説明

蛍光機能具備磁性ポリマー粒子とその製造方法

【課題】蛍光機能を具備するとともに、粒子表面の生理活性物質と結合する機能を十分に有する磁性ポリマー粒子、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】磁性ポリマー粒子を、蛍光分子を溶解した非水系溶媒に浸漬し、蛍光分子を前記溶媒と共にポリマー層の内部に吸収させ、この磁性ポリマー粒子から非水系溶媒を除去し、ポリマー層に蛍光分子を有する磁性ポリマー粒子を得る。こうして得られる蛍光機能具備磁性ポリマー粒子は、粒子の蛍光機能を標識として用い、磁場により粒子を簡便に操作できるので、この粒子を用い、生理活性物質などの検出、標識や分離の操作の効率化、簡便化ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光機能を具備した磁性ポリマー粒子およびその製造方法に関し、特に粒子の蛍光機能を標識として用い、磁気を用いて簡便に操作が可能な蛍光機能具備磁性ポリマー粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原と抗体との間の特異的吸着の性質を利用し、生理活性物質をポリマー粒子の表面に選択的に吸着させ、これらの物質の検出や分離などを行なう操作が広く用いられている。近年、このようなポリマー粒子として、磁性の付与されたものが用いられるようになった。ポリマー粒子に磁性を付与することにより、ポリマー粒子の分離操作に磁気分離が利用可能になるので、従来の遠心分離を用いた操作に比べ、分離の操作が著しく迅速かつ簡便になる。
【0003】
本発明者らは、磁性を付与したポリマー粒子として、フェライト粒子をスチレンとグリシジルメタクリレートとの共重合体ポリマーで被覆して形成した磁性ポリマー粒子をすでに開発している。この磁性ポリマー粒子には、抗原や抗体などの生理活性物質との結合に適する官能基が粒子の表面に配置されており、またポリマー粒子が磁界に応答するように、フェライトなどの磁性粒子が、ポリマー粒子によく被覆されて内蔵されている。この磁性ポリマー粒子は、例えば生理活性物質などとよく結合し、しかも磁気分離が可能であることから、生理活性物質の検出や分離の用途において、きわめて有用なポリマー粒子である(特許文献1参照)。
【0004】
他方、ポリマー粒子に蛍光色素を含有させ、この蛍光色素の蛍光機能をポリマー粒子の標識として用いることが行なわれている。特許文献2は、その一例であって、この文献には標識に用いる蛍光色素を複数種組み合わせて用いる技術が開示されている。
【0005】
磁性の付与されたポリマー粒子に対しても、蛍光機能を含有させ、蛍光標識を可能にすることが望まれるようになった。非特許文献1には、磁性ラテックス粒子と蛍光ラテックス粒子とを併用することにより、磁性と蛍光機能とを兼備させることが記載されている。しかしながら、この方法では磁性ラテックス粒子と蛍光ラテックス粒子とはそれぞれ別の粒子であって、磁性ラテックス粒子は蛍光機能を有せず、また蛍光ラテックス粒子は磁性を有しておらず、これら二種類の粒子を併用することに伴う不都合を避けることができないという問題があった。
【0006】
そこで市販されている磁性ポリマー粒子に対し、蛍光機能を付与して用いることを目的として、磁性ポリマー粒子の表面の官能基に蛍光分子を結合させる試みが一般になされている。しかしながら、この方法では粒子あたりの蛍光分子の固定化量に限界があり、十分な蛍光が得られないという問題があった。また蛍光分子を粒子の表面に固定するため、使用中に蛍光分子が粒子表面から分離してしまうことや、蛍光分子の固定に粒子表面の官能基が使用されるので、生理活性物質分子を固定するための粒子表面の官能基がそれだけ少なくなってしまうこと、そして蛍光分子の導入により粒子の表面の性質が変化し、生理活性物質分子の結合に適さなくなるという問題点があった。
【0007】
特に生理活性物質の生体分子への特異的結合を利用する操作の場合には、生理活性物質間の相互作用が粒子表面に蛍光分子が存在することによって著しく影響を受けてしまうことは大きな問題点であった。このような理由により、蛍光機能を備え、しかも生理活性物質の特異的吸着を利用する操作に適した磁性ポリマーをこれまで得ることができなかったものと考えられる。
【0008】
