説明

蛍光性ガラス、光導波路、光ファイバ、光コヒーレンストモグラフィ装置、及び光ファイバレーザ

【課題】 実用化が容易である蛍光性ガラス、光導波路、光ファイバ、光コヒーレンストモグラフィ装置、及び光ファイバレーザを提供する。
【解決手段】
本発明による蛍光性ガラスは、添加物としてBiを含有する石英系ガラスであり、波長980nm帯の励起光で励起され、蛍光を発生する。あるいは、本発明による蛍光性ガラスは、添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有し、980nm帯吸収スペクトルの半値全幅が10nmを超える。あるいは、本発明による蛍光性ガラスは、添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有する石英系ガラスであり、励起光強度が一定で且つ温度が−5℃以上65℃以下である場合において、蛍光スペクトルのピークにおける強度が−1dB以上1dB以下の範囲内で変動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光性ガラス、この蛍光性ガラスを含む光導波路及び光ファイバ、この光導波路を含む光コヒーレントトモグラフィ装置、及び前述の光ファイバを含む光ファバーレーザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ活性物質が添加された蛍光性ガラスは、励起光により励起状態にされたレーザ活性物質が基底状態に戻る際に発生する自然放出光(蛍光)を光増幅することによってASE光(Amplified Spontaneous Emission)を発生、或いは、誘導放出現象により信号光を光増幅する。レーザ活性物質としてBi、Cr、Niなどの遷移金属、あるいはEr、Yb、Tm、Ndなどの希土類元素等が、蛍光性ガラスに添加される。
【0003】
遷移金属を添加した場合には、希土類元素を添加した場合と比較して、発生する蛍光の帯域が広くなる。そのため、遷移金属を添加した蛍光性ガラスを、一括して広帯域の光を増幅できる光増幅器あるいは光源に対して応用することが検討されている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1〜3参照)。
【0004】
特許文献1及び2並びに非特許文献3には、Biが添加された蛍光性ガラスについて記載されている。特許文献3並びに非特許文献1及び2には、CrあるいはNiが添加された蛍光性ガラスについて記載されている。
【特許文献1】特開2002−252397号公報
【特許文献2】特開2003−283028号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0063892号明細書
【非特許文献1】T. Suzuki et al., CLEO2004, Tech.Dig., CtuD6, 2004
【非特許文献2】C. Batchelor et al., AppliedPhysics Letters, vol.82, no.23, pp.4035-4037, 2003
【非特許文献3】M. Peng et al., Optics Letters,vol.29, no.17, pp.1998-2000, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1には、蛍光性ガラスに対して波長500nm及び700nmの光を励起光として用いること、また、特許文献2には、蛍光性ガラスに対して波長500nm、700nm、及び833nmの光を励起光として用いることが記載されている。波長500nm帯の光を出力する半導体レーザ、及び波長700nm帯の光を出力する半導体レーザは、高価である上、信頼性に欠ける。一方、波長800nm帯の光を出力する半導体レーザを高出力に対応させようとすると、横モードが多モードとなってしまうという問題が生じる。そのため、波長800nm帯の光を出力する半導体レーザは、高出力が要求される励起光源には適さない。
【0006】
特許文献3並びに非特許文献1及び2に記載された蛍光性ガラスには、一般に温度管理が必要とされるCrあるいはNiが添加されている。したがって、安定した出力でASE光を得るためには蛍光性ガラスの温度管理が必要であり、この蛍光性ガラスを使用した光源等ではコストが増大してしまう。
【0007】
なお、非特許文献3に記載された蛍光性ガラスは、ホストガラスが石英系ではなくGeO系である。GeO系のガラスは、融点が低く信頼性に劣るため、実用には不適である。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、実用化が容易である蛍光性ガラス、光導波路、光ファイバ、光コヒーレンストモグラフィ装置、及び光ファイバレーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を解決するために、本発明による蛍光性ガラスは、添加物としてBiを含有する石英系ガラスであり、波長980nm帯の励起光で励起され、蛍光を発生することを特徴とする。この蛍光性ガラスは、波長980nm帯の励起光により励起されるため、波長980nm帯の半導体レーザを励起光源として用いることができる。波長980nm帯の半導体レーザは、広く一般に普及しているため、安価で入手することができ、また信頼性についてもすでに検証がなされている。また、Biは、室温であっても、ホストガラスの中で比較的強い蛍光を放出することができる。したがって、この蛍光性ガラスの温度管理は容易である。以上のことから、この蛍光性ガラスは、実用化が容易に実現可能であることがわかる。
【0010】
