蛍光材料、蛍光体、表示装置及び蛍光体の製造方法
【課題】発光あるいは発光効率の温度依存性を小さくする。
【解決手段】Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類から選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とし、結晶構造が擬珪灰石構造である蛍光材料。蛍光材料からなる膜31及びSi,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む膜33が、基板34上に積層して配されてなる。蛍光材料から構成される部位に接して、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む隣接膜を有する。
【解決手段】Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類から選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とし、結晶構造が擬珪灰石構造である蛍光材料。蛍光材料からなる膜31及びSi,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む膜33が、基板34上に積層して配されてなる。蛍光材料から構成される部位に接して、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む隣接膜を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光材料、蛍光体及びその製造方法、さらには蛍光体を用いた表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光機能を有する蛍光体膜の作製、及び蛍光体粉末の合成方法は、発光素子やディスプレイデバイスなどの実現に重要な技術であり、デバイスの種類により、最適な蛍光体の作製方法が盛んに検討されている。たとえば、ディスプレイ用蛍光体について見てみると、ブラウン管(CRT)やプラズマディスプレイ(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)用などは粉末焼成法で作製されている。
【0003】
また、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)用では薄膜成膜形成方法として、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法、及びスパッタ法に代表される物理的な薄膜堆積法が用いられている。さらに、ELD用の薄膜成膜形成方法としては他に、気相成長法、ゾルゲル法及び化学的溶液法に代表される化学的な薄膜堆積法が用いられている。
【0004】
様々なディスプレイの用途に対応するためには、蛍光体のフルカラー化が求められ、発光効率、色純度、安定性、発光応答性に優れた赤色、緑色、青色の3原色の蛍光体が精力的に開発されている。電子線励起であるCRT、FED用蛍光体では、珪酸塩化合物などで表面処理を施した硫化合物が使用されており、寿命の改善を図っている。しかし、特にFED用の蛍光体はCRTに比べ電子線照射時間が長いことにより劣化が加速される。また、紫外線励起によるPDP用蛍光体は、酸化物あるいは一部に硫黄を含むオキソ酸化物が使用されている。
【0005】
特に現在、PDP用の青色蛍光体BaMgAl10O17:Eu2+(通称BAM)は酸化物であるが、その結晶構造に起因する結合力の弱い部分、すなわちβアルミナ構造におけるスピネル層間のBa-O層において、水分吸着などで劣化が生じる。そしてこの劣化が問題となっている。近年、BAM代替材料として注目されているCaMgSi2O6:Eu2+(通称CMS)(特許文献1)はSi-O結合が鎖状構造をなし、Caサイトと隣接してパッキングした透輝石(Diopside)結晶構造を持っている。そのため、本質的な劣化が少ないと考えられている。しかし、現在、CMSは輝度がBAMの6割程度なので、更なる向上が求められる(非特許文献1)。またCMSは発光の温度依存性、すなわち温度消光を示し、低温域と比較して室温付近では発光輝度が半減するため、BAMと比較して、温度−輝度依存曲線が大幅に劣るという報告がなされている(非特許文献2)。
【特許文献1】特開2005-23306号公報
【非特許文献1】日本学術振興会、光相互変換第125委員会、第176回合同研究会資料 21 2002
【非特許文献2】Proc.IDW’04 1085 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような技術的背景により、新規な酸化物蛍光材料を提供し、またそれを用いた表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は本発明の以下の材料および製法により解決できる。
【0008】
本発明の蛍光材料は、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類から選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とし、結晶構造が擬珪灰石構造であることを特徴とする蛍光材料である。なお、擬珪灰石(pseudowollastonite)構造とは偽珪灰石構造と表記される場合もある。
【0009】
また、本発明の蛍光材料の製造方法は、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類の中の少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とした第1の部材に隣接して、SiあるいはGeを主成分とした第2の部材を配することにより、前駆体を用意する工程と、
該前駆体を還元雰囲気中で熱処理する工程と、
を有することを特徴とする蛍光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な酸化物蛍光材料を提供し、それを用いた表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態に関わる蛍光材料、特にその薄膜について説明する。本発明の蛍光材料の組成は、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、及びOを構成元素とし、付活材として希土類が添加された組成からなる蛍光材料で、結晶構造が擬珪灰石(Pseudowollastonite)構造(偽珪灰石構造と表記される場合もある)である。本発明に係る結晶構造を有する蛍光材料を用いれば、発光あるいは発光効率の温度依存性を小さくすることができる。
【0012】
珪酸塩化合物の結晶構造は、一般的にSiO4四面体の並び方により分類される。透輝石(Diopside)結晶構造は図2に示すように、SiO4四面体11が2点で結合して一本の鎖状に結合し、これに2価の金属イオンが結合し、鎖状珪酸塩化合物の代表として知られている。
【0013】
擬珪灰石結晶構造は、この鎖状珪酸塩化合物に属する。しかし、擬珪灰石結晶構造はAmerican Mineralogist, Volume 84, pages 929-932, 1999や図1に示すように、SiO4四面体11が3つ連結して三員環形状21をなし、それらを結びつける2価の金属イオンを有する特徴を持った結晶構造をとっている。本発明で開示する蛍光材料は、この擬珪灰石結晶構造からなる母材に希土類の付活材を添加した新規な蛍光材料である。
【0014】
また、擬珪灰石構造は図7に示すように、三員環の層間距離73が約0.22nmであり、水分子の大きさ約0.26nmと比べて小さい。そのため、本発明の擬珪灰石構造蛍光材料において、2価の金属イオン72を一部置換している希土類イオンへの水分子の吸着が起きにくく、水分劣化が生じにくいと考えられる。一方、透輝石構造は図8に示すように、2価の金属イオン72を挟むSiO4四面体の鎖間距離81が約0.30nmあり、水分子の大きさと比べて大きい。そのため、透輝石構造であるCMS蛍光材料において、結晶中の2価の金属イオン72を一部置換している希土類イオンへ水分子の吸着が起こり、水分劣化が生じると考えられる。さらにβアルミナ構造は図9に示すように、バリウム92、酸素93からなるBa-O層95を挟むスピネル層間距離96が約0.30nmあり、水分子の大きさと比べて大きい。そのため、βアルミナ構造であるBAM蛍光材料において、結晶中のバリウム92を一部置換している希土類イオンへの水分子の吸着が起こり、水分劣化が生じると考えられる。
【0015】