また特許文献3には、多孔性のポリマー粒子の表面や孔内に超常磁性体を付着させた粒子をポリマー被覆した磁性粒子であって、粒子非局在電子共役系を含まないようにして実質的に自己蛍光性を持たないようにし、蛍光ノイズを低減させ、蛍光を検出する用途での使用に適するようにした被覆磁性粒子の発明が記載されている。この被覆磁性粒子に、蛍光マーカーとなる蛍光体を付けることによって、マーカーとしての蛍光を示す被覆磁性粒子が得られ、利点を得ることができることが記載されている。しかしながら、この文献に記載された磁性粒子の場合にも、上述と同じ問題点があった。
【特許文献1】特開2006−088131号公報
【特許文献2】特表2001−520323号公報
【特許文献3】特表2006−511935号公報
【非特許文献1】微粒子工学大系 第2巻 応用編 第728頁 フジテクノシステム刊 2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、磁性ポリマー粒子に蛍光機能を保持させた場合に生じる上述の各問題点を解決し、標識として用いるのに十分な蛍光機能を具備するとともに、粒子表面の生理活性物質と結合する機能を十分に有する磁性ポリマー粒子、およびその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子は、磁性粒子と、磁性粒子を被覆するポリマー層と、ポリマー層の内部に保持された蛍光分子とを備えたことを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決するために研究を重ねた結果、このように蛍光機能具備磁性ポリマー粒子か蛍光分子がポリマー層の内部に保持されるようにすることにより、上記の課題が解決でき、磁性と蛍光機能とを有し、生理活性物質などの検出や分離の用途に適した粒子が形成できることがわかった。このような機能をより高めるには、磁性粒子を被覆するポリマー層を、その体積率にて40%以上99%以下にすることが好ましいことがわかった。十分な体積率のポリマー層の内部に蛍光体を保持させることにより、粒子表面を生理活性物質の結合に適した状態に保ったまま、粒子により高い蛍光機能を持たせることができる。
【0012】
また本発明においては、蛍光分子として希土類金属キレート錯体の蛍光分子を好ましく用いることができる。希土類金属キレート錯体の蛍光分子は、蛍光寿命を長くできるので、これを用いることにより、バックグラウンドの蛍光に埋没されない高感度の蛍光標識が実現できる。
【0013】
また本発明の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子の製造方法は、磁性粒子をポリマーで被覆された磁性ポリマー粒子に対し蛍光分子を溶解した非水系溶媒蛍光分子を接触させ、磁性ポリマー粒子のポリマー層を膨潤させることにより、非水系溶媒とともに蛍光分子をポリマー層に吸収させる蛍光分子吸収工程と、この非水系溶媒蛍光分子との接触により膨潤した磁性ポリマー粒子から、非水系溶媒を除去する非水系溶媒除去工程とを備えたことを特徴とする。
【0014】
こうした本発明の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子の製造方法によれば、蛍光分子を溶解した非水系溶媒に磁性ポリマー粒子を浸漬して磁性ポリマー粒子のポリマー層を膨潤させることによりポリマー層に非水系溶媒とともに蛍光分子を含有させることができ、次にこのポリマー層から非水系溶媒を除去し、蛍光分子を残存させることにより、蛍光分子をポリマー層の内部に含有させて蛍光機能を付与した磁性ポリマー粒子を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、蛍光機能を備えた磁性ポリマー粒子が実現でき、粒子の磁性を利用して簡便に粒子を操作することができ、しかも粒子の蛍光機能を標識として用いることができるようになった。この蛍光機能具備磁性ポリマー粒子は、蛍光分子がポリマー層に保有されるので、粒子表面には蛍光体分子を配置する必要がなく、従って粒子表面を生理活性物質との結合に適した状態に保つことができる。このため、この蛍光機能具備磁性ポリマー粒子を用いることによって、上記物質の検出、標識や分離などの各種の操作が大幅に効率化され簡便化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明することにより、本発明の内容についてさらに詳細に述べる。
【0017】
(1)粒子の構成
