説明

蛍光検出装置、蛍光検出方法および蛍光検出プログラム

【課題】測定対象物に含有される個々の蛍光色素に由来する蛍光を分離してSN比よく検出する。
【解決手段】蛍光検出装置1は、顕微鏡10、励起光源20、検出部30および処理部40等を備える。処理部40に含まれる第1測定データ取得手段41は、複数の検出波長帯域それぞれにおいて蛍光を検出部30により略同一の検出時間に亘って検出させて第1測定データを取得する。検出時間設定手段42は、各検出波長帯域についての第1測定データを互いに比較して、入力光強度が最も低い特定検出波長帯域における検出時間を他の検出波長帯域における検出時間より長く設定する。第2測定データ取得手段43は、設定された各検出波長帯域の検出時間に亘って蛍光を検出部30により検出させて第2測定データを取得する。解析手段44は、第2測定データに基づいて、測定対象物9に含有される各種類の蛍光色素の含有濃度を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出装置および蛍光検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出する蛍光検出技術は、最近では生化学分野において重要な技術の1つとなっており、特許文献1や非特許文献1に記載されたものが知られている。例えば、細胞の生理的活動を研究する際に、細胞に含まれる蛋白質などの機能性分子の活性を測定するために、その機能性分子を蛍光色素で標識することで機能性分子を可視化し、この機能性分子で発生する蛍光を顕微鏡像としてイメージングすることが行われている。
【0003】
また、1つの細胞からより多くの種類の機能性分子の動態を知るために、機能性分子を種類毎に蛍光波長の異なる蛍光色素で標識することにより、マルチカラーの顕微鏡像を得ることも行われる。この場合、それぞれの蛍光は、その波長の観察に適した透過帯をもつバンドパスフィルタで分光することで測定される。
【0004】
しかし、一般的に、各種の蛍光色素から発生する蛍光のスペクトルは、広い波長域に広がっているので、スペクトル間に重なり(クロストーク)が生じて、バンドパスフィルタだけでは完全に分離できないことが多い。このような状況では、それぞれの機能性分子の分布や量を正確に知ることが困難になる。そこで、特許文献1や非特許文献1に記載された蛍光検出技術は、このような問題を解決することを意図したものであって、演算によってクロストークの影響を除去して、蛍光色素の種類毎に蛍光色素の分布を示す分離画像を得ようとするものである。
【特許文献1】国際公開第2005/036143号パンフレット
【非特許文献1】Timo Zimmermann, et al., "Spectral imaging and its applicationin live cell microscopy", FEBS Letters 546 (2003) 87-92.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の蛍光検出技術では、複数種類の蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出しようとすると、特に蛍光の波長が近くスペクトル形状が似ている蛍光色素の組み合わせのときに、分離画像の画質が元の画像と比べると悪くなることがあった。このような問題は、1次元または2次元の蛍光画像を得る場合だけでなく、単に蛍光強度を得る場合にも存在する。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、複数種類の蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出する際に、個々の蛍光色素に由来する蛍光を分離してSN比よく検出することができる蛍光検出装置および蛍光検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る蛍光検出装置は、複数種類の蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出する蛍光検出装置であって、(a) 複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度を検出して当該検出結果を示すデータを出力するともに、複数の検出波長帯域それぞれにおける当該検出時間が可変である検出部と、(b) 検出部における光検出動作を制御するとともに、検出部から出力されるデータを取得して該データを処理する処理部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
更に、本発明に係る蛍光検出装置に含まれる処理部は、(1) 複数の検出波長帯域それぞれにおいて、測定対象物で発生する蛍光を検出部により略同一の検出時間に亘って検出させ、当該検出結果を示す第1測定データを取得する第1測定データ取得手段と、(2) 第1測定データ取得手段により取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データを互いに比較して、その比較結果に基づいて、複数の検出波長帯域のうち入力光強度が最も低い検出波長帯域(以下「特定検出波長帯域」という。)を選択して、複数の検出波長帯域のうち特定検出波長帯域における検出時間を他の検出波長帯域における検出時間より長く設定する検出時間設定手段と、(3) 検出時間設定手段により設定された複数の検出波長帯域それぞれの検出時間に亘って、測定対象物で発生する蛍光を検出部により検出させ、当該検出結果を示す第2測定データを取得する第2測定データ取得手段と、(4) 第2測定データ取得手段により取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データに基づいて、測定対象物に含有される複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度を解析する解析手段と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る蛍光検出装置は、検出部および処理部を備え、また、処理部が第1測定データ取得手段,検出時間設定手段,第2測定データ取得手段および解析手段を含んでいて、以下のように作用する。まず、第1測定データ取得手段により、複数の検出波長帯域それぞれにおいて、測定対象物で発生する蛍光が検出部により略同一の検出時間に亘って検出され、当該検出結果を示す第1測定データが取得される。続く検出時間設定手段により、第1測定データ取得手段により取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データが互いに比較されて、その比較結果に基づいて、複数の検出波長帯域のうち入力光強度が最も低い検出波長帯域(特定検出波長帯域)が選択されて、複数の検出波長帯域のうち特定検出波長帯域における検出時間が他の検出波長帯域における検出時間より長く設定される。そして、第2測定データ取得手段により、検出時間設定手段により設定された複数の検出波長帯域それぞれの検出時間に亘って、測定対象物で発生する蛍光が検出部により検出されて、当該検出結果を示す第2測定データが取得される。さらに、解析手段により、第2測定データ取得手段により取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データに基づいて、測定対象物に含有される複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度が解析される。
【0010】
このように、本発明では、特定検出波長帯域における検出時間が他の検出波長帯域における検出時間より長く設定され、第2測定データ取得手段により、測定対象物で発生する蛍光が検出部により検出されて、当該検出結果を示す第2測定データが取得され、そして、解析手段により、この取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データに基づいて、測定対象物に含有される複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度が解析される。これにより、複数種類の蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出する際に、個々の蛍光色素に由来する蛍光を分離してSN比よく検出することができる。
