説明

蛍光粒子を用いた検出対象物質の検出方法

【課題】温度によるシグナル変化率を調整する補正システムを利用した免疫蛍光アッセイにおいて、コントロールエリアのシグナル値とテストエリアのシグナル値の温度依存性の差が小さいことを特徴とする免疫蛍光アッセイ方法を提供すること。
【解決手段】(1)被検物質と、蛍光粒子とを基板上に存在するテストエリア及びコントロールエリアに接触させて蛍光粒子と被検物質とを反応させる工程、(2)未反応の蛍光粒子を除去する工程、(3)テストエリア及びコントロールエリアの蛍光粒子の蛍光を測定する工程、(4)コントロールエリアにおける蛍光シグナル値を用いてテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正する工程、を含む被検物質の測定方法であって、蛍光粒子が、(i)被検物質と結合可能な1種以上の第1の結合物質と、(ii)第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない第3の結合物質とを、結合した結合物質標識蛍光粒子であり、コントロールエリアに、第1の結合物質に対して結合可能な第2の結合物質が固定化されている、被検物質の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光粒子を用いた検出対象物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンパク質、酵素、無機化合物等を定量する、高感度かつ容易な測定法として蛍光検出法が広く用いられている。この蛍光検出法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する検出対象物質(被検物質)を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって被検物質の存在を確認する方法である。また、被検物質が蛍光体ではない場合、蛍光色素で標識されて被検物質と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合即ち被検物質の存在を確認することも広くなされている。
【0003】
このような蛍光検出法において、検出の感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が知られている。かかる方法では、プラズモン共鳴を生じさせるため、透明な支持体上の所定領域に金属層を設けたセンサチップを用意し、支持体と金属膜との界面に対して支持体の金属層形成面と反対の面側から、全反射角以上の所定の角度で励起光を入射させる。かかる励起光の照射により金属層に表面プラズモンが発生する。かかる表面プラズモンの発生による電場増強作用によって、蛍光を増強させることによりシグナル/ノイズ比(S/N比)が向上することとなる。表面プラズモン励起による蛍光検出法(以下、「SPF法」とする)は、落射励起による蛍光検出法(以下、「落射蛍光法」とする)と比較して、信号増強度が約10倍得られ、高感度に測定することができる。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の被検物質の量を求める光信号検出方法では、誘電体プレートの一面の所定領域に設けられた金属層を備えたセンサ部を有するセンサチップを用意し、センサチップのセンサ部に試料を接触させる。かかる接触により、試料に含有される被検物質の量に応じた量の光応答性標識物質が付与された結合物質がセンサ部に結合する。次いで、所定領域に対して励起光を照射し、金属層上に生じた電場増強場内に生じる光応答性標識物質からの光を検出することにより、被検物質の量を求められる。また、この方法において、光応答性標識物質として、複数の光応答物質が、光応答物質から生じる光を透過する光透過材料により、光応答物質が金属層に近接した場合に生じる金属消光を防止するように、包含されてなるものを用いることも可能である。
【0005】
また、特許文献2に記載されているアッセイ方法では、被検物質に対する複数種類の抗体を利用した免疫アッセイにより、定量できる被検物質の濃度範囲を広げることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−190880号公報
【特許文献2】特開平10−90268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のSPF法を利用した免疫診断システムでは、製品に含まれる試薬量等のバラツキを軽減するために、測定対象物に反応するテストエリアのシグナル値を、試薬量に比例するコントロールエリアのシグナル値で除算することにより得られた補正計数に基づき、測定結果のばらつきを補正する手法が採用されている。そのため、温度等の変化によるシグナル変化が、テストエリアのシグナル値とコントロールエリアのシグナル値とで独立に変化すると、かかる補正係数を用いても正しく補正されないという問題がある。一般的に、基板に固定する抗体の量、又は、標識に固定する抗体の量を変化させることにより、温度等の変化によるシグナル変化率を調整することが行われている。具体的には、基板に固定する抗体量を減少させて調整することにより温度依存性を大きくすることができる。しかしながら、基板に固定する抗体量や標識に固定する抗体量を変えても温度等の変化によるシグナル変化率を調整できない場合もある。本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、温度等の変化によるシグナル変化率を調整する補正システムを利用した蛍光アッセイにおいて、コントロールエリアのシグナル値とテストエリアのシグナル値の温度依存性の差が小さい被検物質の検出方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した結果、被検物質と結合できる第1の結合物質と、第1の結合物質に結合性を有する第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない第3の結合物質を結合させた蛍光粒子を用いて蛍光アッセイを行うことにより、コントロールエリアのシグナル値とテストエリアのシグナル値の温度依存性の差を小さくできることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、
(1)被検物質と、
蛍光粒子とを
基板上に存在するテストエリア及びコントロールエリアに接触させて蛍光粒子と被検物質とを反応させる工程、