図1は磁性ポリマー粒子と、これに光機能を付与した蛍光機能具備磁性ポリマー粒子を模式的に示した図である。図1(a)に示した磁性ポリマー粒子102は、磁性粒子104がポリマー層106で被覆されている。この磁性ポリマー粒子102は、後述する工程によって処理され、図1の(b)に模式的に示した蛍光機能具備磁性ポリマー粒子110となる。この蛍光機能具備磁性ポリマー粒子110では、ポリマー層106内に蛍光分子108を保持している。なお、図1には1個の磁性ポリマー粒子に1個の磁性粒子が被覆されている場合を示したが、1個の磁性ポリマー粒子には、複数個の磁性粒子が被覆されて存在していてもよい。
【0018】
なお、先に述べた特許文献1に記載のポリマー被覆磁性粒子は、粒径が小さく粒子サイズがよく揃っており、磁性粒子がポリマーによく被覆されているので、本発明の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子に用いる磁性ポリマー粒子として好適なものである。
【0019】
上記蛍光機能具備磁性ポリマー110を構成する磁性粒子には、水中での微粒子生成が可能なマグネタイトなどのフェライト粒子を好ましく用いることができる。他方、フェライト以外の磁性粒子としては、例えば各種磁性金属の微粒子、あるいは各種磁性化合物を用い、これらの磁性粒子がそれぞれに有する特徴的な磁気的性質をさまざまに利用することもできる。
【0020】
上記磁性粒子104は、磁気的操作を容易にする観点から、その大きさが個数平均径で8nm以上であることが好ましく、他方、粒子の凝集を防ぐ観点から、その大きさが個数平均径で60nm以下であることが好ましい。
【0021】
また、上記磁性ポリマー粒子102の大きさについては、その個数平均径が30nm以上であり、また300nm以下であることが、磁気的操作を容易にし、しかも粒子の凝集を防ぐ観点から好ましい。
【0022】
上記蛍光機能具備磁性ポリマー粒子110のポリマー層106を構成するポリマーには、蛍光分子と親和性を有する各種のポリマーを用いることができる。例えばポリスチレンを構成成分として有するポリマーでポリマー層を形成すると、蛍光分子をよく保持することができる。
【0023】
上記蛍光機能具備磁性ポリマー粒子110が十分に蛍光分子を保持し、蛍光標識として優れたものとするためには、上記ポリマー層106の体積率を40%以上にすることが望ましい。ポリマー層の体積率が減少すると、保持される蛍光分子の量が減少する一方で磁性粒子の体積率が増すことにより、磁性粒子が蛍光の励起を妨げたり、蛍光の放射を妨げたりするようになり、蛍光標識としての機能が低下する。
【0024】
他方、ポリマー層の体積率が99%を超える場合には、粒子における磁性粒子の体積比率が小さくなり粒子の磁性が弱くなるので、磁場による粒子の操作性が低下するようになる。
【0025】
この蛍光機能具備磁性ポリマー粒子において、磁性粒子が粒子の中心に近い位置に存在し、ポリマー層はこの磁性粒子を覆うようにして磁性粒子よりも外周側に存在することが、蛍光機能を高める上からもより好ましいことがわかった。例えばポリマー粒子の中心から所定の範囲に磁性粒子が主として存在し、その周囲に蛍光分子を保持したポリマー層が主として存在する構成が蛍光機能を高める上から好ましいこと、そしてこの所定の範囲は平均的な表現で粒子の中心から粒子表面までの距離の3/4以下の範囲であることが好ましく、1/2以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0026】
このポリマー層には、蛍光分子と親和し蛍光分子を保持する性質が保たれる範囲で、このポリマーに官能基を有する他の物質が共重合した共重合体にすることができる。こうしてポリマーに官能基を有するようにし、この官能基を粒子の表面に配置させることによって、粒子の機能性を高めることができる。例えばそのようなポリマー層として、スチレンにグリシジルメタクリレート(GMA)のように、エポキシ基などの官能基を有する物質を少量加えて共重合体とすることにより、粒子はこのエポキシ基などの官能基を通じて他の物質との結合ができるので、生理活性物質をポリマー粒子に選択的に結合させることができ、これらの物質の検出や分離などの用途に適したものとなる。
【0027】