特に、励起光の波長と蛍光のスペクトルのピーク波長との差が、励起光の波長に対して16%以内であることが好ましい。この場合、励起光からASE光又はレーザ光に変換される際のパワー変換効率が良好となり、変換に伴って発生する熱を抑制することが可能となる。
【0011】
本発明による蛍光性ガラスは、添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有し、980nm帯吸収スペクトルの半値全幅が10nmを超えることを特徴とする。この蛍光性ガラスは、波長980nm帯に吸収スペクトルを有しているため、波長980nm帯の半導体レーザを励起光源として用いることができる。また、吸収スペクトルは、10nmを超える広い半値全幅を示すため、励起光源の波長の選定に対する要求は緩和される。これにより、例えば安価な励起光源を選ぶことや、あるいは温度管理の緩い励起光源を選ぶことが可能となる。
【0012】
特に、半値全幅が50nmを超えることが好ましい。これにより、励起光源の波長の選定に対する要求は、さらに緩和される。
【0013】
本発明による蛍光性ガラスは、添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有する石英系ガラスであり、励起光強度が一定で且つ温度が−5℃以上65℃以下である場合において、蛍光スペクトルのピークにおける強度が−1dB以上1dB以下の範囲内で変動することを特徴とする。この蛍光性ガラスでは、温度依存性が低いため、容易に実用化することができる。
【0014】
本発明による光導波路は、コア領域の少なくとも一部が上記の蛍光性ガラスからなることを特徴とする。そのため、この光導波路は、容易に実用化することが可能である。
【0015】
本発明による光ファイバは、コア領域の少なくとも一部が上記の蛍光性ガラスからなることを特徴とする。そのため、この光ファイバは、容易に実用化することが可能である。
【0016】
本発明による光コヒーレンストモグラフィ装置は、上記の光導波路を有し、励起光が供給されることによって蛍光性ガラスから発生する蛍光を光増幅してASE光を出力する光源と、光源から出力されるASE光を、第1光路方向に進行する第1分割光と反射体に向かって第2光路方向に進行する第2分割光とに2分割するビームスプリッタと、第1分割光の光路上に配置され、第1光路方向に対して平行に移動されるとともに、第1光路方向に沿った方向に第1分割光を反射させるミラーと、ミラーで反射された第1分割光と反射体で反射された第2分割光とをビームスプリッタで重ね合わせ干渉させることによって得られる干渉光を検出する光検出器と、を備え、反射体の3次元断層画像を、深度方向について4μm以下の分解能で測定することを特徴とする。この光コヒーレンストモグラフィ装置では、測定に用いるASE光を出力する光源が上記の光導波路を有する。そのため、この光コヒーレンストモグラフィ装置は、容易に実用化することが可能である。
【0017】
本発明による光ファイバレーザは、上記の光ファイバと、光ファイバに含有される添加物を励起する励起光を光ファイバに供給する励起光供給部と、を備え、光ファイバは、添加物から放出される光を共振させる共振器の光路中にレーザ媒質として配置されていることを特徴とする。この光ファイバレーザでは、共振器の光路中に上記の光ファイバをレーザ媒質として配置している。そのため、この光ファイバレーザは、容易に実用化することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、実用化が容易である蛍光性ガラス、光導波路、光ファイバ、光コヒーレンストモグラフィ装置、及び光ファイバレーザを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面とともに、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
まず、本発明に係る蛍光性ガラスの第1実施形態について説明する。本実施形態に係る蛍光性ガラスは、添加物としてBiを含有する石英系ガラスであり、波長980nm帯の励起光で励起され、蛍光を発生するものである。本実施形態に係る蛍光性ガラスは、励起光の波長と蛍光のスペクトルのピーク波長との差が、励起光の波長に対して16%以内であることがより好適である。
【0021】
本実施形態に係る蛍光性ガラスは、波長980nm帯の励起光により励起される。したがって、波長980nm帯の半導体レーザを励起光源として用いることができる。波長980nm帯の半導体レーザは、Er添加光ファイバ増幅器(EDFA)用に広く普及しているため、安価で且つ信頼性も高い。
【0022】
また、本実施形態に係る蛍光性ガラスは、Biを添加物として含む。Biは、Er、Yb、Tm、Ndなどの希土類元素と比較して、著しく広い帯域の蛍光を放出することができる。したがって、本実施形態に係る蛍光性ガラスは、帯域の広い蛍光を放出することが可能である。
【0023】
加えて、Biは、室温であっても、ホストガラスの中で強い蛍光を放出することができる。したがって、本実施形態に係る蛍光性ガラスは、温度管理を容易に行うことが可能である。以上のことから、この蛍光性ガラスは、容易に実用化可能であることがわかる。
【0024】
また、励起光の波長と蛍光のスペクトルのピーク波長との差が、励起光の波長に対して16%以内と小さい場合、励起光とASE光との間のフォトンエネルギーの差異が小さく、励起光からASE光に変換される際のパワー変換効率が良好となる。このようにパワー変換効率が良好な蛍光性ガラスを光増幅導波路等に用いた場合、光増幅導波路内部で変換に伴う熱の発生が抑制される。このように内部での熱の発生が抑制された光増幅導波路等は、レーザ加工などに用いられる数100W又は数kWの高出力レーザあるいはアンプに適用するのに好適である。
【0025】
