説明

蛍光物質の定量方法および基準部材

【課題】計測標本の蛍光物質を常に高精度で定量できる定量方法を提供する。
【解決手段】蛍光顕微鏡により計測標本の蛍光画像を取得し、その取得した蛍光画像から検量線を用いて蛍光物質を定量するにあたり、少なくとも上面にフォーカス用マーカを有する既知の厚さの基準部材に対物レンズをフォーカスさせてレンズ位置情報を取得するレンズ位置情報取得ステップ(S11,S12)と、取得されたレンズ位置情報および基準部材の厚さ情報に基づいて、レンズ位置情報に対する対物レンズのフォーカス位置を示すフォーカス位置特性を算出する特性算出ステップ(S13)と、算出されたフォーカス位置特性および蛍光画像を取得した際のレンズ位置情報に基づいて計測標本の表面からの距離を測定する距離測定ステップ(S14)と、測定された距離に対応する検量線を選択して蛍光物質を定量する定量ステップ(S15,16)と、を含む蛍光物質の定量方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測標本の蛍光物質を定量する蛍光物質の定量方法、および該定量方法に使用する基準部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
組織や細胞等の計測標本の蛍光物質の定量方法においては、蛍光顕微鏡を用いて計測標本の蛍光画像を取得し、その取得した蛍光画像から、蛍光強度と濃度との関係を示す検量線を用いて蛍光物質を定量するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−155549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の定量方法にあっては、一つの検量線を用いて計測標本の蛍光物質を定量するようにしている。そのため、例えば、検量線用の標準標本の表面から短い距離(浅い位置)の蛍光物質により作成された検量線を用いて、計測標本の表面から長い距離(深い位置)の蛍光物質の定量を行うと、蛍光の散乱の影響が無視できなくなって、定量精度が低下することが懸念される。
【0005】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、計測標本の蛍光物質を常に高精度で定量できる蛍光物質の定量方法、および該定量方法に使用する基準部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する第1の観点に係る蛍光物質の定量方法の発明は、
蛍光顕微鏡により計測標本の蛍光画像を取得し、その取得した蛍光画像から検量線を用いて蛍光物質を定量するにあたり、
標本ステージ上に載置され、少なくとも上面にフォーカス用マーカを有する既知の厚さの基準部材に対物レンズをフォーカスさせて、レンズ位置検出部からレンズ位置情報を取得するレンズ位置情報取得ステップと、
取得された前記レンズ位置情報および前記基準部材の厚さ情報に基づいて、距離測定部において前記レンズ位置情報に対する前記対物レンズのフォーカス位置を示すフォーカス位置特性を算出する特性算出ステップと、
算出された前記フォーカス位置特性および前記蛍光画像を取得した際の前記レンズ位置情報に基づいて、前記距離測定部において前記蛍光画像を取得した前記フォーカス位置の前記計測標本の表面からの距離を測定する距離測定ステップと、
測定された前記距離に対応する検量線を記憶部から選択し、その選択された検量線に基づいて、蛍光物質定量部において前記蛍光画像から前記蛍光物質を定量する定量ステップと、
を含むことを特徴とするものである。
【0007】
第2の観点に係る発明は、第1の観点に係る蛍光物質の定量方法において、
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージにセットされたプレパラートのカバーグラスに載置された前記基準部材に前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とするものである。
【0008】
第3の観点に係る発明は、第1の観点に係る蛍光物質の定量方法において、
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージに直接載置された前記基準部材に前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とするものである。
【0009】
第4の観点に係る発明は、第1の観点に係る蛍光物質の定量方法において、
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージにセットされたプレパラートのスライドグラスに載置された前記基準部材に前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とするものである。
