説明

蛍光温度プローブおよびそれを用いた温度測定装置

【課題】生物個体内、組織内、細胞内、細胞内小器官内および、水溶液、または金属やプラスチックなどの固体の温度計測ならびに絶対温度分布の高い空間分解能(<1μm)による画像化に適したタンパク質性の蛍光温度プローブおよび測定対象内のプローブ濃度の変動に左右されずに温度の定量的画像化を可能にする温度測定装置を提供する。
【解決手段】20〜50℃の範囲で相対蛍光強度が大きく変化する温度感受性蛍光タンパク質と、相対蛍光強度の変化が小さい基準蛍光物質を一定の比率で連結してなる蛍光温度プローブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光温度プローブおよびそれを用いた温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から温度の測定には、熱電対温度計、抵抗温度計または水銀温度計等が用いられている。熱電対温度計は熱起電力値から温度を算出し、抵抗温度計は電気抵抗値から温度を算出する。しかし、熱電対温度計および抵抗温度計においては、測定対象物あるいはその外部からの無関係な電磁誘導ノイズが発生しやすく、また高電圧下では漏電するおそれがあるため、電界下または磁界下での温度測定には不適であるという問題があった。また、水銀温度計は、水銀の熱膨張を利用することにより温度を算出する。しかし、水銀温度計においては、その形状および熱容量の大きさに問題があるため測定対象物が限られるという問題があった。
【0003】
これらの温度計を用いることのできない領域における温度測定には、放射温度計、蛍光体または半導体を用いた温度センサが用いられている。放射温度計は、測定対象物の放出する熱放射のエネルギを利用して温度を算出する。しかし、放射温度計は 測定対象物表面の温度しか測定することができず、また低温域において測定物固有のスペクトルまたは反射スペクトルが存在する場合には正確な温度測定をすることができないという問題があった。
【0004】
特許文献1には、ポリピリジン金属錯体またはその誘導体を含む蛍光体を用いた温度センサが開示されている。この蛍光体を用いた温度センサは、蛍光強度と温度との関係を調べることにより作成された温度特性曲線により温度を算出する。しかし、この蛍光体を用いた温度センサにおいては、蛍光強度と温度との関係が必ずしも比例関係等の明確な数式に従うものではないため、蛍光強度と温度との関係を細かい間隔で多数点調べて正確な温度特性曲線を作成しなければならないという問題があった。また、この蛍光体を用いた温度センサにおいては、温度センサの劣化等の経時変化に対応するために温度特性曲線の校正を頻繁に行なう必要があるが、その校正のたびに蛍光強度と温度との関係を細かい間隔で多数点調べて温度特性曲線の校正をしなければならないという問題もあった。
【0005】
特許文献2には、半導体を光ファイバの先端に取り付けた温度センサが開示されている。この半導体を用いた温度センサは、温度により光の透過率が変わることを利用して温度を算出する。しかし、この半導体を用いた温度センサにおいては、温度と光の透過率との関係を示す温度特性曲線を作成する際に標準透過率を示す標準体が必要となるという問題があった。
【0006】
特許文献3には、電界下および磁界下での温度計測に適し、かつ温度特性曲線の作成および校正が容易な温度センサが開示されている。この発明では塩化物からなるマトリックスにドープされたエルビウムイオンまたはツリウムイオンの蛍光スペクトルが、特定の波長の前後において蛍光強度と温度との関係が逆転する性質を利用して温度を算出する。しかし、この温度センサは公報に記載の図1によれば25℃から50℃への温度変化に対して520-540nmの蛍光強度と540-560nmの蛍光強度の比の変化が数%に過ぎない。従って、生理条件下である10−50℃の範囲を感度良く測定することができない。また、塩化物マトリクス構造からなる温度センサであるため、水溶液に溶かして使用する事が困難である。さらに、温度センサが遺伝子にコードされていないため、温度センサを恒常的に発現する遺伝子導入動植物の作成は不可能であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−133819号公報
【特許文献2】特開昭58−39917号公報
【特許文献3】特開2004−28629
