説明

蛍光表示管の色変換用カラーフィルム、および、その製造方法

【課題】容易かつ安価に所望する色調に調整することができ、表示された文字等の輪郭が不明瞭になったり、文字等の周囲がぼやけた状態になったりしない実用性の高い蛍光表示管の色変換用カラーフィルムを提供する。
【解決手段】平均粒径0.481μmの牡丹色顔料5重量%、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合・アクリル系樹脂25重量%、シクロヘキサノン40重量%、芳香族炭化水素系溶剤5重量%、ケトン系溶剤15重量%、多価アルコール系溶剤5重量%、補助剤5重量%を混合することによって、実施例1の光透過性のインキを調製した。そして、調整されたインキを、厚さ0.3mmのポリカーボネートフィルムにスクリーン印刷した後、80℃で30分乾燥を行い、フィルム上に、3μmの光透過性着色印刷層を積層することによって、色変換用のカラーフィルムを得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光表示管の色変換フィルタとして用いることが可能なカラーフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオ・ビデオ製品等の電化製品や自動車のフロントパネルの表示部分等には、蛍光体による発光を利用した蛍光表示管が多く使用される。かかる蛍光表示管による表示部分を所望する色で発光させるには、蛍光体の色調の調整が必要であるが、輝度、耐久性、量産性等を考慮すると、蛍光体自体の色調の調整には技術的限界がある。それゆえ、表示部分を所望する色で発光させるために、蛍光表示管の合成樹脂やガラス製のカバー部材を着色する方法や、着色したアクリル板からなる色変換フィルタを蛍光表示管の前方に設置する方法が採用される。また、特許文献1の如く、ロールコーティングにより大量に生産されるポリエステル等の着色フィルムを蛍光表示管の前方に設置する方法が採用されることもある。さらに、スクリーン印刷によって蛍光表示管の合成樹脂製のカバー材上に着色印刷層を積層する方法が採用されることもある。
【0003】
【特許文献1】特開平7−104121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、合成樹脂やガラス製のカバー部材を着色する方法は、非常に多くの顔料(通常数kgオーダー)を利用して合成樹脂やガラスを着色する必要がある上、顔料を合成樹脂やガラス中に均一に分散させるために加熱混錬が必要である。加えて、所望の色調を得るまで何度も調色を繰り返さなければならないため、非常に多くの時間と費用がかかる。また、引用文献1の如き、大量生産される着色フィルムを用いる方法は、着色フィルムの色の変更が容易にできないため、所望する色調とするためには複数枚の着色フィルムを重ねて使用する必要があり、結果的にコスト高を招来してしまう。さらに、蛍光表示管の合成樹脂製のカバー材にスクリーン印刷によって着色印刷層を設ける方法は、顔料の調製を誤ると、蛍光表示管に付された文字等の輪郭が不明瞭になったり、文字等の周囲がぼやけた状態になったりしてしまう。
【0005】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解消し、容易かつ安価に所望する色調に調整することができ、蛍光表示管の前方に設置した場合に、表示された文字等の輪郭が不明瞭になったり、文字等の周囲がぼやけた状態になったりしない実用性の高い蛍光表示管の色変換用カラーフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の内、請求項1に記載された発明の構成は、合成樹脂製フィルム上に着色印刷層を積層してなる蛍光表示管の色変換用カラーフィルムであって、前記着色印刷層に充填された顔料の平均粒径が、0.1μm以上0.8μm未満であることにある。
【0007】
請求項2に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、合成樹脂製フィルムが、ポリカーボネートフィルムであることにある。
【0008】
請求項3に記載された発明の構成は、請求項1、または請求項2に記載された発明において、着色印刷層の厚みが0.5μm以上10μm未満であることにある。
【0009】