【0010】
第5の観点に係る発明は、第1乃至4のいずれかの観点に係る蛍光物質の定量方法において、
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージに前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とするものである。
【0011】
第6の観点に係る発明は、第2の観点に係る蛍光物質の定量方法において、
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージにセットされたプレパラートのカバーグラスの上面に前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とするものである。
【0012】
第7の観点に係る発明は、第4の観点に係る蛍光物質の定量方法において、
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージにセットされたプレパラートのスライドグラスの上面に前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とするものである。
【0013】
第8の観点に係る発明は、第1乃至4のいずれかの観点に係る蛍光物質の定量方法において、
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記基準部材に異なる既知の厚さで形成された複数の上面に前記対物レンズを順次フォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とするものである。
【0014】
第9の観点に係る発明は、第1乃至4のいずれかの観点に係る蛍光物質の定量方法において、
前記レンズ位置情報取得ステップは、厚さの異なる複数の前記基準部材の上面に前記対物レンズを順次フォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とするものである。
【0015】
第10の観点に係る発明は、第1乃至9のいずれかの観点に係る蛍光物質の定量方法において、
前記基準部材は、金属、不透明樹脂、透明樹脂のいずれかを基材として、該基材の少なくとも上面の少なくとも一部に前記フォーカス用マーカを有する、ことを特徴とするものである。
【0016】
第11の観点に係る発明は、第1乃至10のいずれかの観点に係る蛍光物質の定量方法において、
前記フォーカス用マーカは、蛍光色素からなる、ことを特徴とするものである。
【0017】
さらに、上記目的を達成する第12の観点に係る蛍光物質の定量方法に使用する基準部材の発明は、
第1乃至4のいずれかの観点に係る蛍光物質の定量方法に使用する基準部材であって、
底面が平坦で、上面が段差状に形成された第1の上面および第2の上面を有する基材と、該基材の前記第1の上面および前記第2の上面に形成された前記フォーカス用マーカとを有する、ことを特徴とするものである。
【0018】
さらに、上記目的を達成する第13の観点に係る蛍光物質の定量方法に使用する基準部材の発明は、
第1乃至4のいずれかの観点に係る蛍光物質の定量方法に使用する基準部材であって、
厚さの異なる第1の基材および第2の基材と、前記第1の基材および前記第2の基材の上面にそれぞれ形成された前記フォーカス用マーカとを有する、ことを特徴とするものである。
【0019】
第14の観点に係る発明は、第12または13の観点に係る基準部材において、
前記基材は、金属、不透明樹脂、透明樹脂のいずれかから成る、ことを特徴とするものである。
【0020】
第15の観点に係る発明は、第12乃至14のいずれかの観点に係る基準部材において、
前記フォーカス用マーカは、蛍光色素からなる、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、計測標本の蛍光物質を常に高精度で定量できる蛍光物質の定量方法、および該定量方法に使用する基準部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る蛍光物質の定量方法を実施する蛍光顕微鏡システムの要部の構成を示す概略図である。
【図2】図1の標本ステージ部分を模式的に示す拡大図である。
【図3】図1の距離測定部のブロック図である。
【図4】図1の記憶部に記憶される検量線を示す図である。
【図5】図4の検量線と計測標本の表面からの距離との対応関係を示す図である。
【図6】図1の蛍光物質定量部のブロック図である。
【図7】第1実施の形態の動作を説明するフローチャートである。
【図8】第1実施の形態の変形例を説明するための図である。
【図9】基準部材の一変形例を説明するための図である。