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生物個体内、組織内、細胞内、細胞内小器官内および、水溶液、または金属やプラスチックなどの固体の温度計測ならびに絶対温度分布の高い空間分解能(<1μm)による画像化に適したタンパク質性の蛍光温度プローブを提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、測定対象内のプローブ濃度の変動に左右されずに温度の定量的画像化を可能にする温度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、温度感受性が異なる2種以上の蛍光物質を融合した温度プローブを用いることにより、測定対象内のプローブ濃度の変動に左右されずに温度の定量的画像化を可能にすることを見出した。
【0011】
本発明は、以下の蛍光温度プローブおよびそれを用いた温度測定装置を提供するものである。
項1. 20〜50℃の範囲で相対蛍光強度が大きく変化する温度感受性蛍光タンパク質と、相対蛍光強度の変化が小さい基準蛍光物質を一定の比率で連結してなる蛍光温度プローブ。
項2. 前記基準蛍光物質が、相対蛍光強度の変化が小さい蛍光タンパク質である、項1に記載の蛍光温度プローブ。
項3. 温度感受性蛍光タンパク質と基準蛍光物質の相対蛍光強度の差が0.2〜0.7程度である、項1または2に記載の蛍光温度プローブ。
項4. 温度感受性蛍光タンパク質が、mSEGFP、mOrange、TagRFP、mCherry、EBFP、SECFPまたはSiriusである、項1〜3のいずれかに記載の蛍光温度プローブ。
項5. 基準蛍光物質が、Topaz、EYFP、Venus、DsRed、Cy3、Cy5、FITC、ローダミン、FAM、TxR、ペリジニンクロロフィリンタンパク質、カスケードブルー、AMCA、反応性インドカルボシアニン、TRITC、アロフィコシアニン(APC)、フィコシアニン(PC)、DAPI、HEX(4,5,2',4',5',7'-ヘキサクロロ-6-カルボキシフルオレセイン)、5-IAF、TAMRA(6-カルボキシテトラメチルローダミン)、TET(4,7,2',7'-テトラクロロ-6-カルボキシフルオレセイン)からなる群から選ばれる、項1〜4のいずれかに記載の蛍光温度プローブ。
項6. 項1〜5のいずれかに記載の蛍光温度プローブを含む温度測定装置。
項7. 前記蛍光温度プローブと、前記蛍光温度プローブを励起させる手段と、温度プローブの励起によって生じた蛍光スペクトルを検出する手段と、検出されたスペクトルから温度を演算する手段と、演算された温度を表示する手段とを備えた、項6に記載の温度測定装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電界下および磁界下でも高精度に温度を測定することができ、かつ温度特性曲線の作成および温度校正を容易に行なうことができる蛍光温度プローブおよびそれを用いた温度測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】温度の影響を受けやすい青色蛍光タンパク質。左側:AはSirius、BはSECFP、CはEBFPの蛍光スペクトルを示す。右側:低温→高温、高温→低温の蛍光強度の変化を示す(●が低温→高温、○が高温→低温)。
【図2】温度の影響を受けにくく安定している黄色蛍光タンパク質。左側:AはTopaz、BはEYFP、CはVenusの蛍光スペクトルを示す。右側:低温→高温、高温→低温の蛍光強度の変化を示す(●が低温→高温、○が高温→低温)。
【図3】青色蛍光タンパク質と黄色蛍光タンパク質の変化量の中間に位置している蛍光タンパク質。左側:AはDsRed、BはmSEGFP、CはmOrange、DはTagRFP、EはmCherryの蛍光スペクトルを示す。右側:低温→高温、高温→低温の蛍光強度の変化を示す(●が低温→高温、○が高温→低温)。
【図4】Fluorescein (Ex: 479 nm/Em: 500-608 nm) の温度感受性。左側:Fluoresceinの蛍光スペクトルを示す。右側:低温→高温、高温→低温の蛍光強度の変化を示す(●が低温→高温、○が高温→低温)。
【図5】円順列変異体Venus (Ex: 500 nm/Em: 515-650 nm) の温度感受性。左側:Aはcp147 Venus、Bはcp 148 Venus、Cはcp173 Venusの蛍光スペクトルを示す。右側:低温→高温、高温→低温の蛍光強度の変化を示す(●が低温→高温、○が高温→低温)。
