説明

蛍光活性を有するルシフェラーゼの活性増強方法

【課題】カルシウム結合型発光蛋白質から誘導される蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)の発光活性を増強する方法を提供すること。
【解決手段】カルシウム結合型発光蛋白質であるアポ蛋白質を有し、アポ蛋白質の内部にセレンテラミドあるいはその類縁化合物が配位した構成を有する蛍光活性を有するルシフェラーゼ溶液(BFP−aq)に対し、該ルシフェラーゼの発光基質であるセレンテラジンあるいはその類縁化合物、及びセレンテラジンあるいはその類縁化合物におけるイミダゾピラジン骨格のピラジン環のNHプロトン引き抜き効果のある化合物(例えば、イミダゾール等)を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的な実験における検出マーカーとして利用することができる蛍光活性を有するルシフェラーゼの発光活性の活性増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者らは、カルシウム結合発光蛋白質イクオリンを用いて、光による励起によって蛍光を発生する蛍光発光活性のみならず、発光基質に作用して酸化的発光を触媒するルシフェラーゼ活性を有する新規蛋白質BFP−aqの調整法の確立、及びその性質について詳細に検討を行ってきた(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
この新規蛋白質BFP−aqは、カルシウム結合蛋白質イクオリンのアポ蛋白質の内部にセレンテラミドあるいは類縁化合物が配位し、このアポ蛋白質にカルシウムイオン等が結合した複合体である。
【0004】
一般に酵素的発光反応は、「ルシフェラーゼ」とよばれる酵素を触媒とし、基質である「ルシフェリン」(低分子有機化合物)を酸化する酸化反応であり、その結果、生成するオキシルシフェリンの励起分子種が基底状態にもどるときに、エネルギーが光(フォトン)として放出される。ルシフェラーゼによって生成される光(フォトン)の検出感度は、蛍光発光蛋白質に励起光を与えることにより生成される蛍光の検出感度の10〜1000倍以上高いことが示されている。
【非特許文献1】Inouye,S.(2004)FEBS Lett.105-110.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
BFP−aqは、蛍光発光活性を有する以外に、上記のようなルシフェラーゼ発光活性を有し、さらに、他のルシフェラーゼにはない耐熱性を有する蛋白質であるため、産業上の様々な分野において、非常に利用価値が高い。従って、その活性を上げることにより、更なる高感度の検出法を提供でき、応用分野の広がりも期待できる。
【0006】
以上のような目的に鑑み、本発明の課題は、カルシウム結合型発光蛋白質から誘導される蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)の発光活性を増強する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、BFP−aqの発光効率をあげるために、セレンテラジンの発光反応機構に注目した。すなわち、天然型発光基質セレンテラジン(及びその誘導体を基質として)発光反応における有機電子論的機構を検討し、鋭意努力した結果、下記構成を用いることで、本発明の解決方法を見出し、本発明を完成した。本発明は下記のとおりである。[1]アポ蛋白質を有し、該アポ蛋白質の内部にセレンテラミドあるいはその類縁化合物が配位した、蛍光活性を有するルシフェラーゼの発光増強法であって、該蛍光活性を有するルシフェラーゼ溶液に対し、該ルシフェラーゼの発光基質であるセレンテラジンあるいはその類縁化合物、及び該セレンテラジンあるいはその類縁化合物におけるイミダゾピラジン骨格のピラジン環のNHプロトン引き抜き効果のある化合物を添加することを特徴とする発光増強法。
【0008】
[2]前記プロトン引き抜き効果のある化合物がイミダゾールであることを特徴とする[1]項に記載の発光増強法。
【0009】
[3]前記ルシフェラーゼが、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物およびカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンからなり、前記ルシフェラーゼ分子内における、該アポ蛋白質と該セレンテラミドまたはその類縁化合物の分子数比が1:1であり、該アポ蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価または3価のイオンの分子数比が1:1〜4であることを特徴とする[1]項または[2]項に記載の発光増強法。
【0010】
[4]前記アポ蛋白質が、アポイクオリン、アポクライチン、アポオベリン、アポマイトロコミン、アポミネオプシンおよびアポベルボインからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]〜[3]項のいずれかに記載の発光増強法。
【0011】
[5]前記蛍光活性を有するルシフェラーゼが、配列番号1〜4で表されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質または配列番号1〜4で表されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異体アポ蛋白質を含有することを特徴とする[1]〜[4]項のいずれかに記載の発光増強法。
【0012】
[6]前記セレンテラミドあるいはその類縁化合物が下記式(1)または式(2)で表されることを特徴とする[1]〜[5]項のいずれかに記載の発光増強法。


