説明

蛍光材料

【課題】白色性の高い優れた蛍光発光特性を有る蛍光材料の提供。
【解決手段】380〜520nmに蛍光ピークを有するポリイミド単位(1)と、560〜760nmに蛍光ピークを有するポリイミド単位(2)とを有するポリイミドを含有する蛍光材料である。単位(1)は、式(1)で表わされ、Rは脂環式構造を含む2価の有機基、Rは、例えば3,3',4,4'-ビフェニルエーテル基である。


単位(2)は、単位(1)のRの部分が、例えば3,4,9,10−ペリレン基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光材料、及びそれを用いた光デバイスに関する。本発明の蛍光材料は、優れた耐熱性を有し可視域の広い波長域にわたる蛍光発光スペクトルを示すものであり、白色又は白色性の高い発光色を示す発光デバイス用材料として使用可能である。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子や、発光型の空間光変調素子、波長変換素子等に使用される有機発光材料として、種々の低分子化合物や高分子化合物が開発されている。発光デバイス等の製造において、低分子化合物を用いる場合、製造プロセスが真空蒸着方式にほぼ制約されるのに対して、高分子化合物は、溶液状態として製膜又はインクジェットプリント方式等により製造できることから、製造コストを安くすることができるという利点を有している。また、高分子化合物は、微細加工なしに微小な塗り分けができる点、そして厚膜を容易に製膜できる等の優れた特徴を有している。そのため、高効率な蛍光発光を示し、かつ発光波長の制御が容易な高分子系の発光材料の開発が望まれている。
【0003】
高分子系発光材料としては、ポリ-p-フェニレンやポリフェニレンビニレン等のπ共役型高分子が知られている。しかし、このようなπ共役型高分子は、耐熱性や耐環境性(化学的安定性)が十分でなく、また、製膜や微細加工が容易ではないという問題があった。一方、代表的な耐熱性高分子であるポリイミドは、優れた耐熱性や電気特性を有しており、前駆体であるポリアミド酸が製膜等の加工性に優れていることから、表示用デバイス材料としての用途が期待されている。例えば、非特許文献1には、主鎖や側鎖に蛍光性のフリル基を導入した、青色の蛍光発光を示すポリイミドが開示されており、また、特許文献1及び特許文献2には、発光機能あるいは電荷輸送機能を有するポリイミドを用いた有機EL素子が開示されている。しかし、上記特許文献及び非特許文献に開示されたポリイミドの蛍光発光は、ポリイミドの主鎖又は側鎖に導入された蛍光性官能基によるものであり、また、その蛍光強度は、ポリイミド分子間の強い相互作用と、それに伴う濃度消失によって、同一の蛍光性官能基を有する低分子化合物の蛍光強度に比べると、その蛍光強度は非常に低いものである。
【0004】
また、非特許文献2等に開示されているように、ポリイミド自体が紫外線の照射により、可視光の蛍光発光を示すことは、従来から知られていた。この蛍光は、ポリイミドの分子構造中のジアミン部分(電子供与性)と酸無水物部分(電子吸引性)との間で形成される電荷移動錯体(CTC)に起因する蛍光(CT蛍光)である(例えば、非特許文献3参照。)。しかし、芳香族ポリイミドの場合には、CT相互作用が強くなり、無輻射失活過程が増加するため、その蛍光強度は弱くなる。代表的な全芳香族ポリイミドフィルムであるピロメリット酸無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから合成されるポリイミド(PMDA/ODA)においては、通常の蛍光分光計では観測が困難なほどの弱い蛍光しか観測されない。また、非特許文献4には、全芳香族ポリイミドでも、ビフェニルテトラカルボン酸無水物とパラフェニレンジアミンから合成されるポリイミド(BPDA/PDA)は相対的に強い蛍光を示すことが報告されている。しかし、既存の蛍光性化合物に比べると、その蛍光強度は非常に弱く、量子収率は1%以下であると考えられる。