また、こうした粒子のポリマーを表面修飾し、表面に例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)のようなスペーサ分子を結合させることにより、粒子の生理活性物質に対する結合性をさらに改善することができる。スペーサ分子は、結合させる際の立体的な障害を回避するものであることから、EGDEのほか、ブチレングリコールジグリシジルエーテルあるいはポリエチレングリコール(PEG)など、両端に官能基を有しその一方の官能基で磁性ポリマー粒子と結合し他方の官能基で生理活性物質などの物質に結合することのできる各種分子を用いることができる。
【0028】
上記蛍光分子108として、希土類金属キレート錯体の蛍光分子が特に好ましいことがわかった。希土類金属キレート錯体の蛍光分子は蛍光寿命が長く、ストークスシフトが大きく、またスペクトル幅が狭いという特徴がある。このため、このような希土類金属キレート錯体を蛍光分子として用いることにより、バッククラウンドの蛍光によるノイズが回避でき、また他の従来の蛍光体を用いた場合に比べ、著しく高感度の蛍光標識を得ることができる。磁性ポリマーにこのような蛍光分子を保持させて十分に高感度の蛍光標識を得るには、すでに述べたように粒子のポリマー層の体積率を高めておくことが有効であった。
【0029】
このような蛍光を示す希土類金属キレート錯体を構成する希土類金属としては、ユーロピウムのほか、サマリウム、テルビウム、およびジスプロシウムを挙げることができる。
【0030】
また上記希土類金属キレート錯体を構成する配位子としては、例えば下記(化1)の一般式で表される陰イオン性の1,3―ジカルボキシレートが、蛍光特性の優れた分子を得ることができるので特に好ましい。
【化1】

このような1.3―ジカルボキシレートとして、例えばテノイルトリフルオロアセトン(正式名4,4,4-トリフルオル−1−(2−チエニル)−1,3−ブタンジオン)を用いることにより、蛍光標識として高い感度を示す蛍光機能具備磁性ポリマー粒子を得ることができる。このほかの上記陰イオン性配位子として、ナフトイルトリフルオロアセトン、ベンゾイルトリフルオロアセトン、メチルトリフルオロアセトン、フロイルトリフルオロアセトン、ピバロイルトリフルオロアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、フルオロアセチルアセトンを挙げることができる。また、ジベンゾイルメタン、ジテノイルメタン、およびフロイルトリフルオロアセトンを挙げることができる。
【0031】
このほかの希土類金属キレート錯体を構成する配位子として、例えばピラゾロン配位子など、窒素などのヘテロ原子を含むヘテロ環を持つ陰イオン性配位子を挙げることができる。
【0032】
(2)製造プロセス
図2は、本発明の一実施形態における蛍光機能具備磁性ポリマー粒子の製造工程の一実施形態を示した流れ図である。図2において、ポリマーによって磁性粒子が被覆された磁性ポリマー粒子を水に懸濁させた磁性ポリマー粒子懸濁液203に、工程204にて蛍光分子を溶かし込んだ非水系溶媒を添加し、磁性ポリマー粒子のポリマー層を膨潤させ、このポリマー層に蛍光分子を非水系溶媒とともに吸収させる。
【0033】
次に非水系溶媒を除去する工程206にて、この磁性ポリマー粒子の懸濁液から非水系溶媒を除去する。この非水系溶媒の除去には、例えば減圧処理、加熱処理、あるいは減圧しながら加熱する処理などの方法を用いることができる。この工程にてポリマー層に吸収された非水系溶媒が除去され、その際にポリマー層には蛍光分子が残留する。こうしてポリマー層に蛍光分子が保持された磁性ポリマー粒子が形成される。こうして蛍光機能具備磁性ポリマー粒子が懸濁した蛍光機能具備磁性ポリマー粒子懸濁液209を得る。
【0034】
図3は、上述の実施形態とは別の本発明の一実施形態における蛍光機能具備磁性ポリマー粒子の製造工程を示した流れ図である。図3において、水分の除去された磁性ポリマー粒子302に対し、蛍光分子を溶解した非水系溶媒を加える工程304にて、この磁性ポリマー粒子302のポリマー層を膨潤させ、蛍光分子を非水系溶媒とともにこのポリマー層に吸収させる。
【0035】
次に非水系溶媒を除去する工程306にて、この磁性ポリマー粒子の懸濁液から、非水系溶媒を除去する。非水系溶媒の除去の方法としては、上記の場合と同様に減圧処理、加熱処理、あるいは減圧しながら加熱する処理などの方法により非水系溶媒を気化させて除去する方法のほか、磁気分離、遠心分離、ろ過などの方法も用いることができる。こうして非水系溶媒を除去することにより、ポリマー層に存在する非水系溶媒も除去でき、ポリマー層に蛍光分子を残留させ、ポリマー層に蛍光分子が保持された蛍光機能具備磁性ポリマー粒子308を得る。また、この蛍光機能具備磁性ポリマー粒子308を水に懸濁することにより、蛍光機能具備磁性ポリマー粒子懸濁液309を得る。
