蛍光表示装置
【課題】Cdを含まない赤色蛍光体の30V以上の電圧領域で駆動したときの寿命特性向上が期待できる蛍光表示装置を提供する。
【解決手段】真空容器内に配置され、低速電子を放出するフィラメントカソード10と、低速電子が射突されることにより発光する蛍光体8が被着されたアノード7とを備える蛍光表示装置1であって、カソードから放出される低速電子を制御できる領域に、導電性または半導電性金属酸化物が低速電子照射部位に形成された構造体9を設ける。
【解決手段】真空容器内に配置され、低速電子を放出するフィラメントカソード10と、低速電子が射突されることにより発光する蛍光体8が被着されたアノード7とを備える蛍光表示装置1であって、カソードから放出される低速電子を制御できる領域に、導電性または半導電性金属酸化物が低速電子照射部位に形成された構造体9を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低速電子線用蛍光体を発光源として備える蛍光表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光表示装置に用いられる低速電子線で励起される蛍光体として、ZnOやCa(1-x)SrxTiO3:Pr,M(但し、0≦x≦1、MはAl、Ga、In、Mg、Zn、Li、Na、およびKから選ばれた少なくとも1種の金属)、Ln2O2S:Re(但し、LnはLa、Gd、YおよびLuから選ばれた少なくとも1種の金属、ReはEu、TbまたはSm)等、酸素原子を母体の化学式に含む蛍光体が挙げられる。これら蛍光体はフィラメントカソードから蒸発発生するバリウムにより輝度劣化を引き起こしやすい。
特にCdを含まない酸化物系赤色蛍光体は、30V以上の電圧領域において輝度劣化が激しい。このため、赤色の単色のみならず、他色の蛍光体と組み合わせて混色とした場合であっても、赤色蛍光体の劣化に伴う表示品位の低下が起こり、これら赤色蛍光体を用いた蛍光表示装置の寿命が非常に短いという問題がある。
【0003】
従来、酸化物系赤色蛍光体の寿命特性を改善する方法として以下の方法が提案されている。
(1)アルカリ土類金属と酸化物とからなる母体を備えた蛍光体、例えばSrTiO3:Pr,Al蛍光体の輝度劣化を防止するために、Al、Ti、Si、Ga、Zn、Sn、Bi等の酸化物からなる保護層を蛍光体に形成する(特許文献1)。
(2)TiO2、ZnO2を補助的に非蒸発型のゲッター材として使用することで、真空容器内の残留ガスを効率的に除去することにより蛍光表示装置の寿命特性を改善する(特許文献2)。
(3)真空容器内にZrOx(1≦x≦2)を含むガス吸蔵材を配設して、この真空容器内の真空度を形成維持する(特許文献3)。
【0004】
しかしながら、上記(1)による方法では、蛍光体表面が炭素やバリウム等から保護されるため寿命特性が改善されるが、このような処理を施してもZnCdS系蛍光体に比較すると、蛍光表示装置の寿命は著しく短寿命に留まっていた。更に寿命を延ばすためには、保護膜の付着量を多くする必要があるが、保護膜の付着量を多くすると、輝度が低下する問題がある。
また、上記(2)または(3)による方法は、真空容器内の真空度を向上させる目的でゲッター材が真空容器内に配設され、真空容器内の真空度を上げることで蛍光表示装置の寿命特性や発光特性を改善している。これらゲッター材は製造時に熱処理を施し活性化させるのみで、例えば、TiO2をTiOもしくはTiに変化させ、真空容器内のOやHの吸着を促進させる。
しかしながら、蛍光表示装置駆動時には、熱処理を施こされなく、電子線もゲッターには照射されないので、これらのゲッターが活性化されることがない。このため、駆動中に発生する管内のガスは吸着されることなく、特に蛍光体に有害なバリウムを吸着することはない。その結果、蛍光表示装置の寿命を向上できないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−283709号公報
【特許文献2】特開2000−340140号公報
【特許文献3】特開2005−209594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、蛍光表示装置の駆動中に、電子線が照射される領域に、蛍光体に有害な影響を及ぼすバリウムを吸着する導電性または半導電性の酸化物を設けることで、蛍光体の寿命特性が改善され、特にCdを含まない赤色蛍光体の30V以上の電圧領域で駆動したときの寿命特性向上が期待できる蛍光表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光表示装置は、真空容器内に配置され、低速電子を放出するフィラメントカソードと、上記低速電子が射突されることにより発光する蛍光体が被着されたアノードとを備え、上記カソードから放出される低速電子を制御できる領域に、導電性または半導電性金属酸化物が低速電子照射部位に形成された構造体を設けることを特徴とする。
本発明の蛍光表示装置において、上記構造体が金属メッシュ状グリット、蛍光体周囲に立設されたリブ状グリット、またはフィラメントカソードとアノード間に設けられた構造体であることを特徴とする。
また、上記構造体表面に形成された導電性または半導電性金属酸化物がチタンの酸化物であることを特徴とする。
【0008】
本発明の蛍光表示装置に使用される蛍光体は、少なくとも酸素原子を母体の化学式内に含む蛍光体であることを特徴とする。該蛍光体としては、チタン酸塩を母体とする蛍光体または酸硫化物系からなる蛍光体であることを特徴とする。
特に、上記チタン酸塩を母体とする蛍光体がCa(1−x)SrxTiO3:Pr,Mであり、MがAl、Ga、In、Mg、Zn、Li、Na、およびKから選ばれた少なくとも1種であり、xが0≦x≦1の範囲にあることを特徴とする。
また、上記酸硫化物系からなる蛍光体がLn2O2S:Reであり、LnがLa、Gd、YおよびLuから選ばれた少なくとも1種であり、ReがEu、TbまたはSmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
少なくとも酸素原子を母体の化学式に含み、低速電子線により励起される蛍光体が設置された蛍光表示装置内において、カソードから放出される低速電子を制御できる領域に、導電性または半導電性金属酸化物が低速電子照射部位に形成された構造体を設けることにより、上記蛍光体に悪影響を及ぼすバリウムが上記構造物にトラップされる。その結果、蛍光体の劣化が抑えられ寿命特性が改善される。特に、赤色蛍光体の30V以上の電圧における寿命特性が大きく改善される。
また、上記特許文献2または特許文献3に記載されている真空容器内の真空度を向上させる目的でゲッター材を真空容器内に配設する場合には、別途活性化処理が必要であるのに対し、本願発明では電子線が導電性または半導電性金属酸化物表面に照射されるため、別途活性化処理を行なうことなく、蛍光体の寿命特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】金属メッシュ状グリットを有する蛍光表示装置の斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】構造体の配置例を示す図である。
【図4】構造体の他の配置例を示す図である。
【図5】構造体の拡大断面図である。
【図6】リブ状グリットを有する蛍光表示装置の斜視図である。
【図7】図6のB−B断面図である。
【図8】実施例1の寿命特性を示す図である。
【図9】実施例7の寿命特性を示す図である。
【図10】実施例8の寿命特性を示す図である。
【図11】実施例9の寿命特性を示す図である。
【図12】実施例10の寿命特性を示す図である。
【図13】比較例9の構造体の配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
低速電子線用赤色蛍光体に用いられる酸化物蛍光体(例えば、[CaTiO3:Pr,Zn,Li]、[SrTiO3:Pr,Al]は、駆動電圧が30Vをこえる高電圧領域において寿命特性が悪い。
この理由は、駆動時にフィラメントカソードから蒸発して放出されるバリウムが蛍光体表面に付着することで蛍光体との間に還元反応を引起こし、蛍光体を劣化させてしまうことが原因の一つとされている。
バリウムが蛍光体に付着することを抑えることができれば、蛍光体の寿命特性は改善されると考えられる。例えば、バリウムが蛍光体に付着する前にバリウムを別の箇所でトラップすれば、蛍光体へ到達するバリウム量が減少し、その結果、蛍光体の寿命特性が改善される。活性化された導電性または半導電性金属酸化物がバリウムをトラップすることが見出された。以下導電性または半導電性金属酸化物としてチタンからなる酸化物(TiOx;以下、酸化チタンと略称する)を例にして説明する。
【0012】
酸化チタンに電子線が照射すると、酸化チタンの電子が励起され、電子・正孔が発生し、酸化チタンは活性化される。特に酸化チタンは他の酸化物に比較して、励起した電子と正孔とが再結合するまでの時間が長いため、活性化状態が長く続き、これにより、バリウムとの反応性が高まり、バリウムを吸着するようになる。
