説明

蛍光物質内包ナノ粒子およびこれを用いた生体物質の検出方法

【課題】本発明は、病理診断用蛍光標識剤として用いられたときに、高い精度で組織中の生体物質の検出を可能とするような蛍光物質内包ナノ粒子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、第1の蛍光物質と、該第1の蛍光物質と識別可能な励起/発光特性を有する第2の蛍光物質とを含む蛍光物質内包ナノ粒子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起/発光特性の異なる複数の蛍光物質を内包した蛍光物質内包ナノ粒子、およびこれを用いた生体物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルオーダーの粒子(以下、「ナノ粒子」)は、対応するバルク体とは異なる物性を示すことから近年注目を集めており、バイオアッセイや医療診断の分野を含む種々の分野において、種々の研究がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、半導体超微粒子をガラスマトリックス中に分散させてなる蛍光体が開示されており、この蛍光体が良好な水分散性と高い発光性能を有することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、蛍光色素化合物などの機能性化合物存在下で連通孔を有するシリカ粒子を調製してから、特定のテトラアルコキシシランを追加的に含有させてシリカのシェルを形成することにより当該機能性化合物をこのシェルにより閉じ込める工程を含む製造方法により、連通孔内に機能性化合物が内包されたコア−シェル構造のシリカナノ粒子を得ることが記載されている。
【0005】
しかし、半導体ナノ粒子と蛍光色素との両方を内包するシリカナノ粒子についての知見は、確認されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-105244
【特許文献2】特開2009-196829
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
病理切片上の抗原の所在を確認するために、抗体修飾した蛍光標識を用いて蛍光標識化処理を行った組織を観察する場合、蛍光標識として一般的に用いられている蛍光色素を用いたときには、組織の自家蛍光によるバックグラウンドのノイズで蛍光標識のシグナルのSN比が低くなり、診断精度が悪くなるという課題があった。
【0008】
そのような自家蛍光による問題を解消する方法の一つとして、長残光蛍光体を蛍光標識として用いて時間分解測定を行うことにより、標識シグナルのみを観察する方法が挙げられる。ただ、単に長残光蛍光体を蛍光標識として用いただけでは、残光強度が低いために十分なS/N比を達成することが難しいという問題があった。通常可視励起発光においては、自家蛍光が紫外励起より軽減されるものの、輝度が不足し、十分なS/N比を得ることができなった。
【0009】
そこで、本発明は、このような問題に対し、病理診断用蛍光標識剤として用いられたときに、高い精度で組織中の生体物質の検出を可能とするような蛍光物質内包ナノ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、異なる励起/発光特性を有する複数の蛍光物質を内包する蛍光物質内包ナノ粒子を用いることにより、上記の課題を解決しうることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、下記[1]〜[31]に示される。
【0011】
[1] 第1の蛍光物質と、該第1の蛍光物質と識別可能な励起/発光特性を有する第2の蛍光物質とを含む蛍光物質内包ナノ粒子。
[2] 前記第1の蛍光物質が紫外領域に励起スペクトルを有さず、前記第2の蛍光物質が紫外領域に励起スペクトルを有する前記[1]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0012】
[3] 無機蛍光体ナノ粒子と有機蛍光色素を内包する前記[2]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[4] 前記無機蛍光体ナノ粒子がII−VI族化合物またはIII−V族化合物を含む前記[3]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0013】
[5] 前記無機蛍光体ナノ粒子が単体珪素を含む前記[3]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[6] 有機重合体樹脂によって、前記第1の蛍光物質および前記第2の蛍光物質が内包された前記[1]〜[5]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0014】
[7] 前記有機重合体樹脂がポリスチレン樹脂である前記[6]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[8] 前記有機重合体樹脂がメラミン樹脂である前記[6]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0015】
[9] シリカによって、前記第1の蛍光物質および前記第2の蛍光物質が内包された前記[1]〜[5]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[10] 表面に生体分子認識物質が結合している前記[1]〜[9]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0016】
[11] 表面に水系分散用修飾化合物が結合している前記[1]〜[10]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[12] 前記第1の蛍光物質が長残光蛍光体ではない蛍光物質であり、且つ前記第2の蛍光物質が長残光蛍光体である前記[1]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0017】
[13] 前記長残光蛍光体と有機蛍光色素を内包する前記[12]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[14] 前記長残光蛍光体が無機粒子である前記[12]または[13]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0018】
[15] 前記無機粒子の体積平均粒径が5nm以上、500nm以下である前記[14]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[16] 前記無機粒子の体積平均粒径が5nm以上、300nm以下である前記[14]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0019】
[17] 前記長残光蛍光体が、母体と賦活剤とからなる賦活型蛍光体である前記[12]〜[16]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[18] 前記賦活剤が希土類賦活剤である前記[17]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0020】
[19] 前記賦活剤がMn2+である前記[17]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[20] 前記賦活剤がEu3+である前記[17]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[21] 前記母体がY23である前記[17]〜[20]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0021】
[22] 前記母体がZn2SiO4である前記[17]〜[20]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[23] 有機重合体樹脂によって、前記第1の蛍光物質および前記第2の蛍光物質が内包された前記[12]〜[22]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0022】
[24] 前記有機重合体樹脂がポリスチレン樹脂である前記[23]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[25] 前記有機重合体樹脂がメラミン樹脂である前記[23]記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0023】
[26] シリカによって、前記第1の蛍光物質および前記第2の蛍光物質が内包された前記[12]〜[22]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[27] 表面に生体分子認識物質が結合している前記[12]〜[26]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【0024】
[28] 表面に水系分散用修飾化合物が結合している前記[12]〜[27]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
[29] 前記[1]〜[28]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子を含む病理診断用蛍光標識剤。
【0025】
