説明

蛍光測定装置、ウェルの製造方法

【課題】 例えばTaq Man PCR法で実現されているようなウィルス感染検査の感度と同等の感度を実現可能な蛍光測定装置等を提供する。
【解決手段】 ウェル3は、内部に反応溶液15を保持可能である。ウェル3は、反応溶液と接する側から、内部樹脂層19および外部樹脂層23の二層構造で構成される。ここで、内部樹脂層19の屈折率は、外部樹脂層23よりも高い。また、導波路9は、中央部にコア部25が設けられ、コア部25を覆うように外周部にクラッド部27が設けられる。コア部25を構成する樹脂の屈折率は、クラッド部27を構成する樹脂の屈折率よりも高い。ウェル3と導波路9との接合部では、内部樹脂層19とコア部25とが接合される。また、外部樹脂層23とクラッド部27とが接合される。したがって、内部樹脂層19内に封じ込められた光は、コア部25に導出され、コア部25内を伝播する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光測定PCR(Polymerase Chain Reaction)装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PCR法は、ごく微量のDNAから目的とするDNA領域を短時間で増殖する方法として知られている。その原理は、2本鎖DNA上の2つの既知配列を利用して、相互いの合成方向が向かい合うような2つのプライマDNAを設計する。
これらのプライマに挟まれた領域のDNAが合成されると、それが次のサイクルでは鋳型になる。このような反応を繰り返すことで、DNA鎖を幾何級数的に増幅することができる。1985年に発見されたこの方法は、耐熱性酵素の利用により、爆発的に普及した。
【0003】
図11は、PCR法によりDNA増幅の態様を示す概念図である。まず、図11(a)に示すような増幅させたいDNA領域を有する鋳型DNAが、2種のプライマと、例えば耐熱性DNAポリメラーゼ、dNTP(dATP、dCTP、dGTP、dTTPの混合物)をバッファ液とともに反応溶液中に入れられる。
【0004】
この状態で、例えば95℃で2分程度保持することで、図11(b)に示すように、熱変性により鋳型DNAが一本鎖に分離される。
【0005】
その後、温度を下げて、例えば50℃で1分間保持することで、図11(c)に示すように、プライマ101a、101bをDNA鎖に結合(ハイブリダイズ)させる。
【0006】
次に、DNAポリメラーゼの酵素反応の最適温度(例えば72℃)で1分保持することで、プライマ101a、101bで挟まれたDNA領域に、DNAポリメラーゼによる相補DNA鎖が合成される。以上により、プライマ101a、101bで挟まれたDNA領域を2倍に増幅することができる。
【0007】
以上のサイクルを繰り返すことで、当初反応液中に存在していたDNA分子の中で、二つのプライマで挟まれた特定の領域のみを大量に増幅することができる。
【0008】
このような反応中にPCR反応を検知することが可能なリアルタイムPCR法という。また、蛍光標識を用いたリアルタイムPCR法には、インターレーション法やハイブリダイゼーション法があるが、ハイブリダイゼーション法の方がインターカレション法よりも非特異的増幅の確立が低く、目的とする遺伝子鎖の増幅効率が高くなることが知られている。以上の他、以下のヘアピンプライマPCR法などが、知られている。
【0009】
図12は、ヘアピンプライマPCR法の概念図である。この方法では、図12(a)に示すように、プライマの末端にヘアピン構造を形成するDNA配列を付加したヘアピンプライマ103が用いられる。ヘアピン領域には低分子が特異的に結合するシトシンバルジ領域が導入されている。また、PCR前には、シトシンバルジに結合すると蛍光を発する低分子化合物が結合されている。
【0010】
図12(b)に示すように、ポリメラーゼ107によるDNA鎖の合成が進行し、PCRによりヘアピンプライマ103のヘアピン構造が開かれると、シトシンバルジ構造が消失する。このため蛍光色素105が遊離する。したがって、蛍光強度が低下する。すなわち、反応系の蛍光を検出することで、PCRの進行を把握することができる。
【0011】