上記したように、本発明においては、電子線の照射により酸化チタンが活性化されることが重要である。このため、従来技術のように、ゲッタとして電子線が照射されない領域に酸化チタンを配置するだけでは、バリウムとの反応は起き難く、蛍光体の寿命特性の大幅な改善は期待できない。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0013】
本発明の蛍光表示装置を図を参照して説明する。図1は金属メッシュ状グリットを有する蛍光表示装置の斜視図であり、図2は、そのA−A断面図であり、図3および図4は構造体の配置例を示す図である。
蛍光表示装置1は、ガラス基板2およびフェースガラス3の四辺がスペーサ部材4を用いて封着接合され長手平箱状の気密な真空容器が構成されている。フェースガラス3は透光性のカバー・ガラス板等で、ガラス基板2はガラス、セラミックス、琺瑯などの絶縁体材料等で、スペーサ部材4は枠状に形成されたガラス材料等でそれぞれ形成されている。
【0014】
真空容器内のガラス基板2上には、図1、図2に示すように、配線層5が形成された後、スルーホール7aを除くほぼ全面にわたって絶縁層6が形成され、このスルーホール7aを介して電気的に接続されたアノード7が形成されている。このアノード7上に蛍光体8が被着されている。
真空容器内の蛍光体8上方に低速電子を放出するフィラメントカソード10が設けられ、このフィラメントカソード10から発生した低速電子線が蛍光体8に射突して発光する。なお、図1において、5aは配線パッドからのリードであり、10aはフィラメントアンカーである。
フィラメントカソード10はタングステン極細線上にアルカリ土類金属の炭酸塩(Ba,Sr,Ca)CO3をバインダーとともに塗布し、蛍光表示装置1の組み立て最終段階に、真空中で約1000℃の通電加熱により(Ba,Sr,Ca)Oが形成される。電子放出源はタングステン極細線上で一部が還元され、活性化されたBaOであり、BaOの安定化のためにSrO、CaOが配合されている。このため、蛍光表示装置駆動時にバリウムが飛散しやすくなる。
本発明の蛍光表示装置1は、フィラメントカソード10から放出される低速電子を制御できる領域に、導電性または半導電性金属酸化物が表面に形成された構造体9が設けられている。
構造体9は金属材料から構成され電極として機能して、低速電子を制御する。
【0015】
フィラメントカソード10から放出される低速電子を制御できる領域は、低速電子が照射される領域であり、その低速電子の照射方向、照射量を制御できる領域である。
このような領域としては、フィラメントカソード10とアノード7との間、アノード7の表面等が挙げられる。
好ましい領域は、図2に示すように、グリットとして低速電子を制御できる領域であり、構造体9がグリットとして機能する。
バリウムはフィラメントカソード10から飛散するため、バリウムをトラップする金属酸化物は、グリッド9のように、フィラメントカソード10と蛍光体8の間に形成すると、蛍光体面に到達するバリウム量が抑制できるため好ましい。このため、グリッド9の低速電子照射表面に金属酸化物11を付着させるのが好ましい。
【0016】
また、グリットとして機能する構造体9以外に、この構造体9とフィラメントカソード10との間に構造体9a(図3)、構造体9b(図4)を設けることができる。これらの構造体は、蛍光表示装置の表示品位に大きな影響を与えないメッシュ状、またはフィラメント形状が好ましい。
構造体9aはグリットとして機能する構造体9以外にメッシュ状の電極を新たに設けた例であり、構造体9bはフィラメント状の電極を設けた例である。
【0017】
上記構造体9aまたは9b等を設けることにより、表面に被着している導電性または半導電性金属酸化物に電子線が照射され、活性化することにより、蛍光体に有害なバリウムを吸着して、その結果、蛍光体の寿命特性を改善することができる。
蛍光表示装置の表示品位が低下しない程度に新しく形成した構造体9aまたは9b等のの線径を大きくしたり、形状を螺旋状およびジグザグ状に設置すると、バリウムの吸着面積が向上するため好ましい。
また、構造体9aまたは9bを設ける場合、グリット9の表面には導電性または半導電性金属酸化物を形成しても、または形成しなくともよい。
【0018】
構造体9の拡大断面図を図5に示す。図5において、図面上、上部がフィラメントカソード10側である。
構造体9、9aまたは9bの表面であって、少なくとも低速電子が照射される部位に導電性または半導電性金属酸化物11が形成されている。
金属酸化物11を形成する部位としては構造体の周囲を覆うように形成しても(図5(a)、(c))、あるいはフィラメントカソード10側のみに形成してもよい(図5(b))。金属酸化物11の付着面積を考慮すると、真空中に露出している構造体9の周囲全面を覆うようにして付着形成するのが好ましい。構造体9の周囲全面を覆うようにして付着形成することにより、フィラメントカソードから放出された電子が周囲の壁面等に反射する場合に対処できる。
【0019】
本発明の他の蛍光表示装置を図を参照して説明する。図6は蛍光体周囲に立設されたリブ状グリットを有する蛍光表示装置の斜視図であり、図7はそのB−B断面図である。なお、図1および図2と同一機能を有する部品に対しては同一の記号を付した。
他の蛍光表示装置1'は、ガラス基板2およびフェースガラス3の四辺がスペーサ部材4を用いて封着接合され長手平箱状の気密な真空容器が構成されている。各部品の材料等は図1に示す蛍光表示装置1に用いる材料等と同一である。
真空容器内のガラス基板2上には、配線層5が形成された後、スルーホール7aを除くほぼ全面にわたって絶縁層6が形成され、このスルーホール7aを介して電気的に接続されたアノード7が形成されている。このアノード7上に蛍光体8が被着されている。アノード7および蛍光体8の周囲には蛍光体8表面よりも高く形成されたリブ12が設けられ、このリブの頂部にリブ電極となる構造体9cが形成されている。導電性または半導電性金属酸化物11がリブ電極の上部に付着形成されている。
真空容器内の蛍光体8上方に低速電子を放出するフィラメントカソード10が設けられ、このフィラメントカソード10から発生した低速電子線が蛍光体8に射突して発光する。なお、図6において、5aは配線パッドからのリードであり、10aはフィラメントアンカーである。
【0020】
本発明で使用できる導電性または半導電性金属酸化物は、フィラメントカソードから放出されるバリウムと化合物を形成しやすい金属酸化物が挙げられる。これら金属酸化物を形成する金属としては、チタン、タングステン、モリブデン、錫、インジウム、ニオブ、亜鉛から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。これらの中で、電子線の照射によりチャージアップが起こらない導電性または半導電性金属酸化物が好ましく、特にチタンからなる酸化物が好ましい。
【0021】
構造体上への金属酸化物の形成方法としては、金属酸化物粉末、あるいは熱分解により金属酸化物を形成し得る有機金属化合物または無機化合物をディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法、エアロゾルディポジション法、刷毛塗り法等により、グリッドなどの金属表面に付着させ、乾燥・焼成する方法が挙げられる。特にディッピング法は用いる装置が簡便で手軽に付着できるため好ましい。
有機金属化合物は溶液状またはペースト状を形成しやすいため、無機化合物は水溶液となりやすいため構造体の表面を覆う材料として好適である。有機金属化合物の中でも特にアルコールの水酸基の水素を金属で置換したアルコラート化合物は、溶液となりやすく、構造体をその溶液に浸漬、乾燥、焼成で均一な表面コーティングができるので好ましい。また、溶液の金属成分濃度、あるいは、浸漬、乾燥、焼成を繰り返すことにより、被覆層の膜厚を調整できる。
【0022】
また、スパッタリング、蒸着、CVD等の薄膜形成方法により、金属酸化膜を生成することができる。スパッタリング、蒸着、CVD等は構造体の任意の表面に薄膜を所定の厚さで形成するための好ましい方法である。
【0023】
金属酸化膜の膜厚さは、膜形成方法にもよるが10μm以下で形成するのが好ましい。10μmをこえると酸化膜の付着強度の低下および初期輝度が低下する。
金属酸化膜は、低速電子の照射によるチャージアップを防ぐため導電性または半導電性であるが、酸化物単体としての体積固有抵抗が1×108Ω・cm以下であることが好ましい。
【0024】
本発明で使用できる蛍光体は、蛍光表示装置に使用される低速電子線で励起・発光する蛍光体であり、蛍光体を形成する母体の化学式内に少なくとも酸素原子を含む蛍光体である。酸素原子を含む蛍光体としては、チタン酸塩を母体とする蛍光体、酸硫化物系からなる蛍光体、酸化亜鉛系からなる蛍光体が挙げられる。これらの中で好ましい蛍光体の例としては、チタン酸塩を母体とする蛍光体または酸硫化物系からなる蛍光体が挙げられる。
チタン酸塩を母体とする蛍光体としては、Ca(1−x)SrxTiO3:Pr,Mで表される蛍光体が挙げられる。ここで、MはAl、Ga、In、Mg、Zn、Li、Na、およびKから選ばれた少なくとも1種であり、xは0≦x≦1である。x=0の場合、CaTiO3であり、x=1の場合、SrTiO3である。なお、CaTiO3、または、SrTiO3というときは、特に明示する場合を除く他、Ca/Ti比、またはSr/Ti比が1である化学量論組成のものに限られず、その比が1よりも僅かに大きいあるいは僅かに小さい組成のものも含むものとする。例えば、その比が1.05〜0.95の範囲内のものも含まれる。