式中、
1は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、または脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、 R2は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、置換または非置換のアリールアルケニル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルケニル基、複素環式基であり、R3は、水素原子、置換または非置換のアルキル基であり、X1は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基またはアミノ基であり、X2は、水素原子または水酸基であり、Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。
【0013】
[7]前記式(1)または前記式(2)において、R1が非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基またはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、またはシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、R2が非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、硫黄を含む複素環式基であり、R3は、水素原子、メチル基または2−ヒドロキシエチル基であり、X1は、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基またはアミノ基であり、Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基またはビニレン基である[6]項に記載の発光増強法。
【0014】
[8]前記式(1)または前記式(2)において、R1がフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基または2−メチルプロピル基であり、R2がフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロぺニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基またはチオフェン−2−イル基であることを特徴とする[7]項に記載の発光増強法。
【0015】
[9]前記セレンテラジンあるいはその類縁化合物が下記式(3)または式(4)で表されることを特徴とする[1]〜[5]項のいずれかに記載の発光増強法。


式中、
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、または脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、Rは、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、置換または非置換のアリールアルケニル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルケニル基、複素環式基であり、Rは、水素原子、置換または非置換のアルキル基であり、Xは、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基またはアミノ基であり、Xは、水素原子または水酸基であり、Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。
【0016】
[10]前記式(3)または前記式(4)において、Rが非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基またはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、またはシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、Rが非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、硫黄を含む複素環式基であり、Rは、水素原子、メチル基または2−ヒドロキシエチル基であり、Xは、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基またはアミノ基であり、Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基またはビニレン基であることを特徴とする[9]項に記載の発光増強法。
【0017】
[11]前記式(3)または前記式(4)において、Rがフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、P−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基または2−メチルプロピル基であり、Rがフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロペニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基またはチオフェン−2−イル基であることを特徴とする(10)項に記載の発光増強法。
【0018】
[12]前記セレンテラジンの類縁化合物が、h−セレンテラジン、f−セレンテラジン、cp−セレンテラジン、hcp−セレンテラジンから選ばれる少なくとも1種である[1]〜[8]項のいずれかに記載の発光増強法。
【0019】
[13]セレンテラジンあるいはその類縁化合物を発光基質として、アポ蛋白質を有し、該アポ蛋白質の内部にセレンテラミドあるいはその類縁化合物が配位した、蛍光活性を有するルシフェラーゼが放射する発光を増強させる発光増強剤であって、該セレンテラジンあるいはその類縁化合物におけるイミダゾピラジン骨格のピラジン環のNHプロトン引き抜き効果のある化合物を含有することを特徴とする発光増強剤。
【0020】
[14]前記プロトン引き抜き効果のある化合物がイミダゾールであることを特徴とする[13]項に記載の発光増強剤。
【0021】
[15]アポ蛋白質を有し、該アポ蛋白質の内部にセレンテラミドあるいはその類縁化合物が配位した、蛍光活性を有するルシフェラーゼ、発光基質であるセレンテラジンあるいはその類縁化合物、前記ルシフェラーゼの発光を増強させ得る発光増強剤を含むキットであって、前記発光増強剤は、前記セレンテラジンあるいはその類縁化合物におけるイミダゾピラジン骨格のビラジン環のNHプロトン引き抜き効果のある化合物であることを特徴とするキット。
【0022】
[16]前記プロトン引き抜き効果のある化合物がイミダゾールであることを特徴とする[15]項に記載のキット。
【発明の効果】
【0023】
本発明によって、カルシウム結合型発光蛋白質から誘導される蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)の発光活性を増強する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、カルシウム結合型発光蛋白質から誘導される蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)溶液に、発光基質であるセレンテラジンおよび類縁化合物におけるイミダゾピラジン骨格のピラジン環のNHプロトン引き抜き効果のある化合物を添加することによって、BFP−aqの発光活性を増強する方法である。
【0025】
==蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)==
1.蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)の構成および構造
本発明に用いる化学発光活性を有する蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aqは、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、およびカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンより構成されており、好ましくはアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物のBFP−aq中の分子数の比は1:1であり、アポ蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンのBFP−aq中の分子数の比は1:1〜4である。より好ましくは、アポ蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの分子数の比は1:2〜3、さらに好ましくは1:3である。このBFP−aq内で、セレンテラミドまたはその類縁化合物は、アポ蛋白質の内部に配位しており、カルシウムイオンは主としてアポ蛋白質のEFハンドに結合している。
このBFP−aqは、他のルシフェラーゼと比較して熱安定性に優れているので、従来ルシフェラーゼを用いることができなかった分野にも応用が可能である。
【0026】
2.蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)の製造
BFP−aqは、カルシウム結合型発光蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンを、極めて緩やかな(反応速度が極めて遅い)条件で反応させることにより製造できる。ここで、緩やかに反応させるとは、カルシウム結合型発光蛋白質とカルシウムイオン等のイオンが反応した後に、セレンテラミドまたはその類縁化合物がアポ蛋白質に配位したまま残り、かつ新たなS-S結合が実質上生成しないような条件で反応させることを意味する。
【0027】
そのような反応条件は、例えば、高粘度のカルシウム結合型発光蛋白質溶液に、非常に希薄なカルシウムイオン等の溶液を重層し、低温で長時間にわたって反応させることである。この場合、反応温度は、好ましくは0℃〜30℃、より好ましくは4℃である。また反応時間は、蛋白質の濃度によっても異なるが、24時間以上であることが好ましい。
【0028】
この際、カルシウムイオンの濃度は低い方が好ましい。カルシウムイオンの濃度が低ければ、カルシウムイオンがカルシウム結合型発光蛋白質と接触(反応)する頻度が低くなるからである。逆に、カルシウム結合型発光蛋白質溶液の濃度は高い方が好ましい。蛋白質溶液の濃度が高ければ、蛋白質溶液の粘度も高くなり、カルシウムイオン溶液と蛋白質溶液との混合がゆっくり進行するからである。
【0029】
具体的には、10-7M(mol/l)以下の濃度のカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの水溶液を、カルシウムイオン結合型発光蛋白質に対して1〜4のモル比となるように添加して、両者を反応させる。カルシウムイオン等のイオンとカルシウムイオン結合型発光蛋白質のモル比は、反応が緩やかに進められるならば、目的とする蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)における分子数の比以上(例えば、4以上)であっても構わない。本発明で必要とされる反応条件を達成するためには、反応容器のデザインの変更、溶媒の選択、半透膜の使用等のバリエーションが考えられ、本明細書に記載されたものに限定されるものではない。
【0030】
3.蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)を構成するアポ蛋白質
BFP−aqを構成するアポ蛋白質として、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質が用いられる。ここでいうカルシウム結合型発光蛋白質とは、カルシウムイオンまたはそれと同等な2価または3価のイオンと反応して発光する蛋白質を指す。例えば、イクオリン、クライチン、オベリン、マイトロコミン、ミネオプシンおよびベルボインを挙げることができる。これらは、天然から採取したものであっても、遺伝子工学的に製造したものであってよい。さらに、上記の発光活性を有すれば、そのアミノ酸配列を天然のものから遺伝子組換え技術によって変異させたものであってもよい。
【0031】
現在まで、遺伝子が単離されているカルシウム結合発光蛋白質を表1に示した。
【0032】