【図6】融合蛍光タンパク質の規格化蛍光強度レシオの変化。
【図7】遺伝子コードされた蛍光温度センサを用いた細胞内温度イメージング。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1つの好ましい実施形態において、本発明は蛍光強度の温度感受性が異なる少なくとも1種の蛍光タンパク質(温度感受性蛍光タンパク質)と少なくとも1種の基準蛍光物質を共有結合又は複合体化(金属錯体、或いはアビジン-ビオチンなどにより結合)したものが挙げられる。
【0015】
「温度感受性蛍光タンパク質」とは、20℃を基準にしたときの50℃の相対蛍光強度が、0.8以下、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.5以下、特に好ましくは0.4以下、特に0.2〜0.4である。温度感受性蛍光タンパク質の相対蛍光強度は、小さいほど好ましい。
【0016】
「基準蛍光物質」とは、20℃を基準にしたときの50℃の相対蛍光強度が、1に近いか、1よりも大きい蛍光物質をいう。一般の蛍光性の化学物質、例えばTopaz、EYFP、Venus、DsRed、Cy3、Cy5、FITC、ローダミン、FAM、TxR、ペリジニンクロロフィリンタンパク質、カスケードブルー、AMCA、反応性インドカルボシアニン、TRITC、アロフィコシアニン(APC)、フィコシアニン(PC)、DAPI、HEX(4,5,2',4',5',7'-ヘキサクロロ-6-カルボキシフルオレセイン)、5-IAF、TAMRA(6-カルボキシテトラメチルローダミン)、TET(4,7,2',7'-テトラクロロ-6-カルボキシフルオレセイン)などは、温度変化による蛍光強度の変化は小さいかほとんど或いは全く無く、基準蛍光物質として使用できる。さらに、Topaz、EYFP、Venus、DsRedなどは、相対蛍光強度が1に近いため、「基準蛍光物質」として使用することができる。「基準蛍光物質」の20℃を基準にしたときの50℃の相対蛍光強度は、0.6〜1.5、好ましくは0.7〜1.4、より好ましくは0.8〜1.3、特に好ましくは0.85〜1.2である。
【0017】
本発明の蛍光温度プローブにおいて、温度感受性蛍光タンパク質と基準蛍光物質の相対強度の差は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上、特に好ましくは0.5以上、特に0.6〜0.8である。相対蛍光強度の差は、大きいほど温度変化が鋭敏に測定できるので好ましい。
【0018】
温度感受性蛍光タンパク質と基準蛍光物質の好ましい組み合わせとしては、以下のものが挙げられる。
Sirius-Venus、Venus-Sirius、Sirius-DsRed、DsRed-Sirius、Topaz-Sirius、Venus-mCherry、mCherry-Venus
SECFP-Venus、Venus-SECFP、SECFP-DsRed、DsRed-SECFP、Topaz-SECFP
EBFP-Venus、Venus-EBFP、EBFP-DsRed、DsRed-EBFP、Topaz-EBFP
Sirius-EYFP、EYFP-Sirius、EYFP-mCherry、mCherry-EYFP、SECFP-EYFP、EYFP-SECF、EBFP-EYFP、EYFP-EBFP
Sirius: ACCESSION AB444952
mseCFP: ACCESSION AB435576
Venus: Nature Biotechnology 20, 87 - 90 (2002)
mCherry, mOrange: PNAS June 11, 2002 vol. 99 no. 12 7877-7882
EGFP, EFYP: Science Vol. 273. no. 5280, pp. 1392 - 1395
本発明の蛍光温度プローブは、従来提供されていなかった20〜50℃の範囲において、相対蛍光強度の差により温度を測定できるものであるが、0〜100℃程度、好ましくは5〜80℃、より好ましくは10〜60℃の範囲において温度を良好に測定できる。より高温で温度を測定する場合、他の温度プローブと組み合わせることが可能である。100℃以上のような高温での温度測定に好適なセンサとしては、例えば温度により伸縮する網目状のポリマー内に蛍光分子を入れておき、温度が高くなると水が放出されて光るシステムなどが挙げられる。