[30] (a)前記[1]〜[11]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子を用いて組織を標識化処理する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた組織について、同一視野で紫外線励起画像と可視光励起画像を撮影する工程と、
(c)前記工程(b)で得られた前記紫外線励起画像と前記可視光励起画像とを比較し、該紫外線励起画像と該可視光励起画像との両方の画像において輝点として検出された画素のみを有効な輝点と認識する工程と
を含む、組織中の生体物質の測定方法。
【0026】
[31] (a)前記[12]〜[28]のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子を用いて組織を標識化処理する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた組織について、同一視野で、励起光照射時に得られる励起画像と時間分解蛍光測定により得られる残光画像とを撮影する工程と、
(c)前記工程(b)で得られた前記励起画像と前記残光画像とを比較し、該励起画像と該残光画像との両方の画像において輝点として検出された画素のみを有効な輝点と認識する工程と
を含む、組織中の生体物質の測定方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明の蛍光物質内包ナノ粒子は異なる励起/発光特性を有する複数の蛍光物質を内包していることから、同一視野において異なる複数の測定条件下で得られる蛍光発光を足し合わせることで、輝度向上が可能となる。また、同一視野において異なる複数の測定条件下で得られる複数の発光画像を通じて、同一の画素で蛍光が確認された部分のみを信号として取り出す演算処理を可能とすることによりS/N比を飛躍的に改良することもでき、病理診断用蛍光標識剤として用いられたときに、組織中の生体物質を高精度に検出することを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔蛍光物質内包ナノ粒子〕
本発明に係る蛍光物質内包ナノ粒子は、第1の蛍光物質と、この第1の蛍光物質と識別可能な励起/発光特性を有する第2の蛍光物質とを含む粒子である。
【0029】
蛍光物質
本発明で用いられる蛍光物質としては、蛍光有機色素および半導体ナノ粒子をあげることができる。200〜700nmの範囲内の波長の紫外〜可視光により励起されたときに、400〜900nmの範囲内の波長の可視〜近赤外光の発光を示すことが好ましい。
【0030】
より好ましくは、同一粒子内に内包される蛍光体の発光波長は発光ピークがプラスマイナス5nmであることが、観察上好ましい。
本発明に係る蛍光物質内包ナノ粒子において、第1の蛍光物質及び第2の蛍光物質のいずれも、励起波長及び発光波長がそれぞれ上記の範囲内にあることが好ましいが、第2の蛍光物質は、第1の蛍光物質と識別可能な励起/発光特性を有する必要がある。本発明の典型的な態様において、第1の蛍光物質として、一般的な励起/発光特性を有する、既存の蛍光標識剤として一般的に用いられている蛍光物質が用いられ、第2の蛍光物質として、第1の蛍光物質が実質的に蛍光発光しない状況下で蛍光発光可能な蛍光物質が用いられる。ここで、「一般的な励起/発光特性を有する」蛍光物質は、蛍光寿命が短く、多くの場合可視〜近赤外光の領域に励起/発光特性を有することから、第2の蛍光物質として、蛍光寿命が長い蛍光物質(すなわち、長残光蛍光体)、および紫外領域に励起スペクトルを有する蛍光物質が挙げられる。
【0031】
ここで、本明細書において「紫外領域に励起スペクトルを有する」とは、400nm未満の波長を有する励起光により、400nm以上900nm以下の範囲内にある波長を有する蛍光を発することを意味する。ただ、蛍光測定時における、本発明に係る蛍光物質内包ナノ粒子による標識化を行った生体物質の変性を最小限に抑える観点から、実用上は、200nm以上400nm未満の範囲内にある波長を有する励起光により、400nm以上900nm以下の範囲内にある波長を有する蛍光を発する意味に用いられる。
【0032】
以下、第1の蛍光物質及び/または第2の蛍光物質となり得る蛍光物質の具体例を示す。
・有機蛍光色素
本発明において、有機色素を蛍光物質として用いることができる。ここで、有機蛍光色素は、芳香環、複素環など共役π電子系の存在により蛍光を発光する有機化合物をいい、その例として、生化学の分野において広く用いられる蛍光標識剤が挙げられる。
【0033】
有機蛍光色素としては、フルオレセイン系色素分子、ローダミン系色素分子、Alexa Fluor(インビトロジェン社製)系色素分子、BODIPY(インビトロジェン社製)系色素分子、カスケード系色素分子、クマリン系色素分子、エオジン系色素分子、NBD系色素分子、ピレン系色素分子、Texas Red系色素分子、シアニン系色素分子等を挙げることができる。
【0034】
具体的には、5−カルボキシ−フルオレセイン、6−カルボキシ−フルオレセイン、5,6−ジカルボキシ−フルオレセイン、6−カルボキシ−2’,4,4’,5’,7,7’−ヘキサクロロフルオレセイン、6−カルボキシ−2’,4,7,7’−テトラクロロフルオレセイン、6−カルボキシ−4’,5’−ジクロロ−2’,7’−ジメトキシフルオレセイン、ナフトフルオレセイン、5−カルボキシ−ローダミン、6−カルボキシ−ローダミン、5,6−ジカルボキシ−ローダミン、ローダミン 6G、テトラメチルローダミン、X−ローダミン、及びAlexa Fluor 350,Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 500、Alexa Fluor 514、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 610、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 635、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750、BODIPY FL,BODIPY TMR、BODIPY 493/503、BODIPY 530/550、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665(以上インビトロジェン社製)、メトキシクマリン、エオジン、NBD、ピレン、Cy5、Cy5.5、Cy7等を挙げることができる。
【0035】
これらの有機蛍光色素は、1種単独で用いてもよく、あるいは複数種を組み合わせて用いてもよい。
本発明で用いられる有機蛍光色素は、多くの場合、可視領域、具体的には400nm以上700nm以下の範囲内の波長を有する励起光により励起されたときに、可視〜近赤外領域、具体的には400nm以上900nm以下の範囲内の波長を有する蛍光を発光する蛍光物質であり、紫外領域に励起スペクトルを有さない。したがって、有機蛍光色素は、通常「第1の蛍光物質」として用いられる。
【0036】
ただ、Alexa Fluor 350(最大吸収波長346nm)やクマリン系色素分子など一部の有機蛍光色素では、紫外領域の光、具体的には400nm未満の波長を有する光により励起し蛍光を発することがある。したがって、このような有機蛍光色素は、より励起波長の大きい蛍光物質、例えば、励起波長が500〜700nmの範囲内にある蛍光物質と組み合わせることにより、「第2の蛍光物質」として用いることもできる。
【0037】
・半導体ナノ粒子
本発明において、上記「有機蛍光色素」のほかに半導体ナノ粒子も蛍光物質として用いることができる。ここで、半導体ナノ粒子としては、II−VI族化合物、III−V族化合物、及びIV族元素の単体を成分としてそれぞれ含有する半導体ナノ粒子(それぞれ、「II−VI族半導体ナノ粒子」、「III−V族半導体ナノ粒子」、及び「IV族半導体ナノ粒子」ともいう。)のいずれかを用いることができる。
【0038】
具体的には、CdSe、CdS、CdTe、ZnSe、ZnS、ZnTe、InP、InN、InAs、InGaP、GaP、GaAs、Si、Geが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
上記半導体ナノ粒子をコアとし、その上にシェルを設けたコア/シェル構造の半導体ナノ粒子を用いることもできる。以下本明細書中シェルを有する半導体ナノ粒子の表記法として、コアがCdSe、シェルがZnSの場合、CdSe/ZnSと表記する。例えばCdSe/ZnS、CdS/ZnS、InP/ZnS、InGaP/ZnS、Si/SiO2、Si/ZnS、Ge/GeO2、Ge/ZnSなどを用いることができるが、これらに限定されない。
【0040】
これらの半導体ナノ粒子は、1種単独で用いてもよく、あるいは複数種を組み合わせて用いてもよい。
本発明で用いられる半導体ナノ粒子は、公知の方法により製造することができるし、あるいは、市販されているものを用いることもできる。ここで、半導体ナノ粒子は必要に応じて、有機ポリマーなどにより表面処理が施されているものを用いてもよい。例えば、表面カルボキシ基を有するCdSe/ZnS(インビトロジェン社製)、表面アミノ基を有するCdSe/ZnS(インビトロジェン社製)などがあげられる。
【0041】
以上の半導体ナノ粒子は、構成成分や粒径によって波長特性を変えることができるので、第1の蛍光物質にも第2の蛍光物質にもなり得る。例えば、紫外領域に励起スペクトルを有する半導体ナノ粒子を第2の蛍光物質として用い、紫外領域に励起スペクトルを有さない別の半導体ナノ粒子または上記有機蛍光色素を第1の蛍光物質として組み合わせることもできる。
【0042】