リアルタイムPCRに関しては、例えば、伸長性の優れたDNAポリメラーゼをPCRに用いることにより、より短時間で遺伝子を検出することが可能な遺伝子の増幅方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−239880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図13は、このようなリアルタイムPCRによって、蛍光を測定するためのウェル近傍を示す概略図である。まず、図13(a)に示すように、ウェル109内に前述した各種の構成を含む反応溶液113が入れられる。この状態で、上方より照射・受光部111より光を照射する(図中矢印I方向)。照射・受光部111は、例えば光ファイバであり、図示を省略した光源および蛍光測定器に接続されている。
【0014】
光が照射された反応溶液からは、PCRの進行に応じた蛍光が発生(消失)する。図13(b)は、仮に蛍光発生中心115を蛍光の発生する中心であるとした場合に、蛍光の発生する状態を示す模式図である。蛍光発生中心115から発生する蛍光は、蛍光発生中心115を中心に全方向に(蛍光発生中心115を中心とする球体を仮定した場合の球面方向に対して)略均一に発生する(図中矢印J方向)。
【0015】
この際、例えば照射・受光部111の受光面と蛍光発生中心115との距離をLとすると、仮想受光面117(半径Lの球体の表面積)は、4πLで表わされる。すなわち、ウェル109での反射等を無視すれば、反応溶液から発生した蛍光は、4πLの表面積を有する仮想受光面117の表面全体に均一に到達する。
【0016】
ここで、照射・受光部111の受光面の面積をaとすれば、実際に発生した蛍光の内、受光できる蛍光の量は、全体の4πLの面積の内、面積aの受光可能領域119(図中におけるハッチング部)のみとなる。すなわち、それ以外の方向に進んだ蛍光は、受光されることなく散逸する。
【0017】
ここで、照射・受光部111の径を5mmΦとし、距離Lを10mmとする。すると、仮想受光面117の全表面積(4×π×10)は、1257mm程度となる。また、受光面の面積は(π×2.5)は、約20mm程度となる。したがって、発生した蛍光に対して、20/1257=約1.6%程度となる。
【0018】
このように、従来の蛍光測定装置においては、実際に生じた蛍光のほとんどが外部に漏れ出しており、発生した蛍光の内、わずかしか受光することができない。すなわち、蛍光を受光する効率が極めて悪い。したがって、例えば、医療分野において、被検査サンプル中の抗原(例えばウィルス)量が十分でないと検出精度を確保することが困難である。
【0019】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、例えばTaq Man PCR法で実現されているようなウィルス感染検査の感度(15IU/μL)と同等の感度を実現可能な蛍光測定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前述した目的を達するために第1の発明は、蛍光測定PCR装置であって、反応溶液を保持するウェルと、前記ウェルの外周部に配置され、反応溶液の温度を調整可能なヒータと、前記ウェル内の反応溶液に光を照射する光源と、前記ウェルの下方に接続される導波路と、前記ウェル内で発生する蛍光を測定する蛍光測定器と、を具備し、前記ウェルは、少なくとも外部樹脂層と、内部樹脂層の二層構造であり、前記内部樹脂層の屈折率は、前記外部樹脂層の屈折率よりも大きく、前記導波路は、内部に前記内部樹脂層と同一の材質からなるコア部と、外部に前記外部樹脂層と同一の材質からなるクラッド部を有し、前記ウェルの下部において前記外部樹脂層が除去され、露出する前記内部樹脂層に前記コア部が接合され、前記ヒータによって温度を調整することで、反応溶液中でDNAの分離、抽出および増幅を行うことができ、前記ウェル内で発生した蛍光を、前記内部樹脂層に封じ込めて前記コア部に導出し、さらに光学フィルタを介して前記蛍光測定器によって測定可能であることを特徴とする蛍光測定装置である。
【0021】
前記ウェルは複数配置され、前記導波路は光スイッチに接続され前記光スイッチによって、それぞれの前記ウェルからの蛍光を切り替えることで、前記蛍光測定器で複数の前記ウェルの蛍光を測定可能であることが望ましい。
【0022】
前記ウェルの上端面には、反射膜が形成されてもよい。前記ウェルを構成する樹脂は、内部樹脂層としては、たとえば、耐熱性を有するポリカーボネート樹脂、変性ポリカーボネート樹脂、ポリアミド、高Tg成分モノマーとのアクリル系重合体、ノルボルネン系樹脂、シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂などを用いることができ、また、外部樹脂層には、一般的にはフッ素系樹脂やポリアミドを用いることができる。また、耐熱性としての使用温度条件が厳しくない場合には、内部樹脂層としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの汎用熱可塑樹脂を用いることもあるが、PCR用としては、上記の耐熱樹脂を用いることが望ましい。
