説明

蛍光蛋白質

化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、およびカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンより構成された複合体であり、複合体中のアポ蛋白質とセレンテラミドの分子数の比が1:1であり、アポ蛋白質と2価もしくは3価のイオンの分子数の比が1:1〜4である。これは、セレンテラジンの発光を触媒し、かつ蛍光発光能を有するので、マーカーとして利用される。この発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)から、カルシウムイオン等を除去すると新規の蛍光蛋白質(gFP)となる。これをセレンテラジンと混合するとカルシウム結合型発光蛋白質となり、カルシウムにより瞬間的に発光するので、マーカーとして利用できる。

【発明の詳細な説明】
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関連文献とのクロスリファレンス
本願は、2003年8月12日付けで出願した日本国特願2003−207397号に基づく優先権、及び2004年3月3日付けで出願した日本国特願2004−59611号に基づく優先権を主張する。これらの文献を本明細書に援用する。
【技術分野】
本発明はカルシウム結合型発光蛋白質から生じる2種の蛋白質に関し、特に、アミューズメントの分野における発光体や生物学的な実験におけるマーカーとして利用することができる化学発光活性を有する蛍光蛋白質およびそれから生成される蛍光蛋白質に関する。
1つは発光基質に作用して発光させる作用(酵素作用)を有するとともにそれ自身が光の励起をうけて蛍光を発生する新規な複合体、つまり化学発光活性を有する新規な蛍光蛋白質に関する。この蛍光蛋白質(以下、bFPと記す)は、カルシウムイオン結合型発光蛋白質を極めてゆっくりとカルシウムイオン等と反応させて得られ、カルシウムイオン結合型発光蛋白質のアポ蛋白質の内部にセレンテラミドまたはその類縁化合物が配位し、かつこのアポ蛋白質にカルシウムイオン等が結合している。なお、本明細書では、「蛍光蛋白質」とは、上記にあるように、「光の励起をうけて蛍光を発生する複合体」を意味する。
他の蛋白質は、上記の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)からカルシウムイオン等を除去することによって得られる別の新規な蛍光蛋白質(以下、gFPと記す)である。この蛍光蛋白質(gFP)はセレンテラジンまたはその類縁化合物と混合することによって、カルシウム結合型発光蛋白質となるので、生物学的な実験におけるマーカーとして利用することができる。
【背景技術】
代表的な生物発光反応は、「ルシフェラーゼ」とよばれる酵素(蛋白質)が触媒する、発光基質「ルシフェリン」(低分子有機化合物)の酸化反応である。発光は、ルシフェリンの酸化反応直後に生成する励起オキシルシフェリン分子が基底状態に戻る時に、そのエネルギーを光(フォトン)として放出するものである。このように、反応生成分子が化学反応のエネルギーにより励起し、その励起状態から基底状態に戻る際に可視光線を放出する発光のことを化学発光と呼ぶ。ほとんどの場合、この化学反応は酸化反応である。
一方、蛍光発光は、ある種の物質が紫外線や可視光線のような光のエネルギーを吸収して光を放出する現象である。この過程では、光のエネルギーの吸収によって、励起された分子が基底状態にもどる時のエネルギーが、光(フォトン)として放出される。このように、エネルギーを吸収する官能基(蛍光発色団)が吸収した励起エネルギーが速やかに光(フォトン)として再放出されたものが蛍光である。
しかしながら、化学発光活性と蛍光発生能の双方を備えた物質の存在はこれまで知られていない。しかし、そのような物質が創出されれば、化学発光を利用した測定や検出と蛍光発光を利用した測定や検出が同一分子で可能となるので、産業上大きな貢献をすることは疑いが無い。
また、これまで単離されている発光酵素は熱に対して不安定であり、例えば90℃で5分間処理すると化学発光活性が失われ、再び化学発光活性が回復することはなかった。したがって、耐熱性のある発光酵素の開発が強く望まれていた。
一方、カルシウムイオン結合型発光蛋白質は、カルシウムイオンまたはストロンチウムイオン等と特異的に反応し、瞬間発光する。現在カルシウムイオン結合型発光蛋白質群として、イクオリン、クライチン、オベリン、マイトロコミン、ミネオプシンおよびベルボイン等が知られている。このなかで、そのアポ蛋白質の遺伝子が単離されているものは、表1の通りである。

イクオリン(Aequorin)は、カルシウム結合型発光蛋白質群の中でも、特に詳細な研究が行われている。イクオリンは、微量のカルシウムイオンとのみ特異的に結合し、瞬間的に発光する蛋白質複合体であり、189個のアミノ酸より構成される蛋白質部分であるアポイクオリン(アポ蛋白)、発光基質に相当するセレンテラジン、および分子状酸素が複合体(セレンテラジンのパーオキサイド)を形成した状態で存在していることが、X線結晶構造から明らかとなっている(Head,J.F.,Inouye,S.,Teranishi,K.and Shimomura,O.(2000)Nature,405,372−376.)。イクオリンの発光反応および再生反応は次に示されるとおりである。

すなわち、イクオリンにカルシウムイオンが結合すると青色(最大波長=465〜470nm)の瞬間発光をし、セレンテラジンの酸化物であるセレンテラミドがアポイクオリンから解離し、二酸化炭素を放出すると考えられている(Shimomura,O.and Johnson,F.H.(1975)Nature 256,236−238.)。一方、カルシウムイオンと結合し発光した後のアポイクオリンは、瞬間発光能を持つイクオリンへ再生可能である。その再生は、EDTA等のキレート剤によりアポイクオリンに結合しているカルシウムイオンを解離させ、還元剤(ジチオスレイトール、2−メルカプトエタノール等)の存在下、セレンテラジンおよび酸素とともに低温でインキュベーションすることによりなされる(Shimomura,O.and Johnson,F.H.(1970)Nature,227,1356−1357)。
天然より得られたイクオリンをカルシウムイオンと反応させて発光させた後に、キレート剤、還元剤および発光基質であるセレンテラジンの存在下、イクオリンへ再生させる実験の過程で、微弱な連続発光が観察されることが報告されていた(Shimomura,O.and Johnson,F.H.(1975)Nature 256,236−238.)。さらに、発光後のイクオリンの溶液中に、微弱なルシフェラーゼ様活性を示す分子種が存在しているであろうと予測されていた。しかし、発光反応後に存在していると予測された微弱発光に関与する物質について、カルシウム−アポイクオリン−セレンテラミド、アポイクオリン−セレンテラミド、カルシウム−アポイクオリンの複合体等についての関与の確認はなされていなかった。また発光反応後の蛍光強度の測定結果から、発光反応後もアポイクオリン中に存在するセレンテラミドの量は、天然のアポイクオリンで17%、組換え体のアポイクオリンで33%であった。つまり、カルシウムイオン−アポイクオリン−セレンテラミドの複合体の存在が予測されていたが、それは均一な分子種として単離精製され、確認されていなかった。また、微弱な連続発光する機構についてもカルシウム−アポイクオリン−セレンテラミド、アポイクオリン−セレンテラミド、カルシウム−アポイクオリンの分離同定がされておらず、それら複合体の存在は正確な事実にもとづいて予測されたものでなく、単に推測されたに過ぎなかった(Shimomura,O.(1995)Biochem.J.306,537−543)。
一方、セレンテラミドを含まずカルシウムイオンが結合したアポイクオリン(カルシウム−アポイクオリン)にセレンテラジンを添加するだけで微弱連続発光を示すことは、既に本発明者により報告されている(特開昭64−47379号)。しかし、微弱発光する物質がいかなるものであるかは知られていなかった。
本発明の課題は、新規な発光性物質および新規な蛍光性物質を提供することである。その目的で製造された物質は驚くべきことに、化学発光活性と蛍光発生能の双方を備えた最初の物質であることがわかった。
したがって、本発明の第1番目の課題は、化学発光活性を有する蛍光蛋白質を提供することである。詳細には、カルシウム結合型発光蛋白質から生じる、化学発光活性を有する新規な蛍光蛋白質(bFP)を提供することである。さらには、それを製造する方法および具体的な利用法を提供することである。
第2番目の課題は、その化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)から、別の新規な蛍光蛋白質(gFP)を製造し、その具体的な利用法を提供することである。
【発明の開示】
化学発光活性を有する蛍光蛋白質
本発明は、化学発光活性(酵素活性)を有する新規な蛍光蛋白質を提供する。これは、発光基質の発光反応を触媒する活性と蛍光発生能を併せ持つ、これまで存在しなかった新規な概念の物質である。
この新規な物質は、化学発光活性と蛍光発生能の双方を備えているので、化学発光を利用した測定や検出と蛍光を利用した測定や検出を1つの物質で可能にするため、産業上極めて有用である。具体的には、励起光を照射して放出される蛍光強度を測定する一方、同一試料に発光基質を加えてその発光強度を測定することができる。例えば、対象物質を検出する検出方法として、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質に、その検出されるべき対象物質のリガンド(たとえば、抗体、ビオチン、レセプター等)を結合させ、そのリガンドを介して検出されるべき対象物に蛍光蛋白質を結合させ、発光基質を加えて生じる発光を検出する方法と、励起光を照射して発生する蛍光を検出する方法の双方が可能となる。この2種類の高感度検出系をもちいて、対象物質の検出・追跡等が可能となる。
本発明で具体的に作製された物質は、カルシウム結合型発光蛋白質に由来し、その蛍光スペクトルは、由来する発光蛋白質の発光スペクトルと同じである。
本発明によって提供される具体的な化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、およびカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンより構成されており、好ましくはアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物との複合体中の分子数の比が1:1であり、アポ蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンとの複合体中の分子数の比が1:1〜4である。より好ましくは、アポ蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンとの複合体中の分子数の比が1:2〜3である。
好ましい化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を構成するカルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質は、アポイクオリン、アポクライチン、アポオベリン、アポマイトロコミン、アポミネオプシンおよびアポベルボインからなる群から選ばれる1種である。
アポイクオリン、アポクライチン、アポオベリンおよびアポマイトロコミンは、それぞれ配列表に示される配列番号1、2、3および4で表されるアミノ酸配列を有する。これらは、配列表で表される配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異体であってもよい。カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質は、それが有する少なくとも二つの遊離のSH基のうちの少なくとも一つが水酸基で置換され、S−S結合を生じることができなくなった変異型アポ蛋白質であってもよい。
化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を構成するセレンテラミドまたはその類縁化合物は、下記式(1)または式(2)で表される。

