説明

蛍光発光インキ、蛍光発光印刷物及び蛍光発光印刷物の真偽判別方法

【課題】蛍光を有さない微粒子を含有した蛍光発光インキ及び該インキを用いて印刷した印刷物のインキの蛍光分布を観察することで印刷物を真偽判別する方法を提供する。
【解決手段】蛍光を有さない微粒子を含む蛍光発光インキによる印刷物を作製し、その印刷物を共焦点レーザ走査型顕微鏡用いて蛍光観察すると、蛍光発光する印刷画像内に蛍光を発光しない微粒子が存在することを、蛍光発光インキの蛍光分布の中から、蛍光がない部分として抽出し、蛍光を有さない微粒子の有無を確認することで真偽判別を行う蛍光発光インキ、蛍光発光印刷物及び真偽判別方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光発光インキ及び該蛍光発光インキを用いて得られる蛍光発光印刷物及び真偽判別方法に関するものであり、特に、顕微鏡を用いて観察し、蛍光を有さない微粒子の有無で真偽を判別することができる機能を有した蛍光発光インキ及びこれを用いて印刷した蛍光発光印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、銀行券及び有価証券類等には、偽造防止技術の一つとして、印刷インキに、磁気特性、蛍光発光特性又はIR特性等の機能を付与することで真偽判別の要素とする技術が開示されており、蛍光体や磁性体等の特殊な特性を有する機能性材料を用いる真偽判別方法は数多くあり、これらは、機能性材料を印刷物に付与し、それらの機能性材料が有する発光の有無や磁気強度等の特性を判別の一要素として真偽の判定を行うものである。
【0003】
しかし、有価証券類に用いられている真偽判別要素を分析することや、それらの要素情報を何らかの方法により入手することで、有価証券類に採用されている真偽判別要素と類似の機能性材料を探し出し、印刷物に類似の機能を持たせることにより、有価証券に対する偽造の精度を高めるケースがある。場合によっては、類似の機能を持たせた精度の高い偽造品が自動販売機等で利用される可能性も想定される。
【0004】
特に、蛍光発光材料は、各種発光色の材料が市販されており、容易に入手することができる。そのため、有価証券類に用いられている蛍光発光材料と類似した発光色の材料を入手すれば、簡単に蛍光発光印刷物の偽造が可能である。そのため、蛍光発光の有無又は蛍光発光色だけで真偽判別を行うことが難しくなっている。
【0005】
また、有価証券類にほどこされた蛍光発光色と偽造品の蛍光発光色が目視では識別できない場合に、偽造品の蛍光発光インキの成分を蛍光X線分析法、赤外分光法又はラマン分光法等の非破壊分析法により分析した結果から、真偽判別することは容易ではない。その理由は、蛍光発光インキにおける蛍光発光材料の添加量が少ないため、インキビヒクル成分が蛍光発光材料の分析を妨げるからである。つまり、蛍光発光インキの場合、類似の発光色を持つ偽造品にほどこされた蛍光インキの真偽判別は非常に困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来の問題点を解決するためにかんがみなされたものであり、本発明の目的は、蛍光を有さない微粒子を含有した蛍光発光インキを作製し、該蛍光発光インキを用いて印刷することで印刷物を得ることである。また、得られた印刷物のインキの蛍光分布を共焦点レーザ走査型顕微鏡(以下、「CLSM」という。)を用いて観察することで印刷物の真偽を判別する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の蛍光発光インキは、蛍光を有する蛍光材料とバインダー樹脂とを含んだ蛍光発光インキにおいて、前述の蛍光発光インキに、さらに、蛍光を有さない微粒子を含有するものである。
【0008】
また、本発明の蛍光発光インキを構成する微粒子は、無機酸化物、水酸化物塩、炭酸塩及びポリマー粒子の少なくとも一つである。
【0009】
また、本発明の蛍光発光インキを構成する微粒子の粒径は、1μm〜20μmである。
【0010】
また、本発明の蛍光発光インキを構成する微粒子の添加量は、蛍光発光インキに対して1〜20%である。
【0011】
また、本発明の印刷物は、蛍光発光インキを凸版印刷、オフセット印刷、凹版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷又はスクリーン印刷して成るものである。
【0012】