次に、本発明に係る蛍光性ガラスの第2実施形態について説明する。本実施形態に係る蛍光性ガラスは、添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有し、980nm帯吸収スペクトルの半値全幅が10nmを超えるものである。本実施形態に係る蛍光性ガラスは、980nm帯吸収スペクトルの半値全幅が50nmを超えることがより好適である。
【0026】
本実施形態に係る蛍光性ガラスは、波長980nm帯に吸収スペクトルを有している。そのため、波長980nm帯の半導体レーザを励起光源として用いることができる。上述したように、波長980nm帯の半導体レーザは、安価で且つ信頼性も高い。
【0027】
また、本実施形態に係る蛍光性ガラスは、遷移金属を添加物として含む。Bi、Cr、Niなどの遷移金属は、Er、Yb、Tm、Ndなどの希土類元素と比較して、著しく広い帯域の蛍光を放出することができる。したがって、本実施形態に係る蛍光性ガラスは、帯域の広い蛍光を放出することが可能である。
【0028】
本実施形態に係る蛍光性ガラスの吸収スペクトルは、10nmを超える広い半値全幅を有する。そのため、励起光源の波長の選定における要求は緩い。したがって、例えば安価な励起光源を選ぶことや、あるいは温度管理の要求が緩い励起光源を選ぶことが可能となる。緩い温度管理下で励起光源を用いる場合には、さらに、温度管理に要するコスト及び消費電力も低減される。また、EDFAでは容易ではない980nm帯励起光の波長分割多重(WDM)化によって、パワーを向上させることも可能となる。半値全幅が50nmを超える吸収スペクトルを示す蛍光性ガラスの場合、励起光源の波長の選定に対する要求はさらに緩くなる。以上のことから、本実施形態に係る蛍光性ガラスは、容易に実用化可能であることがわかる。
【0029】
続いて、本発明に係る蛍光性ガラスの第3実施形態について説明する。本実施形態に係る蛍光性ガラスは、添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有する石英系ガラスであって、励起光強度が一定で且つ温度が−5℃以上65℃以下である場合において、蛍光スペクトルのピークにおける強度が−1dB以上1dB以下の範囲内で変動するものである。
【0030】
本実施形態に係る蛍光性ガラスは、添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含む。上述したように、遷移金属は希土類元素と比較して、著しく広い帯域の蛍光を放出することができる。したがって、本実施形態に係る蛍光性ガラスは、帯域の広い蛍光を放出することが可能である。
【0031】
また、遷移金属から放出される蛍光スペクトルの温度依存性は、一般に良好とは言い難い。しかし、本実施形態に係る蛍光性ガラスでは、蛍光スペクトルのピークにおける強度の変動が、励起光強度が一定で且つ温度が−5℃以上65℃以下である場合において、−1dB以上1dB以下の範囲内であるため、例えば通信用途に適用することも可能である。以上のことから、本実施形態に係る蛍光性ガラスは、容易に実用化可能であることがわかる。
【0032】
次に、遷移金属Biを含有する蛍光性ガラスをコア部分に含むシングルモードファイバ(SMF)のサンプルA及びBについて説明する。サンプルA及びBは、石英系Al共添加のBi添加光ファイバ(BiDF)である。表1に、サンプルA及びBの組成、及び製造最終段階のファイバ線引き時の炉内温度を示す。
【表1】



【0033】
サンプルAは、ホスト材料が石英系ガラスであり、添加されているBi元素イオンの含有濃度が100wt.ppm、共添加さているAl元素イオンの含有濃度が3.8wt.%である。サンプルBは、ホスト材料が石英系ガラスであり、添加されているBi元素イオンの含有濃度が370wt.ppm、共添加されているAl元素の含有濃度が4.2wt.%である。また、サンプルA、Bは、何れも通信用Er添加光ファイバ(EDF)と同様の設備で製造され、最後は線引速度50m/秒で光ファイバ化されたものである。線引きは、サンプルAについては1750℃、サンプルBについては1500℃で行われた。サンプルA及びBのいずれも、溶融状態から固体化するのに要した時間が1秒以内と、非常に急速な冷却により製造されたものである。
【0034】
サンプルAを含む光源及びサンプルBを含む光源それぞれから放出されるASE光を測定した。図1は、サンプルAあるいはBを含む光源の構成図である。図1に示す光源10は、励起光源11と、WDMカプラ12と、光ファイバ13と、無反射終端(SMF)14と、光アイソレータ15と、出力コネクタ16とを備える。光ファイバ13として、5mの長さのサンプルA又はサンプルBを用いた。光源10は逆方向励起方式に構成されている。したがって、ASE光は、サンプルA又はB内を励起光とは逆方向に進行するように出力される。
【0035】
励起光源11は、励起光をWDMカプラ12に対して出力する。WDMカプラ12は、励起光源11から出力された励起光を反射して光ファイバ13に向かわせるとともに、光ファイバ13から出力されたASE光を透過して光アイソレータ15に向かわせる。光ファイバ13では、励起光源11から出力された励起光が供給されることにより、光ファイバ13に添加された添加物が励起状態とされる。光ファイバ13に添加された添加物は、励起状態から基底状態に戻る際に自然放出光(蛍光)を発生する。光ファイバ13は、この自然放出光(蛍光)を光増幅してASE光を出力する。光アイソレータ15は、光ファイバ13から出力されたASE光を出力コネクタ16に向かう方向に通過させるが、逆方向には光は通過させない。
【0036】
光源10から出力されるASE光の測定に際し、波長808nm、910nm、及び976nmの3種類の励起光が用いられた。励起パワーは、何れの測定においても、185mWとした。