【0011】
また、本発明に係る蛍光検出方法は、複数種類の蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出する蛍光検出方法であって、(1) 複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度を検出して当該検出結果を示すデータを出力するともに複数の検出波長帯域それぞれにおける当該検出時間が可変である検出部を用いて、複数の検出波長帯域それぞれにおいて、測定対象物で発生する蛍光を略同一の検出時間に亘って検出し、当該検出結果を示す第1測定データを取得する第1測定データ取得ステップと、(2) 第1測定データ取得ステップにおいて取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データを互いに比較して、その比較結果に基づいて、複数の検出波長帯域のうち入力光強度が最も低い検出波長帯域(特定検出波長帯域)を選択して、複数の検出波長帯域のうち特定検出波長帯域における検出時間を他の検出波長帯域における検出時間より長く設定する検出時間設定ステップと、(3) 検出時間設定ステップにおいて設定された複数の検出波長帯域それぞれの検出時間に亘って、測定対象物で発生する蛍光を検出部により検出し、当該検出結果を示す第2測定データを取得する第2測定データ取得ステップと、(4) 第2測定データ取得ステップにおいて取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データに基づいて、測定対象物に含有される複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度を解析する解析ステップと、を備えることを特徴とする。この本発明に係る蛍光検出方法は、上記の本発明に係る蛍光検出装置と同じ技術的思想に基づくものである。
【0012】
本発明に係る蛍光検出装置では、検出時間設定手段が、第1測定データ取得手段により取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データの比に対して逆比例関係となるように、複数の検出波長帯域それぞれにおける検出時間の比を設定するのが好適である。また、本発明に係る蛍光検出方法では、検出時間設定ステップにおいて、第1測定データ取得ステップにおいて取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データの比に対して逆比例関係となるように、複数の検出波長帯域それぞれにおける検出時間の比を設定するのが好適である。
【0013】
本発明に係る蛍光検出装置では、解析手段が、複数種類の蛍光色素のうちの個々の種類の蛍光色素を単独で含む基準試料それぞれで発生した蛍光を複数の検出波長帯域それぞれにおいて検出部により検出して得られた基準データと、第2測定データ取得手段により取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データとに基づいて、測定対象物に含有される複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度を解析するのが好適である。また、本発明に係る蛍光検出方法では、解析ステップにおいて、複数種類の蛍光色素のうちの個々の種類の蛍光色素を単独で含む基準試料それぞれで発生した蛍光を複数の検出波長帯域それぞれにおいて検出部により検出して得られた基準データと、第2測定データ取得ステップにおいて取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データとに基づいて、測定対象物に含有される複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度を解析するのが好適である。
【0014】
本発明に係る蛍光検出装置では、検出部は、複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度に対する出力データのゲインが可変であり、処理部は、第2測定データ取得手段により測定対象物で発生する蛍光を検出部により検出させる際に、検出時間設定手段による比較結果に基づいて複数の検出波長帯域のうち何れかの検出波長帯域において検出部のゲインを調整するのが好適である。また、本発明に係る蛍光検出方法では、検出部は、複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度に対する出力データのゲインが可変であり、第2測定データ取得ステップにおいて、検出時間設定ステップにおける比較結果に基づいて複数の検出波長帯域のうち何れかの検出波長帯域において検出部のゲインを調整して、測定対象物で発生する蛍光を検出部により検出するのが好適である。特に、複数の検出波長帯域のうち入力光強度が高いものほどゲインを小さくするのが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る蛍光検出装置または蛍光検出方法では、検出部は、複数の検出波長帯域のうちの個々の検出波長帯域に対応する検出素子を含むのが好適である。
【0016】
本発明に係る蛍光検出プログラムは、複数種類の蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出する処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、(1) 複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度を検出して当該検出結果を示すデータを出力するともに複数の検出波長帯域それぞれにおける当該検出時間が可変である検出部を用いて、複数の検出波長帯域それぞれにおいて、測定対象物で発生する蛍光を略同一の検出時間に亘って検出し、当該検出結果を示す第1測定データを取得する第1測定データ取得ステップと、(2) 第1測定データ取得ステップにおいて取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データを互いに比較して、その比較結果に基づいて、複数の検出波長帯域のうち入力光強度が最も低い検出波長帯域(特定検出波長帯域)を選択して、複数の検出波長帯域のうち特定検出波長帯域における検出時間を他の検出波長帯域における検出時間より長く設定する検出時間設定ステップと、(3) 検出時間設定ステップにおいて設定された複数の検出波長帯域それぞれの検出時間に亘って、測定対象物で発生する蛍光を検出部により検出し、当該検出結果を示す第2測定データを取得する第2測定データ取得ステップと、(4) 第2測定データ取得ステップにおいて取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データに基づいて、測定対象物に含有される複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度を解析する解析ステップと、をコンピュータに実行させるためのプログラムである。すなわち、本発明に係る蛍光検出プログラムは、上記の本発明に係る蛍光検出方法に含まれる各処理をコンピュータに実行させるためのプログラムである。また、本発明に係る記録媒体は、上記の本発明に係る蛍光検出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。この記録媒体は、磁気テープ、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM等、任意のものが利用可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数種類の蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出する際に、個々の蛍光色素に由来する蛍光を分離してSN比よく検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る蛍光検出装置1の構成図である。この図に示される蛍光検出装置1は、測定対象物9で発生する蛍光を検出する装置であって、顕微鏡10、励起光源20、検出部30、処理部40、表示部50、出力部60および入力部70を備える。