(2)テストエリア及びコントロールエリアの蛍光粒子の蛍光を測定する工程、
(3)コントロールエリアにおける蛍光シグナル値を用いてテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正する工程、
を含む被検物質の測定方法であって、
蛍光粒子が、
(i)被検物質と結合可能な1種以上の第1の結合物質と、
(ii)第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない第3の結合物質とを、
結合した結合物質標識蛍光粒子であり、
コントロールエリアに、第1の結合物質に対して結合可能な第2の結合物質が固定化されている、
被検物質の測定方法が提供される。
【0010】
好ましくは、工程(2)において、テストエリア並びにコントロールエリアのそれぞれにおける結合物質標識蛍光粒子の蛍光を測定することによって、それぞれのエリアにおける蛍光シグナル値を求め、コントロールエリアにおける蛍光シグナル値を用いてテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正する。
好ましくは、テストエリアに、被検物質、又は蛍光粒子に結合している第1の結合物質に対するエピトープを持つ被検物質の類似化合物が固定化されている。
【0011】
好ましくは、工程(1)において、基板に接触させた被検物質と、基板のテストエリアに結合させた被検物質あるいはエピトープを有する被検物質の類似化合物と、を結合物質標識蛍光粒子に対して競合させる。
好ましくは、上記第1の結合物質が被検物質と結合できる抗体であり、コントロールエリアに固定化された第2の結合物質が、第1の結合物質である抗体及び被検物質と結合しない第3の結合物質のそれぞれと結合できる抗体である。
【0012】
好ましくは、上記第3の結合物質が、第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない抗体である。
好ましくは、蛍光粒子が、蛍光ラテックス粒子である。
好ましくは、工程(2)において、表面プラズモン蛍光測定又は落射蛍光測定により蛍光を測定する。
【0013】
また、本発明によれば、
基板上にテストエリアとコントロールエリアを有し、
それぞれのエリアは被検物質と、蛍光粒子とを含有する被検試料に接触させて蛍光粒子と被検物質とを反応させ、それぞれのエリアの蛍光粒子の蛍光を測定し、コントロールエリアにおける蛍光シグナル値を用いてテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正することを含む被検物質測定に用いられる被検物質測定チップであって、
蛍光粒子が、
(i)被検物質と結合可能な1種以上の第1の結合物質と、
(ii)第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない第3の結合物質と、
を結合した結合物質標識蛍光粒子であり、
コントロールエリアに、第1の結合物質に対して結合可能な第2の結合物質が固定化されている、
被検物質測定チップが提供される。
【0014】
また、本発明によれば、
基板上にテストエリアとコントロールエリアを有し、
それぞれのエリアは被検物質と、蛍光粒子とを含有する被検試料に接触させて蛍光粒子と被検物質とを反応させ、それぞれのエリアの蛍光粒子の蛍光を測定し、コントロールエリアにおける蛍光シグナル値を用いてテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正することを含む被検物質測定に用いられる被検物質測定チップと、
被検試料に用いられる蛍光粒子と、からなる被検物質測定キットであって、
蛍光粒子が、
(i)被検物質と結合可能な1種以上の第1の結合物質と、
(ii)第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない第3の結合物質と、
を結合した結合物質標識蛍光粒子であり、
コントロールエリアに、第1の結合物質に対して結合可能な第2の結合物質が固定化されている、
被検物質測定キットが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、温度等の変化によるシグナル変化率を調整する補正システムを利用した蛍光アッセイにおいて、コントロールエリアのシグナル値とテストエリアのシグナル値の温度依存性の差を小さくすることが可能な蛍光を用いた被検物質の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、1種類の第1の結合物質である抗体を固定化した蛍光粒子を用いた場合における、上記第1の結合物質である抗体に結合できる第2の結合物質を固定化したコントロールエリアにおける抗体濃度、及び測定時の温度を変化させたときの、第2の結合物質である基板に固定した抗体の濃度とシグナル変化率との関係を示す。
【図2】図2は、2種類の抗体(被検物質に対する抗体;即ち第1の結合物質である抗体と、被検物質以外の物質に対する抗体;即ち第3の結合物質である抗体)を固定化した蛍光粒子を用いた場合における、上記第1の結合物質である抗体に結合できる第2の結合物質を固定化したコントロールエリアにおける抗体濃度、及び測定時の温度を変化させたときの、第2の結合物質である基板に固定した抗体の濃度とシグナル変化率との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の被検物質の測定方法は、
(1)被検物質と、
蛍光粒子とを
基板上に存在するテストエリア及びコントロールエリアに接触させて蛍光粒子と被検物質とを反応させる工程、
(2)テストエリア及びコントロールエリアの蛍光粒子の蛍光を測定する工程、
(3)コントロールエリアにおける蛍光シグナル値を用いてテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正する工程、
を含む被検物質の測定方法であって、
蛍光粒子が、
(i)被検物質と結合可能な1種以上の第1の結合物質と、
(ii)第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない第3の結合物質とを、
結合した結合物質標識蛍光粒子であり、
コントロールエリアに、第1の結合物質に対して結合可能な第2の結合物質が固定化されている、
被検物質の測定方法である。