【0005】
また、特許文献3には、三次元的な構造を有し、芳香環に直接フッ素が結合した芳香族酸二無水物と脂環式構造を有するジアミンとからなる構造単位を有するポリイミドを用いることで、優れた蛍光発光特性(蛍光強度の強さ、緑色から赤色領域における蛍光波長の制御性、蛍光強度の長期安定性)を有するとともに、耐熱性、化学的安定性、製膜性に優れた蛍光性ポリイミドが得られることが開示されている。また、非特許文献5には、三次元的な構造を有し、電子受容性の低い酸二無水物と脂環式構造を有するジアミンとからなる構造単位を有するポリイミドを用いることで、優れた青色蛍光発光特性を有し、耐熱性、化学的安定性、製膜性に優れた蛍光性ポリイミドが得られることが開示されている。上記特許文献3及び非特許文献5に開示された蛍光性ポリイミドは、蛍光強度が強いものであるが、基本的には単色発光性のものである。
【0006】
【非特許文献1】S. M. Pyo et al., Polymer, 40, 125-130 (1999)
【特許文献1】特開平03−274693号公報
【特許文献2】特開平04−93389号公報
【非特許文献2】E. D. Wachsman and C. W. Frank Polymer, 29, 1191-1197 (1988)
【非特許文献3】M. Hasegawa and K. Horie, Progress in Polymer Science, 26, 259-335 (2001)
【非特許文献4】M. Hasegawa et al., Journal of Polymer Science Part C: Polymer Letters, 27, 263-269(1998)
【特許文献3】特開2004−307857号公報
【非特許文献5】H. Sekino et al., 高分子学会予稿集, 53, 1543 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
照明用途やディスプレイのバックライト等には白色性が必要とされ、このような白色性は、光の3原色(青、緑、赤)に相当するそれぞれの蛍光発光を組み合わせることにより得ることができる。しかし、異なる種類の蛍光性ポリイミドは必ずしも相溶ではないため、容易に組み合わせることができず、また3層を重ねて製膜することは工程が煩雑となる。結果として、白色性の発光を得るためには、単一層のポリイミドで白色性の高い蛍光を高い量子収率で発することが期待される。
従って、本発明の目的は、白色性の高い優れた蛍光発光特性(蛍光強度の強さ、蛍光強度の長期安定性)を有するとともに、耐熱性、化学的安定性、製膜性に優れた白色蛍光材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、特定の繰り返し単位からなるポリイミドが上記目的を達成し得るという知見を得、その知見を基に鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位であって、該繰り返し単位からなるポリイミドが380〜520nmに蛍光ピークを有する繰り返し単位と、下記一般式(2)で表わされる繰り返し単位であって、該繰り返し単位からなるポリイミドが560〜760nmに蛍光ピークを有する繰り返し単位とを有するポリイミドを含有する蛍光材料を提供するものである。
【化1】