【0020】
測定対象物9は、複数種類の蛍光色素が含有された例えば細胞であり、顕微鏡10のステージ11に載置される。ステージ11に載置された測定対象物9は、対物レンズ12を介して観察される。また、測定対象物9は、励起光源20から出力された励起光が対物レンズ12を介して照射され、また、発生した蛍光が対物レンズ12を介して検出部30により検出される。なお、顕微鏡10はダイクロイックミラーを有している。このダイクロイックミラーは、励起光源20から到達した励起光を反射し、対物レンズ12を通して測定対象物9へ照射するとともに、対物レンズ12を通して到達した測定対象物9からの蛍光を透過させて検出部30へ導く。
【0021】
励起光源20は、測定対象物9に照射されるべき励起光を出力する。シャッタ21は、励起光源20の光出射位置の直後に配置され、測定対象物9への励起光の照射よび停止を選択的に行う。フィルタ22は、シャッタ21の後段に配置され、励起光源20から出力されシャッタ21を経た光のうち特定波長域の光を選択的に透過させて、その透過させた光を励起光として測定対象物9へ照射させる。測定対象物9に含有される蛍光色素の種類に応じて、励起光源20やフィルタ22が選択されて、測定対象部9に照射される励起光の波長が適切に設定される。
【0022】
検出部30は、複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度を検出して当該検出結果を示すデータを出力する。また、この検出部30は、複数の検出波長帯域それぞれにおける当該検出時間が可変である。検出部30は、複数の検出波長帯域それぞれにおいて、設定された検出時間に亘って、測定対象物9で発生し対物レンズ12を経て入力した蛍光を検出する。また、検出部30は、複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度に対する出力データのゲインが可変である。
【0023】
この検出部30は、2次元の蛍光画像を得ることができるイメージセンサであってもよいし、1次元の蛍光画像を得ることができるラインセンサであってもよいし、また、単に蛍光強度を得ることができるセンサであってもよい。以下では、検出部30が2次元イメージセンサである場合について説明するが、検出部30が他のものである場合についても同様である。
【0024】
このような検出部30の構成としては種々の態様が可能である。好適には、検出部30は、複数の検出波長帯域のうちの個々の検出波長帯域に対応する検出素子(例えばCCD)を含む。すなわち、検出部30は、検出すべき検出波長帯域の数と同じ個数の検出素子を含み、各検出波長帯域の光を何れかの検出素子により検出する。
【0025】
処理部40は、例えばコンピュータを含んで構成され、検出部30から出力される画像データを取得して該画像データを処理するものである。また、処理部40は、検出部30における光検出動作を制御するものであり、例えば、複数の検出波長帯域それぞれにおける検出時間やゲインを設定する。処理部40は、第1測定データ取得手段41、検出時間設定手段42、第2測定データ取得手段43、解析手段44および記憶手段45を含む。これらについては後に詳述する。
【0026】
表示部50は、処理部40により取得された画像や処理後の画像等を表示する。出力部60は、画像や処理結果の数値等を紙に印刷する。また、入力部70は、操作者が蛍光検出装置1に対して指示を与えるためのものであり、キーボードやマウス等を含む。処理部40は、入力部70により受け付けた操作者の指示に基づいて、データ取得およびデータ解析等の処理を行って、画像や処理結果等を表示部50により表示させ、或いは、画像や処理結果等を出力部60により紙に印刷させる。
【0027】
次に、本実施形態に係る蛍光検出装置1に含まれる処理部40について詳細に説明する。処理部40に含まれる第1測定データ取得手段41、検出時間設定手段42、第2測定データ取得手段43および解析手段44は、主たる構成要素としてCPUを含み、記憶手段45に格納された蛍光検出プログラムに従って処理を行い、また、処理に用いられる各種データについて記憶手段45に対して読出または書込を行う。
【0028】
第1測定データ取得手段41は、複数の検出波長帯域それぞれにおいて、測定対象物9で発生する蛍光を検出部30により略同一の検出時間に亘って検出させ、当該検出結果を示す第1測定データを取得する。検出時間設定手段42は、第1測定データ取得手段41により取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データを互いに比較して、その比較結果に基づいて、複数の検出波長帯域のうち入力光強度が最も低い検出波長帯域(特定検出波長帯域)を選択して、複数の検出波長帯域のうち特定検出波長帯域における検出時間を他の検出波長帯域における検出時間より長く設定する。
【0029】
第2測定データ取得手段43は、検出時間設定手段により設定された複数の検出波長帯域それぞれの検出時間に亘って、測定対象物9で発生する蛍光を検出部30により検出させ、当該検出結果を示す第2測定データを取得する。解析手段44は、第2測定データ取得手段43により取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データに基づいて、測定対象物9に含有される複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度を解析する。
【0030】
より好ましくは、検出時間設定手段42は、第1測定データ取得手段41により取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データの比に対して逆比例関係となるように、複数の検出波長帯域それぞれにおける検出時間の比を設定する。
【0031】
また、より好ましくは、第2測定データ取得手段43により測定対象物で発生する蛍光を検出部30により検出させる際に、検出時間設定手段42による比較結果に基づいて複数の検出波長帯域のうち何れかの検出波長帯域において検出部30のゲインを調整する。このとき、第1測定データ取得手段41により取得された複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データを互いに比較して、その比較結果に基づいて、複数の検出波長帯域のうち入力光強度が高いものほどゲインを小さくするのが好ましい。なお、このゲインを小さくするには、検出部30から出力される電気信号を電気的に増幅する増幅器の利得を小さくする他、検出部30に含まれる検出素子の前面にNDフィルタを配置することでも可能である。
【0032】
記憶手段45は、処理部40が動作するために必要な蛍光検出プログラムを格納し、第1測定データ取得手段41や第2測定データ取得手段43により取得された測定データを記憶し、また、検出時間設定手段42や解析手段44による処理の途中で用いられるデータや処理結果のデータを記憶する。記憶手段45は例えばハードディスクドライブ等を含む。
【0033】
次に、本実施形態に係る蛍光検出装置1に含まれる処理部40について更に詳細に説明するとともに、本実施形態に係る蛍光検出方法についても説明する。以下に説明する処理部40における処理動作または蛍光検出方法は、図1中に示される記録媒体80に記録されたコンピュータ読み取り可能な蛍光検出プログラムにより実行される。この蛍光検出プログラムは、記録媒体80により供給されるだけでなく、インターネット通信により供給されることも可能である。また、この蛍光検出プログラムは処理部40の記憶手段45により格納され、この記憶手段45により格納された蛍光検出プログラムが動作時に読み出されて実行される。
【0034】