工程(2)においては、テストエリア並びにコントロールエリアのそれぞれにおける結合物質標識蛍光粒子の蛍光を測定することによって、それぞれのエリアにおける蛍光シグナル値を求め、コントロールエリアにおける蛍光シグナル値を用いてテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正することができる。上記の蛍光シグナル値を補正する方法の一例としては、テストエリアにおける蛍光シグナル値をコントロールエリアにおける蛍光シグナル値で割ることが挙げられるが、これに限定されるものではなく、例えば、コントロールエリアにおける蛍光シグナル値に対応する変換係数を関係式から算出してテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正することもでき、テストエリアにおける蛍光シグナル値からコントロールエリアにおける蛍光シグナル値を引くことによって補正を行うこともできる。
【0018】
(蛍光粒子)
本発明で用いる蛍光粒子としては、免疫反応に通常用いられている蛍光で着色された粒子を使用することができ、例えば、蛍光ポリスチレンビーズなどの蛍光高分子粒子、蛍光ガラスビーズ等の蛍光ガラス粒子を用いることができる。蛍光高分子粒子の材質の具体例としては、スチレン、メタクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、ブタジエン、塩化ビニル、酢酸ビニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどのモノマーを用いた高分子又は、2つ以上のモノマーを用いた共重合体などの合成高分子があり、これらを均一に懸濁させたラテックスが好ましい。また、その他の有機高分子粉末や無機物質粉末、微生物、血球や細胞膜片、リポソームなどが挙げられる。
【0019】
ラテックス粒子を使用する場合、ラテックスの材質の具体例としては、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレートなどが挙げられる。ラテックスとしては、単量体としてスチレンを少なくとも含む共重合体が好ましく、スチレンと、アクリル酸又はメタクリル酸との共重合体が特に好ましい。ラテックスの作成方法は特に限定されず、任意の重合方法により作成することができる。但し、抗体標識の際に界面活性化剤が存在すると抗体固定化が困難となるため、ラテックスの作製には、無乳化剤乳化重合、即ち界面活性剤などの乳化剤を用いない乳化重合が好ましい。
【0020】
重合により得られたラテックス自体が蛍光性である場合には、そのまま蛍光ラテックス粒子として使用することができる。重合により得られたラテックスが非蛍光性の場合には、ラテックスに蛍光物質(蛍光色素など)を添加することによって、蛍光ラテックス粒子を作製することができる。即ち、蛍光ラテックス粒子は、水及び水溶性有機溶剤を含むラテックス粒子の溶液に蛍光色素を添加して攪拌することなどにより製造できる。
【0021】
蛍光粒子の平均粒径は、粒子の材質や被検物質を定量する濃度範囲、測定機器などによって異なるが、0.001〜10μm(より好ましくは0.001〜1μm)の範囲が好ましい。蛍光色素を含有したリポゾ−ムやマイクロカプセル等も蛍光粒子として使用することができる。蛍光発色は、紫外光等を吸収して励起し、基底状態に戻る際に放出されるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、黄緑(励起波長505nm/放出波長515nm、以下同じ)、青(350〜356nm/415〜440nm)、赤(535〜580nm/575〜605nm)、オレンジ(540nm/560nm)、レッド・オレンジ(565nm/580nm)、クリムゾン(625nm/645nm)、ダークレッド(660nm/680nm)などの蛍光発色が用いられ得る。これらの蛍光を発する蛍光粒子は、例えば、Invitrogen社から入手可能であり、同社においてFluoSpheres(登録商標)の商品名で市販されている。
【0022】
(平均粒径の測定方法)
本発明に用いられる蛍光粒子の平均粒径は、市販の粒度分布計等で計測することができる。粒度分布の測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されている。
【0023】
粒径範囲及び測定の容易さから、本発明においては動的光散乱法を好ましく用いることができる。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))等が挙げられ、本発明においては、25℃の測定温度で測定したメジアン径(d=50)の値として求める。
【0024】
(被検物質)
本発明のアッセイ方法における検出対象である被検物質の種類は特に限定されないが、例えば、コルチゾール、IGF-I、IGFBP-3、LH、TSH、ADH、GH、尿中GH、ACTH、プロラクチン、FSH、TBG、TSAb、T4、抗TPO抗体、マイクロゾーム抗体、抗サイログロブリン抗体、TSH、サイログロブリン、T3、fT4、fT3、1,25-(OH)2ビタミンD、NTx、Intact PINP、オステオカルシン、カルシトニン、BAP、デオキシピリジノリン、PTH、PTHrP、5-HIAA、HVA、L-ドーパ、MHPG、VMA、カテコールアミン、セロトニン、メタネフリン、11-デオキシコルチゾール、17-KGS、17-OHプレグネノロン、アルドステロン、アンドロステロン、アンドロステンジオン、11-OHCS、コルチコステロン、コルチゾン、DOC、DHEA-S、プレグネノロン、5αジヒドロテストステロン、HCG-βサブユニット、E2、E3、エストロゲン、E1、HCG、テストステロン、プレグナンジオール、プレグナントリオール、プロゲステロン、CPR、VIP、インスリン、ガストリン、グルカゴン、抗GAD抗体、抗IA-2抗体、抗インスリン抗体、心筋トロポニンT、心室筋ミオシン軽鎖I、H-FABP、HANP、BNP、NT-proBNP、ミオグロビンなどを挙げることができる。被検物質の特に好ましい一例としては、コルチゾールである。
【0025】
(結合物質)
本発明においては、蛍光粒子に被検物質と結合できる1種以上の第1の結合物質を結合させることにより得られる結合物質標識蛍光粒子を使用する。被検物質に結合できる第1の結合物質とは、例えば、被検物質(抗原)に対する抗体、被検物質(抗体)に対する抗原、被検物質(タンパク質、低分子化合物、アビジン、ビオチン等)に対するアプタマーなど、被検物質に対して親和性を持つ化合物であればよく、特に限定されない。