(式中、Rは、下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表わされる4価の芳香族基を示し、Rは脂環式構造を含む2価の有機基を示す。)
【化2】

(式中、Rは脂環式構造を含む2価の有機基を示し、Rは、下記一般式(5)又は下記一般式(42)で表される4価の芳香族基を示す。)
【化3】

(式中、Rはハロゲンで置換されていてもよい脂肪族基、酸素原子、1つ以上の2価元素を介した芳香族基のいずれかであるか、又はそれらの組み合わせによって構成される2価の置換基を示す。)
【化4】

(式中、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、ハロゲンで置換されていてもよい脂肪族基、酸素原子、1つ以上の2価元素を介した芳香族基のいずれかであるか、又はそれらの組み合わせによって構成される2価の置換基を示す。)
【化5】

(式中、nは1以上の整数である。)
【化6】

(式中、nは1以上の整数であり、m及びm’は同一であっても異なっていてもよく、0又は1以上の整数である。)
【0010】
本発明の蛍光材料に含有されるポリイミドを構成する繰り返し単位の好適な例としては、上記一般式(1)におけるRが、下記式(6)〜(14)からなる群から選択される芳香族基であるものが挙げられる。
【0011】
【化7】

【0012】
【化8】

【0013】
【化9】

【0014】
【化10】

【0015】
【化11】

【0016】
【化12】

【0017】
【化13】

【0018】
【化14】

【0019】
【化15】

【0020】
また、本発明の蛍光材料に含有されるポリイミドを構成する繰り返し単位としては、上記一般式(1)及び(2)におけるRが、脂環式アルキル基であるものが挙げられる。
一般式(2)におけるRとしては、トリフルオロメチル基やヘキサフルオロイソプロピリデン基等のペルフルオロアルキル基を有する有機基であってもよい。
また、本発明の蛍光材料に含有されるポリイミドを構成する繰り返し単位としては、上記一般式(1)及び(2)におけるRが、下記式(15)〜(19)からなる群から選択されるものが挙げられる。
【0021】
【化16】

【0022】
【化17】

【0023】
【化18】

【0024】
【化19】

【0025】
【化20】

【0026】
上記一般式(1)及び(2)においては、Rは、単一種類のものであってもよく、又は(15)〜(19)のうちの2種以上の構造の混合物であってもよい。
また、本発明の蛍光材料に含有されるポリイミドを構成する繰り返し単位としては、上記一般式(2)におけるRが、下記式(20)であるものが挙げられる
【0027】
【化21】

【0028】
また、本発明は、上記蛍光材料を用いて製造された有機発光デバイスを提供するものである。有機発光デバイスとしては、有機EL素子、有機レーザー及び空間光変調素子が挙げられる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、白色性の高い優れた蛍光発光特性を有し、耐熱性、製膜性に優れ、低吸水性の白色蛍光材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明の蛍光材料を詳細に説明する。
本発明の蛍光材料は、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位であって、該繰り返し単位からなるポリイミドが380〜520nmに蛍光ピークを有する繰り返し単位と、下記一般式(2)で表わされる繰り返し単位であって、該繰り返し単位からなるポリイミドが560〜760nmに蛍光ピークを有する繰り返し単位とを有するポリイミドを含有する。
【0031】
【化22】

【0032】
式(1)中、Rは、下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表わされる4価の芳香族基であり、Rは脂環式構造を含む2価の有機基である。
【0033】
【化23】

【0034】
【化24】

【0035】
式(3)中、Rは炭素−炭素の一重結合、酸素原子、スルホニル基、ハロゲンで置換されていてもよい脂肪族基、1つ以上の2価元素を介した芳香族基のいずれかであるか、又はそれらの組み合わせによって構成される2価の置換基である。
脂肪族基としては、例えばメチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサメチレン基等の長鎖アルキル基等が挙げられる。これらの脂肪族基は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンで置換されていてもよい。また、1つ以上の2価元素を介した芳香族基とは、例えば酸素原子(-O-)を介して結合した芳香族基やスルホニル基(-SO-)を介して結合した芳香族基を意味するものとし、この芳香族基はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンで置換されていてもよい。
【0036】
【化25】

【0037】
式(4)中、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、炭素−炭素の一重結合、酸素原子、スルホニル基、ハロゲンで置換されていてもよい脂肪族基、1つ以上の2価元素を介した芳香族基のいずれかであるか、又はそれらの組み合わせによって構成される2価の置換基である。
脂肪族基としては、例えばメチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサメチレン基等の長鎖アルキル基等が挙げられる。これらの脂肪族基は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンで置換されていてもよい。また、1つ以上の2価元素を介した芳香族基とは、例えば酸素原子を介して結合した芳香族基や、スルホニル基を介して結合した芳香族基を意味するものとし、この芳香族基はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンで置換されていてもよい。
【0038】
一般式(2)中、Rは、下記一般式(5)、又は下記一般式(42)で表される4価の芳香族基を示す。
【0039】
【化26】