【0033】
これらのアポ蛋白質部分のアミノ酸配列の相同性は60%以上であり、すべて発光基質セレンテラジンよりカルシウム結合発光蛋白質への再生が可能である。さらに、近年の発光蛋白質であるイクオリンとオベリンとのX線結晶解析の結果、アミノ酸配列の相同性以上に、両者の高次構造の主鎖構造はほとんど同じであることが明らかとなっている。このことから、他のカルシウム結合発光蛋白質の高次構造相同性は、容易に類推できる。従って、本願実施例では、代表的なカルシウム結合発光蛋白質であるイクオリンを用いたが、その結果は他のカルシウム結合発光蛋白質に応用できるのは明らかである。
【0034】
天然型イクオリンのアポ蛋白であるアポイクオリンのアミノ酸配列を配列番号1に示す。配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するもののほか、公知のまたは未知のその変異体であってカルシウム結合型発光蛋白質を形成するものであればすべて使用できる。したがって、本発明で使用されるアポイクオリンには、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するアポイクオリンおよび配列番号1のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異型アポイクオリンが含まれる。特に好ましい変異型アポイクオリンの例として、配列番号1において1番目のValがAla-Asn-Serで置換されたものが挙げられる。
【0035】
野生型クライチンのアポ蛋白であるアポクライチンのアミノ酸配列は配列番号2に示される。野生型オベリンのアポ蛋白であるアポオベリンのアミノ酸配列は配列番号3に示される。野生型マイトロコミンのアポ蛋白であるアポマイトロコミンのアミノ酸配列は配列番号4に示される。これらは、それぞれの配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異型のものであってもよい。
【0036】
BFP−aqは、アポ蛋白質中のシステイン残基の遊離SH基が酸化されてS-S結合を生成すると、化学発光活性を失う。したがって、遊離のSH基が欠失または置換され、S-S結合を生じることができなくなった変異アポ蛋白質は、化学発光活性を失うことがないと考えられ、例えば、システイン残基をセリン残基で置換した蛍光蛋白質は、S-S結合を生じないため活性が持続的であると期待される。
【0037】
4.蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)を構成するセレンテラミド
セレンテラミドまたはその類縁化合物は、式(1)または式(2)で示される。


式中、
1は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、または脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基である。好ましくは、非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基もしくはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、またはシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基である。さらに好ましくは、フェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基または2−メチルプロピル基である。
2は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、置換または非置換のアリールアルケニル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルケニル基、複素環式基である。好ましくは、非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、硫黄を含む複素環式基である。さらに好ましくは、フェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロぺニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基またはチオフェン−2−イル基である。
3は、水素原子、置換または非置換のアルキル基である。好ましくは、水素原子、メチル基または2−ヒドロキシエチル基である。
1は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基またはアミノ基であり、特に好ましくは水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基またはアミノ基である。
2は、水素原子または水酸基である。
Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基またはビニレン基である。
【0038】
5.蛍光活性を有するルシフェラーゼはセレンテラジンを発光基質とする。
セレンテラジンまたはその類縁化合物は、下記式(3)または式(4)で表される。