【0037】
図2に、波長808nm、910nm、及び976nmの励起光がそれぞれ供給されたときに、サンプルA又はBを含む光源10から出力されたASE光のスペクトルを示す。図2のグラフの横軸はASE光の波長(nm)を、縦軸はASE光の光パワー(dBm/nm)を表す。図2のグラフAは波長808nmの励起光で励起されたサンプルAを含む光源10のASE光スペクトルを、グラフBは波長910nmの励起光で励起されたサンプルAを含む光源10のASE光スペクトルを、グラフCは波長976nmの励起光で励起されたサンプルAを含む光源10のASE光スペクトルを、グラフDは波長808nmの励起光で励起されたサンプルBを含む光源10のASE光スペクトルを、グラフEは波長910nmの励起光で励起されたサンプルBを含む光源10のASE光スペクトルを、グラフFは波長976nmの励起光で励起されたサンプルBを含む光源10のASE光スペクトルを表す。なお、図2に示されたASE光のスペクトルは、励起光合波のために挿入されたWDMカプラ12及びアイソレータ15の挿入損が補正されたものである。
【0038】
図2より、サンプルAを含む光源10のASE光スペクトルの形状とサンプルBを含む光源10のASE光スペクトルの形状とは、いずれの励起波長においても略同じ形状であることがわかる。すなわち、グラフAとグラフDとが略同じ形状であり、グラフBとグラフEとが略同じ形状であり、グラフCとグラフFとが略同じ形状である。
【0039】
これに対し、サンプルAを含む光源10のASE光スペクトル及びサンプルBを含む光源10のASE光スペクトルのいずれもが、励起波長により異なるピーク波長及びピーク値を示すことが図2よりわかる。すなわち、グラフA及びDと、グラフB及びEと、グラフC及びFとでは、それぞれASE光スペクトルのピーク波長及びピーク値が異なる。具体的には、波長976nmの励起光によって励起された場合のASE光スペクトル(グラフC及びF)は、波長808nmの励起光によって励起された場合のASE光スペクトル(グラフA及びD)に比べ、6dB以上大きいピーク値を示す。
【0040】
また、グラフA〜Fのいずれのピーク値も、特許文献3のFigure1〜3に表されたASE光スペクトルのピーク値に比べて絶対値で1桁大きい。また、特許文献1、2及び非特許文献3に記載された蛍光性ガラスでは、波長808nmの励起光で励起した場合、ASE光スペクトルはOバンド(1260nm〜1360nm)内にピーク波長を有する。これに対し、サンプルAを含む光源10及びサンプルBを含む光源10の何れもが、波長808nmの励起光で励起した場合であっても、1100nm帯近傍にピーク波長を有する。また、特許文献1、2及び非特許文献3に記載された蛍光性ガラスでは、300nm以上の半値全幅を示している。これに対し、サンプルAを含む光源10のASE光スペクトル及びサンプルBを含む光源10のASE光スペクトルの双方において、半値全幅は200nm以下を示す。
【0041】
表2に、サンプルAを含む光源10から放出されるASE光及びサンプルBを含む光源10から放出されるASE光それぞれの、各励起光のピークでの波長(中心波長)、ASE光ピーク波長λc、ASE光半値全幅Δν及びコヒーレンス長pを示す。コヒーレンス長pは、ASE光ピーク波長λc及びASE光半値全幅Δνを用いて、以下の式(1)で与えられる。
p=(2・ln(2)・π)・(λ/Δλ) …(1)
【表2】



【0042】
また、図2から、976nm帯の励起波長に対する蛍光スペクトルのピーク波長が1112nmであることがわかる。この場合、励起光の波長(976nm)に対する、励起光の波長と蛍光スペクトルのピーク波長(1112nm)との差(136nm)の比率(以下、単にパワー変換比率)は約14%である。これに対し、希土類Ybが添加され、高出力レーザやアンプ等に適した光ファイバ(YbDF)では、通常、波長915nm帯の励起光に対して波長1064nm以上の蛍光が得られる。この場合、パワー変換比率は16%を超える。したがって、BiDFの方が、YbDFに比べ、フォトンエネルギーの観点から見た場合、高出力を要する用途に適していると考えることができる。
【0043】
なお、YbDFでも975nm近傍に吸収のメインピークが存在し、この場合のパワー変換比率は約9%と非常に良好である。しかし、YbDFの975nm帯吸収スペクトルの形状は尖鋭すぎ(半値全幅が10nm以下)、励起光源の温度変化等により波長シフトが生じた場合には、性能が劇的に変化してしまうという問題を有する。
【0044】
また、特許文献1、2、又は非特許文献3に記載されたBi添加蛍光性ガラスは何れも、波長800nmの励起光に対して波長1250nm以上の蛍光を放出する。この場合、パワー変換比率は50%以上となり、高出力化には適さない。
【0045】
次に、図1に示した光源10の光ファイバ13部分のみを恒温槽に収納し、恒温槽内の温度を−20℃〜85℃の範囲内で変化させて光源10から放出されるASE光スペクトルを測定した結果を図3に示す。図3は、光ファイバ13としてサンプルAを用い、波長910nmかつ励起パワー185mWの励起光で励起した結果である。図3のグラフの横軸はASE光の波長(nm)を、縦軸はASE光の光パワー(dBm/nm)を表す。図3のグラフGは−20℃のときのASE光スペクトルを、グラフHは25℃のときのASE光スペクトルを、グラフIは85℃のときのASE光スペクトルを表す。
【0046】