組成は各種組み合わせが可能であり、例えば、Mg,Ca,Srを含む擬珪灰石結晶構造を有する珪酸塩化合物中に、EuやCeなどの希土類を付活したものが挙げられる。なお、材料組成及び結晶構造の同定には、X線回折測定、蛍光X線測定、エネルギー分散分光測定、誘導結合プラズマ発光分析、透過電子顕微鏡観察などから行うことが可能である。
【0016】
なお、擬珪灰石結晶構造を有する珪酸塩化合物はCaSiO3などに代表されるように、一般的にXYO3の化学式で表される(X,Yは元素を表す)が、本発明の蛍光材料はその組成比は厳密に上述の組成比(X、Y、Oの組成比が1:1:3)に限定されない。本発明の蛍光材料は、結晶構造が擬珪灰石構造であればよく、材料組成は、たとえば、(Mgx,Cay,Srz,Euw)(Si1-aGea)酸化物であり、図11の111に示すように、x≧0.45、0.05≦y≦0.5、0.05≦z≦0.5、0<w≦0.4、かつ0≦a≦1の範囲内で設定することができる。これにより、擬珪灰石結晶構造を安定して得ることが可能となり、高い発光効率を実現できる。
【0017】
さらに、本発明の材料組成は、(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物であり、図11の112に示すように、0.45≦x≦0.55、0.15≦y≦0.4、0.05≦z≦0.35、0.01<w≦0.1の範囲で設定することが好ましい。特に(Mgx,Cay,Srz,Euw)SiOvの化学式において、0.45≦x≦0.55、0.15≦y≦0.4、0.05≦z≦0.35、0.01<w≦0.1、2.5≦v≦3.5の範囲内で設定することがより好ましい。これにより、擬珪灰石結晶構造を安定して得ることが可能となり、発光の均一性、及びより高い発光効率を実現できる。
【0018】
ここで、(Mgx,Cay,Srz,Euw)(Si1-aGea)酸化物とは(Mgx,Cay,Srz,Euw)と(Si1-aGea)と酸素とからなるものをいう。また、(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物とは、(Mgx,Cay,Srz,Euw)とSiと酸素とからなるものをいう。
【0019】
また、図3に示すように、前記蛍光材料から構成される部位31に接して、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む隣接膜33を有することが好ましい。
【0020】
隣接膜の材料としては、SiO2、GeO2、SiNx、SiOxNyなどを用いることができる。隣接膜の膜厚は、蛍光材料からなる部位のサイズにもよるが10nm〜1μmである。蛍光材料に接してこのような隣接膜を配することで、蛍光材料に含まれる組成であるSi,Ge,酸素に対しての組成ずれが生じにくくなるため、温度や湿度などの環境に対しての安定性に優れた蛍光体とすることができる。
【0021】
また、蛍光材料からなる部位と隣接膜との界面が0.1〜1μm周期で曲面形状を有することが好ましい。本発明の蛍光材料は可視域での蛍光を示すが、光の波長と同程度(0.1〜1μm程度)のサイズで界面形状が変調された構成を有することで、効果的に光を散乱させることができる。蛍光材料の内部で発せられた光は、この界面構造で散乱されることで、蛍光体の外部に効果的に放出させることができる。すなわち、上述の構造により光の外部取り出し効率が向上するため、外部量子効率の高い蛍光体とすることができる。
【0022】
本発明の蛍光材料を、蛍光薄膜として基板上に形成することで、結晶性の良好な蛍光材料とすることができる。特に、後述の製造方法により、図3に示すような、ABABAB・・(A=SiO4あるいはGeO4四面体層、B=2価金属イオン層)という交互に積層した結晶面を有した薄膜を作成することができる。このように、結晶性の良好な蛍光薄膜を得ることができるため、発光輝度、色純度、および膜の安定性の向上を図ることができる。この際先に述べたように、蛍光薄膜に隣接してSi,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む膜を配することが好ましい。
【0023】
上述の蛍光体と、蛍光体を励起する手段を組み合わせることで、表示装置とすることができる。励起手段としては、蛍光体を励起する電子線、紫外線、X線などを発生する手段が挙げられる。そして、表示装置としては、例えば、本発明の蛍光体と、蛍光体を電子線で励起するために電子線を放出する電子放出素子とを備えたFEDがある。また、本発明の蛍光体と、蛍光体を紫外線で励起するために紫外線を発生する紫外線励起用ガス及び電圧を印加してガス放電を生じさせる電極とを備えたPDPがある。この場合は紫外線励起用ガスと電極とが蛍光体を励起する手段となる。
【0024】
(蛍光体の製造方法)
本発明の蛍光材料は、MgCO3,SrCO3,CaCO3,MgCl2,SrCl2,CaCl2,Eu2O3,EuCl3,SiO2,GeO2,などを出発材料として、混合、焼成することで粉末として合成することができる。
【0025】
他にも、本発明の蛍光材料は、例えばSi、Ge、アルミナ、石英、SrTiO3などの各種基板上に薄膜として形成可能である。また蛍光薄膜形成には、ゾルゲル法、真空蒸着法、化学的気相成長法など、各種成膜手段を用いることが出来るが、特には緻密で再現性の良い膜が比較的容易に得られるスパッタリング法を用いることが好ましい。
【0026】
本発明の蛍光体の好ましい製造方法として、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類の中の少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とした第1の部材に隣接して、SiあるいはGeを主成分とした第2の部材を配することにより、前駆体を用意する工程と、該前駆体を還元雰囲気中で熱処理する工程と、を有した製造方法が挙げられる。
【0027】
図5を用いて、上記製造方法について説明する。
【0028】
まず、SiあるいはGeを含む膜52を有する基板51を用意する。そして、この基板上に、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類の中の少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、及びOを構成元素とした薄膜53を形成する(図5(a))。
【0029】
ここで、SiあるいはGeを含む膜52を有する基板51としては、より簡便には、Si基板上に熱酸化膜が任意の厚さで形成されたSiO2付Si基板や石英基板を用いればよい。また、そのような基板でなくても、SiO2あるいはGeO2などの膜を成膜した基板を用いることができる。この際、基板としては、アルミナ、石英、SrTiO3などの各種基板を用いることができる。
【0030】
薄膜53形成には、ゾルゲル法、真空蒸着法、化学的気相成長法など、各種成膜手段を用いることが出来るが、特には緻密で再現性の良い膜が比較的容易に得られるスパッタリング法を用いることが好ましい。次に、結晶性の向上と付活材の活性化のために、薄膜53が形成された基板(すなわち前駆体)を還元雰囲気で熱処理する(図5(b))。
【0031】
ここで、還元雰囲気としては、N2、Ar、Heなどの不活性ガス中、水素ガス中、一酸化炭素ガス中、水素や一酸化炭素とN2、Ar、Heなどの混合ガス中、真空雰囲気中などがあげられる。これらの中でも、2価のEuを得るために、H2を数%含んだArあるいはHeなどの混合ガスを用いることが好ましい。熱処理温度は、材料組成や雰囲気にも依存するが、たとえば600℃から1400℃の範囲である。
【0032】
この熱処理工程において、薄膜53と隣接膜52の間で物質拡散を生じることで、結晶性に優れた蛍光薄膜54を形成できる。また、蛍光薄膜に接しての隣接膜が、蛍光薄膜に含まれる組成SiあるいはGeを含む(例えばSiO2、GeO2など)ことで、薄膜組成のずれに影響されにくく、簡便な手法で安定な蛍光薄膜の作製が可能となり好ましい。このような物質拡散による効果を十分に得るためには、あらかじめ用意する薄膜53の厚さを蛍光薄膜の膜厚程度以上とすることが好ましい。
【0033】
以下、実施例を用いて本発明を更に説明するが、以下に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
本実施例は、Mg,Ca,Sr,Si,Oを構成元素とし、付活材として希土類が添加された組成からなり、結晶構造が擬珪灰石構造(Pseudowollastonite)であることを特徴とする珪酸塩蛍光体を基板上に作成する例である。
【0035】
図5(a)に示すように、まず、熱酸化膜付きSi基板上に、Mg,Ca,Sr,Eu,Si及び酸素を構成元素とした薄膜53を成膜する。
【0036】
ここで熱酸化膜付きSi基板における酸化膜52の厚さは約500nmである。