式中のR1、R2、R3、X1、X2およびYは、式(1)および式(2)と同じである。
【0039】
本発明において、発光基質として、セレンテラジンおよびその類縁化合物であるh−セレンテラジン、f−セレンテラジン、cp−セレンテラジン、hcp−セレンテラジンが特に好ましく利用できる。
【0040】
以下に、これらの化合物、およびセレンテラミドの化学構造式をまとめて示す。

【0041】
6.蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)を構成する金属イオン
BFP−aqに結合する金属イオンは、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンである。ここで、カルシウムイオンと置換可能なイオンとは、カルシウムイオンに代えてイクオリンなどのカルシウム結合型発光蛋白質と反応させた場合に、発光反応を起こすイオンのことである。つまり、カルシウム結合型発光蛋白質に対して、カルシウムイオンと同等の作用をするものである。例えば、マグネシウムイオン(Mg2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+)、鉛イオン(Pb2+)、コバルトイオン(Co2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、カドミウムイオン(Cd2+)、イットリウムイオン(Y3+)、ランタンイオン(La3+)、サマリウムイオン(Sm3+)、ユウロピウムイオン(Eu3+)、ジスプロシウムイオン(Dy3+)、ツリウムイオン(Tm3+)、イットリビウムイオン(Yb3+)を挙げることができる。これらのうち、2価の金属イオンが好ましい。より好ましくは遷移金属以外の2価の金属イオン、例えばCa2+、Sr2+、Pb2+である。
また、これらのイオンは少なくとも1個が、いわゆるカルシウム結合型発光蛋白質のEFハンドに結合していればよいが、2個以上、特に3個のこれらのイオンが結合しているのが好ましい。
【0042】
代表的なセレンテラジンを基質とするルシフェラーゼを表2に示す。