長残光蛍光体
本発明において、上記「有機蛍光色素」および「半導体ナノ粒子」のほかに、長残光蛍光体も蛍光物質として用いることができる。ここで、本明細書において「長残光」とは、励起光の照射を終了してから1ミリ秒経過後においても、蛍光が励起時の1/10以上の発光強度を維持することをいう。なお、上述した「有機蛍光色素」や「半導体ナノ粒子」は、一般に、励起光の照射を終了してから1ミリ秒経過する前に消光することから、長残光蛍光体ではない蛍光物質に該当する。
【0043】
ここで、長残光蛍光体は、その組成に特に制限はなく、公知の種々の組成を適用することができるが、安定性の点から、無機化合物からなる蛍光体、例えば無機酸化物蛍光体、無機ハロゲン化物蛍光体であると好ましい。
【0044】
本発明で好適に用いることのできる長残光蛍光体として、母体と賦活剤とからなる賦活型蛍光体が挙げられる。ここで、母体として、Y23、Zn2SiO4等に代表される金属酸化物、Ca5(PO43Cl等に代表されるリン酸塩及びZnS、SrS、CaS 等に代表される硫化物が挙げられ、その好ましい例としては、例えば、ZnS、Y22S、(Y,Gd)3Al512、YAlO3、BaAl2Si28、Y3Al512、Y2SiO3、Zn2SiO4、Y23、BaMgAl1017、BaAl1219、(Ba,Sr,Mg)O・aAl23、(Y,Gd)BO3、YO3、(Zn,Cd)S、SrGa24、SrS、SnO2、Ca10(PO46(F,Cl)2、(Ba,Sr)(Mg,Mn)Al1017、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2、(La,Ce)PO4、CeMgAl1119、GdMgB510、Sr227、Sr4Al1425、BaMgAl1423、Ba2Mg2Al1222、Ba2Mg4Al818、Ba3Mg5Al1835、(Ba,Sr,Ca)(Mg,Zn,Mn)Al1017を挙げることができる。これらのうち、発光強度の点から、Y23、Zn2SiO4が好ましく用いられる。
【0045】
また、賦活剤として、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等の希土類金属のイオンやAg、Al、Mn、Sb等の金属のイオンが挙げられ、発光波長と発光寿命の点から、特にMn2+,Eu3+が好ましく用いられる。
【0046】
以上の母体及び賦活剤は、元素組成には特に制限はなく、同族の元素と一部置き換えることもでき、得られた無機蛍光体は紫外線を吸収して可視光を発するものが好ましい。
以下に、本発明で長残光蛍光体として使用される蛍光体の具体的な化合物を示すが、これに限定されるものではない:
Zn2GeO4:Mn,Y22S:Eu3+
(Ba,Mg)2SiO4:Eu3+
Ca28(SiO462:Eu3+
LiY9(SiO462:Eu3+
(Ba,Mg)Al1627:Eu3+
(Ba,Ca,Mg)5(PO43Cl:Eu3+
YVO4:Eu3+
YVO4:Eu3+,Bi3+
CaS:Eu3+
23:Eu3+
YAlO3:Eu3+
YBO3:Eu3+
(Y,Gd)BO3:Eu3+
【0047】
本発明で用いられる長残光蛍光体の製造方法として、公知の方法を用いることができ、例えば、固相法、液相法、水熱法、燃焼法等を用いることができる。例えば、母体を構成する上記の化合物と賦活剤を構成する上記の化合物を混合し、焼成することにより、長寿命蛍光体を無機粒子の形で得ることができる。このような無機粒子を内包する蛍光物質内包ナノ粒子が、ナノサイズの大きさを有するよう、この無機粒子の体積平均粒径は、5nm以上500nm以下であることが好ましく、5nm以上300nm以下であることがより好ましい。
【0048】
以上の長残光蛍光体は、上述の「有機蛍光色素」および「半導体ナノ粒子」と比べて蛍光寿命が長いことから、本発明においては「第2の蛍光物質」として用いられることができ、「有機蛍光色素」または「半導体ナノ粒子」を「第1の蛍光物質」として組み合わせることができる。
【0049】
蛍光物質内包ナノ粒子の基本的な構成
本発明の蛍光物質内包ナノ粒子は、上記「蛍光物質」を内包したナノ粒子であり、上記第1の蛍光物質と、この第1の蛍光物質と識別可能な励起/発光特性を有する第2の蛍光物質とを含んでいる。ここで、本発明の典型的な態様において、第1の蛍光物質として、一般的な励起/発光特性を有する、既存の蛍光標識剤として一般的に用いられている蛍光物質が用いられ、第2の蛍光物質として、第1の蛍光物質が実質的に蛍光発光しない状況下で蛍光発光可能な蛍光物質が用いられる。そして、具体的には、この第1の蛍光物質と第2の蛍光物質とが基材の内部に内包された状態で存在している。
【0050】
本発明の第1の実施態様に係る蛍光物質内包ナノ粒子は、第1の蛍光物質として紫外領域に励起スペクトルを有さない蛍光物質と、第2の蛍光物質として紫外領域に励起スペクトルを有する蛍光物質とを含む蛍光物質内包ナノ粒子である。この第1の実施態様の典型例として、第1の蛍光物質として有機蛍光色素を用いるとともに、第2の蛍光物質として無機蛍光体ナノ粒子を用いる態様が挙げられる。
【0051】
また、本発明の第2の実施態様に係る蛍光物質内包ナノ粒子は、第1の蛍光物質として長残光蛍光体ではない蛍光物質と、第2の蛍光物質として長残光蛍光体とを含む蛍光物質内包ナノ粒子である。この第2の実施態様において、第1の蛍光物質として有機蛍光色素を用いるとともに、第2の蛍光物質として無機粒子、特に母体と賦活剤とからなる賦活型蛍光体を用いる態様が挙げられる。ここで、第1の蛍光物質として、有機蛍光色素の代わりに、あるいは有機蛍光色素とともに上記半導体ナノ粒子を用いることもできる。
【0052】
本発明において「蛍光物質内包ナノ粒子」とは、蛍光物質がナノ粒子内部に分散されたものを言い、「蛍光物質内包ナノ粒子」において、蛍光物質が基材と化学的に結合していてもよいし、結合していなくてもよい。
【0053】
ナノ粒子を構成する基材は特に限定されるものではなく、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂およびポリ乳酸樹脂などの有機重合体樹脂、並びにシリカなどをあげることができる。
【0054】
本発明で用いられる蛍光物質内包ナノ粒子は、公知の方法により作成することが可能である。
例えば、蛍光有機色素を内包したシリカナノ粒子は ラングミュア 8巻 2921ページ(1992)に記載されているFITC内包シリカ粒子の合成を参考に合成することができる。FITCの代わりに所望の蛍光有機色素を用いることで種々の蛍光有機色素内包シリカナノ粒子が合成できる。
【0055】
半導体ナノ粒子を内包したシリカナノ粒子は ニュー・ジャーナル・オブ・ケミストリー 33巻 561ページ(2009)に記載されているCdTe内包シリカナノ粒子の合成を参考に合成することができる。
【0056】
蛍光有機色素を内包したポリスチレンナノ粒子は、米国特許 4326008(1982)に記載されている重合性官能基をもつ有機色素を用いた共重合法や、米国特許 5326692(1992)に記載されているポリスチレンナノ粒子への蛍光有機色素の含浸法を用いて作成することができる。
【0057】
半導体ナノ粒子を内包したポリマーナノ粒子は、ネイチャー バイオテクノロジー 19巻631ページ(2001)記載のポリスチレンナノ粒子への半導体ナノ粒子の含浸法を用いて作成することができる。
【0058】
本発明で用いられる蛍光物質を内包したナノ粒子とは、平均粒径は特に限定されないが、30〜800nm程度のものを用いることができる。また粒径のばらつきを示す変動係数は特に限定されないが、20%のものを用いることができる。本発明において、平均粒径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求めたものである。本願においては、1000個の粒子の粒径の算術平均を平均粒径とした。変動係数も、1000個の粒子の粒径分布から算出した値とした。
【0059】
表面に生体物質認識物質が結合している蛍光物質内包ナノ粒子
本発明の蛍光物質内包ナノ粒子は、主として病理診断用蛍光標識剤として用いられるものである。したがって、本発明の蛍光物質内包ナノ粒子は、標識化の対象とする生体物質(以下、「目的とする生体物質」と呼ばれる場合がある。)を特異的に標識化することができるよう、生体物質認識部位として機能する生体分子認識物質が表面に結合していることが好ましい。すなわち、本発明の蛍光物質内包ナノ粒子は、表面に生体分子認識物質を表面に有していることが好ましい。ここで、本発明において、生体物質認識部位とは、目的とする生体物質と特異的に結合及び/又は反応する部位である。なお、本明細書において、本発明に係る蛍光物質内包ナノ粒子のうち、生体分子認識物質が表面に結合している蛍光物質内包ナノ粒子を、特に「生体分子認識物質修飾蛍光物質内包ナノ粒子」と呼ぶことがある。
【0060】
本発明で用いられる生体分子認識物質は、目的とする生体物質と特異的に結合及び/又は反応する物質である限り特に限定されるものではないが、例えば、ヌクレオチド鎖、タンパク質、抗体等が挙げられる。
【0061】
このうち、抗体については、抗体医薬を構成する抗体を含めた各種抗体を用いることができる。ここで、本発明において、「抗体」という用語は、任意の抗体断片または誘導体を含む意味で用いられ、Fab、Fab'2、CDR、ヒト化抗体、多機能抗体、単鎖抗体(ScFv)などの各種抗体を含む。
【0062】
具体的には、細胞表面に存在するタンパク質であるHER2に特異的に結合する抗HER2抗体、細胞核に存在するエストロゲン受容体(ER)に特異的に結合する抗ER抗体、細胞骨格を形成するアクチンに特異的に結合する抗アクチン抗体などがあげられる。中でも抗HER2抗体および抗ER抗体を、蛍光物質内包ナノ粒子に結合させたものが乳がんの投薬選定に用いることができ好ましい。