【0037】
成膜には、カソードを3台備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。各々2%程度のEu2O3の添加されたMgSiO3、CaSiO3、SrSiO3の3つのターゲットを用いて、RF投入パワーを各々200Wとし、厚さ500nm程度の薄膜53を形成する。この際、基板温度は200℃とし、アルゴンと酸素の混合ガスを流して約1Paの圧力とし、成膜速度は約3nm/min程度である。
【0038】
次に、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、2%のH2含んだAr雰囲気下、約1000℃で熱処理する(図5(b))。
【0039】
アニール済みの成膜基板に水銀ランプで254nmの紫外線を照射すると、色純度の良好な青色の発光が得られる。分光蛍光光度計で励起発光スペクトルを測定すると、図4に示すように、245nmに最大ピークを持つ励起スペクトル及び、447nmにピークを持つ発光スペクトルが得られる。また色純度はCIE(0.153、0.037)と優れた青色である。2価のEuイオンの4f−5d遷移により、ブロードで強い発光スペクトルと、1μ秒程度の速い発光寿命を持つ発光である。さらに、別途、石英基板上同様にして形成した蛍光体について、積分球を用いて量子発光効率を測定すると0.57である。
また、蛍光の基板温度依存性を調べると、図10に示すように、室温から160℃にわたり、発光強度の変化は透輝石構造に比べ小さく、温度に対して安定な蛍光体であることがわかる。
【0040】
得られた蛍光体薄膜についてRh管球を用いた蛍光X線測定及び誘導結合プラズマ発光分析を行うと、(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物において、x=0.53、y=0.25、z=0.2、w=0.02である。
【0041】
また、CuKα線を用いたX線回折測定により、擬珪灰石結晶構造に起因するピークが見られる。さらに、透過電子顕微鏡を用いた電子線回折の評価により、蛍光薄膜31は金属原子(Mg,Sr,Ca)とSiO4三員環が交互に積層した擬珪灰石構造からなることがわかる。
【0042】
さらには、透過電子顕微鏡により蛍光薄膜断面構造を観察すると、図3に示すように、ABABAB・・(A=SiO4あるいはGeO4四面体層、B=2価金属イオン層)という交互に積層した結晶面を有した薄膜であることがわかる。
【0043】
また、熱処理工程において、蛍光薄膜と隣接膜の間で物質拡散を生じることで、その界面55に0.1〜1μm周期の周期を持つ曲面形状が形成されている。この物質拡散を利用した熱処理により、組成変動が小さく、粒界や欠陥の少ない結晶性に優れた蛍光体を作成することができる。これにより、発光輝度、色純度、および膜の安定性が向上する。また、得られた蛍光体薄膜は紫外線照射による発光の温度依存性において優れた特性を示す。
【0044】
他にも、幾つかの構造的な特徴がある。まず、積層結晶面と基板面のなす角度θが、例えば40°などの一定の角度を有する。また、蛍光薄膜31の内部にサイズが1μm3程度の空隙部分32(密度が低い部分)を有することがわかる。これらの特徴的な薄膜構造(界面の曲面形状、結晶面と基板面の角度、空隙)により、蛍光材料内部で発せられた光が有効に外部に取り出すことができていると思われる。すなわち、このような構造により良好な外部量子効率が得られていると思われる。
【0045】
また、成膜時のMgSiO3、CaSiO3、SrSiO3の3つのターゲットへの投入パワーを制御し、さまざまな組成の蛍光材料を用意する。それにより、(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物の組成において、x≧0.45、0.05≦y≦0.5、0.05≦z≦0.5、0<w≦0.4の範囲で良好な蛍光体を得ることができる。
【実施例2】
【0046】
本実施例は、Ca,Sr,Si,Oを構成元素とし、付活材として希土類が添加された組成からなり、結晶構造が擬珪灰石構造(Pseudowollastonite)であることを特徴とする珪酸塩蛍光体を基板上に作成する例である。
【0047】
図5(a)に示すように、まず、熱酸化膜付きSi基板上に、Ca,Sr,Eu,Si及び酸素を構成元素とした薄膜53を成膜する。
【0048】
ここで熱酸化膜付きSi基板における酸化膜52の厚さは約500nmである。
【0049】
成膜には、カソードを2台備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。各々2%程度のEu2O3の添加された、CaSiO3 ,SrSiO3を用いて、RF投入パワーを各々200Wとし、厚さ500nm程度の薄膜53を形成する。この際、基板温度は200℃とし、アルゴンと酸素の混合ガスを流して約1Paの圧力とし、成膜速度は約2nm/min程度である。
【0050】
次に、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、2%のH2含んだAr雰囲気下、約1000℃で熱処理する(図5(b))。
【0051】
アニール済みの成膜基板に水銀ランプで254nmの紫外線を照射すると、青色の発光が得られる。
【0052】
得られた蛍光体薄膜についてRh管球を用いた蛍光X線測定及び誘導結合プラズマ発光分析を行うと、(Cay,Srz,Euw)Si酸化物において、y=0.53、z=0.45、w=0.02である。
【実施例3】
【0053】
本実施例は、Mg,Sr,Ba,Si,Oを構成元素とし、付活材として希土類が添加された組成からなり、結晶構造が擬珪灰石構造(Pseudowollastonite)であることを特徴とする珪酸塩蛍光体を基板上に作成する例である。
【0054】
図5(a)に示すように、まず、熱酸化膜付きSi基板上に、Mg,Sr,Ba,Eu,Si及び酸素を構成元素とした薄膜53を成膜する。
【0055】
ここで熱酸化膜付きSi基板における酸化膜52の厚さは約500nmである。
【0056】
成膜には、カソードを3台備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。各々2%程度のEu2O3の添加されたMgSiO3、SrSiO3、BaSiO3の3つのターゲットを用いて、RF投入パワーを各々200Wとし、厚さ500nm程度の薄膜53を形成する。この際、基板温度は200℃とし、アルゴンと酸素の混合ガスを流して約1Paの圧力とし、成膜速度は約3nm/min程度である。
【0057】
次に、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、2%のH2含んだAr雰囲気下、約1000℃で熱処理する(図5(b))。
【0058】
アニール済みの成膜基板に水銀ランプで254nmの紫外線を照射すると、青色の発光が得られる。
【0059】
得られた蛍光体薄膜についてRh管球を用いた蛍光X線測定及び誘導結合プラズマ発光分析を行うと、(Mgx,Srz,Bap,Euw)Si酸化物において、x=0.70、z=0.14、p=0.14、w=0.02である。
【実施例4】
【0060】
本実施例は、Mg,Ca,Sr,Eu,Si及び酸素を構成元素とした蛍光薄膜を単結晶基板あるいは、セラミックス基板上に、形成する例である。
【0061】
基板としてはサファイア単結晶基板51を用いる。
【0062】
まず、厚さ500nm程度のSiO2薄膜を隣接膜52として形成する。成膜には、SiO2ターゲットを用いたマグネトロンスパッタ法を用いた。基板温度は200℃以下、アルゴンガスを流して0.5Paの圧力、成膜速度6nm/minである。
【0063】
次に、Mg,Ca,Sr,Eu,Si及び酸素を構成元素とした薄膜53を成膜する。成膜には、カソードを3台備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。各々5%程度のEu2O3のMgSiO3、CaSiO3、SrSiO3のターゲットを用い、RF投入パワーを各々180W、200W、200Wとし、基板温度100℃、アルゴンと酸素の混合ガスを流して約1Paの圧力、成膜速度3nm/minで成膜することにより、厚さ500nm程度の薄膜を形成する(図5(a))。
【0064】
さらに、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、3%のH2含んだHe雰囲気下、約1000℃で熱処理する(図5(b))。
【0065】
アニール済みの成膜基板に紫外線を照射すると、色純度の良好な青色の発光が得られる。得られた蛍光薄膜54についてRh管球を用いた蛍光X線測定及び誘導結合プラズマ発光分析を行うと、(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物において、x=0.45、y=0.3、z=0.2、w=0.05である。