【0036】
上記蛍光体を溶解する非水系溶媒として、蛍光分子を溶解するとともにポリマー層を膨潤させることのできる各種の溶媒を用いることができる。この非水系溶媒は、図2に示したような工程、すなわち、磁性ポリマー粒子が懸濁した懸濁液に添加して用いる場合には、水との親和性を有することが好ましい。そのような溶媒として、親水性の基を有する非水系溶媒が好ましく、例えばカルボニル基を有するケトン類が好ましい。またこのような非水系溶媒を蒸発によって除去し水を残留させるには、水に比べ沸点が低く蒸気圧の高いアセトンなどの溶媒が特に好ましい。このような溶媒を用いれば、水を残しながら、蒸発により容易に非水系溶媒を除去することが可能である。また図3に示したような工程、すなわち、磁性ポリマー粒子に蛍光分子を溶解した非水系溶媒を加えて用いる場合には、非水系溶媒は蛍光分子を溶解し、磁性ポリマーのポリマー層を膨潤させるものであればよい。これらの非水系溶媒として、各種エーテル類、各種アルコール類、および各種アミド類を挙げることができる。
【実施例】
【0037】
(1)磁性ポリマー粒子の調製
濃度が1MのNaOH水溶液にFeCl水溶液を添加し、NaNOにより酸化処理を行った。定温保持し、平均粒径(重量換算分布における粒径の平均値)が40nmのフェライト粒子を析出させた。このフェライト粒子150mgの懸濁液に、10−ウンデセン酸のNaOHの水溶液を添加することにより、強磁性粒子にウンデセン酸を飽和吸着させ、残った10−ウンデセン酸のNaOHの水溶液を洗浄によって除去することにより、疎水化強磁性粒子を得た。
【0038】
この疎水化強磁性粒子に、下記の[化2]の化学式を有しPEO鎖を有する非イオン性界面活性剤Emulgen 1150S−70(花王株式会社製)0.3gを溶解した水溶液を加えてソニケーションすることにより、この非イオン性界面活性剤を疎水化強磁性粒子の表面に吸着させて粒子を再親水化し水に分散させた再親水化フェライト粒子のコロイド溶液を得た。
【化2】

【0039】
次に、このコロイド溶液に、スチレン(モノマー)2.7g、GMA(グリシジルメタクリレート、モノマー)0.3g、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル、開始剤)0.025g、DVB(ジビニルベンゼン、架橋剤)0.08g、およびジエチルエーテル2.5gを有するモノマーミックスを添加し、ソニケーションを行って乳化液を得た。
【0040】
このあと、この乳化液を全量が125gになるように水を添加し、ソニケーションを行なった後、350rpmで攪拌を続けながら加熱し、20〜30分後に70℃に達したところで水溶性開始剤V−50(和光純薬工業(株)製)50mgを純水5mlに溶かした水溶液を添加し、重合反応を12時間行なった。
【0041】
こうして得られた乳化重合粒子を洗浄してフェライト粒子がポリマーで被覆された磁性ポリマー粒子が水に懸濁した懸濁液を得た。透過型電子顕微鏡を用い、得られた磁性ポリマー粒子を観察した結果、図4に示した透過型電子顕微鏡写真にもみられるように、粒子は平均粒径がおよそ200nmの単分散粒子であり、粒子内部にフェライト粒子を数個程度保有していることがわかった。この粒子は磁性を示し、磁石などにより磁界勾配を与えることによって容易に吸引できることがわかった。
【0042】
(2)磁性ポリマー粒子への蛍光分子付与
まず、上記磁性ポリマー粒子懸濁液の粒子に付着している親水性物質を除いて、溶媒による膨潤をしやすくするために、このポリマー粒子のアルコール洗浄を行なった。
【0043】
続いてアセトン0.22gに、下記(化3)に示されたテノイルトリフルオロアセトンを配位したEu錯体1.1mgを蛍光分子として添加し、溶解させた。
【化3】

【0044】
次にこの蛍光錯体を溶解したアセトン液を撹拌しながら、このアセトン液に上記磁性ポリマー粒子22mgを加えてアセトン液中にポリマー被覆フェライト粒子を懸濁させ、この状態を室温にて1時間保って、粒子の高分子層を膨潤させることにより、アセトンと共にEu錯体を粒子の高分子層に吸収させた。このアセトンと共にEu錯体を粒子の高分子層に吸収させる操作を、磁性ポリマー粒子と蛍光錯体との混合重量比を1:0.00625, 1:0.0125, 1:0.025, 1:0.05, 1:0.1, および1:0.2と、濃度を2倍ずつ変えた6通りについて行なった。