また、本発明の印刷物の真偽判別方法は、印刷物の表面にレーザ光を走査し、走査光により印刷物の蛍光発光インキが印刷されている領域から励起した蛍光を検出器によって検出し、検出器が捉えた蛍光を画像情報に変換することで、蛍光発光インキが印刷されている領域の任意の位置における二次元像及び/又は三次元像を取得し、取得した像を観察して、印刷物に施された蛍光発光インキが印刷されている領域内の蛍光発光インキに含まれる無蛍光の微粒子の有無により真偽判別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、蛍光を有さない微粒子を含む蛍光発光インキによる印刷物を可視光下及び紫外線光下での肉眼や光学顕微鏡等の簡易的な装置で観察した場合には通常の蛍光発光インキによる印刷物と識別することができないが、CLSMを用いて観察した際に、通常の蛍光発光インキによる印刷物と識別することが可能となった。蛍光を有さない微粒子を含む蛍光発光インキによる印刷物は、CLSMを用いて蛍光観察すると、蛍光を発光しない微粒子が蛍光発光インキの蛍光分布の中で、蛍光がない部分として表示されることにより、印刷物の真偽判別が可能となり、CLSMで蛍光の有無を観察してはじめて確認できるものであることから、偽造防止効果を一層高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】CLSMの概略図を示す。
【図2】本発明の実施例1に係る印刷物をCLSMにより観察したXY平面スライス画像を重ね合わせた画像である。
【図3】比較例1の印刷物をCLSMにより観察したXY平面スライス画像を重ね合わせた画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる発明を実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている技術の範疇であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0016】
次に、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。図1は、CLSMの概略図である。図2は、実施例1に係る印刷物をCLSMにより観察したXY平面スライス画像を重ね合わせた画像を示す図である。図3は、比較例1の印刷物をCLSMにより観察したXY平面スライス画像を重ね合わせた画像を示す図である。
【0017】
本発明における蛍光発光インキは、一般に、蛍光発光インキを構成するために用いられる蛍光顔料とインキビヒクルを混合し、更に蛍光を発光しないという機能を有する微粒子を含有させたことに特徴がある。蛍光発光インキとは、通常の可視光下において肉眼により視認しがたく、紫外線又は赤外線等の励起エネルギーを照射することにより、目視等で発光を検出することが可能となるインキである。また、本発明の蛍光発光インキは、蛍光発行特性を有さない微粒子を蛍光発光インキ作製時に添加して混合することで得られるため、特別な技術又は設備が不要であることから、容易に作製することができる。
【0018】
本発明で用いる蛍光材料としては、主に紫外線を照射することで可視光領域において発光する有機系又は無機系の各種材料が挙げられるが、これらの蛍光材料は、特に励起波長を限定することなく、かつ、有機系と無機系の蛍光材料を併用して使用しても良い。
【0019】
また、本発明で用いるインキビヒクルとしては、植物油、アルキド樹脂、アクリレート、ウレタン樹脂又はアクリル樹脂等、一般に印刷分野で公知公用の各種インキビヒクルが挙げられる。本発明の実施の形態においては、植物油を用いた蛍光発光インキを用いた例で説明するが、その他のインキビヒクルを用いたものでも同様の効果が得られる。
【0020】
本発明で用いる蛍光発光インキに含有する微粒子としては、CLSMで観察した際に、蛍光を発光しない微粒子であり、無機酸化物、水酸化物塩、炭酸塩又はポリマー粒子が挙げられるが、具体的な例としては、ガラスビーズ、ガラスパウダー、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又はポリマー粒子等が挙げられる。
微粒子の粒径としては、1μm〜20μmの範囲であることが好ましい。また、微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、真偽判別時に他の蛍光発光特性を有さない成分との差別化をはかるため、他の成分として混入する可能性が少ない形状である球状の形状を示すものが好ましい。