(式中、
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、または脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基である。好ましくは、非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基もしくはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、またはシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基である。さらに好ましくは、フェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基または2−メチルプロピル基である。
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、置換または非置換のアリールアルケニル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルケニル基、複素環式基である。好ましくは、非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、硫黄を含む複素環式基である。さらに好ましくは、フェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロペニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基またはチオフェン−2−イル基である。
は、水素原子、置換または非置換のアルキル基である。好ましくは、水素原子、メチル基または2−ヒドロキシエチル基である。
は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基またはアミノ基であり、特に好ましくは水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基またはアミノ基である。
は、水素原子または水酸基である。
Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基またはビニレン基である。)
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を構成するカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンとして好ましいものは、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、鉛イオンである。
本発明は、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質部分に、検出されるべき対象物質のリガンドを結合させた化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を提供する。このリガンドは、アポ蛋白質の遊離のSH基あるいはアミノ基に直接またはスペーサーを介して共有結合させることができるが、結合方法はこれに限らない。
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、セレンテラジンまたはその類縁化合物を触媒的に分解して発光させる。その発光反応は、還元剤の存在下においてより長く持続する。
その発光反応に用いられるセレンテラジンまたはその類縁化合物は、下記式(3)または式(4)で表される。

(式中のR、R、R、X、XおよびYは、式(1)および式(2)と同じである。)
蛍光蛋白質を用いて対象物質を検出する際、その検出されるべき対象物質のリガンドが結合した化学発光活性を有する蛍光蛋白質を、そのリガンドを介して対象物質に結合させ、発光基質を加えて発光させるとともに蛍光を利用して対象物質を検出することに用いられる。
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、その溶液中に還元剤を添加することによって熱安定性を改善することができる。特に好ましい還元剤はジチオスレイトールまたはメルカプトエタノールである。
本発明は、化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)とセレンテラジンまたはその類縁化合物を組み合わせた発光キットを提供する。その発光キットの化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)またはセレンテラジンもしくはその類縁化合物の一方の試薬または両方の試薬が還元剤を含むことが好ましいが、還元剤はキット中でそれらとは独立な試薬として提供されてもよい。その発光キットはアミューズメントの分野で利用されてもよいが、利用分野はこれに限定されない。
本発明は、化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)の製造法を提供する。本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、カルシウム結合型発光蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの溶液を緩やかな条件で反応させることによって製造することができる。ここでいう緩やかな条件とは、生成するセレンテラミドまたはその類縁化合物の実質的にすべてがアポ蛋白質内に配位したまま残存し、新たなS−S結合が実質的に生成しないような条件である。例えば、カルシウム結合型発光蛋白質と、10−7M以下の濃度のカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの溶液を反応させることによって製造できる。
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、後述するカルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物からなる(カルシウムイオンを含まない)蛍光蛋白質(gFP)に、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの溶液を反応させることによっても製造することができる。
蛍光蛋白質(gFP)
本発明は、さらに化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)から生成しうる、カルシウムイオンを含まない新規な蛍光蛋白質(gFP)を提供する。その蛍光蛋白質(gFP)は、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物からなり、アポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物の複合体中の分子数のモル比が1:1であることが好ましい。
蛍光蛋白質(gFP)を構成するカルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質は、前述の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)のアポ蛋白質に対して説明したのと同じである。蛍光蛋白質(gFP)を構成するセレンテラミドまたはその類縁化合物は、前述の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)に対して説明したのと同じである。
本発明は、対象物質を検出する際、その検出されるべき対象物質のリガンドがカルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質部分に結合した蛍光蛋白質(gFP)をも提供する。リガンドはアポ蛋白質の遊離のSH基あるいはアミノ基に直接またはスペーサーを介して共有結合させることができる。
本発明の蛍光蛋白質(gFP)は、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能なイオンと反応すると、発光する蛍光の波長が変化する。したがって、その蛍光波長の変化を利用して、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能なイオンの検出および定量ができる。そこで、本発明は、蛍光蛋白質(gFP)を含む、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能なイオンの検出および定量試薬を提供する。
本発明の蛍光蛋白質(gFP)にセレンテラジンまたはその類縁化合物を反応させるとカルシウム結合型発光蛋白質となる。したがって、本発明は蛍光蛋白質(gFP)にセレンテラジンまたはその類縁化合物を反応させるカルシウム結合型発光蛋白質の製造方法を提供することができる。この製造方法において、両者を還元剤の存在下で反応させることが望ましい。
カルシウム結合型発光蛋白質の製造方法に用いられるセレンテラジンまたはその類縁化合物は、前述の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)に対して説明したのと同じである。
本発明の蛍光蛋白質(gFP)とセレンテラジンまたはその類縁化合物を組み合わせたカルシウム結合型発光蛋白質製造用キットが提供される。そのカルシウム結合型発光蛋白質製造用キットの蛍光蛋白質(gFP)またはセレンテラジンまたはその類縁化合物の一方の試薬または両方の試薬が還元剤を含むことが好ましいが、還元剤はキット中でそれらとは独立な試薬として提供されてもよい。
蛍光蛋白質(gFP)を用いて対象物質を検出する際、その検出されるべき対象物質のリガンドが結合した蛍光蛋白質(gFP)を、そのリガンドを介して検出されるべき対象物に結合させておき、そこにセレンテラジンまたはその類縁化合物を添加するとカルシウム結合型発光蛋白質が形成される。ついでカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンを加えるとカルシウム結合型発光蛋白質は瞬間発光する。対象物質の検出には、その瞬間発光をマーカーとして利用できる。さらに、未反応のままで残存する蛍光蛋白質(gFP)は蛍光発生能があるので、その蛍光を利用して対象物質の検出を継続することができる。
本発明の蛍光蛋白質(gFP)は、先に述べた化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)(カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物およびカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価のイオンより構成された蛋白質複合体)をキレート剤で処理して、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価のイオンを除去することによって製造してもよい。
化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)、蛍光蛋白質(gFP)、イクオリンの相互関係
以上に述べた化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)、蛍光蛋白質(gFP)、カルシウム結合型発光蛋白質(イクオリン)について図4により説明する。図中、CTMはセレンテラミド、CTZはセレンテラジン、EDTAはエチレンジアミン四酢酸を意味する。
イクオリンはカルシウム結合型発光蛋白質の一種であり、アポ蛋白であるアポイクオリンの内部にセレンテラジンが配位し、分子状酸素が複合体(セレンテラジンのパーオキサイド)を形成した状態で存在する。本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を製造するには、イクオリンの溶液に極めて希薄なカルシウムイオン溶液を重層し、蛋白質の量によって反応が終了するまでの時間が異なるが、通常は24時間以上をかけて反応させる。この場合、イクオリンは微弱な発光を続け、基質のセレンテラジンはセレンテラミドと二酸化炭素に分解される。
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、極めて緩やかな条件でイクオリンとカルシウムイオンを反応させることによって得られ、従来行われていたようにイクオリンを瞬間発光させた場合の生成物とは異なっている。従来のようにイクオリンを瞬間発光させると、イクオリンは過剰のカルシウムイオンと一気に反応する。この場合にはアポ蛋白であるアポイクオリンの立体構造に急激な変化が起きて、セレンテラミドの大部分はアポイクオリンの内部には留まらない。しかし、極めて緩やかな条件で得られた本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)では、セレンテラミドはアポイクオリンの内部に配位したまま残存し、複合体内での分子数の比は1:1となる。
化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)をEDTAで処理するとカルシウムイオンが除去されて新たな蛍光蛋白質(gFP)が得られる。得られた蛍光蛋白質(gFP)にカルシウムイオンを加えれば元の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)に戻る。この蛍光蛋白質(gFP)は、セレンテラジンを加えると、アポイクオリン内部のセレンテラミドがセレンテラジンと置換して、イクオリンとなる。このイクオリンはカルシウムイオンと反応して瞬間発光することができる。
化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)およびそれからカルシウムイオン等を除去して生成される蛍光蛋白質(gFP)の放射する蛍光の波長は、それらに含まれる発色団、すなわちセレンテラミドまたはその類縁化合物の種類によって決まる。
化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)にセレンテラジンを添加すれば、蛍光蛋白質(bFP)は発光反応を起こす。この場合、添加したセレンテラジンはアポイクオリン内部に取り込まれて触媒作用によって酸化される。発光触媒活性の持続時間は、還元剤の有無などの条件に左右されるが、かなり長期間である。還元剤不添加ではアポイクオリン分子中のSH結合が比較的短時間にS−S結合を形成してその化学発光活性を失う。還元剤を添加すれば、S−S結合の形成が阻害されるので、化学発光活性が通常2時間以上持続する。システイン残基が欠失したり他のアミノ酸に置換したりした変異アポイクオリンを有する変異イクオリンは、野生型イクオリンと同等の活性をもつことが知られており、変異イクオリンから調製した化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、還元剤の添加が不要である可能性が大きい。
イクオリンのEFハンドに結合しているように図示されているカルシウムイオンは、3個のすべてに結合していなくとも良い。また、カルシウムイオンはそれと置換可能な2価または3価のイオンであってもよい。
【図面の簡単な説明】
図1は、bFP−aqの蛍光スペクトル(実線)およびgFP−aqの蛍光スペクトル(点線)を示す図である。
図2は、bFP−aqを90℃で3分加熱し、24℃に1分、3分、9分、18分放置後測定した蛍光強度を、非加熱(−Heat)の場合との相対強度で表したものである。
図3は、gFP−aqにセレンテラジンを添加してイクオリンを調製する場合の、生成物量をカルシウムによる発光強度で測定し、インキュベーション時間と相関させたものである。
図4は、発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)、蛍光蛋白質(gFP)、セレンテラジン(CTZ)、セレンテラミド(CTM)、カルシウムイオンおよびイクオリン(AQ)の相互関係を示す図である。
【発朋を実施するための最良の形態】
1.化学発光活性を有する蛍光蛋白質
1−1.化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)の構成及び構造
カルシウム結合型発光蛋白質は、カルシウムイオンと遭遇した場合の敏感な瞬間発光を利用して、カルシウムの検出に用いられる。その際、カルシウム結合型発光蛋白質はカルシウムイオンと瞬時に反応し、そのアポ蛋白質の立体構造が一気に変化する。そのため、アポ蛋白質の内部で生成するセレンテラミドは大部分アポ蛋白質内部から放出されてしまう(Shimomura,O.(1995)Biochem.J.306,537−543)とともに、アポ蛋白質の遊離のSH基が酸化されてS−S結合を形成する。この立体構造の変化が瞬時であるため、これまでイクオリンのようなカルシウム結合型発光蛋白質をカルシウムで発光させた後に微弱な化学発光活性(ルシフェラーゼ様活性)や蛍光発生能が検出されていながら、その原因となる物質構成及び構造が特定できなかった。
本発明者は、カルシウム結合型発光蛋白質の従来のカルシウムイオンとの反応条件とは全くかけ離れた条件、つまり極めて緩やかな反応条件でカルシウムイオンと反応させることによって、化学発光活性を有する新規な蛍光蛋白質(bFP)を同定することに成功した。
本発明の化学発光活性を有する新規な蛍光蛋白質(bFP)は、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、およびカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンより構成されており、好ましくはアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物の複合体中の分子数の比は1:1であり、アポ蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの複合体中の分子数の比は1:1〜4である。より好ましくは、アポ蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの分子数の比は1:2〜3、さらに好ましくは1:3である。この複合体内で、セレンテラミドまたはその類縁化合物は、アポ蛋白質の内部に配位しており、カルシウムイオンは主としてアポ蛋白質のEFハンドに結合している。
実施例に示すように、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、代表的な発光蛋白質であるルシフェラーゼと比較して熱安定性に優れているので、従来ルシフェラーゼを用いることができなかった分野にも応用が可能である。
1−2.化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)の製造
化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、カルシウム結合型発光蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンを、極めて緩やかな(反応速度が極めて遅い)条件で反応させることにより製造できる。本発明において緩やかに反応させるとは、カルシウム結合型発光蛋白質とカルシウムイオン等のイオンが反応した後に、セレンテラミドまたはその類縁化合物がアポ蛋白質に配位したまま残り、かつ新たなS−S結合が実質上生成しないような条件で反応させることを意味する。
例えば、高粘度のカルシウム結合型発光蛋白質溶液に、非常に希薄なカルシウムイオン等の溶液を重層し、低温で長時間にわたって反応させればよい。この場合、反応温度は、好ましくは0℃〜30℃、より好ましくは4℃である。また反応時間は、蛋白質の濃度によっても異なるが、24時間以上であることが好ましい。
この際、カルシウムイオンの濃度は小さい方が好ましい。カルシウムイオンの濃度が小さければ、カルシウムイオンがカルシウム結合型発光蛋白質と接触(反応)する頻度が低くなるからである。逆に、カルシウム結合型発光蛋白質溶液の濃度は高い方が好ましい。蛋白質複合体溶液の濃度が高ければ、蛋白質複合体溶液の粘度も高くなり、カルシウムイオン溶液と蛋白質複合体溶液との混合がゆっくり進行するからである。
具体的には、10−7M(mol/l)以下の濃度のカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの水溶液を、カルシウムイオン結合型発光蛋白質に対して1〜4のモル比となるように添加して、両者を反応させる。カルシウムイオン等のイオンとカルシウムイオン結合型発光蛋白質のモル比は、反応が緩やかに進められるならば、目的とする化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)における分子数の比以上(例えば、4以上)であっても構わない。本発明で必要とされる反応条件を達成するためには、反応容器のデザインの変更、溶媒の選択、半透膜の使用等のバリエーションが考えられ、本明細書に記載されたものに限定されるものではない。
1−3.化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を構成するアポ蛋白質
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を構成するアポ蛋白質として、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質が用いられる。ここでいうカルシウム結合型発光蛋白質とは、カルシウムイオンまたはそれと同等な2価もしくは3価のイオンと反応して発光する蛋白質複合体を指す。例えば、イクオリン、クライチン、オベリン、マイトロコミン、ミネオプシンおよびベルボインを挙げることができる。これらは、天然から採取したものであっても、遺伝子工学的に製造したものであってよい。さらに、上記の発光活性を有すれば、そのアミノ酸配列を天然のものから遺伝子組換え技術によって変異させたものであってもよい。
天然型イクオリンのアポ蛋白であるアポイクオリンのアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するもののほか、公知のまたは未知のその変異体であってカルシウム結合型発光蛋白質を形成することができるものであればすべて使用できる。したがって、本発明で使用されるアポイクオリンには、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するアポイクオリンおよび配列番号1のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異型アポイクオリンが含まれる。特に好ましい変異型アポイクオリンの例として、配列番号1において1番目のValがAla−Asn−Serで置換されたものが挙げられる。
野生型クライチンのアポ蛋白であるアポクライチンのアミノ酸配列は配列表の配列番号2に示される。野生型オベリンのアポ蛋白であるアポオベリンのアミノ酸配列は配列表の配列番号3に示される。野生型マイトロコミンのアポ蛋白であるアポマイトロコミンのアミノ酸配列は配列表の配列番号4に示される。これらは、それぞれの配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異型のものであってもよい。
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、アポ蛋白質中のシステイン残基の遊離SH基が酸化されてS−S結合を生成すると、化学発光活性を失う。したがって、遊離のSH基が欠失または置換され、S−S結合を生じることができなくなった変異アポ蛋白質は、化学発光活性を失うことがないと考えられ、例えば、システイン残基をセリン残基で置換した蛍光蛋白質(bFP)は、S−S結合を生じないため活性が持続的であると期待される。
1−4.化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を構成するセレンテラミド
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を構成するセレンテラミドまたはその類縁化合物は、前述の式(1)または式(2)で示される。
セレンテラミドまたはその類縁化合物として、具体的な好ましい化合物は後述する。
1−5.化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を構成する金属イオン