好ましい蛍光体を例示すると、CaTiO3:Pr,Zn,Li、SrTiO3:Pr,Al等が挙げられる。
また、酸硫化物系からなる蛍光体としては、Ln2O2S:Reで表される蛍光体が挙げられる。ここで、LnはLa、Gd、YおよびLuから選ばれた少なくとも1種であり、ReはEu、TbまたはSmである。
【0025】
母体の化学式内に少なくとも酸素原子を含む蛍光体は、蛍光体本体の表面に複数の酸化物層を順に積層して付着させることが好ましい。
複数の酸化物層の1つは、Gd、Pr、Y、Zn、Ta、およびSrから選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物(MO1)の層であり、他の1つはSi、Al、Mo、Sb、およびCeから選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物(MO2)の層であり、さらに他の1つはTi、WおよびZrから選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物(MO3)の層である。
酸化物(MO1)の層は、輝度増感層であり、蛍光体本体の初期輝度を向上させる。特に、Gd、Pr、Y、Zn、Ta、またはSrの酸化物がCa(1−x)SrxTiO3:Pr,Mで表される蛍光体の初期輝度を向上させることができる。
特に母体となるチタン酸塩としてCaTiO3を用いたときに、初期輝度を向上させる効果が大きく、また、GdもしくはYの酸化物からなる輝度増感層の効果が大きいことが分かった。
初期輝度向上の理由は明らかではないが、輝度増感層により初期輝度が向上するのは、付着した元素と蛍光体の発光中心であるPrとの間に量子論的な共鳴が生じ、エネルギーが伝達され、増感効果が発生しているためと考えられる。
【実施例】
【0026】
実施例1
バリウムと化合物を形成しやすい酸化物をメッシュ状グリッド電極(以下、メッシュと略称する)表面上に設ける例である。
ビーカーのようなガラス容器に、チタンからなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Ti)を用いて酸化チタン濃度が2重量%となるようにエタノールで希釈した溶液を作製する。なお、エタノール以外にイソプロピルアルコール、テルピネオール等の有機溶剤で希釈することができる。
作製した溶液内にグリッド電極に使用する426合金製メッシュを浸漬させる。浸漬したメッシュを引き上げ、均一に溶液が塗布されるようにブロアーで表面に残る過剰の溶液を吹き飛ばす。その後、乾燥させることで、メッシュにチタンからなる有機金属化合物を付着させる。
チタンからなる有機金属化合物が付着したメッシュは、その後、蛍光表示装置内に周知の方法で実装され、製造工程の熱処理により、メッシュに付着した有機金属化合物は酸化チタンに変化する。これにより、グリッド電極であるメッシュの表面に酸化チタンが形成される。
一方、ガラス基板上にアルミニウム薄膜により配線層を形成し、その上にガラスを主成分とする絶縁層を形成する。絶縁層にはスルーホールを設け、絶縁層上に形成したカーボンを主成分とするアノードと配線層の導通を確保する。
その後、Cdを含まない赤色蛍光体としてコーティング処理をしたCaTiO3:Pr,Zn,Li(以下、CoatedCTOと略称する)をアノード上に形成した。この蛍光体層の上には空間を隔てて上記メッシュを設置して、更にこのメッシュの上に、空間を隔ててフィラメントカソードを設置することで、蛍光表示装置を作製した。なお、蛍光表示装置内への上記メッシュおよび蛍光体の実装は蛍光表示装置の作製に用いられている周知の方法を用いた。
CoatedCTOは、CaTiO3:Pr,Zn,Li蛍光体本体に第1の付着層として輝度増感効果のある酸化ガドリニウムを400ppm、また、第2の付着層として保護効果のある酸化珪素を400ppm付着した蛍光体に、熱処理により酸化タングステンに変化する有機タングステン化合物を付着させる。付着した有機タングステン化合物を400〜600℃の熱処理により酸化タングステンに変え、第3の付着層(保護層)を得る。酸化タングステンの付着量は蛍光体本体に対し1000ppmである。
得られた蛍光表示装置は、アノード電圧50V、デューティー1/60の条件下で駆動し、蛍光体の輝度、および寿命特性を評価した。表1に評価結果を示す。表1において、相対初期輝度は後述する比較例1の初期輝度を基準とした相対初期輝度であり、輝度残存率はそれぞれの初期輝度を100%としたときの1000時間後における輝度残存率である。
【0027】
実施例2〜実施例5
メッシュ表面に以下の有機金属化合物を用いた以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表1に示す。
実施例2:亜鉛からなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Zn)
実施例3:タングステンからなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−W)
実施例4:錫からなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Sn)
実施例5:モリブデンからなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Mo)
【0028】
比較例1
メッシュ表面に酸化物を形成しないことを除き、その他は実施例1と同じ方法で作製した蛍光表示装置を比較例1とする。実施例1と同じ評価をした結果を表1に示す。
【0029】
比較例2
メッシュ表面に酸化物を形成しないこと、および赤色蛍光体としてコーティング処理をしていないCaTiO3:Pr,Zn,Li(以下、CTOと略称する)を用いた以外は実施例1と同じ方法で作製した蛍光表示装置を比較例2とする。実施例1と同じ評価をした結果を表1に示す。
【0030】
比較例3および4
メッシュ表面に以下の有機金属化合物を用いた以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表1に示す。
比較例3:アルミニウムからなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Al)
比較例4:珪素からなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Si)
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示すように、酸化チタンや酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化錫の導電・半導電性酸化物をコーティングしたときは、比較例1とほぼ同等の初期輝度および輝度残存率を得る。特に酸化チタンをコーティングしたときは、初期輝度が同等であるにもかかわらず、1000時間経過後の輝度残存率が比較例1より約14%高く、寿命特性が改善されている。
図8は、比較例1、2および実施例1の初期輝度を100%にしたときの輝度残存率の経時変化を示す図であり、2000時間までの寿命特性比較を示す。比較例2は1000時間で輝度半減、比較例1は2000時間で輝度半減に達するのに対し、実施例1は2000時間でも約70%の輝度残存率を示している。
比較例3、4は酸化物が絶縁性のため、チャージアップが発生した。
以上より、メッシュに付着させる酸化物は、チャージアップを防ぐため、導電性または半導電性であることが好ましい。また、メッシュに付着した酸化物に電子線が照射されたときに発生する電子、ホールの再結合が起こりにくい酸化物がバリウムとの反応性が高まるため好ましい。特に、チタンからなる酸化物を付着させるのが好ましい。
【0033】
実施例6
グリッドにチタンからなる酸化物をスパッタリング法で形成した以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製した。、実施例1と同じ評価をした。
なお、スパッタリングは、酸化チタンターゲット(フルウチ化学株式会社製)を用い、高周波スパッタリングにより行なった。チャンバ内を排気した後、Arガスを導入し、RF電力(周波数13.56MHz)を150W印加することでスパッタリングを行なった。
実施例1と同じ評価をした結果、スパッタリング法で酸化チタンを付着形成しても、ディッピングで付着形成した実施例1と同等の効果が得られた。
【0034】
実施例7
以下、CoatedCTO以外の蛍光体を用いた例を説明する。
赤色蛍光体としてSrTiO3:Pr,Alを使用した以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0035】
比較例5
酸化チタンを付着しない、通常のメッシュを使用した以外は実施例7と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0036】
実施例8
赤色蛍光体としてCa0.8Sr0.2TiO3:Pr,Zn,Liを使用した以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0037】
比較例6