【0040】
【化27】

【0041】
上記一般式(5)においては、nは1以上の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、例えば、下記式(20)〜(22)の中から選択され、3つ以上のナフタレン環を含む場合、その中の2個のナフタレン環をつなぐ構造は共有結合1本であってもよい。そのような場合は、Rは、上記式(42)で表わされる。式(42)で表わされる4価の置換基の具体例としては、下記式(23)、(24)で表わされる置換基が挙げられる。
【0042】
【化28】

【0043】
【化29】

【0044】
【化30】

【0045】
【化31】

【0046】
【化32】

【0047】
本発明の蛍光材料は、上記一般式(1)で表わされる繰り返し単位、及び上記一般式(2)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド共重合体を含み、一般式(1)中のRが4価の芳香族基であり、吸水性が低く、蛍光性の光学用デバイスとして用いるのに好適である。また、一般式(1)及び一般式(2)中のRに脂環式構造を有するので、ポリイミド分子内及び分子間の電荷移動相互作用が抑制される。従って、本発明の蛍光材料は高い蛍光強度を発現できる。上記一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドは紫外長波長域から可視短波長〜中波長域にかけての蛍光発光、すなわち紫〜青〜緑色の蛍光発光(蛍光ピーク波長380〜520nm、好ましくは400〜450nm)を示す。一方、上記一般式(2)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドは、赤色の鮮やかな蛍光発光(蛍光ピーク波長560〜7260nm好ましくは650〜700nm)を示す。
【0048】
これらの共重合体の発光機構を図1に示す。
これらの共重合体が白色性の高い蛍光発光を示すのは、構成成分である一般式(1)で表わされる繰り返し単位、及び一般式(2)で表わされる繰り返し単位の蛍光発光機構が独立のものとして残っているだけではなく、前者の蛍光スペクトルが後者の励起スペクトル(蛍光発光を引き起こすための光吸収能のスペクトル)と重畳しているために、前者の光照射によって獲得されたエネルギーが後者へ移動し、結果として長波長域(黄〜赤色域)での蛍光発光も惹起することに由来する(図1に示す発光機構)。すなわち、構成成分である一般式(1)で表わされる繰り返し単位を波長280〜370nmの紫外光で照射すると、一般式(1)で表わされる繰り返し単位の酸二無水物部分に存在する電子は、まず励起状態1に励起され、その励起状態からの直接的な発光緩和として波長380〜480nmの蛍光を示す。しかし、そのエネルギーのほとんどは、励起状態での分子間あるいは分子内でのエネルギー移動機構を通じて一般式(2)で表わされる繰り返し単位に移動し、この励起状態2からの発光緩和として波長500〜700nmの蛍光を示す。この励起状態2は、一般式(2)で表わされる繰り返し単位を紫外光あるいは可視短波長光で照射した場合の垂直励起状態に相当し、この励起によっても電荷分布がそれほど変化しないため局所励起状態(Locally Excited State)と呼ばれる。一方、一般式(2)で表わされる繰り返し単位は、同一分子間で相互作用し会合体の励起状態(Excited Aggregate State)を形成することが可能であり、その励起状態3のエネルギー順位は第一励起状態や第二励起状態よりも低い。分子間あるいは分子内でのエネルギー移動機構を通じて、励起状態2から励起状態3へのエネルギー移動が引き続いて惹起され、この励起状態3からの蛍光発光は波長550〜800nmに観測される。結果として、非占軌道にある電子を励起状態1のみに励起することで、励起状態1から励起状態2そして励起状態3への連続的なエネルギー移動が起こり、それぞれの励起状態からの蛍光発光が合算されて観測されるため、蛍光スペクトルが可視域全体に広がって白色性の高い蛍光発光を示す。従って、一般式(1)で表わされる繰り返し単位の蛍光と一般式(2)で表わされる繰り返し単位の蛍光の成分比が、共重合体の蛍光スペクトル形状を決定する最も重要な要素であり、したがって白色度の高い蛍光発光を得るためには、2成分の構造式の組み合わせに応じてその共重合比が精密に制御される必要がある。また、白色の蛍光を高効率的で発光させるための最適の励起波長は、一般式(1)で表わされる繰り返し単位単独での励起波長にほぼ等しくなるので、白色蛍光ポリイミドの励起波長を制御するためには、一般式(1)で表わされる繰り返し単位の構造を、所望の励起波長を有するものとする必要がある。
【0049】
上記一般式(1)で表わされる繰り返し単位と、上記一般式(2)で表わされる繰り返し単位との共重合比は、好ましくは97:3〜99.99:0.01(モル比)であり、更に好ましくは99.5:0.5〜99.99:0.01(モル比)である。共重合比を上記範囲とするには、ポリイミドを合成する際に、上記一般式(1)で表わされる繰り返し単位を得るための酸二無水物、上記一般式(2)で表わされる繰り返し単位を得るための酸二無水物の使用量を調整することによって達成することができる。
【0050】
本発明の蛍光材料に含有されるポリイミドとしては、例えば、下記式(25)〜(36)で表わされる繰り返し単位のいずれかと、下記式(37)又は(38)のいずれかで表わされる繰り返し単位とを含有するポリイミドが挙げられる。
【0051】
【化33】