【0063】
また、「目的とする生体物質」(すなわち、本発明の蛍光物質内包ナノ粒子による標識化の対象とする生体物質)は、特に限定されるものではないが、多くの場合、抗原抗体反応を通じて標識化が行われることから、上記生体分子認識物質に対する抗原として機能するものが挙げられる。
【0064】
本発明において、「抗原」という用語は、生体物質、特に、分子または分子断片を指すものであり、このような「分子」または「分子断片」としては、例えば、核酸(一本鎖であっても二本鎖であってもよいDNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等、またはヌクレオシド、ヌクレオチドおよびそれらの修飾分子)、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等)、アミノ酸(修飾アミノ酸も含む。)、糖質(オリゴ糖、多糖類、糖鎖等)、脂質、またはこれらの修飾分子、複合体などが挙げられ、具体的には、腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモンなどであってもよく、特に限定されない。例えば、抗がん剤として用いられる抗体医薬を抗体として用いる場合、がんの増殖制御因子,転移制御因子,増殖制御因子受容体および転移制御因子受容体等が好適な標的抗原として挙げられる。また、がんに関連する抗原以外に、TNF−α(Tumor Necrosis Factor α),IL−6(Interleukin-6)受容体などの炎症性サイトカイン、RSV F蛋白質等のウィルス関連分子なども「目的とする生体物質」となりうる。
【0065】
例えば、HER2等の、細胞増殖因子およびその受容体や、エストロゲン受容体(ER)が「目的とする生体物質」として好適に用いられる。
上記生体分子認識物質と蛍光物質内包ナノ粒子との結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着及び化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0066】
また生体物質認識部位と蛍光物質内包ナノ粒子との間にはこれらを連結する有機分子があってもよい。例えば、生体物質との非特異的吸着を抑制するためポリエチレングリコール鎖を用いることができ、例えばThermoScientific社製 SM(PEG)12を用いることができる。
【0067】
蛍光物質内包シリカナノ粒子へ生体物質認識部位を結合させる場合、蛍光物質が蛍光有機色素の場合でも、半導体ナノ粒子の場合でも、同様の手順を適用することができる。
例えば、無機物と有機物を結合させるために広く用いられている化合物であるシランカップリング剤を用いることができる。このシランカップリング剤は、分子の一端に加水分解でシラノール基を与えるアルコキシシリル基を有し、他端に、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、アルデヒド基などの官能基を有する化合物であり、上記シラノール基の酸素原子を介して無機物と結合する。
【0068】
具体的には、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ポリエチレングリコール鎖をもつシランカップリング剤(例えば、Gelest社製PEG−silane no.SIM6492.7)などがあげられる。シランカップリング剤を用いる場合、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0069】
なお、生体物質との非特異的吸着を抑制するために導入される上記ポリエチレングリコール鎖や、ポリエチレングリコール鎖をもつシランカップリング剤等の親水性官能基を有するシランカップリング剤は、水系分散用修飾化合物としても機能するものである。したがって、本発明の蛍光物質内包ナノ粒子における一態様では、表面に水系分散用修飾化合物が結合している。
【0070】
有機蛍光色素内包シリカナノ粒子とシランカップリング剤との反応手順は、公知の手法を用いることができる。
例えば、得られた蛍光色素内包シリカナノ粒子を純水中に分散させ、アミノプロピルトリエトキシシランを添加し、室温で12時間反応させる。反応終了後、遠心分離又はろ過により表面がアミノプロピル基で修飾された蛍光物質内包シリカナノ粒子を得ることができる。続いて、アミノ基と抗体中のカルボキシル基とを反応させることで、アミド結合を介し、抗体を蛍光有機色素内包シリカナノ粒子と結合させることができる。必要に応じEDC(1−Ethyl−3−[3−Dimethylaminopropyl]carbodiimide Hydrochloride:Pierce社製)のような縮合剤を用いることもできる。
【0071】
必要により有機分子修飾された有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と直接結合しうる部位と、分子標的物質と結合しうる部位とを有するリンカー化合物を用いることができる。
具体例として、アミノ基と選択的に反応する部位と、メルカプト基と選択的に反応する部位との両方をもつsulfo−SMCC(Sulfosuccinimidyl 4[N−maleimidomethyl]−cyclohexane−1−carboxylate:Pierce社製)を用いると、アミノプロピルトリエトキシシランで修飾した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子のアミノ基と、抗体中のメルカプト基とを結合させることで、抗体結合した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子ができる。
【0072】
蛍光物質内包ポリスチレンナノ粒子へ生体物質認識部位を結合させる場合、蛍光物質が蛍光有機色素の場合でも、半導体ナノ粒子の場合でも、同様の手順を適用することができる。すなわち、アミノ基など官能基をもつポリスチレンナノ粒子へ蛍光有機色素または半導体ナノ粒子を含浸することにより、官能基をもつ蛍光物質内包ポリスチレンナノ粒子を得ることができ、以降EDCもしくはsulfo−SMCCを用いることで、抗体結合した蛍光物質内包ポリスチレンナノ粒子ができる。
【0073】
〔病理診断用蛍光標識剤〕
上述した蛍光物質内包ナノ粒子は、異なる励起/発光特性を有する第1の蛍光物質と第2の蛍光物質を内包していることから、組織の標識化処理に用いたときに、同一視野で、第1の蛍光物質から発光された蛍光を含む第1の発光画像と、第2の蛍光物質から発光された蛍光は含むが第1の蛍光物質からの蛍光を含まない第2の発光画像を撮影して、これらの発光画像に基づく演算処理を行うことにより、組織の自家蛍光によるバックグラウンドによる影響が除去された病理診断用データを与えることができる。
【0074】
したがって、本発明では、このような蛍光物質内包ナノ粒子を含む病理診断用蛍光標識剤も提供される。ここで、本発明の病理診断用蛍光標識剤は、上述した蛍光物質内包ナノ粒子それ自体でもよく、PBSなど適当な水系溶媒に溶解または分散した形態のものでもよく、あるいは、上述した蛍光物質内包ナノ粒子に加えて、所要により、安定剤等の補助剤、製薬上許容される充填剤などのその他の成分を構成成分として含むものであってもよい。
【0075】
〔生体物質の測定方法〕
以下本発明に係る生体物質の測定方法について述べる。
本発明に係る生体物質の測定方法は、上述した蛍光物質内包ナノ粒子を病理診断用蛍光標識剤として用いて組織中の生体物質の測定方法に係るものであり、具体的には、
(a)上述した蛍光物質内包ナノ粒子を用いて組織を標識化処理する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた組織について、同一視野で、第1の蛍光物質から発光された蛍光を含む第1の発光画像と、第2の蛍光物質から発光された蛍光は含むが第1の蛍光物質からの蛍光を含まない第2の発光画像を撮影する工程と、
(c)前記工程(b)で得られた前記第1の発光画像と前記第2の発光画像とを比較し、該第1の発光画像と該第2の発光画像との両方の画像において輝点として検出された画素のみを有効な輝点と認識する工程と
を含む、組織中の生体物質の測定方法に係るものである。
【0076】
ここで、第2の蛍光物質として紫外領域に励起スペクトルを有する蛍光物質を用いる実施態様においては、上記工程(b)および(c)は、それぞれ、
(b-1)前記工程(a)で得られた組織について、同一視野で紫外線励起画像と可視光励起画像を撮影する工程、および、
(c-1)前記工程(b)で得られた前記紫外線励起画像と前記可視光励起画像とを比較し、該紫外線励起画像と該可視光励起画像との両方の画像において輝点として検出された画素のみを有効な輝点と認識する工程と
として行うことができる。この場合、可視光励起画像が第1の発光画像、紫外線励起画像が第2の発光画像にそれぞれ相当する。
【0077】
また、第2の蛍光物質として長残光蛍光体を用いる実施態様においては、上記工程(b)および(c)は、それぞれ、
(b-2)前記工程(a)で得られた組織について、同一視野で、励起光照射時に得られる励起画像と時間分解蛍光測定により得られる残光画像とを撮影する工程、および、
(c-2)前記工程(b)で得られた前記励起画像と前記残光画像とを比較し、該励起画像と該残光画像との両方の画像において輝点として検出された画素のみを 有効な輝点と認識する工程
として行うことができる。この場合、前記励起画像が第1の発光画像、前記残光画像が第2の発光画像にそれぞれ相当する。
【0078】