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)に結合する金属イオンは、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンである。ここで、カルシウムイオンと置換可能なイオンとは、カルシウムイオンに代えてイクオリンなどのカルシウム結合型発光蛋白質と反応させた場合に、発光反応を起こすイオンのことである。つまり、カルシウム結合型発光蛋白質に対して、カルシウムイオンと同等の作用をするものである。例えば、マグネシウムイオン(Mg2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+)、鉛イオン(Pb2+)、コバルトイオン(Co2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、カドミウムイオン(Cd2+)、イットリウムイオン(Y3+)、ランタンイオン(La3+)、サマリウムイオン(Sm3+)、ユウロピウムイオン(Eu3+)、ジスプロシウムイオン(Dy3+)、ツリウムイオン(Tm3+)、イットリビウムイオン(Yb3+)を挙げることができる。これらのうち、2価の金属イオンが好ましい。より好ましくは遷移金属以外の2価の金属イオン、例えばCa2+、Sr2+、Pb2+である。
また、これらのイオンは少なくとも1個が、いわゆるカルシウム結合型発光蛋白質のEFハンドに結合していればよいが、2個以上、特に3個のこれらのイオンが結合しているのが好ましい。
1−6.化学発光活性を有する蛍光蛋白質と検出対象物質のリガンドとの結合物
化学発光活性を有する蛍光蛋白質を用いて対象物質を検出する際、蛍光蛋白質は、直接またはスペーサーを介して、検出されるべき対象物質のリガンドと結合させることができる。リガンドとは、化学発光活性を有する蛍光蛋白質を検出マーカーとして使用する際に、検出されるべき物質(蛋白質、ペプチド、酵素、レセプター、抗原、抗体)に、直接的にまたは間接的に、特異的に結合する物質である。
例えば、レセプターを検出する場合においては、レセプターに結合する液性因子(インシュリンのようなホルモン、サイトカイン、TNF、Fasリガンド等)がリガンドとなる。また、液性因子を検出する場合にはレセプター(受容体)を構成するタンパクがリガンドとなる。薬物の受容体を検出する場合には薬物がリガンドとなり、薬物を検出する場合は薬物受容体がリガンドとなる。
他の例としては、酵素を検出する場合にはその基質がリガンドとなり、酵素の基質を検出する場合には酵素がリガンドとなる。また、一本鎖の核酸を検出する場合には、相補的な核酸をリガンドとすればよい。また、多糖類に対して特異的に結合する他の物質を検出する場合には、多糖類がリガンドとなる。また、血液凝固因子と特異的に結合しうるレクチンや転写因子等のDNA結合性蛋白質等もリガンドとなり得る。
また、検出対象物質を間接的に検出することも可能である。例えば、検出対象物質に対する抗体にアビジンまたはビオチンをコンジュゲートさせ、それらと対になる物質、ビオチンまたはアビジン(もしくはストレプトアビジン)をリガンドとして用いればよい。検出されるべき対象物質に対する抗体にアビジンをコンジュゲートさせた場合であれば、抗体を対象物質に結合させておき、ビオチンを結合させた化学発光活性を有する蛍光蛋白質を用いれば、対象物質と蛍光蛋白質の両者を間接的に結合することができる。
このように、リガンドには、検出対象に直接的または間接的に結合可能な広範囲の物質が包含されるが、種々の蛋白質、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、抗体、核酸等が好ましい。
リガンドは本発明の蛍光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)のアポ蛋白質に直接結合させるか、またはその製造原料であるカルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質に結合させることができる。つまり、リガンドを結合させた化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)にリガンドを直接結合させる方法、カルシウム結合型蛋白質複合体にリガンドを結合させ次いでカルシウムイオン等と緩やかに反応させる方法、アポ蛋白質にリガンドを結合させ次いでセレンテラジンまたはその誘導体と反応させてカルシウム結合型発光蛋白質としそれをカルシウムイオン等と緩やかに反応させる方法のいずれによっても製造することができる。
蛋白質にリガンドを結合させる方法は数多く報告されており、本発明においてはあらゆる方法を利用することができる。リガンドは、アポ蛋白質中のSH基、水酸基、アミノ基等を介して結合させることができる。リガンドとの結合は、アポ蛋白質の分子サイズおよびリガンドとの立体障害を考慮して、直接的であってもよく、またはリンカーもしくはスペーサーを介して間接的であってもよい。結合試薬としては、N−ヒドロキシスクシンイミド、4−ニトロフェノール等にリガンドもしくはリガンドとスペーサーを結合させて作ることができる。スクシンイミジル6−(ビオチンアミド)ヘキサノエート(NHS−LC−Biotin)やビオチン4−ニトロフェニルエステルのように市販されているものも利用できる。
水酸基またはアミノ基へリガンドを結合させる場合、アポ蛋白質の分子内で−S−S−を形成するのを防ぐためメルカプトエタノール、ジチオスレイトールのような還元剤の存在下で結合させることが望ましい。
リガンドを結合させたカルシウム結合型発光蛋白質(リガンドと結合したアポ蛋白質とセレンテラジンで構成される)を、先に述べた極めて緩やかな条件でカルシウム等のイオンと反応させることによって、リガンドと結合した化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を製造することができる。
1−7.化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)の利用
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、発光基質に作用しそれを発光させるので、発光触媒として利用できる。発光基質はセレンテラジンまたはその類縁化合物である。ここでセレンテラジンの類縁化合物とは、セレンテラジンと同様に、アポ蛋白質として、イクオリン等のカルシウム結合型発光蛋白質を構成しうる化合物を指す。具体的なセレンテラジンの類縁化合物は前述の式(3)または式(4)で示される。
これらのセレンテラジンおよびその類縁化合物は、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)の触媒作用によって対応するセレンテラミドに酸化される際(この時、二酸化炭素が放出される)、発光する。セレンテラジンまたはその類縁化合物を、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)に添加した場合の発光は連続的(持続的)である。添加されたセレンテラジンが消費され尽くすか、触媒活性が無くなるまで発光は持続する。通常発光時間は0.5〜3時間であるが、条件の選択により更に長時間とすることも可能である。
後述の実施例16にも記載されているように、セレンテラジンおよびh−セレンテラジンが優れた発光基質であり、なかでもh−セレンテラジンが好ましい。
1−7−1.還元剤の添加による化学発光活性の維持
実施例13によれば、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、90℃に加熱した後でも、化学発光活性を有する。この場合、ジチオスレイトールのような還元剤を添加することによって、化学発光活性の低下を顕著に抑制することができる。また、実施例14によれば、常温において発光反応が開始してから15分を経過すると化学発光活性が低下する。しかし、還元剤を共存させると、60分を経過してもその発光強度は低下しない。したがって、還元剤を一緒に添加することで、発光強度を低下させることなく長時間連続発光させ続けることができる。このように高温処理後でも化学発光活性が発揮されることは、従来のルシフェラーゼによる生物発光に比べると驚異的なことである。このため、生物発光を利用するマーカーとして新規な分野での応用が期待される。
還元剤によって化学発光活性が持続するのは、アポ蛋白質中の遊離のSH基の酸化が還元剤によって阻害されるため、蛍光蛋白質(bFP)の触媒活性が長く持続するからである。好ましい還元剤は、ジチオスレイトールおよびメルカプトエタノールである。
1−7−2.化学発光活性を有する蛍光蛋白質のアミューズメントへの利用
発光性蛋白質の用途の一つはアミューズメントである。アミューズメントのために利用するには、発光させようとする時、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)にセレンテラジンまたはその類縁化合物を混ぜ合わせればよい。そのためには、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)と、セレンテラジンまたはその類縁化合物を組み合わせたキットとしておくのが望ましい。その場合、化学発光活性を有する蛍光蛋白質とセレンテラジンまたはその類縁化合物を、使用時に簡単に混合できるような容器に入れたキットとしておくのが好ましい。例えば、2室に仕切ったプラスチックチューブの各室にそれぞれを入れておき、発光させるときにその仕切りを破断すれば両者が混合されて発光する。このような利用に関して既にいくつかの報告があるが(例えばWO97/29319)、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)はいかなる方法にも応用できる。本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質の化学発光活性(bFP)は、還元剤によって安定化されるので、化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)およびセレンテラジンまたはその類縁化合物の一方もしくはその両方に還元剤を添加しておくのが望ましいが、還元剤はキット中で独立に提供されてもよい。なお、このキットが利用できるのは、アミューズメントの分野に限らない。
1−7−3.化学発光活性を有する蛍光蛋白質の検出マーカーとしての利用
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質の最も重要な用途は、検出マーカーとしての利用である。検出対象物のリガンドに結合させた本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、そのリガンドを介して検出対象物(例えばウイルスや細胞上の特定の蛋白質)に結合する。それにセレンテラジンを添加すれば発光が生じる。
これまで、蛍光性物質の蛍光をマーカーとして利用することは良く知られている。しかし、セレンテラジンの化学発光による光の検出感度は蛍光発光の際の検出感度に比べて100倍以上高い。しかもこの化学発光は持続的であるから長時間の観察に適している。
さらに、セレンテラジンを消費し尽くした後においても、光エネルギーを吸収して蛍光を発生するのでその蛍光を利用して観察を続けることもできる。この方法は、生物学的な実験等において極めて有効な手段として期待される。このような利用法は、触媒作用による化学発光活性と蛍光発生能の両者を持った本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)によって初めて可能となった。
この場合にも還元剤を添加することによって化学発光活性の持続性を高めることができ、さらに高温での発光が可能となる。したがって、検出されるべき対象物質を加熱前に検出し、加熱後も引き続き同一のマーカーによって検出することが可能となる。これは、これまでになかった全く新しい生物発光マーカーの応用分野を開くと期待される。
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)が発生する蛍光の波長(色)は、その蛋白質の中に保持されているセレンテラミド(発色団)の種類によって変化する。また、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)の触媒作用によって、セレンテラジンまたはその類縁化合物が酸化発光する場合の光の波長も生成するセレンテラミド(発色団)の種類によって変化する。
1−7−4.別の蛍光蛋白質(gFP)を製造するための利用
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を構成するカルシウムイオンおよびそれと置換可能な2価のイオンは、キレート剤と処理することによって除去され、全く別の新規な蛍光蛋白質(gFP)となる。これについては、2の項に記述する。
1−7−5.カルシウム結合型発光蛋白質の製造への利用
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)から、イクオリンのようなカルシウム結合型発光蛋白質を製造することができる。そのためには、化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価または3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下においてセレンテラジンまたはその類縁化合物を反応させる。このようなキレート剤は、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価または3価のイオンと等価な量より幾分過剰に存在するのが好ましい。反応温度は特に制限はないが4〜25℃程度が適当である。必要に応じジチオスレイトール(DTT)のような還元剤を添加し、反応混合物を1〜30時間程度放置すればよい。生成イクオリンと他の未反応bFP、gFPおよびセレンテラジン等からの分離精製は、既知のイクオリン精製法に準じておこなうことができる。すなわち、反応溶液をブチルセファロース4ファーストフローカラムクロマト法により分離精製を行う。
なお、キレート剤は、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンと強く結合するものであれば特に制限されない。その例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)N,N,N′,N′−四酢酸(EGTA)、trans−1,2−ジアミノシクロヘキサンN,N,N′,N′−四酢酸(CyDTA)およびN−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)を挙げることができる。
1−8.化学発光活性を有する蛍光蛋白質の特質
1−8−1.熱安定性に優れている
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は熱安定性に優れている。実施例9に示したように、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、40℃においても蛍光強度は低下しない。45℃で10分保持するとその強度が低下する。しかし、加熱によって一旦低下した蛍光強度は、加熱温度が65℃以下であれば冷却することによって完全に回復する。さらに、実施例10に示したように、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を、90℃で3分間加熱しても、室温に20分放置することにより93%の蛍光発生能が回復した。65℃以下の加熱温度においては、100%の蛍光発生能が回復する。
これまで知られている蛍光性蛋白質やルシフェラーゼは加熱によりその化学発光活性を失う。また、カルシウム結合型発光蛋白質も加熱により発光能を失う。それに比較して本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は、一時的に高温に維持しても、室温などの低温に戻すことにより、その化学発光活性が回復する。これは従来の蛍光性蛋白質、ルシフェラーゼ、カルシウム結合型発光蛋白質等に勝る大きな利点であり、この化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)の有用性が極めて高い。
1−8−2.保存安定性に優れている
化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は保存安定性に優れている。安定化剤等を添加することなく、−80℃および4℃で保存し、6ヶ月経過時点での蛍光強度を保存開始時点での蛍光強度と比較したが、それらの蛍光強度は−80℃では全く変わらず、4℃でも殆ど変わらなかった。カルシウム結合型発光蛋白質が保存安定性において課題を有していて、安定化剤等を添加することにより−80℃で長期保存できるようになることから考えると、本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)は顕著な保存安定性を有することがわかる。
これまでに説明した化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)から、新規な別の蛍光蛋白質(gFP)が製造されるので、以下にそれについて説明する。
2.蛍光蛋白質(gFP)の構造
2−1.蛍光蛋白質(gFP)の構造
本発明の蛍光蛋白質(gFP)は、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質に、セレンテラミドまたはその類縁化合物が配位したものである。また別の表現をすれば、前述の本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)からカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンを取り除いたものである。
本発明の蛍光蛋白質(gFP)は、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質およびセレンテラミドまたはその類縁化合物からなり、複合体中でのアポ蛋白質と、セレンテラミドまたはその類縁化合物の分子数の比は1:1である。
2−2.蛍光蛋白質(gFP)の製法
本発明の蛍光蛋白質(gFP)は、前述の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)からカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価のイオンを取り除くことによって得られる。2価イオンは、化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)をキレート剤で処理することによって除去できる。
キレート剤は、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンと強く結合するものであれば特に制限されない。その例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)N,N,N′,N′−四酢酸(EGTA)、trans−1,2−ジアミノシクロヘキサンN,N,N′,N′−四酢酸(CyDTA)およびN−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)を挙げることができる。
2−3.蛍光蛋白質(gFP)を構成するアポ蛋白質
前述の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を構成するアポ蛋白質に対して行った説明が適用される。
2−4.新規な蛍光蛋白質(gFP)を構成するセレンテラミド
前述の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を構成するセレンテラミドに対して行った説明が適用される。
2−5.新規な蛍光蛋白質(gFP)とリガンドの結合物
前述の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)と検出対象のリガンドについて行った説明が適用される。検出対象のリガンドが結合している化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)からカルシウムイオン等を除去してリガンドが結合した蛍光蛋白質(gFP)を調製することができる。またリガンドが結合していない化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)からカルシウムイオン等を除去して調製した蛍光蛋白質(gFP)にリガンドを結合させることもできる。
2−6.新規な蛍光蛋白質(gFP)の利用
2−6−1.カルシウムの検出
本発明の蛍光蛋白質(gFP)は、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能なイオンと反応して、蛍光波長の異なった物質となる。したがって、その蛍光波長の変化を利用して、カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能なイオンの検出および定量ができる。本発明によって、蛍光蛋白質(gFP)を含むカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能なイオンの検出および定量試薬が提供される。
2−6−2.検出マーカーとしての利用
検出対象物質のリガンドが結合した蛍光蛋白質(gFP)はウイルスや細胞にある物質の検出マーカーとして利用できる。リガンドが結合した蛍光蛋白質(gFP)を、そのリガンドを介して検出されるべき対象物質に結合させる。ついでセレンテラジンまたはその類縁化合物を加えるとカルシウム結合型発光蛋白質が形成される。さらにカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンを加えるとカルシウム結合型発光蛋白質は瞬間発光する。その瞬間発光をマーカーとして利用できる。さらに、セレンテラジンと反応していない蛍光蛋白質(gFP)は蛍光発生能があるので、その蛍光を利用して対象物の検出を継続することができる。
また、最初からセレンテラジンを添加せず、蛍光のみを利用して対象物を検出しても良い。
このように蛍光カルシウムイオン等による瞬間発光と、蛍光発光の両方を同一のマーカーで行えることは画期的なことであり、広範な用途が期待される。
2−6−3.カルシウム結合型発光蛋白質の製造への応用
本発明の蛍光蛋白質(gFP)は、発光基質であるセレンテラジンまたはその類縁化合物と混合することによって、イクオリンのようなカルシウム結合型発光蛋白質に変換することができる。
通常、カルシウム結合型発光蛋白質は、カルシウム結合型発光蛋白質をカルシウムイオンと反応させた反応生成物に、キレート剤、還元剤およびセレンテラジンを低温で添加して再生している。再生時の温度は、4℃が最も効率が良く、37℃では殆ど再生されない。アポ蛋白質からカルシウム結合型発光蛋白質を新たに製造する場合でも、キレート剤、還元剤およびセレンテラジンを低温で添加して同様の操作をする必要がある。
それに対して、本発明の蛍光蛋白質(gFP)からカルシウム結合型発光蛋白質を製造する場合は、セレンテラジンを添加するだけでよい。その添加の温度条件も、25℃では4℃と同様に還元剤の添加なしに90%以上の分子がカルシウム結合型発光蛋白質に変換される。37℃の場合には、還元剤を添加することにより、約80%の分子がカルシウム結合型発光蛋白質に変換される。具体例の詳細な記述は実施例12にある。
カルシウム結合型発光蛋白質の製法に使われるセレンテラジンおよびその類縁化合物については、前述のとおりである。具体的なセレンテラジンおよびその類縁化合物は前述の式(3)または式(4)で示される。
本発明においては、蛍光蛋白質(gFP)とセレンテラジンまたはその類縁化合物を組み合わせたカルシウム結合型発光蛋白質製造用キットが提供される。そのカルシウム結合型発光蛋白質製造用キットの蛍光蛋白質(gFP)またはセレンテラジンまたはその類縁化合物の一方または両方に還元剤を含むことが好ましいが、還元剤はキット中に独立に提供されていても構わない。
2−6−4.化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)の製造への応用
本発明の蛍光蛋白質(gFP)にカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンを加えることにより、前述の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)を製造することができる。
2−7.蛍光蛋白質(gFP)は保存安定性に優れている
本発明の蛍光蛋白質(gFP)は保存安定性に優れている。安定化剤等を添加することなく、−80℃および4℃で保存し、6ヶ月経過時点での蛍光強度を保存開始時点での蛍光強度と比較したが−80℃では全く変わらず、4℃でも殆ど変わらなかった。カルシウム結合型発光蛋白質が保存安定性に課題を有していて、安定化剤等を添加することにより−80℃で長期保存をしていることから考えると、本発明の蛍光蛋白質(gFP)は顕著な保存安定性を有するものであることがわかる。
以下に特に重要なセレンテラジン、セレンテラミド、e−セレンテラジン、e−セレンテラミド、h−セレンテラジンおよびh−セレンテラミドの化学構造式をまとめて示す。