【0023】
第1の発明によれば、ウェルの周囲に温調可能なヒータが設けられるため、DNAの分離、抽出、増幅および蛍光の測定を連続して行うことができる。ここで、用いるヒータは、ウェル毎に独立した形状のヒータでも、ウエルを収納するブロック全体をほぼ均一に加熱するヒータブロックであっても良い。
【0024】
また、ウェルが二層構造で構成され、内部樹脂層の屈折率を外部樹脂層の屈折率よりも大きくすることで、ウェル内に入れられた反応溶液中からの蛍光をウェルの内部樹脂層に封じ込めることができる。また、内部樹脂層がウェルの下部で導波路に接続されるため、蛍光を導波路に導入することができる。したがって、導波路に接続された蛍光測定器で蛍光を効率良く測定することができる。
【0025】
また、複数のウェルで発生する蛍光を、光スイッチで切り替えることで、高価な光学フィルタおよび蛍光測定器を各ウェルごとに設置する必要がない。
【0026】
また、ウェルの上端面に反射膜を形成することで、内部樹脂層内の蛍光がウェルの上端面から漏れてしまうことがない。また、ウェルを構成する樹脂として、コア材の樹脂としては、ポリカーボネート(耐熱温度125−135℃)、変性ポリカーボネート(耐熱温度145℃)、高Tg成分モノマーとのアクリル系重合体、ノルボルネン系樹脂(耐熱温度150℃)、シリコーン樹脂(150−170℃)、架橋アクリル樹脂(耐熱温度175℃)から選択することで、PCRにおける熱でウェルが損傷することがない。また、コア材にPMMAを用いても、クラッド材にα―フルオロアクリレート系樹脂を用いたプラスチック光ファイバを用いれば、耐熱性を向上させることができる。
【0027】
尚、本装置を加熱の必要がない試験に用いる場合には、コア材として、最も一般的に使用されているPMMA、ポリスチレンなどを用いた汎用プラスチックファイバを用いることができる。
【0028】
上述のコア材に対しては、各樹脂材料より、屈折率が低く、コア材との相溶性あるいは親和性に優れ、さらに耐熱性に優れる樹脂ならば、いかなる樹脂をも用いることができる。
【0029】
第2の発明は、蛍光測定PCR装置で用いられるウェルの製造方法であって、外部樹脂層と、前記外部樹脂層よりも屈折率が大きな内部樹脂層の二層構造となるように、ウェル本体の形状を成形し、前記ウェル本体の下部の前記外部樹脂層を除去して、前記内部樹脂層を露出させ、内部に前記内部樹脂層と同一の材質からなるコア部と、外部に前記外部樹脂層と同一の材質からなるクラッド部を有する導波路を用い、露出した前記内部樹脂層に前記コア部を接合し、前記外部樹脂層に前記クラッド部を接合することを特徴とするウェルの製造方法である。
【0030】
第2の発明によれば、高感度な測定が可能なウェルを容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、例えばTaq Man PCR法で実現されているようなウィルス感染検査の感度(15IU/μL)と同等の感度を実現可能な蛍光測定装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】蛍光測定装置1を示す概略図。
【図2】(a)はウェル3の拡大図であり、(b)は屈折率の分布図。
【図3】ウェルの断面拡大図であり、(a)は図1のA部拡大図、(b)は図2のB部拡大図。
【図4】ウェルで受光可能な領域を示す概念図。
【図5】ウェルの製造方法を示す図。
【図6】PCR測定の温度サイクルを示す概念図。
【図7】他の実施形態を示す図で、蛍光測定装置1aを示す概略図。
【図8】光スイッチ47を示す図。
【図9】(a)は図8のE−E線断面図、(b)は図8のF−F線断面図。
【図10】導波路9aとファイバ57との接続部の拡大図。
【図11】PCRの工程を示す概念図。
【図12】ヘアピンプライマを用いたPCRの工程を示す概念図。
【図13】従来の受光領域を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、蛍光測定装置1を示す概略図である。蛍光測定装置1は主に、複数のウェル3a、3b、・・・、3nと、複数の光源5a、5b、・・・、5nと、導波路9a、9b、・・・、9nと、光学フィルタ11a、11b、・・・、11nと、蛍光測定器13a、13b、・・・、13nおよび各ウェルの温度調整を行うヒータ7等から構成される。なお、簡単のため、図ではウェルは3つのみ示すが、例えば、一つのプレート上には96個のウェルが配置される。