【0026】
また、本発明で使用する結合物質標識蛍光粒子にはさらに、本明細書中以下で説明する第2の結合物質(即ち、コントロールエリアに固定化されている「被検物質と結合できる第1の結合物質と結合できる第2の結合物質」)と結合でき、被検物質と結合しない第3の結合物質が結合している。
【0027】
(第1の結合物質)
本発明の方法で使用する第1の結合物質の好ましい例は、抗原、抗体、又はこれらの複合体であるが、これらに限定されるものではない。例えば、第1の結合物質が抗体である場合は、被検物質に対して特異性を有する抗体として、例えば、その被検物質によって免疫された動物の血清から調製する抗血清、抗血清から精製された免疫グロブリン画分、その被検物質によって免疫された動物の脾臓細胞を用いる細胞融合によって得られるモノクローナル抗体、あるいは、それらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、又はFv]などを用いることができる。これらの抗体の調製は、常法により行なうことができる。さらに、その抗体がキメラ抗体などの場合のように、修飾を加えられたものでもよいし、また市販の抗体でも、動物血清や培養上清から公知の方法により調製した抗体でも使用可能である。
【0028】
抗体は、その動物種やサブクラス等によらず使用できる。例えば、本発明に用いることが可能な抗体は、マウス、ラット、ハムスター、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ウシ、ニワトリなど免疫反応が起こり得る生物に由来する抗体、具体的には、マウスIgG、マウスIgM、ラットIgG、ラットIgM、ハムスターIgG、IgMウサギIgG、ウサギIgM、ヤギIgG、ヤギIgM、ヒツジIgG、ヒツジIgM、ウシIgG、ウシIgM、トリIgY等であり、ポリクローナルもしくはモノクローナルの両方に適用可能である。断片化抗体は、少なくとも1つの抗原結合部位を持つ、完全型抗体から導かれた分子であり、具体的にはFab、F(ab')2等である。これらの断片化抗体は、酵素あるいは化学的処理によって、もしくは遺伝子工学的手法を用いて得られる分子である。
【0029】
抗体や抗原などの第1の結合物質を粒子に固定化する方法は、例えば、特開2000−206115号公報やモレキュラープローブ社FluoSpheres(登録商標)ポリスチレンマイクロスフィアF8813に添付のプロトコールなどに記載されており、免疫凝集反応用試薬を調製する公知の方法がいずれも使用可能である。また、第1の結合物質として抗体を粒子に固定化する原理として、物理吸着及び共有結合による化学結合のいずれの原理も採用可能である。抗体を粒子に固定させた後に抗体が被覆されていない粒子表面を覆うブロッキング剤として、公知の物質、例えば、BSA(ウシ血清アルブミン)やスキムミルク、カゼイン、大豆由来成分、魚由来成分、ポリエチレングリコールなどや、これらの物質やこれらと性質が同じである物質を含む市販の免疫反応用ブロッキング剤などが使用可能である。これらのブロッキング剤は、必要に応じて熱や酸・アルカリ等により部分変性などの前処理を施すことも可能である。
【0030】
(第2の結合物質)
本発明においては、コントロールエリアに、被検物質と結合できる第1の結合物質と結合できる第2の結合物質を固定化する。即ち、コントロールエリアに固定する第2の結合物質としては、蛍光粒子に結合した1種以上の第1の結合物質に結合できる結合物質を使用することができる。第1の結合物質に結合できる第2の結合物質とは、例えば、結合物質(抗体)に対する抗体、結合物質(抗体)に対して結合するタンパク質(Protein A、Protein G)など、第1の結合物質に対して親和性を持つ化合物を好ましく用いることができる。また、蛍光粒子に結合した1種以上の第1の結合物質の内の一部が、第2の結合物質とリガンド−非リガンドの関係である化合物を好ましく用いることができる。抗体などの第2の結合物質を基板に固定化する方法は、例えば、Nunc社の提供するTech Notes Vol. 2-12などに記載されており、一般的なELISA試薬を調製する公知の方法がいずれも使用可能である。また、基板上に自己組織化単分子膜(SAM)などを配することによる表面修飾を施しても良く、第2の結合物質としての抗体を基板に固定化する原理としては、物理吸着及び共有結合による化学結合のいずれの原理も採用可能である。抗体を基板に固定させた後に抗体が被覆されていない基板表面を覆うブロッキング剤として、公知の物質、例えば、BSA(ウシ血清アルブミン)やスキムミルク、カゼイン、大豆由来成分、魚由来成分、ポリエチレングリコールなどや、これらの物質やこれらと性質が同じである物質を含む市販の免疫反応用ブロッキング剤などが使用可能である。これらのブロッキング剤は、必要に応じて熱や酸・アルカリ等により部分変性などの前処理を施すことも可能である。
【0031】
(第3の結合物質)
第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない第3の結合物質としては、被検物質以外の物質に結合する抗体を使用することができるほか、それらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、Fv、又はFc]など、第2の結合物質が捕捉できる化合物を用いることができる。
【0032】
(抗体の蛍光粒子への固定化)
抗体を粒子に固定化する具体的な方法を、以下に例示する。粒子の固形分濃度が0.1〜10質量%になるよう分散させた液に、0.01〜20mg/mLの濃度に調整した抗体溶液を添加して、混合する。温度4〜50℃の条件下で5分間から48時間にわたり撹拌を継続する。次いで遠心分離その他の方法により粒子と溶液を分離して、溶液に含まれている、粒子に結合しなかった抗体を十分に除去する。その後、粒子を緩衝液にて洗浄する操作を0〜10回繰り返す。粒子と抗体とを混合して、粒子に抗体を結合させる操作を実施した後に、抗原抗体反応に関与しない成分、好ましくはタンパク質、より好ましくはBSA(ウシ血清アルブミン)、ブロックエース、スキムミルク及びカゼインなどのブロッキング剤を使用して粒子表面の抗体が結合していない部分を保護することが望ましい。
【0033】