【0066】
本実施例の手法により、SrTiO3単結晶基板、あるいはBaTiO3セラミック焼成基板などに蛍光体の作成が可能となる。これにより、蛍光体の応用分野が拡大する。
【実施例5】
【0067】
本実施例は、Mg,Ca,Sr,Eu,Si,Ge及び酸素を構成元素とした蛍光薄膜の作製する例である。
【0068】
基板としてはサファイア単結晶基板を用いる。
【0069】
まず、厚さ500nm程度のGeO2薄膜を隣接膜52として形成する。成膜には、GeO2ターゲットを用いたマグネトロンスパッタ法を用いた。基板温度は100℃、アルゴンガスを流して0.5Paの圧力、成膜速度5nm/minである。
【0070】
次に、Mg,Ca,Sr,Eu,Si及び酸素を構成元素とした薄膜53を成膜する。成膜には、カソードを3台備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。各々5%程度のEu2O3のMgSiO3、CaSiO3、SrSiO3のターゲットを用い、RF投入パワーを各々180W、180W、200Wとし、基板温度100℃、アルゴンと酸素の混合ガスを流して約1Paの圧力、成膜速度3nm/minで成膜することにより、厚さ500nm程度の薄膜を形成する(図5(a))。
【0071】
さらに、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、3%のH2含んだHe雰囲気下、約850℃で熱処理する(図5(b))。
【0072】
次に、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、2%のH2含んだHe雰囲気下、約850℃で熱処理する(図5(b))。
【0073】
アニール済みの成膜基板に紫外線を照射すると、色純度の良好な青色の発光が得られる。得られた蛍光体薄膜についてRh管球を用いた蛍光X線測定及び誘導結合プラズマ発光分析を行うと、(Mgx,Cay,Srz,Euw)(Si1-aGea)酸化物において、x=0.5、y=0.25、z=0.2、w=0.05、a=0.3である。
【実施例6】
【0074】
本実施例においては、本発明の蛍光体を適用したEL素子の例である。
【0075】
本実施例のEL素子は、図12に示すように、誘電体基板203上に隣接膜52、結晶性蛍光薄膜54、上部絶縁層202、透明電極201を積層する構成である。誘電体基板203の裏面に配される下部電極204と透明電極201の間に交流電源200を用いて交流電圧を印加することで、発光を得ることができる。
【0076】
本実施例において、EL素子の構成は、BaTiO3セラミックス焼成基板を誘電体基板203として用い、基板の厚さは0.1mmである。隣接膜52は膜厚300nmのSiO2であり、結晶性蛍光薄膜54はMg,Ca,Sr,Eu,Si,Oを構成元素とする結晶構造が擬珪灰石構造の蛍光材料で、膜厚は400nm、上部絶縁層202は膜厚100nmのAl2O3、透明電極201は膜厚400nmのITOとする。
【0077】
交流電源200を用い、1kHzの正弦波を徐々に印加すると、300Vにおいて青色発光が得られる。
【実施例7】
【0078】
本実施例においては、本発明の蛍光体を適用した表示装置の例である。
【0079】
本実施例の表示装置は、図6に示すようにガラスからなる真空容器中(不図示)において、蛍光体62と電子放出素子61を対向して配してなる。複数の電子放出素子は配列して配置されており、それぞれの電子放出素子から放出された電子ビームを加速し蛍光体に照射することで、蛍光体から光を生じせしめる。蛍光体から発せられた光を用いて画像や文字を表示することができる。
【0080】
本実施例においては、蛍光体の構成は実施例1に準じている。Mg,Ca,Sr,Eu,Si,Oを構成元素とし結晶構造が擬珪灰石構造の蛍光材料を石英基板に配した構成からなる。蛍光層の厚さは、約1100nmであり、この上にメタルバック63として厚さ80nmのアルミ膜が成膜されている。
【0081】
また、電子放出素子61はスピント型の電子放出素子であり、電子ビームの加速電圧は10kVである。
【0082】
本実施例の表示装置は、色純度の良好な青色の表示が可能であり、視認性と安定性に優れた画像を表示することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、PDP、FED、EL等の発光素子、画像表示装置、照明装置、印字装置に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の擬珪灰石(Pseudowollastonite)結晶構造を示す図である。
【図2】本発明の比較に用いる透輝石(Diopside)結晶構造を示す図である。
【図3】本発明で作製する蛍光体を示す断面図である。
【図4】本発明の蛍光体の励起及び発光スペクトルを示す図である。
【図5】本発明の蛍光体の熱処理前後の断面図を示す図である。
【図6】本発明の表示装置を示す図である。
【図7】擬珪灰石構造をa軸方向から見た図である。
【図8】透輝石構造をb軸方向から見た図である。
【図9】βアルミナ構造をa軸方向から見た図である。
【図10】本発明の発光強度の温度依存性を示す図である。
【図11】本発明の蛍光材料のMg、Ca、Srに関する材料組成範囲を表す図である。
【図12】本発明のEL素子の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
11 SiO4四面体
21 三員環形状
31 蛍光薄膜
32 空隙
33 隣接膜
34 基板
A SiO4あるいはGeO4四面体層
B 2価金属イオン層
φ A層とB層の積層結晶面と基板面のなす角度
51 基板
52 隣接膜
53 薄膜
54 結晶性蛍光薄膜
55 蛍光薄膜と隣接膜との界面
72 2価の金属イオン
73 三員環の層間距離
81 SiO4四面体の鎖間距離
91 アルミニウム
92 バリウム
93 酸素
94 スピネル層
95 Ba−O層
96 スピネル層間距離
111 材料組成範囲A
112 材料組成範囲B
200 交流電源
201 透明電極
202 上部絶縁層
203 誘電体基板
204 下部電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光材料、蛍光体及びその製造方法、さらには蛍光体を用いた表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光機能を有する蛍光体膜の作製、及び蛍光体粉末の合成方法は、発光素子やディスプレイデバイスなどの実現に重要な技術であり、デバイスの種類により、最適な蛍光体の作製方法が盛んに検討されている。たとえば、ディスプレイ用蛍光体について見てみると、ブラウン管(CRT)やプラズマディスプレイ(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)用などは粉末焼成法で作製されている。
【0003】
また、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)用では薄膜成膜形成方法として、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法、及びスパッタ法に代表される物理的な薄膜堆積法が用いられている。さらに、ELD用の薄膜成膜形成方法としては他に、気相成長法、ゾルゲル法及び化学的溶液法に代表される化学的な薄膜堆積法が用いられている。
【0004】
様々なディスプレイの用途に対応するためには、蛍光体のフルカラー化が求められ、発光効率、色純度、安定性、発光応答性に優れた赤色、緑色、青色の3原色の蛍光体が精力的に開発されている。電子線励起であるCRT、FED用蛍光体では、珪酸塩化合物などで表面処理を施した硫化合物が使用されており、寿命の改善を図っている。しかし、特にFED用の蛍光体はCRTに比べ電子線照射時間が長いことにより劣化が加速される。また、紫外線励起によるPDP用蛍光体は、酸化物あるいは一部に硫黄を含むオキソ酸化物が使用されている。
【0005】
特に現在、PDP用の青色蛍光体BaMgAl10O17:Eu2+(通称BAM)は酸化物であるが、その結晶構造に起因する結合力の弱い部分、すなわちβアルミナ構造におけるスピネル層間のBa-O層において、水分吸着などで劣化が生じる。そしてこの劣化が問題となっている。近年、BAM代替材料として注目されているCaMgSi2O6:Eu2+(通称CMS)(特許文献1)はSi-O結合が鎖状構造をなし、Caサイトと隣接してパッキングした透輝石(Diopside)結晶構造を持っている。そのため、本質的な劣化が少ないと考えられている。しかし、現在、CMSは輝度がBAMの6割程度なので、更なる向上が求められる(非特許文献1)。またCMSは発光の温度依存性、すなわち温度消光を示し、低温域と比較して室温付近では発光輝度が半減するため、BAMと比較して、温度−輝度依存曲線が大幅に劣るという報告がなされている(非特許文献2)。