【0034】
ウェル3a、3b、・・・、3n(以下、総称してウェル3とする)は、内部に反応溶液15を保持可能である。ウェル3は、反応溶液を保持する部位の高さが約10mmであり、外径が約8〜10φ程度である。また、ウェル3の下部にはそれぞれ約3〜4mm程度の導波路9a、9b、・・・、9n(以下、総称して導波路9とする)が接合される。
【0035】
ウェル3の上方には光源5a、5b、・・・、5n(以下、総称して光源5とする)がそれぞれ配置される。光源5は、それぞれのウェル3内の反応溶液に所定の波長の光を照射する。光源5としては、レーザやLED等を用いることができる。
【0036】
図2(a)は、ウェル3の拡大図であり、図2(b)はウェルを含む屈折率の分布図である。また、図3(a)は、図2のA部拡大図である。ウェル3は、反応溶液と接する側から、内部樹脂層19および外部樹脂層23の二層構造で構成される。ここで、図2(b)に示すように、内部樹脂層19の屈折率は、外部樹脂層23よりも高い。
【0037】
図2(b)のLは反応溶液15の領域の屈折率であり、Mは内部樹脂層19の屈折率であり、Nは外部樹脂層23の屈折率である。なお、Nの両側は空気層であり、屈折率は1.0である。反応溶液15の屈折率は、使用する溶液によるが、例えば、1.4〜1.55程度である。また、内部樹脂層19の屈折率は、例えば1.50〜1.70程度であり、外部樹脂層23の屈折率は、例えば、1.48以下程度である。すなわち、内部樹脂層19の内部に光を封じ込めることが可能である。
【0038】
なお、ウェル3は、例えば、内部樹脂層は、耐熱性を有するポリカーボネート樹脂、変性ポリカーボネート樹脂、ポリアミド、高Tg成分モノマーとのアクリル系重合体、ノルボルネン系樹脂、シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂等の例えば110℃以上(さらに望ましくは120℃以上)の耐熱性を有する樹脂中から、反応溶液等に対する耐薬品性を考慮して選定した材質で構成する。外部樹脂層には、一般的にはフッ素系樹脂やポリアミドを用いる。また、屈折率の調整は、各層を構成する樹脂材質を変更することにより行ってもよく、または、同材質の母材に適宜添加剤を添加してもよい。
【0039】
また、図3(b)は図2のB部拡大図である。導波路9は、中央部にコア部25が設けられ、コア部25を覆うように外周部にクラッド部27が設けられる。コア部25を構成する樹脂の屈折率は、クラッド部27を構成する樹脂の屈折率よりも高い。例えば、コア部25は内部樹脂層19と同一の材質で構成され、クラッド部27は外部樹脂層23と同一の材質で構成される。なお、導波路9としてはプラスチックファイバを用いてもよい。
【0040】
ウェル3と導波路9との接合部では、内部樹脂層19とコア部25とが接合される。また、外部樹脂層23とクラッド部27とが接合される。したがって、内部樹脂層19内に封じ込められた光は、コア部25に導出され、コア部25内を伝播する。
【0041】
ウェル3の上端面には、反射膜17が設けられる。反射膜17は、ウェル3(内部樹脂層19)内の光が、ウェル3の上端から漏れだすことを防止するものである。反射膜17としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ニオブなどの物質を蒸着などによって形成すればよい。または、反射膜成分を塗布してもよい。反射膜17の形成方法は問わない。
【0042】
ウェル3の外周部には、ヒータ7が設けられる。ヒータ7は、図示を省略した制御部に接続されており、ウェル3内部の反応溶液の温度調整が可能である。ヒータ7としてはヒータブロックを配置してもよく、抵抗加熱などのヒータを用いてもよい。
【0043】
導波路9には、それぞれ光学フィルタ11a、11b、・・・、11n(以下、総称して光学フィルタ11とする)が接続され、さらに光学フィルタ11を介して蛍光測定器13a、13b、・・・、13n(以下、総称して蛍光測定器13とする)と接続される。光学フィルタ11は、反応溶液15内で発生する蛍光成分以外の光(例えば照射光成分)を除去するものである。光学フィルタ11を通過した蛍光は、各蛍光測定器13で測定される。
【0044】