【0052】
【化34】

【0053】
【化35】

【0054】
【化36】

【0055】
【化37】

【0056】
【化38】

【0057】
【化39】

【0058】
【化40】

【0059】
【化41】

【0060】
【化42】

【0061】
【化43】

【0062】
【化44】

【0063】
【化45】

【0064】
【化46】

【0065】
本発明の蛍光材料に含有されるポリイミドの分子量は、その蛍光特性が発揮される範囲であれば特に限定されないが、その前駆体(ポリアミド酸あるいはポリアミド酸エステル)の分子量として対数粘度換算で0.05〜5.0(dl/g)(温度30℃の有機溶媒中、濃度0.5g/dl)の範囲であることが好ましい。
【0066】
本発明の蛍光材料に含有されるポリイミドの製造方法に特に制限はないが、例えば、前記の2種類の酸二無水物からなる混合物と前記のジアミン化合物とを重縮合して得られるポリアミド酸を、加熱閉環することによって製造することができる。加熱閉環する方法に特に制限はなく、従来公知の方法が用いられる。
【0067】
酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、3,3',4,4'ーオキシビスフタル酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2ービス(3,4ージカルボキシ)プロパン二無水物、ビス(3,4ージカルボキシ)メタン二無水物等が挙げられる。なお、これらと同じ基本骨格を有するテトラカルボン酸やその酸塩化物、エステル化物等も、本発明の蛍光材料に含有されるポリイミド共重合体を製造するための原料として用いることができる。
用いられる酸二無水物はとしては、例えば、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位を得るためには下記一般式式(39)、(40)で表わされるものが、下記一般式(2)で表わされる繰り返し単位を得るためには下記一般式式(41)で表されるものが挙げられる。
【0068】
【化47】

【0069】
【化48】

【0070】
【化49】

【0071】
上記一般式(39)及び(40)においては、R、Rは炭素−炭素の一重結合又はフッ素以外のハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素)を含んでいてもよく、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)プロパン二無水物や1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラクロロベンゼン二無水物、2,2’,5,5’,6,6’−ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’,−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0072】
ジアミン化合物としては、例えば、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビシクロヘキサン、2,2’−ビス(4−アミノシクロヘキシル)−ヘキサフルオロプロパン、ビス(3-アミノプロピルジメチルシリル)エーテル等やこれらの構造異性体が挙げられる。
【0073】
以下に、本発明の蛍光材料を用いた、フィルムの製造方法の一例を示す。
まず、極性有機溶媒中で、3,3’,4,4’,−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物の任意のモル比の混合物を4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとを重縮合し、ポリアミド酸溶液を得る。この時、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミドやN,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドのようなシリルエステル化物を混合すると、原料の会合体や生成物の不溶化(ゲル化)が起こりにくくなる。用いられる極性有機溶媒としては、例えば、N−メチル−4−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。重合溶液中の原料化合物の濃度は、好ましくは5〜40重量%であり、更に好ましくは10〜25重量%である。この反応を下記式に示す。
【0074】
【化50】