【図10】本発明の第2実施の形態に係る蛍光物質の定量方法を実施する蛍光顕微鏡システムの標本ステージ部分を模式的に示す拡大図である。
【図11】第2実施の形態の動作を説明するフローチャートである。
【図12】第2実施の形態の変形例を説明するための図である。
【図13】本発明の第3実施の形態に係る蛍光物質の定量方法を実施する蛍光顕微鏡システムの標本ステージ部分を模式的に示す拡大図である。
【図14】第3実施の形態の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0024】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る蛍光物質の定量方法を実施する蛍光顕微鏡システムの要部の構成を示す概略図である。図1に示す蛍光顕微鏡システムは、蛍光顕微鏡10と演算処理部100とを有する。
【0025】
蛍光顕微鏡10は、公知の蛍光顕微鏡、例えば透過型蛍光顕微鏡、落射型蛍光顕微鏡、共焦点レーザ顕微鏡等からなる。図1は、蛍光顕微鏡10が落射型蛍光顕微鏡の場合を例示するもので、観察用光源11、標本ステージ12、蛍光励起用光源13、対物レンズ14、レンズ位置検出部15、カメラ16を有する。
【0026】
標本ステージ12には、蛍光物質で染色(標識)された組織等の計測標本30を有するプレパラート31が載置される。プレパラート31は、図2に標本ステージ12の部分を模式的に拡大して示すように、スライドグラス32とカバーグラス33との間に、計測標本30を封入剤34とともに保持して作製される。
【0027】
本実施の形態では、計測標本30の厚さd1を約4μm、スライドグラス32の厚さd2を約1000μm、カバーグラス33の厚さd3を50μmとする。カバーグラス33の上面には、計測標本30が位置する領域から外れた領域に、後述する対物レンズのレンズ位置情報を取得するための既知の厚さd4(例えば、100μm)の基準部材50が載置される。本実施の形態において、基準部材50は、アルミニウム等の金属からなる基材51の上面の少なくとも一部(図2では全面)に、フォーカス用マーカとして、測定対象と同じ蛍光色素52が塗布されて構成されている。また、標本ステージ12には、例えばプレパラート31が位置しない領域の一部に、同様にフォーカス用マーカとして蛍光色素53が塗布されている。
【0028】
蛍光励起用光源13は、超高圧水銀灯、キセノンランプ、紫外線LCD、レーザ光源等からなり、計測標本30の蛍光物質を定量する場合に駆動される。この蛍光励起用光源13から射出される励起光は、例えば励起フィルタ17を経てダイクロイックミラー18で反射されて、対物レンズ14を経て計測標本30に照射される。これにより計測標本30の蛍光物質が励起されて、計測標本30から蛍光が発生する。この蛍光は、対物レンズ14、ダイクロイックミラー18および吸収フィルタ19を経てカメラ16に入射されて、蛍光画像が形成される。
【0029】
対物レンズ14は、フォーカスハンドルやオートフォーカス機構のフォーカス調整機構により、手動的または自動的にフォーカス位置が調整される。なお、オートフォーカス機構は、パッシブ光路差法、コントラスト法、ナイフエッジを用いるアクティブ位相差法等の公知の方式が採用可能である。
【0030】
レンズ位置検出部15は、対物レンズ14のレンズ位置を検出する。検出されたレンズ位置情報は、演算処理部100に供給される。カメラ16は、撮像する蛍光画像に応じて、CCDカメラ、CMOSカメラ、フォトマルチプライヤ、マルチスペクトルカメラ等を用いて構成される。カメラ16で撮像された計測標本30の画像信号は、演算処理部100に供給される。
【0031】
なお、観察用光源11は、計測標本30の透過光学像を観察する場合に駆動される。この観察用光源11から射出された照明光は、反射ミラー20を含む照明光学系を経て計測標本30に照射され、その透過光が対物レンズ14を経て、図示しない接眼光学系や、カメラ16に導かれる。これにより、蛍光画像と同様に、接眼光学系を経て計測標本30の透過光学像が観察可能となっており、カメラ16で撮像された透過光学像が、専用の表示部や後述する演算処理部100の表示部に表示されるようになっている。
【0032】
演算処理部100は、距離測定部110、記憶部120、蛍光物質定量部130、制御部140、表示部150を有する。
【0033】
距離測定部110は、計測標本30の蛍光画像を取得する表面からの距離を測定するもので、例えば図3に示すように、記憶部111および距離算出部112を有する。記憶部111には、プレパラート31を構成する計測標本30、スライドグラス32、カバーグラス33のそれぞれの厚さ情報および基準部材50の厚さ情報が記憶されるとともに、レンズ位置検出部15からのレンズ位置情報およびカメラ16からの画像信号が記憶される。また、記憶部111には、後述する対物レンズ14のレンズ位置情報に対するフォーカス位置を示すフォーカス位置特性が記憶される。記憶部111に記憶された画像信号は、適宜、蛍光物質定量部130に出力される。