すなわち、ウェル3内部の反応溶液15では、ヒータ7による温度調整によって、前述したDNAの増幅が行われる。この際観察される蛍光成分はウェル3内部の内部樹脂層19内に封じ込められる。内部樹脂層19内の蛍光は、導波路9に導出されて光学フィルタ11を介して光測定器13で測定される。以上により、蛍光の増減をリアルタイムで監視することができる。
【0045】
図4は、図13と同様に、ウェル3を用いた場合における反応溶液中から発生した蛍光の拡散状態を示す図である。ここで、光源5から蛍光発生中心29までの距離をLとする。光源5から光を反応溶液に照射すると、反応溶液から発生する蛍光は、蛍光発生中心29から全方向に略均一に拡散する(図中矢印C)。
【0046】
蛍光発生中心29から発生した蛍光は、半径Lの球体表面である仮想受光面31の表面全体に略均一に到達する。しかしながら、光源5が受光部を兼ねる場合(図13のように従来の測定の場合)には、受光可能な蛍光は、前述したように受光部の面積に対応する部位のみとなる。
【0047】
一方、本発明では、ウェル3の内面から上方に向かって拡散する蛍光以外は、全てウェル3(内部樹脂層19)に蛍光が封じ込められる。また、前述のように、ウェル3の上面方向には反射膜17が形成されるため、ウェル3内部に封じ込められた光は全てウェル3の下部の導波路9へ出光される。
【0048】
すなわち、本発明のウェル3を用いることで、仮想受光面31において、ウェル3の開口から漏れだす光以外の光を全てウェル3内に封じ込めることができる。このため、仮想受光面31において、受光可能領域33は、ウェル3の開口部以外の全ての方向(図中ハッチングで示した領域)となる。したがって、従来と比較して、極めて効率良く発生した蛍光を測定することができる。
【0049】
次に、ウェル3の製造方法を説明する。図5は、ウェル3の製造工程を示す図である。まず、図5(a)に示すように、ウェル本体35を形成する。ウェル本体3は、前述の通り、内部樹脂層19および外部樹脂層23の二層構造であり、例えば射出成型、あるいはプレス成形、又は樹脂を金型への樹脂の注入より成形されるが、成形方法は、樹脂の種類により、適宜選定すればよい。また、外部樹脂層が2層に構成されていても良い。
【0050】
次に、図5(b)に示すように、ウェル本体35下面の一部を切削して外部樹脂層除去部37を形成する。外部樹脂層除去部37では、内部の内部樹脂層19が露出する。
【0051】
次に、図5(c)に示すように、外部樹脂層除去部37に導波路9を接合する(図中矢印D)。導波路9は、内部にコア部25を有し、外部にクラッド部27を有するように別途、プラスチックファイバと同様に溶融樹脂の線引き工程又は押出成形や射出成型により成形される。導波路9とウェル本体35とは例えば融着によって接合される。また、導波路9には、マルチコア形のプラスチック光ファイバを用いることができる。ここで、マルチコア形のプラスチック光ファイバとして、例えば、コアの周りに第1のクラッドが薄くリング状に取り巻き、その外周に第2のクラッドが海となって取り囲んでいる構造の2重クラッド型マルチクラッドファイバを用いると、ファイバの急峻な曲げに対しても、損失が大幅に減少する。この際、シングルコア型のプラスチックファイバを用いる時には、導波路9の先端には、コア部25が突出するように、あらかじめクラッド部27を僅かにテーパ状に加工してもよい。このようにすることにより、ウェル本体35と導波路9の接続部を滑らかにすることができる。
【0052】
図5(d)に示すように、内部樹脂層19とコア部25とが融着され、同時に、外部樹脂層23とクラッド部27とが融着されることで、ウェル3が製造される。なお、導波路9のコア部25と内部樹脂層19とが、光学的に接合されれば、導波路9とウェル本体との接合方法はこれに限られない。また、導波路9の先端の形状は必ずしもこれに限るものではなく、その他の形状であっても良く、あるいは特に形状加工を行なわずに、そのまま融着しても良い。さらに、導波路のクラッドの外側には、保護用被覆材が設けることもできる。この場合、保護用被覆材としては、ポリエチレン、難燃ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、PVC,ナイロン、フッ素化エチレン、ポリプロピレンなどから使用条件に合わせて適宜選定して用いる。
【0053】
次に、ヒータ7による反応溶液の温度調整のサイクルについて説明する。図6はPCR測定の温度サイクルを示す概念図である。前述したように、増幅サイクル39は、変性工程41、アニーリング工程43、ポリメラーゼ伸長工程45からなる。
【0054】