【0075】
上述のようにして得られたポリアミド酸溶液を、溶融石英板上に回転塗布し、窒素雰囲気下で、例えば70℃程度の温度と300℃程度の温度の2段階で加熱し、イミド化する。この反応を下記式に示す。加熱の例としては、例えば、70℃で1時間、300℃で1時間30分のように行ってもよい。イミド化後、空気中あるいは水中で石英板から剥離することによりポリイミドフィルムを得る。石英板からの剥離が困難な場合は、ポリアミド酸溶液をアルミ板上に回転塗布し、熱イミド化後、基板ごと10%塩酸に浸しアルミ板を溶解することにより、ポリイミドフィルムを得る。
【0076】
【化51】

【0077】
ポリアミド酸の合成方法としては、上記のように極性有機溶媒を用いて合成する方法の他、原料である酸二無水物とジアミン化合物の昇華性を利用して、真空蒸着重合法により基板上で合成する方法が挙げられる。この場合のポリイミドフィルムの合成方法としては、具体的には、酸二無水物モノマーとジアミンモノマーを、真空槽内でそれぞれの蒸着源を加熱して蒸発させ、基板上でポリアミド酸を合成し、さらにこれを不活性気体中で加熱して、脱水閉環することによりポリイミド薄膜を得ることができる。また、必要に応じてピリジン/無水酢酸などの閉環触媒と脱水剤の組み合わせによる化学処理を行ってイミド化してもよい。
【0078】
本発明の蛍光材料は、有機EL素子、有機レーザー、空間光変調素子等の有機発光デバイスの材料として用いることができる。例えば、本発明の蛍光材料のフィルムを発光層/受光層として用いて、透明基板/透明電極/電荷輸送層/発光層/受光層/電極の積層体を形成することにより有機EL素子にすることができる。
その他、通信用の光導波路や光源、光ファイバー増幅器、蛍光増白剤、塗料、インク、蛍光コレクタ、シンチレータ、植物育成用フィルム等に利用することができる。
【実施例】
【0079】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
実施例1
三角フラスコに、3,3’,4,4’,−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)0.304g(1.03mmol)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTDA)0.000405g(0.00103mmol)、及び4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(DCHM)0.217g(1.03mmol)を加え、溶液の原材料の濃度が10重量%になるようにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)4.69gを加えた。三角フラスコ中の溶液を窒素雰囲気中、室温で24時間攪拌し、ポリアミド酸のDMAc溶液を得た。得られたポリアミド酸のDMAc溶液を直径75mmの石英板上に回転塗布し、窒素雰囲気下、70℃で1時間、300℃で1時間30分、2段階で昇温して加熱イミド化を行った。加熱イミド化によって形成された層を石英板から剥離して蛍光材料であるを含むポリイミド薄膜を得た。
【0080】
得られたポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを減衰全反射(ATR)法により測定したところ、1777cm-1及び1719cm-1にイミド基のカルボニルに特有の吸収が観察され、またポリアミド酸において観測される1677cm-1、1637cm-1のアミド結合特有の吸収が消失しており、イミド化が完全に進行したことが確認できた。得られた薄膜の膜厚を触針式膜厚計で測定したところ、3.2μmであった。得られたポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長365nm、蛍光観測波長300〜800nmで測定した。結果を図2に示す。図2から明らかなように、波長350〜750nmにおいて強い蛍光が観測された。図2において縦軸は蛍光強度、横軸は波長(nm)を示している。図2に示すように、実施例1で得られた蛍光材料は、蛍光波長が可視域全体に広がっており、明るい白色の蛍光を示している。そこで、この白色発光ポリイミドの蛍光量子収率を、Y. Geng ら, J. Am. Chem. Soc., 124, 8337 (2002)に記載の方法によって測定した。
すなわち、高透明性かつ無蛍光であるポリメチルメタクリレート樹脂中にアントラセンを1×10-2 mol/l の濃度で溶解させたフィルム状試料を調製し、この蛍光強度を測定するとともに、アントラセンの蛍光量子収率を0.28として校正して、上記で得られた白色蛍光材料の蛍光量子収率を見積もったところ0.158であった。
【0081】
実施例2
三角フラスコに、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシ)プロパン二無水物(BSAA)0.370g(0.712mmol)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTDA)0.000280g(0.000712mmol)、及び4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(DCHM)0.150g(0.712mmol)を加え、溶液の原材料の濃度が10重量%になるようにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)4.69gを加えた。三角フラスコ中の溶液を窒素雰囲気中、室温で24時間攪拌し、ポリアミド酸のDMAc溶液を得た。得られたポリアミド酸のDMAc溶液を直径75mmの石英板上に回転塗布し、窒素雰囲気下、70℃で1時間、300℃で1時間30分、2段階で昇温して加熱イミド化を行った。加熱イミド化によって形成された層を石英板から剥離して蛍光材料であるを含むポリイミド薄膜を得た。
【0082】