1.工程(a)について
本発明の測定方法では、工程(a)として、上記記載の蛍光物質内包ナノ粒子を用いて組織を標識化処理する工程が行われる。具体的には、標識化の対象とする生体物質を認識する物質(すなわち、生体分子認識物質)が表面に結合している上記蛍光物質内包ナノ粒子を組織と反応させ、抗原抗体反応を通じてこの組織上に存在する「標識化の対象とする生体物質」を標識化する工程である。ここで、組織を標識化処理する方法は特に限定されず、従来公知の手法を用いて標識化処理を行うことができる。例えば、従来公知の細胞染色と同様の手法により、病理切片組織に対して標識化処理を行うことができる。ただ、本発明の測定方法は、病理切片組織に限らず種々の組織に適用可能である。
【0079】
本発明の測定方法が適用できる組織として用いることのできる切片の作製法は特に限定されず、公知の方法により作製されたものを用いることができる。
たとえば、病理切片として汎用されているパラフィン包埋切片を組織として用いる場合は、次のような手順で工程(a)を行えばよい。
【0080】
(1)脱パラフィン処理工程
キシレンを入れた容器に、病理切片を浸漬させ、パラフィンを除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また必要により浸漬途中でキシレンを交換してもよい。
【0081】
ついで、エタノールを入れた容器に病理切片を浸漬させ、キシレンを除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また必要により浸漬途中でエタノールを交換してもよい。
【0082】
水を入れた容器に、病理切片を浸漬させ、エタノール除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また必要により浸漬途中で水を交換してもよい。
【0083】
(2)賦活化処理工程
公知の方法にならい、目的とする生体物質の賦活化処理を行う。
賦活化条件に特に定めはないが、賦活液としては、0.01Mクエン酸緩衝液(pH6.0)、1mMEDTA溶液(pH8.0)、5%尿素、0.1Mトリス塩酸緩衝液などを用いることができる。加熱機器はオートクレーブ、マイクロウェーブ、圧力鍋、ウォーターバスなどを用いることができる。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。温度は50〜130℃、時間は5〜30分で行うことができる。
【0084】
ついで、PBSを入れた容器に、賦活処理後の切片を浸漬させ、洗浄を行う。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また必要により浸漬途中でPBSを交換してもよい。
【0085】
(3)蛍光物質内包ナノ粒子を用いた標識化
上記蛍光物質内包ナノ粒子のPBS分散液を調製し、病理切片に載せて、検出対象とする生体物質と反応させる。このとき用いられる蛍光物質内包ナノ粒子は、予め生体物質を表面に結合させて「生体分子認識物質修飾蛍光物質内包ナノ粒子」の形態としたものを用いることが好ましい。
【0086】
ここで、複数の「目的とする生体物質」に対して標識化を行う場合は、各生体物質に対応した生体分子認識物質が結合した蛍光物質内包ナノ粒子のPBS分散液をそれぞれ調製し、それらを病理切片に載せ、それぞれ目的とする生体物質との反応を行うことができる。このとき、複数の「目的とする生体物質」を互いに区別できるよう、生体分子認識物質ごとに蛍光物質内包ナノ粒子を構成する上記第1の蛍光物質及び/または第2の蛍光物質を変えてもよい。
【0087】
病理切片に載せる際に、それぞれの蛍光物質内包ナノ粒子PBS分散液をあらかじめ混合してもよいし、別々に順次載せてもよい。第1の蛍光物質を含む蛍光物質内包ナノ粒子と第2の蛍光物質を含む蛍光物質内包ナノ粒子との混合比は特に限定されるものではないが、本発明の効果が表れるには両者の比は1:1〜5:1でよい。
【0088】
温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。反応時間は、30分以上24時間以下であることが好ましい。なお、蛍光物質内包ナノ粒子による染色を行う前に、BSA含有PBSなど公知のブロッキング剤を滴下することが好ましい。
【0089】
ついで、PBSを入れた容器に、染色後の切片を浸漬させ、未反応蛍光物質内包ナノ粒子の除去を行う。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また必要により浸漬途中でPBSを交換してもよい。
組織の形態観察のため、ヘマトキシリン−エオジン染色を行ってもよい。
カバーガラスを切片に載せ、封入する。必要に応じて市販封入剤を使用してもよい。
【0090】
2.工程(b)について
本発明の測定方法では、工程(b)として、上記工程(a)で得られた組織について、同一視野で、第1の蛍光物質から発光された蛍光を含む第1の発光画像と、第2の蛍光物質から発光された蛍光は含むが第1の蛍光物質からの蛍光を含まない第2の発光画像を撮影する工程が行われる。
【0091】
本発明において、第1の発光画像および第2の発光画像は、蛍光顕微鏡を用いて取得することができ、共焦点顕微鏡を用いて三次元情報を含む画像の形で取得することもできる。この第1の発光画像および第2の発光画像を撮影する際には、用いた蛍光物質内包ナノ粒子を構成する蛍光物質の吸収極大波長および蛍光波長に対応した励起光源および蛍光検出用光学フィルターを選択する。
【0092】
ここで、第2の蛍光物質として紫外領域に励起スペクトルを有する蛍光物質を用いる実施態様においては、工程(b)を、前記工程(a)で得られた組織について、同一視野で紫外線励起画像と可視光励起画像を撮影する工程として行うことができる。この場合、第1の発光画像を、励起光として可視光を用いて撮影するとともに、これと同一視野のもとで、第2の発光画像を、励起光として紫外光を用いて撮影することになる。ここで励起光として用いられる可視光は、具体的には400nm以上700nm以下の範囲にある光であり、紫外光は、400nm未満の光、より実用的には200nm以上400nm未満の範囲にある光である。そして、第1の発光画像および第2の発光画像は、励起光の影響を受けない限りにおいて可視領域から近赤外領域にかけての範囲、より具体的には、400nm以上900nm以下の波長範囲で取得することができる。
【0093】
また、第2の蛍光物質として紫外領域に励起スペクトルを有する蛍光物質を用いる実施態様においては、工程(b)を、前記工程(a)で得られた組織について、同一視野で、励起光照射時に得られる励起画像と時間分解蛍光測定により得られる残光画像とを撮影する工程として行うことができる。この場合、励起光存在下で第1の発光画像を撮影した後、励起光を消灯して一定時間経過後(例えば、励起光を消灯して100マイクロナノ秒から10ミリ秒後)に、当該第1の発光画像と同一視野で第2の発光画像を撮影することになる。
【0094】
3.工程(c)について
本発明の測定方法では、工程(c)として、上記工程(b)で得られた前記第1の発光画像と前記第2の発光画像とを比較し、該第1の発光画像と該第2の発光画像との両方の画像において輝点として検出された画素のみを有効な輝点と認識する工程が行われる。
【0095】
具体的には、
(i) 上記工程(b)で得られた第1の発光画像および第2の発光画像のそれぞれについて輝点数及び/または発光輝度を計測し、
(ii) 第1の発光画像上の各ピクセルと第2の発光画像上の対応する各ピクセルとを対比して、第1の発光画像と第2の発光画像との両方において発光が認められたピクセルについては有効な輝点としてカウントして足し合わせ、そうでないピクセルについては輝点としてカウントしない演算処理を行うことにより解析輝点データを得る
工程が行われる。
【0096】
このような工程を得ることで、組織の自家蛍光によるバックグラウンドのノイズを除去することができるので、S/N比の高い輝点データを得ることができ、診断精度を向上させることができるのである。
【0097】
そして、このような工程により得られた解析輝点データにおける輝点の数または発光輝度をもとに、目的とする生体物質の発現レベルを計測することができる。
輝点数または発光輝度の計測は、市販画像解析ソフト、例えば株式会社ジーオングストローム社製全輝点自動計測ソフトG-Countを用いて行うことができる。
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
各蛍光体の残光時間はPTI−3000(大塚電子株式会社製)を用いて1/10残光時間を測定した。
【実施例】
【0099】
[合成例1−1:Cy5内包シリカナノ粒子の合成]
下記工程(1)〜(4)の方法により、「ナノ粒子A1」を作製した。
工程(1):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)とテトラエトキシシラン 400μL(1.796mmol)とを混合した。
工程(2):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
工程(3):工程(2)で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(1)で調製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
工程(4):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
得られたシリカナノ粒子A1の走査型電子顕微鏡(SEM;日立社製S−800型)観察を行ったところ、平均粒径は110nm、変動係数は12%であった。