本発明では、被検物質と結合できる1種以上の第1の結合物質、及び第2の結合物質と結合でき被検物質と結合しない第3の結合物質を予め混合させてから、上述の方法で粒子と結合させてもよいし、被検物質と結合できる1種以上の第1の結合物質と、第2の結合物質と結合でき被検物質と結合しない第3の結合物質を順次、粒子と結合させてもよいが、予め混合させてから、粒子と結合させることが好ましい。
【0034】
抗原や抗体等を粒子に固定化する際に、安定化剤を必要に応じて添加することが可能である。安定化剤とは、ショ糖や多糖類などの合成あるいは天然高分子など、抗原や抗体を安定化するものであれば特に制限されず、Immunoassay Stabilizer(ABI社)などの市販のものも使用可能である。
【0035】
(アッセイの形態)
本発明のアッセイ方法は、
(1)被検物質と、
蛍光粒子とを
基板上に存在するテストエリア及びコントロールエリアに接触させて蛍光粒子と被検物質とを反応させる工程、
(2)テストエリア及びコントロールエリアの蛍光粒子の蛍光を測定する工程、
(3)コントロールエリアにおける蛍光シグナル値を用いてテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正する工程、
を含む。
【0036】
本発明による被検物質の検出方法は、被検物質の存在の有無の検出や被検物質の量の測定(即ち、定量)などを含む、最も広い概念として解釈されるものとして、基板を用いた測定方法で通常知られている免疫学的な測定方法を広く包含するものである。
【0037】
(接触工程)
サンドイッチ法及び競合法における結合物質標識蛍光粒子と被検物質とを基板に接触させる方法としては、例えばSigma−Aldrich社が提供する実験基礎情報p.258に記載の一般的なELISAアッセイの方法(即ち蛍光粒子と被検物質とを分散もしくは溶解した液体を基板上に添加して接触させる方法)によって行うことができる。また、接触する場をマイクロ流路内に設けることにより、蛍光粒子と被検物質とを分散もしくは溶解した液体を流して接触させることもできる。以下、本発明のアッセイ方法の具体的な実施態様として、サンドイッチ法、及び競合法について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(サンドイッチ法)
サンドイッチ法では、特に限定されるものではないが、例えば、以下の手順により被検物質を測定することができる。まず、被検物質に対して特異性を有する第1の結合物質、第3の結合物質と結合できる第2の結合物質、及び被検物質とは結合しないが、第2の結合物質と結合する第3の結合物質を予め用意しておく。次いで第1の結合物質、及び第3の結合物質を蛍光粒子に結合させて結合物質標識蛍光粒子を作製する。また、第2の結合物質を基板上に固定しコントロールエリアとする。本発明をサンドイッチ法に使用する場合には、被検物質と結合するが、第1の結合物質及び第3の結合物質とは結合しない第4の結合物質を別途用意し、基板上に固定してテストエリアとする。次に、被検物質を含む可能性のある被検試料(又はその抽出液)と、結合物質標識蛍光粒子とを、基板上のテストエリア及びコントロールエリアに接触させる。被検試料中に被検物質が存在する場合には、テストエリア上で、被検物質と結合物質標識蛍光粒子に結合した第1の結合物質との間、及び被検物質とテストエリア上の第4の結合物質との間で反応(抗原及び抗体を用いた場合には、抗原抗体反応)が起こり、被検物質の量に応じた蛍光粒子がテストエリア上に固定される。一方、コントロールエリア上では、結合物質標識蛍光粒子に結合した第1の結合物質あるいは第3の結合物質と、コントロールエリア上に固定した第2の結合物質との間で反応が起こり、蛍光粒子がコントロールエリア上に固定される。サンドイッチ法では、テストエリア上に固定した第4の結合物質と、被検物質との反応、及び被検物質と結合物質標識蛍光粒子に結合している第1の結合物質との反応が終了し、またコントロールエリア上に固定した第2結合物質と結合物質標識蛍光粒子上の第1、及び第3の結合物質との反応が終了した後、2つの基板上のエリアで結合しなかった結合物質標識蛍光粒子を除去し、洗浄する。次いでテストエリアに結合した結合物質標識蛍光粒子からのシグナル強度を検出し、コントロールエリアに結合した結合物質標識蛍光粒子からのシグナル強度の測定値を用いて補正を行うことで、正確な被検物質の濃度を測定することができる。なお、蛍光強度と被検物質の濃度は、正の相関関係がある。
第4の結合物質としては、被検物質と結合でき、第1の結合物質及び第3の結合物質とは結合しない物質であれば特に制限無く使用することができる。好ましくは、第1の結合物質及び第3の結合物質とは結合しないが被検物質とは結合できる抗体、あるいは、これらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、Fv、又はFc]などの化合物を用いることができる。
【0039】
(競合法)
競合法では、特に限定されるものではないが、例えば、以下の手順により被検物質を測定することができる。競合法は、サンドイッチ法でアッセイすることができない低分子化合物の抗原を検出する手法として当業界においてよく知られている。
【0040】
まず、被検物質に対して特異性を有する第1の結合物質と、第1の結合物質と結合できる第2の結合物質、及び被検物質と結合せず、第2の結合物質と結合できる第3の結合物質を予め調製する。次いで第1の結合物質と第の3結合物質を、蛍光粒子に結合させ結合物質標識蛍光粒子とする。次に、第3の結合物質と結合できる第2の結合物質を固相、例えば基板上に固定してコントロールエリアとする。また、第1の結合物質に対して結合性を有する、被検物質そのもの、または被検物質と類似な部位を持ち被検物質と同様の第1の結合物質に対するエピトープを持つ化合物を同じ基板上の同一面上の異なる位置に固定しテストエリアとする。次に、被検物質を含む可能性のある被検試料(又はその抽出液)と、第1の結合物質及び第3の結合物質を結合させた結合物質標識蛍光粒子とを基板に接触させる。被検試料中に被検物質が存在しない場合には、結合物質標識蛍光粒子に結合した第1の結合物質と、テストエリア上に固定した第1の結合物質に対して結合性を有する被検物質そのもの又は被検物質と同様の第1の結合物質抗体に対するエピトープを持つ類似化合物とにより、基板上で反応が起こる。一方、被検物質が存在する場合には、第1の結合物質に被検物質が結合するため、第1の結合物質に対して結合性を有する、被検物質そのもの、または被検物質と類似な部位を持ち被検物質と同様の第1の結合物質抗体に対するエピトープを持つ化合物との、テストエリア上における反応が阻害され、結合物質標識蛍光粒子がテストエリア上に固定されない。一方、コントロールエリア上では、結合物質標識蛍光粒子上の第3の結合物質と、コントロールエリア上に固定した第2の結合物質との間で反応が起こり、結合物質標識蛍光粒子がコントロールエリア上に固定される。