図3より、−20℃〜85℃までの100℃以上の温度差の範囲内において、ASE光のピーク値の変動は−0.3dB〜+3dBの範囲内であることがわかる。一般に、通信用の用途では−5℃〜65℃の温度範囲内での温度依存性が評価される。図3より、サンプルAでは、−5℃〜65℃において、ASE光のピーク値の変動は−0.2dB〜+0.2dBの範囲内と温度依存性が低く、通信用の用途にも十分耐えうると考えられる。また、加工用装置、及び医療用装置では、一般に温度依存性が評価される温度範囲が通信用途に比べて狭い。そのため、サンプルAは、通信用途はもちろん、加工用途及び医療用途での使用にも十分耐えうる温度特性を有し、安定動作が期待できるため、容易に実用化できると考えられる。
【0047】
一般に、遷移金属から発せられる蛍光は、温度依存性が高いため、温度環境を維持するのが困難である。図4に、非特許文献1に記載の蛍光性ガラス及び非特許文献2に記載の蛍光性ガラスそれぞれの蛍光スペクトルのピーク値の温度依存性を示す。図4のグラフの横軸は絶対温度(K)を、縦軸は蛍光強度(AU)を表す。三角で表した点が非特許文献1に記載されたNi添加蛍光性ガラスを、四角で表した点が非特許文献2に記載されたCr添加の蛍光性ガラスを示す。また、点線で表したグラフは、三角で表した非特許文献1に記載のNi添加蛍光性ガラスの温度依存性についての補間曲線である。
【0048】
図4に示されるように、非特許文献1に記載のNi添加蛍光性ガラスでは、−20℃(≒253K)での蛍光強度が室温での蛍光強度の約1.7倍(2.4dB)、85℃(≒358K)での蛍光強度が室温での蛍光強度の約0.37倍(4.6dB)となる。このように高い温度依存性を示しては、実用化は困難である。
【0049】
図5に、サンプルA及びBの吸収スペクトルを示す。図5(a)は750nm以上の波長域でのサンプルA及びサンプルBそれぞれの吸収スペクトルを、図5(b)はサンプルAの吸収スペクトルを表す。図5(a)、(b)のグラフの横軸は波長を、縦軸は吸収係数を表す。図5(a)のグラフJはサンプルAの吸収スペクトルを、グラフKはサンプルBの吸収スペクトルを表す。
【0050】
図5(a)から、サンプルBの方がサンプルAより顕著なピークを示すことがわかる。これは、サンプルBの方がサンプルAに比べてBiの濃度が高いためと考えられる。さらに、図5(a)から、サンプルAの吸収スペクトル及びサンプルBの吸収スペクトルの双方が、波長950nmを中心とする緩やかなピークを有することがわかる。これに対し、特許文献1又は2に記載された蛍光性ガラスの吸収スペクトルでは、波長950nm帯にピークを有していない。したがって、サンプルA及びBは、特許文献1又は2に記載された蛍光性ガラスと異なり、励起光源として980nm帯レーザダイオードを用いることが可能であることがわかる。980nm帯レーザダイオードは、Er添加光ファイバ増幅器(EDFA)として広く普及しているため、価格も安く、信頼性に関しても既に十分な検証がなされている。
【0051】
図5(a)のグラフKより、サンプルBの950nm帯吸収スペクトルの半値全幅は200nmに達することがわかる。ここで、図6に、Er添加光ファイバ(EDF)の980nm帯吸収スペクトルのグラフを示す。図6より、EDFの980nm帯吸収スペクトルの半値全幅は約20nmであることがわかる。このように、サンプルBの吸収スペクトルは広い半値全幅を有するため、サンプルBの励起光源の波長の選定は緩い条件の下、行うことができる。
【0052】
次に、本発明に係るOCT装置の実施形態について、図7を参照して説明する。図7は、本実施形態に係るOCT装置20の構成図である。OCT装置20は、光源30とビームスプリッタ21とミラー22と光検出器23とを備え、被検体24の3次元断層画像を得る装置である。OCT装置20による測定原理を簡単に説明する。光源30から出力されたASE光Lがビームスプリッタ21で2分割され、各分割光はそれぞれミラー22及び被検体24に照射される。ミラー22及び被検体24でそれぞれ反射された2つの分割光はビームスプリッタ21において重ね合わせられ、干渉光Lが得られる。この干渉光Lを光検出器23で検出してコンピュータ等で断層画像化することにより、被検体24の3次元断層画像が得られる。
【0053】
光源30は、上記の蛍光性ガラスからなる光導波路31と、光導波路31中の上記蛍光性ガラスに励起光Lを供給する励起光源33とを備える。光源30はさらに、レンズ32、WDMフィルタ34、及び光アイソレータ35を備える。光源30は、図7に示すように、逆方向励起方式に構成されている。したがって、光源30では、励起光Lが入射した光導波路31の端面と同じ端面から、励起光Lとは逆方向に進行するようにASE光Lが出力される。
【0054】
励起光源33は、光導波路31に添加された添加物を励起し得る波長(例えば980nm)の励起光LをWDMフィルタ34に対して出力する。WDMフィルタ34は、励起光源33から出力された励起光Lを反射して光導波路31に向かわせるとともに、光導波路31から出力されたASE光Lを透過して光アイソレータ35に向かわせる。光導波路31は、励起光源33から出力された励起光Lが供給されることにより、ASE光Lを出力する。レンズ32は、励起光Lを光導波路31の端面に集光するとともに、光導波路31から出力されたASE光Lをコリメートする。光アイソレータ35は、光導波路31から出力されたASE光LをWDMフィルタ34から後述のビームスプリッタ21に向かう方向に通過させるが、逆方向には光は通過させない。
【0055】
ASE光Lの光路上に配置されたビームスプリッタ21は、ASE光Lの一部を反射させ残りを透過させることにより、ASE光Lを第1分割光Lと第2分割光Lとに分割する。第1分割光Lは、ビームスプリッタ21で反射されたASE光Lであり、ASE光Lの光路と交差する方向である第1光路方向に沿って進行する。第2分割光Lは、ビームスプリッタ21で透過されたASE光Lであり、ASE光Lの光路と平行な方向である第2光路方向に後述の被検体24に向かって進行する。また、ビームスプリッタ21は、後述のミラー22で反射された第1分割光Lと後述の被検体24で反射された第2分割光Lとを重ね合わせて干渉させる。
