛍光色素濃度および/または蛍光色素寿命の空間依存性ベクトルであり、Pは、伝達方程式を解くことによって計算されるMのフォーワード予測子、または、Mを構成している適切なモードにおける適切な幾何学形状およびバックグラウンド媒体について伝達方程式(拡散方程式など)を近似した近似値である;iv)関数F'(O) = (M' - P' x O)2または(M'-P' x O)の関数を最小にし、これによってOの分布および大きさを得る段階。ただし、Oは対象物中の蛍光体の未知の吸収のベクトルであり、P'は、伝達方程式を解くことによって計算されるM'のフォーワード予測子、または、適切な吸収/散乱モードにおける適切な幾何学形状およびバックグラウンド媒体についてこの伝達方程式(拡散方程式など)を近似した近似値である;v)活性化比AR = U/Oを計算する段階;ならびにvi)ARに対応する画像を生成する段階。
【0012】
測定結果M3は較正用媒体を用いて実験的に取得してもよく、または、場M2に基づいて推測または計算してもよい。具体的には、この測定結果はM3 = ql(r) x M2 + ctという式で表現できる。この式において、qlは固有場のフィルター減衰であり、半径依存的なフィルター異方性をもたらしうるような空間依存性の因子である。因子ql(r)は平坦場測定によって実験的に決定してもよく、または、フィルターの仕様に基づいて計算してもよい。定数ctはCCDカメラのバックグラウンド暗雑音測定結果の像を表す。さらに、M3はM3 = ql(r) x M2' + ctという式でも記述できる。この式において、M2'は、伝達方程式の解を用いて、または、測定対象媒体の平均的な光学特性を有する均質な媒体についてもしくは既知の情報を利用して得た不均質な媒体についてこの伝達方程式(拡散方程式など)を近似した近似値を用いて、理論的に計算される。
【0013】
撮像システムは、患者の内部へとおよび/または検出アレイの各収集点から光を伝送するための100本を超える光ファイバーを有していてもよく、検出器アレイは少なくとも100個の収集点を有していてもよい。
【0014】
この撮像システムにおいて、二次元発光アレイは、患者から放出された三次元の光に対応する複数の光点の二次元パターンを検出器へと伝送してもよい。このパターンは、1つの励起点から他の2つ以上の励起点間への照明切り替えに対応した速度で経時的に変化する。さらに、2つ以上の励起点は、光源によって一度に1つずつ照明される。特定の態様において、対象物へと誘導されるNIR光の波長は550〜950(例えば、670)ナノメートルまたは750〜850ナノメートルであってもよく、且つ検出器は、電荷結合素子(CCD)カメラであっても、または光電子倍増管を含んでいてもよい。
【0015】
システムはまた、それ自体がNIR蛍光(NERF)分子プローブなどの分子プローブを含んでいてもよい。プローブは賦活可能な分子プローブであってもよい。
【0016】
本発明はまた、(1)ベクトルUによって解が得られる蛍光色素の分布および/もしくは寿命を表示する方法、ならびに/または、(2)i)固有吸収に基づいて蛍光体濃度に関する第一のデータセットを提供する段階;ii)蛍光に基づいて、活性化蛍光体の濃度に関する第二のデータセットを提供する段階;iii)各点ごとに第一のデータセットを第二のデータセットで除することによって第三のデータセットを提供する段階;および、iv)第三のデータセットを処理することによって、蛍光体を含む分子プローブの濃度と患者体内の特定の標的に対応する活性化蛍光体の濃度との比に対応する光学分子マップを生成する段階;によって、患者に投与された蛍光体を含む分子プローブの濃度と患者体内の特定の標的に対応する活性化蛍光体の濃度との比に対応する光学分子マップを表示する方法を特徴とする。
【0017】
別の局面において、本発明は、以下の段階によって患者体内の標的領域の三次元定量的分子断層撮影像を得る方法を特徴とする:近赤外蛍光(NIRF)分子プローブを患者に投与する段階であって、分子プローブが患者体内の標的領域内に選択的に蓄積する段階;近赤外光を複数の点から患者体内に誘導する段階;患者から放出される蛍光を検出する段階;および、検出された光を処理することによって、患者体内の三次元標的領域と標的領域内に蓄積した分子プローブの量とに対応する三次元画像を提供する段階。
【0018】
この方法において、三次元画像を二次元の出力装置に描出してもよい。処理は、患者から放出された蛍光信号をデジタル化する段階、患者およびバックグラウンド媒体から放出された蛍光信号および固有信号の測定結果を組み合わせることによりデジタル信号を自己較正する段階、ならびに、三次元定量画像を再構成する段階を含んでいてもよい。特定の態様において、処理は以下の段階を含む:i)収集された蛍光測定結果からバックグラウンド信号およびフィルターにじみ信号を減算することによって、補正蛍光測定結果を得る段階;ii)収集された固有信号測定結果からバックグラウンド周辺光信号を減算することによって、補正固有信号測定結果を得る段階;iii)補正蛍光測定結果を補正固有測定結果で除することによって、自己較正蛍光測定結果を得る段階;iv)収集された拡散信号から、収集されたバックグラウンド周辺光信号を減算することによって、補正バックグラウンド-媒体拡散信号を得る段階;および、v)補正固有信号測定結果を補正バックグラウンド-媒体拡散信号で除することによって、自己較正固有測定結果を得る段階。
【0019】
処理はまた、本明細書に記載の他の段階を含んでいてもよい。これらの方法において、分子プローブは、分子プローブ(例えば、活性化可能なプローブ)を注射することによって全身的または局所的に投与してもよい。分子プローブは、標的領域または非標的領域に局所的に注射してもよい。例えば全身的な吸収を伴う腹腔内投与、および、埋植した徐放性化合物またはポンプなどの装置による投与がある。
【0020】
本発明の新規な方法の特定の態様において、NIR光は、固定の三次元形状に配置された別々の光点(例えば、12、24、32個、またはそれ以上の点)から患者の体内に照射してもよく、または、互いに独立した光点(例えば、少なくとも12個以上の点)を有するベルトを含む多点入射光照射アレイを用いて照射してもよい。さらに、画像の位置合わせ(co-registration)によって、多点入射光照射アレイおよび多点検出アレイの空間的な位置特定を行ってもよい。他の態様では、光子パルスが患者体内に誘導され、且つ、患者から放出された光子の到着が別の光子検出器アレイまたは時間ゲート増感CCDカメラ(iCCD)によって時間分解される。輝度変調した光を使用する場合は、イメージ増強管に向けて配置された復調配列およびiCCDカメラを用いることによって、光電子倍増管の復調にしばしば適用されるダイノード復調技術と同様の方式で上述と同様の検出を実現してもよい。
【0021】
これらの方法において放出される蛍光は、連続波(CW)光、時間分解(TR)光、輝度変調光、またはこれらの任意の組合せであってもよい。さらに、これらの方法は時間の関数として動的に実施してもよく、且つ、画像を磁気共鳴映像法またはコンピュータ断層撮影法により取得された画像と位置合わせしてもよい。多点入射光照射アレイ(または検出アレイ)は、対象物上のアレイの空間位置特定に使用するための基準点を有していてもよい。
【0022】
本発明はまた、特定の細胞異常(例えば、癌、心血管疾患、AIDS、神経変性疾患、炎症性疾患、または免疫疾患などに関連した異常)に標的する分子プローブを用いて患者の細胞異常を検出する方法を特徴とする。本発明はまた、特定の分子標的により活性化される分子プローブを用いて、分子標的に対する化合物の効果を評価する方法を特徴とする。この方法においては、プローブを標的に接触させ、標的を分子プローブに接触させる前および後に標的を撮像し、且つ、対応する画像を比較する。分子標的の変化はその化合物が有効であることを示す。例えば、特定の分子標的はプロテアーゼであってもよく、且つ、化合物はプロテアーゼ阻害剤であってもよい。
【0023】
分子プローブとは、細胞表面の受容体または抗原、細胞内の酵素、プローブがハイブリダイズする特異的な核酸(例えば、DNA)などの分子構造に対して標的するプローブである。蛍光体とは蛍光を発する物質である。蛍光色素とは、蛍光を発し(例えば、蛍光体)且つ色を有する物質である。
【0024】
特にことわりがない限り、本明細書中の技術用語および科学用語はすべて、本発明の当分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味で使われている。以下に、本発明の実施または検証に適した適切な方法および材料について説明するが、本明細書に記載のものと同様または同等の、当業者に周知の他の方法および材料も使用可能である。本明細書に記載の発表物、特許出願、特許、およびその他の引用物はすべて参照として完全に本明細書に組み入れられる。衝突が生じた場合は、定義も含めた本明細書によって統制されると思われる。さらに、本明細書に記載の材料、方法、および実施例は説明を目的としたものであり、本発明を制限する意図はない。