【0034】
距離算出部112は、記憶部111に記憶された厚さ情報およびレンズ位置情報に基づいて、フォーカス位置特性を算出して記憶部111に記憶する。また、距離算出部112は、記憶部111に記憶されたフォーカス位置特性と、レンズ位置検出部15からのレンズ位置情報とに基づいて、カバーグラス33の下面からのフォーカス位置の距離、つまり計測標本30の蛍光画像を取得する表面からの距離を算出する。距離算出部112で算出された距離は、距離情報として蛍光物質定量部130に出力される。
【0035】
記憶部120は、例えば図4に示すような、計測標本30の表面からの距離に応じた蛍光強度と濃度との関係を示す複数の検量線や、定量結果等の各種のデータを記憶する。なお、図4は、検量線1から検量線5までの5種類の検量線を示しており、各検量線と計測標本30の表面からの距離との対応関係は、図5に示すようになっている。図4および図5から明らかなように、同じ濃度でも、計測標本30の表面からの距離が長くなるに従って、蛍光強度は低くなる。
【0036】
蛍光物質定量部130は、例えば図6に示すように、検量線選択部131および蛍光分子定量部132を有する。検量線選択部131は、距離算出部112からの距離情報に基づいて、対応する検量線を記憶部120から選択する。蛍光分子定量部132は、検量線選択部131で選択された検量線を用いて、距離算出部112からの画像信号(蛍光画像)の蛍光物質を定量する。その定量結果は、定量情報として制御部140に出力される。
【0037】
制御部140は、蛍光顕微鏡10および演算処理部100の全体の動作を制御するもので、例えばパーソナルコンピュータで構成される。そして、制御部140は、蛍光物質定量部130からの定量情報を表示部150に表示する。また、制御部140は、必要に応じて、表示部150に、蛍光顕微鏡10で取得した計測標本30の蛍光画像や透過光学像を表示する。
【0038】
以下、本実施の形態に係る蛍光顕微鏡システムによる蛍光物質の定量方法について、図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0039】
本実施の形態では、蛍光顕微鏡10の標本ステージ12に、図2に示したようなプレパラート31をセットし、蛍光励起用光源13を点灯させて蛍光物質を定量する。ここで、プレパラート31は、例えば、計測標本30が肺腺癌患者の病理組織標本の場合、採取されたヒト肺癌病理標本に、ヒト肺癌細胞の核に特異的に結合する蛍光標識抗TFF1抗体を結合させて作製する。
【0040】
先ず、標本ステージ12にセットされたプレパラート31のカバーグラス33の上面に基準部材50を載置し、その上面に対物レンズ14をフォーカスさせて、その際にレンズ位置検出部15から出力されるレンズ位置情報を、距離測定部110により取得する(ステップS11)。ここで、基準部材50の上面への対物レンズ14のフォーカス動作は、基準部材50の上面の蛍光色素52の像を参照して、手動または自動で行われる。この基準部材50の上面のレンズ位置情報は、記憶部111に記憶される。
【0041】
次に、対物レンズ14を標本ステージ12にフォーカスさせて、その際にレンズ位置検出部15から出力されるレンズ位置情報を、距離測定部110により取得する(ステップS12)。ここで、標本ステージ12への対物レンズ14のフォーカス動作は、標本ステージ12に塗布された蛍光色素53を用いてステップS11の場合と同様に行われる。この標本ステージ12のレンズ位置情報は、記憶部111に記憶される。なお、ステップS11とステップS12とは、逆の順序で行ってもよい。
【0042】
その後、距離測定部110は、距離算出部112において、記憶部111に記憶されているプレパラート31を構成する計測標本30、スライドグラス32、カバーグラス33のそれぞれの厚さ情報および基準部材50の厚さ情報と、取得された基準部材50の上面のフォーカス位置に対応するレンズ位置情報および標本ステージ12のフォーカス位置に対応するレンズ位置情報とに基づいて、対物レンズ14のレンズ位置情報に対するフォーカス位置を示すフォーカス位置特性を算出する(ステップS13)。これにより、計測標本30の表面のフォーカス位置に対応するレンズ位置情報を知ることができる。このフォーカス位置特性は、記憶部111に記憶される。
【0043】
以上のようにして対物レンズ14のフォーカス位置特性を算出したら、その後、距離算出部112は、レンズ位置検出部15からのレンズ位置情報および画像信号を受けると、算出されたフォーカス位置特性を用いてレンズ位置情報に対応する計測標本30の表面からのフォーカス位置の距離を算出する(ステップS14)。この算出された距離情報は、記憶部111に記憶されるとともに、蛍光物質定量部130に出力される。また、そのときの画像信号も蛍光物質定量部130に出力される。