酸化チタンを付着しない、通常のメッシュを使用した以外は実施例8と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0038】
実施例9
オレンジ色蛍光体としてGd2O2S:Euを使用した以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0039】
比較例7
酸化チタンを付着しない、通常のメッシュを使用した以外は実施例9と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0040】
実施例10
青緑蛍光体としてZnO:Znを使用した以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0041】
比較例8
酸化チタンを付着しない、通常のメッシュを使用した以外は実施例10と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示すように、CTO以外のオレンジ〜赤色蛍光体についても、酸化チタンを付着したメッシュを使用することで、初期輝度はほとんど変わらないにもかかわらず、1000時間後の輝度残存率が向上する。
図9に比較例5および実施例7の初期輝度を100%にしたときの輝度残存率の経時変化を示す。
図10に比較例6および実施例8の初期輝度を100%にしたときの輝度残存率の経時変化を示す。
図11に比較例7および実施例9の初期輝度を100%にしたときの輝度残存率の経時変化を示す。
図12に比較例8および実施例10の初期輝度を100%にしたときの輝度残存率の経時変化を示す。
【0044】
酸化チタンを付着したメッシュを用いると、本来赤色蛍光体よりも長寿命であるZnO:Znは通常と同等の寿命特性である。しかし、酸化チタンを付着したメッシュを用いることにより、酸化チタンを付着しない場合に比較して、オレンジ〜赤色蛍光体は輝度残存率が低下せず長寿命化する。この結果、これまでは、赤色蛍光体と緑色蛍光体の寿命特性に差があり、例えば、混色で使用した場合、長時間使用すると、輝度差が大きくなり、表示品位に悪影響を及ぼした。しかしながら、本発明の蛍光表示装置は、赤色蛍光体が長寿命化する結果、長時間使用時の表示品位の低下が抑えられることになる。
【0045】
以下の実施例11〜実施例13は、導電性または半導電性金属酸化物が表面に形成された構造体をメッシュ以外の場所に設け、その構造体に電圧を印加することで低速電子を制御する例である。
【0046】
実施例11
ガラス基板上にアルミニウム薄膜により配線層を形成し、その上にガラスを主成分とする絶縁層を形成する。絶縁層にはスルーホールを設け、絶縁層上に形成したカーボンを主成分とするアノードと配線層の導通を確保する。アノード上にはCoatedCTOからなる蛍光体層を形成した。また、蛍光体の周囲にリブが形成されており、リブ上にはリブ電極が形成されている。さらにリブ電極上部に、チタンからなる酸化物を形成することにより、リブ電極を有する蛍光表示装置が作製される。なお、チタンからなる酸化物は印刷法により形成した。実施例1と同じ評価をした結果、実施例1と同等の効果が得られた。
【0047】
実施例12
メッシュとフィラメントカソードとの間にチタンからなる酸化物が付着したメッシュ状の構造体を設ける以外は実施例1と同じ構造の蛍光表示装置を作製した。蛍光表示装置の断面は図5に示す構造を有する。なお、この構造体は426合金製であり、酸化物は構造体の全表面に付着させた。また、グリッド表面には酸化チタンが形成されていない。実施例1と同じ評価をした結果、実施例1と同等の効果が得られた。
【0048】
実施例13
メッシュ状の構造体に代えて、フィラメント状の構造体とする以外は実施例12と同様に蛍光表示装置を作製した。蛍光表示装置の断面は図6に示す構造を有する。なお、グリッド表面には酸化チタンが形成されていない。実施例1と同じ評価をした結果、実施例1と同等の効果が得られた。
グリッド電極本体以外に構造体を設けた場合、その駆動時の電位関係は、少なくとも電子が持続して照射される電位が印加されていればよく、フィラメントカソード電圧以上の電位が印加されていればよいので、[フィラメントカソード電圧<電極電圧≦グリッド電圧]の関係になる。グリッド電極よりも電圧が高いと表示品位が低下し、フィラメントカソード電圧以下の場合、電子線が照射されないため、酸化チタンが活性化されず蛍光体の寿命特性が向上しない。
【0049】
以下の比較例9および実施例14は、電子線が照射されない領域に酸化チタンを設けた場合と、電子線が照射される領域に酸化チタンを設けた場合とを比較した例である。
【0050】
比較例9
構造体の配置例を図13に示す。ガラス基板2上にアルミニウム薄膜により配線層5を形成し、その上にガラスを主成分とする絶縁層6を形成する。絶縁層6にはスルーホール7aを設け、絶縁層6上に形成したカーボンを主成分とするアノード7と配線層5の導通を確保する。アノード7上にはCTOからなる蛍光体層8を形成した。また、絶縁層6上のアノード7が形成されていない箇所にチタンからなる酸化物11を印刷法により形成した。この箇所にはスルーホール7a、アノード7が形成されていないため、酸化チタンには電圧が印加されず、基本的に電子線が照射されない領域である。一時的に電子線が照射される場合があるが、この場合、チャージアップが発生するため、酸化チタンに継続的に電子線は照射されない。また、カソード10から放出される低速電子を制御できない。
グリッド電極9に使用する426合金製メッシュを蛍光体層8上方に配置して、更にこのメッシュの上に、空間を隔ててフィラメントカソード10を設置することで、蛍光表示装置を作製した。なお、蛍光表示装置内への上記メッシュおよび蛍光体の実装は蛍光表示装置の作製に用いられている周知の方法を用いた。実施例1と同じ評価をした結果を表3に示す。
【0051】
実施例14
表面に酸化チタンが形成された実施例1で用いた426合金製メッシュを使用する以外は、比較例2と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表3に示す。なお、比較例2の結果を同時に示す。また、表3の相対初期輝度は比較例2の初期輝度を基準とした相対初期輝度であり、輝度残存率はそれぞれの初期輝度を100%としたときの1000時間後における輝度残存率である。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示すように、実施例14の輝度残存率が58%であったのに対して、メッシュ上に酸化チタンを設けない比較例2の輝度残存率は50%、電子線の照射されない領域に酸化チタンを設けた比較例9の輝度残存率は49%であった。酸化チタンに電子線が照射されることにより輝度残存率が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の蛍光表示装置は、赤色蛍光体を長寿命化できるので他の色の蛍光体と組み合わせて混色で長時間使用しても表示品位の低下が抑えられることから、Cdを含まない蛍光表示装置に適用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 蛍光表示装置
2 ガラス基板
3 フェースガラス
4 スペーサ部材
5 配線層
6 絶縁層
7 アノード
8 蛍光体
9 構造体
10 フィラメントカソード
11 金属酸化物
12 リブ
【技術分野】
【0001】
本発明は低速電子線用蛍光体を発光源として備える蛍光表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光表示装置に用いられる低速電子線で励起される蛍光体として、ZnOやCa(1-x)SrxTiO3:Pr,M(但し、0≦x≦1、MはAl、Ga、In、Mg、Zn、Li、Na、およびKから選ばれた少なくとも1種の金属)、Ln2O2S:Re(但し、LnはLa、Gd、YおよびLuから選ばれた少なくとも1種の金属、ReはEu、TbまたはSm)等、酸素原子を母体の化学式に含む蛍光体が挙げられる。これら蛍光体はフィラメントカソードから蒸発発生するバリウムにより輝度劣化を引き起こしやすい。
特にCdを含まない酸化物系赤色蛍光体は、30V以上の電圧領域において輝度劣化が激しい。このため、赤色の単色のみならず、他色の蛍光体と組み合わせて混色とした場合であっても、赤色蛍光体の劣化に伴う表示品位の低下が起こり、これら赤色蛍光体を用いた蛍光表示装置の寿命が非常に短いという問題がある。
【0003】
従来、酸化物系赤色蛍光体の寿命特性を改善する方法として以下の方法が提案されている。
(1)アルカリ土類金属と酸化物とからなる母体を備えた蛍光体、例えばSrTiO3:Pr,Al蛍光体の輝度劣化を防止するために、Al、Ti、Si、Ga、Zn、Sn、Bi等の酸化物からなる保護層を蛍光体に形成する(特許文献1)。
(2)TiO2、ZnO2を補助的に非蒸発型のゲッター材として使用することで、真空容器内の残留ガスを効率的に除去することにより蛍光表示装置の寿命特性を改善する(特許文献2)。
(3)真空容器内にZrOx(1≦x≦2)を含むガス吸蔵材を配設して、この真空容器内の真空度を形成維持する(特許文献3)。
【0004】