【0025】
本発明の新規な方法およびシステムは種々の利点を有する。例えば、この新規な方法およびシステムにより、関心対象物の撮像中に複数の測定結果の組合せが提供されることに加えて、初めて、事前較正またはその他の補正測定をせずに蛍光色素の分布を検出する能力が提供される。さらに、この新規な方法およびシステムにより、深部組織の蛍光活性化(例えば酵素賦活による活性化)を撮像すること、ならびに、位置特定および定量化を三次元で行うことが可能になる。さらに、この新規な方法は、細胞下レベルの情報を提供するための非侵襲的な分子撮像法を提供する。
【0026】
本発明の新規な分子撮像技術は多大な影響を有する。第一に、この新規な方法およびシステムは、例えば癌においては、アップレギュレートされたプロテアーゼ、他の酵素、細胞表面受容体、サイクリン、サイトカイン、または増殖因子など、多数の疾患の基礎となっている特定の分子の異常に関する知見をもたらし得る。第二に、この新規な方法を用いて、新規の標的療法の有効性を表現型変化が生じるよりはるか以前から分子レベルで評価することができる。このことは、薬剤の開発、薬剤の試験、ならびに、所定の患者における適切な治療法および治療法変更の選択に影響を与えると予測される。第三に、この新規な分子撮像/定量化の方法およびシステムにより、生きた系の無傷な微小環境内で疾患の発生を研究できるようになる可能性がある。第四に、この新規な蛍光媒介式分子断層撮影撮像法は、新規の薬剤送達戦略の試験に有用である。第五に、この撮像法により、時間がかかり且つ労働集約的な従来の基本科学技術の場合よりもはるかに迅速に三次元情報を得ることが可能になる。
【0027】
本発明の新規な撮像のシステムおよび方法は、癌、心血管疾患、神経変性疾患、炎症性疾患、感染症、およびその他の疾患など、多数の疾患のコントロールおよび撲滅を促進することを目的として設計された種々の新しい生物学的療法、免疫学的療法、および分子療法に幅広い用途を有すると考えられる。さらに、本明細書に記載の検出のシステムおよび方法は、複合的な状況において途切れなく疾患を検出および治療するために幅広い用途を有していると考えられる。
【0028】
本発明のその他の特徴および利点は以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるものと思われる。
【0029】
発明の詳細な説明
本発明は、蛍光色素(例えば、活性化可能な蛍光色素)および新規の光学断層撮影撮像法を用いて、生きている哺乳動物および患者から定量的な分子情報を抽出することに関する。この蛍光媒介式分子断層撮影法(FMT)撮像システムは、深部組織内で活性化するNIR蛍光(NIRF)などの蛍光を高感度で定量的且つ経時的に検出することを目的として専用に設計したものである。1つの態様においては、関心対象組織の撮像中に取得される測定結果のみを用いて、蛍光色素の分布に関する絶対的な光学特性(例えば、蛍光色素の濃度および/または寿命)の再構成を行うため、撮像精度が高く且つ実験が単純になる。このシステムでは、消光状態にあり且つ活性化されるまで蛍光を発しないような活性化可能なNIRF分子プローブ、または、高感度に標的するNIRF分子プローブを使用してもよい。活性化可能な分子蛍光色素プローブにより分子の特異度が向上し且つ高い蛍光コントラストがもたらされ、したがって、癌およびその他の疾患組織をインビボで早期に検出および分子標的評価することが可能になる。本発明のシステムは、画像データを取得するための種々の構成要素と、データを処理して高水準の情報および分解能を提供するための新規なアルゴリズムを含む1つ以上のプロセッサとを有する。
【0030】
FMT撮像の方法およびシステムにより、疾患組織から分子情報を抽出することが可能になる。したがって、本発明のシステムおよび方法を用いて、癌、心血管疾患、炎症、免疫疾患、関節炎、皮膚疾患、眼疾患、およびその他の疾患で生じるような多くの分子異常を検出することが可能である。
【0031】
以下に、まず適切なプローブと光学撮像の一般的な方法論とについて概説し、次に、有用な三次元定量情報の取得に必要とされる新規な撮像システムおよび処理について説明する。
【0032】
活性化可能なNIR蛍光プローブ
近年、特定の酵素により変化した後明るい蛍光を発するプローブ(Weisslederら, Nat. Biotechnol., 17:375-378, 1999)、またはDNAハイブリダイゼーションによって蛍光を発するプローブ(Tyagiら, Nat. BiotechnoL, 14:303-308, 1996)の合成により、注射造影剤に基本的なパラダイムシフトがもたらされた。自然状態にあるプローブは、低分子消光剤(例えば、DABCYL(分子標識のすべての蛍光体に対する共通消光剤として作用する非蛍光性の色素);4-(4-ジメチルアミノフェニルアゾ)-安息香酸またはQSY-7)によって、または複数の蛍光色素によって(例えば、エネルギー共鳴転移を介して)消光されている。図1Aおよび1Bは、それぞれ特定の酵素(1A)および特定のDNA配列(1B)を標的として設計した2つのプローブの略図である。蛍光色素が放出されるかまたは消光剤から空間的に分離されると、蛍光は最大1000倍まで増強しうる。消光した蛍光色素の空間的再配置は特定の相互作用後にしか生じないため、これらのプローブを用いて生きた生物から分子情報を抽出することが可能である。単一の蛍光色素を親和性分子に結合させた場合、これらの賦活可能プローブは他の方法に対して以下の4つの主たる利点を有する:(1)1つの酵素で複数の蛍光色素を切断することが可能であり、したがって一種の信号増強が生じる、(2)バックグラウンド「雑音」を数桁低減させることが可能である、(3)非常に特異的な酵素活性を測定対象にできる可能性がある、および(4)送達システムに複数のプローブを配列することにより、一定のスペクトルの酵素を同時にプロービングすることが可能である。
【0033】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP-2)、カテプシンB/H、カテプシンD、カテプシンK、PSA、およびカスパーゼ-3を標的とし、且つ、600〜900 nmで蛍光活性化可能な、特異度の高い酵素感受性分子プローブの一群が合成されている。これらプローブの詳細はワイスレーダーら, 米国特許第6,083,486号;ワイスレーダーら, Nat. Biotechnol., 17:375 (1999);タン(Tung)ら, Cancer Research, 60:4953-8, 2000;および、タンら, Bioconj. Chem., 10:892-896, 1999に記載されている。活性化可能な感受性プローブは、一般的に以下の3つの構成要素からなる:(1)レポーター蛍光色素、(2)標的基質、および(3)送達用媒質。
【0034】
レポーター蛍光色素
顕微鏡観察および光力学療法用に数百種類の光学プローブが開発されている。これらのうち、蛍光プローブ(すなわち、短波長で励起し長波長で発光するプローブ)は、蛍光顕微鏡観察で広範に利用されているように、生物学的現象の研究に理想的である。生きた系で蛍光プローブを使用する場合は、ヘモグロビン(< 550 nm)または水(> 1200 nm)など生理学的に豊富な吸収体による吸収を最小限に抑えて組織への浸透を最大限に高めるため、選択できる波長が近赤外域(600〜1000 nm)に限定されるのが普通である。理想的には、蛍光色素は800±50 nmで発光するように設計される。種々のNIRF分子が報告および/または市販されており、このようなNIRF分子としては、Cy5.5(アマシャム(Amersham)、イリノイ州Arlington Heights);NIR-1(同仁化学研究所(Dojindo)、日本、熊本);IRD382(LI-COR、ネバダ州Lincoln);La Jolla Blue(ダイアトロン(Diatron)、フロリダ州Miami);ICG(アコーン(Akorn)、イリノイ州Lincolnshire);およびICG誘導体(セルブ・ラブズ(Serb Labs)、 フランス、Paris)などがある。理想的なインビボ用NIRFプローブは以下の特徴を有する:(1)発光帯域が狭い;(2)蛍光効率(量子収量)が高い;(3)生体適合性を有する;および(4)吸収スペクトルと励起スペクトルとが離れている。
【0035】
標的基質
個々の蛍光色素の放出および/または利用可能性は、標的基質と標的との相互作用によって決定される。標的基質は、例えば、酵素によって切断されるペプチド配列(表1を参照)、特定のキナーゼによって転移されるリン酸基、または特定の相補的DNAモチーフを認識するハイブリダイズDNA配列(図1Bを参照)であってもよい。
【0036】
〔表1〕 ペプチド基質の例(ドットは切断部位を示す)