図2は、本実施形態に係る蛍光検出方法のフローチャートである。本実施形態に係る蛍光検出方法は、第1測定データ取得ステップS11、検出時間設定ステップS12、第2測定データ取得ステップS13、基準データ取得ステップS14および解析ステップS15を備える。以下では、測定対象物9に含有される蛍光色素が3種類であって、その測定対象物9で発生した蛍光の画像を3つの検出波長帯域(赤(R),緑(G),青(B))において検出部30により取得して処理部40により処理するものとする。
【0035】
第1測定データ取得ステップS11では、第1測定データ取得手段41により、3つの検出波長帯域それぞれにおいて、測定対象物9で発生する蛍光が検出部30により略同一の検出時間に亘って検出され、当該検出結果を示す第1測定データが取得される。このとき、3種類の蛍光色素の特性に合わせ、顕微鏡10に導入される励起光の波長、顕微鏡10に含まれるダイクロイックミラーの反射および透過の特性、ならびに、取得すべき蛍光の波長が設定される。また、検出時間は、3つの検出波長帯域それぞれで輝度が検出部30の限度を越えない範囲で設定され、操作者による蛍光像の観察により任意に設定され得る。
【0036】
検出時間設定ステップS12では、検出時間設定手段42により、第1測定データ取得ステップS11において取得された3つの検出波長帯域それぞれについての第1測定データが互いに比較されて、その比較結果に基づいて、3つの検出波長帯域のうち入力光強度が最も低い検出波長帯域(特定検出波長帯域)が選択され、3つの検出波長帯域のうち特定検出波長帯域における検出時間が他の検出波長帯域における検出時間より長く設定される。より好ましくは、第1測定データ取得ステップS11において取得された3つの検出波長帯域それぞれについての第1測定データの比に対して逆比例関係となるように、3つの検出波長帯域それぞれにおける検出時間の比が設定される。
【0037】
第1測定データが2次元の画像データである場合、検出時間設定ステップS12における具体的な処理の一例は以下のとおりである。すなわち、第1測定データである2次元画像において、蛍光の発生が認められる領域に任意の数の輝度測定領域が設定され、各輝度測定領域で3つの検出波長帯域それぞれの輝度平均値が求められる。輝度測定領域の設定は、操作者が画像を見ながら行うことができるようにしてもよいし、また、任意に選ばれた1つの検出波長帯域の画像において輝度測定領域とする範囲が輝度の最小値および最大値の設定に基づいて指定されてもよい。
【0038】
この輝度平均値が求められる際に、ダークノイズによる輝度分が減算により補正されて輝度平均値が求められる。減算されるべきダークノイズ分の輝度は、励起光が照射されない状態で取得された画像など、ダークノイズとみなされる画像から測定され得る。あるいは、第1測定データの画像内で、蛍光が分布しない背景部の輝度として、そのような領域から測定されてもよい。
【0039】
また、測定された各輝度測定領域の輝度平均値の中での最大値が、3つの検出波長帯域それぞれで求められる。赤(R)の検出波長帯域での最大値をImax-Rとし、緑(G)の検出波長帯域での最大値をImax-Gとし、青(B)の検出波長帯域での最大値をImax-Bとする。さらに、Imax-R,Imax-GおよびImax-Bの中での最大値Imax-RGBが求められる。そして、R,G,Bの各検出波長帯域における検出時間の比(E:E:E)が下記(1)式によって求められる。例えば、Imax-Rが250であり、Imax-Gが2500であり、Imax-Bが500であるとすると、R,G,Bの各検出波長帯域における検出時間の比(E:E:E)は100:10:50 となる。
【0040】
【数1】

【0041】
この例のように得られる蛍光の多くが緑(G)の検出波長帯域に集中した場合、従来の蛍光検出方法では、蛍光画像を取得する際の検出時間は、緑(G)の検出波長帯域の蛍光を検出する検出素子(例えばCCD)が飽和した時点でそれ以上長くすることができなくなる。これに対して、本実施形態のように3つの検出波長帯域それぞれの検出時間の比が設定されることで、同様の輝度を得るまでに検出時間を10倍長くすることができる。この効果により、蛍光画像のSN比が向上され、分離画像の画質を改善することができる。
【0042】
続く第2測定データ取得ステップS13では、第2測定データ取得手段43により、以上のようにして検出時間設定ステップS12において設定された3つの検出波長帯域それぞれの検出時間に亘って、測定対象物9で発生する蛍光が検出部30により検出され、当該検出結果を示す第2測定データが取得される。このとき、3つの検出波長帯域それぞれの検出時間が上記比率に保たれるとともに、輝度が検出部30の検出限界を越えない範囲で設定され、操作者による蛍光像の観察により任意に設定され得る。
【0043】
基準データ取得ステップS14では、3種類の蛍光色素のうちの個々の種類の蛍光色素を単独で含む3つの基準試料が用意され、各基準試料が順次にステージ9に載置されて、各基準試料で発生した蛍光が3つの検出波長帯域それぞれにおいて検出部30により検出されて基準データが取得される。なお、この際に、ダークノイズについての補正が行われる。基準データとして、下記(2)式で表される3行3列の行列Jが作成される。この行列Jの第m行第n列の要素Jm,nは、3種類の蛍光色素のうちの第nの蛍光色素を単独で含む基準試料で発生した蛍光であって、3つの検出波長帯域のうちの第mの検出波長帯域において検出部30により検出された蛍光の強度を表す。ここで、m,nは、1以上3以下の整数である。なお、基準データ取得ステップS14で、3つの検出波長帯域それぞれにおける検出部30による検出は、検出時間設定ステップS12において設定される検出時間に亘って行われるのも好ましい。
【0044】
【数2】

【0045】
そして、解析ステップS15では、解析手段44により、第2測定データ取得ステップS13において取得された3つの検出波長帯域それぞれについての第2測定データに基づいて、測定対象物9に含有される3種類の蛍光色素それぞれの含有濃度が解析される。この解析に際しては、3種類の蛍光色素それぞれで発生する蛍光スペクトルのうち何れか2つの蛍光スペクトルが互いに重なっている場合には、一般にアンミキシングと呼ばれる画像演算が行われる。以下では、本実施形態におけるアンミキシング演算について説明する。
【0046】
アンミキシング演算では、第2測定データ取得手段43で取得された3つの検出波長帯域それぞれについての第2測定データからダークノイズ成分が除去されたデータに加えて、基準データ取得ステップS14で取得された基準データの行列J(上記(2)式)が用いられて、各画素について以下のような演算が行われる。第2測定データ取得手段43で取得された赤(R)の検出波長帯域についての第2測定データからダークノイズ成分が除去された画素データをOと表し、第2測定データ取得手段43で取得された緑(G)の検出波長帯域についての第2測定データからダークノイズ成分が除去された画素データをOと表し、第2測定データ取得手段43で取得された青(B)の検出波長帯域についての第2測定データからダークノイズ成分が除去された画素データをOと表す。
【0047】
また、上記(2)式の基準データの行列Jの各要素Jm,nのうち、要素J1,1,J1,2,J1,3が赤(R)の検出波長帯域についてのデータであり、要素J2,1,J2,2,J2,3が緑(G)の検出波長帯域についてのデータであり、要素J3,1,J3,2,J3,3が青(B)の検出波長帯域についてのデータであるとする。当該画素における3種類の蛍光色素それぞれの含有濃度をc〜cと表すと、これらは下記(3)式で表される。(3)式による演算が画素毎に行われることで、第2測定データ取得ステップS13において取得された3つの検出波長帯域それぞれについての第2測定データに基づいて、測定対象物9に含有される3種類の蛍光色素それぞれの含有濃度分布を表す分離画像が個々に得られる。
【0048】
【数3】

【0049】
ところで、基準データJの各要素が各検出波長帯域での各蛍光色素の強度分布の比率を保って得られていれば、上記のアンミキシング演算により分離画像が作成され得る。ただし、この場合、アンミキシング演算によって求められた分離画像の各画素の“濃度”は、もともと試料が持っていた蛍光色素の量に対してリニアな関係にはあるが、相対的な値として求められている。
【0050】