【0021】
微粒子の添加の適量は、印刷適性、印刷品質及び真偽判別の効果上、蛍光発光インキに対して1〜20%であれば良い。これは、1%以下の場合、異物が混入したときに真偽判別が難しくなり、20%以上の場合、インキ転移性や蛍光強度に影響するためである。
印刷適性とは、品質の優れた印刷物を能率よく印刷するために、紙については印刷されやすさ、インキについては印刷しやすさが必要で、印刷現場で要求される性質である。
印刷品質とは、例えば、印刷物を目視したときに、印刷領域全体で、印刷濃度が一様であるか、又は画像が良好であるかというようなことで品質を評価する。
【0022】
用いる印刷方式としては、凸版印刷、オフセット印刷、凹版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷又はスクリーン印刷等、一般に用いられる印刷方式であれば良く、インキが用紙やフィルム等の基材に転移していればインキ膜厚に制限はない。
【0023】
本発明の蛍光発光インキを用いて、一般に公知の印刷方式で基材上に印刷を施すことにより得られる印刷物を総称して印刷物という。
【0024】
本発明で得られた印刷物は、可視光下及び紫外線光下において、肉眼や光学顕微鏡等の簡易的な装置で観察した場合には、一般的な蛍光印刷物と識別することができないが、CLSMを用いて観察すると、試料を破壊することなく、任意の位置におけるXY平面、XZ断面及びYZ断面等を観察することが可能となり、蛍光を発光しない微粒子と蛍光発光インキが持つ蛍光分布とを測定することができるため、印刷物の真偽判別に利用することができる。
【0025】
図1は、本発明の蛍光発光インキ及びその印刷物を観察するための、CLSMの概略図を示したものである。CLSMの特徴は、レーザ光を光源1とする顕微鏡であり、試料の焦点面7をレーザで走査し、焦点面7から発光する蛍光の平面分布を記録し、コンピュータを通して各焦点面における切片画像を重ね合わせることによって、3次元蛍光分布を一枚の重ね合わせ画像として得られる点にある。
【0026】
光源1からの照射光(レーザ光)は、レンズ2によって励起用ピンホール3に集光され、ダイクロイックビームスプリッタ4により、走査装置5の方向に反射される。照射光は、顕微鏡対物レンズ6を通って焦点面7に集光され、スポット状のビームで試料上を走査する。顕微鏡対物レンズ6の間に配置される試料から励起される蛍光は、試料からの蛍光が照射光とは異なる波長を有するため、対向する方向に照射ビーム経路に沿って進み、ダイクロイックビームスプリッタ4を通過する。ダイクロイックビームスプリッタ4の後に配置される検出用ピンホール8は、励起用ピンホール3に対して共焦点共役になるように配置されるため、焦点面以外からの光を排除し、焦点領域からの蛍光のみが検出器9(フォトマル:PMT)によって検出される。検出器9がとらえた蛍光は、画像情報に変換され、最終的にモニタ上に表示される。焦点面7をずらしてXY平面スライス画像を集め、得られたXY平面スライス画像のデータをコンピュータで一枚の画像データにし、重ね合わせ画像が作られる。
【0027】
ピンホールとは、フォトマルの直前に設置された固定又は可変式の絞りである。3次元分解能は、この絞りの開閉に大きく影響される。また、ピンホールを通した蛍光は、Z軸上の分解能の大幅な向上のみならず、XY平面上の分解能向上にも好影響を与える。
【0028】
以上のような構成のCLSMを用いて試料(印刷物)を観察する場合、試料台上に試料(印刷物)を固定するが、精度の高い観察、解析のためには、シワ等のないように平らに固定することが好ましい。
【実施例1】
【0029】
以下に、本発明の実施例について説明する。実施例1は、実施例1のインキと比較例1のインキとを示すことで、本発明を具体的に説明するが、これらは、本発明を何ら限定するものではない。
本発明の実施の形態に係る蛍光発光インキの実施例1を比較例1とともに説明する。微粒子としてガラスパウダーを用いた例を示すが、これに限定されるものではない。本発明の蛍光発光インキは、その成分として、通常の印刷インキと同様に、蛍光顔料、ビヒクル及び補助剤等を含有する。
以下の配合で、蛍光発光インキを調製する。
【0030】
実施例1(単位g) 比較例1(単位g)
蛍光剤(クラチ社製造) 10.0 10.0
ガラスパウダー 6.5 −