【0037】
送達媒質
消光状態のプローブが目的の標的に到達するためには、急速なクリアランス/排除を回避し、且つ、送達に対するいくつかの構造的障壁を克服する必要がある。こうした障壁としては、(1)血管からの管外遊出、(2)組織を通過する拡散、および(3)細胞内酵素の場合は細胞膜トランスロケーション(分泌酵素の場合は当しない)などがある。送達に対するこれらの障壁は詳しく研究されており、標準的な技術および情報を用いて送達媒質を選択することが可能である。蛍光色素および基質を体内の標的(例えば、腫瘍)に送達するのに適した媒質は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポラキサマー(polaxamer)、および/または炭水化物を含む保護グラフト共重合体(Marecosら, Bioconjug. Chem., 9:184-191, 1998)を含む重合体からなる群より選択される。他の送達媒質としては、デンドリマー、タンパク質、炭水化物、脂質球(例えば、エマルジョン、リポソーム、および脂質自己集合体)、ナノ粒子、および、浸透性の薬剤送達に一般に使用されているその他の物質がある。
【0038】
本発明の新規な方法で使用することを目的とした、上記に基づく特異的プローブは、ワイスレーダーら, 米国特許第6,083,486号;ワイスレーダーら, Nat. Biotechnol., 17:375-8, 1999;およびタンら, Bioconj. Chem., 10:892-896, 1999に詳述されている方法で調製してもよい。
【0039】
本発明の新規な方法で使用できる酵素賦活可能プローブの具体的な一例は以下のようにして調製してもよい(Weisslederら, 米国特許第6,083,486号;Weisslederら, Nat. Biotechnol., 17:375-8, 1999を参照)。まず、ポリ-L-リシン(PL)骨格とメトキシポリ-e-エチレングリコール(MPEG)側鎖とからなる保護グラフト共重合体(PCG)を合成する(Bogdanovら, J . Drug Targeting, 4:321-330,1997)。1つの実施例では、Cy5.5(吸収 = 675 nm、発光 = 694 nm、アマシャム(Amersham、イリノイ州Arlington Heights))をポリ-リシン骨格に直接結合させ、これによって、カテプシンB/Hおよびトリプシンによる切断が可能で且つ後述の実験にすでに使用されている賦活可能プローブを得てもよい。簡潔には、モノ活性化した過量のCy5.5をpH 8.0の環境下でPGCと反応させてプローブを得る。サイズ排除クロマトグラフィーにより最終産物を自由色素から分離する。ところどころに存在する自由リシン残基が酵素基質として作用するため、トリプシンおよびカテプシンB/H様プロテアーゼによってこのようなプローブを切断することができる。
【0040】
もしくは、酵素特異性を与える特定のペプチドをPGCに直接結合させてもよい。例えば、カテプシンD感受性のプローブが合成されている(Tungら, Cancer Res., 60: 4953-8, 2000;およびTungら, Bioconj. Chem., 10:892-896,1999)。簡潔には、PGCを過量の無水ヨードアセチルと反応させることにより、ポリ-リシン骨格上のアミノ基をすべてヨード(iodol)基に変換させる。チオール特異反応により、カテプシンD特異的ペプチドGIC(Et)FFKK(Fitc)Cを、ヨウ化したPGCに結合させる。次に、カテプシンD基質ペプチドのN末端および自由リシン側鎖にCy5.5を結合させる。この設計には以下の2つの利点がある:(1)ローディング容量が大きい(すべてのリシンが修飾可能であることによる)、および(2)蛍光色素スペーサーが酵素に容易に到達でき、したがって放出動態および信号収集が向上する。
【0041】
その他のNIR蛍光プローブ
上述のプローブは、標的の相互反応(例えば、標的-酵素相互反応)によって活性化されるよう特別に設計されたものである。本発明の新規な検出法に使用できるその他のプローブとしては以下のものがある:(1)標的相互反応後に失活する(消光する)プローブ、(2)標的相互反応によって量子収量が変化するプローブ、(3)標的相互反応後に蛍光寿命が変化するプローブ、(4)標的相互反応後に蛍光スペクトルが変化するプローブ、(5)波長シフト標識(Tyagiら, Nat. Biotechnol., 18:1191-1196,2000)、(6)多色蛍光プローブ(Tyagiら, Nat Biotechnol., 16:49-53, 1998)、(7)標的に対して高い結合親和性を有するプローブ、すなわち、非特異的プローブが体外に排出されても標的領域内に残存するプローブ。このようなプローブの例としては、受容体に標的するNIR蛍光色素(Achilefuら, Invest. Radiol., 35:479-485, 2000)または抗体に標的するNIR蛍光色素(Ballouら, Biotechnol. Prog., 13:649-658, 1997)などがある、(8)区画的分布を示す非特異的な物質、(9)量子ドット、および/または(10)蛍光色素に影響を与える任意の蛍光分子。他の適切な蛍光プローブ群としては、ゲート検出の使用を可能にし且つ感度をより増強させる、長寿命のランタニド金属リガンドプローブがある。
【0042】
一般的な方法論
本発明の新規なシステムでは、三次元光学走査用に、間隔をあけた多数の発光体を備えたシリンダーなどの多点入射光アレイの周囲から「断層撮影測定結果」を取得するための電荷結合素子(CCD)カメラおよびレンズ系を使用してもよい。NIR画質の向上は、使用する抗原および検出器の数と関連性がある。CCD技術の利点は、検出密度を向上させるには光ファイバーを追加してより大きなアレイをつくればよく、検出用ハードウェアの追加を必要しない点にある。
【0043】
蛍光媒介式分子断層撮影法(FMT)
本明細書で説明する断層撮影法の方法論は、回折源を使用した一般的なカテゴリーの断層撮影法の改良である(例えば、KakおよびSlaney, 「コンピュータ断層撮影法の原理(Principles of Computerized Tomographic Imaging)」, IEEE Press, New York, 1988, pp. 208-218を参照)。この技術は、複数の投射に関する光の測定結果を利用して、混濁した媒体(組織など)中の光学コントラストに関する情報を取得するものである。簡潔には、回折断層撮影法では観察対象領域を複数の不連続なボクセルに分割する。これは「メッシュ」と呼ばれる。分析は2つの段階に分かれている。第一の段階は、拡散方程式を用いて想定媒体(例えば、組織)内への光子の伝搬を記述し、且つ、拡散方程式を用いてこの媒体から検出される場を予測する「順問題」である。第二の段階は、想定媒体の各ボクセルの光学特性を更新することにより場の予測値と実測値との誤差を最小にする「逆問題」である。解を求める方法は、順問題(拡散方程式の分析的解法および数値的解法)、逆問題(直接解法(direct inversion)、χ2適合法、および代数的再構成法)とも複数存在する。ここでは、順問題の数値的解法を用いて、蛍光信号および固有信号の測定結果に対する予測ベクトルを生成している(図5も参照)。逆問題は準代数再構成法に基づいて解を求める。解を順問題にフィードバックしてより正確な順方向伝搬モデルを構築する場合は、必要に応じてより高次の解を求めることも可能であり、この過程を反復してもよい。
【0044】
本発明の新規なFMT撮像システムでは、1つ以上のレーザー源を使用して特定の発色団または蛍光団を検出し、且つ、使用する特定の波長について順問題の解を求める。レーザーダイオードは十分なパワーを出力し、FDAのクラスIおよびIIの範疇に入り、且つ、安定性、波長特異性、および経済性が良好であるため、これを光源として使用してもよい。光はファイバーガイドを用いて組織へとおよび組織から誘導される。これによって形状面で柔軟な設定が可能となる。光学的な連結を得るため、ファイバーは組織に接触させる必要がある。または、空気-シリカ-組織の屈折率不整合に起因する反射を防ぐため、整合液を使用する。
【0045】
光源検出法としては3つの異なる技術が存在する。以下に示すように、FMTの用途にはこれらの任意の組合せを使用することができる。最も単純な技術は連続波(CW)撮像である。この技術では、強度が一定の光を使用し、且つ、複数の光源-検出器ペアを用いて以下のいずれかを測定する:(1)励起した蛍光体の分布に起因する信号、または(2)光の減弱(組織の吸収および散乱によるもの)。これは技術的に比較的単純な方法であり、通常は信号対雑音比(SNR)特性も最も優れている。しかし、吸収係数および散乱係数の計算結果と撮像結果との間に大きなクロストークを生じることが多いため、固有組織コントラストの撮像には最適でない。一方、バックグラウンドの光学特性が既知であれば、定常状態の蛍光体濃度の撮像にはよく適している。活性化の情報を生成するには、この技術的に単純な手法と情報量が豊富な技術とを組合せることにより蛍光像および固有コントラスト像の両方を取得してもよい。以下に、一度に1つのみの発光体が発光するよう、多点アレイ上の光源が1つの発光体から別の発光体へと連続的に切り替えられるような具体的な設計を説明する。
【0046】
より複雑な手法としては、単一または複数の周波数の輝度変調(IM)光を使用する方法がある。この方法では、複数の光源-検出器ペアについて、入射光に対する変調光の減弱および位相ずれを測定することができる。輝度減弱が測定できるCW測定と比較して、IM法では各光源-検出器ペアについて輝度減弱と位相ずれという2種類の情報が得られる。通常、振幅および位相は互いに相関しない測定値であり、固有コントラストの吸収係数および散乱係数をより効率的に求めることができる。蛍光モードでは、この技術により蛍光体濃度と蛍光寿命という2セットの情報を画像化できる。
【0047】
第三の手法である時間分解(TR)法では、組織内に短パルス光を照射する。この技術により、複数の光源-検出器ペアについて、検出された光子が媒体内を通過する時間分布を明らかにすることができる。時間分解法は各光源-検出器ペアに関する情報量が最も多く、これに匹敵するのはIM法を複数周波数で同時に行った場合のみである。このことは、以下によって簡単に説明できる。すなわち、時間分解データをフーリエ変換すると、前述の2つの方法で使用される連続波成分(f = 0 MHz)を含む最大1 GHzの複数の周波数での情報が得られる。したがって、時間分解法では、CW系と直接比較可能なCW成分が得られるのみならず、固有吸収および固有散乱を画像化できる輝度減弱および位相ずれの測定結果を複数の周波数について(フーリエ変換により)得ることができ、且つ、蛍光体濃度および蛍光寿命の情報も得られる。
【0048】
以下に、費用対効果の高い本発明の態様を詳しく説明する(図2A〜2Cおよび図4を参照)。この態様では、経済的で並列度が非常に高いCW測定(〜1000チャンネル)を用いてバルク情報が収集され、且つ、時間領域型の光源-検出チャンネル(〜50から100チャンネル)の比較的小さいアレイを用いて吸収および散乱のパラメーターに関する非常に特異的な情報が収集される。時間領域情報は以下の3つの方法で利用される。第一に、発光波長および励起波長について、平均吸収係数と平均縮小散乱係数とを独立に決定する。第二に、時間領域データをフーリエ変換することによって、固有信号の時間領域測定結果を固有再構成系に変換し、これによって複数周波数の測定結果を得る。断層撮影の問題は周波数領域で記述されるため(CW測定の周波数はゼロとなる)、高周波数測定結果の追加は直接的に行うことができる(実数分解および虚数分解のいずれについても、適切な周波数について構成した重み行列に行を追加すればよい)。時間領域系の第三の用途は、時間領域データをフーリエ変換することによって蛍光信号の時間領域測定結果を蛍光再構成系に変換すること、および、NIRFプローブの蛍光寿命に関する情報を取得することである。パルス光を用いて検出した信号と輝度変調光を用いて複数周波数で検出した信号とがフーリエ変換を介して同等になることから、複数周波数で輝度編徴候を用いた場合も方法およびシステムはまったく同じとなる可能性がある。より簡単化した手法としては、少数または単一の周波数で輝度変調光を使用する方法がある。
【0049】
蛍光媒介式分子断層撮影法(FMT)撮像システム
本発明の新規な撮像システムは、患者または動物の体から放出されたアナログの蛍光からデジタル信号データを生成するための種々の構成要素、および、デジタル信号データを処理して診断および予後に関する情報を提供する有用な画像を生成できるアルゴリズムでプログラミングしたプロセッサを含む。システムはまた、入射光が組織内に伝搬した後に入射光の測定結果を取得し、且つ、撮像対象体の固有コントラストに関する情報を取得する。
【0050】
装置
回折断層撮影法と単純な投影撮影法との相違点は、前者では複数の投影について組織の透照を要することである。したがって、NIR光を用いて分子断層撮影像を取得するうえで、適切な光誘導装置を構成することは基本的な要素である。本発明のシステムは、1つの態様において、いずれも単一のシリンダー内に組み込まれた多点入射光照射アレイおよび多点検出アレイを特徴とし、これらアレイは動物または患者の体の周りに配置される。このような装置の1つを図2Aおよび図4に示す。これら2つの機器は連続的に作動してもよい。