【0056】
第1分割光Lを反射させるミラー22は、第1分割光Lの光路上に配置される。ミラー22は、第1光路方向に沿った方向に第1分割光Lが反射されるように配置される。また、ミラー22は、第1光路方向に対して平行に移動可能なように駆動装置(図示していない)に保持されている。
【0057】
一方、第2分割光Lを反射させる反射体である被検体24は、第2分割光Lの光路上に配置される。
【0058】
光検出器23は、ビームスプリッタ21で第1分割光L及び第2分割光Lを重ね合わせることによって得られる干渉光Lを検出する。OCT装置20は、検出された干渉光Lを断層画像化するコンピュータ(図示を省略)を備え、被検体24の3次元断層画像を、深度方向について4μm以下の分解能で得る。
【0059】
OCT装置20の動作について説明する。励起光源33から出力された励起光Lは、WDMフィルタ34及びレンズ32を経て、光導波路31へ供給される。光導波路31に供給された励起光Lは、光導波路31に含まれる添加物を励起する。励起状態にされた添加物が基底状態に戻る際に発生する自然放出光(蛍光)が光導波路31において光増幅され、ASE光Lが得られる。光導波路31で発生したASE光Lは励起光Lの入射光路に沿って光導波路31から出力される。こうして出力されたASE光Lは、その後レンズ32、WDMフィルタ34、及び光アイソレータ35を経て、ビームスプリッタ21に入射する。
【0060】
ビームスプリッタ21に入射したASE光Lは、ビームスプリッタ21において第1分割光L及び第2分割光Lに2分割される。ビームスプリッタ21で反射されたASE光である第1分割光Lは、ミラー22に入射し、そこで入射時の光路と同じ方向である第1光路方向に沿った方向に反射され、ビームスプリッタ21に戻される。一方、ビームスプリッタ21を透過したASE光である第2分割光Lは、被検体24に向かって進行し、被検体24に照射される。被検体24に照射された第2分割光Lは、前方・後方散乱を起こしながら被検体24内を伝搬する。こうして被検体24内を伝搬した散乱光のうち後方散乱光が、ビームスプリッタ21に入射され、そこでミラー22で反射された第1分割光Lと重ね合わせされる。
【0061】
第1分割光L及び第2分割光Lとが重ね合されて干渉されることにより得られる干渉光Lが、光検出器23で検出される。光検出器23では、ビームスプリッタ21とミラー22との距離に等しい距離だけビームスプリッタ21から離れた被検体24内の点からの後方散乱光のみが選択的に干渉信号として検出される。ここで、ミラー22は第1分割光Lの光路と同じ方向である第1光路方向に沿った方向に移動可能である。ミラー22を移動させることにより、被検体24内において干渉信号が検出される散乱点を選択することが、第2分割光Lの光軸方向で可能となる。すなわち、ミラー22の移動により被検体24の深さ方向における測定点の走査が可能となる。光検出器23で検出された干渉信号がその後、コンピュータ等で処理されることにより被検体24の断層画像が得られる。
【0062】
光源30は、上記の蛍光性ガラスを備える。したがって、添加物としてBiを含有し且つ波長980nm帯の励起光で励起され蛍光を発生する石英系蛍光性ガラスを光導波路31が含む場合には、安価で信頼性の高い波長980nm帯の半導体レーザを励起光源33として使うことが可能となる。さらに、Biを含むため、光導波路31の温度管理は容易である。
【0063】
また、添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有し且つ980nm帯吸収スペクトルの半値全幅が10nmを超える蛍光性ガラスを光導波路31が含む場合にも、やはり安価で信頼性の高い波長980nm帯の半導体レーザを励起光源として使うことが可能となる。加えて、励起光源の波長の選定に対する要求が緩和される。
【0064】
また、添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有するとともに、励起光強度が一定で且つ温度が−5℃以上65℃以下である場合において蛍光スペクトルのピークにおける強度が−1dB以上1dB以下の範囲内で変動する石英系蛍光性ガラスを光導波路31が含む場合には、温度依存性が低くなり、容易に実用化することができる。
【0065】
このように、上記の蛍光性ガラスを含む光源30を備えることで、OCT装置20は、容易に実用化することが可能となる。
【0066】
OCT装置の光源として、一般的にスーパールミネッセントダイオード(以下、単にSLDという)が使われている。しかし、150nm以上の半値全幅の光を出力するSLDチップの製造は困難であり、分解能にも限界がある。これに対し、OCT装置20では、光源30から出力される光の半値全幅が広く、深度方向について4μm以下の分解能を有する。さらに、光源30のようにファイバ型の光源では、出力光の偏光度がほぼ零と小さい。そのため、OCT装置20では、偏光度が小さく、分解能も高い断層画像を得ることが可能となる。
【0067】
なお、光源30は、OCT装置に限らず、近赤外分光の分野で広く応用可能である。
【0068】
次に、本発明に係る光ファイバレーザの実施形態について、図8及び図9を参照して説明する。図8は、上記の蛍光性ガラスを含む光ファイバの断面における領域区分を示す図である。図9は、図8に示す光ファイバを用いた光ファイバレーザの構成を概略的に示す図である。
【0069】