【0100】
[合成例1−2:Cy5内包ポリスチレンナノ粒子の合成]
下記工程(1)〜(3)の方法により、「ナノ粒子A2」を作製した。
工程(1):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)、ジクロロメタン60μL、エタノール120μLに溶解させた
工程(2):アミノ基を表面官能基として有するポリスチレンナノ粒子(粒径100nm)の水分散液(micromod社製)1.5mLを激しく撹拌しているところに、工程(1)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
工程(3):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を1回ずつ行った。
得られたポリスチレンナノ粒子A2のSEM観察を行ったところ、平均粒径は100nm、変動係数は6%であった。
【0101】
[合成例1−3:蛍光有機色素内包メラミンナノ粒子形成]
下記工程の方法により、「ナノ粒子A3」を作製した。
450gの水とCy5(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)を70℃に温める。樹脂(15mgのMadurit SMW818)を50gの水中において攪拌し、70℃にて添加する。溶液は澄明なままである。温度を再び70℃に上げ、2μlの98〜100%ギ酸を添加し、混合物の攪拌をこの温度にてさらに20分間行う。約1分の後、バッチは僅かな濁りを示した。その後、限外濾過(30キロダルトンのメンブラン)による精製を行ったところ、メラミンナノ粒子A3が得られた。
得られた粒子群の平均粒子径は約46nmであることが、走査電子顕微鏡による測定で確認された。
【0102】
[合成例2−1:InP/ZnS QDの合成]
下記工程の方法により、「無機蛍光体ナノ粒子a」を作製した。
ミリスチン酸インジウム 0.1mmol、
ステアリン酸0.1mmol、
トリメチルシリルフォスフィン 0.1mmmol、
ドデカンチオール 0.1mmol、
ウンデシレン酸亜鉛 0.1mmol
を、オクタデセン8mlとともに三口フラスコに入れ、窒素雰囲気下で還流を行いながら300℃1時間加熱した。室温に下げた後、メルカプトプロピオン酸0.01gを添加して2時間撹拌したところ、無機蛍光体ナノ粒子aとして、発光ピーク波長670nm、濃度3.0 InPMのInP/ZnS半導体ナノ粒子溶液を得た。
【0103】
[合成例2−2:CdSe/ZnS QDの合成]
下記工程の方法により、「無機蛍光体ナノ粒子b」を作製した。
Se粉末(0.7896g)を、トリオクチルホスフィン(TOP、7.4g)へ添加し、混合物を150℃まで加熱して(窒素気流下)、TOP−Seストック溶液を作成した。
【0104】
別途、CdO(0.450g)及びステアリン酸(8g)をアルゴン雰囲気下、三口フラスコ中で150℃まで加熱した。CdOが溶解した後、溶液を室温まで冷却した。前記溶液に、トリオクチルホスフィンオキサイド(TOPO、8g)、及び1−ヘプタデシル−オクタデシルアミン(HDA、12g)を添加し、混合物を再び150℃まで加熱し、ここで、TOP-ストック溶液を素早く添加する。そののちチャンバーの温度を220℃まで加熱し、さらに一定の速度で、120分かけて250℃まで上昇させた。その後、温度を100℃まで下げ、酢酸亜鉛二水和物を添加撹拌し溶解させたのち、ヘキサメチルジシリルチアンのトリオクチルフォスフィン溶液を滴下し、数時間撹拌を続けて反応を終了した。室温に下げた後、メルカプトプロピオン酸0.01gを添加して1時間20撹拌したのち、洗浄し、純水中に再分散したところ、無機蛍光体ナノ粒子bとして、発光ピーク波長670nm、濃度3.0 CdMのCdSe/ZnS半導体ナノ粒子溶液を得た。
【0105】
[合成例2−3:Si/SiO2半導体ナノ粒子の合成
下記工程の方法により、「無機蛍光体ナノ粒子c」を作製した。
Si半導体ナノ粒子
モノシランガス0.5リットル/min、窒素ガス19.45リットル/minの混合ガスを温度700℃、圧力50KPaで保持した石英ガラス製の反応管に導入し0.5時間反応させた。このとき反応管の下部に粉末が形成した。
【0106】
反応管を窒素ガスで置換し、大気圧とした。反応管を回転させながら粉末を1時間1100℃で加熱した。
その後、降温時に800℃で空気を20リットル/minで10分間導入したのち、再度窒素置換を行い、反応管を冷却した。
【0107】
反応管を室温まで冷却した後、粉末1mgに対して100mlの純水、0.5mgのメルカプトウンデカン酸を添加し40℃で10分間攪拌し、Siコア/SiO2シェル組成をもつ 無機蛍光体ナノ粒子cを得た。
【0108】
[合成例3−1:(Y,Gd)BO3:Eu3+内包ナノ粒子合成]
まず、下記の組成を有するA〜D液を調製した:
A液:低分子ゼラチン15%溶液1000cc;
B液:水500ccに硝酸イットリウム6水和物0.156mol、硝酸ガドリニウム0.90molを溶解した液;
C液:硝酸ユーロピウム0.0065molを水50ccに溶解した液;
D液:水500ccにほう酸0.123molを溶解した液。
【0109】
上記A液を60℃で激しく攪拌させ、その中に同じく60℃に保ったB,C,D液を4分間かけて同時に各々等速で添加を行なった。A液中に形成した白色沈殿をろ過、乾燥の後、1400℃大気中で2時間焼成したところ、ナノ粒子dを得た。
【0110】
[合成例3−2:Zn2SiO4:Mn2+内包ナノ粒子の合成]
まず、下記の組成を有するA〜D液を調製した:
A液:低分子ゼラチン15%水溶液1000cc;
B液:硝酸亜鉛6水和物35.33gと、硝酸マンガン6水和物1.79gを純水に溶解し、500ccとした液;
C液:28%アンモニア水18.25gを純水と混合し500ccとした液;
D液:クラリアントジャパン社製コロイダルシリカ30R25粒径20nm30%溶液12.52gを純水と混合し200ccとした液。
【0111】
室温において、A液を激しく攪拌した中に、B液とC液を30分間かけて等速で添加したところ、白色の沈殿が生じた。続けてD液を4分間かけてA液中に添加した後、加圧ろ過法により固液分離を行った。次いで、回収されたケーキを100℃24Hr乾燥し、乾燥済み前駆体を得た。得られた前駆体を大気中で700℃3hr焼成後、さらに窒素100%の雰囲気中で1200℃、3時間焼成してナノ粒子eを得た。
【0112】
[合成例4−1:蛍光有機色素、無機蛍光体ナノ粒子内包シリカナノ粒子の合成]
下記工程(1)〜(3)の方法により、「ナノ粒子A4」を作製した。
工程(1):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)、無機蛍光体ナノ粒子a 0.00126μmol、およびテトラエトキシシラン 400μL(1.796mmol)を混合した。
工程(2):エタノール40mLと14%アンモニア水10mLとの混合液を室温下撹拌しているところに、工程(1)で調製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
工程(3):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
得られたシリカナノ粒子A4の走査型電子顕微鏡(SEM;日立社製S−800型)観察を行ったところ、平均粒径は110nm、変動係数は12%であった。
【0113】
[合成例4−2:蛍光有機色素、無機蛍光体ナノ粒子内包ポリスチレンナノ粒子合成]
下記工程(1)〜(3)の方法により、「ナノ粒子A5」を作製した。
工程(1):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)、および、エタノールに分散させた無機蛍光体ナノ粒子b0.00126μmol、ジクロロメタン60μL、エタノール120μLに溶解させた。
工程(2):表面官能基アミノ基で粒径100nmポリスチレンナノ粒子水分散液(micromod社製)1.5mLを激しく撹拌しているところに、工程(1)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
工程(3):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を1回ずつ行った。
得られたポリスチレンナノ粒子A5のSEM観察を行ったところ、平均粒径は100nm、変動係数は6%であった。
【0114】
[合成例4−3:蛍光有機色素、無機蛍光体メラミンナノ粒子合成]
下記工程の方法により、「ナノ粒子A6」を作製した。
450gの水とCy5(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)、無機蛍光体ナノ粒子c0.00126μmolを70℃に温める。樹脂(15mgのMadurit SMW818)を50gの水中において攪拌し、70℃にて添加する。溶液は澄明なままである。温度を再び70℃に上げ、2μlの98〜100%ギ酸を添加し、混合物の攪拌をこの温度にてさらに20分間行う。約1分の後、バッチは僅かな濁りを示した。その後、限外濾過(30キロダルトンのメンブラン)による精製を行ったところ、メラミンナノ粒子A6が得られた。得られた粒子群の平均粒子径は約46nmであることが、走査電子顕微鏡による測定で確認された。
【0115】
[合成例5−1:蛍光有機色素、無機蛍光体ナノ粒子内包シリカナノ粒子合成]
下記工程(1)〜(3)の方法により、「ナノ粒子A7」を作製した。
工程(1):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)、エタノールに分散させたナノ粒子d 0.00126μmol、およびテトラエトキシシラン 400μL(1.796mmol)とを混合した。