以下に実施例により本発明を説明するが、実施例は本発明を制限するものではない。
以下の実施例において用いられる略称の意味は次のとおりである。
CTZ:セレンテラジン
e−CTZ:e−セレンテラジン
h−CTZ:h−セレンテラジン
CTM:セレンテラミド
AQ:発光基質としてセレンテラジン(CTZ)を含むイクオリン
e−AQ:発光基質としてe−セレンテラジン(e−CTZ)を含むイクオリン
h−AQ:発光基質としてh−セレンテラジン(h−CTZ)を含むイクオリン
ApoAQ−Ca2+:アポイクオリンにカルシウムイオンを反応させて得られる物質
bFP−aq:発光基質としてセレンテラジン(CTZ)を含むイクオリン(AQ)にカルシウムイオンを徐々に反応させて得られる化学発光活性を有する蛍光タンパク質複合体(bFP)
e−bFP−aq:発光基質としてe−セレンテラジン(e−CTZ)を含むイクオリン(e−AQ)にカルシウムイオンを徐々に反応させて得られる化学発光活性を有する蛍光タンパク質複合体(bFP)
h−bFP−aq:発光基質としてh−セレンテラジン(h−CTZ)を含むイクオリン(h−AQ)にカルシウムイオンを徐々に反応させて得られる化学発光活性を有する蛍光タンパク質複合体(bFP)
gFP−aq:bFP−aqからカルシウムイオンを除去して得られる蛍光タンパク質複合体(gFP)
e−gFP−aq:e−bFP−aqからカルシウムイオンを除去して得られる蛍光タンパク質複合体(gFP)
h−gFP−aq:h−bFP−aqからカルシウムイオンを除去して得られる蛍光タンパク質複合体(gFP)
<実施例1> 組換えイクオリン(AQ、e−AQおよびh−AQ)の調製法
組換えイクオリンは、以下に示すように、特開平1−132397号公報に記載される大腸菌にて組換えアポイクオリン遺伝子を発現させ、セレンテラジンと結合させて組換えイクオリンとして複合体にした後、特開2001−270899号公報に記載されるように精製して取得した。得られる組換えアポイクオリンのN−末端は、Ala−Asn−Ser−より始まる191個のアミノ酸より構成されている(配列表の配列番号1のN−末端のVal−がAla−Asn−Ser−で置換されたもの)。これらの明細書を、この明細書に引用することにより、援用することとする。
1)組換えアポイクオリンの大腸菌での発現
大腸菌において組換えアポイクオリンを発現させるために、アポイクオリン遺伝子を有するpAQ440(特開昭61−135586号公報参照)から構築した、アポイクオリン遺伝子発現ベクターpiP−HE(特開平1−132397号公報参照)を用いた。宿主として大腸菌WA802株を使用し、常法によりpiP−HEで該菌株を形質転換した。得られた形質転換株を30℃で一晩培養後、アンピシリン(50μg/ml)を含有する50mlのLB液体培地(水1リットルあたり、バクトトリプトン10g、イーストイクストラクト5g、塩化ナトリウム5g、pH7.2)に植菌し、さらに30℃で8時間培養した。次いで、その培養物を新たなLB液体培地2リットルに添加し、37℃で一昼夜(18時間)培養した。培養後、菌体と培養液を低速遠心分離(5000×g)によって分離した。菌体および培養液はともに発現した組換えアポイクオリンを含むためそれぞれ保存し、イクオリンの精製出発材料とした。
2)培養菌体からのイクオリン(AQ)の精製
集菌した菌体を、還元剤であるジチオスレイトール(DTT,和光純薬社製)200mgを含む400mlの50mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH7.6の緩衝液中に懸濁し、氷冷下において超音波破砕装置で2分間処理して菌体を破砕し、12000×gで20分間遠心後、上澄み液を回収した。化学合成したセレンテラジンを少量のメタノールに溶解し、得られた上澄み液に産生アポイクオリンの1.2倍のモル濃度になるように添加し、4℃で5時間以上放置した。この上澄み液を直ちに、20mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH7.6の緩衝液で平衡化したQ−セファロースカラム(ファルマシア製、直径2cm×10cm)に添加してイクオリンを吸着させ、カラムから流出する洗浄液の280nmでの吸光度が0.05以下になるまで20mM Tris−HCl、10mM EDTA、0.1M NaCl、pH7.6でカラムを洗浄した。そして、カラムに吸着したアポイクオリンとイクオリン画分を0.1M−NaCl〜0.4M−NaClの直線濃度勾配で溶出させた。
セレンテラジンと複合体を形成したイクオリンと複合体を形成しなかったアポイクオリンの分離は、疎水性クロマトグラフィーであるブチルセファロース4ファーストフローゲルを用いて行った。即ち、Q−セファロースカラムからのオレンジ色の溶出液を、硫酸アンモニウムの最終濃度が2Mになるように調整し、次いで、不溶画分を遠心分離によって除去し、その上澄み液を、2M−硫酸アンモニウムを含有する20mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH7.6で平衡化したブチルセファロース4ファーストフローカラム(ファルマシア社、カラムサイズ:直径2cm×8cm)に通し、硫酸アンモニウム濃度1Mまで直線濃度勾配により溶出し、化学発光活性を有するオレンジ色のイクオリン画分を回収した。一方、アポイクオリンは、20mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH7.6でのみ溶出した。
イクオリン画分について、還元状態で12%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEによる分析を行った。その結果、精製画分について分子量25kDa蛋白質に相当する単一バンドが検出され、その純度はデンシトメーターでの測定では98%以上であった。菌体からのイクオリンの回収率は約80%で、このようにして80mgの高純度イクオリン(AQ)を得た。
3)培養液からのイクオリン(AQ)の精製
培養液からの高純度アポイクオリンの精製は、特開平1−132397号公報に記載の方法に従って実施した。即ち、培養液を0.1M酢酸水溶液を用いて、酸性化処理し、pH5以下にし、4℃で60分間以上放置した。白色沈殿となったアポイクオリンを遠心分離によって単離し、これを還元剤を含む上述の緩衝液に溶解させた。そして菌体からのイクオリンの精製工程と同様にイクオリンを形成した後、Q−セファロースカラムクロマト法、ブチルセファロース4ファーストフローカラムクロマト法を用いて、純度98%以上のイクオリンを取得した。得られた精製イクオリンについて、還元状態で12%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEによる分析を行った結果、分子量25kDa蛋白質に相当する単一バンドが検出され、その純度はデンシトメーターでの測定では98%以上であった。このようにして、培養液より得られたアポイクオリン50mgから高純度イクオリン45mgを得た。蛋白量濃度は、精製蛋白質濃度はBradford法にもとづく市販のキット(バイオラッド社製)を用い、ウシ血清アルブミン(ピアス社製)を標準物質として用いて決定した。
4)e−AQの調製
セレンテラジン(CTZ)に代えてe−セレンテラジン(e−CTZ)を使用して発光基質としてe−CTZを含むe−AQを同様に調製した。
5)h−AQの調製
セレンテラジン(CTZ)に代えてh−セレンテラジン(h−CTZ)を使用して発光基質としてh−CTZを含むh−AQを同様に調製した。
<実施例2> 化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP−aq、e−bFP−aqおよびh−bFP−aq)の調製
1)イクオリン(AQ)の濃縮
実施例1記載の精製イクオリンを出発原料として、10mM Tris−HCl(pH7.6)、2mM EDTA、1.2M硫酸アンモニウムを含む緩衝液で、イクオリン濃度が8mg/mlのイクオリン溶液を調製した。
このイクオリン溶液1mlを、高速限外濾過フィルターである分画分子量10,000のポリエーテルスルホン膜を有するビバスピン2カラム(ザルトリウス社製)を用いて、冷却高速遠心機(日立社製:CR20B2型)にて、4℃で、5000×g、60分間以上遠心を行い、全量を0.1ml以下に濃縮した。さらに、濃縮溶液のEDTA濃度を、0.1μM以下に下げるために、1mlの0.1μM EDTAを含む10mM Tris−HClをビバスピン2カラムに加え、再度同一条件で遠心を行い、全量を濃縮した。このステップを最低2回くり返し、濃縮溶液中のEDTAの濃度を0.1μM以下に抑えた。このイクオリン濃縮液は、黄赤色を呈し、肉眼で容易に確認できた。
2)bFP−aqの調製
bFP−aqを以下の手順で調製した。ビバスピン2カラム内で濃縮イクオリン(AQ)溶液に、0.9mlの5mM塩化カルシウム(和光純薬)、2mMジチオスレイトール(和光純薬)を含む50mM Tris−HCl(pH7.6)を重層し、連続発光を開始し、4℃で24時間以上放置した。発光反応の終了は、イクオリン溶液の黄赤色の消失によっても確認できた。さらに、ビバスピン2カラム内へ2mlの5mM塩化カルシウム(和光純薬)、2mMジチオスレイトール(和光純薬)を含む50mM Tris−HCl(pH7.6)を加え、上記同一条件で遠心を行い洗浄した。生成したbFP−aqは、長波長のUVランプ(極大波長=366nm)の下で、青色蛍光を放射することを確認した。
3)e−bFP−aqおよびh−bFP−aqの調製
AQの代りにe−AQおよびh−AQを用いて同様にe−bFP−aqおよびh−bFP−aqを調製した。
<実施例3> 化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP−aq、e−bFP−aqおよびh−bFP−aq)から緑色蛍光を発生する蛍光蛋白質(gFP−aq、e−gFP−aqおよびh−gFP−aq)の調製
1)gFP−aqの調製
実施例2で調製したbFP−aqから、カルシウムをEDTAで取り除くことでgFP−aqを調製した。すなわち、実施例2で調製したビバスピン2カラム内のbFP−aqに、10mM EDTAを含む50mM Tris−HCl(pH7.6)を2ml加え、上記同一条件で遠心を行った。この操作を3回くり返した。長波長のUVランプ(極大波長=366nm)の下で、生成物が緑色蛍光を発生することを確認した。蛋白量の回収率は、定量的であった。
生成物から余剰のEDTA溶液を除く為には、50mM Tris−HCl(pH7.6)を2ml加え、上記同一条件で遠心を行った。この操作を5回くりかえすことにより余剰のEDTAが除去された。
2)e−gFP−aqおよびh−gFP−aqの調製
bFP−aqの代りにe−bFP−aqおよびh−bFP−aqを用いて同様にe−gFP−aqおよびh−gFP−aqを調製した。
<実施例4> 蛍光蛋白質(gFP−aq、e−gFP−aqおよびh−gFP−aq)から化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP−aq、e−bFP−aqおよびh−bFP−aq)の調製
1)bFP−aqの調製
実施例3で調製したgFP−aqに過剰のカルシウムイオンを含む溶液を加えることにより、実施例2で調製したと同じbFP−aqを調製した。具体的には、実施例3で調製したgFP−aqの溶液0.5ml(0.25mg/ml)に、室温で、0.1Mの塩化カルシウムを少量ずつ添加し、試料溶液のカルシウムイオンの最終濃度が5mMになるように調製した。bFP−aqの生成は、その蛍光スペクトル最大吸収値(335nmで励起)459nmにおける蛍光強度の増加と、gFP−aqの蛍光スペクトル最大吸収値(335nmで励起)467nmにおける蛍光強度の減少により確認した。過剰なカルシウムイオンを除去するため、生成物の溶液をビバスピン2カラムに移し、2mlの50mM Tris−HCl(pH7.6)を用いて、冷却高速遠心機(日立社製:CR20B2型)にて、4℃で、5000×g、60分間以上遠心を行い、全量を0.1ml以下に濃縮した。この操作を3回くり返すことにより過剰なカルシウムイオンを除去した。
2)e−bFP−aqおよびh−bFP−aqの調製
gFP−aqの代りにe−gFP−aqおよびh−gFP−aqを用いて同様にe−bFP−aqおよびh−bFP−aqを調製した。
<実施例5> 分光学的測定:吸収/蛍光/発光スペクトルの測定および蛍光量子収率の測定
1)吸収スペクトルの測定
吸収スペクトルは、既知濃度の実施例2で調整したbFP−aq、e−bFP−aqおよびh−bFP−aqおよび実施例3で調製したgFP−aq、e−gFP−aqおよびh−gFP−aqを光路長10mmの石英セルに移し、スペクトロフォトメーター(日本分光社製;V−560型)を用いて測定を行った。測定条件は、バンドパス 1.0nm、レスポンス medium、スキャンスピード 200nm/min、22〜25℃である。
2)蛍光スペクトルの測定
蛍光スペクトルは、既知濃度の各物質を光路長10mmの無蛍光石英セルに移し、蛍光測定装置(日本分光社製、FP−777W)で測定した。測定条件は、バンドパス:1.5nm、レスポンス:0.5sec、スキャンスピード:60nm/min、22〜25℃である。蛍光スペクトルの補正は、蛍光測定装置の使用法に従っておこなった。蛍光量子収率は、0.1M硫酸中のキニン硫酸(和光純薬)を標品として、bFP−aq、gFP−aqおよびh−bFP−aq、h−gFP−aqの場合は335nm励起時の、e−bFP−aq、e−gFP−aqの場合は350nm励起時の蛍光収率を0.55として算出した。
3)発光スペクトルの測定
bFP−aq、e−bFP−aqおよびh−bFP−aqの発光スペクトルは、実施例2に記載の調製過程で発生する発光を測定した。ここでは、蛍光測定装置(日本分光社製、FP−777W)の励起光源であるキセノンランプを消灯し、連続発光を測定した。測定条件は、バンドパス:10nm、レスポンス:0.5sec、スキャンスピード:100nm/min、22〜25℃である。その結果を、表2に示した。