【0051】
システム10は連続波(CW)レーザー源12を含む。レーザー12は一定輝度の光を使用する。NIRFプローブの使用前に、2つの異なるレーザーから得た2つの波長を用いて固有コントラストを撮像してもよい。蛍光色素Cy 5.5を撮像するには、1つの波長を673 nm(励起波長)に、もう1つの波長を694 nm(発光波長)に設定する。光源から蛍光体までの励起場および蛍光体から検出器までの発光場について正確な順方向モデルを作成するため、両方の波長で撮像することが必要である。もう一つの波長の組合せでは、蛍光色素ICGを標的にして750 nm(励起)および800 nm(発光)を使用する。測定の時間効率面での要求度は高くないため、2つの波長は時分割で使用され、且つ、光減衰器14を介して1 x 32の光スイッチ16(例えば、ダイコン・ファイバーオプティクス(Dicon FiberOptics)、カリフォルニア州Irvine)から販売されている光スイッチ)に結合される。光スイッチ16は、レーザー12から出た光を、複数(この態様では16本)の光源ファイバー18のうち任意の1本へと誘導する。もしくは、全てのファイバーをそれぞれ異なる波長で同時に照射してもよい。重要な点は、多点入射光照射アレイ20で各照射点を区別できることである。
【0052】
この態様において、多点入射光照射アレイ20は樹脂シリンダー15(本明細書中で「撮像チャンバー」とも呼ぶ)の中に配置され、且つ、シリンダーの周囲には複数の光源ファイバー18によるいくつかのリングが形成される。本質的に、シリンダー15は、中心軸に対して垂直な一連の「リング」としてシリンダーの様々な高さに穿孔された多数の孔を有する。これらの孔はシリンダーの外周上に等間隔で作成されていてもよい。光源ファイバー18はシリンダー15の孔を通過し且つ内壁と同一面上で終端する。多点検出アレイ21は、光源ファイバー18のリングに(交互に)挟み込まれた検出用ファイバー22のリングの形式で、同じシリンダー15に組み込まれる。光源ファイバーと同様、各検出用ファイバーについてもシリンダーに孔が穿孔されている。これによってシリンダー内部の三次元領域がカバーされる。検出用ファイバー22はシリンダー15の検出アレイ21を構成し、且つ、光源ファイバーと同様にシリンダーの内壁と同一面上で終端する。この第一の態様では、各12本の検出用ファイバーによる3つのリングが、各16本の光源ファイバーによる2つのリングと交互に配置されている。各リングは隣接するリングから3 mm離れており、これによって合計1.2 cmのシリンダー高をカバーしている。
【0053】
シリンダー15(多点入射光照射アレイ20および多点検出アレイ21を含む)には液体のオプティカルコンタクト媒体(例えば、Intralipid(登録商標)、または観察対象組織の光学特性をシミュレートする適量の吸収性蛍光体または蛍光色素とTiO2粒子とのエマルジョン)を充填してもよい。オプティカルコンタクトは、動物の対表面から検出用ファイバーへと拡散光子を伝搬する「連結」液として作用する。整合液および樹脂シリンダーに対するTiO2粒子の濃度は、マウスの平均縮小散乱係数と同程度の散乱特性をもたらすように決定する。
【0054】
多点検出アレイ21で収集された蛍光は検出用ファイバー22を介して二次元発光蛍光アレイ24に供給される。二次元アレイ21は、被検体から放出されたアナログの蛍光を、ロングパスフィルター25(使用する蛍光色素によって異なる)を介してCCDカメラ26へと伝送する。ロングパスフィルター25は、表面反射方の撮像システムの場合と同様に、適切なカットオフ波長のものを選択する(Mahmood, Radiology, 213:866-870,1999)。固有コントラストを撮像するにはフィルターを外す。CCDカメラ26はブレッドボードに取り付ける。レンズ27またはマクロレンズ系によって二次元発光蛍光アレイの像をCCDカメラ上に取得する。
【0055】
測定によってCCDカメラが飽和しないよう、光減衰器14によって光の減衰を最適な状態に設定する。典型的な16ビットCCDカメラの場合、有用なダイナミックレンジは約3〜4桁である。これは、体の直径が約2〜3 cmの小動物の拡散光測定について予測されるダイナミックレンジでもある。ヒトの場合のダイナミックレンジは標的器官ごとに異なる可能性がある。例えば、直径約8 cmのヒト乳房を撮像する場合、必要なダイナミックレンジは約6〜8桁になる。このダイナミックレンジは、複数のフレームを高速取得することによってCCD技術でカバーすることができる。1秒あたり10フレームの現在のCCD技術では、1秒間の画像取得で6桁のダイナミックレンジを得ることができる。脳を測定する場合は、既知のレベルの減衰で高信号を選択的に減衰するプログラマブル減衰器を用いて時間効率を向上させるかまたは画像取得時間を延長することによって、より大きいダイナミックレンジを得てもよい。
【0056】
さらに、図2Bに示すように、位置決め器具23を用いて動物をシリンダー15内の最適な位置に配置してもよい。この態様の位置決め器具は、シリンダー15の中にぴったり入る単純なシリンダーである。3つの位置決め器具23(円筒形挿入部)を作製した。第一の挿入部はLexan(登録商標)(ポリカーボネート)またはPlexiglas(登録商標)で、第二の挿入部はwhite Delrin(登録商標)、ポリプロピレン、またはKel-F(登録商標)で作製した。これらの挿入部はいずれも、シリンダー20、21の内径にちょうど納まる外径を有し、厚さは1 mmである。第三の挿入部は壁厚が直径0.1 mmとなるよう、Mylar(登録商標)フィルムおよびKel-F(登録商標)フィルムで作製した。この設計の利点は、撮像中に動物を安定させることができ、且つ、位置合わせを行うための体表マークに対する位置精度が得られることである。
【0057】
多点検出アレイ21および多点入射光照射アレイ20を含む、シリンダー15(撮像チャンバー)の詳細な外観を図2Cに示す。光源ファイバー18および検出用ファイバー22は、三次元再構成が可能となるよう、測定がシリンダー全体にわたって行われるように配置される。光源ファイバー18は検出用ファイバーと交互に配置される。
【0058】
図2Dおよび2Eに2通りのファイバー連結システムを示す。図2Dは図2Aで使用されているシステムを示したものである。このシステムでは、離れた二次元発光蛍光アレイ24を用いて全ての検出用ファイバー22の信号を1つの平面で収集し、フィルター25を介してこの信号をCCDカメラ26で撮像する。図2Eに、フィルター25が検出用ファイバー22に直接接触する(すなわち、フィルター25が二次元アレイ24として機能する)より単純な態様を示す。
【0059】
多点入射光照射アレイの他の態様を図3A〜3Fに示す。図3Aは、上述の円筒形アレイの上面図である。図3Bは反射率モードおよび/または透過率モードの操作で使用される平面アレイである。別の態様ではアレイはシリンダーの一部分であり、例えば図3Cに示すように一定半径の曲線を描く。図3Dは成形アレイの略図である。このアレイにおいて、光源ファイバーの先端は、体の特定の形状に合った剛性体上に配置されるか、または照射光ファイバーを固定でき且つ体系にあわせて成形できるような、プラスチック、ゴム、もしくは布などの曲げが可能な弾性材料上に配置される。図3Eにベルト状の平坦でないアレイを示す。このアレイでは、光源ファイバーの先端は、必要に応じて患者または患者の肢の周囲にかけることのできる柔軟なベルトの中に配置される。このアレイの正確な照射点は、CT、US、またはMR撮像を同時に行うことによって測定および補正することができる。別の態様では、図3Fに示すようにカテーテル様器具の中に光源ファイバーの先端が配置される。
【0060】
これらの各態様において、検出用ファイバー22の先端は、図2Aに示したシリンダー15の内部と同様に光源ファイバー18の先端と交互に配置されていてもよい。または、検出用ファイバーの先端が光源ファイバーの先端に対して規定の幾何学的間隔で配置されている限り、検出アレイが入射光照射アレイから分離していてもよい。例えばカテーテル様アレイでは、例えば前立腺、肺、脈管構造、または胃腸管を撮像するため、入射光アレイを体内に配置し、且つ、独立した検出アレイを用いて検出用ファイバーの先端を体外に配置するのが好ましい使用様式である。
【0061】
図2Aの装置10は、例えばPC内に配置された、プロセッサ11とともに使用される。これについて以下に詳述する。図4に示すように、このようなプロセッサ11は一般的に入力/制御装置60、メモリ62、および出力装置64を有する。プロセッサ11は1つ以上の構成要素を含む電気回路であってもよい。プロセッサはデジタル回路、アナログ回路、もしくはその両方に組み込んでもよく、ソフトウェアに組み込んでもよく、または、統合状態の機械もしくはそのハイブリッドであってもよい。入力/制御装置60はキーボードもしくはその他の従来装置であってもよく、出力装置64は陰極線管(CRT)、その他のビデオディスプレイ、プリンター、またはその他の画像表示システムであってもよい。メモリ62は電子式(例えば固体メモリ)、磁気式、または光学式のメモリであってもよい。メモリは光学ディスク(例えばCD)、電磁式のハードディスクもしくはフロッピー(登録商標)ディスク、またはこれらの組合せに構築してもよい。
【0062】
図2Aの高効率光子収集装置は上述のものと同じかまたは類似の構成要素を用いて構築してもよい。ただし、専用の検出用ファイバー22は図2Aおよび2Dのようにレンズ系に接続するのではなく、(図2Eに示すように)CCDに直接結合させる。全体的に、このシステム設計により光子の計数効率が少なくとも300%向上すると考えられる。より高効率のCCDチップを使用すれば光子検出能がさらに向上する。
【0063】
画像分解能の高い設計を実現するため、図2Aの装置に、レンズ撮像系(図2Aおよび2D)または直接結合(図2E)によって、より多数(例えば64 x 100)の光源-検出器ペアを組み込んでもよい。直接結合の場合は、より大きな検出器セットを組み込むために、より寸法の大きいチップCCDカメラを必要とする場合がある。
【0064】
実際の使用においては、励起波長および発光波長についてフィルターを使用せずに対象組織の基本測定結果を取得してもよい。適切なカットオフフィルターを挿入した後に発光波長で蛍光測定を行ってもよい。
【0065】
断層撮影の精度を大幅に向上させる増設システムを図4Aに示す。これは時間分解FMT撮像システム30である。優れた再構成を実現するため、CW測定とともに16 x 16チャンネルアレイが作動する。CW系とTR系とを独立に使用することも可能であるが、両方の系の測定結果を同じ再構成系で組み合わせることにより利点がもたらされる。
【0066】
一般に、システム30はパルスレーザー源32、波長カプラー34、および波長スプリッター36を含む。図2AのCWシステムのように、2つのパルスレーザーダイオード2セット(パルス幅〜70ピコ秒、平均パワー〜150μW)を同波長で使用する。波長は遅延10 nmで時分割多重化して使用し、16チャンネルの単一光子計数時間分解システム44(例えば、ピコ・クアント(Pico-Quant)、ドイツ、Berlinより販売されているSPC-600(登録商標))で同時に検出する。時間分解系では、CW系の光源ファイバー18と同じ光源ファイバー18'を(CW光源およびTR光源の両方を光スイッチに接続することによって)共用してもよく、または、専用の光源ファイバーを別途使用してもよい。時間分解(TR)検出用ファイバー22'は、CW検出用ファイバー22とインターレースさせる。CW系とTR系とのクロストークを避けるため、TRの取得はCWの取得とは異なるタイミングで行う。TR系の比較的小さい光源-検出アレイ18'および22'(これもシリンダー15に組み込んでよい)で、有用な拡散画像を生成することができる。しかし、TRデータの貢献度が特に大きいのは次の2点である:(1)式1の反転においてTRデータを同時利用することにより、CWデータと併せて周波数情報を取得して独立型ののCW-TR断層撮影装置を提供する;および(2)TRデータを同時の磁気共鳴(MR)情報とともに使用することによって、MR像で同定された腫瘍病変部について蛍光の濃度および寿命の測定結果を取得する。
【0067】
パルスレーザー源32が発するレーザー光は波長カプラー34で結合され、次にスプリッター36で分割される。スプリッターはレーザー光の〜99%を光路39aを介して光スイッチ16へと誘導し、1%を光路39bを介して検出器モジュール40へと誘導する。このとき、それぞれ対応する減衰器38aおよび38bを通過させる。減衰器38bを通過して光路39bを通る光は「基準信号」となり、システムの時間的ドリフトおよび信号安定性のモニタリングに用いられる。光路39aを通過して光スイッチ16に誘導される99%のレーザー光はCW系と同じ方式で切り替えられ、選択された16本(または必要に応じてそれ以上)のCW光源ファイバー18に入る。2つの異なるスイッチおよび光源ファイバーを使用する必要はない。光チャンバー15内の測定対象組織に光子パルスを照射する際にも、CW系で使用されるものと同じ光学系を使用してよい。ファイバー18はファイバー18'と物理的に同一であってもよい(しかし、必ずしも同一である必要はない)。これらファイバーが図面上で異なっているのは、CW信号またはTR信号を通過させるこれらファイバーの作動をわかりやすく図示するためである。2対1光スイッチ16'(例えば、Diconスイッチ16に付属のもの)でCW源とTR源とを切り替えてもよい。しかし、時間分解検出システム44で収集された光子を誘導するには、独立したTR検出用ファイバーアレイ(ファイバー16本)が必要である。シリンダー15は図2Aのものと同じである。被検体から放出された蛍光または固有の光は、図2AのようにTR系を通過し検出器モジュール40に入る。ファイバー22は図2AのCW系の検出用ファイバーである。