【0044】
蛍光物質定量部130は、距離測定部110から距離情報を受けると、検量線選択部131において、受信した距離情報に対応する検量線を記憶部120から選択する(ステップS15)。この選択された検量線情報は、蛍光分子定量部132に供給される。
【0045】
その後、蛍光分子定量部132は、選択された検量線情報を用いて、受信した画像信号(蛍光画像)の蛍光物質を定量する(ステップS16)。その定量結果は、制御部140を介して表示部150に表示される(ステップS17)。
【0046】
このように、本実施の形態に係る蛍光顕微鏡システムによると、上面に蛍光色素52が塗布された厚さが既知の基準部材50を用い、該基準部材50の上面に対物レンズ14をフォーカスさせた際のレンズ位置情報、基準部材50の厚さ情報、プレパラート31の厚さ情報等を用いて、対物レンズ14のレンズ位置情報に対するフォーカス位置を示すフォーカス位置特性を算出する。そして、算出したフォーカス特性を用いて、対物レンズ14がフォーカスされた計測標本30の表面からの距離に応じた検量線を選択して、当該フォーカス位置で取得された蛍光画像から蛍光物質を定量する。
【0047】
したがって、蛍光の散乱の影響を低減でき、蛍光物質を高精度で定量することができる。特に、蛍光物質の蛍光波長領域が近赤外領域の波長の場合は、標本表面からの距離に応じた適切な検量線を選択することにより、標本表面からの距離がより長い場合でも、組織の散乱に影響されずに、蛍光物質を正確に定量することが可能となる。
【0048】
また、本実施の形態においては、対物レンズ14のレンズ位置情報に対するフォーカス位置を示すフォーカス位置特性に基づいて、計測標本30の表面からの距離を測定するので、迅速な距離の測定が可能となり、種々の距離での定量を行う場合の測定時間の短縮が図れる。
【0049】
なお、基準部材50は、図8(a)に示すように、標本ステージ12上でプレパラート31の載置領域から外れた領域に直接載置して、あるいは、図8(b)に示すように、プレパラート31のスライドグラス32上で計測標本30およびカバーグラス33が位置する領域から外れた領域に載置して、同様にしてフォーカス位置特性を算出することも可能である。
【0050】
また、基準部材50の基材51は、金属に限らず、透明または不透明の樹脂で構成することも可能である。この場合、上面の蛍光色素52を含む基準部材50の厚さを、例えば20μm以下に薄くすることができる。また、特に、透明樹脂を基材51とする場合は、図9に示すように、基材51の上面の一部および下面の一部に蛍光色素52,54を塗布することもできる。そして、これらの蛍光色素52,54を利用して基準部材50の上面および下面にそれぞれフォーカスした際のレンズ位置情報と、基準部材50の厚さ情報d4とに基づいてフォーカス位置特性を算出することも可能である。
【0051】
これにより、例えば、基準部材50を図9に示すようにカバーグラス33の上面に載置した場合は、対物レンズ14を基準部材50の下面の発光色素54にフォーカスすることで、カバーグラス33の上面にフォーカスさせたレンズ位置情報を得ることができる。また、基準部材50を標本ステージ12上に直接載置した場合は、対物レンズ14を基準部材50の下面の発光色素54にフォーカスすることで、標本ステージ12にフォーカスさせたレンズ位置情報を得ることができる。同様に、基準部材50をスライドグラス32の上面に載置した場合は、対物レンズ14を基準部材50の下面の発光色素54にフォーカスすることで、スライドグラス32の上面にフォーカスさせたレンズ位置情報を得ることができる。したがって、これらの場合、標本ステージ12の蛍光色素53は不要となる。
【0052】
また、計測標本30が複数種類の蛍光物質で染色されている場合は、カメラ16として公知のマルチスペクトルカメラを用いることにより、複数種類の蛍光分子を自動で正確に定量することが可能となる。
【0053】
また、蛍光顕微鏡10として、共焦点レーザ顕微鏡を用いた場合は、蛍光の励起範囲を正確に限定することができるので、蛍光物質をより高精度で定量することが可能となる。また、蛍光顕微鏡10として、透過型蛍光顕微鏡、落射型蛍光顕微鏡、共焦点レーザ顕微鏡、のいずれを用いる場合であっても、励起フィルタ17、ダイクロイックミラー18、吸収フィルタ19の透過波長や反射波長を適切に組み合わせることにより、波長400nmから900nmに撮影感度を有するカメラ16によって、蛍光を適切に撮影することが可能となり、正確な定量が可能となる。さらに、励起フィルタ17、ダイクロイックミラー18、吸収フィルタ19を適切な波長ごとに組み合わせた蛍光キューブを複数種類搭載し、蛍光の特性にあった蛍光キューブを選択することにより、複数種類の蛍光分子を自動で正確に定量することも可能である。