<実施例6> bFP−aqおよびgFP−aqの蛍光発色団の確認
実施例2で調製したbFP−aqおよび実施例3で調製したgFP−aqに含まれる蛍光の発色団の確認は、それぞれの蛋白質複合体から発色団を有する化合物をメタノールで抽出し、TLC、UV、質量分析等で行った。すなわち、蛋白質複合体溶液(0.26mg/0.1ml)に0.9mlのメタノールを加え、95℃で3分間加熱し、冷却後、遠心分離(12000×g、5分)により、メタノール抽出物を得て、分析に供した。
標準サンプルとして、化学合成したセレンレラミド標品およびセレンテラミン標品を用い、TLC法により、メタノール抽出物中に、セレンレラミドの存在を確認した。TLCゲルは、シリカゲル60F−254(メルク社製)を用い、展開溶媒はエチルアセテート:クロロホルム(2:1)を用いた。UVランプ下での、セレンレラミドのRf値は0.5、セレンテラミンのRf値は0.6であった。メタノール抽出物に含まれる発色団は、そのRf値からセレンテラミドであることが確認された。また、吸収スペクトルの吸収極大波長は、278nm、294nm、333nmであり、蛍光スペクトルの吸収極大波長は、335nmでの励起では、428nmであった。これは、合成標品であるセレンレラミドと一致した。さらに、ESI−TOF質量分析を行い、m/z=412.36(セレンテラミドの計算値[M+H]=412.45)の測定値を得た。以上の結果から、bFP−aqおよびgFP−aqに含まれる蛍光の発色団は、セレンテラジンの酸化物であるセレンテラミドであることが確認された。
このことから、セレンテラミドの335nmにおける分子吸光係数16.0×10−1cm−1を用いて、bFP−aqおよびgFP−aqに対するセレンテラミドの分子数の割合を計算したところ、アポイクオリン蛋白質の一分子にセレンテラミド一分子がほぼ1:1の比で、非共有結合型で存在するので、アポイクオリン蛋白質の95%以上に、セレンテラミドが存在することが明らかになった。
<実施例7> bFP−aqおよびgFP−aqの質量分析
実施例2で調製したbFP−aqおよび実施例3で調製したgFP−aqの質量分析を、Matrix assisted laser desorption time−of−flight mass spectrometory(MALDI−TOF−MS)法で、Voyager DE Pro mass spectometer(PerSeptive Biosystem社)により行った。分子量のスタンダードとして、アンジオテンシンI(m/z 1296.69)、インシュリン(m/z 5734.59)、アポミオグロビン(m/z 16952.60)、アポイクオリン(m/z 2163.20)を用いた。マトリックスはシナピン酸(アルドリッチ社製)を用いた。測定の結果、分子量21632±5の測定値を得たことより、アポイクオリンには、特別な修飾、例えば脱炭酸や脱水、は蛍光蛋白調製過程では起きていない事が確認された。
<実施例8> 蛍光スペクトルの測定
実施例2で調製したbFP−aqおよび実施例3で調製したgFP−aqの蛍光スペクトルを図1に示した。図1中、実線がbFP−aqのものであり、点線がgFP−aqのものである。
この蛍光スペクトル変化は可逆的であり、蛍光スペクトルの差スペクトルを利用すれば、カルシウムイオンの定性、定量が可能となる。すなわち、gFP−aqに様々な既知の濃度のカルシウムを添加することにより任意の波長での蛍光強度の標準曲線(カルシウム濃度に対する蛍光強度のプロット)を作製し、カルシウム濃度が未知の検体での測定値を標準曲線と対比してその濃度を測定できる。
<実施例9> bFP−aqの蛍光強度の温度依存性
実施例2で調製したbFP−aqの蛍光発生強度の温度依存性を測定した。サンプル(蛋白質濃度0.025mg/ml)を4℃、25℃、37℃、40℃、45℃、50℃、55℃、65℃の各温度で10分間保温後、335nmでの励起による蛍光発生強度を測定した。4℃における蛍光発生強度を基準として、25℃、37℃、40℃での蛍光発生強度の相対%値は、100であった。45℃では10であり、50℃以上では0であった。測定直後に、氷冷して10分間以上放置し、それぞれ蛍光発生強度を再測定した。その結果、蛍光強度はすべてもとの強度に回復した。
なお、蛍光強度が4℃の時の半分になる温度は43℃であると算出された。40℃以下においては、bFP−aqは熱安定性を示し、蛍光発生強度の現象は観察されなかった。また、40℃を超える温度での加熱によってbFP−aqの蛍光発生能は低下したり、失われたりする。しかし、上記のように、一旦低下または失われた蛍光発生能が冷却することで回復することが確認された。すなわち、本発明のbFP−aqは、高温での蛍光発生能の低下に対し、低温に戻すことにより蛍光発生能回復性を示すことが明らかになった。
<実施例10> bFP−aqの発光能回復性
実施例2で調製したbFP−aqおよび実施例3で調製したgFP−aqの熱安定性を比較した。それぞれ、蛋白質濃度0.26mg/mlのbFP−aqおよびgFP−aqを含む溶液を、90℃で3分間加熱し、24℃に放置後、それぞれの蛍光発生強度を蛍光測定装置で測定した。
bFP−aqは、20分以内に93.0%まで蛍光発生能が回復したが、gFP−aqは、20分以内に31.3%までしか蛍光発生能が回復しなかった。一方、公知のカルシウム結合型発光蛋白質であるイクオリンのカルシウムイオンの添加による発光能は、該熱処理で完全に失われる。したがって、本発明のbFP−aqは、公知のカルシウム結合型発光蛋白質と比較して、熱に対する可逆性が非常に高いことが明らかとなった。bFP−aqの測定結果を図2に示した。
<実施例11> bFP−aqおよびgFP−aqの保存法
実施例2で調製したbFP−aqおよび実施例3で調製したgFP−aqの溶液を、4℃および−80℃で保存し、実施例5の方法により、それぞれの蛍光発生強度からその蛍光発生能を測定した。その結果を表3に示した。両者とも蛍光発生能の95%は6ヶ月以上安定に保持され、安定化剤等不要で保存が可能であることが明らかとなった。