変性工程41は、約95℃の温度で鋳型DNAを一本鎖に分離する工程である。アニーリング工程43は、約50℃に降温し、プライマをDNAにハイブリダイズする工程である。ポリメラーゼ伸長工程45は、約70℃に昇温し、DNAポリメラーゼの酵素反応により、プライマに挟まれたDNA領域を増幅する工程である。前述したウェル3等を用いたリアルタイム蛍光測定によって、ポリメラーゼ伸長工程の進行を把握することができる。蛍光測定によってプライマに挟まれたDNA領域が2倍に増幅されたと判断されると、増幅サイクル39をさらに繰り返し、DNAの増幅を行うことができる。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態によれば、ウェル3の周囲にヒータ7が配置されるため、反応溶液15の温度を各工程に適した温度に調整することができる。このため、ウェル3の内部のみで増幅サイクルを繰り返すことができる。
【0056】
また、ウェル3が、屈折率の異なる二層構造で形成され、さらにウェル3の下部に導波路9が接合されるため、ウェル3内部から浸入した光をウェル3に封じ込め、導波路9に導出することができる。このため、微量の蛍光であっても従来と比較して極めて感度良く検出することができる。
【0057】
また、ウェル上端面に反射膜17が設けられるため、光がウェル外に漏れ出すことを防止することができる。反射膜17は、ウェルの形状によっては、ウェル底部の曲率の大きな部分において、ウェル外周部に蛍光が外部樹脂層の外周面から漏光した場合でも、外部樹脂層の外周面に反射膜を形成することにより、光がウェル外に漏れ出すことを防止できることから、ウェル底部の曲率の設計の自由度を広げることができる。
【0058】
次に、他の実施の形態について説明する。図7は、第2の実施の形態にかかる蛍光測定装置1aを示す概略図である。なお、以下の説明において、蛍光測定装置1と同様の機能を奏する構成については、図1〜図3等と同様の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0059】
蛍光測定装置1aは、蛍光測定装置1と略同様の構成であるが、光スイッチ47が用いられる点で異なる。光スイッチ47の一方の側には、複数のウェルからの導波路9が接続される。光スイッチ47の他方の側には、光学フィルタ11が接続されており、さらに光学フィルタ11の後方に蛍光測定器13が配置される。
【0060】
光スイッチ47は、入射側の光を切り替えることが可能である。すなわち、導波路9a、9b、・・・、9nのいずれかの導波路と光学フィルタ11(蛍光測定器13)とを光接続するものである。したがって、光スイッチ47を切り替えることで、一つの光学フィルタ11および蛍光測定器13で、複数のウェル内の蛍光を測定することができる。
【0061】
図8は、光スイッチ47の構成を示す概略図であり、図9(a)は図8のE−E線断面図、図9(b)は図8のF−F線断面図である。光スイッチ47は、主に、モータ59、プーリ61、ベルト63、回転体49、軸受け55、固定部51等から構成される。モータ59は、プーリ61、ベルト63を介して回転体を駆動させる駆動部である。モータ59としては、ステッピングモータが使用できるが、位置フィードバック機能を有するサーボモータ等を用いることが望ましい。
【0062】
プーリ61は、モータ59の動力をベルト63に伝達する部位である。なお、ベルト63は歯付きベルトを用いることが望ましく、この場合、プーリ61および後述する回転体49の外周に歯付きベルトに対応した歯型を形成すればよい。
【0063】
回転体49は、軸受け55を介して固定部51の中央に設けた回転軸53に取り付けられる。固定部51は、モータ59によっては動作せず、固定される部位であり、モータ59とは分離して配置される。固定部とモータとを直接接触させると、固定部にモータからの振動が伝達するためである。固定部51と回転体49とは対向するように設けられ、固定部51の回転体49に対する対向面に垂直に形成された軸を中心に回転体49が正逆方向に回転可能である。
【0064】
軸受け55は、回転体49と固定部51との距離が変動することを防ぐため、回転軸方向への変位が少ないものが望まれ、例えば、アンギュラ玉軸受けを用いることができる。
【0065】
なお、回転体49の駆動は、モータでなくてもよく、アクチュエータ等の種々の機器を適用することもできる。また、駆動部と回転体との動力の伝達は、ベルト63に代えて、ギア等を用いてもよい。いずれにしても、回転体49を、固定部51に対して正逆方向に回転させることができればよい。
【0066】