しかしながら、上記(1)による方法では、蛍光体表面が炭素やバリウム等から保護されるため寿命特性が改善されるが、このような処理を施してもZnCdS系蛍光体に比較すると、蛍光表示装置の寿命は著しく短寿命に留まっていた。更に寿命を延ばすためには、保護膜の付着量を多くする必要があるが、保護膜の付着量を多くすると、輝度が低下する問題がある。
また、上記(2)または(3)による方法は、真空容器内の真空度を向上させる目的でゲッター材が真空容器内に配設され、真空容器内の真空度を上げることで蛍光表示装置の寿命特性や発光特性を改善している。これらゲッター材は製造時に熱処理を施し活性化させるのみで、例えば、TiO2をTiOもしくはTiに変化させ、真空容器内のOやHの吸着を促進させる。
しかしながら、蛍光表示装置駆動時には、熱処理を施こされなく、電子線もゲッターには照射されないので、これらのゲッターが活性化されることがない。このため、駆動中に発生する管内のガスは吸着されることなく、特に蛍光体に有害なバリウムを吸着することはない。その結果、蛍光表示装置の寿命を向上できないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−283709号公報
【特許文献2】特開2000−340140号公報
【特許文献3】特開2005−209594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、蛍光表示装置の駆動中に、電子線が照射される領域に、蛍光体に有害な影響を及ぼすバリウムを吸着する導電性または半導電性の酸化物を設けることで、蛍光体の寿命特性が改善され、特にCdを含まない赤色蛍光体の30V以上の電圧領域で駆動したときの寿命特性向上が期待できる蛍光表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光表示装置は、真空容器内に配置され、低速電子を放出するフィラメントカソードと、上記低速電子が射突されることにより発光する蛍光体が被着されたアノードとを備え、上記カソードから放出される低速電子を制御できる領域に、導電性または半導電性金属酸化物が低速電子照射部位に形成された構造体を設けることを特徴とする。
本発明の蛍光表示装置において、上記構造体が金属メッシュ状グリット、蛍光体周囲に立設されたリブ状グリット、またはフィラメントカソードとアノード間に設けられた構造体であることを特徴とする。
また、上記構造体表面に形成された導電性または半導電性金属酸化物がチタンの酸化物であることを特徴とする。
【0008】
本発明の蛍光表示装置に使用される蛍光体は、少なくとも酸素原子を母体の化学式内に含む蛍光体であることを特徴とする。該蛍光体としては、チタン酸塩を母体とする蛍光体または酸硫化物系からなる蛍光体であることを特徴とする。
特に、上記チタン酸塩を母体とする蛍光体がCa(1−x)SrxTiO3:Pr,Mであり、MがAl、Ga、In、Mg、Zn、Li、Na、およびKから選ばれた少なくとも1種であり、xが0≦x≦1の範囲にあることを特徴とする。
また、上記酸硫化物系からなる蛍光体がLn2O2S:Reであり、LnがLa、Gd、YおよびLuから選ばれた少なくとも1種であり、ReがEu、TbまたはSmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
少なくとも酸素原子を母体の化学式に含み、低速電子線により励起される蛍光体が設置された蛍光表示装置内において、カソードから放出される低速電子を制御できる領域に、導電性または半導電性金属酸化物が低速電子照射部位に形成された構造体を設けることにより、上記蛍光体に悪影響を及ぼすバリウムが上記構造物にトラップされる。その結果、蛍光体の劣化が抑えられ寿命特性が改善される。特に、赤色蛍光体の30V以上の電圧における寿命特性が大きく改善される。
また、上記特許文献2または特許文献3に記載されている真空容器内の真空度を向上させる目的でゲッター材を真空容器内に配設する場合には、別途活性化処理が必要であるのに対し、本願発明では電子線が導電性または半導電性金属酸化物表面に照射されるため、別途活性化処理を行なうことなく、蛍光体の寿命特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】金属メッシュ状グリットを有する蛍光表示装置の斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】構造体の配置例を示す図である。
【図4】構造体の他の配置例を示す図である。
【図5】構造体の拡大断面図である。
【図6】リブ状グリットを有する蛍光表示装置の斜視図である。
【図7】図6のB−B断面図である。
【図8】実施例1の寿命特性を示す図である。
【図9】実施例7の寿命特性を示す図である。
【図10】実施例8の寿命特性を示す図である。
【図11】実施例9の寿命特性を示す図である。
【図12】実施例10の寿命特性を示す図である。
【図13】比較例9の構造体の配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
低速電子線用赤色蛍光体に用いられる酸化物蛍光体(例えば、[CaTiO3:Pr,Zn,Li]、[SrTiO3:Pr,Al]は、駆動電圧が30Vをこえる高電圧領域において寿命特性が悪い。
この理由は、駆動時にフィラメントカソードから蒸発して放出されるバリウムが蛍光体表面に付着することで蛍光体との間に還元反応を引起こし、蛍光体を劣化させてしまうことが原因の一つとされている。
バリウムが蛍光体に付着することを抑えることができれば、蛍光体の寿命特性は改善されると考えられる。例えば、バリウムが蛍光体に付着する前にバリウムを別の箇所でトラップすれば、蛍光体へ到達するバリウム量が減少し、その結果、蛍光体の寿命特性が改善される。活性化された導電性または半導電性金属酸化物がバリウムをトラップすることが見出された。以下導電性または半導電性金属酸化物としてチタンからなる酸化物(TiOx;以下、酸化チタンと略称する)を例にして説明する。
【0012】
酸化チタンに電子線が照射すると、酸化チタンの電子が励起され、電子・正孔が発生し、酸化チタンは活性化される。特に酸化チタンは他の酸化物に比較して、励起した電子と正孔とが再結合するまでの時間が長いため、活性化状態が長く続き、これにより、バリウムとの反応性が高まり、バリウムを吸着するようになる。
上記したように、本発明においては、電子線の照射により酸化チタンが活性化されることが重要である。このため、従来技術のように、ゲッタとして電子線が照射されない領域に酸化チタンを配置するだけでは、バリウムとの反応は起き難く、蛍光体の寿命特性の大幅な改善は期待できない。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0013】
本発明の蛍光表示装置を図を参照して説明する。図1は金属メッシュ状グリットを有する蛍光表示装置の斜視図であり、図2は、そのA−A断面図であり、図3および図4は構造体の配置例を示す図である。
蛍光表示装置1は、ガラス基板2およびフェースガラス3の四辺がスペーサ部材4を用いて封着接合され長手平箱状の気密な真空容器が構成されている。フェースガラス3は透光性のカバー・ガラス板等で、ガラス基板2はガラス、セラミックス、琺瑯などの絶縁体材料等で、スペーサ部材4は枠状に形成されたガラス材料等でそれぞれ形成されている。
【0014】
真空容器内のガラス基板2上には、図1、図2に示すように、配線層5が形成された後、スルーホール7aを除くほぼ全面にわたって絶縁層6が形成され、このスルーホール7aを介して電気的に接続されたアノード7が形成されている。このアノード7上に蛍光体8が被着されている。
真空容器内の蛍光体8上方に低速電子を放出するフィラメントカソード10が設けられ、このフィラメントカソード10から発生した低速電子線が蛍光体8に射突して発光する。なお、図1において、5aは配線パッドからのリードであり、10aはフィラメントアンカーである。
フィラメントカソード10はタングステン極細線上にアルカリ土類金属の炭酸塩(Ba,Sr,Ca)CO3をバインダーとともに塗布し、蛍光表示装置1の組み立て最終段階に、真空中で約1000℃の通電加熱により(Ba,Sr,Ca)Oが形成される。電子放出源はタングステン極細線上で一部が還元され、活性化されたBaOであり、BaOの安定化のためにSrO、CaOが配合されている。このため、蛍光表示装置駆動時にバリウムが飛散しやすくなる。
本発明の蛍光表示装置1は、フィラメントカソード10から放出される低速電子を制御できる領域に、導電性または半導電性金属酸化物が表面に形成された構造体9が設けられている。
構造体9は金属材料から構成され電極として機能して、低速電子を制御する。
【0015】
フィラメントカソード10から放出される低速電子を制御できる領域は、低速電子が照射される領域であり、その低速電子の照射方向、照射量を制御できる領域である。
このような領域としては、フィラメントカソード10とアノード7との間、アノード7の表面等が挙げられる。
好ましい領域は、図2に示すように、グリットとして低速電子を制御できる領域であり、構造体9がグリットとして機能する。
バリウムはフィラメントカソード10から飛散するため、バリウムをトラップする金属酸化物は、グリッド9のように、フィラメントカソード10と蛍光体8の間に形成すると、蛍光体面に到達するバリウム量が抑制できるため好ましい。このため、グリッド9の低速電子照射表面に金属酸化物11を付着させるのが好ましい。