【特許文献1】特開2005-23306号公報
【非特許文献1】日本学術振興会、光相互変換第125委員会、第176回合同研究会資料 21 2002
【非特許文献2】Proc.IDW’04 1085 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような技術的背景により、新規な酸化物蛍光材料を提供し、またそれを用いた表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は本発明の以下の材料および製法により解決できる。
【0008】
本発明の蛍光材料は、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類から選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とし、結晶構造が擬珪灰石構造であることを特徴とする蛍光材料である。なお、擬珪灰石(pseudowollastonite)構造とは偽珪灰石構造と表記される場合もある。
【0009】
また、本発明の蛍光材料の製造方法は、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類の中の少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とした第1の部材に隣接して、SiあるいはGeを主成分とした第2の部材を配することにより、前駆体を用意する工程と、
該前駆体を還元雰囲気中で熱処理する工程と、
を有することを特徴とする蛍光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な酸化物蛍光材料を提供し、それを用いた表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態に関わる蛍光材料、特にその薄膜について説明する。本発明の蛍光材料の組成は、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、及びOを構成元素とし、付活材として希土類が添加された組成からなる蛍光材料で、結晶構造が擬珪灰石(Pseudowollastonite)構造(偽珪灰石構造と表記される場合もある)である。本発明に係る結晶構造を有する蛍光材料を用いれば、発光あるいは発光効率の温度依存性を小さくすることができる。
【0012】
珪酸塩化合物の結晶構造は、一般的にSiO4四面体の並び方により分類される。透輝石(Diopside)結晶構造は図2に示すように、SiO4四面体11が2点で結合して一本の鎖状に結合し、これに2価の金属イオンが結合し、鎖状珪酸塩化合物の代表として知られている。
【0013】
擬珪灰石結晶構造は、この鎖状珪酸塩化合物に属する。しかし、擬珪灰石結晶構造はAmerican Mineralogist, Volume 84, pages 929-932, 1999や図1に示すように、SiO4四面体11が3つ連結して三員環形状21をなし、それらを結びつける2価の金属イオンを有する特徴を持った結晶構造をとっている。本発明で開示する蛍光材料は、この擬珪灰石結晶構造からなる母材に希土類の付活材を添加した新規な蛍光材料である。
【0014】
また、擬珪灰石構造は図7に示すように、三員環の層間距離73が約0.22nmであり、水分子の大きさ約0.26nmと比べて小さい。そのため、本発明の擬珪灰石構造蛍光材料において、2価の金属イオン72を一部置換している希土類イオンへの水分子の吸着が起きにくく、水分劣化が生じにくいと考えられる。一方、透輝石構造は図8に示すように、2価の金属イオン72を挟むSiO4四面体の鎖間距離81が約0.30nmあり、水分子の大きさと比べて大きい。そのため、透輝石構造であるCMS蛍光材料において、結晶中の2価の金属イオン72を一部置換している希土類イオンへ水分子の吸着が起こり、水分劣化が生じると考えられる。さらにβアルミナ構造は図9に示すように、バリウム92、酸素93からなるBa-O層95を挟むスピネル層間距離96が約0.30nmあり、水分子の大きさと比べて大きい。そのため、βアルミナ構造であるBAM蛍光材料において、結晶中のバリウム92を一部置換している希土類イオンへの水分子の吸着が起こり、水分劣化が生じると考えられる。
【0015】
組成は各種組み合わせが可能であり、例えば、Mg,Ca,Srを含む擬珪灰石結晶構造を有する珪酸塩化合物中に、EuやCeなどの希土類を付活したものが挙げられる。なお、材料組成及び結晶構造の同定には、X線回折測定、蛍光X線測定、エネルギー分散分光測定、誘導結合プラズマ発光分析、透過電子顕微鏡観察などから行うことが可能である。
【0016】
なお、擬珪灰石結晶構造を有する珪酸塩化合物はCaSiO3などに代表されるように、一般的にXYO3の化学式で表される(X,Yは元素を表す)が、本発明の蛍光材料はその組成比は厳密に上述の組成比(X、Y、Oの組成比が1:1:3)に限定されない。本発明の蛍光材料は、結晶構造が擬珪灰石構造であればよく、材料組成は、たとえば、(Mgx,Cay,Srz,Euw)(Si1-aGea)酸化物であり、図11の111に示すように、x≧0.45、0.05≦y≦0.5、0.05≦z≦0.5、0<w≦0.4、かつ0≦a≦1の範囲内で設定することができる。これにより、擬珪灰石結晶構造を安定して得ることが可能となり、高い発光効率を実現できる。
【0017】
さらに、本発明の材料組成は、(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物であり、図11の112に示すように、0.45≦x≦0.55、0.15≦y≦0.4、0.05≦z≦0.35、0.01<w≦0.1の範囲で設定することが好ましい。特に(Mgx,Cay,Srz,Euw)SiOvの化学式において、0.45≦x≦0.55、0.15≦y≦0.4、0.05≦z≦0.35、0.01<w≦0.1、2.5≦v≦3.5の範囲内で設定することがより好ましい。これにより、擬珪灰石結晶構造を安定して得ることが可能となり、発光の均一性、及びより高い発光効率を実現できる。
【0018】
ここで、(Mgx,Cay,Srz,Euw)(Si1-aGea)酸化物とは(Mgx,Cay,Srz,Euw)と(Si1-aGea)と酸素とからなるものをいう。また、(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物とは、(Mgx,Cay,Srz,Euw)とSiと酸素とからなるものをいう。
【0019】
また、図3に示すように、前記蛍光材料から構成される部位31に接して、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む隣接膜33を有することが好ましい。
【0020】
隣接膜の材料としては、SiO2、GeO2、SiNx、SiOxNyなどを用いることができる。隣接膜の膜厚は、蛍光材料からなる部位のサイズにもよるが10nm〜1μmである。蛍光材料に接してこのような隣接膜を配することで、蛍光材料に含まれる組成であるSi,Ge,酸素に対しての組成ずれが生じにくくなるため、温度や湿度などの環境に対しての安定性に優れた蛍光体とすることができる。
【0021】
また、蛍光材料からなる部位と隣接膜との界面が0.1〜1μm周期で曲面形状を有することが好ましい。本発明の蛍光材料は可視域での蛍光を示すが、光の波長と同程度(0.1〜1μm程度)のサイズで界面形状が変調された構成を有することで、効果的に光を散乱させることができる。蛍光材料の内部で発せられた光は、この界面構造で散乱されることで、蛍光体の外部に効果的に放出させることができる。すなわち、上述の構造により光の外部取り出し効率が向上するため、外部量子効率の高い蛍光体とすることができる。
【0022】
本発明の蛍光材料を、蛍光薄膜として基板上に形成することで、結晶性の良好な蛍光材料とすることができる。特に、後述の製造方法により、図3に示すような、ABABAB・・(A=SiO4あるいはGeO4四面体層、B=2価金属イオン層)という交互に積層した結晶面を有した薄膜を作成することができる。このように、結晶性の良好な蛍光薄膜を得ることができるため、発光輝度、色純度、および膜の安定性の向上を図ることができる。この際先に述べたように、蛍光薄膜に隣接してSi,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む膜を配することが好ましい。