図9(a)に示すように、固定部51側には、回転体49の回転軸53を中心として、同一径の同心円上に、所定間隔をあけて複数の穴が形成される。また、固定部51を貫通するように、導波路9が設けられる。なお、図では簡単のため、導波路9a、9b、9cの3本の例を示すが、光スイッチで切り替えることが可能な導波路数はこれに限定されない。導波路9a、9b、9cは、固定部51の外面側から挿入され、回転体との対向面側の面位置に端面が来るように配置される。
【0067】
また、図9(b)に示すように、回転体49の固定部51との対向面側には、ファイバ57が設けられる。ファイバ57は、固定部51との対向面側の面位置に端面が来るように配置され、さらに、固定部51との対向面における導波路9a、9b、9cの径方向位置と対応する位置に設けられる。すなわち、回転体49を所定の位置に回転させることで、ファイバ57の端部を導波路9a、9b、9cのいずれかの端部位置に対向配置させることができる。
【0068】
図10は、図8のG部拡大断面図である。回転体49内に設けられ、固定部側の端面と同一面にファイバ57の端面が配置される。同様に、固定部51を貫通し、回転体側の端面と同一面に導波路9a(9b、9c)の端面が配置される。回転体49を所定の位置に回転させると、図10に示すように、導波路9aとファイバ57とが対向するように位置する。また、回転体49と固定部51との間には、ギャップ65が形成されるため、回転体49の回転時に回転体49と固定部51とが接触することがない。なお、回転体49と光学フィルタ11との間も同様の構成としてもよい。
【0069】
導波路9aとファイバ57とが対向する位置で回転体49の動作を止め、導波路9a側から蛍光が送られると(図中矢印H方向)、ファイバ57の端面から光が入光する(図中矢印I方向)。すなわち、導波路9aとファイバ57とが光学的に接続される。
【0070】
なお、ギャップ65は、部材や動作の精度から、数10μm〜数100μmであり、望ましくは10〜100μm程度である。
【0071】
なお、ギャップ65において、導波路9aから対向する位置のファイバ57に入光せずに、ギャップ65で漏れた光が、隣り合う他の導波路9b、9cに入光することを防ぐため、回転体49と固定部51との対向面には、光の反射を抑制する反射防止膜のコーティングや梨時処理等を施すことが望ましい。
【0072】
また、図8に示すように、ファイバ57は、固定部51との対向面側の導波路9a、9b、9cとの対向位置から、固定部51との対向面と逆側の面の回転中心位置まで、回転体49内部で略S字状に湾曲して内蔵される。なお、ファイバ57のそれぞれの端部においては、ファイバ57は回転体49の回転軸方向に平行に向けて配置されている。また、回転体49内部におけるファイバ57の曲率半径は、ファイバ57の光の伝送損失を考慮して決定される。また、ファイバ57の曲率半径は、直線部を除き一定で、滑らかな曲線であることが望ましい。
【0073】
回転体49の、固定部51との対向面と逆側の面の略中央には光学フィルタ11が設けられる。また光学フィルタ11の後方には蛍光測定器13が設けられる。ファイバ57の端部は、光学フィルタ11と光接続される。したがって、ファイバ57に導入された光は、光学フィルタ11を介して蛍光測定器13で測定される。
【0074】
この状態から、所定角度(導波路9a、9b、9cの配置角度)ずつ回転体49を回転させ、対応するそれぞれの導波路9a、9b、9cを順次ファイバ57との対向面で停止して、各導波路からの光をファイバ57に導入することで、全ての導波路9a、9b、9cをファイバ57に光接続することが可能となる。
【0075】
以上説明したように、第2の実施の形態によれば、蛍光測定装置1と同様の効果を得ることができる。また、光スイッチ47を用いることで、各ウェル毎に高価な光学フィルタおよび蛍光測定器が不要となるため、コンパクトで低コストである蛍光測定装置を得ることができる。
【0076】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0077】
例えば、上述の実施形態では、ヒータ7を用いて、熱サイクルによって反応溶液中でDNAの分離、抽出および増幅と、ウェル内で発生した蛍光の測定を行う方法について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、ヒータを用いずに、細胞等の蛍光測定やそれを用いた細胞のスクリーニングにも利用することもできる。さらに、ヒータを有さずその他の本発明の構成を備えた装置によっても、蛍光で標識した細胞や化学染色した細胞のスクリーグなどの測定にも利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1、1a………蛍光測定装置