<実施例12> gFP−aqからイクオリン(AQ)の調製法
実施例3で調製したgFP−aqの溶液に、発光基質セレンテラジンを加えることにより、発光能を持つイクオリン(AQ)を調製することができた。具体的には、0.02mgのgFP−aqおよび2mMのEDTAを含む0.1mlの50mM Tris−HCl(pH7.6)に、メタノールに溶解した発光基質セレンテラジン0.002mgを、4℃、25℃、37℃において加えた。生成物(イクオリン)のカルシウムイオン添加による化学発光活性をインキュベーション時間を変えて測定した。同時に、還元剤である1mMジチオスレイトール(DTT)の添加の効果も検討した。イクオリンの化学発光活性は、0.1mlの50mM CaClを添加することにより、瞬間発光の極大値(Imax)として表した。その結果を図3に示した。
4℃、25℃においては、還元剤である1mM DTTの添加なしに、効率良くgFP−aqからイクオリン(AQ)に変換できた。その変換収率は90%以上であった。25℃での生成時間は、4℃の時より短かった。また、37℃では、還元剤である1mM DTTの添加により、約80%の変換が可能であった。
従来から行われている、イクオリンをカルシウムで発光させた後、還元剤とセレンテラジンを用いてイクオリンを再生する場合は、4℃がもっとも効率がよく、通常37℃においてはほとんど再生できない。しかし、この方法によれば、還元剤を添加すれば37℃でもイクオリンの調製が可能であることが示された。同様に、セレンテラジンの代わりに基質類縁化合物であるe−セレンテラジンを用いた場合でも、カルシウム添加による化学発光活性を有するe−イクオリンが調製できた。
<実施例13> 還元剤添加によるbFP−aqの熱安定性の改善
実施例2で調製したbFP−aq(0.25μg)を5mMのジチオスレイトール(DTT)を含む100μlの50mM Tris−HCl(pH7.6)に溶解し、90℃で3分間保温し、直ちに氷水で冷却した。冷却されたサンプルにメタノールに溶解したセレンテラジン1μg/μlを添加し、その発光をルミノメーター(アト−社製 AB−2200)で1分間測定し、最大発光強度(Imax)の相対値として示した。その結果を表4にまとめた。明らかに、熱処理時にDTTが存在することにより、化学発光活性(ルシフェラーゼ様作用)の熱安定性が改善される。