【0023】
上述の蛍光体と、蛍光体を励起する手段を組み合わせることで、表示装置とすることができる。励起手段としては、蛍光体を励起する電子線、紫外線、X線などを発生する手段が挙げられる。そして、表示装置としては、例えば、本発明の蛍光体と、蛍光体を電子線で励起するために電子線を放出する電子放出素子とを備えたFEDがある。また、本発明の蛍光体と、蛍光体を紫外線で励起するために紫外線を発生する紫外線励起用ガス及び電圧を印加してガス放電を生じさせる電極とを備えたPDPがある。この場合は紫外線励起用ガスと電極とが蛍光体を励起する手段となる。
【0024】
(蛍光体の製造方法)
本発明の蛍光材料は、MgCO3,SrCO3,CaCO3,MgCl2,SrCl2,CaCl2,Eu2O3,EuCl3,SiO2,GeO2,などを出発材料として、混合、焼成することで粉末として合成することができる。
【0025】
他にも、本発明の蛍光材料は、例えばSi、Ge、アルミナ、石英、SrTiO3などの各種基板上に薄膜として形成可能である。また蛍光薄膜形成には、ゾルゲル法、真空蒸着法、化学的気相成長法など、各種成膜手段を用いることが出来るが、特には緻密で再現性の良い膜が比較的容易に得られるスパッタリング法を用いることが好ましい。
【0026】
本発明の蛍光体の好ましい製造方法として、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類の中の少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とした第1の部材に隣接して、SiあるいはGeを主成分とした第2の部材を配することにより、前駆体を用意する工程と、該前駆体を還元雰囲気中で熱処理する工程と、を有した製造方法が挙げられる。
【0027】
図5を用いて、上記製造方法について説明する。
【0028】
まず、SiあるいはGeを含む膜52を有する基板51を用意する。そして、この基板上に、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類の中の少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、及びOを構成元素とした薄膜53を形成する(図5(a))。
【0029】
ここで、SiあるいはGeを含む膜52を有する基板51としては、より簡便には、Si基板上に熱酸化膜が任意の厚さで形成されたSiO2付Si基板や石英基板を用いればよい。また、そのような基板でなくても、SiO2あるいはGeO2などの膜を成膜した基板を用いることができる。この際、基板としては、アルミナ、石英、SrTiO3などの各種基板を用いることができる。
【0030】
薄膜53形成には、ゾルゲル法、真空蒸着法、化学的気相成長法など、各種成膜手段を用いることが出来るが、特には緻密で再現性の良い膜が比較的容易に得られるスパッタリング法を用いることが好ましい。次に、結晶性の向上と付活材の活性化のために、薄膜53が形成された基板(すなわち前駆体)を還元雰囲気で熱処理する(図5(b))。
【0031】
ここで、還元雰囲気としては、N2、Ar、Heなどの不活性ガス中、水素ガス中、一酸化炭素ガス中、水素や一酸化炭素とN2、Ar、Heなどの混合ガス中、真空雰囲気中などがあげられる。これらの中でも、2価のEuを得るために、H2を数%含んだArあるいはHeなどの混合ガスを用いることが好ましい。熱処理温度は、材料組成や雰囲気にも依存するが、たとえば600℃から1400℃の範囲である。
【0032】
この熱処理工程において、薄膜53と隣接膜52の間で物質拡散を生じることで、結晶性に優れた蛍光薄膜54を形成できる。また、蛍光薄膜に接しての隣接膜が、蛍光薄膜に含まれる組成SiあるいはGeを含む(例えばSiO2、GeO2など)ことで、薄膜組成のずれに影響されにくく、簡便な手法で安定な蛍光薄膜の作製が可能となり好ましい。このような物質拡散による効果を十分に得るためには、あらかじめ用意する薄膜53の厚さを蛍光薄膜の膜厚程度以上とすることが好ましい。
【0033】
以下、実施例を用いて本発明を更に説明するが、以下に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
本実施例は、Mg,Ca,Sr,Si,Oを構成元素とし、付活材として希土類が添加された組成からなり、結晶構造が擬珪灰石構造(Pseudowollastonite)であることを特徴とする珪酸塩蛍光体を基板上に作成する例である。
【0035】
図5(a)に示すように、まず、熱酸化膜付きSi基板上に、Mg,Ca,Sr,Eu,Si及び酸素を構成元素とした薄膜53を成膜する。
【0036】
ここで熱酸化膜付きSi基板における酸化膜52の厚さは約500nmである。
【0037】
成膜には、カソードを3台備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。各々2%程度のEu2O3の添加されたMgSiO3、CaSiO3、SrSiO3の3つのターゲットを用いて、RF投入パワーを各々200Wとし、厚さ500nm程度の薄膜53を形成する。この際、基板温度は200℃とし、アルゴンと酸素の混合ガスを流して約1Paの圧力とし、成膜速度は約3nm/min程度である。
【0038】
次に、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、2%のH2含んだAr雰囲気下、約1000℃で熱処理する(図5(b))。
【0039】
アニール済みの成膜基板に水銀ランプで254nmの紫外線を照射すると、色純度の良好な青色の発光が得られる。分光蛍光光度計で励起発光スペクトルを測定すると、図4に示すように、245nmに最大ピークを持つ励起スペクトル及び、447nmにピークを持つ発光スペクトルが得られる。また色純度はCIE(0.153、0.037)と優れた青色である。2価のEuイオンの4f−5d遷移により、ブロードで強い発光スペクトルと、1μ秒程度の速い発光寿命を持つ発光である。さらに、別途、石英基板上同様にして形成した蛍光体について、積分球を用いて量子発光効率を測定すると0.57である。
また、蛍光の基板温度依存性を調べると、図10に示すように、室温から160℃にわたり、発光強度の変化は透輝石構造に比べ小さく、温度に対して安定な蛍光体であることがわかる。
【0040】
得られた蛍光体薄膜についてRh管球を用いた蛍光X線測定及び誘導結合プラズマ発光分析を行うと、(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物において、x=0.53、y=0.25、z=0.2、w=0.02である。
【0041】
また、CuKα線を用いたX線回折測定により、擬珪灰石結晶構造に起因するピークが見られる。さらに、透過電子顕微鏡を用いた電子線回折の評価により、蛍光薄膜31は金属原子(Mg,Sr,Ca)とSiO4三員環が交互に積層した擬珪灰石構造からなることがわかる。
【0042】
さらには、透過電子顕微鏡により蛍光薄膜断面構造を観察すると、図3に示すように、ABABAB・・(A=SiO4あるいはGeO4四面体層、B=2価金属イオン層)という交互に積層した結晶面を有した薄膜であることがわかる。
【0043】
また、熱処理工程において、蛍光薄膜と隣接膜の間で物質拡散を生じることで、その界面55に0.1〜1μm周期の周期を持つ曲面形状が形成されている。この物質拡散を利用した熱処理により、組成変動が小さく、粒界や欠陥の少ない結晶性に優れた蛍光体を作成することができる。これにより、発光輝度、色純度、および膜の安定性が向上する。また、得られた蛍光体薄膜は紫外線照射による発光の温度依存性において優れた特性を示す。
【0044】
他にも、幾つかの構造的な特徴がある。まず、積層結晶面と基板面のなす角度θが、例えば40°などの一定の角度を有する。また、蛍光薄膜31の内部にサイズが1μm3程度の空隙部分32(密度が低い部分)を有することがわかる。これらの特徴的な薄膜構造(界面の曲面形状、結晶面と基板面の角度、空隙)により、蛍光材料内部で発せられた光が有効に外部に取り出すことができていると思われる。すなわち、このような構造により良好な外部量子効率が得られていると思われる。
【0045】
また、成膜時のMgSiO3、CaSiO3、SrSiO3の3つのターゲットへの投入パワーを制御し、さまざまな組成の蛍光材料を用意する。それにより、(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物の組成において、x≧0.45、0.05≦y≦0.5、0.05≦z≦0.5、0<w≦0.4の範囲で良好な蛍光体を得ることができる。
【実施例2】