【0068】
検出器モジュール40は、光子を検出し且つ単一光子を電気的なアナログパルスに変換する光電子倍増管(PMT)41を含む。これらのアナログパルスはルーター42を通過し、ルーター42は経路43を介してSPC-600ボード44へとこのアナログパルスを誘導する。パルスは、レーザー32から経路52に出力されるトリガーパルスに対する各パルスの到着時刻(TOA)を表すデジタル値に変換される。収集された各パルスは、ルーター42内でデジタルアドレスを生成する。このアドレスはその光子が検出された検出チャンネルを固有に示す。このデジタルアドレスはデジタルケーブル45を介してコンピュータメモリ62に伝送され、このアドレスを用いて、各チャンネルに割り当てられた適切なメモリービンにTOAが保存される。この態様で使用される16のチャンネルは、16の個別のメモリービンに対応する16の個別のデジタルアドレスを有する。システム44内では、コンスタントフラクションディスクリミネーター(CFD)50が振幅が非常に小さく光電子雑音に起因している可能性のあるパルスを排除し、時間波高変換器(TAC)がパルスの到着時刻をアナログの振幅値に変換し、且つ、マルチチャンネル分析器(MCA)がこのアナログ振幅を高速でデジタル値に変換する。システム44の出力47はデジタル値であり、このデジタル値はケーブル45で伝送されるアドレスに対応したコンピューターメモリービンに保存される。
【0069】
時間分解測定を用いて、測定対象媒体の平均的なバックグラウンド特性を独立に取得してもよい。これは吸収、散乱、および蛍光の再構成に関する重要な入力パラメーターである。TR測定結果とCW測定結果とを組み合わせることにより、固有コントラストおよび蛍光の再構成に関する順問題をより正確に記述できる。さらに、CWデータとTRデータとを同時に使用することにより、全体的な画質および忠実度が向上する。別の方法としては、時間分解データを用いてバックグラウンドの固有コントラストの低分解像を生成し、この情報を用いて各動物のCW再構成に関する順問題をより正確に記述してもよい。
【0070】
CW情報、および特にTR情報(またはフーリエ変換によって得たIM情報)をさらにMR像データと組み合わせて、蛍光体濃度および蛍光寿命の正確な定量的測定結果を生成してもよい。時間分解法または輝度変調法により、組織中に分布している既存の蛍光色素と新規の蛍光色素とについて蛍光減衰を識別するためのスペクトルが大幅に広がると考えられる。前述のシアニン蛍光色素の減衰時間は一般的に1〜20 nsである。この時間スケールは多くの生物物理学的測定に有用であるものの、これより長い減衰時間が所望される場合も多数存在する。例えば、大型タンパク質または膜結合タンパク質の回転運動を測定したい場合が考えられる。マイクロ秒またはミリ秒単位のプロセスの測定には、減衰時間が100 ns〜10 μsであるリン光が利用されている。特定のランタニド金属リガンドプローブは寿命が長いためゲート検出の利用が可能である。ゲート検出を利用することによって生物試料の自家蛍光による干渉を抑制し、これにより感度をさらに向上させることができる。
【0071】
1つの魅力的な特徴は、FMT撮像で得られた分子マップを、磁気共鳴映像法(MR)、X線コンピューター断層撮影法(CT)、超音波撮像法(US)、さらには単光子放出断層撮影法(SPECT)、または陽電子放出断層撮影法(PET)等で取得した解剖学的断層像と組み合わせることである。具体的には、空間分解能が高い撮像法であるMRIまたはCTとの組合せが好ましい。DOT撮像(吸収のみ)ではすでにMRIとの組合せが行われており(Ntziachristosら, P.N.A.S., USA, 97:2767-72, 1999)、この用途の1例から、FMT撮像とMRIとの組み合わせ方が開示される。このMRIとの組合せにより、以下が可能となる:(1)MR像と工学的に取得した像とを直接比較することによりインビボFMT撮像の妥当性を検証すること;(2)T2強調MR像とGd増強パターンとにより取得した解剖学的画像、および光学撮像で観察される分子活性に基づいて、癌描出能および検出限界を直接比較すること;および(3)MRによる構造的および機能的情報を光学反転系で先験的な情報として利用することによって、局所の蛍光体の濃度および寿命について高精度の測定結果を得ること。MRIとFMTとの組合せにより、蛍光体の濃度および寿命の定量化における精度も向上する。全体的に、分子プロービングにより検出精度が向上し且つ分子標的評価が可能になる。
【0072】
磁場との干渉を回避するため、励起光および放射光を励起/検出システムから患者に、およびその逆方向に伝送するためのファイバー束は非磁性体のものを使用してもよい。ヒトに適用する場合は、任意のMR施設で利用できる市販または特注のMRIコイルを使用してよい。MRコイルは用途に応じて図3A〜3Fに示す形状のうち1つに連結してもよい。皮膚に接触させた多点入射光照射アレイおよび検出アレイの正確な位置を確認するためにMR像またはCT像自体を使用してもよい。平坦でない表面上の光源ファイバー端および検出用ファイバー端の空間位置を把握していることにより光学的再構成が向上する。皮膚接触型ファイバー(例えば、図3Eのファイバー)または体内留置型ファイバー(例えば、図3Fのアレイの直腸内使用)は、アレイが固有検出可能な材料(例えば、磁気/X線吸収性の化合物、特定の化学物質、またはプラスチックで充填された微小基準ファントムを含む材料)で構成されている場合は撮像によって検出してもよい。例えば、多点入射光照射アレイおよび検出アレイのシリンダー、ならびに光ファイバーの位置をMR像上で確認するには、MR像で明るいスポットとして現れるよう水とCuSO4とを充填した小さい基準毛管をシリンダーに取り付けてもよい。
【0073】
図4Cおよび4Dは位置合わせに使用される磁気共鳴(MR)コイル65の例である。コイル65は図2Bの動物用挿入部23を収容できるよう専用に作製したものである。1つの態様では、FMT撮像後、動物を入れた挿入部23を撮像チャンバー15から取り出し、MRコイル65の中で位置決めする。専用に設計した1つ以上のガラス毛管66(水および硫酸銅を充填した1 mmのガラス管)を挿入部23に取り付け、これによってMR像とFMT像との位置合わせを可能にする。このような基準マーカーは、図8Aに示すようにMR像の左側に明るい円形スポットとして描出される(詳しくは後述)。図4Dは、MRIコイル65の中で挿入部23内にマウスを位置決めした様子である。第二の態様では、MR撮像とFMT撮像とを同時に行えるよう、図2Aの撮像チャンバー15の周囲にコイルを直接構築する。
【0074】
データ収集
図5のフローチャートに示すように、TRおよびCWのそれぞれについて5セットの測定結果M1〜M5が取得される。測定結果M3は測定結果M2から導出するかまたは理論的に構成することができるため、この取得は省略してもよい。用途の要件に応じて収集したデータの部分集合を使用してもよいが、精度を最も高くするには、蛍光色素の再構成にM1セット、M2セット、M4セットを使用し、光学マップの導出にM1セット、M2セット、M4セット、M5セットのを使用する。
【0075】
図5に示すように、初期段階70で取得されるのは5セットの単純な測定結果(M1、71;M2、72;M3、73;M4、74;およびM5、75)である。第一の段階71では蛍光測定結果M1が取得される。これは、複数の点で光源を走査し、且つ、発光波長(蛍光)のみが収集されるようバンドパスフィルターを使用した状態で組織からの発光を検出器で取得したときの測定結果である。段階72では、段階71と同様にして第二の測定結果M2が取得される。ただし、バンドパスフィルターを使用せずに、各波長について組織の固有信号を測定する。固有信号と比較して蛍光信号が非常に小さい場合、フィルターは不要である。しかし、測定対象組織が発する蛍光(M1)がM2の1%より大きい場合は、蛍光波長を排除するためカットオフフィルターを使用する。段階73では、段階71で使用した蛍光フィルター(ハイパスフィルター)を通過する固有光の量を取得するため、測定結果M3を得る。この測定を行うには、測定対象の組織をシリンダーから取り出し、蛍光フィルター(バンドパスフィルター)を使用した状態で整合液の測定結果を取得する。この測定結果は、光源1つあたりの周辺光、光子雑音、および電子雑音の影響を確認するためにも使用される。
【0076】
別の手法としては、M3の実験的測定を行う代わりに、M3 = ql(r) x M2 + ctにより構成した測定結果を使用する。この式において、qlは固有場のフィルター減衰であり、半径依存的なフィルター異方性をもたらしうるような空間依存性の因子である。因子ql(r)は平坦場測定によって実験的に決定してもよく、またはフィルターの仕様に基づいて計算してもよい。定数ctはCCDカメラのバックグラウンド暗雑音測定結果の像を表す。さらに、M3はM3 = ql(r) x M2' + ctという式でも記述できる。この式において、M2'は、伝達方程式の解を用いて理論的に計算されるか、または測定対象媒体の平均的な光学特性を有する均質な媒体についてもしくは既知の情報を利用して得た不均質な媒体についてこの伝達方程式(拡散方程式など)を近似した近似値を用いて、理論的に計算される。
【0077】
段階74では、周辺(バックグラウンド)光およびCCD雑音のみを取得するために、すべての光源をオフにした状態で測定結果M4を取得する。段階75では、フィルターおよび組織を置かない状態で、適切なレーザーダイオードを用いて励起波長および発光波長について測定結果M5を取得する。この測定によりバックグラウンド信号が得られる。
【0078】
実際には、CW測定では測定結果M1、M2、M3、およびM5はそれぞれ一連のNs枚の画像(Nsは使用する光源の数)である。M4はバックグラウンド雑音の1枚の像である。TR光源またはIM光源の場合は、M1、M2、M3、およびM5はそれぞれセットがNs x Nd(Ndは検出器の数)である。多スペクトル撮像の場合は、取得した測定結果の数と、対応する使用波長数とを乗算する。
【0079】
複合測定結果(CM)
これらの単純な測定結果を組み合わせることにより、次式により蛍光M(段階80a)および固有コントラストM'(段階80b)の自己較正(または複合)測定結果を生成する。
M = (M1 - M3) / (M2 - M4) 式1
および
M' = log (M2 - M4) / (M5 - M4) 式2
【0080】
上式には明らかに表されていないが、測定結果M1〜M5は周波数の関数である。したがって、CWデータおよびTRデータ(フーリエ変換後の)はまったく同様に扱われる。この構成の理論的根拠は、これらの複合測定ベクトルが、異なる光源ファイバーまたは検出ファイバー間の減衰の差異およびCCDチップないの不均質性といった機器利得の変動に対して独立である、という点にある。さらに、これらのベクトルにより、実際の測定結果からバックグラウンド雑音(M4)またはハイパスフィルターの不完全性(M3)などの系統誤差が減算される。測定結果を較正する方法は複数存在すると考えられるが、これらの具体的な構成は蛍光信号および固有信号を理論的に予測した後に行われる。この理論的予測の段階は定量的な再構成に不可欠である。次に、この点について詳述する。
【0081】
自己較正された複合測定結果を較正するには、特定の用途に応じて別の方法を用いてもよい。例えば、蛍光体の濃度および活性を時間の関数として観察する動的撮像においては、測定結果M5の代わりに時刻0における測定結果M2を使用してもよい。これは、好ましくはNIRFプローブを動物に投与する前の時点とする。これによって、蛍光色素吸収を固有の組織吸収からの差異信号として正確にモニターすることができる。
【0082】
順問題の構成
断層撮影測定を行うには、複合測定結果(CM)(すなわち測定結果Mおよび測定結果M')の理論的予測が必要である。これを「フォーワード予測子」(P)または「重み行列」と呼ぶ。PとCMとを組み合わせることにより、後述のように分子断層撮影測定結果を生成する。本明細書では、回折断層撮影法の断層撮影原理(KakおよびSlaney, 1988)を適用した具体的な理論的構成について説明する。
【0083】
順問題の修正ボルン(Born)予測に基づいて蛍光のPを記述する(Ntziachristos V, Weissleder R, Opt. Lett., 26(12): 893-895, 2001)。一般に、媒体には弱い吸収を示す蛍光体が分布しているとみなす。蛍光体はこの光子分布によって励起され、蛍光の二次点光源として作用する。投与するNIRFプローブの濃度が低いため、2レベル量子系としての蛍光体および飽和効果は無視する。蛍光測定結果に対する標準ボルン拡張は次式で表される。