オフセット用マゼンタ大豆油インキ 100.0 100.0
油性ニス 20.0 20.0
【0031】
基材(用紙)上に、実施例1で作製した蛍光発光インキを用いて印刷を施し、印刷物を作製する。また、比較例1で作製した蛍光発光インキを用いて用紙に印刷を施し、印刷物を作製する。
印刷方式としては、本発明の蛍光発光インキを、一般に公知のオフセット印刷や凹版印刷等に用いて印刷すれば良い。
【0032】
上記のようにして得られた印刷物を例に説明する。実施例1に係わる印刷物のインク定着状態の観察は、CLSM(ライカマイクロシステムズ社製「TSC SP5」)を用いた。励起波長405nm、検出波長580nm〜620nmとし、全測定領域で蛍光が飽和しないように感度を調整した。また、50倍のドライレンズを使用し、デジタルズームは2.5倍に設定した。
【0033】
図2は、実施例1の蛍光発光インキを用いて印刷した印刷物を、CLSMで観察したXY平面スライス画像の重ね合わせ画像を示すものである。モノクロ印刷画像となっているが、実際にはカラー画像が得られる。図の明るい部分は蛍光を発している部分であり、円状の無蛍光部分(黒)が、ガラスパウダーを示している。このように、微粒子としてガラスパウダーのような球状のものを用いることで、仮に印刷物上に他の無蛍光の成分が含まれていたとしても、特殊な形状として確認することができるため、真偽判別に利用することができる。
【0034】
比較例1の蛍光発光インキによる印刷物を、実施例1と同様の条件でCLSMにより観察した。
【0035】
図3は、比較例1の蛍光発光インキによる印刷物を、CLSMで観察したXY平面スライス画像の重ね合わせ画像を示すものである。図3には、図2に見られた円状の無蛍光部分(黒)は観察できなかった。
【0036】
この結果からも、実施例1のガラスパウダーを無蛍光部分として観察することができることが明らかであるため、極めて精巧な偽造品が出ても、CLSMで観察し、蛍光発光しない微粒子を検知することで、その真偽を判定することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 光源
2 レンズ
3 励起用ピンホール
4 ダイクロミックビームスプリッタ
5 走査装置
6 顕微鏡対物レンズ
7 焦点面
8 検出用ピンホール
9 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光を有する蛍光顔料とバインダー樹脂とを含んだ蛍光発光インキに、さらに、蛍光を有さない微粒子を含有することを特徴とする蛍光発光インキ。
【請求項2】
前記微粒子は、無機酸化物、水酸化物塩、炭酸塩、ポリマー粒子の少なくとも一つである請求項1記載の蛍光発光インキ。
【請求項3】
前記微粒子の粒径は、1μm〜20μmである請求項1又は2記載の蛍光発光インキ。
【請求項4】
前記微粒子の添加量は、前記蛍光発光インキに対して1〜20%である請求項1乃至3のいずれか1項記載の蛍光発光インキ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の蛍光発光インキを用いて、基材上に凸版印刷、オフセット印刷、凹版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷又はスクリーン印刷して成る蛍光発光印刷物。
【請求項6】
請求項5記載の蛍光発光印刷物の真偽判別を共焦点レーザ走査型顕微鏡を用いて行う真偽判別方法であって、
前記印刷物の表面にレーザ光を走査し、走査光により前記印刷物の蛍光発光インキが印刷されている領域から励起した蛍光を検出器によって検出し、
前記検出器が捉えた蛍光を画像情報に変換することで、前記蛍光発光インキが印刷されている領域の任意の位置における二次元像及び/又は三次元像を取得し、
前記取得した像を観察して、前記印刷物に施された蛍光発光インキが印刷されている領域の前記蛍光発光インキに含まれる前記微粒子の有無により真偽判別することを特徴とする蛍光発光印刷物の真偽判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−219609(P2011−219609A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89719(P2010−89719)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】