【0054】
(第2実施の形態)
本発明の第2実施の形態においては、第1実施の形態で説明した蛍光顕微鏡システムにおいて、標本ステージ12の蛍光色素53を省略し、基準部材50に代えて、図10に示すように、底面が平坦で、上面が段差状に形成された既知の厚さd5の第1の上面62と、既知の厚さd6(>d5)の第2の上面63とを有する基準部材60を用いる。なお、図10は、図2に対応している。第1の上面62、第2の上面63には、それぞれ少なくとも一部にフォーカス用マーカとしての蛍光色素64,65が塗布されている。ここで、厚さd5、d6は、基準部材60の基材61がアルミニウム等の金属からなる場合は、例えばd5=50μm、d6=100μmとすることができ、基材61が不透明樹脂や透明樹脂からなる場合は、例えばd5=10μm、d6=20μmとすることができる。
【0055】
以下、本実施の形態に係る蛍光顕微鏡システムによる蛍光物質の定量方法について、第1実施の形態の構成および図10を参照しながら、図11に示すフローチャートに従って説明する。なお、本実施の形態では、基準部材60をカバーグラス33上に載置するので、少なくともカバーグラス33の厚さd3が既知であるものとする。
【0056】
先ず、標本ステージ12にセットされたプレパラート31のカバーグラス33の上面に基準部材60を載置し、基準部材60の第1の上面62に、蛍光色素64を用いて第1実施の形態の場合と同様にして対物レンズ14をフォーカスさせて、その際にレンズ位置検出部15から出力されるレンズ位置情報を、距離測定部110により取得する(ステップS21)。次に、同様にして、基準部材60の第2の上面63に、蛍光色素65を用いて対物レンズ14をフォーカスさせて、その際にレンズ位置検出部15から出力されるレンズ位置情報を、距離測定部110により取得する(ステップS22)。
【0057】
その後、距離算出部112において、記憶部111に記憶されている基準部材60のd5、d6の厚さ情報と、取得された第1の上面62、第2の上面63のフォーカス位置に対応するレンズ位置情報とに基づいて、対物レンズ14のレンズ位置情報に対するフォーカス位置を示すフォーカス位置特性を算出する(ステップS23)。
【0058】
以上のようにして対物レンズ14のフォーカス位置特性を算出したら、その後、距離算出部112は、レンズ位置検出部15からのレンズ位置情報および画像信号を受けると、算出されたフォーカス位置特性、厚さ情報d5,d3を用いて、レンズ位置情報に対応する計測標本30の表面からのフォーカス位置の距離を算出する(ステップS24)。この算出された距離情報は、記憶部111に記憶されるとともに、蛍光物質定量部130に出力される。また、そのときの画像信号も蛍光物質定量部130に出力される。
【0059】
以後は、図7のステップS15〜S17と同様にして、蛍光物質定量部130の検量線選択部131により、受信した距離情報に対応する検量線が記憶部120から選択され(ステップS25)、その選択された検量線情報を用いて、蛍光分子定量部132により、受信した画像信号(蛍光画像)の蛍光物質が定量され(ステップS26)、その定量結果が制御部140を介して表示部150に表示される(ステップS27)。
【0060】
したがって、本実施の形態においても、第1実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
なお、基準部材60は、図12(a)に示すように、標本ステージ12上でプレパラート31の載置領域から外れた領域に直接載置して、あるいは、図12(b)に示すように、プレパラート31のスライドグラス32上で計測標本30およびカバーグラス33が位置する領域から外れた領域に載置して、同様にしてフォーカス位置特性を算出することも可能である。
【0062】
ここで、計測標本30の表面のフォーカス位置に対応するレンズ位置情報を検知する場合、プレパラート31については、図12(a)の場合、少なくともスライドグラス32の厚さd2および計測標本30の厚さd1が既知であればよい。また、図12(b)の場合は、少なくとも計測標本30の厚さd1が既知であればよい。
【0063】
(第3実施の形態)
本発明の第3実施の形態においては、第2実施の形態で説明した蛍光顕微鏡システムにおいて、基準部材60に代えて、図13に示すように、既知の厚さd5の第1の基準部材70と、既知の厚さd6(>d5)の第2の基準部材80とを用いる。なお、図13は、図2に対応している。第1の基準部材70、第2の基準部材80は、上記実施の形態と同様に、それぞれの第1の基材71、第2の基材81の上面の少なくとも一部(図13では全面)に、フォーカス用マーカとして、測定対象と同じ蛍光色素72,82が塗布されて構成されている。