上式において、

は位置

の光源に対して位置

で測定された蛍光のフルエンス、

は所定の位置の光源によって均質な媒体内で生じた光子のフルエンス、

は発光波長における拡散媒体内の光子の伝搬を記述する関数である。

は蛍光体Fの未知濃度に位置

の蛍光収率γを掛けたもの、σは蛍光色素の吸収断面、cは拡散媒体中の光の速度、τ= 1/Γは蛍光寿命、ωは光源輝度の変調周波数である。輝度が一定の光源の場合はω = 0である。段階88で決定されたフォーワード予測子(P)により、測定結果M(段階80a)は次式のように予測される。

【0084】
これは、標準ボルン拡張を入射場

で正規化する修正ボルン拡張である。したがって、光源および検出器の利得は各光源-検出器ペアについて独立に打ち消される。
【0085】
固有コントラストの再構成を行うには、例えばO'レアリー(O'Leary)ら, Opt. Lett. 20:426-428, 1995およびNtziachristosら, Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 97:2767-72 2000に記載されているように、周波数領域のリトフ(Rytov)拡張を用いてフォーワード予測子P'を決定する(段階88)。測定結果M'(段階80b)は次式のように記述される。

上式において、

は位置

の光源から位置

までの入射場、

は仮定した均質なバックグラウンド媒体に対する未知の吸収係数および拡散係数の変化のベクトルである。
【0086】
関数gflおよびφ0は、特定の撮像チャンバー形状および拡散理論について発光波長(段階82)および励起波長(段階84)の光子伝搬をシミュレーションすることによって計算する。これは、分析的手法かまたは数値的手法のいずれかにより行うことができる。これらのシミュレーションを行うには、関心対象波長における組織の平均的な光学特性が既知である必要がある。光学特性は、全ての固有コントラストのTR測定結果を適切な形状の拡散モデルに適合させることによって得られる。分析的には、Liら, Appl. Opt., 36:2260-2272 (1997)に記述されているように、標準的な方法を(円筒形状に適合させたうえで)適用することも可能である。しかし本発明者らは、部分的境界条件を用いて円筒形状の拡散近似問題を解く自作の定差数値アルゴリズムを使用することを提唱する(Arridge, Inverse Problems, 15:R41-R93, 1999)。これにより、光源-検出器間の間隔が小さくても正確にモデルを構成できる。これは、規模の比較的小さい問題に対してより正確な伝搬モデルを得るために使用されなければならない。以上により、式4および式5の中で未知の要素は、それぞれ蛍光体の分布、または吸収係数および拡散係数のみとなる。次に式4および式5の最小化について説明する。
【0087】
データの反転
蛍光コントラストおよび固有コントラストはいずれも、関数を記述し、後にこの関数を最小化することに基づいて再構成する。段階80aで複合測定結果Mを用いて関数F(U) = (M - P x U)2を記述し、段階80bで複合測定結果M'を用いて関数F'(O) = (M' - P' x O)2を記述する。Uは消光していない(活性状態の)蛍光色素の未知濃度、Oは吸収および拡散の未知の分布のベクトルである。吸収分布はベール-ランベルトの法則(Beer-Lambert Law)によって蛍光色素濃度に変換してもよい。行列PおよびP'は前述のとおりである。段階92aおよび92bにおいて、関数F(U)およびF'(O)を最小化しこれによりUおよびOの分布および大きさをそれぞれ求める。最小化は代数的再構成法によって行うことができるが、他の任意の最小化法を使用して、記述した関数の解を求めてもよい。
【0088】
活性化される蛍光色素が少量である場合は、反復法を用いる必要はない。多くの場合はこれに当する。しかし、特定の用途で高濃度の蛍光色素が活性化されることが予測される場合(すなわち、吸収摂動による固有信号の変動が10%を超える場合)は反復が必要となる。反復プロセス95の第一段階では、測定対象媒体の平均的な光学特性を有する均質なバックグラウンドを仮定する。次の段階では、像UおよびOをバックグラウンドマップとして用いて行列PおよびP'を記述する。反復を行う場合は、拡散方程式の数値解を用いて行列PおよびP'を記述する必要がある。蛍光色素のバックグラウンド分布が、局所的な高集積領域(腫瘍など)のコントラストと同程度である場合も、反復が必要となる。一般には、各反復段階の計算結果が有意に変化しなくなった時点で反復を終了する。
【0089】
分子マップ
本発明の新規なシステムおよび方法により、分子マップおよび分子活性化マップの三次元定量的な計算が可能となる。計算によって得られる像Uは、蛍光状態または活性化状態の蛍光色素の濃度を含む。一方、Oに含まれる吸収像は全蛍光色素(消光状態および非消光状態の蛍光色素)の濃度を定量的に表したものである。全蛍光体濃度に対する活性状態の蛍光体の濃度は次式の活性化比マップで表される(段階93)。
AR = U/O 式6
上式は、測定対象領域に実際に分布している蛍光色素の量に対して正規化した活性化の量を表す。吸収がゼロである領域については、比ARは定義されない。蛍光色素の分布がゼロであれば活性化は生じないのでこれは当然である。したがって、デフォルトでは、吸収がゼロでない領域要素に対してのみ比ARが適用される。
【0090】
図6A〜6Cに、分子マップ(酵素トリプシンの活性を示す分子マップ)の生成の様子を示す。分子マップは分子の内部プロセスを表したものである。分子マップ(MM)は式MM = k * AR、すなわちMM = k* (U/O)によって最も適切に記述される。kは定数である。
【0091】
図6Aは、トリプシンの変性に対して感受性である分子プローブの濃度を示す吸収マップである。図6A中の明るいスポットは、消光状態のものも非消光状態のものも含めたプローブの全量を表す。図6Bは、消光されていない(すなわち酵素賦活された)トリプシン感受性プローブのみを測定した、対応する蛍光マップである。図6Cは「蛍光賦活」を画像として表示したAR像または「分子マップ」である。明るいスポットは、この実験で使用した酵素トリプシンの添加量に比例している。
【0092】
実施例
以下に実施例によって本発明を説明するが、これら実施例は特許請求の範囲で定義される本発明の範囲を限定するものではない。
【0093】
実施例1 ファントムのFMT像
1つの態様において、三次元位置および測定精度を確認するためファントム実験を行った。実験の設定を図7Aの上面図に示す。簡潔には、3本の毛管103(内径1mm)を有するファントム100を三角形の形状に構成し、混濁媒体102(0.5% Intralipid(登録商標)水溶液)の入った光学チャンバー(図2Aの15)に入れた。毛管103は図7Aに示すように8 mmおよび11 mmの間隔で配置し、吸収を最大にするため黒い蛍光色素でコーティングした。この毛管を三次元で撮像した。
【0094】
図7Bに、撮像チャンバー15の長軸方向に対して垂直で、且つ、撮像した三次元領域のほぼ中央の面で再構成した像110を示す。高いコントラストにより、3本の毛管の高分解像が高い位置精度で得られた。使用した再構成メッシュは0.8 x 0.8 x 2 mm3である。再構成には24個の光源×36個の検出器を使用した。
【0095】
実施例2 経時的なトリプシン活性のFMT像
別の実験では、蛍光活性に関する定量的且つ空間局所的な情報を時間の関数として取得した。図8Aおよび8Bに示すように、組織様流体(Intralipid(登録商標))に3 mmの毛管123を浸漬してファントム102を作製した。毛管にはCy5.5プローブ1.5μMを入れ、時刻0に酵素トリプシンを毛管に添加することによってこのプローブを活性化した。この実験では、12個の発光点を曲線矢印125の方向に順に発光させることによって1平面のみを撮像した。図8Bにファントムの立体図を示す。
【0096】
図8C〜8Fは種々の時刻に取得し軸方向に再構成した一連のフレームである。これらのフレームにはプローブの活性化が時間の関数として表示されている。例えば、図8Cが示しているように、毛管にトリプシンを添加してから20分後の時点では、〜20%のプローブしか活性化されていない。しかし酵素添加から200分後の図8Fでは〜75%のプローブが活性化されている。各フレームは、シリンダーに沿って同一面上に配置された12本の光源ファイバーの各々に順次光を誘導することによって取得した。各光源について、検出用ファイバーから出た光をCCDで5秒間取得した。したがって、フレーム1枚あたりの総取得時間は1分間(12光源×各5秒間)であった。
【0097】
実施例3 マウスのカテプシンB活性を撮像した複数の位置合わせ画像
別の実験では、組み合わせたMR/FMT像を用いて、ヌードマウスに移植したヒト腫瘍中のカテプシンBプロテアーゼの活性のマップを作製した(図9A〜9C)。腫瘍はカテプシンBを多量に含むHT1080線維肉腫であり、実験前にマウスの脂肪パッド内に7〜10日間移植した。撮像実験の24時間前に、カテプシンB感受性撮像プローブを静脈注射によりマウスに投与した(Weisslederら, Nat. Biotechnol., 17:375-378, 1999)。マウスを90 mg/kgケタミンおよび9 mg/kgキシラジンの腹腔内投与により麻酔し、図2Bに示した挿入部23の中に入れた。挿入部およびマウスを撮像チャンバー15の中に置き、M1、M2、M3、およびM4を測定した。
【0098】
続いて、挿入部内のマウスを撮像チャンバーから取り出した。水による基準点(本明細書中で説明しているもの)を、挿入部の外周のあらかじめ定めた位置に取り付けた。次に、挿入部をMRコイルに入れ、1セットの横断面T2強調画像を取得した。基準点の役割は、後の画像位置合わせのため、選択した光源ファイバーおよび検出用ファイバーの位置をMR像上で確認することである。例えば、図9A、10A、および11Aの画像の左側に明るいスポットとして描出されている基準点(シリンダー外壁に沿って長軸方向に配置されたガラス毛管)は、対応するスライス上の検出器1、13、および25の位置を示している。
【0099】
実験結果として、MR像(図9A)、カテプシンBの分子マップ(FMT)(図9B)、およびMRスライスのうち1枚をFMT像と融合して作製したMR/分子マップ(図9C)を示す。腫瘍の位置で取得した画像の光学的コントラストとMRコントラストとは極めてよく一致している。腫瘍にはカテプシンBの強い分子活性(蛍光活性)が認められ、このことは免疫組織化学法およびウェスタンブロッティングにより確認された。蛍光活性とT2強調画像との位置合わせの様子は図9Cの融合像に示されている。残りの2段の画像は、他の組織におけるカテプシンの有無を示すスライスである。具体的には、図10Aおよび10Bはそれぞれ心臓部のMR像およびFMT像である。予測されたとおり、肺および心臓ではカテプシンBが活性化しておらず、したがって図10BのFMT像には何も描出されていない。図11Aおよび11Bはそれぞれ腎臓部のMR像およびFMT像である。腎臓内で描出されている蛍光色素は恐らく排泄された余剰分であり、カテプシン活性を反映したものではないと思われる。
【0100】
これは、全測定アレイのうち一部を使用して(M1〜M4のCW測定結果のみを使用し、M5およびTRデータは使用していない)、酵素活性像を生成した例である。この画像により、以下の実施例で説明する臨床例に有用な情報が提供されている。さらに、図9A〜11Bの一連の画像により、本発明の新規な方法およびシステムを用いて生きた動物の多スライス像を生成できることが確認された。
【0101】
実施例4 分子マップ
分子マップ生成の用途を示すため、実施例3と同じ設定を用い、CWモードで測定結果M1〜M5の全アレイを取得した。Intralipid(登録商標)の光学特性を時間分解系で独立に測定した。次に、吸収マップ(図6A)と、トリプシン賦活から50分後に収集した蛍光マップ(図6B)とを、図5のフローチャートに示したアルゴリズムによって作成した。段階93で計算した分子マップ(AR像)を図6Cに示す。活性化50分後で、酵素感受性プローブの40%が活性化されている。
【0102】
実施例5 酵素特異的プローブ
感受性および酵素特異性を有する、FMT撮像に有用な種々の撮像用プローブを合成した。これらのプローブは、酵素の中でも特にカテプシンD、カテプシンK、酵素的に活性状態の前立腺特異抗原(PSA)、およびマトリックス・メタロプロテアーゼ2に対して特異性を示す。これらプローブの特異性は、精製または組換えヒト酵素を添加したインキュベーションと、蛍光測定器による蛍光活性測定とによって確認した。これら全てのプローブについて、NIR蛍光体Cy5.5を消光レポーターとして使用した。これらプローブはいずれも、深部組織(正常組織および疾患組織のいずれも)における酵素活性を測定するために、本明細書に記載のように動物およびヒトに使用することができる。例えば、MMP-2阻害剤(例えば、Prinomastat(登録商標)、アグーロン・ファーマシューティカルズ(Agouron Pharmaceuticals, Inc.、カリフォルニア州San Diego)の投与前および投与後に腫瘍中のMMP-2活性を測定してもよい。分子標的評価でこのような測定を行うことは、動物モデルを用いた迅速なインビボ薬剤有効性スクリーニングに有用である。さらに、このようなスクリーニング法を用いて、特定の患者における特定の治療法の有効性を評価してもよい。
【0103】
実施例6 臨床使用