【0046】
本実施例は、Ca,Sr,Si,Oを構成元素とし、付活材として希土類が添加された組成からなり、結晶構造が擬珪灰石構造(Pseudowollastonite)であることを特徴とする珪酸塩蛍光体を基板上に作成する例である。
【0047】
図5(a)に示すように、まず、熱酸化膜付きSi基板上に、Ca,Sr,Eu,Si及び酸素を構成元素とした薄膜53を成膜する。
【0048】
ここで熱酸化膜付きSi基板における酸化膜52の厚さは約500nmである。
【0049】
成膜には、カソードを2台備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。各々2%程度のEu2O3の添加された、CaSiO3 ,SrSiO3を用いて、RF投入パワーを各々200Wとし、厚さ500nm程度の薄膜53を形成する。この際、基板温度は200℃とし、アルゴンと酸素の混合ガスを流して約1Paの圧力とし、成膜速度は約2nm/min程度である。
【0050】
次に、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、2%のH2含んだAr雰囲気下、約1000℃で熱処理する(図5(b))。
【0051】
アニール済みの成膜基板に水銀ランプで254nmの紫外線を照射すると、青色の発光が得られる。
【0052】
得られた蛍光体薄膜についてRh管球を用いた蛍光X線測定及び誘導結合プラズマ発光分析を行うと、(Cay,Srz,Euw)Si酸化物において、y=0.53、z=0.45、w=0.02である。
【実施例3】
【0053】
本実施例は、Mg,Sr,Ba,Si,Oを構成元素とし、付活材として希土類が添加された組成からなり、結晶構造が擬珪灰石構造(Pseudowollastonite)であることを特徴とする珪酸塩蛍光体を基板上に作成する例である。
【0054】
図5(a)に示すように、まず、熱酸化膜付きSi基板上に、Mg,Sr,Ba,Eu,Si及び酸素を構成元素とした薄膜53を成膜する。
【0055】
ここで熱酸化膜付きSi基板における酸化膜52の厚さは約500nmである。
【0056】
成膜には、カソードを3台備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。各々2%程度のEu2O3の添加されたMgSiO3、SrSiO3、BaSiO3の3つのターゲットを用いて、RF投入パワーを各々200Wとし、厚さ500nm程度の薄膜53を形成する。この際、基板温度は200℃とし、アルゴンと酸素の混合ガスを流して約1Paの圧力とし、成膜速度は約3nm/min程度である。
【0057】
次に、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、2%のH2含んだAr雰囲気下、約1000℃で熱処理する(図5(b))。
【0058】
アニール済みの成膜基板に水銀ランプで254nmの紫外線を照射すると、青色の発光が得られる。
【0059】
得られた蛍光体薄膜についてRh管球を用いた蛍光X線測定及び誘導結合プラズマ発光分析を行うと、(Mgx,Srz,Bap,Euw)Si酸化物において、x=0.70、z=0.14、p=0.14、w=0.02である。
【実施例4】
【0060】
本実施例は、Mg,Ca,Sr,Eu,Si及び酸素を構成元素とした蛍光薄膜を単結晶基板あるいは、セラミックス基板上に、形成する例である。
【0061】
基板としてはサファイア単結晶基板51を用いる。
【0062】
まず、厚さ500nm程度のSiO2薄膜を隣接膜52として形成する。成膜には、SiO2ターゲットを用いたマグネトロンスパッタ法を用いた。基板温度は200℃以下、アルゴンガスを流して0.5Paの圧力、成膜速度6nm/minである。
【0063】
次に、Mg,Ca,Sr,Eu,Si及び酸素を構成元素とした薄膜53を成膜する。成膜には、カソードを3台備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。各々5%程度のEu2O3のMgSiO3、CaSiO3、SrSiO3のターゲットを用い、RF投入パワーを各々180W、200W、200Wとし、基板温度100℃、アルゴンと酸素の混合ガスを流して約1Paの圧力、成膜速度3nm/minで成膜することにより、厚さ500nm程度の薄膜を形成する(図5(a))。
【0064】
さらに、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、3%のH2含んだHe雰囲気下、約1000℃で熱処理する(図5(b))。
【0065】
アニール済みの成膜基板に紫外線を照射すると、色純度の良好な青色の発光が得られる。得られた蛍光薄膜54についてRh管球を用いた蛍光X線測定及び誘導結合プラズマ発光分析を行うと、(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物において、x=0.45、y=0.3、z=0.2、w=0.05である。
【0066】
本実施例の手法により、SrTiO3単結晶基板、あるいはBaTiO3セラミック焼成基板などに蛍光体の作成が可能となる。これにより、蛍光体の応用分野が拡大する。
【実施例5】
【0067】
本実施例は、Mg,Ca,Sr,Eu,Si,Ge及び酸素を構成元素とした蛍光薄膜の作製する例である。
【0068】
基板としてはサファイア単結晶基板を用いる。
【0069】
まず、厚さ500nm程度のGeO2薄膜を隣接膜52として形成する。成膜には、GeO2ターゲットを用いたマグネトロンスパッタ法を用いた。基板温度は100℃、アルゴンガスを流して0.5Paの圧力、成膜速度5nm/minである。
【0070】
次に、Mg,Ca,Sr,Eu,Si及び酸素を構成元素とした薄膜53を成膜する。成膜には、カソードを3台備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。各々5%程度のEu2O3のMgSiO3、CaSiO3、SrSiO3のターゲットを用い、RF投入パワーを各々180W、180W、200Wとし、基板温度100℃、アルゴンと酸素の混合ガスを流して約1Paの圧力、成膜速度3nm/minで成膜することにより、厚さ500nm程度の薄膜を形成する(図5(a))。
【0071】
さらに、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、3%のH2含んだHe雰囲気下、約850℃で熱処理する(図5(b))。
【0072】
次に、成膜した基板を真空アニール装置を用いて、2%のH2含んだHe雰囲気下、約850℃で熱処理する(図5(b))。
【0073】
アニール済みの成膜基板に紫外線を照射すると、色純度の良好な青色の発光が得られる。得られた蛍光体薄膜についてRh管球を用いた蛍光X線測定及び誘導結合プラズマ発光分析を行うと、(Mgx,Cay,Srz,Euw)(Si1-aGea)酸化物において、x=0.5、y=0.25、z=0.2、w=0.05、a=0.3である。
【実施例6】
【0074】
本実施例においては、本発明の蛍光体を適用したEL素子の例である。
【0075】
本実施例のEL素子は、図12に示すように、誘電体基板203上に隣接膜52、結晶性蛍光薄膜54、上部絶縁層202、透明電極201を積層する構成である。誘電体基板203の裏面に配される下部電極204と透明電極201の間に交流電源200を用いて交流電圧を印加することで、発光を得ることができる。
【0076】
本実施例において、EL素子の構成は、BaTiO3セラミックス焼成基板を誘電体基板203として用い、基板の厚さは0.1mmである。隣接膜52は膜厚300nmのSiO2であり、結晶性蛍光薄膜54はMg,Ca,Sr,Eu,Si,Oを構成元素とする結晶構造が擬珪灰石構造の蛍光材料で、膜厚は400nm、上部絶縁層202は膜厚100nmのAl2O3、透明電極201は膜厚400nmのITOとする。
【0077】
交流電源200を用い、1kHzの正弦波を徐々に印加すると、300Vにおいて青色発光が得られる。
【実施例7】
【0078】
本実施例においては、本発明の蛍光体を適用した表示装置の例である。
【0079】
本実施例の表示装置は、図6に示すようにガラスからなる真空容器中(不図示)において、蛍光体62と電子放出素子61を対向して配してなる。複数の電子放出素子は配列して配置されており、それぞれの電子放出素子から放出された電子ビームを加速し蛍光体に照射することで、蛍光体から光を生じせしめる。蛍光体から発せられた光を用いて画像や文字を表示することができる。
【0080】
本実施例においては、蛍光体の構成は実施例1に準じている。Mg,Ca,Sr,Eu,Si,Oを構成元素とし結晶構造が擬珪灰石構造の蛍光材料を石英基板に配した構成からなる。蛍光層の厚さは、約1100nmであり、この上にメタルバック63として厚さ80nmのアルミ膜が成膜されている。