請求項4に記載された発明の構成は、合成樹脂製フィルム上に着色印刷層を積層してなる蛍光表示管の色変換用カラーフィルムの製造方法であって、溶剤で合成樹脂を溶解させたビヒクル中に平均粒径が0.1μm以上0.8μm未満に調製された顔料を分散させることによって得られた光透過性のインキを、合成樹脂製フィルム上にスクリーン印刷することにより、合成樹脂製フィルム上に着色印刷層を積層することにある。
【0010】
本発明の色変換用カラーフィルムに用いられる顔料の平均粒径は、0.1μm以上0.8μm未満であることが必要である。すなわち、本発明の色変換用カラーフィルムは、着色印刷層中に充填された顔料の粒径が可視光線の波長領域である0.8μm(800nm)未満であるので、文字、記号等を付して蛍光表示管の前方に設置した場合に、文字等の輪郭が不明瞭になったり、文字等の周囲がぼやけた状態になったりしない。顔料の平均粒径は、0.8μm未満に調整されていれば良く、平均粒径が小さくても特に問題は生じないが、0.1μm未満に調整することは技術的に困難である。なお、顔料の平均粒径は、0.5μm未満であるとより好ましい。
【0011】
また、着色印刷層を積層する合成樹脂製フィルムとしては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、および、それらの樹脂の変性物、あるいは、それらの樹脂や変性物を混合した混合樹脂等からなるフィルムを好適に用いることができる。なお、合成樹脂製フィルムとしてポリカーボネートフィルムを用いた場合には、色変換用カラーフィルムの透明性が高いものとなる上、色変換用カラーフィルムの強度が高くなるので好ましい。
【0012】
さらに、合成樹脂製フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、0.05〜1.0mmの厚みであると、着色印刷層を積層する際の加工性が良好なものとなる上、積層後の打抜加工時の加工性が良好なものとなるので好ましい。
【0013】
一方、本発明において、着色印刷層を合成樹脂製フィルム上に積層する方法としては、スクリーン印刷法を好適に利用することができる。かかるスクリーン印刷法を用いることによって、多大な費用や手間を要することなく、色変換用カラーフィルムを所望する色調に調整することが可能となる。加えて、着色印刷層の厚みは、特に限定されるものではないが、0.5μm〜10μmであると好ましく、1μm〜7μmであるとより好ましい。着色印刷層の厚みが0.5μmを下回ると、十分な着色性が得られないので好ましくなく、反対に、着色印刷層の厚みが10μmを上回ると、蛍光表示管の前方に設置した場合に文字等の周囲がぼやけたり、着色印刷層の積層時に濃度斑が出易くなるので好ましくない。
【0014】
また、本発明で使用される顔料は、特に限定されないが、有機系有色顔料を好適に用いることができる。具体的には、アゾメチン、アントラキノン、イソインドロン、イソインドリノン、キナクリドン、ジアリールイエロー、ジオキサジン、ジケトピロロピロール、ジスアゾピラゾロン、縮合アゾ、銅フタロシアニン(α型)、銅フタロシアニン(β型)、ナフトールAS、ビスアセト酢酸アリーリド、ペリレン、ベンズイミダゾロン、ボン酸Mn、モノアゾ、モノアゾイエロー、Ni錯体、β−ナフトール等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の色変換用カラーフィルムは、文字、記号等を付して蛍光表示管の前方に設置した場合に、文字等の輪郭が不明瞭になったり、文字等の周囲がぼやけた状態になったりしないので、蛍光表示管の色変換用フィルタとして好適に用いることができる。また、本発明の色変換用カラーフィルムの製造方法によれば、所望する色調の色変換用カラーフィルムを短時間で容易かつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、合成樹脂製フィルムの材質、着色印刷層に充填される顔料の種類、顔料を分散させる溶剤および合成樹脂の種類等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することができる。
【0017】
[実施例1]
・インキの調製
チバ・スペシャル・ケミカルズ社製の牡丹色顔料5重量%、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合・アクリル系樹脂25重量%、シクロヘキサノン40重量%、芳香族炭化水素系溶剤5重量%、ケトン系溶剤15重量%、多価アルコール系溶剤5重量%、補助剤(東洋インキ製造社製)5重量%を混合することによって、実施例1のインキ(透明性の高い光透過性インキ)を調製した。なお、粒度分布計(日機装社製 MICROTRAC HRA MODEL 9320−X100)を用いて、使用した牡丹色顔料の平均粒径を測定したところ、平均粒径は、約0.481μm(90%累積値)であった。