競合法では、予め、被検物質濃度が異なる被検物質量既知の試料を複数用意し、この試料及び結合物質標識蛍光粒子をテストエリア上及びコントロールエリア上に接触させつつ、テストエリア及びコントロールエリアからの蛍光信号を異なる複数の時刻で測定する。この複数の測定結果から、各被検物質濃度において、蛍光量の時間変化(傾き)を求める。この時間変化をY軸、被検物質濃度をX軸としてプロットし、最小二乗法等の適宜ふさわしいフィッティング方法を用いて、蛍光量の時間変化に対する被検物質濃度の検量線を取得する。このように取得した検量線に基づき、目的とする被検試料を用いた蛍光量の時間変化の結果から、被検試料に含まれる被検物質量を定量することができる。
【0041】
(エピトープを持つ被検物質の類似化合物)
本発明においては、競合法で用いることができるエピトープを持つ被検物質の類似化合物として、本発明の第1の結合物質に対するエピトープを持つ被検物質の類似化合物を使用でき、例えば、被検物質(コルチゾール等)のハプテンを好ましく用いることができる。
【0042】
(基板)
後述するSPF法を行う場合における基板としては、表面に金属膜を有する基板を使用することが好ましい。金属膜を構成する金属としては、表面プラズモン共鳴が生じ得るような物質を用いることができる。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、特に金が好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記基板への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。金属膜の膜厚は任意であるが、例えば、0.1nm以上500nm以下であるのが好ましく、特に1nm以上200nm以下であるのが好ましい。500nmを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、0.1nm以上、10nm以下であるのが好ましい。
【0043】
金属膜の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
【0044】
金属膜は好ましくは基体上に配置されている。ここで、「基体上に配置される」とは、金属膜が基体上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が基体に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む。本発明で使用することができる基体としては例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、一般的な光学ガラスの一種であるBK7(ホウ珪酸ガラス)等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
【0045】
SPF法による蛍光検出のための基板の一例としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を基体とし、金膜を蒸着した基板などを挙げることができる。
【0046】
(蛍光の検出方法)
本発明における蛍光の検出方法としては、例えば、蛍光強度を検出することができる機器、具体的には、マイクロプレートリーダー、又は表面プラズモン励起による蛍光検出法(SPF法)を行うためのバイオセンサーなどを用いて蛍光強度を検出することが好ましい。蛍光強度の検出は、通常、抗原抗体反応後一定時間、例えば、数分〜数時間後に終了する。前記免疫複合体の形成の度合いを蛍光強度として検出することにより、蛍光強度と被検物質の濃度の関係から、被検物質の濃度を定量することができる。なお、蛍光の測定の形態は、プレートリーダー測定でもよいし、フロー測定でもよい。なお、SPF法は、落射励起による蛍光検出法(以下、「落射蛍光法」という。)よりも高感度に測定することができる。
【0047】
上記の表面プラズモン蛍光(SPF)バイオセンサーとしては、例えば、特開2008−249361号公報に記載されているような、所定波長の励起光を透過させる材料から形成された光導波路と、この光導波路の一表面に形成された金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを光導波路に通し、該光導波路と金属膜との界面に対して表面プラズモンを発生させる入射角で入射させる光学系と、該表面プラズモンによって増強されたエバネッセント波によって励起されたことによって発生する蛍光を検出する蛍光検出手段とを備えたセンサーを用いることができる。
【0048】
(被検物質量の測定方法)
本発明におけるSPF法での被検物質の定量方法の一例としては、以下の方法により被検物質を定量することができる。具体的には、各濃度既知の被検物質を含む試料を準備し、蛍光を検出する部位を流下させつつ、蛍光検出部位からの蛍光信号を異なる複数の時刻で測定する。この複数の測定結果から、各被検物質濃度において、蛍光量の時間変化(傾き)を求める。この時間変化をY軸、被検物質濃度をX軸としてプロットし、最小二乗法等の適宜ふさわしいフィッティング方法を用いて、蛍光量の時間変化に対する被検物質濃度の検量線を取得する。光信号システムとしては、被検物質ごとに対応する検量線に基づき、目的とする被検試料の被検物質量を特定することができる。
【0049】
本発明の蛍光粒子を用いた表面プラズモン励起による蛍光検出(SPF)系は、基板上の金属薄膜上に固定化された被検物質の量に依存した蛍光物質からの蛍光を検出するアッセイ方法であり、溶液中での反応の進行により、光学的な透明度の変化を、例えば濁度として検出する、いわゆるラテックス凝集法とは異なる方法である。ラテックス凝集法では、ラテックス試薬中の抗体感作ラテックスと検体中の抗原が、抗体反応により結合し、凝集する。この凝集塊は時間と共に増大し、この凝集塊に近赤外光を照射して得られた単位時間当たりの吸光度変化から、抗原濃度を定量化する方式が、ラテックス凝集法である。本発明では、ラテックス凝集法に比べて、非常に簡便な被検物質の検出方法を提供できる。
【0050】