<実施例14> 還元剤添加によるbFP−aqの化学発光活性の安定化
実施例2で調製されたbFP−aq(0.25μg)を5mMのジチオスレイトール(DTT)を含むもしくは含まない100μlの50mM Tris−HCl(pH7.6)に溶解し、それぞれにセレンテラジン1μg/μlを添加し、その化学発光をルミノメーター(アト−社製 AB−2200)で測定した。
その結果を表5にまとめた。3分から60分間の反応において、それぞれの発光強度をモニターすると、DTT無添加の場合の発光強度は、15分以降に急激に低下する。一方、DTT添加の場合には、顕著な発光強度の低下は著しく抑制される。このように、還元剤の添加による化学発光活性の低下抑制効果が明らかとなった。

<実施例15> bFP−aqの発光反応速度の決定
5mMのジチオスレイトール(DTT)含む100μlの50mM Tris−HCl(pH7.6)に、セレンテラジンの最終濃度を2.36μMから23.6μMの間になるように溶解した。実施例2で調製したbFP−aq(0.25μg)を添加し、1分間での発光の初速をもちいて、ラインウエバーバーグプロット法で、最大反応速度(Vmax)を1.32×10rlu/min/mg蛋白、Km値を13.3μMと決定した。このように、bFP−aqは、一般的な酵素の触媒能を示すことが確認された。
<実施例16> 化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP−aq、e−bFP−aqおよびh−bFP−aq)の基質特異性
実施例2で調製したbFP−aq、e−bFP−aqおよびh−bFP−aq(0.25μg)のそれぞれを5mMのジチオスレイトール(DTT)を含む100μlの50mM Tris−HCl(pH7.6)に溶解し、それぞれにセレンテラジンおよびその類縁化合物1μg/μlを添加し、定常反応状態(10分後)におけるその化学発光をルミノメーター(アト−社製 AB−2200)で測定した。セレンテラジン基質類縁化合物であるh−セレンテラジンがセレンテラジンよりも良い発光基質になることが判明した。その結果を表6に示す。

<実施例17> セレンテラジン類縁化合物による各種bFPから各種AQの調製法
bFP−aqからAQを調製する場合、実施例4に記載のgFP−aqを調製したのち基質セレンテラジンを添加することで調製することができる。しかし、簡易なAQ調製方法として、bFP−aq溶液に対し、キレート剤(EDTA)添加によるカルシウムの脱離と同時にセレンテラジン添加による基質付加により、gFP−aqを調製せずに、bFP−aqから直接AQを調製することが可能である。
具体的には、全量を100マイクロリットルとして、10μg bFP、10mM EDTA、1mM DTTを含む50mM Tris−HCl(pH7.5)溶液に、それぞれメタノールで溶解したCTZ、h−CTZ、e−CTZ(1μg/μl)を添加し、20℃で放置した。24時間後、0.1μg相当量の蛋白質に、0.1ml 50mM CaClを添加し、化学発光活性(Imax)をラボサイエンス社製のルミノメーターTD4000で測定した。bFP−aqとCTZの組合わせにおけるAQの生成効率を100%として他の組み合わせにおけるAQ、h−AQ、e−AQの生成効率を表し、その結果を表7に示した。
明らかに、bFP−aqからセレンテラジン類縁化合物を交換することにより、AQだけでなくe−AQ、h−AQを直接調製することができた。これは、実施例1に示すアポイクオリンとセレンテラジン類縁化合物から調製する半合成イクオリンe−AQ、h−AQの調製法とは異なる新しい調製法である。一方、e−bFP及びh−bFPを出発材料として、同様な方法で、e−AQ、h−AQ以外の各種AQを調製した。

セレンテラミドまたはその類縁化合物として好ましい化合物を以下に記述する。































































































































































































































































































































































【産業上の利用可能性】
本発明の化学発光活性を有する蛍光蛋白質は、触媒として発光基質を酸化させて発光する化学発光活性とともに、蛍光発生能を有する。例えば、アミューズメントの分野における発光体や生物学的な実験におけるマーカーとして利用することができる。化学発光と蛍光の一方または双方をマーカーとして利用することにより、広い分野での応用が期待できる。
本発明のカルシウム等を含まない蛍光物質(gFP)は、セレンテラジンと反応することによって即時にカルシウム結合型発光蛋白質に変換することができる。生物学的な実験において、カルシウムによる瞬間発光と蛍光の一方または双方を検出することにより、マーカーとして広い分野で応用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項2】
蛍光発光の際に放射する蛍光の蛍光スペクトルが、化学発光の際に放射する光の発光スペクトルと同じである請求の範囲1に記載の化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項3】
化学発光活性を有する蛍光蛋白質に発光基質を加える発光方法。
【請求項4】
対象物質を検出する検出方法であって、
該対象物質のリガンドを結合させた化学発光活性を有する蛍光蛋白質を、該リガンドを介して該対象物に結合させ、
発光基質を添加して前記蛍光蛋白質によって発光させ、
放射された光を検出することを特徴とする検出方法。
【請求項5】
検出されるべき対象物質のリガンドを結合させた化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項6】
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、及びカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンからなる化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項7】
前記アポ蛋白質と前記セレンテラミドまたはその類縁化合物の複合体中の分子数の比が1:1であり、前記アポ蛋白質と前記カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価または3価のイオンの複合体中の分子数の比が1:1〜4であることを特徴とする請求の範囲6に記載の化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項8】
前記アポ蛋白質が、アポイクオリン、アポクライチン、アポオベリン、アポマイトロコミン、アポミネオプシンおよびアポベルボインからなる群から選ばれる1種である請求の範囲6に記載の化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項9】
前記アポ蛋白質が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するアポイクオリンまたは配列番号1で表される配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異体アポイクオリンである、請求の範囲6に記載の化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項10】
前記アポ蛋白質が、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するアポオベリンまたは配列番号2で表される配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異体アポオベリンである、請求の範囲6に記載の化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項11】
前記アポ蛋白質が、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するアポクライチンまたは配列番号3で表される配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異体アポクライチンである、請求の範囲6に記載の化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項12】
前記アポ蛋白質が、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するアポマイトロコミンまたは配列番号4で表される配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異体アポマイトロコミンである、請求の範囲6に記載の化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項13】
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、及びカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンからなる化学発光活性を有する蛍光蛋白質の変異体であって、
前記蛍光蛋白質の前記アポ蛋白質の有する、S−S結合を生じると化学発光活性を失う少なくとも二つの遊離のSH基のうちの少なくとも一つが欠失または置換され、S−S結合を生じることができなくなった変異アポ蛋白質を有する変異体。
【請求項14】
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、及びカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンからなる化学発光活性を有する蛍光蛋白質であって、
前記セレンテラミドまたはその類縁化合物が下記式(1)または式(2)で表されることを特徴とする蛍光蛋白質。