絶対的な濃度を求めたい場合には、まず、基準データを得るための基準試料における蛍光色素の濃度が既知であることが必要である。さらに、基準データを得るための画像と第2測定データによる元画像の輝度とを対比できるように、基準試料および測定対象部9それぞれの厚さ(光路長)が互いに同じであり、且つ、これらの画像が検出時間や検出部30のゲイン等に関して互いに同じ条件で得られていることが必要である。
【0051】
このような測定は、基準データを得るための基準試料として既知濃度の蛍光色素の溶液を使用し、画像を常に同じ厚さの断層像が得られるコンフォーカル顕微鏡で取得することで行なうことができる。また、基準データ取得ステップS14および解析ステップS15それぞれでは、以下のような処理が行われる。
【0052】
基準データ取得ステップS14では、使用された蛍光色素ごとに基準データが測定される。このとき、濃度が既知である蛍光色素の溶液が基準試料として用いられ、この基準試料からの蛍光画像が蛍光色素毎に取得される。各検出波長帯域での検出時間は、検出時間設定ステップS12で設定された比とされる。この検出時間で輝度が検出部30の検出限界を越えないように、基準試料における蛍光色素濃度が調整される。そして、取得された画像に輝度測定領域が設定されて、ダークノイズ分が補正された輝度測定領域のR,G,Bごとの平均輝度が測定されることで、各蛍光色素の基準データが測定される。
【0053】
解析ステップS15におけるアンミキシング演算では、各画素に存在する各蛍光色素の量が、上記(3)式により、基準データの輝度を単位濃度とした濃度cとして求められ、この値をもとに分離画像が作成される。さらに、下記(4)式により、各画素の各蛍光色素の濃度cが、絶対的な濃度Cに変換される。Cは、分離画像の絶対的な濃度であり、cは、基準データの輝度を単位濃度としたときの分離画像の濃度であり、c'は、基準データを得るための基準試料における蛍光色素濃度である。
【0054】
【数4】

【0055】
次に、本実施形態に係る蛍光検出装置1および蛍光検出方法の実施例について説明する。実施例において測定された測定対象物9は、3種類の蛍光色素CFP(Cyan FluorescentProtein),GFP(GreenFluorescent Protein),YFP(Yellow Fluorescent Protein)の何れかを単独で含むHeLa細胞(ヒト由来の細胞)が混合されて培養されたものであった。
【0056】
検出部30として用いられたものは、浜松ホトニクス社製の3個のCCDを有するカラーカメラC7780-20であった。このカメラは、3個のCCDにより赤(R),緑(G),青(B)の3つの検出波長帯域の画像を同時に取得することができ、また、各CCDについて個別に検出時間が設定され得る。
【0057】
各蛍光色素の特性に合わせて、励起光源20から顕微鏡10に導入される励起光の波長は440±10nmとされ、顕微鏡10に含まれるダイクロイックミラーの反射・透過の境界の波長は455nmとされて、検出部30の前面に配置したフィルタにより波長460nm以上の蛍光像が取得された。図3は、各蛍光色素の蛍光スペクトルおよびカメラの各CCDの検出波長帯域を示す図である。解析ステップS15におけるアンミキシング演算に際しては、浜松ホトニクス社製の画像処理装置AQUACOSMOSが用いられた。
【0058】
第1測定データ取得ステップS11において、この測定対象物9で発生する蛍光が検出部30により3つの検出波長帯域それぞれで略同一の検出時間(40m秒)に亘って検出されて、第1測定データとしての蛍光画像が得られた。図4は、第1測定データ取得ステップS11において第1測定データとして得られた蛍光画像および分離画像を示す図である。同図(a)は、第1測定データとして得られた3つの検出波長帯域の画像が重ねられたものである。同図(b)〜(d)は、同図(a)の画像に基づいてアンミキシング演算が行われて分離された各蛍光色素の分離画像である。同図(b)はCFPの分離画像であり、同図(c)はGFPの分離画像であり、また、同図(d)はYFPの分離画像である。
【0059】
同図(a)に示されるように、3種類の蛍光色素CFP,GFPおよびYFPが含有された測定対象物9で発生する蛍光は、緑(G)の検出波長帯域で高強度となった。したがって、検出部30により3つの検出波長帯域それぞれで略同一の検出時間に亘って検出する場合、緑(G)の検出波長帯域の検出素子(CCD)が飽和した時点でそれ以上長くすることができなくなる。
【0060】
続く検出時間設定ステップS12において、第1測定データ取得ステップS11で得られた蛍光画像中に4つの輝度測定領域が設定され、各輝度測定領域で3つの検出波長帯域それぞれの輝度平均値が求められ、さらに、測定された各輝度測定領域の輝度平均値の中での最大値が3つの検出波長帯域それぞれで求められた。その結果、赤(R)の検出波長帯域での最大値Imax-Rは129.4であり、緑(G)の検出波長帯域での最大値Imax-Gは2606.3であり、また、青(B)の検出波長帯域での最大値Imax-Bは544.9であった。また、上記(1)式で表されるR,G,Bの各検出波長帯域における検出時間の比(E:E:E)は100:5:24 であった。
【0061】
続く第2測定データ取得ステップS13において、以上のようにして検出時間設定ステップS12において設定された3つの検出波長帯域それぞれの検出時間に亘って、測定対象物9で発生する蛍光が検出部30により検出され、当該検出結果を示す第2測定データが取得された。このとき、赤(R)の検出波長帯域における検出時間は827m秒まで延長された。R,G,Bともに同じ検出時間で画像を取得するときと比べ、検出時間の比(100:5:24)で画像を取得するときには、計算上は約20倍まで検出時間を長くすることができ、実際にもその程度まで検出時間を長くすることができた。
【0062】
また、基準データ取得ステップS14においても、同じ装置が用いられて、検出時間設定ステップS12において設定された3つの検出波長帯域それぞれの検出時間の比(100:5:24)で、各基準試料で発生する蛍光が検出部30により検出されて、基準データが取得された。また、このとき、蛍光画像中に複数の輝度測定領域が設定され、ダークノイズ補正後のR,G,Bの輝度の平均値が求められて、下記の基準データが得られた。
【0063】
【数5】

【0064】
そして、続く解析ステップS15においては、第2測定データ取得ステップS13において取得された第2測定データとしての画像データ、基準データ取得ステップS14において取得された基準データとに基づいて、アンミキシング演算が行われた。図5は、第2測定データ取得ステップS13において第2測定データとして得られた蛍光画像および分離画像を示す図である。同図(a)は、第2測定データとして得られた3つの検出波長帯域の画像が重ねられたものである。同図(b)〜(d)は、解析ステップS15において同図(a)の画像に基づいてアンミキシング演算が行われて分離された各蛍光色素の分離画像である。同図(b)はCFPの分離画像であり、同図(c)はGFPの分離画像であり、また、同図(d)はYFPの分離画像である。
【0065】
また、比較例として、3つの検出波長帯域それぞれの検出時間の比を100:100:100 として画像データおよび基準データが取得されて、これら画像データおよび基準データに基づいてアンミキシング演算が行われた。比較例における基準データは下記のとおりである。この比較例で得られた分離画像は、図4(b)〜(d)に示されている。
【0066】
【数6】

【0067】
実施例(検出時間比100:5:24)および比較例(検出時間比100:100:100)それぞれにおいて、アンミキシング演算では、各画素に存在するそれぞれの蛍光色素の量が、基準データの輝度を単位濃度とした濃度といわれる値で求められ、この値をもとに分離画像が作成された。CFPを含む細胞,GFPを含む細胞およびYFPを含む細胞が存在する領域上で、それぞれ25画素が適当に選択され、各分離画像でその画素の濃度値が求められた。その後、下記(7)式により、その画素での各蛍光色素の濃度の比率が求められた。ここで、[CFP] はCFPの濃度値であり、[GFP] はGFPの濃度値であり、[YFP] はYFPの濃度値である。また、[XFP] は、CFP,GFPまたはYFPの濃度値であり、CXFPは、CFP,GFPまたはYFPの濃度の比率(%)である。