本発明の蛍光粒子を用いた検出対象物質の検出方法は、基板上にテストエリア及びコントロールエリアの2つの測定エリアを有し、蛍光粒子に結合した第1の結合物質と結合できる第2の結合物質がコントロールエリアに固定されている基板を組み込んだキットまたはチップを用いて実施することができる。基板上のテストエリア、及びコントロールエリアは、表面プラズモン共鳴が生じるような物質で構成されていることが好ましい。被検物質、及び蛍光粒子を含有する被検試料にこれらのエリアを接触させて、被検物質と蛍光粒子、あるいは、テストエリアと蛍光粒子とを、更にはコントロールエリアと蛍光粒子とを反応させ、テストエリア、及びコントロールエリアの蛍光強度を測定し、コントロールエリアでの蛍光シグナル値を用いてテストエリアの蛍光シグナル値を補正することを含む被検物質測定用キットまたはチップである。蛍光粒子は、(i)被検物質と結合可能な1種類以上の第1の結合物質、および(ii)コントロールエリアに固定化された第2の結合物質と結合できて、被検物質と結合しない第3の結合物質と結合した、結合物質標識蛍光粒子であってもよく、コントロールエリアが第2の結合物質で固定化されている被検物質の検出用キット、またはチップである。蛍光粒子を用いた被検物質の検出用キット又はチップを構成する各素材の例、好ましい範囲は、蛍光粒子を用いた被検物質の検出方法等で記載した例や範囲を使用することができる。
【0051】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
<比較例1>
(カルボジイミド処理をした蛍光ラテックス粒子の作製)
固形分濃度が2質量%の蛍光ラテックス粒子水溶液(Invitrogen社製品、平均粒径200nm)250μLに、50mMのMES緩衝液(pH6.0)溶液250μLを加え固形分を1質量%とした後、10mg/mLのEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、品番01−62−0011、和光純薬)水溶液8μLを添加して室温で攪拌(1,200rpm、25℃、15分)し、カルボジイミド処理蛍光ラテックス粒子を得た。
【0053】
(抗コルチゾール抗体結合蛍光ラテックス粒子の作製)
カルボジイミド処理をした蛍光ラテックス粒子500μLに、第1の結合物質として、抗コルチゾール抗体(以下、抗COR抗体と記載、Hytest製、品名:Anti-Cortisol MAb XM210、6.3mg/mL)を9.5μL添加し、室温で攪拌(1,200rpm、25℃、2時間)した。2mol/LのGlycine(和光純薬)水溶液を25μL添加し、30分間撹拌した後、遠心分離(15,000rpm、4℃、15分)にて、蛍光ラテックス粒子を沈降させた。上清を取り除き、PBS溶液(リン酸緩衝液、和光純薬、pH7.4)を500μL加え、超音波洗浄機により蛍光ラテックス粒子を再分散させた。さらに遠心分離(15,000rpm、4℃、15分)を行い、上清を除いた後、1質量%BSA(ウシ血清アルブミン、和光純薬)を含むPBS(pH7.4)溶液500μL加え、蛍光ラテックス粒子を再分散させることで、抗COR抗体結合蛍光ラテックス粒子の1質量%溶液(反応試薬)を得た。
【0054】
(基板の作製)
ポリメチルメタクリレート(PMMA、三菱レイヨン社製、アクリペットVH−001)を基体とした基板の片面に、テストエリア、コントロールエリア共に幅4mm、厚さが70nmとなるようにテストエリア、隣にコントロールエリアに用いる金を蒸着した。この基板を幅5mmとなるように裁断して基板を作製した。この基板のテストエリアの金蒸着膜上には、コルチゾールハプテン(Fitzgerald社製、80-IC10)を含む液(濃度:50μg/mL in 50 mM MES緩衝液pH 6, 150 mM NaCl)を点着し、1時間、25℃にてインキュベートし、物理吸着させて固定化を行った。一方、コントロールエリアの金蒸着膜上には、第2の結合物質として、抗マウス抗体(Anti-mouse IgG F(ab’)2、製品名:AffiniPure F(ab’)2 Fragment Rabbit Anti-mouse IgG (H+L) 、Jackson Immuno Research社製)を含む溶液(濃度:0.19、0.75および6.0μg/mL in PBS溶液)を点着し、1時間、25℃にてインキュベートして物理吸着させて固定化を行った。
【0055】
(基板の洗浄、ブロッキング)
このように調製した3種類の基板をセンサチップの流路に取り付ける前に、予め調製した洗浄用溶液(0.05質量%Tween20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウラート、和光純薬社製)を含むPBS溶液(pH7.4))を300μL用いて3回繰り返し洗浄した。洗浄終了後、金蒸着膜上の抗マウス抗体、コルチゾールハプテンの未吸着部分のブロッキングを行うため、1質量%カゼイン(Thermo Scientific社製)を含むPBS溶液(pH7.4)を300μL添加し、1時間、室温で静置した。上記の洗浄用溶液で洗浄後、安定化剤としてImmunoassay Stabilizer(ABI社製)300μLを添加し、室温で30分間放置し、溶液を除去して乾燥機を用いて水分を完全に取り除いた。
【0056】
(センサチップの作製)
日本公開特許公報、特開2010−190880号の第2の実施形態の構成となるように、作製した3種類の基板を流路に封入し、流路型センサチップを作製した。
【0057】
(測定)
被検物質のコルチゾール濃度が、3μg/dLの血清と、抗COR抗体標識蛍光ラテックス粒子を予め混合した。26℃、30℃、34℃の各温度条件において、作製した流路型センサチップに点着を行い、ポンプ吸引を行いながら10μL/minの速度で流下させた。流下時にテストエリア、及びコントロールエリアの蛍光強度を測定し、各温度条件において蛍光強度シグナルの単位時間内の強度変化率の係数を求めた。この係数が、温度変化により変動する割合を求めたところ、テストエリアにおいては、温度による係数の変化率は7%/1℃と確認された。一方、コントロールエリアについて、抗マウス抗体の各濃度の0.19、0.75及び6.0μg/mLの液を点着して作製した基板の温度による係数の変化率を求めた。結果を図1に示した。コントロールエリアのいずれの抗マウス抗体の濃度でも、蛍光量のシグナル強度の変化率は1℃当りいずれも4%未満であり、テストエリアとの温度特性は乖離が大きかった。
【0058】