【0019】
基準蛍光物質が蛍光タンパク質の場合には、少なくとも1つの温度感受性蛍光タンパク質と少なくとも1つの基準蛍光物質を直接或いは適当な長さのリンカーペプチドを介して結合することにより、相対蛍光強度の異なる2つの蛍光タンパク質を1:1、2:1、1:2などの所定の比率(特に1:1)で連結することができる。本発明では、基準蛍光物質と温度感受性蛍光タンパク質の相対蛍光強度の違いにより温度を測定するため、これらの相対比率が一定であることが望ましい。なお、基準蛍光物質と温度感受性蛍光タンパク質を化学的に二価の連結基を介して結合したり、ビオチン-アビジン系を用いて複合体化する場合、基準蛍光物質と温度感受性蛍光タンパク質の比率が確定しない場合があり得るが、このような場合でも、所定の温度における相対蛍光強度を測定することにより、両者の比率を推定でき、蛍光温度プローブとして使用できる。
【0020】
蛍光タンパク質が酵母などの真核細胞で発現されて糖鎖を有する場合、これを過ヨウ素酸塩などの酸化剤でアルデヒドに導き、アミノ基を有する基準蛍光物質と反応させてもよい。或いは、NHS基とマレイミド基を有する二価の連結基を用いて基準蛍光物質と温度感受性蛍光タンパク質を連結してもよい。
【0021】
本発明の特に好ましい実施形態は、20℃を基準にしたときの50℃の相対蛍光強度の差が大きい温度感受性蛍光タンパク質と、基準蛍光物質となる蛍光タンパク質を直接又は適当な長さのペプチドリンカーで連結し、大腸菌等の微生物で発現させて得た温度プローブであり、測定対象内のプローブ濃度の変動に左右されずに温度の定量的画像化を可能にすることを特徴とする。
【0022】
本発明は、さらに、上記温度プローブを励起させる手段と、温度プローブの励起によって生じた蛍光スペクトルを検出する手段と、検出されたスペクトルから温度を演算する手段と、演算された温度を表示する手段とを備えた温度測定装置であることを特徴とする。
【0023】
上記プローブの励起波長は、図1〜4に示す。
【0024】
本発明で使用できる温度プローブを励起させる手段としては、蛍光タンパク質ないし蛍光分子を励起可能な光源であれば特に限定されず、レーザー光源が好ましく使用される。蛍光スペクトルを検出する手段としては、CCDカメラ、CMOSカメラ、フォトマルチプライヤーなどが挙げられる。
【0025】
本発明の温度プローブは、例えば2つの蛍光タンパク質を連結した融合タンパク質タイプのものは、細胞内に組み込むことで、細胞の温度を測定することができる。融合タンパク質をミトコンドリアなどの特定の器官内で発現させることにより、特定の器官(オルガネラ)の温度を測定することもできる。例えば2つの蛍光タンパク質を連結した融合タンパク質を発現させたトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、表面もしくは深部の細胞の温度を測定することができる。なお、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の深部の細胞の温度は、例えば二光子顕微鏡を用いて測定できる。
【0026】
或いは、本発明の温度プローブは、光透過性の樹脂に練り込み、フィルム、シート、或いは成形体としてもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
略号
本明細書では、以下の略号が用いられる。
BFP blue fluorescent protein
cAMP cyclic adenosine monophosphate
CaM calmodulin
CFP cyan fluorescent protein
DNA deoxyribonucleic acid
EGTA ethylene glycol tetraacetic acid
EGFP enhanced green fluorescent protein
FRET Forster resonance energy transfer
FASTR fully automated single-tube recombination
GFP green fluorescent protein
MDCK Madin Darby canine kidney
MOPS 3-morpholinopropane sulfuric acid
mono monomeric
LB Luria Bertani