【0068】
【数7】

【0069】
例えば、CFPを含む細胞のみが存在する画素では、理想的には、CFPの分離画像のみにいくらかの濃度値が存在し、他の蛍光色素の分離画像の濃度は0になるので、CFPの分離画像での濃度の比率は100になる。そこで、この数値をもとにアンミキシング演算による分離の精度を評価した。図6は、比較例における各蛍光色素の分離画像での濃度比率の平均および標準偏差を示すグラフである。図7は、実施例における各蛍光色素の分離画像での濃度比率の平均および標準偏差を示すグラフである。
【0070】
比較例では、CFPの分離画像でのCFPの濃度の比率については、平均が100.1であり、標準偏差が6.4であった。GFPの分離画像でのGFPの濃度の比率については、平均が103.1であり、標準偏差が12.5であった。また、YFPの分離画像でのYFPの濃度の比率については、平均が105.5であり、標準偏差が46.5であった。
【0071】
実施例では、CFPの分離画像でのCFPの濃度の比率については、平均が98.2であり、標準偏差2.3であった。GFPの分離画像でのGFPの濃度の比率については、平均が101.8であり、標準偏差が5.0であった。また、YFPの分離画像でのYFPの濃度の比率については、平均が99.5であり、標準偏差が5.6であった。
【0072】
実施例および比較例の何れの場合でも、各蛍光色素の分離画像での濃度比率の平均は略100であった。しかし、画素間の濃度ばらつきの程度を示す標準偏差は、比較例と比べて実施例の方が有意に小さくなっていた。この結果は、比較例と比べて実施例の場合に、アンミキシング演算により得られた分離画像において画素間の輝度ばらつきが小さく、画質が改善された画像になっていることを示す。この効果は、比較例の場合のアンミキシング演算後の分離画像(図4(b)〜(d))と、実施例の場合のアンミキシング演算後の分離画像(図5(b)〜(d))とを対比して、比較例と比べて実施例の場合に細胞内の核の構造が鮮明に観察できることからも明らかである。
【0073】
実施例と比較例との対比について更に説明すると以下のとおりである。上記のCFP,GFPおよびYFPの組み合わせの如く、3種類の蛍光色素それそれの蛍光波長が互いに近く蛍光スペクトルが互いに似ているような場合、比較例のアンミキシング演算により得られる分離画像(図4(b)〜(d))は、元の蛍光画像(図4(a))と比較すると、ざらついたようになり、画質が悪い。その理由として以下のようなことが考えられる。
【0074】
画像として得られる蛍光色素の輝度は、ある程度のゆらぎをもって存在している。仮に蛍光色素が均一に存在している測定対象物の蛍光画像を取得したとしても、通常、各画素での輝度にはばらつきがみられる。それ故、元の蛍光画像の各検出波長帯域の画像では、たまたま選ばれた測定対象物で測定された基準値とぴったりと一致した輝度分布を示す画素は少ない。アンミキシング演算は、元画像に対して画素ごとに行われる。元画像の各画素でみられる基準値との輝度のずれは、演算結果となる分離画像の各画素の輝度にもずれを与え、その各画素の輝度を実際の蛍光像よりも高い方向あるいは低い方向にシフトさせる。この結果、分離画像の輝度の分布にばらつきが生じ画質を劣化させている。この影響は、使われる蛍光色素間の蛍光スペクトルの形が近いほど(すなわち、基準値が近いほど)、大きくなると考えられる。
【0075】
画像のSN比を上げることにより、元画像の画素間の輝度のゆらぎは小さくなる。画像のSN比を上げるための方法の1つは、検出部として使われるカメラの露光時間を長くして画像を取得することである。しかし、使われる蛍光色素間のスペクトルが近いときには、それぞれの画像を取得する検出波長帯域にこれらの蛍光が互いに重なって入ることになる。この場合、これらの検出波長帯域の蛍光の強度が集中的に大きくなり、短い露光時間でカメラが取得できる光量を超えてしまう状況になる。飽和した輝度を持つ画素では正しい演算が行えないので、全検出波長帯域で、等しい露光時間で画像が取得される従来技術の場合、露光時間を長くすることで画像のSN比を上げることが難しい。また、画像演算の1つであるマスク演算で、近接する画素の輝度を使った計算により画像のSN比を上げることもできるが、この手法では空間的な解像度を落としてしまうという問題がある。
【0076】
これに対して、本実施形態では、第1測定データ取得ステップS11において、3つの検出波長帯域それぞれにおいて蛍光が検出部30により略同一の検出時間に亘って検出されて当該検出結果を示す第1測定データが取得され、検出時間設定ステップS12において、取得された3つの検出波長帯域それぞれについての第1測定データが互いに比較されて、入力光強度が最も低い検出波長帯域(特定検出波長帯域)における検出時間が他の検出波長帯域における検出時間より長く設定され、そして、第2測定データ取得ステップS13において蛍光が検出部30により検出されることにより、実施例の如く処理を行って得られる分離画像(図5(b)〜(d))は、元の蛍光画像(図5(a))と比較して、画質の劣化が抑制されている。
【0077】
以上に説明した本実施形態の説明では、検出部30は、検出すべき検出波長帯域の数と同じ個数の検出素子を含み、各検出波長帯域の光を何れかの検出素子により検出するものとした。しかし、検出部30は、他の構成のものであってもよい。
【0078】
例えば、検出部30は、単板のRGBカラーカメラ等のように、複数の検出波長帯域の光を1つの検出素子で検出できるものであって、検出波長帯域毎に検出時間(およびゲイン)を個別に調整できるものであってもよい。
【0079】
また、例えば、検出部30は、モノクロカメラと、このモノクロカメラに入射する光の波長帯域を切り替えることができるフィルタ切替え装置等と、を組み合わせた構成のものであってもよい。ただし、この場合、各検出波長帯域の画像を取得する際に時間差が生じる。
【0080】
また、例えば、検出部30は、測定対象物9から発生する蛍光を複数の検出波長帯域に分光する分光器と、この分光器により分光された各検出波長帯域の光を検出する複数のモノクロカメラと、を備える構成のものであってもよい。この場合には、各検出波長帯域の画像が同時に取得され得る。
【0081】
また、アンミキシング演算に際して、上記の実施形態では1つの励起波長により複数の検出波長帯域の蛍光画像を取得したが、励起波長を切り替えて1つの検出波長帯域で蛍光画像を取得してもよいし、励起波長および検出波長帯域の両方を切り替えて蛍光画像を取得してもよく、このような測定系でもこの手法を同様に使用することができる。
【0082】
また、上記の実施例では、測定対象物9に含有される蛍光色素の種類数が3であって、検出波長帯域の数が3であったが、これに限られない。蛍光色素の種類数は2であってもよいし4以上であってもよい。上記いずれの構成においても、検出部30として、蛍光色素の種類数と等しいか又はそれ以上の検出波長帯域を持つものを使用することで、アンミキシングの演算を行うことができる。
【0083】
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る蛍光検出装置および蛍光検出方法を用いれば、複数種類の蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出する際に、個々の蛍光色素に由来する蛍光を分離してSN比よく検出することができる。また、本実施形態に係る蛍光検出装置および蛍光検出方法の効果について更に説明すると以下のとおりである。
【0084】
アンミキシング演算により分離画像を得るには、測定する各検出波長帯域の帯域幅を狭くするほど、また、検出波長帯域の数を増やすほど、基準データがより細かく取得され得るので、スペクトルの波長が互いに近い蛍光色素どうしでも、その分離が容易になる。しかし、各検出波長帯域の帯域幅が狭くなると、各検出波長帯域で得られる蛍光量が減少することにより、画質のSN比が落ちる要因になる。
【0085】