本発明の新規なFMT法は広範な臨床用途を有すると予測される。1つの用途として、分子の異常は存在するが表現型の異常には至らない早期の段階での疾患発見がある(例えば、腫瘍塊が形成される前の癌における突然変異)。別の用途としては、以下を目的とした疾患組織における分子標的評価である:(1)所定の標的が患者の体内に存在するか否かを決定する(例えば、プロテアーゼの発現レベル);(2)実験段階の薬剤が、意図されたインビボ分子標的に対して効果を示すか否かを決定する;(3)所定の患者に対して治療を個別化およびテーラード化する;ならびに(4)所定の患者に対する所定の分子の投与量を最適化する。この点において、本発明の新規なFMT撮像法は薬剤有効性試験に近い。このような測定は、酵素阻害薬、受容体ブロッカー、およびその他の分子薬剤の有効性を決定するための臨床設定においても価値があると考えられる。これらの方法を、癌、心血管疾患、AIDS、感染症、免疫疾患、炎症、皮膚疾患、眼疾患、神経変性疾患、およびその他の疾患を含む広範な疾患のモニタリングに使用してもよい。
【0104】
実施例7 複数のプローブ
本発明の新規なFMT法は、1回のFMT像取得で複数の分子の異常を調べるため、複数の分子プローブ(それぞれが独自の特異的な励起波長および発光波長を有する分子プローブ)を同時に用いて実施してもよい。追加の蛍光分子プローブを励起するための1つ以上のレーザーを追加することによって、本明細書に記載のシステムをこのような用途に適合させてもよい。異なるチャンネル間でスペクトルが重複してないことを確認した上で、適切なフィルター系を介して画像信号を収集する。画像再構成、アルゴリズム、および表示は、本明細書に記載の単一波長撮像のものと同様である。
【0105】
実施例8 周波数領域技術
好ましくは複数の周波数において、1つ以上の周波数領域光源を使用することによって、本明細書に記載のTRシステムを改変してもよい。周波数領域技術を既存のアルゴリズムに直接適用できるよう、その周波数領域で理論式を記述する。周波数領域技術を用いることの理論的根拠はTR技術の場合と同様である。すなわち、周波数領域技術により、固有コントラストモードでは吸収と散乱とを、蛍光モードでは蛍光体の濃度と寿命とを区別できるような多周波数情報が得られる。周波数領域技術を用いる場合は、図4Aの機器の代わりに、1つまたは複数の周波数で変調される光源、および、信号復調を担当する検出チャンネル(ロックイン増幅器、または好ましくは、MR信号の検出に使用されるものと同様の直角復調器)を使用する。
【0106】
実施例9 差分動的撮像(DDI)
蛍光コントラストおよび固有コントラストの取得、ならびにAR像の構成を行うため、前述の複合測定結果の利用を種々の方法で適用してもよい。例えば、NIRF分子プローブを注射した動物の一般的な系は式4および5で与えられるが、NIRFプローブ注射前の動物で測定を行い、次に、NIRFプローブ注射後の吸収コントラストおよび蛍光コントラストの差分測定を行ってもよい。この技術は、取り込み及び活性化の動態のモニタリングに重要な用途を有する(実施例2でも示している)。差分測定では蛍光色素/発色団の吸収をバックグラウンド吸収とは独立に再構成できるため(これは吸収の変化のみが再構成されることによる)、このアプローチにより、測定結果の精度も最も高くなる。したがって、より正確なARマップを時間の関数として生成することが可能である。
【0107】
実施例10 複数の波長での撮像
実施例9とは別の複合測定結果の利用方法として、各測定セットにつき4つ以上の波長を使用する方法がある。N個の組織発色団について、NIRFプローブが吸収しないスペクトル領域でN個以上の波長を選択する。したがって真の「固有」コントラスト、すなわち、自然状態の組織発色団濃度にのみ起因するコントラストが得られる。これら発色団のスペクトル情報を用いて、NIRFプローブの発光波長および励起波長でのこれら発色団の吸収を計算することができる。他の2つの波長は、励起波長および発光波長での吸収像を構成するために使用する。この後者の像では、自然状態の組織発色団濃度と蛍光色素分布との両方に起因する吸収が再構成される。自然状態の組織発色団のみについて計算した吸収像から、励起波長および発光波長で得られた像を減算することによって、真の蛍光色素/発色団濃度が得られる。
【0108】
実施例11 臨床用FMTシステム
本明細書に記載の新規なシステムおよび方法は容易に臨床設定に適用できる。例えば、円形/円筒形の多点入射光照射アレイまたは圧縮/平面アレイを用いて乳癌検出を行ってもよい。頭蓋に取り付けた光ファイバーの弾性バンドを用いるか、または平面/反射幾何学形状を適用して、脳の測定を行ってもよい。種々のアレイについては図3A〜Fを参照。本明細書に記載のFMT撮像法の光学技術は他の放射線モダリティーと適合性があるため、FMT撮像をMR測定またはCT測定と連続的にまたは同時に行ってもよい。
【0109】
臨床設定においては、多数の測定結果を経済的に収集するうえでCW測定が有用であると考えられる。しかし、より高度な技術(例えば、前述のIMまたはTR)を限られた回数行うことによっても、CW測定の情報内容を大幅に向上できる可能性がある。ただし、CW技術のみに基づいて臨床システムを構築することも可能であると考えられる。周波数領域技術または時間領域技術がより安価になってから、周波数領域技術または時間領域技術のみに基づいて全システムを構築してもよい。
【0110】
その他の態様
本明細書に記載した分子活性化の一般的な再構成系のサブカテゴリーとして、組織の単純な透照を利用して分子事象を検出する方法がある。これは、断層撮影による撮像から単純な投射撮像への拡張であり、既報の反射撮像法(Weisslederら, 米国特許第6,083,486号)と似ているが同じではない。透照により、組織全体にわたる蛍光色素の吸収を測定することが可能になる。したがって、最大でも2〜3センチメートルしか到達できない反射撮像法とは対照的に、透照法では数センチメートルの深さまで到達できる。分子事象の透照では分子活性を三次元で分解または定量することはできないが、分子活性化の相対的な変化を定性的にモニターすることは可能である。
【0111】
別の態様では、本発明の新規なシステムおよび方法を使用して動物の内因性の蛍光を撮像してもよい。例えば、緑色蛍光タンパク質またはフルオレセイン等の蛍光性タンパク質をコードしている遺伝子を、動物または患者の体内で発現させたい関心対象遺伝子の近傍に、標準的な遺伝子療法技術により導入してもよい。蛍光性タンパク質を撮像することにより、関心対象遺伝子の発現を間接的に測定できる。このタンパク質が発現していれば、関心対象の遺伝子も発現している。
【0112】
以上、本発明をその詳細な説明との関連によって説明したが、上記の記述は説明を目的としたものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を制限するものではないと理解されるべきである。この他の局面、利点、および改変も添付の特許請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明の新規な方法に特に適した、活性化可能な自己消光性近赤外(NIR)蛍光プローブの例である。
【図2A】三次元蛍光断層撮影装置の略図である。
【図2B】動物を撮像に適した体位に保持するため図2Aの装置とともに使用される位置決め装置の略図である。
【図2C】図2Aのシステムの光学撮像チャンバーの写真である。撮像チャンバーにより、光源および検出ファイバーが適切な位置に配置される。
【図2D】本発明の新規な蛍光断層撮影装置に使用できるファイバー連結システムの別の態様を示した図である。
【図2E】本発明の新規な蛍光断層撮影装置に使用できるファイバー連結システムの別の態様を示した図である。
【図3】多点入射光アレイの別の態様を示した略図である。それぞれ、円形アレイ(図2Aにも示す)、平面アレイ、曲線アレイ、成形アレイ、ベルトアレイ、およびカテーテルアレイである。これらの態様はすべて図2Aのシステムで使用できる。
【図4A】図2Aのシステムとともに使用できる、時間分解三次元蛍光媒介式分子断層撮影法(FMT)の略図である。
【図4B】位置決め用挿入部の写真である。図2Aのシステムの撮像チャンバー内で使用した状態である。
【図4C】位置決め用挿入部の写真である。図2Aのシステムの磁気共鳴映像法のMRIコイル内で使用した状態である。
【図4D】位置決め用挿入部の写真である。図2AのシステムのMRIコイル内でマウスを保持した状態である。
【図5】三次元のアナログの蛍光信号データおよび固有(吸収)信号データを処理して以下(i)〜(iii)を提供するための段階を示したフローチャートである:(i)与えられた領域内における活性化蛍光プローブの濃度のベクトルU、(ii)非活性化プローブおよび活性化プローブの濃度のベクトルD、および、(iii)全NIRFプローブに対する活性化NIRFプローブの比であるベクトルAR。
【図6】吸収マップ(図6A)、蛍光マップ(図6B)、および吸収比(AR)を示す分子マップを表す画像である。
【図7】高分解能での吸収の撮像を示した略図である。図7Aはファントムの設定を示した図、図7Bは再構成した画像である。
【図8】図8Aおよび8Bは、円形の多点入射光アレイを使用して組織様媒体中の酵素活性を三次元で撮像するための実験の設定を示した略図である。多点入射光アレイを断面図(図8A)および立体図(図8B)で示した。 図8Cから8Fは、図8Aの実験設定において低速度撮像ビデオで観察した酵素活性の静止画像である。それぞれ、20分(図8C)、50分(図8D)、115分(図8E)、および200分(図8F)後の画像である。
【図9−11】図9は、ヒト腫瘍を移植した生きたマウスの移植領域全体を撮像した横断面像である。図9AはT2強調MR像である。図9Bは、活性化可能なカテプシンB検出用NIR撮像プローブを静脈注射してから24時間後に撮像した、移植腫瘍のNIR蛍光媒介式分子断層撮影(FMT)像である。図9Cは融合像である。T2強調MR画像とNIRF賦活FMT画像とで腫瘍の位置がよく一致している。 図10は、生きたマウスの心臓部の横断面を撮像したもので、それぞれMR像およびFMT像である。 図11は、生きたマウスの腎臓部の横断面を撮像したもので、それぞれMR像およびFMT像である。これら図面内の同じ参照記号は同等の要素を指す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、蛍光媒介式分子断層撮影法(FMT)撮像システム:
入射光を供給するための光源;
2つ以上の別々の励起点から対象物内へと光を誘導するための多点入射光照射アレイ;
光源から多点入射光照射アレイの各点へと光を伝送するための複数の光ファイバー;
対象物から放出された光を2つ以上の別々の収集点から収集するための多点検出アレイ;
対象物から放出された光を検出器へと伝送するための二次元発光アレイ;
各収集点から二次元発光アレイ上の対応する点へと光を伝送するための複数の光ファイバー;および
二次元発光アレイの各点から放出された光を検出し且つ対象物から放出された光に対応するデジタル信号に変換するための検出器。
【請求項2】
光源が近赤外(NR)光源である、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
対象物がヒトの患者であり、且つ、多点検出アレイが患者の一部に適合するように構成された、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
発光が蛍光である、請求項1記載のシステム。
【請求項5】
発光が、連続波(CW)光、時間分解(TR)光、輝度変調(IM)光、またはこれらの任意の組合せである、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
検出器が生成したデジタル信号を処理して出力装置に画像を提供するプロセッサをさらに含む、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
出力装置が複数の画像を同時に提供する、請求項6記載のシステム。
【請求項8】
プロセッサが、以下の段階によってデジタル信号を処理するようプログラムされている、請求項6記載のシステム:
i)収集された蛍光測定結果からバックグラウンド信号およびフィルターにじみ信号を減算することによって、補正蛍光測定結果を生成する段階;
ii)収集された固有信号から、収集されたバックグラウンド周辺光信号を減算することによって、補正固有拡散信号を生成する段階;ならびに
iii)補正蛍光測定結果を補正固有拡散信号で除することによって、自己較正蛍光測定結果を生成する段階。
【請求項9】
プロセッサが、以下の段階によってデジタル信号を処理するようプログラムされている、請求項6記載のシステム:
i)収集された蛍光測定結果からバックグラウンド信号およびフィルターにじみ信号を減算することによって、補正蛍光測定結果を生成する段階;
ii)収集された固有信号測定結果から、収集されたバックグラウンド周辺光信号を減算することによって、補正固有信号測定結果を生成する段階;
iii)補正蛍光測定結果を補正固有測定結果で除することによって、自己較正蛍光測定結果を生成する段階;
iv)収集された拡散信号から、収集されたバックグラウンド周辺光信号を減算することによって、補正バックグラウンド-媒体拡散信号を生成する段階;ならびに
v)補正固有信号測定結果を補正バックグラウンド-媒体拡散信号で除することによって、自己較正固有測定結果を生成する段階。
【請求項10】
プロセッサが、以下の段階によってデジタル信号を処理するようプログラムされている、請求項6記載のシステム:
i)自己較正測定結果 M = M1 - M3 / M2 - M4 を生成する段階であって、M1は発光波長の蛍光信号であり、M2は固有信号であり、M3はバックグラウンドにじみ信号であり、M4はバックグラウンド周辺光信号である段階。
【請求項11】
プロセッサが、以下の段階によってデジタル信号を処理するようプログラムされている、請求項6記載のシステム:
i)自己較正測定結果 M = (M1 - (ql(r) x M2 - ct)) / (M2 - M4) を生成する段階であって、M1は発光波長の蛍光信号であり、M2は固有信号であり、M4はバックグラウンド周辺光信号であり、qlは固有場のフィルター減衰であり、ctはバックグラウンド暗雑音測定結果の像を表す定数である段階。
【請求項12】
プロセッサが、以下の段階によってデジタル信号を処理するようプログラムされている、請求項6記載のシステム:
i)自己較正測定結果 M = M1 - M3 / M2 - M4 を生成する段階であって、M1は発光波長の蛍光信号であり、M2は固有信号であり、M3はバックグラウンドにじみ信号であり、M4はバックグラウンド周辺光信号である段階;ならびに
ii)(M - P x U) の関数 F(U) を最小にすることによってUの分布および大きさを得る段階であって、Uは撮像対象物中の標的の未知濃度のベクトルであり、Pは蛍光モードにおける適切な幾何学形状およびバックグラウンド媒体について拡散方程式を解くことによって計算されるMのフォーワード予測子である段階。
【請求項13】
プロセッサが、以下の段階によってデジタル信号を処理するようプログラムされている、請求項6記載のシステム:
i)自己較正固有測定結果 M' = log (M2 - M4)/(M5 - M4) を生成する段階であって、M2は固有信号であり、M4はバックグラウンド周辺光信号であり、M5はバックグラウンド-媒体拡散信号である段階;
ii)(M'-P' x O) の関数 F'(O) を最小にすることによってOの分布および大きさを得る段階であって、Oは対象物中の蛍光体の未知濃度のベクトルであり、P'は吸収/散乱モードにおける適切な幾何学形状およびバックグラウンド媒体について拡散方程式を解くことによって計算されるM'のフォーワード予測子である段階;
iii)活性化比AR = U/Oを計算する段階;ならびに
iv)ARに対応する画像を生成する段階。
【請求項14】
プロセッサが、以下の段階によってデジタル信号を処理するようプログラムされている、請求項6記載のシステム:
i)自己較正測定結果 M = M1 - M3 / M2 - M4 を生成する段階であって、M1は発光波長の蛍光信号であり、M2は固有信号であり、M3はバックグラウンドにじみ信号であり、M4はバックグラウンド周辺光信号である段階;
ii)自己較正固有測定結果 M' = log (M2 - M4)/(M5 - M4) を生成する段階であって、M5はバックグラウンド-媒体拡散信号である段階;
iii)関数 F(U) = (M - P x U)2 を最小にすることによってUの分布および大きさを得る段階であって、Uは撮像対象物中の標的の未知濃度のベクトルであり、Pは蛍光モードにおける適切な幾何学形状およびバックグラウンド媒体について拡散方程式を解くことによって計算されるMのフォーワード予測子である段階;
iv)関数 F'(O) = (M'-P' x O)2 を最小にすることによってOの分布および大きさを得る段階であって、Oは対象物中の蛍光体の未知濃度のベクトルであり、P'は吸収/散乱モードにおける適切な幾何学形状およびバックグラウンド媒体について拡散方程式を解くことによって計算されるM'のフォーワード予測子である段階;
v)活性化比AR = U/Oを計算する段階;ならびに
vi)ARに対応する画像を生成する段階。
【請求項15】
多点入射光アレイが、少なくとも12個の光点を含むシリンダーである、請求項1記載のシステム。
【請求項16】
シリンダーが多点検出アレイをさらに含む、請求項15記載のシステム。
【請求項17】
多点入射光アレイが、少なくとも12個の光点を含むベルトである、請求項1記載の撮像システム。
【請求項18】
ベルトが多点検出アレイをさらに含む、請求項17記載の撮像システム。
【請求項19】
検出アレイの各収集点からの光を伝送する複数の光ファイバーが100本を超える別々のファイバーを含み、且つ、検出アレイが少なくとも100個の収集点を含む、請求項1記載の撮像システム。
【請求項20】
多点入射光アレイが平らなプレートを含む、請求項1記載の撮像システム。
【請求項21】
多点入射光アレイが、間隔を空け且つ平行に配置された2つの平らなプレートを含む、請求項1記載の撮像システム。
【請求項22】
二次元発光アレイが、患者から放出された三次元の光に対応する複数の光点の二次元パターンであって、1つの励起点から他の2つ以上の励起点への照明切り替えに対応した速度で経時的に変化するパターンを検出器へと伝送する、請求項1記載の撮像システム。
【請求項23】
2つ以上の励起点が、光源によって一度に1つずつ照明される、請求項1記載の撮像システム。
【請求項24】
対象物へと誘導される光の波長が550〜950ナノメートルである、請求項1記載の撮像システム。
【請求項25】
検出器が電荷結合素子(CCD)カメラを含む、請求項1記載の撮像システム。
【請求項26】
検出器が光電子倍増管を含む、請求項1記載の撮像システム。
【請求項27】
NIR蛍光(NERF)分子プローブ、賦活可能な蛍光プローブ、標的蛍光プローブ、または非特異的な蛍光プローブをさらに含む、請求項1記載のシステム。
【請求項28】
NIRFプローブが賦活可能な分子プローブである、請求項27記載のシステム。
【請求項29】
(1)患者に投与された蛍光体を含む分子プローブの濃度と(2)患者体内の特定の標的に対応する活性化蛍光体の濃度との比に対応する光学分子マップを表示する方法であって、以下の段階を含む方法:
i)固有吸収に基づいて蛍光体濃度に関する第一のデータセットを提供する段階;
ii)較正した蛍光に基づいて、活性化蛍光体の濃度に関する第二のデータセットを提供する段階;
iii)各点ごとに第一のデータセットを第二のデータセットで除することによって第三のデータセットを提供する段階;および
iv)第三のデータセットを処理することによって、(1)蛍光体を含む分子プローブの濃度と(2)患者体内の特定の標的に対応する活性化蛍光体の濃度との比に対応する光学分子マップを提供する段階。
【請求項30】
患者体内の標的領域の三次元定量的分子断層撮影像を得る方法であって、以下の段階を含む方法:
蛍光分子プローブを患者に投与する段階であって、分子プローブが患者体内の標的領域内に選択的に蓄積する段階;
光を複数の点から患者体内に誘導する段階;
患者から放出される蛍光を検出する段階;および
検出された光を処理することによって、患者体内の三次元標的領域と標的領域内に蓄積した分子プローブの量とに対応する三次元画像を提供する段階。
【請求項31】
光が近赤外(NIR)光であり、且つ、プローブがNIR蛍光(NIRF) 分子プローブである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
三次元画像が二次元の出力装置に描出される、請求項30記載の方法。
【請求項33】
処理が、患者から放出された蛍光信号をデジタル化する段階、患者およびバックグラウンド媒体からの蛍光信号および固有信号の測定結果を組み合わせることによりデジタル信号を自己較正する段階、ならびに、三次元定量画像を再構成する段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項34】
処理が以下の段階を含む、請求項30記載の方法:
i)収集された蛍光測定結果からバックグラウンド信号およびフィルターにじみ信号を減算することによって、補正蛍光測定結果を得る段階;
ii)収集された固有信号測定結果からバックグラウンド周辺光信号を減算することによって、補正固有信号測定結果を得る段階;
iii)補正蛍光測定結果を補正固有測定結果で除することによって、自己較正蛍光測定結果を得る段階;
iv)収集された拡散信号から、収集されたバックグラウンド周辺光信号を減算することによって、補正バックグラウンド-媒体拡散信号を得る段階;ならびに
v)補正固有信号測定結果を補正バックグラウンド-媒体拡散信号で除することによって、自己較正固有測定結果を得る段階。
【請求項35】
処理が以下の段階を含む、請求項30記載の方法:
i)自己較正測定結果 M = M1 - M3 / M2 - M4 を生成する段階であって、M1は発光波長の蛍光信号であり、M2は固有信号であり、M3はバックグラウンドにじみ信号であり、M4はバックグラウンド周辺光信号である段階;
ii)自己較正固有測定結果 M' = log (M2 - M4)/(M5 - M4) を生成する段階であって、M5はバックグラウンド-媒体拡散信号である段階;
iii)(M - P x U) の関数 F(U) を最小にすることによってUの分布および大きさを得る段階であって、Uは撮像対象物中の標的の未知濃度のベクトルであり、Pは蛍光モードにおける適切な幾何学形状およびバックグラウンド媒体について拡散方程式を解くことによって計算されるMのフォーワード予測子である段階;
iv)(M'-P' x O) の関数 F'(O) を最小にすることによってOの分布および大きさを得る段階であって、Oは対象物中の蛍光体の未知濃度のベクトルであり、P'は吸収/散乱モードにおける適切な幾何学形状およびバックグラウンド媒体について拡散方程式を解くことによって計算されるM'のフォーワード予測子である段階;
v)活性化比AR = U/Oを計算する段階;ならびに
vi)ARに対応する画像を生成する段階。
【請求項36】
分子プローブを投与する段階が、賦活可能な分子プローブを全身的に注射する段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項37】
分子プローブを投与する段階が、賦活可能な分子プローブを標的領域に局所的に注射する段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項38】
分子プローブを投与する段階が、賦活可能な分子プローブを非標的領域に局所的に注射する段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項39】
患者体内に誘導される光の波長が550〜950ナノメートルである、請求項30記載の方法。
【請求項40】
光が、固定の三次元形状に配置された少なくとも32個の別々の光点から患者体内へと誘導される光である、請求項30記載の方法。
【請求項41】
光が、少なくとも12個の光点を有するベルトを含む多点入射光アレイにより患者体内に誘導される、請求項30記載の方法。
【請求項42】
ベルトが多点検出アレイをさらに含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
多点入射光照射アレイおよび多点検出アレイの空間位置が画像の位置合わせによって決定される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
患者から放出された蛍光が、二次元発光蛍光アレイから電荷結合素子(CCD)カメラによって検出される、請求項30記載の方法。
【請求項45】
光子パルスが患者体内に誘導され、且つ、患者から放出された光子の到着が別の光子検出器アレイによって時間分解される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
放出される光が、連続波(CW)光、時間分解(TR)光、輝度変調(IM)光、またはこれらの任意の組合せである、請求項30記載の方法。
【請求項47】
患者から放出された蛍光が三次元多点検出アレイにより収集され、二次元発光アレイ上に表示され、且つ、検出器により撮像される、請求項30記載の方法。
【請求項48】
方法が時間の関数として動的に実施される、請求項30記載の方法。
【請求項49】
測定結果M5の代わりに時刻0における測定結果M2が使用される、請求項35記載の方法。
【請求項50】
画像が磁気共鳴映像法またはコンピュータ断層撮影法により取得された画像と位置合わせされる、請求項30記載の方法。
【請求項51】
多点入射光照射アレイが基準点を含み、且つ、基準点が対象物上のアレイの空間位置特定に使用される、請求項1記載のシステム。
【請求項52】
多点検出アレイが基準点を含み、且つ、基準点が対象物上のアレイの空間位置特定に使用される、請求項30記載の方法。
【請求項53】
患者体内の細胞異常を検出する方法であって、特定の細胞異常に標的する分子プローブを使用して請求項30記載の方法を用いることを含む方法。
【請求項54】
方法が疾患の早期検出に用いられる、請求項53記載の方法。
【請求項55】
疾患が、癌、心血管疾患、AIDS、神経変性疾患、炎症性疾患、または免疫疾患である、請求項54記載の方法。
【請求項56】
特定の分子標的により活性化される分子プローブを使用して請求項30記載の方法を用いることを含む、分子標的に対する化合物の効果を評価する方法であって、プローブを標的に接触させ、標的を化合物に接触させる前および後に標的を撮像して、対応する画像を比較する方法であって、且つ、分子標的の変化により化合物の有効性が示される方法。
【請求項57】
特定の分子標的がプロテアーゼであり、且つ、化合物がプロテアーゼ阻害剤である、請求項56記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−11】
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【公開番号】特開2008−149154(P2008−149154A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4715(P2008−4715)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【分割の表示】特願2002−543944(P2002−543944)の分割
【原出願日】平成13年11月27日(2001.11.27)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】