【0081】
また、電子放出素子61はスピント型の電子放出素子であり、電子ビームの加速電圧は10kVである。
【0082】
本実施例の表示装置は、色純度の良好な青色の表示が可能であり、視認性と安定性に優れた画像を表示することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、PDP、FED、EL等の発光素子、画像表示装置、照明装置、印字装置に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の擬珪灰石(Pseudowollastonite)結晶構造を示す図である。
【図2】本発明の比較に用いる透輝石(Diopside)結晶構造を示す図である。
【図3】本発明で作製する蛍光体を示す断面図である。
【図4】本発明の蛍光体の励起及び発光スペクトルを示す図である。
【図5】本発明の蛍光体の熱処理前後の断面図を示す図である。
【図6】本発明の表示装置を示す図である。
【図7】擬珪灰石構造をa軸方向から見た図である。
【図8】透輝石構造をb軸方向から見た図である。
【図9】βアルミナ構造をa軸方向から見た図である。
【図10】本発明の発光強度の温度依存性を示す図である。
【図11】本発明の蛍光材料のMg、Ca、Srに関する材料組成範囲を表す図である。
【図12】本発明のEL素子の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
11 SiO4四面体
21 三員環形状
31 蛍光薄膜
32 空隙
33 隣接膜
34 基板
A SiO4あるいはGeO4四面体層
B 2価金属イオン層
φ A層とB層の積層結晶面と基板面のなす角度
51 基板
52 隣接膜
53 薄膜
54 結晶性蛍光薄膜
55 蛍光薄膜と隣接膜との界面
72 2価の金属イオン
73 三員環の層間距離
81 SiO4四面体の鎖間距離
91 アルミニウム
92 バリウム
93 酸素
94 スピネル層
95 Ba−O層
96 スピネル層間距離
111 材料組成範囲A
112 材料組成範囲B
200 交流電源
201 透明電極
202 上部絶縁層
203 誘電体基板
204 下部電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類から選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とし、結晶構造が擬珪灰石構造であることを特徴とする蛍光材料。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光材料において、前記蛍光材料の材料組成が(Mgx,Cay,Srz,Euw)(Si1-aGea)酸化物で表される蛍光材料。ここで、x≧0.45、0.05≦y≦0.5、0.05≦z≦0.5、0<w≦0.4、かつ0≦a≦1
【請求項3】
請求項1に記載の蛍光材料において、前記蛍光体の材料組成が(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物で表される蛍光材料。ここで、0.45≦x≦0.55、 0.15≦y≦0.4、0.05≦z≦0.35、0.01<w≦0.1
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光材料から構成される部位と、該部位に接して、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む隣接膜とを有することを特徴とする蛍光体。
【請求項5】
請求項4に記載の蛍光体において、前記蛍光材料から構成される部位と前記隣接膜との界面が0.1〜1μm周期で曲面形状を有することを特徴とする蛍光体。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光材料からなる膜及び、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む膜が、基板上に積層して配されてなることを特徴とする蛍光体。
【請求項7】
請求項6に記載の蛍光体と、該蛍光体を励起する手段とを具備することを特徴とする表示装置。
【請求項8】
Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類の中の少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とした第1の部材に隣接して、SiあるいはGeを主成分とした第2の部材を配することにより、前駆体を用意する工程と、
該前駆体を還元雰囲気中で熱処理する工程と、
を有することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体は、前記第1の部材からなる膜及び前記第2の部材からなる膜が基板上に積層された構成からなることを特徴とする請求項8に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項10】
結晶構造が擬珪灰石構造である酸化物蛍光体、及び該酸化物蛍光体の励起手段を有することを特徴とする表示装置。
【請求項1】
Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類から選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とし、結晶構造が擬珪灰石構造であることを特徴とする蛍光材料。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光材料において、前記蛍光材料の材料組成が(Mgx,Cay,Srz,Euw)(Si1-aGea)酸化物で表される蛍光材料。ここで、x≧0.45、0.05≦y≦0.5、0.05≦z≦0.5、0<w≦0.4、かつ0≦a≦1
【請求項3】
請求項1に記載の蛍光材料において、前記蛍光体の材料組成が(Mgx,Cay,Srz,Euw)Si酸化物で表される蛍光材料。ここで、0.45≦x≦0.55、 0.15≦y≦0.4、0.05≦z≦0.35、0.01<w≦0.1
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光材料から構成される部位と、該部位に接して、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む隣接膜とを有することを特徴とする蛍光体。
【請求項5】
請求項4に記載の蛍光体において、前記蛍光材料から構成される部位と前記隣接膜との界面が0.1〜1μm周期で曲面形状を有することを特徴とする蛍光体。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光材料からなる膜及び、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素を構成元素として含む膜が、基板上に積層して配されてなることを特徴とする蛍光体。
【請求項7】
請求項6に記載の蛍光体と、該蛍光体を励起する手段とを具備することを特徴とする表示装置。
【請求項8】
Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる少なくとも一つの元素、希土類の中の少なくとも一つの元素、Si,Geから選ばれる少なくとも一つの元素、及び酸素を構成元素とした第1の部材に隣接して、SiあるいはGeを主成分とした第2の部材を配することにより、前駆体を用意する工程と、
該前駆体を還元雰囲気中で熱処理する工程と、
を有することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体は、前記第1の部材からなる膜及び前記第2の部材からなる膜が基板上に積層された構成からなることを特徴とする請求項8に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項10】
結晶構造が擬珪灰石構造である酸化物蛍光体、及び該酸化物蛍光体の励起手段を有することを特徴とする表示装置。
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−100081(P2007−100081A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242807(P2006−242807)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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