【0016】
また、グリットとして機能する構造体9以外に、この構造体9とフィラメントカソード10との間に構造体9a(図3)、構造体9b(図4)を設けることができる。これらの構造体は、蛍光表示装置の表示品位に大きな影響を与えないメッシュ状、またはフィラメント形状が好ましい。
構造体9aはグリットとして機能する構造体9以外にメッシュ状の電極を新たに設けた例であり、構造体9bはフィラメント状の電極を設けた例である。
【0017】
上記構造体9aまたは9b等を設けることにより、表面に被着している導電性または半導電性金属酸化物に電子線が照射され、活性化することにより、蛍光体に有害なバリウムを吸着して、その結果、蛍光体の寿命特性を改善することができる。
蛍光表示装置の表示品位が低下しない程度に新しく形成した構造体9aまたは9b等のの線径を大きくしたり、形状を螺旋状およびジグザグ状に設置すると、バリウムの吸着面積が向上するため好ましい。
また、構造体9aまたは9bを設ける場合、グリット9の表面には導電性または半導電性金属酸化物を形成しても、または形成しなくともよい。
【0018】
構造体9の拡大断面図を図5に示す。図5において、図面上、上部がフィラメントカソード10側である。
構造体9、9aまたは9bの表面であって、少なくとも低速電子が照射される部位に導電性または半導電性金属酸化物11が形成されている。
金属酸化物11を形成する部位としては構造体の周囲を覆うように形成しても(図5(a)、(c))、あるいはフィラメントカソード10側のみに形成してもよい(図5(b))。金属酸化物11の付着面積を考慮すると、真空中に露出している構造体9の周囲全面を覆うようにして付着形成するのが好ましい。構造体9の周囲全面を覆うようにして付着形成することにより、フィラメントカソードから放出された電子が周囲の壁面等に反射する場合に対処できる。
【0019】
本発明の他の蛍光表示装置を図を参照して説明する。図6は蛍光体周囲に立設されたリブ状グリットを有する蛍光表示装置の斜視図であり、図7はそのB−B断面図である。なお、図1および図2と同一機能を有する部品に対しては同一の記号を付した。
他の蛍光表示装置1'は、ガラス基板2およびフェースガラス3の四辺がスペーサ部材4を用いて封着接合され長手平箱状の気密な真空容器が構成されている。各部品の材料等は図1に示す蛍光表示装置1に用いる材料等と同一である。
真空容器内のガラス基板2上には、配線層5が形成された後、スルーホール7aを除くほぼ全面にわたって絶縁層6が形成され、このスルーホール7aを介して電気的に接続されたアノード7が形成されている。このアノード7上に蛍光体8が被着されている。アノード7および蛍光体8の周囲には蛍光体8表面よりも高く形成されたリブ12が設けられ、このリブの頂部にリブ電極となる構造体9cが形成されている。導電性または半導電性金属酸化物11がリブ電極の上部に付着形成されている。
真空容器内の蛍光体8上方に低速電子を放出するフィラメントカソード10が設けられ、このフィラメントカソード10から発生した低速電子線が蛍光体8に射突して発光する。なお、図6において、5aは配線パッドからのリードであり、10aはフィラメントアンカーである。
【0020】
本発明で使用できる導電性または半導電性金属酸化物は、フィラメントカソードから放出されるバリウムと化合物を形成しやすい金属酸化物が挙げられる。これら金属酸化物を形成する金属としては、チタン、タングステン、モリブデン、錫、インジウム、ニオブ、亜鉛から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。これらの中で、電子線の照射によりチャージアップが起こらない導電性または半導電性金属酸化物が好ましく、特にチタンからなる酸化物が好ましい。
【0021】
構造体上への金属酸化物の形成方法としては、金属酸化物粉末、あるいは熱分解により金属酸化物を形成し得る有機金属化合物または無機化合物をディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法、エアロゾルディポジション法、刷毛塗り法等により、グリッドなどの金属表面に付着させ、乾燥・焼成する方法が挙げられる。特にディッピング法は用いる装置が簡便で手軽に付着できるため好ましい。
有機金属化合物は溶液状またはペースト状を形成しやすいため、無機化合物は水溶液となりやすいため構造体の表面を覆う材料として好適である。有機金属化合物の中でも特にアルコールの水酸基の水素を金属で置換したアルコラート化合物は、溶液となりやすく、構造体をその溶液に浸漬、乾燥、焼成で均一な表面コーティングができるので好ましい。また、溶液の金属成分濃度、あるいは、浸漬、乾燥、焼成を繰り返すことにより、被覆層の膜厚を調整できる。
【0022】
また、スパッタリング、蒸着、CVD等の薄膜形成方法により、金属酸化膜を生成することができる。スパッタリング、蒸着、CVD等は構造体の任意の表面に薄膜を所定の厚さで形成するための好ましい方法である。
【0023】
金属酸化膜の膜厚さは、膜形成方法にもよるが10μm以下で形成するのが好ましい。10μmをこえると酸化膜の付着強度の低下および初期輝度が低下する。
金属酸化膜は、低速電子の照射によるチャージアップを防ぐため導電性または半導電性であるが、酸化物単体としての体積固有抵抗が1×108Ω・cm以下であることが好ましい。
【0024】
本発明で使用できる蛍光体は、蛍光表示装置に使用される低速電子線で励起・発光する蛍光体であり、蛍光体を形成する母体の化学式内に少なくとも酸素原子を含む蛍光体である。酸素原子を含む蛍光体としては、チタン酸塩を母体とする蛍光体、酸硫化物系からなる蛍光体、酸化亜鉛系からなる蛍光体が挙げられる。これらの中で好ましい蛍光体の例としては、チタン酸塩を母体とする蛍光体または酸硫化物系からなる蛍光体が挙げられる。
チタン酸塩を母体とする蛍光体としては、Ca(1−x)SrxTiO3:Pr,Mで表される蛍光体が挙げられる。ここで、MはAl、Ga、In、Mg、Zn、Li、Na、およびKから選ばれた少なくとも1種であり、xは0≦x≦1である。x=0の場合、CaTiO3であり、x=1の場合、SrTiO3である。なお、CaTiO3、または、SrTiO3というときは、特に明示する場合を除く他、Ca/Ti比、またはSr/Ti比が1である化学量論組成のものに限られず、その比が1よりも僅かに大きいあるいは僅かに小さい組成のものも含むものとする。例えば、その比が1.05〜0.95の範囲内のものも含まれる。
好ましい蛍光体を例示すると、CaTiO3:Pr,Zn,Li、SrTiO3:Pr,Al等が挙げられる。
また、酸硫化物系からなる蛍光体としては、Ln2O2S:Reで表される蛍光体が挙げられる。ここで、LnはLa、Gd、YおよびLuから選ばれた少なくとも1種であり、ReはEu、TbまたはSmである。
【0025】
母体の化学式内に少なくとも酸素原子を含む蛍光体は、蛍光体本体の表面に複数の酸化物層を順に積層して付着させることが好ましい。
複数の酸化物層の1つは、Gd、Pr、Y、Zn、Ta、およびSrから選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物(MO1)の層であり、他の1つはSi、Al、Mo、Sb、およびCeから選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物(MO2)の層であり、さらに他の1つはTi、WおよびZrから選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物(MO3)の層である。
酸化物(MO1)の層は、輝度増感層であり、蛍光体本体の初期輝度を向上させる。特に、Gd、Pr、Y、Zn、Ta、またはSrの酸化物がCa(1−x)SrxTiO3:Pr,Mで表される蛍光体の初期輝度を向上させることができる。
特に母体となるチタン酸塩としてCaTiO3を用いたときに、初期輝度を向上させる効果が大きく、また、GdもしくはYの酸化物からなる輝度増感層の効果が大きいことが分かった。
初期輝度向上の理由は明らかではないが、輝度増感層により初期輝度が向上するのは、付着した元素と蛍光体の発光中心であるPrとの間に量子論的な共鳴が生じ、エネルギーが伝達され、増感効果が発生しているためと考えられる。
【実施例】
【0026】
実施例1
バリウムと化合物を形成しやすい酸化物をメッシュ状グリッド電極(以下、メッシュと略称する)表面上に設ける例である。
ビーカーのようなガラス容器に、チタンからなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Ti)を用いて酸化チタン濃度が2重量%となるようにエタノールで希釈した溶液を作製する。なお、エタノール以外にイソプロピルアルコール、テルピネオール等の有機溶剤で希釈することができる。
作製した溶液内にグリッド電極に使用する426合金製メッシュを浸漬させる。浸漬したメッシュを引き上げ、均一に溶液が塗布されるようにブロアーで表面に残る過剰の溶液を吹き飛ばす。その後、乾燥させることで、メッシュにチタンからなる有機金属化合物を付着させる。