【0064】
ここで、第1の基準部材70、第2の基準部材80の厚さd5,d6は、第2実施の形態の場合と同様に、第1の基材71、第2の基材81がアルミニウム等の金属からなる場合は、例えばd5=50μm、d6=100μmとすることができ、不透明樹脂や透明樹脂からなる場合は、例えばd5=10μm、d6=20μmとすることができる。
【0065】
本実施の形態においては、第2実施の形態における基準部材60の第1の上面62を第1の基準部材70の上面とし、基準部材60の第2の上面63を第2の基準部材80の上面とすることにより、第2実施の形態と同様にして、計測標本30の表面からのフォーカス位置の距離に応じた検量線を選択して、計測標本30の蛍光物質を定量することができる。したがって、本実施の形態においても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
なお、第1の基準部材70、第2の基準部材80は、図14(a)に示すように、標本ステージ12上でプレパラート31の載置領域から外れた領域に直接載置して、あるいは、図14(b)に示すように、プレパラート31のスライドグラス32上で計測標本30およびカバーグラス33が位置する領域から外れた領域に載置して、図12(a),(b)の場合と同様にしてフォーカス位置特性を算出することも可能である。
【0067】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、蛍光顕微鏡として透過型蛍光顕微鏡を用い、暗視野観察により蛍光画像を取得して蛍光物質を定量することも可能である。この場合、バックグランドが暗くなるので、微弱な蛍光から高いコントラストの画像を得ることができる。したがって、計測標本の表面からの距離(深さ)に応じた検量線を選択することと相俟って、蛍光物質を高精度かつ高感度で定量することが可能となる。
【0068】
また、蛍光顕微鏡のフォーカス位置特性は、対物レンズを含む顕微鏡光学系によって決定される。したがって、蛍光顕微鏡のフォーカス位置特性を利用し、そのフォーカス位置特性に、厚さが既知の基準部材の上面のレンズ位置を予め対応付けることで、所望のレンズ位置情報に対する計測標本の表面からのフォーカス位置の距離を算出することも可能である。
【0069】
また、上記実施の形態では、フォーカス用マーカとして、測定対象と同じ蛍光色素を塗布したが、使用する蛍光励起用光源によっては、蛍光色素以外の対物レンズをフォーカス可能な任意のマーカとすることが可能である。さらに、上記各実施の形態では、基準部材を、基材の少なくとも一部に蛍光物質を塗布して構成したが、基材自身が励起光により蛍光を発する材料からなる場合は、蛍光色素を塗布することなく、基材のみで基準部材を構成することもできる。この場合、基準部材の上面の全てにおいてフォーカス動作が可能となる。
【符号の説明】
【0070】
10 蛍光顕微鏡
11 観察用光源
12 標本ステージ
13 蛍光励起用光源
14 対物レンズ
15 レンズ位置検出部
16 カメラ
30 計測標本
31 プレパラート
32 スライドグラス
33 カバーグラス
34 封入剤
50,60 基準部材
51,61 基材
52,53,54,64,65,72,82 蛍光色素
62 第1の上面
63 第2の上面
70 第1の基準部材
71 第1の基材
80 第2の基準部材
81 第2の基材
100 演算処理部
110 距離測定部
111 記憶部
112 距離算出部
120 記憶部
130 蛍光物質定量部
131 検量線選択部
132 蛍光分子定量部
140 制御部
150 表示部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光顕微鏡により計測標本の蛍光画像を取得し、その取得した蛍光画像から検量線を用いて蛍光物質を定量するにあたり、
標本ステージ上に載置され、少なくとも上面にフォーカス用マーカを有する既知の厚さの基準部材に対物レンズをフォーカスさせて、レンズ位置検出部からレンズ位置情報を取得するレンズ位置情報取得ステップと、
取得された前記レンズ位置情報および前記基準部材の厚さ情報に基づいて、距離測定部において前記レンズ位置情報に対する前記対物レンズのフォーカス位置を示すフォーカス位置特性を算出する特性算出ステップと、
算出された前記フォーカス位置特性および前記蛍光画像を取得した際の前記レンズ位置情報に基づいて、前記距離測定部において前記蛍光画像を取得した前記フォーカス位置の前記計測標本の表面からの距離を測定する距離測定ステップと、
測定された前記距離に対応する検量線を記憶部から選択し、その選択された検量線に基づいて、蛍光物質定量部において前記蛍光画像から前記蛍光物質を定量する定量ステップと、
を含むことを特徴とする蛍光物質の定量方法。
【請求項2】