上述のようにして得られたポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを減衰全反射(ATR)法により測定したところ、1777cm-1及び1719cm-1にイミド基のカルボニルに特有の吸収が観察され、またポリアミド酸において観測される1677cm-1、1637cm-1のアミド結合特有の吸収が消失しており、イミド化が完全に進行したことが確認できた。得られた薄膜の膜厚を触針式膜厚計で測定したところ、3.2μmであった。得られたポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長365nm、蛍光観測波長300〜800nmで測定した。結果を図2に示す。図2から明らかなように、波長350〜750nmにおいて強い蛍光が観測された。図2において縦軸は蛍光強度、横軸は波長(nm)を示している。図2に示すように、実施例2で得られた蛍光材料は、蛍光波長が可視域全体に広がっており、明るい白色の蛍光を示している。そこで、この白色発光ポリイミドの蛍光量子収率を実施例1と同様にして測定したところ、上記で得られた白色蛍光材料の蛍光量子収率を見積もったところ0.192であった。
【0083】
実施例3
三角フラスコに、3,3’,4,4’,−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)0.846g(2.87mmol)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTDA)0.00113g(0.00287mmol)、及びビス(3-アミノプロピルジメチルシリル)エーテル(APMDS)0.714g(2.87mmol)を加え、溶液の原材料の濃度が25重量%になるようにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)4.69gを加えた。三角フラスコ中の溶液を窒素雰囲気中、室温で24時間攪拌し、ポリアミド酸のDMAc溶液を得た。得られたポリアミド酸のDMAc溶液を直径75mmの石英板上に回転塗布し、窒素雰囲気下、70℃で1時間、220℃で1時間30分、2段階で昇温して加熱イミド化を行った。加熱イミド化によって形成された層を石英板から剥離して蛍光材料であるを含むポリイミド薄膜を得た。
【0084】
得られたポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを減衰全反射(ATR)法により測定したところ、1777cm-1及び1719cm-1にイミド基のカルボニルに特有の吸収が観察され、またポリアミド酸において観測される1677cm-1、1637cm-1のアミド結合特有の吸収が消失しており、イミド化が完全に進行したことが確認できた。得られた薄膜の膜厚を触針式膜厚計で測定したところ、6.5μmであった。得られたポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長365nm、蛍光観測波長300〜800nmで測定した。結果を図2に示す。図2から明らかなように、波長350〜800nmにおいて強い蛍光が観測された。図2において縦軸は蛍光強度、横軸は波長(nm)を示している。図2に示すように、実施例3で得られた蛍光材料は、蛍光波長が可視域全体に広がっており、明るい白色の蛍光を示している。そこで、この白色発光ポリイミドの蛍光量子収率を実施例1と同様にして測定したところ0.126であった。
【0085】
実施例4
三角フラスコに、3,3’,4,4’,−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)0.716g(2.44mmol)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTDA)0.000959g(0.00243mmol)、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(DCHM)0.3589g(1.706mmol)、及びビス(3-アミノプロピルジメチルシリル)エーテル(APMDS)0.182g(0.731mmol)を加え、溶液の原材料の濃度が18重量%になるようにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)5.62gを加えた。三角フラスコ中の溶液を窒素雰囲気中、室温で24時間攪拌し、ポリアミド酸のDMAc溶液を得た。得られたポリアミド酸のDMAc溶液を直径75mmの石英板上に回転塗布し、窒素雰囲気下、70℃で1時間、220℃で1時間30分、2段階で昇温して加熱イミド化を行った。加熱イミド化によって形成された層を石英板から剥離して蛍光材料であるを含むポリイミド薄膜を得た。
【0086】
得られたポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを減衰全反射(ATR)法により測定したところ、1777cm-1及び1719cm-1にイミド基のカルボニルに特有の吸収が観察され、またポリアミド酸において観測される1677cm-1、1637cm-1のアミド結合特有の吸収が消失しており、イミド化が完全に進行したことが確認できた。得られた薄膜の膜厚を触針式膜厚計で測定したところ、10.4μmであった。得られたポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長365nm、蛍光観測波長300〜800nmで測定した。結果を図2に示す。図2から明らかなように、波長350〜750nmにおいて強い蛍光が観測された。結果を図2に示した。図2において縦軸は蛍光強度、横軸は波長(nm)を示している。図2に示すように、実施例4で得られた蛍光材料は、蛍光波長が可視域全体に広がっており、明るい白色の蛍光を示している。そこで、この白色発光ポリイミドの蛍光量子収率を実施例1と同様にして測定したところ0.152であった。
【0087】
図2から明らかなように、実施例1〜4得られた蛍光材料を波長300〜365nmの紫外光を照射して励起したところ、その発光波長は、全て350〜700nmと可視域に広く存在し、しかもその発光強度は目視で容易に確認できるほど高効率であることから、白色の発光デバイス用材料として好適であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】蛍光発光機構を示した図である。
【図2】蛍光材料の蛍光強度を測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位であって、該繰り返し単位からなるポリイミドが380〜520nmに蛍光ピークを有する繰り返し単位と、下記一般式(2)で表わされる繰り返し単位であって、該繰り返し単位からなるポリイミドが560〜760nmに蛍光ピークを有する繰り返し単位とを有するポリイミドを含有する蛍光材料。
【化1】