チタンからなる有機金属化合物が付着したメッシュは、その後、蛍光表示装置内に周知の方法で実装され、製造工程の熱処理により、メッシュに付着した有機金属化合物は酸化チタンに変化する。これにより、グリッド電極であるメッシュの表面に酸化チタンが形成される。
一方、ガラス基板上にアルミニウム薄膜により配線層を形成し、その上にガラスを主成分とする絶縁層を形成する。絶縁層にはスルーホールを設け、絶縁層上に形成したカーボンを主成分とするアノードと配線層の導通を確保する。
その後、Cdを含まない赤色蛍光体としてコーティング処理をしたCaTiO3:Pr,Zn,Li(以下、CoatedCTOと略称する)をアノード上に形成した。この蛍光体層の上には空間を隔てて上記メッシュを設置して、更にこのメッシュの上に、空間を隔ててフィラメントカソードを設置することで、蛍光表示装置を作製した。なお、蛍光表示装置内への上記メッシュおよび蛍光体の実装は蛍光表示装置の作製に用いられている周知の方法を用いた。
CoatedCTOは、CaTiO3:Pr,Zn,Li蛍光体本体に第1の付着層として輝度増感効果のある酸化ガドリニウムを400ppm、また、第2の付着層として保護効果のある酸化珪素を400ppm付着した蛍光体に、熱処理により酸化タングステンに変化する有機タングステン化合物を付着させる。付着した有機タングステン化合物を400〜600℃の熱処理により酸化タングステンに変え、第3の付着層(保護層)を得る。酸化タングステンの付着量は蛍光体本体に対し1000ppmである。
得られた蛍光表示装置は、アノード電圧50V、デューティー1/60の条件下で駆動し、蛍光体の輝度、および寿命特性を評価した。表1に評価結果を示す。表1において、相対初期輝度は後述する比較例1の初期輝度を基準とした相対初期輝度であり、輝度残存率はそれぞれの初期輝度を100%としたときの1000時間後における輝度残存率である。
【0027】
実施例2〜実施例5
メッシュ表面に以下の有機金属化合物を用いた以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表1に示す。
実施例2:亜鉛からなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Zn)
実施例3:タングステンからなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−W)
実施例4:錫からなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Sn)
実施例5:モリブデンからなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Mo)
【0028】
比較例1
メッシュ表面に酸化物を形成しないことを除き、その他は実施例1と同じ方法で作製した蛍光表示装置を比較例1とする。実施例1と同じ評価をした結果を表1に示す。
【0029】
比較例2
メッシュ表面に酸化物を形成しないこと、および赤色蛍光体としてコーティング処理をしていないCaTiO3:Pr,Zn,Li(以下、CTOと略称する)を用いた以外は実施例1と同じ方法で作製した蛍光表示装置を比較例2とする。実施例1と同じ評価をした結果を表1に示す。
【0030】
比較例3および4
メッシュ表面に以下の有機金属化合物を用いた以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表1に示す。
比較例3:アルミニウムからなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Al)
比較例4:珪素からなる有機金属化合物(富士化学株式会社製、ハウトフォーム RD−Si)
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示すように、酸化チタンや酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化錫の導電・半導電性酸化物をコーティングしたときは、比較例1とほぼ同等の初期輝度および輝度残存率を得る。特に酸化チタンをコーティングしたときは、初期輝度が同等であるにもかかわらず、1000時間経過後の輝度残存率が比較例1より約14%高く、寿命特性が改善されている。
図8は、比較例1、2および実施例1の初期輝度を100%にしたときの輝度残存率の経時変化を示す図であり、2000時間までの寿命特性比較を示す。比較例2は1000時間で輝度半減、比較例1は2000時間で輝度半減に達するのに対し、実施例1は2000時間でも約70%の輝度残存率を示している。
比較例3、4は酸化物が絶縁性のため、チャージアップが発生した。
以上より、メッシュに付着させる酸化物は、チャージアップを防ぐため、導電性または半導電性であることが好ましい。また、メッシュに付着した酸化物に電子線が照射されたときに発生する電子、ホールの再結合が起こりにくい酸化物がバリウムとの反応性が高まるため好ましい。特に、チタンからなる酸化物を付着させるのが好ましい。
【0033】
実施例6
グリッドにチタンからなる酸化物をスパッタリング法で形成した以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製した。、実施例1と同じ評価をした。
なお、スパッタリングは、酸化チタンターゲット(フルウチ化学株式会社製)を用い、高周波スパッタリングにより行なった。チャンバ内を排気した後、Arガスを導入し、RF電力(周波数13.56MHz)を150W印加することでスパッタリングを行なった。
実施例1と同じ評価をした結果、スパッタリング法で酸化チタンを付着形成しても、ディッピングで付着形成した実施例1と同等の効果が得られた。
【0034】
実施例7
以下、CoatedCTO以外の蛍光体を用いた例を説明する。
赤色蛍光体としてSrTiO3:Pr,Alを使用した以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0035】
比較例5
酸化チタンを付着しない、通常のメッシュを使用した以外は実施例7と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0036】
実施例8
赤色蛍光体としてCa0.8Sr0.2TiO3:Pr,Zn,Liを使用した以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0037】
比較例6
酸化チタンを付着しない、通常のメッシュを使用した以外は実施例8と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0038】
実施例9
オレンジ色蛍光体としてGd2O2S:Euを使用した以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0039】
比較例7
酸化チタンを付着しない、通常のメッシュを使用した以外は実施例9と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0040】
実施例10
青緑蛍光体としてZnO:Znを使用した以外は実施例1と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0041】
比較例8
酸化チタンを付着しない、通常のメッシュを使用した以外は実施例10と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示すように、CTO以外のオレンジ〜赤色蛍光体についても、酸化チタンを付着したメッシュを使用することで、初期輝度はほとんど変わらないにもかかわらず、1000時間後の輝度残存率が向上する。
図9に比較例5および実施例7の初期輝度を100%にしたときの輝度残存率の経時変化を示す。
図10に比較例6および実施例8の初期輝度を100%にしたときの輝度残存率の経時変化を示す。
図11に比較例7および実施例9の初期輝度を100%にしたときの輝度残存率の経時変化を示す。
図12に比較例8および実施例10の初期輝度を100%にしたときの輝度残存率の経時変化を示す。
【0044】
酸化チタンを付着したメッシュを用いると、本来赤色蛍光体よりも長寿命であるZnO:Znは通常と同等の寿命特性である。しかし、酸化チタンを付着したメッシュを用いることにより、酸化チタンを付着しない場合に比較して、オレンジ〜赤色蛍光体は輝度残存率が低下せず長寿命化する。この結果、これまでは、赤色蛍光体と緑色蛍光体の寿命特性に差があり、例えば、混色で使用した場合、長時間使用すると、輝度差が大きくなり、表示品位に悪影響を及ぼした。しかしながら、本発明の蛍光表示装置は、赤色蛍光体が長寿命化する結果、長時間使用時の表示品位の低下が抑えられることになる。
【0045】
以下の実施例11〜実施例13は、導電性または半導電性金属酸化物が表面に形成された構造体をメッシュ以外の場所に設け、その構造体に電圧を印加することで低速電子を制御する例である。
【0046】
実施例11
ガラス基板上にアルミニウム薄膜により配線層を形成し、その上にガラスを主成分とする絶縁層を形成する。絶縁層にはスルーホールを設け、絶縁層上に形成したカーボンを主成分とするアノードと配線層の導通を確保する。アノード上にはCoatedCTOからなる蛍光体層を形成した。また、蛍光体の周囲にリブが形成されており、リブ上にはリブ電極が形成されている。さらにリブ電極上部に、チタンからなる酸化物を形成することにより、リブ電極を有する蛍光表示装置が作製される。なお、チタンからなる酸化物は印刷法により形成した。実施例1と同じ評価をした結果、実施例1と同等の効果が得られた。