【0045】
続いて60℃での真空加熱を行なって、この懸濁液からアセトンを蒸発させて除き、残った磁性ポリマー粒子を0.1%NP40(界面活性剤ノニデットP−40、販売元ナカライテスク)の溶液で洗浄し、水で置換することにより、蛍光分子を高分子層に有する蛍光機能具備磁性ポリマー粒子を得た。
【0046】
図5はこうして得られた蛍光機能具備磁性ポリマー粒子に対する励起光の吸収スペクトルおよびこの励起によって蛍光機能具備磁性ポリマー粒子が発する蛍光の光スペクトルの一例である。この図に示されている通り、この粒子は中心波長が340nmの励起光を吸収し、中心波長が618nmの蛍光を発する。このように励起光吸収スペクトルと蛍光の光スペクトルとが十分に離れており、しかも吸収幅も狭いので、発生した蛍光は蛍光体に吸収されず、効率的な蛍光の発生が得られることがわかる。また、この蛍光はバックグラウンドの蛍光に比べ、蛍光寿命が十分に長いという特徴があり、このため検出の時間を遅らせることにより、検出の感度を著しく高めることができるという利点を有することも確認された。
【0047】
図6は、こうしてポリマー層にユーロピウムキレート錯体を含有させて蛍光機能を付与した磁性ポリマー粒子に紫外線を照射したことにより得られる蛍光の強度を、磁性ポリマー粒子と蛍光錯体との混合重量比に対してプロットしたものである。図6から、いずれの試料からも蛍光が確認され、ユーロピウム錯体の混合重量比が増すとともに蛍光の輝度は大きくなり、ある混合重量比以上では飽和することが確認された。
【0048】
こうして得た蛍光機能具備磁性ポリマー粒子の水懸濁液から、ろ過によって水分を抽出して分析した結果、蛍光分子は検出されず、従って蛍光分子は水に溶出していないことが確認された。なお、先に述べた他の蛍光分子、例えば希土類金属としてテルビウムを用い、配位子としてベンゾイルトリフルオロアセトンを用いた場合にも、同様の結果を得ることができる。
(3)EGDEをスペーサとして結合させる表面修飾
【0049】
上記(1)で調製した磁性ポリマー粒子に、スペーサとしてエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)を結合させる修飾を行った。まず、この磁性ポリマー粒子にアミノ基を導入するために、NHOH水溶液をこの粒子のスラリーに加え、これをHCl水溶液でpHを調整して反応させることにより、GMAのエポキシ基を開環しアミノ基を導入した。
【0050】
次にこのポリマー被覆フェライト粒子に、開環したアミノ基に対し過剰量のEGDEを仕込み、NaOH水溶液でpHを調整し攪拌を行なって、ポリマー被覆フェライト粒子のアミノ基とEGDEのエポキシ基とを結合させた。ここではアミノ基の量に対し過剰量のEGDEを仕込むことにより、EGDEの1分子が有する両端のエポキシ基が共にポリマー被覆フェライト粒子のアミノ基と結合することを防いだ。反応後、磁気分離操作を利用して水洗浄を行ない、EGDEで修飾された磁性ポリマー粒子を得た。
【0051】
こうしてEGDEをスペーサとして表面に結合させた磁性ポリマー粒子に対し、上記(3)に記載した工程と同じ工程にて蛍光分子の付与を行ない、蛍光機能具備磁性ポリマー粒子を得た。このアセトンと共にEu錯体を粒子の高分子層に吸収させる操作を、先の場合と同様、磁性ポリマー粒子と蛍光錯体との混合重量比を1:0.00625, 1:0.0125, 1:0.025, 1:0.05, 1:0.1, および1:0.2と、濃度を2倍ずつ変えた6通りについて行なった。
【0052】
図6には、ポリマー層にユーロピウム錯体を含有させて蛍光機能を付与したこの磁性ポリマー粒子に、紫外線を照射して得られる蛍光強度の蛍光分子濃度の変化による蛍光強度の変化を黒丸および点線にて、先の結果に併せて示した。この場合にも、いずれの試料からも蛍光の発生が確認され、ユーロピウム錯体の濃度が増すとともに、蛍光の輝度は大きくなっていることが確認され、またEGDEスペーサを設けたものは、EGDEスペーサを設けないものに比べ、蛍光強度がより大きいことが見出された。
【0053】
なお、蛍光機能具備磁性ポリマー粒子に、スペーサとしてEGDEを結合させる修飾は、粒子のポリマー層に蛍光分子を保有させてから行なうこともできる。