工程(2):エタノール40mLと14%アンモニア水10mLとの混合液を室温下撹拌しているところに、工程(1)で調製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
工程(3):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
得られたシリカナノ粒子A7の走査型電子顕微鏡(SEM;日立社製S−800型)観察を行ったところ、平均粒径は110nm、変動係数は12%であった。
【0116】
[合成例5−2:蛍光有機色素、無機蛍光体ナノ粒子内包ポリスチレンナノ粒子合成]
下記工程(1)〜(3)の方法により、「ナノ粒子A8」を作製した。
工程(1):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)、および、エタノールに分散させた無機蛍光体ナノ粒子b0.00126μmol、ジクロロメタン60μL、エタノール120μLに溶解させた
工程(2):表面官能基アミノ基で粒径100nmポリスチレンナノ粒子水分散液(micromod社製)1.5mLを激しく撹拌しているところに、工程(1)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
工程(3):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を1回ずつ行った。
得られたポリスチレンナノ粒子A8のSEM観察を行ったところ、平均粒径は100nm、変動係数は6%であった。
【0117】
[合成例5−3:蛍光有機色素、無機蛍光体メラミンナノ粒子]
下記工程の方法により、「ナノ粒子A9」を作製した。
450gの水とCy5(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)、無機蛍光ナノ粒子a0.00126μmolを70℃に温める。樹脂(15mgのMadurit SMW818)を50gの水中において攪拌し、70℃にて添加する。溶液は澄明なままである。温度を再び70℃に上げ、2μlの98〜100%ギ酸を添加し、混合物の攪拌をこの温度にてさらに20分間行う。約1分の後、バッチは僅かな濁りを示した。その後、限外濾過(30キロダルトンのメンブラン)による精製を行ったところ、メラミンナノ粒子A6が得られた。生成の後に得られた粒子群の平均粒子径は約46nmであることが、走査電子顕微鏡による測定により確認された。
【0118】
[実施例1:ナノ粒子への抗体の結合]
ナノ粒子A1〜A9に対して以下の手順により抗体結合を行った。
詳しくは、工程(1)〜(12)の操作をおこなって抗体を結合し「抗体結合粒子1〜9」を作成した。
工程(1):1mgのナノ粒子A1〜A9を純水5mLに分散させた。アミノプロピルトリエトキシシラン水分散液100μLを添加し、室温で12時間撹拌した。
工程(2):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。
工程(3):エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を1回ずつ行ったところ、ナノ粒子A1〜A9にそれぞれ対応するアミノ基修飾ナノ粒子B1〜B9がそれぞれ得られた。得られたナノ粒子B1〜B9のFT−IR測定を行ったところ、アミノ基に由来する吸収が観測でき、アミノ基修飾できたことを確認できた。
工程(4):工程(3)で得られたアミノ基修飾ナノ粒子B1〜B9を、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を2mM含有したPBS(リン酸緩衝液生理的食塩水)を用いて3nMに調整した。
工程(5):工程(4)で調整した溶液に最終濃度10mMとなるようSM(PEG)12(サーモサイエンティフィック社製、succinimidyl−[(N−maleomidopropionamid)−dodecaethyleneglycol]ester)を混合し、1時間反応させた。
工程(6):反応混合液を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。
工程(7):EDTAを2mM含有したPBSを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による洗浄を3回行った。最後に500μLPBSを用い再分散させた。
工程(8):100μgの抗HER2抗体を100μLのPBSに溶解させたところに1Mジチオスレイトール(DTT)を添加し、30分反応させた。
工程(9):反応混合物についてゲルろ過カラムにより過剰のDTTを除去し、還元化抗HER2抗体溶液を得た。
工程(10):工程(7)で得られた各粒子分散液と工程(9)で得られた還元化抗HER2抗体溶液とをPBS中で混合し、1時間反応させた。
工程(11):10mMメルカプトエタノール4μLを添加し、反応を停止させた。
工程(12):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した後EDTAを2mM含有したPBSを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による洗浄を3回行った。最後に500μLのPBSを用い再分散させたところ、ナノ粒子A1〜A9にそれぞれ対応する、抗体結合粒子1〜9がそれぞれ得られた。
【0119】
[実施例2:病理染色実験]
評価実験:(1)抗体結合粒子1〜9を用いた組織染色
上記実施例1で作製した抗体結合粒子1〜9を用いてヒト乳房組織の免疫染色を行った。
【0120】
染色切片はコスモバイオ社製の組織アレイスライド(CB-A712)を用いた。あらかじめDAB染色によりHER2染色濃度を観察し、(1)HER2発現量が高いロットと、(2)HER2発現量が低いロットとの2種のロットを用意し、これらのロットの組織スライドについて、抗体結合粒子を用いてそれぞれ染色を行った。ここで、このような組織染色を、抗体結合粒子1〜9のそれぞれについて行った。
【0121】
ここで、抗体結合粒子ごとに、HER2発現量が高いロットの組織アレイスライド(以下、「スライド1」)とHER2発現量が低いロットの組織アレイスライド(以下、「スライド2」)のそれぞれについて、下記(1)〜(10)に記載の操作を行った。
【0122】
(1):キシレンを入れた容器に病理切片を30分浸漬させた。途中3回キシレンを交換した。
(2):エタノールを入れた容器に病理切片を30分浸漬させた。途中3回エタノールを交換した。
(3):水を入れた容器に、病理切片を30分浸漬させた。途中3回水を交換した。
(4):10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)に病理切片を30分浸漬させた。
(5):121℃で10分オートクレーブ処理を行った。
(6):PBSを入れた容器に、オートクレーブ処理後の切片を30分浸漬させた。
(7):1%BSA含有PBSを組織に載せて、1時間放置した。
(8):1%BSA含有PBSで0.05nMに希釈した抗体結合粒子10μLとを混合し、組織に載せて3時間放置した。
(9):PBSを入れた容器に、染色後の切片をそれぞれ30分浸漬させた。
(10):Merck Chemicals社製Aquatexを滴下後、カバーガラスを載せ封入した。
【0123】
評価実験:(2)抗体結合粒子1〜6を用いて染色した組織の輝点計測
上記評価実験(1)により染色した組織切片に励起光を照射して蛍光発光させ、その組織切片からオリンパス社製DSU共焦点顕微鏡を用いて画像を取得した。励起波長は633nmと、365nmを切り替えて励起し、検出波長660nmとした。
ジーオンオングストロング社製輝点計測ソフト、G−countを用いて輝点数および発光輝度を計測した。計測方法は以下の2つの方法で実施した。
【0124】
・計測方法1
上記抗体結合粒子1〜6で染色した組織について、励起波長を633nm、検出波長を660nmにそれぞれ設定して観察を行った。
【0125】
輝点数は、組織アレイスライド中の8スポットについて各30細胞の輝点を計測し、その平均値を求めた。発光輝度は、8スポットそれぞれについて視野全体の蛍光強度を合算し、その平均値を求めた。
【0126】
・計測方法2
上記抗体結合粒子1〜6で染色した組織について、励起波長を633nm、450nmの2種、検出波長を660nmにそれぞれ設定して観察を行った。
【0127】
輝点数は、同一視野で、励起波長の異なる2種の画像を重ね合わせ、同時に2つの画像で輝点となっているピクセル値を輝点とし、輝点の発光強度を足し合わせた。そうでない場合には、輝点としてカウントしないという処理を行った。
【0128】
組織アレイスライド中の8スポットについて各30細胞の輝点を計測し、その平均値を求めた。発光輝度は、8スポットそれぞれについて視野全体の蛍光強度を合算し、その平均値を求めた。
【0129】
上記計測方法2により得られた結果を、上記計測方法1により得られた結果と共に下記表1に示す。ここで、表1において、抗体結合粒子1〜6を、それぞれ粒子1〜6と表している。
【0130】
【表1−1】

【0131】
【表1−2】

以上のように、紫外励起画像の観察を行わない計測方法1であっても、本発明の抗体結合粒子4〜6は、無機蛍光体ナノ粒子を内包しない抗体結合粒子1〜3と比べて輝度が高く、輝点観察のS/N比が改善された。さらに本発明の測定方法による計測方法2を用いることによって、計測方法1と比べてS/N比が飛躍的に改善されることが示された。
【0132】
・計測方法3