【0018】
・色変換用カラーフィルムの製造
上記した実施例1の光透過性インキを、厚さ0.3mmのポリカーボネートフィルムにスクリーン印刷した後、80℃の雰囲気下で30分の乾燥を行って、フィルム上に、3μmの着色印刷層(光透過性着色印刷層)を形成することにより、実施例1のカラーフィルムを得た。
【0019】
・色変換用カラーフィルムの評価
得られた実施例1のカラーフィルムを、輝度2520cd/m、色度x=0.254、y=0.430(青緑色)である蛍光表示管に、色変換フィルタとして使用した。そして、色彩輝度計(TOPCON製 BM−5A)を用いて、輝度、色度を測定したところ、輝度は、201cd/mであり、色度は、x=0.235、y=0.281(白色)であった。また、実施例1のカラーフィルム(色変換フィルタ)を、文字、記号等を付した蛍光表示管の前方に設置し、目視により観察したところ、文字等の輪郭は明瞭であり、文字等の周囲にぼやけた部分は見られなかった。また、ヘイズメータ(日本電色工業製 NDH−Σ90)を用いて、実施例1のカラーフィルムのヘイズ値を測定したところ、ヘイズ値は、7.2%であった。
【0020】
[実施例2]
・インキの調製
チバ・スペシャル・ケミカルズ社製の黄色顔料5重量%、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合・アクリル系樹脂25重量%、シクロヘキサノン40重量%、芳香族炭化水素系溶剤5重量%、ケトン系溶剤15重量%、多価アルコール系溶剤5重量%、補助剤(東洋インキ製造社製)5重量%を混合することによって、実施例2のインキ(透明性の高い光透過性インキ)を調製した。なお、実施例1と同様な方法により、使用した黄色顔料の平均粒径を測定したところ、平均粒径は、約0.202μm(90%累積値)であった。
【0021】
・色変換用カラーフィルムの製造
実施例1と同様の方法により、厚さ0.3mmのポリカーボネートフィルム上に、3μmの着色印刷層(光透過性着色印刷層)を形成することによって、実施例2のカラーフィルムを得た。
【0022】
・色変換用カラーフィルムの評価
実施例1と同様な方法により、得られた実施例2のカラーフィルムの輝度、色度を測定したところ、輝度は、828cd/mであり、色度は、x=0.299、y=0.551(黄色)であった。また、実施例2のカラーフィルムを、文字、記号等を付した蛍光表示管の前方に設置し、目視により観察したところ、文字等の輪郭は明瞭であり、文字等の周囲にぼやけた部分は見られなかった。また、実施例1と同様の方法により、実施例2のカラーフィルムのヘイズ値を測定したところ、ヘイズ値は、3.0%であった。
【0023】
[比較例1]
・インキの調製
チバ・スペシャル・ケミカルズ社製の牡丹色顔料5重量%、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合・アクリル系樹脂25重量%、シクロヘキサノン40重量%、芳香族炭化水素系溶剤5重量%、ケトン系溶剤15重量%、多価アルコール系溶剤5重量%、補助剤(東洋インキ製造社製)5重量%を混合することによって、比較例1のインキ(低透明性インキ)を調製した。なお、実施例1と同様な方法により、使用した牡丹色顔料の平均粒径を測定したところ、平均粒径は、約0.922μm(90%累積値)であった。
【0024】
・色変換用カラーフィルムの製造
実施例1と同様の方法により、厚さ0.3mmのポリカーボネートフィルム上に、3μmの着色印刷層(低透明性着色印刷層)を形成することによって、比較例1のカラーフィルムを得た。
【0025】
・色変換フィルタ用カラーフィルムの評価
実施例1と同様な方法により、得られた実施例2のカラーフィルムの輝度、色度を測定したところ、輝度は、123cd/m、色度は、x=0.285、y=0.247(白色)であった。また、比較例1のカラーフィルムを、文字、記号等を付した蛍光表示管の前方に設置し、目視により観察したところ、文字等の輪郭が不明瞭であり、文字等の周囲がぼやけた状態であった。また、実施例1と同様の方法により、比較例1のカラーフィルムのヘイズ値を測定したところ、ヘイズ値は、26.6%であった。