これに対して、本実施形態に係る蛍光検出装置および蛍光検出方法を用いれば、少ない検出波長帯域での測定でも、質のよい分離画像を取得することができる。アンミキシング演算を行うには、設定される検出波長帯域の数は、使われた蛍光色素の種類数と等しいか、これより多いことが必要である。本実施形態によれば、取得する画像の検出波長帯域の数を必要最小限にまで減らすことができ、蛍光画像の取得に要する時間が短縮され、装置や演算の簡素化を図ることができるなど、測定の効率が向上する。
【0086】
カラーカメラを検出部30として用いた場合は、その検出波長帯域がR,G,Bであって該カメラ内の光学系で固定されている。それ故、使用する蛍光色素の蛍光スペクトルに応じて検出波長帯域を最適に設定することができず、クロストークが多い状態で測らなくてはいけない場合も多い。しかし、本実施形態によれば、カラーカメラを検出部30として用い、蛍光スペクトルの波長が互いに近い蛍光色素を使用したとしても、質のよい分離画像を得ることができる。
【0087】
このことは検出光学系を構築する上でも有用である。すなわち、一般的なカラーカメラでは検出波長帯域の数は3までではあるが、異なる検出波長帯域の画像が同時に取得され得る。また、画像間の位置ずれもない。したがって、本実施形態によれば、より性能に優れ簡便化された装置が構築され得る。
【0088】
一方、他の装置構成として、バンドパスフィルタでそれぞれの蛍光を分光し、波長を切り替えながらモノクロカメラで蛍光画像を取得するものが考えられる。このような装置構成では、測定する検出波長帯域は蛍光色素の蛍光スペクトルに合わせて設定され得るが、検出波長帯域の異なる画像が同時には得られないため、各検出波長帯域の画像の間で時間差が生じてしまう。このような装置構成では、生きている細胞試料のように、その中の分子の分布や活性が常に変化しているようなものを測定対象物とした場合には、これらの正確な測定が困難になる。蛍光を分光する装置と複数のモノクロカメラとを組み合わせることで、複数の検出波長帯域の画像を同時に得ることができる装置構成とすることができるが、各画像間の位置合わせなど測定する上での困難を伴う。
【0089】
また、検出部30としてモノクロカメラが使用されたときでも、検出光学系を構築する上で、本実施形態は有用である。従来では、使われる蛍光色素の蛍光スペクトルに合わせて、クロストークが少ない検出波長帯域を吟味し、バンドパスフィルタなどの部品を選択し調達する必要があるが、本実施形態によれば、厳密な波長の設定を行わなくとも画質のよい分離画像を作製することができるようになる。
【0090】
本実施形態に係る蛍光検出装置および蛍光検出方法は、分離画像のSN比が高められることは、生物試料を測定対象物としたアプリケーションの面からみると、蛍光色素の退色や生物試料の生理的活性への影響を考慮すると、強い励起光を照射できず蛍光の強度を稼げないようなときに有用となる。また、本実施形態では、蛍光色素で標識された分子の局在の解析も従来法に比べて容易になる。蛍光強度の変化から細胞の生理的活動を測定するような場合には、微小な変化を容易に検出できるようになる。例えば、蛍光試薬の輝度変化から細胞内の活動状態を測定するCa2+などの細胞内イオンの測定や、蛍光エネルギ移動による蛋白質分子間の相互作用の測定などに有用である。また、細胞には自家蛍光とよばれる内在性の蛍光分子が存在し、この自家蛍光のクロストークが、標識に使用された蛍光色素の測定精度を低下させる要因になることがある。本実施形態では、自家蛍光を効率的に分離することができるので、その影響を抑えることができる。
【0091】
本実施形態に係る蛍光検出装置および蛍光検出方法は、検出波長帯域によって検出時間を調整して画像のSN比を向上させることができることから、以下に説明するように、生物試料を測定対象物とした蛍光測定において特に有効である。
【0092】
蛍光試料のイメージングにおいて蛍光画像のSN比を向上させるには、測定対象物から発せられる蛍光の強度を高めることによっても可能である。そして、測定対象物から発せられる蛍光の強度を高めることは、測定対象物に照射される励起光を強くすることで可能であり、または、測定対象物における蛍光色素の濃度を増やすことでも可能である。
【0093】
一方、測定対象物が特に細胞などの生物試料である場合、細胞の運動性や形態または細胞内の分子の局在や活性は時間とともに変化しており、これらを測定するためには長時間に亘り連続的または断続的に蛍光画像をモニタする場合が多い。
【0094】
このような測定上の要求がある中で、測定対象物に照射する励起光を強くすることは、蛍光色素の不可逆的な変性による退色を促し、長期のイメージングを困難にする。また、強い励起光と色素との反応により、活性酸素などの細胞に対して毒性をもつ分子が発生することがある。このような分子は細胞内の分子と反応することでその機能を阻害するので、細胞が正常な状態を長期に維持することを困難にする。
【0095】
また、測定対象物である細胞内の蛍光色素の量を増やすことは、細胞の生理的状態を撹乱させるおそれがある。例えば、蛍光抗体など、分子の標識に使われる色素は、その分子に選択的に結合するが、多量の色素の導入はその標的分子の活性を抑制させることになる。また、最近では、GFPなどの蛍光蛋白質を対象の蛋白質に結合させた形で細胞内に発現させる実験がよく行われているが、このように人為的に特定の蛋白質を高濃度に発現させることは、この蛋白質の活性を異常なまでに促進させてしまうおそれがある。このような状況では、正常な生理的状態での細胞の反応を測定することが困難になる。
【0096】
以上のような問題を回避するためには、できるだけ測定対象物内の蛍光色素量を減らし、励起光の照射強度を弱めて、イメージングを行うことが重要である。上記の状況下であっても、本実施形態に係る蛍光検出装置および蛍光検出方法は、検出波長帯域によって検出時間を調整して画像のSN比を向上させることができることから、測定対象物内の蛍光色素量の増加や励起光照射の高強度化を抑制しつつ、SN比の高い分離画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本実施形態に係る蛍光検出装置1の構成図である。
【図2】本実施形態に係る蛍光検出方法のフローチャートである。
【図3】各蛍光色素の蛍光スペクトルおよびカメラの各CCDの検出波長帯域を示す図である。
【図4】第1測定データ取得ステップS11において第1測定データとして得られた蛍光画像および分離画像を示す図である。
【図5】第2測定データ取得ステップS13において第2測定データとして得られた蛍光画像および分離画像を示す図である。
【図6】比較例における各蛍光色素の分離画像での濃度比率の平均および標準偏差を示すグラフである。
【図7】実施例における各蛍光色素の分離画像での濃度比率の平均および標準偏差を示すグラフである。
【符号の説明】
【0098】
1…蛍光検出装置、9…測定対象物、10…顕微鏡、11…ステージ、12…対物レンズ、20…励起光源、21…シャッタ、22…フィルタ、30…検出部、40…処理部、41…第1測定データ取得手段、42…検出時間設定手段、43…第2測定データ取得手段、44…解析手段、45…記憶手段、50…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出する蛍光検出装置であって、
複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度を検出して当該検出結果を示すデータを出力するともに、前記複数の検出波長帯域それぞれにおける当該検出時間が可変である検出部と、
前記検出部における光検出動作を制御するとともに、前記検出部から出力されるデータを取得して該データを処理する処理部と、
を備え、
前記処理部が、
前記複数の検出波長帯域それぞれにおいて、前記測定対象物で発生する蛍光を前記検出部により略同一の検出時間に亘って検出させ、当該検出結果を示す第1測定データを取得する第1測定データ取得手段と、
前記第1測定データ取得手段により取得された前記複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データを互いに比較して、その比較結果に基づいて、前記複数の検出波長帯域のうち入力光強度が最も低い検出波長帯域(以下「特定検出波長帯域」という。)を選択して、前記複数の検出波長帯域のうち前記特定検出波長帯域における検出時間を他の検出波長帯域における検出時間より長く設定する検出時間設定手段と、