【0043】
==BFP−aqの発光増強方法==
以上のように調整した蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)に対し、天然型のセレンテラジンを発光基質とした発光反応を行う。この反応において、セレンテラジンのイミダゾピラジノン骨格における−NH−プロトンを引き抜くための化合物、すなわちプロトンのアクセプターになりうる化合物を発光増強剤として添加する。
【0044】
発光増強剤としては、上記作用を有する化合物であれば何でもよく、一般的に容易に入手可能な化合物として、例えば、イミダゾール、ヒスタミン、L−ヒスチジン、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、ウノカニン酸、5−アミノ−4−イミダゾール−カルボキシアミド、L−アルギニン、アセトアミド、グアニジン、L−リジン、尿素、トリエチルアミン等が挙げられる。なかでも、特にイミダゾールが好ましく利用できる。また、これらは、単独で用いてもよいが、複数を併用して用いてもよい。また、この発光反応は水系で行うことが好ましいので、発光増強剤は水溶性であることが好ましい。
【0045】
反応条件は特に限定されないが、BFP−aqの蛍光活性が安定であり、ルシフェラーゼ活性が十分発揮できるpH8.0程度が好ましい。また、BFP−aqの発光反応の至適pHと添加化合物のpKaを考慮することで、−NH−プロトンを引き抜き効果の強さも予測することができるため、用途に応じて、発光増強剤を選択することができる。発光増強剤の濃度は、30〜350mMが利用でき、60〜300mMが好ましい。
【0046】
この発行増強剤を容易に使用することができるように、蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)、セレンテラジンあるいは類縁化合物とともに、キットとしてもよい。
【実施例】
【0047】
以下に実施例により本発明を説明するが、実施例は本発明を制限するものではない。
【0048】
==組換えアポイクオリンの調製==
組換えアポイクオリンを得るために、アポイクオリン遺伝子を有するpAQ440(特開昭61−135586号公報)から構築されたアポイクオリン遺伝子発現ベクターpiP−HE(特開平1−132397号公報)を用いた。このベクターにコードされた組換えアポイクオリンのN−末端は、Ala−Asn−Ser−より始まる191個のアミノ酸より構成されている(配列表1のN−末端のValがAla−Asn−Ser−で置換されたもの)。
【0049】
上記発現ベクターpiP−HEを、常法により大腸菌WA802株に導入した。得られた形質転換株を、アンピシリン(50μg/ml)を含有する寒天培地上で30℃で一晩培養した後、アンピシリン(50μg/ml)を含有する50mlのLB液体培地(水1リットルあたり、バクトトリプトン10g、イーストイクストラクト5g、塩化ナトリウム5g、pH7.2)に植菌し、30℃で8時間前培養した。次いで、その培養物を新たなLB液体培地2リットルに添加し、37℃で一昼夜(18時間)培養した。培養後、得られた培養物を、菌体と培養液に低速遠心分離(5000×g)によって分離した。菌体および培養液はともに発現した組換えアポイクオリンを含むためそれぞれ保存し、イクオリンの精製出発材料とした。
【0050】
まず、菌体からの組換えアポイクオリンの回収を行った。集菌した菌体を、還元剤であるジチオスレイトール(DTT,和光純薬社製)200mgを含む400mlの50mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH7.6の緩衝液中に懸濁し、氷冷下において超音波破砕装置で2分間処理して菌体を破砕し、12000×gで20分間遠心後、上清を集めた。得られた上清に化学合成したセレンテラジン(エタノール溶液)を産生アポイクオリンの1.2倍のモル濃度になるように添加し、4℃で5時間以上放置した。
【0051】
この上清を直ちに、TE(20mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH7.6)緩衝液で平衡化したQ−セファロースカラム(ファルマシア製、直径2cm×10cm)に添加してイクオリンを吸着させ、カラムから溶液の280nmでの吸光度が0.05以下になるまでTEN(20mM Tris−HCl、10mM EDTA、0.1M NaCl、pH7.6)でカラムを洗浄した。そして、カラムに吸着したアポイクオリンとイクオリン画分を0.1M NaCl〜0.4M NaClの直線濃度勾配で溶出させた。
【0052】
再生イクオリンと未再生のアポイクオリンとの分離は、疎水性クロマトグラフィーであるブチルセファロース4ファーストフローゲルを用いて行った。即ち、Q−セファロースカラムからのオレンジ色の溶出液に、最終濃度が2Mになるように硫酸アンモニウムを溶解した。次いで、不溶画分を遠心分離によって除去し、上清を、2M 硫酸アンモニウムを含有するTEで平衡化したブチルセファロース4ファーストフローカラム(ファルマシア社、カラムサイズ:直径2cm×8cm)に通し、硫酸アンモニウム濃度1Mまで直線濃度勾配により溶出し、発光活性を有するオレンジ色の再生イクオリン画分を収集した。なお、未再生のアポイクオリンは、TEで溶出された。
【0053】
再生イクオリン画分について、還元状態で12%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEによる分析を行った結果、精製画分について分子量25kDa蛋白質に相当する単一バンドが検出され、その純度はデンシトメーターでの測定では98%以上であった。菌体からのイクオリンの回収率は約80%で、80mgの高純度イクオリンを得た。
【0054】
一方、培養液からの高純度アポイクオリンの精製は、特開平1−132397号公報に記載の方法に従って実施した。即ち、培養液を酸性化処理してpH5以下にし、4℃で60分間以上放置した。白色沈殿となったアポイクオリンを遠心分離によって単離し、これを還元剤を含む上述の緩衝液(50mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH7.6)に溶解させた。そして菌体からのイクオリンの精製工程と同様にイクオリンへの再生後、Q−セファロースカラムクロマト法、ブチルセファロース4ファーストフローカラムクロマト法を用いて、イクオリンを精製した。得られた精製イクオリンについて、還元状態で12%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEによる分析を行った結果、分子量25kDa蛋白質に相当する単一バンドが検出され、その純度はデンシトメーターでの測定では98%以上であった。こうして、培養液より得られたアポイクオリン50mgから高純度イクオリン45mgを得た。なお、蛋白量はBradford法にもとづく市販のキット(バイオラッド社製)を用い、ウシ血清アルブミン(ピアス社製)を標準物質として用いて決定した。
【0055】
==蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)の調製==
実施例1記載の精製イクオリンを、10mM Tris−HCl(pH7.6)、2mM EDTA、1.2M 硫酸アンモニウムを含む緩衝液に溶解し、イクオリン濃度が8mg/mlのイクオリン溶液を調製した。
【0056】
このイクオリン溶液1mlを、高速限外濾過フィルターである分画分子量10,000のポリエーテルスルホン膜を有するビバスピン2カラム(ザルトリウス社製)を用いて、冷却高速遠心機(日立社製:CR20B2型)にて、4℃で、5000×g、60分間以上遠心を行い、全量を0.1ml以下に濃縮した。さらに、濃縮溶液のEDTA濃度を、0.1μM以下に下げるために、1mlの0.1μM EDTAを含む10mM Tris−HClをビバスピン2カラムに加え、再度同一条件で遠心を行い、全量を濃縮するステップを最低2回くり返した。このイクオリン濃縮液は、黄赤色を呈し、肉眼で容易に確認できた。
【0057】
以下の手順で、BFP−aqの調製を行った。ビバスピン2カラム内で濃縮イクオリン溶液に、0.9mlの5mM 塩化カルシウム(和光純薬)、2mM ジチオスレイトール(和光純薬)を含む50mM Tris−HCl(pH7.6)を重層し、連続発光を開始させ、4℃で24時間以上放置した。発光反応の終了は、イクオリン溶液の黄赤色の消失によっても確認できた。さらに、ビバスピン2カラム内へ2mlの5mM塩化カルシウム(和光純薬)、2mM ジチオスレイトール(和光純薬)を含む50mM Tris−HCl(pH7.6)を加え、上記同一条件で遠心を行い洗浄した。生成したBFP−aqは、長波長のUVランプ(極大波長=366nm)の下で、青色蛍光を発生することを確認した。
【0058】
==組換えウミシイタケルシフェラーゼの調整法==
ウミシイタケルシフェラーゼはウミシイタケ(Renilla reniformis)に由来する単量体の発光酵素(36kDa)で、基質であるセレンテラジンの酸化を触媒し光を発生させるが、ここでは、蛍光活性を有さないルシフェラーゼの一例として、コントロール(対照実験)に用いた。
【0059】
ウミシイタケルシフェラーゼを大腸菌内で発現させるため、アミノ酸末端にヒスチジンタグが付加したウミシイタケルシフェラーゼをコードする組換え遺伝子を有する発現ベクターpHis-RLaseを用いた。この発現ベクターpHis-RLaseは、公知の方法(Biochem.Biophys.Res.Commun.233,349-353)に基づいて調整した。
【0060】
発現ベクターpHis-RLaseを、常法により大腸菌Top10株(インビトロジェン)に導入した。得られた形質転換株をアンピシリン(50μg/ml)を含有する10ml LB液体培地(水1リットルあたり、バクトトリプトン10g、イーストイクストラクト5g、塩化ナトリウム5g、pH7.2)にて24℃で一昼夜(18時間)前培養をした後、さらに400mlのLB液体培地で36℃、2時間培養を行った。その後、イソプロピル−β−D(−)−チオガラクトピラノシド(IPTG、和光純薬工業社製)を最終濃度0.2mMになるよう培養液に加え、さらに3時間同温で培養を行った。培養後、菌体を遠心回収(5,000rpm×5min、3,000×g)し、組換えウミシイタケルシフェラーゼの精製出発材料とした。
【0061】
集菌した菌体を50mM Tris−HCl(pH7.6)5mlに懸濁し、氷冷下で超音波破砕処理(ブランソン社製、Sonifier model cycle 250)を3分間、2回行った。その菌体破砕液を12,000rpm(17,700×g)で20分間遠心し上清を回収後、ニッケルキレートカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径1.5×5cm)に添加してウミシイタケルシフェラーゼを吸着させた。吸着ウミシイタケルシフェラーゼを0.5M イミダゾール(和光純薬工業社製)で溶出を行い、得られたウミシイタケルシフェラーゼ活性画分を5Lの0.1M 炭酸アンモニウム溶液(pH8.0)に対して、一晩4℃で透析を行った。
【0062】
透析したウミシイタケルシフェラーゼ活性画分を、再度ニッケルキレートカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径1.5×5cm)に吸着させ、イミダゾール濃度0〜0.3Mまで直線濃度勾配により溶出し、さらに精製されたウミシイタケルシフェラーゼ活性画分を得た。イミダゾール濃度0.12〜0.13Mにてウミシイタケルシフェラーゼの溶出が確認された。
【0063】
次に、得られたウミシイタケルシフェラーゼ画分をQ−セファロースカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径2.5×5cm)に添加し吸着させ、5mM EDTAを含む20mM Tris−HCl(pH7.6)に、塩化ナトリウム濃度0〜0.4Mまで直線濃度勾配により溶出し、さらに精製されたウミシイタケルシフェラーゼ活性画分を得た。塩化ナトリウム濃度0.2〜0.22Mにてウミシイタケルシフェラーゼ活性の溶出が確認され、12%SDS−ポリアクリルアミド電気泳動法により純度は95%以上であることを確認した。
【0064】
==ウミシイタケルシフェラーゼを用いた発光活性の測定法==
pH7.6の50mM Tris−HCl緩衝液(200μl)を25℃に保温後、エタノールに溶解した基質セレンテラジン(1μg/μl)を加え、ウミシイタケルシフェラーゼ(1.2μg)を添加することにより発光反応を開始させた。発光測定装置Luminescencer−PSN AB2200(アトー社製)で60秒間発光活性の測定を行い、発光活性の最大値(Imax)で示した。
【0065】
==BFP−aqの発光反応の至適pHの検討==
各々pH5.0〜10.5の50mM Tris−HCl緩衝液(200μ1)を25℃に保温後、基質セレンテラジン(1μg)を加え、BFP−aq(1.2μg)を添加し反応を開始させ、発光測定装置Luminescencer−PSN AB2200(アトー社製)で60秒間発光活性の測定を行った。50mM Tris−HCl(pH8.0)中でのBFP−aqの発光活性の最大値(Imax)を100%とし、各pHでの相対発光活性値を図1に示した。
【0066】
==有機化合物添加によるBFP−aq発光増強効果==
表3に示した種々の市販有機化合物をそれぞれ含む50mM Tris−HCl(pH8.0)溶液を調整し、25℃に保温した。この化合物を含む溶液(200μl)に、基質セレンテラジン(1μg)を加え、さらにBFP−aq(1.2μg)添加し撹拌後、発光測定装置Luminescencer−PSN AB2200(アトー社製)で60秒間発光活性の測定を行った。50mM Tris−HCl(pH8.0)中でのBFP−aqの発光活性の最大値(Imax)を100%とし、相対発光活性値を表4に示した。また各有機化合物の構造式を図2に示す。
【0067】