PBS phosphate buffered saline
PCR polymerase chain reaction
TN-XL troponinC-based biosensor
Wt wild-type
YC3.60 yellow cameleon 3.60
mYFP monomeric yellow fluorescence protein

実施例1:GFP変異体の温度感受性
蛍光タンパク質の様々な波長変異体における蛍光強度の温度感受性を測定した。その結果、蛍光タンパク質の種類により、蛍光強度の温度感受性が大きく異なることを見出した (表1) 。
【0028】
【表1】

【0029】
全体的な傾向として、青色系の蛍光タンパク質(Sirius、SECFP、EBFP)は、温度の影響を受けやすいことが分かった。
【0030】
Siriusの場合は、20℃から50℃に温度を上げた時、蛍光強度が1から0.36へ下がった。本研究で測定した蛍光タンパク質の中でSiriusは最も温度感受性の高い蛍光タンパク質である (図1A)。SECFP (図1B) やEBFP (図1C)も同様に高い温度感受性を示し、20℃の時の蛍光強度を1とした場合の50℃での蛍光強度はそれぞれ0.37と0.39であった。
【0031】
黄色系の蛍光タンパク質(Topaz、EYFP、Venus)は、温度の影響を受けにくく、温度に対して蛍光強度が安定していることが明らかになった (表1)。
【0032】
Topazは、本発明者が測定した中では温度の変化に対して蛍光強度が最も安定している蛍光タンパク質であった。20℃で測定したTopazの蛍光強度を1とすると、50℃では蛍光強度は1.09となった (図2A)。EYFPとVenusは、20℃の時の蛍光強度で規格化した50℃の時の蛍光強度がそれぞれ0.89 (図2B)と0.83 (図2C)であった。
【0033】
また、赤色系の蛍光タンパク質(DsRed、mOrange、TagRFP、mCherry)と緑色蛍光タンパク質(mSEGFP)では、これまでの計測したタンパク質の中間的な値を示した。20℃で測定した蛍光強度を1とした時の50℃で蛍光強度は、それぞれ、0.79 (図3A)、0.60 (図3B)、0.59 (図3C)、0.54 (図3D)、0.65 (図3E)であった。
【0034】
一方で、蛍光タンパク質以外の蛍光物質の代表例としてフルオレセインの温度感受性も解析した。20℃で測定したフルオレセインの蛍光強度を1とした時、50℃での蛍光強度は0.91であり、ほとんど変化しなかった (図4)。
【0035】
また、比較的温度に対する蛍光強度の変化が少なかった黄色蛍光タンパク質について、円順列変異体の温度感受性について測定を行った。cp147 Venus、cp148 Venus、cp173 Venusについて、20℃の時の蛍光強度を1とした時に、50℃の時の蛍光強度は、それぞれ、0.69、0.76、0.90であった (図5)。
【0036】
なお、円順列変異体とは、タンパク質を任意の部位で切断し、N末端断片とC末端断片とを入れ替えてつなげる変異体である。このようにして作成された変異体は、元のタンパク質とほぼ同等の機能を有することが多いが、今回の実験結果は、数種類の円順列変異体において異なる温度感受性を示すものであった。このような例は報告が無く、今後温度センサを開発する上で重要な知見となるものである。
【0037】
ここまで得られた結果から、温度の影響を受けやすい蛍光タンパク質(Sirius、mCherry)と温度の影響を受けにくく安定している蛍光タンパク質(Venus、Topaz、mOrange)を組み合わせることで、温度に対して蛍光強度がレシオメトリックに変化するプローブが実現可能か検討した。温度感受性の高い蛍光タンパク質と温度感受性の低い蛍光タンパク質をフレキシブルなリンカーアミノ酸(Gly-Gly-Ser)でつなぎ、以下の組合せの温度センサーを作成した(Topaz-Sirius、Sirius-Venus、Venus-Sirius、Sirius-mOrange、mOrange-Sirius、Venus-mCherry、mCherry-Venus)。これらの温度センサーを、分光高度計の中で20℃から50℃に温度を変化させ、プローブのそれぞれの蛍光タンパク質の蛍光強度の変化を測定した(図6)。その結果、最も大きな変化率を見せたTopaz-Siriusにおいて、128%のダイナミクレンジを達成した(表2)。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例2