(式中、Rは、下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表わされる4価の芳香族基を示し、Rは脂環式構造を含む2価の有機基を示す。)
【化2】

(式中、Rは脂環式構造を含む2価の有機基を示し、Rは、下記一般式(5)又は下記一般式(42)で表される4価の芳香族基を示す。)
【化3】

(式中、Rはハロゲンで置換されていてもよい脂肪族基、酸素原子、1つ以上の2価元素を介した芳香族基のいずれかであるか、又はそれらの組み合わせによって構成される2価の置換基を示す。)
【化4】

(式中、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、ハロゲンで置換されていてもよい脂肪族基、酸素原子、1つ以上の2価元素を介した芳香族基のいずれかであるか、又はそれらの組み合わせによって構成される2価の置換基を示す。)
【化5】

(式中、nは1以上の整数である。)
【化6】

(式中、nは1以上の整数であり、m及びm’は同一であっても異なっていてもよく、0又は1以上の整数である。)
【請求項2】
上記一般式(1)において、Rが、下記式(6)〜(14)からなる群から選択される芳香族基である、請求項1に記載の蛍光材料。
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【請求項3】
上記一般式(1)及び(2)において、Rが、脂環式アルキル基を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光材料。
【請求項4】
上記一般式(1)及び(2)において、Rが、下記式(15)〜(19)からなる群から選択される1つ又は2つ以上の構造の混合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光材料
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【請求項5】
上記一般式(2)において、Rが、下記式(20)で表わされる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光材料。
【化21】

【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光材料を用いて製造された有機発光デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−274165(P2008−274165A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121477(P2007−121477)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】