【0068】
表4の相対発光活性値を比較した結果、発光反応系に150mM イミダゾールを加えた場合にのみ顕著な発光活性(Imax)の増強が起きた。これは、イミダゾールのpKa=7.0を考慮すると、イミダゾールは図3に示すように、アルカリ条件下では容易にプロトンのアクセプターになる。pH8.0での発光反応では、図4に示すように、イミダゾールが発光基質であるセレンテラジンの7位のプロトンのアクセプターとなり、プロトンの引き抜きを促進する結果、セレンテラジンへの酸素添加反応を促進するため、発光反応が効率良く進むためであると考えられる。一方、その他の化合物では、発光活性の促進はみられなかった。これは、pH8.0では、セレンテラジンの7位のプロトンのアクセプターとして化合物が機能していないことを示している。その理由として、pKa以外にイミダゾールの側鎖の影響、あるいは分子サイズによる物理的障害により、BFP−aq内のセレンテラジンと作用できないためであると考えられる。
【0069】
==イミダゾール添加によるBFP−aqの発光増強効果の至適濃度の決定==
イミダゾールをそれぞれの濃度(0.1,0.3,1,3,10,30,60,100,150,200,250,300,400,500,600,700,800,900,1000mM)を含む50mM Tris−HCl(pH8.0)を調整し、25℃に保った。イミダゾールを含む溶液(200μl)に、基質セレンテラジン(1μg)を加え、さらにBFP−aq(1.2μg)添加し撹拌後、発光測定装置Luminescencer−PSN AB2200(アトー社製)で60秒間発光活性の測定を行った。50mM Tris−HCl(pH8.0)中でのBFP−aqの発光活性の最大値(Imax)を100%とし、イミダゾール濃度と発光活性の関係を図5に示した。対象実験として、セレンテラジンを発光基質とするウミシイタケルシフェラーゼを用いて同様の実験を行った。その結果、ウミシイタケルシフェラーゼではイミダゾールの濃度が高くなるにつれ発光活性が著しく阻害されるが、BFP−aqの発光活性はイミダゾール30mM〜250mMにおいて促進されることが判明した。特に150mM イミダゾールを添加することで、イミダゾールを添加しない系の2倍以上の発光活性を得ることができた。すなわち、イミダゾール添加による発光活性の増強効果は、BFP−aqに特異的な効果であることが明らかとなった。
【0070】
==セレンテラジンアナログとイミダゾール添加BFP−aqの組み合わせによる発光活性増強方法==
150mM イミダゾールを含む50mM Tris−HCl(pH8.0)を調整し、25℃に保った。この溶液を5本の容器に200μlずつ入れ、基質セレンテラジン(CTZ)及びそのアナログ4種(h−CTZ,cp−CTZ,hcp−CTZ,f−CTZ)1μgをそれぞれに加え、さらにBFP−aq(1.2μg)添加し撹拌後、発光測定装置Luminescencer−PSN AB2200(アトー社製)で60秒間発光活性の測定を行った。50mM Tris−HCl(pH8.0)中で基質をセレンテラジンとしたBFP−aqの発光活性の最大値(Imax)および初速を100%とし、イミダゾール添加の有無による発光活性の影響を調べた。
【0071】