3a、3b、3n………ウェル
5a、5b、5n………光源
7………ヒータ
9a、9b、9n………導波路
11a、11b、11n………光学フィルタ
13a、13b、13n………蛍光測定器
15………反応溶液
17………反射膜
19………内部樹脂層
23………外部樹脂層
25………コア部
27………クラッド部
29………蛍光発生中心
31………仮想受光面
33………受光可能領域
35………ウェル本体
37………外部樹脂層除去部
39………増幅サイクル
41………変性工程
43………アニーリング工程
45………ポリメラーゼ伸長工程
47………光スイッチ
49………回転体
51………固定部
53………回転軸
55………軸受け
57………ファイバ
59………モータ
61………プーリ
63………ベルト
65………ギャップ
100………鋳型DNA
101a、101b………プライマ
103………ヘアピンプライマ
105………蛍光色素
107………ポリメラーゼ
109………ウェル
111………照射・受光部
113………反応溶液
115………蛍光発生中心
117………仮想受光面
119………受光可能領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光測定PCR装置であって、
反応溶液を保持するウェルと、
前記ウェルの外周部に配置され、反応溶液の温度を調整可能なヒータと、
前記ウェル内の反応溶液に光を照射する光源と、
前記ウェルの下方に接続される導波路と、
前記ウェル内で発生する蛍光を測定する蛍光測定器と、を具備し、
前記ウェルは、少なくとも外部樹脂層と、内部樹脂層の二層構造であり、
前記内部樹脂層の屈折率は、前記外部樹脂層の屈折率よりも大きく、
前記導波路は、内部に前記内部樹脂層と同一の材質からなるコア部と、外部に前記外部樹脂層と同一の材質からなるクラッド部を有し、前記ウェルの下部において前記外部樹脂層が除去され、露出する前記内部樹脂層に前記コア部が接合され、
前記ヒータによって温度を調整することで、反応溶液中でDNAの分離、抽出および増幅を行うことができ、前記ウェル内で発生した蛍光を、前記内部樹脂層に封じ込めて前記コア部に導出し、さらに光学フィルタを介して前記蛍光測定器によって測定可能であることを特徴とする蛍光測定装置。
【請求項2】
前記ウェルは複数配置され、
前記導波路は光スイッチに接続され
前記光スイッチによって、それぞれの前記ウェルからの蛍光を切り替えることで、前記蛍光測定器で複数の前記ウェルの蛍光を測定可能であることを特徴とする請求項1記載の蛍光測定装置。
【請求項3】
前記ウェルの上端面又は外部樹脂層の外周面の少なくともいずれかには、反射膜が形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光測定装置。
【請求項4】
前記ウェルのコアを構成する樹脂は、ポリカーボネート、変性ポリカーボネート、高Tg成分モノマーとのアクリル系重合体、ノルボルネン系樹脂、シリコーン樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の蛍光測定装置。
【請求項5】
蛍光測定PCR装置で用いられるウェルの製造方法であって、
外部樹脂層と、前記外部樹脂層よりも屈折率が大きな内部樹脂層の二層構造となるように、ウェル本体の形状を成形し、
前記ウェル本体の下部の前記外部樹脂層を除去して、前記内部樹脂層を露出させ、
内部に前記内部樹脂層と同一の材質からなるコア部と、外部に前記外部樹脂層と同一の材質からなるクラッド部を有する導波路を用い、
露出した前記内部樹脂層に前記コア部を接合し、前記外部樹脂層に前記クラッド部を接合することを特徴とするウェルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−24841(P2013−24841A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163172(P2011−163172)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(509133768)株式会社古河電工アドバンストエンジニアリング (7)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】