<実施例1>
(2種類の抗体を標識した蛍光ラテックス粒子を用いた温度特性の検討)
比較例にて作製したカルボジイミド処理をした蛍光ラテックス粒子500μLに、第1の結合物質として抗COR抗体(6.3mg/mL)を9.5μLと、第3の結合物質として、抗TSH抗体(5.48mg/mL、製品名:Mab to TSH、メーカー:OEM CONCEPTS.)を54.7μL添加し、25℃で2時間攪拌(1,200rpm)した。2mol/LのGlycine水溶液を25μL添加し、30分間撹拌した後、遠心分離(15,000rpm、4℃、15分)を行って、蛍光ラテックス粒子を沈降させた。上清を取り除き、PBS溶液(pH7.4)を500μL加え、超音波洗浄機により蛍光ラテックス粒子を再分散させた。さらに遠心分離(15,000rpm、4℃、15分)を行い、上清を除いた後、1質量%BSAを含むPBS(pH7.4)溶液を500μL加え、蛍光ラテックス粒子を再分散させることで、抗COR抗体結合蛍光ラテックス粒子の1質量%溶液を得た。
【0059】
基板の作製、基板のブロッキング、センサチップの作製、及び測定については比較例1と同様にして行い、コルチゾール検出用の基板は比較例と同じ基板を用いた。
【0060】
比較例と同様にして測定を行った。テストエリアの温度による蛍光信号強度の係数の変化率を確認したところ、比較例と同様に、1℃温度変化に対して検体濃度が7%変化することが確認された。また、比較例と同様にしてコントロールエリアの抗マウス抗体の量を図2に示すように変更した基板を用いて、温度による蛍光信号強度の係数の変化率を確認したところ、検体濃度に依存するシグナル変化率が、基板抗体濃度が0.19μg/mLにて、1℃当たり7.5%の変化率となることが確認された。その他の濃度では4%以下の変化率であった。この測定結果から、抗マウス抗体の量を最適に設定することで、コントロールエリアでの信号値によりテストエリアの信号情報を補正し、温度依存性が非常に小さいアッセイ方法の提供が可能となることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)被検物質と、
蛍光粒子とを
基板上に存在するテストエリア及びコントロールエリアに接触させて蛍光粒子と被検物質とを反応させる工程、
(2)テストエリア及びコントロールエリアの蛍光粒子の蛍光を測定する工程、
(3)コントロールエリアにおける蛍光シグナル値を用いてテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正する工程、
を含む被検物質の測定方法であって、
蛍光粒子が、
(i)被検物質と結合可能な1種以上の第1の結合物質と、
(ii)第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない第3の結合物質とを、
結合した結合物質標識蛍光粒子であり、
コントロールエリアに、第1の結合物質に対して結合可能な第2の結合物質が固定化されている、
被検物質の測定方法。
【請求項2】
テストエリアに、
被検物質、
または第1の結合物質に対するエピトープを持つ被検物質の類似化合物が固定化されている、請求項1に記載の被検物質の測定方法。
【請求項3】
工程(1)において、
基板に接触させた被検物質と、
基板のテストエリアに固定させた被検物質または被検物質の類似化合物とを、
結合物質標識蛍光粒子に対して競合させる、請求項2に記載の被検物質の測定方法。
【請求項4】
第1の結合物質が被検物質と結合できる抗体であり、コントロールエリアに固定化された第2の結合物質が、第1の結合物質である抗体および被検物質と結合しない第3の結合物質のそれぞれと結合できる抗体である、請求項1から3の何れか1項に記載の被検物質の測定方法。
【請求項5】
第3の結合物質が、第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない抗体である、請求項1から4の何れか1項に記載の被検物質の測定方法。
【請求項6】
蛍光粒子が、蛍光ラテックス粒子である、請求項1から5の何れか1項に記載の被検物質の測定方法。
【請求項7】
工程(2)において、表面プラズモン励起による蛍光検出法又は落射励起による蛍光検出法により蛍光を測定する、請求項1から6の何れか1項に記載の被検物質の測定方法。
【請求項8】
基板上にテストエリアとコントロールエリアを有し、
それぞれのエリアは被検物質と、蛍光粒子とを含有する被検試料に接触させて蛍光粒子と被検物質とを反応させ、それぞれのエリアの蛍光粒子の蛍光を測定し、コントロールエリアにおける蛍光シグナル値を用いてテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正することを含む被検物質測定に用いられる被検物質測定チップであって、
蛍光粒子が、
(i)被検物質と結合可能な1種以上の第1の結合物質と、
(ii)第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない第3の結合物質と、
を結合した結合物質標識蛍光粒子であり、
コントロールエリアに、第1の結合物質に対して結合可能な第2の結合物質が固定化されている、
被検物質測定チップ。
【請求項9】
基板上にテストエリアとコントロールエリアを有し、
それぞれのエリアは被検物質と、蛍光粒子とを含有する被検試料に接触させて蛍光粒子と被検物質とを反応させ、それぞれのエリアの蛍光粒子の蛍光を測定し、コントロールエリアにおける蛍光シグナル値を用いてテストエリアにおける蛍光シグナル値を補正することを含む被検物質測定に用いられる被検物質測定チップと、
被検試料に用いられる蛍光粒子と、からなる被検物質測定キットであって、
蛍光粒子が、
(i)被検物質と結合可能な1種以上の第1の結合物質と、
(ii)第2の結合物質と結合でき、被検物質と結合しない第3の結合物質と、
を結合した結合物質標識蛍光粒子であり、
コントロールエリアに、第1の結合物質に対して結合可能な第2の結合物質が固定化されている、
被検物質測定キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−83632(P2013−83632A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−189846(P2012−189846)
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】