図8に示すように、上記の蛍光性ガラスを含む光ファイバ40は、断面が、コア領域41と、コア領域41を包囲する内クラッド領域42と、内クラッド領域42を包囲する外クラッド領域43とから構成される二重クラッドファイバである。光ファイバ40のコア領域41の少なくとも一部は、上記の蛍光性ガラスからなる。本実施形態に係る光ファイバ40は、例えば、コア領域41の直径が20μm、開口数NAが0.06であり、内クラッド領域42の直径が250μm、開口数NAが0.4程度である。外クラッド領域43は、例えば樹脂からなる。
【0070】
図9に示す本実施形態に係る光ファイバレーザ50は、光ファイバ40と、励起光供給部51と、高反射率ファイバーグレーティング53と、低反射率ファイバグレーティング54とを備える。光ファイバレーザ50では、励起光供給部51によって所定波長の励起光が光ファイバ40に供給され、光ファイバ40内に含まれる添加物を励起する。励起された光ファイバ40内の添加物によって励起光とは異なる波長のレーザ光が発生する。発生したレーザ光は、高反射率ファイバーグレーティング53と低反射率ファイバグレーティング54とで構成される共振器内で共振された後出射する。
【0071】
励起光供給部51は、複数(本実施形態では、4つ)の励起LD(レーザダイオード)51A〜51Dと励起光合波器52とを有し、励起光合波器52には複数の励起LD51A〜51Dが接続されている。励起LD51A〜51Dは、光ファイバ40のコア領域41に含まれる蛍光性ガラスに含有されている添加物を励起する励起光を、光ファイバ40に供給する。励起光合波器52は、複数の励起LD51A〜51Dから出力された励起光を合波する。励起光合波器52として、例えば7×1の多モードファイバ(MMF)コンバイナなどが一般的に用いられる。ここで、励起光合波器52として用いられる7×1の多モードファイバ(MMF)コンバイナとは、入力側が励起LDモジュールのピグテイル(例えば、クラッド径が125μmΦ、コア径が105μmΦ)と同等のファイバであり、これら7本を束ねて、光ファイバ40に適合した径になるように溶融しながら延伸して製造されたものである。
【0072】
光ファイバ40は、高反射率ファイバーグレーティング53と低反射率ファイバグレーティング54とで構成される共振器の光路中にレーザ媒質として配置されている。共振器は、光ファイバ40のコア領域に含まれる蛍光性ガラスに含有されている添加物から放出される光を共振させる。低反射率ファイバグレーティング54は、10%の反射率で一部の光を反射するとともに、残りの光を透過する。
【0073】
この光ファイバレーザ50では、励起LD51A〜51Dから出力された励起光は、励起光合波器52を経て光ファイバ40へ供給される。光ファイバ40に供給された励起光は、光ファイバ40のコア領域41に含まれる蛍光性ガラスに含有されている添加物を励起する。
【0074】
光ファイバ40のコア領域41に含有されている添加物が励起光により励起されると、この添加物から自然放出光が発生する。この自然放出光は、光ファイバ40を伝搬し、高反射率ファイバーグレーティング53と低反射率ファイバグレーティング54とで構成される共振器の間を往復する。そして、自然放出光が光ファイバ40を伝搬する際に誘導放出光が起こりレーザ発振が生じる。この誘導放出光の一部が低反射率ファイバグレーティング54から外部へ、レーザ光として出力される。
【0075】
光ファイバ40は、上記の蛍光性ガラスを含む。したがって、添加物としてBiを含有する石英系ガラスであり、波長980nm帯の励起光で励起され、蛍光を発生する蛍光性ガラスを光ファイバ40が含む場合には、安価で信頼性の高い波長980nm帯の半導体レーザを励起LD51A〜51Dとして使うことが可能となる。さらに、Biを含むため、温度管理は容易である。
【0076】
また、添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有し、980nm帯吸収スペクトルの半値全幅が10nmを超える蛍光性ガラスを光ファイバ40が含む場合にもやはり、安価で信頼性の高い波長980nm帯の半導体レーザを励起LD51A〜51Dとして使うことが可能となる。加えて、励起光源の波長の選定に対する要求が緩和される。
【0077】
また、添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有する石英系ガラスであり、励起光強度が一定で且つ温度が−5℃以上65℃以下である場合において、蛍光スペクトルのピークにおける強度が−1dB以上1dB以下の範囲内で変動する蛍光性ガラスを光ファイバ40が含む場合には、温度依存性が低くなり、容易に実用化することができる。
【0078】
このように、上記の蛍光性ガラスを含む光ファイバ40を備えることで、光ファイバレーザ50は、容易に実用化することが可能となる。
【0079】
なお、Bi元素添加蛍光性ガラス等の上記の蛍光性ガラスは利得スペクトルが広いため、上記の蛍光性ガラスを用いた光ファイバレーザでは、レーザ発振波長を比較的自由に設定できる。また、共振器を構成するファイバグレーティング53、54のグレーティング周期を変えることによって、レーザ発振波長をより高い自由度で設定することができる。
【0080】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、光ファイバレーザを単体で構成するのではなく、図10に示すように、複数の光ファイバレーザを合波した光ファイバレーザとして構成してもよい。図10に示す光ファイバレーザ60は、光ファイバレーザ61Aから出射される発振波長1040nmのレーザ光と、光ファイバレーザ61Bから出射される発振波長1060nmのレーザ光と、光ファイバレーザ61Cから出射される発振波長1080nmのレーザ光と、光ファイバレーザ61Dから出射される発振波長1100nmのレーザ光と、光ファイバレーザ61Eから出射される発振波長1120nmのレーザ光と、光ファイバレーザ61Fから出射される発振波長1140nmのレーザ光と、光ファイバレーザ61Gから出射される発振波長1160nmのレーザ光と、光ファイバレーザ61Hから出射される発振波長1180nmのレーザ光とを、WDM合波器62で合波して、合波したレーザ光を出力する。この場合、合波されたレーザ光は、各光ファイバレーザ61A〜61Hから出力されるレーザ光の8倍の出力を有する。なお、WDM合波器62としてファイバ型カプラを使用することが信頼性上好ましい。