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージにセットされたプレパラートのカバーグラスに載置された前記基準部材に前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光物質の定量方法。
【請求項3】
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージに直接載置された前記基準部材に前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光物質の定量方法。
【請求項4】
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージにセットされたプレパラートのスライドグラスに載置された前記基準部材に前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光物質の定量方法。
【請求項5】
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージに前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の蛍光物質の定量方法。
【請求項6】
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージにセットされたプレパラートのカバーグラスの上面に前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とする請求項2に記載の蛍光物質の定量方法。
【請求項7】
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記標本ステージにセットされたプレパラートのスライドグラスの上面に前記対物レンズをフォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とする請求項4に記載の蛍光物質の定量方法。
【請求項8】
前記レンズ位置情報取得ステップは、前記基準部材に異なる既知の厚さで形成された複数の上面に前記対物レンズを順次フォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の蛍光物質の定量方法。
【請求項9】
前記レンズ位置情報取得ステップは、厚さの異なる複数の前記基準部材の上面に前記対物レンズを順次フォーカスさせるステップを含む、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の蛍光物質の定量方法。
【請求項10】
前記基準部材は、金属、不透明樹脂、透明樹脂のいずれかを基材として、該基材の少なくとも上面の少なくとも一部に前記フォーカス用マーカを有する、ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の蛍光物質の定量方法。
【請求項11】
前記フォーカス用マーカは、蛍光色素からなる、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の蛍光物質の定量方法。
【請求項12】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の蛍光物質の定量方法に使用する基準部材であって、
底面が平坦で、上面が段差状に形成された第1の上面および第2の上面を有する基材と、該基材の前記第1の上面および前記第2の上面に形成された前記フォーカス用マーカとを有する、ことを特徴とする基準部材。
【請求項13】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の蛍光物質の定量方法に使用する基準部材であって、
厚さの異なる第1の基材および第2の基材と、前記第1の基材および前記第2の基材の上面にそれぞれ形成された前記フォーカス用マーカとを有する、ことを特徴とする基準部材。
【請求項14】
前記基材は、金属、不透明樹脂、透明樹脂のいずれかから成る、ことを特徴とする請求項12または13に記載の基準部材。
【請求項15】
前記フォーカス用マーカは、蛍光色素からなる、ことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか一項に記載の基準部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−19703(P2013−19703A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151194(P2011−151194)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】