【0072】
表5のセレンテラジン基質特異性の相対発光活性値を比較すると、BFP−aqの発光反応系において、h−セレンテラジン、f−セレンテラジン、cp−セレンテラジン及びhcp−セレンテラジンは有効な基質となった。さらに、イミダゾールの添加の有無によるその効果をみると、150mM イミダゾール添加でhcp−セレンテラジンを基質とした場合、イミダゾール無添加−セレンテラジンの発光活性の最大値にくらべ約4倍上がり、発光反応の初速は約25倍速くなることが判明した。すなわち、セレンテラジンアナログとイミダゾール添加によるBFP−aq発光増強が可能であることが示された。
【0073】
==イミダゾールの添加によるBFP−aqの発光反応速度の決定==
150mM イミダゾールを含む50mM Tris−HCl(pH8.0)200μlに、基質セレンテラジンの最終濃度を1.2〜11.8μM範囲内で、各濃度のセレンテラジンを添加し25℃で保温後、BFP−aqを1.2μg添加し撹拌後、発光測定装置Luminescencer−PSN AB2200(アトー社製)で60秒間発光活性の測定を行った。発光反応3秒での発光活性を初速値として、ラインウェーバーバーグプロット法でKm値を決定した。
【0074】
その結果、150mM イミダゾールの添加系と無添加の反応系ではKm値に顕著な変化はなく、イミダゾールを加えた系においてVmaxのみ約2倍になることが明らかとなった。すなわち、イミダゾール存在による発光活性増強は、基質とBFP−aqの結合に影響を与えるのではなく、セレンテラジンペルオキシドの生成過捏への促進あるいはセレンテラジンのカルバニオンの安定化に関与していると考えられる。
【0075】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明にかかる実施例における、蛍光活性を有するルシフェラーゼ(BFP−aq)の各pHにおける相対発光活性を示す図である。
【図2】本発明にかかる実施例において、蛍光活性を有するルシフェラーゼの活性増強を促す有機化合物の検索に用いた化合物の構造式を示した図である。
【図3】イミダゾールのプロトン化を示した図である。
【図4】イミダゾールによる蛍光活性を有するルシフェラーゼの活性増強のメカニズムを示した図である。
【図5】本発明にかかる実施例における、各濃度のイミダゾール添加による蛍光活性を有するルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼの相対発光活性を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポ蛋白質を有し、該アポ蛋白質の内部にセレンテラミドあるいはその類縁化合物が配位した、蛍光活性を有するルシフェラーゼの発光増強法であって、該蛍光活性を有するルシフェラーゼ溶液に対し、該ルシフェラーゼの発光基質であるセレンテラジンあるいはその類縁化合物、及び該セレンテラジンあるいはその類縁化合物におけるイミダゾピラジン骨格のピラジン環のNHプロトン引き抜き効果のある化合物を添加することを特徴とする発光増強法。
【請求項2】
前記プロトン引き抜き効果のある化合物がイミダゾールであることを特徴とする請求項1に記載の発光増強法。
【請求項3】
前記ルシフェラーゼが、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物およびカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンからなり、前記ルシフェラーゼ分子内における、該アポ蛋白質と該セレンテラミドまたはその類縁化合物の分子数比が1:1であり、該アポ蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価または3価のイオンの分子数比が1:1〜4である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の発光増強法。
【請求項4】
前記アポ蛋白質が、アポイクオリン、アポクライチン、アポオベリン、アポマイトロコミン、アポミネオプシンおよびアポベルボインからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発光増強法。
【請求項5】
前記蛍光活性を有するルシフェラーゼが、配列番号1〜4で表されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質または配列番号1〜4で表されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異体アポ蛋白質を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の発光増強法。
【請求項6】
前記セレンテラミドあるいはその類縁化合物が下記式(1)または式(2)で表されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の発光増強法。
【化1】