【0047】
実施例12
メッシュとフィラメントカソードとの間にチタンからなる酸化物が付着したメッシュ状の構造体を設ける以外は実施例1と同じ構造の蛍光表示装置を作製した。蛍光表示装置の断面は図5に示す構造を有する。なお、この構造体は426合金製であり、酸化物は構造体の全表面に付着させた。また、グリッド表面には酸化チタンが形成されていない。実施例1と同じ評価をした結果、実施例1と同等の効果が得られた。
【0048】
実施例13
メッシュ状の構造体に代えて、フィラメント状の構造体とする以外は実施例12と同様に蛍光表示装置を作製した。蛍光表示装置の断面は図6に示す構造を有する。なお、グリッド表面には酸化チタンが形成されていない。実施例1と同じ評価をした結果、実施例1と同等の効果が得られた。
グリッド電極本体以外に構造体を設けた場合、その駆動時の電位関係は、少なくとも電子が持続して照射される電位が印加されていればよく、フィラメントカソード電圧以上の電位が印加されていればよいので、[フィラメントカソード電圧<電極電圧≦グリッド電圧]の関係になる。グリッド電極よりも電圧が高いと表示品位が低下し、フィラメントカソード電圧以下の場合、電子線が照射されないため、酸化チタンが活性化されず蛍光体の寿命特性が向上しない。
【0049】
以下の比較例9および実施例14は、電子線が照射されない領域に酸化チタンを設けた場合と、電子線が照射される領域に酸化チタンを設けた場合とを比較した例である。
【0050】
比較例9
構造体の配置例を図13に示す。ガラス基板2上にアルミニウム薄膜により配線層5を形成し、その上にガラスを主成分とする絶縁層6を形成する。絶縁層6にはスルーホール7aを設け、絶縁層6上に形成したカーボンを主成分とするアノード7と配線層5の導通を確保する。アノード7上にはCTOからなる蛍光体層8を形成した。また、絶縁層6上のアノード7が形成されていない箇所にチタンからなる酸化物11を印刷法により形成した。この箇所にはスルーホール7a、アノード7が形成されていないため、酸化チタンには電圧が印加されず、基本的に電子線が照射されない領域である。一時的に電子線が照射される場合があるが、この場合、チャージアップが発生するため、酸化チタンに継続的に電子線は照射されない。また、カソード10から放出される低速電子を制御できない。
グリッド電極9に使用する426合金製メッシュを蛍光体層8上方に配置して、更にこのメッシュの上に、空間を隔ててフィラメントカソード10を設置することで、蛍光表示装置を作製した。なお、蛍光表示装置内への上記メッシュおよび蛍光体の実装は蛍光表示装置の作製に用いられている周知の方法を用いた。実施例1と同じ評価をした結果を表3に示す。
【0051】
実施例14
表面に酸化チタンが形成された実施例1で用いた426合金製メッシュを使用する以外は、比較例2と同じ方法で蛍光表示装置を作製し、実施例1と同じ評価をした。結果を表3に示す。なお、比較例2の結果を同時に示す。また、表3の相対初期輝度は比較例2の初期輝度を基準とした相対初期輝度であり、輝度残存率はそれぞれの初期輝度を100%としたときの1000時間後における輝度残存率である。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示すように、実施例14の輝度残存率が58%であったのに対して、メッシュ上に酸化チタンを設けない比較例2の輝度残存率は50%、電子線の照射されない領域に酸化チタンを設けた比較例9の輝度残存率は49%であった。酸化チタンに電子線が照射されることにより輝度残存率が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の蛍光表示装置は、赤色蛍光体を長寿命化できるので他の色の蛍光体と組み合わせて混色で長時間使用しても表示品位の低下が抑えられることから、Cdを含まない蛍光表示装置に適用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 蛍光表示装置
2 ガラス基板
3 フェースガラス
4 スペーサ部材
5 配線層
6 絶縁層
7 アノード
8 蛍光体
9 構造体
10 フィラメントカソード
11 金属酸化物
12 リブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に配置され、低速電子を放出するフィラメントカソードと、前記低速電子が射突されることにより発光する蛍光体が被着されたアノードとを備える蛍光表示装置であって、
前記カソードから放出される前記低速電子を制御できる領域に、導電性または半導電性金属酸化物が低速電子照射部位に形成された構造体を設けることを特徴とする蛍光表示装置。
【請求項2】
前記構造体が金属メッシュ状グリットであることを特徴とする請求項1記載の蛍光表示装置。
【請求項3】
前記構造体が前記蛍光体周囲に立設されたリブ状グリットであることを特徴とする請求項1記載の蛍光表示装置。
【請求項4】
前記構造体が前記フィラメントカソードと前記アノード間に設けられていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の蛍光表示装置。
【請求項5】
前記導電性または半導電性金属酸化物がチタンの酸化物であることを特徴とする請求項1記載の蛍光表示装置。
【請求項6】
前記蛍光体が、少なくとも酸素原子を母体の化学式内に含む蛍光体であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の蛍光表示装置。
【請求項7】
前記蛍光体が、チタン酸塩を母体とする蛍光体または酸硫化物系からなる蛍光体であることを特徴とする請求項6記載の蛍光表示装置。
【請求項8】
前記チタン酸塩を母体とする蛍光体がCa(1−x)SrxTiO3:Pr,Mであり、MがAl、Ga、In、Mg、Zn、Li、Na、およびKから選ばれた少なくとも1種であり、前記xが0≦x≦1の範囲にあることを特徴とする請求項7記載の蛍光表示装置。
【請求項9】
前記酸硫化物系からなる蛍光体がLn2O2S:Reであり、LnがLa、Gd、YおよびLuから選ばれた少なくとも1種であり、ReがEu、TbまたはSmであることを特徴とする請求項7記載の蛍光表示装置。
【請求項1】
真空容器内に配置され、低速電子を放出するフィラメントカソードと、前記低速電子が射突されることにより発光する蛍光体が被着されたアノードとを備える蛍光表示装置であって、
前記カソードから放出される前記低速電子を制御できる領域に、導電性または半導電性金属酸化物が低速電子照射部位に形成された構造体を設けることを特徴とする蛍光表示装置。
【請求項2】
前記構造体が金属メッシュ状グリットであることを特徴とする請求項1記載の蛍光表示装置。
【請求項3】
前記構造体が前記蛍光体周囲に立設されたリブ状グリットであることを特徴とする請求項1記載の蛍光表示装置。
【請求項4】
前記構造体が前記フィラメントカソードと前記アノード間に設けられていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の蛍光表示装置。
【請求項5】
前記導電性または半導電性金属酸化物がチタンの酸化物であることを特徴とする請求項1記載の蛍光表示装置。
【請求項6】
前記蛍光体が、少なくとも酸素原子を母体の化学式内に含む蛍光体であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の蛍光表示装置。
【請求項7】
前記蛍光体が、チタン酸塩を母体とする蛍光体または酸硫化物系からなる蛍光体であることを特徴とする請求項6記載の蛍光表示装置。
【請求項8】
前記チタン酸塩を母体とする蛍光体がCa(1−x)SrxTiO3:Pr,Mであり、MがAl、Ga、In、Mg、Zn、Li、Na、およびKから選ばれた少なくとも1種であり、前記xが0≦x≦1の範囲にあることを特徴とする請求項7記載の蛍光表示装置。
【請求項9】
前記酸硫化物系からなる蛍光体がLn2O2S:Reであり、LnがLa、Gd、YおよびLuから選ばれた少なくとも1種であり、ReがEu、TbまたはSmであることを特徴とする請求項7記載の蛍光表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−104255(P2012−104255A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249401(P2010−249401)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000117940)ノリタケ伊勢電子株式会社 (38)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000117940)ノリタケ伊勢電子株式会社 (38)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
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