温度の影響を受けやすい蛍光タンパク質(Sirius, mCherry)と温度の影響を受けにくく安定している蛍光タンパク質(Venus, Topaz, mOrange)をアミノ酸(Gly-Gly-Ser)で繋げ、2波長励起で蛍光強度を測定した。縦軸は規格化蛍光強度レシオ、横軸は温度を示す。
【0040】
細胞内(HeLa細胞)で2つの蛍光タンパク質を発現させて、細胞周囲の温度を変化させながらそれぞれの蛍光タンパク質からの蛍光強度を測定後、蛍光強度比でイメージングを行った。
【0041】
図6で得られた結果に比べて、温度変化による蛍光強度比の変化は小さかったが、25℃〜35℃の範囲内で、HeLa細胞の温度を測定できることが明らかになった
以上の実施例から、蛍光タンパク質の温度に対する感受性は、蛍光タンパク質の種類により大きく異なることが明らかになった。そこで、最も感受性の高いタンパク質と低いタンパク質を組み合わせることで、感度の高い温度プローブを開発することに成功した。この温度プローブは20℃から50℃へ温度を変化させたときに128%ものダイナミックレンジを示し、温度プローブとして十分な性能を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の温度プローブは、細胞で用いる際の指標となるダイナミックレンジにおいて、十分な数値を達成している。この温度プローブを用いて、褐色脂肪細胞のミトコンドリアにおける熱産生のメカニズムを検討することができる。
【0043】
またこれ以外にも、例えば、生体の温度プローブである温度依存性チャネル(TRPV)の動態を細胞内で可視化したり、ミトコンドリアのUCP以外での熱産生を探索したりするなど、様々な応用例が考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20〜50℃の範囲で相対蛍光強度が大きく変化する温度感受性蛍光タンパク質と、相対蛍光強度の変化が小さい基準蛍光物質を一定の比率で連結してなる蛍光温度プローブ。
【請求項2】
前記基準蛍光物質が、相対蛍光強度の変化が小さい蛍光タンパク質である、請求項1に記載の蛍光温度プローブ。
【請求項3】
温度感受性蛍光タンパク質と基準蛍光物質の相対蛍光強度の差が0.2〜0.7程度である、請求項1または2に記載の蛍光温度プローブ。
【請求項4】
温度感受性蛍光タンパク質が、mSEGFP、mOrange、TagRFP、mCherry、EBFP、SECFPまたはSiriusである、請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光温度プローブ。
【請求項5】
基準蛍光物質が、Topaz、EYFP、Venus、DsRed、Cy3、Cy5、FITC、ローダミン、FAM、TxR、ペリジニンクロロフィリンタンパク質、カスケードブルー、AMCA、反応性インドカルボシアニン、TRITC、アロフィコシアニン(APC)、フィコシアニン(PC)、DAPI、HEX(4,5,2',4',5',7'-ヘキサクロロ-6-カルボキシフルオレセイン)、5-IAF、TAMRA(6-カルボキシテトラメチルローダミン)、TET(4,7,2',7'-テトラクロロ-6-カルボキシフルオレセイン)からなる群から選ばれる、請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光温度プローブ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光温度プローブを含む温度測定装置。
【請求項7】
前記蛍光温度プローブと、前記蛍光温度プローブを励起させる手段と、温度プローブの励起によって生じた蛍光スペクトルを検出する手段と、検出されたスペクトルから温度を演算する手段と、演算された温度を表示する手段とを備えた、請求項6に記載の温度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−177549(P2012−177549A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149338(P2009−149338)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)