【化2】

式中、
1は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、または脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、 R2は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、置換または非置換のアリールアルケニル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルケニル基、複素環式基であり、R3は、水素原子、置換または非置換のアルキル基であり、X1は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基またはアミノ基であり、X2は、水素原子または水酸基であり、Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。
【請求項7】
前記式(1)または前記式(2)において、R1が非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基またはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、またはシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、R2が非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、硫黄を含む複素環式基であり、R3は、水素原子、メチル基または2−ヒドロキシエチル基であり、X1は、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基またはアミノ基であり、Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基またはビニレン基である請求項6に記載の発光増強法。
【請求項8】
前記式(1)または前記式(2)において、R1がフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基または2−メチルプロピル基であり、R2がフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロぺニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基またはチオフェン−2−イル基であることを特徴とする請求項7に記載の発光増強法。
【請求項9】
前記セレンテラジンあるいはその類縁化合物が下記式(3)または式(4)で表されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の発光増強法。
【化3】

【化4】

式中、
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、または脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、Rは、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、置換または非置換のアリールアルケニル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルケニル基、複素環式基であり、Rは、水素原子、置換または非置換のアルキル基であり、Xは、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基またはアミノ基であり、Xは、水素原子または水酸基であり、Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。
【請求項10】
前記式(3)または前記式(4)において、Rが非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基またはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、またはシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、Rが非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、硫黄を含む複素環式基であり、Rは、水素原子、メチル基または2−ヒドロキシエチル基であり、Xは、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基またはアミノ基であり、Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基またはビニレン基であることを特徴とする請求項9に記載の発光増強法。
【請求項11】
前記式(3)または前記式(4)において、Rがフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、P−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基または2−メチルプロピル基であり、Rがフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロペニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基またはチオフェン−2−イル基であることを特徴とする請求項10に記載の発光増強法。
【請求項12】
前記セレンテラジンの類縁化合物が、h−セレンテラジン、f−セレンテラジン、cp−セレンテラジン、hcp−セレンテラジンから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜8のいずれかに記載の発光増強法。
【請求項13】
セレンテラジンあるいはその類縁化合物を発光基質として、アポ蛋白質を有し、該アポ蛋白質の内部にセレンテラミドあるいはその類縁化合物が配位した、蛍光活性を有するルシフェラーゼが放射する発光を増強させる発光増強剤であって、該セレンテラジンあるいはその類縁化合物におけるイミダゾピラジン骨格のピラジン環のNHプロトン引き抜き効果のある化合物を含有することを特徴とする発光増強剤。
【請求項14】
前記プロトン引き抜き効果のある化合物がイミダゾールであることを特徴とする請求項13に記載の発光増強剤。
【請求項15】
アポ蛋白質を有し、該アポ蛋白質の内部にセレンテラミドあるいはその類縁化合物が配位した、蛍光活性を有するルシフェラーゼ、発光基質であるセレンテラジンあるいはその類縁化合物、前記ルシフェラーゼの発光を増強させ得る発光増強剤を含むキットであって、前記発光増強剤は、前記セレンテラジンあるいはその類縁化合物におけるイミダゾピラジン骨格のピラジン環のNHプロトン引き抜き効果のある化合物であることを特徴とするキット。
【請求項16】
前記プロトン引き抜き効果のある化合物がイミダゾールであることを特徴とする請求項15に記載のキット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−271327(P2006−271327A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99244(P2005−99244)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】