【0026】
[比較例2]
・インキの調製
チバ・スペシャル・ケミカルズ社製の黄色顔料5重量%、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合・アクリル系樹脂25重量%、シクロヘキサノン40重量%、芳香族炭化水素系溶剤5重量%、ケトン系溶剤15重量%、多価アルコール系溶剤5重量%、補助剤(東洋インキ製造社製)5重量%を混合することによって、比較例2のインキ(低透明性インキ)を調製した。なお、実施例1と同様な方法により、使用した黄色顔料の平均粒径を測定したところ、平均粒径は、約1.031μm(90%累積値)であった。
【0027】
・色変換用カラーフィルムの製造
実施例1と同様の方法により、厚さ0.3mmのポリカーボネートフィルム上に、3μmの着色印刷層(低透明性着色印刷層)を形成することによって、比較例2のカラーフィルムを得た。
【0028】
・色変換用カラーフィルムの評価
実施例1と同様な方法により、得られた比較例2のカラーフィルムの輝度、色度を測定したところ、輝度は、325cd/m、色度x=0.347、y=0.536(黄色)であった。また、比較例2のカラーフィルムを、文字、記号等を付した蛍光表示管の前方に設置し、目視により観察したところ、文字等の輪郭が不明瞭であり、文字等の周囲がぼやけた状態であった。また、実施例1と同様の方法により、比較例2のカラーフィルムのヘイズ値を測定したところ、ヘイズ値は、59.4%であった。
【0029】
上記したように、インク中の顔料の平均粒径が0.1μm以上0.8未満の範囲に調製された実施例1,2の色変換用カラーフィルムは、ヘイズ値が低く、文字、記号等を付して蛍光表示管の前方に設置した場合に、文字等の輪郭が明瞭であり、文字等の周囲にぼやけた部分等は見られなかった。したがって、実施例1,2の色変換用カラーフィルムは、色変換フィルタとして好適に利用可能であることが分かる。
【0030】
これに対して、インク中の顔料の平均粒径が0.1μm以上0.8未満の範囲に調製されていない比較例1,2のカラーフィルムは、ヘイズ値が高く、文字、記号等を付して蛍光表示管の前方に設置した場合に、文字等の輪郭が不明瞭であり、文字等の周囲がぼやけた状態であった。したがって、比較例1,2の色変換用カラーフィルムは、色変換フィルタとして不適であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の色変換用カラーフィルムは、上記の如く優れた特性を有しているので、蛍光表示管の色変換フィルタとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製フィルム上に着色印刷層を積層してなる蛍光表示管の色変換用カラーフィルムであって、
前記着色印刷層に充填された顔料の平均粒径が、0.1μm以上0.8μm未満であることを特徴とする蛍光表示管の色変換用カラーフィルム。
【請求項2】
合成樹脂製フィルムが、ポリカーボネートフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光表示管の色変換用カラーフィルム。
【請求項3】
着色印刷層の厚みが0.5μm以上10μm未満であることを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の蛍光表示管の色変換用カラーフィルム。
【請求項4】
合成樹脂製フィルム上に着色印刷層を積層してなる蛍光表示管の色変換用カラーフィルムの製造方法であって、
溶剤で合成樹脂を溶解させたビヒクル中に平均粒径が0.1μm以上0.8μm未満に調製された顔料を分散させることによって得られた光透過性のインキを、合成樹脂製フィルム上にスクリーン印刷することにより、合成樹脂製フィルム上に着色印刷層を積層することを特徴とする蛍光表示管の色変換用カラーフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−148153(P2007−148153A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344437(P2005−344437)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000150774)株式会社槌屋 (56)
【出願人】(591017250)帝国インキ製造株式会社 (15)
【Fターム(参考)】