【0081】
また、サンプルA及びBとして、石英系Al共添加のBiDFについて説明したが、本発明はこの組成以外にも適用可能である。例えば、Biイオンの蛍光メカニズムについて、特許文献1及び2ではBi3+と仮定している。しかし、図11に示すBi元素イオンのエネルギー準位図から、その仮定よりむしろ、BiO(つまり2価)の状態の方が適切であると推察される。Biの場合、図11から、蛍光が見られるとすると、Biが金属化しない程度の還元剤(例えば、Sb、Snなど)を共添加することが好ましいと考えられ、このような組成にしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】蛍光性ガラスを含む光源の構成図である。
【図2】蛍光性ガラスを含む光源から出力されたASE光のスペクトルを示す。
【図3】光ファイバの環境温度を変化させたときのASE光スペクトルである。
【図4】蛍光性ガラスの蛍光スペクトルのピーク値の温度依存性を示す。
【図5】蛍光性ガラスの吸収スペクトルを示す。
【図6】EDFの980nm帯吸収スペクトルのグラフを示す。
【図7】実施形態に係るOCT装置の構成図である。
【図8】蛍光性ガラスを含む光ファイバの断面における領域区分を示す図である。
【図9】光ファイバを用いた光ファイバレーザの構成を概略的に示す図である。
【図10】実施形態に係る光ファイバレーザの変形例の構成を概略的に示す図である。
【図11】Bi元素イオンのエネルギー準位図である。
【符号の説明】
【0083】
10…光源、11…励起光源、12…WDMカプラ、13…光ファイバ、14…無反射終端、15…光アイソレータ、16…出力コネクタ、20…OCT装置、30…光源、31…光導波路、32…レンズ、33…励起光源、34…WDMフィルタ、35…光アイソレータ、21…ビームスプリッタ、22…ミラー、23…光検出器、24…被検体、40…光ファイバ、41…コア領域、42…内クラッド領域、43…外クラッド領域、50、60、61A〜61H…光ファイバレーザ、51…励起光供給部、51A〜51D…励起LD、52…励起光合波器、53…高反射率ファイバーグレーティング、54…低反射ファイバグレーティング、62…WDM合波器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加物としてBiを含有する石英系ガラスであり、波長980nm帯の励起光で励起され、蛍光を発生することを特徴とする蛍光性ガラス。
【請求項2】
前記励起光の波長と前記蛍光のスペクトルのピーク波長との差が、前記励起光の波長に対して16%以内であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光性ガラス。
【請求項3】
添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有し、980nm帯吸収スペクトルの半値全幅が10nmを超えることを特徴とする蛍光性ガラス。
【請求項4】
前記半値全幅が50nmを超えることを特徴とする請求項3に記載の蛍光性ガラス。
【請求項5】
添加物として少なくとも1種類の遷移金属を含有する石英系ガラスであり、励起光強度が一定で且つ温度が−5℃以上65℃以下である場合において、蛍光スペクトルのピークにおける強度が−1dB以上1dB以下の範囲内で変動することを特徴とする蛍光性ガラス。
【請求項6】
コア領域の少なくとも一部が請求項1〜5の何れか1項に記載の蛍光性ガラスからなることを特徴とする光導波路。
【請求項7】
コア領域の少なくとも一部が請求項1〜5の何れか1項に記載の蛍光性ガラスからなることを特徴とする光ファイバ。
【請求項8】
請求項6に記載の光導波路を有し、励起光が供給されることによって前記蛍光性ガラスから発生する蛍光を光増幅してASE光を出力する光源と、
前記光源から出力される前記ASE光を、第1光路方向に進行する第1分割光と反射体に向かって第2光路方向に進行する第2分割光とに2分割するビームスプリッタと、
前記第1分割光の光路上に配置され、前記第1光路方向に対して平行に移動されるとともに、前記第1光路方向に沿った方向に前記第1分割光を反射させるミラーと、
前記ミラーで反射された前記第1分割光と前記反射体で反射された前記第2分割光とを前記ビームスプリッタで重ね合わせ干渉させることによって得られる干渉光を検出する光検出器と、を備え、
前記反射体の3次元断層画像を、深度方向について4μm以下の分解能で測定することを特徴とする光コヒーレンストモグラフィ装置。
【請求項9】
請求項7に記載の光ファイバと、
前記光ファイバに含有される前記添加物を励起する励起光を前記光ファイバに供給する励起光供給部と、を備え、
前記光ファイバは、前記添加物から放出される光を共振させる共振器の光路中にレーザ媒質として配置されていることを特徴とする光ファイバレーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−27511(P2007−27511A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209037(P2005−209037)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】