【0054】
上記したEGDEを結合させていない蛍光機能具備磁性ポリマー粒子のスラリーに、NHOH水溶液を加え、HCl水溶液でpHを調整し反応させることにより、GMAのエポキシ基を開環しアミノ基を導入した。
【0055】
次にこの磁性ポリマー粒子のエポキシ基の開環によって生じたアミノ基に対し、過剰量のEGDEを仕込み、NaOH水溶液でpHを調整し攪拌を行なって、ポリマー被覆フェライト粒子のアミノ基とEGDEのエポキシ基とを結合させた。ここではアミノ基の量に対し過剰量のEGDEを仕込むことにより、EGDEの1分子が有する両端のエポキシ基が共にポリマー被覆フェライト粒子のアミノ基と結合することを防いだ。反応後、磁気分離操作を利用して水洗浄を行ない、EGDEで修飾された蛍光機能具備磁性ポリマー粒子を得た。
【0056】
こうして、蛍光標識機能と操作性が優れ、しかも生理活性物質などとの結合性が良好な、蛍光機能具備磁性ポリマー粒子を得ることができた。この蛍光機能具備磁性ポリマー粒子にて、蛍光輝度を高くできるので、蛍光顕微鏡を用い、粒子を1個ずつ観察することができることがわかった。なお、先に述べた他のスペーサ分子、例えばブチレングリコールジグリシジルエーテルを用いた場合にも、同様の結果を得ることができる。
【0057】
(4)たんぱく質の非特異的吸着
たんぱく質の非特異的吸着を以下の手順で調べた。
【0058】
まず、ビーズ0.2mgを、たんぱく質を含む緩衝溶液200μl(濃度1mg/ml)と混合した。次にビーズを磁気分離し、その上清を除去した。この後、たんぱく質を含まない緩衝溶液200μlにビーズを分散した。続いてビーズを磁気分離しその上清を除去することにより、ビーズを洗浄した。この緩衝溶液200μlにビーズを分散し、続いてビーズを磁気分離しその上清を除去するビーズ洗浄の工程を3回繰り返した。
【0059】
次に1MのKClを含む緩衝溶液20μlでビーズを分散した。続いてこのビーズを磁気分離しその上清を回収し、SDS電気泳動後、銀染色にて吸着たんぱく質の非特異的吸着の有無を確認した。この結果を表1の(a)に示した。このとき高塩濃度溶出により、静電的に吸着しているたんぱく質が溶出される。
【0060】
次にこのビーズにSDS(sodium dodecyl sulfate、界面活性剤)を含む溶出液20μlを加えて98℃にて加熱処理した。続いてビーズを磁気分離し、その上清を回収し、SDS電気泳動後銀染色にて吸着たんぱく質の有無を確認した。この結果を表1の(b)に示した。このとき界面活性剤が溶出し、疎水的に吸着しているたんぱく質を含む、ほぼすべてのたんぱく質が溶出される。
【表1】

【0061】
この結果から、塩化カリウムエルージョンを行なった結果では、蛍光体濃度が0.025まで非特異的吸着の形跡が全くみられないことがわかった。また、SDS煮沸エルージョンを行なった場合には、蛍光体濃度が0.05まで非特異的吸着が全くみられず、蛍光体濃度が0.05まで増した場合にも、非特異的吸着の形跡が全くみられないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明による蛍光機能具備磁性ポリマー粒子は、粒子の持つ蛍光機能を標識として用いることができ、しかも磁性を有し磁気分離により簡便に粒子を集めることができるので、この蛍光機能具備磁性ポリマー粒子を用いることによって粒子の蛍光機能を標識として用いる物質の検出や分離における操作性が著しく向上し、またその操作が大幅に簡素化できる。従って産業上の利用可能性は大である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態におけるポリマーで被覆された磁性ポリマー粒子およびこれに蛍光機能を付与した磁性ポリマー粒子を模式的に示した図である。
【図2】本発明の一実施形態における蛍光機能具備磁性ポリマー粒子の製造工程の概要を示した流れ図である。
【図3】本発明の他の一実施形態における蛍光機能具備磁性ポリマー粒子の製造工程の概要を示した流れ図である。
【図4】本発明の一実施形態における磁性ポリマー粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の一実施例に用いた蛍光錯体の励起光吸収スペクトルおよび蛍光の光スペクトルを示した図である。
【図6】本発明の一実施例において、ポリマー層にユーロピウム錯体を含有させて蛍光機能を付与した磁性ポリマー粒子に対し紫外線を照射したことにより得られた蛍光を示した図である。