前記検出時間設定手段により設定された前記複数の検出波長帯域それぞれの検出時間に亘って、前記測定対象物で発生する蛍光を前記検出部により検出させ、当該検出結果を示す第2測定データを取得する第2測定データ取得手段と、
前記第2測定データ取得手段により取得された前記複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データに基づいて、前記測定対象物に含有される前記複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度を解析する解析手段と、
を含む、
ことを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項2】
前記検出時間設定手段が、前記第1測定データ取得手段により取得された前記複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データの比に対して逆比例関係となるように、前記複数の検出波長帯域それぞれにおける検出時間の比を設定する、ことを特徴とする請求項1記載の蛍光検出装置。
【請求項3】
前記解析手段が、前記複数種類の蛍光色素のうちの個々の種類の蛍光色素を単独で含む基準試料それぞれで発生した蛍光を前記複数の検出波長帯域それぞれにおいて前記検出部により検出して得られた基準データと、前記第2測定データ取得手段により取得された前記複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データとに基づいて、前記測定対象物に含有される前記複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度を解析する、ことを特徴とする請求項1記載の蛍光検出装置。
【請求項4】
前記検出部が、前記複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度に対する出力データのゲインが可変であり、
前記処理部が、第2測定データ取得手段により前記測定対象物で発生する蛍光を前記検出部により検出させる際に、前記検出時間設定手段による比較結果に基づいて前記複数の検出波長帯域のうち何れかの検出波長帯域において前記検出部のゲインを調整する、
ことを特徴とする請求項1記載の蛍光検出装置。
【請求項5】
前記検出部が、前記複数の検出波長帯域のうちの個々の検出波長帯域に対応する検出素子を含む、ことを特徴とする請求項1記載の蛍光検出装置。
【請求項6】
複数種類の蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出する蛍光検出方法であって、
複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度を検出して当該検出結果を示すデータを出力するともに前記複数の検出波長帯域それぞれにおける当該検出時間が可変である検出部を用いて、前記複数の検出波長帯域それぞれにおいて、前記測定対象物で発生する蛍光を略同一の検出時間に亘って検出し、当該検出結果を示す第1測定データを取得する第1測定データ取得ステップと、
前記第1測定データ取得ステップにおいて取得された前記複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データを互いに比較して、その比較結果に基づいて、前記複数の検出波長帯域のうち入力光強度が最も低い検出波長帯域(以下「特定検出波長帯域」という。)を選択して、前記複数の検出波長帯域のうち前記特定検出波長帯域における検出時間を他の検出波長帯域における検出時間より長く設定する検出時間設定ステップと、
前記検出時間設定ステップにおいて設定された前記複数の検出波長帯域それぞれの検出時間に亘って、前記測定対象物で発生する蛍光を前記検出部により検出し、当該検出結果を示す第2測定データを取得する第2測定データ取得ステップと、
前記第2測定データ取得ステップにおいて取得された前記複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データに基づいて、前記測定対象物に含有される前記複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度を解析する解析ステップと、
を備えることを特徴とする蛍光検出方法。
【請求項7】
前記検出時間設定ステップにおいて、前記第1測定データ取得ステップにおいて取得された前記複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データの比に対して逆比例関係となるように、前記複数の検出波長帯域それぞれにおける検出時間の比を設定する、ことを特徴とする請求項6記載の蛍光検出方法。
【請求項8】
前記解析ステップにおいて、前記複数種類の蛍光色素のうちの個々の種類の蛍光色素を単独で含む基準試料それぞれで発生した蛍光を前記複数の検出波長帯域それぞれにおいて前記検出部により検出して得られた基準データと、前記第2測定データ取得ステップにおいて取得された前記複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データとに基づいて、前記測定対象物に含有される前記複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度を解析する、ことを特徴とする請求項6記載の蛍光検出方法。
【請求項9】
前記検出部が、前記複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度に対する出力データのゲインが可変であり、
前記第2測定データ取得ステップにおいて、前記検出時間設定ステップにおける比較結果に基づいて前記複数の検出波長帯域のうち何れかの検出波長帯域において前記検出部のゲインを調整して、前記測定対象物で発生する蛍光を前記検出部により検出する、
ことを特徴とする請求項6記載の蛍光検出方法。
【請求項10】
前記検出部が、前記複数の検出波長帯域のうちの個々の検出波長帯域に対応する検出素子を含む、ことを特徴とする請求項6記載の蛍光検出方法。
【請求項11】
複数種類の蛍光色素が含有された測定対象物で発生する蛍光を検出する処理をコンピュータに実行させるための蛍光検出プログラムであって、
複数の検出波長帯域それぞれにおいて入力光強度を検出して当該検出結果を示すデータを出力するともに前記複数の検出波長帯域それぞれにおける当該検出時間が可変である検出部を用いて、前記複数の検出波長帯域それぞれにおいて、前記測定対象物で発生する蛍光を略同一の検出時間に亘って検出し、当該検出結果を示す第1測定データを取得する第1測定データ取得ステップと、
前記第1測定データ取得ステップにおいて取得された前記複数の検出波長帯域それぞれについての第1測定データを互いに比較して、その比較結果に基づいて、前記複数の検出波長帯域のうち入力光強度が最も低い検出波長帯域(以下「特定検出波長帯域」という。)を選択して、前記複数の検出波長帯域のうち前記特定検出波長帯域における検出時間を他の検出波長帯域における検出時間より長く設定する検出時間設定ステップと、
前記検出時間設定ステップにおいて設定された前記複数の検出波長帯域それぞれの検出時間に亘って、前記測定対象物で発生する蛍光を前記検出部により検出し、当該検出結果を示す第2測定データを取得する第2測定データ取得ステップと、
前記第2測定データ取得ステップにおいて取得された前記複数の検出波長帯域それぞれについての第2測定データに基づいて、前記測定対象物に含有される前記複数種類の蛍光色素それぞれの含有濃度を解析する解析ステップと、
をコンピュータに実行させるための蛍光検出プログラム。
【請求項12】
請求項11記載の蛍光検出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−128982(P2008−128982A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317570(P2006−317570)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】