上記抗体結合粒子1〜3及び7〜9について、励起波長を254nm、検出波長を、粒子1,3,7,9については510〜540nmに、粒子2,8については600〜700nmの範囲にそれぞれ設定して観察を行った。試料に励起光照射ののち、励起光照射を終了後1msec後に観察画像を取得した。
【0133】
輝点数は、同一視野で、励起波長の異なる2種の画像を重ね合わせ、同時に2つの画像で輝点となっているピクセル値を輝点とし、輝点の発光強度を足し合わせた。そうでない場合には、輝点としてカウントしないという処理を行った。
【0134】
組織アレイスライド中の8スポットについて各30細胞の輝点を計測し、その平均値を求めた。発光輝度は、8スポットそれぞれについて視野全体の蛍光強度を合算し、その平均値を求めた。
【0135】
上記計測方法3により得られた結果を、上記計測方法1による結果と対比して下記表2に示す。ここで、表2において、抗体結合粒子1〜3および7〜9を、それぞれ粒子1〜3および7〜9と表している。
【0136】
【表2−1】

【0137】
【表2−2】

以上のように、本発明の抗体結合粒子は7〜9は、紫外励起残光画像の観察を行わない計測方法1を用いたときには、長残光蛍光体を含まない抗体結合粒子1〜3と同等の輝度及びS/N比を示すに留まったものの、紫外励起残光画像の観察を行った計測方法3を用いたときには、抗体結合粒子1〜3と比べて輝度が高く、輝点観察のS/N比も著しく改善された。
【0138】
一方、抗体結合粒子1〜3で標識化したスライド1および2について、計測方法3を用いたときには、スライドに用いた組織におけるHER2発現量の多寡にかかわらず輝点がほとんど観測されなかった。
【0139】
以上のように、本発明の計測方法を用いることによって、S/N比が、飛躍的に改善されることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の蛍光物質と、該第1の蛍光物質と識別可能な励起/発光特性を有する第2の蛍光物質とを含む蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項2】
前記第1の蛍光物質が紫外領域に励起スペクトルを有さず、前記第2の蛍光物質が紫外領域に励起スペクトルを有する請求項1記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項3】
無機蛍光体ナノ粒子と有機蛍光色素を内包する請求項2記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項4】
前記無機蛍光体ナノ粒子がII−VI族化合物またはIII−V族化合物を含む請求項3記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項5】
前記無機蛍光体ナノ粒子が単体珪素を含む請求項3記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項6】
有機重合体樹脂によって、前記第1の蛍光物質および前記第2の蛍光物質が内包された請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項7】
前記有機重合体樹脂がポリスチレン樹脂である請求項6記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項8】
前記有機重合体樹脂がメラミン樹脂である請求項6記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項9】
シリカによって、前記第1の蛍光物質および前記第2の蛍光物質が内包された請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項10】
表面に生体分子認識物質が結合している請求項1〜9のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項11】
表面に水系分散用修飾化合物が結合している請求項1〜10のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項12】
前記第1の蛍光物質が長残光蛍光体ではない蛍光物質であり、且つ前記第2の蛍光物質が長残光蛍光体である請求項1記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項13】
前記長残光蛍光体と有機蛍光色素を内包する請求項12記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項14】
前記長残光蛍光体が無機粒子である請求項12または13記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項15】
前記無機粒子の体積平均粒径が5nm以上、500nm以下である請求項14記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項16】
前記無機粒子の体積平均粒径が5nm以上、300nm以下である請求項14記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項17】
前記長残光蛍光体が、母体と賦活剤とからなる賦活型蛍光体である請求項12〜16のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項18】
前記賦活剤が希土類賦活剤である請求項17記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項19】
前記賦活剤がMn2+である請求項17記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項20】
前記賦活剤がEu3+である請求項17記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項21】
前記母体がY23である請求項17〜20のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項22】
前記母体がZn2SiO4である請求項17〜20のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項23】
有機重合体樹脂によって、前記第1の蛍光物質および前記第2の蛍光物質が内包された請求項12〜22のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項24】
前記有機重合体樹脂がポリスチレン樹脂である請求項23記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項25】
前記有機重合体樹脂がメラミン樹脂である請求項23記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項26】
シリカによって、前記第1の蛍光物質および前記第2の蛍光物質が内包された請求項12〜22のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項27】
表面に生体分子認識物質が結合している請求項12〜26のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項28】
表面に水系分散用修飾化合物が結合している請求項12〜27のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子。
【請求項29】
請求項1〜28のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子を含む病理診断用蛍光標識剤。
【請求項30】
(a)請求項1〜11のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子を用いて組織を標識化処理する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた組織について、同一視野で紫外線励起画像と可視光励起画像を撮影する工程と、
(c)前記工程(b)で得られた前記紫外線励起画像と前記可視光励起画像とを比較し、該紫外線励起画像と該可視光励起画像との両方の画像において輝点として検出された画素のみを有効な輝点と認識する工程と
を含む、組織中の生体物質の測定方法。
【請求項31】
(a)請求項12〜28のいずれかに記載の蛍光物質内包ナノ粒子を用いて組織を標識化処理する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた組織について、同一視野で、励起光照射時に得られる励起画像と時間分解蛍光測定により得られる残光画像とを撮影する工程と、
(c)前記工程(b)で得られた前記励起画像と前記残光画像とを比較し、該励起画像と該残光画像との両方の画像において輝点として検出された画素のみを有効な輝点と認識する工程と
を含む、組織中の生体物質の測定方法。

【公開番号】特開2013−57037(P2013−57037A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197340(P2011−197340)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/超早期高精度診断システムの研究開発:病理画像等認識技術の研究開発/病理画像等認識自動化システムの研究開発(1粒子蛍光ナノイメージングによる超高精度がん組織診断システム)」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】