【符号の説明】
【0064】
102…磁性ポリマー粒子、104…フェライト粒子、106…ポリマー層、108蛍光分子、110…蛍光機能具備磁性ポリマー粒子、203…磁性ポリマー粒子懸濁液、204…ポリマー層膨潤蛍光分子吸収工程、206…非水系溶媒除去工程、209…蛍光機能具備磁性ポリマー粒子懸濁液、302…磁性ポリマー粒子、304…ポリマー層膨潤蛍光分子吸収工程、306…非水系溶媒除去工程、308…非水系溶媒除去工程、309…蛍光機能具備磁性ポリマー粒子懸濁液、310…蛍光機能具備磁性ポリマー粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子と、
前記磁性粒子を被覆するポリマー層と、
前記ポリマー層の内部に保持された蛍光分子と
を備えたことを特徴とする蛍光機能具備磁性ポリマー粒子。
【請求項2】
前記蛍光機能具備磁性ポリマー粒子におけるポリマーの体積率が40%以上99%以下であることを特徴とする請求項1記載の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子。
【請求項3】
前記蛍光分子が、希土類金属キレート錯体であることを特徴とする請求項1または2記載の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子。
【請求項4】
前記希土類金属キレート錯体が1,3―ジカルボキシレートを配位子として有することを特徴とする請求項3記載の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子。
【請求項5】
前記希土類金属キレート錯体を構成する希土類金属がユーロピウムであることを特徴とする請求項3または4記載の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子。
【請求項6】
前記ポリマー層が、スチレンを重合体形成の成分として有する重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子。
【請求項7】
前記ポリマー層が、スチレンに加えてグリシジルメタクリレートを重合体構成の成分として有する共重合体であることを特徴とする請求項6記載の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子。
【請求項8】
前記蛍光機能具備磁性ポリマー粒子が表面にスペーサ分子を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子。
【請求項9】
前記磁性粒子の個数平均径が20 nm以上60nm以下であり、前記磁性ポリマー粒子の個数平均径が30nm以上300nm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の記載の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子。
【請求項10】
磁性粒子をポリマーで被覆された磁性ポリマー粒子に対し蛍光分子を溶解した非水系溶媒を接触させ、前記磁性ポリマー粒子のポリマー層を膨潤させることにより、前記非水系溶媒とともに蛍光分子をポリマー層に吸収させる蛍光分子吸収工程と、
前記非水系溶媒との接触により膨潤した前記磁性ポリマー粒子から、前記非水系溶媒を除去する非水系溶媒除去工程と
を備えたことを特徴とする蛍光機能具備磁性ポリマー粒子の製造方法。
【請求項11】
前記蛍光分子として希土類金属キレート錯体を用いることを特徴とする請求項10記載の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子の製造方法。
【請求項12】
前記磁性ポリマー粒子として、前記ポリマー層の体積率が40%以上99%以下の粒子を用いることを特徴とする請求項10または11記載の蛍光機能具備磁性ポリマー粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−127454(P2008−127454A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313493(P2006−313493)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】