(式中、
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、または脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、置換または非置換のアリールアルケニル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルケニル基、複素環式基であり、
は、水素原子、置換または非置換のアルキル基であり、
は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基またはアミノ基であり、
は、水素原子または水酸基であり、
Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。)
【請求項15】
前記式(1)または前記式(2)において、
が非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基またはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、またはシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、
が非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、硫黄を含む複素環式基であり、
は、水素原子、メチル基または2−ヒドロキシエチル基であり、
は、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基またはアミノ基であり、
Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基またはビニレン基である、請求の範囲14に記載の化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項16】
前記式(1)または前記式(2)において、
がフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基または2−メチルプロピル基であり、
がフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロペニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基またはチオフェン−2−イル基である、請求の範囲14に記載の化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)。
【請求項17】
前記カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンがカルシウムイオン、ストロンチウムイオン、及び鉛イオンから成る群から選択される一つであることを特徴とする請求の範囲6に記載の化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項18】
対象物質を検出する検出方法であって、
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、及びカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンからなり化学発光活性を有する蛍光蛋白質に前記対象物質のリガンドを結合させ、前記リガンドを介して検出されるべき対象物質に前記蛍光蛋白質を結合させ、セレンテラジンまたはその類縁化合物を加えて発光させ、放射された光を検出することを特徴とする検出方法。
【請求項19】
検出されるべき対象物質のリガンドを結合させた化学発光活性を有する蛍光蛋白質であって、
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、及びカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンからなることを特徴とする化学発光活性を有する蛍光蛋白質。
【請求項20】
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、及びカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンからなり、化学発光活性を有する蛍光蛋白質の熱安定性改善方法であって、
前記蛍光蛋白質を溶解した溶液中に還元剤を添加することを特徴とする熱安定性改善方法。
【請求項21】
前記還元剤がジチオスレイトールまたはメルカプトエタノールであることを特徴とする請求の範囲20に記載の熱安定性改善方法。
【請求項22】
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、及びカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンからなる蛍光蛋白質に、セレンテラジンまたはその類縁化合物を反応させることを特徴とする化学発光方法。
【請求項23】
還元剤の存在下においてセレンテラジンまたはその類縁化合物を反応させることを特徴とする請求の範囲22に記載の化学発光方法。
【請求項24】
前記セレンテラジンまたはその類縁化合物が下記式(3)または式(4)で表される請求の範囲22に記載の化学発光方法。

(式中、
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、または脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、置換または非置換のアリールアルケニル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルケニル基、複素環式基であり、
は、水素原子、置換または非置換のアルキル基であり、
は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基またはアミノ基であり、
は、水素原子または水酸基であり、
Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。)
【請求項25】
前記式(3)または前記式(4)において、
が非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基またはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、またはシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、
が非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、硫黄を含む複素環式基であり、
は、水素原子、メチル基または2−ヒドロキシエチル基であり、
は、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基またはアミノ基であり、
Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基またはビニレン基である、請求の範囲24に記載の化学発光方法。
【請求項26】
前記式(3)または前記式(4)において、
がフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基または2−メチルプロピル基であり、
がフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロペニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基またはチオフェン−2−イル基である、請求の範囲24に記載の化学発光方法。
【請求項27】
請求の範囲6に記載の化学発光活性を有する蛍光蛋白質とセレンテラジンまたはその類縁化合物を含む発光キット。
【請求項28】
さらに還元剤を含む請求の範囲27に記載の発光キット。
【請求項29】
アポ蛋白質及びセレンテラジンまたはその類縁化合物からなるカルシウム結合型発光蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの溶液とを反応させる工程を含む化学発光活性を有する蛍光蛋白質の製造方法であって、
前記反応によってセレンテラジンまたはその類縁化合物から生成するセレンテラミドまたはその類縁化合物が前記アポ蛋白質内に配位したまま残存するように反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項30】
アポ蛋白質及びセレンテラジンまたはその類縁化合物からなるカルシウム結合型発光蛋白質とカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの溶液とを反応させる工程を含む化学発光活性を有する蛍光蛋白質の製造方法であって、
前記アポ蛋白質が新たなS−S結合を生成しないように反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項31】
前記カルシウム結合型発光蛋白質と、10−7M以下の濃度のカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの溶液を反応させることを特徴とする請求の範囲29に記載の製造方法。
【請求項32】
化学発光活性を有する蛍光蛋白質の製造方法であって、
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物からなる蛍光蛋白質にカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンを反応させる、化学発光活性を有する蛍光蛋白質の製造方法。
【請求項33】
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物からなる蛍光蛋白質。
【請求項34】
前記アポ蛋白質と前記セレンテラミドまたはその類縁化合物を、複合体中に同数の分子数含むことを特徴とする請求の範囲33に記載の蛍光蛋白質。
【請求項35】
前記アポ蛋白質が、アポイクオリン、アポクライチン、アポオベリン、アポマイトロコミン、アポミネオプシンおよびアポベルボインからなる群から選ばれる1種である請求の範囲33に記載の蛍光蛋白質。
【請求項36】
前記アポ蛋白質が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するアポイクオリンまたは配列番号1で表される配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異体アポイクオリンである、請求の範囲33に記載の蛍光蛋白質。
【請求項37】
前記アポ蛋白質が、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するアポオベリンまたは配列番号2で表される配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異体アポオベリンである、請求の範囲33に記載の蛍光蛋白質。
【請求項38】
前記アポ蛋白質が、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するアポクライチンまたは配列番号3で表される配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異体アポクライチンである、請求の範囲33に記載の蛍光蛋白質。
【請求項39】
前記アポ蛋白質が、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するアポマイトロコミンまたは配列番号4で表される配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された変異体アポマイトロコミンである、請求の範囲33に記載の蛍光蛋白質。
【請求項40】
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物からなる蛍光蛋白質の変異体であって、
前記蛍光蛋白質の前記アポ蛋白質の有する、S−S結合を生じると化学発光活性を失う少なくとも二つの遊離のSH基のうちの少なくとも一つが欠失または置換され、S−S結合を生じることができなくなった変異アポ蛋白質を有する変異体。
【請求項41】
前記セレンテラミドまたはその類縁化合物が下記式(1)または式(2)で表される請求の範囲33に記載の蛍光蛋白質。

(式中、
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、または脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、置換または非置換のアリールアルケニル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルケニル基、複素環式基であり、
は、水素原子、置換または非置換のアルキル基であり、
は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基またはアミノ基であり、
は、水素原子または水酸基であり、
Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。)
【請求項42】
前記式(1)または前記式(2)において、
が非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基またはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、またはシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、
が非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、硫黄を含む複素環式基であり、
は、水素原子、メチル基または2−ヒドロキシエチル基であり、
は、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基またはアミノ基であり、
Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基またはビニレン基である、請求の範囲41に記載の蛍光蛋白質。
【請求項43】
前記式(1)または前記式(2)において、
がフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基または2−メチルプロピル基であり、
がフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロペニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基またはチオフェン−2−イル基である、請求の範囲41に記載の蛍光蛋白質。
【請求項44】
検出されるべき対象物質のリガンドを結合させた請求の範囲33に記載の蛍光蛋白質。
【請求項45】
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物からなる蛍光蛋白質を用いるカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能なイオンの検出方法。
【請求項46】
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物からなる蛍光蛋白質を用いるカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能なイオンの定量方法。
【請求項47】
アポ蛋白質とセレンテラジンまたはその類縁化合物からなるカルシウム結合型発光蛋白質の製造方法であって、
前記アポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物からなる蛍光蛋白質に前記セレンテラジンまたはその類縁化合物を反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項48】
前記セレンテラジンまたはその類縁化合物が下記式(3)または式(4)で表されることを特徴とする請求の範囲47に記載のカルシウム結合型発光蛋白質の製造方法。

(式中、
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、または脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、
は、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアリールアルキル基、置換または非置換のアリールアルケニル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルケニル基、複素環式基であり、
は、水素原子、置換または非置換のアルキル基であり、
は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基またはアミノ基であり、
は、水素原子または水酸基であり、
Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。)
【請求項49】
前記式(3)または前記式(4)において、
が非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基またはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、またはシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、
が非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖または分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、硫黄を含む複素環式基であり、
は、水素原子、メチル基または2−ヒドロキシエチル基であり、
は、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基またはアミノ基であり、
Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基またはビニレン基である、請求の範囲48に記載のカルシウム結合型発光蛋白質の製造方法。
【請求項50】
前記式(3)または前記式(4)において、
がフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基または2−メチルプロピル基であり、
がフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロペニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基またはチオフェン−2−イル基である、請求の範囲48に記載のカルシウム結合型発光蛋白質の製造方法。
【請求項51】
還元剤の存在下で蛍光蛋白質にセレンテラジンまたはその類縁化合物を反応させることを特徴とする請求の範囲47に記載のカルシウム結合型発光蛋白質の製造方法。
【請求項52】
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物からなる蛍光蛋白質及びセレンテラジンまたはその類縁化合物を含むカルシウム結合型発光蛋白質製造用キット。
【請求項53】
さらに還元剤を含むことを特徴とする請求の範囲52に記載のカルシウム結合型発光蛋白質製造用キット。
【請求項54】
対象物質を検出する検出方法であって、
前記対象物質のリガンドを結合させた、カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物からなる蛍光蛋白質を、前記リガンドを介して前記対象物質に結合させ、セレンテラジンまたはその類縁化合物を加え、ついでカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンを加えて発光させることを特徴とする検出方法。
【請求項55】
カルシウム結合型発光蛋白質の構成要素であるアポ蛋白質とセレンテラミドまたはその類縁化合物からなる蛍光蛋白質の製造方法であって、
前記アポ蛋白質、前記セレンテラミドまたはその類縁化合物、及びカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンからなる化学発光活性を有する蛍光蛋白質に、キレート剤を添加して前記カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンを除去することを特徴とする製造方法。
【請求項56】
アポ蛋白質とセレンテラジンまたはその類縁化合物からなるカルシウム結合型発光蛋白質の製造方法であって、
前記アポ蛋白質、セレンテラミドまたはその類縁化合物、及びカルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンからなる蛍光蛋白質に、前記カルシウムイオンまたはカルシウムイオンと置換可能な2価または3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下において、前記セレンテラジンまたはその類縁化合物を反応させることを特徴とする製造方法。

【国際公開番号】WO2005/014633
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513049(P2005−513049)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011870
【国際出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】